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The Business Value of Trust デジタル時代にどのように企業は顧客の信頼を勝ち得ていくべきか 消費者は、企業があの手この手で繰り出してくる膨大な情報の氾濫の中で、 どの情報が信頼に足るものであるか見極めようとしている。こうした消費者 のニーズにきちんと対応できる企業だけが、厳しい競争に打ち勝つことがで きる。どうすれば消費者に信頼される情報提供の枠組みを構築することがで きるのか。当社の最新調査からその成功の鍵を探っていきたい。

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Page 1: The Business Value of Trust - Cognizant · 2020. 8. 12. · The Business Value of Trust デジタル時代にどのように企業は顧客の信頼を勝ち得ていくべきか

The Business Value of Trustデジタル時代にどのように企業は顧客の信頼を勝ち得ていくべきか

消費者は、企業があの手この手で繰り出してくる膨大な情報の氾濫の中で、 どの情報が信頼に足るものであるか見極めようとしている。こうした消費者のニーズにきちんと対応できる企業だけが、厳しい競争に打ち勝つことができる。どうすれば消費者に信頼される情報提供の枠組みを構築することができるのか。当社の最新調査からその成功の鍵を探っていきたい。

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日本語版によせて

企業は、デジタル時代が到来する中で、顧客との新たな関係構築を迫られている。いまや企業は、従来とは比較にならないほど膨大な顧客情報を入手することができるようになった。企業は、こうした情報を元に顧客が求める新しい商品やサービスを開発し、それを迅速に市場に投入することが可能になった。反面、顧客は企業に自分達が操作され、無用な商品やサービスを無意識に購入させられているのではないかという疑念も感じている。さらに、顧客は知らぬ間に自分自身に関する様々な情報が、企業の手に渡り、その個人情報が本来の目的を超えて、流出したり悪用されたりしないかと不安を感じている。企業は、顧客の不安や疑念を払拭し、確かな信頼を勝ち取る努力をしなければならない。そうした努力を怠るとき、デジタル時代は新たな飛躍ではなく、企業に大きなリスクをもたらすことになる。本調査を通じて、デジタル時代を大きな事業拡大のチャンスとして活かすために、企業がどのような点に注意を払わなければならないかを十分に理解していただきたい。

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* コグニザントのCode Halo™ は、人、プロセス、組織、物事の周りに蓄積されたデジタルデータに意味を求めることにより、ビジネスの成功につながる新しいコード規則を定義します。詳細については、https://www.cognizant.com/code-halosを参照ください。

はじめにグーグル、ネットフリックス、フェイスブック、アリババといったデジタル大手企業のサービスを利用すると、まるで彼らが我々のことをよく理解しているようにすら感じられる。例えば、その人が興味を持っている書籍を紹介したり、飛行機の出発時間に合わせて出かける時間を確認させたりといった、顧客体験のメカニズムは、インターネット上での挙動や活動から生みだされる個人情報やCode Halo™ *から認識される。こういった、個人データ「バーチャルな私自身」がまとまった単位となることで、企業にとっては価値あるデータとなり、パーソナライズされた顧客体験をいかに提供できるかが課題となっている。

但し、このサービスの提供には、技術的、社会的、倫理的な懸念を引き起こす負の側面がある。適切なデータの使用とはどういうことなのか? たとえば、保険会社が顧客のデータをスマート・リストバンドを使ってモニタリングし、これを保険料の決定に使用することは果たして適切なのか? 従量制料金を適用している映画配信サービス企業が、低所得者層の多い地域より富裕層の多い地域の料金を引き上げることは許されるのか? 空港へ向かう乗客が「急いでいる」とツイートしたことを受けて、タクシー会社が通常より高い料金を請求してもいいのだろうか? このように、商取引上の問題や疑問が次々に湧いてくる。企業が消費者の個人情報をどのように使用するか、また企業のデータ処理方法は消費者からどの程度評価され、信頼を獲得できるのかといった倫理上の課題として、様々なこれらの問題を捉えなければならない。

今回、消費者がブランドへの信頼をどのように認識しているかを明らかにするため、アジア太平洋地域ならび中東地域における数千人の消費者を対象に調査を行った(16ページ「付録B:調査方法」を参照)。この調査結果は、同地域で事業を展開する企業ばかりでなく、デジタル業界で信頼を維持したいと考えるいずれの企業にとっても無視することのできないものであると確信する。今日企業にとって最大の脅威は、競合他社ではなく、消費者の信頼を獲得・維持することが、この調査で明らかとなった。個人情報が、企業の競争力に磨きをかける「鍵」となる時代において、データの活用とその倫理は、ビジネスの要となる。つまり、委託業者としてA社の信頼が高まれば、B社よりも長けたとA社との協業を望むのは当然のことであろう。

デジタルエコノミーの急速な拡大により、セキュリティやプライバシーに関する信頼の失態や不正の発覚などで、財務上や風評からダメージを受ける企業をもっと頻繁に耳にすることになることが予想される。これを逆手に解釈すると、データセキュリティ違反やポリシー違反の問題を解決できる企業こそが、消費者の信頼を獲得し、これからのビジネスを拡大することができるということである。

データセキュリティ違反やポリシー違反の問題を解決できる 企業だけが、消費者の信頼を獲得し、これからのビジネスを 拡大できる

本調査では、幅広い業界における消費者の信頼、および個人情報使用の倫理論争について考える。消費者が信頼をどう捉えているか、その判断要因、信頼に関連する経済価値、そしてあらゆる企業が留意すべき点などについて解説する。また、デジタルファーストを標榜するビジネス環境ににおいて、消費者の信頼を勝ち得ることにより競争優位にたち、企業がどのように成功を収められるのかを提案する。

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5 KEEP CHALLENGING 2016.5

注目すべき調査結果:信頼は新たな通貨である本調査を通して、信頼を裏切るとどのような事態が起こるかを明らかにし、顧客の信頼を左右する要因について解説する。特に、企業が留意すべき調査結果は以下のとおりである。

顧客データをただ保管するだけでは不十分、信頼を裏切らないようにしなければならない。消費行動を知られると個人の活動の多くがまる見えになってしまうことから、インター ネットは公的に入手可能な多くの個人情報を提供しているといえるだろう。企業の倫理観が損なわれると、これらの情報が誤用される恐れがある反面、消費者は、自身の個人情報がどこで、どのように保管されているか知らないと答えた回答者は65%にものぼる。

