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久保知一研究室 5 期卒業論文 1 企業はなぜ復刻商品を販売するのか? ―生存時間分析を用いた実証研究― 飯田 光 中央大学商学部商業貿易学科 E-mail: [email protected] 要約: 近年、一般消費者向けの製品カテゴリーにおいて、復刻商品ブームが起きて いる。企業はなぜ販売を中止にした製品をもう一度販売するのか。この問いに 関して実証的にまとめた論文は筆者が知る限り存在しない。本論では、企業が 扱っている製品、経営形態、ライバル企業の動向によって、復刻商品が販売さ れるタイミングに差異が表れるのかどうかに着目し生存時間分析を行った。分 析の結果の結果、製品分類、競合他社の動向によって復刻商品が販売されるこ とが見出された。 キーワード:生存時間分析、復刻商品、製品ライフサイクル、バンドワゴン効果 1. はじめに 近年の企業の製品戦略の一つとして、復刻商品の販売がしばしば観察されている。とりわ け一般消費者向け製品カテゴリーにおいて、過去に顧客から多くの支持を多く得た自社の製 品を復刻版(以下、復刻商品)という形で、再び世に出すことで新しい顧客を創出する事例 が多く見受けられる。復刻商品の代表的な事例として、1999 年に株式会社ロッテが 1980 代に社会現象になった空前のヒット商品となった「ビックリマンチョコ」の事例が挙げられ る。既に成人化した初期発売当時のターゲット顧客層に加えて、子供世代をも取り込み、再 びヒット商品として社会現象を巻き起こし、2000 年以降の復刻商品ブームの火付け役にな った 1 1 NHK Online 特集 2012 4 25 日版(http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2012/04/0425.html )」

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久保知一研究室 5 期卒業論文

1

企業はなぜ復刻商品を販売するのか?

―生存時間分析を用いた実証研究―

飯田 光

中央大学商学部商業貿易学科

E-mail: [email protected]

要約: 近年、一般消費者向けの製品カテゴリーにおいて、復刻商品ブームが起きて

いる。企業はなぜ販売を中止にした製品をもう一度販売するのか。この問いに

関して実証的にまとめた論文は筆者が知る限り存在しない。本論では、企業が

扱っている製品、経営形態、ライバル企業の動向によって、復刻商品が販売さ

れるタイミングに差異が表れるのかどうかに着目し生存時間分析を行った。分

析の結果の結果、製品分類、競合他社の動向によって復刻商品が販売されるこ

とが見出された。

キーワード:生存時間分析、復刻商品、製品ライフサイクル、バンドワゴン効果

1. はじめに

近年の企業の製品戦略の一つとして、復刻商品の販売がしばしば観察されている。とりわ

け一般消費者向け製品カテゴリーにおいて、過去に顧客から多くの支持を多く得た自社の製

品を復刻版(以下、復刻商品)という形で、再び世に出すことで新しい顧客を創出する事例

が多く見受けられる。復刻商品の代表的な事例として、1999 年に株式会社ロッテが 1980 年

代に社会現象になった空前のヒット商品となった「ビックリマンチョコ」の事例が挙げられ

る。既に成人化した初期発売当時のターゲット顧客層に加えて、子供世代をも取り込み、再

びヒット商品として社会現象を巻き起こし、2000 年以降の復刻商品ブームの火付け役にな

った1。

1 「NHK Online 特集 2012 年 4 月 25 日版(http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2012/04/0425.html)」

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復刻商品とは、製品の価値や機能をオリジナル製品から変えることなく、 初に発売した

