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テレビCM研究 Vol.1 テレビCM研究プロジェクト・関西アニメーション史研究プロジェクト 2007年度合同研究会報告集 京都精華大学表現研究機構

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テレビCM研究

Vol.1

テレビCM研究プロジェクト・関西アニメーション史研究プロジェクト

2007年度合同研究会報告集

京都精華大学表現研究機構

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テレビCM研究・関西アニメーション史研究の目指すもの

京都精華大学・表現研究機構代表 中尾ハジメ

資本という強力な燃料で駆動されるメディア上の広告や娯楽に食いものにされる

大衆に、コマーシャルこそ抵抗力を与える教材だと考えたマクルーハンが、面白お

かしい『機械の花嫁』を著したのは1951年だった。6年後の1957年、大宅壮一は、

テレビによって日本人は「一億総白痴化」すると警鐘を鳴らす。

そのわずか数年の間に、日本でも、テレビは爆発的に普及しはじめていた。先行

するあらゆるメディアを巻きこみ、呑みこみながら、マクルーハン流にいえば「大

衆一人ひとりの脳をスクリーン」とするテレビは、まさしく第一の総合的な大衆文

化を形成しようとしていた。

あれから半世紀、私たちはテレビを見つづけ、生まれたときからテレビに曝され

つづけた世代が人口の過半を占めるようになった。なるほど生まれたときからであ

れば、コマーシャルへの免疫力がそれなりについていても不思議ではないが、コマ

ーシャルへの燃料投入のほうは抑えられることなく、極度に増大しつづけてきたの

だ。「消費文化」は拡大をつづけ、生産労働を軸とする文化などもはや老人の夢物語

にすぎないのかもしれない。いずれにしても、技術的発展をつづけるテレビは、否

定できない大衆文化の主力媒体としてなお成長し、日本の政治文化風土そのものを

も変貌させた。

電通によれば電波料と制作費を含む民放のテレビ広告費は、広告マーケットをイ

ンターネットに食われはじめたとはいえ、2000年以降約2兆円の規模を維持し、こ

のうち約1割がCM制作費と推定される。日本のテレビ文化を支えているのは、こ

の「広告費」でありコマーシャルなのだ。あたりまえのことだが、この莫大な資金

は、ただ製品購買を増加させるという効果に直結してきたわけではない。なにより

もテレビというメディアそのものを増殖成長させたのである。その意味ではマクル

ーハンの楽観的な予測が的中したかのように、TV番組自体あるいはTVCM自体の

享受、批評、評価という大衆の文化的活動が拡張されてきた。日本特有のコマーシ

ャル文化というアリーナが形成され、優れたCMクリエーターも輩出されてきた。

しかし振りかえってみれば、テレビ番組への参加的な批評を楽しんできた私たち

は、その批評家的自己像を批判的に超えて、この特異な社会文化形成の過程そのも

のを客観的な知的探究の対象としてはこなかった。テレビというメディアのもたら

した私たち自身の文化変容の速度に、自己内省が追いつかなかったという、その意

味では「一億総白痴化」の悲観的な予言通りに、私たちは思考を放棄する存在にな

っていたのである。

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学術研究における思考放棄はとりわけ深刻である。これほどスリリングな社会変

容の現実のただなかに身をおきながら、人文学研究者も社会学研究者も、それを見

極めようとすることはまれであった。コマーシャルは低俗という、研究者階級の後

ろ向きの偏見があったことは否めないだろう。文字どおり試行錯誤と猛烈な働きぶ

りでテレビ・コマーシャルをつくりだした黎明期については、記録も記憶も失われ

つつある。

「クール・ジャパン」文化産業の代表格に祭りあげられるアニメについても、似た

ような事情がある。低迷しかけた経済競争力の回復への特効薬が、アニメを中心と

する「コンテンツ」ビジネスだと考える人もいる。日本のテレビ文化には他のどこ

にも見ることのできない体液が流れており、そのなかで産みだされたテレビ・アニ

メへの共感的な評価が、海を越えた文化マーケットで広がった――という限りでは、

これも早とちりではないかもしれない。が、その産業史はこれまで研究されること

がほとんどなかった。

40年まえアニメーターであれば平均的サラリーマンの倍以上の収入を稼ぐことが

できた。しかし今日、ほとんどのアニメーターが200万円程度の年収しか手にする

ことができない構造は、変えようのないものに映る。CGが使われるようになろう

と労働集約的でないアニメーションの制作現場を想像することはむずかしく、その

雑多で活力あふれたテレビ・アニメ制作の、それこそ自由な労働市場の生成があっ

たからこそ、魅力的なアニメやキャラクターの収穫が可能だった。これがビジネ

ス・モデル以前、マネジメント以前の条件だったのだが、もはや忘れさられようと

している。1960年代前半まで活気を呈していたといわれる関西のアニメーション業

界についても、その包括的な記録資料はやはりまだ作られてはいない。自省思考を

欠いた文化であれば、「クール・ジャパン」も、グローバル市場の激烈な奔流にただ

ただ呑みこまれ、藻屑となるだけであってもしかたがないだろう。

ここに収録されるのは、「テレビCM研究プロジェクト」と「関西アニメーション

史研究プロジェクト」が合同で開催した研究報告の記録である。なによりも記録資

料づくりをメディア時代の大衆文化研究の基盤とし、この激変の時代に生きる私た

ち自身の姿をしっかりと浮き彫りにしていこうとする、京都精華大学の研究プロジ

ェクトが、多くの研究者の関心を集め、さらに深い課題探求への刺激となることを

期待してやまない。

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目次

テレビCM研究・関西アニメーション史研究の目指すもの―中尾ハジメ・・・・・・・・・・2

第1回合同研究会

〈研究報告1〉津堅信之関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8〈補足報告〉大橋雅央研究計画レポート・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

ディスカッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23〈研究報告2〉山田奨治テレビ資料に関する著作権問題について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

ディスカッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

第2回合同研究会

〈研究報告1〉高野光平TCJ作品群にみる初期テレビCMのコンテクスト・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48

ディスカッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62〈研究報告2〉難波功士若者の表象:昭和30年代のCMを中心に・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67

ディスカッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・87

第3回合同研究会

〈研究報告1〉大橋雅央「さがスタジオ」CM作品に見るアニメ作画技法およびカメラワーク・・・・・・・・・・・・・・・・96

ディスカッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・118〈研究報告2〉石田佐恵子データベースのデザインをめぐって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・122

ディスカッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・138

第4回合同研究会(共催:日本マスコミュニケーション学会理論研究部会)

〈CMデータベースの概要報告〉高野光平・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・146〈研究報告〉辻 大介1950~60年代のテレビCMにおける科学・技術の表象分析の試み―テレビCMアーカイブの研究利用の可能性を探る―・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153

ディスカッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・179

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2007年度 テレビCM研究プロジェクト・関西アニメーション史研究プロジェクト

■研究員 ※肩書きは2007年度現在

赤間 亮 (立命館大学先端総合学術研究科教授)石田佐恵子(大阪市立大学大学院文学研究科准教授)大橋雅央 (同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程)小川博司 (関西大学社会学部教授)高野光平 (茨城大学人文学部専任講師)津堅信之 (京都精華大学マンガ学部特任講師)辻 大介 (大阪大学大学院人間科学研究科准教授)難波功士 (関西学院大学社会学部教授)前田庸生 (京都精華大学マンガ学部教授)山田奨治 (国際日本文化研究センター准教授)雪村まゆみ(関西学院大学21世紀COEプログラムリサーチ・アシスタント)

■オブザーバーピヤ・ポンサピタックサンティ (京都大学大学院文学研究科博士課程)牧野圭一 (京都精華大学マンガ学部学部長・教授)松田いりあ(大阪市立大学都市文化研究センター研究員)水島久光 (東海大学文学部准教授)水野由多加(関西大学社会学部教授)梁 仁實 (大阪市立大学都市文化研究センター研究員)山田晴通 (東京経済大学コミュニケーション学部准教授)

桐山吉生 (京都精華大学表現研究機構)井上 康 (京都精華大学表現研究機構)新野 研 (京都精華大学表現研究機構)

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テレビCM研究プロジェクト・関西アニメーション史研究プロジェクト

第1回 合同研究会

2007年5月27日  京都国際マンガミュージアム 研究室

研究報告1 津堅信之

関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の

現状と展望

補足報告 大橋雅央

研究計画レポート

研究報告2 山田奨治

テレビ資料に関する著作権問題について

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8 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

1.調査研究の位置づけと目的

1-1.位置づけ

日本のアニメーション史研究において、「昭和20年代」は大きな空白になっている。

戦時中までの年代は近年急速に進みつつあり、また1956(昭和31)年の東映動画設立以降

も、年代によりばらつきはあるが、従来からの研究実績がある。しかし、その間に位置する昭

和20年代は、主に政府関係の宣伝用アニメーションや、1953(昭和28)年から開始される

テレビ放送用のCMアニメーションが主体であり、現在オリジナル資料がほとんど失われて

いる。また、一見地味に見える作品系譜であることが、研究を遅らせてきた要因ともいえる。

本研究は以上のような現状を受け、昭和20年代に始まる、それも東京圏とは異なる系譜を

もつ関西圏のアニメーション史を明らかにしていくものである。

1-2.目的

①関西アニメーション業界の変遷図と年表を作成し、併せて主要な制作会社とアニメーター、

プロデューサー等のリストを作成する。

②各制作会社の具体的な活動内容を明らかにする。

③現存を確認したセル画や各種文字資料の撮影・スキャン、およびフィルム資料の視聴可能な

媒体への変換作業を実施し、分類・整理のアーカイヴィングを行う。

1-3.主な工程

(1)2006年度

①研究課題の設定(=関西アニメーション総括史、特にスタジオ史)

②予備調査(ヒアリング)の実施による調査対象の概要の把握

③収集文献類のリストアップ

(2)2007~08年度

①存命の関係者へのヒアリングによる情報収集、および残存資料の確認

研究報告1

関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望

津堅信之 Tsugata Nobuyuki

▼レジュメ▼

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研究報告1:津堅信之研究員/関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望 9

②収集された資料の目録作成、およびアーカイヴィング

(3)2009年度

①論文作成

2.2006年度調査結果の概要

2-1.調査実施状況

2006年度の調査実施状況は、表1の通りである。

調査にあたっては、ヒアリング・討議内容をすべて録音し、第2回調査以降は、映像でも記

録を行った。

ヒアリング対象者によって提供された現物資料や新聞・雑誌等の切り抜き資料は、可能な

限り複写を行った。ただし、映像現物資料(フィルム)の複写については検討事項。

以上のほか、研究実施に必要な文献類をリスト化し、収集を進めた。

2-2.把握された事項

前項の調査によって把握された主な事項は、表2の通りである。

実施日時 調査概要 調査対象者

第1回 2006年  9月2日

できるだけ多くの関係者が集まり、昭和20~30年代の状況をヒアリングした。

岡部 望、大井章寛、中邨靖夫、 上野術至、仁紙義晴

第2回 2006年  12月8日

「関西アニメーション史研究」を本格的に立ち上げるにあたり、おおむねの調査方針を討議した。

岡部 望、上野術至

第3回 2007年  2月5日

昭和20~30年代にかけてのプロダクションとアニメーターの相関図作成を開始した。また、当時の現物資料(キャラクター表、セル画など)を持ち寄った。

岡部 望、上野術至、仁紙義晴

第4回 2007年  3月2日

引き続き相関図作成を実施し、現物資料を持ち寄った。

大井章寛、中邨靖夫

第5回 2007年  3月20日

引き続き相関図作成。特に橋本氏によって、これまでに作成した相関図が修正された。また、当時のスタッフが写った写真が多く提供された。

橋本 剛、橋本ゑ里子

表1. 2006年度の調査実施状況

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10 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

2-3.課題

(1)スタジオ史

①昭和30年代の大阪系のスタジオ史はおおむね把握されつつあるが、昭和30年代後半から

40年代にかけての動き(特にテレビアニメ時代に入る昭和38年からの1~2年間)を把握

する必要がある。

②京都系のスタジオ史が把握途上であるため、キーマンといわれる守居三郎へのヒアリング調

把握された主な事項

・関西のアニメーション界の形成と動向については、戦前からマキノ映画でキャメラマンとして仕事をし、戦後に「京都映画社」を立ち上げた木村角山がキーマンになっていること。 ・戦後、関西のアニメーションスタジオは大きく「京都系」と「大阪系」に分割したこと。ちなみに大阪系は、木村角山が大阪に拠点を移したことで形成され、その中心にあったのが大阪映画であること。 ・その後、昭和30年代にかけて、多くのテレビCMアニメが制作されていったが、昭和38年1月のテレビアニメ『鉄腕アトム』放映にはじまるテレビアニメ時代突入に伴い、多くのアニメーターが東京に移籍したため、関西アニメーション界の勢力が東京に吸収されてしまったこと。

表2. 2006年度の調査によって把握された主な事項

第1回

・主に今後のヒアリング方針を討議したが、関係者にヒアリングするにあたり、その仕事のセクションによって発掘できる内容がかなり変わってくる可能性がある。このため、アニメーター系、ディレクター系、プロデューサー系(エージェント)、音響制作系など、セクションごとに分けつつヒアリングしていくことが望ましい。 ・特に、音響制作、現像に従事した人は、スタジオや人物の流れを総括的に把握しているものと思われること。(アニメーターやディレクターは出入りが激しい)

