with egr high-pressure fuel injection inlet fuel supply ... · Ⅲ- 72 (f)...

36
Ⅲ- 68 (e) エンジン諸元最適化 ガスエンジンの熱効率を向上させるためには、耐ノッキング性の向上と燃焼室周りの諸元の最適化 にくわえて、エンジン本体の周辺技術改良が重要である。エンジンシリンダ内の燃焼現象は、濃度分 布だけでなく、着火方式とシリンダ内の流動や乱れにより決まる火炎伝播速度等が挙げられ、熱効率 に大きく影響を与える。本節では、エンジンの燃焼に関する部位の課題を整理した上で、スワール、 副室および主室形状等のエンジン諸元最適化を行った。 ①技術課題 ガスエンジンの熱効率向上を目的とした技術課題について図 2.1.1.4(e)-1 に示す。熱効率向上に は、燃焼室内の燃料ガスと空気の混合気の濃度分布を制御および EGR により耐ノッキング性を向上さ せることを狙いとした新燃焼技術と、副室および主室形状など燃焼室周りの諸元の最適化およびエン ジン本体周辺技術改良が必要である。混合気濃度分布は、燃料ガスの供給方法と供給時期をパラメー タに制御できる。また、周辺技術の改良は、筒内最高圧力を高める事が可能な燃焼室の構造、給気排 気の圧力損失の低減、高性能過給機の採用などがある。 シリンダ内の燃焼特性は、燃焼室周りエンジン諸元に大きく影響される。本開発エンジンの燃焼方 式は、主燃焼室の上部に設けられた副室内の希薄混合気にパイロット油により着火させ、副室の噴孔 から噴出する火炎ジェットで主室の希薄混合気に着火させる方式である。この方式は、副室の容積、 噴孔径により火炎ジェットの強さが異なり、また噴孔角度により主室の混合気への着火位置が変わる ため燃焼特性が変化する。 主室形状は、ピストン形状により決定され、ピストン形状は、圧縮行程で混合気の濃度分布形成、 スワール、タンブル流形成やスキッシュ形成に大きく影響を与える。また、これらは、火炎伝播速度 を支配する要因でもあるため、ピストン形状はエンジン熱効率向上の重要なパラメータである。 給気ポート形状は、シリンダ内へ流入する混合気の充填効率に影響し、流量係数を低減することが できれば、ポンピングロスが減り熱効率は改善できる。また、スワールは、シリンダ内燃焼およびシ リンダ壁面からの伝熱に影響を与え、最適化により熱効率を向上させることができる。 図2.1.1.4(e)-1 効率向上への技術課題 新エンジンと周辺技術改良 ・高圧燃焼 ・給排気経路圧力損失低減 ・高性能過給機 ②エンジン諸元の最適化 ・主室形状の最適化 ・副室形状の最適化 ①濃度分布制御 ・供給方法最適化 ・供給タイミング制御 燃料と排ガス(EGR)の濃度分布を積極的に制御し ノッキングを抑制する。 希薄混合気 トーチジェット Inlet fuel supply Pre-chamber fuel supply High-pressure fuel injection With EGR

