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シリーズ 1 ハンドブック 2 流木対策 実務入門 クラーゲンフルト 2011

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シリーズ 1 ハンドブック 2

流木対策 実務入門

クラーゲンフルト 2011 年

刊 記

著 者 Rüdolf-Miklau, Florian Lebensministerium, Wien (Österreich) Hubl, Johannes Institut für Alpine Naturgefahren, Universität für Bodenkultur, Wien (Österreich) Rauch, Hans Peter Institut für Ingenieurbiologie und Landschaftsbau, Universität für Bodenkultur, Wien

(Österreich) Habersack, Helmut Institut für Wasserwirtschaft, Hydrologie und konstruktiven Wasserbau, Universitat

für Bodenkultur, Wien (Österreich) Kogelnig, Arnold Institut für Alpine Naturgefahren, Universitä für Bodenkultur,Wien (Österreich) Schulev-Steindl, Eva Institut für Rechtswissenschaften, Universitä für Bodenkultur,Wien (Öterreich)

寄 稿 Anderschitz, Michael Institut für Ingenieurbiologie und Landschaftsbau, Universität für Bodenkultur, Wien

(Österreich) Florineth, Florin Institut fur Ingenieurbiologie und Landschaftsbau, Universitat fur Bodenkultur, Wien

(Österreich) Gius, Sandro Abteilung für Wasserschutzbauten, Autonome Provinz Bozen (Italien) Greminger, Peter Bundesamt für Umwelt, Bern (Schweiz) Jäger, Elisabeth Institut für Wasserwirtschaft, Hydrologie und konstruktiven Wasserbau, Universität

für Bodenkultur, Wien (Österreich) Krepp, Fridolin Institut für Rechtswissenschaften, Universität für Bodenkultur, Wien (Österreich) Mazzorana, Bruno Abteilung für Wasserschutzbauten, Autonome Provinz Bozen (Italien) Rimböck, Andreas Bayerisches Staatsministerium für Umwelt und Gesundheit, München (Deutschland) Skolaut, Christoph Wildbach- und Lawinenverbauung, Sektion Salzburg (Österreich) Stoffel, Markus Institut für Geowissenschaften, Universität Bern (Schweiz) Suda, Jürgen alpinfru, consulting + engineering gmbh (Österreich) 編 集 Schattauer, Günther Lebensministerium, Wien (Österreich) Gigler, Susanne Lebensministerium, Wien (Österreich) Mayer-Kogelnig, Barbara Lebensministerium, Wien (Österreich) Mrak, Andrea Lebensministerium, Wien (Österreich)

Grundlage dieses Handbuchs ist der Projektbericht „Präventive Strategien für das Wildholzrisiko in Wildbächen“ (Hübl J. et al., 2008) im Rahmen der Studie „Flood-Risk II“ des BMLFUW und BMVIT (Wien).

デザイン・印刷

Kreiner Druck, Villach (Österreich) 引 用

Rudolf-Miklau F., Hübl J., Schattauer G., Rauch H. P., Kogelnig A., Habersack H., Schulev-Steindl E. (2011): Handbuch Wildholz – Praxisleitfaden. Internationale Forschungsgesellschaft Interpraevent, Klagenfurt. 購 入

Internationale Forschungsgesellschaft INTERPRAEVENT c/o Abt. 18 Wasserwirtschaft Amt der Kärntner Landesregierung Flatschacher Strase 70, 9020 Klagenfurt, Österreich ISBN 978-3-901164-13-2 ダウンロード

www.interpraevent.at → Service → Veroffentlichungen Ⓒ Internationale Forschungsgesellschaft INTERPRAEVENT, Klagenfurt (Österreich)

1

流木対策 実務入門

原語「天然木」:

恐らくは流域内に存在する全ての樹木をさしている。しかし、砂防分野において「天然木」という用語はなじみがなく、流れ

の中にある動きや、直接的に被害を生じさせる対象物として表現されることが多い。ここでは、あくまでも砂防分野において対

象とする対象物・事象という視点で、「天然木」という用語を用いながら、「流木」を意識して訳するものとする。

カバー写真:ザルツブルク州マイスホーフェンのライタースバッハに堆積している流木(写真:WLV ザルツブルク)

2

趣 旨

アルプスの河川および渓流における(土砂流や土石流を含む)

洪水のリスクから保護するため、毎年、広範にわたる対策が実

施されています。これは、居住空間、道路交通網、公共施設等

の安全を確保するものです。洪水リスクマネジメントの国際的

重要性の高さは、欧州洪水指針(2007/60/欧州共同体)におい

て採択されたことからも明らかです。 これまでの洪水防止戦略では、流木によるリスクに関しては、

ほとんど注意が払われていませんでした。しかし、オーストリ

アとスイスで発生した 2005 年大水害の調査報告書には、流木

に伴う危険度がわかりやすく表現されました。「流木」につい

て考えてみると、そのリスクマネジメントの概念は、技術面の

みならず、法的かつ組織的な側面などの他分野においても関連

性があることが明らかであり、多くの専門分野がこのテーマに

取り組んでいます。流木リスクマネジメントの領域では非常に

多くの法的な案件も関連しており、公的かつ民間の機関が関与

することになります。流木の原因となる「天然木」は河川近辺

に満ちあふれており、生態学的かつ経済的には「プラス」の機

能を満たしています。河川に堆積した流木を様々な方法で調査

することにより、それぞれの分野における流木に関する課題が

明らかになります。 インタープリベントが、こうした科学的かつ実務的なパンフ

レットを行政関係者とともに、初めて、洪水リスクマネジメン

トの上で非常に重要なテーマを目に見えて包括的に叙述し、提

供できることを私は嬉しく思います。

工学修士 クルト・ローナー (インタープリベント代表)

インタープリベント国際研究会

様々な、同じ現象のために使用されている用語概念「天然木」

「非樹木」「流木」「粗大枯死木」では、流水(渓流、河川)

での樹幹・根茎・枝葉の河道への流入、流下による、種々のプ

ラスかつマイナスな見方への結びつきが表現されています。生

態学の観点からすれば、流木はビオトープたる河川の重要な要

素であり、林業の観点からすれば価値の高い経済的財産ですが、

洪水防止の観点では重大なリスク要因と言えます。

幸いなことに、オーストリアの森林地域は広がりを見せてお

り、河川に沿って、自然状態で流路を回復することが可能です。

しかし同時に、洪水流によって「侵食される可能性がある」、

より多くの河畔林も繁茂します。今日では、少数の専門家のみ

が河川や小川での流木の河道への流入・流下・堆積のプロセス

について詳細を熟知しておりますが、洪水によって流木化した

木の量を誰もが「正確に」数値化できるという状況にはありま

せん。時には、何本かの流木でも橋を閉塞して深刻な氾濫を引

き起こします。流木は、洪水においては全く未知数なのです。

砂防・雪崩防止工事とインタープリベントの代表として、私

は「洪水のリスクⅡ」の枠組みの中で天然資源大学によって作

成された学際的な研究結果を提供できることを嬉しく思いま

す。

工学修士 マリア・パテク

(連邦農林環境水資源管理省 Ⅳ/5 部門代表)

die.wildbach und lawinenverbauung lebensministerium.at 砂防・雪崩防止工事

(連邦農林環境水資源管理省)

3

1. 序 文 4 1.1. 天然木・非樹木・粗大枯死木:同じ意味を持つ三つの概念? 4 1.2. 流木の発生 4 1.3. 流木による被害 5 1.4. 流木マネジメント 5

2. 流木の発生 6

2.1. 生産・流下エリア 6 2.2. 流域における基本的要因 6 2.3. 流木量の数値化 8

3. 流木の流下と堆積 9

3.1. 「流木・漂着ゴミによる流水断面の阻害」のシナリオ 9 3.2. 「流木による背水」のシナリオ 10 3.3. 「流木による氾濫」のシナリオ 10 3.4. 「流木の河川沿いの堆積」のシナリオ 10

4. 被害の影響 11

4.1. 建物への被害 12 4.2. 田畑の被害 12 4.3. 交通道路とインフラ設備への被害 12

5. 流木の水文学的・形態学的・生態学的重要性 13

5.1. 水文学と形態学 13 5.2. 生態学 13

6. 流木のリスクに対する保護対策 15

6.1. 林 業 15 6.2. 土壌生物工学的な対策 15 6.3. 技術的な対策 16 6.4. 地域開発計画 18 6.5. 緊急対策 18 6.6. 河川の維持管理(ケア) 19

7. 法的根拠・組織的環境と管轄 20

7.1. オーストリア 20 7.2. その他諸国の法的根拠(概要):スイス・バイエルン・南チロル 23

8. 流木マネジメントにおける競合 26 9. 総括・展望 27 10. チェックリスト 28 11. 参考文献 31

4 1.序 文

アルプスの渓流では、流域内に存在する樹木を破壊・流出さ

せてしまうような流れが発生するポテンシャルを有している。

とりわけ流木は居住空間に対して、流水断面の阻害や、それに

伴う背水や氾濫、家屋等への直撃という危険性がある。さらに、

農地や堤防もまた、流木が原因となる氾濫によって破壊される

可能性もある。 一方、河川沿いに生育する河畔林や漂着した流木などは、生

態学的に大変重要な存在となっている。それらは多くの動植物

の生育空間を提供し、かつまた、自然のままの流出ダイナミク

ス、河川の形態学的な進化などに影響を及ぼしている。 こうした流木によって様々な現象が生じる現地においては、

総合的なリスクマネジメントが必要とされる。緊急的な対策の

みによって、居住空間や自然環境を保全することは不可能であ

る。このため、地方自治体の首長、河川事業者、林業従事者、

コンサルタントらは、共同で戦略を練り、重大な被害・損害を

防止するために、流木による危険性を迅速に把握・認識しなけ

ればならない。このパンフレットは、「流木」にかかわりのあ

る専門家のためだけではなく、政策立案者や関係住民に対して

も、そのガイダンスと情報を提供するものである。 1.1 天然木・非樹木・粗大枯死木:同じ意味を持つ三つの概念? 「天然木」は「粗大枯死木」(つまり、すでに川に位置して

いる木材)の総称である。「流木」という概念は、一般的に洪

水時に流下した木材で、その発生源はほとんど把握されていな

い。流木の一部は「損傷木材」(時 「々非樹木」とも呼ばれる)

と名付けられており、流下や堆積によってマイナスな影響を与

えている。「緑木」は新たに河道に流入したもので、根茎や枝

葉を伴った樹木の総称であるが、枝葉そのもののような、ごく

小さいものの総称でもある。流水によって流下する木材は、定

義に従えば、土砂移動現象の一部である(「緑玉石」)。 1.2. 流木の発生 洪水は、本川・支川流域の源頭部(高標高地)に、その多種

多様な「原因」がある。すなわち本川・支川源流域における基

盤地質、降雨流出現象(特性)とそれに適合しない植生タイプ

(森林植生、ドワーフ低木)、森林の利用状況とその割合、空

間分布といった要因が複雑に絡み合っている。 流木となる天然木がどの程度蓄積されるかについては、とり

わけ次のパラメータと関連がある。森林の状態(林分の混合、

林分年数、個々の樹木の脆弱度)、森林地域の管理、土壌特性、

地質、風雪の圧力、露出、斜面の勾配、縦横方向の侵食(渓流

ダイナミクス)。

ブラムベルガー・ミュールバッハにおける流木(写真:WLV ザルツブルク)