第2回

・この回より、スタジオおよび所属人物の相関図の作成を開始した。 ・戦後の京都映画社にはじまり、昭和32年頃設立の大阪映画、一光社、およびそれらのスタジオからスタッフが集結して成立したOCFが、大阪系の主な流れ。この流れには、木村角山が深く関わった。一光社主宰は坂本一光、大阪映画およびOCF主宰は木村角山だが、いずれも物故者。 ・一方、京都系ではさがスタジオがあり、昭和31年頃設立。主宰は守居三郎氏で健在。ただしキーマンの一人である藤井達朗氏は他界。岡部氏はこの流れに入るが、さがスタジオが閉鎖する昭和40年前後からは、大阪系へ。 ・上野氏により、アニメーターから音響・ラボ関係に至る関係者の名前が明らかにされたが、まずは上野氏、中邨氏、橋本氏らに引き続きインタビューしていく方針が出される。

第3回

・大阪系の大阪映画、OCFにはじまる流れについて、第3回までに作成された相関図に加筆訂正を行った。 ・ただし、大阪系の関係者は京都系の動きを把握しておらず、仕事の系列も全く独立していたらしいことが明らかになってきた。 ・また、この回から、作画時のタップの導入、旧式の角あわせ、使用済みのセルの洗い方など、現在では伝わっていない技術的な話題も聴取できるようになった。

第4回

・橋本氏が、前回までに作成された相関図に大幅に加筆修正し、昭和30年代前半までのスタジオ設立年や人物の動きがおおむね把握された。 ・一光社のスタッフ集合写真(物故者の木下蓮三や、現在推理作家となった内田康夫なども写る)や、木村角山の作業風景写真など、貴重な写真が提供された。 ・橋本氏と夫人のゑ里子氏は、関西アニメーション界最大のキーマンである木村角山に最も近い位置で仕事をしていた人物だが、木村が京都から大阪へ移るまでのことや没年なども把握していないとのこと。

第5回

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研究報告1:津堅信之研究員/関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望 11

査を実施する必要がある。

③会社の登記簿を確認し、スタジオの設立・廃止年月を明らかにする必要がある。

(2)人物史

①スタジオ史に準じて把握していく必要があるが、個人によっては記憶が錯綜しているため、

橋本氏にまとめていただいた相関図を基本としつつ、ヒアリング可能な個人に一人ずつ確認

していく必要がある。

②木村角山の遺族の消息を調査し、戦後の活動歴や生没年を明らかにする必要がある。

③プロデューサー、音響・現像関係の人物へのヒアリングを開始する必要がある。

(3)作品史

①スタジオごと、人物ごとの作品歴のまとめは、まだほとんど手をつけられていないため、

2007年度以降のヒアリングによって明らかにしていく必要がある。

②エージェントを取材することにより、作品史を明らかにする必要がある。

(4)現物資料収集

①2006年度調査においても、キャラクター表やセル画などの現物資料がかなり確認されたが、

これらの整理がまだほとんど成されていない。

②これからも多くの現物資料が集まる可能性があるため、その複写・保存方法について再度確

認しておく必要がある。

3.2007年度の活動計画

主として、ヒアリング未実施の関係者へのヒアリングを継続していく。

(1)2007年度上半期:スタジオ史・人物史研究

①橋本剛氏を再度取材し、現物資料や写真類の複写を行う。

②これまでに把握されたスタジオ史を再整理し、空白年代を明らかにする。(特に京都映画社

から大阪映画に至る昭和21~32年までの約10年間が重要になると思われる。)

③木村角山の消息を調査する。

(2)2007年度下半期:作品史研究の開始

①アニメーターに加え、エージェントや音響制作・キャメラマンなど、これまで調査していな

い人物に対するヒアリングを開始する。

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12 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

▼研究報告▼

津堅と申します、よろしくお願いします。関西アニメーション史研究プロジェクト・テレ

ビCM研究プロジェクトの合同での研究発表ということなんですが、私はテレビCM研究プ

ロジェクトから派生した関西アニメーション史研究プロジェクトのほうの代表研究者という形

で昨年末から参加をさせていただいております。それで、今年度から3年間、取材を続け、材

料を集めて研究し、最終的に数本の論文、学術書に仕上げるという形で考えております。既に

昨年度から部分的に関西の、特に昭和20年代~30年代にアニメーターとして活動されてい

る方々へのヒアリング調査を始めておりまして、今日はその結果をかいつまんでご報告申し上

げます。それととともに、この関西アニメーション史研究プロジェクトは最終的にはいくつか

の研究課題に分かれていくと思われますので、これから順次、それぞれのご専門の立場から研

究課題、最終的に論文等に仕上げる態勢を決めていければと思うんですが、そうした中で、私

自身がまとめようとしております内容に沿って現状と展望という報告になればと考えておりま

す。

お手許のレジュメの内「関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望」と

タイトル書きしたものをご覧ください。合計4枚です。それでは順番にご説明申し上げます。

〈調査研究の位置づけと目的〉

まず位置づけですが、「日本のアニメーション史研究において、『昭和20年代』は大きな空

白になっている。/戦時中までの年代は近年急速に進みつつ」あり、「また1956(昭和31)

年の東映動画設立以降も、年代によりばらつきは」あるんですが、「従来からの研究実績」は

あります。「しかし、その間に位置する昭和20年代」はほぼ誰も手をつけていないに等しい年

代です。この時期においては、「主に政府関係の宣伝用アニメーション」、例えば消防署が制作

する防犯のための啓発用のアニメーションであるとか、また、昭和28年からテレビジョン放

送が始まりますのでそのCM用アニメーションが制作されているという事実関係は若干わか

っております。しかしそれぐらいしかわかっておりません。しかもフィルム等の現物資料、オ

リジナル資料がどんどん失われていっている時代でもあります。さらに言えば、CM、宣伝ア

ニメーションというとやはり、華やかな劇場用アニメとかテレビアニメに比べると地味な題材

と見られがちで、そういったことも研究を遅らせてきた要因なのかなというふうに思います。

実は昭和20年代の中で唯一、比較的調べられているのが、東京で1947年に立ち上がる日動

映画社という映画スタジオです。ここに関する流れは比較的わかっています。なぜかと言うと、

この日動映画が、ここに書きました東映動画設立の母体になるという事情があるため、東映動

画系列についてはわかっているのです。しかし、それ以外はほとんど調べられていないという

現状に変わりありません。以上のような現状を受けまして、「昭和20年代に始まる、それも」、

後でお話ししますが「東京圏とは異なる系列をもつ関西圏のアニメーション史を明らかにして

いく」というところが、この研究の位置づけになります。

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研究報告1:津堅信之研究員/関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望 13

それを受けまして目的を申しますと、「関西アニメーション業界の変遷図と年表を作成」す

ることをまず基本的なことと考えています。これは「併せて主要な制作会社とアニメーター、

プロデューサー等のリストを作成する」ことにもなります。そして2番目に、そこで明らかに

された「各制作会社の具体的な活動内容」、つまり各制作会社の制作した作品とか、所属アニ

メーター、そういったものを明らかにしていきます。3番目に、そういったことを調査してい

く中で当然関係者にヒアリングしていくことになりますので、「セル画や各種文字資料」が出

てくると思われます。そういったものを出来る限り「視聴可能な媒体への変換作業」を行い、

「分類・整理のアーカイヴィング」の作業につなげていく、以上の3点を主に目的として掲げ

ております。

今後の工程について申し上げます。先述のとおり、昨年の2006年度は既に部分的に研究を

進めております。「①研究課題の設定」に「関西アニメーション総括史、特にスタジオ史」と

しておりますが、これは私自身が進めようと思っている課題です。これが恐らくすべての研究

の出発点になると思われます。このスタジオ史、人物史、作品史等が明らかになる中で、そこ

から派生していろいろな研究が出てくると考えております。「②予備調査」としての「ヒアリ

ング」、それと「③収集文献等のリストアップ」も部分的に進めております。

今年度~2008年度は、①の取材を引き続き行いまして、「②収集された資料の目録作成、

およびアーカイヴィング」の作業も進めていくというのが主な作業内容になると思います。

最終的に3年目の2009年度に「論文作成」をします。これがいくつの研究課題になるかと

いうところを適宜決めていければというふうに考えております。

〈2006年度調査結果の概要〉

続きましてレジュメの2枚目です。その内、昨年度に実施した結果をかいつまんでご報告し

ます。既に皆さんのお手許にDVDにコピーされた資料が届いているかと思いますが、我なが

ら読むのもいやになる量のヒアリング結果でして、あれを文字で起こした方は尊敬し得るよう

なものすごい量です。あれを今回もう一回読み、まとめたものです。2006年度9月に一度、

準備会を顔合わせのような形でやりまして、12月以降はほぼ1ヶ月に1回のピッチでヒアリ

ングしました。

まず1回目は昨年の9月2日。できるだけ多くの関係者が集まった座談会という形にしても

らい、昭和20年~30年代のいろいろとたくさんの話題をヒアリングしました。関係者として

は岡部望さん以下、大井章寛さん、中邨靖夫さん、上野術至さん、仁紙義晴さんという方々に

集まっていただきました。続きまして2回目は、去年の12月に実施されたものです。これが

CM研から派生して関西アニメーション史研究というものが本格的に立ち上がってきたタイミ

ングに当たります。実はこの時が、私が最初に、いわゆる当時のアニメーターの方々の話を聞

く場になりました。最初の顔合わせですので、私がどういった研究をしていこうかということ

を、岡部さんと上野さんにご相談申し上げたというふうな側面が強かった会になります。3回

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14 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

目は今年に入った2月5日です。この時初めて、実質的な調査作業が開始された形になります。

つまり昭和20~30年代にかけてのプロダクションとアニメーターの相関図、つまりいつどう

いうプロダクションができて、そこに誰が所属して、そこから誰が辞めて、新しいプロダクシ

ョンを立ち上げたのか、そういう相関図です。模造紙を用意して、そこに集まっていただいた

お三方にそれを書いていただくというところから始めたわけです。4回目の3月2日は、ほと

んどメンバーが代わりまして、引き続き相関図の作成と現物資料の持ち寄りを行いました。3

~4回目には現物資料が結構出てきました。フィルムがなさそうなのが残念なんですけれども、

キャラクター表とか、セル画も一部出てきています。どれも珍しいものですので、具体的にど

の作品のどのキャラクターかということの整理をぜひ今後やっていきたいと考えております。

5回目は3月の終わりに実施しました。橋本剛・ゑ里子ご夫妻のご自宅に伺ってヒアリングし

たんですが、橋本さんは相関図で表した内容をよく記憶されていらっしゃる方で、それまで作

ってきたものに全面的な朱を入れてくださいました。昭和30年前後に関西でプロダクション

が立ち上がっているんですが、その前後の立ち上げのタイミングと所属した人の動きの全貌を

ほぼ把握できたという結果になりました。しかも私が個人的にぜひ欲しいと思っていたものに、

当時の作業風景の写真ですとかスタッフがたくさん写っている写真なんかがありますが、これ

を橋本さんはたくさん持っていらっしゃいました。例えば昭和30何年に何々スタジオができて、

その時のメンバーだということを具体的に把握する基礎資料になってくるかと思われます。

以上のように5回の調査を行いました。レジュメ2枚目の下に補足事項がございますが、ヒ

アリングはすべて録音して、先ほど申しましたようにすでにお届けできているかと思いますが、

膨大な記録が出来上がっております。2回目以降は映像でも記録をしております。「ヒアリン

グ対象者から提供された資料」それから「新聞・雑誌の切り抜き」はものすごい分厚いスクラ

ップブックがありまして、これらの資料のスキャニングも進めています。また、フィルムのデ

ジタル化も進めていく形になると思います。

先ほど「目的」と「工程」の中で申し上げましたように、文献類については、最初、研究

に着手する時、この文献は必要だろうと思うもののリスト化は始めていますが、進んでいない

ところがありますので、これも作業を進めながら継続していく必要があるかと思います。部分

的には「リスト化し収集を進めた」という形になっております。

レジュメの3枚目をご覧ください。今お話ししました1~5回目までの調査によって「把握

された事項」をまとめました。順に読み上げます。1回目「関西のアニメーション界の形成と

動向については、戦前からマキノ映画でキャメラマンとして仕事をし、戦後に『京都映画社』

を立ち上げた木村角山がキーマンになっていること」、それからそういう形で「戦後、関西の

アニメーションスタジオ」が立ち上がるんですが、大きく「京都系」と「大阪系」に分割され

ることが見えてきたかと思います。因みに「大阪系」の方について言いますと、木村角山は

元々京都映画社にいたんですが、大阪に拠点を移し、そこで設立されたのが「大阪映画株式会

社」というスタジオであったということです。「その後、昭和30年代にかけて、多くのテレビ

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研究報告1:津堅信之研究員/関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望 15

