sle身性エリテマトーデス 2...

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SLE 全身性エリテマトーデス診断けた患者さんへ 編集協力 北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室(内科 准教授 保田 晋助 先生

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S LE全身性エリテマトーデスと診断を受けた患者さんへ

編集協力北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室(内科Ⅱ)

准教授 保田 晋助 先生

D9VL00143-P1708N作成年月2017年8月

1 2

全身性エリテマトーデス(SLE)は患者数が少なく、治療

法の確立が難しいことから「難病」に指定されています。

かつては命にかかわることも少なくない病気でしたが、

現在では治療法が進歩して、長く付き合うことになる

病気に変わってきています。

この冊子では、SLEの病態とその治療法をまとめました。

SLEという病気をより理解していただくために、ご活用

ください。

全 身 性 エリテマトーデ ス SLE につ い て

  SLEとは 3

  SLEの原因 5

  SLEの症状 7

  SLEの治療 9

   11

Q&A 13

はじめに もくじ

(参考)日常生活における工夫や気をつけること

1 2

全身性エリテマトーデス(SLE)は患者数が少なく、治療

法の確立が難しいことから「難病」に指定されています。

かつては命にかかわることも少なくない病気でしたが、

現在では治療法が進歩して、長く付き合うことになる

病気に変わってきています。

この冊子では、SLEの病態とその治療法をまとめました。

SLEという病気をより理解していただくために、ご活用

ください。

全 身 性 エリテマトーデ ス SLE につ い て

  SLEとは 3

  SLEの原因 5

  SLEの症状 7

  SLEの治療 9

   11

Q&A 13

はじめに もくじ

(参考)日常生活における工夫や気をつけること

全身性エリテマトーデスは英語でSystemic Lupus Erythematosusといい、その頭文字をとってSLEと呼ばれています。SLEは、「膠原病」の代表的な病気のひとつです。膠原病は、全身の血管や皮膚、筋肉、関節などに炎症がみられる病気の総称で、SLEのほかには関節リウマチなどが知られています。

Systemic Lupus Erythematosusをそのまま訳すと「全身性紅斑性狼瘡」となります。lupusはラテン語で狼の意味で、狼に咬まれた傷のように見える皮膚の紅斑がみられることから名づけられました。

日本には、約6~10万人の患者さんがいるといわれています。SLE患者さんのうち約9割が女性です。特に20~40代で発症することが多い傾向にありますが、最近はやや高齢化してきています。子どもや高齢者では男女比に大きな差はありません。

難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/entry/53 2017/3/6参照)

全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス S L E に つ い て

SLEとは

3 4

SLEは古くからある病気

膠原病のひとつ 女性に多い病気

橋本博史.全身性エリテマトーデス 臨床マニュアル.第2版増補.日本医事新報社.2014年11月

膠原病

ベーチェット病など

20以上

全身性エリテマトーデス

関節リウマチ

強皮症

シェーグレン症候群

全身性エリテマトーデスは英語でSystemic Lupus Erythematosusといい、その頭文字をとってSLEと呼ばれています。SLEは、「膠原病」の代表的な病気のひとつです。膠原病は、全身の血管や皮膚、筋肉、関節などに炎症がみられる病気の総称で、SLEのほかには関節リウマチなどが知られています。

Systemic Lupus Erythematosusをそのまま訳すと「全身性紅斑性狼瘡」となります。lupusはラテン語で狼の意味で、狼に咬まれた傷のように見える皮膚の紅斑がみられることから名づけられました。

日本には、約6~10万人の患者さんがいるといわれています。SLE患者さんのうち約9割が女性です。特に20~40代で発症することが多い傾向にありますが、最近はやや高齢化してきています。子どもや高齢者では男女比に大きな差はありません。

難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/entry/53 2017/3/6参照)

全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス S L E に つ い て

SLEとは

3 4

SLEは古くからある病気

膠原病のひとつ 女性に多い病気

橋本博史.全身性エリテマトーデス 臨床マニュアル.第2版増補.日本医事新報社.2014年11月

膠原病

ベーチェット病など

20以上

全身性エリテマトーデス

関節リウマチ

強皮症

シェーグレン症候群

残念ながら今のところはその原因は分かっていません。ただ、自分自身の体を、免疫系が攻撃してしまう病気であることは分かっています。免疫系は本来細菌やウイルスなどから自分自身を守ってくれる大切な役割をしているのですが、この病気にかかると、免疫系が自分の体を攻撃するようになり、その結果、全身にさまざまな炎症を引き起こします。

