がん化学療法に伴う腫瘍崩壊症候群と急性尿酸性腎 … and uric ucleic...

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大岩 加奈 1, 26山内 高弘 1, 26井上  仁 2, 26岩崎 博道 3, 26上田 幹夫 4, 26浦崎 芳正 5, 26大竹 茂樹 6, 26奥村 廣和 7, 26折笠 秀樹 8, 26神谷 健一 9, 26河合 泰一 10, 26岸  慎治 11, 26黒川 敏郎 12, 26佐藤  勉 13, 26澤崎 愛子 14, 26高松 秀行 15, 26津谷  寛 16, 26寺崎  靖 17, 26中尾 眞二 18, 26中山  俊 19, 26羽場 利博 20, 26細野奈穂子 1, 26正木 康史 21, 26又野 禎也 22, 26村田 了一 4, 26山口 正木 23, 26吉尾 伸之 24, 26細谷 龍男 25上田 孝典 1, 26がん化学療法に伴う腫瘍崩壊症候群と急性尿酸性腎症に関する 後方視的アンケート調査研究 原著 2 受付:2019228日,受理:20194111 )福井大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科 Kana Oiwa, Takahiro Yamauchi, Naoko Hosono, Takanori Ueda 2 )敦賀医療センター 血液内科 Hitoshi Inoue 3 )福井大学医学部附属病院 感染制御部 Hiromichi Iwasaki 4 )恵寿金沢病院 内科 Mikio Ueda, Ryoichi Murata 5 )福井大学 保健管理センター Yoshimasa Urasaki 6 )金沢大学 Shigeki Otake 7 )富山県立中央病院 血液内科 Hirokazu Okumura 8 )富山大学医学部統計情報学 Hideki Origasa 9 )福井赤十字病院 血液内科 Kenichi Kamiya 10)福井県立病院 血液・腫瘍内科 Yasukazu Kawai 11)仁愛大学 人間生活学部 Shinji Kishi 12)富山赤十字病院 血液内科 Toshiro Kurokawa 13)富山大学医学部附属病院 血液内科 Tsutomu Sato 14)福井県済生会病院 血液内科 Aiko Sawazaki 15)黒部市民病院 血液内科 Hideyuki Takamatsu 16)あわら病院 内科 Hiroshi Tsutani 17)富山市民病院 血液内科 Yasushi Terasaki 18)金沢大学附属病院 血液内科 Shinji Nakao 19)福井県済生会病院 腫瘍内科 Takashi Nakayama 20)福井厚生病院 内科 Toshihiro Haba 21)金沢医科大学血液免疫内科学 Yasufumi Masaki 22)市立砺波総合病院 血液内科 Sadaya Matano 23)石川県立中央病院 血液内科 Masaki Yamaguchi 24)金沢医療センター 血液内科 Nobuyuki Yoshio 25)東京慈恵会医科大学 名誉教授 Tatsuo Hosoya 26)北陸造血器腫瘍研究会 Kana Oiwa, Takahiro Yamauchi, Hitoshi Inoue, Hiromichi Iwasaki, Mikio Ueda, Yoshimasa Urasaki, Shigeki Otake, Hirokazu Okumura, Hideki Origasa, Kenichi Kamiya, Yasukazu Kawai, Shinji Kishi, Toshiro Kurokawa, Tsutomu Sato, Aiko Sawazaki, Hideyuki Takamatsu, Hiroshi Tsutani, Yasushi Terasaki, Shinji Nakao, Takashi Nakayama, Toshihiro Haba, Naoko Hosono, Yasufumi Masaki, Sadaya Matano, Ryoichi Murata, Masaki Yamaguchi, Nobuyuki Yoshio, Takanori Ueda キーワード:腫瘍崩壊症候群,急性尿酸性腎症,アンケート調査,診療ガイダンス 連絡先:山内 高弘 〒910 - 1193 福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23 - 3 福井大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科 Gout and Uric & Nucleic Acids Vol.43 No.1201919

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Page 1: がん化学療法に伴う腫瘍崩壊症候群と急性尿酸性腎 … and uric ucleic acid...Gout and Uric & Nucleic Acids Vol.43 No.1(2019) 19 要 旨 がん化学療法では多くの新規薬剤が開発され

大岩 加奈 1, 26) 山内 高弘 1, 26) 井上  仁 2, 26) 岩崎 博道 3, 26) 上田 幹夫 4, 26)

