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30
平成 デマンドレスポンスプログラムの導入が わが国の発電コストに与える影響 5 23 研究報告 Y 10021

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月年平成

デマンドレスポンスプログラムの導入がわが国の発電コストに与える影響

523

研究報告 : Y10021

経 営

Page 2: Report y10021 1
Page 3: Report y10021 1

i ©CRIEPI

デマンドレスポンスプログラムの導入が わが国の発電コストに与える影響

高山 正俊*1 高橋 雅仁*1 加藤 力也*1

山口 順之*2

キーワード:デマンドレスポンス

費用便益分析

発電コスト

回避可能原価

電源構成モデル

Key Words:Demand Response

Cost-Benefit Analysis

Power Generating Cost

Avoided Cost

Power Generation System Expansion Model

Estimation of Power Generation Cost Reduction by Introduction of Demand Response Program in Japan

Masatoshi Takayama, Masahito Takahashi, Rikiya Kato and Nobuyuki Yamaguchi

Abstract

Demand response (DR) is a tariff or program established to motivate changes in electric use by end-use customers in

response to changes in the price of electricity over time or to give incentive payments designed to induce lower electricity use at times of high market prices or when grid reliability is jeopardized.

Because demand grows very slowly in Japan, it is not expected to fall into the situation that power supply and demand is stringent as in the U.S. However, there is still a need for improvement of the annual load factor. Further rise of the fossil fuel expense is expected in the future. Although some has studied DR potential in Japan from the customer-side views through pilot projects using smart meters and customer surveys so far, the cost-benefit analysis of DR introduction has not been performed yet.

Using CRIEPI’s Long-term Power Generation System Expansion Model, we estimated the impact of a peak-cutting DR program on the power generation cost of Japanese power system toward 2040 as a part of the cost-benefit analysis. We assumed the peak-cutting DR program as follows. The DR program period was set three hours between 13H and 16H on the three highest days of maximum demand in a year. During the program period, it is assumed that we can reduce the demand in LT(peak)×(1-α/100) by the DR program. Where, LT (peak) is the peak demand in fiscal year (FY) T and α (%) is the peak cutting rate.

According to our result, the unit generation cost averaged during the estimation period (FY2010 – FY2040), which is total cost divided by total generated energy during the period, decreases as the peak cutting rate of DR increases. When the peak demand is cut by 1.0%, the annual road factor increases by 0.6% and the unit generation cost decreases by 0.19% compared to the non-DR case. The avoided cost of the DR program, which is a power generation cost merit by reducing 1kW of peak demand, is about 8500yen/kW on average. This avoided cost is approximately equal to the annualized unit construction cost of LNG power plant.

(Socio-economic Research Center, Rep.No.Y10021) (平成 23 年 3 月 8 日 承認) *1 社会経済研究所 エネルギー技術政策領域 主任研究員 *2 社会経済研究所 エネルギー事業政策領域 主任研究員

社会経済研究所

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ii ©CRIEPI

背 景

わが国では、需要の増加があまり見込めず、需給の逼迫状態に陥ることは考え難いが、

年負荷率の更なる向上が求められ、また、化石燃料費の更なる高騰も予想される。従っ

て、デマンドサイドマネジメントは必要であり、省エネ以外に、需要家側を対象にデマ

ンドレスポンス(DR)(注 1)の適用可能性について検討がなされている。しかし、電力供

給側の発電コストを含めた、DR の社会的な費用便益の評価にまでは至っていない。

目 的

DR プログラムの社会的な費用便益分析を行う上で必要な電力供給側の評価のうち、

同プログラムが発電コストに与える影響について評価する。

主な成果

夏季最大 3 日のピーク時間帯(13 時から 16 時)のみ発動して最大需要を抑制する DR

プログラムを想定した(図 1)。全国大の電源を対象とした長期電源構成モデル(注 2)を使

用して、同プログラムが 2013 年度以降に導入された場合の、評価期間(2010 年度から

2040 年度)における発電コストへの影響を評価した。その結果、以下のことが分かった。

1. DRによる発電原価の変化

平均発電原価(評価期間内の総発電コストを総消費電力量で除したもの)は、ピーク

カット率 α(%)(注 3)の増加に伴い減少する。評価期間内の平均年負荷率が約 0.6%向上

する α=1.0%時点の平均発電原価は、DR を導入しない場合に比べて 0.19%程度減少した

(図 2)。

2. 回避可能原価の試算

DR によるピークカット率の増加に伴い、電源新設の回避や延伸化により固定費が減

少し、化石燃料費の影響により可変費がやや増加した(図 3)。結果として、DR により

最大需要を追加的に 1kW 削減することによる発電コストの回避可能原価(1 式)は、平

均 8500 円/kW 程度となった(図 3)。これは、おおよそ LNG 火力発電所の建設単価の年

経費相当である。

今後の展開

発電コストだけではなく、DR の導入が送・配電設備コストに与える影響や、DR を行

う上で必要なプログラムコストを考慮したうえで、社会的な費用便益評価を行う。

Page 5: Report y10021 1

iii ©CRIEPI

(注 1)デマンドレスポンス: 時間的に変化する供給コストを反映した料金単価、若しくは卸電力価格高騰時や需給逼迫時に電力利用を抑制するように設計されたインセンティブに反応して、需要を変化させるもの。

(注 2)長期電源構成モデル: 将来の電力需要や燃料価格など、電源構成に関係する外的条件下で、長期的に発電コスト(設備費、運用管理費、燃料費の合計)が最小となる電源構成を導出するモデル。

(注 3)ピークカット率 α(%): DR によるピークカット量(kW)/DR を導入しない場合の夏季最大電力(kW)

(1)

ここで、

ΔTCα :ピークカット率を α-0.25(%)から α(%)に変化させた場合の総発電コスト削減分(円)

ΔPDα :ピークカット率を α-0.25(%)から α(%)に変化させた場合の総最大電力削減分(kW)

ααααααα ΔΔ)-()-(円回避可能原価 PD/TCPDPD/TC()/ 25.025.0 TCkW

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

1H 3H 5H 7H 9H 11H 13H 15H 17H 19H 21H 23H

電力

需要(万

kW)

時間(H)

non‐DR

DR(α=1.5%)

LT=2040(peak)

LT=2040(peak)

×(1-α/100)

ピーク時間帯(DR発動時間帯)

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

9000

‐60 

‐50 

‐40 

‐30 

‐20 

‐10 

10 

20 

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

回避

可能

原価(円/kW)

総発

電コストの

増減

(百億

円)

ピークカット率(%)

化石燃料費の影響(百億円)

電源新設の回避や延伸化(百億円)

総コスト増減(百億円)

回避可能原価(円/kW)

図 1 DR によるピークカット事例 (2040 年度断面)

図 3 総発電コストの増減と回避可能原価 (評価期間:2010‐2040 年度)

図 2 平均発電原価と平均年負荷率 (評価期間:2010‐2040 年度)

64.8 

65.0 

65.2 

65.4 

65.6 

65.8 

66.0 

66.2 

66.4 

66.6 

6.630 

6.635 

6.640 

6.645 

6.650 

6.655 

6.660 

6.665 

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

平均

年負

荷率

(%

平均

発電

原価

(円/kWh)

ピークカット率(%)

平均発電原価(円/kWh)

平均年負荷率(%)

2040

2010TT

2040

2010

)PE(/(

)/(

TTT

T

RRTCRR

kWh

円平均発電原価

ここで、 RRT :T 年度の現在価値換算係数 TCT :T 年度の発電コスト(円) PET :T 年度の発電電力量(kWh)

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iv ©CRIEPI

目 次

1.はじめに ···················································································································· 1

2.DRに関する米国の動向と米国の手法に基づいた本研究のアプローチ ···································· 2

2.1 DRに対する米国の期待 ··························································································· 2

2.2 DRプログラムの費用便益評価事例 ············································································ 2

2.3 米国の費用便益評価手法に基づいた本研究のアプローチ ················································· 3