CMアニメが制作されていった」んですが、「昭和38年1月のテレビアニメ『鉄腕アトム』放

映にはじまるテレビアニメ時代突入」にともなって、「多くのアニメーターが東京に移籍」し

てしまったということがあります。これによって「関西アニメーション界の勢力が東京に吸収

されてしまった」ということです。東京に行ってしまったのは誰と誰かというような話も出て

きたかと思います。

2回目は、先ほど申しましたように私が参加して、今後どういうふうに調査していくかとい

うアドバイスを岡部さんと上野さんに受けたという形でした。そこで出てきた話は、たくさん

の関係者からヒアリングするにあたり、仕事のセクションによって発掘できる内容がかなり違

ってくるだろうということです。これは当然のことだと思います。つまりアニメーター、ディ

レクター、プロデューサー、代理店の人たち、さらには音響制作、現像、プリントに立ち会っ

ていた人たち、こういった人たちをセクションごとに分けつつヒアリングしていく必要がある

だろうと思われます。つまりこういう聴き取り調査の場合は、アニメーターとディレクターに

関する取材は非常に優先されますし、現実に作品を作った方々ですから重要なんです。そこで

得られた内容で年表ができたとします。しかし、それとは別にプロデューサーとか音響制作、

つまりメディア系の人からも必ずヒアリングして事実関係を補足、修正していくという作業を

やっていく必要があるだろうということです。その理由は、音響や現像に従事した人は、その

会社に長年在籍している人が多いため、スタジオや人物の流れを総括的に把握していると思わ

れるからです。アニメーターやディレクターは3ヵ月や1年でどんどん辞めて、あっちのスタ

ジオ、こっちのスタジオに行っているということが、実際に5回のヒアリングをやってよくわ

かりました。アニメーターは行った先々で仕事にかかりっきりになりますから、自分が出てい

った後にスタジオがどうなったのか、ちっともわからないということもけっこうあります。し

かもそれから30~40年経っているということになりますと、忘れてしまうのはごく当たり

前のことだと思われます。ただ、音響とか現像に携わっている人は割と長くその場で仕事をし

ているのです。例えば、アニメーターがいる制作スタジオから、音響スタジオや撮影スタジオ

に材料を持っていって、そこからさらにサウンドトラックをとるために音響スタジオに行って、

さらにそれを現像プリントするためにラボに行くというような形で、言葉は悪いんですが「運

び屋さん」のような仕事をしている立場であります。その人達はそれぞれのセクションの流れ

にも精通しているだろうと思われます。岡部さん、上野さんともにおっしゃっていたんですが、

ぜひ音響、現像、撮影の関係の人たちにも調査をしたほうがいいだろうということが提言とし

て出されました。

続いて3回目です。この時からスタジオの所属人物の相関図の作成を始めました。参加いた

だいたのは、先ほど言いました京都系・大阪系に分けると京都系の岡部望さんなので、そちら

の内容が多かったように思います。まず戦後の京都映画社にはじまります。大阪系では、昭和

32年頃設立の大阪映画。それと一光社及びそれらのスタジオからスタッフが集結してOCFと

いう会社ができます。これが大阪のほうの主な流れになります。この流れに木村角山という人

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16 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

が深く関わったということです。一光社を主宰したのが坂本一光という東京から来た人ですが、

大阪映画、OCFは木村角山です。いずれも他界しておりますので、設立時の背景や細かいこ

とは現状では追跡しにくい可能性があります。大阪映画以降の流れについては、この時ヒアリ

ングさせていただいた上野術至さんからは、大井章寛さん、橋本剛さんの二人が把握している

だろうということが報告されました。一方で、京都系ではさがスタジオが昭和31年に設立さ

れています。ここを主宰していたのが守居三郎さんという方で、これがキーマンであるという

ことです。ただ、もう一人のキーマンである藤井達朗さん(さがスタジオ→博報堂)は他界し

ておられます。3回目に来ていただいた岡部さんはこの流れに入っているんですけれども、さ

がスタジオが昭和40年前後に閉鎖されますので、それ以後は岡部さんのグループも大阪に移

動していっている形になったと思います。また、上野さんから、アニメーター、音響、ラボ関

係まで数十人の関係者の名前を教えていただきましたが、どなたから話を聞いていったらいい

のかがわからない状況でして、まずは正攻法でアニメーターの方々に引き続きインタビューし

ていくという方針が出されました。

続いて4回目です。メンバーが代わりまして、大阪映画とOCFに所属していた大井章寛さ

んと中邨靖夫さんです。特に大井さんは(大阪映画の)立ち上げ時期近くに関わったと聞いて

いたので、このお二人に来ていただいて相関図の加筆・修正を継続して行いました。大阪で最

初から仕事をしていた方々にお話を伺っていて印象的だったのは、京都の方の動きをまったく

知らないということです。業態によってぜんぜん違うと思うんですけれども、アニメだと、京

都と大阪はほとんど同じかと私は思っていたんです。けれども、まったく別だったらしくて、

これは恐らく双方のエージェントが全然別だったんだろうと思われます。だからお互いに交流

がなかったんだろうと。このあたりも具体的に調査していくと、どういう系列だったのかとい

うことがさらに明らかになっていくだろうと思われます。この回からは、作画時の細かい技術

的なもの、道具的なものについてもお話を伺うことを個人的にしました。例えば作画する時に

必須の「タップ」はいつ導入したのか。ご存知の方もいるかと思いますが、日本では「タップ」

を導入する前は「角合わせ」という独特の技術を使っていました。これはつまり、角に原画用

紙を全部重ねて、それで位置を合わせて作画をしていくというスタイルです。「タップ」は紙

に穴が開いていてそこに差し込んでいって作画をするという方法です。これはすでに戦前にデ

ィズニーのスタジオが発明していたんですが、日本ではなぜかそれが嫌われて、戦前から戦後

しばらくにかけては「角合わせ」という独特の手法を使っていました。それは知識としては私

も知っていたんですが、「角合わせ」の作画道具がそもそもどういうものかというと、写真も

まったくないんですよね。それで、どういうものだったんだろうとこの時に聞いてみました。

すると、大井さんも中邨さんも、最初は「角合わせ」だったということで、それの形状につい

ても具体的にお話を聞くことができました。また、当時はセルそのものがたいへん貴重でした

ので、1回使うとセルの絵の具を洗い流して、乾かしてもう1回使うということをやられてい

たそうです。これも話としては私も知っていたんですが、実際にどういうふうに洗って乾かす

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研究報告1:津堅信之研究員/関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望 17

のかということはわからなかったわけで、これも聞きました。最初にサラッピンで使ったセル

をお湯で流して1回洗うと、四隅の一つの隅を少し切るそうなんです。それで1回使ったとい

う印になります。それを乾かしてまた使います。4回使うと、4回使ったセルだというのが一

目瞭然にわかるように、4隅が切れることになります。4回使うと、もう傷が入ってさすがに

使えません。こういう話もまったく伝わっていませんでした。だから20年代~30年代を調

査するということは、アニメーションの作画制作技術が近代化していく途上に当たりますので、

細かい内容も、実際にそういう作業をやっていた方々がお元気な間にたくさん記録しておきた

いというふうに考えたわけです。

最後に5回目は、橋本剛さん、ゑ里子さんご夫妻にお話を伺いに行きました。と、言いまの

すも、2~3回目のヒアリングで、橋本さんが大阪のスタジオの動きをよく知ってらっしゃる

だろうということをうかがっていたからなんです。しかも期待以上によく把握してらっしゃっ

て、4回目までに作っていた相関図を大幅に書き直していただいた形になりました。一光社で

のスタッフの集合写真とか、写真資料もたくさんお持ちでした。既に他界した木下蓮三さんで

すとか、いま超売れっ子の推理作家で浅見光彦シリーズで有名な内田康夫も一光社に所属して

いたので、一緒に写っている写真がありました。初めて見たのですが、木村角山が作業してい

る風景もありました。木村角山については、戦前のマキノ映画で撮影キャメラマンをしている

写真は何枚か見たことがあるんですけれども、戦後大阪で仕事をしている写真を見たのは初め

てです。橋本さんはアニメ史的に見て非常に貴重な写真をお持ちで、びっくりしました。冒頭

に申しましたように、木村角山という人がキーマンになるのは間違いありません。しかも橋本

ご夫妻は関西のアニメ界が立ち上がった時に木村角山さんに一番近いところで仕事をなさって

いた方です。見せていただいた写真には、木村さんと橋本夫人のゑ里子さんが二人で並んでい

るものなどもあります。しかし、木村角山はご自分のことを話さない人だったらしくて、京都

から大阪に移ってからどうしたとか、いつ亡くなられたのかというのも現状では情報として伝

えられていないということがわかりました。このあたりが今後の課題になってくると思います。

以上が1~5回目までの調査結果の内容です。

〈今後の課題〉

次に課題です。今申し上げた中でも課題に関してもかなりお話ししたんですが、課題として

はまず、「(1)スタジオ史」を把握するにあたって、昭和30年代の大阪系のスタジオ史は大分

わかりつつありますが、その後半から40年代にかけて、さらにスタジオが細分化していき、

しかも「アトム」のおかげで東京にかなり人が引き抜かれたので、このあたりの細かい状況ま

で把握しきれていません。これを把握していく必要があると思います。それから、京都系のス

タジオ史の把握途上でありますので、先ほど事務局と話したのですが、守居三郎さんへのヒアリ

ング調査をこれからやっていく予定でおります[2007年7月25日に実施]。株式会社や有限会社

等として法人登録しているかという問題はあるんですけれども、スタジオ史の調査では登記簿を

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18 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

確認して具体的なプロフィールを把握していくということも必要だろうと考えております。

「(2)人物史」。これはスタジオ史に準じてまとめていく形になります。個人によっては記

憶が錯綜しておりますので、一番しっかりまとめていただいた橋本さんの人物移動図を基本と

して、ヒアリング可能な個人に一人ずつ確認していきたいと考えております。私が一番重要と

考えている木村角山にはお子さんがいらっしゃらないということで、直接のご遺族がない可能

性が高いんですが、周辺関係・縁者等の消息を調査して、生没年、特に戦後の活動歴を明らか

にしていきたいと考えます。また、プロデューサー、音響・現像関係の人たちに関しては昨年

度のうちはまったくお話が聞けておりませんので、これも始めていく必要があるだろうと思い

ます。

「(3)作品史」です。スタジオ史、人物史を調査する中で、どこのスタジオが作った作品は

何なのか、この人が作った作品は何なのかということが明らかになってくるわけです。ただ、

こちらの方はまだ手をつけられておりません。誰が「ロボタン」を作ったとか、誰が「カネテ

ツ」を作ったとかという断片的なお話はあるんですけれども、断片的なことに留まっておりま

して、作品目録に関してはまだほとんどやられていない状況です。これは今年度ヒアリングを

する中で集中的に行なうタイミングが必要だろうと考えています。「作品史」に関しては、発

注元の代理店、エージェント関係を取材するということが早道かなとも考えています。エージ

ェントによっては昔の資料がどのくらい残っているのかさまざまでしょうし、エージェントの

組合・連合のようなところが作品史を捕捉しているのかという疑問はあるんですけれども、そ

ちらの方向からも詰めていくという流れもあるかと思います。

さらに「(4)現物資料収集」です。既にキャラ表やセル画もかなり確認しておりますので、

これをスキャンする作業は終わっているんですが、分類・整理作業はまだです。端的に言うと、

「このキャラクターは何の作品の何というキャラクターなのか」もわかっていないのが実はほ

とんどです。収集する一方で、そういったことをやっていく必要があるだろうと考えておりま

す。

最後に今年度の活動計画について申し上げます。二期に分けて考えていて、まず上半期は、

スタジオ史と人物史を引き続きやっていきたいと考えております。細かな話になりますが橋本

剛さん所蔵の写真・現物資料等をまだ複写できておりませんので、近日中に複写することにし

ております。それと、これまでに把握できたスタジオ史はかなりたまってきている部分があり

ますので、もう一回整理して、次にどなたかに話を聞きに行く時には、どこを具体的に聞かな

きゃならないのかということをもう一回整理しておきたいと考えております。そして、木村角

山の消息を調査するということがあります。

また、作品史の研究を始めなければならないので、アニメーターに加えて、エージェント、

音響、キャメラマン関係を取材していくということを、ぜひ下半期の間に始めたいと思います。

今年度中にどこまで辿り着けるかわからないですが、計画としてはエージェント、つまりアニ

メーター、ディレクター以外に取材を開始するということでございます。

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研究報告1:津堅信之研究員/関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望 19

〈補足報告〉 大橋雅央研究員

関西アニメーション史研究プロジェクト研究計画レポート

(1) 3年間の研究テーマ

本研究プロジェクトにおける私の主たる研究テーマは私自身がアニメーションの実制作者

であるという経験を活かして「1950年代から60年代にかけての関西におけるアニメーショ

ン制作体制と制作システムの考察」とし、以下の点についての調査研究を進めてゆきたいと考

えております。

①1950年代~60年代の関西におけるアニメーション制作について。

→どれくらいの数のアニメーション作品が関西において作成されていたのか。また、どのよ

うな作品が、どのような技術によってつくられているのか。

②当時の関西アニメーション産業の産業構造の解明、整理。

→アニメーション制作システム、取引関係、構成人員、クライアント、制作費など

③当時の東京と関西のアニメーション産業比較。

→この後、日本で商業的なアニメーション制作を行なう地域がほぼ東京のみとなってゆく状

況について関西のアニメーション産業史を通して分析をおこなう。

④関西アニメーション産業の現状分析。

→近年の関西アニメーション産業の現状について。

(2) 2007年度研究活動計画

・①に関して、1950年代から60年代の「在関西制作会社」の手による作品群の整理。

→先行研究資料や視聴可能なアーカイブから作品リストを作成する。

・①、②について当時の制作者への聴き取り調査の実施。

→関西アニメーション作品の整理、制作体制などについて。

・①、②、③についてアニメーション研究者への聴き取りの実施。

→研究の客観性、渡辺泰氏など在関西の研究者への聴き取り。

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20 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

