rosneft...rosneft...

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1Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2020/5/27 調査部:原田大輔 公開可 ロシア:ロシア政府と Rosneft による「奇策」。制裁解除を狙い、Rosneft が保有するベネズエラ資 産を政府保有の Rosneft 株式と交換譲渡 2 18 日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が、ベネズエラ産原油の輸出取引に関与して いる Rosneft の子会社である Rosneft Trading SA 及びその代表のディジエ・カシミーロ Rosneft 副社長を特定国籍指定者(SDN)に指定すると発表。さらに、 3 12 日にはもう一つの子会社 である TNK Trading International SA に対しても制裁を発動。 3 28 日、Rosneft は全ベネズエラ事業から撤退することを決定。その方法として Rosneft ベネズエラ全事業をロシア政府へ売却し、その対価として、ロシア政府が保有する Rosneft 式(9.6%)を Rosneft に譲渡することで合意。 Rosneft にとって今回のロシア政府を巻き込んだ「奇策」によって、自社株 9.6%を保有するこ とで Rosneft 自身が自ら分配する配当を自社に還流させることが可能に。ロシア政府は新会社 Roszarubezhneft を設立し、 4 月に Rosneft の警備会社と見られる RN-Okhrana-Ryazan を買収。 その後、Rosneft RN-Okhrana-Ryazan にベネズエラ資産を移管。 4 23 日、Rosneft 2019 年下半期について記録的な配当を支払うことを決定。最終的には 6 月の株主総会で承認されることが前提だが、この配当額が承認されれば、 2018 年時点の配当実 2,746 億ルーブルから、2019 年には上半期及び下半期を合わせて 3,541 億ルーブル(約 54 億ドル)、前年比約 3 割増の配当を割り当てることになる。 Rosneft に還流する配当は半期で 2.8 億ドルに上る。 ・他方、今回のロシア政府と Rosneft の「奇策」によって、ロシア政府による Rosneft の株式シェ アが過半を割り込んだことにより、形式的には Rosneft は「非国営企業」または国の管理が見 掛け上弱体化することとなった(但し、連邦資産管理庁による黄金株の存在が想定される)。さ らに派生する影響として、 2008 年以降改革が行われた戦略外資規制によって付与されてきた国 営企業(政府が過半を有する規定あり)への特権にも影響が及ぶかもしれない。 1OFAC による Rosneft 子会社に対する制裁発動 2 18 日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が、「腐敗したマドゥーロ政権による同国の

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-1- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2020/5/27 調査部:原田大輔

公開可

ロシア:ロシア政府と Rosneftによる「奇策」。制裁解除を狙い、Rosneftが保有するベネズエラ資

産を政府保有の Rosneft株式と交換譲渡

・2 月 18 日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が、ベネズエラ産原油の輸出取引に関与して

いる Rosneftの子会社である Rosneft Trading SA及びその代表のディジエ・カシミーロ Rosneft

副社長を特定国籍指定者(SDN)に指定すると発表。さらに、3 月 12 日にはもう一つの子会社である TNK Trading International SA に対しても制裁を発動。

・3 月 28 日、Rosneft は全ベネズエラ事業から撤退することを決定。その方法として Rosneft のベネズエラ全事業をロシア政府へ売却し、その対価として、ロシア政府が保有する Rosneft 株

式(9.6%)を Rosneftに譲渡することで合意。

・Rosneft にとって今回のロシア政府を巻き込んだ「奇策」によって、自社株 9.6%を保有することで Rosneft 自身が自ら分配する配当を自社に還流させることが可能に。ロシア政府は新会社

Roszarubezhneftを設立し、4月にRosneftの警備会社と見られるRN-Okhrana-Ryazanを買収。

その後、Rosneftが RN-Okhrana-Ryazan にベネズエラ資産を移管。

・4 月 23 日、Rosneftは 2019年下半期について記録的な配当を支払うことを決定。最終的には 6

月の株主総会で承認されることが前提だが、この配当額が承認されれば、2018年時点の配当実績 2,746 億ルーブルから、2019 年には上半期及び下半期を合わせて 3,541 億ルーブル(約 54

億ドル)、前年比約 3 割増の配当を割り当てることになる。Rosneftに還流する配当は半期で 2.8

億ドルに上る。

・他方、今回のロシア政府と Rosneftの「奇策」によって、ロシア政府による Rosneftの株式シェ

アが過半を割り込んだことにより、形式的には Rosneft は「非国営企業」または国の管理が見掛け上弱体化することとなった(但し、連邦資産管理庁による黄金株の存在が想定される)。さ

