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No. 28 2019 Winter 【特集】 教訓・胆振東部地震 公益財団法人 北海道市町村振興協会 HP http://www.do-shinko.or.jp/ 【巻頭インタビュー】 宮坂尚市朗 厚真町長 【検証】 防災力向上の ヒントを探る 【リレーインタビュー】 瞬発力で初動対応に全力 塩屋十三 千歳市総務部参事監 P R ACTICE 2019WinterNo.28 PRACTICE自治体職員のための政策情報誌[プラクティス] 市町村職員 フォトグラフ 2019WinterNo.28 06000044 西6 6 TEL0112320281この 大地 に生きて 闇夜の水面(みなも)(弟子屈町・水郷公園) 屈斜路湖の朝日(美幌峠) 摩周湖(弟子屈町) 阿寒摩周国立公園があり、雄大な自然を身近に感 じることができる弟子屈町に住みながら、町内での イベントを撮影の中心に、人物を中心に撮影してき ました。 近年は観光を機軸としたまちづくりを進める「て しかがえこまち推進協議会」の人財育成部会に参加 しています。子どもたちにまちの魅力を知ってもら おうと始めた「こども星空観察会」を通じ、星景写 真に興味を持つようになりました。 摩周湖の展望台で見る満天の星空や、ひととき雲 間から見える星に歓声をあげる子どもたち。そして 取組を通じてまちの魅力を再発見する大人たち。 今後もこのような取組を続けていきますが、合わ せてまちの魅力を撮り、発信できるように務めてい きたいですね。 PRACTICE(おおつか・まさとし)昭和 52 年弟子屈町生まれ。20 代中頃からカ メラに興味を持ち、町内のイベントの撮影係として記録写真を撮っ ている。レンズを向けたときの笑顔が堪らない。趣味はカメラのほ か、10 年以上続けているリコーダーや旅行。近年は、毎年海外に出 かけ、寺院や遺跡を巡り撮影している。 (写真はラオス ルパンパパーン ワット・シェントーン) 弟子屈町総務課職員係長 大塚 将利

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No.282019 Winter

【特集】

教訓・胆振東部地震

公益財団法人 北海道市町村振興協会HP ▶ http://www.do-shinko.or.jp/

【巻頭インタビュー】

宮坂尚市朗 厚真町長【検証】

防災力向上の ヒントを探る【リレーインタビュー】

瞬発力で初動対応に全力─塩屋十三 千歳市総務部参事監

PRACTICE2019

Winter

No.

28

【特集】教訓・胆振東部地震

PRACTICE

自治体職員のための政策情報誌[プラクティス]

市町村職員フォトグラフ

﹇プラクティス﹈自治体職員のための政策情報誌

2019

Winter

No.

28 公益財団法人北海道市町村振興協会

〒060–0004

北海道札幌市中央区北4条西6丁目

北海道自治会館6階

TEL

011(232)0281

こ の 大 地 に 生 き て

闇夜の水面(みなも)(弟子屈町・水郷公園)

屈斜路湖の朝日(美幌峠)

摩周湖(弟子屈町)

 阿寒摩周国立公園があり、雄大な自然を身近に感じることができる弟子屈町に住みながら、町内でのイベントを撮影の中心に、人物を中心に撮影してきました。 近年は観光を機軸としたまちづくりを進める「てしかがえこまち推進協議会」の人財育成部会に参加しています。子どもたちにまちの魅力を知ってもらおうと始めた「こども星空観察会」を通じ、星景写真に興味を持つようになりました。 摩周湖の展望台で見る満天の星空や、ひととき雲間から見える星に歓声をあげる子どもたち。そして取組を通じてまちの魅力を再発見する大人たち。 今後もこのような取組を続けていきますが、合わせてまちの魅力を撮り、発信できるように務めていきたいですね。

PRACTICE

(おおつか・まさとし)昭和 52 年弟子屈町生まれ。20 代中頃からカメラに興味を持ち、町内のイベントの撮影係として記録写真を撮っている。レンズを向けたときの笑顔が堪らない。趣味はカメラのほか、10 年以上続けているリコーダーや旅行。近年は、毎年海外に出かけ、寺院や遺跡を巡り撮影している。(写真はラオス ルパンパパーン ワット・シェントーン)

弟子屈町総務課職員係長 大塚 将利氏

振総合振興局に連絡しました。町職

員による捜索は不可能と判断し、自

衛隊、警察、消防がスムーズに集結

できるよう、町は関係機関との連絡

調整役に徹しました。自衛隊のLO

から、千歳方面から最短で厚真に向

かう道道千歳鵡川線が通行不能との

情報が入り、安平町遠浅から道道豊

川遠浅停車場線を通れば町内に入れ

ることが分かっていたので、迂回路

を通るよう情報を伝えました。

 

最初に到着した消防には、家屋の

下敷きになった生存者の救助を行っ

てもらい、5時頃には道警ヘリによ

る被害の確認も始まりました。道警

機動隊が6時ごろ、自衛隊の本隊は

9時ごろに到着しました。救助活動

が本格化する中、町職員にはパト

ロールと避難所の開設準備に専念す

るよう指示しました。町は住民の安

全を確保すると同時に、捜索隊が二

次災害に巻き込まれないよう、関係

機関の連絡会議を開き、現状や危険

性に関する情報を共有しました。救

助活動の範囲や内容が重複しないよ

う、隙間が生じないよう調整を図る

のが町の仕事です。続々と入る情報

をさばき、基礎自治体の私たちがや

るべきことをきちんと認識し、進ん

で役割分担をしなければ、誰もが右

往左往する状態に陥ってしまいます。

集落ごとに避難所に誘導

 

これまで厚真川の洪水などで避難

勧告や避難指示を発令し、避難所を

開設したことは何度もあります。東

日本大震災でも津波に備えて避難所

を開設しました。しかし、今回は町

内全域で避難所が必要です。土砂崩

れの現場から搬送されるご遺体の検

視場所や安置所も必要です。一時的

な避難には各地区の集会所(マナ

ビィハウス)を使いますが、今回の

災害では避難所での生活が長期化す

ると判断して、当初から総合福祉セ

ンターやスポーツセンターなどの大

型施設に避難所を開設しました。電

気や水道などのライフラインが途絶

した幌内地区や桜丘地区の避難所に

集まった住民は、集落ごとにまと

まって規模の大きい避難所に入って

もらうよう誘導しました。

訓練の成果は必ず活きる

 

町は大災害に備えた訓練やシミュ

レーションを重ねてきました。東日

本大震災以降は、避難所を担当する

職員は、HUG(避難所運営ゲー

ム)などで訓練してきました。想像

を絶する災害ですが、町が行うべき

初動対応は、避難所運営を含め、あ

る程度は的確に行動ができたと思い

ます。避難所で必要な備蓄品が不足

することもありませんでした。

 

BCP(事業継続計画)も策定し

ていましたが、現実には日常業務に

手を着けられる状況になく、初動段

階では計画はほとんど機能しません

でした。被災した住民のニーズも安

全確保が最優先であり、計画で想定

したような通常の行政サービスを求

められることはありませんでした。

災害に強いインフラを

 

悔いが残るのは、町長就任当時か

らの懸案だった厚真川両岸に道路を

通す複線化整備が不完全だったこと

です。大きな被害を受けた富里浄水

場付近は、厚幌ダムにつながる道道

上幌内早来停車場線と町道が交わる

一本道でした。そこで土砂崩れがあ

り、上流の地域が孤立しました。住

民は、山道や堤防を歩いて避難しま

したが、一歩間違えば二次災害に遭

う恐れもありました。もう1本道路

があれば救助活動も迅速に進み、住

民も安心できたはずです。また、千

歳鵡川線は1車線が崩落して片側通

行となり、交通量をさばくことがで

きず、危険な状態になりました。災

害への備えが間に合いませんでした。 

町内では厚真川の洪水リスクもあ

り、災害時にも機能するきちんとし

た道路網が必要です。災害に強いイ

ンフラ整備の重要性を痛感しました。

職員は長期戦に備えよ

 

発災直後は、住民が不安に陥らな

いよう、職員は落ち着いて行動する

ことが大切です。苦しいですが力を

合わせて乗り切る必要があります。

全ての行方不明者が発見された9月

10日まで、ほとんどの職員は不眠不

休で走り回っていました。避難者の

気持ちに寄り添いつつ、心身共に疲

弊していく様子を感じました。

 

人命救助活動が終結したことで災

害対応に区切りを付け、復旧・復興

に関する業務や避難所運営などの長

期戦に備えながら、通常業務を再開

するよう指示を出しました。早く国

に被害状況を報告しなければ、本格

的な復旧や復興も始まりません。

 

9月11〜18日は転換期です。疲労

が蓄積した職員の負担を軽減し、新

たな業務に向かう体制を整える必要

03 No.28 PRACTICE

 全国自治宝くじ事務協議会が運営している「宝くじ公式サイト」で、宝くじのインターネット販売がスタートしました。パソコンやスマートフォンで、市町村との関わりが深い「サマージャンボ」や「ハロウィンジャンボ」をはじめとするジャンボ宝くじ、全国通常宝くじ、ブロック宝くじ、ロト7、ロト6、ミニロトをクレジットカード決済で簡単に購入することができるようになりました。 抽せん結果の確認や当せん金の受け取りまでをインターネット上で行うことができます。サイトには指定した期間や頻度で自動購入できる「継続購入」や、発売開始日に自動で購入できる「予約購入」などの機能もあります。 サイトで宝くじを購入すると、100円につき1ポイントの「宝くじポイント」が獲得でき、決済完了の翌日から宝くじの購入に利用することができます。宝くじ売り場が無い地域の皆さんや、スマートフォンを愛用する若年層など、より多くの方々に宝くじを身近に感じていただくことが期待され、市町村の皆様にも積極的なPRをお願いします。ネット販売の詳細は宝くじ公式サイト(https://www.takarakuji-offi cial.jp/)をご覧ください。

No.282019 Winter

PRACTICE

平成 31 年1月 18 日発行

編集・発行公益財団法人北海道市町村振興協会〒060-0004北海道札幌市中央区北4条西6丁目北海道自治会館6階TEL:(011)232-0281FAX:(011)221-5866E-mail:[email protected]

編集協力株式会社道銀地域総合研究所株式会社北海道建設新聞社

ハロウィンジャンボ宝くじ 道内販売額は 25%増! 本年度のハロウィンジャンボ宝くじ(新市町村振興宝くじ)は、平成 30 年 10 月1日から 23 日までの 23 日間、販売されました。販売総額は、昨年度に比べて全国で 28%、道内でも 25%増加しました。北海道への収益配分額は7億 1,900 万円で、昨年度に比べて金額で1億 6,100 万円、率にすると 29%の増加となりました。 この宝くじは、平成 13 年度に「オータムジャンボ宝くじ」として発売され、28年には名称を「ハロウィンジャンボ宝くじ」に変更しました。発売収益金は北海道市町村振興協会を通じて、札幌市を除く道内178市町村に全額交付されます。 市町村の皆様には、販売の促進に向けたより一層の取組をお願いいたします。

編集担当○×余録▼胆振東部地震が発生した昨年9月6日朝。コンビニ店内は静かです。犬の散歩やジョギングをする人もいます。交差点は譲り合い。駅では観光客が無言でしゃがみ込んでいます。都市で大規模な停電が発生すると、店や銀行が襲われ、役所は放火され、至る所で暴動や略奪が起こると勝手に恐れていたのですが……。▼災害時はパニックが起こるという先入観や、危険に関する情報を公表すると市民が混乱に陥るという固定観念は「パニック神話」として批判されています。神話を信奉する小市民は、買い込んだ飲料水では飽き足らず給水所を目指しました。▼給水袋が在庫切れと言われ、容器持参でとって返しましたが、何と隣の施設で大量に配布中。縦割り組織の弊害か?情報意識の欠如か!断水デマに踊った自分を棚に上げて憤ったのであります。やはり災害時の正確な情報は大切です。〈ま〉

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5つのメリット

発災直後に考えたこと

 

自宅で就寝中に経験の無い揺れで

目覚め、2台のベッドの隙間に潜り

込み、揺れが収まるのを待ちまし

た。寝室のタンスが倒れ、家の中は

食器などあらゆる物が散乱していま

したが私と家族は無事でした。懐中

電灯を頼りに身支度を整え、自家用

車を運転して約12㌔の距離がある町

役場を目指しました。運転しながら

揺れの大きさや自宅の被害を思い返

しました。相当な数の人が倒壊家屋

や家具の下敷きになっているのでは

 平成30年9月6日午前3時7分に発生した胆振東部地震で、厚真町は

道内で初めて観測された震度7の激震に見舞われた。大規模な土砂災害

により死者36人の人的被害を生じ、住宅やインフラにも大きな打撃を受

けた。発災から応急復旧に着手する約2週間、災害の現場では何が起こ

り、何を考えたのか。復興の先頭に立つ宮坂尚市朗町長に聞いた。

ないか…役場も倒れているのではな

いか│。午前3時半過ぎには町役場

にたどり着きましたが、自家発電設

備が動いており、明かりが見えた時

には少しだけホッとしました。

厚真町の初動態勢

 

役場に着くと職員の参集状況を確

認した後、すぐに自衛隊に一報を入

れました。災害派遣の要請権限は知

事にありますが、過去の大災害では

要請が滞り、出動が遅れた事例もあ

ります。万が一を考えて自衛隊に被

害状況を伝え、連絡幹部(LO)の

派遣を要請しました。

 

町内で震度4以上を観測した時に

出動する職員のパトロール隊を送り

出しました。空が明るくなってくる

と、すぐに「道路が寸断していてパ

トロールが続行できない」と連絡が

入り、災害の深刻さが見えてきまし

た。農道などを迂回した職員から、

倒壊した家屋や土砂に埋もれた住宅

があるとの情報が続々と入ってきま

す。防災行政無線の戸別受信機を通

じて、救助の必要があれば通報して

欲しいと呼び掛けました。すぐに

「押しつぶされた住宅に取り残され

た人がいる」との情報が住民からも

入り始めました。

町の役割は救助活動の調整

 

庁舎は自家発電でテレビが見られ

ました。厚真上空で撮影された映像

に愕然としました。広範囲で巨大な

土砂災害が発生し、朝日地区や吉野

地区で多数の住宅が倒壊しており、

自衛隊の災害派遣が必要です。正式

な要請をしてもらうため、すぐに胆

【特集】教訓・胆振東部地震

激震 町長はどう動いたか

│宮坂厚真町長に聞く

厚真町長 宮坂 尚市朗氏昭和 31 年厚真町生まれ。53 年室蘭工大卒。ホクレン勤務を経て 56 年厚真町採用。財政税務課課長補佐、総務課参事などを経て平成20 年の町長選で初当選。現在3期目。

02PRACTICE 2019 Winter

No.282019 Winter

CONTENTS

自治体職員のための政策情報誌[プラクティス]

公益財団法人 北海道市町村振興協会HP ▶ http://www.do-shinko.or.jp/

特集 教訓・胆振東部地震02          激震 町長はどう動いたか ─宮坂厚真町長に聞く06 検証 1 初動態勢   08  検証 2 大規模停電  10  検証 3 情報発信 12 検証 4 避難所運営  14  検証 5 受援体制

【リレーインタビュー】胆振東部地震に学ぶ災害対策16 ●1 瞬発力で初動対応に全力 観光客の避難が課題に 

─千歳市総務部参事監(渉外・危機管理担当) 塩屋 十三氏

18 ●2 地域を守る自主防災組織 自助・共助が防災の要に ─安平地区自治会連合会・安平第1自治会防災会会長 佐々木 弘氏

20 ●3 陸上自衛隊災害派遣 市町村がリーダーシップを ─陸上自衛隊第7師団副師団長兼東千歳駐屯地司令 陸将補 斎藤 兼一氏

22 ●4 地震に備えた耐震性向上が急務 北海道型仮設住宅の特長は ─地方独立行政法人北海道立総合研究機構建築研究本部 渡邊 和之氏 廣田 誠一氏 谷口 円氏

24 ●5 避難所での震災関連死を防ぐ DoRATが道内初出動 ─北海道災害リハビリテーション推進協議会理事長 光増 智氏

市町村の重点政策26 ●1 恐竜化石の産地がスクラム! 被災地を結んだ支援のリレー 〈熊本県御船町〉30 ●2 町外からの通勤者を取り込め! 地域の魅力を〈見える化〉する挑戦 〈壮瞥町〉34 ●3 森と湖の魅力を全国に発信! サポーターズ倶楽部が2千人突破 〈佐呂間町〉38 [NEWSTOPIC] 人口減少問題 市町村で大きな格差40 [研究者コラム] 宇宙ビジネスがもたらす北海道の活性化 宇宙の 6次産業化に向けた可能性 

─北海道大学公共政策大学院教授 鈴木 一人氏

42 [健康コラム] 胃の話 ─札幌医科大学教授 當瀬 規嗣氏44 野菜ソムリエのベジフルランド 北海道!! 野菜のまち「農村サイクリングの魅力」編 ─野菜ソムリエ上級Pro・北海道6次産業化プランナー 萬谷 利久子氏

46 [弁護士コラム] 期間経過による懲戒処分の制約〜非違行為から二三年経過後の懲戒処分は認められるのか?〜─弁護士 佐々木 泉顕氏

48 [市町村の動き] 岩見沢市/寿都町/森町/美瑛町/中頓別町/清里町/更別村/浜中町

[平成 30 年度 北海道・市町村交流職員研修会]52 ●1 急増する空き家とこれからのまちづくり ─富士通総研経済研究所主席研究員 米山 秀隆氏55 ●2 観光による地域振興について ─長野県立大学グローバルマネジメント学部教授・公共経営コース長 田村 秀氏 58 [協会 Information] 平成 30 年度 研修事業の実施報告/胆振東部地震の被災5市町に「災害見舞金」を交付

「宝くじ公式サイト」で宝くじのインターネット販売がスタート! [市町村職員フォトグラフ] この大地に生きて ─弟子屈町総務課職員係長 大塚 将利氏

巻頭インタビュー

本誌名「プラクティス」の由来「プラクティス」=「実行」の意味。自治体職員が業務で直接活用できる実践的な情報誌という趣旨で名づけました。

PRACTICEがあります。町は100人の職員で

行政を運営しています。人員の不足

は明らかなので、限界を超えるもの

は国や道、市町村の応援でしのいで

いこうと割り切りました。道や市町

村に職員の派遣を要請し、避難所運

営は道職員にお願いしました。18日

には小中学校やこども園を再開しま

した。保護者の気持ちを安定させる

には不可欠です。今後は復旧が本格

化しますが、技術者の確保は手探り

の状態です。長期的支援をお願いし

たいと考えています。

町の復興に向けて

 

町が取り組むべきことは、日常生

活を取り戻すことです。仮設住宅で

暮らす住民の将来への不安を和らげ

るため、災害復興住宅を整備し、生

活を再建してもらいます。現役世代

は住宅を建て直し、生業を再構築で

きるよう支援します。元の住まいに

戻ることが困難なシニア層などには

公営住宅を用意し、先行きが見通せ

る状態にしていきます。インフラの

再構築や農地復旧、宅地の土砂の撤

去、瓦礫など災害廃棄物の除去など

も早期に着手したいと思います。

 

災害廃棄物の除去は、猶予期間が

1年です。災害で亡くなった住民の

財産を相続する方との交渉もありま

すが、懸案は災害に伴う土砂の処分

です。3〜4千万立方㍍に達すると

も言われます。苫東地域に運ぶとの

話もありますが、ダンプカーが30㌔

も離れた地域を往復することにな

り、山間地での処分が望ましいので

すが、用地確保が難しい状況です。

この町の災害を教訓に

 

町内では160カ所で大規模な土

砂災害が発生しました。以前から豪

雨などによる土石流や斜面崩壊の危

険が高い土砂災害危険箇所が公表さ

れ、該当地域の住民には「土砂災害

警戒情報が出たら必ず逃げてもらい

ます」と伝えていました。道にも土

砂災害警戒区域の指定作業を進めて

欲しいと要望を続けていました。

 

しかし、地震と土砂災害が複合す

ることは想定外でした。いくら訓練

をしても逃れられなかった。山裾に

家がある風景は世界中どこにでもあ

ります。都市部にも危険な箇所はあ

ります。国はこの災害を教訓に地震

と土砂災害との関連性や想定される

リスクを調査し、国民の安全確保に

取り組んで欲しいと思います。

9月6日

◦午前3時7分 胆振東部地震発生

◦3時8分 気象庁が緊急地震速報

◦�

3時9分 道が災害対策本部、政府

が官邸対策室を設置

◦�

3時15分 町が災害対策本部設置

◦�

3時20分 広範囲で土砂崩れ確認

◦�

3時25分 北電苫東厚真火力発電所

の停止によるブラックアウト発生

◦�

3時30分頃 宮坂町長が登庁

◦�

3時40分 全避難所の開設指示。町

内地区巡回を開始。町内全域で断水

発生を確認

◦�

3時46分 日高自動車道通行止め

◦�

6時 道が陸自第7師団に災害派遣

を要請。町内への部隊集中始まる

◦�

6時頃 道警機動隊がヘリで到着

◦�

6時11分 震度5弱の余震を観測

◦�

6時18分 陸自第7師団第7特科連

隊の初動対処部隊が到着

◦�

9時 人命救助活動が本格化。陸自

による給水支援などが始まる

◦�9時3分 空自千歳救難隊が厚真中

学校に避難者をヘリで搬送

◦�

9時57分 陸自第7偵察隊が住民1

人を救助。要救助者の発見が続く

◦�

11時30分 仙台市消防局指揮支援隊

のヘリが到着

◦�

11時40分 日赤道支部が総合福祉セ

厚真町災害ドキュメント

ンターに現地対策本部を開設

◦�

午後3時 災害救助法適用

◦�

3時30分 気象庁が厚真町で震度7

を記録していたと発表

◦�

5時53分 緊急消防援助隊秋田県統

合機動部隊が到着

◦�

5時56分 陸自第3施設団が土砂災

害現場で道路啓開に着手

9月7日

◦�

午前10時 道警などが土砂崩れ現場

で住民15人の死亡を確認

◦�

11時20分 高橋はるみ知事視察

◦�

午後8時 避難者数1118人に

9月8日

◦�

午後1時10分 安倍晋三首相視察

9月9日

◦�

午前8時 日高自動車道が通行再開

9月10日

◦�

午前1時43分 幌内地区で最後の安

否不明者を発見。人命救助終結

◦�

11時 秋田県緊急消防援助隊撤収

9月12日

◦�

午前10時 罹災証明書の申請開始

9月15日

◦�

正午 役場庁舎前に献花台設置

9月18日

◦�

午前8時30分 小中学校4校と道立

厚真高校が授業再開

◦�

9時 住家被害全戸調査開始

04PRACTICE 2019 Winter

 

地域防災計画などは首長の不在や

指揮が執れない事態を想定し、権限

の委任や順位を定めているが、実際

に機能するのかは未知数だ。職場単

位でも同じ課題を抱えている。災害

対策本部の運営訓練などを通じ、職

務代行の経験を積む訓練も必要だ。

災害情報の収集

 

厚真町は庁舎1階の執務スペース

を災害対策本部の拠点とし、関係機

関の連絡会議は町長室で行った。総

務課の篠原拓也主査は「経験したこ

とがない程の電話が鳴り、応援の機

関や報道関係者が押し寄せた」と語

る。町は自衛隊などの進出経路を確

保するため、道路損壊の状況や迂回

路の把握を進めていった。住民にも

情報提供を求め、被災家屋と行方不

明者のリスト化を進めていった。

 

安平町の田中総務課長は「早来守

田地区で道路が崩れ、3世帯が孤立

した。自衛隊車両で町職員と消防署

員が救出に同行した。土木施設のパ

トロール、避難所開設などに137

人の職員を総動員したが、人も車も

不足した。防災訓練では想定できな

いことが出てくる。その中で最善は

何かを考えて行動した」と話す。

 

むかわ町では「最初は蜂の巣を突

いたような混乱だった。自治会や町

内会、自主防災組織への連絡や避難

所開設のため、登庁した職員が次々

と走り出した」(成田総務企画課

長)。災対本部会議を午前4時50分

に開催。同5時に住民の安否や被害

確認を行う町内の巡回を開

始。安否確認は正午過ぎに

終えた。同町の人的被害は

死者1人・重軽傷者252

人(平成30年12月28日現

在)。重軽傷者は札幌市に

次ぎ2番目に多い。「揺れ

の中で2階から1階に降り

る途中で階段から転落した

人も多かった」(大塚参事)。

 

日高町は夜明けまでに車

両などの燃料確保を進め、午前8時

に職員が被害の全戸調査を開始し

た。「電話が通じないため人海戦術

によるパトロールと避難所での聞き

取りが中心になった。町内では住民

の防災意識は高く、自助・共助の精

神が浸透してきた。町が全戸調査を

始める前から、既に住民の安否確認

に取り組んでいた自主防災組織も

あった」(小野寺主幹)という。

 

一方、初動段階での記録は復旧や

復興に欠かせない。安平町総務課の

石山透主幹は「映像と時系列での記

録収集と整理が必要だったが、人手

不足で対応できなかった。記憶は薄

れるし不正確な内容も多い」と話す。

人命救助の課題

 

初動段階では人命救助が最優先と

なる。発災直後は現地の消防機関が

主力となるが、人員や機材は不足し

ている。自衛隊などの応援が本格化

するには一定の時間を要し、道路の

寸断で進出が遅れる恐れもある。市

町村職員が一時的にせよ人命救助を

担わなければならない局面もあり得

る。沿岸部のある首長は「人命救助

が本格化するまで、津波に呑まれた

住民を見殺しにできないが、装備も

経験も無い職員を海に飛び込ませる

のかというジレンマがある」と語る。

自衛隊の災害派遣

 

自衛隊への災害派遣要請は、道

(振興局)に権限があり、市町村は

振興局に派遣要請を行うよう依頼す

る必要がある。今回の地震で陸上自

衛隊第7師団は発災直後、各市町村

に連絡幹部(LO)を派遣。安平町

では9月6日午前4時6分にLOが

到着し、同49分に胆振総合振興局に

派遣要請を依頼した。師団は偵察部

隊を胆振管内などの警備区域に展開

して被害や進出経路を確認。道の要

請前から、自衛隊法で定める自主派

遣として、初動対処部隊が出動して

情報収集や初期救助を担った。

 

災害の規模や被害状況に応じて出

動する隊員数や装備も変わる。一定

の準備時間も必要だ。「現地の情報

が部隊の動きに直結する。部隊と市

町村がホットラインを構築するなど

日常からの協力が必要」(同師団)。

災害派遣の担任部隊と協定を結び、

災害発生時の連絡体制、宿営地や装

備の待機場所、部隊の指揮所や通信

機材を置くスペースなどの詳細をあ

らかじめ定めている市町村もある。

発災直後のむかわ町本庁舎の内部

07 No.28 PRACTICE

複合災害に備えよ

 

