value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動...

自分らしく、ともに生きる年の重ね方 Value aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」 つながり社会 暮らす―「つながり社会」を語る 「社会とつながるインフラの創出」 「生活のなかにある、自然体な出会いの場」 提 言 「Value aging」の提唱 自分らしく生きるための高齢者の自覚と 自立支援介護への転換 高齢社会を活かすために不可欠な つながり の再構築 自分らしく、ともに生きる年の重ね方 Value agingへ向けて Vol. 4 はじめに Value aging 研究会の目的と背景 Value aging2本柱 その1 Value aging2本柱 その2

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Page 1: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

自分らしく、ともに生きる年の重ね方

Value aging 白書

   自立支援介護自立支援介護のポイント

運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」

「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

   

   つながり社会暮らす―「つながり社会」を語る

「社会とつながるインフラの創出」

「生活のなかにある、自然体な出会いの場」

提 言「Value aging」の提唱

自分らしく生きるための高齢者の自覚と“自立支援介護”への転換

高齢社会を活かすために不可欠な“つながり”の再構築

自分らしく、ともに生きる年の重ね方“Value aging”へ向けて

Vol.4はじめに Value aging 研究会の目的と背景

一人ひとりが自分らしさを大切にしながら、健康な生活を送り、そして社会と

つながりながら暮らしていく。そのような年の重ね方を「Value aging」と名付

けました。本白書は「Value aging」という考え方を軸としながら、日本の

高齢化社会について考えていくものです。

バリューエイジング

バリューエイジング

自分らしく、ともに生きる年の重ね方

2013年1月

株式会社サンケイビルウェルケアValue aging研究会 事務局

Value agingの2本柱 その1

Value agingの2本柱 その2

Page 2: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

Value aging 研究会の目的と背景

は じ め に

 急速に高齢化が進行する今日の社会。日本は既に「超高齢社会」に突入しており、

2015年には日本の高齢者比率が25%を上回ります。そして、2030年以降は国民のおよ

そ3人に1人が高齢者となり、高齢化率はさらに上がり続けるという状況です。

 

 私たちは、この超高齢社会について明るく前向きな社会提言を行うべく「Value

aging(バリューエイジング)研究会」を発足いたしました。

 

 高齢者がそれぞれの心身の状態に応じて自立する。そして、経験に裏打ちされた豊富

な知見を提供する側に回り、世代を超えてつながり、相互に貢献しあう関係を保つ。私

たちは、この「自立」と「つながり」のある新しい加齢スタイルを「Value aging」と名

付けました。年齢を重ねても社会とのつながりを失うことなく、心身の状態に合わせて

活き活きと暮らし続けることのできるValue agingというスタイルや価値観が浸透し、拡

がることにより、日本は世界に先駆けた新しい高齢社会のモデルになれるのだと確信し

ています。

 本研究会では、様々な分野で活躍されValue agingを実現されている高齢者の方々や

Value agingな社会を実現するために様々な取り組みを行っている方々のご紹介、Value aging

を実現するために必要なファクターや課題の研究などを通じて、これからの日本の豊か

な暮らしと価値観について考えていきたいと思います。

 また、この研究活動を通じて、Value aging時代の高齢者の強みを再認識し、高齢者も

若者も子供たちも、世代を超えて豊かな未来社会に向けた力にしていくことを目指して

いきたいと思います。

2013年1月

株式会社サンケイビルウェルケアValue aging研究会 事務局

現状分析 ・ 問題提起超高齢社会の到来

高齢者の肉体的健康

高齢者の意識と暮らし

新しい高齢社会創造のカギ

提 言「Value aging」の提唱

自分らしく生きるための高齢者の自覚と“自立支援介護”への転換

高齢社会を活かすために不可欠な“つながり”の再構築

自分らしく、社会とともに生きる年の重ね方“Value aging”へ向けて

   自立支援介護今なぜ自立支援が必要なのか

自立支援介護とは(基本)

自立支援介護のポイント

   つながり社会「つながり社会」を語る

知恵を育てる、静のイノベーション

シニアの力を未来へつなげる

出会いのエネルギー

世代を超えてつながるコミュニティ

社会とつながるインフラの創出

生活のなかにある、自然体な出会いの場

対 談「Value aging 立国へ向けて」

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Contents

舘野登志郎氏株式会社サンケイビルウェルケア 代表取締役社長 内閣総理大臣官邸 国際広報室 参事官

加 治 慶 光氏

(前川製作所)

(ディレクトフォース)

(松井 久子 氏)

(シブヤ大学)

(日産自動車)

(芝の家)

1白書

Value agingの2本柱 その1

Value agingの2本柱 その2

Page 3: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

提 言「Value aging」の提唱

Value aging白書Vol.1で見てきたように、わが国の平均寿命は世界でも最高水準であり、今や高齢

期は私たち一人ひとりにとって決して他人事では

ない時代となっています。長い高齢期をどのよう

に過ごすのか。それは個人にとっても社会にとっ

ても極めて大きな課題なのです。

しかし、この課題に世界でいち早く直面しつつあ

るにもかかわらず、われわれはまだどのように来

るべき高齢社会に対処すべきなのか、その拠りど

ころを見いだせていません。新しい社会のありよ

うと、そのなかでの高齢者の立ち位置について、

指針となるビジョンは残念ながらまだ見えていな

いのです。高齢者をとりまく周囲の人々が当の高

齢者を抜きにして、財政、医療、経済などの観点

で各論を論じているだけの状況です。これでは、

新しい社会のコンセプトを現実感を持って創造す

ることは不可能でしょう。そこには、高齢者自身

による、新しい社会の創造へ立ち向かうエネル

ギーが必要なのです。周りがすべて決めてしまう

のではなく、高齢者自身が、いつまでも活力を

持って、自分らしい生き方のできる社会と生活を

創りだしていかないといけないのではないでしょ

うか。それが、高齢者が最も生き生きと暮らせる

社会の実現につながると思うのです。

私たちはそのような問題意識をもとに、現実の世

界でさまざまにご活躍されている高齢者、安易な

介護を避け、介護が必要な状態になることを予防

したり、改善したりする努力をされている医療介

護関係者のご協力を得て、高齢者の中から考える

高齢社会という観点で、新しい高齢社会像をまと

めてみました。そのコンセプトが「Value aging」

なのです。

 以下では、「Value aging」の基本コンセプトを

紹介し、次章では、その中核になる二つの柱、

「自立支援介護」と「つながり社会」について、

理論と実践の現場をみていきたいと思います。

1.自分らしく生きる“自立支援介護”への転換

 超高齢社会のなかで、人生の最期まで個人として尊重され、その人らしく年を重ねていくことは誰もが望むものであり、このことはたとえ介護が必要となった場合でも同じであると考えます。つまり、高齢者介護では、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持して、高齢者自身が自らやりたいことを持ち、尊厳を保つことができるような形で介護サービスは提供される必要があるのです。実際、このことは介護保険法においても定められているのですが、まだまだ認識も実態もついてきていないのです。

 こうした身体的・精神的な自立に光を当てる思想をもとに、高齢者それぞれの心身の状態に応じて自立を促す介護方法を「自立支援介護」と呼びます。自立支援介護は、本人の体調を整え、活動性を上げることで体力を回復し、本人の意欲や活力を取り戻すことを基本的精神としています。この基盤があってこそ、介護の質を飛躍的に高め、結果的に高齢者自身の尊厳が守られ、その人らしい自立した質の高い生活を送ることが可能になるのです。

 実際に特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護施設において、入所者がおむつを使用せずにトイレでの排便(自然排便)を実現するなど具体的な成果をあげています。まさに理論だけに留まらない実践的な介護方法として注目されています。

 自立した生活の実現と言うと、要望を全て聞いてくれると思われるかもしれませんが、自立支援介護は、単に高齢者の希望をなんでも聞き入れて、趣味嗜好を叶えることを旨とするものではありません。ご本人が望むことをご本人が叶えるために、ご本人の体調を整える介護を行うことを基本にしているのです。その意味ではまさにご本人の意思を尊重する双方向の介護なのです。

 もちろん、このためのハードルは決して低くはありません。個々の高齢者の生活様式や嗜好はますます多様化しており、介護を提供する側には高齢者の生活習慣や価値観に沿ったサポートができるよう、多様な方法を模索することが求められます。また、介護を受ける高齢者も、自分の人生を自分で決め、健康で生き生きとした高齢期を送るための人生の準備をしていくことが必要となるのです。それゆえ、自立支援介護の思想は高齢者だけではなく、その一歩も二歩も手前の時期において、自分らしく生きるとは何か、について考えさせてくれるものであり、われわれが人生をより積極的に生きることにつながる重要なコンセプトなのです。

2.高齢社会を活かすために不可欠な、“つながり”の再構築

 高齢になるにつれ、定年や家族の分散などにより、個人と社会とのつながりは次第に希薄になっていきます。これまでの日本では、人は若いうちは社会を支える側であるのに対し、リタイアを迎えるやいなや、周囲も本人も今度は逆に社会が支えるべき存在だと認識してしまい、高齢者はいわばご隠居扱いされてしまう面がありました。年金をもらい悠 自々適となるハッピーリタイアメントが語られた時代もありました。⦆ しかし、少子化が同時進行するこれからの日本社会では、生涯を楽しく暮らすには年金だけでは不安であり、またいったん要介護状態になってしまうとそれが延 と々続きかねないのです。それゆえ高齢期をハッピーに過ごすには、ハッピーリタイアメントの発想を超えていく必要があるのです。高齢者=支えられる存在という価値観を逆転し、高齢者がそれぞれの心身の状態に応じて、若い世代と共存し、経験に裏打ちされた豊富な知見を提供する側に回ることが求められるのではないでしょうか。高齢者自身が自分の能力を活かし社会に積極的に参加することは、健康づくりや介護予防にもなり、そして、より自分らしく生きがいのある充実した人生を送ることにつながります。また高齢者の知を活かした深みのある質の高い社会の創造にもつながります。 そしてそれは働き手の確保と高質な市場の創造につながり、経済的にも社会的にも好循環を生み出すのです。世代を超えて相互に貢献しあう社会、すなわち「つながり社会」を創生していくことが大切なのです。⦆

 そのつながりのポイントはなんでしょうか。私達の日々 の生活の基本は衣食住ですが、豊かに年を重ねるにはそれだけでは十分ではありません。自分らしく社会の役に立つ仕事をすること、人生をもっと楽しみ、相手も楽しませること、そして、地域社会の中で助け合いながら暮らすこと。この「働く」「楽しむ」「暮らす」こそが、世代を超えて相互に貢献し合う関係性を保ち、社会とのつながりを維持するのに重要な要素だと考えます。

 高齢者の「働く」とは何でしょうか。退職後も働く意欲を持つ高齢者は年々増加していますが、その潜在力を日本社会はまだ活かしきれていません。最近では、定年年齢の引き上げや再雇用制度の充実を図る企業も出てきていますが、「働く」ことは、企業や団体に雇用されるだけではありません。経済的目的だけではなく、生きがいや健康維持、社会貢献を目的とした、ボランティアやNPO・NGOなどの社会的活動も高齢者らしい働き方でしょう。多様な形で価値を生み出すことが可能になる時代になったいま、それを組織側も高齢者もより積極的に活用することでつながりはどんどんとつけやすくなる土壌が生まれているのです。 同様に「楽しむ」ことも多様化しています。間もなく本格的な高齢期を迎える「団塊の世代」では、パソコンやインターネット、スマートフォンなどの情報機器を若者と同じように活用する人が決して少なくありません。趣味や交流の幅も多様であり、旅行から学習、専門的な研究まで、楽しみ方は若年層以上に豊かになっています。そしてそれらの楽しみ方は若者だけでは決して得られない日本文化や伝統の深みに通じていると私たちは考えています。高齢者の人生の楽しみ方が若者にも新たな発見となり、経済一辺倒でバラバラになりかけていた日本に、新しいあり方をもたらしてくれる期待があるのです。

