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50 E 「期待される 間像」 1 11 教育の反動化と軍国主義 の憲章 1li 1 「敬君愛国」と「期待される人間像」 すでにのべてきたように 佐藤内閣は 戦前の絶対主義的天皇制を確立 た「富国強兵策 を賛美し、その「偉 大な 伝統を今日に一生かすために「民族精神」 、「 防衛意識」を高揚させることを宣言 た。そこには 国家主義 大国主義の思想が新しいやり方で表明されている。それは 小学校 中学校、高等学校の教育課程や学習指導要領 再改定に「国家への理解と愛情」などの強調となって具体化され またさまざまな日常的な教育のあり方や 教師 教育活動のあり方に具体化されようと ている。 戦前の軍国主義は 圏内においては天皇制権力による民主主義運動のいっさいの弾圧と勤労国 する 苛酷な搾取と収奪、対外的には朝鮮、中国をはじめとするアジア諸民族にたい 略に代表されるものであった c そして、その精神的な支柱は「教育勅語」と「臣民の道 「軍人勅諭」であり 口でい うならば、 「忠君愛国 」と「 日本を盟主とする大東亜共栄圏」思想による軍国主義教育であった。今日の精

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50

E

「期待される人間像」

111教育の反動化と軍国主義化の憲章1li

1

「敬君愛国」と「期待される人間像」

すでにのべてきたように、佐藤内閣は、戦前の絶対主義的天皇制を確立した「富国強兵策」を賛美し、その「偉

大な」伝統を今日に一生かすために「民族精神」、「防衛意識」を高揚させることを宣言した。そこには、国家主義、

大国主義の思想が新しいやり方で表明されている。それは、小学校、中学校、高等学校の教育課程や学習指導要領

の再改定に「国家への理解と愛情」などの強調となって具体化されたり、またさまざまな日常的な教育のあり方や

教師の教育活動のあり方に具体化されようとしている。

戦前の軍国主義は、圏内においては天皇制権力による民主主義運動のいっさいの弾圧と勤労国民大衆にた

いする

苛酷な搾取と収奪、対外的には朝鮮、中国をはじめとするアジア諸民族にたいする帝国主義的・植民地主義的な侵

略に代表されるものであったc

そして、その精神的な支柱は「教育勅語」と「臣民の道」、

「軍人勅諭」であり、

一口でいうならば、

「忠君愛国」と「日本を盟主とする大東亜共栄圏」思想による軍国主義教育であった。今日の精

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今日の教育の反動化 ・軍国主義化第一章

神的支柱は「敬君愛国」思想による新

しい国家主義をめざす「期待される人

間像」であり、それは「教育勅語」の

現代版である。それは平和と民主主義、

個人の尊,厳を重んじ真理と平和を希求

する人間育成の立場に立つ憲法と教育

甘古木法の基本的否認の立場から打ちだ

されている。そして、今日の「国防教

育」の強化に象徴される教育の反動化

と軍国主義化は、「期待される人間像」

教育の今日の時点における具体化にほ

かならない。それではこの「期待され

る人間像」はだれが何をだれにたいし

て「期待」しているのだろうか。

「期待される人間像」が国民の前に

公にされたのは一

九六五年

一月一一日、

「成人の日」にさきがけてその「中間

51

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草案」が発表された。これは、

一九六三年六月、当時の荒木文部大臣によって諮問された「後期中等教育の拡充・

52

整備について」という諮問内容の一つに中央教育審議会(中教審)がこたえたものであった。

すなわち、①後期中

等教育の理念を明らかにしなければならないが、そのために、こんごの国家社会における人間像はいかにあるべき

かという課題を検討する必要がある、②個人の能力、適性、進路などに応じて後期中等教育を拡充・整備するため

に、後期中等教育の目的、性格、教育内容、教育方法、授業形態、教員、教育機関の形態、教育制度上の位置づけ

を検討する必要がある、というもので、その前者にあたる部分の答申草案として発表されたものであった。

この問題が中教審に諮問された一九六三年六月という時期は、新安保体制のもとで「高度経済成長」

「対米信用

の回復」

「治安の強化」

「所得倍増」などとともに「文教の刷新」を政策にかかげて登場した池田内閣によって、

先にもふれた

「愛国心教育」、「国やつくり・人やつくり」が宣伝され、

荒木文部大臣による日教組の

「教師の倫理綱

領」が「革命教育をめざしている」という非難と「日教組は破防法すれすれの団体だ」とする異常ともいうべき攻

撃が強められ、

「教育基本法は憲法と同様に、占領軍からおしつけられたものだ。日本人の総意がもられていない。

とくに、国を愛し、国民としての自覚をもたせるような基本線が欠けている」といった教育基本法の改定問題が宣伝

されたときであり、さらに経済審議会による「人的能力開発」政策の答申が出されて、「科学技術者および技能者の量

的確保とその質的向上」が主張される一方、防衛庁の事務次官から「教科書で自衛隊、国防をもっと大きくとり扱

え」という文部省への申し入れがなされたときであった。そして中学生にたいする全国一斉学力テストが強行され

て、新安保体制と「高度経済成長」下の人やつくり政策にみあって、差別と競争の教育、

「愛国心」と「国防」の強

調による教育の国家統制と反動化がいちだんと強められようとする時期であった。

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答申草案が発表されるや、時の愛知文部大臣は「国民の意見を広くききたい、活発な人間像論議を期待する、日展

終答申にもと

9

ついて現行の教育基本法を補完する意味で『教育憲章』を制定したい」と語った。この談話は、

一寸

侍される人間像」が審議されてきた時期の教育の反動化の進行と「人間像」にかける日本の支配層の期待を端的に

反映したものであったといっていい。

この答申草案は翌一九六六年九月に、若干の表現上の手なおしを加えて最終報告としてまとめられ、

一O月には

「後期中等教育の拡充整備について」の文部大臣への答申に「別記」と

して掲載された。そして、「関係行政機関や教育施設あてに参考資料として送られ、また教育課程審議会で教育課

程の審議をおこなう際の参考資料」(傍点は引用者)

「後期中等教育の在り方」と一本化され、

とされることになった。

「参考資料」

といわれたが、

事実上

今日の教育の反動化 ・軍国主義化

「精神的支柱」となって具体化されていったことはいうまでもない。そのことは後でみる政府が募集した「二十一

世紀の日本」入選作品集の内容からしても教育課程や学習指導要領の改定の基本的性質からしても明らかである。

2

「期待される人間像」は誰が誰に何を期待するのか

「期待される人間像」をとりまとめた責任者は高坂正顕氏であるが、彼は「教育基本法を否定するのではもとよ

りなく、教育基本法を日本人の精神的風土に定着させる」ことをねらいとしている、

といっていた。それが「教育

ヰ早第

基本法の否定」ではなく、それをもとにし、

「憲法の示している線において期待される日本人の理想像」をまとめ

53

たものであるのかないのかは、これから内容を具体的にみて明らかにしていくとして、そのまえに、その性格をし

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めす、いくつかの特徴にふれておかなければならない。

o4

第一に、この文書は、後期中等教育の理念として検討されてきた。後期中等教育は大部分のものにとって学校教

育から実社会に参加していく接点であり、

一五歳から一八歳までの時期は子どもの将来、とくにその考え方にとっ

て決定的な影響をあたえる時期であり、政府の「人やつくり」政策の当面の重点である。

「安くて長持ちがし使いで

のある」、そして、「憲法改正」に代表される政府の政策を容易にうけいれ、

「合意」をあたえる青少年

・国民の造

出を、後期中等教育に焦点をあわせて打ちだした

「国民像」である。

第二に、こ

の文書にもり込まれた内容は、すでに学校教育の内容として数年以上前から実施されてきているもの

である。小

・中学校における

「道徳」、

高校の「倫理

・社会」の内容がそれであり、

もっ

ぱら

「心がけ」を説き、

「態度」を強制するものである。そこでは、平和や民主主義や豊かな生活や個人の幸福が、

「心がけ」が立派であ

ればおのずから実現するような幻想をいだかせ、それらの問題が何よりも今日の政治的社会的課題であることから

限をそらせようとしている。すでに強制されている道徳教育の内容と

この「人間像」の一

致は決して偶然の

一致で

はないのであって、この一致は「人間像」の基本的な性格をしめす

一つの特徴である。

第三に、憲法の改正、教育基本法への挑戦としてだされているということである。高波正顕氏によれば

「教育基

本法をもとにし、憲法のしめしている線において、

「期待される日本人の理想像』をまとめる」という考えが込め

られているという。しかし、この文書がつくられる経過からみれば、教育基本法は

「憲法と同じく占領中に米軍か

らおしつけられたもの」であり、

「無国籍」だとする荒木文相によって「人やつくり」の新しい「理想像」を審議会

に注文したものである。また、

一九六五年一月、

「人間像」草案が発表された時に、愛知文相は「教育基本法を補

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今日の教育の反動化・ 軍国主義化品早第

森戸

木下

天野

大河内一

久向間島秀三郎

高坂

高橋

高村

成田

平塚

前田

諸井

出光

坂西

野尻

松下幸之助

辰野

日本育英会会長

!イ主

東京学芸大名誉教授

貞祐

独協大学長

東京大学長

同和鉱業KK相談役

正顕

東京学芸大学長

雄容I

読売新聞社顧問

象平

慶応義塾大教授

骨草〈

都立新宿高校長

益徳

国立教育研究所長

義徳

NHK会長

秩父

セメント

KK会長

イ左

出光興産KK会長

志保

評論家

清彦

作家

松下電器産業KK会長

完する意味で

「教育憲章』を制定したい」と語

っている。

この文書

の内容に

ついては後にのべるとおり、教育基本法を補完するの

では

なくて、それをたなあげする性質のもの

である。高坂氏のいう「憲

法の示している線において」

ということも、

憲法

・教育基本法をあ

からさまに否定する態度の表明をゆるさない日本の国民位論とそれ

を支える民主勢力の結集という状況のもとでの

「いい方」にすぎな

いの

であ

って、

実は憲法の平和主義、民主主義の各条項にたいする

LvhUいHV

、、

判。凶出レ

つまり憲法.改正の路線におい

てということを事実上意味する

ことになる。

第四に、国民にたいする

「理想像」としていったいだれが期待し

ているもの

であろうか。中教審の特別委員会で

この文書を作成した

委員は別表にかかげる人々である。その主査には高坂氏

をすえ、

平塚益徳氏らを委員に選び、旧委員として文部事務次官の内藤誉三

郎氏

(現自民党参議院議員)

に事務をしめくくらせてつくり上げた文

書である。その委員の三分の一は大会社の社長などであり、そのほ

とんどが保守的、体制に順応する学者文化人をならベ、

一、

二のリ

55

ベラルな人たちが申訳けのような存在として、そして結果的にはそ

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の本質をあいまいにする存在として加えられているという構成である。その委員の構成をみるだけで、

