thepatentbox:各国のパテントボックス税制の概 …...2013/05/01  · patent...

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はしがき 本稿は,平成 24 12 19 日開 催の会員懇談会における,税理士法人プライス ウォーターハウスクーパース シニアマネジ ャー 村岡欣潤氏,同法人 顧問 岡田至康氏 の『The Patent Box:各国のパテントボック ス税制の概要』と題する講演内容をとりまとめ たものである。 尚,当日の配付資料を本文末尾にまとめて掲 載している。 はじめに 税理士法人プライスウォーターハウスクー パース,シニアマネジャーの村岡です。お忙し い中,本講演にお越しいただきまして,誠にあ りがとうございます。 本日は,各国のパテントボックス税制の概要 についてご説明させていただきます。まず最初 に,私から配付資料スライド3以降の知的財産 の動向及びパテントボックスの定義についてご 説明いたします。その後に,弊法人の顧問であ る岡田より,スライド 14 以降のパテントボック ス税制の特徴,各国のパテントボックス税制の 概要についてお話しいたします。 現在,パテントボックス税制は, 2013 年以降 導入予定の英国を含め,オランダ,ベルギー, ルクセンブルグ,ハンガリー,フランス,スペ インの7カ国で導入されています。また,その 他の IP(Intellectual Property:知的財産)優 遇税制を導入している国はアイルランド,中国 の2カ国で,パテントボックス税制の導入が提 案されている国が米国の1カ国となっておりま す。 本日は時間の関係もあり,皆様のご関心が強 いと思われるオランダと英国のパテントボック ス税制を中心にご説明し,最後に,日本のタッ クスヘイブン税制に関する検討事項をご説明い たします。 1.知的財産動向 まず始めに,知的財産の動向をご説明いたし ます。スライド4をご覧ください。 昨今,知的財産(アイデア,発明)の重要性 が非常に高まってきており,知的財産関連の訴 訟も増えてきています。スライド4は,特許庁 の特許行政年次報告書( 2012 年版~グローバル な知的財産システムの実現に向けた競争と協調 2012 .6)による世界の特許出願件数の推移 を表しています。ご覧のとおり,出願件数は右 肩上がりで, 2010 年は過去最高の 198 万件とな っております。同一特許について,複数国で特 許申請していることが増加の要因であると分析 されております。また,全 198 万件のうち4割 弱が非居住者による登録ということで,外国の 会社が他国に進出して知的財産を登録する傾向 が見られます。 The Patent Box:各国のパテントボックス税制の概要 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 顧問 岡田至康 税理士法人プライスウォーターハウスクーパース シニアマネジャー 村岡欣潤 租税研究 2013・5 311

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Page 1: ThePatentBox:各国のパテントボックス税制の概 …...2013/05/01  · Patent Cooperation Treaty(特許協力条約) の略称になります。PCTに従って出願すると,PCT加盟国で同時に出願したことになります。特許出願の早期化が図られていることもあり,PCTの出願件数は非常に増えてきております。

はしがき 本稿は,平成24年12月19日開催の会員懇談会における,税理士法人プライスウォーターハウスクーパース シニアマネジャー 村岡欣潤氏,同法人 顧問 岡田至康氏の『The Patent Box:各国のパテントボックス税制の概要』と題する講演内容をとりまとめたものである。尚,当日の配付資料を本文末尾にまとめて掲

載している。

はじめに

税理士法人プライスウォーターハウスクーパース,シニアマネジャーの村岡です。お忙しい中,本講演にお越しいただきまして,誠にありがとうございます。本日は,各国のパテントボックス税制の概要

についてご説明させていただきます。まず最初に,私から配付資料スライド3以降の知的財産の動向及びパテントボックスの定義についてご説明いたします。その後に,弊法人の顧問である岡田より,スライド14以降のパテントボックス税制の特徴,各国のパテントボックス税制の概要についてお話しいたします。現在,パテントボックス税制は,2013年以降

導入予定の英国を含め,オランダ,ベルギー,ルクセンブルグ,ハンガリー,フランス,スペインの7カ国で導入されています。また,その

他の IP(Intellectual Property:知的財産)優遇税制を導入している国はアイルランド,中国の2カ国で,パテントボックス税制の導入が提案されている国が米国の1カ国となっております。本日は時間の関係もあり,皆様のご関心が強

いと思われるオランダと英国のパテントボックス税制を中心にご説明し,最後に,日本のタックスヘイブン税制に関する検討事項をご説明いたします。

1.知的財産動向

まず始めに,知的財産の動向をご説明いたします。スライド4をご覧ください。昨今,知的財産(アイデア,発明)の重要性

が非常に高まってきており,知的財産関連の訴訟も増えてきています。スライド4は,特許庁の特許行政年次報告書(2012年版~グローバルな知的財産システムの実現に向けた競争と協調~2012.6)による世界の特許出願件数の推移を表しています。ご覧のとおり,出願件数は右肩上がりで,2010年は過去最高の198万件となっております。同一特許について,複数国で特許申請していることが増加の要因であると分析されております。また,全198万件のうち4割弱が非居住者による登録ということで,外国の会社が他国に進出して知的財産を登録する傾向が見られます。

The Patent Box:各国のパテントボックス税制の概要

税理士法人プライスウォーターハウスクーパース顧問 岡田至康

税理士法人プライスウォーターハウスクーパースシニアマネジャー 村岡欣潤

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Page 2: ThePatentBox:各国のパテントボックス税制の概 …...2013/05/01  · Patent Cooperation Treaty(特許協力条約) の略称になります。PCTに従って出願すると,PCT加盟国で同時に出願したことになります。特許出願の早期化が図られていることもあり,PCTの出願件数は非常に増えてきております。

スライド5は PCT加盟国数及び PCTの出願件数の統計になります。PCTというのは,Patent Cooperation Treaty(特許協力条約)の略称になります。PCTに従って出願すると,PCT加盟国で同時に出願したことになります。特許出願の早期化が図られていることもあり,PCTの出願件数は非常に増えてきております。これは,多国籍企業が自社が保有する知的財産を世界中で利用し始めているという目安になります。PCTの加盟国数は過去最高の144カ国で,知的財産のグローバル化が進んでいることを示しております。また,スライド6の通り,日本の特許庁が受

理した PCTの出願件数も右肩上がりで,2011年は過去最高の約3万8,000件となっております。これは,日本企業の中でも知的財産のグローバル化が進んでいっていることを示しております。ビジネス上,ユニークな IP,斬新なアイデ

アはビジネスの成功の鍵であり,利益の源泉となりますが,移転価格税制上も,IP所有者及び所有国に所得が帰属することになります。つまり,日本に IPがあれば,それに帰属する所得が日本で認識されることになるというのが移転価格税制上の基本的な考え方です。これは,知的財産は開発しようとしても全てが成功するわけではなく,ある程度のリスクを負って費用と時間をかけて開発されるものであり,リスクに見合った相当の所得を認識すべきであるという考えに基づくものになります。したがって,IPを他国に移転する場合には,それに付随する所得も一緒に移転することになります。例えば,日本のように税率が約38%で比較的

