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林野庁補助事業 平成 28 年度途上国森林減少等要因影響分析調査事業
REDD+のための
計画マニュアル ―持続的な森林保全活動を目指して―
公益財団法人国際緑化推進センター
コミュニティ
ベネフィットシェアリング
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内容
第 1 章:はじめに ............................................................................................................................................... 3
1-1.本マニュアルの目的 ................................................................................................................................. 3
1-2.REDD+プロジェクトの森林保全インセンティブ ....................................................................... 4
1-3.マニュアルのスコープ ............................................................................................................................ 6
1-4.本マニュアルの構成 .............................................................................................................................. 11
第 2 章:REDD+プロジェクト活動の計画 ............................................................................................ 13
2-1.REDD+プロジェクトの住民参加と国際的な経緯 .................................................................... 13
2-2.住民参加型の類型 ................................................................................................................................... 14
2-2-1.住民参加型の 6 つの類型 ......................................................................................................... 14
2-2-2.REDD+プロジェクトの住民参加型手法 ............................................................................. 17
2-3.REDD+の住民参加型計画のメリット ............................................................................................ 20
第 3 章 経済的な森林保全インセンティブに配慮した活動計画 ........................................... 22
3-1. イントロダクション ......................................................................................................................... 22
3-1-1.活動計画のプロセス ................................................................................................................... 22
3-1-2.REDD+プロジェクトによる経済的な利益と損失 .......................................................... 23
3-1-3.活動計画に必要な作業 ............................................................................................................... 26
3-2.経済的な森林保全インセンティブの評価 .................................................................................. 28
3-2-1.ステップ1:活動アイテムの特定 ...................................................................................... 29
3-2-2.ステップ 2:利益の算出 ........................................................................................................... 30
3-2-3.ステップ 3:利益・機会費用の算出 .................................................................................. 31
3-2-4.ステップ 4:比較分析 ............................................................................................................... 35
3-2-4.データ収集方法 ............................................................................................................................. 37
3-3.改善策の作成 ............................................................................................................................................. 39
