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「在宅生活ハンドブック No.31」 移乗動作・移乗介助の方法 別府重度障害者センター (医務課 2015)

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「在宅生活ハンドブック No.31」

移乗動作・移乗介助の方法

別府重度障害者センター

(医務課 2015)

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もくじ

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

Ⅰ 自身で行う車椅子とベッド間の移乗動作・・・・・・・ 1

1 前方アプローチ(直角移乗)・・・・・・・・・・・ 1

2 側方アプローチ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

3 立位アプローチ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

Ⅱ 自身で行う車椅子と自動車間の移乗動作・・・・・・・ 9

1 自動車の周辺環境設定・・・・・・・・・・・・・・ 9

2 車椅子から自動車への移乗動作・・・・・・・・・・ 10

3 自動車から車椅子への移乗動作・・・・・・・・・・ 11

Ⅲ 自身で行う車椅子と床間の移乗動作・・・・・・・・・ 12

1 車椅子から床への移乗動作・・・・・・・・・・・・ 12

2 床から車椅子への移乗動作・・・・・・・・・・・・ 13

Ⅳ 移乗介助のためのリフトと吊り具(スリングシート)の種類

1 リフトの種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

2 吊り具(スリングシート)の種類・・・・・・・・・ 16

3 吊り具(スリングシート)の装着方法・・・・・・・ 17

Ⅴ リフトを使用した移乗介助の方法

1 車椅子・ベッド間の移乗介助の方法・・・・・・・・ 20

Ⅵ 介助で行う移乗介助の方法

1 側方移乗と直角移乗・・・・・・・・・・・・・・・ 26

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はじめに

車椅子を使用する障害者にとって、移乗動作(ベッドから車椅子、車椅子か

ら椅子などへ移る動作のこと)は生活上必要不可欠なものです。

自身で移乗動作を行う場合、動作のポイントや環境設定を正しく理解しておく

ことで動作の安定性や再現性が増し、生活場面での動作継続及び定着につなが

ります。移乗に介助が必要な場合、その方法(介助のされ方)や注意点を正し

く理解して介助者に分かりやすく伝えられるようになることで、安全に手際よ

く介助してもらうことができます。

この冊子では、移乗を自身で行う方法と介助で行う(リフトを使う場合と使

わない場合)方法を説明します。

Ⅰ 自身で行う車椅子とベッド間の移乗動作

頸髄損傷者が自身で車椅子とベッド間の移乗動作を行う方法は、主に前

方アプローチ、側方アプローチ、立位アプローチの3種類あります。残存

機能(障害の程度)などによってどのアプローチが有効かは異なります。

障害レベルは同じでも、年齢や性別、関節可動域(関節を動かすことので

きる範囲)制限の有無、筋力、体格、筋緊張の強弱、バランス、動作習得

能力などの個人差があるため、個々の状態に合わせてアプローチ方法を選

択します。

1 前方アプローチ(直角移乗)

前方アプローチは、主に①足挙げ動作②前方への臀部移動③右(左)