3.想定したピークカット型のDRプログラム ······································································· 5

3.1 DRの発動時間帯と日数の設定 ·················································································· 5

3.2 DRのピークカット率の設定 ····················································································· 5

3.3 DRの適用範囲 ······································································································· 7

4.電源構成モデルを用いたDRプログラムの発電コスト低減効果の評価 ···································· 8

4.1 長期電源構成モデルの概要 ························································································ 8

4.2 長期電源構成モデルで使用する主要データ ·································································· 10

4.2.1 電力需要データ ································································································ 10

4.2.2 費用データ ······································································································ 11

4.2.3 発電性能と運転制約に関するデータ ····································································· 13

4.3 リファレンスケース(DRなし)時の計算結果 ···························································· 13

4.4 DRプログラムによる発電コストの低減効果 ······························································· 14

4.4.1 DRによる総発電コストと発電原価の変化 ···························································· 14

4.4.2 DRによる発電コストの低減効果 ········································································ 17

5.まとめ ······················································································································ 20

参考文献 ························································································································· 21

Page 7: Report y10021 1

-1- ©CRIEPI

1 はじめに

米国では、リーマンショックによる一時的な電

力需要の落ち込みはあるものの、更なる IT 化の

進展や人口の増加等により、今後、電力需要の堅

調な伸びが予想されている。これに伴い、電力需

要の伸びに合わせた発電所の建設が必要である

が、膨大な建設費用が必要となる他、環境面の制

約の高まり等により、物理的に難しいという課題

がある。このため、米国では、デマンドレスポン

ス(Demand Response, DR) プログラムを普及させ、

特にピーク時間帯における需要の削減や需要の

シフトを強く志向しており、これに関する多くの

研究がなされている状況にある。米国エネルギー

省(Department of Energy, DOE) の定義によると、

DR とは、時間的に変化する供給コストを反映し

た料金単価、若しくは卸電力価格高騰時や需給逼

迫時に電力利用を抑制するように設計されたイ

ンセンティブに反応して、需要を変化させるもの

である(DOE, 2006)。

一方、わが国においては、これまで長期電源計

画に基づいた着実な電源新設に取り組んでいる。

また、今後の需要の伸び率が鈍化傾向にあること

から、少なくとも現時点においては、短中期的に

需給逼迫状態に陥ることは考えにくい。しかし、

年負荷率に関しては改善傾向にあるものの、ヨー

ロッパ諸国に比べて未だ低い水準にある。また、

化石燃料費の更なる高騰も予想される。更に、太

陽光発電 (Photovoltaic, PV) の大量導入や電気自

動車 (Electric Vehicle, EV) の普及が想定される

ことから、電力需要の使用実態の大きな変化が予

想される。従って、デマンドサイドマネジメント

(Demand Side Management, DSM) の普及促進に関

する検討を継続して行っていく必要がある。

これらを背景に、わが国では、省エネに向けた

取り組み以外にも、近年、スマートメータを使用

したスマートコミュニティやその他実証試験、消

費者サーベイ等を通じて、DR プログラムに対す

る消費者の受容性や負荷削減ポテンシャルに関

する調査や検証がなされている状況にある。

このように、DR の適用可能性について比較的

需要家側に重きを置いた検討はなされているが、

電力供給側の発電コストを含めた、社会的な費用

便益の評価に関する検討にまで至っていない。

本報告書の目的は、社会的な費用便益を検討す

るうえで必要な電力供給側の評価のうち、DR プ

ログラムが発電コストに与える影響について評

価することである。

本報告書の構成は以下の通りである。まず、第

2 章では、DR に関する米国の動向と、米国の費

用便益評価手法に基づいた本研究のアプローチ

について記載する。第 3 章では、想定したピーク

カット型の DR プログラムについて記載する。第

4 章では、DR プログラムの発電コスト低減効果

について、その評価手法と分析結果について記載

する。第 5 章はまとめである。

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-2- ©CRIEPI

2 DRに関する米国の動向と米国の手法

に基づいた本研究のアプローチ

本章では、DR に関する米国の動向と本研究の

アプローチについて記載する。

2.1 DRに対する米国の期待

米国における DR の取組みは、2007 年エネルギ

ー自給・安全保障法 (Energy Independence and

Security Act 2007, EISA 2007)で具体化されており、

下記 3 段階を経て DR を推進するものとしている

(EISA, 2007)。

第 1 段階:米国連邦エネルギー規制委員会

(Federal Energy Regulatory Commission,

FERC) は、1 年半以内に国家的な DR の可能

性を評価する。

第 2 段階:FERC は、1 年以内に DR の推進

計画を策定する。

第 3 段階:これを受けて、FERC と DOE が

議会に対して、具体的な実施提案を行う。

第 1 段階の評価結果は、既に報告がなされてい

る(FERC, 2009)。この報告書によると、5-10 年後

に得られる DR のポテンシャル量は、先進的計量

システム(Advanced Metering Infrastructure, AMI)

やダイナミック料金制度、負荷調整の自動化技術

の普及動向等によって異なるとしている。また、

同報告書には、DR を適用しない場合と比較する

形で 4 つのシナリオが描かれており、DR が も

普及するシナリオでは、2019 までに通常ケースよ

り更に 150GW の 大需要の削減 (ピーク電源を

賄う発電所約 2000 台相当) が期待できるとして

いる。ここで、通常ケースとは、既存若しくは現

在計画中の州単位における DR の参加率を適用し

た場合の想定である。

2.2 DRプログラムの費用便益評価事例

米国では、2.1 節に記載したような規制当局の

期待を背景に、DR の導入に必要とされる AMI の

整備に取り組む電力会社が増えてきている。

カリフォルニア州の電力会社である SCE

(Southern California Edison)では、AMI の導入是非

を判断するため、その費用便益評価を先駆けて行

っており、(SCE, 2007) でその 終報告がなされ

ている。これは、2007 年から 2032 年までを評価

期間とし、AMI を導入した場合に得られる便益と

発生する費用を表 2.1 に示す項目毎に推計して、

両者を比較したものである(図 2.1)。AMI の導入

により負荷制御や時間帯別料金メニューが普及

することで、結果的に、①エネルギー調達と発電

設備建設の回避、②送・配電設備投資の延伸化が

期待できるとし、DR を AMI の便益項目の一つに

挙げている。便益の具体的な試算方法については

明示されていないが、上記①にあたっては、燃焼

タービン(Combustion Turbine, CT) の建設・運転コ

ストを比較対象にして定量的な評価がなされて

いる。

表 2.1 SCE の AMI 費用便益項目 Table 2.1 Cost-Benefit Items of AMI by SCE 項目

便益 ・運用面における便益 ・DR と省エネによる便益

費用

・設置前に発生する費用 ・AMI・通信設備の購入・設置費用 ・需要家の料金メニュー・プログラム・

サービス関連費用 ・電力側のシステム導入・運用費用 ・危機管理費用 ・導入後の運用費用

(出所)(SCE, 2007)に基づいて著者らが作成

Page 9: Report y10021 1

-3- ©CRIEPI

〔単位:百万ドル〕

(出所)(SCE, 2007)に基づいて著者らが作成 図 2.1 SCE による AMI の費用便益評価

Fig.2.1 Estimated Costs and Benefits of AMI by SCE

2.3 米国の費用便益評価手法に基づいた本研究

のアプローチ

カリフォルニア州公益事業委員会 (California

Public Utilities Commission, CPUC) とカリフォル

ニ ア 州 エ ネ ル ギ ー 委 員 会 (California Energy

Commission, CEC) は 2002 年に、デマンドサイド

プログラム(Demand Side Program, DSP) 及びプロ

ジェクトの経済的評価を行うための標準マニュ

アル(California Standard Practice Manual: Economic

Analysis of Demand-Side Programs and Projects)1を

作成している(CPUC, 2002)。

この報告書によると、DSP 及びプロジェクト

の経済的評価を行うためには、参加者テスト

(Participant Test)、消費者へのインパクト計測テス

ト(Ratepayer Impact Measure Test)、総資源費用テス

ト(Total Resource Cost Test)、プログラム管理者テ

1 CPUC と CEC は、石油危機などの経済・社会的な変

化を背景に、1970 年代から発電所建設の代替策として

省エネと負荷管理プログラムを推進しており、1983 年

2 月に、その費用便益分析の標準手法(Standard Practice for Cost-Benefit Analysis of Conservation and Load Management Programs)を作成している。(CPUC, 2002)はその改訂版である。

