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Vo l. 4No.l Published by Research Center for Integrative Mathematics Hokkaido University 北海道大学数学連携研究センター /ρ&

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Page 1: Vol. 4 No€¦ · RCIM RcsLetters l" arch ('cnl....r for Intcgratl、cMathcmatic、 Vol. 4 No.1 CONTENTS December, 2011 Interview 01 I 理化学研究所 長田 義仁氏インタビュー

Vol.4 No.l

Published by

Research Center for Integrative Mathematics, Hokkaido University

北海道大学数学連携研究センター /ρ&

Page 2: Vol. 4 No€¦ · RCIM RcsLetters l" arch ('cnl....r for Intcgratl、cMathcmatic、 Vol. 4 No.1 CONTENTS December, 2011 Interview 01 I 理化学研究所 長田 義仁氏インタビュー

RCIM Rcsl"arch ('cnl....r for Intcgratl、cMathcmatic、

Letters

Vol.4 No.1

CONTENTS

December, 2011

Interview 01 I 理化学研究所

長田 義仁氏インタビュー

RCIM Seminar 17 I 数学連携サロンの記録

Members List 19 I数学連携研究センタ一教員一覧

Page 3: Vol. 4 No€¦ · RCIM RcsLetters l" arch ('cnl....r for Intcgratl、cMathcmatic、 Vol. 4 No.1 CONTENTS December, 2011 Interview 01 I 理化学研究所 長田 義仁氏インタビュー

理化学研究所 北大電子研連携研究チームチームリーダー

機関間連携研究グループグループディレクタ一 長田義仁氏インタヒ‘ユー

「いかに自分の世界をつくりあげるかJ

「人工筋肉から生命の集合体の意味

を解きたいJ

長田グループリ ーダーは、過去に本学副学長を務められ、現在は独立行政

法人理化学研究所にて機関問連携研究グループグループディレクタ一、北

大電子研連携研究チームチームリ ダーを務められている。ご専門は、ソ

フト&ウエットマタ一、高分子ゲル、人工筋肉。現在も本学と関わりが深く、

電子科学研究所と連携し、高分子科学、数理科学、細胞生物学、半導体工

学といった多様な異分野融合型の共同研究を推進している。今回は、津田

一郎センター長たっての希望で対談が実現した。(文中敬称略)

|I ~北じ扶大剛吃小(1慨99抑9幻2"'2揃o∞側o“6i津寧田 長田先生は前々から北大の先生なのでで、、わたしも

もちろんよく存じ上げていますが、インタビューなので

おにとっては当たり前のことも伺っていきます。今から

1 7年ほど前に、複雑系の何かプロジェクトをやるから

出さないかと言われて、もう覚えていらっしゃらないか

もしれない。

津田一郎数学連携研究センター

センタ一長

長田 僕が?

津田 1994年か 1995年です。僕が北大に来てすぐだと

思うんです。そ したら電話がかかってき て、あんた津田

さんだろう、おれは長田だって。それで、プロジェク ト

を複雑系でや りたいという こと をおっしゃって、結局何

か途中で断ち切れになっちゃったんだと思うんです。そ

理化学研究所

長田義仁氏Yoshihito Osada

の後連絡がなくて。

長田 それはすみませんでした。

津田 17年間恨みに思っていたわけじゃないんだ、けども。

(笑)

長田 いきなりこれで始まるか。(笑)

津田 それで、実は昔々長田先生とは一度お会いしていた

みたいなんですけども、分子研でしたっけ。

長田 分子研でしたね。

津田 思い起こせばわりと近い分野、もともとの出身は違

うんですけども、わたしは理論物理出身で、長田先生は化

学出身なんだけども、自己組織とか非平衡とかっていうと

ころでは非常に近いところにいたわけです。

長田 そうそう、材料でね。

津田 そういう大枠のところの興味が一致していたという

ことがあって、北大に来られてからも何度かコンタクトし

ようと思っていたんですが、長田先生もどんどん忙:しくな

られた し、僕も何かいろいろ数学教室運営の仕事があって l、

さらには数学からプロジ、エク トを申請しようといったこと

がありまして 2。北大の数学はわりと活発にいろんなこと

l平成5年~平成 17年 9月まで理学研究院数学専攻所属、平成 17年 10月~現職 電

子科学研究所へ異動。平成20年 4月数学連携研究センヲ一発足と同時にセン宇一長に

就任。

2平成 15~ 19年 21世紀仁OEプログラム 「特異性から見た非線形構造の数字JIζ採択。

北海道大学数学連携研究センター I01

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Enterview

をやろうということがあったものですから、なかなか長田

先生とは研究関係で一緒になるということがなかったんで

すね。そう こうしているうちに長田先生が理学部長 ・理学

研究科長になられました。今でいうと理学研究院長 ・理学

院長 ・理学部長全て兼ねるわけです。

長田 理学研究科長 ・迎学部長、そうそう。

津田 そのと きに私は数学から将来計画委員として出てい

まして、長田先生とそのとき初めてわりと近いと ころで話

をさせてもらって非常に楽しかったですね。とてもアイデ

アのある方で、岡田先生とか山口先生とかがおられて、サ

ポーティ ング体制というのはできていたので、理学部とし

ては非常に面白い時代だ、ったと思います。

今日はそういうお話じゃなくて、数学との接点を探る話に

したいと思います。今までの話は、ち ょっと簡単なご紹介

ということで、そういう経緯があります。

高分子化学の発展期、拡張期

津田 最初にお聞きしたいのは、どうして今のような高分

子、特に先生はアウトプットとして人工筋肉を作ろうとい

うことで、ゲルの研究をされて、その中で非常に基礎的な

物理法則としても重要な問題であるダイナミツクフリク

ションとも関係するような、基礎的なところでも大きな仕

事をされているので、我々も非常に興味を持っています。

ご経歴を交え、自己紹介を兼ねて、なぜそういう高分子科

学に興味を持ってきたかというところをまずお話しいただ

ければと思います。経歴のところから言っていただいても

いいし、ロシアの話もあると思います。

長田 そうそう 、ロ シアの話に密接に関係しているんです。

まず高分子化学というのにもうめちゃくちゃ引かれたわけ

ですね。僕は 1966年の卒業 3ですから石油化学、プラス

チックの時代、つまり人工の高分子を作るという時代。人

工の高分子の先には何があるかといったら、タンパク質が

あるわけです。DNAとか糖とか、これはみんな高分子で

す。ですから当時はね、我々はこの石油をベースにした高

分子化学が発展していくと、DNAとか、タンパク質とか、

そちらの世界までシームレスに発展していくだろうと、そ

ういう楽観論があったわけ。

津田 でも、それは世間一般にあったわけですか。

長田 世間一般にあったし、同時に分子生物学というもの

31966年早稲田大学理工学応凋化学科卒撲

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うん

ハり

が勃興し始めた時期だ‘ったんですよ。今こうやって分子生

物学が十二分に発達してみると、おのずからその境い目と

いうか、双方の力の境界というのは分かつてくるから、安

易なことはもう言わないんです。当時は高分子といったら

タンパクまでひとりで、に行っちゃうようなそういう世界

で、同時に人工酵素とか人工臓器というのもどんどん出始

めた時代。

津田 そうですか。人工臓器としては当時は何が出ていま

したか。

長田 人工腎臓が最初ですね。その頃もう今、透析で使っ

ている、あの原型はもうほとんどできていたから。原理は

簡単なんですよ。中空のファイパーを作って、そこに尿の

成分や智正オくを入れてIl&'し出す、それを体に回せばいい。も

う簡単で、それはケミカルエンジニアリングの延長線でで

きるから。それから人工肝臓なんていうのもあった。例え

ば苛物を除去するというのも肝臓の役割でしょう 。それを

例えば当時でしたら活性炭を通して同じようにぐるぐる回

してやるとかね。肝臓の働きは多彩ですから、今は人工肝

臓という言葉はあまり使わないで・すけども、当時はそうい

う元気な勇み足を平気でやっていた時代だったわけです

ね。

津田 でもそういう勇み足ができる時代というのは、逆に

いうと大発見もあり、 35tがある。

長田 そうですね。夢があるし、もう誰がフロンティアに

なって走るかと、そういう高分子化学の発展期、拡張期で

すね、そういう時代でした。

津田 確かに、僕も大学の教養部の1年生で化学の実験と

いって、白衣を着させられて。そうしたら有機の実験って、

混ぜるのはいいんだけど、 31時間待てって言うわけですよ。

それで、とても待っていられないから遊ひに行ったり して、

3時間経って戻ってきたら何か色が変わっていた。その時

に匂いもあって、確かに有機反応って何かすごい反応だな

と思いましたけど。

長田 それで大学の授業で駄目なのはね、3時間後に来

いっていうでしょ。途中の経過、過程、それを見なきゃい

けないのに、本当に入口と出口としか教えないわけ。昔の

その、やっぱり描かれたストーリーなんでいうのはほんの、

何ていうかね、生き物でいえば骨だけにしちゃったような

もんでね。

津田 本当に今おっしゃった、反応のプロセスをずっと見

て行くっていうのは、ものすごく大事ですね。僕らはやら

されてやってるから、有機反応はもう 3時間後で見りゃあ

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いいとか思っちゃうけど、自分で実験をやると、やっぱり

そういうもんじゃないと。

長田 そういうもんじゃないし、それで僕は学生のとき、

実験は好きなのに学生実験は大嫌いだ、ったの。もういつも

サボってた。

津田 決められているから。

長田 もうプログラムできてるでしょ。結果をもう先に教

えちゃってるから何も面白くないんで、すね。現に面白いの

はね、プログラムの通りにならないっていうケースが結構

あるんですよ、化学っていうのは。何かやり方、混ぜ方の

JII~序を変えたとか、 不純物が入ったとか。 そうなった方が

むしろ面白いですけど。そういうのに日本の化学の柔軟性

の問題として、欠陥があるような気がします。

津田 後で伺おうと思っていたんですが、今ちょ っと話が

出たのでついでに伺います。今の学校教育というか、理科

の教育ですね、それはどう思われますか。大学でいいんで

すけど。

長田 そこから次に、大学院へ行って、モスクワへ行つて

なんでいう話になるかもしれないんだけどそこまで行く?

