vol. no. 出生前診断の - 長崎大学医学部 kissei kur vol.6 no.4 2013 kissei kur vol.6 no.4...

高年妊娠の増加に伴い、出産前に胎児の異常を調べる出生前診断を受ける妊婦が増加しています。 このような中、新しい出生前診断である母体血胎児染色体検査(無侵襲的出生前遺伝学的検査:NIPT)が開発され、 日本でも臨床研究として実施されています。 NIPTは、流産のリスクがなく簡便で、しかも精度が高い検査であると報道などで強調され、 社会的な関心を呼びましたが、現在、正しい理解が求められています。 特にNIPTの施行には正しい情報提供と妊婦の判断を支援する適切な遺伝カウンセリングが不可欠です。 今回は、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座 産科婦人科学分野 教授の増﨑英明先生と、 国立成育医療研究センター 副院長・周産期センター長の左合治彦先生に、NIPTの特徴や、 導入にあたっての考え方、遺伝カウンセリングの重要性などについて対談いただきました。 出生前診断 現状 これから 増﨑 英明 先生 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 産科婦人科学分野 教授 左合 治彦 先生 国立成育医療研究センター 副院長・周産期センター長 KISSEI KUR Vol.6 No.4 2013 02

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高年妊娠の増加に伴い、出産前に胎児の異常を調べる出生前診断を受ける妊婦が増加しています。このような中、新しい出生前診断である母体血胎児染色体検査(無侵襲的出生前遺伝学的検査:NIPT)が開発され、

日本でも臨床研究として実施されています。NIPTは、流産のリスクがなく簡便で、しかも精度が高い検査であると報道などで強調され、

社会的な関心を呼びましたが、現在、正しい理解が求められています。特にNIPTの施行には正しい情報提供と妊婦の判断を支援する適切な遺伝カウンセリングが不可欠です。

今回は、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座 産科婦人科学分野 教授の増﨑英明先生と、国立成育医療研究センター 副院長・周産期センター長の左合治彦先生に、NIPTの特徴や、導入にあたっての考え方、遺伝カウンセリングの重要性などについて対談いただきました。

出生前診断の現状とこれから

増﨑 英明 先生

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 産科婦人科学分野 教授

左合 治彦 先生

国立成育医療研究センター副院長・周産期センター長

02 ●

C O N T E N T S

13 ●

09 ●

11 ●

15 ●

KUR Meeting出生前診断の現状とこれから

CLOSE UP 信州 SHINSYU

Pharma Studies薬局店頭でHbA1cを測定

「糖尿病診断アクセス革命」プロジェクトの糖尿病未発見・未治療患者発掘の試み長井 彰子(あやせ薬局)

TOPICS口腔乾燥症(唾液分泌量減少症)の治療意義とポイント岩渕 博史(独立行政法人 国立病院機構栃木医療センター)

On-Site Report“チーム赤ひげ ”で地域医療を支える新潟県立津川病院 (新潟県東蒲原郡)

×(    )

左合 治彦 国立成育医療研究センター 周産期センター

増﨑 英明長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座 産科婦人科学分野(       )

Vol.6 No.4 2013

[ CLOSE UP 信州 SHINSYU ]高ボッチ高原 朝焼けの富士山と雲海( 長野県塩尻市 )

( 写真:梅澤拓也 / アフロ )

 国内有数の撮影スポットとしても知られる高ボッチ高原。標高1665メートルの高ボッチ山のなだらかな傾斜に広がる高原で、晴れると360度の大パノラマが開けた山頂から北アルプス、南アルプス、そして富士山までと、名峰を一望することができる。 とりわけ諏訪湖越しに臨む遠景の富士山は、さながら一幅の絵を見るよう。夜明け間際ならば、富士の中腹に垂れこめる雲海と湖岸を縁取った夜景とが青霞む雄姿を飾り、素晴らしい眺望が眼下に広がる。 この「高ボッチ」という面白い名は、日本の各地で伝承される巨人ダイダラボッチに由来するといわれる。地形上の凹みは、ダイダラボッチが腰を下ろしひと休みした場所だとも。人々が山頂より遠景の美を楽しむ様は、はるか昔から変わらぬ伝統かもしれない。

