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インドネシアの投資環境 116 資金調達 第18章 日系企業の資金調達の現状 1. 現地に進出している日系企業は現地通貨(ルピア)または外貨(ドル、円)を民間地場銀行、 国営商業銀行、外国銀行支店、外資系合弁銀行等から借り入れることができる。2016 10 月に 実施した現地ヒアリングでは、親会社からの出資(増資等)や親会社またはグループ会社からの 借入(親子ローン、CMS)が主な資金調達先とのことであった。また、2014 10 月にインドネ シアでは一般事業法人の外貨建対外債務規制が通達されており、一定基準に該当する場合はイン ドネシア中央銀行への報告と外貨建債務のヘッジ等を義務付けられることとなった(詳細は次ペ ージ「2. 資金調達に係る規制」参照)。 尚、社債での資金調達については、一部のノンバンク企業を除けば実施されていない。また、 株式公開(株式上場)での資金調達についても、資本政策の観点から実施に消極的な声が多かっ た。尚、進出済みの日系銀行の現地拠点は図表 18-1 を参照のこと。 図表 18-1 日系銀行の現地拠点リスト (注) 各行の記載順は総資産額による。各拠点の記載順は各社ウェブサイトに準ずる。 (出所)各社ウェブサイトより作成 資金調達に係る規制(外部格付取得義務等) 2. インドネシア政府はアジア通貨危機の際、ルピア下落により対外債務が大幅に増価した苦い経 験を踏まえ、急増する外貨建て債務の規制に乗り出している。具体的には、2014 10 月インド ネシア中央銀行が、一般事業法人に対する外貨建対外債務に関する規制(中銀通達 16/20/PBI/2014を、同年 12 月に、この規制を一部改訂した規制(中銀通達 16/21/PBI/2014)と詳細を定めた Circular 銀行名 拠点名 都市圏 THE BANK OF TOKYO MITSUBISHI UFJ LTD 三菱東京UFJ銀行 ジャカルタ支店 ブカシ出張所 MM2100工業団地出張所 カラワン出張所 スンテル出張所 チェンカレン出張所 チカンペック出張所 コタデルタマス出張所 スルヤチプタ工業団地出張所 スラバヤ出張所 スラバヤ バンドン出張所 バンドン PT BANK SUMITOMO MITSUI INDONESIA インドネシア三井住友銀行 本店(ジャカルタ) ジャカルタ PT BANK MIZUHO INDONESIA インドネシアみずほ銀行 本店(ジャカルタ) ジャカルタ PT BANK RESONA PERDANIA りそなプルダニア銀行 ジャカルタ本店 チカラン出張所 カラワン出張所 MM2100出張所 デルタマス出張所 スルヤチプタ出張所 バンドン支店 バンドン スラバヤ支店 スラバヤ ジャカルタ ジャカルタ

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インドネシアの投資環境

116

資金調達 第18章

日系企業の資金調達の現状 1.

現地に進出している日系企業は現地通貨(ルピア)または外貨(ドル、円)を民間地場銀行、

国営商業銀行、外国銀行支店、外資系合弁銀行等から借り入れることができる。2016 年 10 月に

実施した現地ヒアリングでは、親会社からの出資(増資等)や親会社またはグループ会社からの

借入(親子ローン、CMS)が主な資金調達先とのことであった。また、2014 年 10 月にインドネ

シアでは一般事業法人の外貨建対外債務規制が通達されており、一定基準に該当する場合はイン

ドネシア中央銀行への報告と外貨建債務のヘッジ等を義務付けられることとなった(詳細は次ペ

ージ「2. 資金調達に係る規制」参照)。

尚、社債での資金調達については、一部のノンバンク企業を除けば実施されていない。また、

株式公開(株式上場)での資金調達についても、資本政策の観点から実施に消極的な声が多かっ

た。尚、進出済みの日系銀行の現地拠点は図表 18-1 を参照のこと。

図表 18-1 日系銀行の現地拠点リスト

(注) 各行の記載順は総資産額による。各拠点の記載順は各社ウェブサイトに準ずる。 (出所)各社ウェブサイトより作成

資金調達に係る規制(外部格付取得義務等) 2.