津田 ずっといきます。

|里由度を持って

津田 僕は、長田先生の教育感に強い印象を持ったことが

ありまして。非常に印象に残っているのは、長田先生は化

学出身で高分子の先生なんだけど、「化学なんてもう駄目

だ」っておっしゃったんですよ。北大の理学部長のときに。

化学が普通の化学じゃ駄目だ、という意味だと思うんです

よね。やっぱり新しいことをやらなきゃ駄目だよ、と。先

生が化学:のご出身だからそういう言い方されたんだと思う

けど、多分どこでも同じだと思うんですね、物理だって。

伝統は大苧だけども、旧態依然としたことばかりやってい

たら若い人にと って自分のステップがないですから、それ

は物理なら物理にいる先生も考えなきゃいけないし、数学

だ‘って基礎的なところはきちっとやらなきゃいけないけ

ど、それにさらに新しい現代数学もどんどん教えていくと

か、そういうことをやらなきゃいけませんよね。そういう

ことからして、やっぱり化学の教育方法にちょっと疑問を

持たれていたのかと。

長田 いまだにめちゃくちゃ思っています。いや、「化学

が駄目だ」というのは正しくないけど、化学の研究の進め

方とか教育の仕方とか、これは変えなきゃいけない。相当

理化学研究所長田義仁氏インタビ、ユー

根本的に変えなきゃ駄目じゃないかなと思います。

津田 何か一言、どういう方向に変えたらいいか言ってく

ださい。あるいは、どういうふうに変えたいですか。

長田 今の化学は要するに研究でいえばトライアンドエ

ラーですから、職人の世界。だから力技、汗と涙の世界。

汗と涙にどれだけ耐えられるか、という要素がたくさんあ

るわけで、すよ。人によっては、ついこの間もある会合でそ

ういう ことを言う人がいて、僕ちょっと反論したんだ、けど

も、そういう世界をもう抜け出なきゃいけないんじゃない

か、と。化学は物質の変化の学問ですから、その物質変化

のバリエーションは数限りなくある。物質が数限りなく

あって、その変化の数は宇宙論的数字になるわけで、それ

を今はランダムにやっているわけです。たまたまのきっか

けで始めて、模索的に自分の洞窟を掘っているようなもん

ですから、それをもっと体系的にやるとか論理的にやると

か、そういうことが僕は絶対必要だと思う。その中に偶発

性とか予期しないこ とももちろんあるんだけども、実験を

限りなくやれやれっていうのは考え直さなければいけな

い。化学の先生方の教育の体質というか、ものの考え方と

いうものがそうなっていますね。僕なんかそれにちょっと

合わないことが多いですけど、だから研究の仕方とか教え

方は相当考え直さなきゃいけない。

津田 それはやっぱり、もう少し何ていうか理論的な部分

というのが必要だと。

長田 理論的、論理性とか。

津田 となると数学です。

長回 数学はそうですね。

長固 なぜこの系を対象にするか、というような意味とか

価値とか論理とか、そういうことを研究をスタートする前

に十二分に考えるという姿勢がほとんどないですね。たま

たまこれをやってるとか。

津田 なるほど。それはいろんなところに通じるお話だと

思うんですけど、やっぱり研究をあまり急ぎすぎて、早く

芽が出ちゃうと逆に伸び悩んだりするということもありま

すよね。

長田 それもあるし、それから追われるような感じも今は

あるしね。

津田 よく言われるのが、水泳の選手が最初潜っていて、

浮かび上がってきたときにはリードしているっていうのが

ありますが、そういう水面下で努力しているわけですね、

ずっと。そういう蓄積していく部分というのが、そう いう

ときにこそあると。

北海道大学数学連携研究センタ ー I03

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Enterview

長田 むしろ水面下というのはいろんな意味があるけど

も、脚光を浴びていないとか、学会とか世間から注目を浴

びていないということによって、自分には見えないけども

自由度を持っているんですよね。期待されたらそこで世間

にさらされて自由を失っちゃう。だから逆にいうと言い方

が難しいけども、そういう潜水する時間は必要かなと。

津田 特に若い時、若い人は焦るんで、早く何か成果を出

したいと思うかもしれないけど、 むしろ何年かやっぱり我

慢して、問題意識を自分の中につくるという、そういう時

期が非常に必要で、す。年取っても必要だとは思いますけど、

特に若い時にあまり簡単なテーマについて成果ばかり出し

たって。

長田 今「さきがけJ4の総括やってるんですけど、僕は

むしろプレーキかけているんです。年2回領域会議という

のをやっている。これは、僕らが考えている以上に彼らに

とってはプレッシャーなんですね。それに彼らは、自己加

速的なんだね。誰かがいい発表するでしょう、華々しいわ

け。そうすると、それに負けないよう にとか、あるいはそ

うしなきゃいけないとかね。ペーパーも出した、雑誌の表

紙を飾った、新聞で取り上げられたって言ったら、パッと

しゃべるわけですね。大体中心は40歳前後ですけどね。

そうすると研究が地味な基礎テーマの人は嫌でも焦ります

よね、人間として。みんながみんなそれをやったら良くな

いですよね。だから僕の総括としての仕事は研究をやれと

いうことよりも、いかに「さきがけjの期間に自分の世界

をつくり上げるか、ということを言ってるんですけどね。

津田 それは非常に重要だ、と思うので、まさにそこのとこ

ろで先生がご自分の世界をっくり上げてこられた、まず最

初のスターティングポイントというのは大学院。

長田 そう、ようやく戻りましたね。

津田 そこの話をぜひ。

モスクワ大学大学院時代 (1967'"1970)

長田 大学院に行ったんだけど、授業科値上げの早稲田大

学大騒動5に出会っちゃったんですよ、大紛争。東大の3

年ぐらい前ですかね。機動隊が、悲しいかな大学を全部占

拠して建物に入れないんですよ。こりゃ何だ‘よ、と思った

よね。学費を値上げしといて学校に来させないで、それで、

こんな紛争をして。僕は石投げたりはしてなかったんです

けどね、非常にむなしいもの。というのは、僕は高校時代

から早稲田に行ってたからね、高等学院に行って、大学受

験していないんですよ。それで、そのときは僕の周りは高

校のときの友人といったら作家とか文経家とか、今ではも

う有名なジャーナリストになったりした、そんなのが多い

んですよ。作家の息子なんかがね。

津田 早稲田は伝統的にそうですからね。

長田 大学はあまり面白くなかったし、正直いってあまり

楽しい研究をしているとは思えなかったんで・す。それに学

生争議でしょ。ところが、 1966年の秋に高分子学会世界

大会が東京であって、その時に蕃星のように現れた若手研

究者がいたんだな。それが、カパノフという僕がつくこと

になるモスクワ大学の先生で、当時彼は32歳ぐらいのは

ずで、一世を風廃した研究を報告なさって。

津田 それは何を。

長田 マトリックス重合というものをやっていて、要する

にDNAというのが情報を持っていて、そこでタンパク質

を作るでしょ、それをモデル化したような高分子研究をし

たんですね。それが大センセーションになって、しかもそ

の人の人柄がね、素晴らしい。当時のロシアっていう とソ

述、鉄のカーテンで怖い人ばかりだったので。

津田 ソ連の時代ですからね。

長田 二枚目で背は高いし、にこやかで、表現力は豊かだ

しね、当時の日本の高分子をリ ードしているずっと年上の

方々がみんな彼の魅力に引かれたような感じで、僕も講

演聞いて感動しました。私のモスクワ行きには数学者が関

わっているんですけどね、応用数学をやる人で、この人も

高名な人です。その人は、ソ連に数学の友人がいてモスク

ワ大学に行くので、一緒に行かないかと誘われた。

津田 そうですね、数学のある分野はやっぱりソ連という

か、強かったですね。

長田 早稲田大学は、ずいぶん昔からモスクワ大学と交換

教育をやっているんです。それで、彼らが今度モスクワに

行くのでおまえも行かないか、という誘いがあった。僕は

正直言って、へジテイ 卜していたんですよ。で、ちょっと

考えるとか何かしていたら、悩むぐらいならもう行くなと

4独立行政法人科学技術娠興機摘 (JST)では、産業や社会に役立つ妓術シーズの創出を目的とした国が定める戦略目標の達成へ向けた政策課題対応型の取滋(戦略的創造研究推進事業)

を実施している.さきがけは、中心プログラム。平成20年度発足「ナノシステムと織能A'J発」総括を務める。領域分野は、ライフサイエンス系、化学系、物理系、情報科学系、環境

エネルギー系。戦略目標「プロセスインテグレーションによる次世代ナノシステムの直IJ製J,httpJ/www.jst.go.jp/kisoken/presto/ja/kenkyu/index.html

51966 (昭和41)年 1月 18日第一法学部および教育学部の学生,学fH直よげに抗織してストライキに入り (208には第一政治経済学都 ・第一商学部・第一文学部, 21自には理工学

部が続く), r学賞 ・学館紛争」勃発。早稲田大学百年史より。

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言われて、一喝されちゃったんです、その先生に。そ した

ら面白いね、反射的に、はい、じゃあ参りますって。 それ

で相前後して行ってね、先生はもう 60歳を超えておられ

たのですが、その数学の先生がモスクワ大学の著名な数学

者と友人で、実は僕はカパノフ先生に就いていきたいんだ、

とその方に話すと、カパノフさんの親分の先生に話をして

くれて、それで、僕はスパッと入れたんです。

そこでの研究は僕にはショッキングでしたけどね、こう

いうのが真の教育かと思った。それはもう 、純粋に理学部

的ですけどね、どう言ったらいいか一言で言うのは難しい

んですけど、僕は目からうろこが落ちるようでした。日本

の学問というのは、やっぱり HOWTOものなんだなと

思った。つまり、問題解決をするための道具にしか過ぎな

いんじゃないかと思った。だから、これをするにはこうし

ようとか、こういうことカち包こったらこうやるとか、ある

いは作り方はこうだとか。モスクワ大学は伝統ある大学で

すからね、創立は 1600何年か6。むこうではそうじゃない、

何がまず問題か、課題を作ることが一番大事なんですね。

なぜエン トロピーとかエンタルビーとか、そういうものを

考えなきゃならないか、というところから話をするんです

ね。科学としての問題意識の作り方をするんです。

津田 講義なんかもそういうことをベースに。

長田 一カ月一回だ、ったか二カ月一回だ‘ったかよく覚えて

いないけれども、セミナーでそういう問題の作り方を試問

するんですよ。

津固 なぜかっていう根本ですね。

長田 例えばどうやったら、一番いい魔法瓶を作れるか?

