production remote service providing new value for customers · 執筆者 中津 貞夫(sadao...

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特集 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 41 お客様への新たな価値提供 「プロダクションリモートサービス」 Production Remote Service Providing New Value for Customers プロダクションリモートサービスとは、富士ゼロッ クスが販売しているプロダクションプリンターをリ モートから監視することで、故障発生予測や故障が発 生した場合にリモートシステムで迅速な故障解析を 実施し、適切な修理作業を行うことで機械のアベラビ リティー向上を狙ったサービスである。本論文では、 プロダクションリモートサービスで提供している サービス内容の説明とそれを実現するための技術を 紹介する。 Abstract The production remote service is designed and operated by Fuji Xerox for its own production devices. The object of this service is to maximize the availability of the customer’s device. Fuji Xerox’s remote support center (RSC) monitors device status by using fault prediction and remote diagnostics technology. Upon detecting any trouble that occurred (or will occur) on the device, the RSC will provide quick and correct repair. This article describes the content of the production remote service and the technology used for the service. 執筆者 中津 貞夫(Sadao Nakatsu商品開発本部 システム企画部 System platform & Planning, Product development group【キーワード】 プロダクションリモートサービス、遠隔監視 Keywordsproduction remote service, remote observation

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Page 1: Production Remote Service Providing New Value for Customers · 執筆者 中津 貞夫(Sadao Nakatsu) 商品開発本部 システム企画部 (System platform & Planning, Product

特集

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 41

お客様への新たな価値提供 「プロダクションリモートサービス」 Production Remote Service Providing New Value for Customers 要 旨

プロダクションリモートサービスとは、富士ゼロッ

クスが販売しているプロダクションプリンターをリ

モートから監視することで、故障発生予測や故障が発

生した場合にリモートシステムで迅速な故障解析を

実施し、適切な修理作業を行うことで機械のアベラビ

リティー向上を狙ったサービスである。本論文では、

プロダクションリモートサービスで提供している

サービス内容の説明とそれを実現するための技術を

紹介する。

Abstract

The production remote service is designed andoperated by Fuji Xerox for its own production devices.The object of this service is to maximize theavailability of the customer’s device. Fuji Xerox’sremote support center (RSC) monitors device statusby using fault prediction and remote diagnosticstechnology. Upon detecting any trouble that occurred(or will occur) on the device, the RSC will providequick and correct repair. This article describes thecontent of the production remote service and thetechnology used for the service.

執筆者 中津 貞夫(Sadao Nakatsu) 商品開発本部 システム企画部 (System platform & Planning, Product development

group)

【キーワード】

プロダクションリモートサービス、遠隔監視

【Keywords】

production remote service, remote observation

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特集

お客さまへの新たな価値提供「プロダクションリモートサービス」

42 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

1. はじめに

昨今、IoT(Internet of Things)という言

葉をよく目にするようになったが、富士ゼロッ

クスにおいては、これに相当するEP-BBという

サービスを2008年から提供している。

このEP-BBサービスでは、複合機やプリン

ター内の各種センサー情報やカウンター情報を

インターネット経由で受信し、それを処理する

ことで、消耗品の自動手配、メーターカウント

の自動通知、故障発生時の修理依頼を自動で行

うなど、お客様による複合機・プリンターの日

常管理業務の負荷低減をめざしたものである。

機械が自動的に送信するデータのうち、たと

えばメーターカウントは、請求書を発行するた

めのシステムにそのまま転送されるが、診断

データを蓄積・分析することで、機械の故障発

生予測や消耗品や定期交換パーツの寿命予測を

行って、機械故障の発生や消耗品がなくなる前

に対応できるようにしている。

プロダクションリモートサービスは、この

EP-BBをベースに機械のアベラビリティー向

上を目的としたサービスを強化し、故障の未然

防止やその早期解決を図るサービスである。

2. プロダクションリモートサービス

の機能*1

プロダクションリモートサービスでは、機械

のアベラビリティーを向上させるために次に説

明するサービスを提供している。

2.1 リモート診断

2.1.1 故障発生の自動通知

故障が発生すると機械がリモートサポートセ

ンターに故障発生を自動通知する。

このとき、診断データを一緒に送付すること

で、担当カストマーエンジニア(CE)はお客様

先に行く前に故障診断結果を確認し、修理箇所

を特定してから訪問するので、これまでより修

復作業時間の短縮が可能となる(図1)。

*1 提供するサービスは、機種によって異なっている。本論

文では、VersantTM 2100 Pressにおけるサービス内容

を記述する

2.1.2 操作画面からの保守依頼

異音などのように機械が故障を自動検出でき

なかった場合は、故障発生の自動通知が行えな

いため、お客様自身が操作画面から“点検依頼”