高税率の国から,税率が25%のオランダに IPを移転することで,38%の高税率で課税されていた所得が25%の税率で課税されるようになり,その差額の13%が恒久的な税務ベネフィットとして認識されることになります。主に欧米多国籍企業によるこのような IPマ

イグレーションについては,OECDレポート

の中で報告されております。移転価格ガイドラインの第9章又は米国両議院税制委員会レポートの中でも,このようなグローバルな事業再編,IPマイグレーションを含むビジネスリストラクチャリングの現状が報告されております。カントリーリスクやタックスヘイブン税制を

考慮しないのであれば,単純に実効税率38%の日本から,無税国のバミューダやケイマンにIPを移転することも考えられますが,一般的には,製造に係る IPであれば製造会社に IPを移転する傾向にあるようです。IPは何もせずにして常に価値が上がるわけ

ではなく,再開発やバージョンアップが必要で,自ずと,設備,人材等インフラが整っている先進国に所在することになります。そのため,特に税率の低い欧州の先進国が注目されます。例えば,オランダの法定税率は25%,アイルランドは12.5%ですので,単純に税率だけであれば,より税率の低いアイルランドに移転することになります。また,オランダが IP関連所得に関して5%の軽減税率を適用するという優遇措置(パテントボックス等)を設けた場合には,やはり企業としてはオランダも検討対象となり,現にパテントボックスを利用する多国籍企業も増えてきております。

2.パテントボックスとは?

2―1.パテントボックスの定義・スコープまずは,パテントボックスの定義について確

認いたします。パテントボックス税制は比較的新しい制度

で,2001年にフランスで導入されてからEU内で普及し始めましたが,導入後11年程度しか経っていないため,必ずしも統一された定義はない状況にあります。そこで,本講演では,パテントボックスの定

義を,スライド9の通り,「一定の知的財産に関連する所得(主にロイヤルティー所得)に対する軽減税率を使った優遇措置」とします。

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Page 3: ThePatentBox:各国のパテントボックス税制の概 …...2013/05/01  · Patent Cooperation Treaty(特許協力条約) の略称になります。PCTに従って出願すると,PCT加盟国で同時に出願したことになります。特許出願の早期化が図られていることもあり,PCTの出願件数は非常に増えてきております。

したがって,対象となる IPとは何か,なぜ所得に対する優遇措置なのか,その目的は何なのかということを明確にすることによって,パテントボックスとは何かが明確になってくると思います。

2―2.知的財産(IP)の枠組み最初に,パテントボックス税制の対象となる

知的財産についてご説明いたします。パテントボックス税制の対象となる知的財産

をご説明するにあたり,無形資産の定義が必要となりますが,ご承知の通り,無形資産(In-tangibles)の定義は現在OECDの個別のプロジェクトで検討が行われております。スライド10をご覧ください。資産は大きく分けて有形資産・無形資産に分

かれ,IPは無形資産に含まれます。本講演では,IPを大きく2種類に分けて考えます。一つはマーケティング IPで,文字どおり,マーケティング活動によって発生する IPです。商号,商標,顧客リスト,流通チャンネルなどがマーケティング IPになります。もう一つは産業 IPで,英語でいうとTrade IP とか Busi-ness IP,Industry IP といわれておりますが,ここでは産業 IPと表現します。これは,研究開発によって創作された IPで,例えば,特許,デザイン,発明,ノウハウなどが産業 IPに含まれます。マーケティング IPは通常の事業活動の中で

必然的に生まれた IPで,例えばブランドなどが考えられますが,産業 IP は意図して開発した IPという見方もできるかと思います。マーケティング IPは2つに分かれており,

一つは商号や商標など法的に保護された IPで,もう一つは流通チャネルや顧客リストなど法的に保護されない IPです。また,産業 IPも2つに分けられ,特許登録

されている IPと特許登録されていない,または特許が認められない IPに分けられます。非特許 IPの例としては,ヨーロッパではコ

ンピューターのソフトウエアは特許の対象にならないというルールになっており,特許を取得したくてもできないため,非特許 IPになります。また,特許を取得できるものであっても敢えて会社が特許を取得しないと選択したようなIPもあり,これも非特許 IPに含まれます。一般的にパテントボックスが適用される IP

は特許 IPです。しかしながら,パテントボックス税制の適用対象範囲は広がる傾向にあり,特許登録されていない IPにも適用される場合があります。また,マーケティング IPも適用対象に含める国も出てきています。後ほど,スライド16以降で各国の制度を確認する際により詳しくご説明したいと思います。

2―3.IPライフサイクルパテントボックスの定義・範囲を考える上で

の二つ目のポイントである IP所得に対する優遇措置についてご説明いたします。スライド11の IPのライフサイクルをご覧ください。IPはまず開発から始まって,育成し,成功

すれば商業化し,特許登録して,利用という流れになります。実際には,医薬品会社などでは特許登録がフェーズごとであることもありますし,自ら IPを開発せず,対価を支払って IPを取得する場合もあります。また,自社開発のIPを利用せずに売却する場合もあるかと思いますが,一般的な流れはスライド11のタイムラインの通りかと思います。このタイムラインを大きく二つに分けますと,

研究開発のフェーズと開拓・利用のフェーズに分けられると思います。そして,この2つのフェーズそれぞれにおいて各種の税務上の優遇措置が設けられております。まず,研究開発段階についてですが,研究開

発費という費用に関する優遇措置があります。日本における試験研究費(R&D)税額控除がこれに該当します。その他にも,ハンガリーなど国によっては,実際のR&D費用の100%を超えるようなR&D費用控除(スーパーディダ

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クションと呼ばれるもの)といった優遇措置もあります。また,R&D設備に係る加速度償却もあります。一方,開拓・利用段階については,費用を費

やして開発に成功した IPから生じる所得を対象とする優遇措置があり,この所得に対する軽減税率,優遇税制がまさに今回のテーマであるパテントボックス制度です。

2―4.EUパテントボックス税制なぜこのパテントボックスが導入されるよう

になったのかについては,先程,少し触れましたが,特にヨーロッパから始まった理由は,EUリスボン戦略に由来するかと思います。スライド12をご覧ください。EUリスボン戦略は,EU加盟国による経済

の共同体制を協議する場所ですが,この中で,知識基盤経済に移行するための政策,知識と技術革新を重視していこうという合意がありました。2000年に,研究開発投資を2010年までにGDPの3%に近づけるという共通の目標が設定されたのですが,2005年の中間報告ではこの目標達成は困難であるということになり,事実,2010年にはこの目標は達成されませんでした。そうした中で,若干の方針変更があり,ゴールは気にせず,できることから取り組んでいこうということになりました。そこで,スライド12の通り,商業化の局面において知的財産から生じた所得については低税率の課税をしようという流れになってきたのです。

