vol.82 no.6 2009 低ノイズ電流連続モードpfc制御ic … · pfc circuits are strongly...
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1 まえがき
電子機器の小型化・軽量化・高機能化に伴いスイッチン
グ電源の利用が不可欠である。スイッチング電源ではコン
デンサインプット型の整流・平滑回路が採用され,変換時に大量の電源高調波電流を発生することが問題となって
いる。対策として,ワールドワイド入力に対応でき,高効率・小型化が可能なアクティブフィルタ方式の PFC(Pow-er Factor Correction)回路が広く使われている。
富士電機はこれまでに,PFC 回路用の制御 IC として
小容量電源向けに電流臨界モード「FA5500/FA5501」「FA5590/FA5591」,大容量電源向けに電流連続モード
「FA5502」「FA5550/FA5551」を製品化した。最近では,
高効率や小型化に加え,低ノイズ化,周辺部品削減による
電源システムのコストダウン要求がさらに強くなってきて
いる。これらのニーズに応えるため,8 ピン小型パッケー
ジを採用しながら,低ノイズ,高力率,さらには音鳴り対策や負荷変動時の出力電圧低下対策など,使いやすさを
向上した電流連続モード PFC 制御 IC「FA5610/FA5611」を開発した。次にその概要を紹介する。
2 製品の概要
₂.₁ 製品の特徴
今回開発した FA5610/FA5611 の外観を図₁に,ブロッ
ク図を図₂に,FA5502 との機能比較を表₁に示す。特徴となる機能を次に挙げ,それぞれの機能について詳細な説明を行う。
⑴ 低ノイズ
⑵ 音鳴り対策⑶ 負荷急変時の出力電圧低下対策
⑷ 高入力時の電力制限
₂.₂ 機能の詳細説明
⑴ 低ノイズ
本 IC の発振器には,独自の方法によりスイッチング周波数を分散させる機能を持たせ,従来の固定周波数方式と
比較しノイズを低減できた。これにより,入力ノイズフィ
ルタを簡素化することが可能となり,効率の向上,周辺部品削減による電源システムのコストダウンにもつながる。
スイッチング周波数の分散機能では,入力電圧や出力電力条件によりノイズ低減効果が最適となる周波数を設定し,
広い範囲でノイズ低減が実現できる。また,スイッチング
周波数を分散させる範囲を限定させることにより,周辺部品定数の選択も容易となっている。
⑵ 音鳴り対策本 IC では,起動時,負荷変動時,入力電圧瞬停時の音
鳴りをなくすために,ダイナミック過電圧保護(OVP)機能を内蔵している。図₃のように起動時間が短くダイナ
ミック OVP 機能がない場合,出力電圧のオーバシュート
図₁ 「FA5610/FA5611」の外観
富士時報 Vol.82 No.6 2009
特
集
低ノイズ電流連続モード PFC 制御 IC「FA5610/FA5611」
藪崎 純 Jun Yabuzaki 陳 建 Ken Chin 境 保明 Yasuaki Sakai
Low-noise Continuous Current Mode PFC-IC
スイッチング電源の普及に伴い,高調波電流が問題になっている。その対策としてアクティブフィルタ方式の PFC (Power Factor Collection)回路が広く使われている。PFC 回路には,高効率・小型化に加え,低ノイズ・低コストが強く
要求されてきている。今回,8 ピン小型パッケージを採用しながら,スイッチング周波数を独自の方式で分散することによ
る低ノイズ,高力率,さらには起動時や負荷変動時などに発生する音鳴り対策や負荷変動時の出力電圧低下対策など,使いやすさを向上した電流連続モード PFC 用の制御 IC「FA5610/FA5611」を開発した。
With the widespread use of switching converters, harmonic currents have become a problem. As a countermeasure, PFC (Power Fac-tor Collection) circuits are used widely. PFC circuits are strongly requested to be highly efficiency, have a small size, and recently, to have low noise and a low cost. We have developed new continuous current mode PFC-ICs “FA5610/FA5611” that are housed in a SOP-8 small package and achieve low-noise and high-efficiency operation through our propriety method for distributing switching frequency, and that incorporate measures against noise at startup and during load fluctuations, and measures against output voltage drooping during load fluctuations to im-prove the ease of use.