当時のかたちを復元して販売する製品である。本研究は復刻版を、「一度生産を中止した製

品について、発売当初のかたちを復元して再販売したもの」と定義する。復元という点で、

過去の製品のテイスト、パッケージ、デザインなどに新しい付加価値や機能を加えて再販売

するリニューアル製品とは異なったものである。

消費者の嗜好が多様化する今日の市場環境において、企業は市場のトレンドを掴むと同時

に、新しい価値を提供することが求められる。復刻商品という製品形態は、オリジナル商品

を知る顧客層を顧客基盤として持っていることに加え、オリジナル製品を知らない顧客層に

は「古くて新しい」という価値を提供できる。過去に発売した製品を復刻という形で再度市

場に投入することは、マーケティング・アプローチの選択肢の 1 つになっているのである。

一方で、既に販売を終了させた製品を、再び復興商品として販売することが、果たして全

ての商品に共通して有効な手段であるのかといった疑問もある。現代は、時代背景、社会環

境がオリジナル製品発売時と大きく変わっている。それにもかかわらず、発売当時と同じま

まの形で売ることで、多くの商品者あるいは新しい顧客層に当時のまま受け入れられるとい

う前提で製品戦略を考えることは、直感的には乱暴な発想のように思われる。

かくして本論は、企業はなぜ一度販売を中止にした製品を再販売するのかまた、製品はど

のようなタイミングで再販売されるのか、というリサーチクエスチョンを掲げ、実証研究を

進めていく。「一度販売中止をした製品をなぜ再販売するのか」、「新しい付加価値を加え

ることなく (リニューアル製品としてではなく)、なぜ過去と同じかたちで再販売するという

意思決定を企業がとったのか」という疑問に対しての回答を明確にした先行研究は、筆者が

調べる限りでは存在しない。

そこで本論では、このリサーチクエスチョンを、筆者が集めたデータを基に実証的に解明

することを目的とする。復刻商品の開発から販売までにおける企業行動、復刻化される製品

の特徴を研究することは、マーケティング分野における復刻商品に関する先行研究の蓄積に

加えて、実務面においても、企業が製品戦略を立案する際の 1 つの手掛かりとなりえるであ

ろう。

本論は以下のように構成される。第 2 節では、復刻商品についての現状分析を行う。具体

的には、復刻商品数、事例を紹介する。第 3 節では復刻商品、再販売、再参入に関しての既

存研究のレビューを行う。第 4 節では分析枠組を述べる。具体的には、仮説の提唱、データ

セットの作成方法、分析方法の紹介、分析結果および分析結果の考察を行う。 後の第 7 節

では、1980 年代にヒットした商品の復刻商品の代表事例として挙げている。同商品発売後に、自動車、

飲料水等の商品でも復刻商品発売が相次ぐと報告している。

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では、実証分析から得られるインプリケーションおよび課題をまとめ、本研究の意義を学術

面および実務面から報告する。

2. 復刻商品の現状

本節では復刻商品の現状について紹介する。2000 年以降、消費者市場に販売された復刻

商品の種類は、消費財、耐久財ともに年々増加傾向にある(図表 1)。直近の 2012 年には、2000

年度から約 6 倍の種類の復刻商品が市場に投入されている。この 2000 年以降の復刻商品の

種類が右肩上がりに推移した背景には、株式会社ロッテが 1999 年に発売した「ビックリマ

ンチョコ」の成功があると言われている。

図表 1 復刻商品数の年別推移

下記データセットを基に作成

1999 年、株式会社ロッテは 1980 年代に社会現象にまで発展した空前のヒット商品「ビッ

クリマンチョコ」の復刻商品を発売した。日本国内の少子化に伴い縮小する製菓市場におい

て、かつての製品購入者である親世代とその子供の親子 2 世代をターゲットにした顧客基盤

の拡大によって、お菓子市場の喚起を狙ったものであった2。このロッテの戦略は奏功し、

再び「ビックリマンブーム」をもたらした。復刻商品を販売することで、かつて購買経験の

2 「NHK Online 特集 2012 年 4 月 25 日版(http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2012/04/0425.html)」を参照のこと。

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ある消費者に加え、購買経験のない新たな年齢層の消費者群を獲得した。

