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巴コーポレーション技報 No.25 2012 43 ノンスカラップ工法を用いた梁フランジ溶接部の 溶込みに関する研究 細谷幸正 *1 髙木峻一 *2 深沢 隆 *3 鋼管柱H形鋼梁フランジ仕口部に用いられるノンスカラップ工法は,スカラップ工法と比較すると梁ウェブ断面欠損がない ため,非常に有効な工法である。しかし,ノンスカラップ工法は,分割形裏当て金を用いて溶接接合するのが一般的であるこ とから,フィレット部には隙間が生じ,不溶着部が発生する可能性がある。そこで筆者らは,仕口部近傍を対象とした溶接施 工性試験を行い,フィレット部隙間の大きさと溶込み深さの関係について調査した。試験結果より,隙間が大きいほど溶込み 深さが大きくなること,梁フランジ板厚内に有害な欠陥が存在する場合は超音波探傷試験で検出できることを確認した。 Study on Penetration of the Beam-Flange Welding using Non-Scallop Method Yukimasa HosoyaShunichi TakagiTakashi Fukasawa Non-scallop method used in SHS column to H-beam connections is a very effective medhotd in comparison with scallop method in terms of no defect in the web of beam. However , partial penetration may occur at the gap in the fillet, which is caused by using a set of divided backing plates for welding the beam flange to the diaphragm. Then, the authors have performed welding procedure tests of such joints, and investigated the relationship between the gap width and penetration depth. From the results, it is confirmed that the penetration depth increases depending on the gap width and that defects in the beam flange thickness can be detected by UT test. 1. はじめに 柱梁溶接接合部の変形能力は,スカラップに代表される 形状不連続の影響,溶接による材料不連続の影響に左右さ れる。特に形状不連続による応力集中や潜在的な切欠きは, 早期亀裂や脆性破断を誘発する可能性があるため,適切な 接合ディテールを採用する必要がある。 Fig.1に通しダイアフラム梁フランジ溶接接合部近傍を 示す。この部位はフランジ板幅,板厚内に欠陥がない形で 完全溶込み溶接接合されることが要求されている。フラン ジ板幅方向については,鋼製エンドタブを適用することに よって要求を満たすと考えられ,フランジ板厚方向につい ては,梁端部接合ディテールが大きな影響を及ぼすことが 知られている 1梁端部接合ディテールについての検討はこれまでに数多 く行われており,スカラップ工法は繰返し応力が作用する 場合に,スカラップ底を破断の起点とした脆性破壊が生じ 研究報告 6 *1 小山工場生産管理部生産管理グループ長代理 *2 事業開発部構造技術開発室 *3 取締役副社長執行役員 工博 aノンスカラップ工法 b改良型工法(複合円) c従来型工法 Fig. 1 通しダイアフラム梁フランジ溶接接合部

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巴コーポレーション技報 No.25 2012

43

ノンスカラップ工法を用いた梁フランジ溶接部の

溶込みに関する研究

細 谷 幸 正 *1 髙 木 峻 一 *2 深 沢 隆 *3

鋼管柱-H形鋼梁フランジ仕口部に用いられるノンスカラップ工法は,スカラップ工法と比較すると梁ウェブ断面欠損がない

ため,非常に有効な工法である。しかし,ノンスカラップ工法は,分割形裏当て金を用いて溶接接合するのが一般的であるこ

とから,フィレット部には隙間が生じ,不溶着部が発生する可能性がある。そこで筆者らは,仕口部近傍を対象とした溶接施

工性試験を行い,フィレット部隙間の大きさと溶込み深さの関係について調査した。試験結果より,隙間が大きいほど溶込み

深さが大きくなること,梁フランジ板厚内に有害な欠陥が存在する場合は超音波探傷試験で検出できることを確認した。

Study on Penetration of the Beam-Flange Welding

using Non-Scallop Method

Yukimasa Hosoya,Shunichi Takagi,Takashi Fukasawa

Non-scallop method used in SHS column to H-beam connections is a very effective medhotd in comparison with scallop method in terms of no defect in the web of beam. However , partial penetration may occur at the gap in the fillet, which is caused by using a set of divided backing plates for welding the beam flange to the diaphragm. Then, the authors have performed welding procedure tests of such joints, and investigated the relationship between the gap width and penetration depth. From the results, it is confirmed that the penetration depth increases depending on the gap width and that defects in the beam flange thickness can be detected by UT test.