2―5.パテントボックス導入経緯2001年にフランスがパテントボックス制度を導入したのに始まり,ハンガリーに導入され,中間報告があった2005年以降,ベルギー,オランダ,ルクセンブルク,そしてスペインといったEU諸国で導入されており,英国でも2013年4月から導入するということになっております。また,米国でも,2011年にパテントボックス税

制を導入しようとする提案がされております。パテントボックス制度の他にも,中国,アイ

ルランドに IPに係る優遇税制があります。アイルランドは,1973年にパテント・ロイヤルティー・エグゼンプションというルールが導入されましたが,効率性に問題があったため2010年に廃止となり,2009年に新たな IP税制を創設しております。パテントボックス制度の導入当初は,IP誘

致目的,知識,技術革新に重点を置いた経済にしていこうというリスボン戦略と合致した目的でしたが,最近の英国の例及び米国の提案を見ると,先ほど説明した IPマイグレーションによる所得の海外流出について非常に問題であるという認識を持っており,パテントボックスを導入することにより,国内に IPをとどめてくれるのではないかといった所得の海外流出防止目的が新たに加わってきております。パテントボックス制度は,その導入時期により,目的が微妙に変わってきているようです。次に,岡田よりパテントボックス税制の特

徴・サマリーについてご説明させていただきます。

3.パテントボックス税制の特徴・

サマリー

3―1.主要な特徴ただ今ご紹介いただきました岡田です。私か

らはパテントボックス税制の特徴・サマリーについて簡単にご紹介させていただきます。スライド15をご覧ください。まず,適格 IP,つまり,パテントボックス

の対象となる IPの種類についてご説明いたします。パテントボックス税制において特許が対象と

なるのは当然ですけれども,特許以外の IP,つまり,著作権,商標,方式などが対象となるのかどうかは国によって異なります。法律上登録できない IPを対象とするのかどうかといっ

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た問題もあります。また,IPの取得の方法として,自己開発な

のか,使用許諾(ライセンス)なのか,あるいは,他から取得した IP なのかといった問題があります。その IP自体も新規のものなのか,あるいは既存のものなのかによっても取扱いが異なる場合もありますし,既存 IPの場合には改良が必要なのかどうかといった問題もあります。さらに,開発地につきまして,IP開発の物

理的な場所が自国内なのかどうか,海外で開発されたものも対象となるのかどうかということが問題となります。この開発地の問題と取得方法の問題は互いに関連して,他国の IPをどこまで対象とするかという問題になるわけです。ある意味ではハームフルなものかどうかという問題も出てくるかと思います。そして最後に,所有要件があります。これは

若干概念的なものですけれども,法律的所有ということであれば全面的な所有権があり,使用許諾の場合には所有というよりはむしろ保有という感じになってくるのかもしれません。経済的所有については,IPの管理をどこまで求めるのかが問題になろうかと思います。経済的所有という言葉はあまり使いたくないという方もおられますが,法的所有との関連でどうしても考えざるを得ないことであり,ある程度は必要な考え方かと思います。これら4つの要素の組み合わせによって,い

ろいろな種類の IPがあるということです。次に,適格 IP所得ですが,適格 IP所得の算

定について総所得なのか純所得なのかという問題があります。つまり,関連費用を減額するのかという問題です。純所得の場合,関連費用は控除するわけですけれども,総所得の場合はパテントボックス税制の対象にならない他の所得から控除すれば,それだけ影響も大きいと言えようかと思います。また,算定方法として,定式アプローチか移

転価格アプローチかという問題もあります。実

際の計算には両方の要素が入ってくるのかと思いますが,どちらのウエートがより大きいかという程度の差が出てくるのではないかと思います。最後に,所得の種類として,商品やサービス

の価格に組み込まれた IPをどうするかということです。組み込みロイヤルティー所得も対象とするのかという問題です。一般的な傾向としてパテントボックス税制の対象範囲は広がる傾向にあるようですが,これは既存の IPを認めるかどうかとも関連しており,この区分は難しい問題です。

3―2.各国のパテントボックス税制の比較スライド16及び17の表は2012年9月号の「租

税研究」に掲載していただいた海外論文の訳文に加筆したものです。国及び項目を追加しております。まず,実施年を見ていただきますと,村岡か

ら紹介がありましたように,2007~2008年ごろに導入しているところが多く見受けられます。また,法人税率は法定税率を記載しておりま

すが,オランダ,ベルギー,ルクセンブルクのベネルクス3国は優遇措置として IP所得の80%が控除されますので,実際の課税は IP所得の2割ということです。その他の国は,多くが50%控除ですので,概ね2分の1を課税することになっております。つまり,ベネルクス3国の実効税率は5分の1で,それ以外の国は凡そ2分の1になっていると言えようかと思います。特典の上限については,上限を設けていない

国もかなりあるようです。既存の IPへの適用については,認める国が

多いと思います。既存の IPへの適用を制限する場合には IPの区別の必要が生じてしまうため,既存のものを認める方が区別の必要性がなくなるといった便宜性があるかと思います。適格 IPの内容については国によってかなり

異なります。ノウハウまで認める国もあれば,

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そういったものを認めない国もありますし,オランダのようなR&D IP を認める国もあり,その具体的な内容は国によってかなり異なっているかと思います。また,取得 IPを認めるかどうかについては,

認めるというところが多いわけですけれども,自分で開発しなければならないという条件を付けている国が多いようです。R&Dの実施は海外でもよいかということに

ついても認める国が多いようです。特にEUの場合にはECJ(欧州司法裁判所)の判決がありましたので,EU域内ではこれを相互に認めざるを得ないという要因があり,海外で開発された IPも認めるところが多いようです。最後に,適格所得が純所得か総所得かという

ことについては,それぞれ国によって異なります。適格所得の内容として,通常の使用料だけでなく,組み込み使用料や売却益も認める国が多いようですが,ベルギーでは売却益は認めていませんし,ハンガリーやフランスは組み込み使用料等を認めておりませんので,適格所得の内容もそれぞれの国によって異なっております。こう見ると,どこの国がどのように有利か不

利かは,全体を見ないとそう簡単には比較できないかと思います。また,先ほど少し触れました通り,所得控除

の国が多いわけですが,フランスのようにパテントボックスの所得に対して軽減税率を適用している国もあり,国によって制度内容にも違いがあります。結果的に,50%控除であれば税率半分と同じですけれども,所得控除を適用し通常の税率を適用するか,軽減税率を適用するかといった方法の違いがあります。各国の制度内容の相違点は配付資料を見ていただければと思います。次に,村岡からオランダと英国について具体