という問題を考える。当時こういうのはどうやって考えた

らいいか分からない、 答え方はね。それは要するに真杢度

の問題、よ く考えると気体の平均自由行程の話なんですよ。

6正しくは、1755年劃IJIr.40,000人を蹴える学生{車業生と大学院生)をほとる。

http.i/www.msu.ru/er、/

理化学研究所長田義仁氏インタビ、ユー

例えば真空度が高い場合、 低い場合を考える。高い場合、

真空度が高いというのは平均自由行程が大きいから、壁の

厚さは厚い方がいい。だけど悪いとなったときには、そこ

にあるガスの量が少ない方がいい、気体が実際の熱を伝え

るもんだからね。だから平均自由行程を考え、 計鉾をして

答えを出さなきゃならない。こういう問題の出し方って日

本じゃあり得ないで、しょ う。

津田 そうですね。

長田 だから僕は正直言ってもうショック受けちゃって

ね。日本で勉強したことというのは知識の羅列とか、知識

のランダムな集積で、あって、体系化していない。

津田 確かに当時のソ連に特徴的なのか、あるいは世界的

にそうだったのか、そこのところはよく分からないんです

けど、僕も大学に入ったころにまだ 「自然」という雑誌が

あったんです。中央公論の。

長田 ありましたね。

津田 あれ面白くてね、まさに分野を問わずにいろんな分

野の人たちが、もう物理から化学から生物から地学から、

そういう自然科学に関することを全部、当時若手の高名な

先生がね、新進気鋭の人たちがいっぱい書いてたんです。

その中であるときに、カピッツァの物理学問題集というの

が出ていまして、カピッツァっていうのはヘリウム4の超

流動を発見した方で、ランダウよりもちょっと年上で、先

生にあたるぐらいの歳の人なんですね。この人の問題集と

いうのは50問ぐらいあったんだと思うんですけど、とに

かく日本の物理の問題からしたらとんでもない問題ばかり

です。例えば、水の上をあなたは走れるかと。走りなさい、

というんです。秒速何mで走ればあなたは沈まないで水の

上を走れるか。それを計算せよというわけで、す。

長田 やっぱり魔法瓶の話だ。

津田 それであともう lつ党えているのは、地球に昔シベ

リアに 10tクラスの隈石が落ちたと。これによ って地球

の自転は何秒狂ったか。それを計算しろっていうんです。

長田 どうしたらいいか分からないな。

津田 だからね、相当考え込む。まず自分で解き明かして

問題にしていかなきゃいけないんで、す。解ける問題に して

いかなきゃいけないんですね。こういう条件ならいいか

なって、水の上を走るにしたって、水の特性を知っていな

いと。水は激力を与えたら非常に硬くな りますね。そうす

ると、確かに硬くなりますから沈まないで走れるはずなん

ですけど。

長田 ですよね。速さが問題だね。剛体として振る舞うよ

北海道大学数学連携研究センタ ー I05

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うになるから。

津田 だからそこをちゃんと計算すれば、答えが出そうか

な、というのは分かるわけですね。そうすると、これ問題

になってるなと。 じゃあ定式化して解かなき ゃいけないと

いう、もう本当に子どもの疑問みたいなところから出発し

て、それを物理の大学生にやらせる。それをモスクワ大学

の学生はやっていたわけですね。

長田 やってたですね。彼らはそういう問題出しているん

だから。

津田 それも物理だけじゃなく 、化学もそうだということ

なので、おそらく向こうの教育はそういう問題の立て方と

いうか。

長田 向こうの学部試験は全部筆記試験の後、口頭試問で

すから、一発で学生の理解の仕方がどのぐらい深いかって

いうのが ー

津田 分かるんですよね。

長田 これはやっぱり教育の、だから教育担当の教授とい

うのが大勢いて、それはやっぱりお金に糸目をつけないシ

ステムですから、あの国は、あの頃はね。

津田 確かに数学もそうなんですけど、モスクワの学派と

いうのはやっぱりかなり徹底しているといいますか、非常

に基礎的なことをやっている人たちが多いですね。我々物

理もランダウ ・リフシッ ツ7の教程を勉強しましたが、あ

れはランダウにと っては理論物理学ミニマムなんです。彼

はランダウ研に入ってくる学生のテスト用にあれを作った

んです。で、これ読んどけと。ランダウ研に入りたいって、

いっぱい学生が来るので大変だというので、自分で‘作った

んですね、テキストを。ここから問題を出すといって、そ

7レフ・ランダウ、工フゲニー・リフシツツによる物理学の教科書。『ランダウ=リフシッ

ツの理論物理学教程』とも呼ばれ、世界的にも標準的な教科笹として使用されている。

νフ ・ダヴ、ィド、ヴイ ツチ ・ランダウ (1908年 1月22日一 1968年4月 1日)はロシア

の理論物理学者@絶対零度近くでのヘリウムの理鎗的研究によって 1962年ノーベル物

理学貨を授与された。httpJ/ja.wikipedia.org/wiki/レフ・ランダウ

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ハリ

れに理論物理学ミニマムと名付けて。それがランダウ・リ

フシッツの教科書の素材になった。だから我々は、ほとん

どマキシマムな気がしてま したけど、あれがミニマムです

から、やっぱりレベルが高かったんだと思いますね。

物質科学と生命科学をつなげたい

津田 ところで、どうして筋肉に?

