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情報の非対称性が存在するオークションにおける情報開示戦略の分析
複雑系工学講座
調和系工学研究室
4年 寺西 俊樹
卒業論文発表
研究の背景
インターネットオークション
ただし,情報の非対称性が存在(売り手と買い手の持つ財の情報に差が生じる性質)
・財を画像や文章では表し切れない
・売り手が意図的に財の情報を偽ったり,不都合な情報を非開示とできる
関連研究インターネット取引における情報の非対称性がもたらす市場への影響を分析 [山岸 2002]
実際のインターネットオークションにおける情報の非対称性
・評判システム等の導入により,偽りの情報提示は抑止されている
・不都合な情報を一部非開示としても明らかに偽りとはみなされず評判に影響しにくい
売り手の情報開示戦略がもたらす取引への影響が大と考えられる
一般的なオークション
各買い手が財を直接評価し,最も評価の高い買い手が落札
ビックレーオークション
・一番入札額の高い人が二番目の価格で落札(セカンドプライス)・買い手は財の評価値をそのまま入札することが最適戦略となる
多くのオークションシステムはビックレーオークションと見なすことが出来る
代表的な例:Yahoo!オークション
目的
情報の非対称性が存在するオークションにおいて売り手の情報開示戦略がもたらす取引への影響の分析
• 情報の非対称性が存在するビックレー(セカンドプライス)オークションを用いてモデル化
• 売り手・買い手ともに各自に合理的な行動をとるエージェントを設計* 学習によって合理的な情報開示戦略をとる売り手エージェント* 学習によって合理的な非開示情報推測を行う買い手エージェント
• 売り手に合理的な情報開示戦略がもたらす取引への影響を分析
• 買い手の非開示情報推測の方法の違いによる取引への影響を分析
ビックレーオークションのモデル
売り手の余剰(落札額)= 2000
売
特徴(3,1,2)
買2
20001f 30002f
買1 買3
10003f
最も高額の入札者2番目に高い入札額
買い手の余剰(評価値-落札額)= 3000-2000 = 1000
特徴(3,1,2) 特徴(3,1,2) 特徴(3,1,2)売り手が財の特徴ベクトルを各買い手に提示
各買い手の評価関数に基づく財の評価値(=入札額)
最も高額の入札者が2番目に高い入札額で落札
),...,,( 21 featurelNlll vvvV財 の特徴ベクトルl財を featureN 個(3個)の特徴量で表現
(1~3の整数値で与える:数値が大ほど良い財)featureN
klk
jkl
j vaf1
)(V買い手 の財 の評価関数j l
買い手によって重視する特徴量が異なることを想定し,各買い手の をさまざまに与える
jka
買い手が評価値を偽らず入札するとき社会的余剰(売り手と買い手の余剰和)が最大となる⇒評価値をそのまま入札するのが最適戦略 [Vickrey,W(1961)]
本研究のモデル
売特徴(3,1,2)
買2買1 買3
特徴(3,*,2) 特徴(3,*,2) 特徴(3,*,2)
特徴(3,*,2)(1,1,1)
特徴ベクトル
lV
売り手 の意思決定テーブルii
i'V
開示する特徴ベクトル
(*,1,*)(1,1,2) (1,*,2)… …
(3,1,1) (3,*,*)… …
意思決定テーブルに基づき買い手に特徴ベクトルを提示
特徴(3,1,2)
20001f 30002f 10003f各買い手で推定された特徴量に基づき入札
特徴(3,2,1) 特徴(3,3,2)
各買い手の特徴量推定テーブルに基づき財の特徴量を推定
(2,1,3)
推定特徴ベクトル i
l''V
買い手 の特徴量推定テーブルi開示された特徴ベクトル
(1,1,2)…
(3,2,1)…
ii'V
(*,1,*)(1,*,2)…
(3,*,*)…
• 売り手は財の情報の開示非開示のみを選択
• 売り手は財を偽って開示することはない
売り手・買い手ともに合理的なエージェントを想定し両者とも自分に有利な売買ができるように各テーブルを学習
売り手の意思決定テーブルと学習方法
i2T・・・i
N tables _T
売特徴(3,1,2)
特徴(3,*,2)
買
特徴(3,*,*)
?
?学習
どの特徴量がどの値のときに非開示にすると売り手の余剰を最大化できるか?