的に説明してもらいます。

4.各国のパテントボックス税制の

概要

それでは各国のパテントボックスの税制を見ていきたいと思いますが,冒頭でもご説明いたしました通り,本日はオランダと英国に焦点を当ててご説明したいと思います。スライド20をご覧ください。

4―1.オランダ�1 概要まず,オランダですけれども,オランダ

は,2007年にオリジナルのパテントボックス制度を導入しましたが,うまくいかず,2010年に新しいパテントボックス制度を導入しております。2007年はどういった内容だったかといいますと,パテントのみが対象で,先ほど説明したスライド10の知的 IPの枠組みのオレンジの部分(特許 IP)のみを対象としておりました。適格 IP所得については10%の軽減税率が適

用されておりましたが,開発コストの4倍という限度額が設けられており,この限度額がオリジナルのパテントボックス制度の適用の妨げとなっておりました。また,他のベネルクス諸国などのライバル国がより有利なパテントボックスを導入したため,これらと競争する形で2010年に「イノベーションボックス」という新しいパテントボックス税制が導入されました。このイノベーションボックスは2007年の制度

を拡大するもので,1つ目は,特許登録を行わなくても優遇措置が適用されることになり,スライド10のオレンジの部分の外側に少し範囲を広げた形になっております。また,軽減税率は10%から5%に引き下げており,最高限度額も撤廃され,限度なしで利用できることとなり,かなり緩和された形になりました。その他の要件については,適用方法は個別の

IPごとに任意に選択することができ,後でご

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説明いたします通り,全ての IPに適用されてしまう英国とは異なっております。また,オランダのイノベーションボックスを利用する場合にはルーリングを申請するのが一般的といわれており,これも後ほど詳しくご説明したいと思います。

�2 適格 IPどういったものがオランダのイノベーション

ボックスの適用対象になるのかということですが,2つあります。スライド21にあるパテントIPと呼ばれるものとR&D IP と呼ばれるものです。パテント IPは登録されている部分,スライ

ド10の枠組みで説明したオレンジの部分です。そうでない部分がR&D IP で,特許されていなくてもオランダ政府のR&Dの認定があれば対象となります。例えば,通常,特許の対象にならないコンピューターソフトウエアなどもオランダの政府が認めれば対象となり,これがR&D IP になります。なお,技術革新活動を行わなければならない

ため,基本的には自己開発をしなければならず,産業 IPのうち許可がされていない IP,この部分がR&D IP になります。マーケティング IPは対象ではありませんが,

イノベーションボックスによって対象範囲に含まれるようになった部分もあります。所有要件については,先ほど岡田からも説明

があったように,経済的要件と法律的要件を要求してくる国が多く,オランダは,特に経済的要件を要求しております。英国は法律的と経済的いずれの所有も要求しております。経済的要件について,パテント IP,つまり

登録されている IPの場合,IPの開発がオランダの納税者のリスクによって行われるということで,まさにリスクと責任があるので経済的要件を満たしていると言えるかと思いますが,オランダで研究開発が行われる必要はありません。これはEU法上,要求のできない要件となって

おります。しかしながら,R&D IP の場合,R&D活動

の少なくとも50%がオランダで行われなければならないという要件があります。また,オランダの事業体が開発活動において「重要な」役割を果たしていると認定されれば対象となります。事実認定についてはオランダ政府次第なので,政府と交渉する部分かと思います。3番目の事業資産の要件ですが,これは2007

年のオリジナルのパテントボックス税制の導入前に開発された IPにはイノベーションボックスは適用されませんといった要件です。微妙に時期がずれており,パテント IPの場合は2006年12月31日以前に IPとなったもので,R&DIP の場合は2007年12月31日以前に IPとなったものには適用されないこととなります。後ほど適格 IP所得を計算する際に,この部分に帰属する利益を取り除かなければならず,非常に重要なポイントになってまいります。

�3 適格 IP 所得ではどういった所得が対象となるのかという

ことですが,先ほど岡田が説明したサマリー表にもあった通り,一般的にパテントボックスの対象となる所得は大きく分けて3種類あります。1つは使用料(ロイヤルティー)です。2つ目は組み込みロイヤルティーで,売上に入っているロイヤルティー相当分です。3つ目が譲渡によるキャピタルゲインです。この3つが原則的にパテントボックス税制の

適用対象所得となります。国によってこれらの所得のうち対象となるものが1つだけだったり,2つだけだったりという違いがありますが,スライド23の通り,オランダではこの3つすべてが対象となっております。しかしながら,後ほど計算式を確認するとわ

かりますが,オランダでは,形式上,R&Dの機能に帰属する所得すべてにパテントボックス税制が適用される仕組みになっており,正確にはこれ以上になっているかと思います。ここで

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は,比較の都合上,3つの所得すべてに適用という表現にしております。また,ネットかグロスかという点については,

オランダはネットを採用していますので,関連費用を控除する必要があります。ご存じかと思いますけれども,ロイヤルティーに関連する費用を算定するのは非常に難しい作業で,移転価格のコンセプトなどを用いて算定することになります。スライド23のGrow―in モデルでは,先ほど

申し上げた事業資産要件により,導入前から保有する既存の IPに帰属する所得はパテントボックス税制の対象外となるため,適格 IP所得から除外する必要があります。この計算方法は税法では説明されていないため,実務上は,オランダ税務当局に事前照会を行うことになっております。適格 IP所得の計算方法には大きく分けて3

つの方法があります。1つが残余利益分割法,もう1つがコストプラス法,そして最後に個別法です。残余利益分割法というのは,主にコアなR&

Dの機能を持っており,継続的にR&Dを行っているような場合に一般的によく使われる方法です。コストプラス法はR&Dの機能がどちらかというと補助的な役割である場合に使われます。個別法は一番正確な計算方法で,IP所得に関連する費用をひも付きで振り分けることになります。この方法は正確でありますが,非常に複雑な方法であり,実務上,あまり使われていないという理解です。

�4 実際の運用実際の運用については,先ほどご説明いたし

ましたように,一般的に事前照会が行われているようです。オランダの税法ではあまり詳細な説明がなくて,原則的なことしか示されておらず,定義が曖昧になっております。そのため,税務当局と交渉し,ルーリングを得ながら,イノベーションボックスを適用することになりま

す。オランダ当局には明確なフレームワーク,ガ

イドラインがあるようですが,非公開となっていますので,実際にどのように運用されているかについて完全には把握し得ないことになります。

�5 残余利益分割法計算方法の1つである残余利益分割法につい

て詳しく説明したいと思います。全体的なイメージとしては,総利益の中から IPに関連しない利益を除外し,最後に残った部分が適格IP所得であるといった計算方法です。スライド25をご覧ください。詳しくご説明いたしますと,まず金利と税引