への臀部移動④前屈位(体を前に倒した状態)からの起き上がり動作、

の4つの動作で構成されます。以下に、それぞれの動作のポイントと各

動作を補助するための自助具や環境設定について紹介します。

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グ リ ッ プ に 肘 を 引 っ

掛 け て 固 定

(1)足挙げ動作

①車椅子上で臀部を前方へずらす

足挙げを行いやすくするため、まず車椅子上で臀部を前方にずら

します。臀部を前方へずらすことによって、股関節の屈曲角度(曲

げる角度)を大きくとることができ、重心が後ろに移るため、足を

挙げた時に体幹が前方へ倒れにくくなります。臀部を前方へずらす

方法としては、㋐臀部の片側ずつを交互にずらす方法と㋑臀部の両

側を同時にずらす方法があります。㋐臀部の片側ずつを交互にずら

す方法は、片方の上肢(肘)を車椅子のグリップに引っ掛けて固定

し、もう片側の上肢でアームレストを押す等して臀部を前方へずら

します。㋑臀部の両側を同時にずらす方法は、両方の手首から前腕

部(腕の肘から手首までの部分)を車椅子のアームレストに引っ掛

けて手関節部で固定して、体幹を伸展(伸ばすこと)させて臀部を

前方へずらします。

②足をベッド(又は、トランスファーボード)に挙げる動作と靴の

脱ぎ履き動作

足挙げ動作では膝の下に同側の手(右足なら右手)を入れて、そ

の腕を曲げる力を利用して足を持ち上げるのが基本ですが、手で足

を持ち上げることが困難な場合は「足挙げ紐(次頁写真 )」 を使用

します。足挙げ紐は足の長さや、持ち上げる時の力の方向によって

形状が異なります。また、足挙げ紐の操作は手順も複雑で、操作方

法獲得のための訓練が必要です。そのため足挙げ紐作製の際には理

学療法士や作業療法士等の専門家に相談することをお勧めします。

履物は、足を挙げた後、反対側の下肢に足を組むようにして脱ぎ

履きします。

㋐ 臀 部 を 片 側 ず つ ず ら す 方 法 ㋑ 臀 部 両 側 を 同 時 に ず ら す 方 法

体 幹 の 伸 展

手 関 節 を ア ー ム レ ス

ト に 引 っ 掛 け て 固 定

体 幹 の 伸 展 ・ 回 旋

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反 対 側 の 上 肢 は 車 椅 子 の グ

リ ッ プ に か け て 、 足 の 重 み

で 体 が 前 方 へ 倒 れ る の を 防

ぎ 、 足 を 挙 げ る 上 肢 の 力 を

サ ポ ー ト す る

外 側 か ら 膝 下 に 、 手 首 か

ら 前 腕 部 を し っ か り と 入

れ 込 む

力 が 弱 く 、 足 の 持 ち 上 げ が 困

難 な 場 合 に 使 用 し ま す 。 紐 の

操 作 や 動 作 手 順 が 複 雑 に な る

の で 、 そ れ ら を 含 め て の 練 習

が 必 要 と な り ま す

車 椅 子 グ ロ ー ブ の ゴ ム 部 分 や

手 首 の 背 屈 を 使 っ て 靴 の 踵 部

か ら 靴 を 脱 ぐ

内 側 か ら 前 腕 部 を 入 れ て

組 ん だ 足 を 支 え て お く

足 挙 げ 紐

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(2)前方への臀部移動

①ベッド上の環境設定

プッシュアップ(掌を床面等について床面等から腰を挙げる / 浮か

せる動作のこと)が不十分な場合や、車椅子とベッドの隙間に臀部が

落ちるリスクが高い場合は、トランスファーボードを使用します。前

屈姿勢をとる時や臀部移動のためのプッシュアップの時に、上肢の力

が弱く身体の横の板に手をつく必要のある方は「コの字型」のトラン

スファーボードを使用します。上肢の力が強く、車椅子をプッシュし

て臀部移動ができる方は「T字型」や「切れ込み型」のトランスファ

ーボードを使用します。

また、すべり布(ナイロン製の布)を使用して衣服とベッドマット

レス間の摩擦を軽減することで、ベッド上の臀部の移動をし易くしま

す。関節が硬く、前屈位や臀部移動動作時に下肢が開いてしまう場合

は、膝部にベルトを巻いて下肢の広がりを抑えることで、プッシュア

ップの力を逃がすことなく活用できるようになります。

代表的なベッド上の環境設定を写真1にまとめました。個人の残存

機能や動作能力によって必要な環境は異なります。環境設定に必要な

道具の作製方法は「在宅生活ハンドブック No.3 終了後の自助具の作

製」を参考にして下さい。

写 真 1 代 表 的 な 前 方 移 乗 環 境

写 真 2 膝 ベ ル ト 着 用 図

T 字 型

切 れ 込 み 型

ト ラ ン ス フ ァ ー ボ ー ド に

足 を 挙 げ た 状 態 に し て か

ら 膝 ベ ル ト を 装 着 す る

す べ り 布

ト ラ ン ス フ ァ ー ボ ー ド

足 底 板

ベ ッ ド 柵

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プ ッ シ ュ 力 の 方 向

体 を 起 こ す 力

②動作のポイント(車椅子からベッドへの移乗)

体を前屈し、両方の肩関節を伸展、肘関節を伸展位にロック(肘を

伸ばしきって曲がらない状態にすること)します。肩甲骨を下げる運

動でプッシュアップを行い、プッシュアップ力を後方に向けて力を加

えることで臀部を前方に移動させます。手を肘関節のロックがかかり

力の入りやすい位置に移動させながら、前方に移動します。

(3)右(左)への臀部移動

(4)前屈位からの起き上り動作

肩 甲 骨 を 下 に

下 げ る

肘 を ロ ッ ク

す る

肘関節をロックして鉛直方向(水平面に対

して垂直の方向)にプッシングを行い、肩

甲骨を押し出す力で前屈位から体を起こし

起き上がります。体を起こす力が不十分な

場合は、体幹支持枕を使用して確実に体が

起こせる前屈角度を設定します。 体 幹 支 持 枕

臀部の位置がトランスファーボードの中

盤(中ほど)にさしかかったら臀部の右

(左)移動を行います。右方向へ移動す

る場合は、両肘関節をロックし、移動す

る方向の上肢(右)に重心を移しながら

反対の上肢(左)でプッシングする(押

す)ことで臀部を移動させます。

肩 甲 骨 を 下 に 下 げ る

肘 を ロ ッ ク す る

推 進 力

プ ッ シ ュ 力 の 方 向

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車 椅 子 の 側 板 や ア ー ム レ ス ト が

移 乗 時 に 邪 魔 に な ら な い 位 置 ま

で 前 方 に 移 動 す る

2 側方アプローチ(側方移乗)