「信頼の見返り」はデジタルエコノミーの必須条件である。回答者の半数は、彼らが最も信頼できる企業が提供する製品やサービスであれば、多少値段が高くても構わない、と考えている。但し、その逆もまた然りで、57%の回答者は、信頼を裏切られた企業との取引は解消すると答えている。

信頼を裏切ることがブランドの崩壊を招く。各業界の大手企業に高い信頼を寄せている回答者は平均43%に留まった。それどころか、40%近い回答者は信頼性の問題から他社もしくはデジタルベンチャー企業への乗り換えを検討している。自動車会社と小売業者が信頼度ランキングで最下位となり、業種間で著しい格差が認められた。

老舗企業は信頼に対し6%ハンディキャップがある。老舗で非デジタル化企業の方がより信頼できるとした回答が41%だったのに対し、デジタルベンチャー企業への乗り換えをているという回答は、これを6%上回る47%で個人情報使用の信頼性に懸念があるとしている。

プライバシーとセキュリティが信頼の基盤を形成。ほぼすべての回答者が、プライバシー(91%)、個人情報の漏えい(76%)、誤用(75%)および物理的安全性(72%)について懸念すると回答している。「プライバシーやセキュリティの保護」と「製品・サービスのパーソナライズ」という二極間で折り合いをつける際、消費者は企業の倫理基準に大きな比重を置いて評価していることがわかる。

明確に了解を得て、かつ約束を履行する限り、個人情報は企業のもの。企業の信頼度を判断する上で最大の要因となるのは透明性(67%)である。実際、企業が顧客に個人情報の提供について事前に了解を得て、かつその用途を明らかにしている場合、45%の回答者が個人情報を提供してもいいと考えている。

消費者の信頼の価値に対する見返りを提示。66%の回答者が個人情報は価値があるとの見解を示し、何らかの見返りがあれば提供しても構わないと回答している。この積極的な “Give-to-Get”考え方が信頼形成のポイントである。

データ:信頼の基盤暮らしの中に広がるテクノロジーは、人々の生活様式から働き方、 遊び方までをも変えていく。回答者の半数近くが「常時インターネットと繋がって」いるばかりか、実に77%が「ソーシャメディア・プラット フォームは社会的な繋がりを強化するために欠かせないと回答していることもうなずける(次ページ図 1参照)。このように、インターネットに接続することが、個人情報共有(およびオーバーシェアリング)の時代を生み出し半数以上の回答者(58%)がパーソナライズされた製品やサービスを求めていることががわかり、パーソナライゼーションに対する消費者の期待も高まっている。

データなくして、文脈に適した顧客体験を創出するのは不可能であり、市場はこの重要な関係性を認識している。事実、S&P 500指数 1 構成

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77%

49%

62%

65%

58%

ソーシャル・ネットワーキング・サイトは社会的関係性を維持する上で「ある程度重要」、「重要」または「非常に重要」と捉えている

自分自身の個人情報がどこで・どのように保管されているか懸念を持っている

ここ2~ 3年のうちにデジタル技術が仕事や個人の生活に多大な影響を与えると予想している

どこに居ても常にインターネットに接続している

消費者のニーズや嗜好に応じてパーソナライズされた製品・サービスの提供を

頻繁に利用する企業に対して期待している

データは信頼の基盤

図 1

回答者数:2,404(複数回答可)

出典:Cognizant Center for the Future of Work

デジタル時代における信頼の価値 6

銘柄に名を連ねる企業の時価総額の84%相当で構成される無形固定資産にはこれらのデータも含まれている。しかしながら、資産にならない限り、データは負債である。米ガートナー社のレポートは、2018年までに企業倫理違反の半数はビッグデータ・アナリティクス 2 の不正使用に起因するようになるだろうと予測している。ノーベル賞を受賞した経済学者ロナルド・コースは言う、「結論ありきで、統計結果はどうにでも操ることができる 3」と。

資産にならない限り、 データは負債多くの場合、消費者はプライバシー保護を望む一方、我々の生活の一部ともいうべきスマートフォンやソーシャルメ ディアなどを通じて、暮らしの中で共有される情報は極めてオープンである。セキュリティの懸念があるにもかかわらず、重要な文書をクラウド上に保存し、商品レビューや情報についてはフェイスブックや食べログの「いいね!」を信用している。

近年、企業が次のビジネス機会を探求する際、アルゴリズムや機械学習による意思決定にますます依存する傾向にある。しかし、多くの自動化プロセスにより、徐々に人的ミスが減少した替わりに、人の感情や感覚に対する敬意や責任といった喫緊の課題が突きつけられている。さらに言えば、データから新たな推論を導き出すデータサイエンティストには、神の如しパワーが与えられているが、彼らの多くは日々の業務の中で倫理的影響を検討することはない。それは、多くの企業にデータ倫理規定が存在しないからだ。65%の回答者が自身の個人情報がどこでどのように管理されているかについて大きな懸念を抱いていることからもわかるように、その懸念はさらに高まり、もうすぐ転機を迎えることになるかもしれない。

信頼(Trust)の隠れたメカニズムを表す方法は数多くあるが、当社はこの漠然としたコンセプトをさらに定量化し、かつ実用可能な形に変換できる下記の方程式を見出した。

Trust =

R * C * I SO

この方程式では、「R」が信頼性(Reliability)、「C」が信用性(Credibility)、「I」が親密性(Intimacy)、そして「SO」が企業の自己志向(Self-Orientation)を表している。最初の3要素は直接的に信頼に関連する言葉であり、乗数効果をもたらすものだ。一方、自己本位性や企業側の身勝手な論理を反映する自己志向は、信頼度を低下させる要素である。小学校で真実だと教わったことは、デジタルエコノミーの世界においてもまた真実である。すなわち、過度な身勝手さは信頼を損なう要因なのだ。4

この信頼の方程式に基づいて製品やサービスを開発し、自社ブランドを構築している企業は、ほどなく未来を彼らの手中に収めるだろう。スウェーデンの自動車メーカーであるボルボ社 5 もそういった企業の一つである。同社は車両性能や提供サービスに関する信ぴょう性の高いデータを収集し、そこから導き出したインサイト(情報)を活用することで同乗者の安全性を確かなものにしている。同社は信頼の方程式の効果を実感し、2020年までにボルボ車の自動車事故による死傷者をゼロにするという目標を掲げている。

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50%33%

17%

とてもそう思うそう思う

全くそう思わない

自分の個人情報を保護してくれる企業の製品やサービスならば、少しぐらいコストが高くなっても構わない

信頼は購買行動やロイヤルティを刺激

図2

回答者数:2,404

出典:Cognizant Center for the Future of Work

銀行

30 40 50%

公益事業(電気・ガス・水道等)

教育関連

保険通信

旅行・レジャー

小売業

エンターテイメントヘルスケア

自動車

60%

50

40

30

プロバイダー乗り換えの可能性

信頼度

低リスク中リスク高リスク

企業の個人情報管理について、 業種別の信頼度をお答えください。

また、企業が個人情報の取扱いを誤った場合、プロバイダーを替える可能 性はありますか?

