「回数」と「持続時間」でみるメディア利用 - nhkseptember 2007 63 4....
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60 SEPTEMBER 2007
1. 回数と持続時間という指標の可能性通常,生活時間データの分析では,ある時
間幅に該当の行動をした人の割合を示す「行為者率」と,その行動に費やされた「(行為者)平均時間量」という2 つの指標を主に用いている。これらの指標によって,全体のどの程度の割合の人がしている行動なのか,平均でどの程度時間が費やされているのか,といったことのほか,時刻別の行為者率をみれば,行動のピークはいつ頃なのか,といったことを表すことができる。また,行動の「行為者率」に「行為者平均時間」を乗じて算出する「全員平均時間」は,集団の行動時間のボリュームを示す指標として,属性間や時系列の比較などに用いている。
このほかにも生活時間調査では,1日あたりの行動の「回数」とその「持続時間」という別の指標が考えられる。これらは,これまであまり分析・使用されてきた実績はないが,矢野(1995)は,これにあたる指標を「生起変数」と呼んでいる1)。矢野は,たとえば,「1日のテレビ視聴時間が3時間だとしても,連続的にみる3時間と非連続的に繰り返してみる3時間とは,視聴の性質が違うはずである」と考え,「生起変数」でみる行動の連続性と非連続性は,生活の姿
を特徴づける1つの視点になる,としている。これらの指標は,行動そのもの(回数が細
切れになる行動なのか,1回の持続時間が長い行動なのか,など)の特性を表すことも可能だろうと考え,メディア利用行動の「回数」と「持続時間」を実際に算出して,その行動特性の解明を試みることとした。「回数」と「持続時間」は,いずれも各調査票
のデータに戻って算出する必要がある。NHK国民生活時間調査の場合は,15分刻みの「時刻目盛り日記式」調査票に,あらかじめ設定されている各行動の,該当の時間帯に線を引いてもらっている。このうち,各個人が1日あたり,ある行動を行ったとして記入した線の数を「回数」,その1回あたりに費やされた分数を「持続時間」として,再集計を行った 2)。対象行動は,
「2005年国民生活時間調査」で調査したメディア利用行動,および「IT 時代の生活時間調査・2006」で調査した IT 関連行動に絞る 3)。対象曜日は,自由時間が比較的長い日曜日とした。
2. メディア利用の回数と持続時間2005年国民生活時間調査では,「テレビ」
「ラジオ」「新聞」「雑誌・マンガ・本」「CD・MD・テープ」「ビデオ」の6 つのメディアの利
調査研究ノート
「回数」と「持続時間」でみるメディア利用~生活時間の新たな分析の試み~
中野 佐知子
61SEPTEMBER 2007
用行動を調査している。まず,この6行動の日曜日の回数の分布を図 1に示した。なおグラフのパーセントは,各行動の行為者を分母にして計算している。
図 1をみると,テレビを除くすべてのメディアは1日「1回」の利用が最も多く,6~ 8割を占める。しかし,テレビは行為者の約半数が1日に「3回以上」見ており,他の行動と比べて突出して多い(行為者の平均回数は2.6回)。テレビは行為者率 9割と,国民のほとんどが見ているうえ,1人が1日あたりに見る回数もとても多い行動であることがわかる。また,ラジオも行為者の3~ 4割が1日「2回以上」聞いており,比較的細切れに使われやすいメディアといえる。逆に,新聞とビデオは8割前後の大多数が1日「1回」の接触である。
次に,1回あたりの持続時間の分布をメディア別にみてみよう(図 2)。ここでまず注目されるのは新聞で,「15分」が19%,「30分」が45% で,他のメディアと比べて持続時間が極端に短い傾向がある。回数も少なく,1日のごくわずかなタイミングで接触するメディアといえよう。一方で,新聞と同様に1回だけの接触者が大多数であったビデオは,持続時間は「1
~ 2時間」が39% とメディアの中で最も多く,同じ1回でも新聞より長時間の利用になっている。テレビは「3時間 15分以上」が14% とメディアの中で最も多く,回数が多いだけでなく,持続時間も長いメディアであることがわかる。
次に,テレビについて行動回数の時系列変化もみてみよう。国民全体でみると,テレビ視聴時間はこの10年で増加傾向にあり(1995年 4時間 3分→ 2005年 4時間 14分:日曜),国民全体の平均の1日あたりの視聴回数もやや増える傾向にある(1995年 2.4回→2005年 2.6回)。なお,1回あたりの持続時間もやや増加傾向である(1995年平均 101分→ 2005年 118分)。
しかし,この10年の回数の時系列変化を男女年層別にみてみると,男10~ 30代,女10・20代ぐらいまでの若年層で,回数が減少傾向にあるのがわかる(図 3)。実は若年層では,ほとんどの層でテレビの視聴時間がこの10年で減少している 4)。一方で,詳細なデータは省略するが,これらの年層での1回あたりの持続時間は,あまり大きな変化がない。つまり,若年層の視聴時間減少とは,持続時間が短くなって起きているというよりは,回数が減っていることで起きている,といえる。