側方アプローチは、前方アプローチと比較すると難易度の高い動作です。

しかし、身障用トイレやトランスファーボードのないベッド、自動車等、

移乗対象の範囲が広がるため、獲得すると大変便利な動作です。

C7レベル以下の頸髄損傷者の多くは、肘の伸展筋力が十分有効なので安

全かつ実用的な移乗動作として側方アプローチを獲得して生活場面での活

用が可能となります。

側方アプローチは①車椅子のセッティング②車椅子上での臀部の前方移

動③車椅子からベッドへの乗り移り④ベッドへの足挙げ、の4つの動作で

構成されます。ここではそれぞれの動作のポイントと各動作を補助するた

めの自助具や必要な環境設定を紹介します。

① 車椅子のセッティング

ベッドに対して約30°斜めに車椅子をセッティングします。この

とき、車椅子のキャスター(前輪)を進行方向と逆向きにすることで、

プッシュアップ時に車椅子が動いてしまい、車椅子から転落すること

を防止します。ベッドの高さは車椅子と同じ高さに設定します。

② 車椅子上での臀部の前方移動

足を床に下ろし、車椅子の前方に臀部を

移動させます。次に、ベッドと反対側の上

肢は車椅子のフロントパイプにしっかりと

手を接地します。移乗側の手をベッドに、

足は踵を移乗する方向に向けておきます。

ベッド側の手を臀部を乗せるための幅を空

けて接地します。

3 0 °

キ ャ ス タ ー を 進 行 方

向 と 逆 向 き に す る

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プ ッ シ ュ 力 の 方 向

③車椅子からベッドへの乗り移り

体幹を前屈させて両上肢の肘の曲がりが強くならないように、体幹を

前屈させすぎないようにしてプッシュアップを行います。しっかりと鉛

直方向にプッシュアップをすることで臀部を後方へ持ち上げ、ベッドへ

移乗します。一度のプッシュアップでベッドまでの距離の移動ができな

い場合は、2段階に分けて移る方法が安全です。プッシュアップの高さ

が不十分な場合は、トランスファーボード等の使用を検討しましょう。

ベッドに臀部を移した後、ベッド上での姿勢の安定を図り、仰臥位

(仰向けに横たわった状態)になった時の臀部の位置を想定しながらプ

ッシュアップを行い、臀部位置を調整します。

④ベッドへの足挙げ

ベッド側の足から先にベッド上へ挙げ

ます。このとき、ベッド側の上肢を体か

らやや離したところに接地しておくこと

で、足を挙げたときのバランスをとりや

すくします。

足部がベッド端から出ているタイミン

グで靴の脱ぎ履きを行います。反対側の

足も同様にして挙げ、その後ベッド上で

の姿勢調整を行い、仰臥位となります。

肘 を 曲 げ ず に 鉛 直 方 向

へ プ ッ シ ン グ す る

バ ラ ン ス が と り や す い よ う

に 体 か ら 離 し て 接 地 す る

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ⅱ上肢をしっかりと固定しながら体

幹を引き寄せ、おじぎをするよう

に体幹を前傾させて臀部を浮かせ

ます。

3 立位アプローチ

立位アプローチは下肢の運動機能が残存していて、半立位や立位が可

能な方が行う動作です。必要に応じて移乗バー等を使用します。立位バ

ーは上肢の固定と立ち上がり動作が行いやすい高さや幅、バーの形状等

について、個々の状態や動作状況に合わせて選ぶようにしましょう。

ⅰ車椅子を斜めにつけ足を床へ下

ろします。踵をベッドの方向に

向けて足をセッティングしま

す。両上肢を移乗バーに固定し

ます。

ⅲ立位もしくは半立位となったとこ

ろで臀部をベッドのほうに回旋さ

せて移動します。上肢がバーから

急に離れてしまうと後方へ転倒す

る恐れがあるため注意します。

立 ち 上 が り の 行 い や す

い 高 さ に 固 定 す る

手 を 急 に 離 さ な い

ベ ッ ド 側 へ 重 心 を 移 動 さ せ

臀 部 を 旋 回 さ せ る

膝 折 れ に 注 意

体 幹 を 引 き 付 け 、

立 ち 上 が り を 補 助

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頭 部 支 持 用 ク ッ シ ョ ン

ト ラ ン ス フ ァ ー ボ ー ド

頭 部 支 持 用 ク ッ シ ョ ン

