Title 腎動静脈奇形の2例 : 炭酸ガス注入Digital SubtractionAngiographyによる診断

Author(s) 宮永, 武章; 北村, 雅哉; 佐藤, 義基; 寺川, 知良; 阪口, 昇二;津島, 寿一

Citation 泌尿器科紀要 (1993), 39(9): 823-826

Issue Date 1993-09

URL http://hdl.handle.net/2433/117931

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿帝己要39:823-826,1993 823

腎 動 静 脈 奇 形 の2例一 炭 酸 ガ ス 注 入DigitalSubtraction

Angiographyに よ る 診 断 一

八尾徳洲会病院泌尿器科(部 長:寺 川知良)

宮 永 武章,北 村 雅哉,佐 藤 義基,寺 川 知 良

八尾徳洲会病院放射線科(医 長:津 島寿一)

阪 口 昇二,津 島 寿 一

CONGENITAL ARTERIOVENOUS MALFORMATION OF THE

KIDNEY : REPORT OF TWO CASES

—DETECTION BY DIGITAL SUBTRACTION ANGIOGRAPHY

WITH CARBON DIOXIDE—

Takeaki Miyanaga, Masaya Kitamura, Yoshiki Sato

and Tomoyoshi Terakawa

From the Department of Urology, Yao Tokushukai Hospital

Shouji Sakaguchi and Juichi Tsushima

From the Department of Radiology, Yao Tokushukai Hospital

Two cases of arteriovenous malformation of the kidney were reported. The first case was a 19-year-old female, complaining of right flank pain and gross hematuria. Right selective renal arteriography revealed a 2x 1.5 cm large cisoid type arteriovenous malformation at the most distal region of the lower branch of the renal artery. Transcatheter embolization, using Gelfoam and absolute ethanol, was successfully done, which was confirmed with repeated digital subtraction angiography with carbon dioxide (CO2-DSA). The second patient was a 55-year-old female with

past history of right idiopathic renal bleeding, complaining of right flank colicky pain and gross hematuria. Right selective renal arteriography was done without any pathological findings, while CO2-DSA documented an arteriovenous malformation in the hilar region. Transcatheter emboli-zation was not done, because the malformation seemed to be proximally located. Thus CO2-DSA was thought to be a reliable method in the diagnosis of arteriovenous fistula.

(Acta Urol. Jpn. 39: 823-826, 1993)

Key words: Arteriovenous malformation of the kidney, CO2-DSA, Transcatheter embolization

緒 言

今回われわれは腎動静脈奇形の2例 を経験 した.新

しい診断手 技 と して 炭酸ガス注入digitalsubtrac-

tionangiography(DSA)を 施行 し有用で あった の

で,若 干の文献的考察を加 え報告す る.

症 例

症 例1

19歳女性.1988年5月,無 症候性 肉眼的血 尿を主訴

に近医を受診す るも,受 診時には血尿が見 られず,ま

たその後 も血 尿の出現を見ないため放置 されていた.

1989年3月31日,右 腰痛 と肉眼的血尿が出現 したため

当院受診,同 日精査 目的に入 院 した.入 院時理学的所

見では右腎部に軽度圧痛あ り,検 査成績では顕徴鏡的

血尿を認 め るほ か異 常な し.点 滴式排泄 性腎孟造影

(DIP)に て右腎はnephrogramの 描 出は1ある が腎

孟 腎杯 は造影 され ず,DIP後 のCTで 右 腎孟 内に

Iowdensityの 領域が見 られ,凝 血塊 の存在が考え ら

れた,4月15日,右 腎血管造影 を施行 した ところ,腎

824 泌尿紀要39巻9号1993年

ス注入DSA(Fig.2)を 行 い な が ら,動 静 脈 痩 の 消

失 が 確 認 され る まで 行 った.塞 栓 物 質 に はGelform

と無 水 エ タ ノー ルを 用 い た.術 後血 尿 の再 発 は 見 られ

ず,6ヵ 月,12ヵ 月 の時点 で の カ ラ ー ドップ ラー法 に

よるfollowupで もAVMの 再 発 は認 め て いな い.

馨

制

壕・;'

Fig.1.Rightrenalarteriographyofcasel=A

cirsoidtypearteriovenousmalformation

wasseenintheIowercalicealregionof

therightkidney(arrow)

「

ゐ!

き,

監 髭1/

i野r篇

膨

髪・ ヅ壷

珍、

霧蘇諺 ン

鑑 ガ 、

遭.急

ヂ 瑚 静,契㍍≧、 〃 曜

、脅

鰍 騨

岬〆

塗4び

ダ

ぐ〆

ゆ

夢 ニニ.

