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センターニュース 115 Vol.31 No.1,2012 分析機器解説シリーズ(115) メトラー・トレド株式会社 ラボラトリーシステム事業部熱分析グループ 臼井 敏紀 ポリマーの熱分析: 熱可塑性樹脂の TGA、TMA および DMA 測定 分析機器解説シリーズ(115) ◆ポリマーの熱分析: 熱可塑性樹脂のTGA、TMAおよびDMA測定 ………………………… P1 ◆お知らせ ……………………………………………………………………………………………… P8 メトラー・トレド株式会社                   ラボラトリーシステム事業部熱分析グループ 臼井 敏紀 (1) 本稿の第1,2部では、熱可塑性樹脂の分野におい て要求される主な熱特性評価項目または現象につい て、DSC ではどのように応用できるのかを明らかにし て来ました [1] 。本稿では、TGA、TMAおよびDMA に焦点を当てることとし、分解、膨張、冷結晶化、ガ ラス転移、融解、β緩和および再結晶化のような熱特 性評価項目について紹介いたします。DSC だけではな く、TGA、TMA、DMA なども応用した、総合的な熱 分析特性の評価をすることが必要と言えます。 熱重量分析(TGA) 1 1 熱重量分析(TGA)とは、物質がある特定の雰囲 気中で昇温、冷却または等温保持された場合に、サン プルの質量変化を時間または温度の関数として測定す る手法ということになります。このTGAは、主とし て各種製品からの熱重量変化を定量的に分析すること を目的として使用されています。 一般的なTGA曲線は、高揮発性成分(水分、溶剤、 モノマー)の揮発、ポリマーの熱分解、すすと残渣 (灰、充填材、ガラス繊維)の酸化燃焼分解などに関 連した重量変化を示しています。従ってTGA曲線か ら、揮発性成分、熱分解性成分あるいは残渣について の成分量を知ることが可能となります。 TGA 曲線の時間、または温度で一次微分されたDTG 曲線からは、分解速度、反応速度についての情報が得ら れます。TGA/DSC 同時測定の場合は、DSC 曲線から の結果と合わせ、重量変化を伴う蒸発、脱水などの熱特 性(吸熱)なのか、または重量変化のない融解、転移(吸 熱)または結晶化(発熱)などの熱特性となっているか、 等の情報が簡便に判別できますので、TGA/DSCは総 合的な熱特性評価に有効となっています。

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センターニュース115

Vol.31 No.1,2012

分析機器解説シリーズ(115)

メトラー・トレド株式会社ラボラトリーシステム事業部熱分析グループ 臼井 敏紀

ポリマーの熱分析: 熱可塑性樹脂のTGA、TMAおよびDMA測定

分析機器解説シリーズ(115)

◆ポリマーの熱分析: 熱可塑性樹脂のTGA、TMAおよびDMA測定 …………………………P1

◆お知らせ………………………………………………………………………………………………P8

メトラー・トレド株式会社                   ラボラトリーシステム事業部熱分析グループ 臼井 敏紀

(1)

 本稿の第1,2部では、熱可塑性樹脂の分野において要求される主な熱特性評価項目または現象について、DSCではどのように応用できるのかを明らかにして来ました[1]。本稿では、TGA、TMAおよびDMAに焦点を当てることとし、分解、膨張、冷結晶化、ガラス転移、融解、β緩和および再結晶化のような熱特性評価項目について紹介いたします。DSCだけではなく、TGA、TMA、DMAなども応用した、総合的な熱分析特性の評価をすることが必要と言えます。

熱重量分析(TGA)

分    解

熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

DLTMA法による測定

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 熱重量分析(TGA)とは、物質がある特定の雰囲気中で昇温、冷却または等温保持された場合に、サンプルの質量変化を時間または温度の関数として測定する手法ということになります。このTGAは、主とし

