ufcパネルを用いた腐食鋼部材の性能回復特性に関...

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構造工学論文集 Vol.60A(2014 3 ) 土木学会 UFC パネルを用いた腐食鋼部材の性能回復特性に関する研究 Study on Performance Recovery Characteristics of Corroded Steel Members using UFC panels 勝山真規*,下里哲弘**,江里口玲*** Masanori Katsuyama, Tetsuhiro Shimozato, Akira Eriguchi *工修,株式会社 TTES(〒152-0037 東京都目黒区緑が丘 1-23-15[email protected] ** 博士( 工学) ,琉球大学准教授 工学部環境建設工学科(〒903-0213 沖縄県中頭郡西原町千原 1***太平洋セメント株式会社 中央研究所(〒285-8655 千葉県佐倉市大作 2-4-2Much corrosion damage has been observed in steel girders. In order to recover the performance of corroded steel members, we proposed a repair method using the UFC panels. The repair method has an advantage with corrosion resistance and simple workability. At first, Static tensile tests were conducted to clarify the basic performance of the bonding composite structures. Fatigue tests were also carried out to confirm the fatigue durability after the UFC panels were cracked. Shear loading capacity tests were conducted which the specimen was simulated the corroded I-girder shape repairing with the UFC panels. As a result, We clarify this recovery method has a sufficient repair effect. key Words: steel member, corrosion, UFC, performance recovery, retrofit, loading capacity, fatigue キーワード:鋼部材,腐食,UFC,性能回復,補修,耐荷力,疲労 1. はじめに 高度経済成長期に架設された鋼橋の多くで経年劣化が んでおり,1020 年後には供用開始から 50 年以上つ橋梁が全体の 50%を超過すると言われている.経年による損傷事例の多くを占めるものに飛来塩分による が挙げられる.腐食損傷は付着塩分や湿気の溜まり やすい桁端部に集中し,主桁下フランジ,ウェブ,補材の減厚,断面欠損および破断へと進行し,橋梁の耐力を低下させる非常に危険な損傷である 1) .腐食による しい損傷により落橋に繋がった事例 2) も報告されてり,補修・補強等の回復技術の確立が望まれている. 腐食損傷への対策は,再塗装を行うのが一般的である が,腐食減厚が進行している場合,鋼板をボルトにより 添接する当て板補修や部材の交換等が行われることが3) 6) .しかしながら,これらの補修は,母材への孔明 現場での溶接等の設備が必要になるなど施工が容易 ではない.また,腐食減厚が激しい箇所では,腐食面の により当て板接合に用いる高力ボルトの摩擦係数が できなくなる.さらに,補修後の当て板の再腐食と いう問題点がある.以上のことから,効率的かつ省力な施工が行えるとともに十分な腐食耐食性を有する補の提案が求められている. そこで,筆者らは,当該損傷箇所に効率的な補修をえる回復工法を検討してきた 7) 12) .検討において,補材には現場施工品質および強度の観点からプレキャスト の超高強度繊維補強コンクリート(以下 UFC 13) )に着目 し,母材との接合は現場施工性を考慮し,接着剤のみう工法を選定した.補修部は,腐食損傷が多発してい る支点部近傍の主桁下フランジとウェブの首溶接部周辺

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構造工学論文集Vol.60A(2014 年 3 月) 土木学会

UFCパネルを用いた腐食鋼部材の性能回復特性に関する研究

Study on Performance Recovery Characteristics of Corroded Steel Members using UFC panels

勝山真規*,下里哲弘**,江里口玲***

Masanori Katsuyama, Tetsuhiro Shimozato, Akira Eriguchi

*工修,株式会社TTES(〒152-0037東京都目黒区緑が丘1-23-15)

[email protected] ** 博士(工学),琉球大学准教授 工学部環境建設工学科(〒903-0213沖縄県中頭郡西原町千原 1)

***太平洋セメント株式会社 中央研究所(〒285-8655千葉県佐倉市大作 2-4-2)

Much corrosion damage has been observed in steel girders. In order to recover the performance of

corroded steel members, we proposed a repair method using the UFC panels. The repair method has an

advantage with corrosion resistance and simple workability. At first, Static tensile tests were conducted to

clarify the basic performance of the bonding composite structures. Fatigue tests were also carried out to

confirm the fatigue durability after the UFC panels were cracked. Shear loading capacity tests were

conducted which the specimen was simulated the corroded I-girder shape repairing with the UFC panels.

