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NTT技術ジャーナル 2005.11 30 RFID市場の現状 ■RFIDシステム構築における日本 の現状と米国の動向 日本においても,IC タグの導入に向 けたさまざまな取り組みがみられ,2 年ほど前からRFIDを業務へ活用する 企業が出始めています.しかしながら, 現在は必ずしも爆発的な普及に至って いるとはいえません.その要因はいく つか考えられます.RFIDの認識率や 読み取り距離などの技術が未熟なこ と,費用対効果(対ランニングコス ト)が不透明なこと,タグやリーダの コストが依然として高額なことなどで す.またRFIDにはベストプラクティ *1 がないという意見もあります.そ の理由の1つには,RFID技術標準は 確立過程にあり,現状はミドルウェア 製品が発表されつつある段階で,パッ ケージ製品がほとんど存在しないこと. もう1つには,個々の業態や業務に 合わせて,企業や団体が排他的なソ リューションを構築している現状があ るためです. 一方,米国での状況は日本に比べ, 実に多くの取り組みがなされています. ウォルマートやターゲットなど流通業 界での取り組みは,すでに実用導入段 階に入っているといわれ,日本の業界 関係者からも大きな注目を集めていま す.中でもウォルマートが主導する, EPC( Electronic Product Code) グローバル方式でのRFIDパイロット プロジェクトは有 名 です. そこに参 加している8社の1つで,髭剃りや シェービングクリームなどを生産する ジレットは,納入ケースのほとんどに RFIDを添付し,製品パッケージング の段階からIC タグの活用を研究するな ど,労働コスト削減と効率化に向けた 研究を続けています.このような流通 業界では,かねてより懸案であった余 剰在庫の削減,商品滞留の回避,検 品作業の省力化,偽造品の防止など を実現させるために,RFID導入によ る洗練されたサプライチェーンの実現 に非常に貪欲です. 取り組みは流通業界だけではあり ません.航空業界では,組み立て工程 管理や整備の正確性改善に,また自 動車業界では製造タイヤの追跡管理 やリコールによる早期回収にRFIDが 実用化されています.さらに製薬業界 においては,「e-Pedigree法 *2 」およ びFDA(Food and Drug Adminis- tration:米国食品医薬品局)の 「Compliance Policy Guide *3 」に おける,人体への悪影響を及ぼす医薬 品の偽造防止にRFIDを活用するな ど,各業界が高度なトレーサビリティ を実現しようとしています. ■基幹業務系に食い込みはじめた RFID ところで,RFIDの活用は,単なる バーコードの代替や従業員の手間の削 減というだけではなく,今や在庫の削 減や商品のリードタイム短縮,欠品率 の改善など,具体的な業務自体に投 資対効果のデータを蓄積し始めていま す.これはまさしく,RFIDが基幹業 務系に食い込み始めていることを示し RFIDを業務へ活用する取り組みが各方面で行われています.NTTデータで は,ユビキタス・ソリューションである「生産」「物流」「流通」「保守・メン テナンス」「リサイクル・廃棄」「資産管理」「セキュリティ」の7分野を中心 に,RFIDを活用したシステムの提供を目指しています.ここではRFIDを利用 した実証実験と活用事例を紹介します.なお本記事は,本年7月12日に開催 されました「第8回CIO特別フォーラム」(主催:株式会社IDGジャパン,会 場:六本木アカデミーヒルズ49オーディトリアム[六本木])での講演を基に 執筆したものです. RFIDが切り開く新たなビジネス・ スタイル --可視化が導くRFID業務革新 やまもと しゅういちろう 山本 修一郎 NTTデータ 技術開発本部 副本部長 兼 ビジネスイノベーション本部 ユビキタス推進室長 *1 ベストプラクティス:課題の克服や問題解 決のためのすぐれた実践例. *2 e-Pedigree法:国内外から流入する偽造医薬 品のほとんどが,医薬品の流通過程で紛れ 込んでいる事実を踏まえ,医薬品メーカか ら販売企業にいたる取引経路に関する記録 (Pedigree:系図)を,RFIDなどからの電子 データ管理するよう,州政府レベルで義務 付ける法案. *3 Compliance Policy Guide:FDAと税関国境警 備局(CBP)が2003年12月に公表した,バイ オテロ法食品関連施設登録規則の政策遵守 指針.バイオテロ法に基づき食品の安全性 を向上させながら,食品輸入の円滑な維持 を目指したもの.FDAは米国に輸入される あらゆる食品の輸入事前通知,食品関連会 社のFDAへの登録という2つの規制を所轄.