ロッテ社は、この復刻商品という製品戦略を採用したことにより、「ビックリマンチョコ」

の顧客層を拡大することに成功した。少年期に「ビックリマンチョコ」を購買した経験のあ

る中年層に加え、これまで購買経験もなければ、同製品を知らない若年層を新たな顧客とし

て獲得し、顧客層に厚みを出した。加えて、「ビックリマンチョコ」という製品ブランドを

復刻商品発売前よりも、重層的な顧客基盤を有する強固な製品ブランドに成長させた。この

成功による学習もあり、同社は 1999 年から 2012 年までの間に「ビックリマンチョコ」を 2

度復刻化して販売している。

「ビックリマンチョコ」の成功事例を参考に、自動車や飲料水、ゲーム等の多くの市場に

おいて復刻商品が販売され、復刻商品ブームが起こり、近年では企業の製品戦略の選択肢の

一つになっていると考えられる。図表1が示す復刻商品の数の堅調な伸びからも、復刻商品

が企業の製品戦略に取り入れられてきている可能性があることを読み取れる。

では、なぜこれほどまでにおいて復刻商品を販売するようになったのであろうか。理由は、

先にも述べたように、顧客層の拡大を狙った試みであろう。杉本 (2002) では、成熟期に入

った企業は、市場を細分化することが重要であると主張している。成熟期に入った企業は売

り上げが停滞する。停滞している市場に起爆剤を投入するべく、かつて販売していた製品を

復刻という形で販売し製品ラインを広げ、当時の顧客を取り込むとともに、新たな顧客層を

獲得することで、顧客層の幅を広げて売り上げを伸ばそうという意図があるものと考えられ

る。

3.既存研究のレビュー

復刻商品の現状を踏まえて、本研究の目的である「企業が復刻商品を再販売する目的や動

機、どういう製品が復刻版として世に出され、消費者に受け入れられるのか」について考え

ると、「製品分類」、「製品開発に関するプロセス」、「競合他社の戦略による影響」、3 つに視

点から先行研究をレビューする必要がある。

3-1 製品分類と製品ライフサイクル

先述の通り、企業は自社の製品群が成熟期に入った時に、売上を伸ばすため、起爆剤とし

て復刻商品を多く販売すると考えられる。本節では、製品分類の特徴を捉えることで、仮説

を検証する。

復刻商品を販売する企業が復刻商品を販売するにあたり、製品ライフルサイクルのどの段

階にいるかによって、

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どのような製品を販売するかによってとるべきマーケティング戦略が異なる。主に復刻商

品は、企業の売上や利益が成長期に比べ、緩慢な曲線を描くようになった成熟期に販売され

ると考えられる。沼上 (2010) では、成熟期に入った際、企業は 2 つの競争パターンをとる

ことが示唆されている。1 つ目は、産業内の各企業がブランド・ロイヤリティ3を確立したう

えでシェアを奪い合うパターンであり、2 つ目は、産業内での競争を避け各企業が利益を確

保するパターンである。かつて販売したブランドのある製品を「復刻商品市場」で販売する

ことは、前者に当てはまる。この成熟期の課題として、鳥居 (1996) は新しい顧客層の拡大

が必要であると指摘している。かつて販売した製品を成熟期に各企業が再販売することは、

産業内のシェアを奪い合う戦略であり、購買経験のない新しい顧客層の拡大のためにも必要

である。製品ライフサイクルは消費財と耐久財で違いがある。本論では消費財を、数回の使

用で消耗し安価でスイッチングコスト4が低い製品と定義する。具体的には、飲料やお菓子

といった食品を指す。一方、耐久財とは、1 年以上使用できる製品を指し、また買い替える

時のスイッチングコストが高いものと定義する。具体的には靴や車、時計である。

次に、本論では製品を消費財と耐久財に分類する。製品によって製品ライフルの特徴が異

なるからである。McAfee (2005)では、非耐久財は5、成長期から成熟期にかけ、緩やかな下

降を辿る傾向にある、よって生産量は落ちない。非耐久財は現行の需要に合せた戦略を取る。

対照的に (成熟期において) 耐久財は、現在の需要を満たすための戦略が壊滅的なことにな

ると述べている(p.108)。これは、消費財は数回の使用で次の製品に買い替えるため、耐用

時間が短く、成長期も成熟期も生産量は変わらない。しかし、耐久財は耐用年数が長く、消

費者が次の製品に買い替えるまでの時間が長いので成熟期に入ると生産量が減るというこ

とである。

このように消費財と耐久財では、製品ライフサイクルが異なっており、その結果、企業の

復刻商品の販売意思決定にも重要な影響を与えているものと考えられる。

3-2 製品開発プロセス

製品開発に関するプロセスはオリジナル製品と復刻商品では異なると考えられる。復刻商

品は、製品開発や顧客分析、販路開拓という製品販売前に企業が成すべきことをオリジナル

製品発売時に既に完了している。過去に行なった作業が不要になる一方で、復刻商品が狙う

新しい顧客層の検討等の従来にはなかった追加的な作業が発生することも考えられ、オリジ

3 特定のブランドを顧客が繰り返し購入すること (沼上, 2010)。 4 ブランドを変更することで顧客側に発生するコスト。このコストが低いと業界の利益ポテンシャル

は低い (沼上, 2010)。 5 直訳ため、消費財を非耐久財と訳している。

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ナル製品とは異なる製品開発のプロセスを経ていると考えられる。また製品開発プロセスと