As a result, We clarify this recovery method has a sufficient repair effect.

key Words: steel member, corrosion, UFC, performance recovery, retrofit, loading capacity, fatigue キーワード:鋼部材,腐食,UFC,性能回復,補修,耐荷力,疲労

1. はじめに

高度経済成長期に架設された鋼橋の多くで経年劣化が

進んでおり,10~20 年後には供用開始から 50 年以上経

つ橋梁が全体の 50%を超過すると言われている.経年劣

化による損傷事例の多くを占めるものに飛来塩分による

腐食が挙げられる.腐食損傷は付着塩分や湿気の溜まり

やすい桁端部に集中し,主桁下フランジ,ウェブ,補剛

材の減厚,断面欠損および破断へと進行し,橋梁の耐荷

力を低下させる非常に危険な損傷である 1).腐食による

著しい損傷により落橋に繋がった事例 2)も報告されてお

り,補修・補強等の回復技術の確立が望まれている.

腐食損傷への対策は,再塗装を行うのが一般的である

が,腐食減厚が進行している場合,鋼板をボルトにより

添接する当て板補修や部材の交換等が行われることが多

い 3)~6).しかしながら,これらの補修は,母材への孔明

けや現場での溶接等の設備が必要になるなど施工が容易

ではない.また,腐食減厚が激しい箇所では,腐食面の

不陸により当て板接合に用いる高力ボルトの摩擦係数が

確保できなくなる.さらに,補修後の当て板の再腐食と

いう問題点がある.以上のことから,効率的かつ省力的

な施工が行えるとともに十分な腐食耐食性を有する補修

方法の提案が求められている.

そこで,筆者らは,当該損傷箇所に効率的な補修を行

える回復工法を検討してきた 7)~12).検討において,補修

材には現場施工品質および強度の観点からプレキャスト

の超高強度繊維補強コンクリート(以下 UFC13))に着目

し,母材との接合は現場施工性を考慮し,接着剤のみで

行う工法を選定した.補修部は,腐食損傷が多発してい

る支点部近傍の主桁下フランジとウェブの首溶接部周辺

Page 2: UFCパネルを用いた腐食鋼部材の性能回復特性に関 …ttes.co.jp/wproot/wp-content/uploads/2014/05/ec8e5973d9...UFC は,表-1 に示すとおり,通常のコンクリートと

を対象としている.補修の要求性能は,健全時と同程度

の剛性および強度の回復とした.本研究では,腐食減厚

の進行により低下した剛性および強度に対して,補修に

より健全相当まで回復可能でかつ実用的な工法を検討す

る.

本論文では,まず,静的引張試験により鋼板に UFC

パネルを接着接合した際の基本的な性能評価を行い,

UFC パネルのひび割れ後の挙動,母材への変形追従性

等を明らかにし,補修に必要な UFC パネル厚の算出式

を検討した.続いて,ひび割れ後の UFC パネル補修鋼

板の疲労耐久性を確認した.さらに,実橋への適用性を

確認する目的で,鋼 I 桁端部を模擬した試験体に UFC

パネルを接着して耐荷力試験を実施し,本回復工法の耐

荷力特性および補修効果を確認した.

2. 回復工法および材料の選定

本研究では,腐食減厚した鋼部材に対して,剛性およ

び強度を回復させることを要求性能とする.性能評価の

方法は,図-1 に示すとおり,剛性と強度の評価を荷重

とひずみの関係により評価する.ここで健全時の板厚が

有する鋼材の降伏荷重 Py を安全率ν(1.7)で除した値(Py/

ν)を「許容応力度レベル」,死・活荷重比 1:1 とし,2.0

で除した値(Py/2ν)を「活荷重レベル」と設定した.

本研究では,UFC パネルをアクリル系接着剤を用い

て鋼材に貼付する工法を選定した.その工法および材料

の選定理由は,①腐食耐久性を有すること,②補修が容

易である (単位体積重量が鋼より小さい) こと,③施工

しやすい(溶接やボルト接合を行わない)工法であるこ

と,の 3 点となる.

UFC は,表-1 に示すとおり,通常のコンクリートと

比較し,非常に高い圧縮・曲げ強度を有している.ま

た,ダクティリティが期待できること,透水係数が非常

に小さい材料であるため水分や塩分等が浸入しにくく耐

食性が高いこと,鋼材と比較して単位体積重量が小さい

こと,プレキャスト製品であるため形状の自由度が大き

く下フランジ-ウェブ首溶接部を覆うような形状の部材

を作成でき,品質も安定しているといった特徴を有して

いる.

接着剤は,鋼の変形に追随可能なように,一般にエポ

キシ系接着剤よりも柔軟な物性を有するアクリル系接着

剤を選定した.またアクリル系接着剤は,現場での計量

が容易であり計量誤差が硬化速度や接着品質に大きな影

響を及ぼさない等の現場施工性にも優れている.要求付

着性能は一般的に使用されている引張付着強度

1.0N/mm2以上となるものを使用した 14).

3. 引張試験による工法の基本性能評価

母材に作用した力が,接着剤を介し UFC パネル補修

材の荷重変位性状および破壊特性にどのような影響を与

えるかを確認するために,引張試験を行った.

