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技術教育におけるリスク関連情報の収集 ― スマートフォンが集中力に与える影響の検討 ― Gathering Risk-related Information in Technology Education: Study on the effect of smart phones on attention span 吉村天心* 藤本登* Tenshin YOSHIMURA*, Noboru FUJIMOTO* * Department of Education, Nagasaki University 情報に関する技術の一つである情報端末機器(スマートフォン)のリスク情報を得るために,クレペリンテ スト実施中にスマートフォンの存在やそれへの通知が集中力に与える影響について,脳血流量の変化と視点追 尾システムによって視点の動きを測定することで検討した。その結果,アンケート調査より,依存性の主な要 因は SNS とゲームであり,男性より女性の方が SNS に対する依存傾向は高く,女性より男性の方がゲームに 対する依存傾向は高い。また,スマートフォンの使用により,睡眠時間が削減される傾向があった。脳血流量 の測定から,スマートフォンへの通知は依存傾向とは無関係に集中力に影響を与えた。さらに,依存傾向が高い 被験者ほど,スマートフォンへの通知により視点がスマートフォンに移動する傾向があることが分かった。 キーワード:スマートフォン,集中力,脳血流量,視点追尾,NIRS 1.はじめに 中学校技術分野の評価・活用時の評価の主な視点 は,学習指導要領に例示された社会・経済・環境面で あり,教科書でもそのような記述が見られる。しかし ながら,具体的なデータが収集しやすい経済性(単価 や維持費など)や環境性(二酸化炭素排出原単位や廃 棄物量など)に対して,社会性は利便性や安全性とい った個人の主観によりものやデータそのものが入手 しにくいといった問題点がある。これへの対応を図る ために,まず,藤本はエネルギー変換に関する技術の 安全性について,科学技術ガバナンス調査による安全 性(特にリスク)を取り扱うことの必要性を指摘 1し,安全性の一指標であるリスクに対する中学生や中 学校技術教員の認知・意識調査 2), 3を行ったうえで, 暖房器具のリスクを加味した「評価」に関する授業実 4と電源のリスクデータの作成 5を行った。 これに対して,中学生の興味関心が高い情報に関 する技術の関連技術製品である携帯電話のスマート フォン(アンドロイド端末等の次世代携帯電話の総 称)の安全性については,情報セキュリティや情報モ ラルに触れた授業実践が多いが,具体的なリスクデー タを用いた授業実践はない。このような状況下で,安 岡ら 6 は, 14歳から20歳の若齢層の56.2%に中程度以 上のインターネット依存傾向を示すことを明らかに し,堀川ら 7 は,依存性とインターネット利用時間, SNSや動画サイトの利用,睡眠・学習時間の減少, 人間関係や孤独感との関係性を指摘した。これらのア ンケート調査結果は,情報に関する技術のリスク情報 としては有用と考えられるが,エネルギー変換に関す る技術で示されたような致死傷件数のような客観的 なデータより,その信頼性は低い。これに対し,近年 の脳内科学の発展と測定技術の向上により,情報端末 機器が使用者の生理作用に与える影響を明らかにし た研究は多数ある。そこで,このような研究手法を用 いれば,スマートフォンのリスク情報に関するより客 観的なデータが得られると考えた。例えば,Koepp 8 50分間のゲーム開始前後の脳内の線条体で, ドーパミン放出が2.0倍に増え,アンフェタミンの静 脈注射時の2.3倍に近いことを示すことで,ゲームの 危険性を指摘した。また,寺西ら 9 は,ゆっくり変化 する画像の認識時の脳内変化をNIRS(近赤外線分光 法)で調査することで,集中時に脳血流量が増大する ことを示した。 そこで本報では,スマートフォン依存性の弊害の 一つである学習時の集中力を,クレペリンテスト実施 中にスマートフォンの存在やそれへの通知が与える 影響について,脳血流量の変化と視点追尾システムに よる視点の動きを測定することで検討した。 (2016 10 31 日受付,2017 1 13 日受理) * 長崎大学教育学部 2016 10 月 第 29 回九州支部大会にて発表