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Ⅲ- 68

(e) エンジン諸元最適化

ガスエンジンの熱効率を向上させるためには、耐ノッキング性の向上と燃焼室周りの諸元の最適化

にくわえて、エンジン本体の周辺技術改良が重要である。エンジンシリンダ内の燃焼現象は、濃度分

布だけでなく、着火方式とシリンダ内の流動や乱れにより決まる火炎伝播速度等が挙げられ、熱効率

に大きく影響を与える。本節では、エンジンの燃焼に関する部位の課題を整理した上で、スワール、

副室および主室形状等のエンジン諸元最適化を行った。

①技術課題

ガスエンジンの熱効率向上を目的とした技術課題について図 2.1.1.4(e)-1 に示す。熱効率向上に

は、燃焼室内の燃料ガスと空気の混合気の濃度分布を制御および EGR により耐ノッキング性を向上さ

せることを狙いとした新燃焼技術と、副室および主室形状など燃焼室周りの諸元の最適化およびエン

ジン本体周辺技術改良が必要である。混合気濃度分布は、燃料ガスの供給方法と供給時期をパラメー

タに制御できる。また、周辺技術の改良は、筒内最高圧力を高める事が可能な燃焼室の構造、給気排

気の圧力損失の低減、高性能過給機の採用などがある。

シリンダ内の燃焼特性は、燃焼室周りエンジン諸元に大きく影響される。本開発エンジンの燃焼方

式は、主燃焼室の上部に設けられた副室内の希薄混合気にパイロット油により着火させ、副室の噴孔

から噴出する火炎ジェットで主室の希薄混合気に着火させる方式である。この方式は、副室の容積、

噴孔径により火炎ジェットの強さが異なり、また噴孔角度により主室の混合気への着火位置が変わる

ため燃焼特性が変化する。

主室形状は、ピストン形状により決定され、ピストン形状は、圧縮行程で混合気の濃度分布形成、

スワール、タンブル流形成やスキッシュ形成に大きく影響を与える。また、これらは、火炎伝播速度

を支配する要因でもあるため、ピストン形状はエンジン熱効率向上の重要なパラメータである。

給気ポート形状は、シリンダ内へ流入する混合気の充填効率に影響し、流量係数を低減することが

できれば、ポンピングロスが減り熱効率は改善できる。また、スワールは、シリンダ内燃焼およびシ

リンダ壁面からの伝熱に影響を与え、最適化により熱効率を向上させることができる。

図2.1.1.4(e)-1 効率向上への技術課題

③ 新エンジンと周辺技術改良・高圧燃焼・給排気経路圧力損失低減・高性能過給機 ②エンジン諸元の最適化

・主室形状の最適化・副室形状の最適化

①濃度分布制御・供給方法最適化・供給タイミング制御

燃料と排ガス(EGR)の濃度分布を積極的に制御し

ノッキングを抑制する。

希薄混合気

トーチジェット

Inlet fuel supply

Pre-chamber fuel supply

High-pressure fuel injection

With EGR

Ⅲ- 69

②エンジン諸元の最適化

図 2.1.1.4(e)-2 に評価したエンジン諸元最適化の項目を示す。火炎ジェットに大きく影響をする

副室形状の最適化では、副室の容積、副室噴孔径および噴孔角度を、ポート形状の最適化は流量係数、

スワール比をパラメータとした。スワールは、高スワール仕様、中スワール仕様、低スワール仕様の

三種類を評価した。なお、スワールの評価では、給気系に特殊経路による完全均一を採用し、濃度分

布の影響を排除した。主室(ピストン)形状については、深皿型、ボウル型を採用し試験を行った。

表 2.1.1.4(e)-1 にベースと最適化したエンジン諸元を比較した表を示す。ベース諸元は、ベース

ガスエンジンのシリンダカバー等の仕様を示し、ジェット強度比は 1.0、主室形状は中浅皿型、空気

過剰率λは 2.0 である。ここで、ジェット強度比とは、副室の容積と噴孔面積から計算された火炎

ジェットの強さを表す。本ベース仕様に対し、上述したエンジン諸元をパラメータとし、NOx を目標

値以下において、最も高い熱効率が得られる条件を調査した。

各パラメータを組み合わせた試験の結果、ポート形状は、スワール比がベースに比べ CFD 計算によ

るスワール相対比が 0.40 の中スワールヘッド、ジェット比は 0.78、主室の形状は、スキッシュ強化

型ボウル型の組み合わせが最適となった。この時の空気過剰率は 2.1 である。また、中スワールヘッ

ドの CFD での充填効率相対比は、1.005 とベースに比べ高くなっている。中スワール仕様の熱効率が

良くなった要因としては、高スワール仕様に比べ、シリンダライナからの熱損失が低減したためと考

えられる。また、スキッシュを強化したボウル型が採用された要因として、着火前の混合気の乱れが

大きくなり、これが燃焼を促進したと考えられる。ジェット強度は、ベースに比べ少し低い仕様が採

用された。これは、初期燃焼を抑制する効果があり、あまり強い火炎ジェットは、本エンジンにおい

ては熱効率の向上に寄与しなかった。

表2.1.1.4(e)-1 エンジン諸元の比較

1.0051.0充填効率相対比

(CFD相対比較)

0.401.0スワール相対比

(CFD相対比較)