(図は10段階評価で8以上の評価をした回答を表している。)

信頼の失墜はビジネス機会の損失

図3

回答者数:2,404

出典:Cognizant Center for the Future of Work

7 KEEP CHALLENGING 2016.5

信頼は金なり、企業はこれを失うべからず信頼性は単なる結果論ではなく、経営陣レベルの問題にまで発展している。というのも、消費者の信頼が純利益に反映されるためだ。当社の調査では、半数の回答者が信頼する企業の製品やサービスであれば多少価格が高くても構わない、と考えている(図2参照)。一方で、個人情報の誤用や管理不行き届きは、取り返しのつかない損失を招く可能性がある。従来の法的・文化的概念が技術的進歩に追いついていない時代に我々は生きている。このことが、信頼性の面で消費者に著しい混乱や恐怖感すら与えている。

さらに、今回の調査対象業種の中で、回答者から高い信頼を置かれた業種は一つもなかったことだ。業種全体を通して高い信頼を寄せている回答者は、平均すると43%に留まり、40%近くが信頼性の問題から、他社もしくはデジタルベンチャー企業への乗り換えを検討している(図3参照)。業界別の消費者信頼度を以下に概説する。

銀行業や公益事業(電気・ガス・水道など)は相対的に高い信頼を得ているが、予期せぬインシデントによって他社へ乗り換えられてしまう傾向にある。回答者は、銀行(58%)および公益事業(50%)に一定の信頼感を示しているが、そのうち3分の 1は信頼が低下すれば他行(32%)や他の公益事業者(31%)へ乗り換える可能性があると回答している。

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消費者の信頼損失は自滅行為

57%

37% 36%

21%

取り引きしている企業が倫理に反する手段であなたの個人情報を使用したことがわかったらどうしますか?

その企業との取引を止め他社へ乗り換える

その企業に対し法的手段を講じる

その企業との取引を止めデジタル新興企業へ乗り換える

どの企業も同様のことをしているので、特に何もしない

図4

回答者数:2,404(複数回答可)

出典:Cognizant Center for the Future of Work

デジタル時代における信頼の価値 8

自動車メーカーと小売業はブランド価値が失墜する高いリスクにさらされている。信頼度ランキングでいえば、全業種の中で自動車メーカー(36%)と小売業(37%)が最下位に甘んじており、信頼性に関連する背信行為があれば、41%の回答者が他社に乗り換えると回答した。近年発生した下記の事案が、これらの調査結果を裏付けている。

> フォルクスワーゲンの排出ガス不正問題は、企業の信頼が一瞬で失われてしまうことを実証している。同社株式は20%(約280億ドル 6)も下落し、その穴埋めとして年間11.4億ドルにのぼる投資削減を計画している 7。

> ターゲット・コーポレーションで7,000万人の個人情報漏えいが発覚した後、同社売上は34.3%も落ち込み、2015年 1月末現在、情報漏えいの事後処理に係る費用は累計で2億5,200万ドルにのぼる。驚くべきことに、最新版の同社年次報告書には「消費者の信頼」に関する記述はない 8。

次いでデータ倫理の問題で失敗しているのは通信事業者である。42%の回答者が通42%の回答者が通信会社のオペレーターを信頼している一方、新規プロバイダーへの乗り換えを検討している回答者も同数いる。英通信会社トーク・トークでは 157,000人の個人情報漏えいが発覚。2015年 10月以降、同社株式は27%下落し、家庭向けサービスにおける新規顧客のマーケットシェアは4.4%減少した 9。オーストラリアの大手通信事業テルストラ社は 15,000人の顧客情報漏えい後、信頼回復の問題に頭を抱えている 10。

信頼の失墜はビジネス、ブランド、ロイヤルティの損失を招く消費者が許すのは企業の過失であって、その不誠実さではない。データの不正使用は企業自らに災難を招く行為である。57%の回答者が、信頼を裏切られた企業との取引は解消するだろうと答えている(図4を参照)。さらに37%の回答者に至っては、当該企業に対する法的措置も辞さないとしている。法廷を舞台にしたこのような展開をこれまでも我々は目の当たりにしてきた。香港では二つの企業が直販目的で収集した個人情報を誤用したことで訴訟沙汰となっている 11。

ブランドロイヤルティとは、長年にわたり積み上げてきた信頼の結果だが、これは一日にして崩壊してしまうものでもある。特に、企業が倫理観に欠ける判断をしたという証拠が、インターネットを介して拡散されるような場合だ。例えば、近年オーストラリアの量販店Kマートは、限られた情報の提供と不十分なガイダンスにより、インターネットにおける個人情報漏えいを招いたとして、ソーシャルメディア上で厳しく非難された 12。また、米 データ管理会社であるインブルーム社は、生徒の成績データを収集し、これらのデータから導き出した所見を添えて教師に提供していた 13。保護者たちからプライバシー問題を提起された際に、同社の沈黙を守り続けた結果、創業からたった一年で廃業する結果となっている。信頼の失墜は致命的である。フォーブス・インサイトは、調査対象企業のうちデータ漏えいに起因して、企業評価やブランド価値に対する損害を被ったことがある企業は46%にのぼると指摘する 14。

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図5

回答者数:2,404(複数回答可)

出典:Cognizant Center for the Future of Work

風通しがよく、透明性の高い

コミュニケーション

質の高い製品

公正な価格設定

情報取扱規約について消費者へ逐次報告

67%

61% 60% 59%

45%

企業に対する信頼度を判断する上で重要または非常に重要と考えられる要因を挙げてください。

事前に明確な了承を得て使用するのであれば、個人情報を提供すると回答

透明性は競争上の差別化要因

9 KEEP CHALLENGING 2016.5

有言実行による信頼獲得回答者たちは、プライバシーやセキュリティについての信頼度が低いため、最終的には企業の警告能力に期待すると答えている。これは、ビジネスリーダーがデータの透明性について大胆な決断を下す大きなチャンスとなる。消費者の信頼を支える最大の要因は、 オープンで風通しの良いコミュニケーション(67%)と考えられており、次いで製品・サービスの品質(61%)、公正な価格設定(60%)、そして消費者に対し明確に伝えられるデータ使用規定と続いている(図5参照)。

