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マンホ Prologue 01 6 序 章 Prologue 進化する路上のとびら

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マンホPrologue 01

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序 章 Prologue

進化する路上のとびら

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ール蓋

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01

Advancing Manhole Cover And Frame On The Ground

私たちの生活は都市の地下空間に網の目のよう

に張りめぐらされたライフラインの上で高度な

都市機能が支えられている。上下水道や電力、

ガスといった供給処理施設と電信電話などの電

気通信施設がその主な構成要素だ。私たちが安

全で快適な社会生活を営むことができるのも、

高度な都市機能が実現できるのも、これらのラ

イフラインに大きく依存していることを忘れて

はならない。しかし、そんな重要な役割を果た

しているにもかかわらず、その大部分は地下に

作られているため普段はほとんど目にすること

はない。その中で唯一、地上に存在し、地下の

ライフラインを守っているのが様々な種類のマ

ンホール鉄蓋だ。

Editorial Committee

p h o t o : S a t o H i d e a k i

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かつてマイクロソフト社の入

社試験に「マンホールの蓋はな

ぜ丸いのか?」という試験問題

が出たことがある。たしかにマ

ンホールの蓋といえば丸い形を

イメージする。それだけ丸い蓋

の歴史が長く、世界中に普及し

ているからだろう。

マンホールを日本語に訳すと

「人孔」――地下に埋設された施

設に「人が出入りしやすい丸い

穴」がマンホールの基本形であ

る。ところが実際には大小さま

ざまなマンホールがあり、とき

には方形のマンホールもあるた

め、現在は「人孔」という言葉が

使われることは少なくなってい

る。一般的に、鉄の蓋でカバー

されている路上の穴はマンホー

ルと呼ばれ、蓋そのものを指し

てマンホールと呼ぶこともある。

ちなみに、「マンホールの蓋

はなぜ丸いのか?」の答えは、

丸い蓋なら直径が一定であり、

たとえ蓋がずれて角度が変わっ

ても穴に落ちてしまうことはな

いからである。

マンホールの蓋は、英語だと

「マンホールカバー」であり、

穴を覆う蓋を意味している。し

かしマンホールは単なる穴では

ない。地下に張りめぐらされた

ライフラインへの出入り口であ

り、その扉が路上に設けられて

蓋という形をとっているのであ

る。その意味で言えば、マンホ

ールの蓋は「路上の扉」である

と同時に、足下にある危険な穴

を覆う蓋である。

つまり、マンホールの蓋は

「路上から見た顔」と「地下か

ら見た顔」の二面性を持ってい

る。そんなマンホール蓋は機能

的には二律背反の課題も抱えて

いる。歩行者にとって危険な穴

を覆う蓋はしっかり閉まってい

なければならないし、必要なと

きには作業者が開けやすくなけ

ればならないからだ。

私たちがマンホールの蓋に尽

きせぬ興味を抱くのは、それが

単なる穴を塞ぐ蓋ではなく、地

下への出入り口をカバーするも

のだからである。蓋を見て、な

ぜ路上にあるのだろう、下はど

うなっているのだろうと調べて

みたくなり、マンホールの蓋を

開けてみたい、中を覗いてみた

い、中に入ってみたいと思う人

も少なくない。

「グラウンドマンホール」って何?

都市で暮らし、活動する人々

の日常の生活に欠かせない上下

水道や電気、通信、ガスなどの

社会基盤は「ライフライン」と

呼ばれ、国や自治体に管理され

ている道路(公道)の下に公共

施設として埋設されている。

これらライフラインの維持・

補修をする出入り口として路上

に開けられた穴がマンホールと

呼ばれているわけだが、注意し

て路上を眺めるとその数の多

さ、種類の多さにあらためて驚

かされる。

たとえば下水道のマンホール

蓋は全国に約1100万個もあっ

て、蓋には自治体の名前やデザ

インとともに汚水用、雨水用、

あるいは合流式などの表示がさ

れている。また上水道であれば

蓋に消火栓とか止水栓とかが表

記され、その下にどんな種類の

バルブが埋設されているかが一

目でわかるようになっている。

電力、ガス、通信の蓋には管理

している会社の名前が記されて

いるし、信号機の付近には警察

の警の字が入っているマンホー

ル蓋もある。

ただし、同じライフラインが

埋設されていてもビルや住宅な

ど民有地のマンホール蓋は建築

用マンホール蓋と呼ばれ、公共

施設である公道上のマンホール

とは区別されている。また、作

業用に開けられた小さい穴はピ

ット、また方形の穴はハンドホ

ールなどと呼ばれることもあ

る。

そして面白いことに、数多い

マンホール蓋の中で下水道用マ

ンホール蓋だけは特別に「グラ

ウンドマンホール」(地上のマ

ンホール)と呼ばれている。

なぜなのか?