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Page 1: RQ WKH HIIHFW RI VPDUW SKRQHV RQ ...tech.edu.nagasaki-u.ac.jp/tech/energy/home/data/sangi11...G 7uFûFÚFáG 1 $×Fú7 pFþ Ø FÔF¸# CG /æ*(FûG G s8jFþ&ì ØF¸ GGGlGiFþ Ñ ~G

技術教育におけるリスク関連情報の収集 ― スマートフォンが集中力に与える影響の検討 ―

Gathering Risk-related Information in Technology Education: Study on the effect of smart phones on attention span

吉村天心* 藤本登*

Tenshin YOSHIMURA*, Noboru FUJIMOTO*

* Department of Education, Nagasaki University 情報に関する技術の一つである情報端末機器(スマートフォン)のリスク情報を得るために,クレペリンテ

スト実施中にスマートフォンの存在やそれへの通知が集中力に与える影響について,脳血流量の変化と視点追

尾システムによって視点の動きを測定することで検討した。その結果,アンケート調査より,依存性の主な要

因は SNS とゲームであり,男性より女性の方が SNS に対する依存傾向は高く,女性より男性の方がゲームに

対する依存傾向は高い。また,スマートフォンの使用により,睡眠時間が削減される傾向があった。脳血流量

の測定から,スマートフォンへの通知は依存傾向とは無関係に集中力に影響を与えた。さらに,依存傾向が高い

被験者ほど,スマートフォンへの通知により視点がスマートフォンに移動する傾向があることが分かった。 キーワード:スマートフォン,集中力,脳血流量,視点追尾,NIRS

1.はじめに

中学校技術分野の評価・活用時の評価の主な視点

は,学習指導要領に例示された社会・経済・環境面で

あり,教科書でもそのような記述が見られる。しかし

ながら,具体的なデータが収集しやすい経済性(単価

や維持費など)や環境性(二酸化炭素排出原単位や廃

棄物量など)に対して,社会性は利便性や安全性とい

った個人の主観によりものやデータそのものが入手

しにくいといった問題点がある。これへの対応を図る

ために,まず,藤本はエネルギー変換に関する技術の

安全性について,科学技術ガバナンス調査による安全

性(特にリスク)を取り扱うことの必要性を指摘1)

し,安全性の一指標であるリスクに対する中学生や中

学校技術教員の認知・意識調査2),3)を行ったうえで,

暖房器具のリスクを加味した「評価」に関する授業実

践4)と電源のリスクデータの作成5)を行った。

これに対して,中学生の興味関心が高い情報に関

する技術の関連技術製品である携帯電話のスマート

フォン(アンドロイド端末等の次世代携帯電話の総

称)の安全性については,情報セキュリティや情報モ

ラルに触れた授業実践が多いが,具体的なリスクデー

タを用いた授業実践はない。このような状況下で,安

岡ら6)は,14歳から20歳の若齢層の56.2%に中程度以

上のインターネット依存傾向を示すことを明らかに

し,堀川ら7)は,依存性とインターネット利用時間,

SNSや動画サイトの利用,睡眠・学習時間の減少,

人間関係や孤独感との関係性を指摘した。これらのア

ンケート調査結果は,情報に関する技術のリスク情報

としては有用と考えられるが,エネルギー変換に関す

る技術で示されたような致死傷件数のような客観的

なデータより,その信頼性は低い。これに対し,近年

の脳内科学の発展と測定技術の向上により,情報端末

機器が使用者の生理作用に与える影響を明らかにし

た研究は多数ある。そこで,このような研究手法を用

いれば,スマートフォンのリスク情報に関するより客

観的なデータが得られると考えた。例えば,Koeppら8)は50分間のゲーム開始前後の脳内の線条体で,

ドーパミン放出が2.0倍に増え,アンフェタミンの静

脈注射時の2.3倍に近いことを示すことで,ゲームの

危険性を指摘した。また,寺西ら9)は,ゆっくり変化

する画像の認識時の脳内変化をNIRS(近赤外線分光

法)で調査することで,集中時に脳血流量が増大する

ことを示した。 そこで本報では,スマートフォン依存性の弊害の

一つである学習時の集中力を,クレペリンテスト実施

中にスマートフォンの存在やそれへの通知が与える

影響について,脳血流量の変化と視点追尾システムに

よる視点の動きを測定することで検討した。

(2016 年 10 月 31 日受付,2017 年 1 月 13 日受理)