表紙写真荒川コスモス街道(埼玉県)

01 KISSEI KUR Vol.6 No.4 2013 KISSEI KUR Vol.6 No.4 2013 02

NIPTは、妊婦の血液からダウン症などの3種類の染色体異常の可能性を調べる検査

増﨑 新しい出生前検査である母体血胎児染色体検査(無侵襲的出生前遺伝学的検査:NIPT non-invasive prenatal genetic testing)が、限定付きではありますが、日本でも行われるようになりました。本日は、NIPTの話題を中心に、出生前診断の現状とこれからについて、NIPTコンソーシアムの臨床研究責任者でもある左合先生と対談したいと思います。NIPTの話を伺う前に、現在行われている出生前診断法にはどのような検査があるか説明いただけますか?左合 染色体異常を調べる出生前診断法には、超音波検査、母体血清マーカー検査、羊水検査、絨毛検査などがあります。超音波検査は、胎児の後頸部に観察される胎児項部透過像(NT:nuchal translucency)の厚さを測定する検査で、NTに肥厚がみられると染色体異常のリスクが高くなることから、出生前診断に用いられています。母体血清マーカー検査は妊婦から採血した血液中のホルモンやタンパク質を測定し、染色体異常や神経管奇形である確率を調べます。羊水検査は、母体の腹壁に針を穿刺して羊水を採取し、羊水中の胎児由来細胞などを培養して調べる検査です。また、絨毛検査は、子宮頸部あるいは腹壁を通して胎盤の胎児由来の組織である絨毛を採取し、培養して調べる検査です。超音波検査、母体血清マーカー検査は、あくまでもスクリーニング検査であり、確定的に診断するためには侵襲的検査である羊水検査や絨毛検査を行う必要があります。増﨑 ではNIPTはどのような検査でしょうか?左合 NIPTは、母体血中にあるcell-free DNAを用いて行う遺伝学的検査です。通常、DNAは細胞の核内にあり

ますが、細胞がアポトーシス等を起こし、血液中に漏れてきたものがcell-free DNAで、妊娠している母体血中には胎児由来のcell-free DNAが約10%混ざっているとされます。NIPTは、母体血中のcell-free DNAの塩基配列を次世代シークエンサーで解読し、ヒトゲノム情報からcell -free DNAの由来染色体を特定して該当する染色体に振り分け、染色体ごとにDNA断片数をカウントします。解読したcell - free DNAが母体由来か胎児由来かは区別できませんが、例えば胎児が21トリソミー(ダウン症候群)で21番染色体が 3 本あるような場合、21番染色体由来のDNA断片数の割合は、正常の2本の場合に比べ若干増加します。この微妙なDNA断片量の変化を捉えることで胎児の染色体異常の可能性を診断します(図1)。

図1 NIPTの検査原理

21番染色体由来のDNA断片数

胎児由来断片

母体由来断片

21番染色体断片濃度:正常核型=1.3%;21トリソミー=1.42%

胎児が21トリソミーの場合には、21番染色体由来のDNA断片数は多くなると考えられる

胎児が正常核型 胎児が21トリソミー

 NIPTは妊娠10週から可能で、21トリソミーのほか、13トリソミー、18トリソミーの検査を行うことができます。この検査は解析数が増えるほど精度も高くなるとされ、今では900万近くの断片を解読し、精度も向上しています。増﨑 以前より母体の血液中に胎児のDNA断片があることはわかっていましたが、出生前診断への実用化はなかなか進みませんでした。DNAの塩基配列を解読する技術の進歩がこの検査を可能にしたのですね。左合 大量のDNA塩基配列が瞬時に解析できる次世代シークエンサーが登場しなければ、NIPTは開発されなかったと思います。さらに、以前は胎児と母体の成分を分類しようと努力してきましたが、分類するのではなく一緒に調べてその比率で比べようという発想の転換によって開発された検査法です。