スト(Program Administrator Test)の 4 項目のテスト

が必要とされている。各テスト項目とその定義を

表 2.2 に示す。

表 2.2 経済的評価のテスト項目 Table 2.2 Tests for the Economic Valuation of

Demand-Side Programs テスト項目 テストの定義

参加者テスト (Participant Test)

プログラムの参加に伴う参

加者の便益や費用を定量的

に評価するもの。

消費者への影響評価

テ ス ト (Ratepayer Impact Measure Test)

プログラムの導入による電

力会社の収益や運用コスト

の変化が、消費者への料金請

求や料金単価にどのような

影響を与えるかを評価する

もの。

総資源費用テスト

(Total Resource Cost Test)

参加者と電力会社の双方を

含む DSM プログラムの総資

源費用を評価するもの。

プログラム管理者テ

ス ト (Program Administrator Test)

プログラム管理者が負担す

る DSM プログラムの総コス

ト(インセンティブ費用を含

む) を評価するもの。参加者

負担の費用は対象外。

(出所)(CPUC, 2002)に基づいて著者らが作成

これらのテスト項目が挙げられた背景には、

「プログラムの経済的評価を行う場合、参加者、

消費者全体(非参加者を含む)、電力会社、社会と

いう利害関係者の各々の立場から評価する必要

がある」とのコンセプトがある。このうち、社会

という利害関係者の立場からの評価、いわゆる社

会的な費用便益を評価するためには、総資源費用

テストを行い、正味現在価値 (Net Present Value

of Total Resource Cost Test, NPVTRC) を算出

し、その値が 0 以上であることを示す必要がある

としている(CPUC, 2002)。ここで NPVTRC は、

計画期間内におけるプログラム導入の純便益(現

在価値換算 )を示し、プログラムによる便益

(Benefits of Total Resource Cost Test, BTRC)と

プ ロ グ ラ ム に 必 要 な 費 用 (Costs of Total

Page 10: Report y10021 1

-4- ©CRIEPI

Resource Cost Test, CTRC) から 2.1 式の通り求

められる。

NPVTRC = BTRC-CTRC1-CTRC2 (2.1)

ここで、

BTRC :プログラム導入による便益

CTRC1 :プログラム導入時の電力会社の費用

CTRC2 :プログラム導入時の消費者の費用

BTRC、CTRC1及び CTRC2を DR 費用便益分析

のフレームワーク上に図示すると、図 2.2 の通り

となる。このフレームワークは、ロードマネジメ

ントに関する費用便益分析についてまとめられ

た報告書(浅野, 1985) を参考に著者らが作成した

ものである。これは、利害関係者として、参加者、

非参加者、電力会社および社会をノード(太線枠

組み)で表現し、ノード間でやりとりされる費用

と便益の流れを図示したものである。ここで、ノ

ードに向かう矢印は、向かう先の利害関係者から

見て便益を示し、逆にノードから出る矢印は、そ

のノード(利害関係者) の費用を示す。社会的な費

用便益分析を行う場合、料金支払いの節約分やイ

ンセンティブといった DR の導入に伴う電力会社

の費用負担の増加分については、社会に含まれる

利害関係者 (電力会社と参加者) 間のやりとりと

なるため、相殺されるのが一般的である。従って、

社会的な費用便益分析を行う場合の費用項目と

しては、電力会社と参加者のプログラムコスト

(CTRC1, CTRC2) のみを取り扱うことになる。

わが国における DR の適用可能性を考えるため

には、 終的に、2.1 式により DR プログラムの

純便益 (NPVTRC) を算出し、社会的な費用便益

の評価を行うことが必要である。本研究は、その

一部であるプログラム導入による便益(BTRC)を

評価したものである。但し、期待される便益のう

ち、送・配電設備に関する便益についての評価は

本報告書に含まれていない。

(出所) (浅野, 1985) を参考に著者らが作成 図 2.2 DR 費用便益分析のフレームワーク Fig.2.2 Framework of DR Cost-Benefit

Analysis

Page 11: Report y10021 1

-5- ©CRIEPI

3 想定したピークカット型のDRプログ

ラム

DR プログラムの導入目的は、オフピークの需

要創出やアンシラリーサービスなど、各国におけ

る電力事情のニーズに適したものであることが

望ましい。従って、米国が志向しているピークカ

ット型の DR が、必ずしもわが国のニーズと合致

するとは限らない。しかし今回は、わが国の目的

に も適した DR プログラムの適用可能性を模

索・検討する前段で、まずはピークカット型の

DR を想定し評価を行った。以降、想定した DR

プログラムについて記載する。

3.1 DRの発動時間帯と日数の設定

DR が発動される時間帯を、夏季 大 3 日にお

ける 13時から 16時 (ピーク時間帯) に設定した。

従って、DR の対象となる時間は年間 9 時間 (3

時間×3 日) であり、DR により、この時間帯の需

要を LT(peak) × (1-α/100) 以下に削減できるもの

とした。ここで、L T(peak) は、T 年度における夏

季 大 3 日の 大需要を示し、αはピークカット

率 (%) を示す。図 3.1 に示すピークカットの事例

では、DR の発動時間帯である 13 時から 16 時の

間、DR あり(α = 1.5) の需要が削減され、DR なし

(non-DR) の需要よりも小さくなっていることが

確認できる。

現実的には、需要予測が不確実なため、夏季

大 3日のみの需要を局所的にピークカットするこ

とは困難である。しかし今回は、簡素化のために

年間の需要予測が正確に行え、夏季 大 3 日のみ

の局所的なピークカットが可能であるものと仮

定した。

図 3.1 DR によるピークカット事例(2040 年度) Fig.3.1 Peak Demand Cut by Assumed DR in

FY2040

3.2 DRのピークカット率の設定

長期電源構成モデル2の計画期間として、2000

年度から 2040 年度までの 41 年間を設定した3。計

画期間のうち、DR は 2013 年度以降に適用される

ものとし、2040 年度までの適用年度 (28 年間) の

み、DR による需要削減がなされるものと仮定し

た。α (%) を 0.0%から 1.5%まで 0.25 ステップ毎

に変化させた 7 つのケースを表 3.1 に示す。ここ

で、α = 0.0 (%) は DR を行わないケース(リファレ

ンスケース) を想定したものである。

以降、ピークカット率の上限を 1.5% に設定し

た理由について記載する。図 3.2 に、ピークカッ

ト率 α (%) を 0.0≦α (%)≦2.5 の範囲で 0.5 ステッ

プ毎に変化させた場合の、ピークカット率と 大

需要の関係を示す。2010 年度までは DR が未導入

のため、ピークカット率の大小に関係なく 大需

要は一定である。一方、2015 年度以降については、

ピークカット率の増加に伴い、 大需要が減少す

る。但し、ピークカット率の増加に伴う 大需要

の減少が確認できるのは αが 1.5% 以下のケース

であり、αが 1.5% を超える α = 2.0%と α = 2.5%

2 長期電源構成モデルの概要については、4.1 節参照。 3 本シミュレーションの使用データが入手可能な 2000年度を開始年度として設定した。また、中長期的な評

価を行うため、2040 年度を終了年度に設定した。

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

1H 3H 5H 7H 9H 11H 13H 15H 17H 19H 21H 23H

電力

需要

(万kW

)

時間(H)

non‐DR

DR(α=1.5%)

LT=2040(peak)

LT=2040(peak)

