p4 5 地域包括支援センター職員が認識する作業療法士とは...

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― 50 ― P4 - 5 【 はじめに 】今日,作業療法士が地域の場に参加して 活躍することが求められている.しかし,地域は多職 種協働の場であり,作業療法士が単に地域へ視点を向 けるだけでは足りない.地域で働く他職種からどのよ うにみられ理解されているのか,知ることも重要とな る.本研究では,地域で働く他職種が,作業療法士と どのような職種認識のもと関わっているか実態を把握 し,何らかの手がかりを得ることを目的とした. 【 対象と方法 】調査対象者は 2018 年 4 月 1 日時点にお ける兵庫県の地域包括支援センターに勤務する職員と した.調査方法は質問紙による郵送調査を採用し,返 送をもって同意を得た.調査期間は 2018 年 8 月 17 日 ~9月30日である.質問項目は,基本属性に性別, 職種,年齢,作業療法士との協働経験,現在の職種の 経験年数を設定した.また,自由回答に,「作業療法 士をどのような職種だと認識していますか」という 項目を設けた.分析は,基本属性の集計処理をした後 に,自由回答の記述についての多変量解析を行った. 記述の解析には頻出 3 語以上の語を用いて多次元尺度 構成法によるデータ分析を実施した.以上の分析には KH Coder(Ver.3.0)を使用した.なお,本研究は, 関西福祉大学倫理審査委員会の承認を得て行った. 【 結果 】 作業療法士の認識に関する記載のあった 44 の 地域包括支援センター職員 122 名を対象とした.その 内訳は,社会福祉士 39 名,主任介護支援専門員 38 名, 保健師 22 名,看護師 11 名,介護支援専門員 7 名,認 知症地域支援推進員 3 名,事務職 2 名であった. 自 由 回 答 の 分 析 で は 総 抽 出 語(使 用 語)は 2,813 ( 1,449 ),異なり語(使用語)は 433( 326 )であった. 頻出語は「生活(123 回)」,「日常(74 回)」「動作(68 回)」「リハビリ(59回)」「行う(38回)」「作 業(35 回)」などがみられた.多次元尺度構成法による解析 ではクラスターは 8 つに分けられた.クラスター 1 は, 「身体,精神,人,作業,職種,必要,障害,支援, 助言,向ける」,クラスター 2 は,「生活,日常,動作, 機能,訓練,向上,支障,図る,病気,疾患,アプ ローチ,行動,ケア,関わる,目的」,クラスター 3 は, 「行う,リハビリ,回復,専門,指導,細かい,体,心, 園芸,手芸,レクリエーション」,クラスター4は, 「自立,改善,対象,認知,状況,アドバイス,全般, 動き,利用,料理」,クラスター 5 は,「活動,食事, 入浴,維持,上肢」,クラスター6は,「社会,応用, 能力,送る,動かす,適応,セラピスト,目指す,仕 事,指,基本,座る,心身,更衣,家事」,クラスター 7 は,「本人,環境,療法,含める,望む,応じる,提 案,力,アセスメント,評価,参加,実現,手段,自 助」,クラスター 8 は,「考える,更衣,思う,運動, 具体,一緒,方法,役割,領域,イメージ,手先」で あった.これらのクラスターは中央にクラスター 1, 2 の「人 - 作業 - 生活」が配置され,その周囲に残り の語があった.また,より外側にはクラスター 3 ~ 8 が配置される構造を示していた. 【 考察 】地域で働く他職種による作業療法士の職種認 識の構造が,多次元尺度構成法を用いたことによりあ る程度浮かび上がった.地域包括支援センター職員が 抱く作業療法士の集約された認識は,中央に位置する 「人」「作業」「生活」に関わる職種であるというこ とが指摘できる.また中間の層に法の定義を基準にし た概念的な認識があり,外側の層には具体的な内容と して他のリハビリ専門職との違いや認知症の支援を行 う職種,望む生活を支援するといった認識の構造が示 唆された.関わりの少ない職員からは,手先や運動, 行為といった認識にとどまることも確認された. 地域包括支援センター職員が認識する作業療法士とは KH Coder を用いた多次元尺度構成法による役割の構造~ ○赤堀 将孝 OT 1) ,亀山 一義 OT 1) ,宍戸 聖弥 OT 1) ,谷川 和昭 (その他) 2) 1 )医療法人伯鳳会 はくほう会医療専門学校赤穂校 作業療法学科 2 )関西福祉大学大学院 社会福祉学研究科 Key word:地域,作業療法士,役割

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Page 1: P4 5 地域包括支援センター職員が認識する作業療法士とは …kinot39.umin.jp/pdf/abstract/P4-5.pdfKH Coder(Ver.3.0)を使用した.なお,本研究は,関西福祉大学倫理審査委員会の承認を得て行った.

