「桃太郎セレクト」と「桃太郎8」との根圏比較 「グリーンセー … ·...

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●「桃太郎ギフト」 「桃太郎8」 の食味のよさをそのまま 継承した葉かび病(Cf9)耐病性品種 です。特に、食味のよさを前面に推し ていくには最適な品種といえます。栽 培の注意点としては、低温障害果が発 生しやすいので適期定植が基本となり ます。根は浅根性ですが「桃太郎サニ ー」と比べて、低段から果実が肥大し ないので草勢管理はしやすい品種とい えます。 ●「桃太郎セレクト」 これまでの「桃太郎」系シリーズの 品種とは異なる、深根性の品種です。 スタミナがあるので、収量が落ち込み やすい栽培中盤~後半に確実に増収を ねらえます。一方、栽培前半はやや草 勢がおとなしいので、積極的な潅水や 早めの追肥で草勢を維持する必要があ ります。 ●育成中の「TTM-075」 「桃太郎セレクト」と同じく深根性の 品種です。異なる点としては肥大力が すぐれ、さらに裂果に強いというのが 特長です。「桃太郎セレクト」同様に 初期生育がおとなしい品種ですが、初 期は潅水主体で草勢を維持し、3段開 花期以降からの積極的な追肥で栽培中 盤以降の樹作りと増収をねらいます。 台木品種の使い分け ●新品種「グリーンセーブ」 トマト栽培で特に問題となる土壌病 害の青枯病と、コルキールートおよび ちょう 病レース3に高い耐病性をもつ緑 茎台木です。また病気に強いだけでな く、根が深く入るので長期栽培でも安 定しています。特に黒ボク土壌や火山 灰土など、比較的土目がやわらかい土 や深層耕うんされた畑で特性がよく発 揮されます。 ●「グリーンガード」 「グリーンセーブ」と同等の複合耐病 性の緑茎台木です。根は横方向に伸び る性質が強く、地表部付近に多く分布 します。草勢はややおとなしめですが、 粘土質や山土、礫 れき こうなど土目の重い 土壌や、硬盤が浅く深層に根が形成さ れにくい畑には、根がしっかり張る「グ リーンガード」が適する品種といえま す。 ●育成品種「TTM-081」 草勢の強い緑茎台木です。青枯病や、 コルキールートおよび萎凋病レース3 に安定した耐病性を発揮するだけでな く、深層へたくさんの根が伸びるので、 土質を選ばず長期栽培でも草勢維持が 容易です。 穂木と台木の組み合わせ 「桃太郎サニー」「桃太郎ギフト」など、 草勢が中位な品種には「グリーンセー ブ」「グリーンガード」を土質に合わせ て使い分けると栽培が安定します。 ただし、「桃太郎サニー」をはじめ とした夏秋栽培用品種に多く見受けら れる盛夏期のスタミナ切れや梅雨時期 のしおれなど、栽培上の課題を台木で 解決するには草勢が最も強い育成中の 「TTM-081」のような品種が今後は必 要になってきます。ただし、草勢が強 い分「桃太郎ギフト」の場合、過繁茂 による変形果の発生に注意が必要です。 一方、栽培前半の草勢がおとなしい 「桃太郎セレクト」「TTM-075」 の接ぎ 木栽培にも、草勢の強い「TTM-081」 との組み合わせが期待されます。この 組み合わせなら栽培前半から草勢が強 くなるので葉がよく茂り、結果的に耐 裂果性や高い秀品性など穂木本来の特 性がしっかり発揮されます。また、草 勢が強くなっても両品種とも秀品性が 高いので、秀品出荷率も安定します。 第3世代へ突入する「桃太郎」シリ ーズと台木「グリーン」シリーズの完 成に向け、現在各地で試作を開始して います。育成経過にご期待ください。 ※TTM-075、TTM-081は試作中の品種です。一般での取り扱いはありません。(編集部) 2014 タキイ最前線 冬春号 29 ↑グリーンセーブの根圏。深層 部に根が多く分布している。 ↑グリーンガードの根圏。地表 部に根が多く分布している。 桃太郎セレクト グリーンセーブ 桃太郎8 グリーンガード 「桃太郎セレクト」と「桃太郎8」との根圏比較 「グリーンセーブ」と「グリーンガード」との根圏比較

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Page 1: 「桃太郎セレクト」と「桃太郎8」との根圏比較 「グリーンセー … · 」「桃太郎t ティー 93」「桃太郎なつみ」 「桃太郎サニー」「桃太郎ギフト」と食

●「桃太郎ギフト」「桃太郎8」 の食味のよさをそのまま継承した葉かび病(Cf9)耐病性品種です。特に、食味のよさを前面に推していくには最適な品種といえます。栽培の注意点としては、低温障害果が発生しやすいので適期定植が基本となります。根は浅根性ですが「桃太郎サニー」と比べて、低段から果実が肥大しないので草勢管理はしやすい品種といえます。●「桃太郎セレクト」 これまでの「桃太郎」系シリーズの品種とは異なる、深根性の品種です。スタミナがあるので、収量が落ち込みやすい栽培中盤~後半に確実に増収をねらえます。一方、栽培前半はやや草勢がおとなしいので、積極的な潅水や早めの追肥で草勢を維持する必要があります。●育成中の「TTM-075」「桃太郎セレクト」と同じく深根性の品種です。異なる点としては肥大力がすぐれ、さらに裂果に強いというのが特長です。「桃太郎セレクト」同様に初期生育がおとなしい品種ですが、初期は潅水主体で草勢を維持し、3段開花期以降からの積極的な追肥で栽培中盤以降の樹作りと増収をねらいます。