▼補足報告▼

今回から参加させていただくことになりました同志社大学の大橋です。現在、同志社大学

の大学院に所属しています。元々は東京でアニメーターをやっていまして、今も東京の「オ

ー・プロダクション」という下請けの作画専門の会社に在籍しております。その傍ら大阪のア

ニメの専門学校で教えています。今回、先ほどお話がありました雪村まゆみさんにご紹介いた

だきまして、こちらの研究会に参加させていただくことになりました。大学院ではアニメーシ

ョン関連の研究を進めています。主にアニメーターという労働者・制作者の立場の向上という

ことに主眼をおいて、これまで3年間研究をしてきました。アニメの歴史に関しては、個人的

に自分の研究の必要上、補完的にざっと洗ったことがあるくらいで、ほとんど素人です。関西

のアニメーションの歴史研究というものに関して今回お話をいただいて、興味があったので参

加させていただきます。それに際して、事前に、統括室からご連絡をいただいて、3年間の研

究テーマ、あるいは今年度の活動計画というものを挙げてほしいということでしたので、私な

りに知恵をふりしぼって書いたものが「関西アニメーション史研究プロジェクト研究計画レポ

ート」です。特に「これ」というものをご指定いただいたわけではなかったので、好きに書か

せていただきました。本研究プロジェクトにおける私の研究テーマというか研究したいと思っ

ているのは、やはり私自身がアニメーションの実制作の現場にいる人間ですのでその経験を踏

まえて、1950~60年代の関西におけるアニメーション制作状況・制作システムの考察がで

きればと考えています。そのテーマについて以下の点について研究を進めていければと思って

います。

〈3年間の研究テーマ〉

まず1点目が「1950年代から60年代の関西におけるアニメーション制作について」。これ

はまったく存じ上げなかったんですけれども、今回ヒアリングの結果を読ませていただいて、

「ヤン坊マー坊」が大阪制作であったと初めて知ったんです。「カネテツ」のCMもそうです。

どれくらいの数のアニメーション作品が関西で制作されていたのか、また、先ほど出てきた

「角合わせ」も聞いたことがあったんですけれど、どんなふうにやっていたのかまったく知ら

なかったので、どのような作品がどのような技術によって作られていたのかということをまず

把握したいです。

2点目が「当時の関西アニメーション産業の産業構造の解明、整理」。これはいまだに東京

の方もかなりアニメ仕事の取引関係が混沌としていて、非常にカオスな闇の部分がいろいろあ

るんです。「アニメーション制作システム、取引関係」とは、どこから発注されて、それをど

こで受けてどのように作業したかということです。「構成人員」は、どういう方々がおられた

のか、関西のアニメーション産業に何人ぐらいの人がいたのか。「クライアント」は、どうい

った企業、あるいは団体が発注してそのアニメーション制作がなされていたのか。「制作費」、

これは個人的に非常に興味をもっていることなんですけれども、ヒアリングの中でCMのア

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研究報告1:津堅信之研究員/関西アニメーション史(昭和20~30年代)研究の現状と展望 21

ニメーションを関西で受けて作ると食べていけたという発言があったんですが、それはCM1

本だいたいいくらで発注されていて、年間どれくらいの仕事があったのかということに興味を

もっています。というのは今東京でアニメーターをやっていても、実質的には食べていけない

状況だからです。ほとんどの人が年収150万、200万円という程度の収入が現状ですので、

そのへんに非常に興味があります。

3点目「当時の東京と関西のアニメーション産業比較」。先ほどお話にも出たように、「アト

ム」にはじまってアニメーション制作を行う中心が東京です。最近関西でも制作会社的な企業

が出てきましたけれども、その東京の状況において関西アニメーション産業史を通して分析を

行う――、どのように衰退していったか、どのような人が抜けて会社が潰れていったかについ

てです。

4点目が「関西アニメーション産業の現状分析」。60年代、70年代のはじめあたりから現在

に至るまでの流れ、現状分析できればと思っています。京都、大阪で10社程度が、東京のア

ニメの元請会社から仕事を受けるかたちでテレビアニメや劇場アニメの制作に関わっていた

り、また教育映画を作っている会社があったりするんですけれども、60年代からそういうと

ころに至る流れというのは完全に断絶してしまっているのか、あるいは連続性があるのかとい

うところを見ていきたいと思っています。

〈2007年度研究活動計画〉

次に、今年度どういった研究活動をやっていきたいかということをお話しします。代理店

に関してですが、1950~60年代の「在関西制作会社」の手による作品群の整理をしていき

たいと思います。先行研究資料や現在保存されている視聴可能なアーカイブから作品リストを

作っていく必要があると考えます。レジュメの「①1950~60年代関西アニメ制作について」、

「②当時の関西アニメ産業構造の解明・整理」について当時の制作者への聞き取り調査の実施。

これは、もうプロジェクト全体としてやられていると思いますけれども、その中でも関西アニ

メーション作品の整理、制作体制などについて聞ければいいなと考えます。主に②についてで

きればというふうに思います。最後に、レジュメの①、②、および「③当時の東京と関西のア

ニメ産業比較」について、在関西のアニメーション研究者が何人かおられるようですので、そ

ういった方々に聞き取りに行ければと思っています。私自身もアニメーターなので、よくわか

るのですが、アニメーターの記憶というのは曖昧なところがあります。確かじゃないところを

断言してしまうというところがあるのですが、うちの社長なんかもそうでして、再度確認して

みると少々話しが違っていたりすることもあります。研究の客観性を得るというところで、ア

ニメーション研究者という方に、正しいのかどうかという確認をとっていく必要があるかと思

います。アニメーターよりも意外と研究者のほうが興味をもっているようで、産業アニメーシ

ョンという分野を見ている人間のほうが全体を大掴みしていることが多いです。例えばアニメ

ファンのほうが大量のアニメ作品を見ています。どの作品がどの会社で作られて、人気があっ

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22 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

たとか人気がなかったとかということを把握しているのは、むしろファンや研究者のほうで、

アニメーターというのは自分で描いてしんどい思いをしているので、放映しているアニメなん

か見たくないというところがあるのです。関西では有名なところですと渡辺泰さんとか萩田健

司さんという方がおられるので、住所や電話番号は事前に調べています。これはなくなってし

まったらしいですけれども、HAG、阪神アニメーショングループというのが……。

津堅 現在の活動がどのようになっているのかはわかりません。

大橋 そういうのがあったらしいです。それはどうも制作者というよりもファンの集いらしく

て、その萩田さんが中心メンバーで、この渡辺さんの弟子すじのような感じの方という話です。

このあたりにも聞き取りに行きたいと考えます。2007年はもりだくさんなので、できるかど

うかわからないですけれども。こういう流れでやっていければと考えています。主に津堅先生

とご一緒に活動することになると思うんですが、作品史、スタジオ史、はそういったところで

いいでしょうか。プロジェクトとしての完成はどのように……。

津堅 テーマ分けするなかで分担していければと思います。産業構造関係は多分私はやらない

ので、そちらは主体的に進めていただければと思います。

大橋 先ほど津堅先生におっしゃっていただいたように、作品史、スタジオ史、人物史、現物

資料の収集とあります。私の書いてきたものは結構あるんですけれども、主に産業構造、産業

史というものになっていますので、そういったものを入れてしまっていいのかどうか。プロジ

ェクトとしての完成というか、最初にテーマが提示されていると思うのですが……。

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ディスカッション 23

ディスカッション

牧野 相関図の中にある毎日放送映画の一

番上の「島充」はいま私の相棒として活動

している人です。いまご自宅で島が記憶し

ている相関図を書いてくれています。時間

が間に合えばここにFAXで送ってくること

になっています。島さんは「ヤン坊マー坊」

をずっとやってました。橋本さんも確かそ

うなんじゃないかなと思うんですが。その

へんで、網の目のようにつながってくると

いう感じですかね。

井上 「ヤン坊マー坊」は中邨さんが今も

やられている……。

牧野 それが相棒だったらしいですね。東

京に行って。あれが一番の長寿CMです。

辻 調査の第3回のところで、京都系の藤

井達朗さんという名前が出てくるんですが、

この方は博報堂のCMディレクターです

か?

津堅 そうです。藤井さんは京都のさがス

タジオで仕事を始められて、博報堂に移ら

れた方だと思います。

難波 こういうアニメスタジオに仕事を発

注していたのは、代理店ではなくCMプロ

ダクションですか?

津堅 そのあたり、量的にどうなのかとい

うのはわからないんです。けれども、だい

たいは代理店だったようなことは聞いてい

ます。

難波 関西にそういうCMプロダクション

はあまりなかったからでしょうか?

津堅 どうなんでしょうか。電通とかの仕

事でどうのこうのと、断片的には出てきて

いるんですけれども、そのあたりは量的に、

割合的にどの程度のものかというのは聞け

ていない状況です。

難波 代理店から直接アニメーターに発注

が行くのか……。

牧野 ということも、たくさんあったよう

です。かなり当時としては大きなお金が動

きますので、代理店を通すと代理店マージ

ンがおちるということで、いろんな形が錯

綜していたようですね。かなり乱暴な話が

たくさんあります。

難波 じゃあ、企業の宣伝部からいきなり

アニメーターに……。

牧野 その人がマージンとってしまうとか。

そういうような時代がありましたから。

辻 東京制作より大阪制作の上の年輩の方

は映画関係が多かったので、そういうコネ

クションでダイレクトに発注というのはあ

ったんじゃないですかね。

難波 その時のCMプロダクションの動き

もまた誰も把握していなくて……。

牧野 企業に残っていない場合は、担当者

がアニメーターに直接頼んで、それで流し

て消費されてしまったみたいなものが相当

あります。私自身がそういうものに携わっ

ていましたから、アニメーターとして。

津堅 今も話に出ましたけれども、アニメ

ーターとかディレクターにヒアリングして

ますよね。その方々に直接話があったとい

う事例の場合は、プロダクションとかエー

ジェントとかと関係があると思うんです。

けれども、そうじゃない場合はスタジオの

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24 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

経営者とか、という形になると思うんです

ね。

桐山 じゃあ、営業マンとかにですか。

津堅 そうですね。制作系、事務系の方た

ちに聞いていくと。あとはダイレクトにプ

ロダクションとかエージェントに話をして

いくという形になりますから、多分それを

調べるための調査をある程度固めていくこ

とをしないと難しいのかな。これまでわず

か半年なんですけれども、断片的にやって

いると、作品関係がどうなっているかさえ

わからないんです。それで、集中的にやっ

ていく必要があるのかなと思います。

石田 津堅先生の御報告、すごくわかりや

すいお話でした。膨大な資料が頭に入って

いるので、わかりやすい発言をされるんだ

なと感心していました。京都系と大阪系に

全然関係がないということが発見されたと

いうお話しでしたね。

津堅 関係ないという結論は出せていない

んです。けれども、例えば京都にいた岡部

望さんは大阪の動きがあまりわからないと

か、大阪にずっといた大井章寛さんとか上

野術至さんは京都のことはどうなっている

かわからない、そういう形みたいなんです。

当然作品のやりとりもなかったみたいです。

石田 これから先の聞き取り調査は、京都

の方を先にやるとか、大阪の方をやるとか、

ということではなくて大枠的に実施される

ご予定ですか?

津堅 それで言いますと、京都のほうが多

分すぐに終わると思うんです、少ないです

から。京都にさがスタジオができたのは、

さっき言いましたように昭和32年ぐらいな

んですが、木村角山さんという人がその10

年前に、戦後すぐに京都でスタジオを作っ

たんです。その間がまったく空白なんです。

どなたに聞いても空白で、昭和30年代にな

って忽然と木村さんが大阪に移ってこられ

て、そこでスタジオを立ち上げた。そこか

ら先のことは皆さん記憶しているんですけ

れども。京都系は数は少ないんですが、大

きな空白期間があるので、そこをやってい

くということになると思うんです。

桐山 津堅先生。ただ、木村角山先生につ

いて申し上げれば、ヒアリングの中で、当

時木村先生は京都に居を構えてらっしゃっ

たんですね。最後のほうまで京都なんです

が。電通の方々とかが、いわゆる撮影を木

村先生のところに依頼をされていた、とい

うことを考えると、かなりそのへんで、大

手の広告代理店とかから仕事が下りていて

……。それは一光社に入る前の話ですね、

そのへんに糸口はないですか?

津堅 あるように思います。例えば橋本剛

さんがおっしゃっていたのは、京都のあの

辺に家があって、カメラがあったという話

なんですけれども、正確な住所がまだわか

っていないんですね。ただ発注関係を調べ

ていくと正確な住所がわかると思いますの

で、そこらへんがきっかけになっていくと

思います。昔の人は知り合い同士で土地の

やりとりなんかをするので、土地の登記簿

をあたるとわかる場合もあるんです。けれ

ども借家だったらどうしようもないし、そ

れはやってみないとわからないという感じ

ですね。以前、別の研究で登記簿を調べた

ことがあるんですけれども、その時は非常

に運が良く、遺族に辿り着けたことがある

んですけれども、今回どうなるかわからな

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ディスカッション 25

いです。

山田 ご存知だったら教えてほしいんです

けれども、一光社のフィルムはどこにいっ

たんですか。会社はもうないのですね?

津堅 ないですね、会社は。

山田 CMをたくさん作ってきたんでしよ

うけれども、どこに行ったんでしょうか?

津堅 調査をします。会社がなくなった場

合はフィルムとかネガの現物資料はCMの

場合はどうなんでしょうかね。

山田 持っていたはずなんです、制作者で

すから。

津堅 例えばご自分が関わった作品のコン

テとかセルとかというのはありますよね。

それをついこの間いっぱい捨てましたとい

う人が何人かいて、もうそうなるとどうし

ようもないですよね。今のご質問のフィル

ムに関して、まだあるのかないのか聞けて

いない状況です。

井上 大井章寛さんは一光社におられたん

ですけれども、大井さんは自分のものをほ

とんどとっていらっしゃったらしいんです

が、最近全部処分されたと。非常に残念な

ことです。

大橋 京都の方は、戦前にあった政岡憲三

さんのところとはまったく関係ないのです

か?

