tmrおよび分離給与が黒毛和種去勢牛の産肉性に及...

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TMRおよび分離給与が黒毛和種去勢牛の産肉性に及ぼす 影響 誌名 誌名 群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal Husbandry Experiment Station ISSN ISSN 13409514 巻/号 巻/号 15 掲載ページ 掲載ページ p. 9-20 発行年月 発行年月 2009年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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TMRおよび分離給与が黒毛和種去勢牛の産肉性に及ぼす影響

誌名誌名群馬県畜産試験場研究報告 = Bulletin of the Gunma Animal HusbandryExperiment Station

ISSNISSN 13409514

巻/号巻/号 15

掲載ページ掲載ページ p. 9-20

発行年月発行年月 2009年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

群馬畜試研報第 15号 (2008)

群篤畜試研報第 15~予 (2008) : 9 -20

キーワード :TMR"分離給与・黒毛和種・ E霊肉性

TMRおよび分離給与が黒毛和種去勢牛の産肉性に及ぼす影響

浅田勉・角田成幸・黒沢功

Growth Perfonnance and Carcass Characteristics of Japanese Black Steers

fed Forage and Concentrate Total Mixed Ration versus Separate

Tsutomu ASADA, Shigeyuki TSUNODA and Isao KUROSA W A

要 = 日

黒毛和種去勢牛 8頭を用い、粗餌料と濃厚飼料を混合し給与する TMR区と濃厚飼

料と粗飼料を分離して給与する分離区を設定し、飼料給与方法が餌料摂取量、発育

および枝肉成績に及ぼす影響を検討し、以下の結果を得た。

1 発育および枝肉成績、胸最長筋の理化学分析値および脂肪酸組成に葉は見られ

なかった。

2 粗飼料摂取量は肥育前期では差はなかったが、稲ワラを給与した肥育中期およ

び後期では分離区に比べ TMR区が多かった(Pく0.01)。また、濃厚飼料摂取量は肥

育中期に差。く0.01)が見られ、分離区で多かった。

3 養分摂取量は肥育中期に差が見られ、分離区で TDN(Pく0.05)および CP(Pく0.01)

摂取量が多かった。

4 肝臓、腸および胃の廃棄率は TMR区0%、25%、25%、分離芭 100%、67%、67%

とTMR涯が低かった。

5 販売金額から素畜費と餌料費を差し引いた差額は TMR区が高かった。

以上のことから肥育牛への TMR給与は、採食量のバラツキを少なくし、経済性を

向上させることが示唆された。

緒 ~

乳用牛では粗飼料と濃摩餌料を混合した

飼料 (TMR) を給与する方法がフリーパ

ーンやフリーストーノレ等の放し飼い飼養方

式で一般的に採用されている。 TMRは第

一胃内発酵の安定性、給餌作業の省力化、

製造副産物利用による低コスト化等の利点

を有している。しかし、肉用牛では…部の

大規模肥育農家で普及し始めているもの

の、大半は把育前期、中期、後期といった

帥 9-

発育ステージに合わせて濃厚餌料と粗鋼料

を分離給与する方式を採用している。

一般的に分離給与方式では濃厚飼料を前

期に制限給与し、中期以鋒に自由採食させ

ている。粗鋼料は前期にチモシ一等の良質

乾草を自由採食させ、中期以降は稲ワラを

給与している。肥育前期の粗鋼料摂取量は、

肥育中期以降の飼料摂取量や増体量に影響

を与えることから、肥育前期の粗濃比が肥

育期の発育や産肉性に及ぼす影響について

は多くの試験報告がある 1-4)。しかし、群

群馬蔭試研報第 15号 (2008)

