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74 企業と人材 2013年9月号 教育スタッフ PLAZA 人事異動の2つの目的 ローカル社員や日本国内の外国籍社員は「人材育成 イコール研修」と認識をしている傾向が強いですが、 人材育成には「(eラーニングを含む)Off-JT研修」以 外に「OJT」や「異動」も含まれます。それぞれに特徴が ありますが、内容が「学習か実践か」、さらにいうと 習得する内容は「知識」、「技術」、「成果」いずれに該 当するかを、まずは整理して理解する必要があります。 ご質問の「異動」に関して、人事異動には2つの目 的があるとされています。 私は日本国内外で研修を行っていますが、人材育成 に関してはそれぞれの拠点で部分最適的に対応するの ではなく、いかに全体最適を見据えた「グローバル連 結の人材育成」を行っていくかが人材育成担当者に求 められています。第5回で紹介した「OJT」が、職場 における業務への「部分最適」を目指すというもので あるのに対し、海外人材育成における「異動」は事業 海外人材育成 日本企業のグローバル展開を組織・人材マネジ メントの側面から支援。政府関係機関の有識者 会議座長・委員、大学院講師なども務める。日 本語、英語、中国語の 3 カ国語でのインタラク ティブな研修をはじめ、組織・人材マネジメン トの領域において年間 100 回近くの講演・研修 を行う。日本・中国・シンガポール等を軸に異文 化人材マネジメントを通じた組織イノベーション 実現へのプロセスを提示した「違いを価値に変 える 6 段階理論」の普及に努めている。 こだいら たつや 海外人材育成における異動 グローバル人材戦略研究所 所長 ジェイエーエス(Japan Active Solutions) 代表取締役社長 小平達也 6 図表1 人事異動の目的 (注) 目的・機能 ポイント マッチング (職務や役割に人材を配置) 配置される人のもつ能力やスキルと、 その職務が必要とする人材要件の適合 キャリア開発 (人材としての価値を高める) どういう経験を、どの順番で、どのタ イミングでするか 当社では中期事業計画のなかでア セアン、中国をはじめ海外事業の強 化を予定しています。 研修のメニュー は一通り揃いつつありますが、正直なところそれ ぞれのプログラムを有機的に運用していくのはこ れからで、グローバル連結を踏まえた人事制度に ついては道半ばです。ただ、ビジネスの現場は 制度の完成を待ってはくれず、人事異動が喫緊 の課題となっています。ポイントを押さえた配置を するためには何に気をつければよいでしょうか。 人事異動にはマッチングとキャ リア開発の2つの目的があります。 駐在員、トレイニー、ローカル社員 それぞれの注意ポイントがあります。

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74 企業と人材  2013年9月号

教育スタッフP L A Z A

人事異動の2つの目的

 ローカル社員や日本国内の外国籍社員は「人材育成

イコール研修」と認識をしている傾向が強いですが、

人材育成には「(eラーニングを含む)Off-JT研修」以

外に「OJT」や「異動」も含まれます。それぞれに特徴が

ありますが、内容が「学習か実践か」、さらにいうと

習得する内容は「知識」、「技術」、「成果」いずれに該

当するかを、まずは整理して理解する必要があります。

 ご質問の「異動」に関して、人事異動には2つの目

的があるとされています。

 私は日本国内外で研修を行っていますが、人材育成

に関してはそれぞれの拠点で部分最適的に対応するの

ではなく、いかに全体最適を見据えた「グローバル連

結の人材育成」を行っていくかが人材育成担当者に求

められています。第5回で紹介した「OJT」が、職場

における業務への「部分最適」を目指すというもので

あるのに対し、海外人材育成における「異動」は事業

海外人材育成

日本企業のグローバル展開を組織・人材マネジメントの側面から支援。政府関係機関の有識者会議座長・委員、大学院講師なども務める。日本語、英語、中国語の3カ国語でのインタラクティブな研修をはじめ、組織・人材マネジメントの領域において年間100回近くの講演・研修を行う。日本・中国・シンガポール等を軸に異文化人材マネジメントを通じた組織イノベーション実現へのプロセスを提示した「違いを価値に変える6段階理論」の普及に努めている。

こだいら たつや

海外人材育成における異動

グローバル人材戦略研究所 所長ジェイエーエス(Japan Active Solutions) 代表取締役社長

小平達也

第 回6

図表1 人事異動の目的(注)

目的・機能 ポイントマッチング(職務や役割に人材を配置)

配置される人のもつ能力やスキルと、その職務が必要とする人材要件の適合

キャリア開発(人材としての価値を高める)