らに派生する影響として、2008年以降改革が行われた戦略外資規制によって付与されてきた国

営企業(政府が過半を有する規定あり)への特権にも影響が及ぶかもしれない。

1.OFACによる Rosneft子会社に対する制裁発動

2 月 18 日、米国財務省外国資産管理室(OFAC)が、「腐敗したマドゥーロ政権による同国の

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-2- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

石油資産の収奪を食い止めるために」(ムニューシン財務長官)、ベネズエラ産原油の輸出取引に

関与している Rosneftの子会社であるスイス登記の法人 Rosneft Trading SA及びその代表のディジエ・カシミーロ Rosneft 副社長を特定国籍指定者(SDN)に指定すると発表した 1。リリース

では、Rosneft Trading SAが関与したとされるベネズエラ産原油取引に関する活動及び今回の制

裁対象について、FAQも含め以下説明している。

OFACによるベネズエラ原油取引を巡る新たな対露制裁について (2020 年 2 月 18 日プレスリリース要点抜粋)

(1)大統領令(Executive Order)13850 に従って、Rosneft Trading SA及

び同社のディジエ・カシミーロ代表を SDNに指定した。 (2)Rosneft Trading SAのベネズエラ産原油取引に関する活動は以下判明。

・2019 年 8 月:ベネズエラ国営石油公社(PDVSA)と 2 百万バレルの原油輸送を協議。

カシミーロ Rosneft副社長 (精製・石油化学・物流担当)

・2019 年 9 月:PDVSAがMerey-16 原油を Rosneft Trading SAへ供給。同社はベネズエラでロードし、アジアへ輸送。 ・2019 年秋:9 月から 12 月にかけての 55 百万バレルの原油輸送を PDVSA 及び Rosneft

Trading SAが計画。 ・2020 年 1 月:PDVSAに代わって、Rosneft Trading SAがMerey-16 原油を西アフリカ向けにタンカー輸送。

(3)Rosneft Trading SA は既に Rosneftと共に分野別制裁対象。今回は更に SDN指定が加わる。 (4)米国制裁は終わりないものではなく、ベネズエラの民主化を支援する意味のある具体的な

アクションを取るのであれば、制裁解除を検討する。 (5)Rosneft Trading SAとの取引に関して、撤退猶予(Wind Down)期間を設定する。

***

OFACによる FAQ要点(抜粋) (1)SDNによる今次制裁は Rosneft Trading SAに対してであり、親会社である Rosneft及び他

同社子会社には適用されない。 (2)Rosneft Trading SAとの取引に関して撤退猶予(Wind Down)期間として、2020 年 5 月 20

日(2 月 18 日から 93日間/3 カ月)を設定する。 (3)米国人以外の個人・企業でその期間に取引を終了できない場合には OFAC にガイダンスを

求めることができる。

1 米国財務省プレスリリース(2020 年 2 月 18日) リリース:https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm909 対象リスト:https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/OFAC-Enforcement/Pages/20200218.aspx FAQ:https://www.treasury.gov/resource-center/faqs/Sanctions/Pages/faq_other.aspx#817

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

この発表を受けて、ロシア大統領府のペスコフ報道官は「米国による制裁は国際法に則ってお

らず、ロシアとベネズエラの二国間関係を変更するものではない。逆に二国間関係は更に発展するだろう。Rosneftの子会社に関しては同社の権利を守るあらゆる既存の法的手段を検討してい

る」と発言 2。今回同社が制裁対象となった理由はベネズエラへの主要なレンダーであり投資者

であった親会社の Rosneft(2010 年以降、これまで PDVSAに対して融資累計 65億ドル、その他投融資総額を合わせると 90 億ドルに上るとされる)、そして、近年ベネズエラの原油輸出の約

6 割を扱ってきた Rosneft Trading SAが冒頭ムニューシン財務長官の言の通りマドゥーロ政権に

対する打撃を主目的に、ロシアに対する間接攻撃も行えるツールとして浮上し、今回の米国制裁に繋がったと考えられる 3。

2.Rosneft Trading SAに対する制裁の影響

SDNへの指定は実質指定対象者とのありとあらゆる商取引関係の終了を意味し(SDN指定後

も商取引を継続した場合には、外国人であろうと SDN対象者を幇助していると見做され、米国制裁の対象となる可能性があるため)、Rosneft Trading SAの経済活動が停止することにより、親