昨年9月4〜5日に日本列島を直

撃した台風21号は、近畿地方を中心

に甚大な被害をもたらした。記録的

な暴風を観測した本道でも、5日朝

にかけて風倒木や住宅の損壊などの

被害が相次ぎ、ピーク時は9万世帯

近い住宅が停電。胆振管内の市町村

も夜まで対策に追われていた。

 

6日午前3時7分に胆振東部地震

が発生。海岸の地域で警戒すべきは

津波だ。むかわ町の本庁舎は海から

1・5㌔、標高は5・6㍍。成田忠

則総務企画課長は「台風が一段落し

て24時間待機を解除した矢先の地震

だった。ベッドの上にタンスが倒れ

てきた。別室で母が倒れたタンスに

足を挟まれていた。取り敢えずタン

スを除けて車で役場に向かった。発

災直後は津波を心配した。山側に避

難する住民の車がひっきりなしに

走っていた」と振り返る。日高町で

も多数の住民が高台に避難した。地

震や津波、風水害、さらに大規模停

電などが同時多発的に発生する複合

災害に対する備えは重要だが、限ら

れた職員数での対処には限界がある。

職員の緊急参集

 

台風などの気象災害は事前の備え

も可能だが、地震などの突発災害は

ゼロからの立ち上がりで、夜間や休

日の職員参集も課題だ。安平町は午

前3時15分頃に早来本庁舎と追分分

庁舎の鍵を開け、メールなどで職員

の安否確認を開始。「3時40分に対

策本部を設置し、4時5分までに全

員の無事を確認した」(田中一省総

務課長)。日高町は震度5弱以上で

職員を全員参集する。「本庁舎は発

災から30分以内に82人が登庁した。

書類などが散乱し、足の踏み場も無

かった」(小野寺孝総務課主幹)。

 

むかわ町では震度4以上で穂別支

所と鵡川の本庁に全職員が参集す

る。固定電話が不通で、衛星電話や

携帯電話で連絡を取り合った。総務

企画課の大塚治樹参事は「町職員は

家族を残して、後ろ髪を引かれる思

いで登庁した。職員や家族の安全を

確保するマニュアル作成を始めた矢

先で、職員が業務に集中できるよう

早く着手すべきだった」と語る。

 

BCP(業務継続計画)を定める

市町村も多い。今回の地震では「計

画で定めた通常業務のニーズは無

かった。計画と現実が一致していな

かった」(厚真町)。震度を基準に発

動要件を定めているため、活用には

至らなかったという市町村もある。

むかわ町の本庁舎に設置された災害対策本部

検証1

初動態勢

教訓・胆振東部地震

【特集】

 平成30年9月6日に発生した北海道胆振東部地震は、

大規模な土砂災害や建物の倒壊に加え、北電苫東厚真火

力発電所の緊急停止に伴う全道ブラックアウトにより、

複合災害の様相を呈した。道内で死者41人の人的被害を

生じ、住民生活に大きな影響を与えた災害を振り返り、

市町村における防災力向上のヒントを探る。

06PRACTICE 2019 Winter

基地局の被災や予備電源の枯渇によ

り、9月6日午後9時現在で道内6

500カ所の基地局が停波。本庁舎

が停電した日高町は、住民への連絡

事項を記載した文書を人海戦術で全

世帯に配布した。小野寺主幹は「消

防無線は使うことができたが、停電

も想定して複数の発信手段を確保し

ておく必要があった」と、情報通信

手段の複線化や多重化の重要性を指

摘する。通信が途絶しても「NHK

にテレビ画面の文字情報で避難所開

設場所などを伝えて放送してもらう

よう要請した」(田中一省安平町総

務課長)。メディアを活用した情報

発信は災害時に威力を発揮する。放

送・ネット事業者、防災関係機関に

災害情報を発信・共有できるLア

ラート(災害情報共有システム)の

迅速な運用に向けた訓練や情報発信

手順のマニュアル化も不可欠だ。  

 

道内では大規模停電に伴い3割近

い地上波テレビ中継局が停波。道央

や道南では一時的にAMやFMラジ

オなどの停波も発生した。地震の影

響が少ない道北では、市町村が発電

機を持ち込み、電波の送信を継続で

きた中継局も複数あるという。 

代替電源を確保せよ

 

むかわ町は本庁舎にバックアップ

用の非常用電源を備え、庁舎に隣接

する多目的施設「四季の館」には重

油で稼働するコージェネレーション

システムがあり、発災直後から本庁

舎などに給電した。ブラックアウト

発生で注目される〈分散型電源〉の

有効性を発揮した。成田忠則総務企

画課長は「避難所にも発電機があっ

たが、次第に電気の需要が増えてき

たため、災害協定を結んでいる地元

のリース会社から発電機の提供を受

けた。町内の停電が復旧したのは7

日午後11時過ぎだった」と話す。

 

庁舎全体の電力供給が困難であっ

ても、災害対策本部の機能を維持で

きる必要最小限の電源を確保する必

要がある。ポータブル型の発電機の

ほか、100ボルト電源が供給でき

るハイブリッド車や自動車のシガー

ソケットを電源とするインバーター

の活用、メンテナンス容易な大型

バッテリー設置などの工夫も必要だ。

 

台風から引き続いた地震と大規模

停電で発電機の燃料が枯渇、さらに

停電の影響で給油所からの燃料調達

も困難になった市町村もある。しか

し、消防法や建築基準法などの規制

があり、市町村が大量の燃料を備蓄

することは難しい。想定外の事態に

直面しても、協定を締結した企業な

どから確実に燃料供給が受けられる

体制を整備しなければならない。

 

一方、建設会社は発電機を工事現

場で常時使用し、災害に備えて一定

数をストックしており、今回の地震

でも、災害協定に基づき、地元建設

協会などを通じて市町村に提供され

た発電機が活躍した。また、自衛隊

による災害派遣の枠組みにより、部

隊が保有している発電機や燃料の貸

与・譲与、被災地への輸送などの支

援を受けた市町村もある。自衛隊が

災害時に提供できる支援の内容を平

時から把握しておくべきだ。

冬季災害と停電への備え

 

胆振東部地震とブラックアウトが

冬だったら─。むかわ町の成田総務

企画課長は「地震で300基以上の

灯油タンクが倒壊し、町中に灯油の

臭いが広がった。消防と建設協会が

タンクを起こして漏れた灯油を回収

した。冬であれば暖房を使っている

時期なので、ストーブやタンクが倒

れて火災の恐れもある。今回は避難

所での生活もどうにかなった。降雪

前に仮設住宅も完成して、避難所か

ら転居することができた」と話す。

 

積雪寒冷地の本道では、冬季に発

生する災害や大規模停電が住民を危

機的状況に陥れる。津波や家屋倒壊

に巻き込まれた被災者の生存率は寒

さの影響で急減し、暖房が動かない

住宅や避難所でも、気温低下による

凍死や低体温症などの危険がある。

避難所には今回の災害とは比べもの

にならない数の避難者が、生命の危

険を感じて押し寄せるなど、市町村

は難しい対応を迫られる。全道規模

の大規模停電を今後も起こり得る災

害として備えを見直す必要がある。

道外の電力会社による支援も(厚真町)

09 No.28 PRACTICE

【特集】教訓・胆振東部地震

北海道ブラックアウト

 

北電苫東厚真火力発電所の緊急停

止に伴うブラックアウトでは、自家

発電機や非常用電源の有無が文字通

り“明暗”を分けた。電源を確保で

きなかった市町村では、業務の根幹

を支えるメインサーバーや庁内LA

N、各種システムがダウン。災害対

応や情報発信を困難にした。

 

日高町は津波に備え、高台の門別

総合町民センターに非常用電源や防

災行政無線の親局などを備えた災害

対策室を設けている。本庁舎は耐震

基準を満たしておらず、津波浸水想

定区域内にあるため、非常用電源を

整備していない。今回の地震では津

波の恐れが無いため、災害対策本部

を本庁舎に置いたが、停電で電源を

喪失した。固定電話は使えず、携帯

電話の電波状態も悪化した。「防災

行政無線とエリアメールで情報を発

信できたが、受信ができない状態が

9月7日の停電復旧まで続いた。6

日夜に発電機が使えるようになった

が、照明はつくが、電話やインター

ネット、テレビなどは使えないまま

だった」(小野寺孝総務課主幹)。

 

地震の被害が少ない地域でも影響

は深刻だった。「ポータブル発電機

では照明の確保が精一杯だ。システ

ムやサーバーもダウンしておりパソ

コンで仕事ができない。情報の収集

や発信は個人が所有するスマート

フォンが頼りだった」(乙部町)。メ

インサーバー用に交流電源用UPS

(無停電電源装置)を備える市町村

も多いが、対応時間は最大数10分程

度しかない。今回のような長時間に

わたる停電には耐えられなかった。

 

厚真町総務課の篠原拓也主査は

「発災直後から庁舎内は非常用電源

が稼働し、通信系も無事だった。固

定電話、テレビ、インターネットも

つながっていた。携帯電話は会社に

より通信状態が違った」と話す。安

平町は、本庁舎の自家発電設備を稼

働。防災無線を置く旧庁舎は停電し

たため発電機を使用したという。

電源確保と財政負担

 

総務省消防庁は市町村に最低72時

間の連続稼働が可能な非常用電源の

整備を求めている。しかし「庁舎全

体への電力供給が可能な規模の大き

い発電機の導入には、発電機の購入

や配線の整備、設置場所の確保や改

修が必要であり、多額の財政負担を

要し、国の100%補助などが無け

れば、現状の厳しい財政状況では導

入が難しい」(道央のある市)。財源

確保の難しさから非常用電源の整備

を躊躇する市町村もある。同庁は地

方債充当率が100%で、地方交付

税算入率が70%の「緊急防災・減災

事業債」の活用を求めているが、遅

れている庁舎など公共施設の耐震化

を先行し、自家発電機の整備を後回

しにする市町村も多いのが現状だ。

 

政府や北電などによるブラックア

ウトをはじめとする大規模停電の再

発防止対策が急がれるが「東日本大

震災以降、原子力発電所の津波対策

がある程度進んだが、苫東厚真など

の海岸沿いに立地する火力発電所の

対策は本当に十分なのか」(ある首

長)との懸念は依然として根強い。

通信インフラの途絶

 

震源に近い胆振管内東部や日高管

内では発災後、NTTの固定電話が

数時間にわたり不通に。携帯電話も

検証2

大規模停電

非常用発電機で電源を確保した厚真町役場

08PRACTICE 2019 Winter

うデマが相次いで流れた影響が大き

い」(小野寺主幹)。公式情報の定期

発信とデマの打ち消しには一定の効

果があった。情報収集の一環として

ネット上の情報を常時モニターする

体制も必要になるかもしれない。

FMラジオや動画を活用

 

きめ細かい情報が提供できる地域

FMラジオやコミュニティFMの有

効性も注目された。函館市の「FM

いるか」は地震発生直後から4日

間、69時間30分にわたり、通常の番

組枠を変更して緊急災害放送を行

い、ツイッターなどのSNSも使

い、リスナーに情報を伝え続けた。

この間、ツイッターなどには153

5通の反響があった。青山剛室蘭市

長も、市内にある「FMびゅー」の

緊急放送に出演し、市民に冷静な対

応を呼び掛けた。地域FMの活用に

は市町村による避難情報や生活支援

情報の提供方法、放送継続に必要な

電源確保などの支援について、平時

から放送局と具体的な取り決めを

行っておく必要もある。一方、総務

省から臨時災害放送設備の提供を受

けたむかわ町は9月18日、厚真町は

20日に「FMびゅー」や、東日本大

震災の被災地で臨時FM放送局の運

営を手掛けた関係者の支援を受けて

臨時災害FMの放送を始めている。

 

安平町は9月7日〜12日まで防災

行政無線と広報車を主な情報発信手

段として利用したが、住民からの問

い合わせ電話は膨大な数に上った。

このため13日以降は、地上デジタル

放送の空きチャンネルを活用した地

域放送「あびらチャンネル」でも災

害関連情報を発信。田中一省総務課

長は「住民が求めているのは給水時

間、災害ごみの回収、入浴支援、物

資配給などの生活関連情報だった。

必要な情報が行き渡るようになる

と、問い合わせは激減した」と話す。

 

同町の及川秀一郎町長は9月8

日、インターネット上の動画投稿サ

イト・ユーチューブを通じて直接住

民にメッセージを発信。11分22秒の

映像では、最大の関心事だった水道

の復旧に関する説明に多くの時間を

割き「給水開始までにどれだけの日

数がかかるか、正直先が見えていな

い状況だが、1日も早く給水ができ

るよう全力を挙げる」と訴えた。

殺到する報道への対応

 

9月6日の発災当初、震度7を観

測した厚真町の震度情報が観測機器

の不調で送信されず、当初は震度6

強の安平町が最も大きな揺れを観測

した地点として報じられ、直後から

報道機関などの取材電話が殺到し

た。時間の経過とともに大規模土砂

災害の状況が明らかになると報道陣

は厚真町に集中した。安平町の田中

総務課長は「殺到する報道対応は窓

口を全て総務課長に一元化した。報

道関係者から逆に他町の情報を教え

てもらうこともあった」と語る。む

かわ町は「報道には積極的に情報提

供しようと思っていたが、その情報

が住民にはなかなか行き渡らないこ

ともあった」(成田総務企画課長)。

 

報道陣が集中した厚真町では救出

現場に中継車などが押し寄せ、陸自

の警務隊などが整理に追われた。町

は個別の取材対応が業務に支障を来

すため定期レクチャーを実施。庁舎

内の執務スペースや避難所、犠牲者

の検視を行った施設などへの立ち入

りを規制した。一方で電話取材を含

む報道対応は、市町村の負担になっ

た。手段を選ばずに犠牲者の顔写真

を集めるなどの取材手法も問題に

なった。災害時は新聞やテレビ、雑

誌、近年増えたインターネットメ

ディアなどによる、行政や被災者、

犠牲者の遺族に対する集団的過熱取

材(メディア・スクラム)が問題に

なる。だが、住民に対する生活支援

情報の提供や全国に向けた支援の呼

び掛けなど、メディアを通じた情報

発信の効果に対する期待もある。災

害対応の多忙だけを理由に取材対応

をシャットアウトすることは困難

だ。被災市町村にとって独自に解決

が難しい頭の痛い問題でもある。

厚真町は庁舎ロビーで報道発表を定期的に実施

11 No.28 PRACTICE

【特集】教訓・胆振東部地震

SNSの普及と活用

 

大規模停電に伴い市町村のホーム

ページ(HP)は閲覧や更新が困難

な状況に陥った。電源が確保できた

千歳市は、通常HPを緊急モードに

切り替え、災害情報に限定した情報

を発信した。一方でインターネット

上の短文投稿サイト・ツイッターや

交流サイト・フェイスブックなどの

SNSを新たな情報発信手段として

活用したり、運用が困難なHPの代

替ツールとする動きも広がった。む

かわ町の成田忠則総務企画課長は

「防災行政無線やLアラートととも

にHPやフェイスブックを活用した。 

しかし、スマートフォンやSNSを

利用できない高齢者も多い。自主防

災組織などを通じた文書による情報

発信も同時に必要だった」と話す。 

 

特に利便性が高いと感じたのは

フェイスブックだ。成田課長は「H

Pよりも簡単に情報が入手でき、情

報発信も簡単だ。こういう物資が不

足しているという情報を拡散すると

タイムリーに反応があった。既に在

庫に余裕がある物資についても情報

を伝えることができた」という。

 

日高町は「停電で情報発信ができ

ず、職員総出で文書を配ったが、罹

災証明などの業務が始まると、町内

会に配布を依頼した。防災行政無線

のメール機能は受信設定をしていな

い住民も多いため、今後も周知が必

要だ」(小野寺孝総務課主幹)。

 

市町村による携帯電話の充電サー

ビスは今後の災害でも不可欠だ。多

くの住民が詰め掛けたため、充電器

の使用時間を制限したり、整理券を

配布したりして、トラブルを避け、

公平な利用を促した市町村もある。

 

一方で防災行政無線の放送や広報

車のスピーカーによる情報伝達をめ

ぐり“聞こえない”という問題は今

回も生じている。「放送を4回繰り

返しても聞こえない」「広報車が不

足していたので自衛隊車両に応援を

お願いした」という町もあった。

災害デマを打ち消せ!

 

インターネットの普及に伴う災害

デマの急速な拡散は社会問題化して

いる。平成28年の熊本地震では4月

14日の前震発生直後に「熊本の動物

園からライオンが逃げた」という虚

偽の情報とライオンの写真をツイッ

ターに投稿した、神奈川県在住の会

社員の男が、偽計業務妨害容疑で逮

捕(起訴猶予処分)された事件は記

憶に新しい。胆振東部地震でも大規

模停電により、市町村の情報発信が

制約を受ける中、災害デマは公的情

報の空白を突くように増殖した。

 

全道各地で停電や断水、余震をめ

ぐるデマがツイッターなどで乱れ飛

んだ。地震によるダメージが少ない

地域でも、デマの影響で住民は飲料

水や燃料の確保で右往左往した。

 

苫小牧市では市内の停電がほぼ解

消した9月8日夜、ツイッター上で

「地鳴りが聞こえる」「5時間後に大

きな地震がくる」「市内の緊急放送

で大きな地震がくると放送してい

る」などの情報が飛び交い、一時は

50〜60人に減った避難者が250人

を超える規模に膨れ上がり、市は

ホームページで「全て根拠がない」

として冷静な対応を呼び掛けた。

 

日高町も「避難者のピークが3日

目の9月8日だった。ツイッターな

どで『また大きな地震が来る』とい

検証3

情報発信

ツイッターに投稿された断水をめぐるデマと打ち消し情報

10PRACTICE 2019 Winter

う問題が、過去の災害でもたびたび

生じてきた。特に食事をめぐる問題

は感情的なトラブルを招きやすい。

 

一方、ある町では「備蓄が残り2

食分という状況になり、在宅避難者

への配給分を含めた食料の供給を道

に求めたところ『避難者数を超える

食料が必要とはどういうことか。文

書で報告してもらいたい』と言われ

た。杓子定規な対応に対たい

口こう

支援で来

た東日本大震災の経験がある県職員

が怒っていた」という。被災地と後

方支援を担う職員同士、顔が見えな

い状態での意思疎通や感覚の齟齬を

埋めることは難しい課題でもある。

避難者の健康管理

 

避難生活の長期化に伴う避難者の

衛生や健康の管理も欠かせない。避

難の長期化に伴う持病の悪化や感染

症の予防、エコノミークラス症候群

の防止をはじめ、被災者の精神的ケ

アなど幅広い支援が医師会などを中

心に展開された。厚真町の吉田町民

福祉課長は「6カ所の避難所に配置

された職員が、毎日午後8時に集ま

り、連携会議を開いて情報交換を

行った。避難所の物資ニーズの把握

とともに感染症予防など、避難者の

衛生や健康管理に関する情報を支援

機関とも共有ができた」と語る。

 

避難から4〜5日が過ぎると入浴

のニーズが高まる。安平町は「早来

地区が自衛隊、追分地区はぬくもり

センター、遠浅地区にある畜産公社

の社員用の風呂、鶴の湯温泉も使わ

せてもらった」(田中総務課長)。

効率的な避難所運営

 

東日本大震災や熊本地震、さらに

度重なる台風や豪雨による災害を経

て、避難所におけるプライバシーの

確保や通気・冷暖房の充実など、生

活環境の改善が大きな課題となって

いる。避難所では特に個人スペース

と共有スペースの区分けが必要とな

る。厚真町は、国や道が被災地で必

要と想定される物資を市町村の要請

を待たずに送り込むプッシュ型支援

などで、段ボールベッドや間仕切り

用のパーティションが届き、職員と

避難者が協力して組み立てた。

 

吉田課長は「当初は避難者が多い

ため、スペースの都合から全員には

行き渡らず、高齢者や体の不自由な

人を優先した。スペースに余裕が生

じてからは、全ての避難者に使って

もらった。10月に入り、夜は床が冷

えたが、段ボールベッドは寒さ対策

として有効だった。快適なので避難

所の閉鎖後、仮設住宅に持って行っ

た人もいると聞いている」と語る。

 

むかわ町では、小中学校が授業を

再開した9月18日以降、避難所の集

約に着手。27日には鵡川地区にある

四季の館1カ所に。仮設住宅への入

居を希望する人や余震が不安な住民

約90人が身を寄せた。段ボールベッ

ドを確保できたのは発災から約2週

間後。成田総務企画課長は「避難の

長期化を想定してもっと早く準備で

きれば良かった」と話す。 

 

避難生活の苦痛を和らげる段ボー

ルベッドやパーティションは、どの

町でも希望したが、一方で「発災直

後は避難して来る人の数や避難の期

間が見通せないため、どれだけのス

ペースが必要なのかを判断できず、

ベッドなどの導入を躊躇した避難所

もある」との声も複数あった。

 

安平町では町内の住宅のうち9割

超が全半壊や一部損壊の被害を受け

た。自宅が被災した職員は、勤務終

了後、家族らが身を寄せている避難

所に“帰宅”した。奥田浩司総務課

長補佐は「被災した町職員は避難所

に帰っても休むことができる状況に

なく可哀想だった」と振り返る。

 

応急仮設住宅の完成に伴い、安平

町は11月30日、厚真町は12月6日に

避難所を閉鎖。むかわ町は11月11日

に避難所を閉鎖し、寮が被災した道

立むかわ高校野球部の生徒が、町の

合宿施設で避難生活を続けたが、2

学期の終了に伴い実家などに荷物を

移動したことで、12月21日に避難者

がゼロになった。生徒たちは今年1

月中には仮設の寮に移る予定だ。

パーティションと段ボールベッドを配置した避難所(厚真町)

13 No.28 PRACTICE

【特集】教訓・胆振東部地震

避難所開設

 

胆振東部地震では住家被害の増加

と大規模停電の影響で避難者数が膨

れ上がった。道のまとめによると全

道で避難者数が最も多かったのは9

月7日午後10時現在の1万3111

人。厚真町793人、安平町636

人、むかわ町793人だった。9日

午後10時現在では厚真町が1086

人に増加。安平町は543人、むか

わ町は299人だった。

 

安平町が10カ所の避難所を開放し

たのは、地震発生から約40分後の9

月6日午前3時45分だった。同6時

には備蓄の飲料水とアルファ化米を

配布。ピーク時の避難者数は718

人に。水や食料の提供を求める在宅

避難者も増え続け、余震が続発して

寝付けない避難者も多かった。

 

同町の田中一省総務課長は「平成

18年に旧早来町と旧追分町が合併し

た安平町は面積が広く、北から追

分、安平、早来、遠浅と大きく4つ

の地域に分かれている。避難所の運

営は地域の町内会や自治会に委ねる

形になった」と話す。初動対応に追

われる発災直後は、地域住民による

自助・共助が重要だ。平時から自主

防災組織の育成支援が欠かせない。

 

日高町は6日午前5時頃から同日

夕にかけて飛び地の門別・日高両地

区で9カ所の避難所を開設。発災当

日には298人が身を寄せ、各施設

には2人ずつ職員を常駐させた。

 

避難者が1千人を超えた厚真町

は、発災直後から避難の長期化を予

測して、町中心部にある総合福祉セ

ンターや小中学校など6カ所の公共

施設に避難所を集約した。吉田良行

町民福祉課長は「避難者名簿の様式

をあらかじめ準備しておけば避難者

の氏名や住所の把握をより効率的に

進めることができた」と話す。

食事の確保と提供

 

今回の地震では、大規模停電の影

響もあり、避難者数が当初の想定を

大きく上回り、水や食料が不足する

事態も。むかわ町は6日午前5時に

町内の巡回を開始。安全を確認でき

た施設から避難所を開設した。水や

食料の備蓄はあったが、6日の避難

者数は鵡川・穂別の両地区で1千人

を超えていた。成田忠則総務企画課

長は「備蓄の食料では到底足りず、

夕食が提供できるか不安だった。自

衛隊から非常食が届いたのが午後10

時過ぎだった。翌日以降は自衛隊な

どによる給食支援も始まり、食料確

保の不安は解消できた」と語る。

 

温かい食事の提供は心身の健康を

維持する上で欠かせない。だが、野

外炊事セットを活用した自衛隊の給

食支援活動には期限がある。成田課

長は「10月15日以降は、道の仲介で

コープさっぽろの有料給食サービス

を活用した。平日の昼食は再開した

学校給食を使い、3食とも温食を提

供した。栄養士が支援物資を有効活

用しながら、栄養バランスを考えた

献立で食事を提供できた」と話す。

 

日高町は、発災から約2週間にわ

たり、被害が少なかった日高地区の

宿泊施設で調理した食事を門別地区

の避難所に運んだ。日高地区は今回

の災害では食料や燃料などの物資を

供給する補給拠点にもなった。一方

で「町内の飲食店からの温かい汁物

などの炊き出しもあったが『避難所

に対する支援が胆振東部の町に比べ

て少ないのでは』という住民の声も

あった」(小野寺孝総務課主幹)。発

災直後の混乱期には、メディアの注

目度が高い市町村に支援が偏るとい

検証4

避難所運営

避難者の健康管理は重要だ(日高町)

12PRACTICE 2019 Winter

町村職員延べ3576人、道職員延

べ7793人に上る(道まとめ)。

 

安平町の田中一省総務課長は「対

口支援で来た岩手・新潟の県職員と

道内市町村の職員が20班体制で、住

家・非住家合わせて7213棟の全

棟調査を9月14日から10月5日まで

実施した。被害状況の早期把握と応

急復旧に役立った。住家の94%に当

たる3029棟が全半壊や一部損壊

の被害を受けていた」と話す。

 

また、同町の奥田浩司総務課長補

佐は「胆振管内東部の1市4町によ

る独自の応援協定もある。白老町の

応援が9月9日と最も早く、18人の

職員が避難所で心のこもった支援を

してくれた。道内外からの応援に感

謝しています」と話す。一方、各町

の現場では、各種システムや文書様

式などが自治体ごとに異なることに

職員の間で戸惑いもあり「罹災証明

などは様式の統一や、共通の事務マ

ニュアルが必要」との声もあった。

罹災証明書の迅速な交付

 

発災後に実施される応急危険度判

定は、建築の専門家が被災した建物

の損壊状況などを調査し、二次災害

を防止する。罹災証明の交付に伴う

被害認定調査は、市町村が住家など

の被害の程度を証明し、災害救助法

に基づく住宅の応急修理や仮設住宅

提供などの判断材料とされ、損害保

険の請求などにも活用されるが、被

災市町村では、人的資源や実務経験

の不足に伴う事務の遅れが課題と

なった。一方で災害復旧業務や被災

市町村への派遣などの経験を有する

応援職員らが、調査計画やマニュア

ルの策定を後押しした。他自治体に

よる支援体制の構築や情報共有など

の平時からの準備は欠かせない。 

道外市町村からの支援

 

