「クレモナの図式解法によるトラス構造の解析」トラスとは...
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大阪府立大学 航空宇宙工学科
航空宇宙工学演習 I
材料力学の演習 第3回 補足資料
「クレモナの図式解法によるトラス構造の解析」
平成 28年 6月 27 日
担当教員:南部 陽介
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演習の目的
本演習では、クレモナ図式解法等を使ったトラス構造の解析方法について学習する。また、解析
結果をトラス構造の設計に適用する方法について学ぶ。
トラスとは
トラスは、「まっすぐな部材をピン結合によって組み立てた骨組み」と定義される。ここでピン
結合とは、二つの部材が離れないように、しかしお互いに回転は出来るように結合することである
(図1のようなドアの蝶つがいを思い浮かべるとよい)。
図 1 ピン結合の例(ドアの蝶つがい)
トラスは三角形を基本要素として組み立てられる。三角形を基本要素とすることにより、部材に
作用する力は、引張力または圧縮力のみとなる(図2)。一般に部材は、曲げの力に対して弱く、
引張力や圧縮力に対して強いので、トラス構造は、部材に曲げの力が作用する梁構造に比べて、よ
り強い力に耐えることができる。
図3 トラス構造の力学的性質
このようなトラスを地面あるいは他の支持物と適当に結合すると、外力に抵抗するトラス構造物
となる(図3)。トラス構造物において、直線部材を連結した点を節点と呼ぶ。
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図3 トラス構造の例
トラス構造物の解析
本演習では、「トラス構造物を解析する」ということを「トラス構造物の部材に作用する力を計
算する」ということと、同一に考える。トラス構造物を解析する方法は様々であるが、本演習では
「クレモナの図式解法」によりトラス構造物を解析する。この解法は、クレモナという学者によっ
て開発されたもので、複雑な計算をする必要がなく、作図により簡単にトラス構造物の解析を行う
ことが出来る。
一般に、作図によるトラス構造物の解析法では、以下の2つの手順からトラス部材の部材力を求
める。ここで本演習では部材力を部材が節点に与える力と定義し、作用反作用の法則から節点から
「部材に作用する力」と大きさが同じで向きが逆になる。部材力を求めることにより、「部材に作
用する力」の向きと大きさを知ることができる。
トラス構造物全体を剛体と考えて、支点の反力を、外力との力の釣り合い式及びモーメント
の釣り合い式から求める。
各節点ごとに、既知の反力、外力と未知の部材力の力のつりあいを、力の多角形を使って図
式的に求める。
以下に詳しく示すが、「クレモナの図式解法」は、これらの手順をより洗練させた解法となってい
る。
力の分解、力の合成、力のつりあい、反力の計算
はじめに、「クレモナの図式解法」を理解するために、トラス構造の節点における力のつり合い
と、支点の反力の計算法について復習する。
力の分解: ある一つの力をそれと同一の効果を持つ二つの力に分けることを、‘力の分解’
といい、分けられた二つの力をそれぞれ、‘分力’という。
力の合成: 多数の力の群があったとき、それらと同一の効果を持つ一つの力を求めること
を、‘力の合成’といい、その求めた一つの力を‘合力’という。
力のつりあい: 物体に多くの力が同時に作用するとき、その物体が、移動も回転もせず静
止の状態を保つとき、これらの力は‘つりあい’を保つという。つりあっている力の多角形
(力のベクトルをつなげたもの)は、閉じる。
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部材力: 作用・反作用の法則により、部材の一端の力が定まると部材の他端の力が定まる。
また、部材力は必ず部材の方向に作用する。
節点における力のつり合い: 外力を受けるトラス構造物の節点では、部材力と外力または
反力がつり合っている。
反力の計算: 外力と支点反力はつり合っている。支点反力は、水平方向の力のつり合い、
垂直方向の力のつり合い、及び支点回りのモーメントのつり合いから計算することが出来る。
また反力の数は支点の種類によって、決まる(図4)。
図4 反力の種類
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例題:節点における力の分解、力のつり合い
二本のトラス部材の結合部に荷重 Pが作用する状態を考える。節点Cにおける力のつり合い図
(力の多角形)及び荷重Pの力の分解図を示せ。ただし本演習では、つり合い図は荷重Pから時計
回りに、描くこととする。また、部材に作用する力が圧縮力となるか、引張力となるか考察せよ。
(例)
例題:トラス構造の支点反力の計算
次のトラス構造物の反力X3、Y3、X4、Y5を求めよ。ここで、節点4には水平方向のみに