3-3-1.イントロダクション ................................................................................................................... 39
3-3-2.改善策の作成 .................................................................................................................................. 42
3-4.経済的な森林保全インセンティブに配慮した活動の決定 ................................................ 54
3-4-1.イントロダクション ................................................................................................................... 54
3-4-2.経済的な森林保全インセンティブに配慮した活動の決定 ...................................... 56
第 4 章:非経済的な森林保全インセンティブに配慮した計画 ................................................ 63
4-1.イントロダクション .............................................................................................................................. 63
4-1-1.非経済的な森林保全インセンティブとは ........................................................................ 63
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4-1-2.計画のプロセス ............................................................................................................................. 64
4-2.非経済的な森林保全インセンティブの把握 ............................................................................. 65
4-2-1.非経済的な森林保全インセンティブ ................................................................................. 65
4-2-2.非経済的な森林保全インセンティブの把握 ................................................................... 68
4-2.非経済的な森林保全インセンティブに配慮した計画 .......................................................... 70
参考文献 ................................................................................................................................................................ 74
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第 1 章:はじめに
1-1.本マニュアルの目的
REDD+は、途上国の森林減少・劣化を抑制し、温室効果ガスの排出削減を促進する仕
組みの一つとして期待されている。途上国の森林減少・劣化の主なドライバーは、企業
による大規模農園や鉱山開発、地域住民による農地開発などである。REDD+プロジェク
トの実施は、そのような土地利用の変更や制限を伴うため多様なステークホルダーの経
済活動に影響を与える可能性がある。
特に、地域住民による焼畑農業など生計活動が森林減少・劣化のドライバーとなって
いる場合には、REDD+プロジェクトが地域住民の収入を減少させるなど大きな影響を与
えることが考えられる。また、生活のために再び森林が焼畑農地へと転換されるなど反
転活動のリスクも大きい。このような REDD+活動によるマイナスの影響が予想されるな
かで、いかに地域住民を引き込み持続的に森林保全を行うかが大きな課題となっている。
また、これまで森林保全活動を続けてきた地域住民に対しては、その活動を継続するよ
うに働きかけることが重要である。
そのためには、REDD+による地域住民への影響を明らかにすること、それらの影響に
基づき地域住民が森林を保全することに対してインセンティブを持つように REDD+活動を計画すること、また、それらについて理解と合意を得ることが必要である。これは、
社会セーフガードへの対処や反転活動の抑制に加えて、REDD+プロジェクトを円滑かつ
持続的に実施することにもつながることが期待される。
本マニュアルは、そのような REDD+活動における地域住民の森林保全インセンティブ
に配慮した活動計画の手法と合意形成手法について解説する。その際、経済的なインセ
ンティブと非経済的なインセンティブの両面に着目する。地域住民が REDD+プロジェク
トによって経済的なマイナス影響を受ける場合には、経済的なアプローチは非常に重要
である。実際に、多くの REDD+プロジェクトでは、生計向上プログラムや代替生計プロ
グラム、炭素クレジットの分配等の経済的な便益が発生するプロジェクトを行い、地域
住民の経済的なインセンティブを喚起している。一方で、森林の社会文化的機能や森林
生態系サービスなどの非経済的な森林便益、法規制による森林利用の制限など、非経済
的な森林保全インセンティブも地域住民は持っていると考えられる。その様な非経済的
な森林保全インセンティブも含めて、地域住民が持つ多様な森林保全インセンティブに
配慮した REDD+プロジェクトの活動計画について、解説する。
本マニュアルが、REDD+プロジェクト事業者のプロジェクト設計に活かされ、地域住
民の森林保全インセンティブの向上、ひいては、REDD+プロジェクトの円滑かつ持続的
な推進に貢献することができれば幸いである。
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1-2.REDD+プロジェクトの森林保全インセンティブ
REDD+プロジェクトにおける森林保全インセンティブとは、森林減少・劣化活動か
