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化学発光(化学ルミネセンス)とは,化学反応によって励 起された分子が基底状態に戻る際にエネルギーを光とし て放出する現象のことである。化学反応の際に熱エネル ギーではなく光を発する。テレビドラマ等で血液の検出反 応として有名な,ルミノール反応はその代表例である。ま た,市販されているケミカルライトには,シュウ酸エステル による発光反応が用いられ,コンサートや夜釣りで用いら れている。化学発光は,必要なときに2液を混合するだけ で発光し,気体発生や発熱がない。そのため,化学発光 は宇宙空間における電源喪失時の光源となる技術として 研究された。また,比較的手軽な化学実験としてよく紹介 されている。 私たちは,化学発光の研究の初めにまず, 発色剤の 違いによる発光波長の違いを,マルチチャンネル分光器 を用いて観測した。その実験を行っている際,共溶媒とし て用いたtert -ブタノールの融点(凝固点)が約26℃と高く, 冬場は固体となってしまうため使用するのに不便であった。 文献調査によって,通常,シュウ酸エステルを用いた化学 発光の実験では,フタル酸ジメチルとt -ブタノールがよく 用いられているということがわかり, t -ブタノールを使用 することはほぼ必須項目であった。しかし,なぜt -ブタノ ールを用いるのか,他のものではだめなのかという記述は 無く,使用根拠は調べ切れなかった。なぜかは分からな いが一般的にt -ブタノールを共溶媒にしている。しかし, 使いにくいものであれば,使わない方法を考えることで実 験がより容易になると考えられ,溶媒・共溶媒の検討をす ることにした。なお,共溶媒とは,疎水性の溶媒と親水性 の溶媒もしくは水を混和するために用いる溶媒のことであ る。 発光の強さとして,照度(lux)測定した。自作簡易暗室 に設置したデジタル照度計(マザーツール社製LX-1108) を使用し,センサー部分にビーカーを乗せて測定すること で照度測定時の試料とセンサーの距離を一定にした。な お,この照度計はPC(excel)にデータを取り込むことがで き,1秒間隔で測定したものをグラフ化するのが容易であ る。なお,同条件下で実験を複数回行い,同じ傾向になる 事を確認した。結果のグラフに用いたのはそのうちの1回 分である。 ①1つの溶媒だけで共溶媒を必要としないもので,実験室 にあるものとして,アセトンの使用を考えた。アセトンはシ ュウ酸エステルを溶かすことができ,かつ,水(酸化剤とし て用いる過酸化水素水)とも容易に混和する。しかし,ア セトンを用いた場合,発光強度(照度)と発光の持続時間 が著しく低下することがわり,t -ブタノールを用いた場合と 観測できる発光の状況が大きく異なってしまった。また,ア セトンに対してt -ブタノールを添加したところ,照度が高く なった。このことから,t -ブタノールに照度に関する何らか の役割があることが考えられる。 ②次に,共溶媒として用いるt -ブタノールと構造が似たア ルコールも,共溶媒として使用できるのではないかと考え, 検証を行った。t -ブタノールとの構造の類似なものを実際 に水及びフタル酸ジメチルと混和するかを調べ,今回は, 2-ブタノール,イソプロピルアルコール,イソペンチルアル コールの3種のアルコールを共溶媒として用い,t -ブタノ ールとの違いを調べた。 ③試薬の条件が同じでも,日によって結果に差が出たこと から,気温の差による影響の検証を現在行っている。 代表発表者 問合せ先 3 1 0 - 0 8 5 2 1 2 8 4 T E L 0 2 9 - 2 4 1 - 0 3 1 1 F A X 0 2 9 - 2 4 1 - 7 9 2 9 (1)シュウ酸エステル (2)化学発光 (3)共溶媒 藤 優斗、碓氷 一樹 (茨城県立緑岡高等学校 化学部) P-122 124

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Page 1: P-122 シュウ酸エステルを用いた 化学発光における …¯じめに 化学発光(化学ルミネセンス)とは,化学反応によって励 起された分子が基底状態に戻る際にエネルギーを光とし