1. はじめに

柱梁溶接接合部の変形能力は,スカラップに代表される

形状不連続の影響,溶接による材料不連続の影響に左右さ

れる。特に形状不連続による応力集中や潜在的な切欠きは,

早期亀裂や脆性破断を誘発する可能性があるため,適切な

接合ディテールを採用する必要がある。 Fig.1に通しダイアフラム-梁フランジ溶接接合部近傍を

示す。この部位はフランジ板幅,板厚内に欠陥がない形で

完全溶込み溶接接合されることが要求されている。フラン

ジ板幅方向については,鋼製エンドタブを適用することに

よって要求を満たすと考えられ,フランジ板厚方向につい

ては,梁端部接合ディテールが大きな影響を及ぼすことが

知られている1)。 梁端部接合ディテールについての検討はこれまでに数多

く行われており,スカラップ工法は繰返し応力が作用する

場合に,スカラップ底を破断の起点とした脆性破壊が生じ

研究報告 6

*1 小山工場生産管理部生産管理グループ長代理 *2 事業開発部構造技術開発室 *3 取締役副社長執行役員 工博

a)ノンスカラップ工法

b)改良型工法(複合円)

c)従来型工法

Fig. 1 通しダイアフラム-梁フランジ溶接接合部

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る可能性があること,ノンスカラップ工法が改良型スカラ

ップよりも耐力・変形能力で優れていることが報告されて

いる2)など。また,日本建築学会の「鉄骨工事技術指針・工

場製作編」3)においても,梁貫通形式で工場溶接の場合で

は,ノンスカラップ工法か改良型スカラップ工法を用いる

ことを推奨している。 ノンスカラップ工法は,スカラップ工法と違い梁ウェブ

断面欠損がないため非常に有効な工法であるが,Fig.2に示

すような分割形裏当て金を用いるのが一般的であることか

ら,フィレット部には梁材軸方向に隙間が生じ,不溶着部

が発生する可能性がある。 そこで本稿では,ノンスカラップ工法に着目し,Fig.3に

示す3つの場合のルート部形状を,ダイアフラム及びフラン

ジ厚・隙間の最大値等を考慮して決定し,フィレット部の

溶込みを施工性試験により確認すること,および本溶接に

先行する充填溶接の妥当性について検討することを目的と

している。また,断面マクロ組織と超音波探傷試験結果の

比較を行うことで,実施工時における超音波探傷試験結果

の適否についての検討も併せて行う。

2. ルート部溝の形状寸法

ノンスカラップ工法を用いた案件から一般的に用いられ

るルート部の溝形状を調査した。その結果,調査した案件

におけるフランジ板厚tfは22,25mmの2種類,ダイアフラム

板厚tdは28,32,36,40mmの4種類であり,その組み合わ

せは,Table 1に示す5ケースであった。 ロールH形鋼の梁成誤差,通しダイア内側の高さ方向の

調製代を考慮すると,梁フランジ溶接部の高さ方向の誤差

は最大でも±2mm程度であると想定される。また,不溶着

部となる可能性のある部位の高さ寸法(以下,ルート部溝

深さrd)は,裏当て金の板厚が9mmであること,Fig. 4に示

すように,裏当て金・ダイアフラム・梁ウェブが接する部

分は最終的に隅肉溶接され,そこを不溶着部分とみなさな

いとすると最大で9±2mmとなる。また,梁フランジとダイ

アフラムの段差が3mmであったことから,各ケースにおけ

るルート部溝深さrdはTable 2に示す値となる。なお,調査

案件における不溶着部位の幅寸法(以下,ルート部溝幅

rw)の最低値はrw=1.5mmであった。

22 2528 306箇所(Ⅰ) 032 62箇所(Ⅱ) 24箇所(Ⅴ)36 2箇所(Ⅲ) 040 2箇所(Ⅳ) 0

梁フランジ板厚tf(mm)

ダイアフラム

板厚

td

(mm)