ら森林保全活動への変化を促す要因、もしくは、森林保全活動の継続を促す要因のこと
を指し、経済的な価値に換算可能なものと換算不可能な非経済的なものの 2 種類がある。
実際のプロジェクト現場ではコミュニティが持つ森林保全インセンティブは経済的な
ものと非経済なものは複雑に絡み合っており不可分であるが、本マニュアルではそれら
を 2 つに分けて解説する。
経済的(MONETARY)な森林保全インセンティブ
経済的(monetary)な森林保全インセンティブとは、森林保全活動を促す金銭的な要
因である。具体的には、代替生計手段や生計向上策による収入、炭素クレジット分配、
補償金の分配など REDD+プロジェクトによって直接的に得られる利益に加えて、薪炭材、
キノコなど森林保全の結果として得られる林産物、森林生態系サービス支払い(以下、
PFES:Payment for Forest Ecosystem Services)なども、経済的な森林保全インセンテ
ィブを与える要因となる。
とくに森林減少・劣化の要因とステークホルダーの経済活動が関連している場合、
REDD+プロジェクトから提供される経済利益は REDD+プロジェクトによる経済的な損
失を補償する役割を果たし、強い森林保全インセンティブとなりうる。地域住民による
小規模な違法伐採など REDD+事業者が法的に「補償」を行う必要がない場合でも、経済
的なインセンティブの付与によりステークホルダーへの森林保全活動への参加を促すこ
とは非常に重要である。
非経済的(NON-MONETARY)な森林保全インセンティブ
非経済的な森林保全インセンティブとは、森林保全活動を促す非金銭的な要因である。
例えば、森林の水土保全機能による生活資源・環境資源の維持、森林や巨樹信仰など社
会文化や慣習、保護区などのゾーニングや法規制・権利保障、炭素クレジット分配のた
めの土地境界線の明確化なども、森林保全インセンティブとなりうる。
REDD+プロジェクト対象地のように森林減少・劣化が進む地域では、そのような非経
済的な森林保全インセンティブの機能が弱くなっている(ステークホルダーの関心が薄
れてきている)ことも多い。一方で、焼畑営農に関する慣習で地力維持のために森林伐
開の制限を設けている場合もある。それらの機能を REDD+プロジェクトにおいても活用
することによって、これまで行われてきた地域住民による森林保全活動を継続させるこ
とが期待される。ただし、法規制や権利保障の強化は、土地(利用権)を持たない地域
住民の阻害などにつながる可能性もあることに留意しなければならない。
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また、これまでは森林保全インセンティブとして認識されていなかったものでも、教
育や普及活動により新たな森林保全インセンティブとなるものもある。例えば、多くの
REDD+プロジェクトでは、森林の二酸化炭素吸収による地球温暖化防止機能と REDD+活動の意義など、新たな説明をもって森林保全につなげる試みが行われている。
さらに、これら非経済的な森林保全インセンティブへの配慮は、社会セーフガードへ
の対処や森林保全活動の持続性につながることが期待される。
図 1−1.森林保全インセンティブの具体例
包括的なアプローチ
マニュアルでは、経済的および非経済的な森林保全インセンティブの双方からの包括
的なアプローチをとる。ここでいう「包括的」とは、経済的(monetary)なインセンテ
ィブを非経済的(non-monetary)なインセンティブで量的に“補てんする”という意味
ではなく、経済的(monetary)なインセンティブとは異なるアプローチをとるという意
味である。
プロジェクト予算等の制約のため、REDD+プロジェクトによる経済的な利益が損失を
上回らないことも考えられる。その様な場合でも、非経済的な森林保全インセンティブ
からアプローチすることによって、合意形成に至る可能性がある。また、包括的アプロ
ーチによって、経済的(monetary)なものに限らないコミュニティの多様な森林保全イ
ンセンティブに配慮することもできる。
代替生計手段・生計向上策などによる収入
森林から得られる利益(例. 薪炭材、木材、 NTFP、PESなど)
炭素クレジット
その他の経済利益(例. 補償金の支払い、補助金など)
プロジェクト開始 クレジット発行
生計活動に関連した活動
森林保全活動
その他
森林の社会的機能(例. 生物多様性、森林信仰など)
ガバナンスの強化(例. 土地境界線の明確化、土地利用権の強化など)
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1-3.マニュアルのスコープ
1-3-1.マニュアルの活用方法
本マニュアルでは、森林保全インセンティブを付与するような REDD+プロジェクト計
画、および、地域住民との合意形成のためのツールを提供する。
経済的な森林保全インセンティブに配慮した活動の計画
REDD+プロジェクトは、焼畑農業などの生計活動や薪炭材採集などの経済活動を制限
し、地域住民に損失を与えることがある。このような REDD+プロジェクトによる損失を
踏まえた、適切な利益をもたらす活動計画のツールを提供する。
REDD+プロジェクトによって得られる利益として、野菜栽培や家畜飼育などの代替生
計手段や高収量な作物栽培などの生計向上策による収入、炭素クレジットの分配など
REDD+プロジェクトから提供される直接的な利益に限らず、木材、薪炭材、食糧、飼料
などの林産物、森林生態系サービス支払いなど、REDD+プロジェクトによる森林保全の
結果として得られる間接的な利益も含めて、REDD+プロジェクトの経済的な森林保全イ
ンセンティブを評価する。
これらの REDD+プロジェクトによる直接的/間接的な利益の算出方法、REDD+によっ
て被る損失の算出方法、それらの比較分析手法について解説する。プロジェクト事業者
は、比較分析結果に基づいて、プロジェクト活動を計画・改善することができる。
非経済的な森林保全インセンティブに配慮した活動の計画
森林信仰などの社会文化的機能や水源涵養機能等の森林生態系サービス、ガバナンス
強化など、非経済的な森林保全インセンティブの把握手法やそれらを活用したプロジェ
クト活動の計画手法を提示する。これによって、プロジェクト事業者は、地域住民の多
様な森林保全インセンティブに配慮した REDD+活動や従来の森林保全活動を促進させ
ることができる。
コミュニティ・地域住民との合意形成
森林保全インセンティブに配慮した活動計画を実施するためには、コミュニティや地
域住民との合意形成が必要である。本マニュアルでは、合意形成について、地域住民が
プロジェクト計画に参加する度合いに着目して整理する。例えば、地域住民はプロジェ
クト計画には参加せず実施の可否に関する意思確認のみが行われる場合と、作物や家畜
の種類の選択などある程度の地域住民による選択が可能な場合では、合意形成までのプ
ロセスは異なる。また、プロジェクト活動計画において、地域住民が参加できる部分と