飼育で分離給与を行うと選択採食により濃

席飼料と粗飼料を各僧体が一定の割合で摂

取することは難しく、発育や枝肉成績のバ

ラツキの一因と考えられる。さらに、濃厚

飼料を多給することでの急激な第一胃内

pHの低下によるアシドーシスの一習にも

なっている。

そこで、分離給与の欠点を改善し肉牛の

経営安定に寄与する技術を開発するため、

TMR給与と分離給与が黒毛和議去勢牛の

産肉性に及ぼす影響について検討した。

材料および方法

1 供試牛

供試牛の概要は表 1に示したとおり、父

を福栄とする本県産黒毛和種去勢牛 8頭を

用いた。生後約 10カ月齢で導入し、 1カ

月間の期iI致期間をおいて約 11カ月齢から

試験を開始した。供試牛は全頭験角し試験

に供した。なお、分離区の 5号牛は腎臓疾

患により試験途中で除外し、 7頭の成績を

用いた。

表 1 供試牛の概要

区分 No 父 母の父 生年月日 備考

TMR区

分 離区

福栄北悶 7の8 2005/4/11

2 福栄糸福

3 福栄糸藤

2005/4/28

2005/5/29

4 福栄北国 7の8 2005/7 /18

5 福栄安平 2005/7/1 試験中止

6 福栄北思 7の8 2005/6/5

7 福栄北箆 7の8 2005/4/30

8 福栄北富 7の8 2005/4/28

2 試験期間および試験区の設定

試験期間は、 2006年 4月 10日"-'2007年

9月 10日とし、肥育前期 89日(平均 11

"-' 14カ月齢)、中期 89日(平均 14"-' 17

カ月齢)、後期 33113 (平均 17"-' 28カ月齢)

とした。なお、餌料の切り替えは朝日致期間

-10 -

を設け、 2週間かけて実施した。

試験区は組飼料と濃厚飼料を混合して給

与する TMR区と粗鋼料と濃厚飼料を分離

して給与する分離区とした。

3 供試飼料

濃庫飼料は市販されている前期および後

期記合飼料に大豆粕、ビール粕を表 2の割

合で自家配合した。粗銅料は約 3cmに切

断して給与し、再区とも生後 14カ月齢ま

ではチモシー乾草、 14"-' 15カ月齢はチモ

シー乾草と穏ワラ、 16カ月齢以降は稲ワ

ラを用いた。 TMR豆は表 3の割合で濃摩

飼料と粗鋼料を混合して給与した。分離軍

は表 2の濃厚飼料と上記の粗飼料を別々に

給与した。ただし、中期の 14"-' 15カ月齢

まではチモシー乾草と稲ワラを l対 3の割

合で混合したものを給与した。

表 2 濃厚飼料の配合割合および栄養価

項 目前期 中期 後期

(89日) (89 13 ) (33113 )

記合割合原物kg

前期配合 45 35

後期配合 35 80

大立粕 10 O O

ビーノレ粕 20 10 10

栄養価 (DM中%)

DM 73.9 81. 6 82.4

TDN 76.5 78.9 81. 2

CP 23. 0 15.8 14.4

表 3 TMR区に給与した飼料の配合割合と栄養価

生後月齢(カ月)項 自 前期 中期 後期

11~14 14~15 15~17 17~28

前期配合 45 35 35

後期配合 35 35 80

大立粕 10

ビール粕 20 10 10 10

チモシー乾草 25 5

穏ワラ ー 15 20 10

栄養価 (DM中%)D M 78. 4 83. 1 82. 8 82. 9

T D N 71. 2 72. 1 71. 3 77.2

C P 19.0 13.8 13.6 13. 5

群馬畜試研報第 15号 (2008)

なお、分離区における前期の濃厚飼料は

l日 l頭 2kg以上の粗飼料を摂取させるた

め 6""""'9kgの制限給与とした。

4 飼料給与および飼養管理方法

供試牛は試験区ごとに追い込み牛舎 (5m

x 5.5m) で4頭づっ飼育し、飼料給与は

自動開関ドア(カランブロードベントドア)