働く 楽しむ

暮らす

「働く」つながり経験を社会の財産に会社や上司・部下、仕事を通じての社会とのつながり

「暮らす」つながり自立と助け合い家族や地域コミュニティとのつながり

「楽しむ」つながり好奇心エネルギー

趣味などの楽しみを通じた多様な世代とのつながり

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バリューエイジング

白書白書

Page 4: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

提 言「Value aging」の提唱

Value aging白書Vol.1で見てきたように、わが国の平均寿命は世界でも最高水準であり、今や高齢

期は私たち一人ひとりにとって決して他人事では

ない時代となっています。長い高齢期をどのよう

に過ごすのか。それは個人にとっても社会にとっ

ても極めて大きな課題なのです。

しかし、この課題に世界でいち早く直面しつつあ

るにもかかわらず、われわれはまだどのように来

るべき高齢社会に対処すべきなのか、その拠りど

ころを見いだせていません。新しい社会のありよ

うと、そのなかでの高齢者の立ち位置について、

指針となるビジョンは残念ながらまだ見えていな

いのです。高齢者をとりまく周囲の人々が当の高

齢者を抜きにして、財政、医療、経済などの観点

で各論を論じているだけの状況です。これでは、

新しい社会のコンセプトを現実感を持って創造す

ることは不可能でしょう。そこには、高齢者自身

による、新しい社会の創造へ立ち向かうエネル

ギーが必要なのです。周りがすべて決めてしまう

のではなく、高齢者自身が、いつまでも活力を

持って、自分らしい生き方のできる社会と生活を

創りだしていかないといけないのではないでしょ

うか。それが、高齢者が最も生き生きと暮らせる

社会の実現につながると思うのです。

私たちはそのような問題意識をもとに、現実の世

界でさまざまにご活躍されている高齢者、安易な

介護を避け、介護が必要な状態になることを予防

したり、改善したりする努力をされている医療介

護関係者のご協力を得て、高齢者の中から考える

高齢社会という観点で、新しい高齢社会像をまと

めてみました。そのコンセプトが「Value aging」

なのです。

 以下では、「Value aging」の基本コンセプトを

紹介し、次章では、その中核になる二つの柱、

「自立支援介護」と「つながり社会」について、

理論と実践の現場をみていきたいと思います。

1.自分らしく生きる“自立支援介護”への転換

 超高齢社会のなかで、人生の最期まで個人として尊重され、その人らしく年を重ねていくことは誰もが望むものであり、このことはたとえ介護が必要となった場合でも同じであると考えます。つまり、高齢者介護では、日常生活における身体的な自立の支援だけではなく、精神的な自立を維持して、高齢者自身が自らやりたいことを持ち、尊厳を保つことができるような形で介護サービスは提供される必要があるのです。実際、このことは介護保険法においても定められているのですが、まだまだ認識も実態もついてきていないのです。

 こうした身体的・精神的な自立に光を当てる思想をもとに、高齢者それぞれの心身の状態に応じて自立を促す介護方法を「自立支援介護」と呼びます。自立支援介護は、本人の体調を整え、活動性を上げることで体力を回復し、本人の意欲や活力を取り戻すことを基本的精神としています。この基盤があってこそ、介護の質を飛躍的に高め、結果的に高齢者自身の尊厳が守られ、その人らしい自立した質の高い生活を送ることが可能になるのです。

 実際に特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護施設において、入所者がおむつを使用せずにトイレでの排便(自然排便)を実現するなど具体的な成果をあげています。まさに理論だけに留まらない実践的な介護方法として注目されています。

 自立した生活の実現と言うと、要望を全て聞いてくれると思われるかもしれませんが、自立支援介護は、単に高齢者の希望をなんでも聞き入れて、趣味嗜好を叶えることを旨とするものではありません。ご本人が望むことをご本人が叶えるために、ご本人の体調を整える介護を行うことを基本にしているのです。その意味ではまさにご本人の意思を尊重する双方向の介護なのです。

 もちろん、このためのハードルは決して低くはありません。個々の高齢者の生活様式や嗜好はますます多様化しており、介護を提供する側には高齢者の生活習慣や価値観に沿ったサポートができるよう、多様な方法を模索することが求められます。また、介護を受ける高齢者も、自分の人生を自分で決め、健康で生き生きとした高齢期を送るための人生の準備をしていくことが必要となるのです。それゆえ、自立支援介護の思想は高齢者だけではなく、その一歩も二歩も手前の時期において、自分らしく生きるとは何か、について考えさせてくれるものであり、われわれが人生をより積極的に生きることにつながる重要なコンセプトなのです。

2.高齢社会を活かすために不可欠な、“つながり”の再構築

 高齢になるにつれ、定年や家族の分散などにより、個人と社会とのつながりは次第に希薄になっていきます。これまでの日本では、人は若いうちは社会を支える側であるのに対し、リタイアを迎えるやいなや、周囲も本人も今度は逆に社会が支えるべき存在だと認識してしまい、高齢者はいわばご隠居扱いされてしまう面がありました。年金をもらい悠 自々適となるハッピーリタイアメントが語られた時代もありました。⦆ しかし、少子化が同時進行するこれからの日本社会では、生涯を楽しく暮らすには年金だけでは不安であり、またいったん要介護状態になってしまうとそれが延 と々続きかねないのです。それゆえ高齢期をハッピーに過ごすには、ハッピーリタイアメントの発想を超えていく必要があるのです。高齢者=支えられる存在という価値観を逆転し、高齢者がそれぞれの心身の状態に応じて、若い世代と共存し、経験に裏打ちされた豊富な知見を提供する側に回ることが求められるのではないでしょうか。高齢者自身が自分の能力を活かし社会に積極的に参加することは、健康づくりや介護予防にもなり、そして、より自分らしく生きがいのある充実した人生を送ることにつながります。また高齢者の知を活かした深みのある質の高い社会の創造にもつながります。 そしてそれは働き手の確保と高質な市場の創造につながり、経済的にも社会的にも好循環を生み出すのです。世代を超えて相互に貢献しあう社会、すなわち「つながり社会」を創生していくことが大切なのです。⦆

 そのつながりのポイントはなんでしょうか。私達の日々 の生活の基本は衣食住ですが、豊かに年を重ねるにはそれだけでは十分ではありません。自分らしく社会の役に立つ仕事をすること、人生をもっと楽しみ、相手も楽しませること、そして、地域社会の中で助け合いながら暮らすこと。この「働く」「楽しむ」「暮らす」こそが、世代を超えて相互に貢献し合う関係性を保ち、社会とのつながりを維持するのに重要な要素だと考えます。

 高齢者の「働く」とは何でしょうか。退職後も働く意欲を持つ高齢者は年々増加していますが、その潜在力を日本社会はまだ活かしきれていません。最近では、定年年齢の引き上げや再雇用制度の充実を図る企業も出てきていますが、「働く」ことは、企業や団体に雇用されるだけではありません。経済的目的だけではなく、生きがいや健康維持、社会貢献を目的とした、ボランティアやNPO・NGOなどの社会的活動も高齢者らしい働き方でしょう。多様な形で価値を生み出すことが可能になる時代になったいま、それを組織側も高齢者もより積極的に活用することでつながりはどんどんとつけやすくなる土壌が生まれているのです。 同様に「楽しむ」ことも多様化しています。間もなく本格的な高齢期を迎える「団塊の世代」では、パソコンやインターネット、スマートフォンなどの情報機器を若者と同じように活用する人が決して少なくありません。趣味や交流の幅も多様であり、旅行から学習、専門的な研究まで、楽しみ方は若年層以上に豊かになっています。そしてそれらの楽しみ方は若者だけでは決して得られない日本文化や伝統の深みに通じていると私たちは考えています。高齢者の人生の楽しみ方が若者にも新たな発見となり、経済一辺倒でバラバラになりかけていた日本に、新しいあり方をもたらしてくれる期待があるのです。

働く 楽しむ

暮らす

「働く」つながり経験を社会の財産に会社や上司・部下、仕事を通じての社会とのつながり

「暮らす」つながり自立と助け合い家族や地域コミュニティとのつながり

「楽しむ」つながり好奇心エネルギー

趣味などの楽しみを通じた多様な世代とのつながり

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バリューエイジング

白書白書

Page 5: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

 「暮らす」では、一人暮らしをする高齢者や孤立死の増加に伴う助け合い意識の向上、高齢者の知恵に息づく日本の伝統的知恵の再認識、子育てにおける高齢者の役割への期待など、暮らしの中での世代間のつながりの重要性に関する認識が急速に高まっています。環境にやさしい社会の形成や電気自動車の登場も高齢者の生活を後押しする新たな暮らしへの大きな原動力になっています。高齢社会を前提にした新しい暮らしを育む街づくりは世界的課題解決へ日本が貢献できる大きなテーマでもあるのです。⦆⦆ このように「働く」「楽しむ」「暮らす」のそれぞれのつながりポイントを充実させることにより、世代を超えた人々の交流が生まれ、相互に刺激を受けつつ貢献しあい、いつまでも自立できる高齢者が増加するでしょう。そして高齢者の方々には社会のつながりをつけるかけがえのない主体となっていただきたいのです。

3.自分らしく、ともに生きる年の重ね方、 “Value aging”へ向けて

 従来の介護の概念を超え、心身の回復を促す「自立支援介護」。そして、世代を超えてつながり、相互に貢献しあう関係を保つ「つながり社会」。この「自立」と「つながり」のある新しい加齢スタイルを私たちは「Value aging」というコンセプトとして提言していきたいと考えています。

 私たちの提唱する「Value aging」とは、高齢者になっても、いつまでも豊かな人生を送り、社会とともに価値を創造し続ける主体的存在であり続けることを目指すこと、そして、そのことを社会全体で喜び合えるような加齢なのです。

 「Value aging」を可能にするための柱はこれまで見てきたとおり2つです。一つは、避けられない高齢者の身体的機能低下に対して、安易な介護に走らず、あくまでも自立を支援しつづける介護の姿勢と技術の確立。二つ目は、どうしても孤独になりがちな、高齢者に対して、その自立を促し、また自立した高齢者がそれぞれの思いで活躍するための社会とのつながりの充実です。高齢者がいつまでも社会とつながれるための、高齢者本人の意識変革と社会におけるつながりの場の創生なのです。⦆ わが国の高齢化の進展は、人類社会が初めて経験する前人未踏の領域です。それゆえ日本の対応の行方は世界からも注目されています。今後高齢化を迎える世界の国々の先行モデルとなりうる社会の創造がもとめられているのです。それこそが、高齢者が尊厳をもって自立し、いつまでも自分らしく生き生きとできる「Value aging」社会だと思うのです。⦆ このような超高齢社会における介護の問題は決して高齢者だけの問題ではありません。私たち一人ひとりにとって人生の最期をどのように迎えるかという、生き方に関わる問題であると同時に、そういう社会を私たちがどのように築いていくかという、まさに日本人一人ひとりの問題でもあるのです。

 では次章において、「Value aging」の二本柱について、さらに深く考えてみたいと思います。自立支援介護についてはその基本的考え方と展望、そしてつながり社会については、そこに向けた実践例について、専門家や高齢者ご本人の声を通じてお伝えしていきます。⦆ 私たちすべてが当事者として「Value aging」を実現していくためのイメージを得ていただければと思います。

Value agingの2本柱

「自立支援介護」その1

自立支援介護の4つの要素

「自立支援介護」を語る ●Vol.4では、運動のインタビューを紹介しています。 水分、栄養、咀嚼、排泄についてはVol.3をご覧ください。

水 分 「人体における水の役割とその必要量」

「栄養の重要性と役割」

「咀嚼の役割、“噛む”ことの効果 咀嚼することの重要性」

「自然排便の重要性とおむつの役割、正しい活用方法について」

「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」

   