実際、企業が個人情報の提出について事前に顧客の了解を得、かつその用途を明らかにしている場合、45%の回答者が個人情報を提供してもいいと回答している。つまり企業がリスクの最小化に対する責任を負い、その意思を示すのであれば、消費者は企業への信頼をさらに深めるだろう。

シェアリングエコノミーに特徴付けられる共同消費は、透明性を基盤として構築される。Airfrov 15(海外商品の購入で買い物客と旅行者を繋げるアプリ)やFortune Mother Exchange 16(家庭料理を子どもに提供するためインド主要都市在住の母親を繋げるプログラム)等を提供するベンチャー企業が、透明性の定義を変えている。またグーグルは数年前から透明性レポートの公開を開始した。当初は批判を浴びたものの、やがてこのアイディアは広まり、いまや30社を超える大手企業がユーザーデータの収集・使用方法に焦点を当てた透明性レポートを公開している 17。

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図6

回答者数:2,404(複数回答可)

出典:Cognizant Center for the Future of Work

77%より安価な価格設定

57%より良い顧客体験

56%各種キャンペーン/割引

49%豊富な品揃え

49%迅速なデリバリー

47%信頼できる個人情報使用

他社に乗り換える要因は何ですか?

デジタル新興企業に乗り換える要因は何ですか?

デジタル新興企業にとって信頼は既知の事実

デジタル時代における信頼の価値 10

信頼獲得競争におけるデジタルベンチャー企業の勝利今日消費者は、個人情報を漏えいされることなく、より迅速なサービス提供を求めている。一方、デジタルベンチャー企業は個人情報管理に主軸を置いて全体的な事業を確立することで、消費者の期待に応えているようだ(図6参照)。彼らのデータ倫理への取り組みに信頼を寄せ、半数近くの回答者(47%)がデジタルベンチャー企業に乗り換えたいと回答している。

例えば、スマートフォン「Blackphone 2」は個人情報保護に重点を置いて開発されており、携帯端末メーカーによる顧客獲得の期待も高まっている 18。また中国のサードパーティプロセッサーであるアリペイは、創業から10年を待たずに世界最大のオンライン決済処理サービス企業へと成長を遂げている 19。

消費者の信頼の基盤は、企業が提供する製品・サービスや有形資産ではなく、仮想・物理空間で提供される価値や顧客体験に置かれている。デジタルプラットフォームの能力を素早く取り入れ活用できる高い敏捷性を擁した企業へと、その重心はシフトしているのだ。これらのデジタル・ディスラプター(デジタル時代に既存の市場を切り拓く企業)は日々顧客から新たな期待を引き出し、その過程で消費者の信頼を勝ち得ている。

競争価格の設定は、もう一つの重要なファクターである。77%の回答者にとって、より安価な価格提示は他社へ 乗り換える原動力となっている(図6参照)。従来型企業は価格面ではデジタルベンチャー企業に太刀打ちできても、ベンチャーが持つエネルギーや革新力と競い合うのに 悪戦苦闘している。

プライバシーの欠如がもたらす不信感これほどデジタルベンチャー企業に厚い信頼を寄せているにもかかわらず、ほぼすべての回答者がインターネットにおけるベンチャー企業のデータプライバシーについて懸念を示している(次ページ図7参照)。さらに、データプライバシー保護を行っているという企業側の主張を信じていないと答えた回答者は半数以上にのぼった。個人情報についてはどうすることもできない(58%)という感覚が、回答者の懸念をますます増大させる要因の一つだと考えられる。3Dプリンター、健康管理用スマートセンサー、スマートウォッチと いった新たなデジタルテクノロジーが続々と商品化されていることをうけて、50%以上の回答者がプライバシーに関連する問題は複雑化するばかりであると確信している。

データシェアリングの時代において、パーソナライズされたサービスを受けることはワクワクする体験ではあるが、消費者にとって個人情報を誤用される懸念はますます大きくなる。最近適度な運動をしていないことを指摘する生命保険の広告など誰も望んでいないのだ。消費者とサービスプロバイダーの間に信頼感が生まれなければ、このデジタル世界のプライバシーについて見解の一致をみることはない。

消費者の信頼の基盤は、 企業が提供する製品・サービスや有形なものだけではなく、 無形な形で提供される価値や顧客体験にも置かれる

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91%

58%

53%

インターネット上のデータのプライバシーについて「懸念している」または「非常に懸念している」と回答

企業による個人データ使用をどうすることもできないと感じている

顧客のプライベートなデータを守るため、企業が有言実行を果たすとは思えないと回答

個人情報の取扱いに関する懸念

図 7 (上)・図8 (下)

回答者数:2,404(複数回答可)

出典:Cognizant Center for the Future of Work

消費者の抱える懸念は、個々の体験に基づいており、多岐に及んでいる(図8参照)。ここ2~3年の間に個人情報(クレジットカード番号、銀行口座情報、通院歴等)の盗用や誤用に遭った回答者、その家族や友人)は全体の3分の 1にのぼる。企業は十分なプライバシーポリシーを展開しているつもりでも、半数以上(53%)の回答者はこのようなポリシーを十分に理解するのは不可能だと感ている。

膨大な収集データは、(その規模によってはプライバシー確保の複雑さと相まって)消費者に計り知れないほどの不安をもたらしている。以下にあげる事例からこれを検討してみたい。

顧客情報管理ソリューションの大手プロバイダーであるアクシオムは、全世界7億人を対象に一人当たり1,500ヶ所のデータポイントでデータを収集。複数の顧客に対し複数回にわたり消費者データを販売することで、年間50兆件を超える取引を処理している 20。

シンガポールのモバイルアプリ開発企業の90%は、どの消費者データが収集され、それがどのように使用されたかについて十分に言明しておらず、シンガポール国内の個人情報保護法に抵触する可能性がある 21。

これらの企業は何一つ間違ったことはしていないが、予期せぬ方法で個人情報が使用されると、消費者は必ず反応する。近年では、フェイスブックがユーザーデータを用いて心理実験を行ったことについて謝罪している 22。ユーザーは事前に同意し、フェイスブックもユーザーとの関係を改善しようとしたにもかかわらず、未だに多くのユーザーがプライバシーを侵害されたと感じている。