て各種製品からの熱重量変化を定量的に分析することを目的として使用されています。 一般的なTGA曲線は、高揮発性成分(水分、溶剤、モノマー)の揮発、ポリマーの熱分解、すすと残渣(灰、充填材、ガラス繊維)の酸化燃焼分解などに関連した重量変化を示しています。従ってTGA曲線から、揮発性成分、熱分解性成分あるいは残渣についての成分量を知ることが可能となります。 TGA曲線の時間、または温度で一次微分されたDTG曲線からは、分解速度、反応速度についての情報が得られます。TGA/DSC同時測定の場合は、DSC曲線からの結果と合わせ、重量変化を伴う蒸発、脱水などの熱特性(吸熱)なのか、または重量変化のない融解、転移(吸熱)または結晶化(発熱)などの熱特性となっているか、等の情報が簡便に判別できますので、TGA/DSCは総合的な熱特性評価に有効となっています。

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分析機器解説シリーズ(115)

(2)

 しかしTGA/DSC装置で測定されたDSC曲線は、単独の高感度あるいは超高感度DSC装置で測定されたDSC曲線よりも、感度、分解能および定量性が劣るということに注意する必要があります。 図1には、窒素中で測定したPETのTGA/DSC曲線とDTG曲線を示しました。また図1の右下には、40℃~350℃の温度範囲を部分的に拡大したDSC曲線を示しました。この拡大されたDSC曲線からガラス転移、冷結晶化とそれに続く融解ピークが明確に観測されています。 TGA/DSCのDSC曲線からも比熱測定を行うことが出来ますが、TGA/DSCの場合には、DSC曲線のベースラインを常にTGA曲線から得られた重量変化量を補正して、より正確な比熱計算を行うことが可能な、TGA重量補正ソフトウェアを備えています。この補正を行ったDSC曲線の補正例を図1の左下に示しました。この場合の青色曲線は補正前のDSC曲線であり、赤色のDSC曲線がTGA曲線の重量変化量で補正したDSC曲線となります[2,3]。

熱重量分析(TGA)

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熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

DLTMA法による測定

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 化学結合した物質に熱、光などを与えて、簡単な化合物に変わる現象を分解といいます。特にTGAの場合は、

熱により分解する現象が重要であり、これを特に熱分解と呼びます。例えば、複雑な有機化合物またはポリマーは、熱により水、二酸化炭素、炭化水素のような低分子の気体状の生成物に熱分解します。残りは熱分解後のすす、カーボンブラック、無機質などの残渣となります。ここでTGA測定の場合に、測定雰囲気が熱分解の反応に与える影響という点で重要となります。窒素ガスなどの不活性雰囲気での分解が熱分解であり、酸化雰囲気中での分解を酸化分解として一般的に区別されています。 TGA/DSC曲線を解釈する上で、酸化分解か熱分解かを判別することは重要となっています。特にTGAは単独で使用する場合よりも、TGA/DTAまたはTGA/DSC同時測定が良く用いられますので、DTAまたはDSCから発熱ピークがみられるかどうかで、酸化分解か熱分解を容易に判別できることが利点となっています。また、熱分解時に発生するガスの定性質量分析を行うためには、TGA-FTIRまたはTGA-MS同時測定装置が有効となります。

熱重量分析(TGA)

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熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

DLTMA法による測定

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 熱機械分析測定とは、ある一定の雰囲気中で昇温または冷却されたサンプルの寸法変化を測定する技法

図1 PETのTGA/DTG曲線、拡大DSC曲線およびTGA重量補正後のDSC曲線昇温速度:20K/min 温度範囲:30~1000℃

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となります。さらに、TMA測定にはいくつかの異なる測定モードがあり、得られる結果も異なってきます。ここでは代表的な膨張モード、貫入モードおよびDLTMA測定法(動的荷重TMA Dynamic Load TMA)について紹介します。

熱重量分析(TGA)

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熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

DLTMA法による測定

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 膨張モードによる測定では、サンプルの熱膨張または熱収縮による長さの変化が測定されます。このため通常サンプルに掛ける荷重は、サンプルに歪を与えないで、常に接触させておく程度に、出来る限り微小な荷重にすることが必要です。膨張モード測定結果から得られる情報は、平均線膨張係数、ガラス転移点、歪の影響、熱履歴の有無などとなります。