*長崎大学教育学部 2016 年 10 月 第 29 回九州支部大会にて発表

fujimoto
テキストボックス
日本産業技術教育学会九州支部論文集、24、45-50
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2.調査方法

アンケート調査,脳血流計と視点追尾システムを

用いたクレペリンテスト実験の方法を示す。

2.1 調査・実験の概要

図 1 に調査・実験の概要を示す。まず,被験者に実験

概要を説明し,署名された同意書を受領後,事前アンケ

ートを実施し,脳血流計と視点追尾システムを装着させ,

測定器の較正を行った。次に脳血流を安定させるために,

被験者に目を閉じてリラックスさせ,30 秒間声を出さず

にカウントさせた。そして 3 段階の条件の異なるクレペ

リンテスト(各 30 秒間)を行い,その試験中に被験者の

脳血流量の変化と視点の動きを計測した。1 段階目はク

レペリンテストのみを行い,2 段階目は机上右上に被験

者のスマートフォン(通知無)を設置した状態でクレペ

リンテストを行い,3 段階目はクレペリンテスト中に机

上のスマートフォンに通知をした。なお,各クレペリン

テストの間は 30 秒以上 1 分以内の休憩を入れ,通知は実

験者のスマートフォンから被験者のスマートフォンへ画

像データを送信した。最後に事後アンケートを行った。

事前アンケート 5分程度・各被験者のスマホ利用形態を調査、依存傾向の決定、依存認知を調査

脳血流計、視点追尾システムを被験者に装着後、較正を行う

脳血流計波形データ

クレペリンテストテスト時間30秒、休憩30秒以上

視点追尾システム画像データ

事後アンケート 2分程度

・各段階における意識的な集中の度合い、環境や装置による影響の程度、スマホの存在や通知音による影響を確認

記録、イベント入力

記録、イベント入力

3段階

図 1 調査・実験の概要

2.2 アンケートの構成

被験者のスマートフォン利用形態や依存傾向を判定す

るために,事前アンケートを実施した。質問項目は,ス

マートフォンの 1 日の利用時間,アプリケーション利用

割合とその利用目的(複数回答可),スマートフォン利用

により削減された日常活動(複数回答可)と表 1 に示す

表1 スマートフォン依存傾向判別項目 1 スマートフォンを忘れると不安になる

2 スマートフォンが鳴っていないのに鳴ったと錯覚することがある

3 トイレやお風呂にスマートフォンを持ち込む

4 食事中にスマートフォンを扱う

5 起床直後・就寝前にスマートフォンをチェックする

6 スマートフォンを利用したまま寝ることがある

7 勉強中でもスマートフォンをそばにおいている

8 歩きながらスマートフォンを利用する

9 とくに用がなくてもスマートフォンを手に取る

10 わからないことがあるとスマートフォンで調べる

依存度傾向判別項目である。依存傾向の判別には,先行

研究 10),11)を参考にスマートフォンの利用習慣に関する

設問を 5 点法(「よくある」を 5 点,「ほとんどない」を

1 点)で問い,総得点が 29 点以下を低依存傾向,30~39

点を中依存傾向,40~50 点を高依存傾向とした。また各

実験段階における集中度,環境や装置による影響の程度

の確認のために表 2 の事後アンケートを行った。

表 2 事後アンケート項目

1 どのくらい集中できましたか。

2 タブレット端末が置いてあるとき気になりましたか

3 タブレット端末に通知が来たとき気になりましたか

4 反対にタブレット端末が置いてないとき集中できましたか

5 実験の際、タブレット端末をできるだけ気にしないようにしましたか

6 タブレット端末の通知の内容が気になりましたか

7 今回の実験の装置や環境によって緊張しましたか

8 今回の実験の装置や環境に不快感がありましたか

2.3 測定方法

本実験では,被験者の集中力を測定するため,能力面

と性格・行動面の特徴を見ることができるクレペリンテ

スト 12)を行い,全体の計算量(作業量)を集中力とみな

した。なお,本実験では,通常 15 分×2 回実施するク

レペリンテスト(1 行に並んだ数字を左から足していく

操作)を,被験者の疲労が集中力に影響を与えないよう

に考慮して,1 回のテストを 30 秒で数字の文字数を 40

個×2 行に設定した。そして,その作業時の脳血流量と

視点の動きを測定した。脳血流量(脳血流量=全ヘモグ

ロビン濃度=酸化ヘモグロビン濃度-脱酸化ヘモグロビ

ン濃度と定義され,単位はmM・cmである)は株式会社ス

ペクトラテック製の光イメージング脳機能測定装置

Spectratech OEG-16を,視点の動きは竹井機器工業株式

会社製のTalkEyeLiteを用いた。今回は片眼カメラを用

い,同社製の動画解析ソフトを使用して,眼球運動デー

タ,軌跡,注視時間を計測した。

3.実験結果と考察

平成27年12月22日~平成28年1月8日間の18日間

で19歳~24歳の教育学部の大学生男性29人,女性11人,計40名を被験者として調査・実験を行った。各々

の有効被験者数は,事前・後アンケートは40名,ク

レペリンテストは38名,脳血流量測定は23名,視点

追尾計測は34名である。なお,アンケート回答者数

とテスト受験者及び測定者の間で数値の差は,クレペ

リンテストの回答方法を間違った被験者がいたこと

と,脳血流量測定の場合は被験者の額が小さく,頭髪

により4点以上の測定ができなかったことと,視点追

尾測定の場合はテスト中に瞳孔が検出できなかった

ことやゴーグルずれにより測定ができなかったこと

により生じた。

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3.1 アンケートの集計結果 図 2 に,被験者に対する事前アンケートによる依存傾