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Page 1: RFIDが切り開く新たなビジネス・ スタイル --可 …30 NTT技術ジャーナル 2005.11 RFID市場の現状 RFIDシステム構築における日本 の現状と米国の動向

NTT技術ジャーナル 2005.1130

RFID市場の現状

■RFIDシステム構築における日本

の現状と米国の動向

日本においても,ICタグの導入に向けたさまざまな取り組みがみられ,2年ほど前からRFIDを業務へ活用する企業が出始めています.しかしながら,現在は必ずしも爆発的な普及に至っているとはいえません.その要因はいくつか考えられます.RFIDの認識率や読み取り距離などの技術が未熟なこと,費用対効果(対ランニングコスト)が不透明なこと,タグやリーダのコストが依然として高額なことなどです.またRFIDにはベストプラクティス*1がないという意見もあります.その理由の1つには,RFID技術標準は確立過程にあり,現状はミドルウェア製品が発表されつつある段階で,パッケージ製品がほとんど存在しないこと.もう1つには,個々の業態や業務に合わせて,企業や団体が排他的なソリューションを構築している現状があるためです.一方,米国での状況は日本に比べ,

実に多くの取り組みがなされています.

ウォルマートやターゲットなど流通業界での取り組みは,すでに実用導入段階に入っているといわれ,日本の業界関係者からも大きな注目を集めています.中でもウォルマートが主導する,EPC(Electronic Product Code)グローバル方式でのRFIDパイロットプロジェクトは有名です.そこに参加している8社の1つで,髭剃りやシェービングクリームなどを生産するジレットは,納入ケースのほとんどにRFIDを添付し,製品パッケージングの段階からICタグの活用を研究するなど,労働コスト削減と効率化に向けた研究を続けています.このような流通業界では,かねてより懸案であった余剰在庫の削減,商品滞留の回避,検品作業の省力化,偽造品の防止などを実現させるために,RFID導入による洗練されたサプライチェーンの実現に非常に貪欲です.取り組みは流通業界だけではあり

ません.航空業界では,組み立て工程管理や整備の正確性改善に,また自動車業界では製造タイヤの追跡管理やリコールによる早期回収にRFIDが実用化されています.さらに製薬業界においては,「e-Pedigree法*2」およ

びFDA(Food and Drug Adminis-t r a t i o n:米国食品医薬品局)の「Compliance Policy Guide*3」における,人体への悪影響を及ぼす医薬品の偽造防止にRFIDを活用するなど,各業界が高度なトレーサビリティを実現しようとしています.■基幹業務系に食い込みはじめた

RFID

ところで,RFIDの活用は,単なるバーコードの代替や従業員の手間の削減というだけではなく,今や在庫の削減や商品のリードタイム短縮,欠品率の改善など,具体的な業務自体に投資対効果のデータを蓄積し始めています.これはまさしく,RFIDが基幹業務系に食い込み始めていることを示し

RFIDを業務へ活用する取り組みが各方面で行われています.NTTデータでは,ユビキタス・ソリューションである「生産」「物流」「流通」「保守・メンテナンス」「リサイクル・廃棄」「資産管理」「セキュリティ」の7分野を中心に,RFIDを活用したシステムの提供を目指しています.ここではRFIDを利用した実証実験と活用事例を紹介します.なお本記事は,本年7月12日に開催されました「第8回CIO特別フォーラム」(主催:株式会社IDGジャパン,会場:六本木アカデミーヒルズ49オーディトリアム[六本木])での講演を基に執筆したものです.

