横型soi高速ダイオードの逆回復動作におけるダイ...
TRANSCRIPT
EDD-10-93
SPC-10-150
横型SOI高速ダイオードの逆回復動作におけるダイナミックアバラン
シェ現象の解析とその抑制構造の検討
山本 貴生* 加藤 久登 戸倉 規仁(㈱デンソー)
中川 明夫(中川コンサルティング事務所)
AnalysisofdynamicavalanchephenomenoninSOIlateralhighSpeeddiodeduringreverserecovery
andproposalofnoveldevicestructuresuppresslngthedynamicavalanche
Takao%mamoto*,HisatoKato,NorihitoTbkura(DENSOCORPORATION)
andAkioNakagawa(NakngawaConsultingOffice)
WehavestudiedthedynamicavalanchephenomenoninSOHateraldiodeduringthereverserecoveryusing
mixed一mOdedevicesimulation.Itisfoundthatthelocalizedimpactionizationoccursneartheanode-Side丘eld
oxideedge,WhereahighdensityofholecurrentflowsandahighelectriC丘eldappearssimultaneOuSly・We
propose,forthe丘rsttime,thatthep・tyPeanOdeextensionreglOnalongthetrenchside-Walleffbctivelysweep
out the stored carriers beneath the anode prdifEusionlayer during the reverse recovery,reSultinginthe
reductionoftheelectriC丘eldandtheremarknblesuppressionofthedynamicavalanche.Theanodeextension
reglOn does notcause anylnCreaSein anodeinjectione臨ciencylntheforwardbias operation・Thus,the
proposed SOIlateraldiode structureis promlSlngaS a highspeed andhighlyrugged diodein the next
generationmicro-inverters・
キーワード:インバータ,SOI,横型ダイオード,逆回復,ダイナミックアバランシェ,デバイスシミュレーション
(Inverter,SOI,LateralDiode,Reverserecovery,Dynamicavalanche,Devicesimulation)
1.はじめに
1軸m程度の厚膜シリコン層を持つSOI基板を使用し,
横型ダイオード(LDiode),LIGBT,及び制御回路等をト
レンチ分離技術によりモノリシック化したSOIインバータ
ICが開発され(1,2),実用化されている。SOIインバータIC
のハイパワー化や高効率化を図るためには,LDiode と
LIGBTを低オン電圧化,高速化することが必要である。
図1に,インバータに使用される一般的な高速ダイオー
ドの逆回復(リカバリ)動作の模式的な波形を示す。ダイ
オードのアノード電流hは、まず順方向電流IFを通電した
後,リカバリ動作に移る。リカバリ特性に関する性能指標
は,設定されたdi/dt条件における逆回復電荷Qrr,逆回復
時間trr,そして逆回復ピーク電流IMであり(3),共に小さ
くすることが求められる。
LDiodeや高速化するには,まずQrrを小さくする必要が
ある。そのためには,順方向動作時のアノード注入効率を
低く設計することが必要で,p■/p+ァノード構造を採用す
ることで可能になる(4-6)。また,trrを短縮するには,LIGBT
time
図1ダイオードの一般的なリカバリ動作波形,実線:
ダイナミックアバランシェなし,点線:ダイナミックア
バランシェあり
を高速動作させ,di/dtを大きくすることで可能になるが,
同時にIRMも増加する。さらにdi/dtを大きくすると,ダイ
- 57 一
2010/11/29◎2010IEEJapan
ナミックアバランシェ(3)に起因する2ndpeakが現れると共
にIMの増加が顕著になり(6),破壊に至るという問題があ
る。中川らの報告では,6セルからなる素子面積0.74mm2
のLDiodeのリカバリ特性は,電源電圧Vcc,順方向電流IF,
di/dtがそれぞれ300V,5A(電流密度は約650A/cm2),