2.12.0λ

スキッシュ強化ボウル型中浅皿型主室形状

ジェット強度比

ヘッド

0.781.0

中SWベース

最適仕様ベース

1.0051.0充填効率相対比

(CFD相対比較)

0.401.0スワール相対比

(CFD相対比較)

2.12.0λ

スキッシュ強化ボウル型中浅皿型主室形状

ジェット強度比

ヘッド

0.781.0

中SWベース

最適仕様ベース

図2.1.1.4 (e)-2 エンジン諸元最適化の項目

主室(ピストン)形状の最適化

副室形状の最適化・副室容積・副室噴孔径および噴孔角度

ポート最適化・流量係数・スワール比

特殊経路による完全均一を採用し、濃度分布の影響を排除して評価

高SWポート 中SWポート 低SWポート

Ⅲ- 70

③機関性能と燃焼特性

図 2.1.1.4(e)-3 に、濃度分布が均一の試験条件において、エンジン諸元が機関性能へ及ぼす影響

を示す。エンジン熱効率は、ベースエンジンに比べ空気過剰率λ=2.0 の条件において、パイロット噴

射時期θinj を 4deg.CA 進めることができ、熱効率は約 1.5 ポイント改善した。しかし、この条件で

は、NOx が 170ppm 程度増加したため、λをさらに 2.1 まで高めることで熱効率を維持したまま、NOx

を 80ppm 程度低減することができた。

図 2.1.1.4(e)-4 に、エンジン諸元が燃焼特性へ及ぼす影響を示す。ベース諸元のλ=2.0 で安定し

て運転ができる条件では、主燃焼が遅く燃焼後期も燃焼が穏やかで燃焼期間が長くなっている。この

条件において、パイロット噴射時期θinj を早めノック限界まで進角すると、初期燃焼の立上りが早

くなり燃焼期間が短くなり、ノッキング現象に起因する燃焼後期における熱発生率の増加が観察され

た。

次に、最適仕様において空気過剰率を λ=2.1 までリーンの条件として、ノック限界において試験

をした結果、初期燃焼は穏やかとなり、後期燃焼で熱発生率が増加するような現象は観察されず、

ノッキングの発生が抑制された。

④まとめ

給気ポートや副室および主室形状などをパラメータとしたエンジン諸元最適化の試験を行い、以下

の知見が得られた。

(1) エンジン諸元最適化試験を行なった結果、ベースエンジンに比べ相対スワール比が 0.40 の中ス

図2.1.1.4(e)-3 エンジン諸元が機関性能へ及ぼす影響

ne=679rpm Pmi=2.13MPa ε=12

ベースλ2.0GP均一最適仕様

λ2.1 GP均一最適仕様

ベースλ2.0GP均一最適仕様

λ2.1 GP均一最適仕様

正味

熱効

率η

e%

1.0p

t%

NO

x(O

2=0%

換算

) ppm

パイロット噴射時期 θinj deg_BTDC

100p

pm

early late

2deg.CA

パイロット噴射時期 θinj deg_BTDC

2deg.CA

early late

図2.1.1.4(e)-4 エンジン諸元が燃焼特性へ及ぼす影響

-2

0

2

4

6

8

10

-20 -10 0 10 20 30 40 50

Crank Angle [degATDC]

RO

HR

[k

J/de

g]

ne=679rpm ε=12 Pmi=2.13MPa Knock Limit

ベース_λ=2.0ベース_λ=2.0最適仕様_λ=2.1

10deg.CACrank Angle[deg.CA]

-2

0

2

4

6

8

10

-20 -10 0 10 20 30 40 50

Crank Angle [degATDC]

RO

HR

[k

J/de

g]

ne=679rpm ε=12 Pmi=2.13MPa Knock Limit

ベース_λ=2.0ベース_λ=2.0最適仕様_λ=2.1

10deg.CACrank Angle[deg.CA]