76% 75% 72% 71% 67%

53%

プライバシーの問題について「懸念がある」または「非常に懸念がある」と答えた回答者の内訳

企業のプライバシーポリシーを理解するのは極めて困難と回答

インターネットを介した個人情報漏えい

情報の無断使用

ネット上でのID追跡時の物理的安全性

第三者機関への

データ転売

ネット/モバイル上での行動追跡

プライバシーに関する懸念と企業への信頼感

11 KEEP CHALLENGING 2016.5

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手遅な状況になって初めて気づくセキュリティの重要さ消費者の日々の行動に関して言えば、何か事が起きるまで、データセキュリティが最優先に考えられていない傾向にある。モノのインターネット(IoT) 23 が普及する中、インター ネット接続された冷蔵庫や玩具などを介したサイバー攻撃 24 が報道によって表面化し、警鐘を鳴らしている。しかしながら、インターネット上でさまざまな作業を行う際、自身の個人情報のセキュリティに対して高い意識を持って臨んでいる回答者は58%に過ぎなかった(図9参照)。

この二元論をどう説明すべきか? 米ワイアード誌の創設者ケビン・ケリーによると、おそらく虚栄心はプライバシーへの懸念より勝っている。ケリーは言う、『「完全匿名」から「完全追跡可能」までスライドできる目盛があるとしたら、通常我々は「追跡させる」ところに身を置く傾向にある。なぜか?その方が、自分に合った顧客体験が得られることを顧客自身が知っているからだ』 25。

さらに、リスクについての解釈は消費者と企業とでは大きく異なる。データ共有、アプリのダウンロード、画像のアップロード、無料サイトへの登録など、消費者はインターネットを通してさまざまなことを行っている。それは、このような活動を行う上でのリスクより、そこから得る利益の方に主眼が置かれているからだ。一方、企業は、たった一度のデータ不正が取り返しのつかない信頼喪失に繋がることがわかっているため、リスクの問題により一層の神経を使っている。

信頼は条件付き:消費者にとってのメリットつまりは、消費者は「得るものがあれば企業を信頼する」と言っているのだ。こうした現状において、企業は「単なるデータ収集」から「価値を優先した考え方に移行することが不可欠である。企業による個人情報の使用について、消費者がさらに多くの知識を身につけるようになれば、個人的、具体的かつ即時的な見返りの恩恵を求める。そして、そのためには喜んで個人情報を提供するであろう。

事実、個人情報共有のリスクには、その見返りとして得られるパーソナライズされた製品やサービス、割引クーポンなど、それ相応の価値があると46%の消費者は考えている。また66%の消費者が自身の個人情報には価値があると認識しており、50%はパーソナライズされた顧客エンゲージメント、キャッシュバック、より良いカスタマーサービス、

脆弱 極めて安全どちらでもない やや安全

12%

23%

42%

24% 20%

31% 33%

16%

一般的なWeb閲覧

14%

24%

38%

23%

個人メールの利用

18%

27%

40%

15%

SNSの利用

14%

27%

37%

21%

社用メールの利用 電子商取引の運営

インターネットを利用して次のことを行う際、ご自身の個人情報はどれぐらい安全だと感じますか?

図9

回答者数:2,404(複数回答可) 小数点以下の端数処理につき、 合計値を 100%とみなす。

出典:Cognizant Center for the Future of Work

データセキュリティと信頼の間に確たる境界線を設けない

デジタル時代における信頼の価値 12

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特別キャンペーン、消費者が求める顧客体験、およびフレンドリーなインタラクション等と 引き換えに個人情報を共有してもいいと答えている(図 10参照)。これを “Give-to-Get”比率と呼び、この「Give(代償)」に透明性をもって対処することが信頼を築く上で重要となる(「Give-to-Get比率」の詳細については、「Code Halos – How the Digital Lives of People, Things and Organizations Are Changing the Rules of Business 26 」当社出版を参照のこと)

これまでマーケットを主導する消費者対応ビジネス(グーグル、ネットフリックス、アマゾン等)が成功を収めてこられたのは、このビジネスモデルの “Give-to-Get”が消費者の有利に大きく働いたためである。すなわち、消費者は少しの「Give」で多くの「Get(見返り)」を得ている。

積極的な “Give-to-Get”を展開するためには、消費者がどのような情報に最も価値があると考えているか、また情報提供にどの程度積極的であるかを理解することが極めて重要である。企業が検討しなければならない主な原動力について以下に解説する。

76% 17%銀行金融情報

SPEEDLIMIT

35D

MIT

35

VS.

72% 47%家族関連情報

各種公共料金の領収書に記載の情報 71% 50%

パーソナル・プロフィール情報 70% 65%

オンライン購買行動 69% 65%

スマートホーム製品 66% 51%

24時間の位置情報追跡 65% 47%

運転挙動 63% 53%

インターネット上のSNS行動 39% 53%

モバイル行動 65% 52%

デモグラフィック属性 69% 52%

社会的アイデンティティ 66% 65%

情報提供意欲(割引やパーソナライズされたサービス等の見返りが得られれば、下記の個人情報を提供してもいいと答えた回答者の割合)

情報価値(下記の個人情報は企業や第三者機関にとって価値がある、または高い価値があると答えた回答者の割合)

個人情報提供のリスクはその利益に値する

図 10

回答者数:2,404(複数回答可)

出典:Cognizant Center for the Future of Work

13 KEEP CHALLENGING 2016.5

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消費者は、預金残高を極めてプライベートな情報であると考えており、これを提供することには非常に慎重である。76%の回答者が銀行金融機関の情報を極めて価値の高いものとみなしており、見返りがあれば提供してもいいと答えた回答者は 17%に過ぎなかった。

個人情報やオンライン購買行動は、顧客のスイートスポットである。回答者は、氏名、性別、年齢およびオンライン購買履歴などの情報を「高い価値がある」と捉え(70%)、見返りとして目に見える恩恵を得られるのであれば、これらの情報を提供してもいい(65%)と回答している。

消消費者はインターネット上のSNS行動に関する情報にあまり高い価値を見出していないが、企業はこれを最も活用している。驚くべきことに、インターネット上のSNS行動に関する情報に価値があると答えた回答者はたった39%に留まり、提供に前向きな回答は53%にのぼった。消費者がこのような情報に与える価値を考えると、消費者のSNS行動を積極的にトラッキングしている企業は、必ずしも最大の投資効果を上げているわけではないと考えられる。

65%の回答者が、「知り合いから聞いた否定的な 意見」で特定の企業に個人情報を提供しない

個人情報を提供するかしないかという消費者の傾向を左右する “Give-to-Get”には、積極的なものと消極的なものとがある。以下に事例を紹介する。

情報を提供する代わりに、顧客サービスをもっと向上してほしい。興味深いことに、80%近い回答者が顧客サービスの向上が個人情報提供の動機付けになると答えている(次ページ図 11参照)。