図 2 メディア利用行動の持続時間分布(日曜・各行動行為者分母)
図1 メディア利用行動の回数分布(日曜・各行動行為者分母)
テレビ
ラジオ
新聞
雑誌・マンガ・本
CD・MD・テープ
ビデオ
行為者率
90%
12%
43%
21%
10%
11%
(%)1回 2回 3回以上
21 31 48
63 26 10
81 16 3
75 17 8
71 17 12
79 18 4
テレビ
ラジオ
新聞
雑誌・マンガ・本
CD・MD・テープ
ビデオ
15分30分 ~1時間 ~2時間 ~3時間
3時間15分~
152 26 14 1429
185 30 828 10
4519 28 6
0
5 30 41 18 4
1
6 23 33 23 7 7
1
12 39 1130 4
62 SEPTEMBER 2007
3. IT関連行動の回数と持続時間今度は,IT 時代の生活時間調査・2006
のデータを用いて,パソコンや携帯電話の IT関連行動についても,同じ指標でみてみたい。 図 4・5は,2.で紹介したメディア利用行動と同じ形のグラフで,IT 関連行動の回数と持続時間を示したものである。まず回数をみると(図4),図 1のテレビを除く既存メディアと比べ,概して「1回」が少なめである。特に,携帯電話のメールと通話では,「1回」が5~ 6割と少なく,「2回」がおよそ3割,「3回以上」が1~
2割を占める。携帯電話によるコミュニケーションは,やはり1日の中で細切れに行われているということだろう。また,パソコン・携帯電話を問わずウェブ閲覧は,「1回」が7割程度を占めるが,複数回利用する人もある程度いることがわかる。
次に持続時間をみると(図5),さらに IT 関連行動の特徴が浮き上がる。特に携帯電話の各行動では,その半
数以上が「15分」である点が際立っている 5)。また,パソコン・メールも半数が「15分」であり,メール送受という行動自体が比較的短時間で済まされることがわかる。これらの行動に対し,パソコン・ウェブ閲覧やその他の利用
(ワープロ・表作成・ゲームなどオフライン利用)は,「30分~1時間」が最も多く,ある程度まとまった時間を費やす行動である。特にパソコン・ウェブは「1時間以上」も2割ほどある一方で,「15分」も2割あり,多様な使われ方をしているようだ。
図 3 テレビの回数の時系列変化(1995-2005 年・日曜・男女年層別)
図 4 IT 関連行動の回数分布(日曜・各行動行為者分母) 図 5 IT 関連行動の持続時間分布(日曜・各行動行為者分母)
(回)
10代 20代 30代 40代 50代 60代 70歳以上 10代 20代 30代 40代 50代 60代 70歳以上
2005
2000
1995
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
<男性> <女性>
2.3
1.9
1.5
2.02.1
2.6
2.62.3
2.1
1.7
2.1
2.4
2.4
2.8
2.4
2.22.5
2.72.82.8
2.3
2.2
2.0
1.8
2.22.3
2.4
2.82.8
2.12.2
2.4
2.62.7
2.6
2.22.3
2.42.42.6
2.82.8
PCウェブ
PCメール
PCその他
携帯ウェブ
携帯メール
携帯通話
行為者率
13%
10%
9%
9%
30%
28%
1回 2回 3回以上
66 23 11
72 20 8
62 22 16
70 18 12
50 30 21
59 29 12
(%)
27 16 431PCウェブ
PCメール
PCその他
携帯ウェブ
携帯メール
携帯通話
30分15分 ~1時間 ~2時間2時間15分~
21
3250 12 428
2214 2325 14
51 29 11 7
2
63 2133 9 4
77 18 4
2
2
1 0
(%)
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4. 行動のスタート時刻からみる行動特性2.でみたようにメディアの中でもテレビは回数・
持続時間とも突出して多く,反対に新聞は,回数・持続時間ともに少ない行動であることがわかった。また,IT 関連行動は,携帯電話を中心に回数が多く,持続時間が短い行動であることもわかった。この点について,行動が起きる時間帯の視点を交えて,さらに分析してみたい。図6は,テレビと新聞の各記入のスタート(=
行動開始)時刻の分布を1時間きざみでみたものである。行動開始のピークの時刻の傾向はおおむね,それぞれの時刻別行為者率の動きに沿った形になっていて,テレビは朝・昼・夜の3回のピークがあり,新聞は朝 7~ 8時台にピークが集中している。つまり,どちらも多くの人がいっせいに同じ時間帯に行動を開始していることを示しており,スタート時刻のピークの数と1日あたりの回数はほぼ一致している。
