· wollensakらにより開発された治療法で、長波長紫外線(ultraviolet a:uva

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1 2017 年 JSCRS 総会 インストラクションコース1 『角膜クロスリンキング 急性水腫・角膜移植0を目指して!』 Early application CXL; not to see any hydrops and keratoplasty in keratoconus patients. 島崎 潤(東京歯科大学市川) 加藤直子(埼玉医科大学) 井手 武(東京ビジョンアイクリニック阿佐ヶ谷) 愛新覚羅 維(東京大) 神谷 和孝 (北里大学) 許斐謙二(東京歯科大学市川) 小島隆司(慶應義塾大学・岐阜赤十字病院)

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2017 年 JSCRS 総会 インストラクションコース1

『角膜クロスリンキング 急性水腫・角膜移植0を目指して!』

Early application CXL; not to see any hydrops and keratoplasty in

keratoconus patients.

島崎 潤(東京歯科大学市川)

加藤直子(埼玉医科大学)

井手 武(東京ビジョンアイクリニック阿佐ヶ谷)

愛新覚羅 維(東京大)

神谷 和孝 (北里大学)

許斐謙二(東京歯科大学市川)

小島隆司(慶應義塾大学・岐阜赤十字病院)

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【抄録】 円錐角膜は日常診療で必ず遭遇する疾患だが、角膜クロスリンキング(CXL)により進行を停止させることができるようになったことはまだあまり知られていない。CXL は米国で2016年に FDA の承認が得られ、欧米では標準治療となりつつある。今回のインストラクションコースでは、CXL について知らない方でも CXL について理解し CXL 施行施設に的確に紹介できるようになること、CXL 手術について患者に正確に説明できるようになること、そして、自ら手術を施行するために一歩踏み出すことを目的とする。そのために、まずは、昨今の円錐角膜治療の変遷について解説し(加藤)、円錐角膜を見落とさないためのポイント、円錐角膜を見つけた場合どこに注意して経過観察をすればいいのか、進行はどのように評価するべきなのかを説明する(井手)。また実際のCXLはどのような手術であるのか(愛新覚羅)、CXL施行施設に紹介する際に、必要となる情報や紹介の時期など紹介のポイントを説明する(神谷)。CXL手術を今後始めたい医師のために、導入のポイントや手術の実際について解説する(許斐)。そして、CXL手術は非常に安全な手術で術後のケアはそれほど大変では無いが、稀に起こる合併症の対応や術後管理及び逆紹介後の診察のポイントも提示する(小島)。CXLの普及により日本から急性水腫や角膜移植適応になる症例がいなくなることを目標に、具体例を呈示しながらわかりやすく解説する。

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1.円錐角膜治療の変遷 加藤 直子(埼玉医科大学)

円錐角膜に対するハードコンタクトレンズ処方と全層角膜移植が行われるようになったのは、ともに 20世紀半ばのことである。それから約 50年間、円錐角膜の屈折矯正は、ハードコンタクトレンズと角膜移植に限定されてきた。

21 世紀に入るころから屈折矯正手術の進歩により、角膜内リング、有水晶体眼内レンズが円錐角膜の屈折矯正に用いられるようになってきた。そして、2003 年に円錐角膜の進行を停止させる治療として、角膜クロスリンキングが登場した。

現在の円錐角膜治療におけるフローチャートを示す。

2016 年末に円錐角膜研究会が行った調査では、角膜クロスリンキングは国

内では 2007 年から施術が開始されており、以後しばらくはゆっくりと増加して来た。現在、進行性円錐角膜に対する角膜クロスリンキングの施術数は年間 130~150例と推測される。しかし、施設数、施術数ともに 2015年以降は増加していない。一方で、国内の円錐角膜患者は5~20万人ほどいると推定されており、今後は早期発見、早期治療の重要性が増すと考えられる。

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施設数

施行施設数

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眼数

施術数

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2. 円錐角膜の発見のコツと経過観察 井手 武(東京ビジョンアイクリニック阿佐ヶ谷)

