昼夜の長さはなぜ変わるかを調べる web教材の開発 · なお、本web...
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昼夜の長さはなぜ変わるかを調べる Web 教材の開発 -9-
天文教育 2014 年 9 月号(Vol.26 No.5)
昼夜の長さはなぜ変わるかを調べる
Web 教材の開発 山田 洋(佐賀市立富士中学校)
1. はじめに
中学校理科の天体分野に「昼夜の長さが季
節によってなぜ変わるのか」を学習する内容
がある。身近な問題であり、私自身も、小学
生や中学生の頃は、不思議に思っていた問題
でもある。この問題を解決するには地球上ば
かりではなく地球外から見て理解する必要が
ある。すなわち天動説的立場から地動説的立
場へと思考を移す大切な内容でもある。 また、従来の学習方法としては、地球のモ
デルとして地球儀を使って昼夜の長さを測定
していたが、モデル実験だけであり、実際の
日の出、日の入りの時刻等、観測データを使
っての学習はあまりなされていなかった。 そこで、「昼夜の長さがなぜ変化するのか」
の問題を実際に測定したデータを基に、生徒
自ら問題解決をしていくときの手助けとなる
ような Web教材を作成しようと考えた。
2. 「昼の長さ夜の長さはなぜ変わるの?」
の Web 教材の作成について
昼夜の長さが季節によってなぜ変わるのか
を学習できる問題解決型の Web 教材として「昼の長さ夜の長さはなぜ変わるの?」を
1999 年の 9 月に公開した[1]。それ以来、改良、改善、拡張を続け、現在に至っている。 この Web 教材は、問題解決を順番どおり、
または、途中からでもできるように、メニュ
ー形式を採用している(図 1)。
図 1 メニューの一部
「始め」・・・疑問、不思議興味を引きつける 「調べよう」・・・実際の観察・観測結果 「考えよう」・・・〇地球上で(天動説) 〇地球の外から(地動説) 「チャレンジ」・・・発展的な課題 その他 ・・・「観測結果」「データ」「Q&A」 「ライブカメラ」「先生方へ」 以下それぞれの内容について説明する。
2.1 「始め」について
メニューの「始め」のボタンをクリックす
ると、トップページを表示させることができ
る(図 2)。トップページでは生徒の興味・関心を引きつけるために、2ヶ月後の日の出の
位置や時刻を比較した写真を提示している。
なぜ2ヶ月でこのように変化するのか理由を
考えようと問題提起をし、生徒が疑問を持っ
たり、不思議に思ったりすることで興味・関
心を持たせるようにしている。
図 2 日の出の位置や時刻の変化
2.2 「調べよう」について
メニューの「調べよう」のボタンをクリッ
クすると、有明海での冬至、夏至、春分、秋
分頃における日の出、日の入りの定点観測の
結果を写真や動画で表示させることができる。
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天文教育 2014 年 9 月号(Vol.26 No.5)
観測した年月日や時刻も記録している(図 3)。
図 3 夏至頃の日の出、日の入り
冬至、夏至、春分、秋分頃の定点観測の結
果を比較することにより昼夜の長さについて
以下のことを理解することができる。 ○ 夏の昼の長さ>冬の昼の長さ ○ 夏の夜の長さ<冬の夜の長さ
または、 ○ 冬は 昼の長さ<夜の長さ ○ 夏は 昼の長さ>夜の長さ
春分の日、秋分の日 ○ 昼の長さ=夜の長さ(=12時間) ○ 太陽は真東から昇り、真西に沈む
時間を 1/20倍や 1/100倍に縮めた日の出の動画からは、太陽は地平線から南の方に傾き
ながら昇っていくことを確認することができ
る(図 4)。
図 4 有明海の日の出の動画 このように、実際の観測結果を静止画と動
画で載せており、都会や山間部の学校等で、
実際に日の出、日の入りの観測が難しい場合
でも Web教材であるので、インターネットを通して、生徒たちがこの写真や動画を活用す
ることができる。
2.3 「考えよう地球上で」について
メニューの「考えよう地球上で」のボタン
をクリックすると、半球上に季節ごとの太陽
の通り道を示した図が表示される(図 5)。また、天球上での太陽の1日の回転を示したア
ニメーションも表示することができる(図 6)。