インドネシア政府はアジア通貨危機の際、ルピア下落により対外債務が大幅に増価した苦い経

験を踏まえ、急増する外貨建て債務の規制に乗り出している。具体的には、2014 年 10 月インド

ネシア中央銀行が、一般事業法人に対する外貨建対外債務に関する規制(中銀通達 16/20/PBI/2014)

を、同年 12 月に、この規制を一部改訂した規制(中銀通達 16/21/PBI/2014)と詳細を定めた Circular

銀行名 拠点名 都市圏

THE BANK OF TOKYO MITSUBISHI UFJ LTD 三菱東京UFJ銀行 ジャカルタ支店

ブカシ出張所

MM2100工業団地出張所

カラワン出張所

スンテル出張所

チェンカレン出張所

チカンペック出張所

コタデルタマス出張所

スルヤチプタ工業団地出張所

スラバヤ出張所 スラバヤ

バンドン出張所 バンドン

PT BANK SUMITOMO MITSUI INDONESIA インドネシア三井住友銀行 本店(ジャカルタ) ジャカルタ

PT BANK MIZUHO INDONESIA インドネシアみずほ銀行 本店(ジャカルタ) ジャカルタ

PT BANK RESONA PERDANIA りそなプルダニア銀行 ジャカルタ本店

チカラン出張所

カラワン出張所

MM2100出張所

デルタマス出張所

スルヤチプタ出張所

バンドン支店 バンドン

スラバヤ支店 スラバヤ

ジャカルタ

ジャカルタ

第 18 章 資金調達

117

Letter(16/24/DKEM)を発表している。

これによると、外貨建対外債務(外貨建てオフショアローン)を保有する一般事業法人は、①

ヘッジ比率規制、②流動性比率規制、③外部格付取得義務という 3 つの規制の対象となる。規制

概要は 2017 年 1 月にかけて①~③の規制が段階的に導入される計画であり、2017 年 4 月時点で

の具体的な規制内容は、①ヘッジ比率規制では、四半期末時点で(1)3 ヵ月以内、(2)3 ヵ月超

6 ヵ月以内に期日の到来する外貨建債務が外貨建債権を 10 万米ドル以上超過する場合、この超過

部分の少なくとも 25%をヘッジすること、②流動性比率では、四半期末時点で 3 ヵ月以内に期日

が到来する外貨建債務残高に対し、その残高の 70%にあたる外貨建債権残高保有が義務付けられ

ること、③外部格付取得義務では、外貨建対外調達を行う場合、事前に「BB-」以上の外部格付取

得が義務付けられること、である。

外貨建債務とは、基準となる四半期末から(1)3 ヵ月以内、(2)3 ヵ月超 6 ヵ月以内に決済期

日の到来する外貨建債務で、外貨建調達の元利金、外貨建買掛金、外貨売ルピア買為替予約、ス

ワップ、オプション取引などが含まれる。

一方、外貨建債権とは、現金、当座預金、普通預金、定期預金、市場売買可能な証券、基準と

なる四半期末から(1)3 ヵ月以内、(2)3 ヵ月超 6 ヵ月以内に決済期日の到来する外貨建債権、

基準となる四半期より前に約定され、四半期末から(1)3 ヵ月以内、(2)3 ヵ月超 6 ヵ月以内に

決済期日の到来する外貨買ルピア売為替予約、スワップ、オプション取引などが該当する。更に、

過去 1 暦年における輸出比率が売上高の 50%を超える輸出企業については、在庫も参入が可能と

なる。その場合、参入可能となるのは完成品では 100%、仕掛品では 50%、原材料では 25%とな

り、治具や付属品は計算に含まれない。

尚、①ヘッジ比率規制では、ヘッジはインドネシア国内の銀行(邦銀の在インドネシア支店を

含む)と行うこととされている。尚、インドネシア国外の銀行とヘッジ取引を行った場合は外貨

建資産と認識せず、ヘッジ比率や流動性比率の計算にも含めない。

また、③外部格付取得義務では、格付有効期限は取得日から 2 年間とされている。格付会社は

インドネシア国内の格付機関(PEFINDO、ICRA など)も国外の格付機関(JCR、R&I、Moody’s、

S&P、Fitch など)も同等に扱われる。ちなみに新規格付取得には1件あたり百万円以上の費用が

必要とされ、格付維持にも費用がかかるだけでなく、BB-以上の格付取得は多くの中堅・中小企業

にとって困難でもある。このように③外部格付取得義務は、本邦中堅・中小企業のインドネシア

子会社のオフショアローンの調達に大きな制約となることから、国際協力銀行では、国際機関等

の保証が付与された債務の借入は外部格付取得義務の例外とされる条項を利用して、中堅・中小

企業向けに、外貨建てオフショアローンによる長期資金調達を可能とする保証付借入スキームを

2017 年 3 月から実施している(貸付実績あり)。

この他、「同一グループ向けの貸出は資本金の 25%以内、同一企業向けでは同 20%以内」とす

る銀行の 1 企業グループあたりの大口融資規制(Legal Lending Limit:LLL)も導入されている。

商業銀行からの借入 3.