・ 円錐角膜は成人病や緑内障と同じく「SILENT DISEASE」(静かな疾患)に

属し、SILENT DISEASE に共通するのは、初期にはほとんど症状がなく本

人も気が付かないうちに病気が進行する点で、気がついた時には病状がかな

り進行。

・ 緑内障は眼科での代表的な SILENT DISEASEである。視神経乳頭の観察や

最近の OCTの発展と普及により通常の診察時に preperimetric glaucoma(PPG)が見つかり注意すべき症例を早期に発見できるようになっている。

・ 円錐角膜の新たな治療の出現により早期介入が出来るようになったため早

期の発見が必要になってきている。

・ 緑内障と異なり臨床実地における円錐角膜(疑)の平均的な診断能力は残念

ながら上がっていない。勿論、技術的に円錐角膜を早期発見可能な形状解析

装置は開発・発売され、採用している施設も存在する。しかし、そのような

診断装置を導入している施設は多くなく、そもそも疑わない限り紹介も出来

ないため実際には円錐角膜(疑い)症例が多く見逃されていると考えられる。

(下図)

本発表では、診断機器が無い場合の発見と発見した場合の経過観察のコツにつ

いて概論する

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3.角膜クロスリンキングの実際 愛新覚羅 維(東京大学医学部附属病院眼科) 角膜クロスリンキング(Corneal Crosslinking : CXL)は2003年にWollensakらにより開発された治療法で、長波長紫外線(ultraviolet A:UVA)に対するリボフラビンの感受性を利用し、角膜実質コラーゲンの架橋を強め、剛性を高める方法である。現在まで世界中で20万眼以上施術されており、円錐角膜、レーシック後角膜拡張症、ペルーシド角膜辺縁変性等の進行性角膜拡張疾患の進行を抑制するための治療法として有効性と安全性が確立されてきた。 Ⅰ.CXL の原理 370nmのUVAで励起された光感受性物質であるリボフラビンが酸素分子との反応により活性酸素の一種である一重項酸素を産生し、角膜実質コラーゲン線維の架橋結合を増加させる。その結果、角膜全体の強度が高まる。 ただし、UVAによる角膜内皮障害を予防するために角膜厚は一定の厚さが必要である。 Ⅱ.CXL の標準法 Wollensak らが提案したDresden 法は標準法として広く使われており、手順は以下通りである。 ・ 点眼麻酔 ・ 角膜上皮剥離 ・ 等張性 0.1%リボフラビン点眼液を 30分間点眼 ・ 角膜厚を測定 400μm以上:等張性リボフラビン点眼液を継続点眼 400μm未満:低張性リボフラビン点眼液を 400μm以上になるまで頻回

点眼 ・ 紫外線照射装置にてUVAを 3mW/cm2の照射強度で 30分間照射 ・ 保護用コンタクトレンズを装着、抗生剤を点眼 Ⅲ. CXL の改良法 標準法の短所として1時間以上に及ぶ手術時間の長さと、角膜上皮掻爬に伴う疼痛、易感染性、角膜ヘイズ等の合併症が挙げられ、前者を改善させるために高速 CXL、後者を改善させるために経上皮 CXLが開発された。

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1)高速CXL(Accelerated CXL)

高速法は「光化学反応の反応量は光の照射強度と照射時間の積、すなわち総エネルギー量が一定であれば同等の効果が得られる」Bunsen-Roscoeの法則に基づく高出力を用いる短時間照射の方法である。豚眼実験の結果、CXLでは45mW/cm2以下の照射強度までならBunsen-Roscoeの法則に従うと考えられる。現在複数のメーカーから高速法にも対応可能な第二世代のデバイスが発売され、最短2分40秒の照射時間で施術が可能となった。 2)経上皮CXL(Transepithelial CXL: TE-CXL、Epithelium-on CXL:Epi-on

