日本の医療情報システムの現状と番号制度...2004年度から診療...

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Copyright 2014 FUJITSU RESEARCH INSTITUTE 日本の医療情報システムの現状と番号制度 Medical IT system in Japan today and National Identification Number System 2014年1月20日 富士通総研 経済研究所 主任研究員 中野直樹

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Page 1: 日本の医療情報システムの現状と番号制度...2004年度から診療 報酬請求業務のオン 2011 ライン化開始、 レセプト完全オンライン化 2010年度までに医療

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日本の医療情報システムの現状と番号制度 Medical IT system in Japan today and National Identification Number System

2014年1月20日 富士通総研 経済研究所 主任研究員 中野直樹

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もくじ

日本の医療情報システムの歩み

現状の課題と今後の方向性

医療分野における番号制度導入の意義

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日本における医療情報化の変遷

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1996~2005 第三世代

電子カルテ導入期

院内全体の情報共有 対象:医師・看護師・各部門

地域全体の情報共有

2006~ 第四世代

地域医療連携ネットワーク展開期

対象:医療機関・健診施設 介護施設・在宅等

第一世代 部門システム導入期

部門業務の効率化 対象:各部門

1975~1985 第二世代

オーダリング導入期

院内業務の効率化 対象:医師・看護師・各部門

1986~1995

ビッグデータ解析、CDSS、 研究・創薬・育薬への活用、

個別化医療、先制医療、再生医療…etc.

2012~

次世代医療ICT基盤へ

この頃から国も医療情報化を 重点施策として推進

日本における医療情報化は1970年代の部門システム、オーダリングシステム(CPOE*)、 そして電子カルテ(EMR*)の導入期を経て、病院ごとの医療情報システム(HIS*)が整備され、 現在は地域医療連携(HIE*)の展開期、健常期や介護との連携へと展開されている 同時に、個別化医療、先制医療、再生医療等、新たな臨床手法への展開期を迎え変革の時期にある

(*) CPOE:Computerized Physician Order Entry EMR:Electronic Medical Record HIS :Hospital Information System HIE :Health Information Exchange

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補足:主な『次世代医療』

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個別化医療(Personalized Medicine) バイオテクノロジーに基づいた患者の個別診断と、治療に影響を及ぼす環境 要因を考慮に入れ、多くの医療資源の中から個々人に対応した治療法を抽出し 提供すること

個別化医療の基幹となる要素は、薬理ゲノム学やバイオマーカーのみならず、 ライフスタイルや生活歴、人生観、現在の身体的問題など、患者固有の情報を 浮き彫りにした個々人の医学的ポートレイト

先制医療(Preemptive Medicine) 病気が発症することをあらかじめ高い精度で予測(Predictive diagnosis)し、 あるいは正確な発症前診断(Precise medicine)を行うことで、病態・病因の 発生や進行のメカニズムに合わせて治療を講じ、発症を防止するか遅らせること

再生医療(Regenerative Medicine)

病気やけがで機能不全になった組織、臓器を再生させる医療であり、 創薬のための再生医療技術の応用にも期待されている

出典:国際個別化医療学会サイト http://www.is-pm.org/

出典:鶴見大学先制医療研究センター http://ccs.tsurumi-u.ac.jp/irep/preemptivemedicine/basicinformation.html

出典:文部科学省「再生医療等安全確保法案について」 http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1183_09.pdf

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国による医療情報化の促進

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電子カルテの普及

電子カルテを活用した情報連携

レセプト オンライン化

レセプト情報等の利活用

e-Japan戦略 (2001年1月)

e-Japan戦略Ⅱ (2003年7月)

IT新改革戦略 (2006年1月)

i-Japan戦略2015 (2009年7月)

新たな情報通信技術戦略 (2010年5月)