一 蓼

賊 転,ゆ も瑚 ・'.議 憾 ・

∫罵1酒

#「

懸

て`

塚`ゼ裾篠

簾4

Fig.2.CO2-DSAofcasel:Arteriovenousshuntwasdocumentedthroughearyvisualizationofrightrenalvein(closedarrow)andinferiorvenacava(openarrOW)

下極に2×L5cmのcirsoidtypeの 腎 動 静 脈 奇形

(AVM)を 認めた(Fig.1).AVMは カラー ドッブ

ラー法では,血 流の速い,乱 流像 と して認め られた,

血尿お よび腰痛 の症状は入 院後す ぐに消失 したので一

旦退院 し,改 めて入院 の うえ7月30日,AVMに 対 し

て右選択的腎動脈塞栓 術を施行 した.塞 栓術は炭 酸ガ

Fig.3.Rightrenalarteriographyofcase2:

Nopathologicalfinding

.、 ∵ 三『

ぜ へ　 ゲソ コ し ぜマ

惚.・.,、,、'=.'

ぜ

ボな ロ ン 　 し まダ ガ

痙藩露.!…'一 、 峯畳 《、 ・ 畔 ㌧ ゴゾ 閥

鑑 一1'±.."'k

嚇 騒 ㍗ダ㍗瞬窯iダ ヒ 、・-・ ♂㌦「』薦;ず;1..,＼

迄・'、 ㌧'i

Fig。4.Co2-DSAofcase2=Rightrenalvein

(arrow)wasvisualizedwithuseofCO2-

DSA

宮 永,ほ か:腎 動 静 脈奇 形 ・CO2-DSA

症例2

55歳,女 性.玉978年 に肉眼的血尿を主訴に某医受診

し右腎出血と診断 され るも,腎 血管造影にて異常が見

られないため放 置されていた.1991年11月5日,突 然

の右側腹部痛,肉 眼的血尿が出現 し,症 状が憎悪す る

ためIl月7日 当院受診,膀 胱鏡検査にて右尿管 口より

凝血塊が 出てい るのが観察 された.DIPで は右腎は

造影されず,DIP後 のGTで は右腎孟内に凝血塊に

よる と思われる陰影欠損を認めた.右 特発性腎出血 の

診断のもとli月20日,精 査 目的に入院 した.入 院時 の

理学的所見は異常な く,尿 検査で血 尿を認めず,血 液

検査で も異常は見 られ なか った.ま たカ ラー ドップラ

ー法にても異常な血流像は見 られなかった.II月26日

右腎血管造影を施行 したが,右 腎動脈には異常所見は

見られなか った(Fig.3).そ こで炭酸ガス注入DSA

を施行 した と ころ,下 極 に向か う分枝 よ り腎静脈に

炭酸 ガスが流 出す るの が 見 られAVMと 診断 した

(Fgi,4).AVMの 部位は,選 択的に カテーテルを挿

入 し,カ テーテル先端の位置 を変 えなが ら炭 酸ガスを

繰 り返 し注入す ることに よ り比較的中枢 側に存在す る

と考 えられた.AVMは 通常のDSAで は 描出 で き

ないほ ど小 さいこと,症 状の発現 が稀であ ること,ま

たAVMを 塞栓す る と広範囲 の腎梗塞 を生 じる可能

性があることよ り腎動脈塞栓 術は施行せず,以 後外来

にて経過観察 中であ る.

考 察

腎動静脈奇形 は本邦においては1964年 の伊藤 らの報

告Dを 腐矢 として,近 年の 診断技術の進歩 と相侯 って,

その報告例は徐々に増加 している.平 賀 らの本邦74症

例の集計2)に よると,年 齢は10歳 か ら84歳 平張38.1

歳,女 性が男性の2.5倍 で,右 腎に多 くみられている.