.30A/psecの時,IRM,trrはそれぞれ5.5A,300nsecと良
好な高速特性を示しているが,リカバリ波形には1stpeak
よりも高い2ndpeakが現れている(2)。
リカバリ動作時のデバイス内部の動作解析やダイナミッ
クアバランシェ現象(3)に関して,縦型ダイオードの報告例は
多いが(7),SOI型LDiodeの報告例は極めて少なく(6),ダイ
ナミックアバランシェに関して詳しく論じられていない。
本報告では,デバイスシミュレータを使用して,まず従
来構造のSOI型LDiodeについてリカバリ特性を計算し,
ダイナミックアバランシェが顕在化する時のデバイス内部
の動作を詳しく解析した。次に,この解析と理解に基づい
てダイナミックアバランシェを抑制する新しい構造を提案
し,その効果をシミュレーションで検証した。
2.従来型SOILDiodeのリカバリ動作解析
く2・1〉デバイス構造とシミュレーション解析
まず,図2(a)に従来技術に基づいてLDiodeとLIGBTを
SOI基板に集積したデバイスの概略構造図を示す。定格耐
圧600Vを想定し,n‾シリコン層の厚さと埋め込み酸化膜
(BOx)の厚さを,それぞれ15pm,叫mに設定した。デ
バイス表面の電界緩和には,Scro11-ShapedResistiveField
Plate(SRFP)8)を想定した構造を採用し,高速化のために,
LDiodeのアノードには低濃度pウエルと高濃度p+層から
なる低注入効率のp‾/p+アノード構造を採用した(5)。
図2(b)に,シミュレーションに使用したLDiodeのデバ
イス構造を示す。耐圧600Vを得るため,n‾ドリフト層の
!て 1.mdc >」< L氾BT >;
(b)
図2 従来型LDiodeとLIGBTのデバイス構造,(a)
LDi。deとLIGBTをSOI基板上に集積したデバイス構造,
(b)シミュレーションに用いたLDiode構造
図3 LDiodeとLIGPTからなるリカバリ特性評価の
ための回路構成(Mixed-mOdesimulation)
横幅と不純物濃度を,それぞれ9軸m,7×1014cm‾3に設定
した。また,順方向電流2A時の電流密度を報告例(2)の650A
/cm2に等しくするため,奥行き(AreaFactor)を3.4mm
に設定し,LDiodeの総面積を0.31mm2とした。p‾/p十ア
ノード構造については,低濃度pクエル内に高濃度p+層を
形成し,アノード電極にコンタクトする低濃度pウエル表
面と高濃度p+層表面の面積比は3:1に設定した。一方,LIGBTの構造は,n‾ドリフト層の構造はLDiode
と同様とし,ゲート酸化膜厚を80nm,LIGBTの総面積を
LDiodeに対して6.9倍の2.16mm2に設定した。
図3に,LDiodeのリカバリ特性の解析を行うための
Mixed-mOdeシミュレーションの回路構成を示し,図2に
示したLIGBTでLDiodeを駆動する。電源電圧Vcc=280V,
負荷インダクタンス=5mH,ゲート抵抗Rgはアノード電流
IAのdi/dtに応じて設定した。スイッチング動作のシーケン
スは,ゲートにダブルパルスを印加し,1stpulseの立ち下
がりでIJI)iodeにフリーホイーリング電流を供給し,2nd
pulseの立ち上がりでLDiodeをリカバリ動作させ,その時
の過渡特性を解析した。シミュレータはDESSIS(9)を使用し
た。
〈2・2〉シミュレーション結果とリカバリ動作解析
図4に,従来型LI)iodeのリカバリ特性を示す。Osecで,
軸を介してLIGBTのゲートにステップ電圧を印加する。
Rg=1.5kE2の場合,ターンオン前の時刻tl(=10nsec)にお
いて,LDiodeに2Aのフリーホイーリング電流が流れてい
る。約40nsec経過後LIGBTがターンオンし,LDiodeのア
ノード電流IAは-80A/LLSeCのdi/dtで減少する特性を示し
た。他方,Rg=3kE2の場合,di/dtは-43A/psecであり,
Rgの設定によりdi/dtを可変できることを確認した。なお,
図4に示したRg=3knの場合の波形は,便宜上左方向へ
40nsecシフトさせてあり,IAが低下を始める時刻が約
40nsecになるように操作して示してある。
1.5k臼の場合,IAは115nsec付近でピーク値を取るが,
その形状が歪んでいることからダイナミックアバランシェ
が発生していると考えられる。リカバリ動作時のIAは,空
乏化によりn‾ドリフト層に蓄積されたキャリアの排出と,
一 58 -
図4 従来型LDiodeのリカバリ特性,dudtは-80A/LLSeC
(Rg=1.5kE2),-43A/LLSeC(Rg=3kn)
ダイナミックアバランシェによりデバイス内部で新たに生
成されたキャリアの供給の和で与えられる。そこで,n‾ド
リフト層に蓄積されたホールの掃き出しのみによる電流ピークを調べるために,DESSISのPhysicsの一項目である