Ⅱ 自身で行う車椅子と自動車間の移乗動作

車椅子と自動車間の移乗の基本は、車椅子とベッド間の側方アプローチ

と同様ですが、移乗の方法は、個人の残存機能や動作能力によって大きく

異なります。ここではC6レベルの頸髄損傷者の場合を例に説明します。

1 自動車の周辺環境設定

移乗時の手をつき直す際に前に倒れこんでしまう場合やバランスの補

助に頭部支持が必要な場合は、運転席のドアにクッション等を挟みます。

クッションの厚さや大きさは、自動車の座席等の形状や動作の方法によ

って作製するとよいでしょう。また、臀部を運転席シートまで一気に移

せない場合は、車椅子と自動車の隙間にトランスファーボードやクッシ

ョンを敷くことで隙間を埋めます。身体障害者用バリアフリーシート等

の隙間を埋めるための補助シートが装備されたものもあります。移乗の

際に運転席の前後スライドや高さ昇降が必要な場合は、電動のパワーシ

ートを備えた自動車が適しています。

なお、移乗のための改造が必要な場合は「在宅生活ハンドブック

No.23 自動車免許証の取得・更新と自家用車の購入・改造」を参考にし

て下さい。

バ リ ア フ リ ー シ ー ト

ト ラ ン ス フ ァ ー ボ ー ド

移 乗 時 の 環 境 ( C 6 レ ベ ル )

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頭 部 支 持 用 ク ッ シ ョ ン の

大 き さ は こ の 時 頭 が 支 持

で き る 高 さ に す る

2 車椅子から自動車への移乗動作

車椅子から自動車への移乗方法は①車椅子上での臀部の前方移動②自

動車への臀部移動③足を自動車内へ入れる、の3つの動作で構成されま

す。

① 車椅子上での臀部の前方移動

運転席のドアを最大に開き、車椅子のフロントパイプが自動車に

接触するくらいまで車椅子を近づけます。次に、両下肢をフットプ

レートから下ろし、移乗時に車椅子の側板やアームレストにあたら

ない位置にまで、臀部を車椅子上の前方へ移動させます。

② 自動車への臀部移動

右手を車椅子のフロントパイプ、左手を運転席のシートに置いて

プッシュアップで臀部を車内へ移乗させます。車椅子と自動車間の

隙間を一度で越えられない場合は、右手の位置をずらしながら数回

に分けてプッシュアップをくり返し、除々に座席(運転席)へ移乗

します。

③ 足を自動車内へ入れる

臀部が運転席のシートに1 / 2程度乗

ったら、頭部を支持用クッションやハン

ドルにつけて安定させ、右手で左足を車

内に入れます。さらにプッシュアップで

車 椅 子 の 側 板 や ア ー ム レ ス

ト に あ た ら な い 位 置 ま で 臀

部 を 前 方 へ 移 動 さ せ る 。 移

乗 側 に 少 し 臀 部 を ず ら し な

が ら 移 動 さ せ る と 移 乗 し や

す い

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一 度 で 自 動 車 と 車 椅 子 の 隙 間 が

困 難 な 場 合 は 手 の 位 置 を 変 え な

が ら 数 回 に 分 け て プ ッ シ ュ ア ッ

プ で 移 乗 し て い く

臀 部 の 位 置 を 整 え て 、 足 を 車 椅

子 の フ ッ ト プ レ ー ト に 乗 せ る

臀部を車内に移動させ、2 / 3程度乗ったら右手で右足を入れます。

3 自動車から車椅子への移乗動作

自動車から車椅子への移乗動作は、基本的には車椅子から自動車への移

乗動作の逆手順です。左右の足を車外へ出すタイミングと車椅子へ臀部を

移動した後の後方への姿勢調整がポイントとなります。足を車外へ出すタ

イミングは個々の残存機能や動作能力、痙性や姿勢パターン等の身体状況

によって異なります。

標準的なタイミングとしては、ⅰ最初に両足を車外へ出す、ⅱ臀部が

1/3 程度移動した時点で両足を出す、ⅲ臀部が 1/3 程度移動した時点で右

足を出し、車椅子に臀部を移乗させた後に左足を出す、の3種類がありま

す。ⅰ、ⅱの方法では、左右の足が交差してしまい移乗時にバランスがと

りにくくなることがあります。ⅲの方法では、車内に足が残っていること

で、移乗時のプッシュアップの妨げになりやすいのがデメリットです。

自 動 車 か ら 車 椅 子 へ の 移 乗 ( 足 を 車 外 へ 出 す タ イ ミ ン グ は ⅱ )