序 文

5 こうした要因を有する流域から一定の天然木が流木となる

ポテンシャルが発生する可能性が生じる。また、実際に河川や

渓流を流下する、潜在的な利用価値がある木の発生は、ほとん

どの場合は洪水が発生して流下することが前提条件となる。 1.3. 流木による被害

流木が原因で引き起こされる被害は多様である。建物は、例

えば洪水流で流れてきた流木による破壊される危険がある。橋

や他のボトルネック(狭窄部)では、流木・漂着ゴミによる流

水断面が阻害(閉塞)することが考えられる。さらに、流水断

面が十分な流下能力を有しない場合には、背水や氾濫が起こる

可能性がある。このように流水断面が十分でない場合(閉塞す

る可能性が高い場合)は、流木や河床堆積土砂を除去しておく

ことが必要である。 また、流木や土砂が農地に堆積すると、大きな経済的被害に

つながることになる。さらに、河川沿いの堤防や護岸等の対策

工への被害もたびたび発生している。 悪の場合には建物の外にいる人間ばかりでなく、内部にい

る人間にも危険が及ぶのである。 1.4. 流木のマネジメント

流木による被害を 小限に抑えるために講じることが可能

な対策がいくつか存在する。被害につながるプロセス全体を常

に把握しておくべきである。 ・流木となる木は、どこで河道に流入するのか? ・生産・流入を阻止できる可能性はあるのか? ・洪水時に、どの程度の木が流動化して流木になるのか? ・流木はハード対策(例えば、くま手のようなスリット)によ

って捕捉することは可能か? ・対策工の検討は、予測される被害に対して効果的な内容で行

われているか? ・取り除くことは法的に可能か? ・どこが河川・渓岸地域の管理を管轄するのか? ・林業活動を通して、流木となる危険がある天然木を把握する

手法は存在するか? ・自宅を流木による被害から守ることは可能か? ・被害は、どのくらいの頻度で発生するのか? ・誰が被害後の流木の撤去義務を負うのか? ・誰が損害賠償責任を負うのか?

総合的なリスクマネジメントは、これらの問題・課題を考慮

する必要がある。流木被害の支配的な要因に対する、対応シナ

リオを作成し、経済的、生態学的、社会的な被害の抑制を目標

とすることによって、「アクティブ」かつ「パッシブ」な保全

対策が可能となる。 実施可能な措置としては、流木が発生した場合の巡回および

点検、流水環境の改善、地域開発計画的な管理ユーティリティ、

および災害マネジメントを包括しておく必要がある。それらは

予測される流木量の低減、保全対象の流木に対する脆弱性の減

少(補強)を実施するために、リスク循環の様々な点に関与し

ている。重要な要素は、とりわけ流木(天然木)マネジメント

の法的・組織的環境の整備である。

ザルツブルク州マイスホーフェンのライタースバッハに堆積している

流木(写真:WLV ザルツブルク)

シュタイアーマルクのタイギッチュにおける 2005 年洪水時の 流木の撤去(写真:WLV シュタイアーマルク)

自然災害マネジメントにおけるリスク循環(出典:PLANAT スイス)

序 文

6 シュタイアーマルク州ペルネッグ・モッシャーグラーベンにおける流

木アクティブな流入エリア(写真:BOKU)

流木の様々な流入・流下エリア

2. 流木の発生

流木は、様々な異なる要因が複雑に絡み合って発生するもの

である。地質特性は、しばしば降雨流出現象において大小の立

木や土砂が生産される素因であると言える。植生は、地表面近

傍の表層地質への影響が大きい。森林の林分特性は流木の発生、

流木の生産ポテンシャルを増加または減少させる。森林斜面な

どにおける人為的な影響は、流木の生産にかかわっている。

2.1. 流入・流下エリア 流木のリスクを正しく判断するための手法の一つに「アプロ

ーチモデル」がある。このモデルでは、流木の生産・移動領域

が区分されている。すなわち、流木の生産・移動領域は、6 つ

の流入エリアと流下エリアに区分することができる。 ・流下エリア(AB):

流下エリアでは豪雨等の際に洪水停止ライン HQ100、ま

たは HQ150 を形成する地域が包括されている。 ・アクティブな流入エリア(AZ):

このエリアは川/渓流における流木の直接的な流入およ

び堆積によって特徴付けられる。このエリアでは産された

流木は直接、流下エリアに移動する。 ・パッシブな流入エリア(PZ):

このエリアは流木が川/渓流への直接流入する領域にな

い山腹斜面などに位置しており、一般的な木材が分布して

いる。 ・流下エリア(TZ):

このエリアは川/渓流の侵食区間であり、流木を流下さ

せる流下経路となっている。 ・地すべりエリア(RZ):

このエリアは表面浸食や地すべりによって生産された流

木が、森林斜面内に蓄積される領域である。 ・隣接する森林エリア(AWZ):

このエリアは流域内における、流木がアクティブかつパ

ッシブに移動しないエリアであり、一般的な森林区域であ

る。 2.2. 流域における基本的要因 2.2.1. 林分の混合 流木の生産を抑制するためには、可能な限り高い多様性を有

する森林を構築することが必要である。この多様性は、造林上、

とりわけ樹種の混合において重要である。林分の混合は、生態

学的に相互補完する樹種の生育によって形成され、林分の混合

が促進されると森林が安定する傾向がある。

流木の発生

針葉樹 広葉樹

浅 根 深 根

陰樹種 陽樹種

先駆種 極相種

7 2.2.2. 樹種の危険度 すべての樹種は、極度の負担に耐える能力を有している。し

かし、樹種間にはかなりの相違がある。この相違は、林分や単

一樹木における造林によって増強することができる。 2.2.3. 林分年数 老朽化したトウヒ林分は、とりわけ風倒木となる傾向がある。

また、粗大枯死木を生成して害虫や他の大量枯死の影響を受け

やすい傾向にもある。粗大枯死木の生成は、生態学的な見地か

らみるとプラスに評価されるべきであるが、流木となる危険性

という観点からみると、流木や漂着ゴミによる流水断面の阻害

が発生すると、橋、建物、流路など大規模な被害を及ぼす可能

性がある。 2.2.4. 土壌特性と安定性

土壌特性が崩壊や地すべりの重要な素因であることを除け

ば、プラス面として土壌特性は樹木および林分の生育や安定性

にも大きく寄与している。 2.2.5. 風雪の圧力 森林における風雪による影響は、一般的に 62m/s(風力 8)

を超える風速の際に発生する。予想される現象としては、根茎、

株、樹幹等の破損である。風下では、大量の雪が堆積するため、

雪崩や深刻な水分浸透が引き起こされる可能性がある。また、

同様に風上では、風倒木の危険性が増大する。 2.2.6. 露岩(地被)状況

崩壊や地すべりなどの斜面における土砂移動現象は露岩(地

被)状況に依存しており、南と西向きの斜面で発生することが

多い。これは一般的に、斜面が露岩している場合には、風化に

よって基盤地質の強度が低下し、頻繁に融解・凍結現象や「ド

ライ·ウェット·チェンジ」現象が生起するためであり、北また

は東向きの斜面よりも南と西向きの斜面で顕著に発生する傾

向があるためである。 2.2.7. 森林地域の管理 流域の管理においては、森林が崩壊や地すべりの発生ポテン

シャルに及ぼす影響を無視することはできない。例えば、大規

模な森林伐採、老朽化した林分の放置、間伐の未実施、渓流沿

いの斜面における単一植林のような現地の自然植生と異なる

樹種を用いた施業は、しばしば直接的・間接的に崩壊や地すべ

りの発生要因になる。また、渓流沿いの斜面における風倒木を

放置すると、崩壊や地すべり、雪崩が発生した場合に渓流に多

量の流木が流入して、大規模な流水断面の阻害が発生する可能

性がある。さらに、不適切な森林開発(林道・道路工事)など

もある。 2.2.8. 地 質 流木は、ほとんどの場合、崩壊や地すべりの発生や渓岸の侵

食によって渓流に流入している。崩壊や地すべりは渓流への多

量の土砂と流木の流入の原因となり、ボトルネック(狭窄部)

において流水断面の阻害を引き起こす可能性がある。崩壊、地

すべり、土石流といった土砂移動現象がこれにあたる。 崩壊や地すべり、土石流の発生と流下経路は、地質工学的特

性などの素因に深く関係している。基礎地盤の亀裂では地下水

や浸透水による高い間隙水圧により、基盤岩の崩壊現象(原文

では「斜面爆発」)が発生する。この現象が大規模な地すべり

や山体崩壊、そして土石流へとつながっていく。

渓流に堆積した伐採木は流木の発生源である(写真:BOKU) 2.2.9. 渓流の縦横方向の侵食(侵食ダイナミクス) 渓流の横方向の侵食(渓岸侵食)は、渓流の流下方向の侵食

につながると同時に、渓岸斜面の上部における崩壊現象にも影

響を及ぼす。主として縦方向の侵食(河床侵食)は、一般的に

横方向の侵食と同時に発生する。洪水時における流水による侵

食力(流速、流量、流下規模)は、渓流の縦横方向の侵食の原

因にもなっており、 終的には斜面にも影響を及ばし、斜面崩

壊の原因にもつながる。 流量や土砂移動現象の規模などによって、河川/渓流の侵食

の程度(範囲)は変化する。露岩が多い渓流では、ポットホー

ル(洗掘穴)や横方向の亀裂が発生する。砂礫河床においても

同様に、ポットホール(洗掘穴)、渓岸侵食が発生する。長時

間にわたる洪水によって生じる渓岸侵食が急崖(段丘崖、侵食

崖)を形成した場合は斜面崩壊につながる可能性もある。渓流

沿いの立木の「ダボ作用」(?)が十分ではないため、侵食・

崩壊現象とともに流木となって渓流に流入することが多い。 とりわけ、単一種林のトウヒのような浅根性の樹種は、斜面

安定効果を期待することはできない。非常に高い侵食力が生じ

れば、土壌生物工学的な対策や、技術的な対策(侵食防止工)

によってのみ、渓岸を保護することが可能となる。

流木の発生

8 崩壊・地すべりによる流木の生産・流入,2005 年 チロル州セル (写真:WLV チロル)