できない部分があるため、それらを明確に区分したうえで、プロジェクト計画への住民
参加の度合いに応じた合意形成プロセスとその特徴を提示する。
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REDD+プロジェクトの実施に際しては、社会セーフガードへの対処として地域住民の
権利の尊重や効果的な参加が求められている。また、住民参加はクレジット価格の付加
価値を高めることも期待される。本マニュアルを活用することによって、プロジェクト
事業者は、各自の REDD+プロジェクトの目的に応じた、適切かつ効果的な住民参加型プ
ロジェクト計画手法と合意形成プロセスを検討することができる。
その他の活用方法
本マニュアルは、その他の様々な用途にも活用することができる。例えば、プロジェ
クト事業者による社内での説明材料として、CSR の観点から地域住民にどのような影響
があるのか、ベネフィットシェアリングにどのくらいの予算が必要か、ということにつ
いても本マニュアルを活用して説明することができる。また、ドナーに対して経済効率
的な方法や社会セーフガードに関する活動をアピールするための説明材料として、行政
に対して地域住民に配慮していることをアピールするための説明材料としても、本マニ
ュアルを活用することが可能である。
1-3-2.マニュアルが対象とするシチュエーション
ステークホルダーとして特に地域住民やコミュニティに着目し、以下のようなシチュ
エーションを対象にしている。
地域住民へのマイナス影響が大きく適切な対処が求められている
焼畑農業や放牧、薪炭材の過剰利用など地域住民の生計活動が森林減少・劣化のドラ
イバーとなっている場合には、REDD+プロジェクトが森林減少・劣化対策としてそれら
の生計活動の制限などを行う結果、地域住民の収入が減少するなどのマイナス影響が予想
される。貧困な地域住民に対する生計活動の制限の影響は大きいと考えられ、いかに地域
住民の合意を得るかということが課題となっており、森林保全インセンティブに配慮した
適切な対策による合意形成が求められる。
コミュニティと協働した森林減少・劣化への対処が可能である
森林減少・劣化のドライバーから得られる収益(REDD+による機会費用)の大きさや
アクターによっては、REDD+活動による対処が困難な場合がある。例えば、政府や大企
業による大規模農園開発や鉱山開発など収益性の高い土地利用は、REDD+プロジェクト
による損失(機会費用)が非常に大きいため、REDD+プロジェクトによって見合う利益
の提供が困難である可能性が高い。また、組織的かつ大規模に行われている違法伐採も、
REDD+事業者による対処や機会費用に対する補償は非常に困難である。
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本マニュアルでは、コミュニティによる小規模な農地開発、違法伐採、森林火災など、
機会費用が相対的に低く、コミュニティと協働した効果的な対策が可能であるものを対
象とする。
コミュニティスケールの活動
地域住民の森林保全インセンティブは生計手段や森林への依存度などによって変化し、
地域やコミュニティによって異なる。例えば、都市部に近く農業以外の収入があって森
林への依存度が低いコミュニティと、遠隔地にあり焼畑農業が主で森林への依存度が高
いコミュニティでは、REDD+による影響や森林保全インセンティブは大きく異なる。し
たがって、適切な森林保全インセンティブに配慮した活動を行うためには、活動スケー
ルをコミュニティ単位あるいは類似のコミュニティ集団を単位に設定することがのぞま
しい。実際に、多くの REDD+プロジェクトではコミュニティ単位での対策を行っており、
本マニュアルでもコミュニティ単位の活動を基本として解説する。同様に、森林保全イ
ンセンティブ評価もコミュニティ単位で行うことが推奨される。
1-3-3.マニュアルを使うタイミング
プロジェクト計画フェーズ
プロジェクトの実施に先立つプロジェクト計画フェーズで活用することができる。そ
の際、プロジェクト事業者は、すでにどのようなプロジェクト活動を実施するかについ
てアイデアを持っていることが前提となる。多くの場合、プロジェクト対象地選定など
のプロセスでプロジェクト対象地の社会経済状況等の情報収集によって、プロジェクト
計画に先立ってすでに代替生計手段などの活動のアイデアや見通しを得ているであろう。
プロジェクト事業者は、本マニュアルを活用することによって、その様な活動アイデア
をベースに、活動内容をよ具体化したりブラッシュアップしたりすることができる。
ただし、まだ具体的な活動内容のアイデアがない事業者であっても、本マニュアルが
参考になるように、活動の具体例やそれらが持つインセンティブの特徴について解説し
ている。
モニタリングフェーズ
REDD+活動を開始してからも、そのプロジェクト活動がもたらす森林保全インセンテ
ィブについて数年間隔でモニタリングと改善を行うことがのぞましい。本マニュアルは、
そのようなモニタリングフェーズに活用することもできる。
また、REDD+プロジェクトが実施段階で計画から大きく変更した結果、モニタリング
の必要性が発生する可能性もある。その場合には、どのようなコンセプトに基づいて計
画されたのかという計画コンセプトを踏まえつつ、変更の要因を考察し対策を立てる必
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要がある。そのような計画変更に対処する際にも、本マニュアルで提示する計画方法を
振り返ることができる。
図 1-2. マニュアルを使うタイミング
1-3-4.マニュアルの使用者
本マニュアルの使用者として、生計向上策やプロジェクトのゾーニングなど、森林保
全インセンティブに配慮したプロジェクト活動を計画・実施する準国もしくはプロジェ
クトレベルのプロジェクト事業者を想定する。
1-3-5.マニュアルのスコープ
REDD+プロジェクトでは、二酸化炭素排出削減を目的とした森林保全活動や MRV に
関する活動など、様々な活動が実施される。そのうち、本マニュアルは、地域住民を対
象とした活動の計画および合意形成のためのツールを提供する(図 1-3)。
また、本マニュアルは、コミュニティの森林保全インセンティブを喚起するためにコ
ミュニティのコストベネフィット分析と合意形成のためのツールを提供しており、コミ
ュニティの森林保全インセンティブを喚起させるための投資額とクレジット収入を比較
しプロジェクトの財務分析のためのツールではない。そのような財務分析については、
プロジェクト事業者が各自で分析し検討する必要がある。
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図 1-3.マニュアルのスコープ
図 1-4. マニュアルのスコープ
コミュニティのコストベネフィット分析
コミュニティよる森林保全活動
プロジェクト投資額 クレジット収益
プロジェクトのコストベネフィット分析