栄 養

咀 嚼

本稿では、今なぜ自立支援介護が求められているのか、自立支援介護の基本についてご紹介します。

また自立支援介護を行う上でのポイントとして、4つの構成要素「水分」「栄養・咀嚼」「排泄」「運動」

の専門家の方々にインタビューを行いました。

水分

栄養・咀嚼

排泄

運動

排 泄運 動

5白書

そ  しゃく

そしゃく

そ  しゃく

Value aging

自立支援介護

Value aging

第1の柱

つながり社会

第2の柱

4白書

Page 6: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

 「暮らす」では、一人暮らしをする高齢者や孤立死の増加に伴う助け合い意識の向上、高齢者の知恵に息づく日本の伝統的知恵の再認識、子育てにおける高齢者の役割への期待など、暮らしの中での世代間のつながりの重要性に関する認識が急速に高まっています。環境にやさしい社会の形成や電気自動車の登場も高齢者の生活を後押しする新たな暮らしへの大きな原動力になっています。高齢社会を前提にした新しい暮らしを育む街づくりは世界的課題解決へ日本が貢献できる大きなテーマでもあるのです。⦆⦆ このように「働く」「楽しむ」「暮らす」のそれぞれのつながりポイントを充実させることにより、世代を超えた人々の交流が生まれ、相互に刺激を受けつつ貢献しあい、いつまでも自立できる高齢者が増加するでしょう。そして高齢者の方々には社会のつながりをつけるかけがえのない主体となっていただきたいのです。

3.自分らしく、ともに生きる年の重ね方、 “Value aging”へ向けて

 従来の介護の概念を超え、心身の回復を促す「自立支援介護」。そして、世代を超えてつながり、相互に貢献しあう関係を保つ「つながり社会」。この「自立」と「つながり」のある新しい加齢スタイルを私たちは「Value aging」というコンセプトとして提言していきたいと考えています。

 私たちの提唱する「Value aging」とは、高齢者になっても、いつまでも豊かな人生を送り、社会とともに価値を創造し続ける主体的存在であり続けることを目指すこと、そして、そのことを社会全体で喜び合えるような加齢なのです。

 「Value aging」を可能にするための柱はこれまで見てきたとおり2つです。一つは、避けられない高齢者の身体的機能低下に対して、安易な介護に走らず、あくまでも自立を支援しつづける介護の姿勢と技術の確立。二つ目は、どうしても孤独になりがちな、高齢者に対して、その自立を促し、また自立した高齢者がそれぞれの思いで活躍するための社会とのつながりの充実です。高齢者がいつまでも社会とつながれるための、高齢者本人の意識変革と社会におけるつながりの場の創生なのです。⦆ わが国の高齢化の進展は、人類社会が初めて経験する前人未踏の領域です。それゆえ日本の対応の行方は世界からも注目されています。今後高齢化を迎える世界の国々の先行モデルとなりうる社会の創造がもとめられているのです。それこそが、高齢者が尊厳をもって自立し、いつまでも自分らしく生き生きとできる「Value aging」社会だと思うのです。⦆ このような超高齢社会における介護の問題は決して高齢者だけの問題ではありません。私たち一人ひとりにとって人生の最期をどのように迎えるかという、生き方に関わる問題であると同時に、そういう社会を私たちがどのように築いていくかという、まさに日本人一人ひとりの問題でもあるのです。

 では次章において、「Value aging」の二本柱について、さらに深く考えてみたいと思います。自立支援介護についてはその基本的考え方と展望、そしてつながり社会については、そこに向けた実践例について、専門家や高齢者ご本人の声を通じてお伝えしていきます。⦆ 私たちすべてが当事者として「Value aging」を実現していくためのイメージを得ていただければと思います。

Value agingの2本柱

「自立支援介護」その1

自立支援介護の4つの要素

「自立支援介護」を語る ●Vol.4では、運動のインタビューを紹介しています。 水分、栄養、咀嚼、排泄についてはVol.3をご覧ください。

水 分 「人体における水の役割とその必要量」

「栄養の重要性と役割」

「咀嚼の役割、“噛む”ことの効果 咀嚼することの重要性」

「自然排便の重要性とおむつの役割、正しい活用方法について」

「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」

   

栄 養

咀 嚼

本稿では、今なぜ自立支援介護が求められているのか、自立支援介護の基本についてご紹介します。

また自立支援介護を行う上でのポイントとして、4つの構成要素「水分」「栄養・咀嚼」「排泄」「運動」

の専門家の方々にインタビューを行いました。

水分

栄養・咀嚼

排泄

運動

排 泄運 動

5白書

そ  しゃく

そしゃく

そ  しゃく

Value aging

自立支援介護

Value aging

第1の柱

つながり社会

第2の柱

4白書

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2. 活動性を高める

 体調を整えることと併行して、できるだけ活動性を高めるための支援をおこなうことが必要です。

❶寝たきりから脱却する 寝たきりは廃用症候群が極端に現れた状態です。要介護4や5であっても、寝たきりのままの生活を介護し続けてはいけません。 そのため、寝たきりの状態にある人を介護する場合、まずは離床すること(ベッドや布団から離れること)から始めます。体力が低下しているなどの理由から、いきなり、日中ずっと離床するのが難しいという場合には、まずは1日3回の食事の時と、1日1回排便のために離床することから始めます。 これだけでも、人間の生理学的に正しい介護方法であり、誤嚥等の事故防止に役立ちます(※)。さらに本人のQOL(生活の質)は飛躍的に向上します。

❷歩行を介護する 離床することの大切さが徐 に々広まってきたことで、昔に比べると寝たきりの人は減ったかもしれません(それでもまだたくさんの高齢者が寝たきりの生活をしているのが現状ですが)。ところが、離床しても1日中車イスに乗ったまま、ウトウトして、ぼんやりした表情で生活している高齢者も多いようです。離床しても全て車イス生活では、離床したことのメリットは半減します。 なぜ、車イスではなく歩くことが必要なのかというと、移動を全て車イスに乗って介護してもらう状態だと、下半身の機能を初めとした機能低下は止まらないからです。つまり廃用症候群が改善したことにはなりません。 実は、高齢者介護では全ての移動を車イスにすることに合理的な理由がありません。 例えば、脊椎損傷などで下半身マヒの障がいを負ってしまった人は、自分の足で歩くことは機能的に不可能なので、車イスで移動しながら活動的な生活をすることが重要になります。しかし歩行困難な高齢者の多くは、廃用症候群による機能低下が原因で歩けないのであって、脊椎損傷のように回復不可能な原因とは異なります。このような場合は、本人が歩くことを介護することによって、再び自分で歩くことができるようになります。自分で歩く可能性を潰して車イスでの移動を介護するというのは、不自然な介護方法だといえるでしょう。 そして歩くという行為は、自立性を高めるためには最も有効な方法なのです。自分で歩くことさえできれば、食事や排泄、入浴など全てのADLが自立する可能性が出てきます。さまざまな家事をこなす等生活全般の自立にもつながります。歩行が安定して、外出できるまでになれば、さらに活動性が上がることで、継続的な廃用症候群の予防が可能になります。転倒などの危険に配慮する必要はありますが、歩けなくなった高齢者の場合には、できるだけ早い段階から歩くことを介護する、これが自立支援介護の原則なのです。

❸認知症介護もポイントは同じ 以上の自立支援介護のポイントは、認知症の方への介護でも同様なのです。 体調を整えること、活動性を高めること、これらが認知症の症状(BPSD)を改善することがわかってきました。夜騒いで困っていたが水分摂取を促し脱水症を改善しただけで症状がなくなった、活動性を上げたことで徘徊することがなくなった、体調を整えたら介護を拒否することがなくなった…このような改善事例がたくさん報告されています。 認知症介護には決まった介護方法がないという人もいますが、自立支援介護をおこなうことで、日常生活や介護の支障となるBPSDの多くが消失したり、改善したりすることが明らかになりつつあります。

【※誤嚥防止の姿勢】 ふつう人は食事する時、無意識に食べやすく誤嚥しにくい姿勢をとっている。それは、イスなどにまっすぐ座り、少し顎を引いた姿勢(90度座位・頸部前屈姿勢)である。この姿勢は、口の中の食塊を自分でのみ込まなければ口中に留まったままで、知らないうちに咽頭に落ちなることがない。また食塊の通路が広がり、咽頭と気管の通路が通りにくくなる。以上のことから、この姿勢は誤嚥の防止につながる。

3. 自立支援介護のポイント

6白書

ご えん

●自立支援介護のポイント「1. 体調を整える」については Vol.3をご覧ください。

Page 8: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

8白書7白書

3. 実践的な方法論で支援を

 これまでみてきたように、体調を整え、活動性を高めるという基本的な支援や介護が、自立支援介護の土台だということができます。この土台があってこそ、本人の趣味や嗜好に合わせた生活の支援、本人が何をしたいかという意思といったことの実現がより身近になるのだと考えます。 基本的な土台を無視して、介護者のコミュニケーションや趣味嗜好への支援だけを工夫しても、介護者の単なる自己満足だけに終わるということもあり得るのではないでしょうか。例えば、寝たきりの状態を改善することができるにもかかわらず、基本的な介護をしないで、本人に「何がしたいですか?」と尋ねるというようなことは合理的な方法とはいえないはずです。本人の体調を整え、活動性を上げることで体力を回復し、結果的に本人の意欲や活力を取り戻す方が正しい介護といえるのではないでしょうか。 このように自立支援介護の理論は、単に本人に何がしたいかを訊くというようなコミュニケーション上の工夫にとどまらない、本当にその人がしたいことができるようにするための実践的な方法論なのです。

活動性について「運動の重要性、運動の効果、運動の必要性、運動時の注意事項」

株式会社ルネサンス 商品開発部プログラム開発チーム 課長代理

沖本 大 氏

インタビュー

●運動の重要性と現状について教えてください 一般的に健康のために運動が必要だと言われていますが、実は、日本におけるフィットネス人口(フィットネスクラブに通う人の割合)は、全人口の3%程度しかありません。そして、この数字は、10年前も15年前もほぼ同じで変わっていません。ところが、欧米では10%以上なのです。私たちは、より多くの人にフィットネスに参加していただきたいと思っています。 これまでのフィットネスクラブでは、「運動をしましょう」「運動は良い事ですよ」と呼びかけてきましたが、それでは難しいことがわかってきました。様 な々方法・切り口でアプローチをしていくことが必要です。 そこで、ルネサンスが主体となって「シナプソロジー(※)」という新メソッドを発表しました。このシナプソロジーのキーワードは『“脳を活性化させる”プログラム』です。脳を活性化させるという切り口で参加者を呼び込み、結果として体も動かして鍛えることができる、そんなプログラムです。 この他にも、最新の技術を用いた『eスポーツグラウンド』や女性にターゲットを絞った『女性専用フィットネス』を導入しフィットネス人口の増加を狙っています。

●高齢者にとっても運動は重要ですか もちろん重要です。先ほどフィットネス人口についてお話ししましたが、実は、フィットネスクラブに通うシニア層は増えています。若い人が減って、シニア層が増えている、その結果フィットネス人口は変わっていないというのが実情です。高齢者の方が、フィットネスクラブに通うというのは、一昔前にはあまり考えられませんでしたが、シニアの皆さんが運動の必要性を感じ実践し始めたことは、とても良いことですし、私たちも嬉しく思っています。 運動するということは、単に体を鍛えるということだけではありません。 WHOは、健康を「身体・精神・社会」の3つ要素で定義していますが、運動することで、この要素全てに好影響を及ぼすことができる可能性があります。 例えば、フィットネスクラブに通うことで、そこで出会った人と知り合いになり、数人集まるとグループができ、そこでの会話や交流を楽しむという方がけっこう多いのです。こういう方は、若い人よりシニアの方に多い傾向があります。シニアの方は、通う曜日と時間が習慣化することが多いので、毎回同じ人と出会う機会が多いからかもしれません。高齢者の閉じこもりが問題になりつつありますが、運動をきっかけにして、閉じこもりの予防につながるのではないでしょうか。 また、シニアの方が運動する場合、軽い負荷で、できるだけ多い頻度で、継続するということがポイントです。軽い負荷つまり自分の体重だけの負荷で、短い時間であっても毎日実践するということがとても重要なのです。