会社 Rosneftのトレーディング業務の機能不全や同社が関与してきた欧州及びインド向けの重質

原油の供給途絶をもたらす可能性が、制裁直後から指摘された。

Rosneft Trading SA は Rosneftの輸出原油量(日量 280 万バレル)の 25%(同 70 万バレル)

を扱ってはいたが、OFACが設定した三カ月間の撤退猶予期間があるので、その間に他の子会社へ業務を振替えることが可能となっており、大きな影響は与えないだろうと考えられた。同社は

2011 年に設立されてから、ドイツの製油所供給を中心に欧州市場での Rosneftのプレゼンス拡大

に貢献してきた。ロシア産原油の主力商品であるウラルブレンドだけでなく、カザフスタン産原油を輸送する CPC 原油やサハリン 1 プロジェクトからのソーコル原油、黒海積み出しの石油製

品輸出等の取り扱い実績もあり、これらの取引は Trafigura との非公式 JVを通じて行われていた

と言われている(ちなみに Trafigura も今回の制裁発動を受けて米国による経済制裁を遵守していくことを改めて表明している)4。

Rosneft Trading SA は欧州及びインド市場にベネズエラ産原油を販売してきた。まず、欧州でのベネズエラ産原油需要は、重質原油受け入れが可能なアップグレードした精製施設での使用に

限られ、スペイン Repsolが最大の顧客ではあるが市場規模は限定的である。一方、インドは重

2 Prime(2020 年 2 月 19日) 3 同様の事例として、2017 年 6 月 1 日、制裁下にある北朝鮮への原油輸出に関与したとして、Rosneft 元社長でセーチン現社長の右腕と目されてきたエドアルド・フダイナトフ社長が率いる IPC-Holding(露語では ННК/Independent Petroleum Company/独立石油会社)社長が保有する子会社 2社(JSC Independent Petroleum Company及び JSC NNK-Primornefteproduct)を SDN に指定したことがある。なお、同制裁は当該二社が北朝鮮に対する全ての輸出活動を停止し、米国制裁を遵守したことを確認したとして、2020 年 3 月 2日に解除されている。

4 PIW(2020 年 2 月 20日)

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

質原油需要が大きい。例えば、Rosneft本体が 49.13%出資(他の 50.87%は Trafigura が出資)し

ているナヤラ・エナジー5の場合、印グジャラート州のヴァディナール製油所(日量精製能力 40.5

万バレル)で調達する原油の 65%が超重質油、26%が重質油となっており、同社はベネズエラ重

質原油を主に受け入れてきた。この他、精製大手のリライアンス(ジャムナガル製油所等)は「事

態を分析しているが、これまでベネズエラ産原油の購入は米国政府の許可の下、行われてきた」と発表しており、ベネズエラ産重質原油を相当量輸入していたことも明らかにしている。現在は、

イラン産重質原油の輸出にも米制裁がかかっており重質原油の供給は世界的に逼迫しているため、

インドの製油所による重質原油の代替調達先としては、ロシア産の高硫黄重質原油(Mazut-100)及び他の中東産油国から調達することが考えられた 6。

さらに、米国制裁は前述の通り、5 月 20 日まで三カ月間の撤退猶予(Wind Down)期間を設けており、また、Rosneft は該当する輸送を今次制裁対象会社から他子会社へ移管することが可能

でもあった 7。

このように、市場では今回の制裁は Rosneft 本体の原油トレーディングそのものには結局のところ大きな影響を与えないという見方が大勢を占めた。

なお、Rosneft Trading SAはこれら事業の他、LNG貿易も手掛けていると言われており、また、

CITGO(石油製品・石油化学製品の精製や輸送、販売を行っていた米石油販売企業)の 49.9%も保有していて、これらも制裁対象となるかも注目された 8。LNG 事業に関しては他の Rosneft 子

会社への移管によって制裁適用を回避することが想定される。また、CITGOに関しては株式保有比率が 50%を超えないことから Rosneft Trading SA のグループ企業とは見なされず、制裁対象と

はならないと考えられる。

3.Rosneft Trading SAに次ぐターゲットへ制裁発動

制裁発動からまだ日も経たない 2 月 25 日、PDVSA は、同社の原油輸出の契約先を制裁対象

となった Rosneft Trading SAから別の Rosneft子会社である TNK Trading International SA9へ変更し、670 万バレルを 2 月にベネズエラから輸出したことが明るみに出た。Rosneft Trading SA