REDD+事業の運営
REDD+による損失 REDD+による利益
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図 1-5.マニュアルの活用方法
1-4.本マニュアルの構成
REDD+プロジェクト活動の計画:P.13~P.21
森林保全インセンティブの定義、森林保全インセンティブに配慮した活動の特徴につ
いて整理する。さらに、住民参加型計画の必要性、パターン、活動の特徴に沿った住民
参加型計画の方法などについて解説する。
経済的な森林保全インセンティブに配慮した計画:P.22~P.56
経済的な森林保全インセンティブの評価手法、計画方法、合意形成手法について、ス
テップワイズ式に解説している。評価手法として、REDD+プロジェクトによる機会費用
と利益の算出方法、その比較分析手法を示している。改善策および合意形成手法は、生
計向上策など REDD+プロジェクトから提供される利益の具体例とその特徴を挙げつつ、
プロジェクト事業者が各自の計画に応じて具体的に改善策を検討できるようにしている。
非経済的な森林保全インセンティブに配慮した計画:P.63~P.73
非経済的な森林保全インセンティブについては、定量評価はせず、把握方法とそれらを
活用した計画の具体例、住民参加の方法について提示している。
•ベネフィットシェアリングの計画
•非経済的な森林保全インセンティブに配慮した活動の計画
•地域住民の参加/合意形成
活用方法
•地域住民へのベネフィットシェアリング シチュエーション
•プロジェクト計画フェーズ
•モニタリング タイミング
•準国、もしくは、プロジェクトレベルのREDD+事業者 使用者
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図 1-5.マニュアルの構成
機会費用
活動便益
経済的な森林便益
非経済的なインセンティブ評価
比較分析 計画
実施
アウトプット
インプット
プロジェクト事業者による作業
第3章 経済的な森林保全インセンティブ計画
第2章住民参加型計画
経済的なインセンティブ評価
合意形成計画
第4章 非経済的なインセンティブ計画
合意形成
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第 2 章:REDD+プロジェクト活動の計画
プロジェクトの計画プロセスでは、生計活動や森林利用など、コミュニティは自らの
権利に関連する様々な意思決定をしなければならない。そのため、プロジェクト計画へ
の住民参加は非常に重要である。また、計画プロセスに限らず、実施プロセスやモニタ
リングプロセスにおいても、改善要求や苦情処理などを行える様にコミュニティが参加
することがのぞましい。そこで、本マニュアルでは、住民参加型計画のツールを提供す
る。
2-1.REDD+プロジェクトの住民参加と国際的な経緯
住民参加型プロジェクトは、これまで行われてきたトップダウン型プロジェクトの失
敗や反省を踏まえて、よりコミュニティや地域住民の権利に配慮しニーズを反映する手
法として提唱されるようになった。この様な流れを受けて、REDD+プロジェクトの実施
にあたっても、COP16 で採択されたカンクン合意の中でステークホルダー、とくに先住
民族や地域社会の人々の全面的で効果的な参加が求められている。
ここでいう「関連するステークホルダー」とは、法的な権利を持つ人に限らず、法的
な権利は持たないものの慣習的な権利を持つ人やプロジェクト対象地に依存して生活す
る人を含む(UN-REDD programme、2012)。そこで、本マニュアルでも、法的な権利
の有無に関わらず、REDD+プロジェクトによって土地利用の変更や制限を受けるコミュ
ニティや地域住民に着目する。これらのステークホルダーの中には先住民族も含まれる。
また、「全面的で効果的な参加」とは、UNFCCC のもとでは明確に定義されていない
が、REDD+SES(2012)によると「各段階への関与を望むすべての権利保有者や非権利
保有者による有意義な影響を指し、協議(consultation)と自由意思による、事前の、十
分な情報に基づく同意を含めるもの」を意味する。「自由意思による、事前の、十分な
情報に基づく同意(以下、FPIC)」とは、プロジェクトが先住民族や地域社会の人々の
権利や資源に影響を及ぼす場合に必要とされる事前の合意のことであり、先住民族の権
利に関する国際連合宣言(以下、UNDRIP)や国際労働機関(ILO)第 169 号条約で権
利として挙げられている。この FPIC は、ステークホルダーが意思決定するために必要な
情報と十分な時間を提供したうえで、ステークホルダーが同意する、もしくは、同意し
ないことを決定する権利のことである。つまり、「全面的な効果的な参加」とは、プロ
ジェクトを適切かつ効果的に実施するため、コミュニティや地域住民がプロジェクト活
本決定の第 70条および 72 条に参照される活動における、関連するステークホル
ダー、特に先住民族や地域社会の人々の全面的で効果的な参加
-Desicion.1/CP16
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動について、従来の住民参加型で行われていた情報提供や情報収集に加えて、協議や意
思決定にも参加することを意味する。
これらセーフガードに関する「セーフガード情報システム(SIS: Safeguard Information System)」の整備は、UNFCCC におけるクレジット発行の要件となってい
る。SIS は国レベルで整備されるべきものであるが、それらにはプロジェクトレベルの情
報も反映されることが予想され、プロジェクト事業者にも具体的な対応が求められると
考えられる。
2-2.住民参加型の類型
2-2-1.住民参加型の 6 つの類型
住民参加型プロジェクトの手法については、これまで多くの議論が重ねられてきた。
ここでは、住民参加型プロジェクトに関する国際的に著名な論考(Arnstein, 1969; UNDP, 2001; Wilcox, 2001; Pretty, 1994; Hobley, 1996)を比較検討して整理した文献(Inoue、2003)を参照して、REDD+プロジェクトに適切な参加の方法を解説する。
住民参加型プロジェクト手法は、活動プロセスや意思決定への参加の度合いに従って
整理され、「informing」、「information gathering」、「consultation」、「conciliation」、「partnership」、「self-mobilization」の 6 つの類型がある(Inoue、2003)。それぞ
れの定義は、次の通りである。
INFORMING
コミュニティは決定事項のみを知らされる。外部者からの一方向の情報提供がなされ
るのみで、コミュニティからプロジェクト側へのフィードバックなどは行われない。
一昔前の国際援助プログラムなど、コミュニティの要望などを踏まえず外部者が一方