「期待する

56

人々」はだれかが明らかである。

第五に、手つづきからすれば、

「草案」として発表し、

「広く意見を国民に求める」という形を一応とったとい

うことの問題である。このような手つづきは愛知文相が語ったように「きわめて異例のこと」であった。それは、

この文書があたかもひろく国民全体の意見をきき、

いかにも民主的に仕上げられたかのようによそおうことにある。

しかし、現実には青年や国民の声をきこうとはしなかったし、

またそのための組織や制度の保障はなかった。それ

どころか、現場の教師たちの意見はいっさい拒否し続けた。草案発表後、正式の答申までの聞に「意見」をきいた

のは、鈴木重信神奈川県教育センター参与、江上フジ

NHK考査室長、西谷啓治大谷大教授、八杉竜一東京工大教授、

柴田周吉日経連教育特別委員会委員長、加藤日出男若い根っ子の会会長、これだけが公式文書に記録されている。

日本の青年の代表も、

そこには日本の教師の代表も、

日本の労働者の代表も、

一人も参加していない。これらの事

実によっても、この文書が広く国民の意見をきいてつくり上げられたのではなく、

せまく特定の人たちの意見をき

また、最終答申も語句の表現を除けばほとんど変わっていない。そこには、

をきいた」という形と「一部特定の者の意見をきいた」という事実による、二重の欺繭がおりこまれているのであ

いたにすぎないし、

「広く国民の意見

る。そして、このようにしてつくられた「国民像」が、同じようなしくみでつくられる教育課程・学習指導要領な

どの教育内容に具体化され、

教師と子ども、

青少年に上から強制的におしつけられて、

教育の反動化と軍国主義化

の主柱の役割を果たすことにな

っていくのである。

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3'

「期待される人間像」が説く日本人の課題と期待像

「期待される人間像」は全体として次のようなほねぐみで構成されている。

「今後の国家社会における人間像は

いかにあるべきか」という課題にたいして、

「当面する日本人の課題」と「日本人にとくに期待されるもの」の二

部によってこたえている。

今日の教育の反動化・軍国主義化

「当面する日本人の課題」とは

第一部の「当面する日本人の課題」については、第一に、

「現代文明の特色からして、人間性の向上と人間能力

の開発」を要請し、第二の要請として、

「今日の国際情勢のなかで聞かれた日本人であること」をあげ、

第三に、

「日本の在り方として民主主義の確立」を要請されているとする。

「産業技術の発達」にもかかわらず、

第一の「人間性の向上と人間能力の開発」という要請は、

「人間性の向上

「利己主義や享楽主義の傾向」が認められ、

がともなわ」ないので

「人類の福祉と自己の幸福に資する」ことが

できない。

「日本の工業化」は「人間能力の開発と同時に人間性の向上を要求する」、「経済的に豊かになると同時

に精神的、道徳的にも豊かにならなければならない」。「平和国家、民主国家、福祉国家、文化国家」という国家理

章第

想は「いずれも、公共の施策に深く関係しているが、その基礎としては、

国民ひとりひとりの自覚がたいせつであ

る」とする。

57

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「要請」である。

第三の民主主義の確立という要請は、戦後、民主主義の概念に混乱があり、

「自主的な個人の尊厳から出発して

第二

の「世界に聞かれた日本人であること」という要請は、戦

58

「過去の

白木および日本人のあり方が

ことごとく誤

ったかのよ

うな錯覚を起こさせ、

日本の歴史および日本人の国民性は無間さ

れがちであった」

「日本人の欠点のみ指摘し、それを除去するに

急であ

って、その長所をのばす心がけがないならば、

日本人の精

神的風土にふさわしい:::理想を実現できない」

「われわれは日

本人であることを忘れてはならない」

「真によき日本人である

とによって、

はじめて真の世界人となることができる」。

今日の

世界は必ずしも安定していないので、

「世界的な法の秩序の確立

につとめなければならない」、「同時に日本は強くたくましくなけ

ればならない」

「それによって日本ははじめて平和国家となるこ

とができる」、「日本は与えられる国ではなく、すでに与える国に

なりつつある」から、

「平和を受け取るだけではなく、平和に寄

与する国にならなければならない」。

そのような内容をふくむ

民主主義を考えようとするものと階級闘争的な立場から出発して民主主義を考えようとするものとの対立があるヘ

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「法的手続きを無視し一挙に理想郷を実現しようとする革命主義、それと関連する全体主義」は民主主義の本質に

反するものである。しかも、

「日本人の道徳は縦の道徳であって横の道徳に欠けている」として、そこでは、

我の自覚」、「他人のために尽くす精神にうらづけられた社会的知性の開発」などが要請され、

「民主主義国

また、

家は多数決の原理が支配する」が「多数を占めるものが専横にならないこと、少数のがわにたつものがいたずらに

反抗的になったりしないこと」などが説かれている。

「日本人にとくに期待されるもの」とは

また、

第二部の

「日本人にとくに期待されるもの」としては、第一章個人として、第二章家庭人として、第三章

今日の教育の反動化 ・軍国主義化

社会人として、第四章国民として、それぞれ「今後の日本人にとくに期待される」項目と内容がのべられている口

「個人として」は、一、「本能や衝動を純化して向上させ」、「自由だけが説かれて責任が軽視され、権利だけが主

張されて義務が無視される」ことのないような

「自由の主体」であること、

二、

「天分の相違その他による」

人の独自性を生かすことによって自己の使命を達すること」ができるように

「個性を伸ばすこと」、

「享楽に

走り、怠惰になって」自己の健康と生命をそまつにせずに、

「自己をたいせつにすること」、

四、

「人の一生には」

不快や困難があるが、

「それに屈することなく」、「信頼される誠実な頼もしい人」になるための強い「意志をもっ

こと」、

五、「われわれの生命の根源には父母の生命があり、民族の生命があり、人類の生命」があって、その

「生

第一章

命の根源すなわち聖なるものに対する畏敬の念が真の宗教的情操であり、

人間の尊厳と愛もそれに基づき、深い感

謝の念もそこからわき、

真の幸福もそれに基づく」ものだから「畏敬の念をもつこと」があげられる

D

一「

白ー寸

;59

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寸家庭人として」は、

一、

「家庭を愛の場とすること、二、今日のあわただしい社会生活において「人民性を回

60

復できる場」としての「家庭をいこいの場とすること」、三、「家庭のふんい気がおのずから子どもに影響し、健全

な成長を可能にする」のであるから「家庭を教育の場とすること」、

「家庭は社会と国家の重要な基盤である」

から家庭の構成員が「広く社会と国家にむかつて聞かれた心をもっ」ために「聞かれた家庭とすること」が必要で

あるとする。

「社会人として」は、

一、

「社会は生産の場であり」、「社会の生産力を高めることによって、自己を幸福にし、

他人を幸福にすることができる」のだから、

「自己の仕事を愛し、仕事に忠実であり、仕事に打ち込む人」でなけ

ればならず、

「職業に貴賎の別はない」から「自己の素質、能力にふさわしい職業を選ぶべき」であって、

「重要

なのは仕事に打ち込むこと」である、二、「近代社会の発達」は「人間の生活環境の悪化」、

「人間関係の変化」に

よる不幸は少なくないが、

「社会全体との関係を離れては、個人の福祉は成立ちえない」から、

「社会連帯の意識

に基づく社会奉仕の精神が要求される」こと、三、今日の「大衆化の時代」には「文化が大衆化」するが、

「享楽

文化、消費文化となりがち」であり、「生産に寄与し、

また人間性の向上に役立つような文化の建設に努力すべき」

であって、

「そのためには、勤労や節約が美徳とされてきたことを忘れてはならない」、

一方、「文化の卑俗化」や

また、

「組織化による個人の創造性、自主性のまひ」があるので「想像力、

企画力、創造的知性を伸ばすことを工

夫」すべきであり、

「否定と破壊のためではなく、建設と創造のため」の「生産的文化を可能」にしなければなら

ない、四、

「日本人のもつ社会道徳の水準は、遺憾ながら低い」から、

「公共心をもち」「社会道徳を守り」、

ーっ社

会規範を重んじ社会秩序を守」らなければならない、

といった道徳と規範を強調する。

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最後に「国民として」では、

「国家は最も有機的であり、

であって、

強力な集団」

一、

「今日世界において」、

「国家を正しく愛することが国家に対する忠誠であ」り、

「正しい愛国心は人類愛に通ずる」から、

「真の愛国心

とは、自国の価値をいっそう高めようとする心がけであり、その努力である」ような意味での「正しい愛国心をも

つこと」、

一一、

「日本の歴史」のなかで「天皇は日本国および日本国民統合の象徴としてゆるがぬものをもってい

た」し、

「象徴とは象徴されるものが実体としであって始めて象徴の意味をもっ」もので、

「象徴としての天皇の

実体をなすものは、

日本国および日本国民の統合ということ」だから、

「日本国を愛するものが、

日本国の象徴を

愛するということは、理論上当然であ」って、

「天皇への敬愛の念をっきつめていけば、それは日本国への敬愛の

念に通ずる」、そこに「日本国の独自の姿がある」から「象徴に敬愛の念をもつこと」、三、

「明治以降の日本人が、

今日の教育の反動化・軍国主義化

かれらが近代日本建設の気力と意欲にあふれ、

近代史上において重要な役割を演ずることができたのは、

日本の歴

史と伝統によってつちかわれた国民性を発揮したから」であって、このようなたくましさとともに、

「こまやかな

愛情や寛容の精神」、「勤勉努力の性格、高い知能水準、すぐれた技能的素質」などの「すぐれた国民性を伸ばすこ

と」、

の三項目をあげている。

以上が「期待される人間像」のほねぐみと内容の概略である。やや長すぎるくらいに紹介したのは、できるだけ

正確な紹介をしておきたかったからである。そして私たちはこのきれいな言葉のら列の行聞やそれが語ろうとして

いる立場、

またその裏がわで意図しているものから、今日の教育の反動化と軍国主義化の現状にてらして、この

:第一章

「人間像」の危険な意図をつかまえることができると思う。

'61

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4'