津堅 結果的には関係ないと言ってもいい

と思います。政岡さんのグループは戦争中

に全員東京に行きまして、そこで戦争プロ

パガンダのアニメを作って、若い人は戦争

に行っているんですね。東京に残った人も

いて、その人はそのまま日動のグループに

つながっているじゃないですか。これは研

究会のヒアリングの中でも何度か話したん

ですけれども、熊川正雄さんは戦争に行っ

て、1年経って京都に帰ってきて、そこで

京都映画社で木村角山さんとか寿々喜多呂

九平さんとかのシナリオで「魔法のペン」

を作っています。それ1本だけで、あとは

結局どうなったかわからないんです。熊川

さんは東京に戻られたということですから、

とぎれているんですね。同じく政岡さんと

いうか京都映画でいっしょに仕事をしてい

た土居研二さんというアニメーターの方が

いらしたんですけれども、木村さん以上の

キーマンだと思うんですけれども、数年前

に亡くなられているんですよ。だから、や

っぱりわからないという感じです。

牧野 先ほど大橋さんがおっしゃったよう

に、アニメーターの記憶というのはあやふ

やであると思います、私も含めてですが。

今千葉の島さんから送ってもらったFAXも

付き合わせして修正しなければいけないよ

うな内容だと思うんですが、ただキーマン

が東京にもたくさんいます。だからそうい

う人たちには、ヒアリングする前にこの表

を見せると、「これは違う」と触発されるじ

ゃないですか。何となくやってくれと言っ

てもやってくれませんけれども、「これを直

してくれ」というと反応するからそういう

人を集めたらいいと思います。そしてこの

人にはやっぱり会わなきゃというふうな人

がいたら、ヒヤリングをやっていったらど

うですかね。

津堅 絶対ということはないですけれども、

漠然とお話を聞いてもむずかしいですね。

アニメーターによくあるのは、絵を見せる

と、「ああこれは俺が描いた絵だ」とか(情

報をくれるんですよ)。

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26 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

牧野 そこで違う人の名前を言ったら、「俺

だよ」と言いますから。

津堅 絵を見せれば鮮明に覚えてらっしゃ

います。

牧野 たとえば自分の作品を見ると、テロ

ップにはアニメーターの名前がないわけで

すけれども、これは自分がやったというこ

とはわかりますよね。でも他人のものはわ

からない。

これは個人情報ですが、私の相棒で牧野プ

ロの社長をやっている島充が、自分の略歴

を書いてくれました。TCJから関西に来て、

関西の人たちにマンガの手法を伝授して、

そこで「ヤン坊マー坊」を中心に制作した

経緯です。その中で後半に、商取引のかな

り生々しいやりとりが入っています。こう

いう不確かかもしれないけれども、個人情

報を集めて繋げていくというのが一つの手

かもしれないですね。急いで書かせました

ので、一部だけですけれども、こういった

ものがあるということです。

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研究報告2:山田奨治研究員/テレビ資料に関する著作権問題について 27

1.(世の中全般の傾向として)著作権プレイヤーの増加

著作者(作者)・著作権者(著作物流通業界)・利用者(ユーザー)・国家(立法)

著作権管理業界の成立

2.CM著作権管理をめぐる環境の変化

ACC CM情報センターの運営が JACに(2005年4月?)

CMの(研究目的を含む)2次使用が閉塞状況

映画著作権の保護期間延長(50年→70年)のインパクト

3.CM著作権への視点をずらす試み

CMは誰のもの → 所有権よりも利用・管理の実態に着目するべき

原版の扱いに無頓着 → 廃棄、倒産・廃業による散逸

口頭ベースの承諾が多い → 文書化をきらう

聞かれても困ること → 自己責任でやって下さいという姿勢

業界(とくに広告主)のためになることには寛容

CMの著作権侵害事件は少ない

研究報告2

テレビ資料に関する著作権問題について

山田奨治 Yamada Shoji

▼レジュメ▼

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28 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

出 所

『文化としてのテレビ・コマーシャル』図版一覧 (網掛けは掲載不可)

2章

3章

図6 (CM)キスミー「キスミーファンデ」

図2 (CM)資生堂「パール歯磨き――パールちゃんの運動会」

図3 (CM)壽屋「トリス――料理編」

図4 (CM)大阪商事「投資信託」

図5 (CM)三菱電機「三菱ミキサー」

図2 『オーソン・ウェルズのフェイク』劇場用パンフレットに 掲載された「ニッカG&G」の広告

アサヒビール株式会社

図1 (CM)桃屋「江戸むらさき」 TCJ

図1 「マンダム」の広告におけるチャールズ・ブロンソン 株式会社マンダム 『マンダム50年社史』

図7 (CM)救心製薬「延若」

図8 (CM)鐘淵紡績「カネボウベレー」

図9 (CM)三共電器「三共洗濯機」

図10 (CM)本田技研工業「ドリーム号/ベンリィ号」

図11 (CM)新白砂電機「シルバーラジオ」

図12 (CM)八欧電機「ゼネラル時計つきオートタイマー」

図13 (CM)森永製菓「森永チョコレート」

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研究報告2:山田奨治研究員/テレビ資料に関する著作権問題について 29

条件など 問い合わせ先

(世界思想社提供資料を基に作成)

伊勢半 掲載可 *企画書も図版もお見せしていないが、基本的にそういうものを差し止めるようなことはしていないとのこと。

資生堂 掲載可

サントリー 掲載可、1部献本

新光証券 掲載可

三菱電機 広告主の判断範疇の範囲に対して掲載を許諾

アサヒビール オーソン・ウェルズの肖像権の関係で、転用は一切不可→学術利用なら掲載可(著者が事前に交渉)

桃屋 制作年を1958年とすれば、掲載可→「浦島太郎篇」に差し替え。制作年は1961年とすること。

マンダム 図版の下に“「マンダム50年社史」より”と記載

株式会社ホリ企画→救心製薬広告部 TCJのビデオを確認してから掲載可否の連絡をくださる→「うさぎとかめ」の画像に替えてほしいと言われたが、現状のままで掲載可。

カネボウ・トリニティ・ホールディングス広報部 「カネボウベレー」の商標登録の記録などがないので、確認できない。掲載は問題なし。

サンデン東京広報部 掲載可、一部献本

本田技研工業 メールで本書の概要と画像ファイルを送付、宣伝ご担当よりお電話。現在調査中で、進展があれば連絡をくださる。連絡受け。イラストを描いた人がわからない。→イラストはポール・デイビス氏(米)。許諾を得るにはアメリカのコーディネイターを通す必要があり、費用と時間がかかる→削除

倒産→広告主消滅

富士通ゼネラル広報室 掲載可 (最初の連絡の時点で、基本的にOKと仰っていたとのこと。)

森永製菓 広報IR部 掲載可

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30 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

4章 図1 (CM)森永乳業「森永マミー」

図2 (CM)ヤクルト「ヤクルトミルミル」

図3 (CM)大塚製薬「ファイブミニ」

図4 (CM)サントリー「鉄骨飲料」

図5 (CM)サントリーフーズ「燃焼系アミノ式」

図6 (CM)キリンビバレッジ「アミノサプリ」

図8 (CM)コカコーラ「ACTIVE DIET」

図7 (CM)コカコーラ「ACTIVE DIET」

出 所

5章

7章

8章

『ACC CM年鑑’72』 図9 (CM)カルピスのCM

『ACC CM年鑑’70』 図8 (CM)ハイミーのCM

『ACC CM年鑑'79』 図6 (CM)キッコーマンのCM

『ACC CM年鑑’61/’62/’63』 図3 (CM)ライポンFのCM

『ACC CM年鑑’68』 図4 (CM)象印トップジャーのCM

図2 (CM)ナショナル電化台所セットのCM 『ACC CM年鑑’72』

図3 (CM)エッセンシャル(花王)のCM

図4 (CM)ヴィダル・サスーン(P&G)のCM

図7 (CM)LUXスーパーリッチ(日本リーバ)のCM

図1 (CM)シャープ「アクオス」(モダン山水の庭篇)

図2 (CM)本田技研工業「CIVIC CVCC」

図5 (CM)ナショナル冷蔵庫花束のCM 『ACC CM年鑑’72』

図10 (CM)ナショナル洗濯機うず潮のCM 『ACC CM年鑑’70』

図8 (CM)アジエンス(花王)のCM

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研究報告2:山田奨治研究員/テレビ資料に関する著作権問題について 31

森永乳業 現状のままで掲載可

ヤクルト(本社広報室) 制作会社(ハット)、代理店(電通)の許諾が必要

大塚製薬(宣伝部) 掲載可(大塚製薬、制作会社双方から電話受)

サントリー(大阪広報部) 鉄骨飲料はOK。アミノ式はタレントが写っているので不可(ただし、タレントの許諾を得れば掲載可)→タレント特定できず

キリンビバレッジ(広報部) 契約切れで掲載不可

コカコーラ(広報本部) 誰が出ているどういうコマか指定して、再度問い合わせる(先方が制作会社に画像の貸し出しが可能かどうか問い合わせてくれる)→時間切れ

条件など 問い合わせ先

カルピス(広報部) 掲載可(「カルピス(株)」と記載のこと)

味の素(広告部) 再度連絡 掲載不可、本文の記述が先方の意図と異なるため。

キッコーマン(宣伝グループ) 著者に問い合わせて製品を特定し、改めて連絡。→キッコーマンとしては掲載可。制作会社などは特定できない

ライオン(広報部) OK、1冊献本のこと。

象印マホービン(広報部) ACCの許諾を得ればOK

松下電器(広報部) タレントが写っているものは不可、商品単体ならば掲載可、差し替え図版掲載可

花王(広報部?) 掲載可

P&G(PR会社:プラップジャパン) (制作会社:エムワンプロダクション)

最新バージョン(刊行時点で放映されているCM)でないと提供できない。また、提供できるとしても肖像権等の問題があるが確認のうえ連絡してくれる。→掲載不可。ただしモデルと制作会社の許諾が得られればOK

ユニリーバ・ジャパン →PR会社サニーサイドアップ

契約切れで掲載は一切不可

シャープ(広報部) 掲載可(おそらく吉永小百合の許諾も取ってある) 2部献本。

本田技研工業(広報部)→宣伝…部 こちらからFAX送信、おそらく不可だが、確認してくださる。→再度連絡、メールにて企画書と画像ファイル送信

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32 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

▼研究報告▼

山田でございます。今日は著作権について話をしろと言われたんですが、国際日本文化研

究センター(以下、日文研)で持っているデータベースを作り、あるいは共同研究会を進めて

きた経験に基づいて、こんなような感想を持っているという程度の話になるかと思います。

〈著作権プレイヤーの増加という今日の傾向〉

まず、テレビCMの著作権をめぐる、ごく最近、というかここ何年かの変化や動きについ

て、中心にみていきたいと思います。

テレビCMの著作権の全般的な枠組みについてはくどくどとは言いませんが、ベーシック

なところだけ言いますと、基本的には広告主・制作会社・代理店の3者がCM映像の著作権

を持ち合うことになっています。CMは映画の著作物で、そこに音楽の著作権が絡み、あるい

は出演者の肖像権が絡み、最近はちょい役で出ていた人たちも権利主張を始めています。

主には広告主・制作者・代理店の3者の調和を保った関係でもって著作権の管理がなされて

いて、そのCMの2次使用等々の仲介をする団体としてACC [社団法人全日本シーエム放送

連盟]のCM情報センターがあるという状況です。

手許のレジュメのまず1番ですが、「世の中の全般の傾向として」こんなことが言えるかな

という問題があります。「著作権プレーヤーの増加」、これは従来著作権に関わる法的な主体と

しては、まず著作者――制作者というか著作物を作った人間がいます。それに対して著作権者

というのがいる。この著作者と著作権者は往々にして別だという点がポイントです。そして著

作権者というのは、だいたいは著作物の流通業者がなっていることが多いです。そこに著作物

を利用するユーザーが絡みます。著作権法を通してこの3者の関係作りをしている国家、ある

いは立法というものがあります。

だいたいこういった4者で動いてきたのですが、ここ何年かの傾向として、これらの4者と

は少し毛色の違う一群の人々が現れはじめているという感じがしています。それが下に書いて

ある著作権管理業界です。著作者でも著作権者でもない著作権管理業の人たちが現れてきてい

る。具体的には全国各地の法科大学院や知財の専門コースの大学で勉強してきて、社会に出て

職を求めているような人たちをイメージしてもらえればいいです。この著作権管理業界という

ものの性質を考察してみますと、彼らは一見著作者あるいは著作権者の利益を代弁しているか

のようですが、よくよくみると、著作権管理業界の利害と著作者の利害、著作権者の利害は必

ずしも一致しないように思います。著作権管理業界の人たちの特質は、現在の著作権法をなる

べく厳格に適用して、その作品の利用について、できることなら障壁を高くして、使いにくく

することによって、自己の職域を広げようとする人たちです。著作物の流通を法的に阻害する

ことで職域が広がる人たちですね。職域を広げるためならば、著作権の強化はむしろ望ましい

という立場です。これは著作者の利害、あるいは著作権者の利害とはちょっと違うんですね。

現在の日本の著作権法は、世界的に見てかなりきつい厳格な法体系を持っています。世界中の

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研究報告2:山田奨治研究員/テレビ資料に関する著作権問題について 33