ハ ン ド ル に つ け た 頭 部 と 左 上 肢 で 姿 勢 を

安 定 さ せ な が ら 、 自 動 車 外 へ 左 右 の 足 を

右 手 で タ イ ミ ン グ よ く 車 外 へ 出 す

臀 部 が 完 全 に 車 椅 子 に 乗 っ た 後 、 臀

部 の 位 置 を 確 認 し な が ら 車 椅 子 後 方

へ 移 動 さ せ る

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Ⅲ 自身で行う車椅子と床間の移乗動作

車椅子と床の移乗は、肘を伸ばす力が弱いと獲得が難しい動作です。さ

らに年齢や性別、身体機能によっては動作獲得が困難な非常に難易度の高

い動作です。車椅子上での生活を前提としている場合、床へ降りる機会は

多くないため、車椅子と床間の移乗は日常生活で必ずしも必要な動作では

ありません。改造されていない一般浴室使用や床上でのストレッチ等の動

作獲得により日常生活活動範囲拡大に繋げるため、もしくは、移乗動作時

に必要な上肢筋力や体幹のバランスのリハビリテーション目的で訓練に取

り入れることがある動作です。膝を伸ばした状態で行う方法が一般的です

が、上肢筋力の弱い頸髄損傷者の場合は、移乗する側の足の膝を立てて行

う方法や両足の膝を立てて“体育座り”のような姿勢で行う方法もありま

す。

1 車椅子から床への移乗動作

① 足をフットプレートから下ろし、車椅子の前方へ臀部を移動させる。

② 片手をフロントパイプに固定し、足を斜めになるように寄せる。

③ バランスをとりながらもう一方の手を床につく。

④ 臀部が着地できるスペースを空けながら、一度床についた手をつき直

す。

⑤ ④で床につき直した手に体重をかけながら、前方または斜め前にゆっ

一 度 床 面 に 手 を つ い て か ら 、 手 を ス ラ

イ ド さ せ て 臀 部 の ス ペ ー ス を 空 け た 位

置 に 移 動 さ せ る

手 を 足 に 沿 わ せ る よ う に 伝 っ て

床 に 下 ろ し て い く

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足 の 方 向 は 上 肢 に 力 が 入

り や す い よ う 調 整 す る

くりと移動させて臀部を着地させる。

2 床から車椅子への移乗動作

【膝を伸ばした状態で行う方法】

① 車椅子に対して前方または斜めに足を向ける。

② 足を向けた側の手は車椅子のフロントパイプに、反対側の手はプッシ

ュアップが行いやすく、また、なるべく車椅子に近い位置で接地さ

せる。

③ 車椅子側の肘を伸ばしながら、体を引き寄せると同時に、床面につい

た手で体重を支えながら頭を下げていき、プッシュアップで臀部を後

方に引き上げる。その際、臀部がレッグレストパイプにあたらないよ

うに注意する。

④ 車椅子のシートに臀部が乗ったら、さらに後方へ臀部を押し込む。

⑤ 床面についていた手を体側に引き寄せ、下肢を伝っていきながら体を

臀 部 の 浮 き 始 め で は 、 車 椅 子 側 に 接 地 し

た 上 肢 の 強 い 力 が 必 要 と な る 。 臀 部 を 最

高 点 ま で 引 き 上 げ る に は 頭 を 下 げ な が ら

プ ッ シ ュ ア ッ プ し て い く こ と が 重 要

手 を 足 に 沿 わ せ る よ う に 伝 っ て い

き な が ら 体 を 起 こ し て い く

車 椅 子 の シ ー ト 後 方 ま で 臀

部 を 押 し 込 ん で い く

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起こしていく。

【片膝を曲げた状態で行う方法】

車椅子に近い側の足の膝を曲げた状態にしてから、車椅子のフロントパ

イプとプッシュアップしやすい位置に手を接地させます。曲げた足に体重

をかけるようにしてバランスをとりながら臀部を斜め後方に持ち上げます。

膝をのばして行う方法と比較して、上肢の筋力が弱い方でも床から車椅子

への移乗動作獲得の可能性が見込まれる方法です。

【両膝を曲げた状態で行う方法】

両膝が開かないようベルト等で固定し、踵が臀部につくように両膝を曲

げます。膝を抱え込み前方に接地した足が逃げないようにします。片方も

しくは両方の上肢を車椅子のフロントパイプに固定して足にしっかりと体

重をかけながらプッシュアップし、臀部を後方へ引き上げます。膝をのば

して行う方法と比較して、上肢の筋力が弱い方でも床から車椅子への移乗

動作獲得の可能性が見込まれる方法です。

曲 げ た 足 に 体 重 が 垂 直 方 向 に か か

る よ う に 肘 を の ば し な が ら プ ッ シ

ュ ア ッ プ し て い く

車 椅 子 の シ ー ト に 臀 部 が 乗 っ た 後 は

臀 部 を 後 方 に 押 し 込 ん で い く

足 が 開 い て し ま う と バ ラ ン ス が 悪 く な り 、 プ ッ シ ュ ア ッ プ の 力 も 伝 わ り

難 く な る た め 、 両 膝 を ベ ル ト で 固 定 す る 。 足 底 に 体 重 が か か る よ う に 頭

を 下 げ な が ら プ ッ シ ュ ア ッ プ す る

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Ⅳ 移乗介助のためのリフトと吊り具(スリングシート)の種類