図 5 季節ごとの太陽の通り道
図 6 太陽の1日の回転のアニメーション
図 6は冬の場合の天球上での太陽の1日の
回転のアニメーションである。このアニメー
ションから冬は昼の長さが短く、夜の長さが
長いことが分かる。また、夏至や春分・秋分
においても太陽の通り道を生徒自ら作図する
ことにより昼夜の長さを出すことができる。
これらの比較から昼夜の長さが季節によって
変化することを理解することができ、「調べよ
う」で分かった実際の昼夜の長さの季節変化
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を説明することができる。 以上のことは全て天動説的な立場から考察
できる結果であるが、昼夜の長さがなぜ変化
するかの本当の原因は分かってはいない。こ
のことを理解するためには、「考えよう地球の
外から」を選択し、地球の外に出て、地動説
的立場から考察する必要がある。 なお、本 Web教材は、問題解決型であるの
で、ヒントは与えているが、あえて解答は載
せていない。また、グループでの話し合い等
の言語活動も活性化させたいので解答は載せ
ないことにした。
2.4 「考えよう地球の外から」について
メニューの「考えよう地球の外から」のボ
タンをクリックすると、地球の外から見た図
を表示することができる(図 7、図 8)。これらの図は、地軸の傾きを5度ずつ変化させる
ことが可能であり、地軸の傾きを変化させた
場合の昼夜の長さをシミュレートすることが
できる機能を持っている。 図 7の冬至のシミュレーションでは、地軸
の傾きをいろいろと変化させながら、昼の長
さ(日本では約 10 時間)を再現できる地軸の傾きの値を大まかに求めることができる。 また、冬至は公転面の真横から見ると昼の
長さの半分が表示され、見えている部分を2
倍することによって、昼の長さを知ることが
できる。
図 7 冬至における地軸の傾きを変化させた場
合の昼夜の長さを調べるシミュレーション
次に、四季にわたって地軸の傾きを変化さ
せたときに、昼夜の長さがどのように変化す
るかを考えたい時には図 8のシミュレーションを活用する。 図 8のシミュレーションは、地球が公転している時に、四季において地軸の傾きを同時
に変化させることができる機能を持つ。地軸
の傾きを変化させることにより、四季におけ
る昼の長さ(日本では冬至:約 10 時間、夏至:約 14 時間、春分・秋分:12 時間)を再現できる地軸の傾きの値を大まかに求めるこ
とができる。 これらの地球の外から見た図のシミュレー
ションにより、地動説的立場から、昼夜の長
さが季節によってなぜ変化するかの理由を生
徒自ら発見することができる。ここまでが中
学校で学習する内容である。 なお、以前と同様、本 Web教材は、問題解
決型であるので、ヒントは与えているが、あ
えて解答は載せていない。また、グループで
の話し合い等の言語活動も活性化させたいの
で解答は載せないことにした。
図 8 四季における地軸の傾きを変化させた
時の昼夜の長さを調べるシミュレーション 2.5 「チャレンジ」について
メニューの「チャレンジ」のボタンをクリ
ックすると、以下のような発展的な問題や中
学生にとってはやや高度な問題を表示するこ
とができる。
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天文教育 2014 年 9 月号(Vol.26 No.5)
○「太陽が昇る場所や沈む場所が季節によっ
て変化する理由を考えよう」では、トップペ
ージで示された、太陽の出没場所がなぜ変化
するかの疑問を解決するためのヒントが示さ
れている(図 9)。この問題を解決し、より興味関心を高めてもらいたい。
図 9 太陽の出没する場所が季節によってな
ぜ変化するかのヒントを示しているペー
ジ
○「より正確な地軸の傾きを求めよう」では、
地軸の傾きを 0.5 度ずつ変化させることが可能であり、観測データ(日の出、日の入りの
時刻、南中高度、南中時刻)をより正確に再
現できる地軸の傾きを調べることができる
(図 10)。
図10 地軸の傾きを0.5度ずつ変化させるこ
とができるシミュレーション
○「緯度を変化させよう」では、緯度を変化
させ、世界中の昼夜の長さを調べることがで
きる(図 11)。
特に、北半球と南半球では、昼夜の長さが