2.2.10. 斜面勾配 斜面勾配は流木の生産要因の一つであり、斜面の土質特性と

もかかわりがある。斜面勾配の他にも、固結度、粒径、内部摩

擦角、粘着力、応力、間隙水圧が関係している。 2.3. 流木量の数値化

流木の生産ポテンシャルを判断するにあたっては、参考文献

に示した通り、多数の手法が存在する。その大部分は、過去の

実績データの分析に基づいた統計的なパラメータの単純化に

とどまっている。その分析結果によれば、流木量(Vh;実際に

発生する流木の量)と流木の発生ポテンシャル(Vh’;洪水時

に流木化する可能性がある渓流沿いの間伐材)の分析結果は異

なっていた。 このパンフレットでは、渓流における流木の生産ポテンシャ

ルを考察しているが、実際には、森林の状態、渓岸の地被状況

(森林生育状況)、渓岸侵食、斜面勾配、雪崩や風による倒木

などの要因を考慮せずに、川/渓流における流木の生産ポテン

シャルを評価することは困難である。後述の公式(打荻ら,1996、Rickenmann,1997)は迅速に流木の生産ポテンシャルの概算評

価を行うのに適したものであることから、これらの公式を用い

て数値化を試みた。さらに、2 つの代替的なアプローチも提示

する(Rimböck 2001,Hubl et al. 2008)。

2.3.1 Rickenmann による計算 流域面積(AE)に基づく流木の生産ポテンシャル(Vh’)

の計算: Vh’ = 90 × AE

ここで、Vh’:流木の生産ポテンシャル(m3)、AE:流域

面積(km2)である。ただし、AE が> 100km2の場合のみ適用可

能とする。本式は、すべての流木量が把握可能かどうかは不明

であり、さらに単純に Vh’と AE の依存性が減少しているかど

うかについては証明できない。 樹木が生育している川/渓流の長さ(Lw)における流木の生

産ポテンシャル(Vh’)の計算: Vh’ = 40 × (Lw)2

ここで、Vh’:流木の生産ポテンシャル(m3)、Lw:樹木

が生育している川/渓流の長さ(km)である。この公式の適用

範囲は、Lw < 20km であり、20km より長い場合は誤差が大き

くなる。しかし、樹木が生育している川/渓流の長さに基づく

流木の生産ポテンシャルは、単に流域面積に基づくよりも妥当

であると思われる。

2.3.2. 打荻による計算 流域面積(AE)に基づく流木の生産ポテンシャル(Vh’)

の計算: Vh’ = C × AE

ここで、Vh’:流木の生産ポテンシャル(m3)、C:定数で

ある。定数 C は次の値が使用される。 C= 1000: 針葉樹林の上限 C= 100: 広葉樹林の上限 C= 10: 針葉樹および落葉樹林の下限

ただし、AE が> 100km2の場合のみ適用可能とする。 2.3.3. 航空写真に基づく流木の生産ポテンシャルの評価

(LASP) 航空写真を用いて流木の生産ポテンシャルを評価する方法

(LASP;Rimböck 2001)は、流域の実態を反映したポテンシャ

ルの評価を可能にしている。しかし、手間と費用がかかる上に、

主観的な評価は避けられない。LASP は、流域の実態を把握す

ることを基本としており、ポテンシャルが高い範囲、およびそ

の範囲内の造林の状況・程度(各範囲で流木の流入メカニズム

が異なるので個別に)調査される。パイロットプロジェクトの

結果は非常に満足のいくものであり、過去の洪水実績とよく合

致したが、それでもなお、このアプローチは、さらに精度を向

上させなければならない。 2.3.4. 流木の生産ポテンシャルを評価するための支援

Hubl et al.(2008)は、「渓流における流木のリスクに対する

予防戦略」(洪水のリスクⅡ)プロジェクトにおいて、流木の

生産ポテンシャルの評価を支援するデータシートを考案した。

2.1 において定義された流入・流下エリアを対象としているこ

のデータシートは、渓流の巡回中における流木関連データの記

録方法、記録情報に基づくスムーズな評価を行うことが目的と

され、実用的なテストを準備中である。

流木の発生

9 3. 流木の移動と堆積 洪水中は、流域内の支川・本川における流水(流量)によっ

て流木が移動する。この流木の移動は流水(流量)の空間的な

分布(流域分布・水系)、すなわち、それぞれの川/渓流の流

域特性に依存している。流木の移動に関連する大きな課題は、

河道ならびに氾濫地域においていかに流木の移動を防ぐか、ま

たは流木を完全に捕捉することが可能な対策工を設置するこ

とである。 河川の維持や植生の管理は、氾濫地域ではしばしば実施され

ていないため、流量が小さい時期には、河畔植生は流水の影響

を受けることなく生育する。このため、育った河畔植生は、洪

水の際には流木を捕捉することができる。捕捉のメカニズムは、

流下する流木が河畔植生に引っかかりにあり、特に流量(水位)

と流速の影響を受ける。 上流では、流下断面よりも大きい(河幅よりも長い)流木が

堆積し、洪水の際に移動する傾向がある。河床に堆積する岩も

また、流木片などを捕捉し、流木の移動に影響を及ぼす。上流

における流木の も重要な要因は、洪水時における 大水位で

ある。 個々の流木は、 大水位かつ流速が速い時は通常、流れる方

向に向かってまっすぐ流れる。平面的な流速分布をみると、流

木は、流速が大きい流路の中央部を流下する。流木が渓岸に近

づくと、(一般的には河道の曲率と渓岸の突出部によって)水

平回転を起こす可能性がある。 流木は、移動の際は絶えず破砕される。河道に流入する木は

短時間のうちに樹皮が剥がれて、いくつかの(河幅に応じた)

小片に細かくちぎれてしまう。どのくらいの流速で破砕される

かについては、河床勾配、河床の粗度(堆積している河床礫)、

河道形状、流木の樹種や形状、および流路長、または渓岸部の

高さに依存している。さらに、木の破砕強度は河道への流入直

後が も激しく、河道に沿って減少していくことを明記してお

く。 3.1. 「流木・漂着ゴミによる流水断面の阻害」のシナリオ

流木・漂着ゴミによる流水断面の阻害におけるシナリオは、

流水断面が小さくなることによる上流への背水、土砂堆積、そ

れ伴う下流河床の侵食が起こる。 も危険な場合には、堆積土

砂が流木・漂着ゴミによって断面が阻害されている場所まで堆

積し、河床上昇を引き起こしてしまう可能性がある。 太い流木が流下するには、比較的大きな流量が必要となる。

そのため、太い流木・漂着ゴミによる流水断面の危険性は、洪

水ピークで発生する可能性が高い。 洪水時に流木・漂着ゴミによる流水断面が阻害された場合に

は、土石流やフラッシュフラッドが発生する可能性がある。こ

の現象が発生するのは、流木の枝葉によって流出土砂等の目詰

まりが起こって一気に流下するためである。

流木の移動は概ね速度分布に依存している(Mazzorana, 2007)

フォルダーベルク/ゲイル川に堆積している流木 (写真:ケルンテン州)

シュトラニヒのゲイル川沿岸に堆積している流木 (写真:ケルンテン州)

流木の移動と堆積

10 2005 年の洪水時のオーバーエスターライヒ州ラウサバッハおける流

木・漂着ゴミによる流下断面の阻害(写真:ラウサ消防ボランティア)

流木の堆積を伴ったパツナウン峡谷における氾濫 (チロル州ゼー 2005 年)(写真:WLV チロル)

3.2. 「流木による背水」のシナリオ 流木・漂着ゴミによる流水断面の阻害等によって、河道に狭

窄部が生じると、上流の水位は上昇する(背水現象が生じる)。

一般的にこの現象は流速と関連しているため、土砂・流木の堆

積場所の上流で発生する可能性があると予想できる。背水によ

るメリットとして、土砂や流木を堆積させる空間を創出するこ

とがあるが、デメリットとして、背水によって上流で土砂や洪

水がオーバーフローしてしまうことである。 3.3. 「流木による氾濫」のシナリオ

氾濫の際は、地形に応じて様々な災害シナリオが存在する。

これは危険エリア計画でも取り上げられている。農林業の地域

でも、同様に交通道路や他のインフラ設備などが被害を受ける

可能性が考えられる。住宅や商業ビルが氾濫の影響を受けてい

る場合には、とりわけ大きな被害が予想される。通常、事前に

長期的な豪雨の発生が予想される平野部の氾濫とは異なり、渓

流/河川における氾濫は警戒警報が発令されることなく起こ

るため、深刻な被害につながる可能性がある。

3.4. 「流木の河川沿いの堆積」のシナリオ 流木は、洪水後に水位が下がった場合でも島や河床(砂州)

に堆積する。流木は、流量が減少して水深(水深 < 0.5 × d - 1 × d、d=流木の直径)が下がると、渓岸の浅瀬、河幅の拡幅部と

いった河幅の広いエリアに堆積する可能性がある。根茎や枝葉

が残存する流木は、一般的に早く堆積する。 この場合は、洪水後の撤去を適切に実行するか、または、さ

らなる被害を防止するための指令が出されなければならない。

流木の移動と堆積

11 4. 被害の影響 流木によって引き起こされる顕著な被害は、おおむね居住空

間で発生している。そこには高い有価物件ばかりでなく、非貨

幣的価値も集中しているためである。たいていは河道のボトル

ネックが原因だが、流木が建物へ直撃した場合も破壊につなが

る可能性がある。堤防、農林業で使用されている周辺地域で発

生する他の被害(田畑の被害)もまた、個々の企業にとって重

大な経済的結果をもたらす可能性を有する。様々な要因が重な

ると、流木による被害につながっていく。これらの要因は、潜

在的かつ直接的な危険の原因、河道のボトルネック、流下・移

動条件に分けることができる。例えば、潜在的かつ直接的な危

険の原因が存在していても、河道のボトルネック(橋、排水溝

など)が存在しない場合は、必ずしも被害がもたらされるわけ

ではない。 また、特定の地域を対象とした災害ポテンシャルの検討は非

常に重要である。特定地域における災害ポテンシャル調査によ

り、極めて重要な対策措置と、その費用対効果を実証すること

が可能である。

流木による被害をもたらす要因(Hubl et al., 2008)

流木や洪水・浸水による危険(画像:Suda)

2005 年の洪水時のトリサンナにおける建物被害 (写真:WLV チロル) 建物への水の流入は、背水を伴った流木・漂着ゴミによる流水断面の

阻害が原因で発生することがある(写真:WLV チロル)

被害の影響

流木による被害

1. 潜在的な危険の原因

斜面の崩壊・地すべり、渓岸侵食、風倒木 など

2. 直接的な危険の原因

流下する流木、流下方向が定まらない可能性の

ある対象物 など

3.河道のボトルネック

橋、排水溝、その他の設備 など

4.流下・移動

流量、流域(河道)の空間分布 など

断面A

平面図

①静水圧

②動水圧

③浮 力(揚圧力) ④流 木 ⑦流水による侵食

⑤窓・扉・壁の破壊箇所等からの水の浸入 ⑧土砂堆積

⑥漏水による水の浸入 ⑨水圧・土砂堆積圧

12 上段・中段:水路の外側に堆積する流木 (ガダウナーバッハ、クッヘラー・ヴァイセンバッハ)

(写真:WLV ザルツブルク) 下段:流水断面が流木・漂着ゴミによって阻害され、破壊された橋

(写真:BOKU)