による個体別給与とした。飼料は 1日2自

給与し、毎詰残飼料を秤量して飼料摂取量

を算出した。

敷料はオガクズを使用し、流水水槽での

自由飲水、尿石予防薬含有の歯形塩を自由

翫食とした。

5 調査項臣および検査方法

1 )飼料摂取量、飼料要求率、養分摂敢量

各個体ごとに毎日残飼料を秤量して飼料

摂取量を算出した。飼料要求率は増体震に

対する飼料摂取量の比率で示した。養分摂

取量は DM、TDNおよび CPを算出した。

2)発育

体重は 2週毎、体高、体長、十宇部高、

胸深、胸囲、尻長、腰角幅およびかん揺は

試験開始時 (11カ月齢)、前期終了時(14

カ月齢)、中期終了時(17カ月齢)および

試験終了時 (28カ丹齢)の 4罰測定した。

3) 第一胃内容液および血液性状

第一胃内容液は、試験開始時、前期終了

時、中期終了時および試験終了時の 4回採

取し、 pHおよび揮発性脂肪酸 (VFA) を

測定した。飼料給与 4時間後に採取した第

一胃内容液は二重ガーゼで癒過した後、た

だちに pHを pHメーターで測定した。 VFA

は高速液体クロマトグラフを用いて測定し

た。

血液は第一胃内容液採取直前にへパリン

ナトリウム入り真空採車管を用いて頚静献

から採取し、へマトクリット値を測定後、

遠心分離した血柴を分析に供するまで一

-11 -

20 ocで凍結保存した。試験終了後、グ、ノレ

タミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ

(GOT)、総コレステロール (T-Cho)、尿

素窒素 (BUN)、グ、ルコース (GLU)、カ

ルシウム (Ca)、無機リン(Ip) は官土ド

ライケム 3500(富士フィルム)で測定し

た。

4) 肉・脂肪の理化学分析

(1)肉の理化学分析弓

第 6""""'7胸椎間腕最長筋の水分、粗蛋白

質、粗脂肪、灰分、加熱損失、勇断力倍、

肉色を溺定した。水分、粗賠肪、粗蛋白質、

および灰分は常法により測定した。

加熱損失は 700Cの温湯で 1時間加温し

た後、水道水で 30分冷却し、加熱前後の

重量の減量から算出した。

勇断力備は Waner剛 Bratzler努断力価計を

用いて、肉色は色彩色差計 (CR- 2000、

ミノルタ製)を用いて測定した。

(2)路肪の理化学分析

脂肪は、皮下脂肪、筋肉内脂肪および腎

臓脂肪の脂肪酸組成を測定した。

脂肪駿はクロロホノレムで脂質を抽出し、

これをメチルエステノレ化したものをガスク

ロマトグラフィ(島津 GC17- A) で測定

した。脂肪酸組成はミリスチン酸(C14:0)、

ミヲストレイン酸 (C14:1)、パノレミチン酸

(C16:0)、パノレミトレイン酸 (C16:I)、ステ

アリン駿 (C18:0)、オレイン酸 (C18:1)、ヲ

ノーノレ駿 (C18:2)について測定した。

5 )枝肉成績および内臓廃棄

枝肉成績は社団法人日本食肉格付協会群

馬事業所の格付値を用いた。内臓廃棄は食

肉衛生検査所の結果を用いた。

6) 経済性

販売金額から素畜費および銅料費を差し

引いたものを利益とし経済性を評錨した。

7 )統計処理

統計処理は最小二乗法による分散分析を

行い、試験区間の有意差は最小有意差法に

第 15号 (2008)

肥育中期および肥育後期では分離区と比べ

TMR区の粧飼料摂取量が有意に多かった

(表 4、密 1、4、6)。また、肥育全期間で

も粗飼量摂取量は TMR区が脊意に多かっ

た(密 8)。濃厚飼料摂敢量は肥育中期のみ

差が見られ、 TMR区に比べ分離区が有意

に多かった(表 4、図 l、4)。養分摂取量も

肥育中期のみ差が見られ、分離症で TDN

摂取量(P<0.05)および CP摂取量(P<O.OI)が

多かった(図 5)。

群馬遼試研報

飼料摂取量、飼料要求率、養分摂取量

1日 1頭あたりの飼料摂取量および飼料

要求率を表 4、肥育期間中の飼料摂取量お

よび養分摂取量を図 1'"'-'9に示した。

1 !3 1頭あたりの飼料摂敢量および肥育

期開中の飼料摂取量は、肥育前期では試験

区間に‘差はなかったが、稲ワラを給与した

より平均値開の比較を行った。

果結

1

探物飼料摂取量および飼料要求率 (kg/日・頭)表4

後期 (331日)中期 (89日)前期 (8913) 試験区

濃厚飼料 飼料要求率粗飼料濃厚飼料飼料要求率経飼料濃厚飼料飼料要求率総飼料

13.8土O.7 1.0土0.1A 9.4土0.69. 9:t0. 7 8.5ことO.3 B 2. 1:t O. 1 A TMR区 7.5土0.6 2.5土0.2 10.0土1.0