浦崎 芳正 5, 26) 大竹 茂樹 6, 26) 奥村 廣和 7, 26) 折笠 秀樹 8, 26) 神谷 健一 9, 26)

河合 泰一 10, 26) 岸  慎治 11, 26) 黒川 敏郎 12, 26) 佐藤  勉 13, 26) 澤崎 愛子 14, 26)

高松 秀行 15, 26) 津谷  寛 16, 26) 寺崎  靖 17, 26) 中尾 眞二 18, 26) 中山  俊 19, 26)

羽場 利博 20, 26) 細野奈穂子 1, 26) 正木 康史 21, 26) 又野 禎也 22, 26) 村田 了一 4, 26)

山口 正木 23, 26) 吉尾 伸之 24, 26) 細谷 龍男 25) 上田 孝典 1, 26)

がん化学療法に伴う腫瘍崩壊症候群と急性尿酸性腎症に関する後方視的アンケート調査研究

原著 2

受付:2019年2月28日,受理:2019年4月11日1)福井大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科 Kana Oiwa, Takahiro Yamauchi, Naoko Hosono,

Takanori Ueda2)敦賀医療センター 血液内科 Hitoshi Inoue3)福井大学医学部附属病院 感染制御部 Hiromichi Iwasaki4)恵寿金沢病院 内科 Mikio Ueda, Ryoichi Murata5)福井大学 保健管理センター Yoshimasa Urasaki6)金沢大学 Shigeki Otake7)富山県立中央病院 血液内科 Hirokazu Okumura8)富山大学医学部統計情報学 Hideki Origasa9)福井赤十字病院 血液内科 Kenichi Kamiya10)福井県立病院 血液・腫瘍内科 Yasukazu Kawai11)仁愛大学 人間生活学部 Shinji Kishi12)富山赤十字病院 血液内科 Toshiro Kurokawa13)富山大学医学部附属病院 血液内科 Tsutomu Sato14)福井県済生会病院 血液内科 Aiko Sawazaki15)黒部市民病院 血液内科 Hideyuki Takamatsu16)あわら病院 内科 Hiroshi Tsutani17)富山市民病院 血液内科 Yasushi Terasaki18)金沢大学附属病院 血液内科 Shinji Nakao19)福井県済生会病院 腫瘍内科 Takashi Nakayama20)福井厚生病院 内科 Toshihiro Haba21)金沢医科大学血液免疫内科学 Yasufumi Masaki22)市立砺波総合病院 血液内科 Sadaya Matano23)石川県立中央病院 血液内科 Masaki Yamaguchi24)金沢医療センター 血液内科 Nobuyuki Yoshio25)東京慈恵会医科大学 名誉教授 Tatsuo Hosoya26)北陸造血器腫瘍研究会 Kana Oiwa, Takahiro Yamauchi, Hitoshi Inoue, Hiromichi Iwasaki, Mikio Ueda, Yoshimasa Urasaki, Shigeki Otake,  Hirokazu Okumura, Hideki Origasa, Kenichi Kamiya,  Yasukazu Kawai, Shinji Kishi, Toshiro Kurokawa,  Tsutomu Sato, Aiko Sawazaki, Hideyuki Takamatsu, Hiroshi Tsutani, Yasushi Terasaki, Shinji Nakao, Takashi Nakayama, Toshihiro Haba, Naoko Hosono, Yasufumi Masaki, Sadaya Matano, Ryoichi Murata, Masaki Yamaguchi,  Nobuyuki Yoshio, Takanori Uedaキーワード:腫瘍崩壊症候群,急性尿酸性腎症,アンケート調査,診療ガイダンス連絡先:山内 高弘 〒910-1193 福井県吉田郡永平寺町松岡下合月23- 3          福井大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科

Gout and Uric & Nucleic Acids Vol.43 No.1(2019) 19

Page 2: がん化学療法に伴う腫瘍崩壊症候群と急性尿酸性腎 … and uric ucleic acid...Gout and Uric & Nucleic Acids Vol.43 No.1(2019) 19 要 旨 がん化学療法では多くの新規薬剤が開発され

要  旨がん化学療法では多くの新規薬剤が開発され治療成績は向上してきた.しかし抗腫瘍効果が強化されることで腫瘍崩壊症候群(tumor lysis

syndrome, TLS)の発症リスクは上昇し,TLS病態の中心である高尿酸血症,腎機能障害を生じる危険性は増加していると推測される.本邦では2013年にTLS診療ガイダンスが発刊され,さらにTLSにおける高尿酸血症に対していくつかの新規尿酸降下薬が導入されているが,TLS発症リスク,尿酸降下薬の選択,投与量などの点から