大国主義・国家主義の強調と平和・民主主義の否定

62・

天皇への敬愛と大国主義的「愛国心」

第一に、そこには、

国家主義がおしだされ、大国主義的な「愛国心」をうたい、天皇を敬愛することの強調があ

る。

「国民として」、「国家を正しく愛することが国家に対する忠誠」であり、

「自国の価値をいっそう高めようと

する心がけと努力」による「正しい愛国心」をもたねばならないという。そして、

「天皇への敬愛の念をつきつめ

ていけば、それは日本国への敬愛の念に通ずる」、

「このような天皇を日本の象徴として自国の上にいただいてきた

ところに、

日本国の独自の姿がある」としている点に明らかである。

また

「明治以降の日本人が、近代史上において重要な役割を演ずることができたのは、:::日本の歴史と伝統

によってつちかわれた国民性を発揮したからである」、

「日本における戦後の経済的復興は世界の驚異とされてい

る」、「日本は与えられる国ではなく、すでに与える固になりつつある。日本も平和を受け取るだけではなく、平和

に寄与する国にならなければならない」などという表現には、「日本の近代化」、

「戦後の復興」を無条件にほめた

たえ、戦前の日本帝圃主義の中国などへの侵略戦争、治安維持法と特高警察などによるいっさいの民主主義的言動

や人権の抑圧にた

いする反省はなにもでてきていない。戦後のいわゆる高度経済成長も、勤労国民の低賃金と低生

活水準の犠性の上につくられ、

その矛盾が高物価、税金問題などを中心に大きな社会的問題になっていることから

限を外らしてiる。

「平和LJT口にしながら、一与える国」としてのアメリカの後押しでアジア諸民族への「援助」

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を私たちは問題にしないわけにはいかない。

という名の政治的・

経済的進出(侵略と収奪)の現実と方向を合理化する「大国主義」思想が打ちだされていること

「人間像」は「平和」を一見強調しているかにみえるが、それは大国主義を基本にした彼らの考えている

「平和」

今日の教育の反動化 ・軍国主義化t尚早第

論であって、白木がつよくたくましくなることで平和国家になれ

るとか、与えられる国から与える国になったとか、実質的にこ

で強調されていることは国家主義・大国主義であり、そのことに

「明治百年祭」の一環としての「青年の船」

よって軍国主義の復活を抵抗なくうけいれ、すすんでこれに同化

しやすい資質をもった青少年を形成していくことがねらわれてい

る。主権在民の大原則が強調されることがなく、天皇への敬愛が

強く訴えられているが、明治憲法下の絶対責義的天皇制が日本国

氏、だけでなく、

アジア諸国人民にたいしてどのように不当な圧迫

と苦しみを強制してきたか、

という歴史的事実をぬきにしている。

だから、天皇はあくまで象徴であるべきで、それ以上の存在にな

つてはいけない、国民が本当の主人公だという憲法の基本的性格

が前提とされないで、

「象徴」と

いう言葉の「前理的」操作によ

ってそれが特言されることは、これも明らかに、危険な意図をも

っているとみなレわけには

いかなレ。

63

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権利意識をねむりこませる「心がけ主義」

大きく第二に、そこには、

「民主主義」や「愛」、「自由」などを強調しながら、

実は国民の生活や権利にたいす

64

る自覚と要求を抑えていく考え方がつよく表明されている。批判的な態度を非難し、権利よりも義務、自由よりも

責任を強調し、

「他人のために尽くす精神」、

そのための「自発的精神」を強調する。それは今日の政治反動にた

いする勤労国民の根源的自由や権利のための抵抗が悪とされ、それに従順にしたがわせるための「義務」や「責

任」の強調が意図されているとみるほかはない。

そして、

社会人として

「社会の生産力を高める」

ことによって

「自己を幸福にし他人を幸福にすることができる」から「社会奉仕の精神」によ

って

「仕事に打ち込め」と要求し

ているのであるが、そこでは資本主義世界において日本が高度な生産力をもちながら労働者の賃金だけとってもア

メリカの七分の一、

イギリス、ドイツ、

フランスの半分以下であるという事実は無視されている。そのことに文句

をいわないで「仕事に打ちこむ」ことが要求されているとすればやはり問題である。

このような内容を、

「家庭を愛の場、

いこいの場、教育の場」にせよとか、

「個性を伸ばし、自己を大切にし、

強い意志をもち、畏敬の念をもて」などといった言葉でかざりたてても、総体的には、今日の社会的現状を肯定し

て不服をいわない人間、そのような心理的状態をつくり出すことが重要なねらいの一つになっているといわざるを

えないと考える。

勤労国民大衆にとって、今日、家庭が家庭らしくなく破壊され、個人の尊厳がおびやかされ、退廃文化に侵され

ている状況とのたたかいはきわめて重要な差し迫ったたたかいである。しかも、それらは、明白に勤労国民大衆が

自ら生み出した状況ではなく、逆に私たちはそのような状況をなくしていこうと

Lているのである。しかし、

一「

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間像」では、

「日本人のもつ社会道徳の水準は、遺憾ながら低い」、「享楽に走り、怠惰になって、自己の健康をそ

こなうこ

とがあってはならない」、「民主主義には混乱がある」などといって、

あたかも勤労国民大衆にその責任が

あるのだというようないい方までしている。それは、生活や権利につ

いての要求を抑えつけ、そのために、

現実の

困難な問題の責任を自らの心がけの不十分さに求めさせ、さらに、

「聖なるものにたいする畏敬の念」、「真の宗教

的情操とそれに基づく真の幸福」までもちだして、国民大衆の自覚と闘争をねむりこませようとしているといわざ

るをえない。

このような思想的状況、

心理的状況をつくりだすことにより、軍国主義の復活強化の、

一つには経済的基盤を形

成し、

一つにはその精神的基盤をつくりだしていくことが大きなねらいになっているということを指摘しないわけ

今日の教育の反動化 ・軍国主義化

にはいかない。

「民主主義」の名による反共

・反社会主義

それから、

「民主主義」の名による反共主義、反社会主義が表明されて

いる。

「民主主義の概念に混乱がある」

「自由な個人の尊厳から出発して民主主義を考えようとするものと階級闘争的な立場から出発して民主主義を考え

るものとの対立がある」などといって、労働者階級がその階級的立場から、その生活や権利のために要求し行動す

ることが反民主主義であるかのようないい方をする。今世紀に入って、とくにファシズムの暴圧を経験した第二次

大戦後においては、労働者階級の存在と、労働運動を基本的に肯定することなくして本当の意味で民主主義を守る

65

第一章

ことができないこと、そして、反ファシズム闘争において一番勇敢にたたかったのが労働者階級であった歴史的事

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実を故意にゆがめようとしている。

また、

「法的手続きを無視し

一挙に理想郷を実現しようとする革命主義:::それと関連する全体主義」ではない

66

のが「民主主義の本質」であり、今日の日本は「世界が自由主義国家群と全体主義国家群の二つに分かれている事

情」に影響されて、民主主義の理解に混乱があるとする。それは社会主義をめざす日本社会党や日本共産党、総評、

日教組などの労働組合の幹部たちが、法的手続きを無視した暴力主義的革命主義の立場、全体主義の立場をとって

いるかのようにこれがうけとられる書き方になっている。私たちは今日、平和主義・民主主義の立場にたつ今日の

憲法擁護に一番真剣に努力しているのがこれらの革新政党や労働組合であることをよく知っている。

このように「人間像」は、革新政党や労働組合などの、外国の危険な軍事基地も軍隊もおかない、独立した平和

で安全な日本、民主主義と基本的人権が尊重され、豊かな生活をめざすたたかレを

「民主主義の本質」を破壊する

ものであるかのようにいレ、社会主義が「全体主義」であるというようないい方をしてこれを敵視するという立場

にたっている。そして、そのような立場が青少年に上から一方的に押しつけられることに私たちは大きな危険を感

ずるのであるc

5

その本質は明らかである

手続きや形式においても、また、その肉容においても、以上のような諸特徴と基本的性格をもっこの

文書は、

言でいえば今日の段階における教育の反動化と軍国主義的人ザつくりの青写真としての意味をも

ってレるc

一見して、

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戦前の教育勅語などとちがってきわめて露骨ないい方で国家主義や軍国主義を強調してはいないι

のみならずト

「平和」、「民主主義」などの言葉の強調さえみられる。しかし、それは、平和と民主主義を否定するものにたいす

る批判的勢力やたたかう力の戦後の一定の高まりを考慮してのことであり、またすでにのべたように彼らの一方的

な「平和」

「民主主義」の押しつけである。私たちは大国主義的な、

一方的な「平和」

「民主主義」の押しつけの

端的な事例として、

「平和」

アメリカのベトナム戦争が

「共産主義

・全体主義の侵略」

にたいし南ベトナムの

「民主主義」を守るためだといってジェノサイド(民族皆殺し)戦争が今なおつづけられていることをよく知って

るD

そのだし方はいわば「近代的手口」がとられているわけであるが、その意図や本質をみぬくことは少し注意深

くみれば明らかである。

今日の教育の反動化・軍国主義化

一方では、この

又書が

「教育課程の審議」に具体化され、教育政策の反動化に具体化されていくことが明らかに

されている。教育課程の改定については後に明らかにされるように、「時代の進展」、「わが国の国際的地位の向上」

すでにみたような政界、

財界、

の結果として必要な「改定」が進められ、

自衛隊などからの

それにたいしては、

「要請」、「支援」が表明され、反動化と軍国主義化の方向に拍車をかけてきている。

「日本も原爆をもって三

O万の軍隊でもあれば:::」という「倉石発言」を佐藤内閣は不当であるとは認めなか

ったし、逆にそれを擁護しぬこうとさえした。もっとも最近では、増田防衛庁長官が長崎で自衛隊員に訓示し、

「天皇は国の元首とした方がよい、自衛隊員は天皇の

グおおみたからd

として国民に信頼され、愛される隊員にな

章第

れ」とのべた。これも政府は不当であるとはしていない。

「期待される人間像」は、そのような反動化と軍国主義化の

エスカレ

lションのなかで、それにみあって教育の

67

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内容や方法にまで国家主義、軍国主義の強調を反映させる憲章的文書である。同時に、抵抗なく国家主義、軍国主

68

義の強調をうけいれ、すすんでそれに同化しやすい資質をもった人聞をつくるための、必要にして十分な内容をも

りこんでいる。憲法や教育基本法を一応「肯定」する高坂正顕氏自身が、この文書は、五箇条の御誓文に「気持ち

からいえば近いものです」といい、また、

「軍人勅諭のようなたぐいのものを念頭におかれたかたもおありだった

ろうと思うのです」などといっていることのなかに、その本質は端的にしめされているといえる。

「期待される人間像」

の期待する子どもの物のみ方・考え方

-|「二十一世紀の日本」入選作品集から

1

「二十一世紀の日本」入選作品集

一九六七年の九月、

第二学期が始まるとすぐ、全国の国公私立の小・中・高等学校の各学級に

コ一十一世紀の日

本」入選作品集1

1作文・図画・高等学校論文ll(内閣編)という冊子が配布された。これは、政府が「二十一世

紀の日本」に関する作品を全国から募集し、入選作品を収録したものである。

作品募集の趣旨には、

「国家の偉大な発展と民族の豊かな繁栄は、現在の創造的努力と献身の成果を未来に実ら

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今日の教育の反動化 ・軍国主義化第一章

せることにありますむ:::われわれが

愛する固と民族は、今世紀において、

大いなる試練にたえ、たゆみなき努力

とたくましき前進を重ねて来ました。

「二十一世紀の日本」入選作品集

国土建設、教育文化、科学振興など各

方面における輝かしい成果は、すべて

新しい世紀への道標となることを信ず

るのであります。

:::われわれの現在

の力を偉大な二十一世紀への展望に導

くために資質高き日本人の知性と意志

を喚起しなければなりません。その潜

在的エネルギ

ーのすべてを傾注し、わ

れわれの子孫のため、豊かな平和と繁

栄を創造することが必要です。

め明治百年を記念して国民自身の手に

このた

なる『二十一世紀の日本』に関する作

品を募集し、わが民族の誇り、国土の

69

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尊さ、国を愛する心の酒養に資しようとするものであります。」(傍点は引用者)と書いてある。

