がん医療革命 ~がんゲノム医療の登場~...2016/12/27 · tanabe, tamura et al. mol...
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がん医療革命 ~がんゲノム医療の登場~
国立研究開発法人 国立がん研究センター 理事長
中釜 斉
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我が国のがんの現状
がんは日本人の3人に1人の死亡原因であり、
2人に1人が生涯においてがんと診断される(推計)。
働き盛り年齢、子育て年齢の方の死因第一位。
家族・親族が罹ることも多い「国民病」。
年間約87万人ががんを発病 (推計)し、約37万人の方が
がんで亡くなる。がん患者さんの数は約230万人(推計)。
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私に一番よい 治療法は?
どうしてがんになったの?
がんに関する患者と医療者の最大の疑問
ゲノム・遺伝子 ゲノム医療?
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ゲノムとは?
全ての遺伝子をまとめてゲノムと言う
染色体DNA
AAAA
タンパク質
メッセンジャーRNA
遺伝子=タンパク質になる部分
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GSK-3 APC
β-カテニン
PDK1
標的遺伝子
PTEN
ここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここここここここここここここここここここ
AKT
HER2阻害薬
EGFR阻害薬
β-カテニン
β-カテニン
アクチン (細胞骨格)
α-カテニン
RAS
ここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここ
ここここここここここここここここここ
LRP Wnt Frizzled
Dvl
ユビキチン プロテアソーム 分解系 Axin
TCF/LEF1 c-myc Jun/Fos STATs
Smads
GFR
P120
PI3K
TSC1
TSC2
mTOR
S6K, eIF4E
RAF
MEK1/2
ERK1/2
ERK1/2
SOS
STATs
JAK
IL2R Src
TGFR
KIT
EGFR HER2
BCR-ABL ABL
KIT阻害薬
Grb2
MAGE/HAGE
ABL阻害薬
Bcl2/Bax
ユビキチン プロテアソーム 分解系
G1
S
M
Rb, CDKs, Aurora, Plk TopoI, TERT
G2 ER/AR/PR ABL HDAC RARα, β, γ p53 PARPs PPARα, β, γ , PD-L1
VEGF VEGFR阻害薬
Smads
MHC
Claudin
E-カドヘリン
PD-L1
免疫チェックポイント阻害薬
PD-1
T細胞
血管新生
細胞の中は、複雑なネットワークができている このネットワークのどれかの遺伝子に異常が起きることで、がんが発生・悪性化する
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がんの悪さの源を見つけ出し、 抑え込む
核
がん細胞
がん細胞のアキレス腱をピンポイントで攻撃!!! (タンパク質の阻害薬)
6
がんのゲノム医療 がんのゲノムを調べることで、効果が大きく、副作用の小さい治療法を決める
遺伝子の異常
正常細胞 がん細胞
EGFRタンパク質の阻害薬
EGFRという遺伝子の異常
ABLタンパク質の阻害薬
ABLという遺伝子の異常
免疫チェックポイント阻害薬
免疫の調節の異常
7
2007年、肺がんの治療の標的となるALK融合遺伝子を発見 (間野ら研究グループ)
ALK融合遺伝子を発見、治療薬が誕生
2010年、ALKタンパク質の阻害薬クリゾチニブが承認された
阻害薬
ALK融合 ファイザー株式会社提供
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RET融合遺伝子を発見、治療薬の開発が進んでいる
(Yoh et al, Lancet Resp Med, 2016) 治療前 治療開始後20週
2012年、国立がん研究センターやがん研究会 などで、肺がんの新しい治療の標的を発見
全国協力で行う肺がんのゲノムの検査
阻害薬
RET融合
手術で得られた肺がんのゲノムの研究
SCRUM-Japan
がん
の縮
小率
(%
)
17名中9名 (53%) でがんが縮小。 9
遺伝子の異常の頻度は人種によって違う →日本のがん患者に適したゲノム医療が必要
(Saito et al., Cancer Science, 2016)
EGFR 53.0%
KRAS 9.7%