前利益(EBIT : Earnings Before Interests andTaxes)から始めます。基本的には総利益から金融所得を控除するイメージでよいと思います。ここから,まず,ルーティン機能に帰属する

利益を排除します。ルーティン機能とは,原則として,販売,仕入れ,製造などアウトソーシングできるような機能をいい,これに帰属する部分を総利益から除外する作業を行います。その結果,残ったものがコアとなる機能に帰

属する利益となります。コアとなる機能とは,経営戦略,R&D,マーケティングなどの機能をいい,これに帰属する利益をさらにR&Dの活動に振り分けます。適格R&D活動に振り分けられた部分がオラ

ンダのイノベーションボックスの対象となる所得となりますが,対象外の IPがある場合にはその対象外となる IPに帰属する所得を取り除くという作業が行われます。最終的に残った金額が80%控除の対象となります。

�6 残余利益分割法計算例何となくのイメージを持っていただけたかと

思いますが,実際に数字を使って確認してみます。スライド26をご覧ください。収益が800万ユーロ,営業費用が650万ユーロ,

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利益が150万ユーロであったとします。これは既に金利を除いた数字,つまりEBITであるとご理解ください。営業費用の650万ユーロの内訳がどうなって

いるかというのがスライド26の右のテーブルになり,4つの基本的な部門,機能から発生しています。まず,製造の部分は,先ほどご説明したようにルーティンの機能を持った製造部門で,ここから400万ユーロの費用が発生しております。管理部門はコアとなる機能と言えますが,ここでは25万ユーロの費用が発生しております。マーケティング・営業もコアとなる機能であり,125万ユーロが発生しております。R&Dについては先ほどコアとなる機能とご

説明しましたが,実務上はルーティンとコアの機能が混在することがあり,この例ではルーティンの部分が20%,コアの部分が80%といった機能を有している部門で,ここで発生した費用を100万ユーロとします。これを全部合計すると650万ユーロとなり,営業費用の金額と一致します。先ほどルーティンの機能に帰属する部分の利

益は除外しなければならないとご説明いたしましたが,これに係る利益はコストプラスの移転価格コンセプトを使って計算しますので,マークアップ率が必要となります。2つのルーティンの機能がありますが,製造のマークアップ率は7%,R&Dに含まれるルーティンの部分のマークアップ率は10%と想定させていただきます。この想定で計算しますと,スライド27の計算

になります。先ほどご説明いたしました150万ユーロのEBITから始まります。この中には適格 IP所得も含まれております。ここからステップを踏んで,適格所得ではない部分を除外していく作業を行います。まず Step1でルーティン機能利益を除外し

ます。先ほどご説明いたしましたように,製造とR&Dがルーティン機能であり,コストプラスの方法を使って利益を計算すると,製造の場

合はマークアップ率が7%,費用が400万ユーロという想定なので,ルーティン機能利益28万ユーロが除外されます。また,R&Dの場合は20%の部分がルーティン機能でマークアップ率は10%ということで,あわせて2%相当額の2万ユーロがルーティン機能に帰属するものという計算になります。そして,その後に残った金額として,残余利益120万ユーロが計算されることになります。Step2の残余利益の配賦については,この

残余利益120万ユーロをコアの機能に1つずつ振り分けます。この配賦割合について税法上何らかの規定があるわけではなく,ルーリングで決めるところですが,今回は管理部門が20%,販売・マーケティング部門が40%,R&D部門が40%の比率で配賦されると想定します。重要なのはR&Dの部分だけなのですけれど

も,残余利益のうちR&Dに帰属する部分は40%で,48万ユーロがR&D適格機能に配賦されます。通常,この金額がイノベーションボックスの

適用対象額になりますが,もし対象外の IPが含まれていた場合,この計算を見てわかるように,すべてのR&Dに帰属する利益が含まれておりますので,対象外の IPに係る金額を除外しなければなりません。それが Step3のこの Grow―in モデルの適用

になります。今回の想定では約75%の活動が既存の IP,つまり,対象外の IPに帰属しているというルーリングが得られていると想定します。そうすると,75%相当分の36万ユーロが48万ユーロから除外されて,最終的に残った12万ユーロがイノベーションボックス税制の対象となる利益となります。ここから80%が控除されて,最終的には2万4,000ユーロに通常の法定税率25%が適用されて税額が計算されることになります。Grow―in モデルですが,スライド27の「Grow

―in モデルの適用」の欄のように段階的に減っていくというイメージです。先ほど説明したよ

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Page 10: ThePatentBox:各国のパテントボックス税制の概 …...2013/05/01  · Patent Cooperation Treaty(特許協力条約) の略称になります。PCTに従って出願すると,PCT加盟国で同時に出願したことになります。特許出願の早期化が図られていることもあり,PCTの出願件数は非常に増えてきております。

うに,期日でカットオフされているので,時が経つごとに対象外資産が減り,最終的にはゼロになるといったイメージです。これは間接的,段階的にイノベーションボッ

クスが利用されるようにしている措置の一つで,英国は既存 IPも含めてすべて対象となるとご説明いたしましたが,このGrow―in モデルを使わず,単純に段階ごとに導入することによって同じような効果を得ております。

4―2.英国�1 概要次に英国の制度についてご説明させていただ

きます。英国の制度は非常に複雑なものになっており

まして,少し時間をかけてご説明させていただきたいと思いますが,これが最も新しいヨーロッパ・パテントボックス税制になります。スライド40をご覧ください。2013年4月から適用が開始され,軽減税率は

10%になります。他の諸国と比べると少し高いような気がしますけれども,現在の法定税率が23%ですので,50%超の控除率になります。選択方法は任意選択ですが,いったん選択し

てしまうと全ての IPに適用することになる点がオランダの制度と異なるところになります。先ほどご説明いたしましたように,英国のパ

テントボックス制度は段階的な導入になっております。2013年の導入率は60%,次の年は70%,そして80%,90%となって,2017年にようやく100%となる予定です。先ほどオランダの制度のご説明のところで触れましたが,英国の制度は基本的に既存 IPも含むすべての IPが対象となってしまうため,このような段階的な措置をとることによって,既存 IP に係る部分を除外しております。この段階的な導入に加えて,英国の場合は法

定税率を2%引き下げる予定がありますので,実効税率の計算は,スライド41のテーブルにまとめてある通り,複雑なものとなっております。

スライド41のテーブルで2013年を見ていただきますと,60%が導入され,60%部分に対して優遇税率10%を適用します。残りの40%の部分には法定税率の23%を適用しますので,2013年の実効税率は15.2%になります。同じような計算をすると,最終的に2017年の実効税率は,本来の軽減税率である10%となるといった計算になります。次に,英国のパテントボックスのフレーム

