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ミュージシャン藤井保文による音楽レビュー。ここで紹介されているブライアン・イーノは、イギリス出身の作曲家、音楽理論家。アンビエント・ミュージックの父と呼ばれ、様々な音楽ジャンルを越境しながら多彩な活動を繰り広げている。TRANSCRIPT
shishiNo.6
Reviewby Yasufumi Fujii
disportable music
空港は都市である。独特の建築に、人がいて店があって、政治も経
済も文化も、治安も近所付き合いもある。一つ扉を開けると、従業員
だけの裏街がある。僕らの知らない所で寝泊まりしていたり、意外に
生活もあるわけだ。
かく語る僕は五年程、羽田空港でバイトをしていた。楽器の入った
巨大な鞄を壁に立てかけたまま忘れて、取りに戻ったら厳重なテロ警
戒が敷かれてたことがある。
Brian Eno “Ambient 1: Music for Airports”。空港という場所の
為に作られた環境音楽=アンビエントの名盤。実際ニューヨークのラ
ガーディア空港で流れているらしい。密かな自慢であるが、僕はバイ
トの休憩の合間、いつも日が差し込むベンチに座って、これを聴いて
昼寝していた。
ヘッドホンからするりと、雑踏や声は響きだけになって曲に馴染み、
目の前は何となく青と黄色と白に霞む。子供の無邪気な声が遠くで聴
こえるのを感じながら意識が遠のく。目が覚めても時間が止まったよ
うで、時計を見て、たった数分に感じた永さを体に染み渡らせる。
まさに“Music for Airports”。そうやって僕は気持ちよく休憩を過
ごしていた。
出来たばかりの羽田空港国際線ターミナルで、これを聴きながらこ
れを書こうと思った。でも僕の iPod には入っていなかったから、お
もむろに iPhone で youtube を開いた。
ふと立ち止まって、気づいてしまった。その音楽が存在しているの
は、空港の為ではなく、僕の為だった。本当は、雑踏と音楽のバラン
スが逆なはずなのだ。Airports の為の音楽は、Portable で聴いてもア
ンビエントにならない、dis-portable な音楽だった。
結局、僕は Eno の狙いと逆なバランスで聴くのが大好きなので、ま
あそれでもいいかと聴き続けたが、いつかニューヨークの空港に体験
しにいかないとな、とも思った。
YASUFUMI FUJII
藤井保文
number0.jp
バンド "number0" のドラム/映像。
number0 1st album "chroma" 発売中 。
映像作家としての PV 代表作に Kyte"Eyes Loose Their Fire" 等。
Photography by Miki Masayo
miuphoto.blogspot.com
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