いう視点から、復刻商品を考えると、経験効果が働き以前よりも低コストで生産し販売でき

ると考えられる。復刻商品の開発プロセスは、「市場で販売経験がある」という点で新製品

の開発プロセスとは決定的に異なる。

新製品開発プロセスについて小川 (2009) は、Urban, Hauser & Dholakia, (1987) の 5 つの段

階を紹介している。その 5 つの段階とは、「市場機会の発見」、「製品のデザイン」、「市場テ

スト」、「新製品の販売」、「ライフサイクル・マネジメント」である。

この新製品開発の段階を復刻商品の製品開発段階に置き換えてみると、復刻商品を販売す

るプロセスでは、かつて販売していた経験から 3 の 「市場テスト」 が安価にできる。「市

場テスト」とは「テスト・マーケティング6」を指し、①企業の売上目標が達成できそうか、

②ターゲット顧客層が購入してくれそうか、③製品の魅力である訴求ポイントが顧客に効率

的に伝わっているか、という 3 点を見て市場に製品を導入するか否かを検討することである。

この 「市場テスト」 には多額の費用7がかかるだけでなく、製品の情報が競合他社に洩れ

てしまうリスクがある。

さらに、「経験効果」の点でメリットがある。製品の生産が開始されてから現在までの累

積した生産量が倍増すると、製品一単位を生産するコストが 15%~20%程度低減される現象

を経験効果と呼ぶ (Henderson, 1979)。経験効果を考慮すると、復刻商品はかつて製造してい

た商品であるため、新製品開発に比べ、安価に生産されることが考えられる。

市場テストと経験効果を考慮すると、復刻商品は一度市場で販売した経験があるので、企

業は低コストで市場に送り出すことが可能である。

3-3.バンドワゴン効果と後発製品

各企業が先に復刻商品を販売した企業に倣い、シェアを奪い合う行動には、バンドワゴン

効果が働いていると考えられる。バンドワゴン効果8とは、自分の知っている他者が製品を

持っていると需要が喚起する効果 (Leibenstein,1950) である。例えば、日本コカコーラ社が

2007 年に「カロリー、糖質、保存料ゼロ」の「コカコーラ・ゼロ」を販売し、ヒットした。

これを契機に各飲料企業が追随し、カロリーゼロ商品を販売した事例が挙げられる。この

ケースの場合、追随した企業にバンドワゴン効果が働いたと言える。

6 朝野・山中 (2000) によると具体的には、ネーミングテスト、パッケージテスト、プライシングテ

ストがある。 7 テストの費用は 1 億円から、数億円単位になることもある (小川, 2009)。 8 Knickerbocker (1973) はバンドワゴン効果を”follow-the-leader”行動と呼び、リスクの 小化のために

とられる行動であると主張した。

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淺羽 (2002) では、バンドワゴン効果の実証分析を行い、日本企業の特徴はライバル企業

間の産業内における同質的行動9であるとしている。復刻商品について言えば、同産業内の

ライバル他社が復刻商品を販売したことをきっかけとして、自社も復刻商品を販売するとい

う具合である。

バンドワゴン効果にのって製品を後発に市場に投入する利点として、小川 (2009) では、

需要の不確実性を見極めることができ、研究開発コストとプロモーションコストを低く抑え

ることができると述べている。

復刻商品にも同じような現象が見受けられる。同じ産業内のライバル他社が、復刻商品

を販売したので自社も販売すると言った具合である。バンドワゴン効果が働き、追随した

企業には、いくつかのメリットがある。

先発者は先に市場に到達する結果、先発優位を手に入れることができるが、競争優位の

すべてを手に入れるわけではない。模倣者や後発者が手にする「ただ乗り効果」が、先発

者の脅威となる(Schnaars,1997)。ただ乗り効果とは、①市場の採算性が明らかなこと、②模

倣品の方が先発製品よりも低コストであること、③より低い研究開発費、④より低い教育

コスト、の 4 点であり、これらがバンドワゴン効果を強めているものと考えられる。

以上、復刻商品に関連の深いと考えられる既存研究のレビューを行った。企業が復刻商品

を販売するにあたり「製品分類」、「製品開発プロセス」、「バンドワゴン効果」は密接に関わ

っていると考えられる。製品分類と開発プロセスという企業の内的要因に加えて、競合他社

の行動という外的要因が企業の復刻商品販売に影響を与えている可能性がある。復刻商品に

関する競合他社の戦略がどのように、自社の戦略に影響を与えるかという視点から外的要因

分析を行うことで、上述の 2 つの内的要因とあわせて、本研究で解明すべき課題を立体的に

浮かび上がらせることが可能と考える。

次に、検討した諸要因が復刻するまでの時間にどのように影響を与えていくかに焦点を

あて、仮説を提唱する。

4.仮説の提唱

(1) 財に関する仮説

McAfee (2005) では、消費財は耐久財に比べ数回の使用で次の商品に買い替えるため、耐

用時間が短いということが報告されている。そこで、復刻商品の財に関する仮説を構築する

上で、まず、耐用時間に着目した。

企業行動を製品開発から販売までにかかる投資回収の観点から考えた場合、投下資本を早

9 淺羽 (2002) ではこれをライバル企業と同じ行動とることと説明している。

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期かつ確実に回収したいという動機が働くと考えられる。McAfee (2005) において、消費財