4.1. 建物への被害 流木によって引き起こされる建物への被害は、とりわけ流木

の特性(例えば樹種や規模)の衝撃作用によって定まる。しか

し、洪水による二次的な影響が発生する現象、すなわち水圧(静

水圧・動水圧)、浮力、衝撃力による影響もまた大きいと言え

る。窓、ドア、インストールシャフト、下水設備を介して洪水

が建物の中に流入した場合は、かなりの被害が予想される。 4.2. 田畑の被害 農林業に使用される地域は、土砂の堆積、泥やゴミの堆積、

流木の堆積、または渓岸侵食によって災害を被る可能性がある。

洪水による耕地の地盤侵食(土壌流出)が原因で不作が起き、

地域の永続的な被害にもつながる。 4.3. 交通道路とインフラ設備への被害 河道沿いの氾濫地域に構築されたインフラストラクチャーは、

流木(衝撃作用および/または動的な氾濫)によって破損また

は破壊の危険にさらされている。とりわけ電柱と橋脚は、水圧

がかかると曲がる可能性がある。橋は、流木・漂着ゴミによる

流水断面の阻害が発生すると破損または流失してしまう。 エネルギー供給ライン、交通道路、通信回線の被災は、ほと

んどの場合、地域の大きな経済的損失と関連している。洪水に

よる被害が発生した場合の迅速な対応は、飲料水供給施設と下

水処理場の被害が発生した場合と同様に重要である。修復もま

た、対策措置の予防的な策定と同様に重要である。

流木が原因となる可能性のある被害

・建物への被害

・田畑の被害

・交通道路およびインフラ設備への被害

被害の影響

13 5. 流木の水文学的・形態学的・生態学的重要性

植生と流木の流出現象との間には相互関係が存在する。流木

の発生源となる植生地域においては、植生が侵食抵抗力の一部

として流木の生産抑制に影響を及ぼすが、洪水によって植生が

流木となって流下してその抵抗力は減少する。洪水の間は、洪

水中は、流域内の支川・本川における流水(流量)によって流

木が移動する。この流木の移動は流水(流量)の空間的な分布

(流域分布・水系)、すなわち、それぞれの川/渓流の流域特

性に依存している。 5.1. 水文学と形態学

流木は侵食・堆積プロセスだけでなく、開水路水理学的かつ

水路形態学的要素にも影響を与える。その流況との関係を考慮

すると、流域における流木バランスは、とりわけ重要性が高い。

通常、流路の深さと幅は、流木の直径や長さと同程度のサイズ

であるため、流木は渓流の河道(河床)形態に強く影響を受け

る。従って流木は、河床堆積物のバランスに影響を与えること

がある。 流木は、それ自体が一つの構造体であり、さらなる形態学的

構造化が進んでいる。流木の沈積前には小規模な堆積領域、下

流にはその侵食領域が発生する。流木は、流れの分流、ポット

ホール(淵?)、背水領域などの、河床の形成に影響を及ぼす

流れの障害物として水路の分岐点の勾配を高め(島形成)、構

造的多様性の増加が総合的に引き起こされる要因となっている。 流れの障害物を解消する際に、エネルギー損失による流速の

減少が顕著になれば、河道領域における洪水防止に効果がある。

流木の多い河道ではすでに水位が上がっており、しばしば局所

的に堤防や渓岸を乗り越えて氾濫が発生する。また、流木は洪

水波にも影響を与えている可能性がある。 例えば、川の中に集積した流木によって流速が減少すると、

流れが滞留して流速が小さくなるのである。このように、流木

は河道領域における洪水防止にかかわっているが、局所的に洪

水が堤防や渓岸を超えて氾濫する確率は高くなる。 アム・カンプ(ニーダーエスターライヒ州)では 2002 年の洪

水の際に、流木が乱流を引き起こし、洗掘の原因となって流れ

に変化をもたらせ、洪水ピークを低減することができるので、

河川の必要不可欠な構成要素であると言える。 5.2. 生態学

蓄積された流木は有機物質として水生生物の栄養源となり、

河道における生態系が栄養不足になっている場合には生育空間

の拡大に関与し、生物の生息場所の生産性を向上させている。

ニーダーエスターライヒ州カンプの川中島にある流木の集積 (写真:BOKU) プール(ポットホール、水盆)の分類(Robinson & Betscha, 1990)

Ablenkungs Pool:転換プール Ufer:岸 Pool:プール Absturz Pool:転落プール Totholz, Fels:粗大枯死木、岩 Unterstörungs Pool:伏流プール Totholz,:粗大枯死 Stau Pool:せき止めプール Damm:ダム

流木の水文学的・形態学的・生態学的重要性

14 杭で固定された根茎は構造促進措置として用いられている (Lebensministerium und ÖWAV, 2006) 構造的な渓流 シュタイアーマルク州ゼーヴィヒタルバッハ (写真:WLV シュタイアーマルク)

すでに述べたとおり、河道内および渓岸/河川沿いにおける

流木等の堆積物は、流れの状況やその特性に影響を及ぼす要素

であると同時に、それ自体を形作るものでもある。それらは状

況に応じて様々な役目を果たしており、例えば、魚類の生態系

にとって重要となっている。つまり、構造結合(?)のカワマ

ス用の生育環境や、幼魚・稚魚の洪水時の退避空間として活用

されているのである。それらは河道以上に、鳥、昆虫、その他

の生物のための生育環境、待避空間、栄養源ともなっている。

と同時に、流木は陸生生物にとっても重要な生息環境を提供し

ている。さらに、魚、昆虫、鳥、微生物のための水温上昇抑制

(シェーディング)、生息環境、栄養源にも影響を及ぼしてい

る。 終的に河川の自浄能力をも形成する生物学的な影響は、河

床堆積物を通過する流水に強く依存している。従って、河床堆

積土砂がバランスのとれた状態になるように、定期的に河床堆

積土砂が移動するためには洪水の発生は必要な条件である。 水流の転換による自浄能力の増大 (Hubl et al., 2008)

沿岸の光景

断面図

河川における流木と植生の重要性

・河川水理学:

流れ抵抗と水深が増加し、流速が減少

する。

・土砂の均衡:

有機物の堆積と入水(例:葉)

・河川形態学:

移動、侵食・堆積プロセス;

安定化とダイナミクス

・生態学:

構造化(水流保護領域)

流木の水文学的・形態学的・生態学的重要性

15 6. 流木のリスクに対する保護対策

流木のリスクを軽減するために、広範囲にわたる保護対策が実

施されている。定期的な河川の巡回は、流木の発生原因や、効果

的な保護対策計画の立案には基本的な要件である。様々な分野の

保護対策を効率的かつ経済的に組み合わせる必要がある。対策工

の整備が適切に実施するための保護対策計画の立案に際しては、

すでに河床等に存在する流木によって洪水への影響や氾濫リス

クが増加していることを考慮すべきである。これは、被災後に改

築するよりも、設計時に計画する方がはるかに経済的である。 林業による保護林の管理は、谷部から森林限界の斜面にまで至

る広範囲な保護対策である。土壌生物工学的な護岸工事と河川管

理は、流木の発生抑制(バッキング)にも貢献している。一時的

な土壌生物工学的な保護対策は、往々にしてある特定区域の保護

にも効果的である。不安定土壌の改良は、ほぼ全流域において適

用することができる。玉石フィルターブロッキングの領域におけ

る捕捉ネット(採集網)と流木スリット(くま手)による流木の

捕捉(バッキング)は、流木の氾濫防止に対して効果的かつ効率

的である。流向制御(流れのコントロール)は、流木が安全に流

下するように、流水の勢いが弱い地域において行われている。洪

水後は、流木の片づけと搬出が行われなければならない。 6.1. 林 業

「よく保存された保護林は、自然災害を防止する重要な要素で

ある(例えば、渓岸の安定化、流木の発生抑制)。保護林と渓岸

の管理は継続的な任務だ。」(Stadler, 2008)。 渓岸斜面の直近では、多種多様かつ集中的な森林管理が必要で

ある。例えば若木の群落は、一方では高い吸水ポンプ作用を達成

して土壌の侵食防止、他方では流木発生のリスク、流木・漂着ゴ

ミによる流水断面の阻害ポテンシャルのリスクを低く抑えるこ

とに貢献している。渓流における流水による渓岸侵食が発生し、

それによって若木が河川に流入する場合には、大木よりも災害ポ

テンシャルは大幅に減少する。 主要な林業施策とは、安定した混交林群落にある不安定な立木

を伐採・搬出することである。一つ事例としては、段階的な低木

林管理が挙げられる。その後、土壌中に残っている根茎や切り株、

部分的には蘖(ひこばえ)からも再生が行われる(萌芽更新)。

不断の保護遮蔽、世代の異なる樹木、単一樹木施業、二次元的ア

プローチの放棄といった永続的な森林の管理保全は、長期的には

高の対策となる。 なぜなら、樹木は常に、すべての地層(下層、中間層、上層)

から生育するためである。一本の樹木が上層から発生すると、目

下、多くの光を得ている若木が、その後を追って生育する可能性

がある。従って、保護林の長期的な機能(水のバランス、土壌改

良および安定化)が適切に維持される。

土壌生物工学的保護対策の実施状況(写真:BOKU) 6.1.1. 低木林 根茎と切り株に栄養素が十分に蓄えられている場合は、切断

措置は植生の休眠期間中に実行される。 その切り株は、何度かの低木森林の輪伐後に活力が減退して

腐敗するため、それらの一部は新しい草木を導入して置き換え

る必要がある。これは、 適な場合には自然の再生によるか、

または適切な種の植林によって行うことができる。 6.1.2. 雑木林の管理保全

雑木林においては、実生(みしょう)または、とりわけ活力

があり、よく形成された萌芽更新層が上層を形成する。このア

ンブレラツリー(保存木)は、天然の実生、または幼樹のため

の母樹として使用することができる。雑木林の管理は、低木林

から多段式で構成された混交林へと移行する手段としては目

的にかなっているのかもしれない。 6.1.3. 多段式の閉鎖混交林分

流域に属し、水のバランスに影響を与える森林地域は、構造

的で不均一な閉鎖された混交林に転換する必要がある。そのよ

うな林分転換の主要な目的は、針葉樹の単一栽培(主にトウヒ)

を場所に応じた樹種に取って代わらせること、ならびに全森林

面積における広葉樹の割合を増加させることにある。 6.2. 土壌生物工学的措置

植生は、様々な作用によって土壌のせん断強度を増大させる。

例えば、機械的安定性、植物根の補強作用などであり、他方で

は、毛細管の凝集度を高め、脱水により生じる間隙水圧の減少

などである。また、根茎の老廃物による集合体の形成や土壌活

動は、土壌層の安定化と固体化に関連している。 土壌生物工学的安全工法および方法は、とりわけ、侵食され

た渓岸を安定化するために有用である。それらは、激しい流水

による侵食作用が生じる範囲において流水が影響しないため

の有効であり、侵食された範囲に植生を侵入させるための前提

条件にもなっている。同様に、予防的保護措置の代わりに災害

発生後の復旧にも適用することができる。

流木のリスクに対する保護対策

16 流下断面内の流木や植生によって流速の低下や流下断面の

阻害が生じた場合には、管理措置を講じなければならない。管

理措置は洪水による被害後の他、雪害や風倒木の発生後、また

はその他の被害発生後にも必要になることがある。河道への流

出または斜面の安定性に影響が古い樹木は、景観を創出する要

素として残すべきである。それらは、水生生物にとって重要な

倒木と粗大枯死木である。河床からの倒木と流木の撤去は、流

下断面の阻害が生じることに起因する洪水の防止や、流下能力

の維持するために必要な場合のみに実施するのがよい。

ヤナギの粗朶束:取り付けたところと完了後(写真:BOKU)