どこにもないような公衆送信権や、いろいろ細かい規定がたくさんあります。そういった法的

なむずかしさを使って、そこから収入を得る立場の人たちが著作権管理業界です。

日本のきつい著作権法は著作者あるいは著作権者にとって、必ずしもすべてがプラスになっ

ているわけではないですね。コンテンツを広めたいと思えば、ユーザーが勝手にコピーしてど

んどん交換するとか、著作権法的にはイリーガルな行為であっても、著作物を広めたいという

立場に立てば著作者あるいは著作権者にとっては望ましいことがあるんです。法を厳格に適用

しようとすると、そういう無断コピー等々、法に反する行為をしてはいけないし、そういうこ

とが起こらないよう管理していこうという立場になってしまいます。著作権管理業界というの

は主としてこういう立場に立つ人たちなんですね。管理業界の人たちを、CMの世界に引きつ

けて言いますと、制作会社や代理店などの法務部など、CMの著作権をコントロールする立場

に管理業界の人たちがなっています。以前はCMの著作権に関わっていた人たちは、かつて作

り手だった人たちです。制作者マインドを持った人たちでした。それがここ何年か、徐々に著

作権の管理者に入れ替わっていっています。ここにかなり質的な変化が起きているんですね。

いろいろな人とやりとりをしていて、だいぶトーンが変わってきていることを如実に感じます。

〈CM著作権管理をめぐる環境の変化〉

それが2番の話に関わってきます。「CM著作権管理をめぐる環境の変化」です。まず第1点

目として、CMの2次使用をマネージしているCM情報センターの運営がどうやら変わったよう

です。2005年4月頃かなと思います。これは正確に裏を取っていないので、まだクエスチョン

マークなんですが、JAC[日本アド・コンテンツ制作者連盟]の方にCM情報センターの運営が

移管されています。組織的にはちょっとややこしいんですが、ACCのセンターではあるんですが、

運営はJACに委託か移管かという形で移ったと思います。ちょっと正確なところはわかりません。

以前、CM情報センターではACCの理事長さんの席のすぐ横にCM情報センター長の席があっ

て、私が話に行くと、すぐに理事長に話が通ってGOサインが出ることがありました。最近は密

にコンタクトをとっていないのでわかりませんけれども、どうもそういう状況ではなくなってい

るようです。それに伴ってかどうかわかりませんが、CMの研究を含む2次使用が滞っています。

京都精華大学さんがやりとりされている様子を聞くところによると、何年か前よりもやりにくく

なっているのかなという気が非常にしています。それは恐らくCM情報センターの運営体制が変

わったということと無縁ではないのではないかと思います。これは推測に過ぎませんけれども。

3つめとして、「映画の著作権保護期間の延長」がありました。これは2004年の著作権法の

一部改正で、映画の著作物に関して、かつて公表後50年間の保護だったのが公表後70年間

の保護に変わりました。2004年1月1日時点で著作権が存続している作品については以後70

年間保護するということです。CMで何が起こるかというと、1953年8月28日に第1号CM

が流れていまして、1953年3月31日までに公表されたCMについては、著作権は2003年で

切れました。ですけれども、1954年以降に公表されたCMは以後70年間保護されるという

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34 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

ことになりますので、直近に切れるものでも2024年まで続くということになります。1953

年公表の映画の著作物の権利が切れているかどうかというのはまだ裁判になっているんです

が、昨年の秋、東京地裁の判決では1953年3月31日までに公表された作品はいったん権利

が切れるので延長されないという解釈が出ています。法学者なんかに聞くと、やはり1953年

の作品の権利は切れているという意見の方が多いようですので、恐らく上級審にいってもその

判決は踏襲されるんではないかという予想をもっています。映画では何が起きているかという

と、これによって「ローマの休日」「シェーン」などの1953年作品の映画の著作権が切れて、

格安DVDが売られるという状況が起きているわけです。繰り返しますが、CMについては

1953年のものだけはコピーライト切れという解釈で今の時点ではいいと思います。ですが、こ

れからどんどん権利が切れていくはずだったのが、棚上げになってしまったということです。

ですが、この問題はもう少し突っ込んで考えてみる必要があるのかなという気がしていま

す。その理由は、CMは本当に映画の著作物かという問題ですね。映画とは何かという問題と

も深く関わるかと思います。CMを映画の著作物だとしたのは、これは明らかにCM業界内で

の著作権運動の結果なんですね。ですが、高野さんなんかの研究からわかりますが、初期の

CMを見ていても必ずしもあまり映画的ではありません。カードCMというのもありますし、

生(ナマ)のCMはどうなのかとか、映画の定義とも関わるんですが、本当にCMはすべて

映画と言い切れるかどうか。CMが映画であるというのは業界から出ている一種のPR活動で

ありまして、実際にCMが映画かどうかということが裁判で争われたということもありませ

ん。法的にはっきりとした解釈ではないと思います、私の考えでは。このあたりももう少し研

究の余地はあると思っています。

そんなわけで、CM研究者である我々は非常にやりにくい状況になってきてはいるんですが、

そのことに批判や文句ばかり言っていても仕方がないので、現状をどうやって打開していくか、

どういうふうに考えていけばいいのかということですね。

〈CM著作権への視点をずらす試み〉

それが第3の問題につながるのですが、CM著作権への視点をちょっとずらしていかないこ

とには、この閉塞状況が破れないと思います。CMだけでなくいろんな作品についても、これ

は誰のものかと必ず問われますよね。文化は誰のものかという新聞の見出しがあったりとか、

ナントカは誰のものかとよく聞く言葉だと思いますが、この誰のものかという問いを発するこ

と自体が、ある枠組みに絡め取られてしまうことなんですね。近代の所有意識、所有者意識と

いいますか、誰のものかと聞いた瞬間にもうそれは近代ですよね。近代の牢獄の中の世界です。

ですから、誰のものかという問いをちょっと脇に置いておく必要があるのではないかと思いま

す。所有権よりも、むしろそのモノとかコンテンツが実際にどのように利用され、どのように

管理されているかという実態のほうを見た方がいいですね。誰のものかは、とりあえず問わな

いでおいて、実際、それがどう利用され管理されているのかというのを見ていくべきではない

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研究報告2:山田奨治研究員/テレビ資料に関する著作権問題について 35

でしょうか。これはコモンズ論の人たちが言っていることからヒントを得た考え方です。「所

有権よりも利用・管理の実態に着目すべき」であろうと思います。

そういう観点から私が感じていることを書いたものがレジュメの下の部分です。CMがどう

利用・管理されているかというと、ある面では非常によく管理されていると言えますし、ある

面では全然管理されていない。すごく相反する状況が共存しています。

まず原版――オリジナルのフィルム、最近はビデオの扱いです。何年も前からCM原版の

廃棄問題と言われていますように、原版を全然大事にしていないんですね。原版は残るとすれ

ば制作会社のところなんですが、保存にコストがかかります。昔のフィルムは保存がむずかし

いのもあって、一昨年ぐらいからどうやらどんどん廃棄をしているようだということです。こ

れもどこまで事実かわからないんですが、廃棄という動きは確実に進んでいるようです。一方、

制作会社はここ何年かの不況でずいぶん老舗が消えていっています。先の一光社もそうですし、

大きなところでは東洋シネマとか芸研プロダクションとか井出プロダクションとか、昔から名

作CMをたくさん作ってACC賞にも入賞してきているプロダクションが消えていっていま

す。そしてそこにあったはずのフィルムはどこに行ったのかというとわからないんです。まあ

調べてないというのもありますけれども。昔の制作会社の名簿を頼りに電話をしてみると誰も

出ないとか、この番号は使われておりませんとか、JACに聞いてもわからないとかです。ちょ

っと追いかけたけれども、追いようがないので今のところ棚上げにしています。どこかに消え

てしまっている、散逸している、棄てられているという状況があります。

近代的なオリジナル概念からいうと、原版を持っているというのは強いですね。オリジナ

ル信仰の世界ですから。「私がオリジナルを持っています」と言えば、そこからいろいろ言え

ることが出てくるはずなんです。ですが、どうやらオリジナルを元に何かを言うことについて

は非常に意識が薄いというか、さっきの3者がお互いに牽制し合っています。制作会社が原版

を持っているので、制作会社だけの権利が強くならないようにお互いに叩き合った結果ではな

いかと思いますが、それも推測にすぎません。

2番目に、いろいろなことでCM業界に相談に行っても、口頭ベースで「いいよ」とか「OK」

と言ってくれるんですけれども、「じゃあ文書に書いて」というと、「いやだ」と言うというこ

とが非常に多くて、証拠が残らないんですね。ほとんど口約束です。口頭ベースでも約束は約

束だから、それなりの効力はあるんでしょうけれども、何かオフィシャルにプロジェクトをし

ていこうとすると、証拠が残らない状況は非常に気持ちが悪いし、やりにくいし、ちょっと嫌

だなという感じはあります。でも現状としてはそうです。なかなか文書を書いてくれません。

3番目に、「聞かれたら困ることは聞いてくれるな」という姿勢です。いいと思ったら勝手

にやってくれということみたいですね。大きな枠としては著作権というのがあって、それをや

っぱり守っていきましょう、コンプライアンスの観点からも、守らなきゃならないんですけれ

ども、著作権を厳密に考えると、かえって困ることが多々あるんですね。著作権の面でも問題

有りでも、それをやることには意味があることは、やっていいかどうか聞いてほしくないんで

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36 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

すね。「そんなこと聞かないでくれ」と言われたことが何度もあります。あなたがそれでいい

と思うなら、どうぞやってくださいということですね。もしCM業界サイドからそれは困る

ということがあれば、お互いインタラクティヴに進むべき道を探っていくスタイルがこの業界

にはあるんだと思います。

4番目、法的には「問題有り」のことであっても、業界、特に広告主のためになることには、

かなり寛容です。例えば東京企画や日本モニターがCMを全部エアチェックしてデータベー

スにして、モニタリングしています。あるいは『広告批評』という雑誌には毎回広告のカット

が載っていますよね。ああいうのは多分誰かが騒ぎだすと、充分裁判沙汰になり得るものだと

思うんですが、それは業界内でやらないようにしているようです。つまりモニタリング会社の

場合は広告主がそれを使っているからであり、『広告批評』のような雑誌は作り手たちも見て

いるからですね。多少は法律を犯すことになっても、業界のためになることならばお互い目を

つぶりましょうというか、取り立てて問題にしない方法をとっているようです。

最後に、総じてですが、CMの著作権侵害事件は少ない、と思います。皆さん聞かないです

よね、CMの著作権で裁判になったとか。代表的なのは天野祐吉さんが昔、名作ビデオ集を出

そうとして止められたことがあります。それくらいしか浮かばないです。そう考えると、この

CM業界はお互いの権利のコントロールをうまくやっているんじゃないかと思いますし、お互

い融通し合いながら、許せる範囲のことは許し合いながらやっている業界だと言えるのではな

いでしょうか。

では、我々としてはどうしたらいいのかということなんですが、基本的には3つ目の立場で

すね。これはやってもいいんじゃないかと思われることは、自己責任でとりあえずやってみて、

何か言われたら考える。これしかないような気がいたします。今までCMの著作権をめぐる

裁判が少ないというのは、裁判なんかになる前にある程度お互いのインタラクションがあって、

うまい方法で調整機能が働いているんだと思います。そのへんがCM著作権の「視点をずら

す」ことになります。だからあまり、法律の解釈がどうだということを気にするよりは、ちょ

っとずつ動き出していくべきかな、と思います。

〈経験にもとづく報告〉

次は、最近の私の経験に基づいた話です。日文研の共同研究会の報告書で、『文化としての

テレビ・コマーシャル』(山田奨治編著、世界思想社、2007年3月刊)という本を出版しまし

た。これは共著なんですが、それをまとめる時に、それぞれの論文の執筆者の方々がCMの

図版を使いたいと言ってこられました。それの権利処理を基本的には出版社に担当してもらっ

て、その結果、これはいけた、これはダメだったというデータが採れましたので、学術資料と

してご紹介したいと思います。

この種の引用をしたい場合、まずはACCのCM情報センターに問い合わせることになるんで

すが、CM情報センターが関わるのは、動画像だけです。ですから動画の中からあるカットを

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研究報告2:山田奨治研究員/テレビ資料に関する著作権問題について 37

取って、それを静止画として引用する場合は広告主とやりとりをしなければなりません。この

資料からは個人名とか連絡先は、差し障りがある部分は編集でカットしてあるんですけれども、

どういうやりとりがあったかというのは追えるようになっています。上からずっと見ていくと、

対応が各社多様でした。アミかけになっているところは最終的に掲載を断念した図版です。

ちょっと気になるところを見ていくと、まず2章[谷川健司「日本の外タレCMの質的変

化――スター・イメージ“信用”から“逸脱”へ」]図1マンダムの、チャールズ・ブロンソ

ンの写真です。ハリウッドのタレントなんですが、これは社史からの引用ということでクリア

しました。次に図2のオーソン・ウェルズです。これはアサヒビールからはウェルズの肖像権

が気になるので一切不可と言われたんですが、論文の著者の方が別にアサヒビールと交渉して

くださって、学術利用ならば掲載可という了承を得て掲載をしています。ですからウェルズは

CMからのカットではなくて、別の広告からのコピー、図版のコピーです。

3章[吉村和真「テレビ黎明期のCMアニメの実態――ビデオコレクション「TCJの歴史」

を手がかりに」]はTCJの関係です。だいたいは掲載可ですが、図6のキスミー「キスミーフ

ァンデ」の場合は掲載可。基本的にはそういうものを差し止めるようなことはしていないとい

う、非常に有り難い対応です。 図10の本田技研工業「ドリーム号/ベンリィ号」はアメリカ

のイラストレーターが描いた作品だったそうですが、そのイラストを描いた人はわかったんで

すけれど、アメリカから許諾を取るにあたって時間と費用がかかるので削除ということになり

ました。図11新白砂電機「シルバーラジオ」は広告主消滅でした。

4章[柄本三代子「「的確な誤読」への依存――テレビ・コマーシャルに見る健康の科学」]