 図2に膨張モードによる測定結果を示しました。膨張モード測定用のサンプルとして厚さ約0.5㎜のサンプルを2枚のシリカディスクの間に挟み、装置中で90℃まで予備加熱し、熱履歴を除去した後に、冷却しサンプルとしました。昇温速度:20K/min 温度範囲:30℃から310℃測定 荷重:0.005N 膨張プローブ:球形プローブで測定しました。 図2のTMA曲線から分かりますように、ガラス転

移点以下では膨張は非常にわずかですが、ガラス転移点約73℃を境に分子運動が増加することにより、著しく膨張するようになります。その後約120℃付近から、冷結晶化と再結晶化が起こりますので、サンプルは再度膨張に転じてきます。約150℃で再結晶化による結晶形成が終了したところから、サンプルは再度膨張に転じてきます。最後には融解し始めたところで、屈服し、収縮し始めることになります。この膨張モードによるTMA測定では、融解開始後、測定は直ちに終了します。融解開始後、更に温度を上げていくと膨張プローブと融解したサンプルが融着する危険性がありますので、注意が必要です。

熱重量分析(TGA)

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熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

DLTMA法による測定

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 針入モードでの測定により、ガラス転移、軟化、融解などの特性温度、あるいは針入挙動に関する情報が得られます。TMA曲線から、軟化の有無、軟化する温度および軟化していく挙動の違いなどについて知ることが出来ます。しかし針入モードにより得られるTMA曲線は、サンプルに掛ける応力(荷重)、針入ピンの先端形状(径など)およびサンプル形状、表面の粗さなどによる影響を受けますので、常に再現性の確認に充分留意する必要があります。

図2 膨張モードで測定したPETのTMA曲線と平均線膨張係数曲線

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分析機器解説シリーズ(115)

(4)

 針入モード測定用サンプル:厚さ約0.5㎜のPETサンプル、サンプリング方法:サンプルをシリカディスクの上に置き、貫入モード用球形プローブを用いて測定しました。測定荷重:0.1Nおよび0.5Nで測定、昇温速度:20K/min、温度範囲:30~310℃で測定しました。前もって予備処理は行わないで測定しました。 図3から分かりますように、針入モードでの測定においてプローブは、サンプルのガラス転移により軟化した所で大きくサンプルに針入し、その後、冷結晶化の領域では固くなっているためほとんど針入せず、融解する温度でまた僅かに針入する経過をたどります。

熱重量分析(TGA)

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熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 DLTMA(動的荷重TMA)は、サンプルに動的振動荷重を加えて測定する手法で、動的な熱機械的特性変化を測定する方法と言えます。DLTMAにより、DSCで得られるガラス転移、冷結晶化熱量変化をサンプルの熱機械的な物性変化としても評価出来るようになります。DLTMA(Dynamic Load TMA)[4]の場合、サンプルに一定の周波数で大きな荷重と小さな荷重を交互に動的荷重が掛かるようにします。このよ

うにしてDLTMA測定から微小な転移、膨張、収縮および弾性率(ヤング率)の測定が可能になります。 図4にPETサンプルのDLTMA曲線を示しました。ガラス転移点以下のガラス化した状態ではサンプルは固いため、動的荷重に対するDLTMA曲線の振幅はほとんど見られません。ガラス転移点約2℃以上になると、DLTMA曲線は次第に大きくなり、これはサンプルが軟化したことを表しています。この後、冷結晶化過程では体積収縮と同時に、固さが増すことにより、振幅は次第に小さくなっていくことがわかります。再結晶化が終了した140℃以上ではサンプルは充分な固さになっていますので、あまり振幅は見られません。その後160℃までは固さの変化はなく、一定の膨張を示すだけとなります。

熱重量分析(TGA)

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熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

DLTMA法による測定

動的粘弾性分析(DMA)