衝突イオン化(ImpactIonization)機能をオフにした条件
にて計算し,結果を図4に示す。図より,IAはt2(=112nsec)
でシャープなどーク波形を呈することが確認された。これ
に対し,衝突イオン化機能をオンにした場合の波形はt2に
おいて変曲点を呈しており,この点をlstpeak(=-1.57A,
112nsec)と見なした。
衝突イオン化機能をオンにした場合の,lstpeak以降の
波形は,5nsec経過したt3(=117nsec)において最大値を
取ることから,これを2ndpeak(=・1.59A)と判断した。
その後,IAは370nsecまで単調減少する。一方,3knの場
合,t2’(=148nsec)で1stpeak(=-1.14A)を取るが,2nd
peakは発生せず475nsecまで単調減少する。なお,図4に
示したアノード電圧VAXの波形は,約-200Vにおいて折線
的に変化するが,これはLIGBTのターンオン特性に起因し
ている。
Rg=1.5kE2の場合に発生する2ndpeakはダイナミックア
バランシェに起因すると考えられるが,そのメカニズムを
詳しく調べるために,図4に示した6つの時刻tl(ON状
態,2.OA),t2(1stpeak,-1.57A),t3(2ndpeak,-1.59A),
t4(テール初期,-0.76A),t5(テール中央,-0.40A),t6(OFF
状態,OA)において,6つのパラメーター電位Ⅴ,衝突イ
オン化率Ⅰ.Ⅰ.,電界強度E,ホール濃度Np,およびホール
電流密度JpLに着目してLDiodeの内部状態を分析し,そ
の結果を図5に二次元マップで,図6に点AにおけるE,
Jp及びⅠエの時間変化をグラフで示す。
2ndpeakを挟むt2~t4の期間に注目すると,図5の電位
分布等の変化から,空乏化はまず低濃度pクエルからBOx
界面に向かって拡がるが,2ndpeak一のt3においても5pm
程度であり,空乏層の拡がりは遅い。このため,t3における
電界強度分布は低濃度pウエルのコーナ部からフィールド
\ 弍yD�v���ネ�ロ����如坤癒)H2ns 剽i細野ad17ns �+����」)�u2�-tr5匝12)3恥$ 悠�リux�ィ*クク�2�
p・0地軸V tトー2鮒 tV]‾押野鹿癖 ���������蓼ヒ���ヒ�6ィ�����"���ノ�Y�X�b�rtJ4 \囁要撃 凵=*S=三二===二三=二二1___二軍隼 ����ク�8�8.���ネ"�墨-≡一教 深_ ��
短評喧 ‡皿窪感皿Ⅰ.‡. ‾王玉21へー′SE封 …b滋精髄ぢ・昭司 �� 凵_ �� ��一・・.且」∵十 �� ��
」 ノ �8��ク钁8ョネ���凉ケ¥倅��h��キツ���3s�S#r�5.3拡25 ��SCtYOイ�
EleCホcField 0~ヱp5E5巨 をⅤた血∃ ������h����6メ� � �� ��
押 凵@・_.-_¥ 野攣 2.90五5 ���W8�H�i�x�X耳�XヌH�X耳���X�X�h�X���h竧�X�T��R�����H���'ネ�����xヌ���ァ���ロ叺����Hヌ杏����������‾漑・1.競.汁.描出.くく・::・‾・・■:黙 ■ ��H�����ネゥ���債�
HokDCnSiけ ltlj\lt18 UcJ】Np point HoleCun℃nl 慧慧3Jp 終極墳 ����������ィ�b�Uネ�(��dネ��� ��一蓑‾郡‾■H・…… 一芯悪く-.、..、賀萱.:.L �6リ�ク�ウ��ネ���ネ���ネ������R�x���ネ��ワ�����l����������<X����耳耳自{�ィ耳耳爾�∴J′題 率_ 一衰≡一一一一一一一式=毒率 未�
避 ���� ��R�
W ��耳耳耳������7�����J�����ネ�����h����l���リ���8�h���������������X蓼�X蓼�X�����ネ���Y��������ィ���ネ耳ヒ8����� �����+��%��娩��耳耳����ャ諟ネリリスX����險�������hノ円ネ+�+���/��ソ8�ネ���������クョネ�ク�h����ョネ����ィ��ネ����ゥ顋�ゥ韋ィ��ョネ��ゥ���Tリ��ョネ����<X險ヌネ���������������h險�����hヌ8�Y}イ�1一石石 野 ���*リ�ネ�����H�x�ネ�n,���wr�h�テ�8�H��ァネ+i9h�Yz9?ク��ziU����(4ク�����������������8淺'(��.H�x�h�yIb�
図5 tl~t6における従来型LDiodeのアノード領域の電位,衝突イオン化率,電界強度,ホール濃度,およびホール
電流密度分布の時間変化,dudt=-80A/LIS(Rg=1.5kE2)
- 59 -
5
1
5
0
5
1
0
0
.
-
(亘)Jざ0ヒnU名Oud
5
2
.