3.1 試験体

引張試験体は,図-2に示すように,JIS Z2201 の 1 号

図-1 性能評価方法

表-1 UFCの主な物性値

図-2 引張試験体およびゲージ貼付位置

:UFC貼付ゲージ :鋼貼付ゲージひずみ

荷重

Py

Py/2ν

健全

腐食減厚

剛性・強度の低下

剛性・強度の回復

補修後

Py/ν

項目 単位 UFC普通

コンクリート

圧縮強度 N/mm2 200 36

曲げ強度 N/mm2 43 5

ひび割れ発生強度 N/mm2 10.8 3

単位体積重量 g/cm3 2.55 2.3

弾性係数 N/mm2 54,000 25,000

破壊エネルギー N/mm 27.12 約0.01

透水係数 cm/s 4*10-17 1*10-11

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試験片に準拠して作製した.試験パラメータを表-2 に

示す.鋼材の材質は SM490 で統一し,板厚は腐食減厚

を模擬した 6mm と健全時を模擬した 9mm の 2 種類と

した.補修に用いるUFC パネルは,厚さ 10, 20mm の 2

種類とし,接着剤厚は 1, 5mmの 2 種類とした.

ゲージ貼付位置は図-2 の通りである.鋼材両側側面

に鋼材用 5mm の弾性ひずみゲージ,UFC パネル表面に

30mmの弾性コンクリート用ひずみゲージを使用した.

3.2 試験方法

引張試験は,琉球大学所有の 2,000kN 万能試験機を用

いた.載荷は変位制御とし,1mm/分の載荷速度で試験

を行った.試験は,試験体の破断や剥離が生じるまで載

荷を続けた.また,試験中に載荷荷重 10kN ごとに多孔

質表面探傷剤を用いて UFC パネルのひび割れの確認を

行った.

3.3 試験結果および基本性能評価

(1) 合成挙動および破壊特性

試験結果一例として,UFC パネル厚 20mm で補修し

た際の荷重-ひずみ曲線を図-3 に示す.縦軸を荷重,横

軸をひずみとし,比較のために無補修時および鋼材(板

厚 9mm)で補修した場合の引張試験結果も併せて示す.

なお,UFC パネル補修時の鋼母材のプロットは左右両

側のひずみゲージの値を平均した値としている.UFC

パネル補修時は,図より UFC パネルのひび割れ発生ひ

ずみとなる約 200μまで,鋼材側面と UFC パネルに発

生するひずみは,ほぼ同じ挙動を示しており,完全合成

していることが確認できた.ひずみが 200μ前後に達す

ると UFC パネルに微細なひび割れが発生し,荷重の増

加に伴い,ひび割れ発生箇所が増加した(図-4).ひび割

れは UFC 表面に貼付したゲージ位置にも発生してお

り,荷重 100kN 程度でゲージ周辺のひび割れが増加

し,ひずみが急激に増加したためゲージが破断したと思

われる.しかしながら,ひび割れ発生後も合成効果は保

持され,降伏まで到達した.降伏荷重は無補修時と比較

して 11%程度増加した.降伏後,UFC パネルのひび割

れ幅は徐々に増加し,ひび割れ破断後に鋼材と剥離した

(図-5).なお,全ての試験体においても,ひび割れ前後

の挙動および無補修時よりも降伏点が高くなる挙動は同

図-3 荷重-ひずみ特性の一例

図-5 引張試験体UFCパネル破壊形態(200kN 載荷)

図-4 引張試験体UFCパネル ひび割れ (150kN 載

荷時

表-2 引張試験 試験体パラメータ

母材側面

UFC

側面

UFC

表面

UFC

側面

ひび割れ

ひび割れ

載荷方向

UFC

母材UFC

接着剤

材質板厚(mm)

材料板厚(mm)

9 なし 36 UFC 10 1 2

10 1 31 35 3

鋼板 9 1 3

20UFC

SM490

なし

母材 補修材試験体数

(個)

9

接着剤厚さ(mm)

0

25

50

75

100

125

150

175

200

0 400 800 1200 1600 2000 2400

鋼剥離

荷重(kN)

:無補修:UFC補修:UFC補修:UFC補修:鋼材補修UFCひび割れ

ひずみ(μ)

ひび割れ後も補修効果持続

‐鋼母材‐鋼母材‐UFC表面上側‐UFC表面下側‐鋼母材

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0

10

20

30

40

50

60

0 200 400 600 800 1000 1200

UFCの

弾性

係数(N/m

m2 ):E U

FC

ひずみ(μ):εs

:UFC10mm接着剤1mm母材9mm

:UFC20mm接着剤1mm母材9mm

:UFC20mm接着剤5mm母材9mm

:UFC10mm接着剤1mm母材6mm

60,000

50,000

40,000

30,000

20,000

10,000

0

様であった.