祖母が信用していないから、私も信用しない。消費者はその家族や友人の言うことには耳を貸すものだ。そのため、特定の企業に個人情報を提供しない一番の理由として、65%の回答者が「知り合いから聞いた否定的な意見」を上げている。

顧客に不快感を与えた企業に次のチャンスはない。倫理に反する取引行為(63%)、透明性の欠如(61%)が消費者に個人情報の提供を思いとどまらせる、と大多数の回答者が答えている。“Give-to-Get”の向上に向けてパーソナライズされたサービスを提供することと過度に押し付けがましいパーソナライズの間には、極めて微妙な、だが確たるプライバシーの境界が存在する。例えば、ある企業が従業員の妊娠について追跡するためビッグデータを密かに使用していたことが発覚した後、その従業員たちは懸念を表明している 27。

消費者側が賢くなることにより、 企業が持つ個人情報の使われ方が わかれば、リスクに対する理解が 深まる

デジタル時代における信頼の価値 14

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消費者が払う代償を価値あるものへと転じることに成功している企業もある。例えば、 ディズニーは自社のウェアラブル端末「マジックバンド™」を介してプロファイルや位置情報のデータを収集・分析しているが、代わりに入場者は利便性と特権的アクセスを手に入れることで顧客体験を向上させている 28。なぜディズニーは成功したのか? それは、同社がデータ収集の理由を明確に説明したからに他ならない。消費者はすべて承知した上で登録している。

企業が収集する情報の価値や品質が高まることで、製品・サービスの提供方法だけでなく、 消費者の意志決定にも変化が生じる

未来へ向けた展望:信頼の課題を最大の資産へと転換勝ち組企業は、そのビジネスモデルを根底から刷新することで、旧態依然とした考え方と決別しリスクを選ぶであろう。すなわち、顧客エンゲージメント戦略を立て直すことにより、消費者にとって最も重要な価値をもたらすのである。企業が収集する情報の価値や品質が高まることで、製品・サービスの提供方法だけでなく、消費者の意志決定にも変化が生じている。急成長するデジタルエコノミーにおいて信頼を勝ち取るための方策を以下に提案したい。

より良いカスタマーサービス

キャッシュバック

企業の評判

パーソナライズされた製品・サービス

過去の顧客体験

家族や友人からのフィードバック

粗悪な製品

倫理観に欠けた事業運営

透明性の欠如

不十分なカスタマーサービス

79%

72%

71%

69%

69%

65%

63%

63%

61%

61%

企業に自分の個人情報を提供してもいいと 思うときはどんなときですか?

企業への個人情報の提供をためらう主な要因は何ですか? 感じますか?

“Give-to-Get”の均衡を保つも破るも、サービス内容や消費者の意見に拠っている

図 11

回答者数:2,404(複数回答可)

出典:Cognizant Center for the Future of Work

15 KEEP CHALLENGING 2016.5

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管理可能な「Give」と積極的な「Get」を確実なものにする。曖昧かつ不透明なやり方で(例えば難解な用語を用いた記述だけで「承認」ボタンを押させる)消費者からの「Give」を強要すれば、信頼は一瞬にして損なわれる。情報提供の代償に関する率直なコミュニケーションこそ、ビジネスを円滑に進めるための基盤である。

顧客にも選択の余地を与える。顧客が360度の視野で個人情報を把握し、これを自ら完全にコントロールできるようにすべきである。Metadistretti eMonitor(心臓病患者と医療機関を繋ぐ遠隔監視システム)がいい例だ。ブラウザとアプリを使用して、どのデータが誰に送られるのか、心臓病患者がフレキシブルに管理できる機能を備えている 29。このデバイスを通して、患者は医療機関、家族、友人やユーザー仲間のネットワークグループを設定し、グループごとに提供してもいい情報を独自に選択できる。

「最高信用責任者(Chief Trust Officer)」を任命することで、ITと業務の壁を打開。 信用は(多くの企業が思い込んでいるように)コンプライアンス、プライバシー、セキュリティ、またはテクノロジーの問題ではなく、経営陣に帰属するブランドレベルの問題である。最高信用責任者は、データ資産の収益化が倫理規定に準拠して行われるよう管理・統括する役目を担う。とりわけこのポジションは、以下のことを実行する上で二重の責任を負っている。

> 既存のアナリティクスプロセスに人間による検証を付加。アナリティクスの未来は、適切なデータ使用と不適切なデータ使用の識別を可能にする、その情報収集力にあると当社は考える。最高信用責任者は関係部署と連携して、(業界、データ使用能力に応じた)倫理規定の枠組みを構築し、これをツールとして企業の現行アナリティクス・ソリューションに加える。事前に構築した枠組みやツールを通して、組み入れられた倫理監視メカニズムにより、ユーザーの機械学習 /データマイニング・アルゴリズムが倫理規定に抵触した場合、ユーザーに対する支援や指導、通達を行い、望まない状況を回避するために必要な措置を講じる。このレベルの透明性を確保することが、消費者の信用を勝ち取る上での助けとなる。

> 業績評価指標としてのデータ倫理。倫理規定は、顧客データを直接・間接的に取り扱う従業員の業績評価指標のひとつになる。これにはまず、入社研修プログラムの確立から着手する必要がある。次いで全社規模のプログラムを立ち上げ、その中で反倫理的なデータ取扱が引き起こす法的および業務上の重大性について従業員の理解を深める。また、そのフォローアップとして、リスクの回避・緩和に向けた早期介入を提案し、倫理的枠組みの目標や成果をさらに高めていくことも必要となる。これらのフォローアップ活動は、従業員が倫理問題について気兼ねすることなく率直にものが言える土壌を育む上での支えとなる。

迅速に対応せよ。世界屈指の情報技術インフラを備えた企業でも、これまでの歴史が示すように、「デジタル情報に決して問題は起こらない」と断言することはできない。企業は潜在的な問題を認識・理解し、積極的にこれに対応することが求められる。例えば、ボーダフォンは近年サイバー攻撃を受けて以来、速やかに顧客や金融機関へインシデントを通知するように なった。このような迅速な対応により、同社の信用失墜は最小限に抑えられている 30。