的にトイレ建設や医療施設建設など活動内容を計画・実施し、コミュニティは反対など
もできない。
INFORMATION GATHERING
コミュニティは外部者からの調査に関する質問に答えるのみで、コミュニティから外
部者への一方向の情報提供がなされる。
例えば、プロジェクト事業者は、保健衛生プロ下区との活動内容を決定するため、社
会経済調査や健康状態など基礎的な情報や要望などについてコミュニティから情報収集
を行う。しかし、コミュニティからプロジェクト側への一方向の情報提供のみであり、
コミュニティはプロジェクトの計画・実施プロセスに参加することができない。
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CONSULTATION
コミュニティとプロジェクト事業者との協議が行われ、双方向のやり取りが行われる。
しかし、分析や意思決定はプロジェクト事業者によって行われる。
例えば、保健衛生プロジェクト開始に先立ってコミュニティと協議し、井戸の浄水装
置設置とトイレ設置の要望があった結果、プロジェクト事業者は事前情報やプロジェク
ト予算に基づいて、トイレ設置プログラムの実施を決定する。
CONCILIATION
コミュニティも意思決定に参加するものの、主要な意思決定はプロジェクト事業者に
よってなされていることが多い。機能的参加とも呼ばれる。
例えば、プロジェクト事業者とコミュニティの協議の結果、プロジェクト事業者はト
イレ設置プログラムの実施を決定する。そのうち、コミュニティはトイレの設置場所に
ついて、意思決定をすることができる。
PARTNERSHIP
調査、アクションプラン作成、実施、評価などすべてのプロセスにおいて、活動や意
思決定にコミュニティが参加する。参加は権利であり、義務ではない。同時に、コミュ
ニティとプロジェクト事業者の合同委員会などによって、責任も共有される。
例えば、プロジェクト事業者が予算やドナーなどを持ち、プロジェクト開始に先立っ
てプロジェクト対象地の選定やステークホルダーの特定を行う。それ以降の、プロジェ
クトの事前調査、計画、実施については、参加の意思があるコミュニティとともに共同
で行う。
SELF-MOBILIZATION
外部者の助言などを通して、コミュニティによる独立した組織が形成される。決定や
資源管理などはコミュニティが行い、プロジェクト事業者がそれらのファシリテーショ
ンなどを行う。
例えば、ブラジルのスルイ森林炭素プロジェクトでは、先住民族であるパイタルース
ルイ族の先住民族協会が事業者となり、パートナー組織の助言のもとでプロジェクトを
実施している。
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表 2-1.住民参加型の 6 つの類型と参加の度合い
Level of participation
(Inoue 2000)
Degree/types of
participation
(Inoue 2003)
Description
Participatory
top-down approach
Informing プロジェクト事業者による決定事項などの情報
提供。
Information
gathering
プロジェクト事業者による情報収集。
Consultation プロジェクト事業者とコミュニティとの双方向のや
り取り。意思決定はプロジェクト事業者によって
行われる。
Professional-guided
participatory
approach
Conciliation コミュニティも意思決定に参加するものの、主
要な意思決定はプロジェクト事業者によって行
われる。
Endogenous
bottom-up approach
Partnership すべてのプロセスにおいて、活動や意思決定に
コミュニティが参加し、責任も共有される。
Self-mobilization コミュニティが主体で計画・実施を行う。プロジ
ェクト事業者は活動のファシリテーターの役割を
担う。
(出所:INOUE(2003))
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活動プロセスと住民参加型手法の重なり
それぞれ 6 つの類型は、具体的にはどのようなプロセスに住民が参加することを意味
するのか。一般的なプロジェクトの実施プロセスと各類型を重ねたものを、図 2-2 に示し
た。実施プロセスは、コミュニティへのコンセプト説明→情報収集→計画→意思決定→
実施→モニタリングとし、モニタリングの結果、さらに改善→意思決定→実施とサイク
ルが繰り返される場合もある。
図 2−2.活動プロセスと意思決定への住民参加の度合
2-2-2.REDD+プロジェクトの住民参加型手法
本マニュアルでは、REDD+プロジェクトの住民参加型手法として、Consultation 型、
Conciliation 型、Partnership 型について解説する。
REDD+プロジェクトでは地域住民の全面的で効果的な参加が求められており、情報提
供と情報収集にのみコミュニティが参加する Informing 型、および、Information gathering 型は不適切であるため除外する。一方、コミュニティが主体的にプロジェクト
を実施する Self-mobilization 型は、REDD+プロジェクト終了後もコミュニティよる森林
保全活動が継続が期待されるなど REDD+プロジェクトが目指す理想型であるが、本マニ
ュアルのスコープからはやや外れると考えらる。そこで、本マニュアルは、最終的には
Self-mobilization 型へ向かうことを目指しつつ、そこに至るプロセスのなかで適切な参
加型手法を判断するためのツールを提供する。
情報収集
計画/改善
意思決定
実施
モニタリング
コンセプト説明
Informing
Information gathering
Consultation
Conciliation
Partnership
Self-mobilization
活動プロセス
意思決定への住民参加の度合い
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適切な住民参加手法の選択
REDD+プロジェクトには、REL の設定や MRV 方法の検討、生計向上活動などのさ
まざまな活動が含まれる。各活動の適切な住民参加の度合いは、プロジェクトが置か
れた状況や、各活動や計画に求められる専門性やインパクトの大きさによって異なる。
そこで、REDD+プロジェクト事業者がそれそれの活動の性質やコミュニティのキャパ
シティにあわせて適切に住民参加の度合を調整できるようにするため、判断基準を示
す。
その判断基準として、コミュニティへの影響の大きさと、計画に求められる知識の
専門性を用いるこ。図 2-3 は、コミュニティへの影響の大きさや求められる専門性と、
住民参加型の関係性を示したものである。プロジェクト事業者は、各活動のコミュニ
ティへの影響や専門性の度合いによって、適切な住民参加型を選択することができる。