NIPTは非確定的検査であり、陽性の場合は確定的検査が必要

増﨑 NIPTはきわめて微妙なDNA断片量の差を評価するため、診断結果がどこまで正確かが問題になると思いますが、この検査の精度はいかがですか?左合 検査の精度を評価する指標に感度と特異度があります。感度はある疾患に罹患している集団に検査を行ったときに正しく陽性と診断される割合、特異度とは疾患に罹患していない集団に検査を行ったとき、正しく陰性と診断される割合です。NIPTの21トリソミーに対する感度は99%、すなわち212人のダウン症児のうち210人が陽性と診断され、特異度は99.9%、すなわちダウン症児でない1,688人のうち1,687人が陰性と診断されたと発表されています。増﨑 新聞等でこの感度が紹介されたので、NIPTは信頼性の高い検査と思っている方も多いと思います。

左合 ところが、感度、特異度だけでは、検査結果がどれくらい信用できるかはわかりません。検査で陽性と出た場合に実際にその疾患に罹患している確率を陽性的中率、陰性と出た場合にその疾患に罹患していない確率を陰性的中率といい、検査結果の信頼性は陽性的中率、陰性的中率で判断されます。これらの的中率は、感度、特異度のほか、罹患率の影響も受け、罹患率が低い、つまり稀な疾患ほど陽性的中率は低くなり、陰性的中率は高くなります。先ほどのダウン症の場合、ダウン症罹患率が10人に1人と高ければ陽性的中率は約99%となりますが、1000人に1人(ダウン症の一般出生頻度)と低ければ約50%まで低下します。NIPTの対象となるハイリスク患者の罹患率を1/50~1/250と推定すると陽性的中率は80~95%となり、5人に1人(陽性的中率80%の場合)が陽性と出ても実際はダウン症ではなかったということになります(図2)。NIPTはあくまでも非確定的検査であることをきちんと理解した上で検査を受けていただくことが重要です。

図2 陽性的中率と陰性的中率に対する罹患率の影響

罹患率 陽性的中率 陰性的中率

1/10 99.1% 99.9%

1/1000 49.8% 99.9999%

1/50 95.3%(86.9%)

99.98%(99.92%)

1/250 79.9%(56.4%)

99.996%(99.986%)

感度:99.1%(95%CI 96.6-99.9%)特異度:99.9%(95%CI 99.7-99.9%)の場合

罹患率 1/50:羊水検査を受ける集団罹患率 1/250:高年妊娠35才

検査適応

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科展開医療科学講座産科婦人科学分野 教授

1977年 長崎大学医学部 卒業長崎大学医学部 産婦人科 医員

1983年 長崎大学医学部 産婦人科 助手1985年 北九州市立八幡病院 産婦人科 部長1986年 長崎大学医学部 産婦人科 助手1991年 長崎大学医学部 産婦人科 講師1999年 長崎大学医学部 産婦人科 助教授

ロンドン大学留学2000年 長崎大学医学部 産婦人科 助教授2006年 長崎大学医学部 産婦人科 教授

増﨑 英明 先生

国立成育医療研究センター 副院長・周産期センター長

1982年 東京慈恵会医科大学 卒業 1986年 三井記念病院 外科 チーフレジデント 1987年 東京慈恵会医科大学 産婦人科 助手 1993年−94年 米国南カルフォルニア大学(USC)医学部留学 1994年−98年 米国カルフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)医学部留学1999年 東京慈恵会医科大学 産婦人科 講師 2000年 国立大蔵病院 産婦人科 医長 2002年 国立成育医療センター 周産期診療部 胎児診療科 医長 2008年 国立成育医療センター 周産期診療部長 2011年 国立成育医療研究センター 周産期センター長2013年 国立成育医療研究センター 副院長 併任