または、“修理依頼”ボタンを押す(図2)。点

検依頼・修理依頼はリモートサポートセンターに

通知され、お客様に連絡(コールバック)を行う。

2.2 予防保全

機械から送られてくる診断データを基に故障

発生の可能性を予測し、担当カストマーエンジ

ニアに予防訪問の必要性を通知するので、故障

の未然防止を図ることができる。

故障発生に至っていないため、保守作業もお

客様業務に影響しないスケジュールで訪問し、

また、お客様先での作業準備が事前にできるの

で、保守作業による機械停止を最小限に抑える

ことができる(図3)。

図1 リモート診断の流れ The flow of remote diagnostics

図2 保守・修理依頼のUI表示例 The screen for requesting maintenance and repairs

図3 予防保全によるダウンタイムの低減 Preventive maintenance for reducing downtime

ダウンタイム

故障発生機械稼働

原因切分

交換作業

部品待ち

状況ヒアリング

後方支援

ダウンタイム

これまで(リモートがない)

プロダクションリモートご利用

担当CE

後方支援

予兆診断結果

ログ

機械稼働 機械稼働

リモートサポートセンター

ログ

CE移動

効果確認

交換作業

効果確認

原因確認

専用端末

リモートサポートセンター

故障診断分析結果

担当CE

後方支援

リアルタイム故障診断

アラート時の送付

リモートサポートセンター

専用端末

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特集

お客さまへの新たな価値提供「プロダクションリモートサービス」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 43

2.3 コールバック

故障が発生した場合、機械からアラートが自

動的に通知される。これを受け、リモートで状

況確認のうえ、お客様に連絡を行う。

電話による一次対応で解決できない場合は、

リモートサポートセンターからカストマーエン

ジニアを派遣する(図4)。

2.4 メーター自動検針

通常は、月に1回メーターカウントを往復は

がきなどで確認する必要があるが、はがきの返

信の遅れや、手書き文字の読み間違えなどで、

お客様に電話確認が必要となり、お客様の手を

煩わせる場合がある。

プロダクションリモートサービスが接続され

ている機械については、お客様の請求書必着日

から設定したメーター確認日に機械が自動的に

EPセンターにメーターカウントを通知するた

め、長期間機械の電源が切れている場合や、ネッ

トワークが接続されていない場合を除いて、

メーター確認のためにお客様の手を煩わせるこ

とはない。

2.5 オンラインサポート

プロダクションリモートサービスをご利用の

お客様に、お客様ごとの専用情報提供サイト「オ

ンラインサポート」を提供している。

このサイトでは、

お客様が利用している機器の利用状況閲覧

機器に関する保守(故障修理・点検)要請

当社からの各種報告書のダウンロード

コラボスペース

お客様から登録された要請の対応状況閲覧

他のお客様に導入した事例閲覧

消耗品配送状況の閲覧

当社からのお知らせ

などのサービスを提供している(図5)。

“各種報告書のダウンロード”のページでは、

色々な用紙に適した設定情報を提供しており、

ダウンロードすることができる。

3. サービスを実現するための技術

前述のサービスを提供するため、以下に示す

システムを開発し、現在も機能拡張を継続して

いる。

3.1 プロダクションリモートサービスの

構成

プロダクションリモートサービスは、以下の

4つの要素から構成される(図6)。

① 機械本体(デバイス)