日常診療におけるTLSのマネジメントはいまだ

至適化されていない.そこで,北陸造血器腫瘍研究会に参加している富山,石川,福井3県の血液および腫瘍専門医55名を対象にアンケートを行い,がん化学療法におけるTLSマネジメントおよびTLSに伴う急性尿酸性腎症の現状を調査した. アンケートの回答を得た 38名(69%)が担当した患者 612例のうち,13例でTLSを発症した. そのうち急性尿酸性腎症を発症した症例は6例で,うち3例はTLS低リスクに分類される疾患で新規抗がん薬が使用されていた.また67.5%の医師が,TLS低リスク疾患に対しても予防的に尿酸降下療法を行うと回答しており,TLSの発症予測が困難となっていることに起因していると考えられた.新規抗がん薬が使用可能となり,疾患ごとによるリスク分類だけでなく,治療内容を考慮した新たなリスク分類を検討する必要があると考えられた.

緒  言腫瘍崩壊症候群(Tumor lysis syndrome, TLS)と

は,細胞内の代謝産物である核酸,リン,カリウム

などが血中へ大量に放出されることによって引き起こされる代謝異常の総称1)で,核酸が代謝され高尿酸血症を来し急性腎障害に至るため,時に致死的経過をたどる2, 3).腫瘍量が多い,あるいは化学療法に対し感受性が高い場合にTLSを生じやすいため,特に造血器腫瘍の化学療法開始直後に出現しやすく,治療中断や緊急的治療を要する2, 3). そのため悪性腫瘍の化学療法開始時には,安全かつ効果的な治療を遂行するためにTLSを予防することが最も重要である.現行の腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス4)では臨床経験に基づき,疾患亜型,腫瘍量,腎機能を基準に発症リスクが分類され,リスクに応じて血清尿酸値を管理することがTLSの予防として推奨されており(表1),悪性腫瘍に対しがん化学療法を開始する際にはこれを参考にする.しかし,近年がん化学療法では多くの新規薬剤が開発され治療成績が向上した反面,抗腫瘍効果が強化されるほど,実際のTLSの発症リスクは上昇し,TLS病態の中心である高尿酸血症,腎機能障害を生じる危険性は増加している3, 5-10).さらにTLSにおける高尿酸血症に対していくつかの新規尿酸降下薬が導入されていることなど,TLS発症リスクの上昇,尿酸降下薬選択の多様化などの点から日常診療におけるTLSマネジメントはいまだ至適化されていない.そこで我々は,医師へのアンケート調査により現在のがん化学療法におけるTLS発症リスクの割合,TLSマネジメントの実際,および,TLSに伴う急性尿酸性腎症の現状を解明することとした.

表1.がん化学療法に伴う高尿酸血症のマネジメント

*アロプリノールの投与(300 mg /m2 /day(10 mg /kg /day)分3内服)またはフェブキソスタットの投与(1日1回10 mgより開始し増量.最大60 mgまで)腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス(臨床腫瘍学会編.2013)より改変.

20 痛風と尿酸・核酸 第43巻 第 1 号(令和元年)

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対象と方法北陸造血器腫瘍研究会に参加している富山, 石川,福井3県の血液(小児科含む)および腫瘍専門医55名を対象に,2017年10月1日から2018年3月31日の間にアンケート調査(表2)を行った. 各医師が回答時の直近3か月に担当した,悪性腫瘍に対し初回化学療法が施行された症例について,TLS発症リスクの割合,TLSマネジメントの実際,急性尿酸性腎症の有無について後方視的に調査した.急性尿酸性腎症は,高尿酸血症による48時間以内の腎機能低下をいい,血清Cr値が

0.3 mg/dL以上または1.5倍以上に上昇する,あるいは,尿量 0.5 mL/kg/hr以下が6時間以上持続することと定義した11).さらに二次調査を別途依頼し, 急性尿酸性腎症を生じた症例の病名,治療レジ

メン,腎機能,血清尿酸値および尿酸降下療法について調査した.なお本研究は,日本痛風・核酸代謝学会並びに北陸造血器腫瘍研究会により行われた.