(A)当九㌧&d}-OA。pOu亘
れ
U
O
O
(
U
O
O
O
5
八
U
5
0
0
5
3
2
2
1
1
5
(
U
-
三 組 刮D1.正辞 冤U 10 10 10 18 10 10 10 10
ぎ/ 倩ィ��゚��"� ��
!〆 ���*ネ��� ��
l �5ルj���.����t l t 仞8vィ�h�����
ト調 儿Y���\ ��
ぎ〟 舒ネ��+2�\ ��
ぎ〟 ��リ.�5リ�����
昔 薄ツ�CH��CR���
鈍♂箋2…法匝) 舶泊も・8
図6 従来型LDiodeのA点における電界強度E,ホー
ル電流密度Jp,衝突イオン化率Ⅰ上の時間変化,
di/dt=-80A/甚S(Rg=1.5kE2)
酸化膜端部にかけて集中し,A点のシリコン表面で2.90×
105V/cmに達する。また,t3におけるホール電流密度分布
は,n‾ドリフト層から掃き出されたホールが,低濃度pウ
エルに向かって集中して流れ,A点のシリコン表面で2.35
×105A/cm2に達する。この結果,t3においてA点で1.70×
1027pairs/sec・cm3の衝突イオン化が発生し,これがダイナ
ミックアバランシェの原因であることが明らかになった。
t4付近でBOxに到達した空乏層は,その後はカソード方
向に向きを変え,BOxに並行に拡がる。図6から,ダイナ
ミックアバランシェが発生するのはt2~t4の期間に限られ
ているが,その直接の原因はA点がこの期間だけ高電界に
なり,衝突イオン化率が著しく高くなるためであった。
テール中央部のt5(=300nsec)においても,A点のホー
ル電流密度が6.13×104A/cm2と極めて高い値を保っている
理由は,蓄積ホールが継続してA点を通過してアノードへ
掃き出されるからである。しかし,電界強度が7.07×
104V/cmまで低下することで衝突イオン化は激減し,ダイ
\ 俛ルU�冦ィ耳繁6��毎夕ff撼l) 琶・弧五島
lmpaCt I,Ⅰ. �+�+88(8(8(8(�リ�B�
lonlZ8110n lE21■〉5王ミ24 匝癒画醸頑呵 �����Yu倅�#R�
tlでCdcfidd ‾0~2jE5E 【V†eml ����������������gH�����������耳耳耳�X������ョ�-I����ノ�ツ���6ラ(��u�6�����������vtSX/���Jx�����ネ�(�������h�������h�(���==:=============コ】 】 =‾「≒‾‾‾‾】 =烹攣攣攣≡≡≡≡≡≡皇
ナミックアバランシェは発生していない。一方で,Rg=3kE2の場合,図4に示す1st peakのt2’
(=148nsec,一1.14A)とテール初期のt4,(=180nsec,-0.75A)
におけるLDiodeの内部状態を,EとⅠ.I.のみについて図7
に示す。図7のt2’及び図5のt3におけるEとⅠ.Ⅰ.の比較か
ら,Eは2.90×105V/cmから1.78×105V/cmへ約2/3に低
下し,I.Ⅰ.は1.70×1027pairs/sec・cm3から1.02×
1025pairs/sec・cm3へ約2桁減少する。これらの減少は,di/dt
が一80A小Sから-43A小Sへ約1/2緩和したことに因る。
3.ダイナミックアバランシェの制御
LDiodeのリカバリ動作におけるダイナミックアバラン
シェの制御について考える。<2.2>より,ダイナミックアバ
ランシェが発生する条件は,図5に示す様に,A点におい
て高いホール電流密度と高い電界強度が同時に発生するこ
とであることが確認された。高速ダイオードを実現するた
めには,高いdiノdtにおいても,A点におけるEを低く抑え
ることが最も効果的であると考えられる。
〈3・1〉 ダイナミックアバランシェ抑制の考え方
LDiodeのアノード領域の構造を工夫することで,リカバ
リ過程におけるA点の電界を緩和する方法を検討する。図
5に示す電位分布等の時間変化から,従来型LDiodeの空乏
化は図8に示す実線の夫印①~⑤の順で進行し,これは図5
の時刻t2~t6に対応する。図5に示す電位分布の推移から
空乏化は二段階で進行し,①→②→③は縦方向,③→④→
⑤は横方向に進む。
ここで,もし,点線の矢印①~⑤の順で直線的に進行さ
せることができれば,空乏化を遠くすることができる。す
なわち,リカバリ時に一次元ダイオードと等価な動作をさ
せるという考え方である。著者らは,図8に示すようにト
レンチ側面にp型のアノード延長領域を配置することで,一次元ダイオードと等価な動作が実現できると考えた。