70

この冊子には小中学生の図画二二二点、小中学生の作文二ハ点、高校生の論文三点が収められているが、それは今

日の小中高校生の物の見方、考え方の一つの代表でもあり、なかんずく文部省などの「期待される人間像」、「子ど

も像」、「教育観」を具体的に示しているものとして興味深い。しかも、この冊子は全国の学級に無料で配布され、

子どもたちが読むことを期待されているものである。そこには、

「期待される人間像」の期待する、

日本の歴史百

年の「発展」についての認識、世界と日本の現状についての理解、将来の日本社会の在り方への展望と考え方につ

いての子どもたちの認識や考え方とその在るべき姿の一つの典型が示されているとみることができる。

2

高校生論文の

「明治百年」と「愛国心」・「大国主義」

文部大臣賞論文ー

l「日本の道」

「明治維新以後の日本の道はどのようなものであったかを、私達は大戦の必然性と戦後の民主主義の本貨を理

解する為に知らなければならないのである。

:::今は明治維新の本質的な歴史的意義を知る姿勢をもって百年目

を迎えるべきである」。

「まず当時の世界情勢を鑑みて見ると、帝国主義の発展により先進諸国の虎口を集めていた日本が、何れかの

属国化又は植民地化されずに、前近代的社会の態勢を脱皮しつつ、経済的文化的に一流国となる事は不可能な情

勢であった。:::所が、

日本はそのような危険な情況にもかかわらず奇跡的な改革に成功したのである」。

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「近代国家には二つの柱が必要なのである。つまり、自由、民主主義(精神面)への下からの意志と経済力(物

質面)である。

先進国は自らの改革の繰返しの内に自由の思想を得、次の段階として物質的条件を満足すべく植

民地主義を推進したのである。後進諸国は植民地化され、虐げられ、そして反抗する過程によって自由を求め始

め、その血と汗とによって近代化を果たすのである。こうして彼等は独立後、物質的近代化を現在進めている、

と、このように私は近代史を解釈すべきだと思って

いる。

」の史観に立つと、

日本の近代化は他国と逆の過

程を辿っていると言う事になる。明治維新はまずその目標を、富国強兵、すなわち物質的基礎の成長においたの

である。結局植民地化をまぬがれんが為に、

ともかくも軍事力、経済力の充実を必要としたので、明治の志士達

は物質面にすべてを優先させてプログラムを進行させたのである。独立を保つての近代化には、こ

のように精神

今日の教育の反動化・軍国主義化

的近代化の代償を必要とした点を忘れてはならないのである」c

「結局太平洋戦争は明治社会のひずみの精算として、新しく精神的改革への一つの契機として、意義づけられ

るのである。私はそれ故に、戦争の体験は決して愛国心を否む事は出来ないし、明治以来のプログラムを中断さ

せることも許さないのであると考える。戦争は新日本の再スタートの為に必然性を帯びて勃発したのである。数

百万の人々の死は決して犬死ではなく、私達が生かし、闘の土台とすべき貴重な死なのである。私達は一

日も早

く住みよい社会を作り出す為、国家という枠内での自由の認識への努力を始めなければならない。真の愛国心は

その行為の内に無意識に、わき起って来るに違いないのである」。

第一章

「国民皆が広く、何らかの形で(明治百年記念事業に)参加すべきであり、:::日本を見返す態度を盛り上げ、

他人への文句でなく、自分が何をなし得るかを考えるのである」。

71

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無謀な戦争をもやむをえなかったとする歴史認識

72

少し長く引用しすぎたが、これは、文部大臣賞を与えられた東京の高校三年生の「日本の道」と題する論文から

である。彼は、

「日本人の道義的低下と社会的きずなの混乱」の「慢性化」を問題としてあげ、

「その混乱は::、

宗教心、

モラルの喪失、教育、民主主義の問題等種々考えられる」が、それらは「いずれにしても戦争を契機とし

ている」のであり、

「直接に統一の為に不可欠なものとして、始めに愛国心」をあげる。

私たちはこのような主張のなかに「期待される人間像」の提言との類似点を多くみるのだが、彼はさらにいう。

「日本人は戦争という体験の為に、

愛国心の正しい認識を避けようとして」いるが、

「:::国家の

一国民、としての

自覚に満ちている人には、

いっとはなしに心の中に祖国への愛着心がわいて来るのも自然な現象ではないだろうか。

:::もう一度私達の圃を見かえし、愛する必要を感じる」。

そのためには、

「歴史という過去によって現在の姿

を正しく知る事から始めなければならない」として、以上に引用したような考え方を展開しているのである。

その考え方によれば、明治百年を迎えるに当り、明治維新の歴史的意義を日本の「近代化」の観点で明らかにす

べきであるとし、明治維新は日本の近代化の上で物質面1

1

経済力・軍事力

llの強化が必要とされたので、精神

面||A自由ーーでの近代化は犠性にされた、これは止むを得なかったとする。第二次大戦はこの精神面での近代化

として必然的におこったのであって、その犠性となった数百万の人々の死は犬死ではなく、

いわば、近代化の一つ

の段階であるから、今日、

国家の枠内での自由への認識111精神面での近代化lliを進めることが彼らを犬死にさ

せないことであり、それは明治維新から始まる日本の近代化を進めることである、その中から真の愛国心が起って

来るにちがレなレ、

といっている。

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そこには、

「明治百年は日本の近代化の急速な発展であり、今日も国家の枠内での自由を推進することによって

その課題を負わされている」という考え方があり、日清、

日露の戦争から太平洋戦争までの日本帝国主義の侵略戦

争、天皇制政府による国民の権利や生活への苛酷な抑圧という歴史的事実が真正面からみつめられようとはしてい

ない。

だから第二次大戦が日本の精神面での近代化の必然性を帯びて勃発したという不思議な理解になるのだと思

「数百万の人の死は犬死ではない」とはいうが、数百万の尊い人命が失われた

ことに無謀な戦争の悲惨さを、

この高校生は真剣にみつめようとはしてない。そうだからひとつも迷うことなく精神面での近代化プログラムを国

家の枠内の自由として進めることは、国家の一員としての自覚から生まれる祖国愛によってであるという、

「近代

化」のための祖国愛を強調する。

今日の教育の反動化・ 軍国主義化

与える国「日本」の使命をとくグ大国主義。的認識

彼はまた、つぎのようにもいっている。

「日本は物質文明の面はA-A諸国中、唯一の一流先進国の水準に達しており、そこに日本の期待はかけられ

ているOi---かつて、英国による植民地支配は、後進国の近代化において精神的成立条件を満たした。

今後、日

本の経済技術協力によって、物質的成立条件は整えられて行くのだと私は確信する。海洋国としての日本が海外

に飛躍する道に障害となるものは何もない。これは日本の歴史、否、世界史の流れにそう道であり、

日本もこの

点目平第

行為の内に、精神的に何らかを吸収し、発展の一助と出来るのである。:::我々若い世代は大いに海外に飛び出

す必要がある。工業技術固としての日本の独立経済の為にもこれは不可欠であるが、それに加えて海外から日本

73

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を振り返り、見直すという行為は、若い愛国心の健全な助長となる:::」。

「コミュニケlションの問題もあろうが、

日本から海外へほとんど文化的な影辺聞を与えていない点は考えてい

74

い事である。現代の西洋の物質文明は、その行きさつまりを東洋の精神文化に求めて来つつあるが、

その為にも私

達の独創文化をはぐくみ、世界に拡めるべきではなレだろうか。」「しかし、

一つだけ忘れてはならない心がまえ

がある。最近時々見受けられるのであるが、原地人に対し妙な優越感を持ちたがる連中がいるようである。うら

がえせば、欧米人に劣等感を持ちやすい事にもなるが、

こうした人種的偏見が日本人に共通の悪い性格だとした

ら、今後国際人としての私達の命取りにもなりかねないのである」と。

もとよりこれはまだ国際問題も政治、経済、社会問題にも十分な認識をもてない高校生の論文ではある。しかし

ここには、軍事力・

経済力などの強大な国が支配的地位にたって他国や他民族の真の独立

・平等の立場を認めずに、

自国の立場や主張をおしつける大国主義、そういうことに事実上なるような考え方や思想がありはしないだろうか。

ベトナム戦争に代表されるようなアメリカの侵略と干渉は、現代における大国主義の典型であるが、池田内閣以来

の「日本大国論」の考え方と主張に示される大国主義的な思想が、この高校生の論文のなかに現われているといえ

立、ご}つV1ノ、9

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また、植民地支配や帝国主義的侵略を「後進国」の近代化の精神的成立条件であったとかんたんにいってしまえ

る考え方、さらに、経済技術「協力」という考え方のなかに日本の巨大な独占資本の政治・経済の両面にわたる対

外進出(侵略)

の方向を無条件に肯定してしまう考え方が潜在していないだろうか。

「妙な優越感」を持つてはい

けないと「心がまえ」を高校生らしくのべてはいるのだが、

「日本の独立経済」のために「海外」へ出ていくこと

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が不可欠であり、それが「後進国の近代化の物質的成立条件が整えられていく」道である、