結  果アンケートの回答を得た 38名(69%)(表 3)のうち,各医師が担当した化学療法施行症例は中央値12例(0-60例),全612例であった.そのうちTLS発症の低リスク疾患,中間リスク疾患, 高リスク疾患症例の総数はそれぞれ,286例,167例,48例であった(表 4).表 5に示す通り ,

表2.アンケート内容

実際に実施したアンケートの質問事項を列挙した.質問2および3は複数回答可とした.また質問5は,質問1-4の回答を得たあと別途調査した.

表3.回答者の背景

質問1の回答結果を表にした.

表4.回答者の担当症例

質問2の回答結果を表にした.回答時直近3か月の担当症例数とその内訳について聴取した.各質問は独立して任意での回答を求めており,総数と各リスク症例数は必ずしも合致しない.

表5.TLS予防または発症後の治療方針

質問3の回答結果を表にした.*アルカリ補液および透析.

Gout and Uric & Nucleic Acids Vol.43 No.1(2019) 21

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日常臨床で,低リスク症例のTLS予防で用いる薬剤として選択された薬剤延べ40の回答数のうち,TLS予防を行わないとする回答は32.5%(13 /40)であったが,一方で,67.5%(27 /40)で低リスク症例においても尿酸降下薬によるTLS予防を行っていると回答した(アロプリノール(Allo)6名, フェブキソスタット(Feb)20名,トピロキソスタット(Topi)1名).同様に中間リスク疾患のTLS予防で用いる薬剤として選択された薬剤は

延べ41で,使用する尿酸降下薬はAllo 4名(9.8%),Feb 31名(75.6%),Topi 1名(2.4%)で,5名(12.2%)がラスブリカーゼ(Ras)も併用したと回答した.また全医師が担当した患者総数 612例のうち, TLS発症症例数は13例であり,非ホジキンリンパ

腫(NHL)5例,慢性リンパ性白血病(CLL)1例,多発性骨髄腫(MM)1例,急性骨髄性白血病 1例,脂肪肉腫 1例で(未回答 3例),特にCLL,MM

においては新規抗がん薬を含む治療レジメンが使用されていた.またTLS診療ガイドライン4)で

低リスク疾患に分類される脂肪肉腫症例でもTLS

を発症していた.さらに急性尿酸性腎症を経験した医師は 7例で,疾患の内訳はNHL,CLL,MM,脂肪肉腫であった.

急性尿酸性腎症に関する二次調査では 5名の医師から回答を得られた(表 7).5名全員が, 日常臨床で急性尿酸性腎症を発症した場合にはRasとFebを使用すると回答した.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫はNHLの中でも中悪性度に分類され,TLS中間-高リスク群とされる. 回答の得られた2症例はいずれも治療開始前にTLSを発症していたが,RasとFebを使用し血清尿酸値の低下を得られ腎機能も改善した.TLS診療ガイダンス4)において,MM,CLL,脂肪肉腫はいずれも低リスク疾患に分類されるが,MM,

CLL症例では新規抗がん薬 carfilzomibおよびbendamustineを使用した後に急性尿酸性腎症を発症した.特にCLL例では予防的に尿酸降下療法を併用しておらず,急激な血清尿酸値増加と腎機能障害を生じた.また脂肪肉腫は既存の抗がん薬を使用した症例であるが,後腹膜に巨大腫瘤を伴い腎機能が軽度低下しており,治療開始後にTLS

を発症したためRasによる治療を行い改善を得た.

考  察現在のがん化学療法におけるTLSおよびTLS

に伴う急性尿酸性腎症の現状を,北陸造血器腫瘍研究会に所属する医師にアンケートを用いて調査した.アンケート結果から,TLS診療ガイダンス4)で低リスク疾患に分類される疾患においても, 尿酸降下薬によるTLS予防が積極的に行われていた.中間リスク疾患に分類される疾患において,13.9%でRasによるTLS予防が行われていた. 尿酸降下薬は,腎機能低下例でも比較的安全に使用できるFebが多く用いられていた.低-中間

表6.急性尿酸性腎症

質問4の回答結果を表にした.

表7.急性尿酸性腎症に関する二次調査結果

質問5の二次調査で回答を得られたものを表にした.