Table 1 柱貫通ダイアフラムと梁フランジ組合せ

ルート部隙間なし ルート部隙間大 ルート部隙間大

本溶接のみ 本溶接のみ充填溶接+ガウジング+本溶接

Type-1 Type-2 Type-3

Fig. 3 ルート部隙間の比較

STEP1 設置 STEP2 本溶接

STEP3 隅肉溶接

裏当て金近傍は隅肉溶接

されるため,rd は最大でも

裏当て金板厚±2mm とな

る。

Fig. 4 ノンスカラップ溶接工程

Fig. 2 裏当て金形状 A-section B-section

tf td 接合部数

Ⅰ 22 28 28-22-3= 3 3±2mm 306箇所Ⅱ 22 32 32-22-3= 7 7±2mm 62箇所Ⅲ 22 36 36-22-3=11 >9±2mm 2箇所Ⅳ 22 40 40-22-3=15 >9±2mm 2箇所Ⅴ 25 32 32-25-3= 4 4±2mm 24箇所

rd

Table 2 推定されるルート部溝深さ rd

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3. 試験概要

3.1 試験体設定

Table 3に試験体リストを示す。rdは調査した案件におい

て想定される最大の9mm(Table 2内のケースⅢ,Ⅳ)で統

一した。試験体パラメータはルート部溝幅rwを0mmと最大

の4mmの2種類,充填溶接の有り無しの2種類とした。充填

溶接については次節で詳細を述べる。試験体数はそれぞれ

を組み合わせた3種類について,マクロ試験体採取を考慮し

て2体(A,B試験体)ずつの計6体とした。A試験体からは

梁フランジ材軸方向の溶接部断面(マクロ面①)を採取し,

B試験体からは梁フランジ板幅方向の溶接部断面(マクロ

面②)を採取した。Fig.5に例としてrd=9mm,rw=4mmの試

験体形状を示す。施工性試験のフランジ板厚tfは25mm(H-800×250×14×25),ダイアフラム板厚tdは38mmとした。初

層の溶接条件は,材料YM-55C,電流300A,電圧38V,速度

42cm/min程度とした。 3.2 充填溶接と溝形状の関係

Fig.6にルート部隙間対処方法を示す。rwが小さい場合に

は,溝を埋めることなく,ただちに本溶接施工に入ること

となる。一方,rwが広い場合は,まず溝を埋める充填溶接

を行い,ガウジングでルート部の形状を整えた後,本溶接

に入る。充填溶接は本溶接の施工性を考慮して行ったもの

であり,ルート部深さ方向への溶込みは考慮していない。

なお,調査した案件において充填溶接+ガウジングを行った

溶接部位は,Table 1で示したケースⅠで3箇所,ケースⅢで

1箇所の計4箇所であり,rwが約4mmと大きい場合であった。 3.3 試験要領

試験要領を,以下に示す。 ①組立状態の寸法測定と写真撮影 ②各試験体の溶接施工 ③各試験体の超音波測定 ④各試験体の断面マクロ採取 3.4 実施工における超音波探傷試験の確認内容

実施工における超音波探傷による検査は,梁フランジ溶

接部板厚範囲内に許容を超える傷が無いことを確認するが,

それより深い位置における不溶着部の有無および形状の確

認は実施していない。 4. 試験結果

4.1 マクロ試験体におけるルート部の溶込み

Table 3に試験結果,Fig.7に溶込み深さと溝幅rwの関係,

Photo.1~3に各試験体のマクロ断面組織を示す。TP-90.B試験体のマクロ面②は,接触面から2mm離れの梁フランジ板

幅方向から採取しており,このウェブ位置は,ルート部開

先加工時に斜めに切断された箇所であるため,不溶着部は

検出されていない。したがって,溶込み深さは断面マクロ

の色相から推察している。

Fig. 5 試験体形状(ルート部溝深さrd=9mm,溝幅rw=4mm)

a) マクロ面①

b) マクロ面②

溝深さ 溝幅rd

(mm)

rw

(mm)

溶込み深さ(mm)

傷エコー

TP-90.A 6.8 認TP-90.B 10.0 無しTP-94.A 12.0 無しTP-94.B 13.0 無しTP-94W.A  11.0 無しTP-94W.B 11.0 無し

試験体名

9

試験結果充填溶接

無し

有り4

0

4

Table 3 試験体リストおよび試験結果

Fig. 6 ルート部隙間対処方法

Fig. 7 溶込み深さと溝幅 rwの関係

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TP-90のA試験体とB試験体で溶込み深さに差が見られる