●具体的には、どういう運動をすれば良いですか フィットネスクラブに来ていただければ、それぞれの要望に応じたメニューを作成することができますが、自宅でも簡単に運動することはできます。 運動には、大きく分けると「有酸素運動」と「筋力トレーニング」(以下:筋トレ)の2種類があり、この2種類を組み合わせるのがポイントです。 代表的な有酸素運動は、ウォーキングですね。毎日20分以上のウォーキングをする。仲間をつくって一緒にお喋りしながらおこなうと、楽しく続けることができるのではないでしょうか。 筋トレの方は、大きな筋肉がある下肢のトレーニングが良いでしょう。①「腰かけ運動(スクワット)」と②「腿上げ運動」(参考:手順と写真)の2種類だけでも十分効果があります。安全におこなうために、腰かけ運動の方は椅子を置いておこないます。腿上げ運動も、片手を壁についておこなえば危険はありません。手をつかなくても危険がなければ、手をつかないでおこなえばバランストレーニングになります。 これらの運動は、どれも歩く機能を維持し、外に出る機会を増やすことになるので、シニアの方には最適だと思います。

●高齢者が運動する時、気をつけることはありますか 高齢者に限らないのですが、運動を始める前に、体調が悪い時は無理をしないで中止しましょう。毎日続けることは重要ですが、体調が悪い時に無理しておこなうのは効果がないばかりか、逆効果になります。 また、シニアの方の場合、特に血圧に注意してください。血圧が高め等で気になる方は、血圧計を用意して運動前や運動後に血圧を測っても良いと思います。 また、運動中は息を止めないこと。筋トレの時は、「イチ、ニ、サン」と声を出して号令をかけながらおこないましょう。運動中に「きつい」と感じたら中断してもかまいません。男性の場合は、特に頑張りすぎの傾向があるので注意しましょう。 この他には、水分補給をしっかりして脱水症を予防しましょう。特に暑い時期の水分補給は必須ですね。特に難しいことはありませんが、安全に効果的な運動のために、以上の点はしっかり守ってほしいですね。

※シナプソロジー…新しい刺激に反応し脳が混乱した状態を作ることで、脳を活性化させるプログラム。

もも

竹内 孝仁 氏国際医療福祉大学大学院 教授

■自立支援介護は先生が提唱し、理論を体系化し、現場での実践までおこなわれているわけですが、改めて自立支援介護について教えてください

 自立支援介護というと、どうしても“介護する側”の視点で語られることが多いのですが、より重要なことは、介護される側、つまり要介護者本人の視点なのです。「自立的に生活したい」という想いは、人間の本質的な願いだといえます。 このことは、おむつをするなどによって一時的に自立性を失った方に、自立性を取り戻した(おむつが外れてトイレで排泄できるようになった)後、おむつをしている間の感想を聞いてみるとよくわかります。彼らは一様に、おむつをしている間は「自分が生きる価値を失ってしまった気がした」と答えるのです。そして、「もう一度おむつをしなければならなくなるとしたらどうでしょう?」と尋ねると、「絶対に嫌だ」「死んだ方がマシだ」「おむつをするくらいなら呆けて何もわからなくなったほうが良い」とさえ言います。このことは、年齢には関係なく、80歳になろうが90歳になろうが同じなのです。 介護の世界では、比較的安易に尊厳という言葉を使いますが、この自立的に生活したいという人間本来の想いは、より根源的なニーズだということができます。そのため、この最も根源的な「自立」を追い求めることが、介護者にとっての最低限のモラルだといえるでしょう。

■なるほど、自立することそのものが重要ということですね その通りです。今まで私が手掛けてきた事例では、長期間寝たきりの人でもかなり自立に近いところまでもっていくことが可能です。生物学的には生きていれば身体的な回復を繰り返しているので、生きている限り誰でも自立できる可能性はあるといえるでしょう。 さらに、自立支援介護の実践でわかったことは、亡くなる直前まで元気で自立的に生活することができるということです。一時期「ぴんぴんころり」という言葉が流行りましたが、まさにこのような状態を実現することができます。病院で亡くなる方は多いのですが、以前は入院してから何ヶ月も経過してから亡くなるのが一般的でした。 ところが自立支援介護を実践していると、具合が悪くなるまでは自宅や施設で元気に生活していて、具合が悪くなって入院しても短期間で亡くなる傾向があります。このように考えると、「ころり」と亡くなるためには「ぴんぴん」している必要があるといえるでしょう。 ターミナルケアという言葉があります。日本ではターミナルケアは医療分野だというイメージがありますが、ヨーロッパなどではターミナルケアといえば、いかに医療と切り離すかが重要な課題となります。同じような意味で、自立支援介護は「究極のターミナルケア」であるといえますし、人生の終末期をいかに生きるかということでもあり、「ターミナルリビング」と言い換えることもできる、人に対する最も根源的な支援だと思います。

■自立支援介護をおこなうために最も重要なことは何ですか 自立支援介護を実践するための方法論には、いくつかの重要なポイントがあります。 自立的な生活のためには、心身の活動性を上げる必要があるわけですが、そのために最優先で取り組まなければならないのは「水分ケア」です。人間を含めて生物は「水の生き物」といえるほど水分が重要です。そもそも人間の体は半分以上が水でできています。水分が不足すれば、生命体として良い状態を維持することさえ不可能になります。 そのため、活動性が低い生活を送っている人であっても、最低1日1500㏄の水分を摂るようにします。水分とか脱水症の話では、よく水分だけではなくナトリウムや電解質も一緒に摂るべきだと言う人もいますが、そのような配慮をしなければいけないのは、体調が極めて悪い極限状態の人に限られます。人間にはホメオスタシス機能(生体恒常性)が備わっているので、あまり難しいことは考えず、まずは水分摂取量を確保することです。 そして、この水分ケアは認知症のケアでも最優先のポイントといえます。体の水分が不足し、いわゆる脱水状態になると、意識水準や覚醒水準が低下します。このことは認知力に直接的に悪影響を与えるため、せん妄状態になったり昼夜逆転といった症状が現れたりします。異食なども水分不足が原因であることがあります。そのため水分摂取量を増やすだけで、認知症の症状が消失してしまうといったことも少なくありません。

■水分ケア以外のポイントは何でしょうか 人間が生きて活動するためにはエネルギーが必要なので、栄養(食事)も重要なポイントになります。エネルギーは体の大きさや活動量によって必要なカロリーが変わってきますが、目安として1日1500kcal摂取することを推奨しています。また食事で重要なことは、安易にお粥やソフト食、ミキサー食などを提供するのではなく、常食を食べてもらうことが極めて重要です。食事は単なる栄養補給ではなく、食べたいものを美味しく食べるという面が重要であり、そのためにはバリエーション豊かな食事を提供することができる常食が最適なのです。 次に重要なことは「運動」です。特に循環機能を高めるために、軽い負荷でおこなう有酸素運動をおこないましょう。ジョギングでは負荷が大きすぎるので、ウォーキングが最適です。実は、認知症治療の一環として運動の効果が認められ始めており、欧米では盛んに研究されています。 これ以外には、規則的な便通ということも重要です。下剤を使って強制的に排便するのではなく、自然排便を促すケアをおこないます。 このように見てくると、自立支援介護の方法論は、極めて当たり前のことであって、体調を良い状態にして健康体をつくるということに収斂されます。これらは生活習慣病の予防とか改善にも共通する内容だといえます。 このように健康という面で考えると、これらのポイントはあらゆる世界に共通するものです。さまざまな試みを経て、当たり前のところに行き着いた感がありますが、言うのは簡単ですが実践するためにはさまざまな困難があります。いつまでも自立的な生活を送ることを実現するために、以上のことを念頭に取り組んでほしいと思います。

自立支援介護は人に対する最も根元的な支援I n t e r v i e w

1腰かけ運動(スクワット)

腰を下ろす高さは、体力・筋力に合わせて無理のない範囲で調整しましょう。はじめは軽く膝を曲げる程度でも大丈夫です。

2腿上げ運動目線が下がらないようにします。

膝がつま先より前に出ないようにお尻を後ろに突き出します。

②足を左右交互に持ち上げます。①肩幅に足を広げ、背筋を伸ば して立ちます。

②イスにお尻が付く手前まで腰を 下ろします。

①肩幅に足を広げ、背筋を伸ばして 立ちます。バランスが取りにくい場 合は壁などに手を着きます。

膝を上げる高さは、体力・筋力に合わせて無理のない範囲で調整しましょう。はじめは軽く膝を持ち上げる程度でも大丈夫です。

背中が丸くならないように気を付けます。

目線が下がらないようにします。

後ろに仰け反らないようにお腹に力を入れて立ちます。

3. 自立支援介護のポイント

3. 自立支援介護のポイント

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8白書7白書

3. 実践的な方法論で支援を

 これまでみてきたように、体調を整え、活動性を高めるという基本的な支援や介護が、自立支援介護の土台だということができます。この土台があってこそ、本人の趣味や嗜好に合わせた生活の支援、本人が何をしたいかという意思といったことの実現がより身近になるのだと考えます。 基本的な土台を無視して、介護者のコミュニケーションや趣味嗜好への支援だけを工夫しても、介護者の単なる自己満足だけに終わるということもあり得るのではないでしょうか。例えば、寝たきりの状態を改善することができるにもかかわらず、基本的な介護をしないで、本人に「何がしたいですか?」と尋ねるというようなことは合理的な方法とはいえないはずです。本人の体調を整え、活動性を上げることで体力を回復し、結果的に本人の意欲や活力を取り戻す方が正しい介護といえるのではないでしょうか。 このように自立支援介護の理論は、単に本人に何がしたいかを訊くというようなコミュニケーション上の工夫にとどまらない、本当にその人がしたいことができるようにするための実践的な方法論なのです。

活動性について「運動の重要性、運動の効果、運動の必要性、運動時の注意事項」

株式会社ルネサンス 商品開発部プログラム開発チーム 課長代理

沖本 大 氏

インタビュー

●運動の重要性と現状について教えてください 一般的に健康のために運動が必要だと言われていますが、実は、日本におけるフィットネス人口(フィットネスクラブに通う人の割合)は、全人口の3%程度しかありません。そして、この数字は、10年前も15年前もほぼ同じで変わっていません。ところが、欧米では10%以上なのです。私たちは、より多くの人にフィットネスに参加していただきたいと思っています。 これまでのフィットネスクラブでは、「運動をしましょう」「運動は良い事ですよ」と呼びかけてきましたが、それでは難しいことがわかってきました。様 な々方法・切り口でアプローチをしていくことが必要です。 そこで、ルネサンスが主体となって「シナプソロジー(※)」という新メソッドを発表しました。このシナプソロジーのキーワードは『“脳を活性化させる”プログラム』です。脳を活性化させるという切り口で参加者を呼び込み、結果として体も動かして鍛えることができる、そんなプログラムです。 この他にも、最新の技術を用いた『eスポーツグラウンド』や女性にターゲットを絞った『女性専用フィットネス』を導入しフィットネス人口の増加を狙っています。