という考え方は、独立

と平和、社会進歩のためには「死かそれとも独立か」として民族の解放をたたかってきているアジア・アフリカ諸

国の人民に受けいれられる考え方であるだろうか。

「安保体制下の日本」の現実をみない平和認識

彼は最後に平和の問題をとりあげて次のようにのべている。

「戦争の悲惨さを今更私が聞いた風に述べてみても始まらないだろうが、その為に戦争を行なったという事実

を珠更卑下し、過去の世界を振り返る仕事を怠るとしたらどんな結果を呼ぶ事、だろうか。あの戦争の責任がすべ

今日の教育の反動化・軍国主義化

て、当時の日本の指導者にあったからだとかたづける見方は愚である。彼等を誰と入れ替える事が出来たとして

も、多分同じ運命をたどらねばならなかっただろう。歴史の要求が常に人聞を作るからである。:::そこには決

して、正義ゆえの勝利だの、邪悪ゆえの敗北だのはあり得ないのである。:::平和の意識を芽生えさせる事を人

間性の進歩の為の土台としなければならない。

:::その意味からも、日本は原爆被災の体験を基にした平和を、

民族の責務として世界にアピ

ールするべきだと思う。;::例年の原水爆禁止大会も、すでに当初の純粋な願いは

何処かに行ってしまい、政治運動に利用され一般の関心は薄れて来つつある」。

「現時点としては、

日本はあらゆる武装を放棄すべきだとは一概にはいい切れない。

:::なぜなら、日本が平

ヰ日十第

和の中にひたっていられるのも、国際勢力の複雑な均衡にうまく調和しているからであり、完全な独立で平和を

守っているわけではないからである。レうなれば自衛隊の存在は必要悪であり、これを必要とさせる人類社会共

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通の罪なのである」c

76

ここでも、

第二次大戦に代表される日本帝国主義者の侵略戦争、そのためにたくさんのアジアと日本の国民が犠

性にあった問題の本質的理解がなされようとしていない。世界の平和を回復することへの日本国民の民族的責務が

いわれでも、そこが少しも理解されないから、いわゆる「優等生」

的作文以上に実感がこもってこないのである。そして、

「あの戦

九大に米軍ジェ・y 卜機墜落一一安保体制下の現実

争を行なったことをことさら卑下」してはいけないとか、戦争責

任は当時の指導者にあることを問題にすべきではないとか、

し、

ペコ

ているところは、それが文部省が賞する高校生の論文というだけ

に、私たちは注目しないわけにはいかない。

波士、jyv また「日本が平和の中にひたっているのは国際勢力の複

雑な均衡の上にあるからで」

「自衛隊の存在は必要悪である」と

いう。そして日本を戦争にまき込む危険があるとして今日の国民

的論議の焦点になっている「日米安全保障条約」の問題、沖縄の

基地をはじめとする米軍基地や在日米軍と自衛隊や韓国軍の合同

演習、それに原子力潜水艦の「寄港」問題、ベトナムで

のアメリ

カの不法な残虐な戦争と、

日本がそれに大きく加担協力している

現実などにつレては、高校三年生であるのに素朴な疑問さえもた

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ず、目をつぶって何もいおうとしない。それが文部大臣賞受賞論文となって全国的に配布されていることに私たち

は大変危険な問題を感ずるのである。

貫かれた「官制」物のみ方・考え方

」の高校生の論文は、

「明治百年の意義」を教室やマスコミなどで教えられたとおり賛美し、戦前の帝国主義侵

略戦争に少しの反省もなく、反動と軍国主義復活を抵抗なく受け入れるであろう

「愛国心」が語られ、今日の政府

や自民党、

巨大な独占資本の「偉い人たち」がうちだしている「大国主義」

的考え方、

さ会」の

「期待される人間

像」的考え方がもっと素朴で正直ではあるが大方そのまま書かれていると

いっていい。この冊子のなかの、小中学

今日の教育の反動化 ・軍国主義化

生の作文にも、そのような観点にたって書かれているものが随所にみえている。

「長い歴史のある国である日本は、世界の国をあいてに何ぺんか戦争もしてきた。そして戦争のおそろしさ、

つまらなきも経験した。こんな歴史や経験をもとに、平和なよい日本をつくりたいものだ。戦争の時、

日本人は、

ほりょになるより命をすてるほうがよいと、死をえらんで死んでいった。特別攻げき隊は、自分から日本の国の

ために死んでいった。ぼくは、

ほんとうに祖国のためを思って死んだのだと思う。なにがあろうと、祖国を愛し

て死んでいった人におくゃみをいい、ありがとうをいわなければならない。:::今、

日本は平和を守る国になっ

ている口だが、

よその国が攻めてきた時は戦って国を守ると思う。日本人は祖国を愛しているからだ」(小学校六

第一章

年生)。

ここでは戦争の恐ろしき、平和への願い、犠牲になった人たちへのおくやみが小学生らしいすなおさで語られて

77

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はいる。しかし、「日本が平和を守る国になっている。だが、よその国が攻めてきたときは戦って国を守ると思うc

、、、、、、、、

:祖国を愛しているからだ」という書き方のところに問題を感ずるのは私たちの思いすごしであろうか。

78

いま一つ紹介しておこう。これも今日の高校生の書いたものだとあまり考えずに読みとばしてしまえば、あるい

は問題を感ぜずに読めるものであるかもしれない。

「祖国日本を正しく認識しよう1

1幾つかの指標をも見ると、

日本が決して小国ではないことは事実である。

ライシャワー前駐日大使が帰国後学会で学究者として日本を評価し『もはや大国である』と指摘したのは単なる

社交的発言であろうか。

日本人としての誇りをもとう111日本人の頭脳は単なるモノ真似でなく今や技術を導入し、市場製品を改良し

て、逆に本家の海外資本に迫る製品に仕立てあげるグエンジニアリングd

という優れた頭脳となっていることを

誇りとすべきであろう。

世界の平和的前進に果す日本の役割||i東と西のかけ橋、東でもなければ西でもない広大なアジアにあって、

その市場性と資源と工業力を組み合せた場合の実力はすでに高く評価されており、:::アジアの指導国としての

地位は、東と西のかけ橋としての役割を課されている:・

南と北の要|

l後進国にとっては、

日本が世界有数の工業国に発展したことは、

ひとつの教訓にもなり、:・

後進国の工業を助長させるためには、後進国の工業製品を輸入し、それ以外の高度技術製品を後進国に輸出する

方法をとらねばならない。このような北と南の経済交流こそ日本が中軸とならねばならない積極的な役割が謀せ

られてレるのである」(高校三年・二年生)。

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私たちも日本が小国ではなく世界的に発達した工業国、発達した資本主義国だと思っているむしかし、なぜ大国

だ、アジアの指導国だと戸を大にしていわなければならないのだろうか。そのことだけでアジア諸国の指導国にな

ぜなれるというのだろうか。そして、その上にたってこの高校生はすなおにアジアの後進国の援助、東と西、北と

南のかけ橋たる日本になることを使命感をもって語っている。しかし、くり返しいうことになるが、独立と平和、

社会進歩と生活向上のためにたたかっているアジア諸国の人民はこれをすなおにきくには帝国主義的植民地支配が、

今日の新植民地支配がなにを表看板に

いい、

実際にはなにをしてきたかを歴史的に体でもって知っているし、戦前

の日本帝国主義の苛酷な侵略と収奪の事実を決して忘れていないのである。そして私たちは「期待される人間像」

の「世界に開かれた日本人であること」の要請、

とくに「与えられる国から:::寄与する国にならなければならな

今日の教育の反動化・軍国主義化

い」という言葉がこの高校生の「一生懸命な使命感」をもって語っていることに具体化されているとすれば、この

ような論文を書かせている今日の教育、そしてそれを政府受賞作品として全国的に

PRしていることにやはり危険

な問題を感じないわけにはいかないのである。

3

「二十一世紀の日本」と「期待される人間像」

パラ色に描かれた「新世紀の展望」!ーその中心は福祉国家論

この冊子には、将来の日本の社会と国民生活のあり方についての「展望」が語られ、それに向

ってどのように努

ヰ早第

力していくかについての考え方がのべられている。そこには、余りにも手ぱなしの現状肯定とパラ色の将来が画か

「期待される人間像」のひきうつし的な思想や考え方が基本になっているといわざるを

79

れ、政府の政策を支持し、

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えない内容になっている。それをもう少し具体的にみてみよう

D

ある高校生は、新世紀の展望llA政治、経済、社会!

laについて次のようにのべている。

80

「議会政治のよさは依然として形を変えはしなかったが、

議員の自覚に伴って、政党とか選挙区等の組織の上

に大きな変化があった。宗教関係の極く少数をょうするそれを除いては政党は事実上発展的解消を遂げたのであ

る。その原因は、世界平和の確立によって、

イデオロギーの対立がみられなくなったこと、蓄積された富の公平

な配分によって、国民相互の利害が一致したことがその主要なものである」。

「社会主義にしても、少しずつ自由の意識をはぐくんでいくべきである。資本主義国も社会主義国も、目標は

同じ空の下に通じるものであり、多少その道程が異なるだけである口:::こうした資本、社会両主義の欠点を是

正し、歩みよった形の社会が今後の傾向になるのではないか:::」。

また一人の中学生は次のように書いている。

「経済は、現在、こまってい

る人々のために発達し、貧困ということは、もちろんなくなる。そこでは、

経済

の自由と平等がみごとな調和を保っている。自由による、景気の変動もない。だから、安心して働き、生活でき

る。そして、悪平等による画一もない。人それぞれに応じた環境が、その人のまわりに展開する。そして政府は、

QJ108仏位認

をモットーに政策をすすめていく。科学の発達は、それを可能にする。そのため、福祉事業は高

度なものになり、人々の生活は、内面的に発展していく。また、

いつの世でも、その中に中心となるべきなにか

がある。江戸時代の武士、明治時代の天皇、それと同じように、その社会でも、中心的存在ができるだろう。ま

た、仕事によって社会の基礎をなすものや、少数の人々しか携わらないものもできるだろう。ちょうどピラミツ

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ドのようなものを、しかし、どの位置の人も自分の自由を考えたときに、適当だと思えるような、社会でありたい」。

」れらの考え方に共通してあるのは、将来の日本社会は

イデオロギーの対立をこえ、資本主義と社会主義の欠

点をなくした社会、

いわば「社会福祉」の徹底した福祉国家になるという点である。

福祉国家イデオ

ロギーの反映

現在、わが国の政府や財界の指導者たちは、

「社会主義には自由がない」などといって、

資本主義制度をひたす

ら美化する。そして「経済が発展すれば貧困がなくなる」、「産業基盤を整備し、社会資本を充実させ、国庫の財政

が豊かになれば社会保障も行きわたる」などという。そして、社会保障や

「完全雇用」などによって「社会福祉」

今日の教育の反動化・ 軍国主義化

を増大させ、国民の真の幸福が実現できるという「福祉国家」なる考え方をうちだしてきでいる。しかし、世界で

第三位の国民生産力をほこることになったわが国に、貧困がなくなり、社会保障が充実し、完全雇用が実現してい

るだろうか。国民総生産の高度成長をほこっても、国民ひとりあたり所得が世界二一位であることにできるだけ眼

をむけさせまいとしているのが今日の政府や財界の代表者たちのやり方である。わが国の七・六倍も経済が発展し

ているというアメリカにおいても貧者の行進や黒人暴動に象徴されるように事態は同じである。そのような政策は、

だから豊かな生活と真の社会進歩をめざす国民の要求とは事実の上で対立している。今日のイデオロギーの対立問

題もそこからでできているのである。

章・

だから「蓄積された富の公平な配分」、「経済の自由と平等がみごとな調和を保ち、自由による景気の変動も、悪

平等による画一もなく、

安心して働き、生活できる」といった考え方は、現実を直視しない罪もない空想的おとぎ

81

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話だといえばいえるロしかし、これはただのおとぎ話ではない、政府や自民党が中心になって大がかりにすすめて