同様 2011 年に設立された TNK Trading International SA は、過去長年に亘ってベネズエラ産原油を扱ってきた実績がある。

5 SDN に指定後、カシミーロ Rosneft副社長は印ナヤラ・エナジーの役員を辞任している。 6 IOD(2020年 2 月 19 日) 7 この背景には 2018 年 4月にデリパスカ傘下の世界有数のアルミ生産企業「Rusal」に対する制裁発動とその後の国際アルミ市場での混乱と米国への非難に対する教訓があると考えられる。

8 POG(2020年 2 月 19日) 9 TNKはチュメニ石油会社の略であり、ソ連解体後は第 4位の石油会社として西シベリア(サモトロール油田)を主要生産地域として活動。2003年に BPが出資(BP:50%/TNK:50%)。その後、2012 年に Rosneftが同社を買収し、Rosneftの傘下となり、現在に至る。TNK Trading International SA は TNK-BPの子会社として 2011年設立。PDVSAから 1月だけで 14百万バレル(45万 BD)を購入したとされる。

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの

投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

これに対して、エリオット・エイブラムス米国ベネズエラ特命代表は、同社によるベネズエラ

産原油輸出継続に関しての事実を把握していると共に、彼らが OFACとゲームをするのであれば、追加制裁を受けるだろうと警告を発した 10。また、同日、トランプ大統領もベネズエラ産原油の

バイヤーに対する新たな制裁を示唆すると共にインドの製油所がベネズエラ産原油を購入して

いることに対して、「深刻な制裁を受ける可能性がある」と述べた 11。これにより、OFACが TNK

Trading International SA に対する制裁発動を準備していることが明らかになり、3月初旬には制

裁が発動されるとの観測が為された 12。

そして 3 月 12 日、遂に OFACが TNK Trading International SA に対する制裁を発動し、SDN

に指定されるに至る 13。

4.Rosneft及びロシア政府の奇策

このような米国のベネズエラとその原油を扱う Rosneftに対する執拗な圧力に対して、ロシア

政府と協力の下、Rosneft は驚くべき発表を行う。3 月 28 日、Rosneft は全ベネズエラ事業から撤退することを決定。その方法として、Rosneft はロシア政府が 100%出資する会社と以下の協

定を締結したのである。

・Rosneft のベネズエラ全事業をロシア政府へ売却(油田の権益やオリノコ重質油の生産・改質事業権益を持つジョイントベンチャー企業の株式 14及びベネズエラで活動するサービス会社等)。

・その対価として、ロシア政府は政府が保有するRosneft株式(9.6%)を Rosneftに譲渡。同株式は Rosneftが 100%保有する子会社が管理する 15。

ロシア政府は同 28日付で、新会社 Roszarubezhneft(ロシア海外石油開発会社)を設立している。資本金はロシア政府から対価譲渡を受けたロスネフチ株 9.6%の時価と近似の 3,227 億ルー

ブル(約 40 億ドル)となっている。新会社 Roszarubezhneftの代表には、1980 年代アンゴラで

セーチン社長と関係があったとされるニコライ・リュブチュック氏が就任。登記情報によれば同社の活動は、ホールディング企業管理、石油ガス生産、石油ガス生産サービス提供、パイプライ

ン輸送となっている。また、Reyestr-RN 社が幹事管理企業として登録されているが、同社はRosneft の幹事管理企業ともなっている 16。その意味するところは、ベネズエラ事業を継承する

10 Prime(2020 年 2 月 25日) 11 IOD(2020年 2 月 26 日) 12 POG(2020年 2 月 27日) 13 米国財務省プレスリリース(2020 年 3 月 12日)https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm937 14 Rosneft がベネズエラで保有する主要上流プロジェクト:Petromonagas(40%)、Petroperija(40%)、Boqueron(26.7%)、

Petromiranda(26.7%)、Petrovictoria(40%) 15 Rosneft社リリース(2020 年 3月 28日)https://www.rosneft.com/press/releases/item/200275/ 16 Prime・ロイター(2020 年 3月 31日)

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ロシア政府「出資」の Roszarubezhneftの設立も、実際には Rosneftが背後で全て取り仕切って

いるのではないかということだ。

図 1 Rosneftの株主構成(3 月 1 日と 28日ロシア政府とのベネズエラ資産交換後)