が,これは先に述べたように,B試験体のマクロ切断面が

不溶着部と一致していなかったためである。rw=4mmのTP-94とTP-94Wについては,A試験体とB試験体の溶込み深さ

は概ね一致している。 溝幅rwの影響を比較すると,TP-90は溶込み深さ6.8mmで

あるのに対し,TP-94,TP-94Wは溶込み深さ11.0~13.0mmと,1.6~1.9倍になっている。これは,4mmのルート部溝幅

に1.2φの溶接ワイヤが挿入可能なことから,深い溶込みが

得られたと考えられる。 Fig.7に示すように,溝幅rwと溶込み深さの関係が線形関

係にあると仮定すると,調査した案件の計測で最低値であ

ったrw=1.5mmでも8.38mm程度の溶込みは得られる。Table 4に試験結果から推測される不溶着部高さの推測値,Fig.8に不溶着形状を示す。8.38mm程度の溶込みを得られるとする

と,rd≦8.38mmであるケースⅠ,Ⅱ,Ⅴは十分に溶込んでいる

と推測される。一方,ケースⅢ(rd=11mm)では2.62mm,ケ

ースⅣ(rd=15mm)では6.62mmの不溶着部が残ると推測さ

れる。しかし,所定のフランジ厚に対し,2サイズ分以上の

溶込みを得ていること,3サイズアップ相当のダイアフラム

板厚分が溶け込んでいることから,梁フランジ溶接接合部

としての要求性能に対しては十分に満足しているものと考

えられる。 充填溶接の有無で比較すると,充填溶接を実施したTP-

94Wが,実施していないTP-94に比べて溶込み深さが小さく

なっている。これは,充填溶接ということでルート部への

溶込みに留意しなかったためと推察される。しかし,結果

としてはほとんど差異が無いものと判断でき,いずれの場

合も梁フランジ板厚に対しては,十分な溶込みが得られて

いるため,充填溶接は妥当であるといえる。

11.0mm 溶込み深さ

梁フランジ 25mm

通しダイア 38mm

Photo. 3 TP-94Wマクロ断面

a) マクロ面①(A試験体)

b) マクロ面②(B試験体)

梁フランジ 25mm

通しダイア 38mm

13.0mm 溶込み深さ

Photo. 2 TP-94マクロ断面

a) マクロ面①(A試験体)

b) マクロ面②(B試験体)

梁フランジ 25mm 通しダイア

38mm

10.0mm 溶込み深さ

Photo. 1 TP-90マクロ断面

a) マクロ面①(A試験体)

b) マクロ面②(B試験体)

通しダイア 38mm

6.8mm 溶込み深さ

梁フランジ 25mm 通しダイア

38mm

12.0mm 溶込み深さ

梁フランジ 25mm 通しダイア

38mm

11.0mm 溶込み深さ

梁フランジ 25mm

Fig. 8 不溶着形状

ケースⅠ,Ⅱ,Ⅴ ケースⅢ ケースⅣ

試験結果推測値 最低値

rd minrw

Ⅰ 22 28 3 3-8.38 ≦ 0.00Ⅱ 22 32 7 7-8.38 ≦ 0.00Ⅲ 22 36 11 11-8.38 = 2.62Ⅳ 22 40 15 15-8.38 = 6.62Ⅴ 25 32 4 4-8.38 ≦ 0.00