CXL) 経上皮法は2010年に報告した手法である。角膜上皮剥離の代わりに角膜上皮のバリアを破壊し、薬剤の浸透性を上げるケミカルエンハンサーを添加した強化リボフラビンを用い、リボフラビンを実質内に浸透させる。角膜上皮を剥がないことでEpi-on CXLとも呼ばれ、それに対して角膜上皮を剥ぐ従来法はEpi-off CXLと呼ばれる。 角膜上皮剥離を行わないため、リボフラビンの浸透性がEpi-off CXLより低いが、術後合併症及び疼痛が少なく、視力が良好な初期症例や小児への応用が期待できる。また角膜上皮厚を含めうるため適応は380μm以上(メーカー推奨330μm以上)と広がり、進行症例でも適応になる場合がある。 Ⅳ. CXL の治療成績 標準法の治療成績はこれまで無作為比較化試験を含む多くのスタディーで検討されており、最長 10年にわたり有効かつ安全な治療であることが証明された。ただし、術後 2~6週に角膜実質中層に現れるヘイズ、及び稀にみられる角膜実質瘢痕、無菌性角膜浸潤、感染性角膜炎等の合併症に注意する必要がある。 高速 CXLの治療成績は標準法とほぼ同様である報告が多いが、やや弱いと示唆する文献もある。経上皮CXLは術後合併症が殆ど認められないが、治療成績は標準法とほぼ同様、標準法よりやや弱いと報告によって様々であり、さらなる検証が必要である。

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4.手術適応、紹介のポイント 神谷 和孝(北里大)

【CXL の手術適応】 ①進行性の円錐角膜 24 ヶ月間で以下の 1つ以上を満たすもの

角膜形状解析における角膜屈折力最大値(Kmax)が 1.0D 以上増加 自覚乱視度数が 1.0D以上増加 自覚屈折度数(等価球面)が 1.0D以上増加 使用するHCLのベースカーブが 0.1mm以上減少

②最菲薄部角膜厚が 400μm以上(Epi-on CXL は 330μm以上) ※ただし、基準に満たない症例でも、手術中に低張リボフラビン溶液あるいは蒸留水点眼を行い、400μm以上に達する場合は行うことがある。 【紹介のポイント】 上記の手術適応条件を満たす患者さんがいたら、積極的にCXL施行施設に紹介することをお勧めする。患者さんの自覚的な見え方の変化も参考となり得る。特に円錐角膜が進行しやすい 10~20 代の症例では、経過観察も含めて専門施設への紹介が望ましい。 病状の進行の有無を考える上で、紹介時にこれまでの裸眼・矯正視力、角膜形状解析、角膜厚、ハードコンタクトレンズ等の推移データを添付した方が好ましい。 現在のCXL装置は国内未承認であり、自由診療あるいは臨床試験で行われている。CXL の年齢制限はないが、通常 14 歳以上を適応としていることが多い。施行施設によって手術方法や費用が異なり、総合的に考慮して患者の希望に沿って選ぶ必要がある。

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4. 角膜クロスリンキングの導入と手術の実際 許斐 健二(東京歯科大学市川)

【導入のポイント】 • 角膜クロスリンキング(以下、CXL)に用いるUVAを照射する機器、及びリボフラビンの

点眼液については、いずれも日本で薬事承認されたものがない。よって、これらの機器及び点眼液を導入する場合には、海外から医師が個人的に購入する形となる。

• 導入すべき機器等としては、欧州でCEマークを取得しているもの、もしくは米国のFDAの承認を得ているもののいずれかになる。

• 日本での薬事承認を見据え、今後機器等を導入する場合は、既に米国のFDAで承認されたものを購入するのがよい。

• 導入する際に、CXL を医療機関としてどのように扱うのか、自由診療とするのか、臨床研究とするのか、あるいは先進医療や患者申出療養とするのか、決めておくとよい。

• 自由診療以外を選択する場合、実際に施術するための準備が自由診療以上に必要となる。 • 術中に角膜厚を計測するパキメーターが必要なので、医療施設にない場合には導入時に併せ

て購入等を検討。 【手術のポイント】 • 手術は日帰りで可能。 • 術中にリボフラビンが前房内に移行していることを確認するために、細隙灯顕微鏡が必要。 • 患者を手術室に呼び入れる前に、UV照射機器が正常に作動することや、点眼液の使用期限