出典:Rosneft公開情報から筆者取り纏め

今回ベネズエラ資産の譲渡対価として Rosneft に引き渡された Rosneft 株式 9.6%(時価 40 億ドル相当)はロシア政府が 100%出資する ROSNEFTEGAZ(図 1)が保有していたものと考えら

れる。この ROSNEFTEGAZは、Rosneft株式の他、Gazpromの 10.97%株式、送電会社 InterRAO

の 26.36%株式を保有し、それら大企業の配当を政府へ還流することを目的としたホールディン

グ会社であり、会長はセーチン Rosneft 社長が務め、登記所在地もモスクワの Rosneft 本社と同

じ住所となっている。今回の譲渡によって、ロシア政府の Rosneft 保有株式は ROSNEFTEGAZ

( 40.40000001%)+連邦資産管理庁( 0.000000009% 17 )となり、過半を割って、 17 連邦資産管理庁が保有する一株相当。黄金株と推察される。

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40.40000002359%へ低下することとなる。

この「奇策」によって、Rosneftの子会社だけでなく Rosneft自体がベネズエラ事業から見掛け上撤退したという形を創り出すことに成功しており、Rosneft(子会社)に対する米国制裁の解除

を求めていくことが可能となる。問題はこの奇策を以って、冒頭の OFACが制裁解除の条件とし

ている「ベネズエラの民主化を支援する意味のある具体的なアクションを取るのであれば、制裁解除を検討する」という内容に合致するかどうかということになる。焦点はロシア政府、さらに

は後述する Roszarubezhneftに渡る Rosneftのベネズエラ権益を、今後同政府がどのように扱っ

ていくのかという点になる。恐らく、ベネズエラ政府とも合意の上で、ロシア政府の権利を保持したまま実際の新規投資や操業を凍結するのか、あるいはベネズエラ政府又は第三者へベネズエ

ラ権益の売却を図るのか(この選択肢はベネズエラ政府の財政状況や第三者も米国制裁に対する懸念から極めて困難)という二択になる。恐らく「いつかベネズエラにおける原油生産やベネズ

エラからの原油輸出の再開を前提とした凍結」というシナリオに落ち着くであろうが、その場合

にも米国政府が「意味のある具体的なアクション」と見做すとは考えにくい。

実際、米国の反応は冷ややかなものとなっている。28 日の発表直後、エイブラムス米国政府ベ

ネズエラ特別代表は、Rosneft によるロシア政府へのベネズエラ資産譲渡とロシア政府保有の同

社株式の譲渡のための新会社設立について、内容を精査し、動向をトレースしていくと発表。また、米国政府幹部は「制裁を解除するのは時期尚早。マドゥーロ政権に対する全ての関与を止め

るのが確認できるまでは満足できない」と述べている 18。

5.Rosneft株式 9.6%が持つ意味/自らの配当によってコスト回収を図る

しかしながら、Rosneftにとっては今回のロシア政府を巻き込んだ「奇策」には大きな意味がある。その理由は自社株 9.6%を追加的に保有することで Rosneft 自身が自ら分配する配当を自

社に還流させることが可能となったからである。

Rosneftをはじめロシア企業によるベネズエラでの石油上流事業への参画は個別の企業活動というよりは寧ろ二国間外交の中で発展してきたものだが、今回の「奇策」によって、米国による

横槍を受けた Rosneft がこれまでベネズエラに投融資してきた事業から資金回収するのではなく自らの株式からの配当を自社に戻すことで回収することをロシア政府に了解させることに成功

している(将来ロシア政府が得るべき収入を削減)。

この動きを反映するかのように、4 月 23 日、Rosneftは 2019年下半期について記録的な配当を支払う方向で調整を行っているとの報道が出ている。原油価格の崩壊にもかかわらず、国際財

務報告基準に基づき 2019 年の純利益の 50%に相当する配当を支払う予定で、1 株当たり 18.07

ルーブル(23セント)の最終配当金支払いを決定したことを明らかにした。最終的には 6 月の株

18 IOD(2020年 4 月 23 日)

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投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責

任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

主総会で承認されることが前提だが、この配当額が承認されれば昨年上半期に支払われた 15.34

ルーブルを上回るレベルとなっており、また、2018 年時点の配当実績 2,746 億ルーブルから、2019 年には上半期及び下半期を合わせて 3,541 億ルーブル(約 54 億ドル)、前年比約 3 割増の