長田 どうやってDNAのダブルヘリックスができるか、

というのをケミストとしてやったんですけど、できたもの

は、ヘテロな構造になっているわけだよね、2本鎖の。そ

のことの意味とか、そのインタラクションの問題とかを。

で、待てよと。今の研究につながるんですけど、人間の筋

肉というのはアクチンというタンパク質とミオシンという

タンパク質、その相互作用で縮むんです。そこまでいった

ら、問題としてすぐ近くに感じるわけです。DNAの問題

と筋肉が。で、もう大学院のときに僕は人工筋肉を。

津田 もうすでに。

長田 もう思ってたね。大学院の終わる間際、 3年半でド

クター取ったんですけど、 3年になる前ぐらいにもうこれ

は人工筋肉だろう、と密かに思っていたんです。それは簡

単にいえば、物質科学と生命科学をつなげたい、という意

味があったんですね。それは最初の 「石油化学の時代に生

命まで行けるじゃないか」と考えたと申し上げた、それの

延長でもあるんですね。物質というのは動かないもの、と

いうふうに固定的に考えられていたので、それを動かすと

いうことが、やっぱり生命のある意味の象徴的な現象だか

ら、その聞をつなげたいと思ったんで、す。モスクワのとき

にそう思った。そのきっかけがあったんですよ。それが何

かというと、カパノフさんがこれを読め、と言われた短い

たった1ページか2ページの論文があって。その分野には、

先人にイスラエルのワイズマン研究所にカチャルスキーと

いう人がいまして。

津田 テルアピブの乱射事件で亡くなった方ですね。あの

方は数理生物学のある意味でハシリのような方なんです。

長田 そうそう、カツイールって、ヘブライ語で、その論

文を渡されたんですよ、これが直接的なきっかけなんです。

アクチンとかミオシンとか、それから筋肉の方をやろうと。

そういう意味で、ペーパー紹介は価値あるスキルなんです。

それを僕にくれたのは、やっぱりカパノブさんなんです。

津田 それはなかなか面白いですね。

長田 そうです。僕は、なんだ、高々 1ページか2ページ

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のネイチャーかと思って、日本流でパッと紹介して、この

研究は、ってみんなの前でしゃべったんですよ。そうした

ら、今度は後が地獄だったね。次から次へ質問が来るわけ

です。カパノフさんから。書いてあることなんてどうでも

いい。ここは自由エネルギーを使って、それを力学的な力

に変換するのは筋肉である、なんでいうことが書いてある。

その通りにしゃべるでしょ。そこでいう自由エネJレギーと

いうのは一体どういう意味を持って、どこからの自由エネ

ルギーで、どこから出てくる自由エネルギーだとか、どん

どん来るわけですよ。日本だったら自由エネルギーという

のはこういうわけで、、とか、エンタルピーと何とかで、な

んて定義の程度で終わるけど、そういう話じゃなくてね。

僕は終わったときに相当ショッキングでデイスカレッジし

ちゃったんですよね。力のなさを感じた。予想したのと全

然違う方向へ行っちゃったわけですよ。僕はこのペーパー

を全部理解できますよと、こんな風に思っていたからね。

津田 ペーパーを理解するのではなかった、ということで

すね。それを lっき っかけにして、考えなさいということ

ですね。

長田 だからこれが教育だな、と思ったんですね。指導者

がやることっていうのはこういうことか、と思った。

津田 ということは、先生は指導者になられてからそれを

やっておられるという。学生、大変じゃない。

長田 せめてそれじゃなき ゃ、いけないと。

津田 いや、でも確かにそれは非常に本質的なことで、例

えば僕らも研究室でペーパー読ませるんですけども、やっ

ぱり表面的な読み方しかしてこないですね。一言聞くと、

もう答えられないというレベルの読み方しかしてこない。

何のために読んでるかといったら、多分知識とか、さっき

おっしゃ った HOWTOというかそういうものではなく

て、これを計詳したいからこの論文を読んで、る、という感

じでしか学生はとらえてないことが多いんで、す。でも、我々

が読ませたいのはそうじゃなくて、この 1つの論文を読む

ことによ って、カパノフさんが先生にやられたように、 短

くてもいいからそこに書いであるその奥の、もう l回自分

で問題を作り直して、すべてに疑問を持って、そのフリー

エナジーは何かから始まって、そういう筋肉におけるフ

リーエナジーっていうのは一体何なんだと。そんなの本来

の熱力学:のフリーエナジーってどこに も書いてないと思

いますから、じゃあ筋肉の熱力学って一体何なんだ‘ってい

うことを考えなきゃいけませんよね。だからフリーエネJレ

ギーだから、そういう自由度がどこにあるんだ。それは非

理化学研究所長田義仁氏インタビ、ユー

常に大事なことでしょうね。

長田 それをそうやって分かんなくなってきたり、あるい

は難しいなと思ったときに、初めて自分で課題を作れるわ

けです、今度は。例えば生き物のエネルギーはどこから来

てるかとか、どういうふうに変換されているか、なかなか

宝庫なんだね。だから論文なんて、良いものを少しちゃん

と読めばいい。そういうことをずっとやっていたんです

よ、 3年間。そういうやり方が根付いちゃってるから、こ

れはあまり人に言っちゃいけないけど、それ以来、僕はほ

とんと企図書館に入ったことがない。そういう意味で論文と

いうのは、僕はあまり読んだことがないんですよ。だから

ちょっと危ないんだけどね。だけど今は逆でしょう 。次か

ら次へ出ていく情報の氾i監で。情報を得るために論文を読

むんじゃないんだ、と逆説的な意味で言わなければならな

し、。

例えばカパノフ研究室というのは、世界に冠たる研究室

ですから悠々とやっているわけです。論文なんかあまり人

のは見ないし、僕とカパノ フさんがデイスカッションすれ

ば、それでもう僕にとってはすっかり自信にもなってるし、

こういう世界を築いている人はいないだろうなという思い

があるから焦りもしないし、悠々とやっていましたね。今

は、そういう世界を振り返ってみると、日本は其逆でしょ

う。さっきのさきがけの話にもなるんだけど、そういうこ

とを感じさせてあげたいな、というか、そういう時間を若

い人に持たせてあげる必要があるな、と僕は人一倍感じて

いますね。そういうようにして3年間砂f究をしてきました。

津田 そうする と研究者としては、やはりそのモスクワが

原点と考えていいですか。

長田 原点ですね。原点ですし、今はそこで替えた貯金を

使っているだけじゃないかなと、よく思いますけとなね。帰っ

てきてから 10年ぐらいして、僕の発表講演をカパノフさ

んに聞いてもらったりすると、「おまえは自分の世界をつ

くったJと言ってくれて、それが非常に僕には励みになっ

たけと'~d.。 僕が、 いや、そうじゃないと言って、「こうい

う研究したってモスクワ大学で研究したことから一歩も出

ていないような気がするjとか言うと、「いやいや、そん

なことはないjって励ましてくれましたけどね。それは嬉

しかったですね。人間の発想なんて、 一体どこからどこま

でが自分の発想なのかなんて分からないもんだなと。ずっ

と引きずっていると、「何だ、人から学んだことばかりじゃ

ないか」って恩っちゃう。

北海道大学数学連携研究センタ ー I07

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真似と教育

津田 でも、それは脳科学としてもそうかもしれない。も

ちろん発想はするんだと思いますけど、ある種の天才的な

独創性というのは持つ人も当然いるわけだけども、それ

だ、って全くゼロでということはあり得ませんので。

長田 あり得ないよね。何かコピーっていうか、そうそう、

つい2-3目前のテレビ、でゴッホを取り上げていて、ゴッ

ホが浮世絵から模写もやってた。彼も模写をやっています

ね。

津田 ああいう天才的な画家も まずは真似をして、その前

の時代の優れた作品をまず自分で描いてみる。それがうま

く描けるようになると、ちゃんとデッサン力がついてくる

ということで、そこからですよね、自分のものを作ってい

くっていうのは。だからそう考えると、自分のものを付-け

加えるというのは、ほんのちょっとなんだと思うんですけ

ど、そのちょっとがすごい場合もあるわけで、すよね。アイ

ンシュタインなんかもそうだし。相対性というのは、アイ

ンシュタインが考えたと言われていますけども、その意味

は、ああいうフォーミュレーションの仕方はアインシュタ

インしかいなかった、ということです。光速度一定の仮定

を置いたということは、非常に大きな前進でした。相対性

理論というもの自体はポアンカレも考えていたわけだし、

定式化に至ってはもうローレンツがかなり、ローレンツ収

縮のところまでやっていたわけで、すね。だから、アインシュ

タイン l人でつくり上げたわけではないわけで。ただし、

アインシュタインのまとめ方というのが、光速度だけは相

対的じゃない、という、それを置いたことによ る理論の作

り方というのが非常に整合性があった。だから本当にlつ

付け加えただけなんだけど、それが世界を変えちゃった。

長田 その lつがすごいですよね。

津田 すごい lつなんですけと<:1';10 だけどアインシュタイ

ンだ‘って、ベースにポアンカレの考え方、相対性、もとも

とはガリレイがそもそも相対性ということを考えたわけで

すけれども、もっと近代的な意味での相対性はポアンカレ

が考えていたし、それからエーテル理論というのが当時

あったんですね。最終的には間違っていたけども、しかし

それは、アインシュタインもすごく影響を受けていたんで、

すね。それからそのローレンツの数学的な定式化、光速度

に近いスピードで走れば物体は縮むんだよ、というような

ことが、もう式に啓いであるわけです。それがローレンツ

収縮ですよね。アインシュタインがそういう事実をうまく

08 I RCIML…4

1つの体系にまとめ上げた。そのために仮定が1つ必要

だった。

長田 それは天才だな。

津田 それはもう天才です。誰も考えつかなかったことな

ので。

長田 しかも、当時の常識から反することばかりですから。

津田 反しますね。だから、光だけそういうふうに特別だ、

というふうに考えたというのは、やっぱりちょっと尋常で

はないですね。かけっこすればどっちかが、その相対速度

が幾ら、というのは誰でも想像できるんだけど。

長田 その辺は何か深い意味がありますね。

津田 今おっしゃった、ロシアのスクールのカパノフさん

の考え方から一歩も出ていない、と思われるかもしれない

けども、それはやっぱりそこで何かそのプラスアルファと

いうのをご自分でつくってこられたわけですよね。だから

それをカパノフさんが見ておられて、そこが長田先生の l

つの世ー界なんだというふうに。

長田 かもしれないけどね。ゴッホは浮世絵の歌麿の模写

もしてるのね。そこから突然追う絵が出てくる。彼流のあ

あいう絵が出てくるんだけども、彼みたいな奔放だと思わ

れる性格の人が綴密にこんな浮世絵の模写、色まで、形は

もちろん同じようにしてやってるっていうのは。

津田 最近の脳科学で分かつてきていることですけど、あ

れだけ完壁に真似ができるというのは人間だけなんです。

例えばチンパンジーも絵を描けるんですけど、妙に細かい

ところを写実しようとして結局、精密に目鼻を描くという

ことができていない。そもそもデフォルメができないから

です。

長田 それは技術とかではなくて、認識の問題としてね。

津田 どうもそうんなんじャないかと言われています。よ

くサル真似といわれますけど、サルはあまり真似できませ

ん。

長田 ああ、そうか。サルは真似はできないわけね。

津田 できない。真似するのは、人間の得意技。人間しか

できないんです、実は。こんなに真似するのは人間だけな

んですよ。だから、僕はそこにやっぱり独創性の秘密があ

るんじゃないかと思う。

長田 そうだね。真似できるということ、他の生き物がで