むかわ町には、恐竜化石を活かし

た自治体連携を進める熊本県御船町

や兵庫県丹波市・篠山市の3市町か

ら応援職員が駆け付けた。姉妹都市

の富山県砺波市も災害時相互応援協

定に基づき、発災翌日から9月下旬

まで保健師や人事交流の経験がある

職員ら13人を派遣した。姉妹都市提

携は平成7年、旧鵡川町と砺波市と

合併した旧庄川町が締結。両市町の

合併を経て19年に再提携を行った。 

 

成田忠則総務企画課長は「熊本地

震を経験した御船町は、発災直後の

最も辛い時期に合計6人の職員を派

遣してくれた。罹災証明の交付など

応急復旧の段階に入り、次に何をし

ていいのか分からない状態の中での

助言は道標になった」と話す。その

上で「次に全国で大きな災害が発生

した際には、むかわ町からもタイム

リーな支援ができる職員を送り出し

て恩返ししたい」と力を込める。

ボランティア募集の工夫

 

安平町では9月8日、町社会福祉

協議会とはやきた子ども園を運営す

る学校法人リズム学園が共同で災害

ボランティアセンターを開設。避難

所や給水所での調査票配布や民生委

員による在宅高齢者などの戸別訪問

を通じて、被災者の支援ニーズを調

査した結果、住宅の瓦礫や壊れた家

具などの搬出に関するニーズが多

かった。町も罹災証明の交付に関す

る周知や給水所でのサポートなど、

多くの人手を要する業務でボラン

ティアによる支援を必要としていた。

 

9日にはインターネット上でボラ

ンティアの登録・予約サイトを立ち

上げた。ホテルなども使用している

予約システム「SELECT

TY

PE」を活用し、氏名や住所、連絡

先、保有資格などを入力し、ボラン

ティア登録や活動への参加予約を行

うことができる。新たな募集や作業

の中止、集合場所の変更などの連絡

事項もメールで送信でき、ボラン

ティアの参加希望者にも好評だっ

た。9月22〜24日の三連休には1日

で最大400人が活動に従事した。

町社協の髙橋光暢福祉活動専門員は

「登録後はいつでも予約状況を確認

できる。参加者も地域でどれ位の人

数のボランティアを必要としている

かが分かり、スケジュールを立てや

すく安心感もあった」と話す。

16 都県警察・延べ3620人の警察官が道内で救助活動や被災者支援、被災地の警戒などに当たった(厚真町)

15 No.28 PRACTICE

【特集】教訓・胆振東部地震

プッシュ型・プル型支援

 

東日本大震災では物流網の被災や

混乱から、被災地で救援物資が欠乏

する事態に陥った。その教訓から被

災市町村の要請を待たず、国や道が

必要と考える物資を送り込む〈プッ

シュ型支援〉が平成28年の熊本地震

から本格化。胆振東部地震では国や

道が道内外の企業に発注した食料な

どの物資を民間の物流網や、自衛隊

の艦船や航空機、車両を活用して苫

小牧港に集積。自衛隊の車両で被災

地に輸送した。物流網回復後は、被

災地で不足する物資を民間の物流網

を中心に届ける〈プル型支援〉に移

行。北広島市にあるヤマト運輸北海

道ロジスティクス支店を拠点に各町

の集積所に物資を輸送し、そこから

町内の避難所などに配送を行った。

 

災害対策本部で物資調達を担当す

る救護班長だった、厚真町の吉田良

行町民福祉課長は「発災直後の6日

朝は備蓄をすぐには用意できず、店

を走り回り朝食をかき集めた。7日

以降はプッシュ型支援の食料も届き

始めてホッとした」と振り返る。

 

むかわ町総務企画課の大塚治樹参

事は「町内1カ所に物資の拠点を設

けて一括管理ができれば良かったが

発災直後の混乱で穂別・鵡川の両地

区に送ってしまった。避難所などで

は保管や仕分けをする人手が足りな

いと問題になった」と話す。発災直

後の町内での物資配送は、自衛隊の

輸送車両による支援を受けた。

 

プル型支援に移行した9月18日以

降は、本庁舎に近い屋内ゲートボー

ル場を集積拠点とし、プル型支援の

中心を担うヤマト運輸の社員が物資

の受け入れや在庫管理、避難所への

配送などを行った。大塚参事は「物

流のプロなので物資の管理や配送の

面でとても助かった」と話す。

支援物資をめぐる悩み

 

支援物資をめぐっては「断水して

いる避難所で調理できないコメなど

の食材が届いた」「まだ暑い中で道

外から冬物衣料が大量に届いた。お

茶やふりかけが食べ切れないぐらい

集まった」「発災から1週間も経つ

と必要な物が変わる。物流網が回復

すると物資が大量に押し寄せるよう

になり、提供を止めてもらおうと

思っても急には止められない」など

の声も。ある町の担当者は「人的な

余裕が無い中で物資の管理に多くの

人手を割くのは厳しい。不要不急の

物資は断る勇気も必要」と話す。

職員派遣と対口支援

 

東日本大震災では多数の市町村が

津波で行政機能を維持できない事態

に陥った。その教訓を活かし都道府

県が担当する被災市町村を決めて職

員を派遣する「対たい

口こう

支援」は、平成

28年の熊本地震で本格化した。胆振

東部地震でも青森、秋田、岩手、宮

城、山形、福島、新潟の7県から派

遣された県職員は、9月6日〜10月

7日の32日間で延べ3265人(道

まとめ)に上り、避難所運営や罹災

証明書交付などの業務を支援した。

 

また、道と道内179市町村によ

る「災害時等における北海道及び市

町村相互の応援に関する協定」に基

づき、道や市町村が派遣した応援職

員は、災害対策本部の運営、避難所

運営、物資の管理、罹災証明書の交

付の支援に従事。土木や建築、水道

など技術系職員の派遣も行った。9

月6日〜11月16日の派遣人数は、市

検証5

受援体制

全国の自治体職員らが応援に駆けつけた(むかわ町)

14PRACTICE 2019 Winter

Relay Interview‹新千歳空港閉鎖に対処せよ!

─市内での大規模停電の影響は

 

市内全域で停電が発生し、高層住

宅などでは水道が使えない状況のた

め、6日午後1時半に市水道局が9

カ所で給水を始めました。市民の問

い合わせで最も多かったのは電力の

復旧時期と携帯電話などの充電場所

でした。停電に伴い、市民が殺到し

た給油所では燃料不足に陥り、緊急

対策として自衛隊から避難所用燃料

1400㍑の提供を受けました。6

日午後8時に一部地域で、8日未明

には全域で電力が回復しました。

─新千歳空港も被害を受けました

 

発災直後に空港事務所から「ター

ミナルビルで天井パネルやガラスが

落下したため施設を閉鎖する」と連

絡がありました。国際線ターミナル

を閉め出された旅行客や出発便の搭

乗客による混乱も予想され、市に避

難者として受け入れの打診がありま

した。これまで大雪などで大規模な

欠航があっても、市に対して直接支

援の要請が来たことはありません。

さらに「市内のホテルも停電や食材

を確保できない影響で宿泊客を退去

させた」と報告がありました。

─観光客の安全確保も課題です

 

市が想定していたのは航空機事故

による災害です。災対本部で協議し

た結果、市公民館と防災学習交流セ

ンター「そなえーる」を避難所に充

て、通訳も配置しました。観光客は

市が千歳相互観光バスに無償貸与し

ているバスで輸送しました。自衛隊

の飛行場や演習場を抱える市町村を

対象とする防衛省の「避難施設整備

事業」で市が導入したバスです。平

時は営業車として貸与し、災害時は

協定に基づき事業者が避難者の輸送

などを担います。初めての運用でし

たがスムーズに対応できました。受

け入れた観光客は外国人を含めて1

343人に上ります。在札幌韓国総

領事館の朴賢圭総領事から山口幸太

郎市長に謝意が伝えられました。

災害は必ず起きるという自覚を

─市民向けの情報伝達は

 

発災直後から防災行政無線や広報

車のほか、市ホームページを緊急

モードに切り替えて情報発信を行い

ましたが、インターネット上で「市

内全域が断水する」などのデマも錯

綜しました。昨年11月にツイッター

とフェイスブックの公式アカウント

を取得し、独自に防災情報の発信を

始めました。公式情報はデマの解消

や市民の安心につながります。

─胆振東部地震で得られた教訓は

 

やはり想定に無かった観光客対策

が課題です。外国人観光客は大きな

不安を感じたと思います。関係機関

と連携して不安を和らげるような対

策を講じていきたいと思います。市

はこれまでも直下型地震を想定した

職員参集や水害時の土のう構築、避

難所運営などの訓練を重ねてきまし

た。胆振東部地震の被害が比較的少

なかったこともありますが、情報の

収集と伝達、避難者支援のフローが

機能していることを感じました。

─改善すべき課題はありますか

 

市民から避難所開設をめぐる若手

職員の対応が未熟だったと指摘を受

けました。深刻な大災害を乗り切る

には「災害は必ず起きる」という自

覚を持ち、職員自身が災害想定をよ

り具体化させ、物心両面での準備を

整えていく必要があります。自衛隊

や警察などの防災機関と連携した実

戦的訓練も発展させていかなければ

いけません。「自分の身は自分で守

る」という自助・共助の意識が定着

するよう、市民を対象にした継続的

な防災教育や訓練も不可欠です。

取材メモから

 人口約9万7千人の千歳市─。このうち自衛隊員や家族などの関係者が約3分の1を占める。大規模災害発生時には全道あるいは全国の災害対処を支える後拠でもある。市は「災害に強いまちづくり」を掲げ、防災訓練や最新の知見を活かした地域防災計画、危機管理マニュアルの見直しなどを通じた災害対処能力の向上に努めてきた。胆振東部地震は〈観光立国〉を掲げる本道に対して、観光客の安全確保という大きな問いを突き付けた。同市における訪日外国人を含む観光客の避難対応では、柔軟性や融通性を備えた組織の総合力が発揮された。想定外の危機に直面しても、瞬発力を発揮できる足腰の強い組織づくりが欠かせない。

災害時協定に基づきバスで観光客を避難所に輸送

17 No.28 PRACTICE

 大規模災害時において、市町村に

よる迅速な初動態勢の確立は住民の

生命財産の保護に直結する─。千歳

市は長年にわたり培ってきた危機管

理能力を発揮して、胆振東部地震で

も早期の避難所開設や訪日外国人を

含む観光客の避難対策などに全力を

尽くした。危機管理を担当する市総

務部の塩屋参事監は「想定を超える

事態への対応には平時からの積み重

ねこそが大切です」と振り返る。

緊急参集する市職員を情報源に

─胆振東部地震の初動対応は

 

地域防災計画に基づき震度5弱以

上で災害対策本部を設置します。ま

た、震度5弱〜6弱の揺れに応じて

第1〜3非常配備とし、職務の優先

順位に対応して職員を参集します。

市街地は震度5強、新千歳空港が震

度6弱で、地震発生から15分後の9

月6日午前3時22分に第2非常配備

とし、同4時に最初の本部会議を開

きました。同5時に全職員1063

人の6割に当たる626人、同8時

には809人が登庁しました。

─災害情報を収集するための工夫は

 

緊急登庁した職員に統一様式の報

告書を配布し、居住地域や通勤経路

で確認した被災状況を記入してもら

います。報告があった情報を集約す

る一方、消防本部や市内のパトロー

ルに出た現業部門の職員からも情報

が集まり始め、市内では大規模な家

屋倒壊や火災は発生しておらず、道

路網の寸断や断水なども発生してい

ないことが明らかになりました。

─発災当日の避難住民への対応は

 

余震が相次ぐ中、指定緊急避難場

所に自主避難する市民が増え始めた

ため、同7時までに12カ所の避難所

を開設し、午後4時までに支笏湖地

区を除く市内45カ所全ての指定避難

所を開設しました。市庁舎は自家発

電装置で機能を維持し、避難所とな

る公共施設でも発電機を整備してお

り、混乱はありませんでした。避難

者数のピークは6日午後10時の17

58人で、半数近くは新千歳空港や

ホテルなどの閉鎖で行き場を失った

観光客でした。10日正午に全避難所

を閉鎖するまでの避難者数は延べ人

数で4750人に上りました。

【リレーインタビュー】

瞬発力で初動対応に全力観光客の避難が課題に

千歳市総務部参事監(渉外・危機管理担当) 塩屋 十三氏

1

PROFILE塩屋 十三(しおや・とみぞう)氏 昭和 21 年宮崎県生まれ。陸上自衛隊少年工科学校(現・高等工科学校)卒。各部隊勤務中に北海学園大を卒業。北恵庭駐屯地業務隊長を最後に平成 13 年に退官。同年4月に千歳市採用。危機管理・防災管理および自衛隊関連の業務に従事している。

「災害は必ず起きる」という自覚を─と語る塩屋参事監

山口幸太郎市長を本部長とする災害対策本部で自衛隊など関係機関と情報を共有

胆振東部 地震に学ぶ災害対策

16PRACTICE 2019 Winter

Relay Interview‹‹よう住民に呼び掛けました。午前6

時頃までに約60人が避難してきまし

たが混乱はありませんでした。行政

による「公助」は、すぐには動き出

しません。人命救助や被害の把握で

手一杯の状態です。初動段階は、住

民による「自助・共助」で急場をし

のぐ必要があります。8月に訓練を

行ったばかりだったので、住民の防

災意識が持続していました。

─避難所を運営する上での工夫は

 

これまでの訓練を活かし、高齢者

と一般用の部屋を区別しました。高

齢者には静かな環境を提供し、避難

生活が長期化しても、子どもたちが

気兼ねすることがないようにとの配

慮です。水や食糧の支援を町に要請

し、午前8時過ぎに自衛隊の給水車

が到着しました。支援物資が届き始

めると、避難所の調理場で炊き出し

が始まり、持ち寄った野菜で町内の

女性たちが豚汁やカレーライスなど

の温食を用意してくれました。住民

が身を寄せ合いながら、自分たちの

手で当面の急場をしのぐことができ

る場所を提供できたと思います。

1カ月間の避難所運営を担って

─安否確認はうまくいきましたか

 

8月に訓練した安否情報の報告シ

ステムがうまく機能しました。住民

全員ではなく、代表委員に報告が無

い人だけを対象に電話や戸別訪問で

安否確認を行うことで、早い段階で

住民650人の安否情報を把握する

ことができました。被害状況の確認

も進めました。外観は大丈夫に見え

ても屋内のあちこちに亀裂が走り、

危険な住宅も複数ありました。後片

付け中に骨折した人もいました。

 

避難所で感じたのは、外部からの

情報不足です。町の被害状況やライ

フラインの復旧情報は入ってきませ

んでした。高齢者は文書を読むのが

苦手なので、普段からなかなか回覧

板も読んでもらえません。やはり確

実なのは音声です。戸別訪問や広報

車を通じて、罹災証明の届け出や震

災ゴミ回収の日程を伝えました。

─特に夜間は不安だったのでは

 

家の後片付けなどで出掛けている

人が多いので、昼間の避難所にいる

のは20人程度です。夜になると帰っ

て来るので60〜70人に増えます。余

震が怖いので車中泊をする人もいま

した。照明器具が足りないので、盆

踊りのライトで大ホールの照明を確

保しました。10日には電力供給が再

開しましたが、自宅に戻ることに不

安を感じる人も多く、避難所を閉じ

たのは10月3日午後2時でした。

─住民の目線で感じた課題は

 

最初は避難所の要望を町に伝える

ルートの確保に苦労しました。役場

も大変な状況なので、担当職員と連

絡が取れず、伝言をしても伝わりま

せん。私は厚真町の職員だったので

苦労は分かります。安平町でも、自

宅の復旧も手付かずの状態で災害対

応に当たった職員の負担は大きかっ

たと思います。地震発生から1週間

ほどして、避難所を担当している町

や道の職員と毎日ミーティングを行

うようになりましたが、平時からき

ちんとした情報伝達のルートを確保

しておく必要があると思います。

取材メモから

 災害時、国や自治体による災害対応の立ち上がりには一定の時間を要する。東日本大震災では首長や職員、庁舎の被災で行政機能を喪失した市や町もあった。災害の規模が大きいほど、初動段階で住民自身による救助活動や避難誘導、避難所運営などの応急対策の必要性が高まる。 地域コミュニティーを基盤とする自主防災組織は、平時からの訓練や資機材の整備、防災教育などを担う。平成 29年4月現在、道内での組織率は 56.2%(道危機対策課まとめ)に止まる。40弱の市町村が未組織で、組織済みの地域でも活動実態には濃淡がある。胆振東部地震でも初動対応をめぐる多くの課題が浮き彫りになった。備え無ければ憂いあり─だ。

民間からの支援物資も多方面から寄せられた

反射ベストを着用した役員が避難誘導や避難所開設に当たった

19 No.28 PRACTICE

 平成18年に早来・追分両町の合併

で誕生した安平町。両地区の中間に

位置する人口約650人の安平地区

では、平成25年に結成された自主防

災組織〈安平第1自治会防災会〉を

中心に防災資機材の整備や防災訓練

を積み重ね、昨年9月の胆振東部地

震では、住民の安否確認や避難所運

営を混乱なく進めることができた。

安平地区自治会連合会長の佐々木弘

さんに地域での自助・共助の取組や

避難所運営の実情について聞いた。

東日本大震災を教訓に─

─安平地区の自治会運営は

 

町内には34の町内会・自治会があ

ります。340世帯・652人が暮

らす安平地区には安平第1〜3、瑞

穂、緑丘の5自治会があり、自治会

加入率は72%です。地区全体の高齢

化率は46%で、地区人口の8割が集

中する安平第1〜3自治会は独居高

齢者の割合が高くなっています。

─自主防災組織を立ち上げた経緯は

 

東日本大震災が契機です。高齢化

が進み、災害への備えに不安を感じ

ていました。自治会役員も世代交代

の時期を迎え、私と同じ世代の役員

は危機意識を共有していました。

 

平成24年から、町が自主防災組織

の育成に乗り出したことも追い風に

して、25年3月に〈安平第1自治会

防災会〉を結成しました。さまざま

な助成制度を使い、避難誘導に使う

ヘルメットや反射ベスト、誘導灯と

ともに、避難所で必要となるガソリ

ン発電機や燃料携行缶、投光器、赤

外線ヒーターなどを準備し、安平地

区公民館に保管庫を設けました。

─定期的な訓練も大切ですね

 

平成25年度から自治会の役員など

を中心に避難経路を確認する図上訓

練、発電機や照明の操作方法を確認

する研修を行い、30年8月には地区

公民館と共催で合同防災訓練を始

め、地区の全世帯と安平小学校の児

童や高齢者グループホームの入所者

も参加し、避難手順の確認やHUG

(避難所運営ゲーム)、備蓄品の試食

も行いました。また、災害時に本当

に機能する取組として、防災会の役

員が安否確認を行うのではなく、住

民自身が役員に報告し、情報を集約

する安否確認訓練も行いました。児

童は公民館の体育館に1泊し、避難

生活を体験する防災キャンプも行い

ました。訓練を成功裏に終えた1カ

月後に胆振東部地震に襲われました。

訓練直後に胆振東部地震!

─発災時の状況を教えてください

 

激しい揺れが約1分続き、強い余

震も相次ぎました。安平地区全域で

停電と断水が発生し、固定電話も通

話できなくなりました。本震から約

10分後には公民館長が駆け付け、施

設の鍵を開けている間にも住民が集

まり始めました。午前4時頃までに

避難所の開設準備を整え、自治会で

広報車を出して、公民館に避難する

PROFILE佐々木 弘(ささき・ひろし)氏昭和 23 年安平町(旧早来町)生まれ。道立農業技術講習所卒。昭和50 年厚真町採用。農業振興課長、産業経済課長などを経て平成 20 年に定年退職。平成 23 年安平地区自治会連合会長。25 年安平第1自治会防災会長。70 歳。

地域を守る自主防災組織自助・共助が防災の要に

安平地区自治会連合会・安平第1自治会防災会会長 佐々木 弘氏

2

【リレーインタビュー】

情報伝達のルートを確保しておく必要があると語る佐々木さん

胆振東部 地震に学ぶ災害対策

18PRACTICE 2019 Winter

Relay Interview‹‹‹─被災者に対する生活支援活動は

 

人命救助活動と並行して、生活支

援や道路啓開などの応急復旧支援も

開始しました。水や食糧のニーズが

高く、部隊の輸送力を活かしてピス

トン輸送する態勢を整えました。野

外入浴セットを活かした入浴支援も

発災3日目からスタートしました。

 

現場で意識したのは“被災者目線” 

です。入浴所の待合室に「要望ノー

ト」を置き、可能な限りリクエスト

に応えるようにしました。被災した

皆さんが少しでも前を向いていける

よう、1カ月の派遣期間中、隊員は

それぞれの持ち場で心を砕きました。

 

長時間電源が喪失する「ブラック

アウト」への対策が十分でなかった

ことは教訓の一つです。停電で給水

装置が停止し、想定を超えた範囲で

給水支援が必要になりました。

市町村のリーダーシップが不可欠

─自衛隊が市町村に望むことは

 

災害時は自衛隊、警察、消防など

の関係機関が駆け付けますが、お互

い指揮命令関係にありません。被害

を把握し、対策の優先順位を決める

ことができるのは市町村だけです。 

重要なのは市町村のリーダーシップ

です。例えばここに100個のパン

があり、3カ所の避難所に100人

ずつ被災者がいるとします。平等の

原則を重視して「全員に行き渡らな

いのなら配布しない」のか、優先順

位を決めて配布するのか。自衛隊は

パンを運ぶことはできますが、方法

を決めるのは市町村の役割です。今

回の災害では宮坂尚市朗厚真町長の

リーダーシップに感謝しています。

─自衛隊を「知る」ことも大切です

 

自衛隊の災害派遣には「公共性・

緊急性・非代替性」という三原則が

あり、また、能力的に「できるこ

と」と「できないこと」があること

をご理解ください。胆振東部地震の

被災地では「高齢者施設の浴場を再

開したい」との要望がありました。

 

私たちは建物や設備の修理はでき

ませんが、水や燃料を運ぶことはで

きます。要望に応じて提案もします

が、被災者支援をスムーズに進める

ためには、普段から顔が見える関係

を構築し、自衛隊の能力や装備を

知っていただくことも大切です。

自衛隊のノウハウを活かす

─市町村の訓練に必要なことは

 

シナリオ通りの訓練では、危機管

理能力は向上しません。想定外の事

態への対処を含め、錯綜した状況下

での情報収集や分析、関係機関との

調整、対策の決定と実行─という災

害対策本部の運営サイクルを図上訓

練で経験しておくと、災害時にも組

織がうまく回ります。陸上自衛隊は

防衛作戦や震災対処などの事態を想

定して、コンピュータシミュレー

ションを取り入れた指揮所演習(図

上訓練)を積み重ねています。昨年

11月に新ひだか町が実施した訓練で

は師団がノウハウを提供しました。

ご相談いただければ、訓練企画を含

めてサポートすることができます。

─退職自衛官も貴重な存在です

 

豊富な経験とノウハウと経験を有

する退職自衛官を、危機管理担当職

員として採用する市町村が全国で増

えています。道内でも38市町で約50

人が在職しており、胆振東部地震で

も活躍しました。平時には各種訓練

の企画や実施を通じて地域防災力を

高め、災害時には自衛隊と市町村を

結ぶ役割を果たします。市町村と自

衛隊では仕事の進め方や用語も違う

ため、両者をつなぐ“通訳”が必要

となります。道内でも一層の活用を

お願いしたいと思っています。

取材メモから

 我らここに励みて国安らかなり─東千歳駐屯地正門の標柱に刻まれた言葉だ。この地に司令部を置く陸上自衛隊第7師団は、創隊から 63 年にわたり、国土防衛を主な任務として部隊の錬成に心血を注いできた。有形無形の能力は、胆振東部地震における災害派遣活動でも遺憾なく発揮された。不断の努力で培った防衛力は国民共有の財産であり、重要な社会資本とも言える。武力攻撃事態や大規模テロ、激甚化する自然災害に対する備えは自衛隊、自治体あるいは地域住民が独力で築き上げるものではない。一方で過度の依存関係に陥ってもいけない。平時からの緊密な連携により、お互いの能力と限界を知るための相互理解が欠かせない。

被災者目線を大切にした生活支援活動

21 No.28 PRACTICE

 高度な自己完結能力と危機対処能

力を備えた自衛隊は、大規模災害発

生時には頼りとなる存在だ。陸上自

衛隊第7師団は、胆振東部地震で、

人命救助活動や被災者の生活支援活

動の主力を担った。発災当日に厚真

町に入り、1週間にわたり現地で災

害派遣部隊の指導や関係機関との調

整に当たった斎藤副師団長に、災害

派遣をめぐる市町村との連携や平時

からの備えの在り方を聞いた。

第7機甲師団出動!