は買い替えるまでの時間が耐久財に比べて短いと報告されているが、そうすると、消費財メ

ーカーには短期間で投資回収をしたいというインセンティブがより強く働くものと考えら

れる。つまり、消費財メーカーは、復刻商品の発売を通じて、投資回収後の利潤を 大化す

る機会を複数回求めるインセンティブを持つ可能性がある。

消費財メーカーのこうした販売動機を考えると、短期間で商品開発から販売にかかる投下

資本を回収するインセンティブを強くもつと考えられる消費財の方が、耐久財よりも早く復

刻商品を発売し、利潤 大化に向けた行動を取りやすいと考えられる。したがって、以下の

仮説を提唱する。

H1:消費財の方が、耐久財よりも早く復刻商品化される。

(2) 株式公開に関する仮説

仮説 1 では、製品の耐用時間と投資回収の観点から、既存商品の復刻商品化までの期間に

関する仮説を導出した。次に、企業が既存商品を復刻商品化すると意思決定するまでの期間

について、株式保有区分から仮説を導出する。

上場企業の意思決定には株主の声が反映される。出資者である株主の声が企業行動に反映

されるのである。株主が企業の意思決定に影響を与えることを考えた場合、株式を公開して

多くの株主が存在する上場企業と非上場企業では、意思決定に至るプロセスやそれに要する

時間が異なるものとが考えられる。

倉田 (2012) は、上場企業と非上場企業の経営戦略の違いについて、「上場企業は、経営戦

略上重要な意思決定が取締役会でなされた場合、計画段階でその情報を株主に開示せねばな

らず、競合他社に早い段階で情報が伝わってしまうなど、事業戦略に支障を来たすことがあ

る。非上場企業のメリットとしては、経営戦略が迅速に決定され、実行される」と述べてい

る (p. 15)。株主への情報開示等の株式公開に伴う煩雑な事務や手続きを課されている上場企

業よりも、非上場企業の方が、意思決定までのプロセスが短く迅速に意思決定できると、先

行研究でも報告されている。こうした違いを考慮すると、復刻商品を販売する企業群におい

ても上場企業と非上場企業の間では、意思決定にかかる時間に差が生じる可能性がある。株

式公開に伴う事務的な制約や外部株主に対する配慮が不要な非上場企業の方が、上場企業よ

りも早いタイミングで復刻商品の販売を機関決定すると考えられる。よって、以下の仮説を

提唱する。

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H2:非上場企業の方が、上場企業よりも早く復刻商品を販売する。