テレビ視聴は,その普及が進んだ1965年頃にすでに,朝・昼・夜と1日に3回の視聴のピークがあり,食事を中心とした,ながら視聴のスタイルが早くに形成されたことが明らかになっている 6)。また新聞は,朝の出勤前の時間や,通勤途中に読まれることが多いメディアであることも明らかになっている。図 6 は,テレビは食事時のタイミングに見始められ,新聞は配達された朝刊が手元に届いたタイミングで読み始められていることを改めて示している7)。つまり,テレビを見たり新聞を読んだりという行動は,1日の生活の流れの中で,生理的・社会的に時間が規定された他の生活行動と連動し,比較的決まったタイミングで始まる傾向が強い行動であるといえるだろう。
次に,IT 関連行動で,短時間・多回数の代表である携帯・メールの記入のスタート時刻の
分布をみてみると(図 7),先ほどみたテレビや新聞と比べてピークの高さは緩やかである。つまり,他の生活行動とはあまり関係なく,個 人々がいつでも随時行っている行動であることを示している。しかも,携帯・メールの1日の行動回数は比較的多いのである。テレビの視聴のタイミングが生活の流れの中である程度規定されているのとは異なり,携帯電話は時間帯を問わずに,小まめに使われることで,結果的に回数が多くなっている行動であるとまとめられよう。
図 6 テレビと新聞の行動のスタート時刻(1時間ごと・日曜・行為者分母)
図 7 携帯・メールの行動のスタート時刻(1時間ごと・日曜・行為者分母)
テレビ(%)16
14
12
10
8
6
4
2
0時230 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
新聞(%)16
14
12
10
8
6
4
2
0時230 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
携帯メール(%)16
14
12
10
8
6
4
2
0時230 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
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5. まとめここまで,回数と持続時間という指標でさま
ざまな行動の分析を試みた。特に4. のデータは,テレビ視聴が食事をはじめとする他の生活行動との連動で人びとの生活に組み込まれていったのに対し,携帯電話などは,他の生活行動とは直接連動しないタイミングで随時活用されており,テレビとは異なる過程で利用が増えている様子を示唆しているといえよう。人びとが毎日行う行動の中で,このように時間帯が規定されない行動というのは,これまであまり例がない。しかし IT 関連行動は,コミュニケーションの時間的・空間的制限を解放し,他の行動間のすき間時間に行えるという行動特性の新しさゆえに,広く普及し,日常行動となっていったことを,今回のデータは示しているのではないだろうか。このように,平均値だけで表すことは難しい行動の別の側面をとらえるのに,回数と持続時間という指標は,さらに今後も試してみる価値があるといえよう。
(なかの さちこ)
注:1) 矢野眞和編著『生活時間の社会学』(東京大学
出版会・1995 年)2 章2) ただし,同じカテゴリーの行動で連続して線が
引いてある場合,1 本の線とみなしてデータ化
している。例として,掃除と洗濯を続けて行ったことを 2 本の線で「炊事・掃除・洗濯」の欄に引いてあった場合などがあげられる。
3) 両調査の概要は,下記のとおり。<2005 年国民生活時間調査 > 調査日:2005 年 10 月 11 日(火)~ 24 日(月) 調査方法:配付回収法のプリコード方式 調査相手:全国 10 歳以上の国民 12,600 人 有効数(率):7,718 人(61.3%)<IT 時代の生活時間調査・2006> 調査日:2006 年 10 月 22 日(日)・23 日(月) 調査方法:配付回収法のプリコード方式 調査相手:全国 10 ~ 69 歳の国民 3,826 人 有効数(率):2,431 人(63.5%)
4) 若年層のテレビ視聴時間の変化(1995 年~2005 年・日曜):男 10 代 3 時間 34 分→ 2 時間 52 分男 20 代 3 時間 48 分→ 2 時間 45 分男 30 代 4 時間 7 分→ 3 時間 33 分女 10 代 3 時間 6 分→ 3 時間 5 分女 20 代 3 時間 22 分→ 2 時間 45 分
5) 生活時間調査では時刻の目盛りが 15 分単位で設定されているが,「IT 時代の生活時間調査」の場合,5 分以上行った行動について 15 分行ったものとして,線を記入するよう調査相手に指示している。
6) テレビが普及初期にどのように家庭生活に浸透していったのかについて,最近では下記で生活時間データを用いて考察している。・ NHK 放送文化研究所編『日本人の生活時間・
2000』(NHK 出版・2002 年)第 II 部 3 章・ NHK 放送文化研究所編『テレビ視聴の 50 年』(NHK 出版・2003 年)第 2 部第 2 章
7) 新聞については,日曜が夕刊の休刊日であることを多少考慮する必要があるだろう。一方で,平日の新聞の時刻別行為者率をみると,夕方(夕刊配達時)の利用のピークはほとんどみられないという結果も出ている。