介助で行う移乗動作には、リフトを使う方法と使わない方法があります。

ここでは、移乗介助で使用されるリフト等の種類や特徴と使用方法などに

ついて説明します。

1 リフトの種類

リフトは、ベッドから車いす、トイレ・フロなどへの移乗動作を補

助するための福祉用具です。リフトには、天井走行式リフトや床走行

式リフト、ベッド固定リフト、据え置き式リフト等がありますが、こ

こでは別府重度障害者センター(以下、当センターと言う 。) で主に

使用している、天井走行式リフトと床走行式リフトについて説明しま

す。購入を検討する際は、作業療法士、理学療法士等の専門家にご相

談ください。

(1)天井走行式リフト

天井走行式リフトは、天井にレ

ールを設置するため室内の家具の

配置への影響が無く、介助者の動

線の妨げにもなりません。また、

床面のスペースを取ることなく空

間を有効利用できます。ベッド周

囲の移動だけでなく、浴室やトイ

レなどへの移動も天井走行リフトで、スムーズに行えます。しかし、

リフターの中では最も高額で、設置の際には大掛かりな工事が必要

となります。

(2)床走行式リフト

床走行式リフトは、本体がキャスタ

ーで移動します。「吊り上げ」は電動

ですが、移動や方向転換は手動で行い

ます。フローリングの部屋に適してい

ます。リフト設置のための工事が不要

で、移動式のため使用場所が固定され

ません。

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2 吊り具(スリングシート)の種類

吊り具(スリングシート)には、脚分離型やベルト型などがあります。

被介助者の体型や身体機能などに合わせたスリングシート選びが大切で

す。また介助をする方にとって扱いやすいかどうかも大切です。購入さ

れる場合は、医師や理学療法士、作業療法士などに相談してください。

ここでは当センターで主に使用している「脚分離型」と「ベルト型」に

ついて紹介します。

(1)脚分離型スリングシート

身体背面から太腿までを包み込む

脚分離型のスリングシートです。お

尻の下にスリングシートを引き込ま

ずに片足ずつ分けて支える形状なの

で、車椅子に座ったままで着脱がで

きます。体全体を包み込むため、安

定感があります。頭部を自力で支え

ることのできる方が使用できます。

(2)ベルト型スリングシート

2本のベルトで背と太腿を支えま

す。着脱はスリングシートのなかで

もっとも簡便にできます。吊り上げ

た状態のままで下衣の着脱介助が出

来るので、トイレへの移乗にも適し

ています。一方、吊り下げられた時

に肩甲骨に負担が掛かり、また、身

体機能の状況によっては落下するリスクが高くなります。ベッドや

車椅子での座位が安定しており、頭部を自力で支えることのできる

方が使用できます。

足側

背 側

脚 サ ポ ー ト

ストラップ

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3 吊り具(スリングシート)の装着方法

(1)脚分離型

<車椅子上での装着方法>

①車椅子のブレーキをかけます。被介助

者の上半身を支えながら写真のように前

傾させ、もう一方の手でスリングシート

の中心を持ち、臀部と車椅子の座シート

の間に深く差し込みます。

②臀部の横の部分を引き込みます。片手で

脚サポートを持ち、腰、臀部、太腿を確

実に覆うように、脚サポートを手前に軽

く引きます。反対側も同じ要領で行いま

す。

③左右の脚サポートの長さが同じであるか

確認し長さに差がある時は、脚サポート

部分を軽く引っ張って調節します。長さ

が合っていないと吊り上げた時に体が傾

き危険です。

④膝下を持ち上げ、脚サポートを太腿の下

から通して、股の間から抜き出します。

この時に、シートに皺が出来ないように

軽く引っ張って整えます。

⑤ストラップの両方の長さや、捻れがない

ことを確認し、間を通して交差させます。

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<背上げ機能のあるベッドでの装着方法>

①ベッドの背を上げ、被介助者の上半身

を支えながら写真のように前傾させ、

もう一方の手でスリングシートの中心

を持ち、背中とベッド間に沿わせるよ

うにしながら、なるべく奥まで差し込

みます。

②脚サポートを持ち、臀部の横を十分に

覆うように引き込みます。左右の脚サ

ポートの長さが同じであることを確認

してください。

③膝を立て、脚サポートを太腿の下に皺

ができないようにしながら入れ込みま

す。反対側も同じ要領で行います。

④ストラップ部分に捻れがない事を確認

し、間を通し交差させます。

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<背上げ機能のないベッドでの装着方法>

①被介助者を側臥位(横向きに寝ている

状態)に体位交換(体の向きを変える

こと)させ、スリングシートの半分を

折り畳み差し込みます。この時にスリ

ングシートの中央を背中の中央に合わ

せ、スリングシートの下部で臀部を包

み込むように位置を合わせます。

②反対側に体位変換し、差し込んでいた

部分を引き出した後、仰臥位へ介助し

皺ができないように広げます。

③片膝を立て、脚サポートを太腿の下か