(3) バンドワゴン効果に関する仮説

仮説 3 では、ある企業が先行して復刻商品を販売した場合、同一産業内の他企業が復刻商

品を販売する意思決定に与える影響を検討する。淺羽 (2002) は、バンドワゴン効果を用い、

ライバル企業間の産業内における同質的行動10は日本企業の特徴であると述べている。つま

りは競合企業があるとった戦略に追随するように、自社も同じ行動をとるということである。

この考えに基づけば、復刻商品が販売された場合、同一産業内の他企業もバンドワゴン効果

が働き、同質的行動をとる企業が観察されると考えることができる。

復刻商品を販売する際においても、同一産業内の競合他社が先に復刻商品を販売した場合、

自社もプロモーションコストや研究開発コストを抑え、低コストで販売できる復刻商品を販

売する傾向があると考えられる。よって、以下の仮説 3 が提唱される。

H3:競合他社が、半年以内に復刻商品を出した業界に属する企業は復刻商品を出す。

(4) 経験効果に関する仮説

経験効果は、既存商品の復刻化という企業行動にも生じるものと考えられる。一つの製品

について、復刻商品を販売した企業には、既存製品の復刻化に関する復刻生産や販売までの

プロセスに関する知識が蓄積される。どの程度の在庫を用意すべきか、どういうタイミング

で増産を決定するか、どこの市場に集中投下するか等の製品復刻化に関するノウハウが蓄積

され、組織として復刻商品に企画から販売までの知識を習得していると考えられる。

この復刻商品に関する組織の経験効果を踏まえて考えると、一つの商品で復刻商品を発売

した企業にとっては、別の復刻商品を販売する障壁は、復刻商品を販売したことがない競合

他社に比べて、低いと考えられる。このように復刻商品販売に関する障壁が低ければ、複数

の製品を復刻販売しようというインセンティブをもつものと考えられる。したがって、以下

の仮説を導出した。

H4:復刻商品を発売する企業は、発売1年以内に別商品も復刻商品を販売する。

10 淺羽 (2002) ではこれをライバル企業と同じ行動とることと説明している。

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5.分析方法

提唱した 4 つの仮説を、生存時間分析を用いて実証的に分析する。生存時間分析とは、あ

る基準の時点からある目的の反応11が起きるまでの時間データを分析対象とする分析手法で

ある。

仮説の経験的妥当性を検討するためデータ収集を行った後、統計ソフトSPSS Inc. PASW

Statistics 19を用いて生存時間分析を行った。

5-1.生存時間分析について

本節では、今回用いた生存時間分析カプランマイヤー法について述べる。まず生存時間分

析カプランマイヤー法は、ある基準の時点 (販売中止) から、目的の反応 (復刻商品販売) が

起きるまでの時間データを、複数の変数を用いて解析する手法である。

今回は2つの検定を用いた。1つはLog Rank検定である。この検定は、生存数が少なくなる

観察期間の後半の観察結果に左右される傾向がある。これは、生存時間が短いデータを用い

た場合、有意な結果が出る傾向があるということである。もう1つはBreslow検定である。こ

の検定には、時点ごとに重みづけを変更するという特徴がある。仮にある時点で20製品生存

していたものが10製品残っている場合と、2製品生存しているものが1製品生存している場合

では、製品が多く残っている前の時点に大きい重みを、製品が少なくなる後の時点に小さい

重みをつける手法である。

結果として、時間が経てば経つほど、群間差が開いてくるサンプルに対しては、Breslow

検定よりもログランク検定の方が、有意差がつきやすくなる。一方、生存時間が長いサンプ

ル多いタイプでは、Breslow検定の方が、差がつきやすくなる。両者はこうした性質を持つ

ため、今回は双方の検定を用いた。

本論では、従属変数を復刻されるまでにかかった年 (生存時間) とし、独立変数を製品分

類(耐久財/消費財)、価格、販売年数、他社が半年以内に復刻商品を販売したか、自社が

復刻商品を1年以内に販売したか、とする。

5-2.データ

先述の通り、筆者が調べた限り、復刻商品に関する学術論文は存在しなかった。そればか

りか、復刻商品だけを扱ったデータセットの存在も確認できなかった。そこで、データセッ

トを独自に作成した。データセットの作成にあたっては、復刻商品を販売したことのある企

業のニュースリリースに記載されている復刻商品のデータ、また該当企業への電話質問、各

11 ここでは、観測対象とする固体に対し一度だけ非再帰的に起きる事象を指す。

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企業はなぜ復刻商品を販売するのか?―生存時間分析を用いた実証研究―

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新聞社のデータベースを用いた。サンプルサイズは336であった。図表3がデータセット作成