は、健康系のCMの言説批判のような論文だったんです。図2「ヤクルトミルミル」はヤクル

トに聞いたら制作会社と代理店の許諾を取ってくれと言われたそうで、これは時間切れで、掲

載できませんでした。図4、5、は、サントリーの「鉄骨飲料」と「アミノ式」です。「鉄骨飲

料」は商品カットだけですからO.K.。「アミノ式」は棒があって、サラリーマンが棒を横に握

って上がっていくというCMですね。それは上海雑伎団の人にやってもらったそうなんです

が、タレントが映っているのでタレントの許諾を得ればO.K.だったんですけれど、それが誰

だかわからないので、断念したんです。その次の図6キリン「アミノサプリ」は「麒麟戦隊ア

ミノレンジャー」、石ノ森章太郎原作「秘密戦隊ゴレンジャー」をパロディ化したやつですね、

あれも契約切れでダメということでした。図7、8の「ACTIVE DIET」はモデルさんのよう

な女性がポーズをとって飲んでいるカットで、誰が出ているか、コマを指定して問い合わせた

んですけれども、これも返事が期限までに来なくて時間切れでダメだったんです。

次の5章のところでは、ACC・CM年鑑(社団法人全日本シーエム放送連盟編)からの引

用にしたんですけれども、まずナショナルはタレントが映っているものは不可、商品単体なら

ば掲載可ということで、タレントが映っているのを商品単体に入れ替えるという操作をしまし

た。図4の象印「トップジャー」はACCの許諾があればO.K.。ACCは広告主がいいと言え

ばいいということで、掲載可でした。問題は図8、ハイミーのCMです。味の素なんですが、

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38 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

本文の記述が先方の意図と異なるから不可ということです。これは著作権者が最もやっちゃい

けないことですよね。言論抑圧目的であり、著作権の使い方としては最もレベルの低い例です。

ところが、本文は広告主のことを悪く言う記述ではないんですね。これがどうしてダメなのか、

私はまったく理解できません。これはカネヤン(金田正一)が台所で料理を作って、そこでハ

イミーを使うというCMで、著者が問題にしたのはその背景にジューサーミキサーがずっと

映っているところです。読みますと、「野球選手が台所で手料理を作り、ふるまうといった設

定のCM。現実より進んだ生活を描写している例である。1970年代ではきわめて普及率が低

く、現実的でなかったレンジフードが使用されているほかに、小道具としてジューサーミキサ

ーが置かれていることが注目される。ジューサーミキサーは出演者の背後の窓辺にやや不自然

に配置され、何かと映像中にカットインする。ジューサーミキサーの普及とともに健康への感

心が高まった当時、健康をイメージさせる小道具として用いられたのではないだろうか」とい

う文です。背景にジューサーミキサーが映り込んでいて、その点を指摘しているという文章な

んです。広告主としてはそんな意図はもっていなかったというつもりだと思うんですが、そう

いうのを見つけたというだけのことですから、図版を載せてもいいんじゃないですか。

7章[君塚洋一「広告がつくる「経験」――市場化の力と生きられたコミュニケーション」]

はシャンプーのCMを取り上げた論文です。図3の花王「エッセンシャル」は小西真奈美の

カットです。花王「アジエンス」はチャン・ツィイーのカットですが、奇跡的にというか、本

当によかったのかとも思うんですが、花王から掲載可が来ました。ですから小西真奈美もチャ

ン・ツィイーも載っています。しかし、図4のP&G「ヴィダル・サスーン」とか図7のユニ

リーバ「スーパーリッチ」とかは、モデルの肖像権の問題があって不可と出ました。図7の

「スーパーリッチ」の場合は契約が切れているのでダメといわれました。

8章[関谷直也「自然と広告――情報文化としての「自然描写」の意味と「自然」「環境問

題」を表現する映像技法」]の図1はシャープの「AQUOS」で、吉永小百合が石庭の前で座

っているCMですが、掲載可と言われました。たぶんシャープは2次使用について吉永小百

合の許諾が取ってあるのでしょう。最後の本田技研工業「CIVIC CVCC」はやりとりをした

のですけれども、返事がなかなか来なくて時間切れで掲載を見送りました。

各社各様の対応でして、いいと言ったり、制作会社に聞いてくれと言ったり、タレントに聞け

と言ったりとか、対応の仕方もいろいろでした。この種の使用は一切差し止めなんかしていない

というところもあれば、内容が気に入らないからダメというところもありました。広告主の対応

は、方針もないし、その時のその担当者の判断によるという感じですね。この本の場合は報告書

とはいえ商業出版物にしましたのでたいへんだったのですが、学術論文に図版を載せるという場

合ですと、いちいち許諾までは要らないと思います。出所さえ明示して、それで印税が入るとい

うことでなければ問題はなかろうと思います。ただ気になるのは、これはマンガの引用でも起こ

っていることですけれども、内容が気に入らないから掲載お断りというのは、CMの世界でも起

こっていることなので、そういう言論統制とは闘う用意をしておかないといけません。

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ディスカッション 39

桐山 山田先生、授業で使う分にはどうな

んでしょうか。

山田 授業で使う分には、法的にも問題な

いと思います。

石田 この世界思想社の本の場合は、掲載

可の場合には一切費用がかかっていないで

すか?

山田 かかってないです。

辻 学術利用の場合には著作権法の例外に

充分あたると思うんですけれど、その際に

一つは研究書であるけれども商業出版の場

合にどこまで例外条項が適用できるのかと

いうところと、もう一つ多分一番ここでネ

ックになってくるのはタレントの肖像権で

すよね。肖像権の場合には、基本的にCM

で契約する場合にはどこからどこまでの利

用を認めるというのを、広告主側と結んで

いると思うんです。広告主側は2次利用で

学術引用だからO.K.という判断を下す担当

セクションと、これは2次利用だが当社の

契約範囲外の2次利用であるので、ダメの

判断を下すところがあると思うんです。そ

の場合に学術研究のための肖像権の2次利

用みたいな形というのは、法的には問題な

いんでしょうか?

山田 肖像権は法的な定義がはっきりして

いません。そういう権利主張があるという

ことです。

津堅 ごく観念的に言ってしまいますけれ

ど、著作権法が今も著作者と著作権者のた

めの法律で、勝手に利用されるのを取り締

まる法律だと勘違いされてますよね。勘違

いと声を大にして言いたいんですけれど。

要するに全部の法律がそうであるように、

国民のための法律じゃないですか。そこの

基本的な認識が必要だと思うんです。

辻 ただ基本的に従来の著作権の理念はそ

うだったと思うんですけれど、今著作権の

考え方自体が判例の上でも変わってきてま

すよね。そこではむしろ情報コントロール

権という考え方が出てきているので、個人

情報なんかも自分の情報をコントロールで

きるかどうかという形の権利の捉え方をし

た本が出てきていると思うんです。肖像権

というのは、一つは営利的な権利、もう一

つは人格権が確実に関わってくるので、そ

の場合に営利目的での研究――研究上学術

引用の場合は営利目的ではないですけれど

も、人格権上問題が生じるのだろうかとい

うところが気になるところではあるんです。

ただその場合、ある程度肖像権問題をクリ

アするために、イラストに替えればO.K.と

か、そういう方策はいくらでも考えられる

と思うんですね。だから要するに、こっち

の自己責任でやる場合はどこまでが法的に

アウトなのかセーフなのか、グレーゾーン

が一番大きいところだと思うんですけれど、

そこが一番問題になると思うんです。私も

素人で、勉強はするんですけれども、やっ

ぱり実践運営上どうなのか、アウトなのか

セーフなのか全然わからないところがあっ

て、強めに解釈すると全く学術利用の場合

はO.K.だろうし……。

山田 著作権侵害というのは今のところ親

ディスカッション

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40 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

告罪なんです。侵害された側が侵害された

と言わない限りは罪を問われないんですよ。

ですから、たとえ法的にはちょっとまずい

かもしれないと思っても、それに対して権

利者がべつにかまわないよと言えばいいん

です。多分そこが基本になる形であって、

厳密に法を適用しようとすると、危ない部

分がかなりあって、安心して使える部分は

本当に少ないかもしれないですよね。そう

いう状況は何とかしていかなくちゃいけま

せん。我々にとってより快適にCMを使う

ためには、こうしたいという意志を我々の

中で作っていって、それを宣言するしかな

いんだろうと思います。

それと、さっきの親告罪の関連で、この

あいだ新聞報道されていましたけれども、

今の文化審議会での議論で、親告罪から、

侵害されたという訴えがなくても公訴でき

る非親告罪にしようという案が出ているそ

うです。そうなったらCMの研究利用はま

すます難しくなりますね。

津堅 ああいうふうに変わるというのに、

国際的に見て著作権関連の法律で同じよう

なシステムを採用しているところはないん

ですか?

山田 聞いたことがないですね。

津堅 アメリカの場合は親告罪なんです

か?やっぱり。

山田 それは確認する必要があります。

牧野 マンガの著作権というのがかなり深

刻な問題になっていて、既に係争中であっ

たり最高裁判所にいって判決が出てしまっ

たりしているのがあるんです。そういった

ものと摺り合わせをしなきゃいけない。著

作権が議論されているところには、ちょっ

と顔を出させていただいて、どういう話し

合いがされているかチェックしているんで

す。マンガの方で言いますと、やっぱりほ

とんど使えない方向に行って、さっきご指

摘があったように、著作権管理業界の成立

というのがむしろ難しくしています。そこ

から利益を得ようとするマターが多くなっ

ている。ですから著作者にO.K.を取っても

使えないということが多くなってきたんで

す。つまり権利者がいっぱい出てきてしま

って、一つのキャラクターに権利者がいっ

ぱいついているので、著作者はその中の一

人でしかないということが起こってきたの

です。さっきおっしゃったような、著作権

の視点をずらす試みというのがない限り、

どんどん窮屈になってくるばかりで、結局

最終的には著作者が困ってしまう。著作者

は、さっき出たように、私も含めてみんな

「ジコチュー」なので、自分のところに火の

粉が飛んでこなければ良しとしてしまう。

自分のところに火の粉が飛んできた人だけ

大騒ぎするということなんで、その時は既

に最高裁判決が下りてしまっている、とい

うことになってしまう。じゃあ法律家はど

うしているかというと、基本的な部分で議

論しているのではなくて、過去の判例を分

析して、この時はこうだった、あの時はこ

うだったという。その判例を知っているの

が専門家ですから。じゃあ今起きているこ

のことは過去の事例に照らしてどうかとい

うと、これはまったく新しいことなので、

その判例から導き出された結論では何もで

きないんですね、本当は。例えば京都精華

大学の中で発言しても、じゃあそれは法律

家に聞いてみましょうとか、法律家に相談

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ディスカッション 41

しなきゃ、とこう言うんですが、それがも

うダメなんです。ダメだということはわか

っているんですね。わかっている状況で著

作権という問題だけが一人歩きしていると

いう状況がある。ですから、その視点をず

らすというのが一つの方向だなと思いまし

た。それは例えば具体的に何かというと、

少女マンガの場合はそうなんですが、作者

から見るとみんなそれぞれ少しずつ違って

いるんですが、読者から見ると同じじゃな

いかという……全部同じでしょ。それはち

ょっと過去の歴史を繙けば、編集者が同じ

ものを書きなさいと言った時代があったん

です。個性的なものを持っていっても、あ

なたこれでは売れませんよ、ナントカ先生

のものが売れているから、あれに似せてく

ださいと言って、全部似せてしまった時期

があるんです。だから有名作家の作品でも

基本的には全部似てるんです。名前が違い、

髪型が違い、まつげの本数が違う、そうい

うのがあるんです。ですから、そういう微

妙な差を認めてあげるということも大事だ

と思いますが、それよりも、あるところま

では「入会権」と言っているんですが、明

らかな誰が見てもはっきりわかる差異があ

れば、その作風として認めてあげたいんで

すが、一般の人が100人の内80人がわか

らないというものは「入会権」ですね。み

んな共通の財産というような考え方に視点

をずらしていかないと、もうほとんど解決

ができないという状況になっているんです

ね。なっているにもかかわらず、法律家も

作家も代理店も誰もそこに踏み込もうとし

ていない。それで著作権議論だけが進行し

ているという状況が私の捉えている現状な

んです。

山田 そんな状況はいろんな分野で起きて

いるんですね、マンガだけではなくて。

牧野 はい。特にマンガに顕著であると。

石田 著作権法の問題は、制作者の人たち

の問題、同じようなものが真似されて販売

されてしまうというような問題と、それか

らただ単にそれを見るという人たち――ユ

ーザーですね、そういう問題が一方であり

ますね。他方で、そういう作品を研究する

という可能性について考えると、分析して

本のなかで引用するという形で利用する、

別のレベルがあると思うんです。私自身は、

出来るだけ、こういう図版は引用しない論

文を書こうかなと思っています。

山田 実は私もそうです。

石田 図版そのものの引用は絶対に必要で

はないですよね。極論すると、著作権使用

料を払って別に出版するなり、カタログが

別にあればいい。要は、多くの人にとって

アクセス可能なものが他にあれば、必ずし

も論文の中で引用する必要はないわけです。

それとは別に、個人が研究したり言及した

りするために、それらの作品を見るのはま

ったく自由なはずです。図版を引用しなく

ても、文字で言及するのは自由なんで、そ

のへんの区別をはっきりさせておけば、研

究することは全く支障ないのではないかと

思います。作品や図版にアクセスできる場

さえ確保してあればですね。ただ、それに

は、研究者すべてが、それらにアクセスで

きるのかという問題があります。ある特定

の人たちしか研究できない、そういうこと

になりかねない。そういう問題をどう考え

るのか。院生クラスの若手でもテレビ研究

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42 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

したい人はたくさんいます。でも、テレビ

資料にみんなが自由にアクセスできるよう

な場が保証されていない。コマーシャルも

同様です。研究資料へのアクセスが限られ

ていればいるほど、研究者間の不平等、そ

ういう問題が懸念されます。

山田 おっしゃるように、私自身もCMに

ついて何か書くときは図版を使わないよう

にしているんですね。ただし日文研のデー

タベースに入っていて、その番号は何番で

すよということは書くんですが、そのデー

タベースも日文研まで来ないと見られませ

んし、研究者以外見せていないので、そう

いう檻に閉じ込めているのは非常に苦しい

面があるんですね。いかに図版を使いやす

くするかの方策の検討は避けて通れないと

思います。

石田 そういう合意が研究者間でまとまっ

ていけばいいのかもしれません。

小川 その研究成果の還元という意味では

教育の場で使いたいですよね。教育で使う

のはO.K.なんだけれども、そのソースは教

室に持って来るにはどうしたらいいかとい

う問題があります。

山田 日文研のものは学術的引用や授業目

的など、法的な問題のない利用については、

利用目的をちゃんと書いてもらって、これ

とこれが必要と利用申込書に書いてもらっ

ています。それを出してもらえればビデオ

テープにダビングして提供するようにして

います。これはまったく自己責任でやって

いくことなので、業界からなにかあるかも

しれませんが。

石田 授業で使えます、と言えば、この本

に引用されているものも借りられるわけで

すか?