免疫システムの異常が起きるメカニズムははっきりしていませんが、家族にSLE患者さんがいる人は、いない人よりも発症しやすいことが知られています。しかし、いわゆる遺伝病ではなく、遺伝子が全く同じである一卵性双生児の2人が、ともにSLEを発症している割合は25~60%程度といわれています。遺伝要素だけで発症するものではなく、紫外線やウイルス感染などの環境要因も発症のきっかけになることが明らかになっています。遺伝要因と環境要因が積み重なることで、発症しやすい状態になると考えられています。

難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/entry/53 2017/3/6参照)

SLEの原因

住田孝之.膠原病・リウマチ.改訂第3版.診断と治療社.2013年2月

免疫システムに異常 環境要因と遺伝要因によって発症

5 6

環境要因紫外線月経・妊娠ウイルス感染

薬剤

遺伝要因

疾患関連遺伝子

SLEの発症SLEの発症

全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス S L E に つ い て

残念ながら今のところはその原因は分かっていません。ただ、自分自身の体を、免疫系が攻撃してしまう病気であることは分かっています。免疫系は本来細菌やウイルスなどから自分自身を守ってくれる大切な役割をしているのですが、この病気にかかると、免疫系が自分の体を攻撃するようになり、その結果、全身にさまざまな炎症を引き起こします。

免疫システムの異常が起きるメカニズムははっきりしていませんが、家族にSLE患者さんがいる人は、いない人よりも発症しやすいことが知られています。しかし、いわゆる遺伝病ではなく、遺伝子が全く同じである一卵性双生児の2人が、ともにSLEを発症している割合は25~60%程度といわれています。遺伝要素だけで発症するものではなく、紫外線やウイルス感染などの環境要因も発症のきっかけになることが明らかになっています。遺伝要因と環境要因が積み重なることで、発症しやすい状態になると考えられています。

難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/entry/53 2017/3/6参照)

SLEの原因

住田孝之.膠原病・リウマチ.改訂第3版.診断と治療社.2013年2月

免疫システムに異常 環境要因と遺伝要因によって発症

5 6

環境要因紫外線月経・妊娠ウイルス感染

薬剤

遺伝要因

疾患関連遺伝子

SLEの発症SLEの発症

全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス S L E に つ い て

SLEでは発熱や倦怠感のほか、皮膚炎や関節炎など全身にさまざまな症状が現れます。しかし個人差が大きく、症状の組み合わせ、現れる時期、強さなどは人によって異なります。

SLEは病気の経過のなかで、症状が再燃したり持続したりすることがあります。この病気の勢いや強さを「疾患活動性」という言葉で表し、異常な免疫システムが身体を勢いよく攻撃して、全身に炎症を起こしているような時には、「疾患活動性が高い」と表現します。反対に、攻撃の勢いが弱く、症状が落ち着いている時は、「疾患活動性が低い」と表現します。火に例えれば、前者は燃え盛っている状態、後者は炎の勢いがおさまり、小さくなっている状態です。SLEの病態は、この火が消えることなく、強まったり弱まったりを繰り返していくイメージです。そのためSLEの治療は、この疾患活動性をできる限り低く抑えて、症状をコントロールすることを目指して行います。

SLEの症状全身に多様な症状 疾患活動性のコントロールが重要

7 8

治療

疾患活動性が高い 疾患活動性が低い

できるだけこの状態をキープ!

前頭部から頭頂部にかけての脱毛

指が白くなったり、紫色になったりする

(レイノー現象)

口腔、鼻咽腔に潰瘍ができる

痙攣を起こす、うつ状態になる

ふしぶしが痛む

すねに紫斑(あざ)が出やすくなる

蝶形紅斑

紅い斑点が出る

紅い斑点が出る

ループス腎炎

心臓に水がたまる

足がむくむ

全身症状全身倦怠感、発熱、易疲労感

全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス S L E に つ い て

SLEでは発熱や倦怠感のほか、皮膚炎や関節炎など全身にさまざまな症状が現れます。しかし個人差が大きく、症状の組み合わせ、現れる時期、強さなどは人によって異なります。

SLEは病気の経過のなかで、症状が再燃したり持続したりすることがあります。この病気の勢いや強さを「疾患活動性」という言葉で表し、異常な免疫システムが身体を勢いよく攻撃して、全身に炎症を起こしているような時には、「疾患活動性が高い」と表現します。反対に、攻撃の勢いが弱く、症状が落ち着いている時は、「疾患活動性が低い」と表現します。火に例えれば、前者は燃え盛っている状態、後者は炎の勢いがおさまり、小さくなっている状態です。SLEの病態は、この火が消えることなく、強まったり弱まったりを繰り返していくイメージです。そのためSLEの治療は、この疾患活動性をできる限り低く抑えて、症状をコントロールすることを目指して行います。

SLEの症状全身に多様な症状 疾患活動性のコントロールが重要

7 8

治療

疾患活動性が高い 疾患活動性が低い

できるだけこの状態をキープ!