13.8土1.3

1)平均値±標準備差 A,B:Pく0.01

9.6ごと0.4 0.5土0.2B 9. 6:t2. 1 10. 2ごとO.1 A 1. 1土0.3B 分離区 6.9土0.2 2.4士0.6 10.4土O.1

12

濃10厚

(折れ線)

8

6

** Pく0.01

キ P<0.05

麗翠盟 TMR区

亡コ分離区

一会一 TMR区

ー@一分離区

**

**

**

キキ

kg 5 r

粗!

銅 4ト料[摂 l

取 3量

q

L

'

i

(棒グラフ)

O

12 13 l4_ 15 16 J~ 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 2~ F 月齢

前期中期 後期

O

飼料摂取量の推移

-12 -

図 1

第 15号 (2008)群馬E善試研報

密 TMR区ロ分離区kg/頭800

600

400

200

園 TMR区ロ分離区kg/頭「一一一一一1,000

800

600

400

200

。。CP TDN

図 TMR区白

**:P<O.OI

肥育前期の養分摂取量

DM

kg/頭

図 3

1,000

800

600

400

200

粗飼料

IIITMR区ロ分離区

**:Pく0.01

濃厚飼料

肥育前期の飼料摂取量

kg/頭1,000

200

国 2

800

600

400

O 。CP

盤富 TMR区ロ分離区

TDN

肥育中期の養分摂取量

kg/頭3,500

1,000

DM

関 5

3,000

2,500

2,000

1,500

視鏡料

肥育中期の飼料摂取量

関 TMR区日分離区

本本:P<O.OI

濃厚飼料

kg/頭3,500

1,000

図4

3,000

2, 500

2,000

1. 500

量 500

O

500

。CP

肥育後期の養分摂取量

TDN DM

図 7

-13 -

組飼料

肥育後期の飼料摂取量

濃厚飼料

密 6

第 15号 (2008)群馬畜試研報

言語 TMR亙ロ分離区kg/頭5,000

4,000

3,000

2,000

1,000

**:Pく0.01

kg/頭金 5,000 ,-----

z MOO

2300o

g 2,090

21,ooo

量 。。CP TDN DM 粗飼料濃厚餓料

肥育全期間の養分摂取量

験開始体重は TMR区 331kg、分離区 350kg

と分離豆が 20kg程度大きかったが、これ

は分離区の月齢の若い 5号牛を試験中止で

除外したためである。

DGおよび体高、体長、十字部高、胸深、

胸囲等の体格測定値についても試験区間に

差は見られなかった。

図 9肥育全期間の飼料摂敢量

発育成績

体重および日増体量 (DG)は表 5、図 10

に示した。なお、体重の上限および平均値

は黒毛和種正常発育曲線における去勢肥育

牛発育推定値を引用した。体格測定値は表

6に示した。試験終了時体重(生後 28カ

月齢)は TMR区 766旬、分離区 783kgで

あり、試験区間に差が見られなかった。試

図8

2

(kg) 発育成績表 5

DG 体重試験区

通算後期中期前期.後期終了中期終了前期終了開始

o. 86:t0. 03 O. 76士0.031. 07土0.081.01:t0.07 766土佐516:t36 421 :t34 331土39TMR区

O. 85:t0. 09 1. 22土0.24 0.74士O.10 O. 90土0.08783土 38538士18430土 38350:t31 分離IR

一回一一上隈

一一品一一TMR区

一「伝一分離亙

ー・・"平均

σb

Lkufi

AU

nu

no

500

n

u

n

u

n

u

n

U

A

A

n

J

700

600

月齢1112 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28

前期 中期 後期

体重の推移

-14 -

菌 10

群馬畜試研報 第 15号 (2008)

表 6 体格測定値 (c m)