ワークです。2012年春に法律が成立し,同時に,テクニカルノートといわれる,テクニカルエクスプラネーション(補足説明)が発行されました。スライド42では,そのテクニカルノートの中にあるパテントボックスのフレームワークを引用させていただいております。個人的には非常にわかりやすい図表だと思っております。この表の通り,英国のパテントボックスの大

枠のフレームワークは3つあります。1つは,所有要件,パテントのオーナーシップの要件についてです。もう1つは関連 IP所得の計算のフレームワークです。そして,最後にその他の例外規定という3つのフレームワークから成ります。本日は,このうち,所有要件と関連 IP所得の計算についてご説明いたします。所有要件とはどういった IPが対象となるの

かということです。その中で,やはり他のパテントボックス税制と同様に,経済的所有要件を要求しており,それに関するテストとして開発テストと管理テストというものがあります。また,関連 IP所得の計算では,まず何が対

象となる所得なのかという説明がありまして,その後に実際の計算方法の説明となります。一見してわかりにくいかもしれませんが,よく見ると,オランダの計算と似ていると思うところが多々あります。先ほどお話ししたようにネットがベースになりますので,費用を振り分けていくこととなり,その方法としては,比例分配の方法とストリーミングという方法の2つがあります。その後に,オランダの制度と同様に,ルーテ

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ィン機能に帰属する部分の控除が行われ,最後にマーケティング資産に関連する部分を取り除き,対象とならないものを除外していくという形で計算されます。

�2 適格 IPこれらのフレームワークについてさらに説明

を加えさせていただきます。最初に,どんな種類の IPが適格 IP なのかと

いうことですけれども,スライド43をご覧ください。英国の制度は非常に狭い定義となっておりま

して,原則として,特許登録をした IPのみが対象となります。スライド10にある IPの枠組みでオレンジの部分のみが適格 IPということです。さらに,特許登録した IPというのは,英国の知的財産局又は欧州の特許局で特許が認められている IPのみであり,対象範囲が非常に狭くなっております。英国と同じような要件を要求しているEEA(European EconomicArea)で認められた特許権も例外的に対象になりますが,EEAは,基本的にヨーロッパの諸国であり,米国や日本はこれには含まれません。従って,単純に米国もしくは日本で特許登録をした IPを英国に移しても,すぐに英国でパテントボックスの対象となるわけではありません。英国のパテントボックスの適用対象とするためには,英国で再度,特許を登録するのも一つの方法ですし,ライセンス契約を行い,後ほどご説明する独占的使用権を与えることも方法として考えらえます。スライド43のとおり,商標権,著作権といっ

た非適格 IP,マーケティング IPは確実に排除しております。産業 IP の一部であるデザインの部分は少し微妙なところはありますが対象外とされております。スライド43の2番目,3番目のポイントにつ

いては後ほど詳しくご説明いたします。以上が,英国ではどのような種類の IPがパ

テントボックス税制の対象となるかというご説

明ですが,原則として登録されているものだけが対象になるとご理解下さい。次に,所有の要件についてですが,ほとんど

全てのパテントボックス税制には所有要件があり,基本的には経済的所有を要求しております。スライド44をご覧ください。

英国では,法律上の所有要件も要求しておりますが,パテントボックスの対象は,原則として,特許の登録を必要としていることから,必然的に法律上の要件も満たすことになります。しかしながら,そういったものではない場合,ライセンスされた場合はどのように法的要件を満たすのかといいますと,英国での独占的使用権(Exclusive Right)を与えることによって,ライセンス契約であっても,登録することなく,法的要件を満たすことになります。ここでは,「英国での」ということがポイントで,世界的な独占的使用権を与えることまでは求めておらず,英国だけで足りることになっております。さらに,特許権侵害に関する訴訟を起こす権利,賠償金を受け取る権利を有しているといった要件を付すことで,法律的所有の要件を充実させています。また,パートナーシップ,合同事業,コストシェアリングによる所有も認めており,狭い適用範囲ながら多少の例外は認められております。2つ目の所有要件は,経済的な所有要件です。

各国のパテントボックス税制では様々なテストが行われておりますが,英国の場合には,開発テストと管理テストの2つに分けて要件が定められております。開発テストについては,文字どおり開発段階

でのテストになりますが,納税者及びそのグループメンバーが開発のために多大な貢献をして,活動を行うこととなっております。「多大な」という曖昧な表現が使われたとたんに事実認定の問題が生じてしまいますが,テクニカルノートによれば,コスト,時間,努力などの事実関係に基づき判断されますといった簡単な説明しかされておりません。

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また,管理テストについては,実際にそのIPができた後,積極的に管理しているかどうかのテストになります。またしても,「積極的に」という曖昧な表現となっておりますが,どういう意味なのかはあまり明確には説明されていません。強いて言えば,IP管理に関わるすべての決定権を有する必要はないのですが,計画及び決定に積極的に関与し,実質的責任を負っていることが明らかである必要があるということかと思います。例として,使用許諾契約の締結又は IPの異

なる利用法の分析などが挙げられており,これでイメージがクリアになるかわかりませんが,経済的な所有要件も満たさなければならないということになっております。

�3 適格 IP 所得それでは,適格 IPに帰属するどの所得が英

国のパテントボックスの適用対象となるのかについてご説明いたします。スライド46をご覧ください。適格 IPに帰属する所得のうち英国のパテン

トボックスの対象となる所得は,先ほど説明した三つの所得,ロイヤルティー,組み込み使用料,そして譲渡益のすべてになります。これに加えて,スライド46の4「特許権侵害

により発生した補償金」と5「その他の関連補償金,保険金,損失利益に対する支払」も対象となり,適格 IPの範囲はかなり狭くなっておりますが,適格 IP所得は広く捉えられております。後ほどご説明いたしますが,特に組み込み売上の場合は,異なるコンセプトになっており,拡大された要件,対象所得となっております。まず,2の「使用料」は,ロイヤルティーの

部分ですので特に問題ないかと思います。3の「適格 IP売却からの所得」は,売却益ですので,こちらも問題ないのかと思います。4の「特許権侵害により発生した補償金」と5の「その他の関連補償金,保険金,損失利益に対する支

払」は,他のパテントボックス税制では対象となっていないもので,基本的には賠償金になります。これらはロイヤルティー所得そのものではありませんが,失われたロイヤルティー所得が賠償金となって一部回収されることとなるため,パテントボックス税制の対象に含まれているようです。スライド23のオランダの説明では3つの所得しか対象として記載していませんでしたが,オランダではR&D機能に関連するすべての所得が対象となりますので,これらの賠償金のようなものも対象となるのではないかと思いますが,英国の場合は,明確に,賠償金も対象となっております。1の「特許品目が組み込まれている品目の売

上からの収入」に戻ります。これが組み込み使用料で,他のパテントボックス税制と大きく異なり,英国のパテントボックス税制のセールスポイントの一つかと思います。少し詳しく説明しますと,IPの使用には,