×(1-α/100)

ピーク時間帯(DR発動時間帯)

Page 12: Report y10021 1

-6- ©CRIEPI

のケースでは、ピークカット率の増加による 大

需要の減少効果が小さくなる。特に α = 2.5%の

大需要については、α = 2.0%のグラフとほぼ重な

ってしまっている。これは、ピークカット率を増

やすことにより、DR 発動時間帯以外 (17 時) に

第 2 ピーク(Secondary Peak) が発生してしまうた

めである(図 3.3)。この第 2 ピークの発生は、日負

荷曲線の想定や、DR の発動時間帯を 13 時から

16 時の間に限定するという前提条件に依存する

ものであり、DR の限界を示すものではない。第

2 ピークが発生すると、ピークカット率を増やし

ても 大需要を下げることができず、発電設備容

量や運用パターン等の電源構成にあまり変化が

無くなり、DR の効果が十分得られない結果とな

ってしまう。そこで今回は、検証範囲を 0.0≦α (%)

≦1.5 とした(表 3.1)。

業務・産業用の需要家を対象とした DR プログ

ラムの郵送アンケート調査結果 (山口, 2011) に

よると、ピーク時間帯の負荷削減ポテンシャルは、

同需要家のピーク時間帯需要の 4.7%としている。

本結果は、関東圏 7 都県を対象としたサンプル調

査にすぎない。また、上述の負荷削減ポテンシャ

ルは業務・産業用の需要家のみのピーク時間帯需

要に対する比率であり、一般家庭を含めた総需要

に対する比率でないところが、本報告書のピーク

カット率と定義が異なる。従って、上述の負荷削

減ポテンシャルと今回の検証範囲(0.0≦α(%)≦

1.5)を直接比較することはできない。しかし、仮

に、ピーク時間帯における一般家庭の需要を、同

時間帯における業務・産業用需要家の需要と同等

程度と大きく見積もっても、総需要に対する負荷

削減ポテンシャルの割合は約 2.35% ( = 4.7%/2)

となり、今回の検証範囲 (0.0≦α(%)≦1.5) の負荷

削減ポテンシャルは確保できるものと推察でき

る。

図 3.2 DR による最大需要の減少

Fig.3.2 Reduced Maximum Demand by DR Introduction

図 3.3 2040 年度における第 2ピークの発生事例

Fig.3.3 Secondary Peak Incurred by DR Introduction in FY2040

15,500

16,000

16,500

17,000

17,500

18,000

18,500

19,000

19,500

20,000

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

最大

需要

(万kW

))年度

α=0% α=0.5%

α=1.0% α=1.5%

α=2.0% α=2.5%

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

1H 3H 5H 7H 9H 11H 13H 15H 17H 19H 21H 23H

電力

需要

(万

kW

)

時間(H)

non‐DR

DR(α=2.5%)

LT=2040(peak)

LT=2040(peak)

×(1-α/100)

ピーク時間帯(DR発動時間帯)

第2ピーク

> LT=2040(peak)×(1-α/100)

No. ピークカッ

ト率 α (%) 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 備考

1 0.0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 (DR なし)

2 0.25 0 0 0 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25 0.25

3 0.50 0 0 0 0.50 0.50 0.50 0.50 0.50 0.50

4 0.75 0 0 0 0.75 0.75 0.75 0.75 0.75 0.75

5 1.00 0 0 0 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00

6 1.25 0 0 0 1.25 1.25 1.25 1.25 1.25 1.25

7 1.50 0 0 0 1.50 1.50 1.50 1.50 1.50 1.50

表 3.1 ピークカット率の異なる 7つの想定ケース Table 3.1 Assumed Seven Cases of DR with Different Peak Cutting Rates

Page 13: Report y10021 1

-7- ©CRIEPI

3.3 DRの適用範囲

現段階で分析結果に影響を与えるものではな

いが、DR プログラムは、業務・産業用の需要家

を対象に適用されるものとし、DR 発動時は、需

要削減ポテンシャルとして期待される生産プロ

セス上の稼働装置と空調機器の制御等 (山口 ,

2011) により、ピーク需要を削減できるものとす

る。DR のプログラムコストを試算する過程にお

いて、DR の実施手段の特定も必要であるが、現

時点では特に限定しないこととする。

Page 14: Report y10021 1

-8- ©CRIEPI

4 電源構成モデルを用いたDRプログラ

ムの発電コスト低減効果の評価

本章では、DR プログラムによる発電コストの

低減効果について記載する。4.1 節に長期電源構

成モデルの概要について説明し、4.2 節に使用し

た主要データについて記載する。4.3 節と 4.4 節は

分析結果である。

4.1 長期電源構成モデルの概要

本研究の計算ツールとして使用する長期電源

構 成 モ デ ル (Long-term Power Generation

System Expansion Model, OPTIGEN) の入出力

データを図 4.1 に示す。この長期電源構成モデル

は、将来の電力需要や燃料価格、電源開発量や

CO2排出量に対する制限など、電源構成に関係す

る外的条件下で、長期的に発電コスト(設備費、

運用管理費、燃料費の合計) が 小となる電源構

成を導出するモデルである(高橋, 1996)。

具体的には線形計画法に基づき、設備形成や電

源運用に関する様々な制約条件のもとで目的関

数「計画期間内 (T0-TN) に発生する発電コスト

の現在価値換算合計値 TC (4.1 式)」を 小化する

電源構成を導出する。ここで、RRTは現在価値換

算係数であり、4.2 式により求められる4。

今研究では、全国大5の電源を取り扱うものと

し、 適化の対象となる電源を、原子力・石炭火

力・LNG 複合火力・LNG 従来火力・石油火力・

揚水式水力の 6 種類とした。一方、一般水力と地

熱は 適化の対象外であり、外生的に与えられた

発電電力を計算に使用している。なお、老朽原子

力と老朽石油火力の寿命延伸についても、簡素化

のため対象外とした。

4 今回取扱う電源構成モデルは、代表年度毎に得られ

た計算結果を至近年(代表年度を含む計 5 ヵ年)の平均

値として取り扱うため、T年度の現在価値換算係数は、

至近 5 ヵ年分(T0 と TN は 3 ヵ年) が含まれた形で表現

されている。 5 沖縄を除く 9 電力会社を対象とした。

図 4.1 長期電源構成モデルの入出力データFig.4.1 Input and Output Data of OPTIGEN

【目的関数】

TN

TTGTRRTC

0 GGT,,T )CV(CF (4.1)

1-TNT1(

TN)T)1()1(1

)1()1(1)1()1(

)0()1()1(1

)1(

2

212

21

5

T

RR

RRRR

TTRR

RRR TT

(4.2)

ここで、

RRT :T 年度の現在価値換算係数

CFT,G :T 年度における電源 G の固定費

CVT,G :T 年度における電源 G の可変費

R :割引率 (今回は 3%に設定)

本分析では、計画期間 (2000‐2040 年度) の

うち、代表年度として 5 年毎に 9 点(2000,2005,

2010,2015,2020,2025,2030,2035,2040

年度) 設定した。代表年度毎に夏季 大 3 日、第

長期電源構成モデル

(OPTIGEN)

・新設設備容量

・発電電力量

・発電コスト

・燃料消費量

・CO2排出量

・発電電力パターン等

・供給予備力

・割引率

・建設単価

・年経費率

・運用管理費単価

・燃料価格

・燃料消費量制約

・CO2排出量制約

・電力日負荷曲線

・運開年度既設容量

・新設設備容量制約

・全設備容量制約

・発電効率(発電端)

・所内率

・設備利用率上限

・負荷追従率制約

・揚水式水力の運転制約

・一般水力‐その他電源

の発電出力

Page 15: Report y10021 1

-9- ©CRIEPI

二 大 7 日、(夏季,冬季,中間期)×(平日,休日)