(1,1,1)
特徴ベクトル
lV
:売り手 i の意思決定テーブル
ii'V
開示する特徴ベクトル
(*,1,*)(1,1,2) (1,*,2)… …
(3,1,1) (3,*,*)… …
…
iT iT のもと一定回数財を売買したときの余剰の総和iTの適応度 :
i1T
学習世代tにおけるテーブル集合
テーブル 適応度
15000
30000
4000
・・・
学習世代t+1におけるテーブル集合
最も適応度の高いテーブルの近傍解を複数生成
・・・
テーブル
i2TiN tables _
T
i1T
Hill Climbingに基づく意思決定テーブルの学習
買い手の特徴量推定テーブルと学習方法
・・・i
N tables _U
特徴(3,1,2)買
特徴(3,2,2)
?
?学習
財の評価を誤らないために,隠された特徴量の値をなるべく正確に推定したい
:買い手 i の推定テーブル
…
iU iU のもと一定回数財を売買したときiUの適応度 :
i1U
学習世代tにおけるテーブル集合
テーブル 適応度
20
45
30
・・・
学習世代t+1におけるテーブル集合
最も適応度の高いテーブルの近傍解を複数生成
テーブル
Hill Climbingによる特徴量推定決定テーブルの学習
特徴(3,*,2)
(2,1,3)
推定特徴ベクトル
il''V
開示された特徴ベクトル
(1,1,2)…
(3,2,1)
…
ii'V
(*,1,*)(1,*,2)…
(3,*,*)
…
推定した特徴量と落札した財の特徴量が一致した回数
i2U
・・・i
N tables _U
i1Ui2U
実験
設定1:買い手が売り手を区別できない場合買い手が各売り手に対して同一の特徴値推定テーブルを持つ
設定2:買い手が売り手を区別できる場合
買い手が各売り手に対して個別の特徴値推定テーブルを持つ
売り手
買い手
売り手
買い手
財の特徴量 : 3次元,3段階売り手数 : 5人売り手が売る財 : 2700個買い手数 : 10人買い手の財評価関数 : 平均1.0,分散0.2の標準正規乱数でランダムに設定
),,( 321llll
k vvvV }3,2,1{lkv
• 売り手の情報開示戦略の学習によって,売り手の余剰がどのように変化するか
• 売り手の余剰を大にする情報開示戦略がどのような戦略であるかを分析
実験設定
両設定において情報開示戦略が売り手余剰を大にすることが分った
⇒売り手・買い手の財配分が偏り,売り手に有利な市場が形成される
1.08区別無
1.10区別有
分散平均
31037.141078.3
100
1
1.1
売り手がすべての情報を開示する場合を1とした時の各学習世代における情報開示戦略がもたらす売り手余剰
実験結果1 [戦略の学習による売り手余剰の分析]
売り手を区別できる
売り手を区別できない
200世代以降の平均・分散
0.9
0.95
1.05
1.15
0 200
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
0 100 200100
0.2
0.5
0.9
41002.4
31010.131018.231067.1
41051.7
必ずしも売り手に不都合な情報を非開示し続けるのが良いとは限らない
同様に,都合の良い情報を必ず開示し続けるのが良いとも限らない
世代数
開示率
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1
0 100100
売り手を区別できる場合
世代数
開示率
0.891値3の開示率
0.580値2の開示率
0.202値1の開示率
分散平均
0.943値3の開示率
0.653値2の開示率
0.210値1の開示率
分散平均
31014.1
実験結果2 [学習で得られた情報開示戦略の分析]売り手を区別できない場合
0.2
0.5
0.9値3の開示率
値1の開示率
値2の開示率
結論
• 売り手は必ずしも売り手に都合の悪い情報をすべて非開示とすることが最適戦略でないことが確認された
• 売り手は必ずしも売り手に都合の良い情報を全て開示とすることが最適戦略ではないことも確認された
• 売り手は売り手に都合の良い情報も都合の悪い情報も開示・非開示を織り交ぜて買い手に非開示の要素を推測されないような戦略をとることが売り手の余剰を最大化する
情報の非対称性が存在するオークションにおいて売り手の情報開示戦略がもたらす取引への影響に鑑み売り手に合理的な情報開示戦略がもたらす取引への影響を分析した