診断には,排 泄性尿路造影にて腎孟 腎杯 の敷石状変

化がみ られ るとの報告3)や,最 近 ではCTや 超音波検

査にて非侵襲的に診 断できた症例の報告4)も み られる

が,確 定診断は腎血管造影法に よってなされ る5).し

か しなが ら通常血管造影に用い るヨー ド造影剤は,血

液 よ り粘稠性が 高いため微 小血管 ま で 造影剤 が 流れ

ず,実 際に動静脈短絡 があ って も画像 として描出でき

ない可能性がある.一 方炭酸 ガスは血液 よ り粘稠 性が

低い の で,わ ずか な 動静脈短絡で も容易に通過 し,

DSAを 行 うことに よって 静脈の 描出が え られ,こ

れを診 断で きると考え られ る6).わ れわれは炭酸 ガス

15～20m1を 用手的に2～3秒 間 か け て 注入 してい

る.症 例1で は腎動静脈奇形 の診断は もとより,腎 動

脈塞栓術後 の動静脈短絡の残存 の有無を調べるのに有

825

用 であ り,症 例2に おいては,通 常の腎動脈造影では

描出できなか った動静脈奇形 が,炭 酸 ガス注入DSA

を行 うことに よりは じめて診断で きた ことは,こ の診

断法の有用性を示す ものであろ う.

治療 は古 くは 腎摘除術 を 含めた 開腹術が 行われて

いたが,1973年Rizkら?)が 初 めて腎動脈塞栓術を行

って 以来,そ の 良好 な成 績に よ り現在では 腎動脈塞

栓術が,治 療 の 第一選択 と なってい る。塞栓物質 に

は,Gelfoam,Ivalon,Oxycel,Spongostan,steel

coil,無 水エタノール等 の物質が用 い られて いるが,

動静脈奇形の再発は,Gelfoam単 独 に よる 治療 で最

も起 こ りやす く,松 尾 らの報告9)で はll例 中7例 に再

発がみ られ た として い る.無 水 エタノールやsteel

coi1を 用いた症例では再発 はみ られ てい ない.無 水

エタ ノールは,steelcoilに 比べて大動脈 内脱落の危

険や動静脈痩を通過 しての問題 もな く,ま た塞栓 の手

技が容易 で しか も安価 で ある等 の利点9)を 備えてい

る.わ れわれは無水 エタノールとGelfoamを 併用す

ることによ り良好な結果をえた.塞 栓術後の再発 の有

無は血管造影に よって行われることが多いが,症 例1

のように尿検査に加 えカラー ドップラー法 を行 うこと

によ り,非 侵襲的な経過観察が行 えるといえ よう.

本論文の要旨は第138回 日本泌尿器科学会関西地方会にお

いて発表した.

文 献

1)伊 藤 一 元,西 山 洋 司,北 川 竜 一,ほ か:血 尿 を

主 訴 と した 腎 動 静 脈 痩,日 泌 尿 会 誌55=1092,

1964

2)平 賀 聖 悟,内 島 豊 水 尾 敏 之,ほ かCirsoid

type先 天 性 腎 動 静 脈 奇 形.2治 験 例 と 本 邦74症

例 に つ い て の 考 察.泌 尿 紀 要30:1213-1223,

]984

3)FeinbergSBandGoldbergME:Arterio-

venouscommunicationofthekidneyina

patlentwithhypertension・Reportofcasein

whichthediagnosiswassuggestedbyroutine

pyelography・Radiology81:601-604,1963

4)平 林 聡,小 野 佳 成,絹 川 常 郎,ほ か:腎 血 管 病

変 に 対 す る 腎 保 存 手 術 の 検 討.日 泌 尿 会 誌74・

1985,1983

5)高 羽 津,園 田 孝 夫,打 田 日出 夫,ほ か:Vas-

cularMalformationに よ る 先 天 性 腎 動 静 脈 痩 の

3例.日 泌 尿 会 誌63:539-555,1972

6)TakedaT,ldoKandYuasaY:Intraater五al

digitalsubtractionangiography(IADSA)

withcarbondioxide-Superiordetectability

ofarteriovenousshunting.CardiovascIn-

terventRadlol11:101-107,1988

7)RizkGK,Ata11ahNKandBridiGI:Renal

826 泌尿紀要39巻9号1993年

arteriovenousfistulatreatedbycatheterem_

bolization.BrJRadiol46:222-224,1973

8)松 尾 良 一,浦 俊 郎,堀 建 夫,ほ か:腎 動 静 脈

奇 形 に 対 して選 択 的 腎 動 脈塞 栓 術 を 施 行 した2例一 本邦 報 告 例32例 の 検討 .西 日泌 尿48=1575-

1580,1987

9)早 川 正道,青 輝昭,長 倉和彦,ほ か:エ タ ノー

ル動脈 内注入療法で治療 した 腎動静脈痩 の1例.

泌尿紀要30:1069-1074,1984

(ReceivedonApri17,1993AcceptedonJuneI5,1993)

(迅速掲載)