向分布を示す。図より,低依存傾向が男性 8 人,中依存

傾向が男性 15 人・女性 8 人の計 23 人,高依存傾向が男

性 7 人・女性 2 人の計 9 人であった。また被験者のスマ

ートフォンのアプリケーションの平均利用割合は,SNS

が 40.8%,ゲームが 14.2%,情報検索が 10.4%,音楽が

9.2%,動画が 8.8%,電話が 8.0%と続いた。そのアプリ

ケーションの利用目的(複数回答の合計割合)は,連絡

が 25.9%,暇つぶしが 25.2%,コミュニケーションが

23.7%,写真・動画が 7.2%,近況報告が 6.5%と続いた。

堀川らの研究では依存度と SNS や動画サイトとの因果

関係が示されていたが,本研究では SNS に加えゲームが

依存度の要因として浮上した。そこで,利用割合の高か

った SNS,ゲームと依存傾向を比較したところ,表 3 に

示すように,依存傾向が高まるほど利用割合が増える傾

向にあり,女子の方が SNS に,男子の方がゲームに依存

する傾向が見られた(複数回答ありのため合計が 100%

を超える)。スマートフォン利用により日常生活で減った

活動時間は,勉強が 20.2%,睡眠が 18.2%,テレビが 18.2%,

運動が 12.1%,漫画・本は 11.1%,会話が 5.1%等であっ

た。そこで,依存傾向と勉強,睡眠時間を比較した結果

を表 4 に示す。表中の数値は,各依存傾向の中で性別毎

図2 依存度傾向分布

表3 SNSとゲームの利用割合[%]と依存傾向の関係

依存傾向 男性 女性

SNS ゲーム SNS ゲーム 高 53.3 17.5 58.3 13.3

中 38.5 15.7 41.9 8.4

低 26.3 14.4 被験者無

の睡眠と勉強を選択した回答者の割合を示している。

本研究でも堀川ら7)と同様に,睡眠時間のみに依存傾

向との関係が示された。 表4 勉強・睡眠時間の削減割合[%]と依存傾向

依存傾向 男性 女性

睡眠 勉強 睡眠 勉強

高 66.7 50.0 66.7 33.3

中 46.7 60.0 37.5 50.0

低 25.0 37.5 被験者無

3. 2 脳血流測定結果とクレペリンテスト

クレペリンテストの成績を表 5 に示す。1 回目から 2

回目にかけて回答数に増加傾向があるのに対して,2 回

目と 3 回目を比べると減少している。また,正答率は 1

回目,2 回目,3 回目の順にわずかに減少していることか

酸化ヘモグロビン濃度は増加傾向にあったが,被験者に

ら,通知による阻害が考えられる。この時の脳血流量の

変化の代表例を図 3 に示す。実験より,各段階において

よりヘモグロビン濃度や変化の度合いは,ばらつきが大

きかった。そこで,図 4 に示すように,有効データの各

テスト段階における酸化ヘモグロビン濃度の平均値を算

表 5 クレペリンテストの成績 1回目 2回目 3回目

回答数 正答数 回答数 正答数 回答数 正答数

平均値 31.0 30.9 33.5 33.3 33.3 33.1

正答率[%] 99.5 99.4 99.3

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

平常時 1回目 2回目 3回目酸化

ヘモ

グロ

ビン

濃度

[m

M・cm

測定時期

図4 各テスト段階における平均酸化ヘモグロビン濃度

0 92 184 279

実験時間 [s]

図 3 脳血流量測定データの例

1

酸化ヘモグロビン濃度

脱酸化ヘモグロビン濃度 全ヘモグロビン濃度=脳血流量

テスト 1回目 テスト 2回目 テスト 3回目

通知

酸化・脱酸化ヘモグロビン濃度, 脳血流量 [mM・cm]

酸化

・脱

酸化

ヘモ

グロ

ビン

濃度

脳血

流量

mM

・cm

] 1.0

-1.0

0

2

4

6

8

10

12

10-14 15-19 20-24 25-29 30-34 35-39 40-44 45-49 50

人数

[人

依存度傾向得点 [点]n.s.

*p<0.05

平常時

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y = 1.8333x + 33.167R² = 0.1053

0

10

20

30

40

50

0 1 2 3 4 5依

存度

傾向

得点

視点移動回数

0

0.4

0.8

1.2

1.6

-10 0 10 20 30 40

酸化

ヘモ

グロ

ビン

濃度

[mM

・cm

実験時間 [s]

酸化ヘモグロビン濃度

通知

図5 スマートフォンへの通知が酸化ヘモグロビン濃

度に影響を与えた場合の例

出したところ,平常時の場合が-0.09[mM・cm],1回目のクレペリンテストのみの場合が0.58[mM・cm],2回目のクレペリンテスト・スマートフォン(通知無)