ら通します。反対側も同じ要領で行い

ます。

④ストラップに捻れがないかを確認しな

がらストラップの間を通して交差させ

ます。ストラップに捻れがあると吊り

上げた時に体が傾いたり、太腿部分が

圧迫されてしまうので気を付けてくだ

さい。

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Ⅴ リフトを使用した移乗介助の方法

1 車椅子とベッド間の移乗介助の方法

(1)天井走行式リフト

<ベッドから車椅子への移乗介助の方法>

①スリングシートのストラップ部分をハ

ンガーのフックに掛けます。

②リモコンを操作しながら、吊り上げま

す。脚サポートの部分が太腿の中央に

位置しているかを確認します。

③足に手を添えたままリモコンを操作し、

車椅子の上まで移動します。

④臀部が車椅子の奥に入るように膝を両

手で押さえながら着地させます。

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⑤スリングシートをフックから外す前

に靴を履かせます。フットプレートか

ら体がずり下がらないよう注意します。

⑥スリングシートをフックから外し、膝

下を持ち上げ、脚サポートを引き抜き

ます。

⑦交差しているストラップを解き、上半

身を片手で支えながら写真の様に前傾

させスリングシートを引き抜きます。

⑧正しい座位姿勢になっているか確認し

ます。臀部の位置(前に出すぎていた

り、奥に入りすぎたりしていないか)

や、体が左右に傾いていないかを確認

し、整えます。

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<車椅子からベッドへの移乗介助の方法>

①スリングシートのストラップ部分をハ

ンガーのフックに掛けます。

②介助者は被介助者の足に手を添えなが

らリモコンを操作して、ベッド柵より

高い位置まで吊り上げ、ベッド中央ま

で移動させます。

③被介助者の膝を背もたれ方向に押すよ

うにしながら、ベッドに着地させます。

着座したら、ハンガー部分が回転して

被介助者の顔に当たらないようにしっ

かりと持ちながら、スリングシートを

フックから外します。

④交差しているストラップを解き、上半

身を写真の様に片手で支えながら前傾

させ、もう一方の手で背中側から抜き

取ります。

⑤体の位置を確認し、ベッドを倒して体

位を整えます。

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(2)床走行式リフト

基本的には天井式リフトと介助方法は同じです。ここでは走行式

リフトの介助時の注意点を説明します。

①リフトの寄せ付け(近づけて設置すること)方

②リフトを移動させるときの注意点

ベ ッ ド 車いす

体を支えずに リ フ ト

を移動させる と写真

のよ う に被介助者の

体が回転し て し まい

ます 。

ベ ッ ドの下から リ フ ト の

キャス ターまで引き出し

たら 、 リ フ ト を写真の向

きに回転させながら移動

させます 。 その際 、遠心

力が働いて 、被介助者の

体が回転し ないよ う体を

支えるなど注意し て 、 リ

フ ト を持っている手元を

軸にゆっ く り と回転させ

ます 。

被介助者を吊 り上げた

後 、 後ろに引 く よ う に し

て リ フ ト をベ ッ ド から引

き離 し ます 。 その際 、 被

介助者の体が揺れるた

め 、 で き るだけま っすぐ

ゆっ く り と 引き ます 。

ベ ッ ド に対 し て垂直に

寄 り 付けます 。

車いすに対し て正面から 、 車いすを挟

むよ う に寄り付けます 。

体を支えずに リ フ ト

を移動させる と写真

のよ う に被介助者の

体が回転し て し まい

ます 。

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3 2本ベルトを使用する介助方法

頸髄損傷者の場合、体幹・下肢の筋力が弱く、肩周囲の筋力が弱い

方もいるため、その人の身体状況に合わせて吊り具を選択し、使用し

なければなりません。肩周囲の筋力が弱く、褥瘡部位にスリングシー

トが当たる場合は2本ベルトを使用します。その場合はベルトを被介

助者の腕で挟み込むことが難しいため、手を膝の上に置くなどして肩

の広がりを抑え肩関節の脱臼を防ぎます。以下に、 2 本ベルトを使用

する際の注意点と使い方について紹介します。

( 1 ) 吊り上げ時の注意点

( 2 ) 2本ベル トの装着方法

①上半身を写真のよ うに前傾させ 、短い方

のベル ト を肩甲骨の下に合わせます 。

肩周囲の筋力を使っ

てベル ト を自分の腕

で挟むこ とができ る

ため 、 安定し た状態

で移乗介助する こ と

ができます 。

肩周囲の筋力が弱い と

肩が大き く 吊 り上げら

れ 、 肩関節を脱臼し て

し ま う 危険があるた

め 、 使用は避けた方が

よいです 。

×

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②長い方のベル ト を太腿の下に通します 。

( 3 ) 車椅子上の姿勢の整え方法

( 写真 1 ) ( 写真 2 ) ( 写真 3 )