一方,鋼材で補修した場合は,高い剛性向上効果が確

認されたが,ひずみが 500μ程度に達すると補修材端部

で剥離が生じた.この剥離は急激に発生,進展し,完全

に母材と分離した.このことから,補修材に剛性が高い

材料を使用した場合,接着剤の伸び性能以上になると補

修材が母材の変形に追随できず,剥離するものと思われ

る.

以上のことより,UFC パネルは荷重の増加に伴い,

補修材である UFC パネル自身がひび割れることによ

り,補修効果は低下するが,母材の変形に追随し降伏ま

で剥離が生じず補修効果が保持されたと考えられる.こ

れは,通常のコンクリートは引張力に非常に弱いが,

UFC の場合,内部の鋼繊維がひび割れ発生後も引張力

に対し抵抗する高いダクティリティ効果があり,補修効

果が持続したと思われる.

(2) 性能回復に必要なUFC板厚算出式の提案

ひび割れ発生後の UFC パネルの補修効果を確認する

ために,ひび割れ発生後も UFC パネルの断面積は一

定,UFC パネルと鋼のひずみは同一であるという仮定

および軸力:F/A=σの関係から,UFC の弾性係数を算

出した.ここで,UFC パネルと鋼が剥離せず合成され

ていれば,両者は軸方向に同じ変位をしているため,ひ

ずみも同値になると考えられる.図-3 で UFC パネル

を用いて補修した場合に,ひび割れ発生後に補修効果が

低下したのは,ひび割れにより UFC パネルの伸び剛性

が低下したため,UFC パネル-鋼母材剛性版の剛性が低

下したと思われる.

弾性係数EUFC算出式は式(1)のとおり.

)//()/( sssUFCsUFC AEFAEE −×= ε ・・・(1)

ここに,EUFC:UFC パネルの弾性係数,AUFC:の補修

断面積,Es:鋼の弾性係数,As:鋼母材の断面積,F:

荷重,εs:鋼母材のひずみ

結果を図-6 に示す.縦軸を UFC パネルの弾性係

数,横軸をひずみとしている.また,本実験で使用した

鋼材(SM490 材)の引張試験結果より得られた各ひずみ値

を表-2 に示す.本工法が目標とする補修レベルは許容

応力度レベルであるため,ひずみのグラフ化範囲が図-

3 とは異なることに注意されたい.試験体ごとの結果の

ばらつきは小さかったため,試験結果はパラメータごと

に平均した値を用いた.図より,ひび割れが発生するひ

ずみ 200μ程度までは,健全状態における UFC パネル

の弾性係数 50(GPa)前後の値を示しており,ひび割れが

発生した後は材料降伏のような非線形挙動を示しながら

徐々に弾性係数が小さくなることがわかる.また,パラ

メータによらず,弾性係数の変化は同様の傾向を示して

いるため,UFC パネル厚,接着剤厚,母材厚が補修効

果に与える影響は小さいということが確認できた.

上記試験結果をもとに腐食減厚した鋼材の性能回復を

図れる UFC パネル必要板厚 tUFCを算出した.tUFC算出式

は式(2)のとおり.

tEEt UFCsUFC Δ×= / ・・・式(2)

ここに, tΔ :鋼材の腐食減厚量

また,図-6の縦軸をEs / EUFCに変換し,板厚算出の

ための二次近似曲線を追加したものを図-7 に示す.式

(2),図-7 の近似式および表-2 より算出したUFC パネ

図-6 ひずみ増加に伴うUFCパネル弾性係数の変化

図-7 ひずみの増加に伴う弾性係数比の変化

表-2 引張試験より得られたひずみ 降伏ひずみ εy (μ) 1778活荷重レベルひずみ εy/2ν (μ) 523許容応力度レベルひずみ εy/ν (μ) 1046

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0 200 400 600 800 1000 1200

Es/E

ufc弾性係数比

ひずみ(μ)

εy/2ν εy/ν

y=3e‐5x2+0.037x+4.19R2=0.98(近似式)

:UFC10mm接着剤1mm母材9mm

:UFC20mm接着剤1mm母材9mm

:UFC20mm接着剤5mm母材9mm

:UFC10mm接着剤1mm母材6mm

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荷重制御で行った.周波数は 7Hz とし,UFC パネルの

剥離が発生するまで載荷を続けた.剥離が発生しない場

合は,200 万回載荷後に疲労試験を終了した.ひび割

れ・剥離の判定は,動ひずみ計を用いたひずみ振幅の変

化と表面探傷剤を用いた目視で行った.

4.3 実験結果および耐久性評価

試験結果を図-8 に示す.縦軸をひずみ振幅とし,横

軸を荷重繰り返し回数とした.図より 200μ以上のひず

みが発生する場合は,試験開始直後に UFC パネル表面

にひび割れが確認された.しかしながら,ひび割れ発生

後もひずみの大きな変化は生じず,補修効果は保持され

ていることが確認できた.ひび割れ発生ひずみ前後の振

幅で試験を行った試験体 U10-C では 200 万回載荷後も

剥離は発生しなかった.しかしながら,活荷重レベル前

後のひずみ(500μ)を発生させた試験体U10-E では,9 万

回載荷時に UFC パネル端部より剥離が生じた(図-9).