図 2-3.住民参加の基準
CONSULTATION 型
コミュニティへの影響が大きい一方で、計画に専門的な知識を必要とするものは
Consultation 型が適切である。例えば、REDD+プロジェクトによるコミュニティへの
経済影響評価があてはまる。生計に関するデータ収集や評価結果の妥当性の確認には
コミュニティの参加が必要不可欠であるが、機会費用算出などの影響評価は専門的な
知識を持ったプロジェクト事業者が行う。
影響大
影響小
在来知専門知
住民参加なし
Consultation型 Partnership型Conciliation型
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CONCILIATION 型
コミュニティへの影響が大きく、計画に専門知と在来知を必要とするものは、
Conciliation 型が適切である。
例えば、生計向上策の計画があてはまる。生計向上策はコミュニティの生活や権利
に大きく影響するため、コミュニティの参加は不可欠である。ただし、経済影響評価
に基づいたベネフィットの大きさの決定や、今後の排出削減量などプロジェクトの将
来的な収益を踏まえた投資額の決定が求められる。したがって、プロジェクト事業者
は、生計向上策の計画の主要な部分を担う。(これはあくまでも具体例であり、プロ
ジェクト事業者はそれぞれの状況に応じて、適切な参加型手法を選ばなければならな
い。)
PARTNERSHIP 型
コミュニティへの影響が大きく、かつ、計画の多くに在来知を必要とするものは
Partnership 型が適切である。
例えば、森林利用のルールなどがあてはまる。森林利用には、コミュニティの慣習
的な森林利用の実態がベースとなる。プロジェクト事業者は、REDD+のルールやコン
セッションのルールに基づき助言を与えるなどコミュニティと恊働しつつ計画するこ
とが適切である。
住民参加なし
コミュニティへの影響が小さい、または、影響がなく、計画に専門性が強く求めら
れる場合は、住民参加は必要ない。
例えば、REL の設定は、コミュニティへの影響は小さく、また炭素蓄積量の算出な
どに専門的な知識が必要なため住民参加によって行うことは困難である。
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図 2-4.住民参加型の具体例
2-3.REDD+の住民参加型計画のメリット
住民参加型計画には、コミュニティへの丁寧な説明や協議が必要となるため、追加
的な負担と感じるプロジェクト事業者もいるかもしれない。しかし、住民参加は、コ
ミュニティや地域住民の権利の尊重に加えて、プロジェクトの持続可能性などその他
のプラスの効果が得られる可能性がある。
当事者意識の醸成と活動の持続性
生計向上策などの生計に関わる活動や森林保全活動の一部は、コミュニティが能動
的に取り組まなければならない。コミュニティと協議しつつ計画することで、コミュ
ニティの当事者意識を高めると同時に、そのニーズや能力に応じたプロジェクト計画
が可能となる。その結果、持続的なプロジェクトにつながることが期待される。
効率的な情報収集と相互学習
従来の情報収集は、コミュニティからプロジェクト側への一方向に情報が流出する
プロセスであった。しかし、参加型手法では、プロジェクト側の情報収集と同時に、
コミュニティ自身が生計が家計に与えるインパクトや森林利用について学習したりプ
ロジェクト側がコミュニティの社会経済状況について学習したりする機会としても活
用できる。
影響大
影響小
在来知専門知
経済的なインセンティブの評価
RELの設定
住民参加なし
非経済的なインセンティブの評価と
計画作成経済的なインセンティブに配慮した計画の作成
Consultation型 Partnership型Conciliation型
※具体例を示している。プロジェクト事業者は、それぞれのプロジェクトの状況に応じて、適切な住民参加型を選択しなければならない。
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クレジット価格
社会セーフガードに適切に対処していることは、CSR 活動や社会貢献活動などに興
味があるクレジットの買い手にとっては付加価値となり、将来的な炭素クレジット収
入についてメリットとなる可能性がある。
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第 3 章 経済的な森林保全インセンティブに配慮した活動計画
3-1. イントロダクション
3-1-1.活動計画のプロセス
REDD+プロジェクトによって経済的な森林保全インセンティブを喚起するためには、
代替生計手段や生計向上策による収入、炭素クレジット、補償金、林産物、PFES(森林
生態系サービス支払い)など REDD+プロジェクトによる経済的な利益が、REDD+プロ
ジェクトによる損失に見合うことがのぞましい。そのようなプロジェクトを計画するた
めには、REDD+プロジェクトによる経済的な利益と損失を比較し、その結果に基づいて
計画を立てる必要がある。また、その計画プロセスへのコミュニティの参加は必要不可
欠である。
プロジェクト事業者は、コミュニティからの情報提供のもと経済的な森林保全インセ
ンティブ評価(REDD+プロジェクトによる損益の比較)、評価結果に基づく改善策の作
成を行う。これらのプロセスには専門的な知識を要するため、主要な作業はプロジェク
ト事業者が行う。最後に、コミュニティとの協議や一部の意思決定への参加を得つつ、
経済的な森林保全インセンティブに配慮した活動計画を決定する(図 3-1)。
図 3-1. 計画への住民参加の度合い (国土交通省(2006)をもとに作成)
活動のアイデア出し
経済的な森林保全インセンティブの評価
改善案の作成
活動の決定
プロジェクト事業者の作業 コミュニティの作業
協議・
意思決定
参加
情報提供
参加
参加
ステップ1
ステップ2
ステップ3
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3-1-2.REDD+プロジェクトによる経済的な利益と損失
REDD+プロジェクトによる経済的な利益
REDD+プロジェクトによる経済的な利益として、例えば、生計向上プログラムや代替
生計手段による収入、補償金支払い、炭素クレジット、森林生態系サービス支払い(PFES)などの直接的な利益、森林保全活動の結果として得られるキノコ等の林産物など森林保
全活動の結果として得られる間接的な利益などが挙げられる。多くの場合、このような
利益は森林減少・劣化をもたらす活動を中止することを条件に分配されており、コミュ
ニティの土地利用を制限することに対する経済的な補償として位置づけられていること
もある。
図 3-2. REDD+プロジェクトによる経済的な利益
ただし、炭素クレジットについては、プロジェクト計画段階ではクレジット価格の将
来的な見通しが不透明であるため、注意が必要である。モザンビークの事例1