6.3. 技術的な対策

流木に起因した大規模な災害は、流水断面の阻害によってボ

トルネック、橋、その他の建造物で引き起こされている。こう

した現象に対する簡単な対策としては、流水断面の阻害による

危険が少なくなるような建造物を新たに建造するか、または既

存の建造物を、そうした事態に適応させることである。 6.3.1. 流木の安全な流下のための対策

規模の大きな流木の一部または流木全体によって、橋、ボト

ルネックにおける流水断面が阻害される可能性がある。とりわ

け、居住地域に注意を払うことが重要だ。洪水が氾濫すると、

今度は氾濫範囲へと流木が流下して行く。突然の決壊の場合に

は段波(または、急勾配流域において土砂と流木が混ざり合っ

た土石流)が発生し、下流で大きな被害が発生する可能性があ

る。

渓流流域における統合リスクマネジメントの措置領域(Hubl et al., 2008)

アクティブかつパッシブな流入エリアにおける

土壌生物工学的措置

事象後の潜在的な流木の片づけ

渓岸・河川管理

林業による保護林の管理

流木の発生抑制(バッキング)のための

土壌生物工学的・護岸技術的措置

流水の勢いが弱い地域における流向制御

および安全な流下のための措置

流水の勢いが弱い箇所

(ボトルネック)

堆積地域

沖積扇状地

峡谷地域

集積地域

斜面・渓岸に侵食の危険がある場合の

土壌生物工学的措置

・渓岸や斜面を守る粗朶束(そだたば)の構築

・萌芽更新の可能性のある、成熟した広葉樹の伐採

・根茎の緊迫力が大きい樹木の植栽

・光の入射角を大きくすることによる

グランドカバー芝土の促進

流木のリスクに対する保護対策

17 こうした現象に対しては、橋のところで大きな流水断面を確

保するか、または、橋の流水断面において大きめの余裕高を確

保することが望ましい。特に流れの中央部に、より高い余裕高

が確保されるアーチ状の橋台などは有利な構造である。昇開橋

や跳開橋もまた、流木・漂着ゴミによる流水断面の阻害リスク

を低減することができる。

橋というものは、そもそも流水断面内に橋脚を配置しないこ

とが望ましいため、HQ100(?)の際は少なくとも 1m の余裕

高が設定され、橋台の 大値は流水断面の 20%に制限されてい

る。

6.3.2. 流木を捕捉(バッキング)するための対策 流木は、スリット(くま手)、捕捉ネット(ロープネットブ

ロッキング)、古典的な土石流捕捉工との組み合わせによって

流木を捕捉することができる。 流木による被害に対する技術的な対策の概要(Hubl et al.,2008 改訂)

スリット(くま手)

様々な研究および実績に基づいて、V字型スリット(くま手)

が非常に効果的であることが判明した。専門家は、これを設置

することによって、流水断面の阻害がそれほど問題にならず、

流木の捕捉による湛水面積が拡大して流木のじゅうたん(土砂

の移動は許容される)が形成されるといった非常に多彩な利点

を期待している。実際の経験から、流木の流下中かつ流下後に

重機が移動できるのは、スリット(くま手)の捕捉機能上、大

きな重要性があることが指摘されている。

ネット

その設置作業の容易さ、ならびに捕捉後などの修理にかかる

コストが低いことなどから、ネットやロープによる捕捉工(ブ

ロッキング)は、アクセスの悪い渓流においても流木の捕捉(バ

ッキング)に大いに適している。流木ネットは渓岸(ことに、

露岩)に横方向に固定されているため、河床までは届かない。

バイエルン州シュヴァンガウ、ペラト峡谷の流木スリット(くま手) (写真:ケンプテン水道局)

技術的な対策

安全な流下 捕捉(バッキング)

恒久対策 緊急対策 流木の捕捉 流木と土砂の捕捉

・水路の断面の拡大 ・ショベル・カーの投入 ・スリット(くま手) ・角材ブロッキング

・フリーボード ・昇開橋 ・ネット ・分離工

・流木の縦配置 ・選択的な捕捉 ・土砂捕捉用のスリット

(流下方向への配置) (バッキング) (くま手)構造物

・空間的に分離した

捕捉(バッキング) ・バッフル

流木・漂着ゴミによる流水断面の阻害の

危険がある場合の対策方針

流路の洪水時の流下幅(水面幅)は、予想さ

れる流木の長さの約 2 倍程度になっている必

要がある。

橋の桁下高は、予想される根茎の標準的な寸

法の少なくとも 1.7 倍でなければならない。

流木のリスクに対する保護対策

18 クロイツグラーベンにおける流木の捕捉(ブロッキング) (写真:WLV ザルツブルク)

流木を捕捉(バッキング)するための様々なスリット(くま手) ネットの形式(Bergmeister et al., 2009;画像:Suda)

その他の技術的な解決策

流木を捕捉するための、その他の対策工としては、選択的な

流木捕捉(バッキング)、流木と土石流のバッキングの空間的

な分離、フィルターによるブロッキング、土石流捕捉用のスリ

ット(くま手)構造物といったものがある。

建物への構造的措置

建物の建築計画では、すでに建物自体の保護(例えば、氾濫

による二次災害に対して)に重点が置かれている。建造上の多

彩なオプションが存在しており、危険領域内にある建物には、

事後対策を実施することも可能だ。同様に、可動式保護装置は

オプションの一つであり、とりわけ流木による衝撃や氾濫防止

効果にも留意されている。

6.4. 地域開発計画 危険区域の解消は、居住空間を持続的に発展させるための重

要な対策である。その際には、自然災害マネジメントの機関は

大きな重要性を持つ。同機関では、危険が存在する領域に関す

る情報を提供する地域関連所見(危険エリア計画)を策定する

からである。そこでは、地方自治体が非常に重要な役割を果た

す。それらの管轄領域においてゾーニングが決定されるからで

ある。積極的な開発戦略によって、流木による被害のリスクを

事前に、確実に減らすことができる。

6.5. 緊急対策 洪水の際に必要な緊急対策は、事前に把握されているトラブ

ルスポットを常に監視し、流木がある場合にショベル・カーを

投入して除去することである。これにより、流し寄せる流木の

縦方向への配置(流下方向に配置)、すでに発生している流水

断面の阻害の解消、橋の桁下の流木の安全な流下、河道からの

流木の除去が可能である。 また、すでに切り倒されている流木や、その他の伐採くずは、

河道から早急に除去されなければならない。流木を完全に除去

することができない場合は、流水断面の阻害が起きない程度の

大きさに粉砕する必要がある。流水断面の小さな排水溝や、そ

の他の設備は、とりわけ危険である。それらは、すでに小枝や

枝葉によってふさがれている可能性がある。それによって水路

が氾濫して流下方向が変化し、不安定な渓岸部や斜面エリアに

流木が流下してしまうことも考えられる。結果的に、渓岸や斜

面の安定性が低下するか、または崩壊などの現象さえ引き起こ

されるかもしれない。 流水断面の阻害の原因となる可能性のあるゴミの堆積、サイ

レージ俵(?)、その他の河道から氾濫して流下方向が広がる

可能性のある物体は、渓流/河川巡回の枠組みにおいて事前に

特定・排除される必要がある。突然の流木の発生により、警戒・

避難時間がほとんどない場合は、被害を 小限に抑える緊急対

策は非常に限られたものになってしまう。渓流/河川の巡回を

通して、潜在的な危険を適時に認識することによって、予防対

策の策定や被害のポテンシャルの低減が可能となる。

流木のリスクに対する保護対策

19 6.6. 河川の維持管理(ケア)

河川の維持管理は、渓岸や河畔の立木が、その機能を継続的

に果たすことができるようにするために不可欠なものである。

その管理対策は、河川管理を目的として掲げている。その場合

には、種類が豊富で不均一かつ多層の植生は発生するが、単一

の植生は生じないことに注意すべきである。河道周辺の植生は

氾濫の可能性があって、なおかつ弾性の状態が継続していなけ

ればならない。それと同時に、渓岸の侵食による流木の発生と、

それによる流水断面の阻害につながるような渓岸や河畔の立

木への被害、流速と流量の減勢を図る必要がある。河道に流入

した立木や樹幹部分のような潜在的な流木は、片づけと撤去が

必要である。 河川の保守は、一定の流水断面の保持、固定された渓岸とそ

の安定化、流れの安定化や洪水防止に役立つ建造物と施設(土

壌生物工学的な建造タイプ)の保守が前提となっている。 河川の維持管理としては、渓岸/河畔植生(渓岸/河畔の立

木は、平均で約 4cm 以上の樹幹を株に備えている)の定期的な

管理、立木からの落葉による河床の清掃、渓岸/河畔の草刈り

(渓岸固定のための芝土の保持)、ゴミや土砂の除去、流木や

漂流・漂着ゴミの除去、過去の洪水によって堆積して今後流下

する可能性のある流木の片づけといったものである。 渓流を持続的に保護するための前提条件は、規則的かつ広範

囲にわたる渓流の巡回である。

アイゼンエルツ市トゥルバッハにおけるショベル・カーの投入 (写真:WLV、シュタイアーマルク)

サルティナにおける昇開橋の構築スキーマ ブリグ=グリス スイス (Bundesamt für Wasser und Geologie, 2004)

チロリアンモデルによる渓流の監視とケア チロル地方では年次渓流巡回の際に、地方自治体が国家森林サ

ービス(LFD)と砂防・雪崩防止工事(WLV)の出先機関から支

援を受けている。 その巡回は、TIRIS(チロル州の地理情報システム)において定

められた巡回ルートに基づき、通常は森林監視員(地方自治体組

織)によって実施される。 すべての巡回内容について書かれた「渓流巡回記録」が製作さ

れ、地方行政当局や砂防・雪崩防止工事に提出されている。その

内容は独自のデータベースに収められている。これには、より専

門的なコントロールの計画(渓流監視員)、保護施設の検査(砂

防・雪崩防止工事の委託を受けた専門家)ならびに必要な保守・

修復措置のための根拠が示されている。 渓流巡回の結果から、砂防・雪崩防止工事のケアサービスにタ

ーゲットを絞った計画が可能となる。主としてオーストリア標準

機関規則 24803 の規定を実施する、このモデルの成功は、東チロ

ル地方のパイロットプロジェクトの枠組みにおいて実証されるこ

とが可能となった。

Saltina(サルティナ)

1.鋼 橋(152t) 8. 水圧ブレーキとバックストップ

2.鋼製水槽(35t、容量 50m2) 9. 同期軸

3.スパンシャフト 10.プーリー

4.円 柱 11.吸い込み管

5.滑 車(80/90/100cm) 12.下端またはリフティングビーム

6.ワイヤロープ(32mm) 13.上方へ引き上げられた橋

7.ダンパー

流木のリスクに対する保護対策

20 7. 法的根拠・組織的環境と管轄 この章では、流木マネジメントの法的根拠・組織的環境の概

要について説明する。詳細は、民法的・行政法的な根拠、それ

によって決定された任務、管轄ならびに流木マネジメントの組

織的・管理技術的実施と関連したものである。 この概要のモデルとして使用されているのはオーストリア

における状況であり、詳細に表現されたものとなっている。そ

れと比較して、バイエルン、スイス、南チロルにおける流木マ

ネジメントの法的根拠・組織的環境に関する概要も述べられる。

7.1. オーストリア 7.1.1. 憲法的環境・実体法的規定:概要 一般的な見解によると、オーストリアにおける自然災害に対

する保護(流木の危険に対する保護も含む)は国家の任務であ

り、公共の安全と公的年金給付(公共サービス)の一部とみな

されている。連邦憲法(B-VG)において定義されている責務

の構成要件に従えば、連邦議会による自然災害予防、国による

災害防止に重点が置かれている。流木マネジメントの枠組みに

おける連邦政府の 重要責務は、水利権、山林法、道路交通法

の領域内にある。国家の も重要な自然災害関連の責務には、

国土整備、土木・建築、災害救援(災害マネジメント)、消防

隊が含まれている。連邦憲法の中で明確にうたわれている、独

自の作用領域における地方自治体の任務は、とりわけ地域の交

通警察、消防署、土木監督局、国土整備である。 流木予防のための標準的・実体法的な条項は、とりわけ以下

において見られる。

・森林法 ・砂防工事法 ・国家の森林施業法 ・ならびに水利権法におけるもの

7.1.2. 森林法・砂防工事法 森林法では、第 7 章(第 98~103 条)において「渓流と雪崩

に対する保護」に関する定めが含まれており、第 98 条第 2 項

では、砂防工事法の条項が 1884 年から引き続き適用できる、

と宣言されている。この条項は、法的な流木予防の核心領域と

してとらえることが可能であり、主として以下のような規定が

含まれている:

森林法の第 99 条第 1 項では、「渓流」は「永続的または一

時的に流れている河川であり、急激に発生し、短時間のみ継続

する増水によって、その流域からの固形物は(森林法第 99 条

第 3 項:「…ここそこの支流から排水された降水域地域ならび

に渓流の堆積領域…または危険性を帯びた河川領域から離れ、

これが移動して河道内や外側に堆積するか、他の河川に通じる」

と定義されている。 森林法の第 100 条では、渓流の危険から防御するために不可

欠である限りは、渓流流域の森林処置に関する一定の措置を講

じることが当局に義務付けられている。例えば、適切な森林繁

殖材料の使用、森林の競争エリアや砂防ダムの作業フィールド

において伐採するための許可義務、保護林特性の決定、差し迫

った崩壊・地すべりの危険を避けるために、地域によって伐採

を制限する禁伐活動・指令といったものである。渓流の流域に

おいて状態が悪化する恐れのある場合、または、そのような事

態がすでに進行中である場合は、当局は森林法の第 101 条に従

って、防止措置が不可欠である旨を決定しなければならない。

森林法の第 101 条第 2 項に従った適切な措置は、例えば、侵食

防止対策、新たな植林、禁伐活動、倒木輸送の制限や混牧林の

制限に対する準備対策が挙げられるであろう。それらは森林法

の第 101 条第 3 項に従って、山林法と水利権の条項(例えば、

洪水氾濫の防御に関連した水利権法の第 41~49 条)を根拠と

して講じられる。そのような防止措置の決定や適用から除外さ

れているのは、砂防工事法の意味合いにおいて「作業フィール

ド」とみなされている地域である。そのような作業フィールド

は、砂防工事法の第 1 条で「可能な限り、特定の山水…を安全

に誘導するための準備対策」に関係する地域として定義されて

いる。森林法の第 101 条第 4 項は、渓流の流域(発生しうる作

業フィールドを含む)内における倒木輸送の防止措置としての、

倒木輸送の許可義務を意図したものである。

森林法の第 101 条第 6 項に従えば、「地域内に渓流のある各

地方自治体は、少なくとも年に一度かつ可能な限り雪溶け後の

春に、支流を含む、その地域内に伸びる流路線を巡回させ、な

おかつ、これを少なくとも 2 週間前に当局に連絡することを義

務付けられている」。さらに、「とりわけ流木や、流水断面を

阻害する他の物体の存在といったような、事前に見出される障

害物の排除は、…直ちに指示すること…。地方自治体は当局に

対して、巡回の結果、発生しうる指示、その成果について報告

しなければならない。」森林法の第 101 条第 8 項では、施行規

則に関する権限は連邦議会に与えられている。それに従った

「渓流清掃の実行」の規定に該当するのは、巡回の際に発見し

た障害物に関するもの、ならびに「その他の障害の排除かつ、

実績レベルの洪水の検討による渓岸、橋、対策工、規制装置へ

の被害・破損の阻止」に関連したものである。(渓流巡回と渓

流清掃の詳細については 7.1.4 を参照)。 森林法の第 99~101 条の条項に基づく手続の実施を担当する

のは、(渓流巡回および渓流清掃との関連では地方自治体が管

轄であることを除けば)まず第一に、地方行政当局である。砂

防工事法に従った措置である限りは、水道当局(また、通常の

場合は再度、 初に地方行政当局に回される。水利権法の第 98条を参照)が管轄する。地方行政当局や知事は、森林法の第 172条第 6 項に従って、法的状態が成立する法的委託を行う権限を

与えられている。この条項は、とりわけ(地方自治体による渓

流巡回とは無関係の)林業当局が、森林処置の過程で発生した、

山林法的な定めに違反する状態を認識している場合について

のものであり、渓流清掃の行政委託についてもカバーされてい

る。

7.1.3. 水利権法 水利権の目的には、水に関連して発生する危険への準備と防

御も含まれている。それに応じて、水利権法の第 4 章では「河

川の防御と管理」の条項が見られる:

水利権法の第 38 条第 1 項では、とりわけ「橋、小橋、渓岸

の建造物、河川の洪水断面内にある他の施設の建設と改築」に

関する水利権許可の申請について述べられている。水利権法の

第 38 条第 3 項に従えば、30 年間にわたって洪水で浸水してい

る地域は、洪水断面内地域と考えられている。洪水断面内地域

の境界は、水利権法における適切な方法で可視化される。行政

裁判所の裁判例に従えば、人によって設計され、構築される施

設は、水利権法第 38 条の意味においてすべて適用される。こ

こには、堤防と流木の堆積も含まれる(行政裁判所 1998 年 2月 26 日 97/07/0189)。水利権法第 38 条にある許可の構成要

件は、さらなる洪水の危険および洪水による被害の防止のため

に適用される(行政裁判所 1998 年 7 月 2 日 98/070042)。

一つの「構築物」、例えば渓流の洪水断面内における流木の堆

積もまた、水利権法の第 38 条第 1 項に反して許可なしに生じ

ている場合は、(地方行政)当局が法的な状態(「撤去」)を

成立させるために水上警察への委託を行う権限が与えられて

いる水利権法第 38 条の意味合いにおいて、「勝手な変更」と

みなされる。 水利権法の第 39 条第 1 項に従えば、ある土地の所有者は「蓄

積するか、または先へと超えて流れていく河川の自然な流出を、

下流の土地所有者にとってデメリットとなるような変更を勝

法的根拠・組織的環境と管轄

21 手に加えてはならない」。第 2 項では、下流の土地所有者には

「そのような河川の自然な流下を、上流の土地所有者にとって

デメリットとなるように妨げる」権限は与えられていない、と

いう内容が追加されている。従って、自然に発生する障害(例

えば、流木による自然発生的な流水断面の阻害)を排除するこ

とは土地所有者の義務ではない。私法の枠組みにおいても、そ

のような義務は存在しない( 高裁判所 1964 年 2 月 25 日 8 Ob 37/64 7.1.5 をも参照)。一方で、その流下を、他の見知ら

ぬ不動産にとってデメリットとなるように変えてしまう、自然

に存在しない障害は、水利権法の第 39 条に該当する。倒木輸

送、蓄積、伐採、またはその他に流木が原因となった障害の排

除は、これらの障害が排水口を別のデメリットのあるものに変

更する限りにおいて、地方行政当局によって命令することが可

能である。裁判例によれば、この条項は、林業用土地の適正な

整備にも関係している(行政裁判所 2004 年 12 月 16 日

2004/07/0065)。従って、それらの条項が森林用土地の適正な

整備によって「必然的に発生し、不可欠な付随現象として、こ

のような整備と結びつき、と同時に、それらがことさら妨げら

れることなく不可避的に発生する場合は」、この条項に基づい

て流木の流下状態の変化が妨げられる可能性はない(行政裁判

所 1988 年 6 月 14 日 88/07/0022)。

水利権法の第 41 条では、撤去作業を含む、保護・水力施設

のための許可義務が意図されている。この場合、沿岸の所有者

が河道(渓床)や渓岸部において一定程度の小規模な撤去作業

を行うことは、水利権法の第 41 条第 3 項に従えば許可を必要

とされていない。ただし、そういった作業が公共の利益または

第三者の権利にとって不利益である場合には、当局の(行政)

委託に基づいて、所有者の負担で手が加えられるか、または許

可を取り消されることになる。大規模な撤去作業は、公共の利

益が侵害されないよう、かつ他者の権利が損なわれることのな

いように実行されなければならない(水利権法第 41 条第 4 項)。

水上警察への委託は、河川および氾濫地域の保全を規定する

水利権法の第 47 条を根拠として行うこともできる。その場合、

水道当局は氾濫を防止するために、渓岸部の土地所有者や、自

らの森林が流域内に広く分布している森林所有者にも以下の

ような委託を行う可能性がある:

・ 渓岸、洪水の被害をたびたび受けている範囲にある、単一

樹木、立木、灌木林の土地の評価・維持、および既存の植

物の適切な管理

・ 渓岸の適切な植林(施業)と植物の管理

・ 特別な専門知識を必要とせず、相当な出費が見込まれるこ

とのない限りにおいての、小規模な渓岸崩壊やひび割れの

対策、および、排水路等の小水路において、堆積すること

による流水断面を阻害する可能性のある切り株、樹木、枝

葉、土砂等の撤去 渓流清掃に関連した水利権法の第 47 条では、(森林法およ

び国家森林法の条項に比べると)限られた範囲の沿岸部土地所

有者(他の全ての利用権利者ではない)に対して、流木撤去を

行政に委託する条件が一つだけ与えられている。水利権法の第

138 条および水利権法の第 48 条第 1 項でも、渓流流域の保守を

水上警察に委託するための条件が与えられている。その条項で

は、しばしば沿岸地域で氾濫が発生する河川の場合には、沿岸

部および洪水氾濫地域(第 38 条第 3 項)内において、多大な

氾濫被害をもたらし、水質に大きな影響を及ぼす可能性のある

堆積物を除去するように規定されている。木材とその輸送、伐

採、蓄積等が原因で流木が洪水氾濫地域に堆積した場合、その

量によっては災害(例えば、流水断面が阻害されることによる

氾濫)を引き起こす可能性がある。これは水利権法の第 48 条

第 1 項の意味における堆積の状況と同じである。この水利権法

の第 48 条第 1 項に対する違反は、水利権法の第 138 条の意味

における「勝手な変更」と同意である。地方行政当局は堆積物

の撤去にあたって、木材の輸送等の事業責任者に委託しなけれ

ばならない。 水利権法の施行は、連邦政府当局(水利権法の第 98 条に従

えば、まず第一には基本的に地方行政当局)が間接的に管轄し

ている。また地方行政当局は通常、上述のような水上警察への

委託義務も負っている。地方自治体では、そのような委託は行

っていないため、森林法の第 101 条第 6 項に従った渓流清掃の

行政委託についても、水利権法の条項に依存することはできな

い。 7.1.4. 渓流巡回と渓流清掃

どの河川を巡回するのか? 地方自治体が管轄する地域に位置する、支流域を含んだすべ

ての河川(河道)や渓流を巡回する。

誰が巡回するのか?