左合 治彦 先生

03 KISSEI KUR Vol.6 No.4 2013 KISSEI KUR Vol.6 No.4 2013 04

増﨑 先生のお話を伺うと、高年齢の、胎児がダウン症となるリスクの高い母集団では陽性的中率は高いが、母体年齢が若い罹患率が低いと考えられる母集団では陽性的中率も低くなり、検査を受ける意味がなくなるように思えます。高年齢の妊婦を対象にすることが重要ということになるでしょうか。左合 そういうことだと思います。ただし、血清マーカーやNTの陽性的中率は数%ですから、それと比べると50%でも高いと思います。陽性の場合、NIPTの結果だけで判断することはできませんので、確定的検査を受ける必要が出てきます。一方、陰性的中率は罹患率の影響をほとんど受けず、検査が陰性の場合に胎児がダウン症候群でない可能性は99%以上と高いため確定的検査を受ける必要はないと考えられます。増﨑 NIPTで陽性と診断された場合、どのような確定的検査が行われますか?左合 超音波検査や母体血清マーカー検査の場合と同じように、NIPTでも確定的検査として羊水検査や絨毛検査が行われます。羊水検査で調べれば、21トリソミー、13トリソミー、18トリソミーは確実に診断できますが、流産のリスクが約0.3%あると言われています。NIPTを受けることで、侵襲的で流産のリスクもある羊水検査を受けなくてすむ妊婦さんが増えるというのが、この検査のメリットだと思います。増﨑 逆に、NIPTを受けずに最初から確定的検査を受けたほうがいいと考えられる妊婦さんはいますか?左合 例えば胎児に胎児水腫や明らかな心臓奇形が認められるなど、染色体異常が強く疑われる場合は、確定的検査が必要となることが多いため、最初から羊水検査を受けたほうがいいと思います。また、陰性と出た場合も100%正しいわけではありませんので、0.1%でも染色体異常の可能性があれば調べたいと思う方も最初から確定的検査を受けていただきたいと思います。もちろん出生前診断についてきちんと説明を受け理解をした上で、検査を受けないという選択肢もあります。増﨑 高年齢で、胎児がダウン症の可能性の高い妊婦さんがこの検査を受けないという選択をしてもいいわけですね。左合 もちろんです。一番問題なのはよく考えずに受けることです。検査の特徴や受ける意味、胎児に染色体異常があることがわかったらどうするのかについてもよく考えた上で受けなければ、検査結果によって妊婦が深く悩んだり、混乱して冷静に判断できなくなる可能性があります。そうならないためにも検査についての正しい情報を得て、出生前診断を受けるのか、受ける場合にはどういう方法を選択するのがいいのかをよく考えて決めることが重要です。増﨑 羊水検査には流産のリスクが約0.3%あるため、検査に対し慎重にならざるをえません。しかし今回のNIPTはそのようなリスクがなく、血液採取という簡便な方法で

行えるため、検査を受けることのハードルが下がるという心配はありませんか?左合 先生のおっしゃるとおり、NIPTは流産のリスクもなく簡単に受けられるため、よく考えて決断するというプロセスを経ないまま安易な気持ちで受ける人が出てくることが懸念されます。羊水検査もNIPTも検査の意義は何ら変わりませんので、しっかり考えて検査を受けることが重要です。増﨑 そのためには妊婦さんの考えをうまく引き出すことができ、遺伝的知識やNIPTの原理についてもよくわかっている人がカウンセリングにあたらなければ、妊婦さんやその配偶者の混乱を招きかねないという気がします。

NIPTは、対象や実施施設を限定した臨床研究として実施

増﨑 日本でNIPTはどのような形で進められようとしていますか?左合 NIPTは2011年に米国で開始されたことから、早晩日本にも導入されることが予測されました。日本では周産期の遺伝カウンセリング体制の整備が遅れており、このような状況下で安易に行えるNIPTが導入されれば、誤った解釈により妊娠継続の妥当性の有無が判断されるといった大きな混乱が生じかねないと考えられました。この状況に危機感を持った、遺伝医療に精通した産婦人科医や小児科医、遺伝カウンセラーらが集まって「NIPTコンソーシアム」を設立し、適切に遺伝カウンセリングを行うための臨床研究を計画しました。