メーター情報や診断データを必要に応じて

EPセンターに自動通知する。プロダクション

プリンターにおいては、診断データを充実し

たため、オフィス機と比べ診断データのサイ

ズを2.5倍に拡大している。また、機械の稼

働状況を定点観測するため、故障がない場合

でも定期的に診断データをEPセンターに通

知しているが、より正確な診断を行うため、

定期通信回数を最大5倍に増やすという強化

も行っている。なお、データは、機械のLAN

ポートから送信されるため、お客様側で追加

の通信装置は必要ない。

図4 コールバックの流れ The flow of a call-back to customers

図5 オンラインサポート画面例 The online support website

図6 プロダクションリモートサービス構成図 Overview of the production remote service

訪問

アラート

お客様リモートサポートセンター

担当CE

• 状況確認• アドバイス

未解決フォルト 発生

フォルト 発生

フォルト 発生

リモートサポートセンター

デバイス

HTTPS

インターネットEPセンター

Trace Quality Management

System

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お客さまへの新たな価値提供「プロダクションリモートサービス」

44 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

② EPセンター

インターネット経由で機械からの情報を集約

し、内容に応じてTQMS(Trace Quality

Management System)サーバーまたは業

務システムに転送する。

③ TQMSサーバー

診断データを解析することで不良箇所の特定

や、蓄積された診断データからパーツ寿命や

故障の発生を予測する。

④ 業務システム

メーター情報を元に請求書を発行するシステ

ムや、故障修理の時にカストマーエンジニア

を派遣する既存業務システムから構成される。

3.2 リモート診断

3.2.1 リモート診断ツール

機械から送られてきた診断データを解析し、

機械内で何が起きているかを示す1次診断結果

と、故障発生箇所と対応策を示す2次診断結果

をリアルタイムに表示する。

カストマーエンジニアは、お客様に訪問する

前に診断結果を参照することで、事前に修理手

順を決めることができる(図7)。

3.2.2 リモート画質診断

VersantTM2100 Pressにおいては、画質診

断のためのインラインセンサーが搭載されてお

り、お客様自身で画質自動調整を行うことがで

きる。しかし、画質自動調整機能では修復でき

ない場合、“送信ボタン”を押すことで、それ

までの画質診断・調整結果をEPセンターに通知

する。

カストマーエンジニアは、リモートで診断結

果を確認し、修理箇所の特定と修理手順を決め、

必要なパーツを準備したうえでお客様先に訪問

する。診断結果は、カストマーエンジニアが所

持しているタブレット端末で外出先でも確認で

きるため、カストマーエンジニアは効率的な保

守作業を行うことができる(図8)。

3.3 故障発生予測技術

機械からEPセンターに送信されてくるデー

タだけを用いた故障診断においては、一律のア

ルゴリズムで予測することは難しい。

そこで、故障モードと故障レベルに応じて、

以下の2象限に分けて、各々に適した故障予測

アルゴリズムを開発した(図9)。

3.3.1 Fail系発生回数による発生予測

障害の複数回発生により故障と認識される場

合は、エラーの発生回数と保守要請の頻度を比

較し、お客様が故障発生と認識する確率を予測

している。

この予測アルゴリズムでは、エラーコードご

とに故障発生を予測するため、修理訪問前に修

理手順と必要なパーツを用意することが可能と

図7 リモート診断ツール画面例

The remote diagnostic tool

図8 画質診断の流れ The flow of an image quality check

図9 故障の層別 Trouble categorization

訪問

担当CE

診断

結果

・事前確認・事前準備

画質テストチャート

※画像データは送信されません

専用端末

カストマーコンタクトセンター

EPセンター

④お客様のご要請に基づき

担当CEが伺います

①画質トラブル発生したときに、お客様がUI画面から自動調整機能または診断機能を実行するとそのときのログが記録されます。

③自動調整/画質解析結果ログ送信

②調整がうまくいかない場合、お客様の"送信ボタン"操作でログ送信をお願いいたします。

摩耗

突発

軽度 故障レベル

故障予測できない領域

Fail系発生回数と組み合わせた予測(Jam等)

データマイニングよる予測(画質等)

①②

故障モード

重度(機械停止)

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お客さまへの新たな価値提供「プロダクションリモートサービス」