 台木品種の使い分け

●新品種「グリーンセーブ」 トマト栽培で特に問題となる土壌病害の青枯病と、コルキールートおよび萎い

凋ちょう

病レース3に高い耐病性をもつ緑茎台木です。また病気に強いだけでなく、根が深く入るので長期栽培でも安定しています。特に黒ボク土壌や火山灰土など、比較的土目がやわらかい土や深層耕うんされた畑で特性がよく発揮されます。●「グリーンガード」「グリーンセーブ」と同等の複合耐病性の緑茎台木です。根は横方向に伸びる性質が強く、地表部付近に多く分布します。草勢はややおとなしめですが、粘土質や山土、礫

れき

こうなど土目の重い土壌や、硬盤が浅く深層に根が形成されにくい畑には、根がしっかり張る「グリーンガード」が適する品種といえます。●育成品種「TTM-081」 草勢の強い緑茎台木です。青枯病や、コルキールートおよび萎凋病レース3に安定した耐病性を発揮するだけでなく、深層へたくさんの根が伸びるので、土質を選ばず長期栽培でも草勢維持が容易です。

穂木と台木の組み合わせ

「桃太郎サニー」「桃太郎ギフト」など、草勢が中位な品種には「グリーンセーブ」「グリーンガード」を土質に合わせて使い分けると栽培が安定します。 ただし、「桃太郎サニー」をはじめとした夏秋栽培用品種に多く見受けられる盛夏期のスタミナ切れや梅雨時期のしおれなど、栽培上の課題を台木で解決するには草勢が最も強い育成中の「TTM-081」のような品種が今後は必要になってきます。ただし、草勢が強い分「桃太郎ギフト」の場合、過繁茂による変形果の発生に注意が必要です。 一方、栽培前半の草勢がおとなしい「桃太郎セレクト」「TTM-075」の接ぎ木栽培にも、草勢の強い「TTM-081」との組み合わせが期待されます。この組み合わせなら栽培前半から草勢が強くなるので葉がよく茂り、結果的に耐裂果性や高い秀品性など穂木本来の特性がしっかり発揮されます。また、草勢が強くなっても両品種とも秀品性が高いので、秀品出荷率も安定します。 第3世代へ突入する「桃太郎」シリーズと台木「グリーン」シリーズの完成に向け、現在各地で試作を開始しています。育成経過にご期待ください。

※TTM-075、TTM-081は試作中の品種です。一般での取り扱いはありません。(編集部)2014 タキイ最前線 冬春号 29

↑グリーンセーブの根圏。深層部に根が多く分布している。

↑グリーンガードの根圏。地表部に根が多く分布している。

桃太郎セレクト グリーンセーブ桃太郎8 グリーンガード

「桃太郎セレクト」と「桃太郎8」との根圏比較 「グリーンセーブ」と「グリーンガード」との根圏比較

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タキイ夏秋トマト栽培の最前線 !~深根、浅根性台木を使い分けて 夏秋栽培を成功させる~

穂木品種の使い分け

 夏秋用品種は初代「桃太郎」から始まり、これまで産地向けとして「桃太郎8エイト

」「桃太郎Tティー

93」「桃太郎なつみ」「桃太郎サニー」「桃太郎ギフト」と食味のよさを継承していく中で、栽培性や耐病性の改良を加え品種の充実を図

ってきました。そして昨年、栽培性をさらに改良した「桃太郎セレクト」を発表し、現在で7代目となります。ここでは、葉かび病耐病性を備えた「桃太郎サニー」以降の品種の使い分けについて紹介します。●「桃太郎サニー」 食味のよさに加え、収量性を改良し

た短期多収型の葉かび病(Cf9)耐病性品種です。特に、低段からの果実肥大がすぐれるのが特長で、7~8段収穫なら確実に増収をねらえる品種です。 一方、晩秋まで収穫を続ける場合は、栽培後半のなり疲れによる減収を防ぐため、積極的な潅水や早めの追肥が必要です。

ブリーダー通信㉜

タキイ研究農場

横よこ

川かわ

 武たけ

弘ひろ

 トマトの根は一般的に深根性といわれ、土壌条件がよければ1mくらいの深さまで根が伸びるといわれています。しかしこれまでの「桃

もも

太た

郎ろう

」シリーズは浅根性品種が多く、根が地表部に多く分布します。これは、肥料や水を吸う根が地表部にたくさんあるので、定植時の活着がスムーズに進むことや、初期草勢が旺盛になりやすく、土壌や肥料に対して吸収がよい利点があります。その一方で、根域が地表に近いと気温の変化を受けやすく、真夏や真冬に生育が緩慢になったり、収穫最盛期に入るとスタミナ切れ(バテ)を起こしたり、環境面やスタミナ面で欠点が出やすくなります。最新品種の「桃太郎セレクト」や育成中の「TTM-075」は、このような 「桃太郎」 シリーズの難点を克服すべく改良された深根性の品種特性をもちます。 一方、接ぎ木栽培が普及している生産現場では、青

あお

枯がれ

病を主とした病害回避で接ぎ木をするか、夏越しのスタミナがある深根性(強勢)の台木に接ぎ木をするかに大別されます。環境変化が激しく栽培管理が難しい昨今、栽培管理上の工夫ではカバーしきれない場面が多く、スタミナのある品種への切り替えや、根本的に自根栽培から接ぎ木栽培に切り替えることで栽培を見直す動きも出てきています。 今回は、育成途中の品種も加えた穂木と台木品種が目指す使い分けと、接ぎ木による夏秋栽培を成功させるポイントについて紹介します。

30 2014 タキイ最前線 冬春号

↑栽培中の「桃太郎セレクト」(青森県蓬田)。