の計8代表日に分割した一時間刻みの日負荷曲線

と代表日の日数6を与え計算した。ここで、夏季

は 6-9 月、冬季は 12-3 月、中間期は 4-5 月と 10-11

月を示す。

主な制約条件は以下の通りである。なお、今回

は、CO2排出原単位制約を課していない。

①電源開発量制約

T 年度に運開する新設電源の設備容量 KT,Gと T

年度における全設備容量 CAPT,G の各々に対し、

4.3 式に示す通り上限値と下限値を供給計画や過

去の実績を考慮して設定する。

GTGTGT

GTGTGT

CAPUPRCAPCAPLWR

KUPRKKLWR

,,,

,,,

(4.3)

ここで、

KLWRT,G :T 年度,電源 G の新設設備容

量下限値

KUPRT,G :T 年度,電源 G の新設設備容

量上限値

CAPLWRT,G :T 年度,電源 G の全設備容量

下限値

CAPUPRT,G :T 年度,電源 G の全設備容量

上限値

②電力需給バランス

発電量と需要量を毎時一致させる(4.4 式)。

HRDAYTHRDAYT

HRDAYTHRDAYTG

GHRDAYT

LOTHRS

HYDSX

,,,,

,,,,,,,

(4.4)

ここで、

XT,DAY,HR,G :T 年度,代表日 DAY,時刻 HR

における電源 G の発電出力

6 各代表日の日数は以下の通り。夏季 大 3 日(3 日)、第二 大 7 日(7 日)、夏季平日(87 日)、冬季平日(97日)、中間期平日(97 日)、夏季休日(25 日)、冬季休日

(24 日)、中間期休日(25 日)。

(送電端)

ST,DAY,HR :揚水用動力(送電端)

HYDT,DAY,HR :一般水力の発電出力

OTHRST,DAY,HR :その他電源の発電出力

LT,DAY,HR :T 年度,代表日 DAY,時刻 HR

における需要(送電端)

③供給力の確保

大需要と供給予備力の確保に必要な供給力

を確保する(4.5 式)。今回は、供給予備力を 10%

に設定している。

HRDAYT

HRDAYT

GG

DAYG

L

THRS

PLTUSEFACUPR

,,

,,HRDAY,T,

GT,,

DELTA1

OHYD

CAP)1(

)(

++

(4.5)

ここで、

FACUPRG,DAY :代表日 DAY における電源 G

の設備利用率上限値

PLTUSEG :電源 G の所内率7

DELTA :供給予備率(10%)

CAPT,G :T 年度における電源 G の設

備容量

④揚水式水力の運用制約

日間運転のみを扱うため、揚水効率(発電端)

PMEF と所内率を考慮して一日の揚水動力負荷

と発電電力量を一致させる(4.6 式)。

HR,,T

2PUMP""

"",,,

S1( HRDAY

HRPUMPHRDAYT

PLTUSEPMEF

X

(4.6)

⑤電源設備の更新

期が進む毎に、寿命年数を過ぎた老朽電源設備

は廃止される。一方、供給予備力制約を満たすた

めに必要であれば、電源が新設される(4.7 式)。 7 今回の設定データについては、4.2 節参照。

Page 16: Report y10021 1

-10- ©CRIEPI

GTLTGTGT GGT KKCAPCAP .,, ,1

(4.7)

ここで、

CAPT,G :T 年度,電源 G の設備容量

CAPT-1,G :T-1 年度,電源 G の設備容量

KT,G :T 年度,電源 G の新設設備容

KT-TLG,G :T 年度に廃止される老朽電

源 G の設備容量

⑥負荷追従性能制約

負荷変動に対する追従性が電源毎に違うこと

を考慮する(4.8 式)。

GHRDAYTG

GHRDAYTGHRDAYTG

XFLWUPR

XXFLWLWR

,,,

,1,,,,,

)1(

)1(

(4.8)

ここで、

FLWLWRG :負荷追従率下限値

FLWUPRG :負荷追従率上限値

⑦設備利用率上限8

T 年度, 代表日 DAY における電源 G の発電出

力を、当該日稼働可能な発電設備容量以下に制限

する(4.9 式)。これは、定期点検等により全発電設

備が 1年間フル稼働できない実態を模擬したもの

である。

GTGDAYGGHRDAYT CAPPLTUSEFACUPRX ,,,,, )1(

(4.9)

4.2 長期電源構成モデルで使用する主要データ

4.2.1 電力需要データ

2000 年度 (基準年度) における代表日毎の日

負荷曲線 (推定値) を図 4.2 に示す。この基準年

度の日負荷曲線をベースにして、計画期間内にお

ける各代表年度の日負荷曲線を推定した。各代表

年度の日負荷曲線は、将来における 大需要予測

8 今回の設定データについては、4.2 節参照。

図 4.2 2000 年度の日負荷曲線(推定値) Fig.4.2 Estimated Hourly Load Curve in

FY2000

や電力使用量予測と整合が図れるように算出し

た。ここで、将来における 大需要予測や電力使

用量予測は、経済産業省の長期エネルギー需給見

通し(経産省, 2008)や電力供給計画の概要(経産省,

2010) 等の公開データに基づいて著者らが作成

したものを使用した。図 4.3 と表 4.1 に、その想

定需要 ( 大需要と電力使用量)を示す。電力使用

量の伸びが 大需要の伸びを上回っているため、

年負荷率は向上する想定となっている(表 4.1)。

図 4.3 2040 年度までの想定需要 Fig.4.3 Maximum Demand and Energy Forecast

toward FY2040

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

電力

使用

量(億

kWh)

最大

需要

(万

kW)

年度

最大需要

電力使用量

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

H1 H3 H5 H7 H9 H11 H13 H15 H17 H19 H21 H23

電力

需要

(万kW

時間(H)

最大3日

第二最大7

日夏季平日

冬季平日

中間期平日

夏季休日

冬季休日

中間期休日

Page 17: Report y10021 1

-11- ©CRIEPI

表 4.1 2040 年度までの想定需要 Table 4.1 Forecasted Maximum Demand and Energy

toward FY2040

(出所)(経産省, 2008)や(経産省, 2010) に基づいて著者らが作成。

至近年の需要は、ピーク需要の伸び率が鈍化す

る一方で、夜間などのオフピーク需要が増加し、

年間の使用電力量の伸び率が 大需要の伸び率

を上回る傾向にある。そこで、この傾向を考慮し、

需要水準が低い時間帯ほど需要の伸び率が大き

いという仮定を置いて、将来の日負荷曲線を作成

した。具体的には、代表年度 T における各代表日

di (i=1‐8) , 時刻 h(1‐24 時)の需要 LT(di, h) を、

想定した 大需要の伸び率 c、電力使用量の伸び

率 c’、および T-1 年度の需要 L T-1(di, h) から、以

下の通り算出した(4.10, 4.11, 4.12 式)。ここで、

Peak は、 大需要の発生時刻である夏季 大 3

日(d1)の 15 時を示す。

(4.10)

(4.11)

(4.12)

ここで、

di :代表日(i = 1‐8)

h :時刻 (1‐24 時)

c, c’ : 大需要、電力使用量の伸び率(%)

LT(di, h):T 年度, 代表日 di, 時刻 h の需要

上記計算式により算出された 2040 年度におけ

る夏季 大 3 日の日負荷曲線を図 4.4 に示す。

2040 年度の需要は、2000 年度(基準年度)の同時

刻における需要水準が低い時刻ほど増えている

ことが確認できる。

図4.4 2000年度と2040年度における夏季最大3日の日負荷曲線

Fig.4.4 Hourly Load Curve of Three Highest Days in FY2000 and FY2040

4.2.2 費用データ

既設電源と新設電源の発電機別の建設単価を

表 4.2 に示す。2000 年度以前の既設電源は、推定

平均単価に基づいて設定した。一方、2000 年以降

の新設電源は、電源開発の概要(経産省, 2005[1])