どういう経験を、どの順番で、どのタイミングでするか

 当社では中期事業計画のなかでアセアン、中国をはじめ海外事業の強化を予定しています。研修のメニュー

は一通り揃いつつありますが、正直なところそれぞれのプログラムを有機的に運用していくのはこれからで、グローバル連結を踏まえた人事制度については道半ばです。ただ、ビジネスの現場は制度の完成を待ってはくれず、人事異動が喫緊の課題となっています。ポイントを押さえた配置をするためには何に気をつければよいでしょうか。

 人事異動にはマッチングとキャリア開発の2つの目的があります。駐在員、トレイニー、ローカル社員それぞれの注意ポイントがあります。

Page 2: PRja-sol.jp/dwonload/qa_2013_06.pdf · 74 'Àq Py å Dø µ»¿Ñ P L A Z A Ä w mw è $ yé §çþ» Ô ºw vþ»x® P R ¯ çZ .¯q ÝÝ `oM ²U§MpbUz P Rtx¢®Få Çï¬ 0£$

教育スタッフP L A Z A

75企業と人材  2013年9月号

部門や全社における「全社最適」を目指すものです。

海外人材育成における異動の注意ポイント

●駐在員の異動における注意ポイント 駐在員同士の異動に際する意外な落とし穴は「引継

ぎ」です。引継ぎは知識移転といえる重要な行為であ

るものの、昨今では東京から博多に転勤するような感

覚で、上海やシンガポールに転勤するようになってお

り、引継ぎの時間が不十分なケースが多く見られます。

日本から赴任してきて1週間程度では、顧客への挨拶

まわり、社内監査の対象の理解といった最低限の引継

ぎだけで手いっぱいとなり、組織・人材マネジメント

についての引継ぎは行われていないのです。

 この結果、よくあるのが、駐在員により評価目線が

変わってしまうというトラブルです。任期期間中、ロー

カル社員である部下との摩擦を避け、実際よりも高い

評価をつけてしまいがちですが、前任者が帰任し、後

任者に変わると評価の認識の違いが顕在化し、トラブ

ルとなることもあります。これについては、組織・人

材マネジメントについての知識移転が“欠落している”

状態だといえます。できるだけ、前任者、後任者の重

なる期間を長くするなど、工夫が必要です。

●トレーニーの派遣における注意ポイント 育成目的で海外拠点に若手のトレーニー(訓練生)

を日本から派遣するケースが増えていますが、この点

も注意が必要です。出す側(日本本社)からすると、

グローバル人材の育成機会となりますが、受け入れ側

の現地法人からすると「たった数カ月程度来られても

正直なところ負担なだけだ」というコメントも多いの

です。せっかくのトレーニー制度を本社、現地法人、

本人三者の業績成果に結び付けるのであれば、期間満

了後、駐在員としての赴任を視野に入れたトレーニー

派遣とすべきでしょう。

●ローカル社員の異動における注意ポイント そもそもローカル社員の採用は日本における総合職

の採用とは異なり、特定の職務・ポジションをベース

とした有期雇用(ジョブ型雇用)が一般的で、いわゆ

る正社員というものは多くありません。したがって、

会社の都合による業務上の必要からくる異動自体、本

人たちからすると「想定外」になり、異動したがらな

い傾向があります。また、本社への逆駐在や地域統括

本社が進める地域内での異動に関しては各ローカル拠

点・事業部門にとっては優秀人材の定着を促進できる

というメリットがある一方、即戦力となる人材をグ

ループ内の別法人に引き抜かれてしまうという懸念も

はらんでいます。あくまでも自社のグローバル経営戦

略を踏まえた異動であるということを、丁寧に調整・

コミュニケーションを図っていくことが求められます。

(注) �守島基博著『人材マネジメント入門』(日本経済新聞出版社・2004年).pp.�133~138を参考に作成

異動

OJT

研修

eラーニング

実践

学習

効果

種類・特徴

知識

技術

成果

時間的・空間的な制約は少なく、一定期間内に 自 分 のペースで進めることができる。

非日常の環境 で の 実施。業務からは遮断される。

職場における業務への「部分最適」を目指す。

事業部門や全社における「全社最適」を目指す。

図表2 人材育成の種類と効果

構造

制度

調整

文化

配置

採用

育成

評価

人事領域経営領域

ローカル リージョナル

本社機能・海外法人

拠点間調整

グレード・人事データベース

理念浸透・風土改革

コンピテンシ―・外国人社員・採用ブランド形成・手法確立

国際間の配置・異動(海外赴任、逆駐在、三国異動)

処遇・福利厚生

語学研修・階層別研修・リーダーシップ研修・

海外トレーニー・異文化OJT

グローバル

ローカル

リージョナル

グローバル

事業戦略

事業計画

人事計画

組織構造

組織行動

図表3 グローバル経営と人事領域