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によりスタティック OVP 機能が働き,MOSFET(Metal-
Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)のスイッ
チングを停止してしまうことがある。インダクタ電流が流れているときに MOSFET を停止してしまうと,インダク
タ電流の振動が起こる。この振動周波数が 20 kHz 以下と
なると音鳴りとして聞こえる。
FA5610/FA5611 では,ダイナミック OVP 機能を内蔵しているので,出力電圧オーバシュート時に MOSFET の
スイッチングを停止することなく,徐々にオンデューティ
を低下させ,出力の上昇を抑えることができる。そのため,
インダクタ電流の振動が起きなくなり音鳴りはしない。こ
の機能は,起動時だけでなく,負荷変動時,入力電圧瞬停時の出力電圧オーバシュートにも有効で,あらゆる動作条件で音鳴りのしにくい電源が提供できる。
⑶ 負荷急変時の出力電圧低下対策通常 PFC 回路では,AC 入力電圧の変動による力率の
低下を抑えるため,応答速度周波数を 10 Hz 程度まで落と
して動作させている。このため,高速の負荷変動に対応す
るには出力コンデンサの容量を大きくする方法が採られて
いた。出力コンデンサを大容量化すると,起動時には大き
なラッシュ電流が流れるため,ラッシュ電流から部品を保護する回路を必要とする場合,電源システムのコストアッ
VIN検出器
IL検出器
OCP
OSC+
ジッタリング
ゲートドライバ乗算器
ダイナミック OVP
VD
スタティック OVP
UVLO
8VCC
VDET
VCMP
FB
IS
3
2
1
4
UV
VD
内部バイアス電圧:5V SP
ICMP
OUT
5
7
6GND
FB
2.5V
2.5MΩ 5.0V
28kΩ12kΩ
ERR.AMP
+
-
CUR. AMPPWM COMP
UVSP
+
-
0.3V
-
+
OVP
VREF
図₂ 「FA5610/FA5611」のブロック図
表₁ 従来機種「FA5502」との機能比較
項 目FA5610/FA5611
SOP-8平均電流制御
FA5502SOP-16平均電流制御
①発振周波数 60kHz±10%の周波数分散 CT端子により調整(固定周波数)
②音鳴り対策 出力過電圧保護 ダイナミック・スタティックOVP
ダイナミックVDOVP=1.050VREF(FB端子電圧)
スタティックVSOVP=1.09VREF(FB端子電圧)
スタティックのみ(独立端子)VTHOVP = 1.64V(OVP端子電圧)
③負荷急変時出力低下対策 ○ ×
④過電流保護レベルAC100V
VOCPL= − 0.5V±5%(IS端子電圧)
AC200VVOCPH= − 0.4V±6.3%
(IS端子電圧)
VTHOCP =− 1.1V±9%(IS端子電圧)
⑤出力低電圧保護 VFBOL=0.3V(FB端子電圧) ×
⑥UVLOFA5610:VUVLO=9.6VFA5611:VUVLO=13.0V
(VCC端子電圧)
VTHUON = 16.5V(VCC端子電圧)
⑦ソフトスタート ○位相補償コンデンサで対応
○独立端子
⑧外部同期機能 × ○
:新製品 ○:機能あり ×:機能なし
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プにつながっていた。
本 IC では,出力電圧がしきい値以下となっても,通常よりも高速で応答する機能を持たせ出力電圧低下が抑えら
れる。そのため,出力コンデンサの低容量化が可能である。
⑷ 高入力時の電力制限本 IC には,入力電圧の大きさにより過電流保護(OCP:
Over Current Protection)しきい値を変える機能があ
る。通常のインダクタピーク電流を制限する OCP 機能で
は,入力電圧の大きさにより OCP 動作時の出力電力が大きく変わってしまう。図₄に示すように,AC 入力電圧が 100 V と 200 V では,同じインダクタピーク電流でも出力電力が 2 倍の差となってしまう。入力電圧によっては