●高齢者にとっても運動は重要ですか もちろん重要です。先ほどフィットネス人口についてお話ししましたが、実は、フィットネスクラブに通うシニア層は増えています。若い人が減って、シニア層が増えている、その結果フィットネス人口は変わっていないというのが実情です。高齢者の方が、フィットネスクラブに通うというのは、一昔前にはあまり考えられませんでしたが、シニアの皆さんが運動の必要性を感じ実践し始めたことは、とても良いことですし、私たちも嬉しく思っています。 運動するということは、単に体を鍛えるということだけではありません。 WHOは、健康を「身体・精神・社会」の3つ要素で定義していますが、運動することで、この要素全てに好影響を及ぼすことができる可能性があります。 例えば、フィットネスクラブに通うことで、そこで出会った人と知り合いになり、数人集まるとグループができ、そこでの会話や交流を楽しむという方がけっこう多いのです。こういう方は、若い人よりシニアの方に多い傾向があります。シニアの方は、通う曜日と時間が習慣化することが多いので、毎回同じ人と出会う機会が多いからかもしれません。高齢者の閉じこもりが問題になりつつありますが、運動をきっかけにして、閉じこもりの予防につながるのではないでしょうか。 また、シニアの方が運動する場合、軽い負荷で、できるだけ多い頻度で、継続するということがポイントです。軽い負荷つまり自分の体重だけの負荷で、短い時間であっても毎日実践するということがとても重要なのです。

●具体的には、どういう運動をすれば良いですか フィットネスクラブに来ていただければ、それぞれの要望に応じたメニューを作成することができますが、自宅でも簡単に運動することはできます。 運動には、大きく分けると「有酸素運動」と「筋力トレーニング」(以下:筋トレ)の2種類があり、この2種類を組み合わせるのがポイントです。 代表的な有酸素運動は、ウォーキングですね。毎日20分以上のウォーキングをする。仲間をつくって一緒にお喋りしながらおこなうと、楽しく続けることができるのではないでしょうか。 筋トレの方は、大きな筋肉がある下肢のトレーニングが良いでしょう。①「腰かけ運動(スクワット)」と②「腿上げ運動」(参考:手順と写真)の2種類だけでも十分効果があります。安全におこなうために、腰かけ運動の方は椅子を置いておこないます。腿上げ運動も、片手を壁についておこなえば危険はありません。手をつかなくても危険がなければ、手をつかないでおこなえばバランストレーニングになります。 これらの運動は、どれも歩く機能を維持し、外に出る機会を増やすことになるので、シニアの方には最適だと思います。

●高齢者が運動する時、気をつけることはありますか 高齢者に限らないのですが、運動を始める前に、体調が悪い時は無理をしないで中止しましょう。毎日続けることは重要ですが、体調が悪い時に無理しておこなうのは効果がないばかりか、逆効果になります。 また、シニアの方の場合、特に血圧に注意してください。血圧が高め等で気になる方は、血圧計を用意して運動前や運動後に血圧を測っても良いと思います。 また、運動中は息を止めないこと。筋トレの時は、「イチ、ニ、サン」と声を出して号令をかけながらおこないましょう。運動中に「きつい」と感じたら中断してもかまいません。男性の場合は、特に頑張りすぎの傾向があるので注意しましょう。 この他には、水分補給をしっかりして脱水症を予防しましょう。特に暑い時期の水分補給は必須ですね。特に難しいことはありませんが、安全に効果的な運動のために、以上の点はしっかり守ってほしいですね。

※シナプソロジー…新しい刺激に反応し脳が混乱した状態を作ることで、脳を活性化させるプログラム。

もも

竹内 孝仁 氏国際医療福祉大学大学院 教授

■自立支援介護は先生が提唱し、理論を体系化し、現場での実践までおこなわれているわけですが、改めて自立支援介護について教えてください

 自立支援介護というと、どうしても“介護する側”の視点で語られることが多いのですが、より重要なことは、介護される側、つまり要介護者本人の視点なのです。「自立的に生活したい」という想いは、人間の本質的な願いだといえます。 このことは、おむつをするなどによって一時的に自立性を失った方に、自立性を取り戻した(おむつが外れてトイレで排泄できるようになった)後、おむつをしている間の感想を聞いてみるとよくわかります。彼らは一様に、おむつをしている間は「自分が生きる価値を失ってしまった気がした」と答えるのです。そして、「もう一度おむつをしなければならなくなるとしたらどうでしょう?」と尋ねると、「絶対に嫌だ」「死んだ方がマシだ」「おむつをするくらいなら呆けて何もわからなくなったほうが良い」とさえ言います。このことは、年齢には関係なく、80歳になろうが90歳になろうが同じなのです。 介護の世界では、比較的安易に尊厳という言葉を使いますが、この自立的に生活したいという人間本来の想いは、より根源的なニーズだということができます。そのため、この最も根源的な「自立」を追い求めることが、介護者にとっての最低限のモラルだといえるでしょう。

■なるほど、自立することそのものが重要ということですね その通りです。今まで私が手掛けてきた事例では、長期間寝たきりの人でもかなり自立に近いところまでもっていくことが可能です。生物学的には生きていれば身体的な回復を繰り返しているので、生きている限り誰でも自立できる可能性はあるといえるでしょう。 さらに、自立支援介護の実践でわかったことは、亡くなる直前まで元気で自立的に生活することができるということです。一時期「ぴんぴんころり」という言葉が流行りましたが、まさにこのような状態を実現することができます。病院で亡くなる方は多いのですが、以前は入院してから何ヶ月も経過してから亡くなるのが一般的でした。 ところが自立支援介護を実践していると、具合が悪くなるまでは自宅や施設で元気に生活していて、具合が悪くなって入院しても短期間で亡くなる傾向があります。このように考えると、「ころり」と亡くなるためには「ぴんぴん」している必要があるといえるでしょう。 ターミナルケアという言葉があります。日本ではターミナルケアは医療分野だというイメージがありますが、ヨーロッパなどではターミナルケアといえば、いかに医療と切り離すかが重要な課題となります。同じような意味で、自立支援介護は「究極のターミナルケア」であるといえますし、人生の終末期をいかに生きるかということでもあり、「ターミナルリビング」と言い換えることもできる、人に対する最も根源的な支援だと思います。

■自立支援介護をおこなうために最も重要なことは何ですか 自立支援介護を実践するための方法論には、いくつかの重要なポイントがあります。 自立的な生活のためには、心身の活動性を上げる必要があるわけですが、そのために最優先で取り組まなければならないのは「水分ケア」です。人間を含めて生物は「水の生き物」といえるほど水分が重要です。そもそも人間の体は半分以上が水でできています。水分が不足すれば、生命体として良い状態を維持することさえ不可能になります。 そのため、活動性が低い生活を送っている人であっても、最低1日1500㏄の水分を摂るようにします。水分とか脱水症の話では、よく水分だけではなくナトリウムや電解質も一緒に摂るべきだと言う人もいますが、そのような配慮をしなければいけないのは、体調が極めて悪い極限状態の人に限られます。人間にはホメオスタシス機能(生体恒常性)が備わっているので、あまり難しいことは考えず、まずは水分摂取量を確保することです。 そして、この水分ケアは認知症のケアでも最優先のポイントといえます。体の水分が不足し、いわゆる脱水状態になると、意識水準や覚醒水準が低下します。このことは認知力に直接的に悪影響を与えるため、せん妄状態になったり昼夜逆転といった症状が現れたりします。異食なども水分不足が原因であることがあります。そのため水分摂取量を増やすだけで、認知症の症状が消失してしまうといったことも少なくありません。

■水分ケア以外のポイントは何でしょうか 人間が生きて活動するためにはエネルギーが必要なので、栄養(食事)も重要なポイントになります。エネルギーは体の大きさや活動量によって必要なカロリーが変わってきますが、目安として1日1500kcal摂取することを推奨しています。また食事で重要なことは、安易にお粥やソフト食、ミキサー食などを提供するのではなく、常食を食べてもらうことが極めて重要です。食事は単なる栄養補給ではなく、食べたいものを美味しく食べるという面が重要であり、そのためにはバリエーション豊かな食事を提供することができる常食が最適なのです。 次に重要なことは「運動」です。特に循環機能を高めるために、軽い負荷でおこなう有酸素運動をおこないましょう。ジョギングでは負荷が大きすぎるので、ウォーキングが最適です。実は、認知症治療の一環として運動の効果が認められ始めており、欧米では盛んに研究されています。 これ以外には、規則的な便通ということも重要です。下剤を使って強制的に排便するのではなく、自然排便を促すケアをおこないます。 このように見てくると、自立支援介護の方法論は、極めて当たり前のことであって、体調を良い状態にして健康体をつくるということに収斂されます。これらは生活習慣病の予防とか改善にも共通する内容だといえます。 このように健康という面で考えると、これらのポイントはあらゆる世界に共通するものです。さまざまな試みを経て、当たり前のところに行き着いた感がありますが、言うのは簡単ですが実践するためにはさまざまな困難があります。いつまでも自立的な生活を送ることを実現するために、以上のことを念頭に取り組んでほしいと思います。

自立支援介護は人に対する最も根元的な支援I n t e r v i e w

1腰かけ運動(スクワット)

腰を下ろす高さは、体力・筋力に合わせて無理のない範囲で調整しましょう。はじめは軽く膝を曲げる程度でも大丈夫です。

2腿上げ運動目線が下がらないようにします。

膝がつま先より前に出ないようにお尻を後ろに突き出します。

②足を左右交互に持ち上げます。①肩幅に足を広げ、背筋を伸ば して立ちます。

②イスにお尻が付く手前まで腰を 下ろします。

①肩幅に足を広げ、背筋を伸ばして 立ちます。バランスが取りにくい場 合は壁などに手を着きます。

膝を上げる高さは、体力・筋力に合わせて無理のない範囲で調整しましょう。はじめは軽く膝を持ち上げる程度でも大丈夫です。

背中が丸くならないように気を付けます。

目線が下がらないようにします。

後ろに仰け反らないようにお腹に力を入れて立ちます。

3. 自立支援介護のポイント

3. 自立支援介護のポイント

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Value agingの2本柱

「つながり社会」その2

働く 楽しむ

暮らす

「働く」つながり経験を社会の財産に会社や上司・部下、仕事を通じての社会とのつながり

「暮らす」つながり自立と助け合い家族や地域コミュニティとのつながり

「楽しむ」つながり好奇心エネルギー趣味などの楽しみを通じた多様な世代とのつながり

「つながり社会」を語る ●Vol.4では「暮らす」のインタビューを掲載しております。 「働く」はVol.2、「楽しむ」はVol.3をご覧ください。

働く

楽しむ

暮らす

「知恵を生み育てる、静のイノベーション」「シニアの力を未来へつなげる」

「出会いのエネルギー」「世代を超えてつながるコミュニティ」

「社会とつながるインフラの創出」「生活のなかにある、自然体な出会いの場」

9

「つながり社会」を構成する、「働く」「楽しむ」「暮らす」のそれぞれのカテゴリーで活躍されている方々に

インタビューを行いました。本稿では、インタビューを通じて高齢者が社会とつながり続けること、つなが

ることでのポジティブな効果について考えていきます。

白書

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暮らす

 NISSAN New Mobility Conceptに初めて乗りましたがと

ても運転しやすく、4輪車なので安定感もあるし加速も鋭く、とて

も楽しめました。ここまで割り切った形にしたため、小回りが利く

のでNISSAN New Mobility Conceptは手軽に高齢者の人

運転でき、移動して近所の方々とのつながりを増やすことができ

る手段になるのではないかと思いました。NISSAN New Mobility

Conceptを使って社会とのつながりを広げられそうです。日産と

してNISSAN New Mobility Conceptを通じた将来の社会や

暮らしのビジョンをお持ちのように感じます。

牧野

 このクルマを含めて日産は「ゼロエミッション社会の実現」を目指しています。電気自動車の普及に真剣に取り組み、排気ガスゼロの社会を目指すのです。その直接の理由はCO₂を出さないという環境への配慮ですが、電気自動車はそのほかにも多くのメリットがあります。今回の震災でもわかるように、電気というのは大変復旧が早いのです。ガスや水道は20日以上かかってようやく8割ぐらいの復旧でしたが、電気は2~3日でほぼ復旧しました。非常時に強いのです。また電気自動車は蓄電池としても使えます。ガソリンを使わず排気ガスも出ないので、家の中に入れても安全で、家庭のコンセントにつなげば停電時でも電気が使えます。いままでのクルマではできないことができるのです。このように日常生活に溶け込める電気自動車をさらに進化させたのがこのNISSAN New Mobility Conceptなのです。 調べてみますとクルマは意外に小人数しか乗らないのです。平均乗車人数は1.6人なんです。5人乗りのクルマも必要ですが、2人乗りの小さなクルマでもいいわけです。そう発想の転換をすると、今度は小さいと運転しやすいとか停めやすいなどの