項 自 測定時期 TMR区 分離区

試験開始 118.2十1.7 119.9土4.0

体 問問1 前期終了 125.0+2. 7 124.4+3.4

中期終了 126.6+2.3 130.0 +2.8

後期終了 136.5+1.0 138.8土2.6

試験開始 130. 5+5.2 134. 1+1.8

体 長前期終了 138.9+3.2 140. 7+4. 7

中期終了 147.9+5.0 149. 7+2. 1

後期終了 163.5+3.6 168. 5::!:::3. 3

試験開始 117.6+3.9 119.7+4.2

十字部高前期終了 124. 5+3.5 125.0 +4.5

中期終了 127.8+4. 1 129. 7十3.4

後期終了 138.5+3. 1 140.6+2.9

試験開始 58.9+1.9 59.7::!:::2.0

胸 深前期終了 63.0+2.3 64.4+1.3

中期終了 69.0土1.2 69.8+1.4

後期終了 79. 1+1.8 79.6+1.4

試験開始 162. 0::!:::7. 3 167. 3+4. 7

胸 囲前期終了 178.5+7.2 179.0 +2.6

中期終了 196.0+4. 7 200.3::!:::2.9

後期終了 232. 3::!:::5. 6 233.3+3. 1

試験開始 43.8+1.8 44.9+1.9

尻 長前期終了 46.6+0.5 47.8+1.5

中期終了 48.0土1.4 49.9+0.3

後期終了 54.6+1.4 56. 7+1.0

試験開始 37.6+2.3 37.6+1.3

腰角幅前期終了 41. 3土1.8 42.3+1.9

中期終了 48.0 +1.4 49.9::!:::0.3

後期終了 56. 1+1.5 55. 1+0.5

試験開始 42.0+2.6 40.4+2. 1

か ん 幅前期終了 43. 6+2. 7 43. 1::!::: 1. 6

中期終了 48.4土1.7 47. 1+1.8

後期終了 55. 7+1. 1 54.2+O. 3

-15 -

群馬 畜試研報第 15号 (2008)

3 第一胃内容液および血液性状

第一胃内容液の検査成績を表 7に示し

た。

pH、総 VFA濃度、プロピオン酸、ノル

マノレ酪酸および A/P比は中期終了時に差が

見られた。 pH、ノルマル酪酸および AIP

比は TMR区が高く (P<0.05)、総 VFA濃度

(P<O.OI)およびプロピオン酸(P<0.05)は分離

区が高かった。イソ酪酸およびノルマノレ吉

草酸は前期終了時に分離区が高かった

(P<0.05)。イソ吉草酸は後期終了時に TMR

表7 第一胃内容液検査成績

項 目 試験区 試験開始

pH すMR区 6.8土0.3

分離[R 6. 8土O.2

総VFA濃度 TMR区 11. 4土2.8(mmol/dl) 分 離 区 12.0土1.3

酢酸(A)TMR区 62. 4:t 1. 5

ト一一分 離 区 61. 2ごと1.9

プロピオン酸(p)TMR区 21. 1土2.1

V 分 離 区 23.0こと2.1

I午 ト一一一一一A ノルマル酪酸

すMR[R 12. 3:t3. 2

宗主 分 離 E 11. 2土0.8成

イソ酪酸TMR[R 1.0:t0.1

(

分離区 1.1土0.2% トー)