渓流巡回、障害物の排除の指示は、国家主権に基づく任務と

して、地方自治体独自の作用領域の案件である。地方自治体内

の管轄は国家の地方自治体規則に従っており、一般的には、ま

ず第一に市長が管轄する。従って渓流の巡回は、市長または市

長から委託された一つ以上の補助機関(例えば、地方自治体職

員、委託会社)の指揮の下で実施される。補助機関の業務活動

は、管轄当局(通常は市長)に帰属する。

巡回はいつ行われるのか? 巡回は少なくとも年に一度、可能な限り雪解け後の春に実施

すべきである。これは、地方行政当局に対して少なくとも 2 週

間前に連絡されなければならない。地方自治体では、その実施

に伴う指示を調整する必要もある。つまり渓流は、重大な領域

において、再度巡回を実施しなければならない。地方自治体用

の森林法に従えば、渓流と、それ以外(例えば、激しい暴風雨

または、その他の自然災害発生後)の場所を巡回する義務も生

じる。当然、その規定には隣接する渓岸部も入っているが、渓

流・渓岸以外の範囲は除外されている。渓流に関連する森林法

の条項は、森林特性のない地域にも適用される。これは、流木

と同じような他の流入物質(例えば、河床の岩屑)を考慮して

も非常に意味がある。

誰が撤去義務を負うのか?

森林法の第 101 条第 6 項では、地方自治体は事前に発見され

た障害物の排除を「指示」しなければならず、それによって、

基本的には渓流清掃義務または地方自治体の障害物を排除す

る義務を自ら負うことが規定されている。森林法または、森林

所有者、伐採・倒木輸送業者などのような、その他の人々のた

めの国家森林法の条項によって適切な撤去・排除義務が課され

る場合は、地方自治体の義務はその限りにおいて弱いものとな

ってしまい、地方自治体はこの定めを根拠として、義務負い人

(法的に言えば「第三者」)に対して撤去・排除の委託を決定

通知(場合によっては委託通知も)とともに与えることが可能

である。

地方自治体が発令することが可能な撤去通知の森林法的な

根拠は、とりわけ倒木輸送または輸送施設と関連する条項であ

る。ある倒木輸送業者が、倒木や流木の輸送中または輸送施設

の建設中に、渓流における障害物(流木)の原因となった場合

は、その業者または森林所有者に対して、決定通知と共に撤去

を委託することができる(森林法第 58 条第 4 項および第 5 項、

第 60 条第 3 項)。これはフレキシブルに発令することができ

る。一般的に国家森林法に従えば、定められた(準備)義務を

怠るか、または自らの行為によって「原因者」として、法律に

おいて言い換えられた障害物(流木堆積、流水断面の遮断)を

引き起こした者は、撤去についても決定通知とともに委託され

る可能性がある。当然のことながら、個々の場合においては、

それぞれの場合に関連する国家森林法の特定の条項を援用し

法的根拠・組織的環境と管轄

22 なければならない。

森林法や国家森林法においては、撤去義務の「転嫁」を可能

にする第三者の法的義務は見受けられない。森林法の第 101 条

第 6 項で意図されている地方自治体の撤去・排除義務は残され

ている。従って地方自治体は、彼らが単独で自然現象(雪崩、

嵐、落石など)に原因を帰する必要がある場合は、一般的には、

とりわけ撤去を自らに義務付けている。

地方自治体に責任はあるのか? 地方自治体に法的に委ねられる流木の予防対策との関連に

おいて、官職責任法(AHG)に従った地方自治体の責任問題が

発生する可能性がある。従って、国家行政機関による被害者に

対する損害で、不法行為に起因する法執行の結果、有罪が宣告

されたという事実は、官職責任法に従ったクレームのための前

提条件としては非常に一般的である。流木の防止に関連して、

被害形式を二つのケースグループを考えてみる。これらの損害

における、官職責任に対するクレームが論点である。すなわち、 ・ 地方自治体の義務の怠慢が原因となるか、または少なくと

も助長(危険防止の失敗に伴う官職責任)された被害 および ・ 渓流の巡回または清掃の際に、地方自治体組織によって発

生した被害

7.1.5. 民間の相隣権 当局による公共サービス義務、林業や水上警察への適切な委

託に加えて、個々の隣接する土地所有者間のクレームが考えら

れる。これは、地方自治体から土地所有者としての性質におい

て発せられることが可能か、または彼らが行うことが可能なも

のである。このクレームは、裁判手続の上で行われなければな

らない。民間の相隣権(一般民法典第 364 条)の法的状況は、

簡単に説明することができる。 土地所有者は、自らの土地に自然発生した河道内の障害物を

排除する義務を負わない。すなわち、相隣権に関連する課題を

解決する契機となるのは、常に河川の自然な(規制されていな

い)状態である。自然のままの状態を期待されている河道に関

連したデメリットは、基本的には、その流木の発生ポテンシャ

ルにある。しかし、この原則は、法律の条項によって例外とさ

れている。土地所有者は自分の財産を、他人が自然現象から保

護されるような類いのことにのみ使用しさえすればよいとい

う多くの定めがある。これには、倒木輸送に関する森林法の条

項および各国の施業法の関連条項も含まれている。 上流において、渓流の洪水流出領域における障害物の移動、

蓄積または流木の残留によって、直接的または単に間接的にも、

下流における流水断面の阻害などの多大な影響を与えるよう

な原因となった場合は、以前のような(自然のままの)河道の

回復を求める上流側に対するクレームについては、下流側にそ

の権限がある。 下流側には、上流側の行為に対する差止請求権もある。ただ

し、これらの行為が河道にまだ影響を与えていないが、具体的

な危険性が明確に生じている場合に有効である。こうした無過

失のクレームに加えて、隣人は、妨害者に過失がある場合は、

自らに加えられた損害の賠償を請求することができる。人的介

入に関係なく発生する自然現象である場合は、相隣権関連のク

レームは除外される。ここで降雨という自然現象が、その都度

の現象と判断されるべきか、それとも全体的なものと判断され

るべきかどうかは個々の場合の問題であって、一般化すること

はできない。隔年または 10 年間に 3 回ほど予想される雷雨を

伴った通り雨は、決して珍しい現象ではない。10 年超過確率規

模の降雨もまた、その影響を避けることができないような自然

現象が発生することはほとんどない。利害関係者は影響を受け

た不動産の所有者であるが、物件の正当な権利者も同様である。

クレームは、妨害の原因となるか、または妨害が認められるよ

うな土地の所有者に対して発生する(彼は妨害を阻止できる状

況にあったかもしれないにもかかわらず)が、自らの目的のた

めに土地を使用する第三の原因者に対しても発生する。

7.2. その他諸国の法的根拠(概要): スイス、バイエルン、南チロル

バイエルン(ドイツ)、スイス、南チロル(イタリア)にお

ける流木マネジメントのための法的根拠・組織的環境は、以下

のインフォ・ボックスに表示されている。

法的根拠・組織的環境と管轄

23

インフォ・ボックス バイエルン(ドイツ)

「バイエルンでは、流木に関する規定はほんの少数であり、流木に対処するための特別な規定は存在しな

い。それにもかかわらず、既存の法的手段では、流木問題に専門的かつ効果的に対処するための根拠が与え

られている。」(アンドレアス・リムベック バイエルン州環境・健康省)

流木リスクに対する措置 管 轄

準備措置

改修されていない流木発生渓流の対策 地方自治体・住民 改修済みの流木発生渓流および大規模な広域 自由国バイエルン州-水道管理局 ・地域河川の維持(河川 1.および 2.規則) 流木危険区域の解消 自由国バイエルン州-地方行政当局 (バイエルン州水利法第 46 条第 1 項による) 洪水流出時の安全を確保するための指令 自由国バイエルン州-地方行政当局

(バイエルン州水利法第 46 条第 5 項 および第 6 項による)

渓流の拡幅・改良 自由国バイエルン州-水道管理局

緊急措置 災害マネジメント 地方自治体 郡 庁 州政府中級官庁 州政府

再 生 規制建造物および、その他の建造物への 自由国バイエルン州-水道管理局または維持担当官庁

被害の防除 渓流清掃または障害物の排除 地方自治体(バイエルン州水利法第 50 条)

または維持担当自治体 ■法的根拠 ・ ドイツ連邦共和国水管理法(WHG) ・ バイエルン州水利法(BayWG) ・ バイエルン州水利法管理規定(VwVBayWG)ならびにバイエルン州食糧·農業·森林省およびバイエルン州

環境・健康省間の共同発表)

法的根拠・組織的環境と管轄

24

法的根拠・組織的環境と管轄

インフォボックス スイス

「河道の維持はカントンの義務である。カントンでは時々、地方自治体、企業、または全くの住民に河道

維持が委託される。カントンは、連邦法によって湖の航行の保証を義務付けられている(湖の流木回収を含

む)。同様に、水力発電所の所有者は、彼らの施設付近に到達する、すべての流木を除去することが義務付

けられている。」(ぺーター・グレミンガー 連邦環境庁 スイス)

流木リスクに対する措置 管 轄

準備措置

渓岸・立木の管理(「定期的な維持義務」) 地方自治体、土地所有者、ダム組合

河川の維持管理 地方自治体

水力工学的措置 カントン、地方自治体、水力工学協会

水力発電所の周辺における流木の除去 経営者

および廃棄

緊急措置

災害マネジメント カントン、地域、地方自治体

湖の航行の保証(流木の回集) カントン

再 生

規制建造物および、その他の建造物への 地方自治体、水力工学協会、ダム組合

被害の除去

■法的根拠

・ 森林法規(WaG および WaV) ・ 水力工学に関する連邦法、水力工学に関する法令 ・ 補助金法(SuG) ・ サーキュラー ・ 保護林の持続可能性および統制(NaiS) ・ 河川保護法(GSchG)

25

インフォボックス 南チロル(イタリア)

(経営側からの)戦略的には、個々の地域施工管理のプロジェクト実行(または緊急対策)中における流

木のポテンシャルは制御下にある。目下、特定の標準化団体は存在しない。(サンドロ・ギウス ボルツァ

ーノ自治県-アルト·アディジェ州 水力工学部門)

流木リスクに対する措置 管 轄

準備措置

渓流の巡回 州-水力工学部門

巡回を基礎とした河川の保守および指示 州-水力工学部門

措置計画および措置の実施 州-水力工学部門

緊急措置

災害マネジメント 州-水力工学部門

渓流清掃または障害物の排除 州-水力工学部門

再 生

規制建造物および、その他の建造物への 州-水力工学部門

被害の除去

■法的根拠

・ 1975 年 7 月 12 日付け州法 35 番

法的根拠・組織的環境と管轄

26 8. 流木マネジメントにおける競合 本書に示された流木マネジメントの側面においては、予防お

よび措置・対策の実施における多様な潜在的な競合フィールド

が示唆されている。とりわけ、公益、私益、または「連携する」

公益との間に交点が存在する。その他の競合フィールドは、河

川の地域住民の立場、上・下流の問題から明らかになる。 流木によるリスクに関連した競合は、一般的に以下の分野で

発生する可能性がある。

・ 農林業 ・ 地域開発計画 ・ 土木・建築 ・ 環境保護 ・ 自然保護 ・ 交通工学(橋) ・ 観光・レジャー(ウォータースポーツ) ・ 水産業 ・ 船の航行 ・ 水の管理、河川保護 ・ 水力工学的管理 ・ 砂防・雪崩防止工事 ・ 水力発電