その理由は、下水道用マンホ

ール蓋は単なる「路上の穴を覆

う蓋」ではなく、「道路の一部」

として全国的に統一された強度

基準を満たした規格品だからで

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周囲の景色に溶け込んだマンホール蓋それは地下の世界への入り口でもある

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ある。「グラウンドマンホール」

とは、トラックなどの重い車両

が通過してもガタつかず、割れ

ない、耐久性のあるマンホール

蓋であり、その技術水準の高さ

を示すネーミングなのである。

マンホール蓋のメーカー団体

(日本グラウンドマンホール工

業会=JGMA)では、道路橋

と同等の設計基準を適用した下

水道用マンホール蓋を「路上の

橋」と呼んで誇りにしている。

グラウンドマンホールは、だ

いたい直径が60cmに統一され

ている鋳鉄製の丸い蓋である。

それはダクタイル鋳鉄という特

殊合金でできているため、普通

鋳鉄(ねずみ鋳鉄)より軽いう

えに強度がある。受枠にピタッ

とおさまって蓋がガタつかない

急勾配受けを採用している。専

用の工具でなければ誰にも勝手

には開けられない。25tトラッ

クの荷重にも耐えられるリブ

(変形防止の補強材)が入って

いて高強度である。マンホール

内部の空気圧や水圧で蓋が飛散

しないように蝶番やロックがつ

いていること等々。丸くて小さ

い形の蓋ではあっても「橋」と

同レベルか、それ以上の技術力

で裏付けられているという。

「世界のどこを見てもこれほ

どレベルの高い技術を持つマン

ホール蓋はありません」という

のが日本グラウンドマンホール

工業会のプライドだ。

つまり、グラウンドマンホー

ルという名前には、60cmの道

路空間に架ける橋として橋梁技

術に匹敵する技術力を磨いてき

た自負心、そしてマンホール本

体であるコンクリート構造物と

は別に、独自の技術的な進化を

なし遂げてきた自信、さらに

人々の安全を守り、よりよい生

活環境を維持しているという公

共的な使命感もこめられている

のである。

では、どこがどのように進化

してきたのか、なぜ世界一の技

術だと言えるのだろうか? 路

上からただ眺めているだけでは

わからないマンホール蓋の不思

議や秘密に迫ってみよう。

世界一の技術を誇る日本のマンホール蓋

マンホール蓋はその地域の気

候・環境・風土・生活文化と切

っても切り離せない社会資産で

ある。とくにわが国は、東アジ

アの温帯モンスーン地域に属し

ていて、梅雨や台風など前線や

低気圧の影響で一時的に大量の

降雨に見舞われることが多い。

2004年のわが国を象徴する漢字

として「災」が選ばれたのは、

この年に、未曽有の集中豪雨、

史上最多の台風上陸、新潟中越

地震という大災害をこうむった

からである。

日本の地形は急勾配であり、

川の多くは流域面積が小さく、

海に流れ込むまでの距離も短い

ため、集中的な降雨があると川

は氾濫する。そうした集中豪雨

が洪水をもたらし、土石流、土

砂崩れ、堤防決壊などを引き起

こすわけだが、川の下流部にあ

る都市部でいちばんこわいのは

地下を流れる川、下水道の氾濫

である。

1998年の集中豪雨のとき、冠

水して路面が見えない道路で、

増水した下水の圧力で蓋が外れ

たマンホールに歩行者が転落し

て下水に巻き込まれ、処理場ま

で流されて死亡するといういた

ましい事故が発生した。下水道

普及の初期の過程で、マンホー

ル蓋はただ穴を覆うだけという

時代があったが、そういう蓋は

今も全国に数多く残っているの

である。

台風や集中豪雨によって下水

道が急に増水すると、その空圧

や水圧のすさまじいパワーは、

鋳鉄製で40~80kgという重さの

マンホール蓋を飛散させること

がある。マンホール蓋を単なる

穴を塞ぐカバーと考え、旧型の

マンホール蓋をそのまま使用し

ていると、通常は考えられない

事故につながる可能性は決して

小さくはない。

日本グラウンドマンホール工

業会によると、わが国の下水道

用マンホール蓋は、日本の経済

成長と都市化の進展に歩みを合

わせて進化してきたそうであ

る。

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深さ42mの東京都大田区のマンホール下の巨大な地下空間下から見上げるとエッシャーの絵のようだ

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