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【はじめに】 今日,作業療法士が地域の場に参加して活躍することが求められている.しかし,地域は多職種協働の場であり,作業療法士が単に地域へ視点を向けるだけでは足りない.地域で働く他職種からどのようにみられ理解されているのか,知ることも重要となる.本研究では,地域で働く他職種が,作業療法士とどのような職種認識のもと関わっているか実態を把握し,何らかの手がかりを得ることを目的とした.

【対象と方法】 調査対象者は2018年4月1日時点における兵庫県の地域包括支援センターに勤務する職員とした.調査方法は質問紙による郵送調査を採用し,返送をもって同意を得た.調査期間は2018年8月17日~9月30日である.質問項目は,基本属性に性別,職種,年齢,作業療法士との協働経験,現在の職種の経験年数を設定した.また,自由回答に,「作業療法士をどのような職種だと認識していますか」という項目を設けた.分析は,基本属性の集計処理をした後に,自由回答の記述についての多変量解析を行った.記述の解析には頻出3語以上の語を用いて多次元尺度構成法によるデータ分析を実施した.以上の分析にはKH Coder(Ver.3.0)を使用した.なお,本研究は,関西福祉大学倫理審査委員会の承認を得て行った.

【結果】 作業療法士の認識に関する記載のあった44の地域包括支援センター職員122名を対象とした.その内訳は,社会福祉士39名,主任介護支援専門員38名,保健師22名,看護師11名,介護支援専門員7名,認知症地域支援推進員3名,事務職2名であった. 自由回答の分析では総抽出語(使用語)は2,813

(1,449),異なり語(使用語)は433(326)であった.頻出語は「生活(123回)」,「日常(74回)」「動作(68回)」「リ ハ ビ リ(59回)」「行 う(38回)」「作 業(35回)」などがみられた.多次元尺度構成法による解析ではクラスターは8つに分けられた.クラスター1は,

「身体,精神,人,作業,職種,必要,障害,支援,

助言,向ける」,クラスター2は,「生活,日常,動作,機能,訓練,向上,支障,図る,病気,疾患,アプローチ,行動,ケア,関わる,目的」,クラスター3は,

「行う,リハビリ,回復,専門,指導,細かい,体,心,園芸,手芸,レクリエーション」,クラスター4は,

「自立,改善,対象,認知,状況,アドバイス,全般,動き,利用,料理」,クラスター5は,「活動,食事,入浴,維持,上肢」,クラスター6は,「社会,応用,能力,送る,動かす,適応,セラピスト,目指す,仕事,指,基本,座る,心身,更衣,家事」,クラスター7は,「本人,環境,療法,含める,望む,応じる,提案,力,アセスメント,評価,参加,実現,手段,自助」,クラスター8は,「考える,更衣,思う,運動,具体,一緒,方法,役割,領域,イメージ,手先」であった.これらのクラスターは中央にクラスター1, 2の「人 - 作業 - 生活」が配置され,その周囲に残りの語があった.また,より外側にはクラスター3~8が配置される構造を示していた.

【考察】 地域で働く他職種による作業療法士の職種認識の構造が,多次元尺度構成法を用いたことによりある程度浮かび上がった.地域包括支援センター職員が抱く作業療法士の集約された認識は,中央に位置する

「人」「作業」「生活」に関わる職種であるということが指摘できる.また中間の層に法の定義を基準にした概念的な認識があり,外側の層には具体的な内容として他のリハビリ専門職との違いや認知症の支援を行う職種,望む生活を支援するといった認識の構造が示唆された.関わりの少ない職員からは,手先や運動,行為といった認識にとどまることも確認された.

地域包括支援センター職員が認識する作業療法士とは~ KH Coderを用いた多次元尺度構成法による役割の構造~

○赤堀 将孝(OT)1),亀山 一義(OT)1),宍戸 聖弥(OT)1),谷川 和昭(その他)2)

1)医療法人伯鳳会 はくほう会医療専門学校赤穂校 作業療法学科2)関西福祉大学大学院 社会福祉学研究科

Key word:地域,作業療法士,役割