RFIDが切り開く新たなビジネス・スタイル--可視化が導くRFID業務革新やまもと しゅういちろう

山本 修一郎 NTTデータ 技術開発本部 副本部長 兼 ビジネスイノベーション本部 ユビキタス推進室長

*1 ベストプラクティス:課題の克服や問題解決のためのすぐれた実践例.

*2 e-Pedigree法:国内外から流入する偽造医薬品のほとんどが,医薬品の流通過程で紛れ込んでいる事実を踏まえ,医薬品メーカから販売企業にいたる取引経路に関する記録(Pedigree:系図)を,RFIDなどからの電子データ管理するよう,州政府レベルで義務付ける法案.

*3 Compliance Policy Guide:FDAと税関国境警備局(CBP)が2003年12月に公表した,バイオテロ法食品関連施設登録規則の政策遵守指針.バイオテロ法に基づき食品の安全性を向上させながら,食品輸入の円滑な維持を目指したもの.FDAは米国に輸入されるあらゆる食品の輸入事前通知,食品関連会社のFDAへの登録という2つの規制を所轄.

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Lecture・note

NTT技術ジャーナル 2005.11 31

ています.ジレットの取り組みも同様ですが,欠品を防ぐために必要な商品をいち早く認識して生産し,目的の販売店へ速やかに配送するという,基幹系システムと連携したかたちに変えつつあるといえます.ウォルマートのRFID導入にみる情

報流通形態を参考にすると,取引先とのデータベースの共有には,既存のEDI(Electronic Data Interchange)ネットワークに接続してRFIDデータを活用する「業界データプール」,小売事業者とメーカの基幹系システムをつなぐ「企業間エクストラネット」,そし

て,各社のEPCIS(EPC InformationService)どうしを相互に結ぶ「業界EPCIS」という,3つの方法を活用できることが分かります(図1).■日本におけるRFID市場の成長

日本国内におけるRFID活用に向けた取り組みは,2003年ごろよりRFID関連の実証実験と並行して,閉域での商用化が始まりました.その技術的フィードバックがされることで,2005年度からのRFIDイントラネットの本格商用化が期待されています.また単独で使用する閉域型ネットワークから,開放型ネットワークへの移行が始まる

と,利用範囲が拡大し,機器やITの“所有”から“利用”へとサービス形態が変化していくでしょう.さらに,企業間連携が始まると相互接続が必要となり,社会インフラ化によって広範なサービスが出現し,RFIDエクストラネットの商用化,ASP化へと進むのではないかと考えています.

NTTデータのRFIDソリューション

■共通ソリューション基盤RFIDプ

ラットフォーム

ここで,NTTデータの共通ソリューション基盤であるRF IDプラットフォームを説明します.RFIDプラットフォームとは,RFIDタグで識別されたモノに対する情報の管理基盤のことで,安全で高度な情報管理を容易に実現することができるとともに,EPCグローバルの各種標準に準拠することで,他のシステムとの連携や最適なシステムを選択できます(図2).このRFIDプラットフォーム,およ

びセンサネットワークプラットフォームでは,生産者から物流事業者,小売事業者,そして一般家庭に至る流れの中の個々のシーンで,さまざまな

図2 共通ソリューション基盤RFIDプラットフォーム�

生産者� 物流事業者� 一般家庭�小売事業者�

コンテクスト・アウェアネス・マネジメント�プラットフォーム�

サービス連携�プラットフォーム�

個別アプリケーション�

データベース�

…�

RFIDプラットフォーム・�センサネットワーク�プラットフォーム�

端末(デバイス)の管理と統合�さまざまな端末(デバイス)を統一的に扱う仕組みを提供.�また端末を管理することで,端末の故障や不正利用を検出�

ユーザ管理�情報利用者の認証・ロールを管理し,�情報へのアクセス制御を行い,プライ�バシやセキュリティを確保�

情報管理�RFIDタグやセンサに紐づくオブジェクトに対する情報を登録・�編集・参照.大量の情報を処理可能にする負荷分散や,高度な�情報管理を可能にするメタ情報管理の仕組みを提供�

図1 情報流通形態�

メーカA�

メーカB�

基幹系�

基幹系�

基幹系�社内�EPCIS

社内�EPCIS

社内�EPCIS

小売�(スーパー)�

業界データ�プール�

企業間�エクストラネット�

業界EPCIS�

EAN.UCCがマスタデータベースを管理�コード情報をパートナ企業が参照�GDSNサービスにより互換性を確保�

EAN: European Article Numbering �UCC: Uniform Code Council�GDSN: Global Data Synchronization Network

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NTT技術ジャーナル 2005.1132

端末(デバイス)を統一的に扱い,端末の故障や不正利用を検出する仕組みを提供します.また「情報管理データベース」により,RFIDタグやセンサに紐づくオブジェクトに対する情報を登録・編集・参照するとともに,大量の情報を処理可能にする負荷分散やメタ情報管理の仕組みを提供します.さらに,情報利用者の認証・ロール(役割)を管理する「ユーザ管理機能」によって,情報へのアクセス制御を行いプライバシやセキュリティを確保します.■7つのユビキタス・ソリュー

ション

今注目されているのは,業務プロセスの中でRFIDをどう生かしていくか

ということです.企業のビジネスプロセスと一体化したかたちでRFIDが活用されていくということが明確になってきたことで,NTTデータでは,RFIDプラットフォームおよびセンサネットワークプラットフォームに支えられた分野別ユビキタス・ソリューションを,「生産」「物流」「流通」「保守・メンテナンス」「リサイクル・廃棄」「資産管理」「セキュリティ」の7つの分野を中心にRFIDが活用されていくととらえています(表).

NTTデータの取り組みと事例

RFIDを活用するうえで重要な視点が3つあります.それは,「ヒト」「モ

ノ」「環境」です.先に挙げた7つの分野に照らし合わせてみると,保守・メンテナンス,資産管理,セキュリティの分野では“ヒトやモノの位置”を管理し,物流や流通分野では“モノの位置”を,さらに生産とリサイクル・廃棄分野では“モノに対する作業(プロセス)”を管理します.それら,ヒトとモノの位置や作業はすべて“環境”ととらえることで,その関係性を明らかにすることができます.ここで,RFIDを利用した当社の

実証実験と活用事例をいくつか紹介します.(1) 機密文書管理システムRFIDには,電池を内蔵して数十

メートルの距離でもリーダ・ライタと交信できる「アクティブタグ」と,電池を内蔵せずリーダ・ライタのアンテナが放つ電波で電磁誘導を起こし,数十センチの距離なら電波の受発信が可能な「パッシブタグ」があります.「機密文書管理システム」では,人にアクティブタグを身に付けて位置管理を行い,機密文書にパッシブタグを貼り付けて棚に保管することで,誰がいつ何を持ち出したか(もしくは返却したか)の履歴を,棚に設置したリーダ・ライタが読み取って記録するシステムとしています.閲覧権限のない人が文書を持ち出そうとすると,音声で警告すると同時にシステム管理者に通報して,機密文書の紛失や不正持ち出しを防止します.(2) ユビスタイルコラボレータアクティブタグと非接触型ICカードを併用して,会議室予約システムなどを運用するオフィスでの実証実験を実施しました.ユビスタイルとは,ユビキタスコン

ピューティング技術を活用した新しい情報インフラのことで,センサネットワークやRFIDなどを活用し,現実情報をシステムに取り込み,必要に応じて人間の支援を行うための概念です.