荷重条件が等しく補修材料が異なる試験体 S9(鋼板補修)

ル板厚算出式をそれぞれ式(3),(4)にまとめる.

ttUFC Δ×= 18.10活 ・・・式(3)

ttUFC Δ×= 03.23許 ・・・式(4)

活荷重レベル(εy/2ν)までの補修を行うには式(3)を用

い,許容応力度レベル(εy/ν)までの補修を実施するに

は式(4)から UFC パネルの必要板厚を求めれば良いこと

となる.設計事例として,腐食減厚量が 2mm の場合,

活荷重レベルまでの回復に必要な UFC パネル板厚は,

式(3)より,20.36mm となる.ウェブを挟み込むように

両側から補修が可能な場合,UFC パネル板厚は 1/2 し,

10.18mm となるため,片側の UFC パネル板厚は 11mm

以上あれば十分ということとなる.

なお,本算出式は,引張試験により算出した式であ

り,端部の支点上補剛材等,圧縮域への補修時に使用す

る際には圧縮試験等を実施し,安全率等を設定するな

ど,更なる検討が必要と思われる.

4. 引張疲労試験による耐久性検討

前章で,UFC パネルを補修に用いた際の基本性能を

確認した.本章では,UFC パネルのひび割れ後の疲労

耐久性を確認するために,引張疲労試験を行った.

4.1 引張疲労試験体

疲労試験を実施した試験体は,上述の静的引張試験体

と同形状,同方法で製作した.試験パラメータは荷重振

幅とした(表-3).補修する鋼材は SM490 材,厚さは

9mm で統一し,UFC パネル厚さは 10mm で統一した.

試験体数は,パラメータごとに一体ずつである.また,

比較のために鋼材で補修した試験体も作製した.

4.2 試験方法

試験は,琉球大学所有の 200kN 疲労試験機を用いて

0

100

200

300

400

500

600

700

800

1.E+00 1.E+01 1.E+02 1.E+03 1.E+04 1.E+05 1.E+06

ひび割れ発生

ひび割れ発生

ひび割れ発生

ひび割れ発生

剥離発生

剥離発生

剥離発生

剥離発生

荷重繰り返し回数(回)

ひずみ

振幅(μ)

:U10‐A:S9 :U10‐C:U10‐B:U10‐F:U10‐D :U10‐E

表-3 疲労試験パラメータ

図-8 疲労試験結果

供試体名称

UFC厚(mm)

載荷条件

荷重振幅(kN)

S9 9(鋼板) 部分片振り引張 50

U10-A 10 部分片振り引張 10

U10-B 10 部分両振り 10

U10-C 10 部分片振り引張 30

U10-D 10 部分片振り引張 50

U10-E 10 部分両振り 50

U10-F 10 部分片振り引張 80

図-9 疲労試験後の試験体写真

母材

UFC

剥離

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5. せん断耐荷力試験

ここでは,実橋において最も腐食発生事例の多い鋼 I

桁端部の下フランジ-ウェブ首溶接部周辺を対象とし

た.補修は UFC パネルを用いて行い,桁端部は曲げよ

りもせん断が卓越するため,せん断耐荷力試験を行い,

本工法の耐荷力特性を検討した.

5.1 せん断耐荷力試験体

試験体は図-10 に示すように,SM400 材を用いた

ウェブの上下にフランジをすみ肉溶接した I 型断面試験

体とした 15),16).試験体中央には 500mm の間隔で垂直補

剛材を配置し,垂直補剛材と上下フランジの 4 辺で囲ま

れたウェブが着目パネルとなる.本試験では,着目パネ

と U10-D(UFC パネル補修)では,鋼で補修した S9 の方

がひずみは低減しており補修効果は高かった.しかしな

がら,S9 は 3 万回載荷時に剥離したのに対し,U10-D

は 50 万回時に剥離し,疲労耐久性は U10-D の方が高い

ということが確認できた.

以上のことから,ひび割れ発生レベルのひずみ振幅

(200μ程度)では,UFC パネルの剥離は発生せず,十分

な疲労耐久性を有していることが確認できた.また,剥

離は全て UFC パネル端部から生じていることから,断

面すなわち剛性が急変する箇所での応力集中が,剥離の

主要因と考えられる.今後,端部形状の改善による応力

集中の緩和やボルト等の併用継手等の検討を行う必要が

ある.