前頭部から頭頂部にかけての脱毛

指が白くなったり、紫色になったりする

(レイノー現象)

口腔、鼻咽腔に潰瘍ができる

痙攣を起こす、うつ状態になる

ふしぶしが痛む

すねに紫斑(あざ)が出やすくなる

蝶形紅斑

紅い斑点が出る

紅い斑点が出る

ループス腎炎

心臓に水がたまる

足がむくむ

全身症状全身倦怠感、発熱、易疲労感

全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス S L E に つ い て

SLEの症状は患者さんによって多岐にわたるため、治療方法は炎症の起きている臓器や、疾患活動性によって決められます。疾患活動性がある場合、主に薬による治療を行います。薬物療法で効果がみられない場合または副作用が強く出てしまう場合は、他の治療法を試みることもあります。

SLEの治療治療は主に薬物療法 主な薬剤

● 副腎皮質ステロイド免疫の働きを抑える効果のある薬剤で、SLEの治療の中心として使用されています。専門医の指示のもとで、重症度に合わせて分量を調節しながら服用します。特に疾患活動性が高い人は、通常より多い量を点滴する「ステロイドパルス療法」という治療が行われることもあります。

● 免疫抑制剤免疫細胞に作用して免疫抑制効果をもたらす薬剤です。副腎皮質ステロイドの効果が得られにくい人や副作用が強い人に使います。

● 生物学的製剤(抗体医薬品)*自分自身を攻撃する抗体を作る細胞が生き残るために必要な物質の働きを阻害することで、疾患活動性を抑えます。

*:生物から作られるタンパク質などを応用して薬として使用するものです。病気の発症や症状の悪化に関与していると考えられるタンパク質などの標的をピンポイントに狙い撃ちすることで効果を発揮します。

9 10

全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス S L E に つ い て

SLEの症状は患者さんによって多岐にわたるため、治療方法は炎症の起きている臓器や、疾患活動性によって決められます。疾患活動性がある場合、主に薬による治療を行います。薬物療法で効果がみられない場合または副作用が強く出てしまう場合は、他の治療法を試みることもあります。

SLEの治療治療は主に薬物療法 主な薬剤

● 副腎皮質ステロイド免疫の働きを抑える効果のある薬剤で、SLEの治療の中心として使用されています。専門医の指示のもとで、重症度に合わせて分量を調節しながら服用します。特に疾患活動性が高い人は、通常より多い量を点滴する「ステロイドパルス療法」という治療が行われることもあります。

● 免疫抑制剤免疫細胞に作用して免疫抑制効果をもたらす薬剤です。副腎皮質ステロイドの効果が得られにくい人や副作用が強い人に使います。

● 生物学的製剤(抗体医薬品)*自分自身を攻撃する抗体を作る細胞が生き残るために必要な物質の働きを阻害することで、疾患活動性を抑えます。

*:生物から作られるタンパク質などを応用して薬として使用するものです。病気の発症や症状の悪化に関与していると考えられるタンパク質などの標的をピンポイントに狙い撃ちすることで効果を発揮します。

9 10

全 身 性 エ リ テ マ ト ー デ ス S L E に つ い て

( 参 考 )日 常 生 活 に お け る 工 夫 や 気 を つ け る こ と

健康的な生活習慣を

心臓病や脳卒中などにつながる生活習慣病を避けるため、食生活のバランスに気を配り、健康的な体重の維持につとめましょう。また、ウオーキングや水泳などの運動は、体重のコントロールだけでなく関節の強化や気持ちのリフレッシュに有用です。主治医に相談のうえ、ぜひ取り入れてみましょう。

日差しは避ける

日光(紫外線)は病気の悪化と関係することがあります。屋外で活動する時は日焼け止めを塗ったり、帽子や長袖の服を着るなどして、可能な限り影響を避けましょう。

体調の変化に敏感になる

SLEの治療では、免疫システムを抑える薬を使用することもあるため、ウイルスや細菌から身を守る力も抑えられています。そのため、感染症にかかりやすく、かかった場合には重症化しやすくなっています。うがい、手洗い、人混みでのマスク着用など、感染症にかからないよう、十分に注意しましょう。また、発熱や痛み、皮疹の増加、頭痛やめまいなど、 これまでなかった新しい症状に気がついたら、すぐ主治医に相談しましょう。また、生活のなかで、自分の病状の変化と関係しやすい要因がないか探してみてください。もし見つかったら、それらに気をつけて過ごしましょう。