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 45

なり、的確な修理作業を短時間で実施すること

ができる。

3.3.2 データマイニングによる発生予測

摩耗故障かつ故障発生時に重度の故障が発生

する場合は、特定の現象ごとに、故障に至る前

の定常状態のデータと故障発生時のデータ、現

物調査による定量化と故障予測式の検証から故

障予測式を構築し、算出された予測値に基づき的

確な修理作業を実施することができる(図10)。

3.4 定期交換パーツの寿命予測

一般的にパーツの寿命は、規定された条件下

における劣化の度合いで決定される。

しかし、実際の機械使用状況は千差万別であ

り、定期交換パーツの想定寿命を超えて使用可

能な場合もあれば、逆に商品開発時の想定より

も過酷な条件で使用された場合、想定寿命より

前に故障が発生してしまう場合もある。診断

データの中には、各パーツの摩耗状況を把握す

るための情報が含まれており、これをTQMS

サーバーにすべて蓄積し、個々の機械の利用状

況に即したパーツの寿命予測を毎日行うことで、

故障が発生する前にパーツ交換作業を実施する

ことができる。

3.5 セキュリティー

プロダクションリモートサービスでは、機械

が自動でデータを送信し、かつ、そのデータは

インターネットを経由してEPセンターに集約

される。このデータ集約のときの漏えい、損壊、

改ざんなどのリスクに対抗するため、次のよう

なセキュリティー対策を導入している。

3.5.1 機械個体認証の実施

機械の一台一台にユニークなクライアント証

明書を登録し、通信時に機械およびEPセンターが

正しい通信相手のみと通信することを確認する。

3.5.2 暗号化通知

プロダクションリモートサービスの通信自体

は、SOAP*2/XML*3をベースに独自に規定し

たフォーマットに従って行われるが、機械とEP

センターの間での漏えい・改ざんを防ぐため、

暗号化している。

3.5.3 通信の手順

プロダクションリモートサービスに関する通

信の起動は、必ず機械側からEPセンターに対し

て行う。逆にEPセンターから機械に対して通信

を起動することはない。

なお、EPセンター側から機械の設定情報の取

得などが必要となるときは、機械からEPセン

ターへの定期通信、または、機械からの故障発

生通知などの通信のときに、EPセンターからの

依頼をレスポンスの一部として機械が取り込む

ことで実現している(図11)。

3.5.4 EP通信集約サーバーソフトウェア

機械からEPセンターまでEnd to Endで暗号

化通信を行うため、お客様のネットワーク管理

者からどのようなデータを送信したのかのログ

データを閲覧・管理したいと要望されるときが

ある。こうした不正はないことをお客様自身で

確認できるように、EP通信集約サーバーソフト

ウェアを提供している。

このソフトウェアでは、機械とEPセンター間

通信の暗号化をいったん解除し、その通信内容

を記録したあと、再度暗号化してEPセンターに

*2 SOAP(Simple Object Access Protocol):MLをベー

スとしたメッセージ交換のためのプロトコル *3 XML(Extensible Markup Language):文書やデータの

意味や構造を記述するためのマークアップ言語のひとつ

図10 データマイニングによる故障発生予測 Trouble prediction with data mining

故障発生

走行枚数

故障原因D

ata

HTTS(SSL)

EPセンターインターネット

EPセンター側からのアクセスは行わない

×①コマンド

②レスポンス

図11 通信手順 Communication protocol

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お客さまへの新たな価値提供「プロダクションリモートサービス」

46 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

通知することができる。お客様は、必要に応じ

てこの通信内容の記録を確認し、不正な通信を

していないことを確認することができる。なお、

このソフトウェアは、ISO15408を取得している。

4. おわりに

EP-BBは2008年にサービスをスタートし

て、主にオフィス向けに順次サービス内容と

サービス品質の改善を行ってきた。

プロダクションリモートサービスについては、

機能強化をしたうえで2010年から正式にサー

ビスをスタートし、お客様の業務改善に貢献し

ている。現在は機械稼働のアベラビリティー向

上を狙ったサービス強化を行っているが、今後

はその前工程・後工程業務効率改善メニューの

検討を行っていきたい。

5. 商標について

Versantは、米国ゼロックス社の登録商標ま

たは商標です。

その他の商品名、会社名は、一般に各社の商

号、登録商標または商標です。

筆者紹介

中津 貞夫 商品開発本部 システム企画部に所属

専門分野:プロジェクトマネジメント