配当を割り当てることになる 19。

表 1 の試算の通り、ロシア政府から譲渡された株式によって Rosneft に還流する配当は半期で2.8 億ドルに上り、通年では年間 5 億ドル程度の収入を、Rosneftは今後ベネズエラ資産見合いと

して新たに見込むことができるようになったことを意味する。

表 1 Rosneftの 2019年上半期配当(実績)及び同下半期配当(予定)

株主比率 株数 2019年上半期 配当実績

(十億ルーブル)

2019年下半期 配当予定

(十億ルーブル)

下半期分 ドル換算

(百万ドル)

ROSNEFTEGAZ 40.400000014% 4,281,663,840 65.68 77.37 1,174.39 露政府から Rosneftに譲渡された株式

9.600000000% 1,017,425,070 15.61 18.38 279.06

BP 19.747735254% 2,092,900,097 32.11 37.82 574.05

カタール投資庁 18.928207855% 2,006,045,126 30.77 36.25 550.22

NSD(証券保管振替機関) 10.980529362% 1,163,736,027 17.85 21.03 319.19

その他法人 0.011156965% 1,182,435 0.02 0.02 0.32

ロシア政府 0.000000009% 1 0.00 0.00 0.00

個人 0.330911017% 35,070,538 0.54 0.63 9.62

不明 0.001459524% 154,683 0.00 0.00 0.04

合計 100% 10,598,177,817 162.58 191.51 2,906.90

2019年通期配当合計(予定) 3,541億ルーブル(約 54億ドル)

出典:Rosneft公開情報から筆者取り纏め(2019年通期の平均為替:1 ドル=66 ルーブルで換算)

疑問が沸くのは、どのようにこの 9.6%という数字が算出されたのかということになるだろう。

単純に考えれば、Rosneftによるベネズエラへの既往投融資回収(+利息)及び保有権益からの得

られる将来的期待収入がベースとなっていると考えられるが、いつまでロシア政府が譲渡されたベネズエラ資産を留保することを想定しているのか(米国政権による制裁解除のタイミング次

第)、また、混迷を極めるベネズエラ情勢下において、ロシア政府が保有することとなった資産(油田の権益やオリノコ重質油の生産・改質事業権益を持つジョイントベンチャー企業の株式や

ベネズエラで活動するサービス会社等からの収入。注 14 参照。これらジョイントベンチャー企

19 IOD(2020年 4 月 24 日)

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-9- Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま

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任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

業からの 2018 年の原油生産量は日量 17.3 万バレルに上り、Rosneft 権益分は 6.7 万バレルであ

ったと言われている)からの収入をロシア政府が受け取ることができるのかという点については、残念ながら現時点で情報は確認できていない。なお、PDVSA に対する Rosneft の融資総額累計

は 65 億ドルに上っていたが、2019 年 9 月までに 8 億ドルまで返済が進んでいたとの情報もある20。いずれにせよ、Rosneftによる既往投融資回収(+利息)及び保有権益からの得られる将来的期待収入の対価が、同社株式 9.6%、リリース発表直前の時価では 39.5 億ドル 21+今後の配当収

入見込み(年額 5 億ドル程度×n 年)だったということになる。

6.その他留意点と注目すべき動き

(1)政府保有株式が過半を割った Rosneftに対する影響

今回のロシア政府と Rosneftの「奇策」には、依然いくつかの不明点が存在する。まず、ロシ

ア政府による株式シェアが過半を割り込んだことにより、形式的には Rosneftは「非国営企業」

または国の管理が見掛け上弱体化することとなった(但し、連邦資産管理庁による黄金株の存在が想定される)。さらに派生する影響として、2008 年以降改革が行われた戦略外資規制によって

付与されてきた特権を失うことにも繋がる可能性がある。地下資源法第二条では「全ての海洋エ

リアは連邦意義を有する」と規定され、また、第九条にて大陸棚での油・ガス田開発の主体は「政府が過半を有し、5 年以上の経験のある国営石油ガス会社に限定」されているためである(図 2)。

他方、実際の探鉱作業の実施や結果の成功・不成功は別として、過去 10 年以上に亘って、有望大陸棚鉱区の大半はすでに Rosneftまたは Gazpromに付与されてしまっていて、ほとんど残って