現地ヒアリングでは、日系企業の場合、材料の調達や設備投資をドルで行う企業を中心に、ド

ル建ての借入が多いようだ。一方、ルピア建ての借入は、運転資金やバイクの販売金融会社等で

インドネシアの投資環境

118

ニーズが高い。ルピア建てであっても設備投資向けに最長 7 年の借入が可能だが、多くの場合 3

~5 年となっている。

インドネシアでは、銀行の貸出金利の指標として、オーバーナイト資金の吸収オペに用いられ

る FASBI(Fasilitas Simpanan Bank Indonesia)レートが参照されている。従来、中銀の貸出利率で

ある BI レートも参照されたが、2011 年頃からインターバンク金利が FASBI との連動を強め、BI

レートから乖離する傾向が目立ってきた。企業が短期借入をする際には、FASBI レートが基準と

なり、信用力に応じてスプレッドが上乗せされる。

中央銀行が公表する企業向けの最優遇貸出金利(2016 年 11 月)では、邦銀 4 行の金利水準は

商業銀行の平均(10.9%)に比べ、2.4%から 2.9%低い(図表 18-2)。これは、規模の小さい地場

銀行が、預金獲得のため高めの預金金利を設定した上、マージン確保を確保するため貸出金利を

高めに設定することに理由があるようだ。但し、実態の貸出金利を商業銀行間で比較すると、ド

ル、ルピアともに邦銀と地場銀行との差が縮小してきたとの声がある。従来は邦銀の信用力がイ

ンドネシア地場銀行に対して相対的に高く、特にドル調達コストに優位性があったが、地場銀行

も国際調達力を強め差が小さくなったものと思われる。また、ルピアの調達コストについては、

地場銀行は巨額の預金を背景に安く長期の調達が可能となっており、邦銀が外貨を元手にスワッ

プを掛けても対抗が難しくなりつつあるとの声も聞かれた。

インドネシアの借入期間は総じて短い。売掛金も買掛金もサイトが 1 ヵ月程度であるため、借

入期間も 7 日から 1 ヵ月の運転資金のニーズが多く、6 ヵ月を超える資金ニーズは少ない。設備

導入に伴う長期借入に関しても、5 年以下が殆どのようである。

図表 18-2 商業銀行の企業向け最優遇貸出金利(Prime Lending Rate)

(注) 2016 年 11 月時点 (出所)Bank Indonesia より作成

銀行名 金利(%) 銀行名 金利(%)