に用いたデータ引用元である。

図表3:引用データ元

朝日新聞データベース閲蔵Ⅱビジュアル http://database.asahi.com/library2/main/start.php

株式会社バンダイ ニュースリリース

株式会社 カバヤ 復刻商品データ

株式会社ロッテ 復刻商品データ

株式会社森永製菓 復刻商品データ

株式会社サークルKサンクス 復刻商品データ

毎日新聞社データベース 毎索https://dbs.g-search.or.jp/WMAI/IPCU/WMAI_ipcu_menu.html

日本コカコーラ株式会社 復刻データ

収集したデータから、製品分類と復刻の有無を用いてクロス集計表を作成した(図表4)。

収集したサンプルは消費財に偏っていることが分かる。

図表4:クロス集計表

復刻あり 復刻なし 合計

消費財 185 66 251

耐久財 67 18 85

252 84 336

また、主な変数の記述統計は図表5の通りである。販売期間は、下記データ元に記載され

た製品の販売日から販売中止までの期間である。販売期間に関しては平均13.66年であり、

消費者に認知されているであろうとされるには十分な期間である。発売中止期間は、生存時

間分析での「生存期間」に該当する。生存期間とは、ある事象が発生してから、復刻するま

での時間である。製品が販売中止されてから、復刻するまでの時間である12。平均生存期間

は16.3年と新しい顧客層に厚みが出るまでには、十分な時間である。また価格については、

平均が185.35円と比較的低い数値となっている。

12生存期間とは、ある事象が発生してから、その事象が終わるまでの観察期間である。

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図表5:記述統計

度数 小値 大値 平均値 標準偏差 中央値 最頻値

販売期間 336 0 134 13.66 17.356 8 1

販売中止期間 336 0 124 16.3 19.291 11 15

価格 336 10 73500000 185.35 5112122.4 159 100

6.分析結果

ここでは、分析の結果を報告する。

第 1 に、生存時間を従属変数に、独立変数を消費財ダミーとして、製品分類によって復刻

するまでにかかる時間の違いを調べるため生存時間分析を行い、仮説 1 を検証した。消費財

ダミーは、消費財の場合に 0、耐久財の場合に 1 をとる。

製品分類が生存時間に与える影響を調べた結果、Breslow 検定では 10%水準で有意な差が

得られた。これより、仮説 1 は支持された。結果は図表 6 のように示される。

図表6:消費財/耐久財の生存時間分析

全体の比較

カイ2乗 自由度 有意確率

Log rank 0.292 1 0.589

Breslow 2.812 1 0.094

次に、生存時間を従属変数に、独立変数を上場ダミーとして、上場の有無が復刻までの時

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間にもたらす影響を調べるため生存時間分析を行い、仮説 2 を検証した。上場ダミーは、上