メリットが出てきます。電気自動車なので騒音も排気ガスもないので人の輪の中にも入っていけるのです。NISSAN New Mobility Conceptにはドアがないので寒いかもしれませんが(笑)、周りに溶け込めるのが実はメリットなのです。実際、人とのつながりの話でいいますと、横浜市の元町で実証実験で公道を走ったのですが、音が出なく静かなので自転車のような感じで、周りの商店街の人たちと話をしながら乗れるんです。これは驚きでした。それが普通のクルマであればエンジンの音がうるさくて話もできませんし、やはり近づきがたい。NISSAN New Mobility Conceptはその点、すごく歩行者と身近なのです。ドアもなくいい感じに目と目が合ってきちんと話ができるんです。 これまでのモビリティーはA地点からB地点に移動することで価値を生み出していました。しかしゼロエミッション車は地点間移動でも排ガスゼロで騒音も出ないということで価値が上がるし、停まっていても蓄電池という価値がでる。さらに小さくした結果、人と人とのつながりを増やすという価値が出たのです。ゼロエミッション社会で日産は多様な電気自動車を揃えようと思っており、これまでの4輪車やバイクでは運転が無理だったお年寄りも移動手段を得て気軽に社会とつながれるんです。そんな誰もがつながり元気になれる社会の可能性を拓きたいのです。

NISSAN New Mobility Concept高齢者や単身者世帯の増加といった社会背景や、乗用車の近距離移動・少人数乗車の使用実態に着目し開発された、100%電気自動車。バイクと同等の機能性と、より高い安全性を両立し、誰にでも運転や駐車がしやすい車両サイズを特徴とする。

1983年4月日産自動車株式会社入社。環境・安全技術部 主担、日産テクニカルセンターNA 技術企画ダイレクター、日産自動車株式会社 企画室 主管を経て、2009年7月よりゼロエミッション事業本部ZEV企画グループ部長。

日産自動車 「社会とつながるインフラの創出」

牧野英治 氏/日産自動車株式会社 ゼロエミッション事業本部

PROFILE

 NISSAN New Mobility Conceptはクルマと人が一体にし

て、人同士のつながりを促進し、社会のつながりを深めてくれる

ということですね。しかもゼロエミッションで環境にもいいし災害

にも強い。実際試乗されてみて、そういう印象はありましたか。

山本

 最初に私が感じたのは、なんだかおもちゃのようだなと思ったんですが、乗ってみると性能が良いのにびっくりしました。とてもしっかりした自動車です。私は79歳になる今でも仕事で、毎週3日、神奈川の自宅と取手の工場の間片道約90kmを自家用車で往復しているのですが、大変運転しやすかったですよ。自宅は多摩地区で家は坂の途中にあります。家の中からときどき道路を見ているのですが、私の家の前辺りでお年寄りは皆休むんですよ。坂はきつくて、上から見るとスキーのゲレンデのような感じです。自転車はだめなんです。アシスト付きのものでも無理してこがないといけない。こういうところでは、買い物に行くのにもとっても使いやすいと思いました。場所もあまり取りませんしね。最近ではどんどんと近所の小さな店がなくなっていっています。そうすると、どうしてもスーパーに行かないといけなくなっています。往復7キロもあるんです。NISSAN New Mobility Conceptはこういうときに便利ですね。もう少し年をとると私も大きな車はダメになるでしょう。そのときにはいいかもしれないと思いますね。

牧野

 都市部もそうですが、過疎地のようなところにさらに需要があると思いますね。どんどんと人が減っていくのでスーパーもなくなる。スーパーに行くのに片道20キロぐらいかけていかないといけない。人が減ってクルマも減っているのでガソリンスタンドもない。ガソリンを入れにいくのに遠くまで行かないといけない。これが電気だと、家に帰ってポンとコンセントに挿しておけばいいんですよ。こういうものがあれば、大きなクルマには乗れないお年寄りでも、過疎化でバス便もなくなって、買い物難民になってしまうことが防げますし、家のなかにこもっていないでどんどん外に行けるようになる。活発になっていただけると思います。

山本

 自分で持てなくても、カーシェアリングの仕組みができればもっと便利で楽しめるでしょうね。

牧野

 日産ではゼロエミッション社会実現のためのビジネスモデルも考えています。単にクルマの開発だけでは未来の社会は創れません。その一環でカーシェアリングも考えています。過疎地の村に何台か置いて頂くとか、もしくは、観光地において皆で使って頂くとかですね。色 な々使い方ができると思うんです。今回の横浜の実証実験でも、こういうことを想定して、商店街の方はいつでも借りに来ていただけるようにしていました。 カーシェアリングの場合、駐車が楽なんです。NISSAN New Mobility Conceptは普通のクルマの1台分の枠に2台入るんですよ。数台置いておけば、皆さんがここに来てくれて、借りる時にコミュニケーションも発生しますしね。

 移動でつなげることもあるんだけど、これがあることにより人

が寄ってくるということもあるのですね。最初の開発の時は、

高齢者はメインのテーマだったのでしょうか。

牧野

 どちらかと言いますと、まずはバイクに乗っている人にもっと安全に乗ってもらえる乗り物はどうかと。今までは5人乗りの大きな車に1人で乗っていたが、それでも持てあますようになった時、一人乗りのものと考えると、今はバイクしかないですよね。2輪のバイクよりもっと安全なもの、だったら4輪で小さいものの方がいいですよね。軽よりも小さくしてもっともっと小回りをよくするとこういう形になったのです。

 高齢化社会という時代の変化のなかでやはり交通手段も

変わらないといけない。公共交通機関でカバーできなければ、

やはり個人がどう移動手段を確保できるようにするかは社会

の元気さを保つために不可欠なポイントであり、まさに私たち

の将来の社会のための共通善ですね。ぜひ国の認可をいち

早く取得して、お年寄りにもいつまでも元気でいていただける

社会インフラを築いてください。どうもありがとうございました。(インタビューは、2012年1月に実施)

「つながり社会」を語る

前川製作所の山本氏にNISSAN New Mobility Concept に実際に試乗頂きました。

日産自動車テストコースでの試乗の様子

NISSAN New Mobility Concept概要●全長×全幅×全高 : 2340mm×1190mm×1450mm          前後二人乗り●最 高 速 度 : 約80km/h●車      重 : 460kg(ドア無)、490kg(ドア付き)●出      力 : 定格8kW、最高15kW

●航 続 距 離 : 約100km●充電方法・時間 : 普通充電200V、         約3.5時間

昭和7年8月生まれ。早稲田大学第一理工学部工業経営科を卒業、昭和33年5月(株)前川製作所入社。機械工場生産、アメリカ駐在を経験。冷凍機・モーター等の開発・商品化に携わる。現在、各種技術資料、取扱説明書の作成支援、回転機実験改良アドバイス等を行っている。

山本恭男 氏/株式会社前川製作所

PROFILE

10 11白書白書

Page 12: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

暮らす

 NISSAN New Mobility Conceptに初めて乗りましたがと

ても運転しやすく、4輪車なので安定感もあるし加速も鋭く、とて

も楽しめました。ここまで割り切った形にしたため、小回りが利く

のでNISSAN New Mobility Conceptは手軽に高齢者の人

運転でき、移動して近所の方々とのつながりを増やすことができ

る手段になるのではないかと思いました。NISSAN New Mobility

Conceptを使って社会とのつながりを広げられそうです。日産と

してNISSAN New Mobility Conceptを通じた将来の社会や

暮らしのビジョンをお持ちのように感じます。

牧野

 このクルマを含めて日産は「ゼロエミッション社会の実現」を目指しています。電気自動車の普及に真剣に取り組み、排気ガスゼロの社会を目指すのです。その直接の理由はCO₂を出さないという環境への配慮ですが、電気自動車はそのほかにも多くのメリットがあります。今回の震災でもわかるように、電気というのは大変復旧が早いのです。ガスや水道は20日以上かかってようやく8割ぐらいの復旧でしたが、電気は2~3日でほぼ復旧しました。非常時に強いのです。また電気自動車は蓄電池としても使えます。ガソリンを使わず排気ガスも出ないので、家の中に入れても安全で、家庭のコンセントにつなげば停電時でも電気が使えます。いままでのクルマではできないことができるのです。このように日常生活に溶け込める電気自動車をさらに進化させたのがこのNISSAN New Mobility Conceptなのです。 調べてみますとクルマは意外に小人数しか乗らないのです。平均乗車人数は1.6人なんです。5人乗りのクルマも必要ですが、2人乗りの小さなクルマでもいいわけです。そう発想の転換をすると、今度は小さいと運転しやすいとか停めやすいなどの

メリットが出てきます。電気自動車なので騒音も排気ガスもないので人の輪の中にも入っていけるのです。NISSAN New Mobility Conceptにはドアがないので寒いかもしれませんが(笑)、周りに溶け込めるのが実はメリットなのです。実際、人とのつながりの話でいいますと、横浜市の元町で実証実験で公道を走ったのですが、音が出なく静かなので自転車のような感じで、周りの商店街の人たちと話をしながら乗れるんです。これは驚きでした。それが普通のクルマであればエンジンの音がうるさくて話もできませんし、やはり近づきがたい。NISSAN New Mobility Conceptはその点、すごく歩行者と身近なのです。ドアもなくいい感じに目と目が合ってきちんと話ができるんです。 これまでのモビリティーはA地点からB地点に移動することで価値を生み出していました。しかしゼロエミッション車は地点間移動でも排ガスゼロで騒音も出ないということで価値が上がるし、停まっていても蓄電池という価値がでる。さらに小さくした結果、人と人とのつながりを増やすという価値が出たのです。ゼロエミッション社会で日産は多様な電気自動車を揃えようと思っており、これまでの4輪車やバイクでは運転が無理だったお年寄りも移動手段を得て気軽に社会とつながれるんです。そんな誰もがつながり元気になれる社会の可能性を拓きたいのです。

NISSAN New Mobility Concept高齢者や単身者世帯の増加といった社会背景や、乗用車の近距離移動・少人数乗車の使用実態に着目し開発された、100%電気自動車。バイクと同等の機能性と、より高い安全性を両立し、誰にでも運転や駐車がしやすい車両サイズを特徴とする。

1983年4月日産自動車株式会社入社。環境・安全技術部 主担、日産テクニカルセンターNA 技術企画ダイレクター、日産自動車株式会社 企画室 主管を経て、2009年7月よりゼロエミッション事業本部ZEV企画グループ部長。