 日本産科婦人科学会も、産婦人科、小児科、人類遺伝学会、法学・生命倫理分野の専門家より構成された検討委員会を設置し、検査に対する考え方や検査を行う際に求められる要件についての指針を示しました。その指針には、NIPTは臨床遺伝学の知識を備えた専門医が遺伝カウンセリングを適切に行う体制が整った施設で限定的に行われるにとどめること、マススクリーニングとして行われないためにも客観的な理由を有する妊婦に対象を限るべきであることなどが示されました(図3)。また、検査の対象となるのは、超音波検査や母体血清マーカー検査で染色体異常の可能性が示された妊婦、染色体異常児の出産既往歴がある妊婦、高年妊娠の妊婦などとされました。この指針を受け、実施施設として認定・登録を受けた施設で、臨床研究としてNIPTが開始されました。

増﨑 臨床研究という形で一定の施設から開始し、次第に広めていく方向で進められているということですね。NIPTに関する公開シンポジウムに出席しましたが、その参加者を見ると法律家、倫理学者、小児科医、患者会の方など様々な分野から専門家が集まり、非常に活発な討論がなされていました。このように立場の違う人が意見を出し合い、議論することが大事なのだろうと思います。現在臨床研究はどのような状況で進んでいますか?左合 2013年4月より実施施設として認可された15施設で開始され、5月に22施設、6月に23施設、7月には24施設となり、月に約500件のNIPTが行われています注1)。4~6月の集計で、受検者の平均年齢は38.3歳(27~47歳)であり、約9割が高年妊娠を理由に検査を受けていました(図4)。増﨑 今後、NIPTの実施件数が増えていくと出生前診断はどのように変わっていくのでしょうか。以前から行われていた超音波検査や母体血清マーカー検査に比べ、陽性的中率や陰性的中率が非常に高いとのことですが、超音波検査や母体血清マーカー検査との関係はどうなっていくとお考えですか?

図3 NIPTに関する指針(日本産科婦人科学会)

母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査に対する基本的な考え方

遺伝カウンセリングを適切に行う体制が整うまでは、母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査をわが国において広く一般産婦人科臨床に導入すべきではない。

遺伝カウンセリングを適切に行う体制が整ったとしても、本検査を行う対象は客観的な理由を有する妊婦に限るべきである。

不特定多数の妊婦を対象としたマススクリーニングとして行うのを厳に慎むべきである。

十分な遺伝カウンセリングの提供が可能な限られた施設において、限定的に行われるにとどめるべきである。

図4 臨床研究の実施状況(NIPTコンソーシアム)

平均 (Min-Max)

年齢 38.3 歳 (27-47)

13.5 週 (10.0-19.9)

21.0 (14.6-37.0)

妊娠週数

BMI

「母体血胎児染色体検査」・実施期間:2013年4月~6月・臨床研究の実施施設数:22施設・実施数:1,534件

検査の適応

受検者の特性

高年妊娠94.1%

その他1.6%

超音波検査での可能性の上昇1.4%

血清マーカーでの可能性の上昇0.3%

染色体疾患の出産既往2.5%

注1)2013年8月現在、25施設が認可。

05 KISSEI KUR Vol.6 No.4 2013 KISSEI KUR Vol.6 No.4 2013 06

左合 NIPTは非確定的検査であるにもかかわらず検査料が約20万円と高額であることが問題になっています。検査料が下がれば希望者も増え、超音波検査や母体血清マーカー検査から置き換わるか、あるいは年齢で判定するのではなく超音波検査や母体血清マーカー検査をまず行い、異常が疑われた場合にNIPTを行うようになる可能性もあります。増﨑 検査料が安くなればスクリーニング検査として定着していく可能性が大きいように思います。左合 確かに今回は、検査に対し抑制的な姿勢がみられた母体血清マーカー検査の導入時とは様子が異なり、「慎重にきちんとした形でやりましょう」というスタンスで進められています。報道にも多く取り上げられたことから混乱もみられましたが、他の学会も巻き込み出生前診断について多くの人に考えてもらう機会にもなりました。出生前診断にスポットライトが当たり、みんなの問題として捉えていこうという流れになったのは非常に意義があったと思います。