500

500

1750 1750 1750

載荷桁

支点1(ピンローラー)

支点2(ピン)

着目パネル

載荷装置13P

載荷装置23P横倒れ

防止枠横倒れ防止枠

図-10 試験載荷・支持条件

図-11 各試験体 着目パネル概要

490

100

健全 下部欠損 UFC‐L型 UFC‐ギプス

損傷・補修概要

写真

500

500

400 10 t=10

490

100t=10

単位:mm

欠損部

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支点2支点1

載荷装置1

載荷装置2

載荷桁1 試験桁 載荷桁2

着目パネル

ルのウェブ厚が 3.2mm(幅厚比パラメータ Rτ=1.58),

4.5mm(Rτ=1.12)の試験体 2 種類で実験を行った.図-11

に示す通り,①下フランジとウェブが健全に溶接されて

いる「健全」モデル,②腐食による減厚・孔食を模擬

し,ウェブを 10mm 切り欠いた「下部欠損」モデル,③

下部欠損モデルを厚さ 10mm,高さ 100mm の L 型 UFC

パネルで補修した「UFC-L 型」モデル,④下部欠損モ

デルを厚さ 10mm,高さ 100mm のギプス型 UFC パネル

でウェブから下フランジ上面,下フランジ下面までを覆

うように補修した「UFC-ギプス」モデルの 4 タイプの

合計 8 体の試験体にて試験を行った. UFC パネルの貼

付方法は,UFC-L 型は接着剤塗布により行い,UFC-ギ

プスは下フランジ下面側からの接着剤圧入により行った

(図-12).UFC-ギプスは下フランジ下面まで母材を覆う

ため,補修材周辺における腐食弱点の解決が期待できる

工法である.

5.2 試験装置および計測方法

試験は,琉球大学所有の 1,000kN サーボ型試験機で

行った.試験体および試験装置の設置状況を図-10,13

に示す.本試験では,荷重 P1:P2 の比を 1:3 として 2

点載荷・2 点支持することにより着目パネルにせん断力

を与えた 16).本載荷方法により着目パネルのせん断力が

一定で,かつ着目パネル中心で曲げモーメントが 0 とな

る.支点は,桁面内の曲げに対して単純支持できるピン

構造を採用し,支点 1 には橋軸方向に移動可能なロー

ラーを設置した.また,試験体の横倒れ変形を防止する

ため,各支点上に横倒れ防止枠を設置した.荷重は,載

荷装置 1 および 2 の 2 台のサーボ油圧ジャッキ(最大載

荷荷重 1,000kN/台)を用いてコンピュータ自動制御によ

りP1:P2 =1:3を保つように与えた.

計測は,ひずみゲージおよび変位計を用いた.着目パ

ネル周辺のゲージおよび変位計の配置は図-14 のとお

りである.変位計は各載荷装置直下にも設置した.ひず

みは主ひずみおよびその方向を計測するために 3 軸ゲー

ジを使用した.変位は,鉛直変位として垂直補剛材およ

び着目パネル中心直上の 3 点を,水平方向として着目パ

ネルウェブ面外方向の変位を対角線に沿って計測した.

5.3 実験結果

(1) 最大せん断力と破壊形態

図-13 載荷状況

:UFC:接着剤

〈UFC‐L型〉

ウェブ

下フランジ

接着剤塗布後UFC設置

ウェブ

下フランジ

UFC設置後接着剤圧入

〈UFC‐ギプス〉

図-12 UFCパネル補修方法(断面図) 図-14 ひずみゲージおよび変位計設置位置

支点

荷重

支点

荷重

〈3軸ゲージ貼付位置〉 〈変位計設置位置〉

:3軸ゲージ(両面):3軸ゲージ(片面)

:変位計

AA

A‐A

Page 8: UFCパネルを用いた腐食鋼部材の性能回復特性に関 …ttes.co.jp/wproot/wp-content/uploads/2014/05/ec8e5973d9...UFC は,表-1 に示すとおり,通常のコンクリートと

図-15,16 に最大せん断力-鉛直方向変位結果を示

す.縦軸は着目パネルに作用するせん断力,横軸は載荷

装置 2 の直下における鉛直変位となる.下部欠損モデル

では,試験体ウェブ厚に関わらず,健全時よりも 84~

88%程度の最大せん断力の低下となった.

UFC パネルにて下部欠損モデルを補修した UFC-L

型,UFC-ギプスでは,両モデルともウェブ厚 3.2,

4.5mm の両試験体で健全モデルの最大せん断力を上回っ

た.UFC-L 型では,荷重の増加に伴いひび割れが発生

したが,最大せん断力を示すまでは母材と UFC パネル

は剥離しなかった.最大せん断力発生後,図中に◯で示

した変位発生時にウェブと垂直補剛材近傍の UFC パネ

ル端部が大きな音とともに一部剥離した.その後,剥離

範囲の増加に伴い,UFC パネル中央部のひび割れ幅が

増加し,最終的には下フランジと UFC パネルも剥離し

た(図-17).UFC-ギプスも同様の破壊形態を示したが,

下フランジとの剥離は生じなかった.