が過ぎていないことを確認。 • 術式を標準的なDresden法とするのか、より短時間での照射となる高速CXLとするのか、

あるいは経上皮CXLとするのか、術前に決めておく必要がある。それによって、上皮の剥離を行うかが決まる。

• 上皮の剥離は用手的に鈍的に行うか、エキシマレーザーを用いる方法もある。剥離する範囲は通常径8mm程度。

• リボフラビン点眼中は開瞼器を緩める・外す等、閉瞼可能にするとよい。 • 点眼終了時に、角膜厚の測定と前房内へのリボフラビンの移行を確認。 • 角膜厚が400μm以下の場合は、低張性リボフラビン点眼液等を追加し、

角膜厚が400m以上になるまで継続。 400um以上にならない場合、手術中止を含めた判断が必要。

• UVA照射中もリボフラビンの点眼は継続。 UVAの照射時間が短時間の方が、患者負担を軽減可能。

• 施術は患者とコミュニケーションをとりながら実施。 • 術終了時には保護用のソフトコンタクトレンズを装着し、点眼等をする。 本発表では、CXLの導入時、及び手術の際におけるポイントについて、より具体的に論じていく。

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6. 術後管理、逆紹介後の診察のポイント 小島隆司(慶應義塾大学 岐阜赤十字病院眼科)

1.術後点眼 当院(岐阜日赤)では、手術後1週間はクラビット、サンベタゾン、0.1%ヒアルロン酸4回、1週後からステロイドのみ 0.1%フルメトロンへ変更し、術後 1 ヶ月からはクラビットは中止、0.1%フルメトロンと0.1%ヒアルロン酸を2回3ヶ月まで使用している。ステロイドの使用は術後の炎症や上皮下混濁の程度によって調整している。 2.術後の診察間隔 術後は経過が問題無い場合は、翌日、1週、1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月その後は半年毎に経過観察している。 3.術後管理のポイント 角膜クロスリンキング後の合併症は稀であるが、常に念頭において診療に当たることが重要である。上皮を剥離して行う通常の角膜クロスリンキングにおいては、上皮欠損がある間は感染リスクがある。このため速やかに上皮化を完了させることが、上皮下混濁や感染予防に重要である。上皮化が完了するまでは保護用のソフトコンタクトレンズを連続装用させると、ほとんどの症例で1週間以内に上皮化は完了する。感染の報告は症例報告レベルであるが報告されており、感染を疑う場合は速やかに擦過培養を行い原因菌の精査を行い、ステロイド点眼は中止する必要がある。上皮下混濁は術後早期にほとんどの症例で起こるが、術後3ヶ月の時点でほとんど消失する。 術後のハードコンタクトレンズの装用は感染リスクなどを考え、上皮が安定した術後1ヶ月時点で処方もしくは再開を判断することが多い。日常生活の制限からどうしても早期から使用する場合もあるが、その際は慎重に経過を見ていく必要がある。 円錐角膜の進行を評価していくことも重要であり、術後1ヶ月以降は前眼部OCT、角膜トポグラフィー等の角膜形状解析装置でK値の変化を追いかけていく。上皮を剥離する影響のため、術後 1 ヶ月では一旦角膜はスティープ化するが、その後徐々にフラット化するのが一般的である。5~10%で再発の報告があり、若年齢は特に長期的な経過観察が重要である。 4.患者教育 対象が若い方が多いためか、術後の定期フォローのドロップアウトが時に見受けられる。手術前に、まだ新しい治療で術後も長期間の経過観察が必要であること、術後はヘイズの治療などで点眼薬の変更が必要になる事、再度進行する可能性もあり得ることなどを説明し定期受診を促している。また定期受診しない患者に対しては葉書を送るなどして受診を呼びかけることも行っている。 5.逆紹介後の診察のポイント 専門の施設から逆紹介を受けた場合は、上記に則り経過観察をしていく。角膜形状解析装置がない場合は、オートケラト、自覚屈折、ハードコンタクトレンズのフィッティングなどに変化が無いか注意して悪化が疑われるようであれば専門の施設に紹介して精査を行う