2005年度までにオーダリングシステムの病院での導入率を2割程度まで引き上げる

2004年度から診療 報酬請求業務のオン ライン化開始、 2010年度までに医療機関が100%対応可能とする

オーダリングシステム、 電子カルテ等を200床以上の医療機関の ほとんどに導入する

2008年の電子化率(200床以上の病院) オーダリング:54% 電子カルテ:24%

病院内、地域内の医療情報システムの構築と 相互接続の推進

地域医療連携の実現

2011年度当初までに レセプト完全オンライン化

2010年度までに個人の健康情報を生涯を通じ活用できる基盤作り

2010年5月のレセプト オンライン化率 病院(医科):97% 調剤:98%

2010年5月のレセプト オンライン化率 病院(医科):97% 調剤:98%

出典:内閣官房 IT担当室 新たなIT戦略における医療分野の取り組みについて

シームレスな地域連携医療の実現

レセプト情報等のデータ ベースによる医療の効率化

自己の医療・健康情報の活用サービス (どこでもMY病院)

レセプトオンライン義務化の緩和

2001 2003 2006 2009 2010

地域の絆の再生

国による医療情報化の促進は2000年代初頭から重点施策として位置づけられ、 電子カルテ(EMR)、地域医療連携(HIE)を中核とするEHR(Electronic Health Record)、そしてこれを個人が利活用するPHR(Personal Health Record)への 展開を目指している

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医療IT化の普及率と医療費適正化効果の将来推計

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出典:総務省「医療分野のICT化の社会経済効果に関する調査研究~報告書~」

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日本におけるオーダリング、電子カルテ普及率の推移

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地域医療連携の更なる普及による地域完結型医療の促進の上でも特に小規模病院、診療所の 電子化が重要視されている状況 主な普及弊害要因: ①フリーアクセス制を背景とする、診療所起点での治療プロセスの浸透率が低いこと ②小規模であればあるほど情報伝達におけるICT利用のコスト対効果が低いこと ③システム導入に係る体制整備等、ITリテラシ向上への投資が難しいこと

出典:厚生労働省「第3回社会保障分野サブワーキンググループ及び医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会の合同開催 議事次第及び資料」

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地域医療ネットワークのしくみ

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日本では、iDCで患者ID紐付DBをベンダ毎に構築し、施設に分散したデータを 概念的に統合・利活用する分散型ネットワークを採用

地域のネットワーク同士の相互連携、ベンダ横断での連携はiDC連携により実装

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地域医療ネットワークにおける用途別拡充例

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疾患別管理項目の例:「どこでもMy病院」疾患データセット

糖尿病 高血圧 脂質異常 慢性腎疾患(CKD)

共通項目

疾病別定義

範囲拡大に向け検討中

医療情報化に関するタスクフォース「どこでもMY病院」糖尿病記録に関する作業部会による 糖尿病を対象とする定義を元に、関連学会(日本高血圧学会、日本動脈硬化学会、日本腎臓学会)

との連携の下、高血圧、脂質異常、慢性腎疾患(CKD)へと対象が拡張されつつある

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医療IT化状況のまとめ(フィンランドとの比較)

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日本 フィンランド

基本情報 (ご参考)

面積 37万7千km2 33万8千km2

人口 12,782万人(2011年) 537万人(2010年)

人口密度 339人/km2 16人/km2

一人あたりGDP 33,805USD/2010年 36,217USD/2008年

医療アクセス フリーアクセス制 GP制

医療施設数 203,910(2005年) 570(2007年)

急性期医療平均在院日数(概数) 18日(2008年) 6日(2008年)

人口千人あたり病床数 13.8床 6.5床

人口千人あたり臨床医数 2.15人 2.72人

電子カルテ EMR普及率 14.3%(2011年) 100%(2007年)

地域医療連携

EHR実装方式 分散型 集中型

EHR普及率 0.9%(2012年) 100%(2012年)

電子処方せん普及(医療施設) 2015~2016年頃を 目処に整備予定

100%(2012年)

電子処方せん普及(調剤薬局) 100%(2012年)

出展:内閣官房「社会保障改革に関する集中検討会議(第七回)(資料1-2)医療・介護を取り巻く現状」等より筆者作成

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普及促進の上での課題

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促進施策(規制とインセンティブ)

事業継続性とこれに資する応用利活用サービス

導入・運営における責任母体 (自治体?医師会?医療機関?)

