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ANNUAL REPORT 2012/2013

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Page 1: 日本のがん研究を支える - natureasia.com · これから期待される技術についてお聞かせください。 高橋:次世代シーケンサーによる解析はここ1、2年でさらに

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日本の医学部にバイオインフォマティクス部門をお二人は早くからドライ系とウェット系が融合する研究方法を採って来られました。世界から見て、日本のゲノムサイエンス、システムバイオロジーといった融合研究はどのような状況でしょうか。北野:日本はトップクラスの研究者がいますが、チームジャパンとしては欧米に追いつけていません。研究者数の層が薄く、なかなか増えない。高橋:私も同じような印象を持っています。とはいえ、文部科学省の新学術領域研究「システムがん」

(領域代表者:東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター 宮野 悟教授)などが始まって、研究者は少しずつ増えている兆しが感じられます。今は閉じたコミュニティーでもこれが核となってオーソドックスながん研究者にアウトリーチして、興味持ってもらうようにしていきたいですね。一方で、ドライ系の研究者でがん研究に興味持ってくれる人が少ない。人間は複雑でさらにがんは複雑です。実験データはノイズだらけで、何を見ているかわからないので見たくないと。北野:バイオインフォマティクスの研究者にはきれいな世界にいるのが好きな人がいます。そのほうが論文も書けますから。

我々は「患者さんを救う」というゴールを強く意識しています。こちらの世界に飛び込む人を増やさないといけませんね。高橋:日本にはバイオインフォマティクスやシステムバイオロジーを学べる部門が大学にはほとんどありません。米国では医学部に当たり前に設置されています。北野:ほんとうにそうですね。高橋:例えば、米国国立がん研究所(NCI)は integrative

cancer biology program を走 ら せ て い て、 全 米 に 12 カ所、center for cancer systems biology を設けて、実験系とシステムバイオロジーに携わる研究者が同じ場所で研究しています。北 野: 日 本 で も ERATO や

CREST、さきがけ、先ほど出てきた新学術領域研究などで疾患とシステムバイオロジーの融合的な研究が始まりました。今、私も全身代謝循環モデルと心臓の組織、細胞、分子相互作用をシミュレーションできるようにする心臓の垂直モデルの研究に加わっています(新学術領域「統合的多階層生体機能学領域の確立とその応用」、領域代表者:大阪大学大学院医学系研究科 倉智嘉久教授)。ウェット系の若手研究者も興味を持ってモデル化などに挑戦をしています。高橋:若いときからの教育や研究の場を通じて、生物学とイ

日本のがん研究を支える

高たかはし

橋 隆たかし

 名古屋大学大学院医学系研究科 分子腫瘍学分野 教授

北き た の

野 宏ひろあき

明 特定非営利活動法人 システム・バイオロジー研究機構 代表

ゲノムサイエンス、システムバイオロジーを育てていくために

肺がんの分子病態をゲノミクス、プロテオミクスなど様々な方法で研究し、肺がんにおける let-7や miR-17-92マイクロRNAの異常、肺腺がん遺伝子 TTF-1とその生存を担う ROR1の存在などを明らかにしてきた名古屋大学大学院医学系研究科の高橋 隆教授、システムバイオロジーを軸に、候補化合物と標的候補のマッチングから、ネットワーク解析、動的モデルを利用した解析などを含め、あらゆる手法を駆使して候補物質の薬効や副作用を予測・検証するシステム創薬を推進する、特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構の北野宏明代表。アプローチは異なるものの、がん研究で成果を上げている二人のトップランナーが日本のがん研究を支えるゲノムサイエンス、システムバイオロジーの現状と課題、望まれる将来像を語る。

我々は「患者さんを救う」というゴールを強く意識しています

北野 宏明

Page 2: 日本のがん研究を支える - natureasia.com · これから期待される技術についてお聞かせください。 高橋:次世代シーケンサーによる解析はここ1、2年でさらに

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ンフォマティクスの両方を理解できる人を創っていくのが大事ですね。

研究資金の投入も欠かせませんね。高橋 : ファンディングが必要なのは間違いありません。北野:米国のように疾病ごとに必ずシステムバイオロジーを加えた研究センターを作る方法もあります。日本では、ファンドを付ける前に「この領域を研究できる人はいますか。欧米ではやっていますか」と聞かれます。これでは、いつまでも海外で行われていることしかできず、周回遅れになります。