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 動的粘弾性分析DMAは、粘弾性材料に周期的な振動荷重を加え、熱機械的な物性変化あるいは粘弾性変化に関して、時間、温度または周波数の関数として測定する装置です。 DMA測定では、振動荷重を様々な周波数でサンプルに加えて測定しますが、DMAからは弾性率(ヤン

図3 針入モードで測定したPETのTMA曲線荷重:0.1N,0.5N 昇温速度:20℃/min PET厚み:0.434㎜

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(4) (5)

グ弾性率 E',せん断弾性率 G'、損失弾性率 E",G")および損失係数tan delta、粘性などの粘弾性に関する情報が得られます。DSCでは測定が難しいような現象に対して、DMAで測定した場合の方が高感度で物性変化を検出できることもあり、DMAでな

ければ測定できない分野も多いと言えます。例えばDSCでは測定が難しい、基盤上の充填材または薄い薄膜のガラス転移を測定したい場合など、DMAであれば感度良く測定が可能となります。 図5はPETのDMA測定結果を示したものです。前

図4 室温~160℃の温度範囲でのPETのDLTMA測定結果

図5 -150~270℃の範囲でのPETのせん断モードによるDMA測定結果

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分析機器解説シリーズ(115)

(6)

もって急速冷却された直径5㎜、厚さ0.49㎜のPETサンプルを準備し、周波数は1Hz、昇温速度は2K/min、-150~270℃の範囲をせん断測定モードで測定しました。 前もって急速冷却された直径5㎜、厚さ0.49㎜のPETサンプルを準備し、周波数は1Hz、昇温速度は2K/min、-150~300℃の範囲をせん断測定モードで測定しました。 図5に示すDMA測定結果では、PETのTMAまたはTGA/DSC測定で観測されるガラス転移、冷結晶化および融解の他に、新たにポリマー末端基の局部的なミクロブラウン運動あるいは部分的な再結晶化によると思われる、β緩和現象を示すピークが見られました。このようなβ緩和は、低温タイプのDSCなどの熱分析技法では全く測定が不可能であり、DMAだけに測定が可能となる現象例の一つと言えます。

熱重量分析(TGA)

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熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

DLTMA法による測定

動的粘弾性分析(DMA)

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 図6は、PETの測定に用いた熱分析装置とその測定結果についてまとめたものです。表1は、各種の熱分析法を使用して、同一サンプルの熱特性について、それぞれの熱分析装置でどのような熱特性項目が測定可能かについての評価をまとめてみたものです。

 表2では、各種熱分析装置により得られた各特性温度について一覧表としてまとめました。温度の解析方法はTGA/DSCおよびDSCの場合はピーク温度で、TMAの場合は膨張変化の開始温度、DMAの場合はtan delta曲線のピーク温度で示しています。 温度解析の方法が多少違いますが、熱分析装置は異なっても、ガラス転移、冷結晶化、融解については、ほぼ同じ温度となる結果が得られており、信頼できる測定結果が得られていることが分かります。従って、熱分析装置を変えて、得られた情報を相互に補い合うことで、材料の熱特性の総合的な評価のための有効なヒントが得られることになります。このように、各種の熱分析装置を用いて総合的に評価する必要がある場合としては、物質の品質管理の分野、新素材などの開発品の熱物性を検討する場合あるいは製品にトラブルが発生し、熱分析でクレーム分析を行うような場合などに有効となります。分析手法を変えて色々検討することにより、より早く原因解明が出来ることになります。不良の原因が不純物の汚染によるものであるかどうかなど、原因追求には、このように複数の熱分析測定法を併用して総合的に評価することが有用であることが多いと言えます。

図6 PETの測定に使用した熱分析装置とその測定結果の比較

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熱重量分析(TGA)

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熱機械分析(TMA)