1 THE ROYAL BANK OF SCOTLAND N.V. 5.10 26 PT BANK CIMB NIAGA, Tbk 10.00

2 BANK OF CHINA LIMITED 6.00 27 THE HONGKONG AND SHANGHAI BANKING CORP 10.00

3 JP. MORGAN CHASE BANK, N.A. 7.08 28 PT BPD SULAWESI UTARA 10.00

4 PT BPD SULAWESI TENGGARA 7.21 29 PT BPD NUSA TENGGARA BARAT 10.08

5 BANK OF AMERICA, N.A 7.30 30 PT. BANK AGRIS 10.15

6 BPD YOGYAKARTA 7.54 31 PT BPD SUMATERA UTARA 10.16

7 THE BANK OF TOKYO MITSUBISHI UFJ LTD 7.95 32 PT BANK MANDIRI (PERSERO), Tbk 10.25

8 PT BANK MIZUHO INDONESIA 8.00 33 PT BANK NEGARA INDONESIA (PERSERO), Tbk 10.25

9 PT BPD JAWA TENGAH 8.04 34 PT BANK INTERNASIONAL INDONESIA, Tbk 10.25

10 PT BANK BNP PARIBAS INDONESIA 8.04 35 PT BPD JAWA BARAT DAN BANTEN, Tbk 10.31

11 PT BANK RESONA PERDANIA 8.25 36 PT BANK JASA JAKARTA 10.32

12 PT BANK SUMITOMO MITSUI INDONESIA 8.45 37 PT BANK RAKYAT INDONESIA (PERSERO), Tbk 10.50

13 PT BPD BENGKULU 8.70 38 PT BANK DANAMON INDONESIA, Tbk 10.50

14 PT ANZ PANIN BANK 8.83 39 PT BANK OCBC NISP, Tbk 10.50

15 CITIBANK NA 9.00 40 PT BPD DKI 10.50

16 PT BANK HANA 9.00 41 PT PAN INDONESIA BANK, Tbk 10.58

17 PT BANK DBS INDONESIA 9.09 42 PT BPD NUSA TENGGARA TIMUR 10.60

18 PT.  BPD JAWA TIMUR 9.24 43 THE BANGKOK BANK COMP. LTD 10.64

19 DEUTSCHE BANK AG. 9.25 44 PT BPD SULAWESI SELATAN DAN SULAWESI BARAT 10.67

20 PT BPD JAMBI 9.33 45 PT BANK PERMATA, Tbk 10.75

21 STANDARD CHARTERED BANK 9.43 46 PT BANK UOB INDONESIA 10.75

22 PT BANK CTBC INDONESIA (d/h PT Bank Chinatrust Ind 9.64 47 BPD KALIMANTAN BARAT 10.83

23 PT BANK CENTRAL ASIA, Tbk 9.75 48 PT BANK AGRONIAGA, Tbk 10.87

24 PT BPD SUMATERA BARAT 9.75 49 PT BANK EKONOMI RAHARJA, Tbk 10.90

25 PT BPD BALI 9.77 50 PT BPD PAPUA 10.96

第 18 章 資金調達

119

証券・債券市場からの資金調達 4.

インドネシアでは、外国企業の現地法人であっても株式市場や債券市場から資金調達も可能で

ある。しかし、実際に資金調達の場としてこれらの資本市場を利用している日系企業は、ファイ

ナンス事業等を営む一部の企業に留まっている。現地子会社の経営を日本(親会社)でコントロ

ールすることが好まれることに加え、株式の公開に際しては上場審査の他に上場後も財務諸表の

提出や開示等の義務が課せられるため、日本の親会社からみた現地会社の株式上場に対するイン

センティブは大きくないと考えられる。

ジャカルタ証券取引所に上場している日系企業の例を挙げると、1993 年にはマンダム(化粧品

等の製造・販売)が新規公開し、1994 年には住友電工(電力ケーブルの製造・販売)が既上場企

業に資本参加する形で、また 2009 年には大正製薬(OTC 医薬品等の製造・販売)が既上場企業

を買収(2009 年)し、インドネシア子会社がジャカルタ証券取引所に上場している。また、2015

年には、地場シナルマスグループとの合弁で GIIC 工業団地を開発する双日の関連会社が新規に上

場した。

債券市場についても、流動性が低いことやルピア建ての調達金利が高いために、これまでの活

用例は少なかった。但し、2011~12 年にかけ Fitch や Moody’s によるインドネシアの格付けが投

資適格に引き上げられたことも、現地債券発行に追い風となった(2017 年 5 月には S&P もインド

ネシア格付けを投資適格に引き上げた)。現在、現地商業銀行が積極的に手掛けていない中長期(5

~10年)の資金ニーズに対し、社債がその資金調達手段として検討されるケースも出てきている。

日系企業の社債の発行状況については、住友商事の子会社でオートファイナンス事業を営む PT

Summit Oto Finance、PT Oto Multiartha及び丸紅グループが 40%を出資するPT Surya Artha Nusantara

Finance がインドネシア・ルピア建ての社債を発行している。また、2016 年にはジャックスが 40%

を出資する関連会社が CGIF 保証を利用して 3,000 億ルピア(約 26 億円)の 3 年物社債を発行し

た。インドネシアの上場債券のプライシングは、基本、国債のイールド・カーブを基に信用力に

応じたスプレッドが考慮されて決まる。但し、流通市場における流動性は依然として低い。

図表 18-3 インドネシア国債金利の期間構造(イールド・カーブ)

(出所)Bloomberg より作成

5%

6%

7%

8%

9%

0 5 10 15 20 25 30

(残存年限)

2017/1/6