山田 授業のためということであれば、ビ

デオテープでお出しすることはできます。

石田 それは、ものすごく手間がかかりま

すね。

山田 手間はかかります。今はデジタルで

CDに焼けば楽なんですけどねえ。ただデ

ジタルファイルで出すのは、やはり抵抗が

あるので、ビデオにしています。

石田 授業に使うから貸してくれ、と言う

人は意外と少ないのかもしれないですね。

私もある本の著者に、その本で分析対象に

なっているテレビ番組録画を貸してもらっ

たことがあります。授業用で必要な人は心

配するほど多くはないのかもしれません。

山田 そうですね。でも今でも時々知って

いる人からは複写させてほしいと来ますし、

これから学会で発表するからということで

あれば出していますね。こういう形で出し

ていいかということも、ACCに聞きに行っ

たことがあるんですが、それは聞かないで

くれと言われました。それは自己責任でや

れという意味だと理解しています。

牧野 この前、アメリカのライターのダニ

エル・キングさんという人がいて、6週間

走り回って日本のマンガのアニメの現状を

見たんです。その中で彼が会得したことは

「暗黙の了解」という言葉で言ったんです。

コミックマーケットなんかで使われている

ものは、ほとんどパロディー、先行作品、

人気作品のコピーなんですね。ですから、

完璧に著作権に触れているわけです。だけ

ど、それを著者も出版社もチェックしない

のは、それこそが将来に優秀作品を作るで

あろう作家の道場であるということで、そ

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ディスカッション 43

れを認めないんです。切ってしまえば自分

の首を絞めるんだということは暗黙の内に

了解されているということで「暗黙の了解」

という言葉を覚えて彼は帰っていったんで

す。それで「入会権」という話も出したん

です。そうしたら向こうでは、それは私ど

もはcommonsと言いますと。つまり共通の

広場があって、それはある一定の人々の所

有物であるけれど、そこを通過する権利と

いうのはあるということですね。そういう

ことをちゃんと声高に言っていかないと、

つまりここをしっかり締めればここで儲か

るみたいな、税関がいっぱいできちゃうよ

うな風潮になってはまずいのではないかと

いうことですね。

山田 実は commonsについては、私が今や

っている研究会で取り上げていまして、法

学者、社会学者、歴史学者、森林科学者な

どの人に来てもらっているんですけれども、

欧米のcommonsと、日本で入会というもの

と、似ているようで違うところもあるんで

すね。

牧野 もちろんそうです。

山田 そのへんについて具体的にどういう

制度を我々が持っていたのかとか、過去に

人類が自然環境をどう共有をしてきたのか

を、突っ込んで議論をしようとしています。

ただ、モノの世界の話と、無体物の世界と

は根本的に違うところがあって、自然環境

のcommonsで言われていることが、文化の

世界でどの程度当てはめられるかというと、

まだまだ研究の余地があると思います。文

化の領域は、競合性がない、誰かがそこを

占拠したら他の人がそれを使えないという

ことがない世界ですから。

牧野 ただ、さっきの少女マンガの例なん

ですが、真似しなさいと言ったために同じ

ものができた、ということは読者としては

読みやすいんです。作者側からいえば、ま

つげが3本あるのは私ので、2本はあたな

のよ、1本はあなたのよ、みたいなことに

なって、分けて権利を主張するかもしれな

いけれども、読者のほうから見れば同じよ

うなものだから読みやすい。つまり読売新

聞の活字と朝日新聞の活字は微妙に違うん

ですが、画数は違っていないし、形も違っ

ていないから読めるわけですね。ですから

活字には著作権はないわけです。少女マン

ガは絵であるけれども、一部活字的な共通

要素をもっている、というような言い方が

できる。

山田 印刷会社とお付き合いがあるんです

が、彼らは活字に権利を主張してくるんで

す。非常に強く主張してきます。彼らにと

ってそれしか守るものがない、活字もデザ

インの一つだと。

牧野 文字をデザインする人はもっと深刻

です。文字をデザインする人は著作権が絶

対あると言っている。ただたとえばコマチ

という書体なら、そういうのはあるんだけ

れど。認めてあげないといけないと思うん

ですが、やっぱりそれを認めると、みんな

が文字を使えなくなってしまうということ

があって、文字には著作権をもたせない…

…。その代わりに、前にあった写植の文字

盤にはあったんですね。写植の文字盤には

著作権という権利を認めていたんです。そ

のへんは深刻な問題でして、そういうとこ

ろを誰かが突っ込んで整理して言わないと、

その内に窒息してしまう。

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44 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

山田 視点をずらすということと絡めて言

うと、最近こんなことを考えているんです

ね。つまり何かに希少性を人工的に生じさ

せて、そこから価値を生み出すというのが

今の著作権制度の基本的な仕組みなんです。

けれどそうではなくて、どんどん拡散して

いく現象、つまり希少性の価値に対する拡

散性の価値のようなものにもっと注目して、

単に他のものを押さえ込むとか自分だけが

独占するということとは違う観点から文化

の振興なり産業振興を捉えていくべきなの

だろうと思っています。つまり希少性から

拡散性へというキーワードです。その点で

ポップカルチャーは非常にいい材料をたく

さん提供してくれます。マンガ・アニメも

そうですし、CMもそうです。

牧野 実はもうコントロールできないんで

す。コントロールできないからみんな言葉

にしたくないんです。言葉にしたとたんに、

自分がその言葉に縛られてしまうので、言

葉にしないのです。ということは、もう手

遅れだと言われるんですね。裏側の声では。

文化庁でも著作権を今から云々するのは…

…。それまでに既に野放しにしすぎたので、

誰も制御できない状態になってから著作権、

著作権と言っていると。じゃあ誰がやるの

か、法律家がやるのか、マンガ家・原作者

がやるのか、誰ももう縛れない状態なのに

縛ろうとしている。唯一縛る方法は判例な

んですね。じゃあ判例が正しいかというと、

何十年か後に判例はひどいものだったとい

う評価を受けるのが関の山です。この前の

「キャンディキャンディ」の判決なんぞは、

既にそう言われているんですね。判決を引

き出した男は、お前とんでもないことをや

ったなと仲間内から言われているんです。

そういうことがあって、法律家と最高裁の

裁判官だから正しいことをしたように思う

けれども、実はとんでもない間違いをやっ

た可能性がある。そういったものに後の人

は全部拘束されている。それに対して、何

かをどこかで起こさないと、私たちは何が

創作で何がコピーなのかがもうわからなく

なってしまっている。「キティちゃん」なん

て、あんなネコに著作権を認めちゃったら、

ネコの図形が描けないでしょ。一番単純な

絵を登録・主張しちゃっているわけですか

ら。本当は大問題なんですね。

石田 中国のディズニーランドもどきが著

作権侵害では、という報道がありましたね。

あれは、よく見るとやっぱり違うと思うん

ですが。

山田 似てないと思います。あれは違いが

あると思います。

石田 ああいう形で、報道という形でメデ

ィアが著作権侵害を先取りして国際問題化

するのは、どうでしょうか。空恐ろしいと

思います。

牧野 そうですね、恐ろしい……。

石田 著作権侵害と言えるものですかね?

山田 ああいうのを好むんですよね。

石田 あからさまな偽物ですよね。

山田 偽物みたいなものを好むんだと思い

ます。

石田 キッチュというか?

山田 「あれはパクッテいる」と攻撃する

のがことの外好きな人たちがいるんです。

石田 それはいますね、そういう人はね。

一方、パクリモノが好きな人もいる。やっ

ぱりポピュラーカルチャーの問題は国内の

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ディスカッション 45

問題だけに留まらない。

牧野 その人に、これとこれとはどうかと

一々現場でやらすとわからなくなっちゃい

ますね。つまり誰もこれとこれは似ている

か、これは創作かなんてことに線を引ける

人はいないと思います。それくらいオープ

ンなものが出すぎてしまって、本当は整理

できないのだと思います。しかし、ミッキ

ーマウスなんかは、顔がなくても丸い風船

で耳が二つついているのはミッキーマウス

だと言われてしまう。瓢箪から何からみん

なダメなんて。

辻 確かシルエットを使っただけで著作権

侵害で裁判になりましたね。

牧野 そうなんですよ。

辻 シルエットで。

石田 うるさく訴える人がいればいるほど、

法律の適応範囲が広がっていく。

牧野 そうですね。

辻 中国の例でも、あれはスケープゴート

の意味合いがすごく強いと思うんですね。

研究目的で出していること自体にイチャモ

ンを付ける昨今のクライアント、広告主は

いないと思うんですよ。スケープゴートに

されちゃうのが怖いなというところがある

んで、法律的にこれは明らかにリーガルな

んだというところは押さえておいた方がい

いだろうとは思っているんですが。

山田 もちろんコンプライアンスは大事な

ので、イリーガルなことはしてはいけない

と思います。

石田 だから予防線として尋ねるわけです

ね、出版社に。

難波 自分の知っている範囲では。学術引

用でも、一々そんなことやらずに使うよと

いう出版社もあるし……。

石田 学会誌とかも、引用に関する著作権

処理は著者責任と明記してありますよね。

だから何か訴えられたら本人、書いた人の

責任ですよと。

山田 私が経験した例では、図版使用の許

可を必ず取ってくださいよと言ったにもか

かわらず、これは学術書だから許可をとら

なくてもいいんだと言って出版社が無断掲

載をして、ところが出版契約書には図版の

掲載はすべて著者の責任と書いてありまし

た。困りましたけど、そういうこともあり

ます。

石田 今のところ判例とか前例はないです

ね。

辻 学術出版の場合、実際上まず訴訟沙汰

にすらないですよね。

石田 お金が大きく動かないからですかね。

ある意味で、覚悟さえあれば・・・。

牧野 それだったら訊かないほうがいいと

いうことなって……。TCJも訊くから担当

者は困るんで、訊かないでやってくれるぶ

んにはまあ、ということはあるんですね。

山田 日文研のデータベースを今後どのよ

うにしていこうかということを考えていま

す。少しずつ使い勝手をよくしていきたい

なというふうには思っています。うちの研

究室に来なくても文字情報とサムネールぐ

らいは京都精華大学とか立命館大学側から

も検索できるようにするぐらい第一歩かな

と思っております。さすがにまだインター

ネットで完全にオープンというところにす

ぐには行けないと思いますが、京都にある

CMに関する研究機関間で手軽に情報を共

有し合えるようにし、動画まではまだ無理

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46 テレビCM研究・関西アニメーション史研究

でも、動画に付随する情報の相互閲覧はや

りたいと思っています。

牧野 許可を取るのはむずかしいと思うん

ですけれど、例えば私がやったキリンビー

ル、キリンヴィバレッジ、キリンレモン、

のキリンのアニメーションはキリンの宣伝

部に「これはいいですね」みたいに言って、

一つずつを落としていくようなことですか

ね。「これは大丈夫です」「これはまだちょ

っと危ない」とか一つずつつぶしていった

ら、そうすれば映像として外からアクセス

できるみたいなことがある程度できるかも

しれません。昔の感覚でいったら、コマー

シャルは引き受けてもらえないというよう

なのが本当はあったはずなんですけれどね。

それがアニメーターの了解が取れないとか

いうと問題だし、音楽のミキサーがわから

ないということを言われてしまうと、むず

かしいと思いますが。

山田 京都精華、立命館、日文研の3ヶ所

を回らないと見られないというところを、

少し楽にして、そこから次のステップを考

えたいと思っています。

石田 横浜の「放送ライブラリー」には、

テレビ番組のデータベースがあり、研究者

室は研究者なら誰でも借りられます。狭い

部屋ですけれども。そこに、一定期間ずっ

と通えば、無料で、データベースを見なが

ら研究できます。それと同じような仕組み

が、京都で交通の便の良いこのあたりにあ

るといいかな、と思います。それと、イン

ターネット上で何がデータとして入ってい

るか検索ができるといいと思います。タイ

トルだけでも検索ができれば、欲しいもの

があるかないかが行く前にわかる。そうい

う仕組みがいいですね。