ノルマル吉箪酸TMR[R 1.3土0.1b

分 離 区 1. 6:t0. 1 a

イソ吉草酸TMR区 1.5土0.2

分 離 区 1.6土0.2

A/P比TMR区 3.0土0.3

分離区 2. 7土0.3

% 一品ー T M R区一会一分離区

45

ネ P<0.05*

30 開始 前期終了中期終了後期中間 終了

図 9 へマトクリット値の推移

区が高かった(P<0.05)。

血液性状検査成績のうちへマトクリット

値を図 9、GOTの成績を函 10に示した。

へマトクリット値は後期中間時に差が見

られたが (P<0.05)、いずれも正常値の範囲

内であった。

GOTは中期終了時に分離区が高かった

(P<0.05)。

それ以外の検査項目には差が見られなか

った。

前期終了 中期終了 後期中間 後期終了

6.8:t0.2 6. 8:t0. 1 a 6. 9:t0. 2 6.6:t0.1

6. 9:t0. 3 6.4土0.2b 6.8土O.3 6.5土O.3

15.2土1.0 11. 8:t0. 6 B 11. 3土2.5 14. 5:t 1. 2

15. 4:t2. 6 16.9土1.8A 13.3:t1.3 14. 5:t 1. 4

60. 7土0.8 62.8ごと1.2 58.3こと1.2 59.3土1.2

59. 4:t3. 3 53.2土7.9 58. 1土5.3 55.4:t5.1

22.5土1.1 23.0土1.3b 25. 2:t3. 1 24.8土2.4

22.0:t3.3 34. 5:t7. 2 a 26.2土8.2 27. 2:t7. 0

12. 7土1.1 10. 1土0.6a 11. 6士2.3 10.6ごと1.0

13.2:t2.2 8. 4:t0. 6 b 9.6士2.4 l1.8:t4.2

0.9ことO.1 b O. 7ごと0.4 1.1土O.1 1. 1:t0. 2

1. 2:t0. 2 a 0.8土0.0 1. 0:t0. 1 1. 1:t0. 1

1. 4:t0. 2 b 1.2土O.1 1. 4:t0. 1 1.5:t0.1

1.8土O.1 a 1.8土O.7 1. 6j二0.2 2.0土O.5

1.5土0.3 1.7土O.5 2. 1土0.2 2.2土0.3a

2.0:t0.5 1. 1:t O. 1 3. 0士1.1 2.2土0.3b

2.7:t0.2 2. 7土0.2a 2. 4:t0. 3 2.4:t0.3

2.8:t0.5 1. 6:t0. 6 b 2. 4:t0. 9 2. 5士0.4

A,B:Pく0.01a,b:Pく0.05

IUI1 ー-TMR区一合一分離区100 一 一一一一一一

* *:P<0.05 80 ト一一一一→~一一

40 一一一一一一 一一

20

O 開始 前期終了中期終了後期中間 終了

図 10 GOTの推移

崎 16凶

群馬 蜜試研報第 15号 (2008)

4 肉・脂肪の理化学分析成績

第 6r.....-7胸椎間胸最長筋の理化学分析結

果を表 8に示したが、いずれの項目にも差

は見られなかった。

皮下脂肪、筋肉内脂肪および腎臓脂肪の

脂肪酸組成を表 9に示した。いずれの項目

にも差は見られなかったが、筋肉内脂肪の

りノーノレ酸は TMR区 2.1%、分離区 2.7%

であり、分離区が高い額向が見られた。

表 9 脂肪酸組成

表8 胸最長筋の理化学分析

項 目 TMR区

水分(%) 46.0土3.7

粗蛋白質(%) 13.6:t1.7

組脂肪(%) 36. 9:t 5.2

灰分(%) O. 7:t0. 1

加熱損失(%) 16. 3土1.5

勢断力価 (kg/cm2) 2. 0:t0. 1

L*値 51. 9土1.5

肉色 a*fi直 21. 0:t4. 1

b*値 13. 5:t 1. 3

分離区

45.6土4.3

14. 9:t 1. 6

37.3:t6.6

O. 7:t0. 1

15.5土2.0

2.0土0.6

50.0土2.1

24.0土0.9

14.9土0.9

(%)