図7 t2,とt4,における従来型LDiode内部の衝突イオン化
率と電界強度分布の時間変化,dudt=-43A/LIS(Rg=3kn)
- 60 -
Anodee裏ensionrぢ辞On
図8 p型アノード延長領域を付加し,一次元ダイオー
ド構造に近づけたLDiode構造と空乏化過程の促進
√∈U毒等【X)dr.音suひDIugnU0-0〓
嘗吉を妄言毒吾還膏畠
O
U
5
∩
∠
9
仁
U
3
0
2
〔
∠
∩
∠
1
1
1
1
01(M≡P箋竃J竃d).〓普選雷雲澄愚意急呈
〈3・2〉アノード延長型SOILDiodeの提案
図9に,シミュレーションに用いたアノード延長領域を
備えたSOILDiode(以下,アノード延長型LDiode)のデ
バイス構造を示す。アノード延長領域の表面不純物濃度と
厚さは1×1020cm‾3,1Ltm(Type-I)に設定した。なお,P
型のアノード延長領域を除けば,図2(b)の従来型LDiode
と同一構造である。シミュレーション解析の要領は<2.1>と
同様であり,LDiodeとLIGBTを組み合わせてリカバリ特
性解析を行った。
rathode An(ld亡
図9 シミュレーションに用いたアノード延長型
LDiodeの構造
〈3・3〉シミュレーション結果とリカバリ動作解析
図10に,アノード延長型LDiodeのリカバリ特性を,従
来型LDiode(図4の波形)と比較して示す。ただし,di/dt
- lmle=lヾヾヾ)
図10 アノード延長型LDiodeと従来型LDiodeのリカ
バリ特性比較,di/dt=-80A/LLSeC(Rg=1.5kE2)
は-80A/psec(Rg=1.5kE2)の場合のみとした。
図10より,アノード延長型の1stpeakはt2”(=103nsec,
-1.51A)であり,従来型のt2(=112nsec,-1.57A)よりも
9nsecだけ早いが,t2,,までのアノード電流波形はほぼ重な
る。t2”以降,両者の波形は分離し,従来型は2nd peakの
t3(=117nsec,-1.59A)まで増加し,その後減少に転じる。
一方,アノード延長型はt2”以降単調減少するが,5nsec後
のt3”(=108nsec,-1.49A)で変曲点を取る。この変曲点を
2ndpeakと見なした。両者のQrrは184nC,205nCであ
電l榊 撤S 剴ヤ”そ1威渾避3ns 佛(ァxコ�+��謁�奉�ち醸11)盈触 亰I4偃ィ-��ィナYN俾メ�緑胴)与鱒麺
_慧V tVH10Vit印) ���� �� ��
妾.1払 冲J.1・ ��i�范��‾-ヱJl ����kC緯イ�‾鼠′ ∫
1塁 凵ィ1 罰鱒磁 偖�jィ�b��� ��
‡粗野鋸淫 lmiz鵬珊Ⅰ.Ⅰ. lEjl‾\さEヱ4 蝕桓重野・孤軍】 ��凵R- ●■■ �� ��
1 �4應E娼1 �9y��&ィ��������雲,45五三三 佝H�r�1
Ek仁山cFieu 8:~2・き正芳E tY/cm】 ��R��� �� ��し=‾‾¥‾=‾7-へりソ、_ここう■遍 册リ�9�ネ宀?鞍C��X��� �
Ho:leDem重野 lE13\1王18 匝扉iNp_ 画軸 HoleCml ニ㌍LJJp 区毎璃 �� �� �� ��
・州・. ����������$�ケ�{3�幹�ワイ�卓 .-..津」王.諾Eヱ3 箋二一一,=よ■二‾‾ ��
J � �� ��
藍_軍 �� �� ��
王.10王5 1.沌E4_ �8�CS8.�B�����3sh.��「+
図11 tl~t6におけるアノード延長型LDiodeのアノード領域の電位,衝突イオン化率,電界強度,ホール濃度,
およびホール電流密度分布の時間変化,dudt=-80A小S(Rg=1.5kE2)
- 61一
2
5
1
■
h
U
0
5
1
5
1
8
鳩
■
T
へV二、「一u巴J⊃U名2V
(A)当九㌧払遥¢A薫き頑
0
0
5
0
0
0
5
0
0
0
0
幻
3
2
2
1
▲
・
■
1
5
〇
一
、・-li111e=heC)
図12 アノード延長型LDiodeのA点における電界強度
E,ホール電流密度Jp,衝突イオン化率Ⅰ.Ⅰ.の時間変化,
di/dt=-80A/甚S(Rg=1.5kE2)
り,アノード延長構造により,衝突イオン化による新たな
キャリア生成が21nCだけ低減されることが分かった。
次に,<2.2>と同じ要領で,アノード延長型LDiodeのリ
カバリ動作について,6つの時刻-tl~t6-と6つのパラメ