のデータを引用した。ここで、既設電源の投資費

用は埋没コストであるため、将来の電源計画に影

響を与えないが、4.4 節に示す評価期間の総発電

コストをできるだけ正確に計算するために設定

した。

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

18,000

20,000

H1 H3 H5 H7 H9 H11 H13 H15 H17 H19 H21 H23

電力

需要

(万kW

)

時間(H)

2000年度

2040年度

年度 電力使用量

(億 kWh) 大需要

(万 kW) 年負荷率

(%)

2000 8,779 16,854 59.5

2010 9,168 16,822 62.2

2020 10,293 18,260 64.4

2030 10,761 18,474 66.5

2040 11,251 18,691 68.7

年伸び率(%)

2000 -2010

0.43% -0.02% -

2010 -2020

1.17% 0.82% -

2020 -2030

0.45% 0.12% -

2030 -2040

0.45% 0.12% -

h) ,(d L h)) ,(dL a - b + (1 = h) ,(dL i1-Ti1-TiT

8

1i

24

1h11i1-T

8

1i

24

1hi

21-T ),()h,dL/)h,dL / )c'-(c a PeakdLT((

Peak) ,(dL acb 11-T

Page 18: Report y10021 1

-12- ©CRIEPI

表 4.2 計画期間内の建設単価 Table 4.2 Unit Construction Cost during the

Planning Period

(出所)2000 年度以前の建設単価は、推定平均単価を適用し、2000 年度以降については、平成 17年度電源開発の概要(経産省, 2005[1])から引用した。

表 4.3 に、計画期間における化石燃料価格を示

す。2000‐2005 年度の燃料単価として 9 電力会社

の平均購入価格(実績)を適用し、2010 年度以降の

将来価格は、2005 年度の実績値に将来予測価格の

伸び率を乗じて算出した。この伸び率は、World

Energy Outlook (IEA, 2010) が報告している化石

燃料の輸入実績価格(2008 年)と将来予測価格

(2008年実質価格) から求めた伸び率を採用した。

図 4.5 に化石燃料別の燃料単価の推移(予測)を示

す。特に石炭以外の化石燃料価格は、今後も高騰

する想定である。

表 4.3 計画期間の化石燃料単価9 Table 4.3 Unit Fossil Fuel Cost during the

Planning Period

年度石炭 LNG 原油 重油

(円/kg) (円/kg) (円/l) (円/l)

2000 4.94 28.91 25.99 25.59

2005 7.94 38.15 46.65 44.93

2010 10.77 54.80 48.81 46.80

2015 10.81 68.10 68.31 65.50

2020 11.25 74.80 74.80 83.94

2025 11.52 79.27 79.34 89.03

2030 11.68 83.17 83.12 93.27

2035 11.78 85.41 85.38 95.81

2040 11.78 85.41 85.38 95.81

(出所)9 電力会社の平均購入価格(実績)や(IEA, 2010)に基づき著者らが作成。

図 4.5 計画期間内の燃料単価 Fig.4.5 Unit Fossil Fuel Cost during the

Planning Period

発電コストの計算に必要な諸元データを表 4.4

に示す。年経費率として、年経費率 1 (=償却年

数均等化で計算した資本費の年経費率)、年経費

率 2 (=償却期間後の残存価値分の年経費率)、お

よび年経費率 3 (=耐用年数均等化で計算した資

本費の年経費率)の 3 種類を適用した。初めに、

年経費率 3を長期電源構成モデルに適用して 適

な電源構成を求める。次に、電源新設に伴う代表

年度毎の資本費を、年経費率 1 と年経費率 2 を用

いて再計算した。ここで、運開年から法定償却年

9 2008 年実質価格を適用。

0.0 

20.0 

40.0 

60.0 

80.0 

100.0 

120.0 

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

燃料

価格

(円/@

)

年度

石炭 (円/kg)

LNG (円/kg)

原油 (円/l)

重油 (円/l)

発電所

建設単価 (万円/kW)

2000 年度以前

(既設電源)

2000 年度以降

(新設電源)

原子力 37.7 27.9

石炭 30.4 27.2

LNG 従来 21.4 16.4

LNG 複合 23.2 16.4

石油 20.6 26.9

揚水 19.6 19.6

Page 19: Report y10021 1

-13- ©CRIEPI

までに年経費率 1 を、法定償却年から耐用年まで

に年経費率 2 を適用した。料金の原価計算の際、

設備の償却年数に基づく処理がなされるため、こ

のような処理を行った。

表 4.4 発電コストの計算に必要な諸元データ

Table 4.4 Data for Calculating Generation Cost

4.2.3 発電性能と運転制約に関するデータ

表 4.5 に燃料の高位発熱量を示す。高位発熱量

は、エネルギー源別標準発熱量表 (経産省 ,

2005[2])から引用した。

表 4.5 燃料の高位発熱量 Table 4.5 Higher Heating Value

燃料 @ 燃料の高位発熱量

(kcal/@)

原子力 kWh 860

石炭 kg 6139

LNG kg 13043

原油 l 9412

重油 l 9842

(出所)(経産省, 2005[2])から引用。

表 4.6 に発電端熱効率と所内率を示し、表 4.7

に設備利用率の上限値を示す。いずれも、平成 11

年度の実績値 (経産省, 2000) に基づいて著者ら

が作成したデータを採用した。

表 4.6 発電端熱効率と所内率 Table 4.6 Gross Thermal Efficiency and

Internal Consumption Rate

(出所) (経産省, 2000) の実績データに基づいて、著者らが作成。

表 4.7 設備利用率上限値 Table 4.7 Upper Limit of Capacity Factor of

Power Plants 〔単位:%〕

(出所) (経産省, 2000) の発電・補修計画に基づいて、著者らが作成。

4.3 リファレンスケース(DRなし)時の計算結

本節では、リファレンスケース(DR なし:α=0)

における長期電源構成モデルの算出結果11につい

て記載する。

10 揚水効率は 65%、揚水発電の持続時間は 5 時間に設

定。 11 4.1 節に記載の通り、CO2排出原単位制約は課してい

ない。2005 年度の CO2 排出原単位(使用端換算)は0.367kg-CO2/kWh となり実績よりやや低い結果とな

ったが、将来的には、図 4.7 の通り石炭火力の比率が

高くなり、既存の目標(0.34kg-CO2/kWh)を大きく上回

る結果となった。

発電所

寿命

年数

法定

償却 年数

年経

費率 1

年経

費率 2

年経

費率3

(年) (年) (%) (%) (%)

原子力 40 15 8.65 0.59 5.32

石炭 40 15 8.95 0.69 5.31

LNG 従来 40 15 8.92 0.73 5.31

LNG 複合 40 15 8.92 0.73 5.31

石油 40 15 8.92 0.73 5.31

揚水 50 40 5.60 0.59 4.95

発電端 所内率

発電所 熱効率

(%) (%)

原子力 100 4.5

石炭 40.1 6.5

LNG 従来 38.2 4.5

LNG 複合 43.8 2.9

石油 37.5 6.3

揚水 100 0.5

発電所

夏季

大 3 日,

第二

大 7 日

夏季 平/休日

冬季 平/休日

中間期

平/休日

原子力 86.00 83.00 85.00 85.00

石炭 96.00 91.00 86.00 76.00

LNG 従来 94.00 90.00 81.00 79.00

LNG 複合 91.00 90.00 91.00 85.00

石油 90.00 85.00 82.00 80.00

揚水10 96.00 96.00 93.00 93.00

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-14- ©CRIEPI

図 4.6 に全設備容量の推移を示し、図 4.7 に発

電電力量の推移を示す。また、図 4.8 に発電原価

の推移を示す。ここで、図 4.3 に示す通り、 大

電力(kW)が微少ながらも年々増加する想定に反

して、図 4.6 では 2015 年度から 2025 年度にかけ

て全設備容量が減少している。これは、2000 年度

以前に建設された遊休設備 (主に石油火力) が寿

命年数を迎え除却されたためである。

図 4.6 全設備容量の推移(DR なしの場合)