─師団の初動態勢を教えてください

 

第7師団は胆振・日高管内を中心

とする8市18町の防衛警備や災害派

遣を担任しています。発災直後に全

隊員を非常呼集し、午前3時22分に

は各市町に連絡幹部(LO)を派遣

して情報収集活動を開始し、24時間

即応態勢にある初動対処部隊(FA

ST─

Force)も自主派遣しまし

た。当初は厚真町の震度情報が入っ

ておらず、部隊は揺れが大きかった

安平町やコンビナート火災の情報が

あった苫小牧市に向かいました。

─厚真町への部隊の派遣は

 

夜が明けて深刻な土砂災害の状況

が見えてきました。厚真町など5町

を担任する第7特科連隊などの部隊

を集中しました。師団長は司令部で

全般の指揮を執り、私は8時頃に厚

真町に入りました。行方不明者の生

存率が低下する72時間まで人命救助

が最優先です。隊員数や所要の装備

を見積り、師団の約半数に当たる2

500人を投入し、パワーショベル

やダンプカーなどの装備資機材が充

実している第3施設団など、北部方

面隊直轄部隊の増強を依頼しました。

人命救助活動を支えた情報

─厚真町の現場で感じたことは

 

厚真町では、発災当日の昼頃まで

に被災家屋と行方不明者のリスト化

がほぼ完成しており、住宅地図に記

入してもらい、捜索に活用しまし

た。土砂災害で100㍍以上も押し

流され、厚さが5㍍以上の土砂に埋

もれた住宅もありました。地域の事

情に詳しい職員が多く「あの家のお

爺さんは2階、お婆さんは1階のこ

こに寝ていた」といった詳細な情報

があり、建物や家具の残骸から捜索

場所を絞り込み、4日間で全ての行

方不明者を発見できました。人間関

係が希薄な大都市の災害であれば、

極めて難しい捜索活動になったと思

います。災害派遣における情報の重

要性を強く認識しました。

PROFILE斎藤 兼一(さいとう・けんいち)氏昭和38年生まれ。福井県出身。東京大学文学部卒。平成元年陸自幹部候補生学校入校。第9戦車大隊、戦車教導隊中隊長、幹部学校指揮幕僚課程、第2戦車連隊中隊長、陸上幕僚監部教育訓練部総括班長などを経て平成 23年第 34普通科連隊長。第2師団幕僚長、陸幕防衛部防衛協力課長などを経て 29年 12月から現職。55歳。

陸上自衛隊災害派遣─市町村がリーダーシップを

陸上自衛隊第7師団 副師団長兼東千歳駐屯地司令陸将補 斎藤 兼一氏

3

行方不明者の捜索は24時間態勢で行われた

【リレーインタビュー】

胆振東部 地震に学ぶ災害対策

20PRACTICE 2019 Winter

Relay Interview‹‹‹‹─地震被害に備えた安全対策とは

 

町村部などでは、店舗併用住宅が

商店街を中心とする市街地を形成し

ているケースが多いと思います。こ

うした建築物が多数被災すると、市

街地そのものの復興が難しくなりま

す。適切な補強などをすることで耐

震性は増します。今回被災していな

い市町村も、あらかじめ復興の観点

も持ちながら、商工会などに呼び掛

けて、事業者に耐震化の意識を高め

てもらう必要があります。センター

でも耐震性を考慮した復旧や耐震改

修技術の研究に取り組んでいく予定

です。

北海道型仮設住宅の研究が進む

─仮設住宅建設に関する対応は

 

9月14日に道建設部住宅局との協

議で対応方針が決まり、21日にはプ

レハブ協会などの関係団体と協議を

行い、1期分として130戸、2期

分で78戸の建設が決定しました。建

設するのは北海道ですが、研究所は

仮設住宅が仕様通り施工されるため

の技術指導などを担いました。

─仮設住宅に関する研究の動向は

 

東日本大震災を契機に、平成24年

度から2カ年で道からの受託研究を

行いました。東日本大震災の仮設住

宅では、結露によるカビなどの発生

で、入居者の健康被害が発生しまし

た。積雪寒冷地という事情も踏まえ

て、断熱性・気密性が高く、適切な

換気を可能とする〈北海道型応急仮

設住宅〉の仕様をまとめました。平

成29年からは供給計画を含めた検討

を行っています。

積雪寒冷地特有の課題に対応

─建設時にはどのような支援を

 

仕様は決まっていても、仮設住宅

メーカーによって細かい造作が異な

り、加えて施工業者も寒冷地での仮

設住宅建設の経験が無いため、現場

代理人への技術的なアドバイスなど

を綿密に行いました。特に暖かさの

確保や結露防止の生命線である防湿

フィルムの役割について、しっかり

と説明し納得してもらいました。ま

た、今回最も重要なこととして、全

住戸に温湿度計を設置しました。温

度と湿度の〈見える化〉により入居

者自ら結露を理解してその対策を行

う試みです。

─被災地の復興に向けた取組は

 

被災地は厳冬期には氷点下20度に

なる時もあります。まずは、寒さを

乗り切れる住宅であることが最も重

要です。換気についても、入居者が

湿度を見ながら自分で作業すること

になるため、自ら結露への認識を持

つことが欠かせません。町の職員に

も結露問題を伝え、入居者の適切管

理を促すようアドバイスしていきた

いですね。復興を円滑に進めるため

には、安心かつ健康に暮らせること

ができる住宅が不可欠です。

 

今回はこれまでの災害で最も寒い

地に建つ応急仮設住宅であり、多く

の知見が得られています。蓄積され

たデータをしっかりと分析し、次の

災害に備えたいと思います。また、

道や業界団体などとともに、住宅の

復旧・再建に向けた相談会も開催し

ました。建築士ら専門家が無料で相

談に対応し、希望があれば業者の紹

介にも応じました。民間と行政そし

て研究機関が連携し、被災者と向き

合うことで、一日も早い復興が実現

できればと思っています。

取材メモから

 地震で被災した建物に住み続けることができるかどうか。被災者の生活再建と自立を後押しする上で応急危険度判定は重要なステップだ。不幸にして居住が困難と判定された場合、住宅の再建や災害復興住宅が整備されるまでは、応急仮設住宅が生活の拠点となる。本道の気候風土に対応した仮設住宅の整備は、想定される大規模震災を見据えたテストケースになるだろう。また、胆振東部地震では、店舗併用住宅の被害が顕著だった。商店街は地域経済をけん引する市街地の中核だ。まちづくりの観点からも、平時から耐震性の確保や災害に備えた〈事前復興〉の考え方に基づく対策が急がれる。

北海道型応急仮設住宅の技術指導や無料相談会を担った廣田企画課長と谷口研究主幹(左)

暖かさの確保や結露防止に重要な役割を持つ防湿フィルムの施工方法を現場で指導

23 No.28 PRACTICE

 道立総合研究機構建築研究本部は

胆振東部地震の発災直後には、初動

調査や応急危険度判定のコーディ

ネートを行うとともに、応急仮設住

宅の建設に向けて関係機関と協議を

行った。応急仮設住宅建設時には、

結露などによる健康被害を防ぐた

め、全国初となる高気密・高断熱が

特徴の〈北海道型応急仮設住宅〉の

建設に向けた技術支援を担った。被

災者が日常の暮らしを取り戻し、地

域の復興をバックアップする住宅施

策のあるべき姿とは─。

店舗併用住宅の被害が顕著

─発災後の対応を教えてください

 地震発生直後に現地対策室を設置

し、道や被災市町村の要請に応える

体制を整えました。実は9月5日か

ら3日間の日程で、仙台市で建築学

会の全国大会が開かれており、職員

も参加していましたが、急きょ北海

道に戻るよう指示が出ました。発災

翌日の7日には、厚真・安平・むか

わの3町に向かい、建築物の初動調

査を実施し、応急危険度判定のコー

ディネーターを支援し、現地での応

急危険度判定も実施しました。

─3町の建築物被害の状況は

 土砂災害や液状化による被害のほ

かに、老朽化した建物や店舗など規

模の大きい建物が、比較的新しい低

層の住宅などと比べ、倒壊や著しい

損壊の被害を受けました。特に店舗

併用住宅が顕著です。また、倒壊し

た建物の柱や梁などの主要な部材を

観察すると、木材自体が腐朽や虫害

により、著しく劣化している事例を

多く確認しました。建物を支える柱

や梁、筋交いなどが漏水や壁内の結

露などで劣化・損傷すると、強度を

大きく欠き、揺れに耐えられなくな

ります。主要部材の強度を保つため

には、適切な補修やメンテナンスが

必要とあらためて感じました。

まちの復興へ新たな工法研究を

─店舗併用住宅の被害の特徴は

 店舗部分は通りに面して、店の入

り口や商品陳列の大きな窓などがあ

り、耐震性の高い壁が極端に少ない

平面になる傾向があります。逆に通

りの裏側には、住宅が併設されるこ

とが多く、間取りの関係で壁が比較

的多くなります。この平面的なアン

バランスのため、壁の少ない店舗部

分が地震動で大きく振られ、損壊に

至ったものと考えられます。

PROFILE渡邊 和之(わたなべ・かずゆき)氏 建築性能試験センター安全性能部長。建設会社を経て、平成 19 年北方建築総合研究所。平成 30 年から現職

廣田 誠一(ひろた・ともひこ)氏 企画調整部企画課長。札幌市出身。道内ハウスメーカーを経て、平成2年道立寒地住宅都市研究所。専門は建築構法、建築環境

谷口  円(たにぐち・まどか)氏 北方建築総合研究所建築研究部建築システムグループ研究主幹。盛岡市出身。建設会社を経て、平成 14年北方建築総合研究所。専門はコンクリート、建築材料

地震に備えた耐震性向上が急務北海道型仮設住宅の特長は─

地方独立行政法人北海道立総合研究機構建築研究本部渡邊 和之氏・廣田 誠一氏・谷口  円氏

4

建築物被害の初動調査を行った渡邊部長

むかわ町では店舗併用住宅の被害が目立った

【リレーインタビュー】

胆振東部 地震に学ぶ災害対策

22PRACTICE 2019 Winter

Relay Interview‹‹‹‹‹支援する人たちを支えるために

─被災地での具体的な活動内容は

 

主に三つの取組をしました。一つ

は避難所の環境整備です。避難所と

なる学校の体育館などは、玄関やト

イレなどに手すりが無く、高齢者に

は転倒のリスクがあります。和式ト

イレや段差も障害になります。さら

に、段ボールベッドを配置する際に

は、歩行器や車いすが通れるような

レイアウトの指導も必要です。こう

した環境整備を町の担当職員にアド

バイスしました。二点目は〈生活不

活発病〉を防ぐため、リハビリ的な

観点で避難者のトリアージを行って

保健師と情報を共有しました。

 

三点目は、避難者の運動不足によ

る体力低下の防止やストレス解消の

ための集団体操の呼び掛けです。避

難者の健康管理は、各町の保健師が

担当しますが、どちらかと言えば感

染症対策や母子保健に詳しい保健師

が多く、私たちが高齢者や障がい者

対応のノウハウを補完し、サポート

する形で活動を展開しました。

─町との連携はいかがでしたか

 

避難所運営は、市町村の比較的若

い職員が担当するケースが多く、今

回も同様でした。自分自身や家族が

被災する中、一生懸命に仕事をして

いますが、大規模災害を経験するの

は初めてです。仕事を進める上での

知識や経験の〈引き出し〉が少ない

ため、余裕を失ってしまいます。リ

ハビリのノウハウもほとんどありま

せん。地元の保健師をはじめ、被災

者を支援する側の人たちを支えるた

め、私たちはリハビリの専門家集団

として情報共有などを通じて連携を

深め、避難者対応に取り組みました。

平時から災害リハビリの意識を

─活動の成果と今後の課題は

 

メンバーそれぞれが仕事を抱える

中、初動の情報収集から派遣、現地

での活動と比較的スムーズに進んだ

と思います。今回、協議会は北海道

医師会の傘下団体として現地で活動

しましたが、災害救助法による応急

救助の基準では、医療的支援は2週

間を限度としています。一方で、救

急医療は別として、疲労の蓄積や将

来に対する不安などにより、発災か

ら10日を過ぎた頃から、心身の異常

を訴えるケースが多く発生します。

 

このため、災害リハビリに関して

は、シームレスな支援体制が検討さ

れるべきだと思います。協議会の特

定のメンバーが長期間、現地に張り

付くことは難しいため、地元の受け

入れ体制整備や支援のマニュアル

化、協議会の支援体制強化などに取

り組む必要があると感じています。

─市町村の災害リハビリの在り方は

 

道内の市町村では今後、高齢化が

一層加速します。こうした中、大規

模災害時の避難所対応は、救急医療

や治療とともに、高齢者や障がい者

のリハビリという視点が欠かせませ

ん。避難所となる公共施設では、あ

らかじめ手すりを付けておく、段差

を解消しておくといった対応を災害

前から進めておくことで、災害リハ

ビリはかなり円滑に進められます。

 

今回の災害は胆振管内の3町に被

害が集中しましたが、他の市町村も

我が事として捉え、起こり得る大規

模災害を見据え、今から施設整備の

進め方を考えるべきです。また、高

齢者や障がい者の方を対象にした訓

練や避難所運営のシミュレーション

を行うことで、設備の必要性がより

明確となり、事前の整備がより円滑

に進むのではないでしょうか。

取材メモから

 「動かない」「動けない」ことが原因で、心身機能の低下や疾病の悪化を生じる生活不活発病─。東日本大震災では、避難所生活の長期化により、高齢者を中心に震災関連死や要介護認定率の急激な上昇をもたらした。仮設住宅での生活に移行した後も問題は長期に及んだ。震災関連死を〈防ぎうる死〉と位置付け、平成 28 年の熊本地震では、予防や回復を重視した医療的支援が本格的に展開された。急速な高齢化が進行する本道でも今後予想される災害をにらみ、長期避難を想定したシームレスな災害弱者支援が欠かせない。避難所施設の設備改修や医療関係者による支援体制の構築などハード・ソフトの両面からの対策が急がれる。

長期の避難所暮らしでは「生活不活発病」が懸念される(厚真町)

25 No.28 PRACTICE

 大規模災害に伴う長期間にわたる

避難所生活では、高齢者を中心とし

て心身の機能が低下し、時として死

に至る〈生活不活発病〉の多発が問

題視されている。平成26年に高齢者

などの災害弱者に対する医療的支援

を目的に「北海道災害リハビリテー

ション推進協議会(DoRAT)」

が発足。医師や理学療法士、作業療

法士、看護師らで構成する同協議会

は昨年9月の胆振東部地震で、厚

真・安平・むかわの3町で2週間に

わたり、避難所を中心に災害リハビ

リ活動を展開した。一連の活動を通

じて見えてきた課題や今後の展望に

ついてリハビリ専門医である同協議

会の光増理事長に聞いた。

道内の大規模災害で初出動

─DoRATが発足した経緯は

 

平成23年の東日本大震災では、避

難所生活が長期間に及び、高齢者を

中心に〈生活不活発病〉による死者

が多数発生しました。このことを教

訓に災害時の組織的なリハビリ活動

を担う「大規模災害リハビリテー

ション支援関連団体協議会(JRA

T)」が、平成25年に発足しました。

 

道内でも平成26年に「DoRA

T」が設立されました。メンバーは

医師や理学療法士、作業療法士、看

護師、栄養士などのリハビリに関連

する医療従事者で構成しており、平

成28年の熊本地震で初めて被災地に

出動しました。2年前の台風災害で

は南富良野町に視察チームを派遣し

ましたが、胆振東部地震が道内で初

めての支援活動になりました。

─初動の活動はいかがでしたか

 

地震発生翌日の9月7日に対策本

部を立ち上げ、道の災害対策本部に

も加わっている北海道医師会などと

連絡を取りながら、避難所マップの

作成など、支援の準備を続けてきま

した。ブラックアウトによる通信障

害などもありましたが、11日に医師

1人と理学療法士2人のチームをむ

かわ町に派遣し、現地の保健師さん

と今後の支援を協議しました。12日

には2次隊として、医師と理学療法

士、作業療法士の3人が被災地に

入って、避難所の環境評価や避難者

のリハビリトリアージなどを行いま

した。2週間にわたり20チーム・延

べ72人が現地で活動しました。

PROFILE光増 智(みつます・さとる)氏平成7年札幌医科大学卒。同年中村記念病院脳神経外科入局。16 年の中村記念南病院開設に伴い、同院リハビリテーション科勤務に。17 年から2年間の研修を経て、リハビリテーション科専門医・指導医取得。現在は中村記念南病院リハビリテーション科診療本部長を務めている。

避難所での震災関連死を防ぐDoRATが道内初出動北海道災害リハビリテーション推進協議会理事長 光増 智氏

5

胆振東部地震発生を受けて開催した緊急対策会議(平成 30年9月11日)

【リレーインタビュー】

「高齢化に伴い災害リハビリの重要性が増しています」と語る光増氏

胆振東部 地震に学ぶ災害対策

24PRACTICE 2019 Winter

4棟、半壊2397棟、一部損壊2

177棟に達した。罹災世帯数は2

838戸で、県内では熊本市や益城

町、宇城市に次いで多かった。

 ピーク時には町内40カ所の避難所

に6千人超の住民が身を寄せた。仮

設住宅の整備が進み、全ての避難所

を閉鎖したのは前震発生から5カ月

半後の10月31日だ。一方、御船川な

どの河川流域では、広い範囲で地盤

の緩みや地割れが発生。梅雨時の豪

雨も重なり、浸水被害や土砂崩れを

誘発した。地滑りの危険がある高台

の団地では昨年11月、復旧工事によ

り安全が確保されたため、2年7カ

月ぶりに避難指示を解除した。

住民の怒号が飛び交う町役場

 前震は4月14日午後9時26分に発

生した。町は同10時に災害対策本部

を設置。課長以上の少人数での意思

決定を心掛けた。だが、情報を求め

る住民が詰め掛け、町内からの電話

も殺到した。情報が伝わらないこと

に苛立つ住民の怒号が飛び交い、職

員数150人の町役場は喧噪に包ま

れた。受け入れ体制が整う前に多数

のボランティアが詰め掛け、混乱に

拍車を掛けた。吉本敏治総務課長が

振り返る。「避難所を開設するため

目に付く職員に片っ端から声を掛け

て次々に現場に走らせました」

 4月16日午前1時25分に発生した

本震で役場も停電。翌日には頼みの

綱だった自家発電機がオーバーヒー

トした。藤木町長が先頭に立ち、バ

ケツリレーで冷却水を注いで発電機

を再起動した。人数が少ない防災担

当職員は、被害の把握や人命救助に

関する連絡調整に忙殺されて余裕が

無い。「住民対応はたらい回しにし

ないこと。問い合わせを受けた職員

は所属にかかわらず、自ら責任を

持って案件を処理することが求めら

れます。それが緊急事態に対応する

瞬発力になります」(吉本課長)。

罹災証明書は再建の第一歩だ

 平成30年9月9日─。御船町の先

発隊が最初に取り組んだのが、地震

前のままになっていたホームページ

の更新や防災行政無線を使った情報

発信だ。情報不足がもたらす混乱は

熊本地震の教訓だ。13日に第2班と

して派遣された、企画財政課の高橋

寛敦係長と髙本光主事は、避難所運

営や罹災証明書の交付に向けた準備

に心を配った。被災者による申請は

12日に受け付けを開始。14日からは

調査員による家屋調査も始まった。

 髙本さんは目標である25日の証明

書発行に向けてマンツーマンで事前

の準備や交付開始後の手順をアドバ

イスした。「経験が無いので、最初

は事務の流れをイメージすることも

難しい。冬も近付いており、復旧を

後押しするため迅速な事務処理を意

識しました」(高橋さん)。罹災証明

書の発行は被災者にとって生活再建

の第一歩となる。発行事務をスピー

ディーに進める上で、平時から体制

の整備や被害判定に必要なノウハウ

の研修、経験がある他市町村の応援

を確保することも欠かせない。

 国などの支援策をまとめた「生活

再建支援ハンドブック」の作成もア

ドバイスした。御船町は熊本地震の

直後、東日本大震災で被災した宮城

県七ケ浜町の支援を受けて、同様の

ハンドブックを作成・配布した経験

があり、被災市町村の経験や工夫が

受け継がれた。町は昨年の西日本豪

雨災害で愛媛県宇和島市や広島県呉

市に職員を派遣。熊本地震からの復

興に取り組みながら、他の被災地を

支援する側として立ち直った。

規模が小さな自治体では縦割りを超えた活動が不可欠と語る吉本課長

9日にむかわ町入りし、サポートに当たった

27 No.28 PRACTICE

3日をかけてむかわ町に到着

 「道幅が広いのでどこでも高速道

路のような感じです。町が広く移動

に時間がかかることにも驚きまし

た」。御船町商工観光課の鶴野商工

観光係長は、むかわ町に入った時の

印象を語る。昨年9月6日未明に発

生した北海道胆振東部地震─。藤木

正幸町長の指示でむかわ町への職員

派遣が決まった。両町は平成29年11

月に発足した「にっぽん恐竜協議

会」のメンバーだ。先発隊の鶴野係

市町村の重点政策�

1

恐竜化石の産地がスクラム!

被災地を結んだ支援のリレー 

熊本県御船町

 熊本県御み

船ふね町は、熊本地震の被災経験を活かし、北海道胆振東部地震で被災したむかわ町を

支援するため発災翌日に応援職員を派遣。避難所運営や罹災証明書発行などの業務をサポート

した。両町は平成29年11月に発足した「にっぽん恐竜協議会」のメンバーとして恐竜化石を活用

した自治体連携をスタート。災害時の相互支援も活動の一環だ。1500㌔の距離を超えて、九

州からむかわ町に駆け付けた御船町職員の思いとは─。

長と町教委社会教育課の福田拓馬係

長の2人が、直線距離で約1500

㌔の距離があるむかわ町を目指した。

 7日に熊本空港から空路で東京に

入り、東北新幹線に乗り換えて青森

県の八戸港へ。ここでレンタカーを

確保してフェリーに乗り込み、苫小

牧港に上陸したのは8日夜だ。むか

わ町役場に到着したのは9日朝。竹

中喜之町長や加藤英樹・恐竜ワール

ド戦略室長と無事を喜び合った。多

数の職員が詰める災害対策本部は落

ち着いていた。熊本地震との違いに

驚いた。県民性の違いなのか。現場

はどうなっているのだろうか─。

平成28年熊本地震の被害

 熊本県中央部にある人口約1万7

千人の御船町─。熊本地震の震源地

である益城町から約3㌔の距離にあ

る。御船町では平成28年4月14日の

前震(マグニチュード6・5)で震

度5強、16日の本震(同7・3)で

は震度6弱を観測した。震災関連死

を含む人的被害は死者10人、重軽傷

者21人に上る。住家被害は全壊44

先発隊として最初にむかわ町入りした鶴野係長

面 積:99.03 ㎢人 口:17,083 人(平成 30 年 11 月現在)世 帯:7,058 戸(平成 30 年 11 月現在)職員数:160 人(普通会計ベース)HPアドレス:http://www.town.mifune.kumamoto.jp/

D A T A

26PRACTICE 2019 Winter

 

平成22年には中心市街地整備の一

環として、博物館を商業施設などの

立地が進む中心部に移転。常設展示

室とともに、分析室や研究作業室な

どを設け、恐竜化石研究の拠点機能

を持たせた。企画展や体験型イベン

トなどの充実により、平成29年度に

は入館が40万人を突破した。

 

町内では博物館に隣接して整備し

た観光交流センターや、アウトドア

体験の拠点である吉無田高原などで

は、化石の発掘体験を行うことがで

き、町の観光ポータルサイトではオ

ンライン予約も受け付けている。鶴

野係長は「恐竜化石は貴重な地域資

源ですが、それだけで交流人口を維

持し続けることは難しいのが現状で

す。恐竜化石を入り口にして町を訪

れ、地域の自然や文化、

農産物などを知ってもら

うことで、リピーターの

獲得に結び付けていきた

い」と意気込む。

御船町の

復旧・復興の現状は

 

平成30年11月末現在、

御船町では1400人が

みなし仮設住宅などでの

生活を余儀なくされてい

る。町内では倒壊家屋や

瓦礫が撤去された跡の空

き地も目立つ。熊本地震

の被災地では、発災直後

から人口の流出傾向が続

いている。御船町でも熊

本地震があった平成28年

には、転出超過に伴う社

会減が254人に上った。29年には

59人と減少幅は縮小されたが、人口

の動向は予断を許さない状況だ。鶴

野係長は「胆振東部地震の被災地で

も住宅倒壊など被害が大きかった地

域では、同様に人口流出が心配され

ます」と懸念する。

 

町は検討会議での議論や地区座談

会、住民アンケート、高校生との意

見交換などを経て、平成29年3月に

震災復興計画を策定した。平成31年

度までを復旧期間、その後の4年間

を復興期間として①被災者の生活再

建②地域コミュニティの再生③災害

に強いまちづくり④公共施設の復旧

⑤産業の発展─を重点施策に掲げ

た。町は被災者の生活再建を最優先

に公共施設や公営住宅などのインフ

ラの復旧、農業基盤の整備、将来の

災害に備えた防災拠点や避難路確保

など、災害に強い住環境の整備に向

けた取組を着実に進めている。

 

一方で吉本総務課長は、町の現状

について「道路や橋梁、河川などの

土木施設の災害査定額は32億円とな

り、復旧工事も平成29年度末で84%

を発注しました。町の予算規模は復

旧事業で大きく膨れ上がり、29年度

の一般会計当初予算は140億円、

30年度は120億円と、震災前の

1・6倍を超えており、事務量の増

加から職員が圧倒的に足りない状況

です。任期付職員などを採用してい

ますが、全く追い付いていない状態

です」と語り、被災市町村に対する

長期的な人的支援を訴えている。

 東日本大震災や熊本地震では、市町村が行政機能を喪失あるいは極度に低下する事態に陥った。災害時に市町村の業務量は激増する。発災から1〜2週間程度は非常時優先業務が膨大となり、その後は復旧・復興に関する事務や通常業務の再開により、業務量は平常レベルを大きく超える。 絶対的に不足する人的資源を補うには、他自治体の応援は不可欠だ。受援計画などにより、受け入れ体制を確保しておかなければならない。産業経済、歴史文化など幅広い分野で平時から連携を深め、気心が知れた自治体の応援は心強い。市町村間の絆はより強固なものとなるだろう。 罹災証明書の交付や長期間の避難所運営などの経験がある市町村による応援は、復旧・復興を後押しするだけでなく、反省や教訓の共有と伝承は、より実効性の高い防災減災対策の実現が期待されている。

Focus

恐竜博物館がある「ふれあい広場」のモニュメント。背後には仮設住宅も

29 No.28 PRACTICE

被災市町村の判断を支える

 

御船町の職員が重視したのは、む

かわ町の意思決定を尊重すること

だ。高橋係長は「初めて大規模災害

に直面すると、他市町村の経験や前

例に頼りがちになりますが、地域ご

とに問題の背景や事情が違います。

被災者支援や復旧・復興の根幹に関

わる部分は、被災市町村の主体的な

意思決定が必要です」と強調する。

 

熊本地震から胆振東部地震までの

2年間、法律や制度は変わり続けて

いる。激甚災害指定の有無や災害関

連法規の適用の可否により、事務処

理の内容も違う。発災直後から復

旧・復興の段階を経て、事務に要す

るスキルやスピード感も変化してく

る。高橋係長は「自分の経験を伝え

る時には『熊本地震で

は』という枕詞が欠か

せませんでした。誤っ

た助言で事務の中断や

混乱を招かないよう自

分の発言に気を配りま

した」と力を込める。

 

御船町は9月27日ま

で3班・6人を1週間

交替で派遣した。最終

の第3班は福祉課の本田恵美係長と

商工観光課の嶋﨑美輪主事だ。計画

通り25日に始まった罹災証明書の発

行などに従事した。最終日の27日に

は、藤木町長がむかわ町を訪問し、

竹中町長に職員全員で作成した寄せ

書きを贈った。発災直後に駆け付け

た第1班は、大規模停電の余波でコ

ンビニ店などでの食糧の確保もまま

ならなかった。かろうじて予約が取

れた千歳や苫小牧のホテルを転々と

したこともあった。第1班の鶴野係

長は「今も電話などで感謝の言葉を

いただいています。少しずつ日常生

活を取り戻している様子を知るとう

れしいですね。今回は北海道の自然

や味覚に触れる余裕もありませんで

したが、特産のシシャモの購入など

で応援していきたい」と語る。

むかわ竜&ミフネリュウ!