22 痛風と尿酸・核酸 第43巻 第 1 号(令和元年)

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リスク疾患に分類されるCLLやMM,固形がん症例であっても,腫瘍量や治療内容によってはTLS

および急性尿酸性腎症を発症した.近年,新規抗がん薬が使用可能となり殺細胞効果が増強されるようになったことで,腫瘍細胞の急激な崩壊によりTLS発症リスクは上昇してい

る3, 5-10).CLLやMMは,従来のTLS診療ガイダンス4)では低リスクとされる疾患であるが,今回のアンケートでは新規抗がん薬使用によりTLS

を発症し急性尿酸性腎症まで生じていた.CLLは

一般に腫瘍量が多く,またMMは腎機能障害を生じやすいことから,急激な細胞崩壊を生じることでTLSを発症しやすいことが推測される.同様に固形がんである脂肪肉腫も低リスクに分類される疾患であるが,固形がんであっても腫瘍量が多い,あるいは腎機能障害を伴う場合にはTLSを発症しうることは念頭に置き,注意して診療にあたるべきである.また,「がん化学療法に伴う高尿酸血症」に対し2010年にRasが発売され,中間-高リスク疾患の予防は強化された.しかしRasの至適投与量や日数についてはいまだ十分検討されておらず12),さらに2016年にFebが60 mg /dayまで適用拡大となり,Feb単剤でも中間-高リスク疾患に対するTLS予防が期待される13, 14)など,尿酸降下療法も多様となった.TLS中-高リスク疾患に対してほとんどの医師がFebとRasを用いて予防すると回答したが,その用法・用量は至適化されておらず,各主治医の恣意的な判断に任されている.疾患によるTLS発症リスク分類だけでなく,その治療内容も考慮した新たなリスク分類を検討する必要があると考えられる.

結  語がん化学療法に伴うTLSと急性尿酸性腎症に関し,後方視的アンケート研究を行った.新規抗がん薬の出現や尿酸降下療法の多様化を加味した新たなTLSマネジメントを検討する必要があると考えられた.

著者のCOI(conflicts of interest)開示本論文に関連して,関連すべきCOI関係にある企業などはない.

参考文献1) 山内高弘,大岩加奈,上田孝典:腫瘍崩壊症候群(TLS)と血管内皮細胞障害.高尿酸血症と痛風26(1): 84-8, 2018

2) Ca i ro MS, Co i ff i e r B , Re i t e r A , e t a l :

Recommendations for the evaluation of risk and

prophylaxis of tumour lysis syndrome(TLS)in

adults and children with malignant diseases : an

expert TLS panel consensus. Br J Haematol 149

(4): 578-586, 2010

3) Wilson FP, Berns JS : Tumor lysis syndrome :

new challenges and recent advances. Adv Chronic

Kidney Dis. 21(1): 18-26, 2014

4) 臨床腫瘍学会 編:腫瘍崩壊症候群(TLS)診療ガイダンス , 2013

5) Oiwa K, Morita M, Kishi S, et al : High Risk of

Tumor Lysis Syndrome in Symptomatic Patients

with Multiple Myeloma with Renal Dysfunction

Treated with Bortezomib. Anticancer Res. 32

(12): 6655-6662, 2016

6) Wang L, Jian Y, Yang G, et al : Management of

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myeloma during bortezomib treatment. Clin J

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7) Shely RN, Ratliff PD : Carfilzomib-associated

tumor lysis syndrome. Pharmacotherapy. 34(5):

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8) Ondecker J, Kordic G, Jordan K : Tumour lysis

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for GIST. BMJ Case Rep 11(1): 2018

9) van Kalleveen MW, Walraven M, Hendriks MP :

Pazopanib-related tumor lysis syndrome in

metastatic clear cell renal cell carcinoma : a case

report. Invest New Drugs 36(3): 513-516, 2018

10) Cheson BD, Heitner Enschede S, Cerri E, et al :

Tumor Lysis Syndrome in Chronic Lymphocytic

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Leukemia wi th Nove l Targe ted Agents .

Oncologist 22(11): 1283-1291, 2017

11) Kjellstrand CM, Cambell DC 2nd, von Hartitzsch

B, et al : Hyperuricemic acute renal failure. Arch

Intern Med 133(3): 349-359, 1974

12) 山内高弘 , 大岩加奈 , 森田美穂子ら:ラスブリカーゼ.高尿酸血症と痛風 25(2): 156-

159, 2017

13) Takai M, Yamauchi T, Ookura M, et a l :

Febuxostat for management of tumor lysis

syndrome including its effects on levels of purine

metabolites in patients with hematological

m a l i g n a n c i e s - a s i n g l e i n s t i t u t i o n ' s ,

pharmacokinetic and pilot prospective study.

Anticancer Res 34(12): 7287-7296, 2014

14) Ma ie K , Yokoyama Y, Kur i t a N , e t a l :

Hypouricemic effect and safety of febuxostat

used for prevention of tumor lysis syndrome.