出力電力が過剰に高くなるため,本 IC では AC 入力電圧180 V 以上で OCP しきい値を 20% 下げる機能を追加した。
OCP しきい値の切替えは,音鳴りを防止するためインダ
クタ電流の変化が少なくなるように行っている。
3 電源への適用効果
FA5610/FA5611 は,200 W 以上の比較的大容量の用途に適している。次に,本 IC の適用事例に基づいてその特性について説明する。
₃.₁ 評価用電源回路の構成
図₅に評価用電源回路を示す。周波数分散によるノイズ
低減効果により,FA5502 で 2 段必要だった入力フィルタ
が 1 段で構成可能となった。入力フィルタの簡略化は,単に電源システムの部品点数と実装面積の削減によるコスト
ダウンだけでなく,入力ノイズフィルタでの損失が低減で
き,変換効率の向上にもつながる。
₃.₂ 低ノイズ
図₆に AC 入力電圧 100V,出力電力 600W での伝導ノ
イズ(QP 値)を,固定スイッチング周波数である FA5502と比較した。周波数分散の効果を分かりやすくするた
め,入力ノイズフィルタをどちらも 2 段とし同一条件での
比較とした。FA5502 では,スイッチング周波数の 3 倍の
周波数付近に大きなピークが発生している。これに対し,
FA5610/FA5611 では周波数分散の効果によりノイズピー
クが抑えられ,FA5502 より 6dBµV 程度低くなっている。
図₇に規制値に対するノイズマージンの比較を示す。入力ノイズフィルタを 1 段としたときの FA5610/FA5611のノイズマージンは,入力ノイズフィルタが 2 段での
FA5502 のノイズマージンとほぼ同等であり,入力ノイズ
フィルタ 1 段の削減が可能となった。
音鳴りなし
30
10
-10
-30
50
30
10
-10
500
400
300
200
100
時間(ms)(a)「FA5610/FA5611」
0 50 100 150
音鳴りあり
30
10
-10
-30
50
30
10
-10
500
400
300
200
100
時間(ms)(b)ダイナミックOVP機能なし
0 50 100 150
AC入力電流(A)
インダクタ電流(A)
PFC出力電圧(V)
AC入力電流(A)
インダクタ電流(A)
PFC出力電圧(V)
図₃ ダイナミックOVPがないPFCとの起動時の動作波形の比較
050 100 150 200 250 300
1,000
2,000
3,000
4,000
5,000
AC入力電圧(V)
OCP制限電力(W)
OCP切替えなし
OCP切替えあり
図₄ OCP切替えによる出力電力の違い
特
集
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₃.₃ 負荷急変時の出力電圧低下対策
図₈に AC 入力電圧 100 V,出力電力を 0 W から 600 W
へ急変させたときの動作波形を示す。FA5502 では出力電圧低下が 90 V 程度発生しいる。これに対し FA5610/FA5611 では,負荷急変時の高速応答により出力電圧低下が 35 V となり,50 V 以上改善した。
D101D202
Q204D206
ZT100
1 2
2 1
3
F101
F102
R101510kΩ
AC85~260V
P_GND
R238 0.1Ω
R239 0.1ΩR250 0.1Ω
R240 0.1Ω
R236100Ω
C216
1,000pF
C214
2,200pF
VR201
2kΩ
R231
16kΩ
R229
680kΩ
R226
620kΩ
R225
620kΩ
R215
R213
47kΩ
R222 22Ω
R221 100Ω
Q203D205
R214
47kΩ
R220 22Ω
R219 100Ω
Q202
Q205
Q201
D204
R210
47kΩ
R216 22Ω
R218 100Ω
R227 100Ω
620kΩ +390V
1234
P_GND
R251 0.1ΩPFC_VCC- PFC_VCC+
C201
C202
R102510kΩ
R103510kΩ
C1052,200pF
C1062,200pF
TH01
R205
R233
9.1kΩ
C213
100pF
R230
10kΩ
GND VCC PFC_VCC
PFC_VCC
1C8P