皮下脂肪 筋肉内脂肪 腎臓脂肪脂肪酸

TMR区 分離区 TMR区

C14:0 2.5土0.2 2.2土0.3 2.6::t0.3

C14:1 1.7::t0.5 1.4士0.2 2.2土0.6

C16:0 23. 7土2.3 21. 1土2.6 32. 3::t2. 0

C16:1 7.2士2.9 6.5土1.0 2.5土0.4

C18:0 5.3土2.1 6. 3::t2. 7 5.2土0.9

C18:1 56. 9::t 1. 4 58.6士4.0 53.2土2.9

C18:2 2. 7士0.2 4.0土1.4 2.1 ::t0. 4

SFA 1) 31. 5土3.7 29. 6::t5. 3 40.0土2.3

UFA2) 68.5土3.7 70.4土5.3 60.0土2.3

1)飽和脂肪酸2)不飽和脂肪酸

5 枝肉成績および内蔵廃棄

枝肉の格付成譲を表 10、内臓廃棄を表 11

に示した。枝肉重量は TMR豆 470.0kg、分

離区 483.0旬、ロース芯面積は TMR区

52.3cm2、分離区 60.3cm

2、BMS Noは TMR

区 5.5、分離区 5.3であり、いずれも試験

区間に差は見られなかった。

肝臓、腸および胃の廃棄割合は、いずれ

もTMR区が少なかった。

-17 -

分離底 TMR区 分離区

3.3土1.3 2.0土0.2 2.0ごと0.5

2.6土1.2 0.4::t0.2 O.4::t0.2

30.0土6.7 22.6ごと1.9 22.4土2.5

2.3土0.9 3.6ごと1.6 2.4土0.3

5.0土1.5 22. 6::t2. 3 22. 7土4.2

54. 1::t5. 8 46. 4::t2. 8 46.5土4.2

2. 7土0.8 2.4土0.2 3. 6::t1. 2

38.3士5.7 47. 3::t2. 9 47. 1::t3. 1

61. 7::t5. 7 52. 7土2.9 52.9土3.1

表 11 内蔵廃棄 (頭)

試験区 頭数

TMR区 4

分離区 3

廃棄区分

肝臓紛 胃

。(0覧1(25覧 1(25覧)

3(100覧 2(67覧 2(67%)

群馬畜試研報 第 15号 (2008)

表10 枝肉成績

項 自 τMR区 分離思

枝肉重量(kg) 470.0十 24.3 483.0+16.6

ロース芯面積(cm2) 52.3+2.4 60.3+8. 7

パラの厚さ (cm) 7.6+0.5 7.8+0.6

皮下脂肪厚(cm) 3.0十 0.5 1.8+1.6

歩留基準値 72.8+0.6 74.9+2.4

BMS No (脂肪交雑) 5.5+1.0 5.3+1.5

脂肪交雑等級 4.0+0.0 3. 7+0.6

BCS No (肉色) 4.0+0.0 4.0+0.0

光沢 3.5+0.6 3. 7+0.6

肉の色沢等級 3.5÷0.6 3. 7+0.6

締まり 3.5+0.6 3.3+0.6

きめ 3.5+0.6 3. 7+0.6

締まり・きめ等級 3.3+o. 5 3. 3+0.6

BFS No (脂肪色) 3.0士0.0 3.0+0.0

光沢と質 5.0+0.0 5.0+0.0

脂肪の光沢と質等級 5.0+0.0 5.0+0.0

肉葉等級 3.3+0.5 3. 3+0.6

表 12 経済性 (円)

販売内訳 緩受内訳試 験 区販売金額(A) 経費(8) 手Ij主主(介B)

枝肉重量枝肉単価売上金額 内線 原皮 素畜焚 飼料費

TMR区(D) 905,742 467 1,808 844,336 16, 175 2, 100 776, 104 615,038 161,066 129,638

分 隊 区 (E) 895,874 480 1, 756 842,880 8,233 2, 100 831, 149 638,400 192, 749 64, 725

差 (D-E) 9,868 一13 52 1,456 7,942 。-55,046 -23,363 -31,683 64,913

※飼料費は、前期配合40円/同、後期配合44内/kg、大豆粕80円/kg、ビール粕14円/kg、チモシ-47円/旬、ワラ40円/kgとして試霧した。

6 経済性

経誇性を表 12に示した。販売した枝肉

重量は TMR区 467kg、分離区 480kgと分

離区が大きかったが、販売金額は、枝肉単

価および内臓販売金額の違いにより TMR

幽 18-

区が 9,868円高かった。素畜費および飼料

費は TMR区がいずれも低く、利益は TMR

区 129ヲ638円、分離区 64,725円となり、 TMR

区が 64,913円高かった。

群馬畜試研報第 15号 (2008)