決して追いつくことのない法規制に代わり、自主規制を確立。消費者から寄せられる信頼の重要性について論じる上で、デジタル関連業務に影響を与える「法的な意味合い」と「法規制の枠組み」の検討が不可欠である。50%以上の回答者が、デジタル規制(データやインターネットの使用についての法律、またはUberやBlockchainといった「コラボレーティブ・コモンズ」システムの法規制等)が信頼の向上を助けるだろうと考えている。しかし実際のところ、技術の進歩と比較すると法規制は常に後手に回る。デジタル規制は各国独自のペースで展開されているが、法規制こそが消費者データを守る唯一の頼みの綱であると考えるべきではない。代わりに企業は、消費者の信頼を守り続けることにこだわりながら、開示性と説明責任に基づく自主規制の構築に注力することが求められる。

倫理規定は、顧客データを 直接・間接的に取り扱う従業員の 業績評価指標になる

デジタル時代における信頼の価値 16

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17 KEEP CHALLENGING 2016.5

信頼するかしないかの選択今日のビジネス世界に、無条件の信頼などというものはない。このデジタル時代における消費者の信頼は、データ倫理、透明性、そして “Give-to-Get”の均衡によって決まる。デジタル革命が進む中、信頼獲得の重要性はこれまで以上に高まるだろう。それは、消費者が「企業は他のすべてを差しおいて私の利益を優先してくれている」と期待するだけでなく、そう思い込むようになるからだ。信頼を裏切られたと感じれば、すぐさま他社へ乗り換える。そう、消費者は企業のブランド・アンバサダーなのだ。その信頼を失えば企業のブランドや未来が直接脅かされることになるだろう。

データ倫理の確立は、企業の新たな目標となっている。今後10年間で、数多くの業種や企業が混乱に直面することが予想される。その中で、信頼の方程式をいかに上手く使いこなせるかが、勝者と敗者の明暗を分けることになるだろう。信頼の獲得は最終目的ではなく、ビジネスの成功における必然であるとの考え方がますます広がっていくだろう。

付録A本調査は、さまざまな地域と年齢層の消費者を対象に実施した。

21% 40% 45%

79% 60% 55%

地域 年齢層 性別 日本を含むアジア太平洋地域 18~34歳 女性 中東地域 35歳以上 男性

付録B:調査方法日本を含むアジア太平洋地域と中東地域に住む2,402人の消費者を対象に、インター ネットによるパネル調査を実施した。標本抽出はいくつかの年齢層にわたって分布している。本調査は、月一回以上インターネットにアクセスしている消費者が対象となっている。当社に代わり、第三者調査機関が6週間にわたって調査を実施した。調査領域は次のと おり。

デジタルテクノロジー、その重要性、オンライン行動、消費パターンに関する見解

各種業界における信頼度、製品・サービスプロバイダー乗り換えの可能性

プロバイダー選定時の信頼度に影響する要因

プライバシー、データセキュリティ、信頼価値に関連する懸念事項

企業に求められるは、消費者の信頼を守り続けることにこだわりながら、情報開示と説明責任に基づく自主規制の構築に注力していること

消費者は企業のブランド・アンバ サダー。その信頼を失えば企業のブランドや未来が直接脅かされることになる

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デジタル時代における信頼の価値 18

情報価値と提供意欲に関する見解

個人情報提供における活性因子と阻害因子

注: Code Halo™は、コグニザントテクノロジーソリューションズの登録商標です。

脚注1 “Annual Study of Intangible Asset Market Value from Ocean Tomo,” Ocean

Tomo, March 5, 2015, http://www.oceantomo.com/2015/03/04/2015-intangible-asset-market-value-study/.

2 “Gartner Says, by 2018, Half of Business Ethics Violations Will Occur through Improper Use of Big Data Analytics,” Gartner, Inc., Oct. 7, 2015, http://www.gartner. com/newsroom/id/3144217.

3 Brent Dykes, “31 Essential Quotes on Analytics and Data,” Analytics Hero, Oct. 25, 2012, http://www.analyticshero.com/2012/10/25/31-essential-quotes-on-analytics- and-data/.

4 For more on the trust equation, see page 124 of our book Code Halos: How the Digital Lives of People, Things, and Organizations are Changing the Rules of Business, by Malcolm Frank, Paul Roehrig and Ben Pring, published by John Wiley & Sons. April 2014, http://www.wiley.com/WileyCDA/WileyTitle/productCd-1118862074.html.

5 Jack Hershman, “Volvo Group CIO: Data and Trust as Currency in the Digital Age,” Hot Topics, https://www.hottopics.ht/stories/consumer/volvo-group-cio-data-and-trust-in-the-digital-age/.

6 Ivana Kottasova, “Volkswagen Stock Crashes 20% on Emissions Cheating Scandal,” CNN Money, Sept. 22, 2015, http://money.cnn.com/2015/09/21/investing/vw-emissions-cheating-shares/.

7 David Amerland, “The Cost of Losing Trust,” Medium.com, Oct. 15, 2015, https://medium.com/@davidamerland/the-cost-of-losing-trust-97d764a1e696#.n0sclvwsa.

8 Maggie McGrath, “Target Profit Falls 46% on Credit Card Breach, and the Hits Could Keep on Coming,” Forbes, Feb. 26, 2014, http://www.forbes.com/sites/maggiemcgrath/2014/02/26/target-profit-falls-46-on-credit-card-breach-and-says-the-hits-could-keep-on-coming/#19ab1a045e8c and U.S. SEC filing, https://www.sec.gov/Archives/edgardata/27419/000002741915000012/tgt-20150131x10k.htm.

9 Alexander Sword, “Rebuilding Brand Trust: TalkTalk’s Path Back from Cyber Attack,” Computer Business Review, Jan. 22, 2016, http://www.cbronline.com/news/cybersecurity/data/rebuilding-brand-trust-talktalks-path-back-from-cyber-attack-4790671.

10 “Telstra Fined after Breaching Privacy of 15,775 Customers,” ABC News, March 10, 2014, http://www.abc.net.au/news/2014-03-11/telstra-breaches-privacy-of-15775-customers/5312256.

11 “Two Companies Fined over Direct Marketing Offences,” Kennedy’s, Sept. 22, 2015, http://www.kennedyslaw.com/hkdirectmarketingoffences/.

12 Shoba Rao, “Kmart Australia Customers Hit by Online Privacy Breach in Security Hack,” News Corp Australia Network, Oct. 2, 2015, http://www.news.com.au/technology/online/hacking/kmart-australia-customers-hit-by-online-privacy-breach-in-security-hack/news-story/9eb8eed08aedb63c28fa8164ff1e726b.

13 Natasha Singer, “InBloom Student Data Repository to Close,” New York Times, April 21, 2014, http://bits.blogs.nytimes.com/2014/04/21/inbloom-student-data-repository-to-close/?_php=true&_type=blogs&_r=1.