日産自動車 「社会とつながるインフラの創出」

牧野英治 氏/日産自動車株式会社 ゼロエミッション事業本部

PROFILE

 NISSAN New Mobility Conceptはクルマと人が一体にし

て、人同士のつながりを促進し、社会のつながりを深めてくれる

ということですね。しかもゼロエミッションで環境にもいいし災害

にも強い。実際試乗されてみて、そういう印象はありましたか。

山本

 最初に私が感じたのは、なんだかおもちゃのようだなと思ったんですが、乗ってみると性能が良いのにびっくりしました。とてもしっかりした自動車です。私は79歳になる今でも仕事で、毎週3日、神奈川の自宅と取手の工場の間片道約90kmを自家用車で往復しているのですが、大変運転しやすかったですよ。自宅は多摩地区で家は坂の途中にあります。家の中からときどき道路を見ているのですが、私の家の前辺りでお年寄りは皆休むんですよ。坂はきつくて、上から見るとスキーのゲレンデのような感じです。自転車はだめなんです。アシスト付きのものでも無理してこがないといけない。こういうところでは、買い物に行くのにもとっても使いやすいと思いました。場所もあまり取りませんしね。最近ではどんどんと近所の小さな店がなくなっていっています。そうすると、どうしてもスーパーに行かないといけなくなっています。往復7キロもあるんです。NISSAN New Mobility Conceptはこういうときに便利ですね。もう少し年をとると私も大きな車はダメになるでしょう。そのときにはいいかもしれないと思いますね。

牧野

 都市部もそうですが、過疎地のようなところにさらに需要があると思いますね。どんどんと人が減っていくのでスーパーもなくなる。スーパーに行くのに片道20キロぐらいかけていかないといけない。人が減ってクルマも減っているのでガソリンスタンドもない。ガソリンを入れにいくのに遠くまで行かないといけない。これが電気だと、家に帰ってポンとコンセントに挿しておけばいいんですよ。こういうものがあれば、大きなクルマには乗れないお年寄りでも、過疎化でバス便もなくなって、買い物難民になってしまうことが防げますし、家のなかにこもっていないでどんどん外に行けるようになる。活発になっていただけると思います。

山本

 自分で持てなくても、カーシェアリングの仕組みができればもっと便利で楽しめるでしょうね。

牧野

 日産ではゼロエミッション社会実現のためのビジネスモデルも考えています。単にクルマの開発だけでは未来の社会は創れません。その一環でカーシェアリングも考えています。過疎地の村に何台か置いて頂くとか、もしくは、観光地において皆で使って頂くとかですね。色 な々使い方ができると思うんです。今回の横浜の実証実験でも、こういうことを想定して、商店街の方はいつでも借りに来ていただけるようにしていました。 カーシェアリングの場合、駐車が楽なんです。NISSAN New Mobility Conceptは普通のクルマの1台分の枠に2台入るんですよ。数台置いておけば、皆さんがここに来てくれて、借りる時にコミュニケーションも発生しますしね。

 移動でつなげることもあるんだけど、これがあることにより人

が寄ってくるということもあるのですね。最初の開発の時は、

高齢者はメインのテーマだったのでしょうか。

牧野

 どちらかと言いますと、まずはバイクに乗っている人にもっと安全に乗ってもらえる乗り物はどうかと。今までは5人乗りの大きな車に1人で乗っていたが、それでも持てあますようになった時、一人乗りのものと考えると、今はバイクしかないですよね。2輪のバイクよりもっと安全なもの、だったら4輪で小さいものの方がいいですよね。軽よりも小さくしてもっともっと小回りをよくするとこういう形になったのです。

 高齢化社会という時代の変化のなかでやはり交通手段も

変わらないといけない。公共交通機関でカバーできなければ、

やはり個人がどう移動手段を確保できるようにするかは社会

の元気さを保つために不可欠なポイントであり、まさに私たち

の将来の社会のための共通善ですね。ぜひ国の認可をいち

早く取得して、お年寄りにもいつまでも元気でいていただける

社会インフラを築いてください。どうもありがとうございました。(インタビューは、2012年1月に実施)

「つながり社会」を語る

前川製作所の山本氏にNISSAN New Mobility Concept に実際に試乗頂きました。

日産自動車テストコースでの試乗の様子

NISSAN New Mobility Concept概要●全長×全幅×全高 : 2340mm×1190mm×1450mm          前後二人乗り●最 高 速 度 : 約80km/h●車      重 : 460kg(ドア無)、490kg(ドア付き)●出      力 : 定格8kW、最高15kW

●航 続 距 離 : 約100km●充電方法・時間 : 普通充電200V、         約3.5時間

昭和7年8月生まれ。早稲田大学第一理工学部工業経営科を卒業、昭和33年5月(株)前川製作所入社。機械工場生産、アメリカ駐在を経験。冷凍機・モーター等の開発・商品化に携わる。現在、各種技術資料、取扱説明書の作成支援、回転機実験改良アドバイス等を行っている。

山本恭男 氏/株式会社前川製作所

PROFILE

10 11白書白書

Page 13: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

暮らす

 「芝の家」は芝公園駅から一歩住宅街に入った昔ながらの路地に面した古い一軒家風の建物です。そこでお子さんからお年寄りまでが通りすがりに寄り道し、自然な形で街に溶け込んでいるようです。まずはこの「芝の家」ができた背景、取組まれている内容について教えて頂けますでしょうか。

坂倉 「芝の家」は、港区と慶應義塾大学が協同で取り組んでいる事業で、地域コミュニティの形成が目的です。港区は公的サービスが比較的充実していますが、10数年後の高齢社会率などを考えると、高齢者ケアを公的サービスだけでカバーするのは難しい。行政と民間が力を合わせて支援する形を模索しようと始まった実験的な取り組みです。 2008年の10月に開設したので3年半が経ちます。来られる方は0歳の赤ちゃんから90歳のお年寄りまで幅広い年代の方々です。主には近隣の方が多いのですが、なかには遠方からいらっしゃる人もいます。1日平均34人ほど、年間1万人弱が来場します。嬉しいことに、お越しになる方は徐々に増え続けていますね。 芝の家は、月曜日から土曜日までの週6日間オープンしています。毎日のようにオープンしていると、毎日違った誰かが訪れ、そこに新しい出会いが生まれます。他者とつながるネットワークの「量」が増え、それに比例するように「深さ」が増します。そして、こうした出会いから、様 な々地域活動が始まってきます。芝の家に関わってくれる人が、イベントを開いたり、子育て支援や菜園づくりの活動を始めたり。月に1回ご飯を持ち寄って食べようという会もあります。 他にも、色 な々種類のつながりがあります。近隣に住んでいる人同士のつながり、学生と地域の人や専門性のある社会人との出会い。子育て世代の人もいれば、高齢者もいて、出会うことでそこから新しいものが生まれてくるんです。 ある人は芝の家に来るようになって、人との付き合い方が自然な形となり、自分の住んでいる地域でも近所付き合いが始

まったという話もあります。芝の家で知り合った人同士が、外で会うようになることも起きています。芝の家の「中」での出会いが「外」へも派生しているわけです。なので、芝の家の効果という意味では、ここの中で起きていることだけを見ていても分からないとも言え、非常に幅の広いコミュニティ形成の波及効果が生まれていると感じます。

 「芝の家」は港区、つまり行政との共同での取り組みですが、実際にこの場所を訪れてみても、いらっしゃる方々をみても、行政の持つ堅苦しい印象とは真逆のように感じます。実際のところ、共同で事業を行うにあたり特別な守り事や規制はあるのでしょうか。

坂倉 この点については、よく聞かれます。みなさん、行政との取り組みだと規制が厳しいのではと思われているのですね。しかし「芝の家」は実験的な事業ということもあり、比較的柔軟な対応ができているといえます。 最初は地域外の人が来ていると、「ここの地域の人以外の人がいるのはどうしてですか」と言われたりもしましたが、コミュニティを活性化させるためには、地域の外の人にも開かれていることが実は大切です。また、縦割りの施策だとどうしても対象となる属性の人、例えば高齢者なら高齢者だけに目が向きます。しかし高齢の方々にとっても、同じ世代の人たちだけで集まるのではなく、若い人たちをはじめいろいろな世代やジャンルの人たちとつながることができることが、生きている実感につながるということも多いはずです。

「芝の家」「芝の地域力再発見事業」として港区と慶應義塾大学が協同で取り組む事業。昭和30年代のあたたかい人と人とのつながりの再生を目的し、港区、慶應義塾大学の学生、近隣住民などが一体となり運営している。

1972年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、凸版印刷株式会社に勤務、文化事業・博物館などの企画・制作を手掛ける。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構専任講師を経て現職。コミュニティ形成や芸術の共同制作における「場」の働きに注目し、実践的な研究を重ねる。具体的な「場」づくりの実践として、地域コミュニティの拠点「芝の家」や地域に開かれた新しい学び場「三田の家」を運営している。

芝の家 「生活のなかにある、自然体な出会いの場」

坂倉杏介 氏/慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所/教養研究センター特任講師

PROFILE

 坂倉先生のお話の中で「つながり」というキーワードが何度か出てきましたが、「つながり」とは一体どのようなものだと思われていますか。

坂倉 つながりといっても、人によってイメージはまちまちだと思います。またいろいろなレベルのつながりがあって、家族や近隣のつながり、顔見知りや知人というつながり、一緒に地域活動を行う仲間のようなつながり、また地域の施設の担当者同士といった組織間のつながりもあります。見知らぬ人同士が警戒し合うのが当然という都会の生活ですが、芝の家には、知らない人でも積極的に受けいれて信頼してみよう、という雰囲気がありますね。 また、つながりは「動的なもの」だと思うんです。顔を合わせたり、用事があって連絡したりということがある程度の頻度で起こっている結果として、それがつながりとして実感されるようになります。それゆえ、人が集まり、出来事が起こっていくような場では、つながりは自然に広がり、強まっていくのではないでしょうか。ただし、基本的につながりは自発性に基づくので、つながるかどうかはその人次第です。つながり自体を目的に何かをするのは不自然です。

玉川 本人の主体性を軸にすることが大切だと思います。これがないと、強制的なつながりになってしまいます。高齢者の定義の話も似ているものがあり、急に「あなた、高齢者なんだよ。つながりをつけてあげましょう」とファンクショナルに決められても困ってしまいます。

坂倉 「あなたは高齢者です。孤独でしょう」と人に決められるとがっかりしますよね。気持ちをへし折られた気分になります。こんなことが蔓延している社会では、生きる気力をなくしてしまっても当然だと思います。多様な人たちが一緒にいられるということは、お互いに存在を認め合っているということです。すなわち、誰に決められたわけでもなく、根源的なつながりの準備ができている。そこから、「あの人と話したい」、「こういうことがしたい」と思い、行動を起こすことで、自然に生まれるのがつながりです。そしてその周囲では、そんな仲間に興味を持ってさらにつながりの輪が生まれてきます。

 「芝の家」にいると昭和のような香りや温かな雰囲気が伝わってくるのですが、昔は「芝の家」のように近隣の人が自由に集まれる場所はあったのでしょうか。⦆島田 私の家は家族を含めて、親類との交流が多くありました。比較的近い地域に住んでいましたので行事や特別な日でなくても、本家にはよく皆が集まってきていました。まちのなかでも何かの理由をつけて居場所を作らなくても、お醤油やお米の貸し借りや所謂井戸端会議など、生活の中での自然な交流やつながりがあったと思います。今はみなが自由に集まれる場所が少なくなっていますが、この「芝の家」は自然と人が立ち寄り集まって来ています。都心では近隣に誰でもが好きな時にちょっと行ってみたい、いろいろな人と出会える、話がしたい、このような場を設けることは難しいかもしれませんが、高層ビルの谷間に小さくても多くの利用者が行きたいと思える居場所づくりの取り組みが広がっていけばいいなと思います。