Fig.4.6 Total Capacity of Power Plants during the Planning Period in non-DR Case

図 4.7 発電電力量の推移 (DR なしの場合)

Fig.4.7 Total Generated Energy of Power Plants during the Planning Period in non-DR Case

図 4.8 発電原価の推移 (DR なしの場合)

Fig.4.8 Unit Generation Cost during the Planning Period in non-DR Case

4.4 DRプログラムによる発電コストの低減効

本節では、DR プログラムによる発電コストの

低減効果を示す。DR プログラムによる発電コス

トの効果を、長期電源構成モデルの計画期間全体

(41 年間)で評価してしまうと、計画期間に占める

DR 未適用期間 (2000‐2012 年度) の割合が全期

間の約 3 割を占めることから、分析結果が鈍って

しまう恐れがある。従って、図 4.9 と図 4.10 に記

載の通り、計画期間 (41 年間) のうち、2010 年度

から 2040 年度までの 31 年間を DR の評価期間と

して位置付け、この評価期間のみを対象に、DR

の影響評価を行うことにした。以降に、その分析

結果について記載する。

4.4.1 DRによる総発電コストと発電原価の変

ピークカット率 α (%) を変化させた場合の代表

年度の 大需要を図 4.9 に示す。各年度の 大需

要が異なれば、DR による需要削減量も年度毎に

若干異なる。しかし、特に、2020 年度以降につい

ては、 大需要が大きく変わらない想定であるこ

とから、DR による削減需要もあまり変わらない。

例えば α = 1.0% のケースでは、代表年度 2020 年

度以降の 大需要が 180 万 kW/年程度削減される

想定である (図 4.10)。

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

全設

備容

量(万

kW)

年度

一般水力他

揚水

石油

LNG複合

LNG従来

石炭

原子力

0.0 

1.0 

2.0 

3.0 

4.0 

5.0 

6.0 

7.0 

8.0 

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

発電

原価

(円/kWh)

年度

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-15- ©CRIEPI

図 4.9 DR による最大需要の削減 Fig.4.9 Reduced Maximum Demand by DR

Introduction

図 4.10 α=1.0%時の削減需要

Fig.4.10 Reduced Maximum Demand in the α=1.0% Case

ピークカット率 α (%) を変化させた場合の評価

期間 (2010‐2040 年度) における総発電コスト

(現在価値換算12) の推移を図 4.11 に示す。DR を

実施しない場合の総発電コスト(現在価値換算)

は、140.83 兆円となった。また、総発電コストは、

DR によるピークカット率の増加に伴い減少し、

ピークカット率 α = 1.0%の時点では、DR なしの

ケースに比べ約 0.19%減少し、140.56 兆円となっ

た。

図 4.12 に総発電コストの増減内訳 (固定費、可

変費)を示す。ピークカット率の増加に伴い、固

定費が減少する一方で、可変費がやや増加する。

12 評価期間における総発電コストの 2010 年度現在価

値換算結果。

図 4.11 評価期間の総発電コスト(現在価値換算) Fig.4.11 Present Value of Total Generation

Cost during the Estimation Period

図 4.12 固定費と可変費の増減

Fig.4.12 Increase and Decrease in Fixed and Variable Costs

可変費の増加は、ピークカット率の増加によ

り、揚水発電と化石燃料電源の利用率が増加した

ことによるものである。一方、固定費が減少した

主な要因として、LNG 従来火力と石炭火力の建

設コストの低減効果が挙げられる(図 4.13)。ピー

クカット率 α = 1.0%のケースでは、固定費削減分

約 3300 億円 (現在価値換算) のうち、LNG 従来

火力による効果が約 2200 億円で、石炭火力によ

る効果が約 1100 億円となっている。図 4.14 は、

LNG 従来火力と石炭火力の発電所新設容量の増

減を代表年度別に示したものである。LNG 従来

火力については、図 4.14(a) から、新設電源容量

が減少していることが分かる。一方、石炭火力に

15,000

15,500

16,000

16,500

17,000

17,500

18,000

18,500

19,000

19,500

20,000

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

最大

需要

(万kW

)

年度

α=0%

α=0.25%

α=0.5%

α=0.75%

α=1.0%

α=1.25%

α=1.5%

長期電源構成モデルの計画期間

DRプログラムの評価期間

0

50

100

150

200

250

300

2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

最大

需要

の削

減量

(万kW

年度

長期電源構成モデルの計画期間

DRプログラムの評価期間

14020 

14030 

14040 

14050 

14060 

14070 

14080 

14090 

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

総発

電コ

スト

(百億

円)

ピークカット率α(%)

‐60 

‐50 

‐40 

‐30 

‐20 

‐10 

10 

20 

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

総発

電コ

スト

増減

(百億

円)

ピークカット率(%)

可変費

固定費

総コスト増減

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-16- ©CRIEPI

ついては、図 4.14(b) から、2025 年度の新設容

量減少分と 2030 年度の新設容量増加分が一致し

ており、すなわち、評価期間内で新設時期の延伸

化がなされていることが確認できる。

図 4.13 固定費の内訳(現在価値換算) Fig.4.13 Breakdown of Present Value of Fixed

Cost

図4.14 LNG従来火力と石炭火力発電所の新設

容量の増減 Fig.4.14 Increase and Decrease in New Capacity of Conventional LNG and COAL Power Plant

図 4.15に、DRを行わない場合 (α = 0%) と DR

を行う場合 (α = 1.5%) の発電原価の年度推移を

示す。2035 年度までは、DR を行った場合の発電

原価が DR を行わない場合の発電原価を下回って

いるが、2040 年度では逆転している。これは、

目的関数が計画期間における発電コストの合計

(4.1 式)であるため、代表年度全てにおいて、必ず

しも同じ傾向が見受けられるとは限らないこと

を意味している。従って、DR による発電原価へ

の影響をより定量的に評価するためには、ある時

系列的断面の発電原価ではなく、評価期間内の発

電原価を包括的に表現した指標が必要となる。そ

こで、著者らは、その指標として、“平均発電原

価”を適用した。以降にその内容について記載す

る。

図 4.15 評価期間の発電原価の推移

Fig.4.15 Unit Generation Cost during the Estimation Period

仮に評価期間内における代表年度 T(T2-TN)の

発電原価 PT が全て等しいと仮定して、その値を

平均発電原価 P(=PT2=PT3=・・=PTN)と定義す

ると、平均発電原価 P は、代表年度 T の発電コ

スト TCTと発電電力量 PETから 4.13 式の通り求

められる。ここで、RRTは T 年度の現在価値換算

係数である。

‐60

‐50

‐40

‐30

‐20

‐10

0

10

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

固定

費減

少分

の内

訳(百

億円

ピークカット率α(%)

その他

LNG従来

石炭

合計

6.200 

6.300 

6.400 

6.500 

6.600 

6.700 

6.800 

6.900 

7.000 

2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

発電

原価

(円/kWh)

年度

α=0%

α=1.5%

(a) LNG 従来火力の年度別新設容量の増減

‐400

‐350

‐300

‐250

‐200

‐150

‐100

‐50

0

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

新設

容量

の増

減(万kW

ピークカット率α(%)

2040年度

2035年度

2030年度

合計

(b)石炭火力の年度別新設容量の増減

Page 23: Report y10021 1

-17- ©CRIEPI

(4.13)

また、評価期間内における代表年度 T の年負

荷率を LFTとし、計算の都合上、代表年度 T とし

て取り扱う至近年の年数をDT (DT2とDTNは3年、

DT3-DTN-1は 5 年)とする(脚注 4 参照) と、平均年

負荷率 LF は 4.14 式の通り求められる。

(4.14)

4.13 式と 4.14 式により求められた平均発電原

価(現在価値換算)13と平均年負荷率を図 4.16 に示

す。DR を実施しない場合(平均年負荷率 65.4%)