表 分野別ユビキタス・ソリューションの概要

分 野

生 産

物 流

流 通

保守・メンテナンス

リサイクル・廃棄

資産管理

セキュリティ

提供システムの概要

変種変量生産に対応した,平準化生産計画アルゴリズム,状況対応型処理順序計画システム,リアルタイム生産実績把握システム 

パレット,通い箱,コンテナ,個品等を対象とした,在庫管理,所在管理,入出庫管理,荷役管理 

流通過程における,仕入・在庫管理,販売管理,コンテクストアウェアネスマーケティング,CRM,トレーサビリティ,偽造品防止

生産設備や社会インフラ等の,利用状況自動計測,老朽化・故障把握,メンテナンス作業効率化,再販時の整備記録保証 

リサイクル・廃棄における,分別支援,処理プロセス管理,処理費用配分管理 

固定資産,文書・情報媒体,リース・レンタル品,社会インフラ等の資産管理

オフィス等における入退出管理,機密情報へのアクセス権等の権限管理,幼児等のロケーション把握,防災や災害対策

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Lecture・note

NTT技術ジャーナル 2005.11 33

これを応用した会議室予約システムでは,予約した人の情報の閲覧,会議室を利用している人の履歴,予約状況と利用状況の乖離の把握などの管理を行いました.その実証実験で用いたアクティブ型の無線タグは,315,MHz/303.825,MHzの周波数を使い,データの送信間隔は1.0秒,タグはボタン付きの防水・堅牢仕様のものです.会議室の予約については,PCから

はもちろん,携帯電話の液晶画面からでも利用できるようにしました.利用画面(図3)には,RFIDによる人の所在地情報をはじめ,現在の会議室の利用状況,予約システムに予約されている情報を見ることができます.このようなユビスタイルの活用によって,会議室の稼動率向上だけではなく,オフィススペースの環境改善にもRFIDが大きく役立つものと思われます.(3) Express Shoppingショッピングのデモンストレーショ

ン事例として「Express Shopping」があります.これは,RFIDリーダ付きショッピングカートを利用する消費者が,FeliCa携帯電話で買い物の内容と金額を確認し,リアルタイムでクーポン情報を受け取ったり,また携帯電

話で支払いを済ませたりできるなど,顧客の快適なショッピングを支援するシステムです.店舗側は,顧客のショッピング中にお薦め情報を流すなど,リアルタイムなOne-to-Oneマーケティングを実行することも可能です.ここでの主要技術要素には,コンピュータやネットワークが人間の生活の状況を認識する「コンテクストアウェアネス技術」のCRM(Customer Rela-tionship Management)分野への適用と,RFIDと携帯電話との連携などがあります.

(4) 中国IDキャリア実験NTTデータでは,本年の3月21日

から25日の期間に,中国の4大通信会社の1つであるChina Netcomおよび,中国でインターネットやeコマースビジネスを広く展開するBei j ingSparkice Electronic Commerceと3社共同で,商品物流過程におけるRFIDタグの有効性検証の実証実験を実施しました(図4).複数のプレイヤ間で情報共有が必要な業務(サービス)を,RFIDを利用した共同利用型サービスとして構築・提供する

図3 ユビスタイルコラボレータ�

RFIDによる�所在地情報�

携帯� PC

予約状況確認� 会議室予約�

RFIDによる�利用状況�

予約システムに�よる予約状況�

RFIDレシーバ�

アクティブ型無線タグ�

・315 MHz/303.825 MHz �・ボタン付き防水・堅牢タグ�・送信間隔1.0秒�

図4 中国IDキャリア実験システムの構成�

流通過程における各種検知アプリケーション�

トレーサビリティ機能� アクセス管理機能� 端末管理機能�

RFIDプラットフォーム(ucode対応     )�

読取り� 読取り� 読取り� 読取り� 読取り� 読取り�

高級酒�

製造事業者� 卸事業者�

1 2 3 4 5 6 7

小売店�

タグ供給� 出荷記録� 出荷記録�入荷記録� 入荷記録� 販売記録� 商品情報参照�

別の製造事業者� 発送誤りの商品や予定外の入荷�等の有無を検出�

流通過程の商品の�賞味期限をチェック�

流通過程での商品シュリン�ケージ*の有無を確認�

*シュリンケージ:万引きや抜き荷などによる商品の減少�

開封済み,タグなし等�商品の有無を検出�

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ためのノウハウの獲得や,中国市場でのRFIDビジネスのニーズや有効性を検証するものです.「製造業」「卸売業(倉庫・輸送業)」「小売業」の3つの拠点を仮想的に設置し,その拠点間で商品(本実験では酒類をサンプルとして利用)を流通させ,各拠点での入出荷作業や検品作業などを実施しました.具体的には,ユビキタスIDセンタが