Ⅲ- 71

ワールポート仕様とスキッシュ強化ボウル型の組み合わせの条件で、NOx が低い状態で高い熱効

率を得られた。

(2) 最適化仕様を採用した単気筒エンジンにおいて機関性能試験を行った結果、λ=2.1 の条件で、

ベースエンジン仕様に比べ進角することができ、ノッキングに起因するような熱発生率は観察さ

れなかった。

Ⅲ- 72

(f) EGR が機関性能へ及ぼす影響

ガスエンジンに排気再循環(EGR)を適用すると、筒内の燃焼温度が低下し、NOx 排出量を低減す

る効果とノッキングを抑制する効果が得られる。本節においては、均一混合気に EGR を適用し、高圧

縮比と組み合わせることで熱効率が向上するかを調べた。

①EGR 試験装置

図 2.1.1.4(f)-1 に、単気筒試験における EGR の試験装置の概要を示す。EGR ガスは排気タービン

後流から、EGR バルブを介して、過給機コンプレッサ前の給気入口へ導入される。EGR 量は EGR バル

ブで調整し、EGR 率は新気と EGR ガスの混合気を一定と仮定し、排気中のガス成分から算出した。な

お、本試験設備では、EGR ガスの強制冷却装置は設けていないが、排ガス管からの放熱により、EGR

ガス温度は大気温度まで低下している。

②機関性能と燃焼特性

図 2.1.1.4(f)-2 にノックリミットでの EGR が機関性能へ及ぼす影響を示す。グラフ中のプロット

の添え字は、EGR 率を示している。圧縮比 12、13 および空気過剰率 1.85、2.1 の条件で試験を行った。

圧縮比 12 では EGR 率を高め、噴射時期を早めても、筒内最高圧力 Pmax の平均値は上昇するものの、

熱効率に変化はなかった。圧縮比 12、λ=1.85 の条件では、いずれのパイロット噴射時期θinj にお

いても NOx が目標値の 320ppm を超えた。一方、圧縮比 13、空気過剰率 2.1 では、EGR 率を高め、噴

射時期を早めると、熱効率が向上し EGR 率≒40%の状態で熱効率 39.2%を達成することができた。こ

の時、噴射時期を早めると Pmax は上昇するが、EGR 率が増えるため NOx は減少傾向にあり、最高熱効

率の運転条件においては NOx が 100ppm 程度と目標値を大きく下回った。

図 2.1.1.4(f)-3 にノックリミットでの EGR が燃焼特性に及ぼす影響を示す。圧縮比 12、13 および

λ=2.1 の状態において、EGR 率を 40%程度まで高めた時のノックリミットでの熱発生率である。EGR

率を増やすことで噴射時期を早めることができ、最大熱発生率の位置が上死点側に移動している。こ

れにより、等容度が良くなり効率が改善された。

EGR率→混合気(新気+EGRガス)を一定と仮定し、排気のガス組成からEGR量を算出

EGR量はバル

ブにて制御

■エンジン仕様圧縮比:12、13その他:最適仕様濃度分布:GP均一

図2.1.1.4(f)-1 EGR試験概要

Ⅲ- 73

③まとめ

単気筒エンジンを用い、EGR の試験を行った結果、以下の知見が得られた。

(1)圧縮比 12、13 および空気過剰率 1.85、2.1 の条件で試験を行った結果、圧縮比 13、空気過剰率

2.1、EGR 率≒40%の状態で熱効率 39.2%を達成することができた。

(2)EGR により NOx を大幅に低減することができ、熱効率 39.2%を達成した運転条件において NOx は

100ppm 以下であった。

図2.1.1.4(f)-3 ノックリミットでのEGRが燃焼特性へ及ぼす影響

-2

0

2

4

6

8

10

-30 -20 -10 0 10 20 30

Crank Angle [degATDC]

RO

HR

[k

J/deg]

-2

0

2

4

6

8

10

-30 -20 -10 0 10 20 30

Crank Angle [degATDC]

RO

HR

[k

J/deg]

ε=12

ne=679rpm Pmi=2.13MPa Knock Limitλ=2.1よりEGRを適用

ε=130% 0%27%

EGR率≒36%34%

EGR率≒41%

10deg.CA 10deg.CA

Crank Angle[deg.CA] Crank Angle[deg.CA]

-2

0

2

4

6

8

10

-30 -20 -10 0 10 20 30

Crank Angle [degATDC]

RO

HR

[k

J/deg]

-2

0

2

4

6

8

10

-30 -20 -10 0 10 20 30

Crank Angle [degATDC]

RO

HR

[k

J/deg]