14 Doug Drinkwater, “Does a Data Breach Really Affect Your Firm’s Reputation,” CSO Online, Jan. 7, 2016, http://www.csoonline.com/article/3019283/data-breach/does-a-data-breach-really-affect-your-firm-s-reputation.html.

15 Airfrov website, https://www.airfrov.com/.

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19 KEEP CHALLENGING 2016.5

16 Video on Fortune Mother Exchange, April 25, 2015, https://youtu.be/h22M4-0rAUg.

17 “OECD Digital Economy Outlook,” OECD, 2015, https://books.google.co.in/books?id=T9IqCgAAQBAJ&pg=PA64&lpg=PA64&dq=Google+issued+the+first+transparency+report+in+2009+the+number+has+grown+with+over+30+companies+now+issuing+public+reports.&source=bl&ots=ITEez_P7VM&sig=Nr_X754evTspDl1UxSgH9Q_z-98&hl=en&sa=X&ved=0ahUKEwiZ2vvg1avLAhWHQI4KHVapC20Q6AEIHjAA#v=onepage&q=Google%20issued%20the%20first%20transparency%20report%20in%202009%20the%20number%20has%20grown%20with%20over%2030%20companies%20now%20issuing%20public%20reports.&f=false.

18 Samuel Gibbs, “Blackphone2 Review: Privacy Doesn’t Have to Come at the Cost of Usability,” Nov. 11, 2015, https://www.theguardian.com/technology/2015/nov/11/blackphone-2-review-privacy-usability-silent-circle.

19 Kendrick Sands, “How Alibaba Is Transforming Payments and Banking in China,” Euromonitor International, June 19, 2014, http://blog.euromonitor.com/2014/06/how-alibaba-is-transforming-payments-and-banking-in-china.html.

20 Tiemoko Ballo, “5 Fatal Misconceptions about Digital Privacy,” Nov. 12, 2015, Medium.com, https://medium.com/@tiemokoballo/5-fatal-misconceptions-about-digital-privacy-9ee4412ef4c6#.o717916f7.

21 “90% of Mobile Apps Could Be in Breach of Singapore Privacy Law,” Straits Times, Nov. 2, 2015, http://www.straitstimes.com/tech/90-of-mobile-apps-could-be-in-breach-of-singapore-privacy-law.

22 Samuel Gibbs, “Facebook Apologises for Psychological Experiments on Users,” The Guardian, July 2, 2014, http://www.theguardian.com/technology/2014/jul/02/facebook-apologises-psychological-experiments-on-users.

23 Danny Palmer, “Cyber Attack Launched through Fridge as Internet of Things Vulnerabilities Become Apparent,” Computing, Jan. 17, 2014, http://www.computing.co.uk/ctg/news/2323661/cyber-attack-launched-through-fridge-as-internet-of-things-vulnerabilities-become-apparent.

24 Jeff Stone, “VTech Admits 6.4 Million Kids Affected in Massive Data Breach; Hong Kong Regulators Investigating Toy Maker,” IB Times, Dec. 1, 2015, http://www.ibtimes.com/vtech-admits-64-million-kids-affected-massive-data-breach-hong-kong-regulators-2206752.

25 Richard Wise, “SXSW 2016: Niche Is the New Mainstream,” Field Journal of a Brand Anthropologist, March 17, 2016, http://rwise.tumblr.com/post/141215832307/niche-the-new-mainstream.

26 For more information on Code Halos, see our website, https://latestthinking.cognizant.com/code-halos.

27 Valentina Zarya, “Employers Are Quietly Using Big Data to Track Employee Pregnancies,” Fortune, Feb. 17, 2016, http://fortune.com/2016/02/17/castlight-pregnancy-data/.

28 Timothy Morey, Theodore Forbath, Allison Schoop, “Customer Data: Designing for Transparency and Trust,” Harvard Business Review, May 2015, https://hbr.org/2015/05/customer-data-designing-for-transparency-and-trust.

29 Ibid.30 Dateme Tamuno, “Trust in the Digital Age, How Far Is Too Far? A Vodafone

and TalkTalk Case Study,” Customer Think, Nov. 3, 2015, http://customerthink.com/trust-in-the-digital-age-how-far-is-too-far-a-vodafone-and-talktalk-case-study/.

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著者紹介

マニッシュ・バル(Manish Bahl)コグニザントのCenter for the Future of Work in Asia-Pacificをリードする シニアディレクター。優れた洞察力を持ち、講演者としても人気が高いマニーは、その見識にあふれた助言とリサーチ手法により、数多くのフォーチュン500企業をサポートしてきた。現在は、コグニザントのCenter for the Future of Workで、アジアの新しいビジネス傾向と技術動向に対応した独自のリサーチと分析を行い、多くの先進的リーダーとともにビジネスの未来を模索している。インドのフォレ スター・リサーチ社の副社長とカントリーマネージャーも務める。メールアドレス : [email protected]: https://in.linkedin.com/in/manishbahl Twitter: @mbahl

謝辞今回の調査および本書執筆にあたり、バイスプレジデント兼グローバル・マネー ジング・ディレクター Dr. Paul RoehrigならびコグニザントのCenter for the Future of Workリーダー Benjamin Pring両氏による多大な貢献に心より感謝 申し上げる。

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コグニザント会社概要コグニザント(NASDAQ: CTSH)は、情報技術(IT)、コンサルティング、ビジネス プロセス アウトソーシング(BPO)のサービスプロバイダーとして業界を牽引し、より確かなビジネスを構築できるよう世界各国のクライアント企業をサポートしています。本社は、米国ニュージャージー州ティーネック。常に『フューチャー・オブ・ ワーク』を探究し、これを体現する顧客満足度へのこだわり、技術革新、業界 / ビジネスプロセスへの精通、グローバル感覚豊かで協力的なスタッフなど、さまざまな要素を融合させることでより良いサービス提供を目指しています。

2016年3月末現在、各国 100拠点を超えるグローバルセンターには233,000名の社員が在籍しています。対外的な評価として、弊社はナスダック 100指数ならびS&P 500指数の構成銘柄にも組み入れられています。また、フォーブス誌「世界の優良企業 2000社」やフォーチュン誌「世界上位500社」にランクイン、「最速成長の技術系企業 25社」および「好業績をあげた技術系企業」にも選出されています。詳細な会社情報については、www.cognizant.comをご参照ください。また、Twitter: @Cognizantでも情報を公開しています。