VCMP
ICMP
VDETOUT
IS
FA5610/FA5611
FB
6 8
12
5
3
7
4
C220
680pF
C210
2.2 F
R234
47kΩ
R237
47kΩ
C212
0.01 F
C215
C207
0.1 F
330kΩ
R204
330kΩ
R203
330kΩ
R202
330kΩ
R201
330kΩ
C1040.47 F
C211
0.47 F
C203
C217 0.1 F
125 F
L201
C1031.0 F
1 F
1 F
56 F
C204220 F
C205220 F
C206220 F
図₅ 評価電源回路
30
40
50
60
70
10.1周波数 (MHz)
QP
FA5502
6dBFA5610/FA5611
AC100V,出力600W
伝導ノイズ(QP値)
レベル(dB V)
図₆ 伝導ノイズ特性
AC入力電圧:100V負荷変動:0W→600W
AC入力電圧
AC入力電流出力電圧
AC入力電圧
AC入力電流出力電圧
FA5502 =-90V V drop FA5610N =-35V V drop
図₈ 負荷急変時の動作波形
93.5100 200 300 400 500 600
94.0
94.5
95.0
95.5
96.0
96.5
出力電力(W)
効率(%)
FA5610/FA5611 入力フィルタ1段
FA5502 入力フィルタ2段
図₉ 「FA5610/FA5611」と「FA5502」の効率特性比較
10100 200 300 400 500 600
12
14
16
18
20
22
24
26
出力電力(W)
ノイズマージン(dB V)
FA5610/FA5611 入力フィルタ1段
FA5610/FA5611 入力フィルタ2段
FA5502 入力フィルタ2段
図₇ �「FA5610/FA5611」と「FA5502」のノイズマージン�比較
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₃.₄ 効率と力率
図₉に AC 入力電圧 100 V での効率比較を示す。FA5610/FA5611 では,ノイズ低減効果により入力ノイズフィ
ルタを 1 段減らすことができる。このため,ノイズフィル
タでの損失が低減され,どの条件でも FA5502 よりも効率は高くなった。
図₁0 に力率特性を示す。AC 入力電圧 100 V,150 W で
も 0.9 以上の力率が確保できた。
4 あとがき
8 ピン連続モード PFC 制御 IC「FA5610/FA5611」を
紹介した。力率改善回路に対して,高効率や低ノイズ,小型・薄型化,部品削減による電源システムコストダウンの
要求がいっそう強くなっていくと予想される。今後とも,
これらの市場要求に応えるべく,IC の開発を行っていく
所存である。
参考文献⑴ 鹿島雅人ほか. 電流連続モードPFC回路用電源IC「FA5550/
5551シリーズ」. 富士時報. 2007, vol.80, no.6, p.441-444.
⑵ 園部孝二ほか. 臨界型PFC電流共振統合電源IC「FA5560
M」. 富士時報. 2008, vol.81, no.6, p.419-423.
0.8600500400300200100
0.9
1.0
出力電力(W)
力率
AC100V
AC240V
図₁₀ 力率特性
藪崎 純スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富士電機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括部ディスクリート・IC 開発部。
陳 建スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富士電機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括部ディスクリート・IC 開発部。
境 保明スイッチング電源制御 IC の開発に従事。現在,富士電機システムズ株式会社半導体事業本部半導体統括部ディスクリート・IC 開発部。
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