きないとすれば、真似をするというのはある種の創作だよ

ね。

津田 そうです。だから、そこにある種の何か構造を見て、

それを同じ構造を自分の頭の中に置くことができるという

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のは、逆にいうと、ちょっときっかけがあれば全然違う構

造を作れるということです。

長田 そういうことだね。

津田 だからやっぱり、真似をするというのは独創性の根

源なんじゃないか。今のようにカパノフ流の考え方に影響

を受けているというのは当然で、何の影響も受けてないと

したら、それはあまり独創的なことをやっていない可能性

があって、実はそうやってある種真似をして先生の影響を

受けてやってこられて、プラスアルファということだと思

うんですよ。そうするとやっぱり独創的なもの、その真似

しているものが、しっかりしたものじゃなきゃ駄目ですけ

どね。絵でもそうですけど、一流のものを真似するという。

だから研究者の教育でもそうですけども、読むなら一流の

論文を読む。その辺に出てるようなものではなくて、やっ

ぱり歴史に残っているようなものを。

長田 きちんとオリジナルなものを。

津田 それを少ない数でいいからきっちり読むという、読

み切ってしまう 。だから真似しきるという、再現をできる

ようになるという、そこからじゃないかという気がします。

数学なんかは、そういう教育をしていますよ。そういう教

育の意義は、最近の脳科学が裏付けています。

長田 脳科学は、世界の、特に日本の若い科学者に向かつ

て脳の仕組みとか、真似するということは、いかに創作の

根源的なものであるか、ということを発するようになると

もっといいんじゃないですか。

津田 そうなんで、すよね。僕は札幌のサイエンスカフェ 8で

それをやりました。

長田 そうですか、それはいいことなんじゃないかな。

第 52回サイエンス ・カフェの様子

8第 52回サイ工ンス・カフェ札幌 「コミュニケーションする脳 I7 ~脳をカオスで

語る~J 2010年 7月24臼(土)、 sapporo55ビル 1階インナーガーデンにて講演

理化学研究所長田義仁氏インタビュー

津田 それでもう 1つ人間の大きな特徴は、教育というこ

となんですね。当然人類は、世代のオーパーラップがあり

ます。魚なんかは卵をたくさん産みますから、子どもが成

長する前に親は死んでもいいわけです。実際、死んでしま

いますね。人間の場合には、数が少ないのでほったらかし

にできない。世代がオーバーラップする。そうするとケア

しなきゃいけない。大抵の世代のオーパーラップしている

動物は、じゃあ親が子どもをケアしているかというと、外

敵から守る、それはやりますけども、教えるということは

しないんです。文化を伝えるとか、そういうことはしない。

長田 本能だけ。

津田 基本的に本能だけだと思います。学ぶことをしてい

るのは子どもの方で、親の真似は確かにちょ っとするんで

すよ、身体運動ですね。だから、子どもに教えるというの

は人間の特徴です。よく親が子どもに教えているように動

物の場合にも話をするけど、本当はあれは教えているわけ

ではない。飛び方を教えているとか言いますよね。

長田 逆に谷に落として、教育だよね、あれとかつて。

津田 あれはかなり擬人的なところがあって、例えば鳥の

場合は別に親がやらなくたって、子どもはそのうちパタパ

タやっていれば何とかなるわけで、すけど、それを助けてい

るということはある。ただ、こう飛ぶんですよって教えて

いるわけではない。人聞の場合には明らかにこうやるんで

すよ、ああやるんですよって。

長田 それが進化の根源になるわけ。

津田 と思います。

長田 人問、人類だけが進化していくよね。

津田 ええ、それは全然、違っている。だから持っている文

化の量がこれだけ違う っていう のは、結局脳で学んだ、こと

は遺伝子に書かれませんから、親がちゃんと世代のオー

パーラップを有効に、それをいかに世代を超えてうまく伝

えるか。要するに、世代がオーバーラッピングしていると

きに伝えるしかないんです。それはやっぱり、広い意味の

教育です。だから教育によって、我々は自分が学んだこと

を他人に伝えることができるし、自分の子どもにも伝えら

れる。それは遺伝子じゃないけども、ドーキンスの摸伝子、

ある種そういう文化的な部分というのは人間特有のものだ

と思います。真似をするということと教育するということ

が、人間の特徴です。

長田 サルもしていない。

津田 サルもしていないです。

長田 ということは、サルも子どもが生まれてから何年か

北海道大学数学連携研究センタ ー I09

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一緒にいますよね。そういう生物学的なことではなくて、

文化的なことということになりますかね。

津田 そういう文化的なことはサルの親が教えるんじゃな

くて、大体子どもがある意味で自分でやる。

長田 環境との会話でね。

津田 だからそのあたりがね、教育というのはもうちょっ

と生物学的な意味でも考えなきゃいけないんじゃないかな

という気がしますね。

長田 それは本来の教育のありようとか、そういう話にな

るのかな。

津田 やっぱり人間の持っている能力の非常に大きな部分

というのが、教育の中にあるんじゃないかと思うんですね。

長田 そういうことだね。

津田 我々は、あまりそういうことを考えないで普段教育

していますから、何か当たり前のようなね。ただ、これは

当たり前じゃない、トリビアルなことではなくて。

長田 そうか、人間だけが持っている異常なことなんだな、

生物界の中で。

津田 非常に異常なことなので、逆にもっと意識していい

んじゃないかという気はします。それこそ、脳科学的にも

う少し分析してやれる部分があるんじゃないかなと思いま

す。何々すれば頭が良くなるとか、記憶力が良くなるとか、

いろいろ言ってる人もいますけど、まやかしの説ですね。

でも、そういうレベルのことじゃないです。

長田 ということはずっと遡っていくと、人類というのが

自然界の中で能力的にうんと足りない部分を持っている

ということを認識してたゆえに教育とか出てきたのかしら

ね。

津田 それはあるかもしれませんね。

長田 動物よりもかけっこは遅いしとか、一対ーで、戦った

ら食われちゃうとか。

津田 やられますからね。

長田 本当だよね。そうそう、そういうところに。だけど

そうか、そうすると人類っていとおしくなるね。

津田 そうですね。よくもここまできたもんだ。

長田 その辺から新しい社会のありようとか、人間関係と

かできるといいんだけど。

津田 本当にそうですね。

AU寸nv v

na

va ρLV

口K

M

FU

R

Av

tEi

生命とは

津田 ちょっと話ずれちゃいましたけど、もう少し先生の

ご専門のところを伺いたいですね。その後日本に帰ってこ

られて、すぐ研究室を立ち上げられたんですか。

長田 帰ってきたらギャップが、ものの考え方、あるいは

研究の、レベルの違いが見えてしまって。著名な大きな大

学の先生方が学生さん大勢使って、よくこういう先が見え

てしまう研究をやってるかね、と思ったね。遠慮なく言わ

せてもらえば。答えのある問題を解いているのかな。だか

らさっきの学生実験みたいな、そこで初めて僕はモスクワ

でよく勉強してきたんだな、ということを実感しましたね。

津固 なるほど。でもそれはやっぱり研究者としては、あ

る種自然な気がしますけどね。その合わない、というのが

大事ですね。みんなと合うっていうのは、あり得ないわけ

ですからね。

長田 あり得ないよね。それに研究っていうのは、妥協で

きないもんでしょう。

津田 それはできませんね。

長田 だからつらかったけどね。設備も装置もゼロのとこ

ろへ行って。研究なんて、金が無きゃ無いなりの表現はで

きると思ってたんですよ、僕は。試験管 l本あれば、それ

でできる。

津田 確かに実験科学も実は理論とあまり変わらないとこ

ろがあると思うんですね。というのは、本当のアイデアと

いうのはお金がかからない。決まってからシステマティッ

クにやるのは、実験の場合お金かかるかもしれないけども、

最初の突破口を聞くところというのは、実はすごく安くで

きる。その人工筋肉の場合、筋肉の場合よく 言われること

ですけども、エネルギー変換効率が非7品川こいい生体の場合、

化学エネルギーを力学エネルギーに変換している機構とい

うのは一体何だろうか、というのは、みんな興味を持って

いると思うんです。

長田 今も重要と思っていることは創発ですね。やっぱり

正しかったなと思っているのは、モスクワ大学時代にAと

Bの複合体作って、 A.Bがたくさん集合して水を含ん

だゲル状態になって、それが今のゲルサイエンスをずっと

やってきているわけですけどね。筋肉というのは、アクチ

ンとミオシンというタンパク分子がATPという酵素でス

ライドして収縮して力が出るんです。そのときに分子レ

ベルでかかる時間というのは 2秒ぐらい、動くのが5-

8nm、出てくる力が数ピコニュートン、それがたくさん集

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合して大きくなり、我々の筋肉になる。つまり、アクチン

とミオシンが束になってくると出てくる力が100ニュート

ン、応答時間が40ミリ秒です。力はだから 10の14乗倍

とかで、移動距離も 5ナノメータぐらいが数 10センチだ

から 10の8;if~倍になってるわけでしょ 。 だけど、応答時

間は 100分の lになっちゃう。するとこれは、普通の単

なる集積じゃないわけですよ。インテグレーションという

のは、意味があるわけですよ。集合体を持っていることの

意味なんですね。これは一体何だろうなというのは、単な

るN倍になったんじゃない、その秘密は何かな、というこ

とを未だに世界中の人はあまりやろうとしていませんね。

津田 長田先生は人工筋肉を作ることで、そのメカニズム

を理解したいということですね。

長田 その意味を解きたい。集合体の意味というのは、も

う究極に僕にとっては課題なんです。だから孤立系と集合

体系とは根本的に違う現象が出てるわけだけど、その聞の

階層性が問題です。これは何を意味しているかということ

をやっぱり知りたい。そこからさっき言った「創発」です

ね。エマージ‘ェンシーといいますけど、それは階層の中で

の物事の変化とか論理では説明できないような現象が、階

層を越えたときに、あるいは階層間で出る。それが不思議

で、それの象徴的なのが今の筋肉ですね。

津田 物理だと原子 ・分子の集合体が集まることで相転移

が起きるわけですけど、そういう平衡相転移の概念では

やっぱりとらえられないものなんですね。

長田 そうですね、動的散逸的相転移として初めて。

津田 こういう聞き方をしていいかどうか分かりません

が、非常に素朴な素人質問だ‘けども、化学というのは素過

程だと思うんですが、もし触媒のようなものがなければ、

酵素とかそういうものがなければ反応はもうものすごく遅

いですよね。だからそういう触媒があるとすごく速く行く 。

理化学研究所長田義仁氏インタビュー

生命体はたくさんの触媒によって機能しています。そこで、

生命というのは一体どういうものか、という素人質問なん

ですが、長田先生にとってゲルを通して、これこそ生命だ

というものを一言で言うとすると一体何でしょうか。

長田 大体ね、僕はそういう設問の仕方が好きじゃないん

ですが。

津田 だからこれちょっと素人質問で、あまりいい質問

じゃないんだけども、ただやっぱり素人はみんなそこを聞

きたいと思うんですよね。やっぱり化学から高分子に入っ

て人工筋肉をアウトプットにされているという、そうい

う研究をされている先生であれば、生命観というのは何か

持っておられるはずなので。それは永遠の謎で、あることは

分かるし、ある意味で答えられないことなのかもしれない

けども、非常に素朴な考え方として、一体生命はどうして