1.5 8.38

調査案件

tf td溶込み

深さ※

不溶着部高さ

※minrdの線形補間値

Table 4 不溶着部高さの推測値

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4.2 マクロ試験体における不溶着部と超音波探傷試

験結果との比較

超音波探傷試験により傷エコーが認められたのはTP-90.A試験体のみであった。Fig.9に傷エコー検出部詳細を示す。

検出された欠陥は,フランジ外側からX=122mm(フラン

ジ幅のほぼ中央部),欠陥長さL(フランジ幅方向)は

3mmであった。また,欠陥深さdは31.8mmであり,マクロ

断面写真の欠陥上側(25+6.8mm)と合致する結果となった。

なお,欠陥高さについては傷エコーが確認できなかったが,

欠陥深さ位置が検出できていることから,超音波探傷試験

により板厚内欠陥の存在は確認出来ると推測される。 TP-94.A,TP-94W.A試験体も,マクロ結果では各々2mm,

1mmの隙間が確認できるが,超音波探傷試験ではFig.10に示すようにL線を越えるエコーは確認できなかった。これ

は,rwが大きく,結果として溶込み深さが大きくなった場

合に形成される不溶着部や,ダイアフラムと梁ウェブの隙

間は,形状的にフランジ面と平行となるため,Photo. 4に示

すように反射エコーが黄色の矢印方向に拡散し,ビーム路

程にピークエコーとして現れず,結果としてL線を越えな

いためと推測される。しかしながら,ルート部溝幅が大き

い場合に形成される不溶着部は充分な溶込み深さが確保さ

れた位置であること,また,本ノンスカラップ工法におい

てダイアフラムと梁ウェブ間に存在する隙間は,BH梁にお

けるフランジ-ウェブ間のスリットと同様と考えられること

から,これらの不溶着部がノンスカラップ工法における仕

口部性能を低下させる要因とはならない。 5. まとめ

本稿では,ノンスカラップ工法に着目し,施工性試験に

よってフィレット部隙間の大きさと溶込み深さの関係につ

いて調査した。また,実施工時の超音波探傷試験結果の適

否の検討も併せて行った。その結果を以下に示す。 1)ルート部溝幅が0mmの場合,梁フランジ下面から6.8mm

の溶込み深さが確認できた。 2)調査した案件におけるルート部溝深さが3mm,4mmの

ケースⅠ,Ⅴの330箇所については,ルート溝深さ分は

十分に溶込んでいると推測される。 3)ルート部溝幅4mmの場合,溶込み深さは11.0~13.0mmと

なり,溝幅0mmと比べて大きくなった。 4)溶込み深さとルート部溝幅の関係が線形関係にあると仮

定すると,調査した案件での計測最低値であった溝幅

1.5mmでも8.4mm程度の溶込みは得られるものと推測さ

れ,ルート部溝深さ7mmのケースⅡの62箇所については,

溝深さ分は十分に溶込んでいると推測される。 5)ケースⅢでは2.62mm,ケースⅣでは6.62mmの不溶着部

が残ると推測される。しかし,2サイズアップ相当のフ

ランジ板厚分が溶け込んでいることから,梁フランジ溶

接接合部としての要求性能に対しては十分に満足してい

るものと考えられる。 6)充填溶接を実施したTP-94Wが,実施していないTP-94に

比べて溶込み深さがやや小さくなった。これは,ルート

部への溶込みに留意しなかったためと推察される。しか

し,梁フランジ板厚に対して十分な溶込みが得られてい

たことから,充填溶接は妥当であるといえる。 7)マクロ断面と超音波探傷結果を比較すると,不溶着部深

さ位置については合致,欠陥高さについては傷エコーが

確認できなかった。しかし,欠陥深さ位置が検出できる

ことから,板厚内欠陥の存在は確認出来ると推測される。 8)ルート部溝幅が大きく,溶込みが深い場合に形成される

不溶着部や,ダイアフラムと梁ウェブ間に存在する隙間

は,形状的にフランジ面と平行となるため傷エコーとし

て検出されなかったものの,これらの不溶着部は充分な

溶込み深さが確保された上で存在するため,ノンスカラ

ップ工法における仕口部性能を低下させる要因とはなら

ない。 参考文献 1)山本昇:はり端溶接接合部の力学的挙動におよぼすスカラ

ップの影響,構造工学論文集,vol.39B,pp.493-506,1993.3

2)中込忠男,山田丈富,村井正敏,的場耕,會田和広:ノン

スカラップ工法における梁端ディテールが柱梁溶接接合部

の変形能力に及ぼす影響に関する実験的研究,日本建築学

会構造系論文集,第546号,pp121-128,2001.8 3)日本建築学会:鉄骨工事技術指針・工場製作編,2007

Photo. 4 超音波反射角

超音波入射角 θ=70°

θ

不溶着深さ 2mm

超音波反射

超音波反射

Fig. 10 距離振幅特性曲線

0 25 50 75 100 125ビーム路程(測定範囲125mm)

0

20

40

60

80

100

エコー高さ

Fig. 9 傷エコー検出部詳細