IPの開発をし,ライセンス契約を行って,ロイヤルティー所得を回収するという方法と自らの事業に使用する方法との2つの方法があると思います。自らの事業に使用して,商品・製品を製造し,

販売した場合,その売上の中にはロイヤルティー相当所得が含まれています。インボイスを見てもその金額が表示されているわけではありませんが,売上に含まれているロイヤルティー相当所得が組み込み使用料となります。仮に100ポンドの売上があったとして,30ポンドがロイヤルティー相当額だとすると,他のパテントボックスの税制では30ポンドのみが対象所得になります。これに対し,英国の場合には,100ポンド全額が適用対象所得になるという,極めて特徴的な制度になっております。正確にはスライド47の3つの売上が対象にな

ると説明されております。1つ目は特許品目で,特許登録されている商品が売られたら,そのすべての売上が対象となります。先ほどご説明いたしました30ポンドではなくて100ポンドにな

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るという例です。2つ目は,「特許品目が組み込まれている又は組み込むようにデザインされている製品で1つの商品として売られているもの」に係る売上です。3つ目は,「特許品目が組み込まれている又は組み込まれるようにデザインされているもの」に係る売上です。これについては,事例を用いてご説明いたし

ます。2つ目の「特許品目が組み込まれている又は

組み込むようにデザインされている製品で1つの商品として売られているもの」に係る売上には,2つの製品が含まれているかと思います。まず1つは,「特許品目が組み込まれている製品で1つの商品として売られているもの」です。テクニカルノートでは,これについてプリンターとインクカートリッジの例を使って説明されています。例1を見ていただくとわかりやすいかと思い

ますが,インクカートリッジとプリンターをセットで販売しているとします。通常,プリンターを購入すると,インクカートリッジが1つだけついてくるかと思います。仮に,そのインクカートリッジが特許登録されており,プリンターが特許登録されていないとします。それぞれ別個に販売されたら,インクカートリッジの部分だけが対象所得になって,プリンターの部分は特許登録されていないので対象所得にならないであろうことは想像がつきます。しかしながら,これらをパッケージとして1つの商品として販売した場合にどうなるかというと,すべての売上がパテントボックス税制の適用対象売上となります。仮に,100ポンドで売られるとしたら,たとえインクカートリッジ部分が20ポンドしか含まれていなかったとしても,100ポンドすべてが対象ということです。これが2つ目の前半の部分になります。2つ目の後半の部分である「特許品目が組み

込むようにデザインされている製品で1つの商品として売られているもの」について,同じようにインクカートリッジとプリンターの例を用

いてご説明いたしますと,特許登録されていないインクカートリッジと特許登録されているプリンターがあって,これらを別々に販売したらどうなるかということです。単純に考えると,特許登録されていないインクカートリッジは対象外かと思うところですが,実は,これが対象所得に含まれることになります。3つ目の「特許品目が組み込まれている又は

組み込まれるようにデザインされているもの」に係る売上ですが,例えば,特許登録されている製品のスペアパーツについてもパテントボックス税制の適用対象に含めようというものです。インクカートリッジを,特許登録されているプリンターのスペアパーツと考えて解釈すれば,理解しやすいかと思います。つまり,たとえ特許登録されていないものであっても,組み込むようにデザインされているのであれば,対象所得として認められるということになります。スライド47の例3は対象とされない場合です

けれども,たとえ特許登録されているDVDとされていないDVDプレーヤーが一緒に販売されたとしてもすべての売上が対象となるわけではないということです。特許登録されているDVDはどのプレーヤーでも再生可能であり,特別に組み込むようにデザインされたものではないということで対象外となっております。

�4 計算方法スライド48は計算方法について説明しており

ます。一見すると非常に複雑に見えるのですが,ステージが3つに分かれていて,大きな枠組みをご説明するとわかりやすいかと思います。最初の1から3のステップが第1ステージに

なりますが,これは単純に事業の利得で適格IPに帰属する部分を計算するステージとなっております。まず,IPに帰属する事業利得が計算されて,

第2ステージで,IPに帰属する事業所得からルーティン利益が控除されるということで,オランダと同様に,英国にも総所得からルーティ

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ン利益を控除するステージがあります。ただし,計算方法は,特定費用の10%となっており,特定費用については後ほどご説明いたしますが,非常に簡単な計算になっております。オランダの場合は移転価格のコストプラスという説明をしましたけれども,英国の場合は非常に簡単な計算となっております。第3ステージは,第2ステージで求められた

利益からマーケティング資産に帰属する利益を取り除き,発明や技術革新とは関係のないものを除外するもので,5と6は基本的には同じステップとなります。5は小規模の特例で,4で計算された適格残余利益(Qualifying ResidualProfit : QRP)が少ないのであれば,小規模企業は簡便法を用いてその25%を除外していいというルールです。仮に,ステップ5の計算が困難な場合でこの特例が適用されないときには,ステップ6の通り,実際に想定される販売使用料をTPのコンセプトを利用して計算し,実際の使用料と比べて,その差額を除外するという手間のかかる方法により計算することになります。そうして算出されたものが関連 IP所得(Relevant IP Profit : RIPP)(QRPからステップ5とステップ6を差し引いた数字)です。最後に,軽減税率適用のための調整ですが,

先ほどご説明いたしました10%を達成するために控除率を計算しなければならないという計算がこれです。法定税率が23%であれば,23%から10%を引いた13%の部分を控除しなければならないので,この比率でRIPP に乗じて計算すれば自然に控除率が算出されることになります。これについては,後ほど計算例を使ってご説明いたします。

�5 計算例スライド52の計算例を見ると,これまでの説

明がイメージしやすいかと思います。最初に,スライド52で合計の列に記載されて

いる数字が与えられている数字だとご理解ください。

仮に,事業所得が1,000ポンド,事業費用が600ポンド,事業利得は400ポンドだったとします。最初のステップは,事業所得のうちパテントに関連する所得,Relevant IP Income,RIPIを計算します。分析の結果,ここではパテントに関連する事業所得は700ポンドであったとします。すると,その他の所得は300ポンドになり,合計の事業所得は1,000ポンドということになります。この事業所得の比率を用いて,ステップ2で事業費用を比例配分します。総事業費用が600ポンドですので,このうち

70%(700÷1,000)部分をパテントに関連する所得に帰属する費用として振り分けます。その結果,パテントに関連する事業利得は700から420を差し引いて280ポンドとなります。この計算例で何となく想像がつくかと思いますが,パテント関連の利幅とその他の事業の利幅が同じであれば簡単なのですが,実務上はこれらの利幅は異なると思います。自社で開発したパテントであれば,利幅は非常に大きく,その他の事業がどちらかというと小さいかと思いますので,比例配分をしてしまうと,適用対象となる利得が少なくなってしまうのです。また,その逆に,例えばライセンス契約で受