疲労やストレスは大敵

日光と同じく、疲労やストレスも病状悪化につながる可能性があります。疲れすぎないよう、ストレスは適切に解消しましょう。

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( 参 考 )日 常 生 活 に お け る 工 夫 や 気 を つ け る こ と

健康的な生活習慣を

心臓病や脳卒中などにつながる生活習慣病を避けるため、食生活のバランスに気を配り、健康的な体重の維持につとめましょう。また、ウオーキングや水泳などの運動は、体重のコントロールだけでなく関節の強化や気持ちのリフレッシュに有用です。主治医に相談のうえ、ぜひ取り入れてみましょう。

日差しは避ける

日光(紫外線)は病気の悪化と関係することがあります。屋外で活動する時は日焼け止めを塗ったり、帽子や長袖の服を着るなどして、可能な限り影響を避けましょう。

体調の変化に敏感になる

SLEの治療では、免疫システムを抑える薬を使用することもあるため、ウイルスや細菌から身を守る力も抑えられています。そのため、感染症にかかりやすく、かかった場合には重症化しやすくなっています。うがい、手洗い、人混みでのマスク着用など、感染症にかからないよう、十分に注意しましょう。また、発熱や痛み、皮疹の増加、頭痛やめまいなど、 これまでなかった新しい症状に気がついたら、すぐ主治医に相談しましょう。また、生活のなかで、自分の病状の変化と関係しやすい要因がないか探してみてください。もし見つかったら、それらに気をつけて過ごしましょう。

疲労やストレスは大敵

日光と同じく、疲労やストレスも病状悪化につながる可能性があります。疲れすぎないよう、ストレスは適切に解消しましょう。

11 12

Q & A S L E に つ い て

QA SLEは完治するのは難しい病気ですが、適切な治療で病状

をコントロールすることによって、健康な人と同じように生活できる患者さんが増えてきました。人によって病状が大きく異なるため、主治医の指示に従って治療を続けましょう。

難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/entry/53 2017/3/6参照)

13 14

治療すれば治るのでしょうか? QA SLEにおいては、妊娠・出産が疾患活動性を高めるリスクが

あるといわれていますが、病気の状態や使用している薬によっては、妊娠・出産が可能な場合があります。妊娠・出産については、計画前に主治医とよく相談しましょう。

妊娠・出産はできるのでしょうか?

Q

A 自覚症状だけでは、治療の必要性を判断することはできません。自覚症状が出ていなくても、臓器に炎症が起こっている場合もありますので、医師の指示に従いましょう。

自覚症状がなければ治療しなくてもいいのですか?

Q

A SLEは難病助成制度の「指定難病」のひとつです。所得条件に応じた医療費助成が受けられますので、詳しくは各都道府県の窓口にお問い合わせください。

SLEは治療期間が長く医療費が心配ですが、助成制度などはありますか?

Q & A S L E に つ い て

QA SLEは完治するのは難しい病気ですが、適切な治療で病状

をコントロールすることによって、健康な人と同じように生活できる患者さんが増えてきました。人によって病状が大きく異なるため、主治医の指示に従って治療を続けましょう。

難病情報センター(http://www.nanbyou.or.jp/entry/53 2017/3/6参照)

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治療すれば治るのでしょうか? QA SLEにおいては、妊娠・出産が疾患活動性を高めるリスクが

あるといわれていますが、病気の状態や使用している薬によっては、妊娠・出産が可能な場合があります。妊娠・出産については、計画前に主治医とよく相談しましょう。

妊娠・出産はできるのでしょうか?

Q

A 自覚症状だけでは、治療の必要性を判断することはできません。自覚症状が出ていなくても、臓器に炎症が起こっている場合もありますので、医師の指示に従いましょう。

自覚症状がなければ治療しなくてもいいのですか?

Q

A SLEは難病助成制度の「指定難病」のひとつです。所得条件に応じた医療費助成が受けられますので、詳しくは各都道府県の窓口にお問い合わせください。

SLEは治療期間が長く医療費が心配ですが、助成制度などはありますか?

S LE全身性エリテマトーデスと診断を受けた患者さんへ

編集協力北海道大学大学院医学研究院 免疫・代謝内科学教室(内科Ⅱ)

准教授 保田 晋助 先生

D9VL00143-P1708N作成年月2017年8月