きている福祉国家のイデオロギー、

「人間像」の

「社会福祉に寄与する」という提言に応じさせられてレるのだと

82

いう見方でみれば、やはり今日の教育のあり方の問題としてみのがせない

ことだと思う。

一人の小学校六年生の子どもは次のように書いている。

「ぼくの生れた草深い田舎だけでも百五十ヘクタ

ールの耕地がある。

一ヘクタ

ール当り

0・八人の労力が必要

だったのが、もう

0・0五人でよいのだ。だから十分の一に減っても不思議ではない。原子力の平和利用はあら

ゆる産業に行き渡り、

:::生産は上昇の一途をたどった。

日本中の人は、特に農村の人は、よりよい職場へ

と移った。

限りない幸福を約束されて:::。また、

魅力あふれる海外の地へは、

われもわれもと出かけた」。

この未来像には、農業「構造改善事業」を推進する政府の政策の上にたって教えられたとおり書いてるようによ

める。しかし、現実の農民とその家族の生活と労働は、政府の推進する

「構造改善事業」などの農業政策で破壊さ

れて

Lgている。

「日本経済の成長と繁栄」を宣伝する政府の下で、土地の少ない大多数の農民は出稼ぎ、

一家離散、

挙家離村、

八割もの農家が兼業でくらしを支えねばならないという状況がすすみ、耕作面積はふえるどころか逆に

減少し、外国農産物の流入のなかで、

その農業と農民のくらしの破壊が進行している。これは小学校六年生の書い

た農業と農民生活の未来像である。私たちは、多くの難しい日本農業や農民生活の問題を書くべきだといっている

のではない。これがあまりにも政府・自民党の政策や農林省の偉い役人さんたちのいっている

ことと酷似しすぎて

いる

ことを問題にしたいのである。

このような作文とちがって今日の長村の子どもたちの作文には、政府の農業政策の推進のなかで自分たちをふく

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今日の教育の反動化 ・軍国主義化章第

めた農民の生活や労働が破壊されていく現実を直視し、そ

のことを幼ない心で一杯に心配してたくさんのことを書い

ているものが無数にある。

「私の父は出かせぎにいっている。なぜ、出かせぎに

行かなければならないのだろう。私は父が始めて、出か

農民の生活や労働は破壊されている

せぎに出る時、『まま食いねでねし、行かねふてもいね』

といって泣いてたのんだのだが、父は出かせぎに出た。

始めのうちは、父がいないので淋しかったが、そのうち

なれてきて、父の帰りがたのしみになった。

しかし、

ぜ、親子そろってくらせなレのだろうと、さみしくなる

一人で考える。

:::でかせぎは、びんぼうのために行

き、社会のどこかがくるっているので、行かなければ生

活できない人がいるのだと思った。私は、どこの人も出

かせぎにいかなくても、親子そろっ

て生活できるように

なったらいいのになあーーセも、

どうしたらそうなるだ

ろう?」

「一俵一万円でなければどうしても

(小学生)。

くらしていけない

と農家の人々がいっているのに、政府

83

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はなぜ七千円というねだんをつけたのだろう。父や母は米を作る費用ゃくらしの費用など毎年赤字だといって困

84

っている。ことしも供出が終ると出かせぎに行くことになっている。わたしは一俵一万円だったならこんなに困

らないと思う」

(中学生)。

「専業農家が前の半分にへり、兼業農家がばい以上にふえました。農業一すじに生き

ることはむりになったからです。ぶつかのね上りや、ぜい金でお金がたりなくなるからです。:::米や農作物や

かちくが安くて、くらしていけなかったので兼業農家になっ

たのだと思います。:::機械やこやしを安くし、工

場で作った物を外国に売るとき、米や麦や豆や肉を買わないで、とくに米は外国からぜったいに買わないで、日

本の百しようが作ったものだけ、たべたらいいと思います。:::ぼくの家は百しようだけでくらしています。お

父さんは米が安いといいます。ぼくは百しようにとって、秋のかりとり、だっこくしてたわらにつめて、農協ヘ

もっていくのが、何よりの楽しみだと思います。だから米を高くするといいと思います:::」

(小学生)。

このような子どもたちの作文には、

家族の生活や労働、地域の現実を人間的な実感をこめてみつめ、暗い現実を

ひきおこしている原因を子どもなりにさぐり、それとたちむかつて現実を明るくしていこうとする物のみ方・考え

方が表現されていると私たちは思っている。多数の父母たちはこれに共感を感ずるにちがいない。しかし、今日の

文部省はそのような作文をけっして推せんしようとはしないのである。

「人的能力開発」ピジョンに即した教育観

私たちはさきの「新世紀の展望」のたかでの教育につ

いて書かれていることにもう少しふれておきたいと思う。

初等学校および中学校を義務教育とし、食費、教科書、文房具などが「半額国庫負担」である。

「中学校卒業生

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には本人及父兄。希望や在学中の成績を参考に、脳波反応による知能検査が行なわれて高等学校に入学するι:::

理工とか商経、法文等の将来進むべき道について高等学校は大別されているから、希望と適性検査の結果によって

その系統外の高等学校へ入学させられるようなむじゅんは起らない。:::大学へは厳選され、高等学校卒業生一割

程度の進学率である。入試はほんの参考程度で、

主に脳波反応による知能測定と、

電子頭脳による適格判定による。

:::大学の多くは単科となる実務

コlスと教員

コlスとが分たれた。教員養成は国家の大事業として重要な

一部分

であることがここにうかがえる。大学生が相当に圧縮されたのは、学歴というものがそれ程人間の価値に影響を持

たない社会となり、官公庁や企業でも学歴は地位や賃金の条件とならず、

多額の国費によって養成された大学卒業

生はそれ程多数を要求しなかったからである。」

今日の教育の反動化・ 軍国主義化

他の高校生は

この問題について次のようにの

ベる。

「経済発展と教育の関係は投資効率的に評価され、重要視さ

れるが、専門教育に分化し、高校まで一般教育を終了、大学では専門教育がなされるようになる。教育技術はエレ

クトロニクスの導入により、むしろ高度化と簡易化が同時に行われ、

家事教育、職業教育、科学教育は、理論より

方法の教授となり、教育設備の充実が学校評価基準となるに違いない。:::専門教育の徹底により、従来の画一教

育は改められ、人間能力重視によって、中学・高校・大学の三段階でコ

lスが分かれる。能力評価が優先するから

学歴による差別はなくなる」と。

ここでは「教育とはなにか」についてのべられていないが、以上の表現からうかがえるのは、専門的な知識や技

土日十第

術、技能を身につけることだというほどの理解であろう。前者の高校生によれば、将来の社会は、学歴が人間の価

85

値にそれほど影響をもたなくなるから、大学生は相当に圧縮されるという。後者によれば、

経済発展と教育との関

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係は肢資効率的に評価され、重要視されるが、能力評価が優先するから学歴による差別はなくなるとする。そ

こで

86

は多分、高等教育人口は将来いちじるしく増大するとは考えられていなレ。共通しているのは、経済審議会が

「人

的能力の開発」の将来を展望した時の考え方、

つまり、能力別コ

lス、多様化、

高等教育の専門化、

一部の

エリ!

トだけ養成する高等教育人口の縮小という構想(第四章参照)がひきうつしになっていることである。

今日の支配層は、教育は政治の外にたち、社会全体に奉仕するものであるなどといいながら、学校教育の制度と

内容、教育人口の質と量を自分たちの利益にもと守ついて編成している。少数者に科学と知識をあたえ、他人を支配

する能力と思想をやしない、多数者には従順な労働力としての知識と道徳を形成しようとする。そして、そこにも

ちだしてくるのは、

「能力差」

「適性」などの考え方である。能力とか知能とか呼ばれてい

るものが、実は人間の

後天的な獲得物の影響が決定的であるということは、諸外国の心理学者の意見や実験

・研究によ

っても証明されて

きている。

「教育の機会均等」は、

勤労者の子弟にとってはまずその経済的条件により、

また文化的な環境により制限され

るうえに、さらに、教育の制度や内容によって制限され、その要求にふさわしい教育を受ける道は大きく閉ざされ

ている

D

それを、そのまま、将来の社会に及ぼそうというのが経済審議会の構想であり、また、その考え方がこれ

からの高校生に、それは空想的な想像をともなって語られたものであるにせよ、つよく反映されている

ことは、教

育のあり方との関係でやはり問題にすべきだろう。

守司

教育の国家統制がもたらす認識のゆがみ

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との冊子のなかにはそのようなひきうつし的な考えがまだまだたくさんしめされている。

「教育と学問が進めば

みんなかしこい人になって、悪い人はなくなり、

みんな楽しく暮していけると思います。:::道徳教育もしっかり

できて、年寄りは大切にされるでしょう口今年初めて敬老の日が、祝日にきまって、おじいさんやおばあさんは、

大喜びでしたよといい、

集団生活を考えるべきであ

また「それぞれがもっ個性を大切にした明るい人間関係や、

る」、

そのためには、「家族の者が、

よく話し合い、明朗で健康な家庭生活を考えてみること」、「要は、話し合い活

動によって、生活の向上をはかり、人間関係を明るくすることだと思うよなどなど口

私たちはこれを書いた青少年諸君は純心で一生懸命に書いたのだと思っている。それゆえに、教育はとくに支配

者のイデオロギーの注入であってはいけないということをここでいっそう痛感するのである。

今日の教育の反動化・ 軍国主義化

社会福祉、豊かな生活、科学と教育などについて語られている

ことが、

「現実の生活を直視しなければいけない」

と言葉ではいいながらも、何と現実ばなれした抽象論と生活道徳によって満たされている

ことか。平和を強調しな

がらも、日本の重要な現実問題には少しも接近していない考え方などにしめされている。

最後に加えなければならないのは、民族的自覚の問題である。

「現在私達は、

日本語を母国語とし、

普通、英語

を第二母国語として用いています。ですから中学へ入った時から英語を一教科として学んでいるわけです。」、

通語教育がなされてから二十年後の世界!|教育の面では、言葉が統一されれば、世界各国の教科書を

一つにする

ことが可能です。標準のものを作ってしまえば、国による教育の差もなくなります。」

(中学校三年生)、

「今、世界

品且a

公司マ

LE--勿

は、二つにわかれている。そのうち、日本は、自由主義国だ。二十一

世紀には、世界の国民の心が

一つになって、

しー

(小学校五年生)、

「乱世紀初頭の日本の、し

そのうちの日本州となればいい

と思う。さて、日本州としては

「共

87

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かし、そのころは、

日本地区かもしれないが:::」(中学校三年生)