林業の領域では、経済的林業および保護林管理の利害に直面

している。安定性を求めた林分管理、有用木材の十分な開発お

よび安全な輸送の目標は、一般的には共通している。これに対

して、とりわけアクティブな流入エリア(短い伐期)における

業態は、効果(林業の経済的な経営目標)と矛盾する可能性が

ある。現存する間伐の遅滞ならびに伐採された木材と林地残材

の片づけが杜撰な場合には、しばしば競合が発生する。見解の

相違は通例、アクティブな流入エリアにおいて倒れる危険性の

ある樹木に関する期待可能性の観点から、林業当局と森林所有

者との間でも起こる。一方、侵食の危険を伴った渓岸や斜面に

ある立木を薪として使用する上では、将来的に高い相乗効果が

期待できるかもしれない。 隣接する地域の管理が洪水防止の目的と矛盾している場合

には、農業が競合フィールドとなる。農林業用貨物道路の河道

や渓流の横断構造物は、しばしば河道における流水断面の阻害

の原因に例えられている。自然の保持・堆積地域および保護・

規制建造物の基本的な使用に対する需要は、さらに農業の受益

権と、その他の土地の受益権との競合である。 地域開発計画と土木・建築における中心的な競合フィールド

は、ゾーニング計画において危険エリア(赤、黄)が示され、

建設目的のための私有財産の自由な使用が損なわれることか

ら発生する。流木のリスクが専門家によって想定された場合は、

個人の施工主は、それらの建設計画に関する当局による制限お

よび条件を容認することが必要である。 河川に対する環境・自然保護の目的は、水利権法にある広範

囲な欧州水政策枠組み指令の実施と共に固定され、国家河川管

理計画(NGP)において、より詳細に設定された。とりわけ、

水生生態系において生態学的に示された流木の集積、または生

態学的に適切な渓岸および洪水断面内の落葉や倒木などが流

木のリスクを高めている場合には、流下状態を良好にするとい

う理念は、流木マネジメントの目的と常に一致しているわけで

はない。 交通工学においては、「流木を考慮した」橋の建造とは、常

に工事費の追加(橋脚の未配置、より大きな径間)を意味する。

流木は、ウォータースポーツ(いかだ下り、カヤック)の追求

ならびに船の航行(ドナウ川、湖)にとっても問題となってい

る。保護・規制水力施設は、しばしば河川の連続性(魚の通過

性)を中断し、水力発電の利益とも競合している

メルツェンバッハにおける流木の流入(シュトゥム/チロル) :生態学的チャンスまたは洪水リスク? (写真:WLV チロル)

被害リスクとして計算できる流木? (写真:オーバーエスターライヒ州ラウサ消防ボランティア)

流木マネジメントにおける競合

27 9. 総括・展望 流木には重大な洪水の危険が考えられ、川や小川においては、

建造物、交通道路、供給ラインおよび(建物の内外の)人々に

とって大きなリスクがある。おそらく流域、および流水に沿っ

て自然に密着している造林における森林被覆の改善(治山)に

伴うリスクは、過去数十年間に増加している。風倒木または雪

圧による災害は、地域のリスクを劇的に高める可能性がある。

スイスとオーストリアにおける 2005 年の洪水事象に関するド

キュメントでは、「流木」という危険要因の大きな意味が再び

クローズアップされた。 流木は、そのポテンシャルおよび、洪水の際に移動した量を

詳細に検討しなければならない。従って、流木の潜在的な危険

性や発生源の予防的な管理、ならびに流出領域から流下する可

能性のある流木を適時に除去することが大きな意味をもつ。流

木マネジメントにおいて中心的な役割を果たしているのは、疑

いなく林業(保護林管理)であり、河川の定期的な管理と保守

も同様に大きな重要性がある。一方では、河川の生態系に大き

く貢献している流木は、河川に対する誤った予防策によって完

全に排除されるべきではない。流木は、水や土砂(砂礫)のよ

うに、河道の自然形態のまさに一部分なのである。そのため予

防措置は、とりわけ建物の建築上の保護またはボトルネック

(橋など)の排除といった場合には、効果という側面からも講

じられなければならない。 「流木問題」は全体的に、森林所有者、当局、河川をケアす

る機関、地方自治体にとっては複雑な挑戦である。このパンフ

レットは通俗科学的な品質において、この問題の 初の包括的

な処置を提示し、とりわけ専門家や関係者に自覚をもたせるこ

とを目的としている。しかし、政策立案者もまた、法的規定を

実用的なニーズに適合させ、経済的、生態学的、かつ社会的に

調和し、持続的または長期的に作用する流木防止措置が保証さ

れるようにするために、このパンフレットによって流木のリス

クを強く指摘するべきである。重要なのは、とりわけリスク認

識と各自または各個々人(当事者)の自助努力である。

シュタイアーマルク州アラーハイリゲンにおける 1958 年の洪水災害: 居住地域内の流木の 1000m3にわたる堆積。(写真:BMLFUW)

ビール湖における流木(2005 年 8 月洪水)(写真:BAFU/スイス)

総括・展望

28

10. チェックリスト

流木に対処するための最重要戦略

1. 危険の根源(流木の発生源)、ボトルネック(流水断面の阻害)および氾濫の原因となる堆積物等を把握するための、地方自

治体および河川監視機関による渓流、川の定期的な巡回 2. 流域特性に適合した森林管理、渓流・河川沿いの流木の流入エリアと崩壊・地すべりの発生エリアにおける細心の木材管理 3. 流水断面の阻害リスクの低い橋(桁下)の断面の検討:余裕高、橋脚の未配置 4. 渓流・河川沿いの居住者、森林所有者、流木のリスクによって影響を受ける居住者のための情報・意識啓発 5. 利用競合(リスクコミュニケーション)を解決するための対話 6. 地域開発計画、土木・建築、産業の安全のための根拠としての、危険エリア計画における流木によるリスクの検討 7. 洪水と流木のリスクを軽減・防止するための流域全体や流木の移動領域に関連したマネジメント計画の開発 8. 流木捕捉スリット(くま手)や流木捕捉ネットによる保護建造物の機能の確保 9. 渓流・河川における流木の生態学的ポテンシャルの評価、および洪水防止を目的とした生態学的状態を改善するための措置の

調整 10. 災害時における流木のリスクの検討:対策の実施計画の策定、情報、救急隊のトレーニング(例えば、橋の横断面を維持する

ための措置)

チェックリスト

29 地方自治体用チェックリスト

■予 防: 年次渓流巡回と、事前に発見された障害物の排除(水道当局と WLV への報告)? □ 遊水池の清掃? □ 渓岸の立木の管理? □ ボトルネックの検査? □ 危険エリア計画への見識? □ 災害時の対策実施計画? □ ■事象が発生している場合: 監視、ボトルネックの撤去? □ 救急隊への急報? □ 地域住民の避難? □

チェックリスト

30 林業従事者用チェックリスト

河道における流木堆積? □ 崩壊・地すべりの危険がある地域? □ 渓岸の立木の管理? □ 危険エリア計画への見識? □

渓流監視員用チェックリスト

年次渓流巡回(ドキュメントと巡回記録)? □ 危険エリア計画への見識? □ 保護建造物が損壊? □ ボトルネックの検査? □

チェックリスト

31 11. 参考文献 Bergmeister K., Suda J., Hübl J., Rudolf-Miklau F. (2009): Schutzbauwerke gegen Wildbachgefaren. Grundlagen, Entwurfund Bemessung, Beispiele. Ernst & Sohn/Wiely VCH Berlin. Bundesamt für Wasser und Geologie (2004): Brig-Glis: Kein Stau mehr dank Hubbrücke. Bundesamt für Umwelt, Wald und Landschaft (Hsrg.) (2005): Nachhaltigkeit und Erfolgskontrolle im Schutzwald. Wegleitung für Pflegemaßnahmen in Wäldern mit Schutzfunktion Bern. Covi S. (2009): Schwemmholzrisiken reduzieren. Tec 21, 31/32: 22-25. Czeiner E., Hanten K. P., Pleschko D. (2008): Ufervegetationspflege unter Berücksichtigung schutzwasserwirtschaftlicher und ökologischer Anforderungen. Amt der Niederösterrichischen Landesregierung (Abteilung Wasserbau) und Lebensministerium Niederösterreich/Wien. Frehner M., Wasser B., Schwitter R. (2005): Nachhaltigkeit und Erfolgskontrolle im Schutzwald. Wegleitung für Pflegmaßnahmen in Wäldern mit Schutzfunktion. Vollzug Umwelt. Bundesamt für Umwelt, Wald und Landschaft Bern. Hübl J., Kienholz H. Loiperberger, A. (Hsrg.) (2006): DOMODIS-Dokumentation alpine Naturereignisse. INTERPRAEVENT Klagenfurt. Hübl J., Anderschitz M., Florineth F., Gatterbauer H., Habersack H., Jäger E., Kogelnig A., Krepp F., Rauch H.-P., Schulev-Steindl E. (2008): Präventive Strategien für das Wildholzrisiko in Wildbächen. Studie im Auftrag des Lebenministeriums im Rahmen des Projekts “Floodrisk II”, Wein. Krauter E., Smoltczyk U. (2001): Phänomenologie natürlicher Böschungen (Hänge) und ihre Massenbwegungen. Grundbau-Taschenbuch (6.Aufl) Teil 1: Geotechnische Grundlagen. Ernst & Sohn Berlin. Kupferschmid A. (2004): Schutzwirkung von Gebirgsfichtenwäldern nach Buchdruckerbefall. Wie gut schützen Totholzbesände vor Naturgefahren, Wald und Holz, Ausgabe 1/04, Solothrn. Lange D., Bezzola G. R. (2006): Schwemmholz, Probleme und Lösungsansätze. Mitteilungen der Versuchsanstalt für Wasserbau, Hydrologie und Glaziologie (ETH Zürich) Nr. 188, Eigenverlag, Zürich. Lebenministerium und Österreichischer Wasser - und Abfallwirtschaftsverband (ÖWAV) (Hsrg.) (2006): Fließgewässer erhalten und entwickeln, Praxisfibel zur Pflege und Instandhalung, Wien. Lebensministerium (Hsrg.) (2006): Freibord – Überströmstrecken: Leitfaden zur Festlgung des erforderlichen Freibordes anhand

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参考文献

32 ウェブリンク

Internationale Forschungsgesellschaft INTERPRAEVENT: www.interpraevent.at

Universität für Bodenkultur: www.boku.ac.at

Eidgenössische Forschungsanstalt für Wald, Schnee und Landschaft WSL: www.wsl.ch

Der Forst im Lebensministerium: forst.lebensministerium.at und www.forstnet.at

Naturgefahren, deren Einzugsgebiete und zuständige Behörden in Österreich: www.naturgefahren.at

Initiative Schutz durch Wald: www.isdw.at

Information für die Forstpraxis: www.waldwissen.net

Rechtsinformationssystem des Bundeskanzleramts: www.ris.bka.gv.at

林業や水の管理に関する有用な情報は、ご自身の州政府のホームページでも閲覧することが可能である。

参考文献