の場合が0.68[mM・cm],3回目のクレペリンテスト・

スマートフォン(通知有)の場合が0.83[mM・cm]となり,クレペリンテストにより脳血流の増加,即ち

集中力の向上が認められた。2回目と3回目の間で有

意な傾向(分散分析,p<.05)が認められたことから,

スマートフォンの通知は,集中力に対して影響を与え

たと考えられる。なお,脳血流量の有効被験者で,高

依存傾向の6人のうち3人,中依存傾向の11人のうち5人,低依存傾向の5人のうち5人の計13名に図5に示す

ような顕著な酸化ヘモグロビン濃度の変化があった。 3. 3 視点の動きの測定結果とクレペリンテスト

視点の動きを分析した結果,1回目,2回目に関して

特徴は無かった。3回目に関して,有効被験者で,高

依存傾向の8人のうち3人(37.5%),中依存傾向の19人のうち4人(21.1%),低依存傾向の7人のうち1人(14.3%)の計8名に,スマートフォンへの視点の

移動が確認され,依存傾向に伴い視点が移動する割合

が増加していた。これら依存者の特徴として,依存度

傾向得点が高いほど,移動回数がわずかながら増加す

る傾向が見られた(図6)。図7にこれら被験者の視

点(軌跡と注視点)の例を示す。事後アンケートによ

ると1名以外は,「実験の際、スマートフォンをでき

るだけ気にしないようにしましたか」という質問項目

に対して,「した」或いは「少しした」と答えている。

また,有効回答者40人のうち上記の質問に対して,

「した」或いは「少しした」と回答した被験者は31人であり,77.5%の被験者がスマートフォンの通知を

敢えて気にしないようにしていた。2回目と3回目の

成績の比較で,視点がスマートフォンへ移動した有効

被験者で,かつクレペリンテストも有効回答者だった

7人のうち4人は回答数の減少があり1人は変化がな

いことから,わずかながら視点移動により成績が下落

する傾向が見受けられる。以上から,依存傾向が高い

被験者ほど,学習・作業中にスマートフォンに通知が

来ると,学習・作業に対する集中力は阻害され,その

効率や成績に影響する傾向があることが分かる。

図6 スマートフォンへの通知による視点移動の回数

と依存度傾向得点の関係

図7 通知に反応した被験者の視点の軌跡と注視点

4.おわりに 以上をまとめると,アンケート調査より,依存性の要

因として,SNS,ゲームに因果関係があり,男性より女

性の方が SNS に対する依存傾向は高く,女性より男性の

方がゲームに対する依存傾向は高い。またスマートフォ

ンの使用により,睡眠時間が削減される傾向があった。

脳血流量の測定から,スマートフォンへの通知は依存傾

向とは無関係に集中力に影響を与えた。さらに,依存

傾向が高い被験者ほど,スマートフォンへの通知により

視点がスマートフォンに移動する傾向があることが分か

った。

本研究は,科学研究費補助金基盤研究(B-26285201 の

助成を受けて行われた。

参考文献

1) 藤本登・藤木卓・上野耕史:中学生の「エネル

ギー変換に関する技術」に関わるガバナンス能

力の調査結果報告,日本産業技術教育学会第56

●低依存傾向 〇中依存傾向 △高依存傾向

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回全国大会講演要旨集,(2013),72 2) 藤本登・松田尚樹:高輝度LED型霧箱の製作と

歯科医用レントゲンフィルムの利用,日本エネ

ルギー環境教育学会第10回国大会論文集,(2015),32 -33

3) 藤本登:技術科におけるリスク概念の構築に向

けた検討-技術科教員や学生のリスク認知の状

況調査-,日本産業技術教育学会九州支部論文

集,22,(2015),9-13 4) 山口諒介・藤本登・藤木卓,他:教材として暖