いないことから、これも大きな問題とはならないとも言える。

また、Rosneftからベネズエラ資産を譲渡された企業は ROSNEFTEGAZ又はその傘下の子会社ということが当初想定されたが、Rosneftによる 3 月 28 日のリリースでは「ロシア政府が 100%

保有する会社」とだけ書かれてあり、名前が伏せられていた(後述の通り、最終的には Rosneft

子会社で警備会社と見られる RN-Okhrana-Ryazan にベネズエラ資産を譲渡し、そのRN-Okhrana-Ryazan をロシア政府によって設立された Roszarubezhneftが買収する形になっ

た)。ROSNEFTEGAZは保有株式の価値は莫大だが、大きな組織ではなく、譲渡されたベネズエラ資産の管理を直接行うことは現実的ではない。米国が今度は ROSNEFTEGAZを制裁対象(SDN

指定)とすることも不可能ではなく、既にロシア政府機関(旧 KGBの後継である連邦保安庁(FSB)

等)ですら SDN対象となっている状況では、Roszarubezhneftに対する制裁が発動され、「イタチごっこ」が続く可能性もあり得る。その場合には Roszarubezhneftの配当分配機能に支障が生

20 IOD(2020年 3 月 31 日) 21 ロンドン市場(LSE)でのドル建て Rosneft 株価をベースに試算。発表前日 2020 年 3 月 27 日の株価は一株当たり 3.886 ドル。

Rosneft の時価総額は 411.84 億ドル。

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じる可能性がある。但し、米国の制裁発動の条件はあくまで同社がベネズエラでの生産やベネズ

エラ産原油の販売を継続した場合ということになるだろう。

図 2 外国投資規制に伴う外資制限比率(連邦的意義を有するもの)の変遷

出典:筆者取り纏め

(2)ベネズエラ事業を巡る新たな動き

このような中、4 月中旬に Rosneftとは別にベネズエラからの原油輸出に関与している人間として、元 Gazprom関係者 2 名の名前が上がるようになった。過去ロシア政府そしてGazpromに勤

務していたボリス・イワノフとセルゲイ・タガショフである。彼らが運営する GPB Global

Resources社はオランダを本拠地とし、昨年、PDVSAとの間で「ペトロサモラ(PetroZamora)」と名付けられたオペレーションを通じて、ベネズエラ産生産原油の約 10%を取り扱ったと報じら

れている。イワノフはモスクワとワシントンでロシア政府による軍事情報収集に従事し、その後Gazpromに入社。タガショフはワシントンのロシア大使館で勤務後、Gazpromに入社。「ペトロ

サモラ」の原油取扱量は 2018 年から 2019 年も日量 9.5 万バレルから同 11.1 万バレルと近年上昇

しており、今回の Rosneftの撤退を受け、更に増える可能性がある。GPB Global Resources社は「ペトロサモラ」プロジェクトが立ち上がる 1 年前(2011年)に設立されており、同社の管理は

上記 Gazpromの OBの他、アフリカと中東に拠点を置いているウラジーミル・シュヴァルツが担

当しているという。また、「Bolichicos」(ボリチコス)と呼ばれるベネズエラの起業家も同社運営

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に関与しているとの情報が出てきている 22。

(3)Rosneftが子会社 2社の貿易事業を引き継ぐ後継会社を準備か

4 月下旬、Rosneftはスイス登記の子会社「Rosneft European Services Group」を「Energopole」

へ改称するという。この動きは、ロシア政府と Rosneftの「奇策」から 1 カ月が経っても Rosneft

Trading SA及び TNK Trading International SA に対して米国が依然制裁を解除する兆しがなく、一方

でこれらの企業が抱えるトレーディング事業を継続するべく、Energopole を後継としようとする動

きと見られている 23。

(4)ベネズエラ資産の譲渡が完了

5 月 14 日、Rosneftの子会社・RN-Okhrana-Ryazan(Rosneftリャザン警備会社)がベネズエ

ラの Junin-6 鉱区の 80%を取得するという報道が流れた。Junin-6 鉱区のオペレータは

Petromirandaと呼ばれ(注 14 参照)、Rosneftからロシア政府への譲渡資産の一部となっていた。この動きを受けて、RN-Okhrana-Ryazan の資本金は 4 月末に 25 万ルーブルだったものが、今回