個人情報保護法と同意形成

シームレスな運用基盤としての番号制度

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現状の課題(ID関連)

患者紹介を起点とした患者ID紐付では、一生涯におけるフェーズを横断した一貫性のある治療歴を構築できない(詳細は次頁)

患者の正確な紐付にも限界がある

住所・氏名・性別等を用いても不完全

ユニークなKeyがあれば助かるが保険番号も変わる…

地域医療連携ネットワーク事業者毎に紐付DBも分散

更に広範な連携を行う上での個人情報保護法のバリエーション

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医療機関内での課題(主に臨床シーン)

だが地域医療連携においても…

地域医療連携 による解決に期待

放射線治療等における生涯被曝量が把握できない

特に抗癌剤における生涯投与量が把握できない

医療機関毎のID管理により患者のID持参忘れやカード紛失、救急医療に おける確認不能ケース等、一患者複数ID保持のケースも存在 IDの関連付けや統合を行う機能がシステム毎に

装備されているが情報登録の限界も…

How many cards will you have

in your whole life?

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一生涯をスコープとした場合の情報の不連続性

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健康トラブル

診療所A 病院B リハビリテーション施設などC

健康レベルを示すグラフは 厚生労働省 「平成18年度国民医療費の概況について」第5表 年齢階級,一般診療-歯科診療別国民医療費,構成割合及び一人当たり国民医療費 <http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/06/toukei5.html>より年齢階級別国民医療費グラフを作成し,上下反転させ作成

また別の健康トラブル

診療所Ⅰ 病院Ⅱ リハビリテーション施設などⅢ

疾病期 快復期

健常期 健常期

健常期の疾病予兆や予防に係る 情報はHISには登録されない

要介護期

介護情報もHISには登録されない

疾病期 快復期

スコープを病期から 健常期や要介護期へと拡大していく上で

地域医療連携は重要

だが、一生涯をスコープとするためには 紹介起点では限界がある

小児~成人の間等、情報連携が 不連続となるケースも多く存在

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ID紐付の一貫性保持のための事例

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出典:第33回医療情報学連合大会パネルディスカッション2「患者プロファイル情報基盤を考える」 地域医療連携「おしどりネット」から見た患者プロファイル—標準化の枠組みとコンテンツ— 鳥取大学医学部附属病院医療情報部 近藤博史先生 ご発表資料

個人をユニークに識別する有効な番号体系が実質存在しないため 運転免許証番号や携帯電話番号で補完するケースも

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今後の方向性

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これまで蓄積されてきたレセプトデータや臨床情報を対象とする、クラウド技術やビッグデータ解析 技術の応用による更なる利活用への需要の高まり

日本再興戦略/健康・医療戦略(2013/06/14)の下、各種法整備や臨床研究等、次世代医療の実現に向け行政や研究機関、臨床の現場が積極的に推進

しかしこれら取り組みが番号制度による統一的な ID体系無くして進められつつある

EMR/EHRの普及促進が喫緊の課題である状況下において

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今後の方向性:国家予算

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出典:首相官邸/健康・医療戦略推進本部「平成26年度医療分野の研究開発関連予算のポイント」 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/siryou/pdf/h26_yosanpoint.pdf

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今後の方向性:国家予算

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出典:首相官邸/健康・医療戦略推進本部「平成26年度医療分野の研究開発関連予算のポイント」 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/siryou/pdf/h26_yosanpoint.pdf

ますます重要となる番号制度 医薬品・医療機器の開発・実用化における臨床研究・治験等プロセスでの

症例トレーサビリティの確保 がん登録等症例情報集積の際の体系的付番による経年調査への対応 再生医療やゲノム情報取り扱いにおける、対象患者の中長期的フォロー 医療者、患者、製薬企業等関連業種における証跡情報管理による適切な

制度活用状況の把握 上記による革新的研究開発成果の臨床現場における患者ひとりひとりへの

適切な医療提供(地域医療ネットワーク等との連携)

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結語

医療情報化における中核機能としての電子カルテ普及促進は今後の地域医療連携や更なる応用においてCSF(Critical Success Factor)となる

この電子カルテに登録された情報を活用し地域包括医療を 実現する上でも、現状の地域医療ネットワークのみでは 生涯情報管理等限界があり、番号制度とこのIT基盤として の実装による拡充が必要である

更に、番号制度の導入は、ビッグデータ解析技術等による 既に蓄積された情報の利活用のみならず、 次世代医療、そして国民の健康寿命が延伸する社会を 実現していく上でも重要な位置づけとなる

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