欧米での研究資金の付け方はいかがでしょうか?北野:スイスは 2000 年代半ばに生物学にかける科学予算の4 割をシステムバイオロジーに投入すると決めました。“純粋”なこの分野の研究者は若手に 3 人しかいませんでしたが、スイス政府は「ここに未来があると決めたのだから、できる・できないではなく、やるのです」と。私を含めた政府のアドバイザリーボードのメンバーには、第一段階として、最初の 2 年間でほんとうにわかっている研究者を 10 人程度まで増やす方法を考えてほしいと言われました。そこで、国際的に研究者をリクルートし、若手のポストを用意し、大学院のカリキュラムをバイオメディカルとエンジニアリングの両方を学べるようにするべきとの提案を行いました。スイス側は、この提案をほぼそのまま採用し、システムを変えました。すでに 7 年ほどが経ち、ポスドクが育っています。英国でも Biotechnology and Biological Sciences Research Council(BBSRC)のプログラムを基盤として同様の方法を採りました。高橋:医学部にメディカルインフォマティクスのセンターを作るといった戦略性がほしい。次世代シーケンサーなどから膨大なデータが出てきて、バイオインフォマティクスの研究者が足らないのは目に見えています。北野:ファンドさえあれば、日本に教えられる人が少なくても、スイスのように世界中から人を集められます。韓国などでも病院にシステムバイオロジーの研究センターが計画されています。みんなで声をかけて広げていくべきですね。

インフォマティクスとともにプロテオームの新しい技術に期待これから期待される技術についてお聞かせください。高橋:次世代シーケンサーによる解析はここ 1、2 年でさらにコストが下がり、膨大なデータが出てきます。将来的には臨床の場でシーケンスする時代が来るでしょう。今の勢いで進むとデータをどうするか。ゲノムの情報はブループリントで、エピゲノムはブループリントに付けられた注釈です。ヒトの身体はそれをもとに作られたタンパク質の組み合わせです。それがシステムとして統御されているのが健康な状態で、がん

の発生や増殖にとって都合がいいように改変されると、がん細胞が出てきます。注目しているのはプロテオームで、技術的な面ではゲノム解析ほど成熟していませんが、数年で見えないものが見えるようになるはずです。そうすれば、人体やがんをもっとシステムとして捉えられるようになるでしょう。北野:生物学は測定の科学といわれます。測定の技術が進んで、

これからさらにちゃんと研究できるようになっていく。遺伝子の発現プロファイルや制御ネットワークがわかっても、パスウェイを明らかにするにはリン酸化の過程や発現量などプロテ

オミクスの情報が必要です。それには点の情報をつなげるのではなく、面で情報が抑えられるようになる必要があります。例えば、薬の効きはパスウェイで見ることができるのが望ましい。ハイスループットでプロテオミクスが見える技術のイノベーションがほしいですね。しかし、まだまだ測定には限界があり、大量の情報の組織化などにも課題が山積で、ぬかるみに足を突っ込みながら進んでいるような状態です。生物には多様性があるといっても背後に理論があると考えています。もう少し土台がしっかりしてくれば、ゲノム、エピゲノム、プロテオミクスとメタボロームがつながり、測定と解析と理論の三位一体になる。そうなるとすごいものが見えてくるのではないかと、技術の進歩に期待しています。 

高たかはし

橋   隆たかし

1954 年三重県生まれ。79 年名古屋大学医学部卒業。外科医としての 5 年間の臨床研修の後、名古屋大学医学部胸部外科に帰局直後より愛知県がんセンター研究所でがんの基礎研究を開始。88 年医学博士(名古屋大学)。88 年米国国立がん研究所(NCI)博士研究員。p53 遺伝子異常を肺癌において発見。90 ~ 2004 年愛知県がんセンター研究所(分子腫瘍学部・部長)。93 年日本癌学会奨励賞。2004 年名古屋大学大学院医学系研究科教授(神経疾患・腫瘍分子医学研究センター・分子腫瘍学分野)。2012 年同・センター長。

北き た の

野 宏ひろあき

明 1961 年埼玉県生まれ。84 年国際基督教大学教養学部理学科(物理学専攻)卒業後、日本電気(株)に入社。88 年より米カーネギー・メロン大学客員研究員。91 年京都大学博士号(工学)取得。93 年ソニーコンピュータサイエンス研究所入社、2011 年から代表取締役社長。2001 年 4 月、特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構を設立、会長を務める。学校法人沖縄科学技術大学院大学教授。公益財団法人がん研究会 がん研究所 システムバイオロジー部 部長。Sir Louis Matheson Distinguished Professor, Australian Regenerative Medicine Institute/Monash University。

バイオインフォマティクスの研究者が足りないのは目に見えています

高橋 隆

お問い合わせ: 株式会社キアゲン www.qiagen.com Tel: 03-6890-7300