不明 25.1%
日本 NCC
バイオバンク 319例
R O S 1 0 .9 %N R G 1 0 .3 %B R A F 0 .3 %M E T 2 .8 %
H E R 2 1 .7 %A L K 1 .3 %R E T 0 .9 %R O S 1 1 .7 %M E T 4 .3 %
EGFR 11.3%
BRAF 7.0%
KRAS 32.2%
不明 39.6%
米国 TCGA
プロジェクト 230例
BRAF HER2 ALK RET
ROS1 NRG1 BRAF MET
HER2 ALK RET ROS1 MET
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欧米と比べると日本の卵巣がんは、若い方、中年の方に多い →日本のがん患者に適したゲノム医療が必要
日本
米国
(Black)
米国
(White)
米国アジア・太平
洋島嶼系
0
10
20
30
40
50
60罹
患率
(人口
10万
対)
米国: SEER 18地域(いずれもヒスパニック系を含む)2009-2013年 日本: 地域がん登録全国がん罹患モニタリング集計 2012年
若年の方 AYA (Adolescent
and Young Adult) 世代
とも呼ばれる
中年の方
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がんのゲノム医療は臓器を横断する (希少がん・小児がんもカバーする)
ALKoma = ALK遺伝子の異常を持つがん
肺がん
(Mano, Cancer Discov, 2012)
リンパ腫
炎症性筋線維芽 細胞性腫瘍
腎がん
神経芽腫
甲状腺がん
がんの臓器は違っても、 ALKタンパク質を攻撃する
同じ薬が効く?
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がんのゲノムを検査して治療法を選ぶ研究 (TOP-GEAR研究)
Cタンパク質を攻撃する抗がん剤
A遺伝子の異常
C遺伝子の異常
Aタンパク質を攻撃する抗がん剤
Bタンパク質を攻撃する抗がん剤 B遺伝子の異常 抗がん剤治療を予定 している患者さん
担当医による 検査の説明
次世代シークエンサー によるゲノム検査
検査試料の 採取・選択
専門家チームによる 意義付け
担当医による 結果の説明
Trial of Onco-Panel for Gene-profiling to Estimate both Adverse events and Response by cancer treatment
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希少がんなど、多くのがん患者さんの治療の希望となる
Tanabe, Tamura et al. Mol Cancer, 2016
無増悪生存期間 遺伝子異常と合う抗がん剤の第I相試験参加: 5.5カ月 上記以外 :1.9カ月
遺伝子の異常に対応した抗がん剤の臨床試験に参加すると予後が改善した
(月)
無増
悪生
存(%
)
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国立がん研究センター中央病院 遺伝相談外来受診者数(2016年3月31日現在)
0
10
20
30
40
50
60
70Lynch(疑い含) FAP(疑い含) RB(疑い含) HBOC(疑い含) その他の遺伝性腫瘍 がんと遺伝に関するその他の相談
• 全てのがんのおよそ5%程度。
• 一生の体質。遺伝の問題もある。
• どの遺伝子に変異があるかによって、がんになりやすさ が違う。
→専門的な知識を持つスタッフによるケアが必要
遺伝性(家族性)腫瘍のゲノム医療の必要性
1998
年度
1999
年度
2000
年度
2001
年度
2002
年度
2003
年度
2004
年度
2005
年度
2006
年度
2007
年度
2008
年度
2009
年度
2010
年度
2011
年度
2012
年度
2013
年度
2014
年度
2015
年度
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がんとの闘いに終止符を打つために 亡くなる40%の約半分は 早期発見・早期治療、 均てん化等により治す。
現在、がんになった人の
60%は治る
40%は亡くなる
http://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
残る20%は 難治がん・進行がん。
ゲノムを調べることで、がんの医療は新しい時代へ
●ゲノム医療のネットワーク(患者さんの協力が大事)
●ビッグデータ・人工知能・知識データベース
●ゲノムの情報にもとづく創薬
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