生まれて、どこまでを生命というんだという非常に素朴な

疑問がありますよね。どこまでという単位が何かあるのか。

生命の単位って何かあるのか。あるいはそういうものはな

くて、常に何かを見ればそれは生命じゃないという答えし

か出てこないのか。哲学的過ぎるかもしれませんが。

長田 そういう意味で言ったときに、生命というのは要素

にちょん切っていっても生命なんですよ。

津田 そうすると、常に何かシステムとして全体として働

くということが重要だと。

長田 システムとしてでしょうね。システムとしてのあり

ょうですね。それは例えば、要素の単純なる集積体であっ

たならば、要素に分けたときには、その生命の片鱗があっ

てはいけない。機械の部品のように。だけど生命には片鱗

があるでしょ。ですから、そのシステムの有機的な、ある

意味を持った関係の集積があって初めて生命としての活動

が可能となる。生命というと例えば、物質をベースにしな

がら精神活動ができるということは最も象徴的だと思いま

すけど、ポイントは何かといったら、要素。要素で、何をやっ

ているかということよりも、問題はつなぐ理屈ですよね。

そこが分からない。

津田 そうですね。だから生命らしさというものを理解し

たいというときには、要素が一体どういう形でつながって

関係性を持っているのか、その相互作用のところが非常に

重要になってきますね。だから筋肉の場合の相互作用とい

うのは、あくまでアクチンとミオシンの相互作用だけど、

これはでも一対ーの相互作用とは全然違うというお考えで

すか。

長田 一対ーと全体とは全然違うと思います。もっとも、

北海道大学数学連携研究センター I11

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一分子と一分子の中でのやり方ですら、まだ未解決の問題

を抱えているのですがね。

津田 どれぐらい数があれば筋肉の性質がでるか、ですか。

長田 だからそれをやるんですよ。そこが難しいんですよ。

それは技術的にも難しいの、もう、嫌になっちゃうけど。

津田 技術的に難しいんですか。

長田 技術的に難しいですよ。そこの数を、Nを増やして

いくのがね。おそらく仮にそれができたとしても、何を取

り出すか。観察するファンクション、それが何かというこ

とによってもやっぱり違ってくると思うんですよね。ある

レベルと次のレベルとの問での論理構造というのはそれな

りにあるけども、それはまた生命の一部とは隔たった関係

になっているんじゃないかな、という気がするんですね。

そういうのはもう哲学的な人が、あるいは脳科学の人がア

プリオリにね、データの集積ーじゃなくて、宇宙はこうなっ

てますという、同時に生命はこうなってますという、そう

いう ことを出す時代じゃないかな、と,思っている。それで、

津田さんに僕は期待しているんですよ。

津田 あ、そうですか。

長田 そうそう、そういう人が必要なのですね、絶対に。

生命の数学

津田 そこには数学、数学者も最近、生物、生命の数学を

やるという 、すごい勇気を持った人が出てきているんです

よ。

長田 生命の数学。

津田 はい。だからちゃんと数学的に定式化できる部分が

あるはずだ、と。もちろん数学ですから、非常に抽象的な レ

ベルでの定式化なんですけども。 lつ枠を作っておく と、

生命のあるファンクションを考えるときに、構造を数学的

に押さえておくことができると。それは物質としての構造

じゃなくて、中に入っているそのファンクションを表現す

るという意味なんですけれども。数学的な構造をそこで作

る。生命のファンクションを数学的な構造で表現している。

実際の物質の構造は、もちろん実質的にそのファンクシヨ

ンをそこで作り上げて発現させているわけですけれども、

そのファンクションの方を数学的に書ける。その枠組みを

むしろ数学が作らなきゃいけないんじゃないかと、そうい

う意識を持ってやっている人が出てきていますので、今後

大変面白くなると思います。数理生物学が出てきたときの

雰囲気と同じような雰囲気ですが、別の数学的定式化を目

AH1

0

V

FS

VA

PUW

ρM L

M

FしVR

今,ん

11

指している、そういう数学者が出始めたのは大変面白いで

すね。

長田 いいな。例えばそういうのが出てくるとすると、今

度そこから逆にそういうファンクションを、こういう構造

を発現するには、物質はこういう形でなきゃならないと。

東北の数学の小谷さん9のああいう話になっていった りす

ると、サイエンスは楽しくなるし、物質科学も面白い。

津田 そうなんですよね。数学という学問自体は、自然科

学とは違うわけですね。要するにこれは、別に自然科学と

関係を持っているわけじゃなくて、もともとの数学は自然

科学から出てきたんですけども、実学といいますか、測量

とか、そういうと ころから出てきているんですけど、いっ

たん出てきたら数学だけで閉じた世界がつくられてしまっ

たわけですね。ある意味で数学というのは、自然科学から

独立したわけです。数学って何をやっているかというと、

結局我々の心の動きなんですよ。つまり 、我々がどういう

ふうに意識を働かせているかという ことが、如実に表現さ

れているんです。だから、独立はしたけど、実はあらゆる

人間の行為と関係してくる。

長田 まあ、そうだね。

津田 数の表現にしたってそうですし、式をどう杵くかで

もそうですし、全部我々の心の動きなんです。

長田 言葉がね、ある種の。

津田 意識を記憶を頼りに しながらどう働かせているか、

というものがlつ1つの数学で表現されているので、まさ

にさ っき言ったいろんな生命のフ ァンクションを書 くに

は、数学は便利な世界なんだろうな、というふうに思いま

す。あともう lつ、一歩進むと予測ができる。いったん切

り慨したんで、すけども、実際のそういう現象との接点で数

学をうまく作れば予測ができます。そうすると、もともと

は現象の色が着いていない世界ですから、逆に記述力は高

いはずなんです。

長田 そうだね。論理を持っているからね、効果的なんだ

ろうね。

津田 ですから、数学者がやることは例えば生命というこ

とに限ると、生命のファンクションのところを記述する。

それのフォーミュラをイ乍るということはもちろんなんだけ

ど、そこから現実の現象を見て、現実に予測をして、じゃ

あこういう物質があるはずだ、というところまで予言する

と。先ほど先生がおっしゃったようにですね。そこまでく

9小谷元子教授東北大学大学院理学研究科数学専攻、研究分野:縫何学、厳倣幾何解

析学.2∞5年「離散幾何解析学による結晶格子の研究Jにより第2S回潰樋貨を受賞

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ると、数学は生命だけじゃなくていろんな分野に影響力を

もっと持てると思います。

長田 もちろんでしょうね。

津田 本来の力というか、数学的なパワーというのは非常

に強いものがありますから、それがまだ生かされていない、

と非常に強く思っているんです。

長田 そうでしょうね。いや、僕もそれは感じますよ。全

くそうだと思う。

津回 数学の中ではもちろんそれは生かされてきたんだけ

ども、外に向かっての生かされ方が十分ではない。物理と

は割とやってきて、物理の中では非常に強力に。だから、

物理が数学と相互作用を持つことによって、非常に強い記

述力を持つようになりましたね。僕は生物でも、やっぱり

そういうことはあるんじゃないかと思っています。

長田 あるでしょう、それは。でも、そういう先駆け的な

分野の人が現れつつあるわけでしょう。

津田 現れつつあります。これは日本だけじゃなくて世界

的にもそうですけど、逆に日本はいつも遅れていたんだけ

ど、そういう人は確かに出てきていますから、やっぱりそ

れは応援したいと思いますし、何かいろんな場をつくって、

実際に生物をやっている人たちと会わせて、議論できれば

と思っています。

長田 この数学連携研究センタ一、そういう場をぜひ提供

していただきたいと思います。

津田 そうですね、まさにそれが数学連携研究センターの

役目なので、それをやらないと全く存在している意味があ

りませんので。

長田 そうやってほしいですね。

身を持って翻訳者に

津田 今までわりと数学系の人のインタビューだったんで

すが、長田先生にぜひいろんなことをインタビューをした

いと前から思っていて、これを数学者が読みますから、数

学者との接点をぜひ長田先生につくっていただきたいなと

思ったわけです。また、このインタビューを読む若い数学

者が、そういう世界があるのかと、そういう例えば人工筋

肉という世界があったり、そこを通して生命の方につな

がっていくことに、イ可かコントリビュートしたいと思う人

が出てくると非常にまた面白いことになると思います。

長田 先ほど申し上げた分子の階層のアクチンーミオシ

ンとマクロな筋肉の聞のあの関係だ、って、その理屈を説く

理化学研究所長田義仁氏インタビ、ユー

のは数学的な手法でしかないんじゃないかな、という気が

します。あるいは少なくとも、数学的な興味深い命題がた

くさん入っているんじゃないかなという気がしますね。

津田 それは非常に勇気付けられるお言葉なんですけど

も、まさに数学者だとステートメントの切り出し方が他分

野の人と違うと思うんです。現象に親しんでいる人は、そ

れゆえに見えないところがある。

長田 今それを申し上げようと思っていて、個々の生物現

象を階層的に積み上げていったって、それぞれのフェーズ

での発現、現象というのは出てくるけども、なぜそうなる

かという、その聞をつなぐ理屈というのは、多分実験研究

をやっている人からは出てこないと思う。

津田 全く違う視点っていうのは必要ですよね。そういう

現象に興味を持つ純粋数学者と付き合うと分かるのです

が、やっぱり切れ味がちょっと違うんですよね。意表を突

くようなことを言ってきます。

長田 我々物質科学をやっている人は、その切れ味が分か

るようなセンスを持たないといかんな、逆にいうと。

津田 いや、まさにそれはこちらから申し上げたいことな

んですけども、それはやっぱり慣れの問題もありますね。

私は数学の勉強を多少しましたので、数学者の言うある種

のセンスというか切り口というのは分かる方ではある。た

だ、いわゆる本当の純粋数学の難しいところを自分では

ちょっとできない。私は応用の方なんで、数学者がやる切

り口というのがどういう意味を持っているか、ということ

を解釈して受け渡すことはできるんです。だからまあ触媒

的な。

長田 多分物質科学をやってる実験の人は、数学者と直接

ゃったって、何を聞きたいんだか分からないんじゃないか

と思うね。

北海道大学数学連携研究センタ ー I13

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津田 それは相当苦労しないと分からないと思います。僕

だ、って親しい数学者の言ってることでも分からないです

よ。「え?今何て言ったんですかjと。

長田 津田さんでも分かんないの?

津田 何度聞いたって分からんことはあります。ただ、何

度もそれを話していると、ああ、こういう思考方法をする

んだ、というのが分かつてきますから、そうするともう「大

体こういうことを今言ったのかなJという想像がつきます。

そこは速いと思います。

長固 なるほどね、そうかそうか。じゃあ、津田さんが身

を持って翻訳者になってる。

i奪回 数学における僕の役目というのは、ほかの分野との

つながりという意味では、まさに触媒としての役割を担っ

ているかなという気がしますね。本当の化学反応の触媒が

何をやっているかっていうのは問題ですけど、翻訳をして

るのか、解釈してるのか、どうやって情報を受け渡してい

るのかよく分からないけども、そういうこちら側の言って

いることをあちら側に、あちら側の言っていることをこち

ら側に、ということはある程度できるかな。

長田 触媒っていうのは、場を与えているだけ?一瞬?