 

むかわ町と御船町の縁を取り持っ

たのは恐竜化石だ。恐竜化石を活か

した地域活性化に取り組んでいる両

町と兵庫県の丹波市・篠山市の4市

町で、平成29年11月に「にっぽん恐

竜協議会」を設立。4市町が所蔵す

る化石の交換展示や、

観光や文化交流、災害

応援などの自治体連携

を進めており、昨年12

月には群馬県神流町が

新たにメンバーに加

わった。胆振東部地震

では、丹波・篠山の両

市も応援職員を派遣

し、避難所運営や救援

物資の管理などの業務

に携わった。

 

むかわ町は、町内の

穂別地区で発見され

た、恐竜の全身骨格化

石として国内最大の

〈むかわ竜〉を活かし

たまちづくりに取り組

んでいる。一方の御船

町でも昭和54年、日本

国内では初めてとなる

肉食恐竜の化石が発見され〈ミフネ

リュウ〉と命名された。平成2年に

初めて本格的な恐竜化石の発掘調査

を行って以降、化石の発見が相次

ぎ、平成9年には町の旧武道場を改

修した「恐竜博物館」がオープン

し、西日本を中心に“恐竜の郷”と

して町の知名度を高めた。

むかわ町穂別地区でも支援に当たった嶋﨑主事

平成 26 年に完成した御船町の恐竜博物館

28PRACTICE 2019 Winter

的にリニューアルした。町が重点施

策とする移住・定住促進の呼び水に

なるよう、地域の多様な魅力を〈見

せる化〉することを重視。定期的に

更新する移住者のインタビューや地

図上に表示する空き家情報、移住者

支援メニューも結婚や出産といった

ライフステージに沿って紹介するな

ど随所に工夫を凝らしている。

 

行政情報も、部署別だった行事予

定などを集約。戸籍や証明書の発行

など、住民の問い合わせの多い内容

は「暮らしの窓口」にまとめて利便

性を高めた。主要産業でもある観光

の情報も充実し、旅行者に必ず見

て、知って、体験してほしいポイン

トを紹介。インターネット上の交流

サイト・フェイスブック(FB)や

インスタグラムの公式アカウントも

取得して、単なる情報サイトではな

い「見やすい」「読まれる」ための

情報プラットホームとして構築した。

初代・地域おこし協力隊員

コジマさんの奮闘

 

作田宏明総務課長は「行政情報を

伝えるという機能はもちろん必要で

すが、町の魅力を発信し、町内外の

人に関心を持ってもらうことを重視

しました」と語る。新たなHPの立

ち上げに貢献したのが、初代の地域

おこし協力隊員である岡ドルゲ・コ

ジマさんだ。ドイツ人のコジマさん

は平成27年に夫の出身地である壮瞥

町に協力隊員として採用された。

 「魅力あふれる壮瞥町のファンを

増やしたい」と、FBなどの交流サ

イト(SNS)も駆使して情報を積

極的に発信していった。町のブラン

ディング事業の一環として、住民と

議論を重ねて決定した町のキャッチ

コピー「そうきたか!そうべつ」も

生み出した。また、町は平成29年度

には若手職員を中心にキャッチコ

ピーを前面に押し出し、ポスターや

グッズ類の作成、地域の魅力を発掘

するフォトコンテストなどのプロ

モーション活動も町内外で展開した。

 

作田課長は「コジマさんの斬新な

発想に当初は正直戸惑いもありまし

た。でも、庁内には『何かを変えな

ければ』という意識があり、合意形

成が進みました」と振り返る。HP

のアクセス数は月平均5千件を超

え、FBのファン数も6万3千人

と、町の魅力発信に大きく貢献して

いる。コンテンツごとに閲覧回数を

定期的にチェックしてレポートをま

とめ、より多くのアクセスを実現す

るための判断材料にするなど「PD

CAサイクル」を意識している。

お母さんの“あったらいいな”

 

町は移住・定住の受け皿となる住

宅の整備にも力を注いできた。その

目玉は子育て応援住宅〈コティ〉の

整備だ。コティとは、友好都市のケ

ミヤルヴィ市があるフィンランドの

言葉で「家」を意味する。中心部の

滝之町にあった教職員住宅16戸を解

体。定住促進住宅として平成26〜27

年に7棟14戸を建設した。全室3L

DKで、91・71平方㍍の広々とした

面積を活かし、間取りは従来の公営

住宅に無かった気配りを凝らした。

 

居住空間を1・2階で構成するメ

ゾネットタイプを採用。乳幼児に目

が行き届く対面キッチンや、子ども

のおもちゃをまとめて置いておくこ

とができる多目的スペースや収納ス

ペースを複数配置。子どもの成長に

合わせて、室内の間仕切りを自由に

変更できるなど、整備に当たって意

見を募った母親たちの“あったらい

いな”が盛りだくさんな住宅だ。

 

入居申し込みができるのは中学生

以下の子どもがいる世帯。家賃は月

額4万1千円で子ども数に応じて減

額する。町は民間住宅の整備を促そ

うと、持ち家を取得したり、賃貸住

宅を建設したりする住民に1戸当た

り最大100万円を助成する制度も

設けたが、コティの人気は際立って

いる。ほぼ空きがない状況で、現在

も子育て世帯の人気の的だ。

母親の「あったらいいな」を散りばめたコティの室内

ブランディング事業として誕生した「そうきたか!そうべつ」

31 No.28 PRACTICE

市町村の重点政策�

2

町外からの通勤者を取り込め!

地域の魅力を〈見える化〉する挑戦 

壮瞥町

 そうきたか!そうべつ! 世界ジオパークに登録された洞爺湖・有珠山エリアに位置する壮瞥町。風光明

媚なこの町にも過疎・高齢化の波は押し寄せている。町は移住・定住の促進を掲げ、地域おこし協力隊員や

若手職員を中心にホームページによるイメージアップなど、地域の魅力の〈見える化〉に挑んでいる。そし

て、過疎化に歯止めを掛けるために着目したのは近隣市町から町内の職場に通勤している人たちの取り込み

だ。子育て世代に魅力的な住宅整備などの多様な手法を繰り出し、定住人口の確保に取り組んでいる。

見やすく・読まれるための

ホームページを目指せ

 

地域情報のプラットホームの役割

を果たしている市町村の公式ホーム

ページ(HP)だが、住民向けある

いは観光客向けの情報を重視するか

によって内容や構成が異なる。情報

を詰め込み過ぎたり、ビジュアル重

視が行き過ぎたりすることで、見た

目も使い勝手が悪化し、逆に市町村

のイメージを損なってしまう…。

 

壮瞥町は平成28年度、HPを全面

面 積:205.94 ㎢人 口:2,521 人(平成 30 年 11 月 30 日現在)世 帯:1,324 世帯(平成 30 年 11 月 30 日現在)職員数:80 人(普通会計ベース)HPアドレス:https://www.town.sobetsu.lg.jp

D A T A

壮瞥町の新旧ホームページ。上は従来のデザイン。下が現在のトップページ

火山がもたらす恵みと災害と共生した暮らしを大切にする壮瞥町

30PRACTICE 2019 Winter

た環境教育や減災教育が実現できま

す」。4泊5日の日程で東京と横浜

の5家族が参加。自然がもたらす恵

みと災害を肌で感じてもらえる多彩

な体験プログラムを用意した。

 「子どもから『また壮瞥に行きた

い』と言ってもらえるような思い出

を作ることができれば、将来的に移

住や定住の大きなきっかけになるの

では」と長友さんは期待する。首都

圏で東日本大震災を、昨年9月には

北海道胆振東部地震を経験して、減

災教育の大切さをより一層実感して

いる。「火山との共生を実現してい

る壮瞥町だからこそ、この場所で親

子が学べる減災教育の普及に力を入

れたい」と決意を新たにしている。

農業を支える就農希望者に

滞在用のシェアハウスを提供

 

壮瞥町では温暖な気候や、火山の

恵みである肥沃な土地を活かし、稲

作や高級菜豆を中心とする畑作、リ

ンゴなどの果樹栽培、さらに畜産や

温泉熱を活かしたトマトなどの施設

園芸も盛んだ、一方で農業者の高齢

化や農業従事者の不足は深刻な状況

にある。基幹産業である農業分野を

支える人材確保は喫緊の課題だ。

 

町は新規就農に加えて、農業法人

や家族経営からの規模拡大を目指す

先輩農家の下で働きながら、営農の

ノウハウを身に付け、将来的な自立

を目指す「雇用就農」の二本立てで

町内農業の再生を目指している。

 

意欲のある就農希望者の受け皿と

なる住まいの確保に向けた対策にも

本腰を入れている。町は本年度、町

内での就農を目指す農業研修生が入

居できるシェアハウスをオープンし

た。壮瞥高校の生徒たちによる地域

活性化を題材にしたプレゼンテー

ションを参考にしながら構想を具体

化した。滝之町地区にあった旧国営

事業作業員詰所を約4200万円か

けて全面改修。木造平屋建てで、床

面積は約340平方㍍。11畳の個室

が5つあり、室内にはテレビや冷蔵

庫、電子ポット、炊飯器、シングル

ベッドなどを備え、無線LAN(W

i-Fi)の設備もある。

 

町内では、コティをはじめとする

公営住宅の人気が高く、就農希望者

が入居できる安価な住宅の確保が課

題だった。光熱水費やWi-Fi使

用料を含む施設の利用料は月額1万

5千円。入居期間は2年間で、現在

は就農を目指している男女2人が入

居している。作田課長は「農業は他

の産業分野に比べて就業のハードル

が高いと思われがちです。まずは

シェアハウスを活用して、腰を落ち

着けて農業の魅力や壮瞥の住みやす

さを実際に体験して欲しいですね。

そして、基幹産業を支える人材とし

て成長し、この町に定着してもらう

ことができれば」と期待を込める。

 ホームページ(HP)を持たない道内の市町村は皆無だ。インターネット全盛の時代─市町村の〈顔〉とも言える存在だが、クオリティは千差万別だ。詰め込み過ぎのトップページが見にくい。求める情報にたどり着けない。FLASHの画像アニメーションが延々と続く…。ネット上で感じた悪い印象が市町村のイメージ悪化につながっていないか。壮瞥町は、地域おこし協力隊員や若手職員が主役となり、HPを通じて地域の魅力を〈見える化〉することに挑んでいる。トマトを手に笑顔を見せる佐藤秀敏町長の写真や移住者をターゲットにしたルポなどの多彩なコンテンツで親しみやすさを演出している。町の情報発信は移住・定住施策と連動するだけでなく、子育て応援住宅の整備などハード施策とも融合させて成果を挙げている。地域を愛する情熱と創意工夫で進化を続けるHPに注目していきたい。

Focus

壮瞥の魅力を発信し続ける町のスタッフ(左から作田宏明総務課長 地域おこし協力隊の長友加也さん、藤川将司総務課防災・地域振興係主事、上名正樹総務課参事)

雇用就農の拠点となるシェアハウス

33 No.28 PRACTICE

予想を超えた〈コティ〉の人気

 

町は以前から、町内の夜間人口に

対する昼間人口の割合を示す「昼夜

間人口比率」が109%(平成22年

国勢調査)と高率であることに着目

していた。登別市以西の西胆振で最

も高く、全道でも8位の高水準にあ

る。町は「町内の医療機関やホテル

などの宿泊施設では、従業員の多く

が近隣市町から通勤している」と分

析。こうした人たちを町の定住人口

として取り込むための具体策として

コティの整備を推し進めた。

 

しかし、これだけ機能が充実した

公営住宅は国の住宅整備基準に合致

しないため補助対象にならない。町

は約2億9千万円の整備費を単費で

支出したが、その決断はすぐに報わ

れた。竣工後に開いた見学会は参加

希望者が100人を超えた。抽選で

決定した居住者のうち10戸・35人は

町外からの転入者だった。作田課長

は「入居希望者はそれなりにいると

は思っていましたが、まさかこれほ

どの人気になるとは」と予想外の人

気に驚きを隠さない。移住・定住の

促進を重要政策に掲げる町にとって

は心強いハードウエアとなった。

 

町の過去5年間の人口動態をみる

と、転出超過は平成26年(12人減)

と29年(8人減)。25年(11人増)

と27年(12人増)、28年(22人増)

は転入超過で、人口減少の歯止めと

しての効果もうかがえる。

横浜からの移住を後押しした

壮瞥の魅力と職員の熱意

 

魅力的な住宅整備やHPをはじめ

とする情報発信の取組は、地域活性

化を担う人材を引き寄せる有力な

ツールでもある。現在、地域おこし

協力隊員として活躍する長友加也さ

んは、横浜市内でシステムエンジニ

アの夫と暮らしていたが、一人娘の

出産を機に北海道への移住を決意。

移住先の候補は主にインターネット

で探していた。長友さんは「壮瞥町

のHPはローカルな生活がとてもイ

メージしやすかったし、住みたくな

る要素をたくさん感じました」。新

天地への移住は人生の一大事だ。

「私たちの決断を後押ししてくれた

のがHPの情報でした」と振り返る。

 

住まいの確保も大きな問題だ。長

友さんは「家族で初めて訪れて大好

きになったのが洞爺湖です。住むな

らこの近くが良いと思い、住宅を探

す中でコティに出会いまし

た」。しかし、公募・抽選

で決まるコティの入居枠は

狭き門だ。「町に問い合わ

せてみましたが、空室はあ

りませんでした。諦め半分

で他の移住先を探そうとし

た矢先です。町の担当者か

ら『空きが出ましたよ!』

と電話がきました」

 

既に壮瞥町の協力隊員に

応募していた長友さんに、

町の担当者は「抽選に漏れ

ても職員住宅を用意しま

す」と説得。真剣さに心が

動いた長友さんは「なんて

“神対応”と思いました。ここまで

してくれて、他町に浮気する気には

なれません」と笑顔で語る。町の熱

意が長友さんの背中を押した。

理想の環境教育・減災教育を

ここで実現したい

 

長友さんは平成29年1月にコティ

で新生活をスタート。協力隊員とし

て精力的な活動を始めた。フットパ

スの紹介や、壮瞥町を含む周辺1市

3町を放送エリアとするコミュニ

ティFMへの出演、町の特産品をP

Rする農園リポートなど、町の魅力

発信に情熱を傾けてきた。移住後に

は「洞爺湖火山マイスター」の認定

審査にも合格した。町を訪れる人た

ちに、火山が育んだ地域の魅力を紹

介するとともに、火山災害の教訓を

伝承し、地域の防災リーダーとして

活躍する人材を育てる制度だ。

 

昨夏には夢だった環境・減災教育

の普及に向けた取組も始めた。都会

の子どもたちと保護者が対象の親子

キャンプだ。「壮瞥町のダイナミッ

クな自然はまるごと教材です。生き 親子キャンプで壮瞥の自然を体感

32PRACTICE 2019 Winter

鉄道マニアの青年との出会い

 「僕はもっと佐呂間町を応援した

い。応援できるカタチを作ってくだ

さい」。神奈川県在住の写真家・十

文字義之さんが呼び掛けたのは平成

24年のこと。町企画財政課長だった

武田温友さんは思案を巡らせた。全

国の佐呂間ファンが参加できる仕組

みがあれば─。十文字さんの思いに

応えて町は検討を重ね、平成27年に

サポーターズ倶楽部を立ち上げた。

 

十文字さんと佐呂間町との交流は

昭和56年8月にさかのぼる。高校生

だった十文字さんは、一人で鉄道旅

行を楽しんでいたが、浜佐呂間駅で

足止めを食った。中心気圧870ヘ

クトパスカルの台風10号が日本列島

を縦断して釧路市付近に再上陸。道

東では多数の漁船が遭難。死者・行

方不明者は72人に上った。床上・床

下浸水は2200戸を超え、国鉄も

道東を中心に540本が運休した。

 

十文字さんは旅の目的地である紋

別市に少しでも近付こうと線路沿い

の道路を歩いた。湧網線の知来駅で

偶然、台風を警戒して見回りをして

いた住民たちに出会った。農家の森

富雄さん(故人)は難渋する十文字

さんを自宅に招き、心尽くしの食事

と温かい布団を用意してくれた。

 

見知らぬ若者を歓待してくれた優

しさに感動し、事あるごとに佐呂間

町を訪ねた。プロの写真家になって

からも〈サロマに生きる人〉をテー

マに創作を続け、平成11年には知来

小学校で個展を開催。町民と交流を

続けながら、思いを寄せてきた。

4年間で2275人が登録!

 

サポーターズ倶楽部は平成27年に

誕生した。サポーターには会員証と

ともに、特産のカボチャとホタテを

イメージした「ももちゃん」グッズ

を贈呈。地域の話題を紹介する「サ

ロマ四季だより」などを定期的に届

ける。会員限定の特産品抽選会への

参加、会員証を提示すれば、町内の

協力店では5%の割引やワンドリン

クサービスなどの特典もある。サ

ポーターが町内の宿泊施設を利用す

ると特産品のプレゼントもある。

 

町は道内外のイベントや道内外の

ランナーに人気の「サロマ湖100

㎞ウルトラマラソン」などでもPR

活動を展開している。玉井伸一企画

財政課長は「イベント会場などでは

対面で丁寧に説明し、特産品が目当

ての『にわかサポーター』ではな

く、心から応援してくれる人の獲得

を目指しています」と語る。町は商

工会と連携して、接客力の向上や観

光ガイドのスキルアップを図る取組

も進める。「初めて佐呂間を訪れて

くれた人や再訪してくれた人を温か

く迎えるスキルが必要です」

 

平成30年10月末の登録者は、町の

人口の約4割に達する2275人に

上る。約半数を関東圏の在住者が占

めている。登録を契機に何度も佐呂

間を訪れるリピーターもいる。平成

サポーターに贈られる「ももちゃん」グッズ

サポーターズ倶楽部の会員証

玉井課長はサポーター獲得は息の長い活動が必要と話す

35 No.28 PRACTICE

東京を舞台に

サポーターズ倶楽部をPR

 

昨年10月に東京都港区の芝公園で

開かれた「第37回みなと区民まつ

り」。佐呂間町と佐呂間町観光物産

協会の職員が、町内の若里地区出身

者でつくる「若栄会」のメンバーと

一緒に特産のカキやホタテ、カボ

チャなどの産直販売を行った。町は

知名度向上を目的に首都圏でプロ

市町村の重点政策�

3

森と湖の魅力を全国に発信!

サポーターズ倶楽部が2千人突破 

佐呂間町

 平成27年のスタートから4年目を迎えた〈佐呂間町サポー

ターズ倶楽部〉の会員が本年度、2千人を突破した。オホー

ツクの雄大な自然や優れた農水産物など、地域の魅力を発信

するタウンプロモーションの一環でスタートした取組は首都

圏を中心に全国で“佐呂間ファン”を獲得。観光リピート客

の定着による交流人口の拡大や、ふるさと納税の増加などの

成果を生み出している。

モーションを長年続けて

いる。この日は首都圏で

の北海道ブランドの人気

もあり、大勢の来場者に

恵まれた。町のイメージ

キャラクター「ももちゃ

ん」のPRグッズと一緒

に配っているのは〈佐呂

間町サポーターズ倶楽

部〉を紹介するための

リーフレットだ。

 

参加資格は町民以外で満18歳以上

の個人。町内出身者のほか「佐呂間

町を訪れたことがある」「テレビや

新聞などで佐呂間町を知った」「佐

呂間町に友達がいる」など、佐呂間

に縁がある、興味や関心がある人は

誰でも参加できる。登録料は無料で

登録期間は無制限だ。電話、ファク

ス、郵便、電子メールのほか、現在

は町のホームページの申し込み

フォームでも参加の登録ができる。

面 積:404.94 ㎢人 口:5,216 人(平成 30 年 11 月現在)世 帯:2,480 戸(平成 30 年 11 月現在)職員数:96 人(普通会計ベース)HPアドレス:http://www.town.saroma.hokkaido.jp/

D A T A

20 年以上続く「みなと区民まつり」での産直イベント

34PRACTICE 2019 Winter

確率は高いと思います」。サポー

ターズ倶楽部の検討段階から、移住

者の目線で町にアドバイスを続けて

きた。さまざまなサポーター特典は

宿泊者に好評という。しかし、交通

の不便さがネックと感じている。

「人口減少が進む時代の趨勢かもし

れませんが、町内外を結ぶ鉄道もバ

スも無くなれば、せっかく佐呂間を

訪れようというお客さんを迎える道

が閉ざされます」と表情を曇らせる。

サポーターズ倶楽部を

地域活性化の種に

 

佐呂間町は1970年代の高度経

済成長期にかけて急激に人口減少が

進んだ。国勢調査人口のピークは昭

和30年の1万5656人。15年後の

45年には1万311人に減少。以後

も緩やかな減少が続き、平成30年11

月末現在の人口は5216人だ。定

住人口の維持・増加は課題だが、受

け皿の住宅が不足しているのが悩み

だ。玉井課長は「昨年から空き家の

調査を始めましたが、市街地は空き

家がほとんどありません。物件が出

るとすぐ情報が広がり、売買がまと

まっているようです」と説明する。

 

財政状況が厳しいため、公営住宅

などの整備も容易ではない。平成14

年当時、常呂町と上湧別町、湧別町

と合併を模索したが、常呂町が協議

を離脱。翌年には残る3町で合併協

議を進めたが、最終的には破談と

なった。単独自立を迫られた佐呂間

町は歳出削減を推し進めた結果、先

伸ばしにしてきた老朽インフラが一

斉に更新期を迎えており、新規事業

を立ち上げる政策予算を確保できな

い厳しい状況に置かれているという。

 

一方で期待を寄せるのは町内の企

業だ。森永乳業佐呂間工場をはじめ

地元水産会社の北勝水産、大手タイ

ヤメーカー・東洋ゴム工業の冬季タ

イヤテストコースなどの事業所があ

る。近年は転勤などで若い子育て世

代の転入が増加し、20人前後で推移

してきた新生児数は、昨年35人に増

加した。一方で酪農や水産業の求人

は多いが、雇用のミスマッチに伴う

人手不足は深刻で、外国人労働力に

頼らざるを得ない状況にある。

 

川根町長は「このご時世に企業誘

致が難しいことは十分に理解してい

ます。しかし、国内外の経済情勢が

目まぐるしく変化する中で、保護主

義的な傾向が拡大しており、製造業

を中心に国内回帰の動きも見え始め

ています。将来を見据えながらサ

ポーターズ倶楽部で全国に種をまき

続けながら、佐呂間のブランド力を

向上させ、地域活性化の突破口を見

出していきたい」と決意を語る。

 サポーターズ倶楽部が誕生するきっかけを作った十文字さんの「一宿一飯の恩を忘れられず、毎年のように足を運んでいるうちに、町の人たちの優しさやサロマ湖の景色に魅了されていきました。同じ思いを持つ人が他にもいるはず─との思いから佐呂間町に投げ掛けました」という話が強く印象に残った。 海産物が有名な佐呂間町だが、実は農業生産額が漁業の約3倍に上り、3万頭を超える乳牛・肉牛がいる酪農地帯でもある。教科書にも載っている「足尾銅山鉱毒事件」との関わりがあることも知られていない。全国の市町村が多様な手法でシティ/タウンプロモーションに取り組んでいる。誇張や物真似ではなく、マチの成り立ちや真の姿を知ることで得られる「驚き」や「意外性」は、多様な興味や感性を持つ潜在的なファンを掘り起こし、実際に地域を訪れてもらう上で大きな武器になるのではないだろうか。

Focus

サポーターズ倶楽部は力強い応援団と話す川根町長

「さろまにあん」の前川オーナーは、観光振興には公共交通網の維持が重要と強調する

37 No.28 PRACTICE

27年は411件・503万円だった

ふるさと納税も、29年度には659

0件・6334万円に急増した。川

根章夫町長は「6千人を切った町に

2千人を超えるサポーターがいま

す。サポーターから寄せられた熱い

エールを読むと励まされます。サ

ポーターや出身者との心の絆が、リ

ピート客の増加やふるさと納税の呼

び水になっています」と意気込む。

タウンプロモーションの中心に

 

町は平成27年度に策定した地域創

生総合戦略で、交流人口の拡大や多

様な地域資源の付加価値向上、観光

産業の活性化を図る上で「タウンプ

ロモーション」を重要施策に位置付

けた。サポーターズ倶楽部は、町の

取組を進める上で中心的存在だ。

 

雄大なサロマ湖やオホーツク海の

景観は佐呂間町最大の魅力だ。夏は

サロマ湖畔の散策やキャンプ場、冬

にはスキーやスノーモービル、ス

ノーシューなどのアウトドアレ

ジャーも盛んで、海と山の魅力を同

時に楽しむことができる地の利があ

る。ホタテやカキなどの水産物は全

国的に有名だが、かつては国内最大

のカボチャ産地で、年間3千㌧以上

を出荷していた。現在は酪農や畜産

も盛んで、乳牛や肉牛の飼育数は3

万頭を超え、平成27年度の生乳産出

額は約37億9千万円に上る。年間30

万㌧超の処理能力を持つ乳業大手・

森永乳業の佐呂間工場は、バターや

生クリーム、濃縮乳、脱脂粉乳など

の製造を行っている。また、地元の

畜産農家を中心に高品質の「サロマ

豚」もブランド化を進めている。

 

開拓の歴史を伝える歴史的資源も

豊富にある。かつて遠紋地域の開拓

と産業の発展を支えた旧国鉄湧網線

の車両などが鉄道遺産として保存さ

れている。町内の栃木多聞寺は「足

尾銅山鉱毒事件」で農地を失い、佐

呂間に移住した栃木県出身者が創建

した。水質汚染や銅製錬に伴う煙害

で山が荒れ、下流域で頻発した水害

のため農地を追われ、生活に困窮し

た人々が移り住んだ歴史を持つ。

地域のモチベーションを高める

 

サロマ湖畔にある「道の駅サロマ

湖」。夏はライダーやレンタカーな

どを利用した個人やグループ客、秋

から冬のシーズンオフは、近隣市町

村を含めた観光ツアー客が多い。施

設内にある「物産館みのり」は、町

の第3セクター・株式会社ドリーム

フロンティアが指定管理者として運

営を担っている。宮崎謙一店長は観

光客のゲートウェイであることを意

識して、地場産品を活かした商品開

発を進め、地域の魅力をアピールす

る接客を心掛ける。サポーターズ倶

楽部の運営にも協力している。

 

宮崎さんは宿泊者特典としてプレ

ゼントする特産品を町と共同で開発

した。町内出身の墨絵作家・安保真

さんのシマフクロウをモチーフにし

た作品や、地場産のカボチャのチー

ズケーキ、オリジナルTシャツなど

10点の商品を扱う。ユニークな商品

を取りそろえ、何度でも特典を楽し

んでもらえるよう心を配る。最近は

会員証を手に道の駅を訪れる人が増

えた。宮崎さんは「佐呂間を応援し

てくれている人が大勢いることが実

感できます。感謝の気持ちがこみ上

げてきます」と笑顔を見せる。

雄大な自然や真冬の流氷が

佐呂間移住のきっかけに

 