ーターⅤ,Ⅰ.Ⅰ.,E,Np,Jp一に着目して内部状態を分析し
た結果を,図11に二次元マップで,図12に点Aにおける
E,Jp及びⅠエの時間変化をグラフで示す。
アノード延長型のt2”~t4の期間に着目すると,図11の
電位分布等の変化から,t2”(=103nsec)において既にアノ
ード延長領域からn‾ドリフト層に向かって空乏層が5.軸m
拡がっている。5nsec後,2ndpeakのt3,,(=108nsec)に
おいては,空乏層は横方向に9.叫m拡がっており,約
0.旬m/nsecの速度で,リカバリ開始と同時に急速に空乏化
することが分かった。また,t3’’におけるA点のE,Jp及び
Ⅰエは,それぞれ2.11×105V/cm,1.76×105A/cm2及び6.95
×1025pairs/sec・cm3であり,図5に示した従来型LDiode
と比べると,Eは0.8×105V/cmだけ減少し,Jpは3/4に,
Ⅰ.Ⅰ.は1/24に大幅に減少した。
さらに,E,Ⅰ上の時間変化を図6と図12で比較すると,
ピーク値が低下するだけでなく,大きな値を取る期間も短
縮している。即ち,2ndpeakが著しく小さくなったのは,
アノード延長領域の働きによりリカバリ初期の空乏化が促
進され,A点の電界強度が減少し,衝突イオン化率が大幅
に低下してダイナミックアバランシェが抑制されたことに
因ると結論づけられる。
テール初期のt4(=200nsec,-0.65A)において,図11
より,空乏層は約3叫mに拡がり,電界緩和はさらに進ん
でいるが,A点のJpは1.10×105A/cm2と極めて高い状態
が続き,図5に示した従来型LDiodeと同様に,継続して蓄
積ホールがA点を通過してアノードへ掃き出されている。
ピークから十分時間が経過したt5(=300nsec,-0.35A)に
おいては,図5と図11の比較から両者の差は小さい。
4.アノード延長領域のデバイス物理
<3.3>では,アノード延長型LDiodeの一例について詳細に
分析した。ここでは,アノード延長領域とデバイス動作の
関係をデバイス物理に基づいて考察し,さらにリカバリ特
性に与えるアノード延長領域の構造依存性について明らか
にする。
く4・1〉アノード延長領域とアノード注入効率の関係
図8に示すように,従来構造のLDiodeにp型のアノー
ド延長領域を付加することは,p‾/p十アノード構造の低注
入効率化を阻害する可能性があり,逆回復電荷Qrrの増加
が懸念される。
そこで,まず図5と図11に示した時刻tl(=10nsec)に
おける順バイアス時のホール濃度分布を,図13(a),仏)に再
掲する。順方向電流IFは共に2.02Aに設定されており,こ
の時の順方向電圧VFはそれぞれ2.18V,2.16Vで殆ど等し
い。図13(a),(b)より,全体的にはアノード近傍のホール濃
度分布はほぼ等しく,B点のホール濃度Npも共に1.8×
1017/cm3で等しい。ホール濃度が大きく異なるのは,トレ
ンチ側壁の近傍のみである。
(a) (b)
図13 tlにおけるアノード付近のホール濃度分布の比
較,(a)従来型LDiode,(b)アノード延長型LDiode
illtB 儷ツ�� �� 舒ネ�2� �� ��
′-\ 喜用 ��� � ���� ��
し/
こ、 亘 X 1言12 Z 土 ▼一 ・言8 払 く弓 古 賀4 む) 口 qJ ・二 王0 唐�r���93b�メ��ネ�"����テ����耳�X�X�b��cB��ネ���92��X+2�*ウ"�爾��「����� ���� 刄� 劔
座汀 劍��r�剪�
VF 刹吹^ 劔
Np 僮F=2A 劔
0 5 10 15
DistanceofAnodeExtellSionRegion住omtrenoh(lLm)
図14 順バイアス時の順方向電圧降下VF,B点のホール濃度Np,逆回復電荷Qrrのアノード延長領域の
位置依存性
- 62 -
雪萱蚤諒宣言者農芸嘗叢書H
盲貴重雷鳥璽薯誉意思讃
4
3
2
1
(M己ひ・萎扇官学ゴ忘選≡長官琶子音菅山
㈹
Ⅷ
2
0
。
Ⅷ
0
(l一言夕真二X)呈U亘訝良しト声⊆崇戒心賀ぎ3
また,図13(b)よりp型のアノード延長領域(1×1020cm-3)
とnAドリフト層(7×1014cm‾3)からなるpn接合面におい
て,ホール濃度差が2桁以上あり,かつホールの濃度勾配
も殆ど無いことから少数キャリア注入は生じていない。図
13(b)のC-D線に沿ったホールの擬フェルミポテンシャル
の変化も殆ど無いことからも裏付けられた。
次に,アノード延長領域(1×1020cm-3)の構造が注入効