逆になっていることや、赤道近くでは、一年
を通して、昼夜の長さが 12 時間であることなども確かめることができる。
図 11 緯度を変化させることができるシミ
ュレーション
〇「楕円軌道の効果を確かめよう」では、離
心率を変化させ、1年間の日の出、日の入り
の時刻を正確に再現する離心率を求めること
ができる。このことにより、1年間の日の出、
日の入りの時刻に対する楕円軌道の効果を検
証することができる(図 12)。 離心率は高校や大学で習うので、中学校で
は、円軌道や、極端な楕円軌道の場合と比較
して学習させるのが望ましいと思われる。
図 12 離心率を変化させることができるシ
ミュレーション
2.6 「観測結果」について
メニューの「観測結果」のボタンをクリッ
クすると、今までの観測結果を保存した写真
を閲覧することができる(図 13)。
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ほとんど有明海の定点観測の写真であるが、
他にも、投稿してくださった方の観測写真も
紹介している。
図 13 観測結果の写真
2.7 「データ」について
メニューの「データ」のボタンをクリック
すると、日本や世界各地の昼夜の長さ、日の
出・日の入りの時刻、南中時刻、南中高度等
の計算結果の一覧を参照することができる
(図 14)。これらの結果は、「サン・アースくん」[2]で計算したものである。 観測日が曇りや雨で観測できなかったとき
や、他の地域のデータが必要になったときに
活用することができる。
図 14 「サン・アースくん」で計算した結果
2.8 「Q&A」について
メニューの「Q&A」のボタンをクリック
すると、メールで投稿してくださった「昼夜
の長さ」、「地軸の傾き」等に対するこれまで
の質問と、それに対する回答を表示させるこ
とができる。 質問者は小学生から大人までと幅広い。ま
た、日本ばかりではなく、エクアドル共和国
のキト日本人学校から「影がなくなる日」に
ついての質問もあった(図 15)。なお、回答については、図解入りで分かりやすく解説す
るように心がけている。
図 15 キト日本人学校の小6からの質問
2.9 「ライブカメラ」について
メニューの「ライブカメラ」のボタンをク
リックすると、Webカメラで撮影している
写真を閲覧することができる。「ライブカメ
ラ」には2種類のページがある。
1つは「ライブカメラ」のトップページ(図
16)で、5分ごとにリアルタイムな新しい写真に切り替わる。年月日、時刻等も写真の下
段に表示されるので、大まかな日の出、日の
入りの時刻を知ることができる。
2つめは「ライブカメラ記録」のページで、
種々の条件で表示させることができる。ライ
ブカメラのトップページから「毎月1日ごと
の記録」、「約10日おきの記録」、「過去
の記録」から選択し、クリックすることによ
り過去の1時間ごとの記録写真を表示するこ
とができる。特に「約10日おきの記録」は
1年間の季節による昼夜の長さの変化を1目
で確認することができ、教材としても活用す
ることができる(図 17)。
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図 16 ライブカメラのトップページ
図 17 約 10 日おきの記録
2.10 「先生方へ」について
メニューの「先生方へ」のボタンをクリッ
クすると、授業を実施するときの参考となる
内容を表示することができる。
このホームページで使ったシミュレーショ
ンプログラムをダウンロードすることができ
たり、実際の授業活用事例を示し、指導案を
ダウンロードしたりすることができる。
図 18 授業活用事例
3. おわりに
本稿では自作の Web教材である「昼の長さ夜の長さはなぜ変わるの?」のページを紹介
してきた。天体の単元を学習する12月頃に
なるとページ閲覧回数が平日の閲覧回数より
も5倍くらい多くなることが分かった。授業
に活用されていると考えられる。今後も、更
なる改良、改善を重ねながら、もっと授業活
用しやすいページにしていきたい。 文 献
[1] 「昼の長さ夜の長さはなぜ変わるの?」 http://edq40134.digi2.jp/
[2] 「サン・アースくん」 http://edq40134.digi2.jp/a-su/