考察

分離給与方式は濃軍飼料と粗飼料を一定

の割合で摂取させることは難しく、発育や

枝肉成績にバラツキが見られたり、採食に

伴う第一胃内 pHの変動や、濃摩飼料多給

時には第一関内 pHの低下によるアシドー

シス疾病等の問題点が多い。そこで、分離

給与の欠点を改善し肉牛の経営安定に寄与

する技術として期待される TMR給与方式

の普及定着を図るため、 TMR給与と分離

給与が黒毛和種去勢牛の産肉性に及ぼす影

響について検討した。

今回は飼料給与方法による発育および枝

肉成績には惹が見られなかった。これは肥

育全期間の TDN摂取量に差がなかったこ

とによると考える。本試験では両試験区と

も群飼育を行い、自動関関ドアを利用した

個体別給与としたため、分離給与しでも一

定した TDN量が摂取できたと思われる。

このため分離給与方式でも個体管理ができ

れば給与方式の違いによる発育や枝肉成績

に差が見られないことが推測される。しか

し、農家では群管理の中で自動開閉ドアを

利用した個体別給与を行うことは悶難であ

り、 TMR給与方式を取り入れた方が発育

の斉一性、飼料効率の向上および飼養管理

の効率化等のメリットは大きいと患われ

る。

粗館料摂敢量は肥育中期、後期および全

期間で TMR区に比べ分離区で少なかった。

このため、分離区は内臓廃棄が多くなった

と考えられ、健療に牛を餌う手法として

TMR給与は有効であると思われる。濃厚

銅料摂取量は肥育中期のみ差が見られ、分

離区が多かった。今田、分離区は前期の粗

飼料摂取量を高めるため 3カ丹間は濃厚飼

料を制限給与とし、中期以鋒は白血採食と

したため、濃車飼料が自由採食に変わった

中期に摂取量が高まったと考えられる。坂

情 19-

下5) らは黒毛和種去勢牛を用いて分離給与

と TMR給与の比較検討したところ、 12........,

18カ月齢の中期、 18........, 24カ月齢の後期お

よび肥育全期間で分離軍の粗飼料摂取量が

少なかったが、濃厚銅料摂取量に差はなか

ったことを報告しており、粗餌料摂敢量に

ついては本試験と一致していた。濃厚飼料

摂取量の結果が異なった理由は、坂下らは

全期間自由採食としたのに対し、本試験は

前期に制限給与したこと、さらに粗館料の

混合割合が高かったことが考えられる。坂

下らは 12カ丹齢以降は 10%であったのに

対し、本試験では前期 25%、中期 20%、

後期 10%としたため、前期および中期の

組飼料混合割合が高かった。そのため、肥

育中期に TMR区は粗飼料割合の 20%に相

当する稲ワラを摂取できなかったため、分

離区で濃厚飼料摂敢量が多くなったと思わ

れる。しかし、肥育後期には TMR区の粗

飼料割合も 10%と少なくなったため、濃

厚飼料摂取量に差が見られなかった。

第一胃内 pHの推移は TMR区が 6.6........,

6.9であったのに対し、分離区は 6.4........, 6.9

となり平均値のバラツキも多かった。この

ことは、 TMR給与が第一間内発酵の恒常

性を維持することに有効であることを裏付

けている。一方、総 VFA濃度は中期終了

時に分離区で高い値を示したが、これは濃

厚飼料摂取量が多かったことを反映してい

ると考えられる。

岡ら 6) は同一種雄牛産子を用い肥育中期

および後期の粗飼料給与水準を変えた場合

に高粗鋼料区と比べ、低粗餌料区において

胸最長筋の筋肉内脂肪におけるリノール駿

割合が増加すると報告している。一方、坂

下ら7)は、 12........, 24カ月齢に給与する肥育

中後期用 TMR飼料における稲ワラ割合は、

黒毛和種去勢牛の発育、枝肉成績および脂

肪駿組成に影響を及ぼさなかったことを報

告している。本試験では粗飼料摂取量の少

群馬音試研報第 15号 (2008)

なかった分離区でリノーノレ酸割合が 2.7%

と TMR区に比べ 0.6%高い笹を示したが

有意差は見られず、坂下らの結果と同じで

あった。

緒方ら 8)は掲毛和種去勢牛を用い、J 混合

飼料給与と分離給与が肥育成績に及ぼす影

響を検討した結果、 1頭あたりの販売金額

は混合飼料給与区で約 57千円高かったこ

とを報告している。本試験でも TMR区は

販売金額が高く、飼料費が低くなり、利益

も高くなったことから、 TMR給与は経済

性も有利であると考える。

引用文献

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