また、林産物については、市場等での売買の有無に関わらず、コミュニティが利用し
ているものすべてを対象として算出することがのぞましい。例えば、水牛の飼料などは、
では、コミ
ュニティにクレジット総量の 1/3 を分配する契約を結んだが、クレジット価格が契約時の
12USD/tCO2から分配時には 4USD/tCO2まで価格が低下したため、コミュニティに支払
われる額が契約時の説明より著しく低下するということが発生した。また、炭素クレジ
ットという概念について、コミュニティの理解を得ることが困難である可能性も高い。
したがって、炭素クレジットについては、初期の契約項目には含めず、クレジットが発
生した段階や発生が見込まれる段階で、あらためて分配方法について計画しコミュニテ
ィと協議することがのぞましい。
1 The Sofala Community Carbon Project http://www.fao.org/docrep/015/i2495e/i2495e14.pdf
代替生計手段・生計向上策などによる収入
森林から得られる利益(例. 薪炭材、木材、 NTFP、PESなど)
炭素クレジット
その他の経済利益(例. 補償金の支払い、補助金など)
プロジェクト開始 クレジット発行
生計活動に関連した活動
森林保全活動
その他
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実際にはコミュニティは市場で売買していないことが多いが、そのような林産物の経済
的価値を算出することで、森林便益の「見える化」につがり、森林保全インセンティブ
を喚起することが期待される。
利益のパターン
REDD+プロジェクトの活動から発生する利益は、下記のような 4 種類が考えられる。
パターン① 一定型
年ごとの補償金支払いや炭素クレジットの支払い、一定面積での野菜栽培プログラ
ムなど、毎年一定量の利益が得られる。
パターン② 増加型
作物栽培の収量増加や面積拡大、家畜飼育プログラムによる家畜繁殖など、年ごと
に利益が増加する。
パターン③ 単発型
1 回限りの補償金の支払いなど、利益が単発的に発生し継続しない。
パターン④ タイムラグ型
木材やゴムなどの植林プログラム、果樹栽培など、プログラム開始から利益発生ま
でにタイムラグがある。ゴム栽培や果樹栽培は、最初の利益発生以降も継続的に利益
が発生することが期待されるが、木材など次の利益発生までにインターバルがあくも
のもある。
表 3-5.REDD+プロジェクトによる利益・機会費用のパターン
発生する利益 活動の種類(具体例)
一定型 毎年一定量の利益が発生する ・一定した栽培面積による作物栽培
・補償金等、定額の現金支払
年ごとに利益が増加する ・作物栽培の面積拡大や生産性の向上
・繁殖を伴う家畜飼育
増加型 年ごとに利益が増加する ・作物栽培の面積拡大や生産性の向上
・繁殖を伴う家畜飼育
単発型 1 回のみ、単発的に利益が発生する ・補償金支払
タイム
ラグ型
活動開始から利益が発生するまでに時
間がかかる
・植林
・果樹栽培
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REDD+プロジェクトによる損失:機会費用
REDD+プロジェクトによる経済的損失は、機会費用として捉えることができる。機会
費用とは、一般的には、ある行動を選択することによって失われる利益のことである。
したがって、REDD+プロジェクトの機会費用とは、REDD+プロジェクトで土地利用や
森林利用が制限されることによって失われる利益、すなわち、森林減少・劣化の要因と
なる土地利用によって得られる利益である(例:焼畑農地の拡大、薪炭材採集など)。
例えば、森林減少・劣化の要因が地域住民による焼畑農地の拡大であったとする。地
域住民は、森林を焼畑農地に開墾することによって 10 万円/ha の収益を得ることができ
る。しかし、REDD+プロジェクトが実施されることによって、焼畑農地の開墾が制限さ
れた結果、地域住民は将来得るはずだった 10 万円/ha の収益を失うことになる。この
REDD+プロジェクトによって失われた 10 万円/ha が、REDD+プロジェクトの機会費用
となる。
図 3-3.機会費用の概念図
![Page 27: REDD+のための - maff.go.jp...REDD+ のための 計画マニュアル ―持続的な森林保全活動を目指して― 公益財団法人国際緑化推進センター コミュニティ](https://reader035.vdocuments.pub/reader035/viewer/2022081407/604c13c1ae073d6d722ef546/html5/thumbnails/27.jpg)
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3-1-3.活動計画に必要な作業
ステップ 1:経済的な森林保全インセンティブの評価
経済的な森林保全インセンティブを評価するため、REDD+プロジェクトによる利益と
機会費用を算出し、それらを比較分析する。REDD+プロジェクトによる代替生計手段や
生計向上策については、活動開始から利益の発生までに時間がかかる場合もあるため、
ある一定期間(例.バリデーションまでの間隔など)を対象に算出し比較することとする。
それによって、図 3-4 のとおり、分析期間におけるそれぞれの累積量と時間的な変化が明
らかになる。本マニュアルでは、それぞれの算出および比較分析手法について解説する。
図 3-4.算出結果のイメージ
ステップ 2:改善策の検討
インセンティブ評価にもとづいて、REDD+プロジェクトの目的や予算等を踏まえつつ、
改善策を検討する。改善策の検討方針は、①REDD+による利益の総計額が、機会費用の
総計額より大きくなる、または、②活動開始から利益の発生までのタイムラグへの対策
の 2 種類が考えられる。本事業は経済的なインセンティブと非経済的なインセンティブ
の両方を踏まえた包括的なアプローチを採用しているため、必ずしも REDD+プロジェク
トによる利益が機会費用を上回るように改善する必要はないことに留意する。
本マニュアルでは、比較分析結果のパターンごとに分類し、それぞれのパターンの改
善策について解説する。
図 3-5. 改善方針①総計額を大きくする 図 3-6.改善方針②タイムラグへの対策
機会費用 REDD+による利益
100
200
300
400
USD
(Mill
ion)
/ha
USD(M
illion)/ha
100
200
300
400
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
5
10
15
20
Year
USD
(Mill
ion)
/ha
機会費用利益
REDD+プロジェクトの機会費用
REDD+プロジェクトによる利益
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
5
10
15
20
Year
USD
(Mill
ion)
/ha
機会費用利益
対策