部材が接続しているので、反力Y4は零となる(零にならないと力の多角形が閉じない)。
(解答)
垂直方向、水平方向の力のつり合いから、
3 300Y (1)
3 4X X (2)
が得られる。また、支点3回りのモーメントのつり合いから
300 2 4 1X (3)
を得る。以上、式(1)~(3)より
3 600 , 4 600 , 3 300X kgf X kgf Y kgf
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図式解法
節点のつり合いから部材力を求める
外力を受けるトラス構造物の各節点は、つり合い状態にある。よって、既知の力(外力、反力、
既に求めた部材力など)と未知の部材力(必ず部材と同じ方向になる)からなる力の多角形を図示
することにより、未知の部材力を求めることが出来る。以下に例を示す。
例題:トラス構造物の図式解法
次に示すトラス構造物を図式解法
により解析する。このトラス構造物に
は、節点が3つ、部材が4本あり、1
番目の節点に下向きに 300kgf の荷重
が作用している。このとき、それぞれ
の節点では力のつりあい状態が保た
れている。
節点における力の多角形
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部材に作用する力
部材
番号
力の大きさ 力の方向
① 300P kgf 引張力
② 2 424P kgf 圧縮力
③ 2 424P kgf 引張力
④ 2 600P kgf 圧縮力
クレモナの図式解法の手順
以上 3.2.1節で述べた図式解法をより効率的にしたものが、クレモナの図式解法であり、以下の手
順に従ってトラス構造物の解析を行うことができる。
1. 力とモーメントのつり合いから、支点反力を求める。
2. 外力、反力、部材で区切られた領域に、A、B、C・・・の記号をつける。このとき、はじ
めに外力、反力で区切られた領域の記号を付け、その後に部材で区切られた領域に記号をつ
ける。このような記号により、外力、反力、部材は一対の記号にはさまれることになる。
3. まず、外力の作用点か支点回りの力の多角形を描く。力の多角形を描くときは、既知の力か
ら始めて、時計回りに順番に力を考える。未知の力が一番最後になるように工夫すること。
このとき、時計回りに領域Aから領域Bにはさまれた力のベクトルの始点をA、終点をBと
する。他の領域についても、同様とする。
4. 力の多角形から、部材に作用する力が圧縮力か引張力かを判断する。力のベクトルが注目し
ている節点を向いているとき、部材に作用する力は圧縮力である。また矢印が節点から遠ざ
かる向きをもっているとき、部材に作用する力は引張力である。
5. この手順を全ての節点について、繰り返す。
6. 部材に作用する力を表にまとめる。
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例題:クレモナの図式解法によるトラスの解析
(領域の記号をつける)
荷重Pは領域 Aと領域 Bに挟まれる。
部材①は領域Bと領域Cに挟まれる。
部材②は領域Cと領域 Aに挟まれる。
部材③は領域Cと領域Dに挟まれる。
部材④は領域Dと領域 Aに挟まれる。
(節点1に関する力のつり合い図)
(節点2に関する力のつり合い図)
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(クレモナ図の読み方の例)
節点1に接続している部材①に作用する力
節点1に接続している部材①に作用する力は、クレモナ図では、始点をB、終点Cをとするベク
トルで表される。力の大きさは、ベクトルの長さで表される。また、ベクトルBCは、矢印が節点
1から遠ざかる向きをもっているので、部材に作用する力は引張力である。
節点3に接続している部材③に作用する力
節点3に接続している部材③に作用する力は、クレモナ図では、始点をD、終点Cをとするベク
トルで表される。力の大きさは、ベクトルの長さで表される。また、ベクトルDCは、矢印が節点
3から遠ざかる向きをもっているので、部材に作用する力は引張力である。
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部材の断面寸法の決定
前章の図式解法によって、各部材に作用する力が得られる。ここでは、トラス構造物の解析に
よって得られる部材に作用する力から、トラス構造物を安全に設計するための部材断面寸法の決
定方法について述べる。
トラス構造物を安全に設計するためには、トラス部材は
(1) 部材力によって部材が材料的に破壊されないこと。(引きちぎれたり、潰れないように
する)
(2) 圧縮部材が、座屈しないこと。(圧縮したときに折れ曲がらないようにする)
の条件を満たす必要がある。(1)に関しては、部材を材料的に破壊する力は、材料の基準強さに
よって決定されるので、部材に作用する力による応力が、材料の基準強さを安全率で割った応力を
越えないように、設計を行う。(2)に関しては、部材が座屈によって破壊するときの力は理論座