以上より,下フランジとウェブ首溶接部の腐食損傷に

対して,本工法はせん断耐荷力を健全時まで回復可能で

ひび割れ

図-17 UFC-L型(ウェブ厚4.5mm) ひび割れ状況

図-19 荷重-面外変位グラフ(ウェブ厚 4.5mm)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

‐2 ‐1.5 ‐1 ‐0.5 0 0.5 1 1.5 2

S/Sy

δ/t

:下部欠損

:健全

:UFC‐L型

:UFC‐ギプス

:下部欠損:健全

:UFC‐L型 :UFC‐ギプス

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

‐2 ‐1.5 ‐1 ‐0.5 0 0.5 1 1.5 2

S/Sy

δ/t

:下部欠損

:健全

:UFC‐L型

:UFC‐ギプス

:下部欠損:健全

:UFC‐L型 :UFC‐ギプス

図-18 荷重-面外変位グラフ(ウェブ厚 3.2mm)

図-16 せん断力-鉛直変位グラフ(ウェブ厚 4.5mm)

0

100

200

300

400

0 5 10 15

S(kN

)

載荷装置直下2 鉛直変位(mm)

供試体名Smax

(kN)

Smax

/S健全

  健全 355 1.00

  下部欠損 298 0.84

  UFC-L型 379 1.07

  UFC-ギブス 371 1.05

UFC剥離

図-15 せん断力-鉛直変位グラフ(ウェブ厚 3.2mm)

0

100

200

300

400

0 5 10 15

S(kN

)

載荷装置直下2 鉛直変位(mm)

供試体名Smax

(kN)

Smax

/S健全

  健全 240 1.00

  下部欠損 211 0.88

  UFC-L型 252 1.05

  UFC-ギブス 295 1.23

UFC剥離

Page 9: UFCパネルを用いた腐食鋼部材の性能回復特性に関 …ttes.co.jp/wproot/wp-content/uploads/2014/05/ec8e5973d9...UFC は,表-1 に示すとおり,通常のコンクリートと

健全 下部欠損 UFC‐L型 UFC‐ギプス

表面

裏面

:着目パネル対角線:ウェブ面外変形範囲

き裂先端

き裂先端

着目パネル部板厚 3.2mm (Rτ=1.58)の実験終了後の面

外変形モードを図-20 に示す.なお,パネル板厚

4.5mm(Rτ=1.12)の試験体においても同様の面外変形モー

ドを示した.健全モデルは着目パネル対角線上に斜張力

場が形成されていた.下部欠損モデルでは,欠損先端か

らき裂が進展しておりき裂上端から逆側の着目パネル頂

点に斜張力場が形成された.下部欠損モデルを補修した

UFC-L 型,UFC-ギプスモデルでは,UFC パネル上端部

と着目パネル頂点を結ぶように斜張力場が形成されてい

ることが確認できる.健全時は,上下フランジおよび垂

直補剛材のアンカー作用により正方形の着目パネルの対

角方向すなわち 45 度方向に斜張力場が形成されたと考

えられる.これに対し,UFC パネルで補修した場合

は,下フランジ側のアンカー位置が UFC パネル上端に

変化したため,斜張力場の傾きが変化したものと思わ

れ,UFC パネル上端より上側でせん断力に抵抗してい

ると想定される.なお,UFC-L 型,UFC-ギプスモデル

とも,実験終了後に UFC パネルを撤去した際,下部欠

損部先端にき裂は発生していなかった.

健全時と UFC-L 型補修時の主ひずみ分布と主ひずみ

方向比較図を図-21 に示す.図は,最大せん断力載荷

時と座屈による面外変形が増大した最大せん断力載荷後

を比較しており,最大(引張側)主ひずみを赤線で示し,

最小(圧縮側)主ひずみを青線で示し,線分の長さはひず

あることが確認できた.これは,引張試験時と同様に

UFC パネルがひび割れることにより母材の変形に追従

するダクティリティ効果が発揮されたためと類推され

る.

また,UFC-ギプスモデルのように,下フランジ下面

まで覆うように UFC パネルを設置すると,試験で得ら

れたように下フランジとの剥離も生じにくく,落下によ

る二次災害の可能性も低減可能であると考えられる.

(2) 荷重-面外変位関係

試験から得られた荷重-面外変位関係を試験体厚さ別

に図-18,19 に示す.縦軸は載荷荷重から求めた着目

パネルの作用せん断力 S を降伏せん断力 Sy で除して無

次元化した.なお,降伏せん断力は降伏せん断応力度に

ウェブ断面積を乗じて求めた.

横軸は着目パネルウェブ中央点の面外変位δをその

ウェブ厚 tで除して無次元化したものである.