などの考え方。

88

これも子どもの空想といえばそれまでであるが、私たちは、現実に存在する帝国主義大国による他民族の抑圧と

新植民地主義の問題から目をそらし、国家や民族をこえた人類の連帯が可能であるという世界国家や世界連邦の考

え方の影響をこれらの作文から読みとらないわけにはいかない。今日の祖国愛や国防教育の強調は、このような世

界国家的考え方による幻想的平和論と結びついてだされてきている。そして、このような世界認識、歴史認識を今

日の教育が青少年におしつけてきている現実があるのである口この冊子にもそれが反映していると私たちはみざる

をえない。

ともあれ、この冊子に代表される高校生や小、中学生の考え方を、文部省の今日すすめている教育の国家統制、

反動化と軍国主義化の進行と対応させてみるとき、

そして、

」のような考え方をもたされる青少年がますます多く

なってきているであろうことを考えるとき、今日の文教政策と教育のあり方に私たちは重大な問題を感ずるのであ

る口

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W

軍国主義化をめざす教育の反動化の諸側面

以上にのべた三つの事実、すなわち、

日米共同声明と明治百年、

「国防、国家意識教育」の強化、

教育の反動化

と軍国主義化の憲章的文書としての「期待される人間像」、「人間像」教育が具体化された「二十一世紀の日本」に

しめされた「官制」の青少年の物のみ方

・考え方、この三者の内的関連はすでに指摘したとおりである。共通して

いるのはいずれも「平和」

「民主主義」などを言葉として語ってきていても、

憲法

・教育基本法体制下の平和、民

今日の教育の反動化・軍国主義化

主主義教育の諸原則とその理想を事実上たな上げし、否定する立場と内容のものである。しかも、そこには三者に

共通する反動的なイデオロギーが貫徹し、それが今日の教育に権力的に、乱暴にもちこまれてきているという事態

である。

それでは、そのような反動的なイデオロギーの教育へのもちこみを主要な特徴とする今日の段階での教育の反動

化と軍国主義化は、どのような諸側面をとおして、

全体として貫徹させられようとしているだろうか。それらにつ

いては後の各章でその一つ

一つについて事実にもとやついて詳述されるが、

」こで問題指摘だけしておきたいと思う。

章第

1

教育課程の改定

・教科書検定をめぐって

89

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まず第一に、教育の反動化と軍国主義化がもっとも具体的、集約的にあらわれるのは、政治的にも社会的にも反

動的で非科学的な諸観念を注入し、上からそれをおしつけてくる教育課程と教科書の内容においてであるコそれは、

、、

まさにその基本のかなめになるのだといってもよい。そして最近の教科書は、憲法第九条や自衛隊、また天皇に関

90

~ 3 る記述、

かつての日本の帝国主義戦争1

1太平洋戦争について

の記述などについて、すでに皇国史観的発想や戦争肯定の思想と

史観によって大きく書きかえられてきている。労働者が自らの生

「小学校教育課程の改定についての答申」

を灘尾文相にする木下会長

活や権利を守るために団結してたたかうという憲法や国際条約に

も確認されている正当な活動には、「労使の協調」とか、「公共の

福祉」とか、権利にたいする義務や責任という考え方が前面に押

しだされてきて、そのような運動じたいが不当ででもあるかのよ

うに書きかえられてきた。また、民衆の労働や生活を具体的に記

述することをできるだけ避け、また、歴史は民衆によってではな

くそのときどきの政権掌握者によって発展させられてきたのだと

いう書き方に変えられてきた。社会主義の現実と理想を書くこと

をなるべくおさえ、

「資本主義の長所を多く」書くことが指導さ

れてきた

D

総じて、かつての帝国主義戦争の、近代化前などの新

たな粉飾による肯定、天皇の地位の強化、国家意識の高揚、資本

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主義と経済発展の礼賛、基本的人権や労働者の権利の軽視、社会公共にたいする責任の強調、アメリカを礼賛し、

大国主義と被圧迫諸国や諸民族を機械的に「後進国」視する思想などが最近の教科書、教育内容の特徴であり、

れが教育の反動化と軍国主義化をおしすすめる有力なテコにな

ってきている。

もちろん、このような特徴は最近突然現われたものではない。教師の積極的な平和と民主主義のための教育のと

りくみにたいして、

「偏向教育」であるという弾圧を加えたり(一九五三年の「山口教組日記事件」、五四年の京都の「旭

丘中学問題」など)、

民主的教科書に「アカ」攻撃を加えて教科書を事実上固定化する必要を宣伝し(一九五五年民主

党の「うれうべき教科書の問題」など〉、

さらに、道徳教育の時間特設と学習指導要領の国家基準性と拘束性を強化し

(一九五八年)、

「教科書無償措置法」の名による教科書の検定、採択面での統制の強化を行なうこ九六三年)など

今日の教育の反動化・軍国主義化

の過程でエスカレートしてきたものである。今日の家永教科書裁判は、それとの対決の国民的たたかいとしてとり

くまれているわけである。

現在進行中の教育課程(内容)の「改定」は、すでに明らかにされている方針によれば、

「調和と統一」、

「生徒

の自主性、創造性」などをいいながら、

「国家への愛情」

「能力の多様性」などを強調し、国防と国家意識の高揚

と一部のエリートと大衆とを選別して、それぞれに一定の技術と学力、思想を獲得させていき、全体として軍国主

義復活への思想動員の大きな枠のなかにくみこんでいくこと、安上り労働力を育成し、巨大資本の要請にこたえて

いくことを主要なねらいとしている。

ヰ早第

民主主義的教育は、人間にたいする深い尊敬と戦争にたいする憎しみ、諸国民の友好を発展させる決意を子ども

の思想、認識、態度のうえに形成するものでなければならなレ。そ

Lて、

学校はときの政治権力の要求の道具、軍 円七

91

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国主義化の道具になったり、安上り労働力育成を要請する産業界の道具になってはならない。学校は青少年の精神

92

を堕落させる手段になっては決していけない。また、児童・生徒の能力を確認するだけに終わってはならないD

とりひとりの子どもの諸能力の発達を保障しなければならない。学校における協力と相互援助の思想と実践が生徒

の学習指導を通じて保障されなければならない。そのような原則を具体化するような教科書、教育内容であるかど

うか、学習指導要領の改定がそのような諸原則を事実上肯定するのか否定するのか、がきびしく追求されなければ

ならない。

2

教師の教育活動・組合活動への統制をめぐって

第二に、教育の反動化と軍国主義化は、教育を直接担当する教師とその教育活動へのさまざまな統制、これに抵

抗するものへの攻撃の強化となって具体化される。学習指導要領には法的拘束力があるとして教育内容や教材のと

り扱い、自主的で集団的な創意工夫をこらした教育活動や研究活動を抑制して、文部省が天下りにつくった学習指

導要領にひたすら忠実な教育、

また「職務命令」などによる天下り研修を強制し、各種の研究協議会と称する官制

研修会への出席を強要する。また、教師の正当な組合活動への圧迫は日常化され、組合活動ゆえの不当配転や昇給

延伸からその組合運営への直接の支配介入までが加えられてくる。さらに、教師はその市民的自由と政治活動の権

利をさえ大きく制限されている。こうして学校が教委111校長を頂点とするピラミッド型の官僚的な支配機構とし

て編成され、教師は、政府の一方的に押しつける教育政策を忠実に実行する現場担当者だとされ、その自主的活動

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を大きく統制されている。

最近、第五八国会で廃案となった「教育三法案」の一つは、

「教育公務員特例法の一部改正案」であった。それ

は政府の説明によれば「教員の勤務の特殊性から、

四%の特別手当てを支給するものだ」という理由をあげている

が、実は、教師を労働基準法の適用から除外し、

四%の手当てを支給することによって、現状の無定量の勤務を法

的に強制することを意図したものであった。それは教師の労働者性を制度上否定しようとするものであることから

「聖職者法案」と呼ばれた。

この「聖職者法案」に代表される教育労働者への統制は、きわめて多面的にすすめられてきた。廃案にはなった

が教職員を国家公務員としてその政治活動を大幅に制限しようとした「義務教育学校職員法案」

(一九五三年)、

今日の教育の反動化 ・軍国主義化

育の政治的中立を確保すると称した「教育二法」の強行(一九五四年)、

教師の自主性と組合破壊をねらいとする勤

務評定の強行(一九五八年t)、

さらに、

さきの学習指導要領の国家基準性の強化とそれにともなっての伝達講習会

や官制研修会の強制(一九五八年i)、

学校管理体制の反動化などがすすめられてきている。

そのねらいは、父母と教師を切りはなし、子どもにたいして権力的に対応する教師の姿勢をつくり、教師を政府

の天下り文教政策の忠実な道具に仕立てあげることであった。

一九六五年から六六年にかけての三回にわたる「小

尾通達」と称せられる東京都教育長の通達は、

「父母はあまりに目前の利害だけを考えている」、

「教育者としては

教育本来の姿や将来の日・本の姿を考えて教育を行う信念をもたねばならない」などといって、教師に政府の文教政

章・

策をひたすら実行することを強要している。

その能力を発見し発達させ、民主主義と平和、諸

93

本来、教師の仕事は子どもの個性、自主性、創造性を尊重し、

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氏族友好の精神で教育することであるc

そのためには、

教師自身が、完全な市民的権科と政治活動。自由を保障さ

れなければならないし、

とりわけ、

教育活動と教育研究の自由、教育内容の取扱いと教育実践における教師の主体

9-J

性、自主性が最大限に尊重されなければならない。教師は教材の選択と採用、教科書の選択、教育方法の採用など

について主要な役割を与えられなければならないし、新しい教育内容や教科書、教具の開発に参加し、生徒の評価

方法についても自由でなければならない。また、それらの自由と権利を実際に担保する教師の団結する権利が保障

されなければならない。これらのことは、

国際的に承認された

ILO-ユネスコの「教師の地位に関する勧告」の

なかでも明確に規定されている。しかし、

日本政府はこの「勧告」の実施にきわめて消極的である。それは、この

「勧告」の実施が、政府の教員政策をふくめての文教政策と真正面から対立するものだからである。

3

学校制度の反民主主義的改革をめぐって

第三に、教育の反動化と軍国主義化は、学校制度の局面にも鋭くあらわれている。学校制度の反民主主義的改革

は「後期中等教育の多様化」に集中的にしめされている。

一九六六年に中央教育審議会は「後期中等教育の拡充整

備について」という答申を文部大臣に提出し、

「高等学校教育の改革己と称して、

「生徒の適性・能力・進路に対

応するとともに、職種の専門的分化と新しい分野の人材需要とに即応するよう改善し、教育内容の多様化を図る」

とし、

それに応じて「中学校において生徒の適性・能力を的確にはあくする方法を開拓するとともに綿密に観察を

行ない、その結果に基づいて適切な指導を行なう体制を整備する」とした。そして、

「中学校における観察指導の

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結果を尊重するとともに、それぞれの分野にふさわしい適性・能力等を有する者を弁別できる