屈荷重によって決定されるので、部材に作用する圧縮力が、部材の理論座屈荷重を安全率で割った
荷重を越えないように設計を行う。以下に詳細を述べる。なお、本演習では部材の断面として、円
形中実断面を考える。
基準強さによる断面寸法の決定
部材 iに作用する力を iS 、部材 iの断面積を iA とする(図5)。このとき、部材の応力は i i iS A
となる。
図 5 部材に作用する力と断面積
部材を構成する材料の基準強さを * 、安全率を f とすると、トラス構造物の全ての部材は
*if (4.1)
を満たす必要がある。式(4.1)の条件は、 i i iS A を考慮すると
*
ii
SA f
(4.2)
のように、部材の断面積の条件として表すことが出来る。いま、直径 iD の円形中実断面の部材を
考えると、式(4.2)は、
*
2i i
fD S
(4.3)
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のように、断面直径の関係式として表すことが出来る。式(4.3)を満たすように、トラス構造部材
の断面直径を決定する。ただし、部材に作用する力が圧縮力の場合、材料の基準強さの他に次に
説明する座屈荷重を考慮する必要がある。安全率は、設計仕様や強度規定から定められ、航空宇
宙分野では、1.5程度、その他の機械分野では、5前後である。基準強さについては、材料便覧な
どに明記されている。
座屈荷重を基準とした断面寸法の決定
一般にトラス部材は、圧縮力や引張力に耐えるように考えて設計するものだが、細長い部材を
使用するとき、圧縮力による部材の座屈に注意する必要がある。座屈は、圧縮力がある大きさに
なったとき、突然横に部材が曲がってしまう現象であり、基準強さよりもずっと小さな応力で部
材が折れ曲がって破壊してしまう。したがって、圧縮力を受ける部材については、座屈を起こさ
ないことを保証する必要がある。材料力学によればトラス部材 iの座屈荷重は、部材のヤング率を
E、長さを il 、断面二次モーメントを iI とすると(図 6)、
2
* 2
ii
i
EIS
l
(4.4)
として与えられる。よって、部材に作用する力 iS は安全率を f として次式を満たさなければならな
い。
*i if S S (4.5)
図6 圧縮力を受ける部材
いま、直径 iD の円形中実断面の部材を考えたとき、断面二次モーメント iI は
4
64
ii
DI
(4.8)
と表されるので、式(4.5)は次式のように直径 iD に関する条件式で表される。
12 4
3
42 i i
i
l f SD
E
(4.9)
以上より、圧縮力の作用する部材では、上式を満たすように、トラス構造部材の断面直径を決定す
る。
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円形断面の直径の決定手順
(1) 荷重条件、材料の基準強さ * 、安全率 f を設定する。
(2) 与えられた荷重条件からトラスを解析し、部材に作用する力の大きさ iS とその向きを求
める。
(3) 部材に作用する力から、基準強さ、安全率を考慮して、次式により断面の直径 iD を決定
する。
*
2i i
fD S
(4) 圧縮力を受ける部材については、座屈荷重を考慮して、次式により断面の直径 2iD を決
定する。
12 4
2 3
42 i i
i
l f SD
E
(5) iD と 2iD を比較して、大きい方を採用する。
例題:
次に示すトラス構造を解析し、部材断面積を決定せよ。ただし、部材は円形断面のアルミニウム
とする。物性値および安全率は以下の通りとする。
材料の基準強さ 2
* 12.7 [kgf/mm ]
材料のヤング率 3 27.2 10 [kgf/mm ]E
安全率 2.0f
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(解答)
(1) クレモナの図式解法により部材力を算出
部材に作用する力の表その1
部材
番号
部材力の大きさ 力の方向
① 300P kgf 引張力
② 2 424P kgf 圧縮力
③ 2 424P kgf 引張力
④ 2 600P kgf 圧縮力
(2) 部材力から、基準強さ、安全率を考慮して断面の直径 iD を決定する。圧縮力を受ける部材につ
いては、座屈荷重を考慮して、断面の直径 2iD を決定する。
部材に作用する力の表その2
部材 部材力
[kgf]
力の方向 部材長
[mm]
[mm]iD
2 [mm]iD
① 300 引張力 2000 7.76
② 424 圧縮力 1414 9.22 26.40
③ 424 引張力 1414 9.22
④ 600 圧縮力 1000 10.97 24.22
(3) 以上より、部材直径は
1 2 3 47.76 [mm] , 26.40 [mm] , 9.22 [mm] , 24.22 [mm]D D D D
と決定される。一般に細長い部材の場合、座屈荷重による応力は、基準強さよりも小さくなる。