率を増加させない条件を明らかにするために,アノード延
長領域の位置をトレンチから0~14.5匹mの範囲で移動させ
た場合のシミュレーション解析を行った。図14に,3つの
パラメーター順方向電圧降下VF,B点のホール濃度Np,
逆回復電荷Qrr-の位置依存性を示す。図14より,軸mま
では変化が僅かであるが,これを越えるとVF及びQrrが増
加する。従って,トレンチ側壁~高濃度p+層の範囲にアノード延長領域を配置する必要がある。
く4・2〉アノード延長領域とp‾/p十アノード構造の関係
拡散でキャリア伝導が支配される順バイアス条件下で
は,図13から,アノード領域においてはp‾/p+ァノード
構造がキャリア注入現象を支配しており,低濃度pウェル
より奥に位置するアノード延長領域は,キャリア伝導に寄
与しない。一方,ドリフトでキャリア伝導が支配される逆バイアス
のリカバリ動作条件下では,アノード延長領域がアノードp
層として働くため一次元ダイオード構造と見なせる。そし
て,リカバリの初期段階において,トレンチ近傍~アノー
ド下部に蓄積したホールはアノード延長領域に速やかに掃
き出されて空乏化し,その後のnlドリフト層の空乏化が早
く開始すると共に,蓄積ホールは低濃度pウエルに掃き出
される。この結果,電界の上昇が緩和されてダイナミック
アバランシェが抑制される。すなわち,アノード延長領域
は,順バイアスと逆バイアスでキャリア伝導への関わり方
が異なることを利用し,リカバリ初期過程のごく短時間の
みデバイス動作に関与してダイナミックアバランシェを抑
制するという巧妙なメカニズムを生み出している。
次に,低濃度pウエルとアノード延長領域がデバイス動
作に与える影響を詳しく分析するために,p‾/p+ァノード
構造の低注入効率を機能させない条件1低濃度pウェルを
(a) (b)
図15 低濃度pウエルをアノード電極に接続しない場合
の順バイアス時のホール濃度分私(a)従来型LDiode,
(b)アノード延長型LDiode
アノード電極に接続しない(open)設定一の下で,従来型
とアノード延長型の順バイアスにおけるホール濃度分布を
対比して図15(a),(b)に示す。順方向電流IFは共に2.02A
に設定されている。この時の電圧降下VFはそれぞれ1.76V,
1.78Vで殆ど等しい。デバイス内部において,B点のホール
濃度Npは,それぞれ8.0×1017/cm3,6.75×1017/cm3でほ
ぼ等しく,B点から左側の領域におけるホール濃度分布も
ほぼ等しい。図13(a),O))に示したNp(=1.6×1017/cm3)
と比べると4倍以上の高濃度である。一方,図15(a),払)
に示すB点から右側の領域において,トレンチ近傍のホー
ル濃度は,(a)よりも払)の方が低い。これは,p型のアノー
ド延長領域とn▼ドリフト層からなるpn接合が順バイアス
されないために,ホール注入が起こらないことが原因であ
る。
これらの結果から,アノードの注入効率はアノード延長領
域の有無によらずp‾/p+ァノード構造で決定されること
が明らかになった。そして,アノード延長領域は,順バイ
アス時の静特性と逆バイアス時のリカバリ特性を共に損な
うことなく,大きなd〟dtの下でもダイナミックアバランシ
エの発生を押さえ,これに伴うQrrの増加も抑制される。
く4・3〉アノード延長領域のドーピング条件の影響
図9に示したLDiode構造において,アノード延長領域の
表面不純物濃度と厚さを取pe-Ⅰ(1×1020cm‾3,lpm)から
Type-P(1×1018cm-3,3pm)に変えた場合のリカバリ特性
の変化を図16に示す。図より,Type-IとType-Pの1st
peak(t2”,103nsec)を比較すると0.09Aと僅かな増加で
あった。またtlにおけるType-PのIF,VF Npがそれぞれ
2・02A,2・18V,1・59×1017cm‾3であり,図13(b)に示すType-Ⅰ
とほぼ等しかった。一方,2ndpeak(t3”,108nsec)の増
加も0.07Aと僅かであり,取pe-Pにおいてもダイナミック
アバランシェは十分に抑制されており,リカバリ特性はア
ノード延長領域のドーピング条件に殆ど影響されないこと
が明らかになった。
図16 アノード延長領域のドーピング条件がリカバリ特
性に与える影響,Type-Ⅰ:1×1020cmJ3/lpm,Type・P:
1×1018cm‾3/3LLm,di/dt=-80A小sec(Rg=1.5kE2)
- 63 -
(SJぎ巴LnU葛喜<