け取った IPをさらにライセンス契約で他の人に貸した場合や back―to―back arrangement があった場合,その受け取った所得から支払うロイヤルティーの費用を除いていくと,back―to―back arrangement の場合,逆にパテント関連の利幅が非常に少なくなってくると思います。ここで,比例配分をしてしまうと,パテントボックスの対象となるパテント関連の事業利得が実際よりも大きくなってしまう可能性があります。このような場合には,ストリーミングという,ひも付きで費用を配賦する方法を選択することも可能ですし,ある一定の要件を満たすとストリーミングの方法を適用して計算しなければならないというルールになっております。こうして計算されたパテント関連の事業利得

から,ルーティン機能に帰属する利益を除外し

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ます。先ほどご説明いたしましたように,非常に簡単に特定費用の10%として計算することとなっており,特定費用はスライド49にあるような人件費等になります。この例では,200ポンドが特定費用としてあ

ったとすると,その10%である20ポンドがルーティン機能に帰属する利益となり,適格残余利益が260ポンドと計算されます。これが適格 IPに帰属している残った部分ということになります。ステップ5と6でマーケティング資産に帰属

する利得を除外しなければいけませんが,小規模の特例が適用された場合は単純にQRPの25%を除外しますので,この260ポンドのQRPから25%分を除外することになります。しかしながら,小規模特例が適用されない場合には,ステップ6では実際にマーケティング資産に帰属する利得の部分を計算しなければならないということになります。このあたりは移転価格の問題でもありますの

で割愛させていただきますが,単純計算でおおよそRIPI の3%がマーケティング資産に帰属する利得と想定した場合,21ポンドが除外される金額となり,260ポンドのQRPからこれを差し引いて239ポンドが IP関連利得,RIPP となり,パテントボックス税制の軽減税率が適用される金額となります。さらに,軽減税率10%の租税負担が発生する

ようにするには,控除額を計算する必要があります。スライド53のステップ7の方程式を用いますと,調整額は135ポンドで,残りの104ポンドが最終的なパテントボックスの適用対象金額となり,これに税率をかけ,租税負担が24ポンドになります。結果的にRIPP の10%,正確に言うと23.9ポンドになっていることがわかります。英国では,以上のような計算を行うことにな

っておりまして,オランダの制度と似ていないように見えて似ております。事業所得の合計額から始まって,そこから関連しない部分を差し

引いていきます。オランダの場合は,総所得から始まって,最終的に関連するR&D機能に帰属させていくわけですけれども,英国の場合は,最初にパテントに関連する所得を集めて,そこから関係しない部分を差し引いていくという形になっているので,基本的なコンセプトは同じかと思います。

5.日本のタックスヘイブン税制関

連事項

最後に,日本のタックスヘイブンの税制に関連する事項をご説明いたします。もし,日本の企業がこのパテントボックスを

利用する場合,どのような検討事項があるのか,また,どのようにタックスヘイブン税制が関連してくるのかということをご説明いたしました図表がスライド81になります。この図表は,政府が作成した資料をもとに作成しておりますので,皆さんご存じかと思います。まず最初に,トリガー税率の租税負担割合で

すが,スライド16のサマリーにあるように,ほとんどのパテントボックス税制は実効税率が5%から10%の間となっておりますので,それだけを考えればトリガー税率である20%以下になってしまい,タックスヘイブン税制の対象となってしまうことは明らかかと思います。また,適用除外判定ですけれども,この4つ

の除外判定をどのようにパテントボックス税制に適用していくかというと,おそらく事業基準の bにある「工業所有権等,特別の技術による生産方式等,著作権などの提供」に該当してしまうかどうか,いわゆる IPホールディングカンパニーかどうかについて判定することになり,これに該当すると,事業基準を満たさないことになります。したがって,新しい会社を設立して,ヨーロッパのパテントボックスを利用しようと IPを移転しても,おそらくこの要件に引っ掛かってしまって,適用除外とはならなくなってしまうと思います。

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実務上,IPを単純にホールディングカンパニーに移転するというより,例えば,生産プロセスに係る IPは製造子会社に移し,その製造子会社が実際にその IPを利用して製品を製造していくという形かと思います。その場合,もし製造業が主たる事業であれば,この事業基準要件を満たす可能性があり,適用除外となるかと思います。もちろん,この判定は事実認定の問題ですので,曖昧なところはありますし,IPのバリューが非常に大きければ,どちらが主たる事業なのかという議論もあるかと思いますので,検討項目の一つになるかと思います。仮に,適用除外判定を満たしたとして

も,2010年の税制改正により資産性所得に関しては課税対象になってしまうことは,皆さんご存じかと思います。資産性所得の cの「特許権等の提供による所得」とは,まさに使用料,ロイヤルティーが含まれ,パテントボックスの中心となる部分であり,単純に考えれば,この時点でパテントボックスは使えないということになってしまうかと思ってしまいます。スライド82に資産性所得の例外規定をまとめ

てみました。例外規定の1によれば,仮に,資産性所得が,

自ら行った研究開発の成果による特許権等のうち,外国子会社が当該研究開発を主として行った場合の使用料は,例外として資産性所得として扱わなくてよいとあります。これは,パテントボックス税制で要求されている経済的所有の要件に少し合致してくるかと思います。単にIPを受け取って,それを使ってライセンスしただけではパテントボックス税制の対象となりません。パテントボックス税制の対象となるためには,経済的所有があり,自ら研究開発を行ったり,管理を行ったり,そうした積極的な関

与が必要になります。例外規定の1と,パテントボックスの経済的所有要件は少し似ているところがあり,国によっては,経済的所有要件を満たせば,自然とこの1の例外規定の要件を満たす可能性があり,これも検討事項の1つになるかと思います。例外規定の2及び3ですけれども,2は取得

をした特許権,単純譲渡された権利で,3は使用を許諾された特許権,ライセンス契約によって取得した権利になります。これらの権利をその事業の用に供している場合には例外規定が適用されます。先ほどご説明いたしましたように,製造子会社に IPを移転して,その製造子会社がその IPを実際に使用すれば,その事業の用に供しているという解釈もできなくもないのかと思いますので,この例外規定の2と3に該当するような場合には,パテントボックス税制を利用することも可能かと思います。結局のところ,事業目的があって IPを移転

しているのであれば,タックスヘイブン税制の適用除外を満たした上で,パテントボックス税制の適用を受ける可能性もあるのではないかというところが,日本のタックスヘイブン税制に関連する検討事項となります。

かなり,駆け足でのご説明となってしまいましたが,本日の発表は以上となります。時間の都合で十分なご説明ができていない部

分もあろうかと思いますが,ご容赦ください。また,お配りした資料にはオランダ,英国以外の国の制度についてもご説明しておりますので,ご参照いただけますと幸いです。本日はご清聴いただき,誠にありがとうござ

いました。

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