日本独自の遺伝カウンセリング体制の構築を目指して

増﨑 最後に遺伝カウンセリングについて伺いたいと思います。NIPTの臨床研究で遺伝カウンセリングはどのような体制で行われていますか?左合 現在行われている臨床研究では、どの医療機関も特殊外来や専門の外来を設け、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーの有資格者が30分以上の時間をかけてきちんとNIPTについての情報提供をしています。さらに、ここがポイントですが、妊婦さんが自ら意思決定できるよう支援を行っています。遺伝カウンセリングを受けた妊婦さんは十分理解し、納得した上で検査を受けていると思います。ただ、NIPTへの関心の高まりから遺伝カウンセリングのニーズは増していますが、それに応えるだけの十分な準備が医療サイドにできていないことが危惧されます。増﨑 出生前診断の技術的なものは欧米から入ってきたものがそのまま使えます。しかし、欧米と日本では法的、倫理的な背景が異なり、国の取り組み方も違います。米国ではすでにスクリーニングシステムが出来上がっているため、新しい検査法が導入されても検査の方法が変わるだけです。一方、日本ではきちんとしたカウンセリング体制が整っておらず、個々の医師に判断が委ねられているのが現状です。このような状態で欧米のシステムをそのまま取り入れてもうまくいかないと思います。左合 おっしゃるとおり、特に遺伝カウンセリングは技術的なことよりもむしろ国の文化、人の考え方、倫理観などに根ざしています。欧米では出生前診断を受けるのが基本で、受けない権利も認めているという形ですが、日本では今のところ基本的には受けないが、受ける権利も認め

ているという形です。NIPTコンソーシアムも出生前診断を推進する立場に立っているわけではありません。しかし、検査を導入する以上は、欧米のまねではなく日本独自のしっかりとしたカウンセリング体制を構築していかなければならないと思っています。今は過渡期で混乱しているかもしれませんが、実践を重ねていけば日本でもきちんとした体制を作ることができるのではないかと思います。増﨑 一時的にテレビや新聞などで話題になっても、すぐに人々の関心は薄れていきます。しかし、NIPTの問題は継続して取り組んでいくことが重要で、その意味でもNIPTコンソーシアムの存在意義は大きいと思います。NIPTを契機に他の検査も含めた出生前診断のカウンセリング体制が整備されていくことを望みます。 現在、NIPTが実施できる施設は限られており、九州でも長崎県と福岡県の2ヵ所しかありません注2)。少なくとも各県に1ヵ所は検査施設が必要だと思うのですが、施設数を増やすにはどうすればいいとお考えですか?左合 NIPTコンソーシアムのメンバーがいる施設がその地域の中心となって、NIPTだけでなく出生前診断全般がきちんと行える施設が増えればと考えています。新生児医療が総合周産期母子医療センターや地域周産期母子医療センターができてから格段によくなったように、出生前診断においても、一次、二次、三次施設を各地域で作り、難しい症例のみコンソーシアムのメンバーがいる施設が引き受けるようなシステムを作っていくことが課題です。さらに、そのシステムの中でこれからの出生前診断を担う人材を育てていきたいと思っています。増﨑 日本独自の遺伝カウンセリング体制を作る取り組みは始まったばかりで、すぐに成果を求めるのは難しいかもしれませんが、ぜひ実現していただきたいと思います。本日はありがとうございました。

注2)2013年8月現在、九州地区では長崎県、福岡県に加え、大分県でもNIPT実施が可能となっている。

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