の 9.6%Rosneft株式時価に近い 3,227.52 億ルーブルに激増しているという 24。時系列で見ると、

3 月 28 日にロシア政府が Roszarubezhneftを設立し、Rosneftに同社株式 9.6%を譲渡した後、4

月に Roszarubezhneftが RN-Okhrana-Ryazanを買収。その後、Rosneftが RN-Okhrana-Ryazan

にベネズエラ資産を移管したということになり、この Rosneftの警備会社が最終的にロシア政府に代わって、Rosneftのベネズエラ資産を管理するという、どこからが頭でどこまでが尻尾か分から

ないストラクチャとなりつつある。

5 月 15 日には、Rosneftのフョードロフ第一副社長が「Roszarubezhneftがベネズエラの主要な Rosneft資産を買収した。(対価譲渡された)9.6%の全株式が Rosneftの 100%子会社(どの子

会社かは公表されていなかったが、後述の通り、5 月 21 日付けで LLC RN-NeftKapitalInvestが保

有することとなった)の帳簿に載っている。これらの株式については、自社資本増強のための貴重な資産であり、継続保有する予定」と述べている 25。また、セーチン社長も「Rosneftはベネ

ズエラでの事業を、4 月 30 日をもって完全に停止した」と述べており 26、5 月 20 の撤退猶予期間までに、2 月の米国制裁発動から Rosneftによるロシア政府とのベネズエラ資産譲渡と同社株

式の獲得という一連の動きが終息したこととなる。現時点では依然米国政府による制裁解除の動

きは出ていない。

22 Prime(2020 年 4 月 16日) 23 IOD(2020年 4 月 24 日) 24 Prime(2020 年 5 月 14日) 25 Prime(2020 年 5 月 15日) 26 Interfax(2020年 5 月 15 日)

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5 月 21 日、Rosneftはホームページ上で Rosneft株主リストを更新した 27。その結果、ベネズ

エラ権益譲渡対価となった 9.6%のRosneft株式をRosneftに譲渡したROSNEFTEGAZがその分シェアを落とした一方、新たな株主として、LLC RN-NeftKapitalInvestがその株式を引き継いだ

ことが分かる。また、新たな株主として Rosneftの子会社と想定されるもう 1 社、LLC RN-Capital

という会社が登場し、マイナーシェアであるが、約 0.33%余りを保有することとなった。Rosneft

は 2018 年 8 月から 2020 年 12 月末を目途に自社株買い(バイバック)プログラム(最大 3.2%)

を発表・実行しており 28、市場流動株を買い集めてきた結果がこの LLC RN-Capitalに集約されて

いると考えられる。また、LLC RN-NeftKapitalInvestと LLC RN-Capitalのシェアによって、取締役 1 名の任命枠が Rosneftに生じており、今後の動向が注目される。

表 2 Rosneft株主の変化(公表されている 3 月 1 日と 5 月 21 日時点の比較)

Rosneft 主要株主リスト

Rosneft の株主 (2020年 3月 1日時点)

Rosneft の株主 (2020年 5月 21日時点)

3月と 5月現在の差

シェア 株数 シェア 株数 シェア 株数

JSC ROSNEFTEGAZ 50.00000001% 5,299,088,910 40.40000002% 4,281,663,840 -9.60000000% -1,017,425,070

BP 19.74773525% 2,092,900,097 19.74773525% 2,092,900,097 動きなし

カタール投資庁 18.92820785% 2,006,045,126 18.92820785% 2,006,045,126 動きなし

NSD(証券保管振替機関) 10.98052936% 1,163,736,027 10.65599254% 1,129,341,038 -0.32453682% -34,394,989

LLC RN-NeftKapitalInvest - 9.60000000% 1,017,425,070 9.60000000% 1,017,425,070

LLC RN-Capital - 0.32505583% 34,449,995 0.32505583% 34,449,995

その他法人 0.011156965% 1,182,435 0.010851828% 1,150,096 -0.00030514% -32,339

ロシア政府(連邦資産管理庁) 0.000000009% 1 0.000000009% 1 動きなし

個人 0.330911017% 35,070,538 0.330697141% 35,047,871 -0.00021388% -22,667

不明 0.001459524% 154,683 0.001459524% 154,683 動きなし

合計 100.00000000% 10,598,177,817 100.00000000% 10,598,177,817 総株数に動きなし

出典:Rosneft公開情報から筆者取り纏め

(了)

27 Rosneft社ホームページ:https://www.rosneft.com/Investors/Equity/Shareholder_structure/ 28 Rosneft社ホームページ:https://www.rosneft.com/Investors/Equity/Share_buyback/