津田 ちょっと違うかもしれません。もうちょっと何かエ

ネルギー使っているような気がします。

長田 触媒っていうのは固有の立体的な空間があって、そ

れがゆえに相手が来たときに、相手の性格をひずませる

ことができる。ひずませるっていうのは高いエネルギーを

持っていくということ。だからそいつは、ハイステートに

なるからポンと反応させちゃう。

津田 そういう側面はないことはないけど、逆に僕がそう

いう人を求めてるから、僕自身が触媒にはなれないかもし

れないですね。翻訳はできるかもしれませんけど。

長田 アジテーターっていうのは、そういう意味で十分な

触媒だと思います。僕が理研でこんなところに片足突っ込

んじゃってるのは、津田さんの活動に教育されちゃったと

いうか、感化されちゃったというか、洗脳されちゃったと

いうのか、そういう感じなんです。だから十分にそういう

役割を果たしてくださってるんですよ。

津田 本当ですか。

長田 そうで、す。アジテーターですよ。そのうち革命を起

こしてください。

津田 何ていうか、ちょっと違う面っていうのはあるんで

すけどね、自分自身が。

長田 革命家っていうのは、まずはいいアジテーターでな

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きゃならないんじゃないかと思います。やっぱり、その世

界の素晴らしさを相手に伝えるということは。

津田 それはある種信じてないと伝えられないところがあ

りますね。数学のパワーっていうのは、確信がありますの

でね。これは逆に数学者の方が分かっていないと ころがあ

るんです。自分たちがやっていることのパワーがどれだけ

のものか、というのが意外と分かっていない。すごい破壊

力があるということが分かつていないんですね。つまり原

子爆弾持っているのに、何か大したものを持つてないと

思っているわけですよ。それは逆に危険なんですよ。

長田 そうだね。

津田 だから、それを自覚してほしいな、と思う んだけど

も。数学の力はすごいんだから。

長田 でも、歴史的に見ると何か暗号図作るのに使われた

とか、そういうこともあるでしょう。

津田 いや、あるんです。あるんだけど、みんなが認めて

くれないから、なかなか。数学は何か社会と関係ありませ

んね、と言われるし。そんなことないわけで、すよ。大いに

関係あるし。関係ないような形でできる部分がすごく多い

というのは確かです。それは多いんだけど、「じゃあ、関

係ありませんね」ということになるか、って言ったら、そ

んなことないです。関係持ったときの力はすごくある。も

のすごい影響を与えるんです。

長回 数学者って、あまり関係を持ちたくない、というの

は本能的に持っているんですか。

津田 それはねえ、僕は数学者というものがそうなのかど

うかというのは未だに分かりませんが、日本はそういう人

が多いことは確かです。数学が好きになるということは、

少なくとも若い時のある時期においては、あまり周りとか

かわり合いたくないという精神状態になるのも確かです。

というのは、ものすごい集中を必要とするから。やっぱり

それだけ長く集中しないと見えてこないものを相手にして

いるから。どんな学問も集中を必要としますけど、やはり

実験ができないので、実験というものがない世界ですから、

自分の思考の中で全部やらなきゃいけないんで、す。外に出

せないんです。非常にそれはつらい。だから、その集中を

ず、っと強いられるので、あまり余裕がないということはあ

ると思いますね。邪魔されたくもない。そういう精神状態

になるというのは確かにある。ありますけども、それだけ

に、出来上がるものというのはすごい力を持っている。

長田 そう考えると数式をいじっているんですかね。それ

とも空想を。

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津田 それは人によると思いますけど、基本的によく言わ

れるのは、ある種の像を頭の中に描いていると。人によっ

ては、幾何学的な像を描いているとか。幾何学的な{象を描

く人が多いかもしれません。だから、いきなり式で計算し

てという人はむしろ少ない。物理学者なら式で計勢しちゃ

うかもしれないですけど。ただ、物理学者も計tr-だけしちゃ

駄目という教育を受けているので、やっぱりそのものの裏

側を見るというか、構造をみるというか、それをやらなきゃ

いけない。そうでなきゃ、ちゃんとした言十算もできないで

すから。

長田 計算するのは最後ね。

津田 最後ですね。計算は間違うものなので、答えを出し

たときに 「あ、これ間違った」って気付かなきゃいけない

んです、瞬時に。なぜなら物理的にはこれ違っているとい

うふうに言えなきゃいけないんです。それぐらいの直観力

を持たなきゃいけないし、それ以上の言博草はやっちゃいけ

ないんです。自分の直感を超えたような計tr-は決してやっ

ちゃいけない。

長田 そうか。数学って直感の世界か、つまるところは。

津田 だと思いますね。そこをものすごく鍛えるので、やっ

ぱり若いときは相当、人嫌いにならざるを得ないというこ

とはありますね、付き合いが悪いというか。人と一緒にい

ても熟考してるということは容易にできなきゃいけない

し、また容易にできるわけで、す。

長田 やっぱり異常な人類だな、彼らは。

津田 異常といえば異常です。人間の脳というのは、そう

いうふうにも発展し得ると。

長田 し得るんだね。

津田 そういう特異な能力ばかりじゃないんで・すけど、少

なくとも数学のトレーニングを受けていれば、ある種の技

術能力とか論理能力とかっていうのは長けているはずなん

ですね。そういう能力を持った人が長田先生のやっておら

れるような生物、あるいは生物のもっと基礎的な原理です

よね、そういうものを解明するためのそういう人工筋肉を

作るとか、ゲjレの問題とかというようなところに入ってい

くと、イ可かすごいことができるんじゃないかな。

長田 僕の立場でいえば、数学の方なり物理の人でもいい

んだけども、そこに行って問題提起ができるような、「ど

うぞこういう現象が出ていますJ、「これ不思議じゃないで

すかJ、「これはどういう論理でしょうねJ、ということを

提案するようなことをしたらいいですね。

津回 数学者の方が、「これどう ですか」 って言われたと

理化学研究所長田義仁氏インタビュー

きに、「ああ、それすごい問題だ」と思わなきゃいけない

ですね。

長田 思わなきゃいけないですね。

津田 そうするとやっぱり、相当数学以外の分野も勉強し

なきゃいけないで、すよね。だから、そこのところはやっぱ

り今の大学のカリキュラムの中ではなかなかできていない

ような気がします。双方向のと ころ…

数学者と実験科学者の共通の会話を

津田 本当はもっといろいろ聞かなきゃいけないことが

あったんだけど、時間が来てしまいましたね。最後に一

言って変だけど、数学との連携ということをちょ っと聞き

たかったので、先生の今までのご研究を通じて、むしろ先

生の方から数学者にこういうふうに一緒にやりたいという

ような、そう いう希望があ りますでしょうか。

長田 筋肉が分子レベルからマクロになっているときにな

ぜああいう、例えば力でいえば 10の14釆倍とか、速度

でいうと 100分の l倍かに速くなっちゃうとか、そうい

うことは説明できないと思う。だから特別な論理桃造がな

きゃいけない。だからそこを・・・

津回 数学者に期待する。

長田 そう、解いてほしいなと。その課題が、その理屈は

何も筋肉じゃなくたって、ひょ っとしたら脳の思考のプロ

セスだとか、あるいは人|聞の体のエネルギーの産出の問題

とか、いたるところで共通の何か、何かそういうのが隠れ

ているかもしれないなという 、直感的にはそんなことを感

じていますね。

津田 それはまた別ですよね。

長田 だから津田先生に問われちゃったからお返しするん

だけども、生命の論理を考えてほしいな、と思います。1

個じゃなくたっていいけども、そういうのをボンボンと、

例えば宇宙の科学で、字宙の成り立ち、起源は何か、なん

ていうので物理学者がいろんな立場でしゃべっているぐら

いの思い切ったことをどんどん出してほしいな、という気

がしますね。それは lつのね、 実験科学者とか物質科学者

はよりどころにするんですね、 1つの自分の戦略なり思考

方法に。そういうのが、今は無いと思っているんですね。

津固 なるほど。本当の理論生物というか、そういう感じ

ですよね。

長田 そうですね。化学でいうとナノなんていって、こん

な小さいところばかりやってるからね。ナノサイエンスと

北海道大学数学連携研究センタ ー I15

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Enterview

かナノテクノロジーのもうひとつ足りないのは、それを

フィードパックしなきゃいけないこと。マクロとナノレベ

ルの間で。だけど今の世の中は、すべてナノでソj、さいとこ

ろをやればやるほどいいという、そこでストップしていま

すよね。決してそれをフィードパックさせることをしない

んですよ。そういうのはあまり十分じゃないな、と思いま

すね。数学者にはそういうのを伝えてほしい。

それからもう lついえば、例えばさっきのそれは生命全体

のことだけど、生命の現象の個々のフェーズ、だって、従来

のリニアな数学でやっても解けないと思うんですね。本質

が非線形だし、非平衡の問題だし。それから例えば、どこ

かでカタストロブが起こったりしているわけで、しょう。そ

ういうのをもうちょっと諸々の実験科学者がやっている現

象の中に、個々のレベルでもいいからそれを表現するよう

な手立てをしてほしいな、という感じがします。要するに

「共通の会話を持ちたいな」という気持ちは、おそらく多

くの実験科学者が持っていると思います。

津田 ルネ ・トムは形態形成を数学的に表現しようと思っ

て、カタス卜ロフ理論を作ったんです。そういう試みとい

うのは、成功したかどうかというのはまだまだ将来に待た

なきゃいけない部分もあるんですけども、そういう試みと

いうのは非常に大事だというふうにお考えなんですね。

長田 そうですね。そこは大事だと思っていますし、どこ

かこの間、学術会議の報告書にもそういうことを請われた

から書きました。

津田 じゃあ一応これで終わることにしましょう。今日は

どうもありがとうございました。

(本インタビューは、平成 22年 12月9日に行われました。)