 高齢者の方々が健康で自立している期間が長くなるためには、もちろん個人での努力も必要なのですが、社会として必要なものは何でしょうか。

坂倉 年を重ねるごとに、人は多様性を増すんじゃないかと思っています。人間は産まれたばかりの赤ちゃんの時は似ているかもしれないですが、年とともに、一人ひとり異なる経験を重ねていきます。同じ80歳でもいろいろな人がいる訳です。 そうした多様性や個性を感じ、自分らしく生きることが自立だと思うんです。しかし、その自分らしさは、自分ひとりで生きていては分かりません。多様な人 と々ともにいられる場所でこそ、自分が自分らしく生き生きと生きていることの実感を得られるのだと思います。 人とのつながりを通じて、こうした手応えを感じられる場が、特に都市部にはもっと多くあってもよいのではないでしょうか。 政策面では、これまでは困った人を助けるためのサービスや、全国一律の制度の充実がメインでした。これからは、個人の主体性が活かし、また地域特性にあわせた柔軟な政策のデザインがより重要になると思います。 人は何かあった時に助けてもらえる、相談できる友人・知人が近くにあるだけでとても安心し前向きになれるものです。それがコミュニティなんです。そういう自発的な気持ちを育める場づくりが政策の柱になっていかないといけないですね。

 インタビューをしている間にも、様々な世代の多くの人が出入りをして、自然と会話がおこり、笑顔がこぼれ、みな近所づきあいを楽しまれている様子が印象的でした。日々の暮らしの中で、このようなつながりの場が増えていけば、高齢者のみならず、地域の人々やそこからつながっていく人すべてに明るさが伝わっていくと感じました。坂倉先生、芝の家のみなさま、ありがとうございました。

(インタビューは、2012年4月に実施)

「つながり社会」を語る

「芝の家」のスタッフをしていらっしゃる島田さん、玉川さんにもお話をお聞きいたしました。(左)島田茂都子さん(右)玉川洋次さん

「芝の家」の外観(左)と屋内の様子(右)

12 13白書白書

Page 14: Value aging aging 白書 自立支援介護 自立支援介護のポイント 運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」 「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

暮らす

 「芝の家」は芝公園駅から一歩住宅街に入った昔ながらの路地に面した古い一軒家風の建物です。そこでお子さんからお年寄りまでが通りすがりに寄り道し、自然な形で街に溶け込んでいるようです。まずはこの「芝の家」ができた背景、取組まれている内容について教えて頂けますでしょうか。

坂倉 「芝の家」は、港区と慶應義塾大学が協同で取り組んでいる事業で、地域コミュニティの形成が目的です。港区は公的サービスが比較的充実していますが、10数年後の高齢社会率などを考えると、高齢者ケアを公的サービスだけでカバーするのは難しい。行政と民間が力を合わせて支援する形を模索しようと始まった実験的な取り組みです。 2008年の10月に開設したので3年半が経ちます。来られる方は0歳の赤ちゃんから90歳のお年寄りまで幅広い年代の方々です。主には近隣の方が多いのですが、なかには遠方からいらっしゃる人もいます。1日平均34人ほど、年間1万人弱が来場します。嬉しいことに、お越しになる方は徐々に増え続けていますね。 芝の家は、月曜日から土曜日までの週6日間オープンしています。毎日のようにオープンしていると、毎日違った誰かが訪れ、そこに新しい出会いが生まれます。他者とつながるネットワークの「量」が増え、それに比例するように「深さ」が増します。そして、こうした出会いから、様 な々地域活動が始まってきます。芝の家に関わってくれる人が、イベントを開いたり、子育て支援や菜園づくりの活動を始めたり。月に1回ご飯を持ち寄って食べようという会もあります。 他にも、色 な々種類のつながりがあります。近隣に住んでいる人同士のつながり、学生と地域の人や専門性のある社会人との出会い。子育て世代の人もいれば、高齢者もいて、出会うことでそこから新しいものが生まれてくるんです。 ある人は芝の家に来るようになって、人との付き合い方が自然な形となり、自分の住んでいる地域でも近所付き合いが始

まったという話もあります。芝の家で知り合った人同士が、外で会うようになることも起きています。芝の家の「中」での出会いが「外」へも派生しているわけです。なので、芝の家の効果という意味では、ここの中で起きていることだけを見ていても分からないとも言え、非常に幅の広いコミュニティ形成の波及効果が生まれていると感じます。

 「芝の家」は港区、つまり行政との共同での取り組みですが、実際にこの場所を訪れてみても、いらっしゃる方々をみても、行政の持つ堅苦しい印象とは真逆のように感じます。実際のところ、共同で事業を行うにあたり特別な守り事や規制はあるのでしょうか。

坂倉 この点については、よく聞かれます。みなさん、行政との取り組みだと規制が厳しいのではと思われているのですね。しかし「芝の家」は実験的な事業ということもあり、比較的柔軟な対応ができているといえます。 最初は地域外の人が来ていると、「ここの地域の人以外の人がいるのはどうしてですか」と言われたりもしましたが、コミュニティを活性化させるためには、地域の外の人にも開かれていることが実は大切です。また、縦割りの施策だとどうしても対象となる属性の人、例えば高齢者なら高齢者だけに目が向きます。しかし高齢の方々にとっても、同じ世代の人たちだけで集まるのではなく、若い人たちをはじめいろいろな世代やジャンルの人たちとつながることができることが、生きている実感につながるということも多いはずです。

「芝の家」「芝の地域力再発見事業」として港区と慶應義塾大学が協同で取り組む事業。昭和30年代のあたたかい人と人とのつながりの再生を目的し、港区、慶應義塾大学の学生、近隣住民などが一体となり運営している。

1972年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、凸版印刷株式会社に勤務、文化事業・博物館などの企画・制作を手掛ける。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修了後、慶應義塾大学デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構専任講師を経て現職。コミュニティ形成や芸術の共同制作における「場」の働きに注目し、実践的な研究を重ねる。具体的な「場」づくりの実践として、地域コミュニティの拠点「芝の家」や地域に開かれた新しい学び場「三田の家」を運営している。

芝の家 「生活のなかにある、自然体な出会いの場」

坂倉杏介 氏/慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所/教養研究センター特任講師

PROFILE

 坂倉先生のお話の中で「つながり」というキーワードが何度か出てきましたが、「つながり」とは一体どのようなものだと思われていますか。

坂倉 つながりといっても、人によってイメージはまちまちだと思います。またいろいろなレベルのつながりがあって、家族や近隣のつながり、顔見知りや知人というつながり、一緒に地域活動を行う仲間のようなつながり、また地域の施設の担当者同士といった組織間のつながりもあります。見知らぬ人同士が警戒し合うのが当然という都会の生活ですが、芝の家には、知らない人でも積極的に受けいれて信頼してみよう、という雰囲気がありますね。 また、つながりは「動的なもの」だと思うんです。顔を合わせたり、用事があって連絡したりということがある程度の頻度で起こっている結果として、それがつながりとして実感されるようになります。それゆえ、人が集まり、出来事が起こっていくような場では、つながりは自然に広がり、強まっていくのではないでしょうか。ただし、基本的につながりは自発性に基づくので、つながるかどうかはその人次第です。つながり自体を目的に何かをするのは不自然です。

玉川 本人の主体性を軸にすることが大切だと思います。これがないと、強制的なつながりになってしまいます。高齢者の定義の話も似ているものがあり、急に「あなた、高齢者なんだよ。つながりをつけてあげましょう」とファンクショナルに決められても困ってしまいます。

坂倉 「あなたは高齢者です。孤独でしょう」と人に決められるとがっかりしますよね。気持ちをへし折られた気分になります。こんなことが蔓延している社会では、生きる気力をなくしてしまっても当然だと思います。多様な人たちが一緒にいられるということは、お互いに存在を認め合っているということです。すなわち、誰に決められたわけでもなく、根源的なつながりの準備ができている。そこから、「あの人と話したい」、「こういうことがしたい」と思い、行動を起こすことで、自然に生まれるのがつながりです。そしてその周囲では、そんな仲間に興味を持ってさらにつながりの輪が生まれてきます。

 「芝の家」にいると昭和のような香りや温かな雰囲気が伝わってくるのですが、昔は「芝の家」のように近隣の人が自由に集まれる場所はあったのでしょうか。⦆島田 私の家は家族を含めて、親類との交流が多くありました。比較的近い地域に住んでいましたので行事や特別な日でなくても、本家にはよく皆が集まってきていました。まちのなかでも何かの理由をつけて居場所を作らなくても、お醤油やお米の貸し借りや所謂井戸端会議など、生活の中での自然な交流やつながりがあったと思います。今はみなが自由に集まれる場所が少なくなっていますが、この「芝の家」は自然と人が立ち寄り集まって来ています。都心では近隣に誰でもが好きな時にちょっと行ってみたい、いろいろな人と出会える、話がしたい、このような場を設けることは難しいかもしれませんが、高層ビルの谷間に小さくても多くの利用者が行きたいと思える居場所づくりの取り組みが広がっていけばいいなと思います。

 高齢者の方々が健康で自立している期間が長くなるためには、もちろん個人での努力も必要なのですが、社会として必要なものは何でしょうか。

坂倉 年を重ねるごとに、人は多様性を増すんじゃないかと思っています。人間は産まれたばかりの赤ちゃんの時は似ているかもしれないですが、年とともに、一人ひとり異なる経験を重ねていきます。同じ80歳でもいろいろな人がいる訳です。 そうした多様性や個性を感じ、自分らしく生きることが自立だと思うんです。しかし、その自分らしさは、自分ひとりで生きていては分かりません。多様な人 と々ともにいられる場所でこそ、自分が自分らしく生き生きと生きていることの実感を得られるのだと思います。 人とのつながりを通じて、こうした手応えを感じられる場が、特に都市部にはもっと多くあってもよいのではないでしょうか。 政策面では、これまでは困った人を助けるためのサービスや、全国一律の制度の充実がメインでした。これからは、個人の主体性が活かし、また地域特性にあわせた柔軟な政策のデザインがより重要になると思います。 人は何かあった時に助けてもらえる、相談できる友人・知人が近くにあるだけでとても安心し前向きになれるものです。それがコミュニティなんです。そういう自発的な気持ちを育める場づくりが政策の柱になっていかないといけないですね。

 インタビューをしている間にも、様々な世代の多くの人が出入りをして、自然と会話がおこり、笑顔がこぼれ、みな近所づきあいを楽しまれている様子が印象的でした。日々の暮らしの中で、このようなつながりの場が増えていけば、高齢者のみならず、地域の人々やそこからつながっていく人すべてに明るさが伝わっていくと感じました。坂倉先生、芝の家のみなさま、ありがとうございました。

(インタビューは、2012年4月に実施)

「つながり社会」を語る

「芝の家」のスタッフをしていらっしゃる島田さん、玉川さんにもお話をお聞きいたしました。(左)島田茂都子さん(右)玉川洋次さん

「芝の家」の外観(左)と屋内の様子(右)

12 13白書白書

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自分らしく、ともに生きる年の重ね方

Value aging 白書

   自立支援介護自立支援介護のポイント

運 動 「運動の重要性と効果、運動時の注意事項」

「自立支援介護は人に対する最も根元的な支援」

   

   つながり社会暮らす―「つながり社会」を語る

「社会とつながるインフラの創出」

「生活のなかにある、自然体な出会いの場」

提 言「Value aging」の提唱

自分らしく生きるための高齢者の自覚と“自立支援介護”への転換

高齢社会を活かすために不可欠な“つながり”の再構築

自分らしく、ともに生きる年の重ね方“Value aging”へ向けて

Vol.4はじめに Value aging 研究会の目的と背景

一人ひとりが自分らしさを大切にしながら、健康な生活を送り、そして社会と

つながりながら暮らしていく。そのような年の重ね方を「Value aging」と名付

けました。本白書は「Value aging」という考え方を軸としながら、日本の

高齢化社会について考えていくものです。

バリューエイジング

バリューエイジング

自分らしく、ともに生きる年の重ね方

2013年1月

株式会社サンケイビルウェルケアValue aging研究会 事務局

Value agingの2本柱 その1

Value agingの2本柱 その2