標準化を進めている「ucode」を格納したRFIDタグを商品に貼付します.そして,商品が製造,卸,小売のそれぞれに入出荷されるときや,消費者に販売されるときにRFIDタグを読み取り,事前にデータベースに登録されている「流通予定情報」等の情報と自動的に情報照会を行うことで,正規品か模造品かの真贋判定をする実験システムです.(5) RFIDによる医薬品管理の実証実験

昨年12月から本年3月までの期間,YRPユビキタス・ネットワーキング研究所,ユビキタスIDセンター,東京大学医学部附属病院,東京大学大学院情報学環21世紀COE「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」,三菱ウェルファーマ,ベネシス,そしてNTTデータが参加して,RFIDによる医薬品管理の実証実験が行われました.RFIDを用いた医薬品トレーサビ

リティの有効性や,医薬品流通各業務の効率化におけるRFIDタグの有効性,および利用者側の利便性,問題点の抽出,課題の確認などの検証が目的です.その具体的な実験内容は,製薬

メーカや医薬品卸,病院の各フェーズにおける医薬品トレーサビリティと,注射剤の計400本に付与したucodeタグの流通履歴や品名,使用期限など医薬品情報の確認です.この実証実験により,ロット番号や品質の把握など,入出荷管理の効率化が図られることが明確になりました.

RFIDによるプロセス改善

■「可視化」と「改善」がRFID導

入のキーワード

当社では,現在RFIDで管理する情報モデルの作成を進めています.① プロセスモデル作成:BPMN*4

を用いてビジネスプロセスを作成し,「ロール(人)」と「アクティビティ(活動)」を抽出② エンティティ(実体)抽出:アクティビティに対して必要なエンティティを抽出③ 属性抽出:抽出されたエンティティの属性情報を付与これら3つのステップにより,ビジ

ネスモデルとの高い一貫性と,断続的

な改善に柔軟に対応が可能なRFID管理システムが実現します.NTTデータでは,ユビキタス社会の浸透によって生み出される全く新しい社会の関係性を「e-コラボレーション」と表現しています.RFIDを用いたe-コラボレーション実現のポイントは,「可視化」と「改善」です.可視化とは状態モニタリングを目的にしたもので,目標達成状況や問題点の把握・分析・評価と,監視結果を分析してモデルを見直すことにより,経済性の継続的な追及を可能にします.また改善を進めるためにはプロセス

モデリングを用います.対象業務におけるプレイヤ間のデータ統合と連携や,対象業務の適切なモデル化による業務プロセスの連携と見直し,さらにはRFIDでプロセスの状態を監視することで,柔軟性・迅速性の向上を目指します.それをまとめると図5のようなマト

リックスに表すことができます.可視化や改善が進んでいない「混

沌」のフェーズでは,RFIDを導入していない段階で,プロセスの定量的な分析ができないため,どこをどう改善していいか分からない状態を示します.一方,「改善」のフェーズでは,RFID導入に向けビジネスプロセスを見直すことでプロセスを改善しますが,効果を定量的に把握できないので最適化できていません.また反対に,RFIDの導入により作

業プロセスの状況を管理できると可視化が進みますが,プロセス改善に向けた課題を抽出する必要があります.したがって,RFIDによる作業プロセス

NTT技術ジャーナル 2005.1134

図5 RFIDによる継続的なプロセス改善�

可視化�

可視化�

改善�

継続的改善�

混沌� 改善�

*4 BPMN( Business Process ModelingNotation):ビジネスプロセスモデリング表記.ビジネスプロセス(BP)管理の標準化を行っているNPOのBPMI(the BusinessProcess Management Initiative)によって作成された,BPの設計と実行のための表記法.必要十分な表現力を備えつつ,シンプルで直感的に理解しやすい表記法となっており,アナリストや経営者でも読みやすいという特長があります.