理化学研究所

機関間連携研究グループグループデ、ィレクタ ・

北大電子研連携研究チームチームリーダー

長田義仁氏 ご略歴 ※北海道大学着任以降

1992 北海道大学理学部教授

2003 同副学長

2007 理化学研究所特任顧問

同分子情報生命科学特別研究ユニットユニットリーダ一(現職)

2008 同基幹研究所副所長

同連携研究部門部門長

2009 問機関間連携研究グループグループディレクタ一 (現職)

同理研一北大電子研連携研究チームチームリーダー (現職)

http://www.asi.riken.jp/jp/laboratories/divisions/cird/iag/iag-hokkaido/

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l11I 数学連携サロンの記録

第 27回 世界の水資源のコンピューターシミュレーシヨン~いま何ができて、伺ができす、 これか5何に取り組むへぜか~ (兼 CREST連携セミナー)

Computer simulation of global water resources: Past, present. and future

花崎直太/国立環境研究所

開催日時:201 1年7月28日 10: 00 ........ 開催場所:北海道大学理学部3号館 3-205室

世界の人々は必要な時に必要な貴の水を持続可能

な方法で得られるか。将来の地球温暖化や人口増加 ・

経済発展はどのような影響を及ぼすか。演者はこう

した問題をコンビュータ ーシミュレーションするた

めのソフトウエア 「全球水資源モデル H08Jの開発

に取り組んで、きた。講演では、まず、世界の水問題

や地球温暖化に関する基礎的な情報を提供する

(A)。続いて、全球水資源モデル H08とそのシミュ

レーション結果を紹介し、これまでに何ができるよ

うになり 、イ可ができないままにな っているか議百命す

る(B)。最後に、最新の研究事例の紹介を通じて、

数学分野も含めた他分野との連携によるブレークス

ルーや横断的研究の可能性について議論する (C)。

具体的には以下の論文を中心に紹介する予定であ

る。

(Aに関連したもの)

1 ) 花崎直太 .地球温暖化と世-界の水問題、月刊

浄化槽、421、2011年 5月、pp5-8(Bに関連したもの)

1 ) 花崎直太 :世界の水資源のコンピュータシミュ

レーション、国立環境研ニュース、29(3)、2010年8月、

pp5-8

http://www.nies.go.jp/kanko/ news/29/29-3129-3-03. html

2) Hanasaki, N., Kanae, S., Oki, T., Masuda, K.,

Motoya, K., Shirakawa, N., Shen, Y., and Tanaka,

K.: An integrated model for the assessment of global water resources -Part 1: Model description and input meteorological forcing, Hydrology and Earth System Sciences, 12, 1007-1025,2008.

2011年度前期までに開催されたサロン

第 1田中川淳一 主幹研究員(新日本製銭株式会社技術開発本部)2008

年 4月23日

第 2回多項式環のイデアル族と計算論的学習徳永浩雄教授(首都大学東京大学院理士学研究科)

2008年 5月 29日

第 3回写像(関数)の特異点と自然現象泉屋周一教綬(北海道大学大学院理学研究院)

2008年 6月 16日

http:// direct.sref.org/1607 -7938/hess/2008時12-1007

3) Hanasaki, N., Kanae, S., Oki, T., Masllda, K.,

Motoya, K., Shirakawa, N., Shen, Y., and Tanaka,

K.: An integrated model for the assessment of global water reSOllrces -Part 2: Applications and assessments, Hydrology and Earth System Sciences,

12, 1027-1037,2008. http:// direct.sref.org/1607 -7938/hess/2008-12-1 027 4) Hanasaki, N., Inuzllka, T., Kanae, S., Oki, T.: An estimation of global vir加alwater fiow叩 dso山:cesof water withdrawal for major crops and livestock products llsing a global hydrological model. J ollrnal of Hydrology, 384, 232-244, 2010. http:// dx.doi.org/lO.l0l6/j.jhydroI.2009.09.028 (Cに関連したもの)

1) Konar, M., C. Dalin, S. Sl1weis, N. Hanasaki, A Rinaldo, and 1. Rodriguez-Itl1rbe: Water for food: The global virtl1al water trade network. Water Resour. Res.,47, W05520, 2010 doi:lO.1029/2010WR010307 http://www.agu.org/pl1bs/ crossrefl201l/20l0WR01 0307.shtml 2) Suweis, S., M. Konar, C. Dalin, N. Hanasaki, A目

Rinaldo, and 1. Rodrigl1ez-Itl1rbe: Structl1re and Controls of the Global Virtual Water Trade Network, Geophys. Res目 Lett.,38, L10403, 2010 doi:10.l02912011GL046837 http://www.agl1.org/pl1bs/crossrefl201l/2011GL04 6837.shtml

第4回Patterns of amino acid substitutions on the hemagglutinin molecules of antigenic variants of H3N2 influenza A viruses 伊藤公人;佳教授(北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター)

2008年 10月 14日

第 5回

界面の数学的理解に基づく火炎モデルの再構築大島伸行教授(北海道大学大学院工学研究科)

2008年 11月 10日

北海道大学数学連携研究セ ンター I17

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S 数学連携サロンの記録第 6回ある数学者の研究生活 一数学者が眺めた情報セキュリティの

世界縫田光司研究員 ((独)産業技術総合研究所情報セキ1 リティ研究

センター)

2008年 12月 22日

第ア回

力学系のスケール変換

加藤毅;佳教授 (京都大学大学院理学研究科)

2009年 2月4臼 ※1月実施予定が雪のため延期された

第 8回Hamilton系における安定多様体、不安定多様体の局所的な

おれたたみパターンの分類およびそれ5の物理的意昧寺本央助教 (北海道大学電子科学研究所)

2009年 1月23日

第 9回Random dynamical systems and self-organized

criticality in complete neuronal networks Prof. Manfred DENKER (The Pennsylvania State University)

2009年 3月 10日

第 10回簡約り一群の無限次元既約表現に対する幾何学的不変量,

モデル,双対'性をめぐって山下博教授(北海道大学大学院理学研究院)

2009年 3月24日

第 11回材料強度と材料組織形成のマルチスケール数理毛利哲夫教授(北海道大学大学院工学研究科)

2009年 5月 12日

第 12回多自由度ハミルトン系における不変多様体を用いた遷移率の

計算

山口義幸助教 (京都大学大学院情報学研究科)

2009年 5月 20日

第 13回微視的格子モデルとフェーズフィールド法の粗視化と第一原

理計算

毛利哲夫教授(北海道大学大学院工学研究科)

2009年 6月8臼

第 14回微視的格子モデルとフェース.フィールド法の粗視化と第一原

理計算 part2 毛利哲夫教授(北海道大学大学院工学研究科)

2009年ア月 27日

第 15回Tools and Applications of Formal Reaction Kinetics Prof. Janos TOTH (Budapest University of Technology

and Economics)

2009年 10月27日

第 16回Applications of Mathematical Program Packages or

Computer Algebra Systems(such as e.g. Mathe-

matica. DERIVE. Maple V) in Teaching and Research Prof. Janos TOTH (Budapest University of Technology

and Economics)

2009年 10月 30日

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第 17回A Rough Relation Between Partial Differential

Equations 加藤毅教授 (京都大学大学院理学研究科)

2009年 12月9日

第 18回乳児のひとり遊びに見5れる音楽との潜在的・顕在的相E作

用について

“Rudiments of Infants' Implicit/Explicit Interactions

with Music during Free Play" 安達真由美;佳教授(北海道大学大学院文学研究科)

2009年 12月 15日

第 19回“Solving problems in multiply connected domains" & “A new calculus for two dimensional vortex

dynamics" Prof. Darren CROWDY (Imperial College London)

2009年 12月 21日

第 20回ランダムな複素力学系における協調原理とカオスの消滅角大輝准教授 (大阪大学大学院理学研究科)

2010年 4月26日

第 21 回 ランダムな複素力学系の極限状態に出現する複素

平面上の特異関数角大輝 ;佳教授 (大阪大学大学院理学研究科)

2010年 4月27日

第 22回Asymptotic Imaging of Cracks Hyeonbae Kang (Department of Mathematics, Inha

University)

2010年 5月24日

第 23回Meta Inverse Problems Roland Potthast. Prof. Dr. ( German Meteorological Service

-Deutscher Wetterdienst)

2010年 6月 14日

第 24回第 1部「数学と現象の数理モデル

第 2部「角層回復機能の数理モデル」長山雅晴教授 (金沢大学)

2010年6月 30日

第 25回Neuron Avalanches and Background Activity Jian Zhai, Professor, Department of Mathematics. Zhejiang University

2010年 7月 22日

第26回タンパク質の分子動力学に対する時系列解析と集団運動

(兼 電子研学術講演会)

戸団幹人 准教授 (奈良女子大学理学部)

2010年 12月 16日

※肩書き・ご所属は報告時のもの

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理学研究院 教授

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数学一般(含む確率論 ・統計数学)、計算論的神経科学、

複雑系数理学

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幾何学、大域解析学、実代数幾何学、特異性の幾何学とトポロジ一、光学や制御理論に現れる特異点、の研究

幾何学、応用特異点論

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数理流体力学、数値解析学、非線型数学

応用解析学

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確率論、統計力学、数理物理

カオス的力学系、複雑系

数学一般(含む確率論 ・統計数学)、デジタルライブラリー

微分幾何学

非平衡統計力学、生物物理モデリング、化学物理、非線形力学、時系列解析論

力学系、数値解析、複雑現象(流体力学 ・経済学等)の数理

計算論的神経科学、複雑系

……馴究センター I 19

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編集・発行 北海道大学数学連携研究センター R仁川 Letters編集委員会

http://www.math.sci.hokudai.ac.jp/center/

2011年 12月 16日

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発行日