膨張モードによる測定

針入モードによるTMA測定

DLTMA法による測定

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DSC,TGA,TMA及びDMAによる測定結果の比較

 本稿では、熱可塑性樹脂PETを手がかりとして、一般的なTA法であるDSC、TGA、TMAおよびDMAにより、どのような熱特性または現象が測定可能であるかについて検討しました。ガラス転移、冷結晶化、融解に関しては全ての熱分析装置で検出され、温度的な違いは熱分析装置間ではほとんどなく、良好な結果が得られることが分かりました。さらにDSCは、サンプルのOIT測定や熱履歴の評価に非常に有効な手法です。特に急冷、徐冷、アニーリング温度と時間、昇温または冷却速度など異なる熱履歴を受けたPETは、ガラス転移、エンタルピー緩和、冷結晶化に著しく影響を与えることが分かりました。 このような熱履歴の影響はその他のポリマーの熱特性にも共通してみとめられることになります。DSCで測定可能な熱特性項目は他のTGA、TMAあるいはDMAでも測定可能であり、相互の測定結果を補足す

ることにより、更に信頼性のある結果が得られることになります。また、熱分析装置を使用する場合、初めてのサンプルではまずTGA/DSC(or DTA)同時測定装置で予備測定を行い、熱分解温度、融解温度あるいは発泡性、昇華性、爆発性などの危険性を確認した後、DSCおよびTMA、最後にDMA測定を用いることが一般的と言えます。

文  献[1] センターニュース110号(2010),113号(2011)

[2] R. Riesen, Heat capacity determination at high temperatures by TGA/DSC. Part 1: DSCstandard procedures, UserCom 27, 1-4.

[3] R. Riesen, Heat capacity determination at high temperatures by TGA/DSC. Part 2: Applications, UserCom 28, 1-4.

[4] PET, Physical curing by dynamic load TMA, UserCom 5, 15.

表1 各種熱分析法により確認された熱特性項目の可能性の評価

熱特性、現象 DSC TGA/DSC TMA DMA

β 緩 和 ○

ガ ラ ス 転 移 ○ ○(DSC Signal) ○ ○

冷 結 晶 化 ○ ○(DSC Signal) ○ ○

再 結 晶 化 △ ○

融 解 ○ ○ ○ ○

分 解 △ ○ △

O I T ○

表2 各種熱分析法により得られたPETの熱特性温度解析結果の比較

熱特性、現象 DSC(20K/min)

TGA/DSC(20K/min,DSC,N2)

TMA(20K/min)

DMA(1Hz,2K/min,tan delta)

β 緩 和 -77℃

ガ ラ ス 転 移 80℃ 81℃ 77℃ 81℃

冷 結 晶 化 150℃ 154℃ 152℃ 118℃

再 結 晶 化 183℃

融 解 248℃ 251℃ 242℃ 254℃

分 解 433℃

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九州大学中央分析センター(筑紫地区)〒816-8580 福岡県春日市春日公園6丁目1番地TEL 092-583-7870/FAX 092-593-8421

九州大学中央分析センター伊都分室(伊都地区)〒819-0395 福岡市西区元岡744番地TEL 092-802-2857/FAX 092-802-2858

九州大学中央分析センターニュース

ホームページアドレス  http://www.bunseki.cstm.kyushu-u.ac.jp

第115号 平成24年1月5日発行

お 知 ら せお 知 ら せお 知 ら せ

お知らせ

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 分析センター(筑紫キャンパス)では、赤外分光(FT-IR)および顕微赤外分光(顕微FT-IR)用の試料成形器(ミニプレス)を準備しましたので、ご利用下さい。

 試料ホルダーは1円玉サイズで、厚紙で出来ています(消耗品です)。

試料の成形手順は以下の通りです。

(a)ベースプレートを準備する。(b)その上に試料ホルダーを乗せる。(c) ガイドリングをセットし、粉末試

料を試料ホルダーの穴に詰める。(d)押さえプレートを上から固定する。(e) プレス機で上下から圧力をかけ、

粉末試料を押し固める。

 このように簡単に試料成形が出来ます。

 また、右図のようなミニKBr板で粉末試料を挟み、(a)~(e)の手順での試料成形も出来ます。

試料(c)(b)(a)

(e)(d)