房器具を用いたリスクに関する授業実践,日本

産業技術教育学会九州支部論文集,21,(2014),117-122

5) 藤本登・神崎悠輔:技術教育における安全性に

視点をおいた授業実践の試み,長崎大学教育学

部附属教育実践センター紀要,15,(2016),

73-78 6) 安岡広志・佐藤健・塩地成香・他:若年層のイ

ンターネットの利用とネット依存傾向について,

人間-生活環境系シンポジウム報告集,(2014),253-254

7) 堀川裕介・橋元良明・小室広佐子・他:中学生

パネル調査に基づくネット依存の因果的分析,

東京大学大学院学情報学環情報学研究調査研究

編,28,(2012)161-201 8) M. J. Koepp, R. N. Gunn, A. D. Lawrence, et

al.: Evidence for striatal dopamine release during

a video game, NATURE, 393, (1998), 266-268 9) 寺西慶祐,萩原 啓:NIRSを用いたひらめき時

の脳内変化の特徴抽出,モバイル学会誌,1(1),(2011),41-46

10) http://r25.yahoo.co.jp/fushigi/wxr_detail/?id=20121211-00027109-r25 (Nov. 1, 2016. Access)

11) http://www.angels-eyes.com/net_a/check.htm (Nov. 1, 2016. Access)

12) https://www.nsgk.co.jp/sv/kensa/kraepelin/ (Nov. 1, 2016. Access)

Abstract In order to obtain the risk information on data related technology, study on the effect of smart phones and their incoming alert on attention span during Kraepelin test was conducted by monitoring the change in cerebral blood flow and checking the eye movement with the eye-tracking system. According to the survey, the main factor for the dependency is SNS and PC-games, and women are more prone to get addicted to SNS and men tend to show more likelihood of dependence on PC-games. Also, using smart phones tends to cause reduction in sleep hours. Measuring the cerebral blood flow showed the influence of incoming alert on attention span being irrelevant to dependency. Moreover, study volunteers who have a higher tendency to dependency showed more eye movement toward their smart phones for incoming alert. Keywords : Smart Phone, Attention Span, Cerebral Blood Flow, Eye Tracking, NIRS