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Lecture・note

NTT技術ジャーナル 2005.11 35

の生産性をリアルタイムに監視し,最適化に向けて継続的に作業プロセスを改善する「継続的な改善」が望ましい状態といえます.可視化と継続的な改善こそが,

RFID技術導入の恩恵を最大限に享受するためのキーワードです.ビジネスプロセスを可視化することで新たな課題を発見し,そこで得た定量的データを分析して業務改善につなげていく.そのサイクルを繰り返すことが,業務革新を真に実現すると考えています.

ユビキタス時代に向けた展望と課題

■情報システムが目指すべき姿

今後,サービス利用環境の変化(モビリティの拡大,遍在性の出現)に応じて,多様な利用形態,動的変化に対応でき,誰もが簡単かつ安心して利用できる情報システムが必要となります(図6).

しかし,それを支えるRFIDシステム基盤の実現にはさまざまな課題が存在します.まず,既存の業務システムとID情報システム間の連携が進んでいないため,サービス提供に限界があること.そのために,両システム間を簡便に連携できる仕組みが必要でしょう.また企業や業界が異なると,同じモノに対して異なるID情報を付与している場合があるため,個別のシステムごとにID情報を相互に流通させるシステムを構築しなければなりません.そこで,異なるID情報を相互に連携する仕組みが必要となります.さらに昨今,ITシステムと外部

(ユーザ,モノなど)との接点が増加・多様化し,セキュリティ面でのリスクが増大しています.サービスを安全に提供するためには,ネットワーク,端末,ID情報へのアクセスを安全に実現する仕組みが求められています.■RFIDの浸透によるe-コラボレー

ションの課題

RFIDの浸透によって“モノ・情報の共有化”および“意思決定の迅速

化”が進み,“ヒト・モノの協働化”を目指すのがe-コラボレーションですが,そこでは情報共有が進展することで,パーフェクトアウェアネス*5の浸透や多様なコンテンツの活用,共有範囲の広域化・国際化が進む反面,トランザクション量の爆発や情報漏洩,情報格差の拡大が課題となります.また意思決定が迅速になることで,

協働化,いつでもどこでも化,自動化が進みますが,それらも意思決定の細分化や集中力・判断力の低下,人為ミスの増加といった側面があることを認識しておくべきでしょう.

◆問い合わせ先NTTデータ技術開発本部 企画部 企画戦略担当TEL 03-3523-8060FAX 03-3523-8070E-mail [email protected]

図6 ユビキタス時代の情報システムが目指すべき姿�

導入技術� 構築技術� 基盤技術�

ヒト・モノ�の流れ�

モバイル網�無線LAN

デバイス�RFID・センサ�

フロント�エンド�

フロント�エンド�

A社�

B社�

基幹�システム�

基幹�システム�

RFID

センサ�

モビリティの拡大�

サービス�要求�

サービス�要求�

遍在性の出現�

IDコマース� 特定の端末を意識せ�ずにサービスをどこ�でも利用できる�

これまで取れなかった利用者�の情報(周りの状況,感性)�によって,より個人に最適化�されたサービスが利用できる�

デバイス入出力共通化�

アクセス制御�

データ相互変換�

アプリケーション接続・�サービス連携�

動的状態管理�

パーソナライズ�

パーソナル�プロファイル�

コンテンツ�

ID

ユビキタス情報システム�

*5 パーフェクトアウェアネス:モノやヒトがどこにあって,どんな状態であるかの情報取得・蓄積,および,その状況に応じた情報配信や情報共有の最適化技術.