ウェブ厚 3.2mm の下部欠損モデルでは 0.4Sy 程度から

面外変形が急激に増加した.UFC パネルで補修した

UFC-L 型,UFC-ギプスモデルでは,1.0Sy 近傍まで面外

変位はほとんど増加せず,健全時の降伏せん断力を上

回ってから面外変形が増加する特性を確認した.

(3) 変形モードと主応力方向

図-20 実験終了後の面外変形モード(着目パネル板厚3.2mm)

Page 10: UFCパネルを用いた腐食鋼部材の性能回復特性に関 …ttes.co.jp/wproot/wp-content/uploads/2014/05/ec8e5973d9...UFC は,表-1 に示すとおり,通常のコンクリートと

〈UFC-L型(t=4.5mm)〉

〈健全(t=4.5mm)〉

:最大主応力:最小主応力:着目パネル対角線:UFC補修範囲

(b)最大せん断力発生後(a)最大せん断力発生時

(b)最大せん断力発生後(a)最大せん断力発生時

荷重増加

荷重増加

み量の大きさを示す.最大せん断力発生時には,健全時

および UFC-L 型補修とも主応力方向は,着目パネル対

角線とほぼ重なり 45 度方向となっていることが確認で

きる.最大せん断力発生後,面外変形が増加すると健全

時の最大主応力方向はほぼ 45 度で変化しておらず,

UFC-L 型では,45 度分布とはならず,最大主ひずみ方

向は 45 度よりも鋭角になっていることが確認できる.

なかでも UFC パネル上端に近い箇所では,UFC パネル

上端角部に主応力が変化していることが確認できる.

(4) 補修方法の違いによる耐荷力性状の考察

図-15 において,ウェブ厚 3.2mmのUFC-ギプスモデ

ルで,健全モデルよりもせん断耐荷力が増加した理由を

以下に示す.せん断座屈が生じている範囲は,図-20

で示すとおり,UFC パネル上端から上フランジ間のパ

ネルに生じていることが確認できる.補修によるパネル

アスペクト比を考慮に入れ算出される幅厚比パラメータ

は,R’τ=1.51 となり,健全時の Rτ=1.58 よりも小さく

なったため耐荷力が大きくなったと考えられる.ただ

し,これが成立するのは,最大せん断力発生時まで補修

部材が破壊されないことが必要となる.図-20 に示す

とおり,UFC-ギプスモデルは,せん断座屈後の斜張力

場アンカー位置も UFC パネル上端部付近に形成されて

いることが伺え,最大せん断力発生まで UFC パネルが

破壊せずに下フランジとウェブの切断部を拘束し,斜張

力場のアンカー効果を保持したと推察される.なお,

UFC-L 型モデルでは最大せん断力に至る前に UFC パネ

ルが破壊したため,大幅な耐荷力の上昇はなかったと考

えられる.

一方,ウェブ厚 4.5mm の場合は,健全時と UFC-ギプ

スモデルでほぼ同程度の耐荷力を示した.これは,幅厚

比パラメータが健全時Rτ=1.12,補修後R’τ=0.98 とほぼ

1.0 であるため,耐荷力の上昇がない幅厚比パラメータ

であることが理由の一つと推察される.

6. 結論

本研究では,UFC パネルを用いた腐食鋼部材の性能

回復工法の検討を目的とし,引張試験と疲労試験により

基本性能特性を評価し,せん断耐荷力試験により桁端部

の耐荷力特性と,回復効果を検証した. 以下に本研究の結論をまとめる.

1) 引張試験の結果より,UFC パネル補修鋼材は,UFC

パネルのひび割れ前までは完全合成挙動を示し,ひ

図-21 最大せん断力発生前後の主ひずみ方向比較(着目パネル板厚4.5mm)

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び割れ後は,一定の剛性を保持しながら降伏点まで

合成挙動を示し,鋼母材の降伏耐力を上回る結果と

なった.これは,UFC パネルがひび割れることによ

り,母材の変形に追随したためと思われる. 2) 引張試験結果から,補修に必要な UFC パネル板厚算

出式として,性能回復(活荷重,許容応力度)レベル

に合わせた算出式を示した. 3) 引張疲労試験により,本工法の疲労耐久性として,

UFC パネルにひび割れが発生する前後のひずみ振幅

下では剥離は生じにくいことを確認した.今後は活

荷重レベルおよび許容応力度レベルでも剥離が生じ

ないような接合方法を考える必要がある. 4) せん断耐荷力試験により,腐食を模擬した下部欠損

試験体を UFC パネルで補修することで,健全時のせ

ん断耐荷力まで耐荷力が回復する補修効果があるこ

とを確認した. 今後は,FEM 解析を実施し,座屈挙動を明らかにす

る必要があると考えている.また,支点上補剛材の腐

食損傷を対象とした圧縮域での試験を実施し,補修適

用箇所に合わせた UFC パネル板厚算出式やその形状等

に関して検討する予定である.

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