三重県出身の前川浩一さんは、町

内の浜佐呂間地区で「サロマ湖ゲス

トハウスさろまにあん」を営んでい

る。東京の海運会社に勤めていたが

“脱サラ”を決意。平成14年に夫婦

で佐呂間町に移住してきた。「オ

ホーツクの雄大な自然や流氷に魅了

され、新たなスタートを切るのにふ

さわしい場所だと思いました」。廃

業した民宿をリニューアルして、ド

ミトリー形式のゲストハウスを開業

した。夏はライダー、冬はスノー

モービルの愛好家らが訪れる。ウル

トラマラソンの出場エントリーが始

まると1時間足らずで予約が埋まる。

 「本州人からすると、佐呂間町の

知名度は高くはありませんが、町の

魅力を知った人がリピーターになる

宮崎店長はサポーターを飽きさせないバリエーション豊富な商品開発もサポートしている

36PRACTICE 2019 Winter

内によって大きく異なり、石狩(札

幌市を除く)や後志で50㌽前後の差

が生じる一方、檜山や留萌では、減

少率が高止まりの状況で10㌽台の差

となっている。

減少抑制のキーワードは〈観光〉

 

減少率の低い市町村をみると、札

幌市は3位。1位は千歳市で減少率

は21%にとどまっている。総人口の

約25%を占める自衛隊員と家族が

“安定的”な生産年齢人口に寄与し

ていることに加え、近年のインバウ

ンド増加に対応した、新千歳空港の

機能強化に伴う勤務職員の増加など

も要因として考えられる。2位はニ

セコ町。平成27年の2966人か

ら、30年後は2254人と、2千人

台を維持している。ホテルやアウト

ドアなどの観光業や飲食店などの

サービス業の雇用増加が影響してい

るとみられる。

 

4位には帯広市(減少率27%)が

入り、同市を含め、上位20位以内に

は十勝管内で9市町村がランクイン

するなど、十勝の生産年齢人口は維

持力が際立っている。同管内の平均

減少率も34%と、管内別では石狩を

上回る減少率の低さを示している。

5位の東神楽町、6位の恵庭市、8

位の東川町は、いずれも減少率が

30%前後で、札幌市や旭川市の近郊

という〈地の利〉を活かした宅地造

成事業などが好材料となっている。

少子高齢化が同時進行

 

一方、減少率の高い市町村をみる

と、50%以上減少するのは136市

町村と、全体の7割以上を占めてい

る。全国でもワースト2となった歌

志内市は、平成27年の1696人か

ら、30年後は230人と、約7分の

1に激減する。70%以上減少するの

は28市町村で、このうち過半数の16

市町村を空知、渡島、檜山の市町村

が占めている。

 

28市町村に共通しているのは、全

人口に対する65歳以上の高齢者が占

める割合の高さと、15歳未満の割合

の低さだ。30年後に高齢者の占める

割合が60%以上に達するのは12市町

村に上るが、このうち11市町村が該

当し、15歳未満の割合が20%に満た

ないのは、13市町村のうち11市町村

に上る。少子高齢化と生産年齢層の

減少が同時に進行していることが浮

き彫りとなっている。これらの市町

村だけではなく、全道の年代別割合

推移(グラフ)をみても、高齢者の

割合は平成27年の29%から、30年後

は43%に急上昇する一方、生産年齢

人口割合は60%から48%に後退する

など、いずれの市町村にとっても少

子高齢化とともに、産業や経済を支

える生産年齢層の減少が深刻な問題

となっていることがうかがえる。

大都市一極集中の是正を

 

道内市町村で少子高齢化と生産年

齢層の減少が加速する現状に関し

て、地域政策に詳しい小磯修二・地

域研究工房代表理事(元北大公共政

策大学院特任教授)は「人口減少の

進行を緩和するためには、自然減へ

の対応と社会減への対応がある。地

方にとっては社会減の影響が大きい

が、現状では、集積のメリットを持

つ大都市への移動を食い止める政策

が展開されていない」と指摘する。

 

その上で「地方が人口減少に対応

できる政策の展開は限られている。

地方の戦略で大切なことは、人口減

少を防ぐことに主眼を置くよりも、

人口減少によるさまざまな課題への

対応であり、特に必要なことは所得

と雇用の確保、そしてそれを支える

産業の維持・創出ということになる

のではないか」と、政策の優先度を

人口そのものではなく、住み続ける

ことができる生活と産業の環境整備

に置くべきと強調する。

 

さらに「人口減少に向き合う国の

責務と政策の姿を明確に示すことで、 

地方にも責務を果たそうという気運

が生まれてくる。地方が議論を深

め、人口減少や高齢化など地域が直

面する課題解決の道筋を見いだすた

めにも、大都市から地方への思い

切った分散を国土政策として骨太に

展開していくことが、地方創生を進

める国の責務として不可欠だ」と、

大都市一極集中を是正する国土政策

の大胆な展開を国に求めている。

■グラフ 年代別割合の推移■ 15 歳未満  ■ 15-65 歳未満  ■ 65 歳以上

2045 年

2035 年

2025 年

2015 年

42.8%48.2%9.0%

38.0%52.7%9.3%

34.4%55.4%10.2%

29.1%59.6%11.3%

39 No.28 PRACTICE

NEWS TOPICPRACTICE

生産年齢人口5割以上減が 76%に「地域別将来推計人口」で深刻な現状浮き彫りに

 国立社会保障・人口問題研究所がまとめた「日本の地域別将来推計人口」によると、2045年の北海道の人口は、2015年比で 25%減の400万4973人になると推測している。市町村によって減少幅は大きく異なり、特に地域コミュニティや企業活動を支える生産年齢人口(15 歳以上 65 歳未満)が 50%以上減少する市町村が、全体の 76%を占めるなど、深刻な現状が浮き彫りとなっている。�(北海道建設新聞社)

減少率全国上位に3市町

 

将来推計人口とは、全国の将来の

出生や死亡、人口移動について仮定

を設け、これらに基づき将来の人口

規模と年齢構成などの推移について

推計を行ったもの。今回は2015

年(平成27年)国勢調査に基づいて

算出した。

 

2045年の北海道の人口は40

0万4973人になり、今後30年で

人口の約25%に当たる130万人以

上の減少になると推計している。都

道府県別の減少率では、秋田県など

東北の県が上位を占め、北海道は16

位だが、市町村ごとの減少率でみる

と、全国上位10位までに歌志内市

(減少率78・3%、2位)、夕張市

(同74・5%、6位)、松前町(同

72・8%、7位)の道内3市町が入

り、上位百位以内を道内30市町村が

占めるなど、北海道の減少が際立っ

ている。

生産年齢人口が130万人減少

 

今回の集計は、15歳未満、15歳以

上65歳未満、65歳以上と、年齢別に

3階層に分け、推移をデータ化し

た。このうち、地方創生や企業活動

の中心的役割を担う15歳以上65歳未

満の〈生産年齢人口〉の動向をみる

と、すべての市町村で2桁のマイナ

スとなり、半数以下となる市町村が

全体の76%を占めるなど、生産年齢

人口の減少が急激に進む状況が浮き

彫りとなった。

 

平成27年の道内全市町村の生産年

齢人口は320万7143人。これ

が30年後には40%、127万587

8人減の193万1265人と、2

百万人を割り込む。札幌市も26%減

少するが、他の市町村に比べて減少

率が低いため、全道の総生産年齢人

口に占める札幌市のシェアは平成27

年の39%から48%に上昇する。

 

また、札幌市を除いた178市町

村の減少率は49%に達し、札幌市が

全道の減少率抑制に大きく寄与して

いることがうかがえる。

 

道内14管内別の市町村の減少割合

(表)をみると、減少率の幅は、管

■表 管内市町村別生産年齢人口推移� (人口・単位/人)

振興局 市町村名 2015 年人口

2045 年人口 減少率

空知滝川市 23,240 11,008 52.6%

歌志内市 1,696 230 86.4%

石狩千歳市 62,043 49,195 20.7%

当別町 10,494 3,105 70.4%

後志ニセコ町 2,966 2,254 24.0%

積丹町 996 256 74.3%

胆振苫小牧市 105,714 70,931 32.9%

むかわ町 4,610 1,416 69.3%

日高新冠町 3,143 1,699 45.9%

様似町 2,433 722 70.3%

渡島七飯町 15,673 8,691 44.5%

松前町 3,422 609 82.2%

檜山今金町 2,965 1,197 59.6%

上ノ国町 2,427 547 77.5%

上川東神楽町 6,007 4,274 28.8%

占冠村 784 195 75.1%

留萌羽幌町 3,633 1,527 58.0%

苫前町 1,657 457 72.4%

宗谷猿払村 1,656 888 46.4%

利尻町 1,211 351 71.0%

オホーツク西興部村 630 375 40.5%

置戸町 1,500 506 66.3%

十勝帯広市 104,073 75,555 27.4%

本別町 3,821 1,163 69.6%

釧路釧路市 102,265 53,542 47.6%

白糠町 4,329 974 77.5%

根室中標津町 14,702 8,894 39.5%

羅臼町 3,334 1,050 68.5%

札幌市 1,244,321 922,276 25.9%

北海道 3,207,143 1,931,265 39.8%

*�管内別で上段は減少率が最も低い市町村、下段は最も高い市町村*�生産年齢は 15 歳以上 65 歳未満

38PRACTICE 2019 Winter

に宇宙から観測しデータを活用する

ことで、これまでになかったサービ

スや事業を展開できる可能性があ

る。すでにトラクターなどの農業機

械の自動化や、スペクトラム分析が

可能なセンサーを搭載した衛星で、

病気になった農作物が発する光の波

長を捉え、早期に対処するといった

ことが実験的に行われている。これ

らは北海道ならではの衛星利用の形

態であり、道庁を中心に「北海道衛

星データ利用ビジネス創出協議会」

を設け、産学官が協力して衛星デー

タ利用を活性化させる活動が進めら

れている。衛星データの需要がある

北海道で、そのニーズをくみ取り、

それに対応する衛星を開発すること

で、データ利用サービスを実現し、

そこで得られたノウハウを使って、

北海道から全国、そして世界にサー

ビスを広げていくことができる。

 

北海道における宇宙ビジネスの可

能性はそれだけではない。インター

ステラ社は、北海道を拠点に衛星打

ち上げロケットを開発しているが、

これは同時にインターステラ社に部

品を供給するとともに、打ち上げを

支援する物流や飲食の提供など、さ

まざまなロジスティックス、さらに

は衛星打ち上げの見学に集まるファ

ンに提供する観光サービスなどの産

業を誘発する可能性を秘めている。

宇宙の「6次産業化」を推進せよ

 

北海道は宇宙ビジネスを展開する

理想的な環境にある。衛星データを

使ったサービスの需要が高く、衛星

を開発し、製造する能力があり、さ

らには道内でその衛星を打ち上げる

ことができる。これは世界のどの場

所でも実現できない特殊な条件であ

る。例えば米国の衛星射場は砂漠や

低湿地にあり、周囲数10㌔にわたり

人が住まない地域にある。日本でも

鹿児島県にある種子島や内之浦と

いった射場は、工業地帯や大学など

の研究機関から遠く離れている。し

かし、大樹町の場合、すぐ近くに帯

広市などの人口集積地があり、苫小

牧市の工業地域からでも車で数時間

以内に移動できる距離にあり、札幌

市などには、データ利用を可能にす

るIT企業や研究機関もある。

 

これは言い換えれば北海道で宇宙

の「6次産業化」が可能ということ

である。「6次産業化」は、農業分

野でよく使われるコンセプトだが、

宇宙にも十分に適用できる。ロケッ

トを打ち上げる発射基地が1次産

業、衛星とロケットの開発・製造が

2次産業、衛星を活用したデータ利

用サービスが3次産業であり、これ

らを道内で完結することができる。

北海道にはこれらのユーザーが集

まっている。道庁がこうしたユー

ザーを取りまとめる努力もしてい

る。こうして窓口が一本化すること

で、メーカーもニーズを反映した衛

星を作っていくことができる。

 

小型ロケットによる打ち上げとな

れば、個々の衛星ごとに調整が必要

となる。そのすり合わせを衛星メー

カーとロケットメーカーが直接顔を

突き合わせながら進めることは、調

整コストを下げることができるだけ

でなく、打ち上げの成功確率を高め

ることも期待できる。そのようなこ

とが可能になれば、北海道はまさに

「6次産業化」の聖地となるだろう。

宇宙のシリコンバレー化も

夢ではない

 

北海道が宇宙開発の「6次産業

化」の聖地となることは、世界に対

して「宇宙開発をしたい者は北海道

を目指せ」というイメージを形作る

ことにもなる。北海道に行けば、ロ

ケットによる衛星打ち上げも、衛星

開発も、衛星データを使ったサービ

スもできるとなると、世界各地で進

んでいるベンチャー企業の立ち上げ

を「北海道でやろう」という人たち

が出てくる可能性もある。現在IT

ビジネスにチャレンジする若者が、

何はともあれシリコンバレーを目指

すのと同じである。

 

宇宙の「6次産業化」を進め、北

海道を「宇宙のシリコンバレー」と

するには、道内産業界の協力が不可

欠だ。どのような衛星データを集

め、分析していくのかをつかみやす

くなる。こうしたフィードバック体

制こそが「6次産業化」の鍵であ

り、このようなつながりを形作るこ

とで、北海道の宇宙コミュニティが

「シリコンバレー」となっていくの

である。

宇宙から見た北海道(提供:金井宣茂宇宙飛行士)

41 No.28 PRACTICE

研究者コラム

×ト レ ン ド を 読 む

地 域 を 伸 ば す

宇宙ビジネスがもたらす

北海道の活性化

─宇宙の6次産業化に向けた可能性─

PROFILE

1970年長野県生まれ。2000年英国サセックス大学ヨーロッパ研究所博士課程修了。08年北海道大学准教授、11年4月から現職。13年から15年まで、国連安保理のイラン制裁委員会専門家パネルのメンバーを務めた。12年に「宇宙開発と国際政治」(岩波書店)でサントリー学芸賞(政治・経済部門)を受賞した。

鈴木 一人(すずき・かずと)

宇宙ビジネスの現在

 

2017年、大樹町に拠点を置く

インターステラテクノロジズ株式会

社(インターステラ社)が初めての

ロケットの打ち上げ試験を行ってか

ら、にわかに北海道における宇宙開

発が取り沙汰されるようになり、同

年は「北海道宇宙元年」と呼ばれる

ようになった。残念ながら2018

年6月末の第2回打ち上げ実験は失

敗に終わったが、北海道における宇

宙開発への熱は高く、単なるイン

ターステラ社の挑戦に便乗したブー

ムではなく、新たな産業創出に向け

たうねりを生み出した。

 

しばしば、宇宙開発は衛星開発や

ロケット作りなど、目に見える産業

部門であると認識されるが「宇宙ビ

ジネス」はそれよりもはるかに裾野

が広い。日々目にする気象衛星から

の情報やNHK等のBS/CS放

送、東日本大震災をきっかけに全国

の自治体に配備されるようになった

衛星携帯電話、さらに「ポケモンG

O」をはじめとするゲームやエンタ

テインメントにもGPS衛星信号が

使われているように、我々の生活に

は宇宙システムを使ったサービスが

数多くある。このように、現代の宇

宙開発は、衛星やロケットを作るだ

けではなく、データを集め、日常生

活に役立つサービスを提供するもの

に変化している。

 

また、衛星の小型化が進み、宇宙

利用はより「パーソナル化」し、か

ゆいところに手が届く衛星を相対的

に廉価で作ることができるように

なっている。衛星が「パーソナル

化」するということは、特定のユー

ザーが求めるデータを個別に開発し

た衛星を使って提供することを意味

する。汎用衛星では得られないデー

タを得ることがビジネスになる、と

いうトレンドが生まれ始めている。

北海道におけるビジネスチャンス

 

土地が広大な北海道では、人口が

都市に集中しているため、人口密度

が低い地域が非常に多い。つまり、

人の目の届かない場所が多くあり、

それらの場所で農業や林業が営まれ

ている。こうした地域では、定常的

北海道大学公共政策大学院 教授 鈴木 一人

 筆者は「宇宙政策」を中心とした科学技術と国際政治を専門分野として

現在は内閣府宇宙政策委員会などで政策提言を行っています。本稿におい

ては、最近の宇宙開発における動向を踏まえた上で、北海道における宇宙

ビジネスの可能性についてご紹介します。

衛星データを使って無人運行するトラクター(提供:北海道大学大学院農学研究院野口伸教授)

40PRACTICE 2019 Winter

養素の吸収は一切行いません。水分

の吸収も行いません。胃で水分を吸

収するとせっかく、どろどろの状態

にした食べ物が、硬く、塊の状態に

戻ってしまう恐れがあるからです。

 

というわけで、空腹の状態で水を

飲んでも、胃では吸収されず、いっ

たんはそこで貯められることになり

ます。水も腸に移ってから吸収され

るので、水を飲んでから体に吸収さ

れるまでには30分〜1時間ぐらいの

時間を要することになるのです。

 貯蔵のための胃酸

 

食べ物は食後2〜4時間ぐらいの

間、胃に貯蔵されます。食べ物を口

に入れるときには、周囲の雑菌が必

ず付着し、胃の中に一緒に入ってき

ます。胃に貯蔵されているときの温

度は体温、すなわち37℃です。食べ

物に含まれている水分や胃液などの

ために湿度は100%になります。

 

ですから、胃の中では雑菌が繁殖

し、食べ物が腐敗してしまう危険性

があります。腐敗した食べ物は、腸

を刺激して下痢を起こしたり、消化

不良の原因になったりします。そこ

で、胃液に含まれる強力な酸で貯蔵

3

している食べ物を殺菌します。胃酸

により、ほとんどの雑菌は死滅しま

す。生き残るのは乳酸菌ぐらいのも

のです。胃酸には、食べ物をどろど

ろにする作用のほかに、殺菌作用も

あるのです。

 満腹感と胃

 

食事をすると次第にお腹が一杯に

なり、食事を終了しようと考えるよ

うになります。これを満腹感と呼ん

でいます。満腹感を感じた時、胃の

中はどうなっているのでしょうか?

 

もちろん、胃には食べ物が貯めら

れています。しかし、胃には受容弛

緩と呼ばれる反応があり、食べ物が

入ってくると、胃の壁が緩んで大き

くなり、かなりの量の食べ物を入れ

込むことができます。満腹感とはた

だ単に胃がいっぱいになってパンパ

ンになった感覚ではないのです。

 

空腹のときに水を大量に飲んだと

します。もちろん、胃に水が貯まっ

てパンパンに張ってきます。そして

苦しさを感じますが、これは明らか

に満腹感とは異なります。満腹感に

は「お腹いっぱい」という、一種の

幸福感や満足感が伴います。これは

4

満腹感が、脳で起こる心理的・精神

的反応であることを示しています。

 

脳の奥底にある視床下部という場

所には、満腹感を作り出す中枢が存

在します。食事をして、栄養が吸収

され、血糖が上昇すると、この糖分

が満腹中枢を刺激して、満腹感を作

り出すのです。ですから、決して胃

が食べ物で一杯でなくても、糖分が

多い食べ物や飲み物、例えば、チョ

コレートやジュースなどを飲食する

と、空腹感が早く無くなり、軽い満

腹感を感じることができるのです。

 

先ほども言いましたように、糖分

を含む栄養素の吸収には、それなり

の時間を要します。ですから、通常

の食事で満腹感を得るためには、食

事を始めてから1時間位はかかると

考えられます。したがって、食事を

ゆっくりとする方が、満腹感を得る

までにそんなに多くの食べ物を食べ

ないで済むのです。ゆっくり食事を

するのは、ダイエット法として有効

です。逆に早食いは、満腹感を得る

前にたくさんの食べ物を食べること

になるので、肥満の原因のひとつな

のです。お気を付けください。

P r o f i l e北海道大学医学部卒業(医師免許取得)北海道大学大学院医学研究科修了(医学博士取得)北海道大学医学部助手、札幌医科大学医学部助教授を経て現在は同教授。専門分野は循環生理学と循環薬理学。主な著書は「Clinical生体機能学─生理学から症状がわかる─」(南山堂)、「いちばんやさしい生理学の本─生きるしくみ」(秀和システム)。

當瀬 規嗣(とうせ・のりつぐ)

まとめ

  1    胃は食べ物を貯蔵する臓器である2 胃では栄養や水分の吸収は行わない3 胃酸は消化と殺菌の役割を持つ4 満腹感は胃が一杯になったことではない

43 No.28 PRACTICE

 胃の役割

 

胃は生存に必要な臓器ではありま

せん。論より証拠、胃がんなどの胃

の病気があった時、病巣を胃ごと切

り取ってしまう胃全摘術という手術

を行います。この手術を受けた患者

さんは回復して、社会復帰し、日常

生活を普通に送っています。という

ことは、胃は無くてもいい臓器だと

いうことになります。

1

 

しかし、手術後の患者

さんは、それまでのよう

に食事をすることは難し

くなります。手術前と同

じ量の食べ物を食べる

と、食べ物が腸に直接入

るので、腸が刺激され

て、食べ物を一気に排除

(下痢)してしまうから

です。これではせっかく

食べたのに栄養が吸収さ

れず、栄養不足となりま

す。そこで「分食」といって、1日

に3度食べていた食事量を少量に分

けて、4度、5度と回数を多くして

食べることになります。

 

つまり、胃は通常の1回の食事量

を全て受け止めて一旦貯蔵し、腸に

過度の刺激を絶えないように、少し

ずつ食べものを送り込む役割がある

のです(図)。胃があるおかげで私

たちは1日3回の食事で、それもお

腹いっぱい食べても、それをしっか

りと消化吸収することができるので

す。やはり、胃は健やかな生活のた

めには必要な臓器なのです。

 水も栄養も吸収しない

 

1度の食事で胃に貯められた食べ

物はどうなるのでしょう? 

まずは

胃の粘膜から、ご存知の胃液が分泌

され、食べ物に降りかかります。胃

液は酸性を示し、たんぱく質を分解

する酵素を含んでいます。食べ物の

形は、おおむねたんぱく質によって

形作られています。たんぱく質は酸

によって変化し、酵素によって分解

されるので、食べ物の形は次第に失

われ、どろどろの状態になります。

 

胃で食べ物をどろどろ状態にする

のは、腸に少しずつ送り出すのに都

合が良いからなのです。このどろど

ろの状態を「消化された」と誤解し

ている人も多いのですが、これは消

化のほんの初期段階にすぎません。

 

この段階で栄養素の大半は、まだ

体内に吸収されるような状態になっ

ていません。したがって、胃では栄

2

胃の話

[健康コラム]札幌医科大学教授 當瀬 規嗣

 毎日、飲食をしなければならないので、胃はその存在を意識す

ることが度々ある臓器です。胃の調子が良ければ、気分も爽快に

なります。胃に不調を感じると、気分も重く苦しくなるもので

す。食べ物の消化吸収において胃が果たす役割は、非常に重要な

のですが、実は、一般的にはあまり正しく理解されていません。

健康な生活のために、胃の役割を再認識しましょう

●�腸の能力を超えないように…

42PRACTICE 2019 Winter

掲げる帯広空港です。市町村の連携

により、それぞれのマチの良さを活

かした50〜60㌔のサイクルコースが

生まれました。サケの遡上を見学し

たり、ゴール地点の藤丸デパートで

は、山本選手のトークショーを開催

したりと、たくさんの協力者とのつ

ながりを活かし、地域に根差した特

別なツアーを実現しました。

 

自転車ツーリズムを普及する上で

の大きな課題は、観光客が地域に落

とす金額が少ないことだと言われて

います。このため今回は、走行時間

以外の休憩や食事で経済効果を生み

出すとともに、生産者との交流やS

NSを通じた情報発信による観光分

野への波及など、まちづくりのため

の要素を盛り込んでいます。農村の

ゆったりした時間を楽しみ、農的ラ

イフスタイルに触れることで、満足

度を高めることができるそうです。

 

休憩スポットになった幕別町の小

笠原農園は、自家栽培の野菜スムー

ジーで迎えてくれました。疲労回復

に効果的なアスパラやキウイ、エネ

ルギー補給に最適なバナナを使った

アスリート用の特別レシピです。も

ぎたて、ゆでたてのトウモロコシの

味も格別で、参加者の笑顔がはじけ

ました。

畑ピクニックで贅沢な時間を

 

3日目の朝は、帯広市郊外にある

農場まで自転車を走らせ、畑の中で

の朝食を満喫しました。畑を巡り、

自分で収穫したトウモロコシをゆ

で、焼いたカマンベールチーズに野

菜をつけて食べるという贅沢な時間

でした。このツアーを用意してくれ

たのは、十勝の畑をピクニックする

ガイドツアーを提供している、株式

会社いただきますカンパニーです。

 

代表の井田芙美子さんは、ツアー

を始めて7年目になります。最もや

り甲斐を感じるのは「お客様が喜ぶ

姿を見て、農家の方が一緒に喜んで

くれること」と言います。忙しい中

でも農家が観光客の受け入れを続け

ているのは「マチのために」という

思いがあってこそだと知りました。

 

北海道胆振東部地震があった昨年

9月には、お客様の数が半減しまし

たが、地震の前後には視察旅行や夏

休みのファミリーなど、多くのお客

様が訪れてくれたので、大変な1年

を乗り切ることができたそうです。

 

井田さんは「いただきますの心を

育む」ことを最終目標に掲げていま

す。感謝の気持ちを育むには、農産

物の生産現場を見てもらうこと、そ

して自分で体験することが重要だと

考えています。自転車愛好家でもあ

る井田さんは、農業と自転車の相性

はとても良く、特に〈大人の女子

旅〉にはぴったりのツールだと考え

ているそうです。

 

昨年は相次ぐ台風や日照不足の影

響で、十勝管内でも小麦や豆類、

ジャガイモなどが不作になった地域

が多かったようです。美しい農村風

景も、そこで生産している農家が

あってこそ。今年は恵まれた天候に

なることを心よりお祈りいたします。

萬谷 利久子(ばんや・りくこ)

P r o f i l e野菜ソムリエ上級Pro北海道6次産業化プランナー平成 21 年に北海道で4人目となる野菜ソムリエ協会の上級資格を取得し、同協会の講師となる。「青果物ブランディングマイスター」として農産物のブランド化などマーケティングを行う。平成24 年から、農林水産省事業の6次産業化プランナーとなり、生産者の商品開発や店舗などをサポートしている。北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院DMO育成プログラム履修生。

2日目の発着地・帯広空港近くで参加者の集合写真

畑をピクニックするガイドツアーを提供。いただきますカンパニーの井田芙美子代表

自転車で帯広市郊外の農場へ自ら収穫した採れたて野菜で朝食

45 No.28 PRACTICE

農道サイクルコースを疾走

 

イベントは「北海道とかちサイ

クルフェスタ実行委員会」が主催

し、昨年9月15〜17日の3日間、

澄み切った“十勝晴れ”の下で開

催されました。道内や海外を含め

て40人が参加しました。私は初心

者ですが、乗り方や手信号などの

指導を事前に受けて出発しました。

 

帯広市出身の私には見慣れた畑

の風景ですが、自転車のスピード

で走ると、まったく違う見え方をし

ます。日高山脈と並走する感覚や川

面を渡る風が最高に心地よかったで

す。初心者コースにも緩やかな坂道

があります。ペダルが急に重くな

り、私にとってはとてもハードでし

たが、登り切った先には新たな風景

が広がり、達成感を味わいました。

 

ガイドをして下さったのは、地元

の自転車愛好家の方たちです。山並

みが美しく、写真映えするスポット

で撮影を楽しみながら、ナガイモな

ど十勝の畑作物について教えてもら

うことができました。今回はスペ

シャルゲストとして、幕別町出身の

マウンテンバイク日本代表・山本幸

平さんが一緒に走って下さいまし

た。一流アスリートの走りを目の前

で見ることができ、地元への思いに

も触れることができました。

農的ライフスタイルに触れる

 

イベントの企画・運営を担当した

「北海道サイクルツーリズム推進協

会」の高橋幸博代表理事にお話を伺

いました。農道は車の交通量が少な

いのでサイクルコースとして最適だ

そうです。前日にコース上に溝や石

ころがないかなどをチェックします。 

当日も自転車のパンクや参加者の健

康管理、脱落者などのアクシデント

にも即座に対応します。これはプロ

のノウハウがなければできません。

自転車を用意すればできるものでは

ないことがよく分かりました。

 

高橋さんは「自転車でつながれな

いものはない」と力説します。ス

タート地点は、5市町村が活性化を

野 菜 ソ ム リ エ の

ベ ジ フ ル ラ ン ド

北 海 道 ! !