よう」

高校入試を

「改善」すべきことを提案している。

一九四五年から四九年にかけての一連の教育民主化政策のなかで、六・三制による、すべての進学者がそろって

入る高等学校、いわゆる単線型学校制度が、戦前の旧制中学校・高等女学校を除けば、

いずれも袋小路的な実業学

校が何本もならぶ反民主的な複線型学校制度にとってかわった。そして、戦前では中等学校

への進学率が僅かに

五%にすぎなかったのにくらべ、

一九五五年には高校進学率は五一%、

一九六七年には七五%をこえた。

」れは労

働者や農民をはじめ、子どもたちの明るい将来をねがう父母の要求とその努力の成果である。政府は、四九年頃ま

では「入学志望者をできるだけ多く収容するのが望ましい、

選抜は現状止むを得ない害悪で、経済が復興して施設

今日の教育の反動化 ・軍国主義化

が用意されれば廃止すべきだ」といっていた。しかし、国民の進学要求の高まりのなかで、

一定の中卒労働力を確

実に確保することを主要なねらいとして高校の志願者の八O%制限入学が行なわれた。また普通課程と職業課程、

進学と就職、つをり大きくはエリートと大衆を区別した高校コ

l

スを制度化し、

「国家社会の人材需要に

こたえ」、

「能力

・適性

・進路

・特性の多様さ」に応じて高校を「多様化」

し、

中学から高校を通じて差別と格美を制度化す

ることをめざしている。そこには若年労働力の育成確保と少数のハイタレントの育成と

いう今日の産業界1

1独占

資本の非教育的要求が反映されている。

この学校制度の反民主王詩的改革に

「理論的」根拠をあたえているのが「能力・

適性、進路・特性の多様さ」と

第一章

いう考え方であり、その「許制」制度として生徒の学業評価を七、二四、三八、二四、七の各パ

ーセントによって

5・4・3・2・1の上下にふりわける「五段階、相対評価」である。現実に、父母にしめされる

「通知簿」は必

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ずしも「五段階、相対評価」ではない場合がある。

しかし、父母の自には見えない、見ることができない「指導要

録」(戦前の学籍簿)には「五段階、相対評価」が記録され、それにもとやついて、高校進学のための

「内申書」

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調

査書〉が作成される。支配層が大衆を選別するにはきわめて都合のよい「評価方法」であり、それは「評価」とい

うよりは、

「選別」方法と呼ぶべき性質のものである。後述されるように今日のテスト教育、差別と競争の教育は

これによって迫車をかけられているといってよい。いずれの面からしても不合理で反教育的な性質のものである。

学校が、生徒の能力・適性をたんに確認するだけに終わってはならない。学校は教育の期間を通じて、生徒

一人

ひとりの能力を発達させなければならない。生徒の学習の進歩を正しく評価し、生徒にはげましをあたえ、生徒に

いかなる不公平ももたらしてはならないのが教育の仕事、評価の意味である。学校を準備するのは国家の機能でな

ければならず、

どのような学校と内容を準備するかは、第一義的に国民の要求にもとづかねばならない。

「国家社

会の人材需要の多様さ」というのは、産業界の要求という名による少数の独占資本の安上り労働力の要求にほかな

らない、ものである。

4

教育行政の中央集権化

・管理体制の強化をめぐって

第四に、右の教育内容や教師の自主的な教育活動、組合活動への統制、差別と選別教育の押しつけに対応して教

育行政の中央集権化、管理体制の強化が、教育の反動化と軍国主義化の重要な側面としてすすめられてくる。戦後、

教育行政改革の原則は、国民の国民による国民のための教育を実現するため、国家統制を排除する教育の民衆統制、

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今日の教育の反動化 ・軍国主義化

一般行政からの教育行政の独立と教育行政を教育目的遂行の条件

整備にあるとしたこと、ならびに中央集権による画

一主義ではな

くて、地方・地域の状況に即した教育を行なうこともふくめた地

自衛隊の学校への働きかけが強まっている

方分権であったが、

一九五六年の「任命制教委法」

(地方教育行政

の組織及び運営に関する法律)に

よって教育行政民主化の原則が否

定され、教育委員は任命制となり、教育長の文部大臣承認制、

教育予算の原案送付権の廃止、学校管理規則の制定、指導主事の

視学官化、そして文部大臣の都道府県にたいする措置要求権

・変

更命令権などを内容とする教育行政の官僚的中央集権体制がつく

りあげられた。また勤評の強行などとともに校長の管理職化、教

頭制の復活、校務主任の職制化、職員会議の校長諮問機関化など

の教育の現場にたいする権力統制をつよめる管理体制が強化され

ていった。最近問題になっている京都府の教育長の文部大臣承認

のひきのばしは、京都府での学校管理規則や勤務評定は民主主義

章第

教育にとって有害無益なものであるとする従来の方針にたいする、

慎重に」という自民党の教育正常化委員会と文部省の圧力等によるものである。

「京都府の教育行政は偏向しているので承認は

これは教育行政の官僚的中央集権化のあらわれの

ほんの一つの事例にすぎない。すでにのベた教育内容について

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t土

「監督庁たる文部大臣が教育課程の基準として公示する学習指導要領」に達反してはならないとして国家基準

をおしつけ、それを督励し、さらに基準を強制するために、その到達度をはかるとして、

一九六一年からは中学生

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にたいする全国一斉学力テストを強行した。教員対策その他の教育統制を強制するために、都道府県教育長協議会、

教育委員長協議会がその場として有効に活用されてきている。

教育にたいする官僚的中央集権化は大学管理制度についてもおよんでいる。大学と学問を反動化させ、支配層の

政策遂行に効果的に利用することをねらって「大学管理法」の制定を戦後再三くわだててきたが、最近の学生運動

と学園の一定の混乱にたいして「大学には自治能力がない」などといい、大学当局の「自主規制」をうながす一方、

大学の自治への学生の参加を否定し、教授会自治の内容を権力的に統制することをめざす反動的な「大学管理法」

の法制化の意図をすててはいない。

「教育が不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきであるという自覚のも

とに、公正な民意により、

地方の実情に即した教育を行うため」(旧「教育委員会法」)に設けられた教育委員会こそ、

憲法の趣旨を受け、その理想の実現のために教育に大きな期待をかけてつくられた「教育基本法」の精神にそうも

のであることは明らかである。自民党、政府、文部省などによる不当な支配とその制度化に反対し、

教育の自由と

団結の権利を守り、教育の官僚統制に反対する教師と国民の要求とたたかいは、いよいよ大きくもえ上がろうとし

ている。

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教育財政の貧困と父母負担教育費の増大をめぐって

さらに第五に、教育の反動化と軍国主義化は、教育費問題に深刻な事態をつくり出し、教育条件の地域間格差や

学校間格差を生じ、

とくに父母負担教育費の増大は低所得者層の生徒の教育にその事態をつうじて、教育上の差別

を結果として生み出し、

一方、教育財政の貧困とそれを引用しての教育の官僚統制の強化が促進されている。本来

無償であるべき義務教育が、

一九六五年度の文部省調査によってさえも、小学生一人につき教育費の父母負担が年

間二万九三八二円、中学生については二万八四一一円、さらに高校生については五万二二六六円にもなっている。

今日の教育の反動化・軍国主義化

一方、激しい受験競争のなかで「家庭教育費」はここ一

0年間に小学校で五倍、中学校で四倍、

高校で二倍にもな

っている。

「最近の父兄負担教育費の増加傾向は、必ずしも憂慮すべきではない」(文部省・わが国の教育水準・一九

「賃金が上昇したことの反映だ」などと新聞などではいわれているが、

低所得者層に

五九年)などといい、

また、

とっては収入の五%から一O%も教育費に支出しなければならない計算になる。大学進学になると、高給所得者の

子弟でないと進学をあきらめなければならないという実態が

つくり出されている。

また、

一九六八年度の文教予算も、軍事費、海外進出費、独占資本のための「公共」

事業費が最優先された結果、

一般会計の一一・八%増をはるかに下まわって八・九%増にしかすぎない

D

しかも、そのしわょせされた予算のな

章・第

かで、道徳教育の強化、生徒指導の強化、文部教研の強化、高校の「多様化」、「研究指定」という名の研究統制な

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どが重点として取り扱われ、

一方で、さきの聖職者法案といわれた教職特別手当て四%支給を見こむなど、予算の

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内容の反動化が特徴的である。

100

6

・自衛隊による学校への干渉・介入をめぐっ

最後に、教育の反動化と軍国主義化の露骨な具体的なあらわれとして、米軍や自衛隊による学校への直接的働き

かけや介入をあげなければならない。

一九五四年、少年自衛隊募集の開始いらい、自衛隊の学校への直接の働きか

けが強められてきた。

一九六二年、防衛庁は文部省にたいして、

「国の防衛について積極的関心を助長するような

教育内容」を具体化することを強力に要請した。最近では、増田防衛庁長官の「国防意識の強化」、「天皇を元首に、

自衛隊員は天皇のオオミタカラに」と

いう発言がある。

一方では中学校に少年自衛官募集に直接のりこんで、

「職業訓練」、

「技術の習得」、

「官費旅行」などを宣伝し、

あるいは就職難につけこんだり、

「非行」につけこんで隊員の勧誘に全力をあげている。また、夏休みを利用して

の体験入隊、運動スポーツの合宿施設に提供したり、

ヘリ

コプターを校庭にもち

こみ、ブラスバンドを学校や青少

年行事に提供したり、

高校に自衛隊宣伝映画をもちこんだり、予算不足につけこ

んで校地整理をやっ

たり、などな

どのさまざまな手段がとられている。

教育が平和のために貢献しなければならないこと、人間にたいする深い尊敬と戦争にたいする深い憎しみ、平和

にたいする愛を青少年の思想と行動のうえに形成していくこと、これが今日の世界の教育の普遍的原則の

一つであ

る。米軍

・自衛隊による学校への干渉は、

「平和的な国家および社会の形成者を育成する」という教育基本法の理

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念を乱暴に否定しようとする動きであるといわねばならない

b

7

教育の反動化・軍国主義化とのたたかい

以上、今日の教育の反動化と軍国主義化の現われの諾側面を明らかにしてきた。とりわけ重要な問題は、そのな

日本の青少年の思想や認識が混乱させられ、墜落させられ、全体としては、頭悩と心、手と身体がそれぞれ

ばらばらなものとして主体性のない人間として形成されていこうとしていることである。

かで、し

かし、このような教育の反動化と軍国主義化の攻撃が強化されるなかで、

日教組六

O万教師を中心に、教師や

今日の教育の反動化 ・軍国主義化

生徒、父母だけでなく、広範な民主的諸勢力が協同して、子どもと教育を守るたたかいに強力にたち上がっている

こともいっておかなければならない。このたたかいは、戦前とは比較にならないほどの量と質をもって、広がりと

厚みをもって発展してきている口このたたかいは、国民の期待と要求にこたえる学校教育をいちだんと深く要求し、

教育内容

・教科書の改悪に反対し、教師にたいする不当なしめつけと教育行政の官僚主義的中央集権化に反対し、

差別と選別の学校制度と指導要領に反対し、自衛隊や米軍の学校への介入を拒否し、勤務評定を廃止し、公選制教

委制度を復活し、教育予算の大幅増額と義務教育の無償を要求するいちだんと大きなたたかいに発展するであろう。

そして、それらのたたかいの発展は、

日本の平和と安全、民主主義と豊かな生活をめざす勤労国民の闘争と結びつ

第一章

けられ、教育の反動化と軍国主義化を打ち破ってレく具体的なたたかレとして発展するにちがいない

D

私たちもも

101

ちろんこのようなたたかいの立場にたっている。