臀部が深 く 入らないと仰け反った座り方にな り ( 写真1 、 2 )、

車いすから落ちてしま う危険があり ます 。 その場合は後ろに回り 、

脇の下から腕をいれて手首を掴み引き上げます ( 写真3 )。 また 、

お尻が深 く 入りすぎても前に倒れてしまい危険です 。 その場合は 、

両膝を持ち 、前に引っ張り ます 。

( 4)車いす乗車後のパンツやズボンの整え方法

車いすに乗車した後は、ズボンやパンツが股に食い込んでしまっ

ていることがあるので、股下を軽く引っ張り、殿部にパンツやズボ

ンの皺がよらないように注意します。スリングシートを装着する前

に、パンツの裾を伸ばしておくと整えやすいです。レッグパック

を使用している方は管が折れていないか、尿取りパッドを使用して

いる方は装着位置の確認を必ず行いましょう。

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Ⅵ 介助で行う移乗介助の方法

1 側方移乗と直角移乗

当センターでは、天井走行式リフターと床走行式リフターを主に使用

して移乗介助を行っていますが、外泊先にはリフターがなかったり、災

害時やリフターの故障時など、リフターを使用できない場合もあります。

ここではリフターを使用せずに移乗介助を行う方法を説明します。

(1)側方移乗介助の方法

①ベッドの背を上げます。足先を移乗

する方へ動かして靴を履かせます。

車いすを手の届く位置に置いておき

ます。

②膝下と肩下に手を入れ、臀部を軸に

回転させながら身体を起こし端座位

(ベッドの端などに腰掛けた状態)

にします。

③身体を支えながら車いすを近くに引

き寄せます。車椅子のブレーキが掛

かっていることを確認します。

④被介助者の膝を介助者の膝で挟み、

両手で上半身を抱えるようにして

声かけをしながらタイミングを合

わせて立たせます。

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⑤車いすの方へ方向転換し車いすに

座らせます。

⑥フットプレートに足を乗せて、座

位姿勢を調整し服を整えます。

【側方移乗のポイント】

・腋の下に頭を入れる

立位が取れない場合は、腋の下に

頭を入れます。介助者は移乗しよう

とする側の脇の下に自分の頭を入れ

て、片方の手を腰(ズボンをつか

む)に、反対側の脇の下からもう一

方の手を入れ腰に手を添えます。

・膝を挟み込む

介助者は自分の膝で、移乗させる

側の被介助者の膝を挟み込み、押さ

えるようにします。自分に引き寄せ

るように被介助者の体を起こし、車

椅子に移乗させます。

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(2)直角移乗の介助の方法

①大きめのクッションを車いすの上に

準備します。被介助者の足を、移動

する反対側(ベッドの奥側)へ動か

します。車いすは手の届く位置に置

いておきましょう。

②脇と肩に手を入れて上体を起し、前

屈させます。

③被介助者の手を交差させ、後ろか

ら手首を持ちます。上半身を持ち

上げながら車いす側のベッドの端

まで移動させます。

④被介助者の身体を支えながら車い

すをベッドに近付け、クッション

を車いすとベッドの隙間に置きま

す。車いすのブレーキが掛かって

いることを確認します。

⑤車いすの後ろに回って、③と同じ

ように手首を持ち車いすへ移乗さ

せます。

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⑥クッションを抜き、足首と車いす

のアームサポートを持ち、足を降

ろせる所まで車いすごと移動しま

す。

⑦足をフ ッ ト プレー ト に乗せて靴を履

かせ、座位姿勢を調整し服を整えま

す 。

【 直角移乗のポイン ト 】

・ 臀部の下に手を入れる

車いすへ移乗介助する際に 、被介

助者の腕に手が届かない場合は臀部

のと こ ろから持ち上げるよ う にして

手前に引きます 。 ズボンを引っ張っ

て移乗させる とマ ッ ト レス との摩擦

で臀部に傷が出来る原因にもな り ま

す 。

・ 少しずつ動かす

力が弱い介助者の方は、臀部を擦らないよ う に少しずつ動かしなが

ら車いすへ移乗させます 。

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【 参考資料 】

1. 頸髄損傷のための自己管理支援ハンドブック

国立別府重度障害者センター頸髄損傷者自己管理支援委員会編

中央法規出版 2008

2. 脊髄損傷理学療法マニュアル 文光堂 2006

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国立障害者リハビリテーションセンター 自立支援局

別 府 重 度 障 害 者 セ ン タ ー

(支援マニュアル作成委員会編)

〒 874-0904 大分県別府市南荘園町2組

電話: 0 9 7 7 - 2 1 - 0 1 8 1

H P : http://www.rehab.go.jp/beppu/

初版 平成28年3月発行