2
5
1
5
J
L
O
0
5
・
一
・
1
5
0
一
j
L
一
一
ぎ
竃
ギ
走
者
芦
忘
号
音
舗
2
5
0
雄
闇
憫
∽
0
馳
3,4章においては,LDiodeのシリコン層表面からBOx
界面に至る長いアノード延長領域を備えたデバイス構造を
解析対象としたが,明らかになったアノード延長領域の効
果は,BOxまで届かない短いアノード延長領域の場合でも,
相応の効果が期待できる。一例として,低濃度pクエルの
トレンチ側にdeepPクエルを追加した構造が,ダイナミッ
クアバランシェの抑制に有効であることが実験により検証
されている(10)。
5.まとめ
デバイスシミュレーションを使用して,従来技術で構成
したSOILDiodeを大きなdi/dtでリカバリ動作させた時に
発生するダイナミックアバランシェ現象を詳しく分析し
た。その結果,従来構造では,リカバリ開始直後において,
アノード領域に蓄積したホールの抜けが悪く空乏化が遅
れ,アノード領域の電界強度が高くなり,アノード側のフ
ィールド酸化膜端部のシリコン表面(A点)において,高
密度の衝突イオン化が発生することがダイナミックアバラ
ンシェの原因であることを明らかにした。
この理解に基づいて,リカバリ開始直後にアノード領域
の空乏化を促進することを狙ってトレンチ側壁にp型アノード延長領域を付加した構造を提案し,デバイスシミュレ
ーションを使用してダイナミックアバランシェを効果的に
抑制できることを初めて明らかにした。そして,p型アノー
ド延長領域とp‾/p+アノード構造を組み合わせたアノー
ド延長型LDiodeは,ダイナミックアバランシェを発生する
ことなく,高速スイッチング動作に適した構造であること
を示した。
謝辞
本研究を進める上で,常に支援を頂いている加藤之啓常
務,岩森則行部長,並びに白木聡室長に感謝いたします。
また,議論をして頂いた高橋茂樹,蛭間淳之の両氏に謝意
を表します。
文 献
(1)A,Nakagawa:“ImpactofDielectricIsolatlOnTbchnologyonPower
ICs”,Proe.ISPSD’9Lpp.16-21(May1991)
(2)A.Nakagawa,H.Funaki,Y Yamaguchi,and F.Suzuki:
“Improvementin LateralIGBT Deslgnfor500V3AOne Chip
InverterICs”,Proc.ISPSD’99,pp,321-324(May1999)
(3)パワーデバイス・パワーICハンドブック,オーム社,電気学会編,p.84,
p.168(1996-7)
(4)平山,舟木,山口,中川.「横型SOI高速ダイオードの逆回復特性」,
電気学会,電子デバイス研究会資料,EI)D-98-61,pp.21-26
(1998-2-19)
(5)A.Nakagawa,H.Funakl,Y.Yamaguchi,andK.Hirayama‥“Design
OptimlZation of500V Lateral SOI HlghSpeed Diodes”,Proc.
PCIMInternatlOnal’98,pP.9-12仏pr.1998)
(6)H.Funakl,YYamaguchi,K.Hirayama,andA.Nakagawa‘Lateral
SOIDiodeDesign OptimizationforHighRuggedness andLow
64 -
つもmperatureI)ependenceofReverE;eRecovery Characteristics”,
ProeJSPSD’98,ppぷ-36(Jun.1998)
(7)佐藤,平野,川上,岩本:「逆回復動作時の高耐圧ダイオードの発振
現象の検討」,電学論,119巻11号,p.1401-1408(1999-11)
(8)K.Endo,YBaba,YUdo,M.%sui,andYSano:“A500VIAILChip
InverterIC wltha New Electric Field Reduction Structure’’,
Proc.ISPSD’94,pp.379-382(Jun.1994)
(9)ISETCAI)ReleaselO.ODESSIS(2005)
(10)鈴木,木村,櫻井,高橋,白木,戸倉,杉山.「アノード構造を改良
した高速・高破壊耐量SOI横型ダイオードの開発」,電気学会,電
子デバイス/半導体電力変換合同研究会資料,EDD-10-094/
SPC-10-151(2010-11-29)