の平均発電原価は 6.661 円/kWh となった。また、

平均発電原価は、総発電コストと同様にピークカ

ット率の増加に伴い減少し、ピークカット率 α =

1.0%の時点(平均年負荷率 66.0%)では、DR なし

のケースに比べて 0.013 円/kWh (約 0.19%) 減少

し、平均発電原価は、6.648 円/kWh となった。

図 4.16 評価期間の平均発電原価と平均年負荷率

Fig.4.16 Averaged Unit Generation Cost and Averaged Annual Load Factor during the

Estimation Period

13 2010 年度現在価値換算。

4.4.2 DRによる発電コストの低減効果

本項では、試算した回避可能原価に基づいて、

DR による発電コストの低減効果について考察す

る。ここで、回避可能原価とは、DR により 大

需要を追加的に 1kW 若しくは 1kWh 削減するこ

とにより回避できる発電コストとして定義する。

言い換えると、DR を行う場合のプログラムコス

トを回避可能原価以下に抑えないと、社会的な費

用便益を得ることができない。すなわち、回避可

能原価は、損益分岐費用(ブレークイーブンコス

ト)ともいえる。

(1)kW当たりの回避可能原価

図 4.17 は、ピークカット率の変化による総

大需要と総発電コストへの影響を示したもので

ある。総 大需要と総発電コストが概ね比例関係

にあり、この関係から 1 次近似式は 4.15 式の通

り求められる。

図 4.17 評価期間の総最大需要と総発電コスト Fig.4.17 Total Maximum Demand and Total Cost

during the Estimation Period 総発電コスト (円) = 8500 × 総 大需要(kW)+10930×106 (4.15)

ここで、ピークカット率を α-0.25(%)から α (%)

に変化させた場合の総発電コストの削減分を

ΔTCα、総 大需要の削減分を ΔPDαとすると、1kW

当たりの回避可能原価は 4.16 式により計算され、

図 4.18 の通り示される。求められたピークカット

64.8 

65.0 

65.2 

65.4 

65.6 

65.8 

66.0 

66.2 

66.4 

66.6 

6.630 

6.635 

6.640 

6.645 

6.650 

6.655 

6.660 

6.665 

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

平均

年負

荷率

(%

平均

発電

原価

(円

/kW

h)

ピークカット率(%)

平均発電原価(円/kWh)

平均年負荷率(%)

0%

0.25%

0.5%

0.75%

1%

1.25%

1.5%

y = 0.0085x + 10930

14040 

14045 

14050 

14055 

14060 

14065 

14070 

14075 

14080 

14085 

14090 

366000 367000 368000 369000 370000 371000 372000

総発

電コ

スト

(百

億円

総最大需要(万kW)

TN

TTTT

TN

TT

T

TN

TT

TN

TTT

RRTCRRkWhP

TCRRPRR

2TT

2

T22

T

)PE(/()/(

(PE(

)円

))

 平均年負荷率  TTT

TTT

DD

TN

2T

TN

2

/)LF((%)LF

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-18- ©CRIEPI

率毎の回避可能原価の平均は 8500 円/kW となり、

4.15 式の傾きと一致する。

(4.16)

図 4.18 DR による kW 当たりの回避可能原価 Fig.4.18 Avoided Cost per kW from DR

Introduction

上述した回避可能原価の妥当性について、以下

に記載する。仮に、LNG 従来火力電源を新設する

場合を想定する。電源新設に必要な年経費は LNG

従来電源の建設単価を UCLNG(円/kW)とし、耐用

年数平均化により計算された年経費率 3 とする

と、4.17 式の通り計算14され、8704 円/kW となる。

この値が上述の回避可能原価(平均 8500 円/kW)と

同程度となることから、回避可能原価の妥当性が

確認できる。言い換えると、1kW 当たりの回避可

能原価(円/kW)は、おおよそ LNG 従来火力発電所

の建設単価の年経費相当である。

電源新設時の年経費 (円/kW)

= UCLNG × 年経費率 3 (耐用年数平均化)

= 164000 × 0.0531 = 8704

≒ 回避可能原価(円/kW) (4.17)

14 UCLNGは表 4.2、年経費率 3 は表 4.4 から引用した。

(2)kWh当たりの回避可能原価

図 4.19 は、ピークカット率の変化による総発電

電力量と総発電コストへの影響を示したもので

ある。

図 4.19 総発電電力量と総発電コスト Fig.4.19 Total Generated Energy and Total Cost

during the Estimation Period

ここで、ピークカット率を α-0.25(%)から α (%)

に変化させた場合の総発電コストの削減分を

ΔTCα、発電電力量の削減分を ΔPEα とすると、

1kWh 当たりの回避可能原価は 4.18 式により試算

され、図 4.20 から、α = 1.0 の DR で 1400 円/kWh

程度となることが確認できる。ピークカット率の

増加に伴い、回避可能原価 (円/kWh) が減少する

のは、4.18 式の分母ΔPEαが大きくなるためであ

る。

(4.18)

‐2000

‐1000

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

9000

10000

11000

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

回避

可能

原価

(円/kW)

ピークカット率α(%)

可変費(円/kW)

固定費(円/kW)

回避可能原価

(円/kW)

0%

0.25%

0.5%

0.75%

1%

1.25%

1.5%14040 

14045 

14050 

14055 

14060 

14065 

14070 

14075 

14080 

14085 

14090 

21143600 21143700 21143800 21143900 21144000

総発

電コ

スト

(百

億円

)総発電電力量(百万 kWh)

αααααα

α

ΔΔ)-()-

(円回避可能原価

PE/TCPEPE/TC(

)/

25.025.0 TC

kWh

αααααα

α

ΔΔ)-()-

(円回避可能原価

PD/TCPDPD/TC(

)/

25.025.0 TC

kW

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-19- ©CRIEPI

図 4.20 DR による kWh 当たりの回避可能原価

Fig.4.20 Avoided Cost per kWh from DR Introduction

ここで、4.16 式や 4.18 式により求められる計算

結果は、ピークカット率が異なる計 7 パターンの

シミュレーション結果 (離散結果) 同士の差分演

算にすぎない。従って、本結果 (図 4.18, 図 4.20)

は、ピークカット率毎の限界価値を厳密に表現し

たものではないことに注意されたい。

500 

1000 

1500 

2000 

2500 

3000 

0 0.25 0.5 0.75 1 1.25 1.5

回避

可能

原価

(円/k

Wh)

ピークカット率α(%)

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-20- ©CRIEPI

5 まとめ

DR プログラムの社会的な費用便益分析を行う

うえで必要な電力供給側の評価のうち、同プログ

ラムが発電コストに与える影響について評価し

た。

夏季 大 3 日のピーク時間帯 (13 時から 16 時)

のみ発動して、 大需要を抑制する DR プログラ

ムを想定した。全国大の電源を対象とした長期電

源構成モデルを使用して、同プログラムが 2013

年度以降に導入された場合の、評価期間 (2010 年

度から 2040 年度) における発電コストへの影響

を評価した。

その結果、総発電コストと平均発電原価は、ピ

ークカット率 α (%)の増加に伴い減少し、α = 1.0%

の時点で、共に 0.19%程度減少した。

また、DR によるピークカット率の増加に伴い、

電源新設の回避や延伸化により固定費が減少し、

化石燃料費の影響により可変費がやや増加した。

結果として、DR により 大需要を追加的に 1kW

削減することによる発電コストの回避可能原価

は、平均 8500 円/kW となった。これは、おおよ

そ LNG 従来火力発電所の建設単価の年経費相当

である。

今後は、発電コストだけではなく、DR の導入

が送・配電設備コストに与える影響や、DR を行

う上で必要なプログラムコストを考慮したうえ

で、社会的な費用便益評価を行うことが必要であ

る。更には、前述のとおり DR プログラムの目的

はピークカットだけでないことを念頭におき、PV

の大量導入や EV の普及による日負荷曲線の変化

も考慮のうえ、ピークカット以外の DR の適用可

能性についても検討していきたい。

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-21- ©CRIEPI

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電力中央研究所報告 〔不許複製〕

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