場企業の場合に 0、非上場企業の場合に 1 をとる。

分析の結果、上場の有無が生存時間に与える影響を調べた結果、Log Rank 検定、Breslow 検

定ともに有意な差が得られなかった。これより、仮説 2 は棄却された。結果は以下のように

示される。

図表7:上場/非上場の生存時間分析

全体の比較

カイ2乗 自由度 有意確率

Log rank 0.294 1 0.588

Breslow 0.22 1 0.833

次に、生存時間を従属変数に、独立変数を他社追随ダミーとして、バンドワゴン効果が復

刻までの時間に及ぼす効果を調べるため生存時間分析を行い、仮説 3 を検証した。他社追随

ダミーは、調査対象企業が属する業界の競合他社が、半年以内に復刻商品を出した場合に 0、

そうでない場合に 1 をとる。

分析の結果、バンドワゴン効果によって、生存時間に与える影響を調べた結果、Log Rank

検定では 10%水準で有意な差が得られた。これより、仮説 3 は支持された。結果は以下のよ

うに示される。

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図表8:バンドワゴン効果の生存時間分析

全体の比較

カイ2乗 自由度 有意確率

Log rank 3.02 1 0.082

Breslow 0.898 1 0.343

後に、生存時間を従属変数に、復刻経験ダミーとし、経験効果が復刻までの時間に及ぼ

す効果を調べるため生存時間分析を行い、仮説 4 を検証した。復刻経験ダミーは、企業が過

去 1 年以内に復刻商品を販売している場合に 1 をとり、そうでない場合に 0 をとる。

分析の結果、Log Rank 検定では 5%水準で、Breslow 検定では 10%水準で有意な差が得られ

た。これより、仮説 4 は支持された。結果は以下のように示される。

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図表9:経験効果の生存時間分析

全体の比較

カイ2乗 自由度 有意確率

Log rank 6.069 1 0.014

Breslow 2.943 1 0.086

以上の分析から、以下のことが明らかになった。

1. 消費財は耐久財よりも早いサイクルで復刻商品化される。

2. 同業他社が復刻商品を販売したら、他社も追随して復刻商品を販売する。

3. 復刻商品の販売経験が、自社の他商品の復刻化を促す。

すなわち、①消費財は耐久財に比べて早く復刻される傾向にあること、②同産業内の他社

が復刻商品を販売すると、同産業内の他社も復刻商品を販売する傾向があること、そして、

③自社が復刻商品の販売経験があった場合、復刻商品を販売する傾向があることが見いださ

れた。これらのことから、復刻商品を販売する企業は消費財メーカーであり、バンドワゴン

効果と経験効果が働いている可能性があると考えることができる。

しかしながら、企業の株式上場区分による差には統計的に有意な差がなかった。これは企

業の復刻商品発売の意思決定にいたるまでの時間を直接に測定する変数を入手できなかっ

たため、サンプル企業が上場企業か非上場企業かという株式の保有形態を代理変数に用いた

ためかもしれない。

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7.結論

今回の研究から得た知見に基づくと、企業が復刻商品を販売するにあたっては、①どのよ

うな製品を復刻販売するかという視点、②自社が復刻商品を販売した際に、追随してくる競

合にどう立ち向かうかという競争戦略の視点、③1 つの商品を復刻化した学習効果を活かし

て、他の製品も復刻させるという組織の経験蓄積の視点という、3 つの視点を持って製品を

復刻化させる必要があると考えられる。

製品の復刻化という選択肢を製品戦略に取り入れることは、企業にとっての収益機会の

大化と顧客層の拡大という大きな果実をもたらす可能性がある。また Doyle (2000) では、経

験ブランド13は、共通の連想や情緒に関するイメージを伝えるものであり、ブランドと消費

者個人の間に共有された信条を形成するという意味で、消費者は製品に対して好感を抱くと

述べている。復刻商品を販売することは、購買経験のある消費者層に対するマーケティン

グ・アプローチとして有効だといえる。

しかしながら、本文の仮説 3 で実証した通り、自社が復刻商品を出せば、競合他社も追随

して同様の復刻商品を販売する傾向があることを考えると、復刻商品だけで企業の製品戦略

が完結するとは考えられない。つまり、企業が常に新製品開発を行い、新市場を開拓しなけ

れば、復刻商品という選択肢は有効ではないと考えられる。新製品開発なくして復刻商品の

誕生はない。新商品と復刻商品という商品戦略の両輪をバランスよく回転させることが、顧

客の裾を拡げ、 終的には持続的な企業成長に繋がるものと考えられる。

本研究では、学術的に一定の成果を得たものの、以下 4 つの課題が残されている。

第 1 に、データに関する課題がある。本論は、復刻商品について実証研究を行うために、

入手可能な公開データのみを使って分析を行なった。しかしながら、復刻商品に関する公開

データには研究の限界もある。今後、この分野の研究を蓄積するためには、企業や実務家へ

のインタビューやアンケートも交えた定性的な研究、あるいは実際に復刻商品を販売した企

業に関する事例研究を行うことも必要であろう。

第 2 に、復刻商品販売企業や製品の個別要因に関する課題がある。企業が復刻販売する各

製品の特殊性や販売企業の状況等が考慮されていないという個別産業に関する課題である。

本研究では、消費財と耐久財という製品分類によってサンプルを絞り込むことで分析を試み

たが、同じ消費財(耐久財)でも製品が属するライフサイクルの差や企業が販売店で持つシ

ェルフスペースの割合、製品を販売する企業が単一事業を営む専業企業か複数事業を営む多

角化企業の差等が分析に影響を与えるかもしれない。復刻商品という切り口を変えずに、サ

13 消費者が実際に経験することで、そのブランドの共通の連想や情緒に関するイメージを構築するこ

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ンプルを違った角度から分析することでも、新しい示唆が得られる可能性がある。

第 3 に、企業の復刻販売の動機の実証に関する課題がある。復刻商品が販売されるに際し、

同産業に属する後発の他企業が追随して復刻販売する動機は、バンドワゴン効果という理論

を用いて、実証することができた。今後は、先発企業がどのような動機で復刻商品を販売す

るのかを明らかにすることで、本研究テーマを多角的視座から考えることが可能となろう。

第 4 に、販売チャネルと復刻商品の販売動機との関連性がある。マーケティング・ミック

スを考える上でのフレームワークとして 4P (Products, Price, Place, Promotion) があるが、復刻

商品では商品、価格帯、パッケージや広告も当時のままという本研究での定義を考えると、

4P の中で販売チャネル (Place) が復刻商品に何かしらの影響を与える可能性がある。企業が

有する販売チャネルが時代の変化等で変わった場合には、企業の復刻商品の販売動機に何か

しらの影響を与えるかもしれない。復刻商品を販売する企業と、それら企業が保有する販売

チャネルには販売動機に関係する関連性について検証することは、今後の研究課題として挙

げられる。

こうした課題が残されているとはいえ、本研究は、国内外での実証研究の蓄積が少ない分

野において、復刻商品に関する研究を試みたという点で、学術的・実務的に非常に意義のあ

る研究である。

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データ引用文献

朝日新聞データベース閲蔵Ⅱビジュアル http://database.asahi.com/library2/main/start.php

株式会社バンダイ ニュースリリース

株式会社 カバヤ 復刻商品データ

株式会社ロッテ 復刻商品データ

株式会社森永製菓 復刻商品データ

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株式会社サークル K サンクス 復刻商品データ

毎日新聞社データベース 毎索 https://dbs.g-search.or.jp/WMAI/IPCU/WMAI_ipcu_menu.html

日本コカコーラ株式会社 復刻データ