野 菜 の ま ち「農村サイクリングの魅力」編野菜ソムリエ上級 Pro・北海道6次産業化プランナー 

萬谷 利久子

 昨年9月に十勝管内

の帯広市、音更町、幕

別町、中札内村、更別

村の5市町村が連携し

て「北海道とかちサイ

クルフェスタ」が開催

されました。いま人気

の瀬戸内海の「しまな

み海道」には、自転車

愛好ライダーだけでなく、ビギ

ナーも数多く訪れ、北海道でもサ

イクリングが注目され始めていま

す。私も十勝の農村風景が大切な

観光資源であることを自転車に

乗って実感することができました。

「自転車でつながれないものはない」と語る高橋幸博代表理事

秋の農道サイクルコースを疾走

スタート前のブリーフィングの様子

44PRACTICE 2019 Winter

と条例に違反しないとの解釈は無理

があるように思います(注5)。そ

れに懲戒権の行使には時効期間の定

めはないのでは?

C君 時効期間はありませんが、二

三年前と現在とでは、コンプライア

ンスについての考えも全く異なり、

現在の方が公務の信頼に与える影響

は大きいから、時の経過は懲戒処分

の必要性や程度に関する判断につい

て考慮すべきと考えます(注6)。

しかも、Yは教育公務員ではないの

ですからね(注7)。

D君 教員ではないといっても、町

の教育委員会に所属する公務員が部

活動で指導していた生徒、それも一

五、六才の社会性に乏しい生徒の未

熟さに乗じて関係を続けたことは、

学校教育に対する信頼を覆す悪質極

まりない行為だと思います。

C君 でも、Yは、今回の件が原因

で離婚もしているので、すでに相応

の制裁も受けていますよ。

D君 それは、個人の私生活に関わ

る事情であり、公務員としての職務

に関する事情ではないから考慮すべき

事情とはいえないのではありませんか。

C君 三〇年以上も真面目に勤務し

続けたYの功績を、二三年も前の非

違行為を理由にすべて否定すること

はどうかと思います。

D君 Yが北海道青少年健全育成条

例違反に相当する行為を行い、その

後も二年半にもわたって多数回を重

ね、成長の過程にあったXの心身に

重大な傷を負わせたことを重視すべ

きと考えます(注8)。

Bさん ありがとうございます。お

二人のご意見を参考にして、懲戒委

員会で検討いたします。

 解 説

注1 北海道青少年健全育成条例第三八条

一項違反行為(淫行)の刑罰は、二年以下

の懲役又は一〇〇万円以下の罰金であり(同

条例第五七条)、時効期間は、刑事訴訟法

第二五〇条第二項第六号により三年となる。

注2 不法行為に基づく損害賠償請求の時

効は、被害者又はその法定代理人が損害及

び加害者を知った時から三年間(民法第七

二四条第一項)、あるいは、不法行為の時

から二〇年間となる(同条第二項)。

注3 司法試験の合格者は、法曹資格を得

るために、最高裁判所に「司法修習生」と

して採用され、公務員に準じた身分で一年

間、法曹実務の研修を行う。

注4 二三年前の非違行為を理由とした懲

戒免職処分の適法性が争われた福島地裁平

成二八年六月七日判決(判例地方自治四二

七号五四頁)は、本事例と類似の事案につ

いて懲戒免職処分を取り消した。福島地裁

は、「本件女子生徒も原告(職員)に対し

恋愛感情を抱いており、また、原告も本件

女子生徒に対して一定の恋愛感情を有した

ことを否定するに足りる事情はないことか

らすれば、原告が単に自己の性的欲望を満

たすためだけに本件行為に及んだとまでは

いえず」と判示し、条例違反該当性を否定

している。

注5 一審福島地裁判決を取り消した控訴

審仙台高裁平成二八年一一月三〇日判決

(判例地方自治四二七号四八頁)は、「本件

女子生徒に好意を寄せられた結果であっ

て、本件女子生徒から目立った抵抗等が仮

になかったとしても、本件女子生徒は、そ

の年齢等からして、社会性等十分に育成さ

れておらず、被控訴人(職員)の魂胆など

を理解することができないまま、家庭で満

たされない気持ちを満たしてくれるものと

錯覚して被控訴人と性交渉を重ねるに至っ

たというにすぎず、被控訴人は、本件女子

生徒の判断力の乏しさに乗じて、性的欲望

の赴くまま性的関係を持ったというほかは

なく」と判示して、条例違反該当性を認め

ている。

注6 福島地裁は、「二〇年以上前の事情

と現在又は直近の事情とを比較した場合

に、後者の方が公務員に対する信頼等に対

する影響は当然大きいものといえるのであ

るから、このような時の経過は、懲戒処分

の必要性及びその程度に関する判断におい

て、当然に考慮されるべき事情であるとい

える。」と判示している。

注7 C君は福島地裁、D君は仙台高裁の

立場に立ってそれぞれ発言している。実際

の事案における職員は高校教員であり、本

件の事案とは異なることにご留意いただき

たい。

注8 仙台高裁は、「本件非違行為は、本

件懲戒免職処分の二三年以上前の事であ

り、被控訴人(職員)は、本件懲戒免職処

分を受けるまでの間、懲戒処分を受けるこ

となく、福島県の教育に携わってきたもの

であることなどを斟酌したとしても、上記

のとおり、本件非違行為は極めて悪質で

あって、県民の学校教育に対する信頼を根

底から覆す悪質極まりないものである。」

と判示して、懲戒免職処分を適法とした。

47 No.28 PRACTICE

A町総務課長Bさん 教育委員会課

長職のYが、A町立高校の女子生徒

Xと約二年半にわたって性交渉を持

つ関係に至っていたことが判明した

ので、懲戒処分について相談に伺い

ました。

弁護士 Y課長は独身ですか?

Bさん いえ、妻も子供もいます。

弁護士 そうであれば、Xさんと婚

姻する気持ちがあったとは認めづら

いので、北海道青少年健全育成条例

違反に相当する非違行為に該当する

ので、懲戒免職処分が相当ではあり

ませんか? 

警察は動いていないの

ですか?

Bさん それが…。Y課長がXさん

と最後に関係を持ってから二三年が

経過しているので、警察は条例違反

行為については、時効が成立してい

るとの見解です(注1)。

弁護士 どうして二〇年以上も経過

してから、Y課長の過去の淫行が明

るみになったのですか?

Bさん 先月、XさんがY課長に対

して、過去の淫行についての損害賠

償として、慰謝料一〇〇〇万円を請

求したのですが、Y課長が弁護士に

相談して時効の主張をして拒否した

ため(注2)、Xさんが町役場に乗

り込んできたのです。当時Y課長が

Xさんに対して送付した、性的関係

の存在を裏付ける手紙もあり、Y課

長は事実関係をすべて認めました。

弁護士 教員が教え子と関係を持っ

てしまい、刑事処分や懲戒処分の対

象になるのはよくあることですが、

役場職員のY課長がどうしてXさん

と関係を持ってしまったのかな?

Bさん Y課長は学生時代、卓球の

選手で、平成四年頃は教育委員会の

職員だったこともあり、休日にはボ

ランティアで高校の部活の指導をし

ていました。当時、高校一年生で卓

球部に所属していたXさんから、家

庭の悩みを聞いているうちに恋愛関

係になったようです。Y課長はもう

すぐ退職で、この件以外では真面目

に三〇年以上も業務に励んでいたの

です…。今回のことは奥さんにも知

られてしまい、離婚したようです。

弁護士 今日は司法修習生(注3)

のC君とD君が来ているから、二人

の意見を聞いてみましょう。

C君 私は、XとYが当時、恋愛関

係にあったのなら、条例違反の犯罪

行為は成立しない可能性もあります

し(注4)、民事上の請求権や刑事

上の責任が時効消滅するほどの期間

が経過していることからすると、懲

戒免職処分にすることは問題がある

と考えます。

D君 

私は、たとえ、恋愛感情が

あったとしても、二人の年齢差やY

にはすでに妻子がいたことからする

佐々木 泉顕(ささき・もとあき)

profile弁護士法人佐々木総合法律事務所札幌市中央区大通西 11 丁目 大通藤井ビル6階TEL 011-261-8455 FAX 011-261-9188・北海道町村会顧問・一般社団法人札幌市医師会顧問・北海道教育委員会顧問

弁護士 column

期間経過による懲戒処分の制約

〜非違行為から二三年経過後の懲戒処分は認められるのか?〜

 自治体職員による性犯罪やわいせつ事件が後を絶ちません。行政の信頼を損なう深刻な問題であ

り、厳しい姿勢で処分に臨まなければいけません。一方で被害者の訴えにより発覚した、刑事・民

事上の時効が成立している過去の非違行為を理由とする懲戒処分は妥当なのでしょうか。A町総務

課長と弁護士、相談に同席した2人の司法修習生によるQ&A方式で考えてみたいと思います。

弁護士 

佐々木 泉顕

46PRACTICE 2019 Winter

P o l i s y I n f o r m a t i o n

03

04

森町

美瑛町

ヒグマ出没情報をリアルタイムで共有ICT活用で事務負担の軽減も

農業と観光の共存を目指して撮影ルールを学ぶツアー開催も

 森町はICT(情報通信技術)を活かし、産学官連携で開発したヒグマ出没情報収集・共有システム「ひぐまっぷ」の運用を通じて、住民に対する注意喚起や事務効率化で成果を挙げている。 「ひぐまっぷ」はIT企業のダッピスタジオ合同会社や道総研環境科学研究センターなどが共同開発。森・八雲両町での実証試験を経て、昨年度から渡島・檜山・後志管内の 20 市町村で運用中だ。 ヒグマの痕跡や農林被害の通報を受けた市町村が位置情報を入力・蓄積し、地図情報として公開する機能を持つ。市町村や研究者などが情報を瞬時に把握・共有し、住民への注意喚起や迅速な被害防止対策などに役立てることができる。 森町は出没情報を町のホームページで公開して

 美瑛町では、国内外から訪れる観光客の増加に加え、インターネット上の交流サイトや画像共有アプリなどの普及に伴い、写真や動画の撮影に伴うトラブルが急増。町などが景観保全や撮影マナーの普及に向けた取組を進めている。 町内では、農地への侵入や作物の踏み荒らし、ごみ投棄など、撮影をめぐる農家とのトラブルが絶えない。平成 29 年3月に町や農協、観光協会、農家、プロ写真家らで組織する「丘のまちびえい写真文化創造事業実行委員会」が発足。農地や宅地への立ち入り自粛や肖像権の尊重といった、撮影に関するルール作りなどの対策に乗り出した。 昨年3月には、地元の写真愛好家やプロ写真家らがNPO法人美瑛町写真映像協会を設立。事務

おり、地図上で出没や食害などの情報をピンポイントで確認できる。また、町とひぐまっぷ開発チームなどで組織する「森のくまさんズ」は、携帯端末から住民が情報入力・閲覧できる「ひぐまっぷ Bot」の開発に向けた取組も進めている。 一連の取組が評価され、昨年度は総務省が主催する「地域活性化大賞2017」で、最高賞に次ぐ優秀賞に選ばれた。町総務課の山形巧哉・情報管理係長は「使い勝手をさらに改良して、この取組を道内各地に広げていきたい」と話している。

局を町経済文化振興課に置き、実行委員会の活動を引き継ぐ形で、ホームページや多言語パンフレットを使ったルールの普及、撮影スポットの巡視、景観保全や撮影マナー向上を考えるフォーラム開催などの活動を展開している。本年度はプロ写真家からルールを守りながら美しい写真を撮影するテクニックを学ぶ撮影ツアーを3回開催。新年度は季節ごと年4回の開催を予定しているという。同課の水本英樹主任は「撮影マナーの向上により、農業と観光業の共存共栄につなげていきたい」と語る。

出没情報の入力と情報共有の流れ

五か国語に対応した撮影マナーのチラシ

インターネット上で公開されるヒグマ出没情報

撮影ツアーの様子

49 No.28 PRACTICE

市町村の動き

01

02

岩見沢市

寿都町

市内企業の魅力を発信〜岩見沢初の企業ガイドを発行

大学との連携で水産業を活性化クボガイの利用やアサリ養殖に挑戦

 岩見沢市は昨年 10 月、市内の高校生や大学生などの地元就職を後押ししようと、地場企業の魅力を紹介する情報誌「IWAMIZAWA COMPANY GUIDE(イワミザワカンパニーガイド)」を初めて発行した。 冊子はA4判 61㌻。1千部を作成し、市内の高校や企業などに配布した。建設業や製造業、IT関連など、幅広い業種を対象にして、市内に四つある工業団地や駅周辺に立地している 29 社の業務内容や特色ある技術、企業の魅力などを写真とともに紹介している。 特に就職希望者の関心が高い人材育成に関する情報については、各企業が求めている人材像や新入社員の指導方針、社員研修の在り方、職場環境

 寿都町は、深刻化する磯焼け対策や未利用水産資源の有効活用など、水産業をめぐる多様な課題の解決に向けて、東海大学生物学部海洋生物科学科(札幌)との連携による取組を強化している。 町は平成8年に同大と地域振興に関する協定を締結。閉校した小学校に臨海実験所を開設し、学生実習の一環として、水産業の活性化をテーマとする研究を進め、その成果を地域に還元してきた。 同大が平成 25 年、町内の日本海沿岸で始めた磯焼けに関する調査では、海陸の境界に当たる潮間帯で、小型の巻き貝であるクボガイが、藻場を形成するコンブなど海藻類の若芽を食害していることを解明。藻場の保全に向けたクボガイの駆除と未利用水産資源として食利用の促進を目指し、

などを全社の共通項目として掲載した。 高校生の地元就職志向が根強くある一方、地場企業や進出企業は人手確保に苦戦しており、市は積極的な企業情報の発信に乗り出した。高校の進路指導担当教諭からは「このような冊子が欲しかった」と歓迎されており、特に就職指導に力を入れる2校は2年生全員に配付したという。 市企業立地情報化推進室の河原康裕さんは「学生の就活に役立ててもらうほか、市内外の企業にも、ビジネス機会の創出や企業間連携の構築を促すためのツールとして活用してもらうことで、地元経済の活性化につなげていくことができれば」と意欲をみせている。

町が商品開発などの対策に乗り出している。 町が昨年度、高齢漁業者の収入確保対策として試験を始めたアサリの養殖でも、海中のかごの中で稚貝を育てる垂下式養殖の事業化に向けて、同大が環境調査などを担当している。今後は沿岸の浅海部を中心に新たな漁場を造成し、アサリ種苗を放流する試験も計画しているという。 町の瀧山修市・産業振興課長は「研究サイドで地域の水産業を担う人材の育成も大きなテーマ。今後も学生に学びの場を提供しながら、水産業の課題解決に取り組んでいきたい」と力を込める。

垂下式養殖で順調に育つアサリ

東海大学臨海実験所で行われる学生実習

ガイドブックは市ホームページでも同じ内容を閲覧できる

48PRACTICE 2019 Winter

P o l i s y I n f o r m a t i o n

07

08

更別村

浜中町

十勝さらべつ熱中小学校地域総合複合施設で交流拡大に期待

障がい者の就労の場を創出地域活動支援センターがオープン

 更別村にある「十勝さらべつ熱中小学校」の敷地内に昨年6月、人材交流や交流人口拡大の拠点に位置付けた地域総合複合施設がオープンした。 地場産品を提供するレストランやマルシェ、移住希望者や長期滞在者向けのゲストハウス、サテライトオフィスなどの施設を一体的に整備。水槽で魚を育て、排せつ物を養分にバジルなどの野菜を栽培するユニークな「アクア農場」も設けた。 事業費は約1億7千万円。村は地方創生拠点整備交付金などを活用。村内で「熱中小学校」の事業を展開する一般社団法人北海道熱中開拓機構が運営する。熱中小学校の活動は、平成 27 年に山形県高畠町でスタート。全国 12 地域で1千人超の社会人が学ぶ。起業家や大学教授、芸術家など

 浜中町は昨年5月、障がい者の就労支援の拠点となる地域活動支援センターをオープンした。 平成 25 年に閉校した旧榊町小学校を活用。施設改修に伴う費用は約9200万円。町は社会福祉法人釧路恵愛協会に施設運営を委託している。 町は昨年5月に高齢者向けの配食サービスをスタート。同センターで通所者が調理した弁当を1食500円で提供している。年末年始や祝祭日を除く月〜金曜の週5回、午後2時〜4時までに高齢者の自宅に届ける。日頃からの安否確認を兼ねて町社会福祉協議会が配送業務を担っている。 施設内の「共生型カフェ」は、障がいの有無や年齢にかかわらず、多くの住民に交流を深めてもらおうと昨年7月にオープン。コーヒーやスパゲ

が講師となり、各地で人材育成や異業種交流、地域間交流、特産品開発などに取り組んでいる。 「十勝さらべつ熱中小学校」は、道内で初めて更別村の全面協力で平成 29 年4月に開校。これまでに延べ約280人が学び、3人が村内で起業する成果も。村企画政策課の今野雅裕・政策調整係長は「熱中小の取組を通じた人脈の波及効果を実感します。施設を活用した住民との交流で参加者の増加につなげていきたい」と語る。施設の詳細は機構ホームページ(http://sarabetsu.com/)。

ティなどの軽食を提供しており、数人の通所者がスタッフとして働いている。定期的なメニュー更新や情報発信、講習会などのイベント開催、観光客の取り込みを通じて利用客の確保を目指す。 町は将来的に就労継続支援B型事業所として指定申請を行うことを目指すとしている。町の福祉保健課の藤原真貴・福祉係長は「施設内には子ども発達支援センターも開設しており、幅広い世代に利用してもらうことができる地域福祉の拠点施設として活かしていきたい」と意気込みを語る。

地元食材を使ったレストランもオープン

昨年7月にオープンした共生型カフェ

村有の未利用施設を活用した熱中小学校の校舎

浜中町地域活動支援センターの外観

51 No.28 PRACTICE

市町村の動き

05

06

中頓別町

清里町

町への誇りと愛着を深める学力や英語力向上の取組を強化

じゃがいも焼酎トリュフの人気急上昇!豊かな風味のご当地スイーツに

 中頓別町は昨年度から、児童生徒の学力向上や英語教育の充実などを柱に教育環境の整備に力を入れている。本年度は無料の「町塾」の開催、外国語指導助手(ALT)を活用した英語教育の充実、中学生を対象とするハワイ研修に取り組んだ。 町塾は小学校高学年が対象。火曜は算数、金曜は国語と英語の授業を隔週で実施している。現在の登録者は7人で、算数は4人、国語は6人が参加している。また、放課後子どもプラン(児童クラブ)でも、算数教室と英語教室を開催している。 英語教育の充実に向けては、こども園から中学校まで一貫した学習環境の整備を進めている。こども園ではALTによる週2回の英語教室を開始した。今年の8月には「未来への挑戦『ハワイ英

 町内産のじゃがいも焼酎をベースに清里町と洋菓子メーカーが共同開発したトリュフチョコレートが新たな特産品として人気を集めている。 「清里じゃがいも焼酎」は昭和 54 年、全国初のジャガイモを原料とする本格焼酎として発売。町が運営する清里焼酎醸造所は現在、700ミリ㍑瓶換算で年間 10 万本を全国に出荷している。 特産の焼酎と生クリームなどを混ぜ、チョコで包んだ〈じゃがいも焼酎トリュフ〉は、人気洋菓子ブランドを展開している道内の菓子メーカーと共同で開発を進めた。町内の情報交流施設「きよ〜る」で昨年4月末に販売を開始した。 ほどよい甘さと焼酎の豊かな風味、高級感あるパッケージが人気を呼び、お土産用に購入する観

語研修』事業」として、希望する中学2〜3年生の 17 人がホノルルでの語学研修に参加。生の英語に触れ、異文化理解の大切さを学んだ。 また、特色ある教育活動の推進に向けて、小中学校の修学旅行に観劇やラフティング体験を取り入れるなど、子どもたちが本物の芸術や文化・スポーツに触れる機会づくりにも取り組んでいる。 田邊彰宏教育長は「今後も子育て支援や、校舎も含めた教育環境の整備を進めていきたい。充実した環境や体験を通じて、自分が住む中頓別町に誇りを持ってほしい」と話している。

光客や地域住民が増え、発売から半年間で約850箱(4個入り1千円、6個入り1500円)を売り上げた。現在は地元限定商品として販売しているが、将来的には町外での展開も検討しているという。 町は地方創生の一環として、焼酎をはじめとする地場産品の付加価値向上やブランド力の強化を打ち出している。町企画政策課の水尾和広総括主査は「チョコレートと焼酎のコラボにより、幅広い層から人気を集めるご当地スイーツに育てることで町をアピールする力になれば」と期待する。

ハワイでは本物の英語と異文化を体験

原料のじゃがいも焼酎北海道清里〈樽〉

町塾の授業の様子

じゃがいも焼酎トリュフ

50PRACTICE 2019 Winter

が深刻化している地域もあります。

 

一戸建ての「その他の空き家」の

所有者を対象としたアンケート調査

によると、住宅を取得した理由は約

6割が「相続」と答え、状態につい

ては57・1%が「部分的な腐朽・破

損がある」「屋根の変形や柱の傾き

など深刻な破損がある」と回答して

います。管理状況は「年に1回〜数

回」と答えた人が約3割でした。

 

空き家対策に取り組む福井県越前

町で、所有者を対象に活用方針を調

査したところ、老朽化が進むにつれ

て売却指向が高まることが分かりま

した。まだ状態が良い時には判断が

つかず、傷みが進むと、次の世代へ

の先送りを回避しようと、重い腰を

上げる傾向にあります。経験上、こ

の間に10年の時間を要します。

 

一方、平成25年に日本住宅総合セ

ンターが実施した「空き家発生によ

る外部不経済の実態と損害額の試算

に係る調査」によると、外壁材など

の落下により、隣接する道路を歩い

ていた11歳の男児が死亡したという

事故を想定して試算した損害額は5

600万円に上ります。所有者が遠

隔地に居住しているなど、管理が十

分に行われていない空き家は、事故

の発生に伴う損害賠償のリスクを常

に抱えていることになります。

将来の解体費用をストックする

 

空き家対策特措法は、倒壊などの

恐れがある「特定空き家」に認定し

た建物の所有者に対して、市町村が

指導・助言、勧告、命令の段階を経

て、行政代執行により強制的に除却

を行うことができるよう規定してい

ます。所有者不明の場合は略式代執

行も認めています。昨年度の実績は

指導・助言が4200件、勧告が2

85件で、代執行に至る段階的なプ

レッシャーと、勧告を受けると固定

資産税の軽減特例が受けられなくな

るプレッシャーにより、対応する所

有者が増えたと考えられます。

 

代執行の場合、市町村は除却費用

を所有者から回収します。できなけ

れば、差し押さえた土地を売却して

費用に充てますが、回収が困難にな

るケースが多いのも現状です。新潟

県では、経営者の破産で所有者が不

明になった、鉄筋コンクリート造の

旧旅館の除却費用が3900万円に

達しました。代執行を行うことで公

費負担が増えるというジレンマは多

くの市町村が抱えています。費用が

回収できなくなる前に補助金などを

出し、自分たちで処分してもらうよ

う誘導していくことも大切です。

 

広島県呉市は、30万円を上限に除

却費用の3割を補助する制度を設け

ました。平成28年度は501件・1

億4千万円の申請があり、除却が進

みました。群馬県高崎市は、富岡賢

治市長のリーダーシップで100万

円を上限に8割を補助する制度を創

設しました。申請期限を設けること

で処分のスピードアップを図りまし

た。427件の申請があり、市は3

億8千万円を負担しました。

 

公費の投入には不公平感もつきま

といます。私は所有者が、将来の解

体費用を少しずつ積み立てていく仕

組みづくりを提言しています。一般

的に木造住宅の解体には150〜2

00万円の費用がかかります。10年

で20万円ずつ積み立てる、あるいは

購入後に固定資産税に上乗せして徴

収します。自動車の購入時にリサイ

クル費用を前払いする仕組みと同じ

考え方です。購入時に一括して供託

するという方法もあります。

空き家バンクはターゲット絞る

 

インターネットを活用した〈空き

家バンク〉は、検討中を含めて全国

で約1千の自治体が取り組んでいま

す。不動産業者が取り扱わないよう

な物件を紹介し、売り手と買い手の

マッチングを促します。成約数が50

件を超える空き家バンクは、不動産

業者や協力者との連携が奏功してい

ます。登録件数を増やすには、固定

資産税の課税通知書で登録を呼びか

けるなどの仕掛けも必要です。暮ら

しや仕事の情報を知らせたり、移住

53 No.28 PRACTICE

増え続ける空き家

 

総務省が平成25年に実施した「住

宅・土地統計調査」によると、国内

の空き家は820万戸、空き家率は

13・5%に達しています。戦後から

高度経済成長期にかけて、国内では

住宅数が絶対的に不足していまし

た。その後は新築供給物件が増加

し、住宅不足が解消すると空き家率

も上昇しましたが、10%程度であれ

ば問題は起こりませんでした。

 