Springerplus, 2014

24 痛風と尿酸・核酸 第43巻 第 1 号(令和元年)

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1) Division of Hematology and Oncology, University of Fukui2) Division of Hematology, National Hospital Organization Tsuruga Medical Center3) Division of Infection Control, University of Fukui Hospital4) Department of Internal Medicine, Keijyu Kanazawa Hospital5) Health Administration Center, University of Fukui6) Kanazawa University7) Toyama Prefectural Central Hospital, Division of Hematology8) Biostatics and Clinical Epidemiology, University of Toyama9) Department of Hematology, Japan Red Cross Fukui Hospital10) Hematology and Oncology, Fukui Prefectural Hospital11) Faculty of Human Life Studies, Jin-ai University12) Division of Hematology, Toyama Red Cross Hospital13) Department of Hematology, University of Toyama14) Division of Hematology, Fukui-ken Saiseikai Hospital15) Division of Hematology, Kurobe City Hospital16) Department of Internal Medicine, National Hospital Organization Awara Hospital17) Division of Hematology, Toyama City Hospital18) Department of Hematology, Kanazawa University19) Division of Oncology, Fukui-ken Saiseikai Hospital20) Department of Internal Medicine, Fukui Kosei Hospital21) Department of Hematology and Immunology, Kanazawa Medical University22) Division of Hematology, Tonami General Hospital23) Division of Hematology, Ishikawa Prefectural Central Hospital24) Division of Hematology, National Hospital Organization Kanazawa Medical Center25) Honorary professor, The Jikei University School of Medicine26) Hokuriku Hematology Oncology Study Group

Key words : tumor lysis syndrome, acute uric acid nephropathy, questionnaire study, clinical guidance

Kana Oiwa1, 26) Takahiro Yamauchi1, 26) Hitoshi Inoue2, 26)

Hiromichi Iwasaki3, 26) Mikio Ueda4, 26) Yoshimasa Urasaki5, 26)

Shigeki Otake6, 26) Hirokazu Okumura7, 26) Hideki Origasa8, 26)

Kenichi Kamiya9, 26) Yasukazu Kawai10, 26) Shinji Kishi11, 26)

Toshiro Kurokawa12, 26) Tsutomu Sato13, 26) Aiko Sawazaki14, 26)

Hideyuki Takamatsu15, 26) Hiroshi Tsutani16, 26) Yasushi Terasaki17, 26)

Shinji Nakao18, 26) Takashi Nakayama19, 26) Toshihiro Haba20, 26)

Naoko Hosono1, 26) Yasufumi Masaki21, 26) Sadaya Matano22, 26)

Ryoichi Murata4, 26) Masaki Yamaguchi23, 26) Nobuyuki Yoshio24, 26)

Tatsuo Hosoya25) Takanori Ueda1,26)

Retrospective Survey of Tumor Lysis Syndrome and Acute Uric Acid Nephropathy Associated with Cancer Chemotherapy.

Gout and Uric & Nucleic Acids Vol.43 No.1(2019) 25

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AbstractTumor lysis syndrome (TLS) is a life-threatening

oncological emergency caused by the rapid release of intracellular materials from lysing malignant cells. The outcomes of novel cancer chemotherapies have recently improved. However, their potent anticancer effects have increased the risk of developing TLS with hyperuricemia and /or renal dysfunction. Several new antihyperuricemic agents have also been developed. The present TLS guidance was published in Japan in 2013, but this may not provide optimal management strategies for TLS. We aimed to determine the present status of TLS and acute uric acid nephropathy (UAN) management in daily clinical practice by conducting a questionnaire survey involving 55 doctors in the

Hokuriku Hematology Oncology Study Group. Thirty- eight (69%) respondents described their experiences with 612 patients, among whom 286, 167, and 48 were at low, intermediate, and high risk of TLS, respectively. The responses showed that 13 of the 612 patients who were treated with new anticancer drugs developed TLS and three developed acute UAN despite being at low risk of TLS. The responses also showed that 67.5% of doctors tried to prevent TLS using antihyperuricemics agents even for patients at low risk of TLS. Thus, the present findings revealed that the Japanese TLS guidance for managing TLS does not appropriately classify the real-world risk 2019. Thus, the TLS guidance regarding treatment strategies should be revised as soon as possible.

26 痛風と尿酸・核酸 第43巻 第 1 号(令和元年)