■ はじめに 化学発光(化学ルミネセンス)とは,化学反応によって励

起された分子が基底状態に戻る際にエネルギーを光として放出する現象のことである。化学反応の際に熱エネルギーではなく光を発する。テレビドラマ等で血液の検出反応として有名な,ルミノール反応はその代表例である。また,市販されているケミカルライトには,シュウ酸エステルによる発光反応が用いられ,コンサートや夜釣りで用いられている。化学発光は,必要なときに2液を混合するだけで発光し,気体発生や発熱がない。そのため,化学発光は宇宙空間における電源喪失時の光源となる技術として研究された。また,比較的手軽な化学実験としてよく紹介されている。

私たちは,化学発光の研究の初めにまず, 発色剤の違いによる発光波長の違いを,マルチチャンネル分光器を用いて観測した。その実験を行っている際,共溶媒として用いたtert -ブタノールの融点(凝固点)が約26℃と高く,冬場は固体となってしまうため使用するのに不便であった。文献調査によって,通常,シュウ酸エステルを用いた化学発光の実験では,フタル酸ジメチルとt -ブタノールがよく用いられているということがわかり, t -ブタノールを使用することはほぼ必須項目であった。しかし,なぜt -ブタノールを用いるのか,他のものではだめなのかという記述は無く,使用根拠は調べ切れなかった。なぜかは分からないが一般的にt -ブタノールを共溶媒にしている。しかし,使いにくいものであれば,使わない方法を考えることで実験がより容易になると考えられ,溶媒・共溶媒の検討をすることにした。なお,共溶媒とは,疎水性の溶媒と親水性の溶媒もしくは水を混和するために用いる溶媒のことである。

■ 実験(結果と考察)

発光の強さとして,照度(lux)測定した。自作簡易暗室に設置したデジタル照度計(マザーツール社製LX-1108)を使用し,センサー部分にビーカーを乗せて測定することで照度測定時の試料とセンサーの距離を一定にした。なお,この照度計はPC(excel)にデータを取り込むことができ,1秒間隔で測定したものをグラフ化するのが容易である。なお,同条件下で実験を複数回行い,同じ傾向になる事を確認した。結果のグラフに用いたのはそのうちの1回分である。 ①1つの溶媒だけで共溶媒を必要としないもので,実験室

にあるものとして,アセトンの使用を考えた。アセトンはシュウ酸エステルを溶かすことができ,かつ,水(酸化剤として用いる過酸化水素水)とも容易に混和する。しかし,アセトンを用いた場合,発光強度(照度)と発光の持続時間が著しく低下することがわり,t -ブタノールを用いた場合と観測できる発光の状況が大きく異なってしまった。また,アセトンに対してt -ブタノールを添加したところ,照度が高くなった。このことから,t -ブタノールに照度に関する何らかの役割があることが考えられる。

②次に,共溶媒として用いるt -ブタノールと構造が似たアルコールも,共溶媒として使用できるのではないかと考え,検証を行った。t -ブタノールとの構造の類似なものを実際に水及びフタル酸ジメチルと混和するかを調べ,今回は,2-ブタノール,イソプロピルアルコール,イソペンチルアルコールの3種のアルコールを共溶媒として用い,t -ブタノールとの違いを調べた。

③試薬の条件が同じでも,日によって結果に差が出たことから,気温の差による影響の検証を現在行っている。

化学

シュウ酸エステルを用いた 化学発光における溶媒の研究

代表発表者 河合 亮汰 (かわい りょうた) 所 属 茨城県立緑岡高等学校 化学部

問合せ先 〒310-0852 茨城県水戸市笠原町 1284

TEL:029-241-0311 FAX:029-241-7929

■キーワード: (1)シュウ酸エステル (2)化学発光 (3)共溶媒 ■共同研究者: 藤 優斗、碓氷 一樹

(茨城県立緑岡高等学校 化学部)

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