空き家をめぐる問題は、人口減少

と高齢化、家族形態の変化にも原因

があります。「親の家を相続して住

む」という時代は終わりました。平

成に入ると、地方の人口減少が加速

し、条件の悪い地域では、相続して

も使われない住宅や、相続する人が

いない住宅が急増し、空き家率の上

昇が加速しました。それが大都市の

郊外や中心市街地にも波及すること

で全国的な問題になっています。

 

日本の住宅流通シェアは85%を新

築住宅が占め、その数は毎年80〜90

万戸に達しています。これに対して

米国は89%、英国では88%、フラン

スでも68%が中古住宅です。空き家

率がとても低い英国やドイツと比べ

ると、まちづくりの考え方が根本か

ら異なっています。都市計画の線引

きが厳格な欧米では、住宅を建てら

れる場所が限られ、中古住宅を買う

のが普通になっています。住宅の寿

命が長く、空き家が増えない構造が

成り立っています。

 

日本では住宅不足の時代が長く続

く一方、住宅の大量供給は質の劣化

を招きました。それでも国民が住宅

を購入し続けたのは、地価が上がり

続けるという“土地神話”があった

ためです。住宅の質が悪ければ、建

て替えのサイクルも早まり、売る側

にとっては好都合でした。このため

中古住宅市場は成熟せず、住宅敷地

に対する固定資産税軽減の特例もあ

り、放置される空き家が全国各地で

増えてしまいました。

「その他の空き家」が抱える問題

 

特に問題化しているのが、空き家

対策特別措置法で言う「その他の空

き家」です。賃貸や売却の予定は無

く、別荘などにも使用されず、その

まま放置されている空き家です。全

国で318万戸に達しており、予備

軍も増加しています。全国平均は

5・3%ですが、人口減少が著しい

山陰や四国、九州地方では10%前後

に達しています。北海道は14・1%

で全国平均を上回っていますが、47

都道府県中25位で、戸数も他府県よ

りも少ない状況ですが、中には問題

米山 秀隆(よねやま・ひでたか)氏P r o f i l e富士通総研経済研究所主席研究員昭和 61 年筑波大学第三学群社会工学類卒。平成元年同大学大学院経営・政策科学研究科修了。野村総合研究所、富士総合研究所を経て、富士通総研入社。28 年7月から現職。19〜22 年慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員。専門は住宅・土地政策、日本経済。主な著書は「限界マンション」「空き家急増の真実」「少子高齢化時代の住宅市場」(いずれも日本経済新聞出版社)など。

講演

平成30年度 

北海道・市町村交流職員研修会

1急増する空き家とこれからのまちづくり

日時:平成30年11月8日(木)

主催:北海道市町村振興協会

後援:北海道、北海道市長会

   北海道町村会

会場:ホテルポールスター札幌

52PRACTICE 2019 Winter

観光は地域の「稼ぎ頭」だ

 

観光は地域の稼ぎ頭と言われてい

ます。全国的な地方創生の取組の中

でも観光に関わるものが数多くあり

ます。道内でも各地域でDMO(観

光地経営組織)を設立する動きがあ

ると思います。それでは、どうして

地域にとって観光が重要なのでしょ

うか。答えは「裾野の広さ」にあり

ます。農林水産業、宿泊業、交通事

業などの多くの産業が関わり、活性

化することで雇用を創出します。

 

参入が比較的容易で、地域の資源

を活かすことができます。総じて地

域の誇りを醸成するなどのメリット

がある半面、大手旅行会社の草刈り

場だという指摘もあります。現実問

題として多くの観光地が人手不足に

あえいでおり、ブラックな労働環境

が問題になっています。地域の資源

を活かしたツーリングは、住環境の

破壊やゴミ問題など、負の側面を生

み出すという指摘もあります。

 

観光客数の統計を見ると、人口減

少と高齢化の影響で日本人の国内客

は伸びていませんが、インバウンド

(訪日外国人観光客)は、平成22年

と29年を比べると4倍に増えていま

す。目前に迫った2020東京五

輪・パラリンピックを契機として、

さらに増加するとの期待感もありま

す。経済的な観点から見るとインバ

ウンドがもたらす経済波及効果は地

域における人口の7倍に相当すると

の試算もあります。このため全国各

地で受け入れの拡大に向けた取組が

進められています。

自然と温泉─みなかみ町の資源

 

私が地方創生人材支援制度により

参与を務める群馬県みなかみ町につ

いてご紹介します。月夜野町、水上

町、新治村の合併で平成17年に誕生

しました。人口は3万6千人をピー

クに減少を続け、現在は1万9千人

を切りました。昨年度生まれた子ど

もは71人です。ピーク時には年間3

00〜400人も生まれていたこと

を考えると相当厳しい状況です。

 

上越新幹線とJR上越線が走って

います。谷川岳など日本百名山に数

えられる山岳が五つあります。利根

川源流域ではアウトドアスポーツが

盛んで、ラフティングの先駆けとし

て知られています。利根川にかかる

諏訪峡大橋からダイブするバンジー

ジャンプも盛況です。群馬県は北海

道に次いで温泉の数が多く、町内の

宝川温泉にある国内最大級の露天風

呂は“インスタ映え”もするので外

国人観光客にも人気があります。

 

地方創生の一環でDMOを立ち上

田村 秀(たむら・しげる)氏P r o f i l e長野県立大学グローバルマネジメント学部教授・公共経営コース長昭和 37 年苫小牧市生まれ。東大工学部卒。昭和 61 年自治省入省。行政局公務員部給与課課長補佐などを経て、平成9年東大大学院総合文化研究科助教授。同省大臣官房国際室課長補佐、自治大学校教授を経て、13 年新潟大法学部助教授、19 年法学部実務法学研究科教授、23 年副学部長、25 年法学部長。30 年から現職。27 年地方創生人材支援制度により群馬県みなかみ町参与(非常勤)に就任。著書は「暴走する地方自治」(ちくま新書)、「道州制で日本はこう変わる〜都道府県がなくなる日〜」(扶桑社)、「『ご当地もの』と日本人」(祥伝社)、「自治体崩壊」(イーストプレス)など多数。

講演

平成30年度 

北海道・市町村交流職員研修会

2観光による地域振興について

55 No.28 PRACTICE

者の受け入れ体制を整えたり

するなど、地域と一体になっ

た取組を進めているサイトが

成功しています。

 

大分県竹田市は平成22年

度、75歳以上の後期高齢化率

が全国トップの25・2%に達

したことに危機感を強め、空

き家バンクを活用した移住・

定住の促進に取り組んでいま

す。竹工芸や紙すき、陶芸な

ど、地域の伝統工芸を活か

し、空き家や空き店舗で起業

すると、最大で100万円を

補助する制度を設けました。

「工芸家や芸術家に優しいま

ち」というブランド化を図

り、移住者の増加に結び付け

ています。移住者は生活の目

途が立ち、地域では新たな雇用を創

出することができました。雑誌社が

発表している「住みたい田舎ランキ

ング」でも、名前が上位に挙がるよ

うになりました。移住者に求めるス

ペックを明確にして、訴求力を高め

ることができる好事例です。

 

民間サイドでも〈空き家関連ビジ

ネス〉に進出する動きが出てきまし

た。最も顕著なのは「管理代行」の

業務です。遠隔地に居住する所有者

を対象に、住宅の通気や通水、簡単

な清掃などの管理状況を伝える写真

を送るというビジネスです。もう一

つはリノベーションです。200〜

300万円で購入した土地付きの空

き家を改修し、1千〜1500万円

の売値で販売しています。地方では

新築の半値以下となり、物件の場所

や状態によっては、ビジネスとして

需要の拡大が期待されます。群馬県

桐生市に本社がある「カチタス」と

いう会社は、全国に100店舗を超

えるネットワークを展開して、空き

家の売買を進めています。

 

最近は物件の状態に関係なく、空

き家を登録できるインターネット上

の掲示板「家いちば」も注目されて

います。残された家財道具の処分費

用として、売り手が買い手に対して

数万円〜数10万円を提供するという

物件もあり、購入額よりもインセン

ティブが上回るというマイナス現象

もあるようです。土地を含めて絶対

の価値があった不動産ですが、物件

によっては“負動産”になっている

一面も浮かび上がっています。

空き家問題のこれから

 

都市部では、空き家や空き地が無

秩序に点在する〈スポンジ化〉が進

んでいます。山形県鶴岡市では、ラ

ンドバンク事業による対策が進めら

れています。城下町の鶴岡市は、江

戸時代からの町割りが狭く、土地や

建物の流通を阻害しており、中心市

街地のスポンジ化に拍車を掛けてい

ます。小さな土地を集約して再開発

すれば、価値が生まれる場所である

にもかかわらず、主体となり事業を

進める組織がありませんでした。

 

平成25年に鶴岡市、民間都市開発

推進機構、地元不動産業者などが出

資する「NPO法人つるおかラン

ド・バンク」が設立され、3千万円

のファンドを創設しました。空き家

を含めた土地区画整理と道路拡幅に

よる住環境の整備を進めています。

逐次的な方法ですが、10年あるいは

20年後には、対象エリアの価値向上

につながると期待されています。

 

一方、都市部に集中する老朽マン

ション対策は今後、全国的な問題に

なることが懸念されています。築後

40年以上が経過した分譲マンション

では、高齢化に伴う居住者の代替わ

りや賃貸化が進んでいます。もとも

と管理組合が無かったり、所有者の

代替わりにより、管理組合の機能が

低下したりしている物件は、建物全

体の劣化が進んでいても、計画的な

修繕を行うことができない状態にあ

ります。戸建ての空き家と同様に解

体も売却もできず、危険な状態で放

置されるマンションが増える恐れが

あり、日本マンション学会は、将来

的に空き家特措法と同様の法整備が

必要になると提言しています。

54PRACTICE 2019 Winter

んと指摘する必要があります。

 

観光も地域振興も、単独の市町村

による取組には限界があります。自

治体の規模の大小やエリアを越えた

連携を模索する必要があります。さ

いたま市の呼び掛けで平成27年に発

足した「東日本連携・創生フォーラ

ム」という会議があります。大宮駅

を拠点に、北海道・東北・上越・北

陸の各新幹線の沿線自治体が連携を

進めようとしています。現在20市町

で構成しており、北海道からは函館

市が参加しています。みなかみ町も

町として唯一参加しています。

 

魚沼市など新潟県の5市町と長野

県のみなかみ町・栄村の7市町村に

よる「雪国観光圏」という団体があ

ります。平成20年に発足し、25年に

一般社団法人になりました。県を超

えたエリアで、地の利を活かした観

光資源の連携や滞在型観光の開発を

進めています。何か新しいことを始

めようとする時、自治体の規模は関

係ありません。みなかみ町は200

万人規模の人口がある台湾の台南市

と友好都市交流を行っています。中

国語に堪能な町職員を派遣し、日本

側の窓口役を担っています。

外部人材を使いこなす度量を

 

新潟県などの自治体では、観光や

広報、ITなどの分野で、外部の人

材を活用する動きが活発です。観光

分野では、地域の観光協会で事務局

長を公募する動きが全国的に拡大し

ています。観光協会の事務局長と言

えば、従来は自治体職員の現役出向

や定年退職者の再就職先、あるいは

協会のプロパー職員が内部で昇格す

るというケースが大半でした。

 

公募制の先駆けは大分県の湯布院

温泉観光協会です。北海道でも平成

14年にニセコ町、21年には羅臼町で

も公募による事務局長が誕生しまし

た。待遇は年収500〜700万円

程度という団体が多いのですが、3

00万円前後という団体も少なくあ

りません。成果給や評価の指標を明

確にしている協会もあります。

 

公募に応じる人材は、観光業界や

広告代理店の出身者、IT企業の経

験者、地域との関わりが深いビジネ

スマンが多いようです。地域に骨を

埋めるのではなく、次のステップを

見据えた実績づくりを意識している

人が多いと感じます。このため、得

意分野に集中して、短期間で目に見

える成果を出せる課題を優先する側

面があることは否めません。

 

行政や住民と対立したり、観光の

プロとしての自負がマイナスに働い

たりすることもあります。人間関係

が悪くなり、任期途中で退任してし

まうケースもあります。しかし、豊

富な経験や能力を持つ人材を初めか

ら育てることは、行政や地域の団体

にとっては難しいのが現状です。外

部人材の活用はさまざまな分野で全

国的に広がっていきます。多様な考

えを持つ人材を受け入れ、使いこな

していく度量が求められています。

鉄道を選択肢として残す

 

北海道の観光についてもお話した

いと思います。北海道観光のキラー

コンテンツは何と言っても雄大な自

然と豊かな食です。北海道は歴史が

浅いと言われますが、函館市や小樽

市が国内有数の観光地として輝いて

いるのは、地域の歴史がきちんと評

価されていることの証です。地域で

暮らしてきた人たちの軌跡を後世に

残すことは、まちづくりの大切な要

素です。そして、観光とまちづくり

は密接な関係にあります。

 

私はJR北海道の去就に大きな関

心を持っています。赤字路線の存続

が焦点になっていますが、北海道を

一周する路線を残さなければ、これ

から20〜30年後に必ず後悔するので

はないかと懸念しています。鉄道を

活かした観光に力を入れるのであれ

ば、北海道は観光周遊ルートとして

大きなポテンシャルがあります。地

域公共交通の問題だけでなく、観光

客やインバウンド誘致を進めるとい

う側面からも、移動手段としての鉄

路という選択肢を残し、活路を見い

だして欲しいと願っています。

57 No.28 PRACTICE

げました。地方版総合戦略も策定し

ましたが、他市町村と変わらない内

容です。他地域と異なる視点で取り

組んでいるのはヘルスツーリズムで

す。健康に着目したツアー商品を開

発しています。凸版印刷株式会社と

協定を締結し、自然やアウトドアス

ポーツ、食、温泉などの資源を活か

し、健康増進や疾病の予防に結び付

けていきたいと考えています。

インバウンド誘致の三点セット

 

全国的にインバウンド誘致が課題

になっています。長野県は冬季のス

キーや自然を活かした外国人の受け

入れに力を入れていますが、多くの

課題を抱えています。一つは現金決

済から、クレジットカードや電子マ

ネーによるキャッシュレス化が大幅

に遅れています。北陸新幹線など3

路線が乗り入れるJR上田駅では、

構内最大の土産物店でさえクレジッ

トカード決済に対応していません。

 

クレジットカードとともに、公衆

無線LAN(Wi-Fi)、温水洗

浄便座は、インバウンドの誘致に欠

かせない“三点セット”と言われて

います。中でもクレジットカードと

Wi-Fiは最優先です。意外に盲

点なのはJR駅構内の金融機関のA

TM(現金自動預払機)です。道内

でも札幌駅以外で設置している駅は

少ないのではないでしょうか。

 

インバウンド誘致をめぐっては最

近、長野県でタクシーに関する問い

合わせが増加しています。「クレ

ジットカードは使えるか」「英語対

応のタクシーがあるか」という問い

合わせです。しかし、県内では、長

野市以外のタクシー会社はクレジッ

トカードに対応していません。英語

で対応ができるタクシーは、県内に

4台だけという状況です。これは行

政がどこまで関与すべきか難しい課

題ですが、民間の動きが鈍いだけで

なく、そもそも対応できる人材がい

ないのが実情です。スマートフォン

のアプリを使ったタクシー配車サー

ビス「Uber(ウーバー)」を導入

しない限り、タクシーの問題は解決

できないとさえ感じています。

食文化は地域を語る格好の資源

 〈食〉は古今東西、多くの人を引

き付ける重要な観光資源です。行か

なければ食べられない味覚は魅力的

な地域の資源です。食のプロジェク

トに携わった当初、庶民感を強調し

ようと「B級」を前面に押し出しま

した。いわゆる「B級グルメ」を売

り出す取組が全国に広がる中で「デ

カ盛り」や「ゲテモノ」のイメージ

が先行するようになり、地域性を明

確にする意味で“ご当地”という言

葉で統一するようになりました。

 

ご当地グルメで地域を活性化する

イベント〈B1グランプリ〉は、全

国的に定着した感がありますが、本

来は食のイベントではなく、まちお

こしのためのイベントです。頭文字

の「B」は「ブランド(Brand

o)」の「B」なのです。青森県八

戸市や秋田県横手市、静岡県富士宮

市など、B1グランプリの初期メン

バーは、いち早くこのことに気が付

き、食を活かしたまちづくりの分野

でも大きな成果を挙げています。

 

地域活性化の起爆剤として、ご当

地グルメの開発に乗り出す市町村は

多くありますが、こうした開発型グ

ルメには“光と影”があります。

「三大開発型グルメ」と呼ばれてい

る「カレー」「コロッケ」「バーガー」

は誰にでもできますが、自治体の補

助金頼みで、安易な発想で飛び付い

ても長続きしません。コンサルタン

トに依頼して開発された、新しいご

当地グルメも少なからずありますが

地域に定着しているのでしょうか。

肝心なのは「地元に愛されなければ

意味がない」ということです。

 

宇都宮ギョーザが観光客を引きつ

けるのは、市民に愛され、地域で食

べ継がれているからです。学校給食

のメニューから生まれた三重県津市

のギョーザや、食堂のまかないから

生まれた帯広市の「中華ちらし」な

ども地域に根差したグルメです。北

海道でも、美唄市や室蘭市の焼き鳥

が多くの人に愛されるのは、地域の

歴史や産業や歴史と密接な関係があ

るからです。このような本物のグル

メこそが生き残っていくのです。

観光連携の間口を拡げる

 

平成27年に北陸新幹線(長野─金

沢間)が開通しました。町内の上毛

高原駅には高速タイプの新幹線も停

車するようになり、従来は77分だっ

た東京─上毛高原間は66分に短縮さ

れました。しかし、町内にある宿泊

施設のホームページは、いまだに所

要時間を修正していないなど、対応

に問題があります。観光業界の内側

にいると意外にこういう細かい部分

に気付きません。外部の視点できち

56PRACTICE 2019 Winter

 全国自治宝くじ事務協議会が運営している「宝くじ公式サイト」で、宝くじのインターネット販売がスタートしました。パソコンやスマートフォンで、市町村との関わりが深い「サマージャンボ」や「ハロウィンジャンボ」をはじめとするジャンボ宝くじ、全国通常宝くじ、ブロック宝くじ、ロト7、ロト6、ミニロトをクレジットカード決済で簡単に購入することができるようになりました。 抽せん結果の確認や当せん金の受け取りまでをインターネット上で行うことができます。サイトには指定した期間や頻度で自動購入できる「継続購入」や、発売開始日に自動で購入できる「予約購入」などの機能もあります。 サイトで宝くじを購入すると、100円につき1ポイントの「宝くじポイント」が獲得でき、決済完了の翌日から宝くじの購入に利用することができます。宝くじ売り場が無い地域の皆さんや、スマートフォンを愛用する若年層など、より多くの方々に宝くじを身近に感じていただくことが期待され、市町村の皆様にも積極的なPRをお願いします。ネット販売の詳細は宝くじ公式サイト(https://www.takarakuji-offi cial.jp/)をご覧ください。

No.282019 Winter

PRACTICE

平成 31 年1月 18 日発行

編集・発行公益財団法人北海道市町村振興協会〒060-0004北海道札幌市中央区北4条西6丁目北海道自治会館6階TEL:(011)232-0281FAX:(011)221-5866E-mail:[email protected]

編集協力株式会社道銀地域総合研究所株式会社北海道建設新聞社

ハロウィンジャンボ宝くじ 道内販売額は 25%増! 本年度のハロウィンジャンボ宝くじ(新市町村振興宝くじ)は、平成 30 年 10 月1日から 23 日までの 23 日間、販売されました。販売総額は、昨年度に比べて全国で 28%、道内でも 25%増加しました。北海道への収益配分額は7億 1,900 万円で、昨年度に比べて金額で1億 6,100 万円、率にすると 29%の増加となりました。 この宝くじは、平成 13 年度に「オータムジャンボ宝くじ」として発売され、28年には名称を「ハロウィンジャンボ宝くじ」に変更しました。発売収益金は北海道市町村振興協会を通じて、札幌市を除く道内178市町村に全額交付されます。 市町村の皆様には、販売の促進に向けたより一層の取組をお願いいたします。

編集担当○×余録▼胆振東部地震が発生した昨年9月6日朝。コンビニ店内は静かです。犬の散歩やジョギングをする人もいます。交差点は譲り合い。駅では観光客が無言でしゃがみ込んでいます。都市で大規模な停電が発生すると、店や銀行が襲われ、役所は放火され、至る所で暴動や略奪が起こると勝手に恐れていたのですが……。▼災害時はパニックが起こるという先入観や、危険に関する情報を公表すると市民が混乱に陥るという固定観念は「パニック神話」として批判されています。神話を信奉する小市民は、買い込んだ飲料水では飽き足らず給水所を目指しました。▼給水袋が在庫切れと言われ、容器持参でとって返しましたが、何と隣の施設で大量に配布中。縦割り組織の弊害か?情報意識の欠如か!断水デマに踊った自分を棚に上げて憤ったのであります。やはり災害時の正確な情報は大切です。〈ま〉

「宝くじ公式サイト」で宝くじのインターネット販売がスタート!

1│ いつでもどこでも買える! ネットなら原則1年中、24 時間いつでも、どこでも宝くじを購入できます。

2│ ネットですべて完結! 購入から抽せん結果の確認、当せん金の受け取りまでネットで完結できます。

3│ ポイントがたまる! 公式サイトで購入すると1ポイント1円の「宝くじポイント」がたまります。

4│ 支払いはクレジットカードで! サイト上では登録したクレジットカードを使って購入代金の決済ができます。

5│ 自動購入で買い忘れなし! 「継続購入」や「予約購入」の機能を使えば宝くじの買い忘れがありません。

ネット購入!

5つのメリット

発災直後に考えたこと

 

自宅で就寝中に経験の無い揺れで

目覚め、2台のベッドの隙間に潜り

込み、揺れが収まるのを待ちまし

た。寝室のタンスが倒れ、家の中は

食器などあらゆる物が散乱していま

したが私と家族は無事でした。懐中

電灯を頼りに身支度を整え、自家用

車を運転して約12㌔の距離がある町

役場を目指しました。運転しながら

揺れの大きさや自宅の被害を思い返

しました。相当な数の人が倒壊家屋

や家具の下敷きになっているのでは

 平成30年9月6日午前3時7分に発生した胆振東部地震で、厚真町は

道内で初めて観測された震度7の激震に見舞われた。大規模な土砂災害

により死者36人の人的被害を生じ、住宅やインフラにも大きな打撃を受

けた。発災から応急復旧に着手する約2週間、災害の現場では何が起こ

り、何を考えたのか。復興の先頭に立つ宮坂尚市朗町長に聞いた。

ないか…役場も倒れているのではな

いか│。午前3時半過ぎには町役場

にたどり着きましたが、自家発電設

備が動いており、明かりが見えた時

には少しだけホッとしました。

厚真町の初動態勢

 

役場に着くと職員の参集状況を確

認した後、すぐに自衛隊に一報を入

れました。災害派遣の要請権限は知

事にありますが、過去の大災害では

要請が滞り、出動が遅れた事例もあ

ります。万が一を考えて自衛隊に被

害状況を伝え、連絡幹部(LO)の

派遣を要請しました。

 

町内で震度4以上を観測した時に

出動する職員のパトロール隊を送り

出しました。空が明るくなってくる

と、すぐに「道路が寸断していてパ

トロールが続行できない」と連絡が

入り、災害の深刻さが見えてきまし

た。農道などを迂回した職員から、

倒壊した家屋や土砂に埋もれた住宅

があるとの情報が続々と入ってきま

す。防災行政無線の戸別受信機を通

じて、救助の必要があれば通報して

欲しいと呼び掛けました。すぐに

「押しつぶされた住宅に取り残され

た人がいる」との情報が住民からも

入り始めました。

町の役割は救助活動の調整

 

庁舎は自家発電でテレビが見られ

ました。厚真上空で撮影された映像

に愕然としました。広範囲で巨大な

土砂災害が発生し、朝日地区や吉野

地区で多数の住宅が倒壊しており、

自衛隊の災害派遣が必要です。正式

な要請をしてもらうため、すぐに胆

【特集】教訓・胆振東部地震

激震 町長はどう動いたか

│宮坂厚真町長に聞く

厚真町長 宮坂 尚市朗氏昭和 31 年厚真町生まれ。53 年室蘭工大卒。ホクレン勤務を経て 56 年厚真町採用。財政税務課課長補佐、総務課参事などを経て平成20 年の町長選で初当選。現在3期目。

02PRACTICE 2019 Winter

市 町 村 振 興 協 会 コ ー ナ ー

平成 30 年度 研修事業の実施報告

北海道胆振東部地震の被災5市町に「災害見舞金」を交付しました

Information

市町村職員道外先進事例研修◦期 間/平成 30 年 11 月 11 日〜14 日(4日間)◦研修先/千葉県鋸南町、埼玉県横瀬町、小鹿野町◦参加者/市町村職員 17 名、事務局3名

◀��都市交流施設・道の駅「保田小学校」(鋸南町)

市町村職員道内先進事例研修◦期 間/平成 30 年 10 月 31 日〜11 月2日(3日間)◦研修先/沼田町、秩父別町、北竜町◦参加者/市町村職員 13 名、事務局3名

◀��屋外遊戯場「キュービックコネクション」(秩父別町)

市町村職員外国派遣研修◦期 間/�平成 30 年9月9日〜19 日(11 日間)◦研修先/�オランダ、デンマーク、スウェーデン◦参加者/�市町村等職員 21 名、事務局職員2名

◀��エーロ市の100%電気フェリー(デンマーク)

 北海道市町村振興協会は「災害見舞金交付要綱」に基づき、北海道胆振東部地震で被害が大きかった5市町に対して、全半壊した住家戸数や住民の避難状況等の交付基準に応じて「災害見舞金」を交付しました。 交付額は厚真町及び安平町が500万円、むかわ町は追加交付分を含む200万円、北広島市及び日高町が100万円です。また、一般財団法人全国市町村振興協会からも5市町に「市町村災害支援金」が交付されました。 当協会の災害見舞金は、復旧対策の促進が図られるよう、災害救助法が適用され、住家等の被害が一定の基準を超えた市町村に交付しています。これまでに北海道南西沖地震災害(平成5年)や有珠山噴火災害(同 12 年)、佐呂間町における竜巻災害(同 18 年)、台風 10 号災害(同 28年)などの災害で各被災市町村に交付した実績があります。 なお、このたびの地震災害により被災された市町村の皆様には、あらためてお見舞いを申し上げますとともに、各地域における被災者の生活再建、そして一刻も早い復旧と復興を心よりご祈念いたします。

宮坂厚真町長(左)に目録を手渡す棚野理事長

安平町では及川町長(左)に目録を贈呈

上野北広島市長(右)に目録を贈る石橋常務理事

58PRACTICE 2019 Winter