ε=12

ne=679rpm Pmi=2.13MPa Knock Limitλ=2.1よりEGRを適用

ε=130% 0%27%

EGR率≒36%34%

EGR率≒41%

10deg.CA 10deg.CA

Crank Angle[deg.CA] Crank Angle[deg.CA]

図1.1.4(f)-2 ノックリミットでのEGRが機関性能へ及ぼす影響

0

5

10

15

6810121416182022242628

37

38

39

40

6810121416182022242628

0

200

400

600

800

1000

6810121416182022242628

10

12

14

16

18

20

6810121416182022242628

パイロット噴射時期 θinj deg_BTDC

正味

熱効

率η

e%

NO

x(O

2=0%換

算)

ppm

Pm

ax平

均値

MP

a

O2 %

ε12 λ2.1からEGR適用ε12 λ1.85からEGR適用

ε13 λ2.1からEGR適用

ε13 λ1.85からEGR適用

ε12 λ2.1からEGR適用ε12 λ1.85からEGR適用

ε13 λ2.1からEGR適用

ε13 λ1.85からEGR適用

40.834.1

25.734.1

0 5.835.9 26.5

36

0

25.2EGR率=0%

40.8 34.1

25.734.1

0

5.8

35.926.5

36

0

25.2

0

ne=679rpm Pmi=2.13MPaKnock Limit

パイロット噴射時期 θinj deg_BTDC

early late early late

2deg.CA

2M

Pa

2deg.CA

Ⅲ- 74

(g) 実証機へ供するヘッドでの性能試験

均一混合気を用いて、単気筒エンジン試験を行い、最適なエンジン仕様および EGR 試験を行ってき

た。実証機の仕様を決めるために、更にノッキングを抑制し EGR 量の低減を検討する必要がある。そ

こで、前節までで得られた知見に混合気濃度分布制御を加えることで、EGR 量を低減可能な運転方式

や条件を調査した。

①実証機の諸元

単気筒で得られた最適なエンジン諸元をベースに、EGR 量を低減できる燃料ガス供給条件を決める

ため、単気筒を用いて試験を行った。図 2.1.1.4(g)-1 に点火タイミング、圧縮比、EGR と発電効率の

関係を示す。単気筒で得られた最高効率は、EGR 率が約 40%と大きく、さらなる EGR 率の低減が実用

化の観点から重要である。したがって、発電効率を維持した状態で EGR 率を低減する目的で開発を

行った。EGR 率を低減すると、ノッキングが発生しやすくなるため、点火タイミングを遅らせると、

発電効率が低下する。そこで、濃度分布制御によりノッキングを抑制し、圧縮比を高める事で高い発

電効率を維持した状態で EGR を低減できないか調査をした。

表 2.1.1.4(g)-1 に実証機の諸元を示す。実証機は、V18 型 6MW 級でシリンダ径 300mm、ストローク

380mm で回転数は 750rpm である。圧縮比は 13 以上とし、単気筒で良い性能が得られた条件である、

ベースエンジンスワール相対比が 0.37 の中スワールシリンダヘッド、ピストンはスキッシュ強化ボ

ウル型を採用し、空気過剰率は 2.0 以上で試験を行った。

EGR率低減

点火タイミング早 遅

濃度分布制御によりノッキング抑制

圧縮比等

発電

効率

48%

EGR率40%

EGR率<40%

図2.1.1.4(g)-1 実用化へ向けた取り組み

2.0以上λ

スキッシュ強化ボウル型ピストン形状

0.40スワール相対比(対ベース)

中SWシリンダヘッド

13以上圧縮比

750回転数 rpm

380ストローク mm

300シリンダ径 mm

6MW級実証機(V18型)諸元

2.0以上λ

スキッシュ強化ボウル型ピストン形状

0.40スワール相対比(対ベース)

中SWシリンダヘッド

13以上圧縮比

750回転数 rpm

380ストローク mm

300シリンダ径 mm

6MW級実証機(V18型)諸元

表2.1.1.4(g)-1 実証機の諸元

Ⅲ- 75

②ガス供給条件と濃度分布

表 2.1.1.4(g)-2 は、CFD 解析より抽出したガス供給条件を示している。ガスパイプは、給気ポー

トの下側に 1 穴を 37.5°の方向に有する GP-S と上下の給気ポートにそれぞれ 8 穴、合計 16 穴有する

GP-M の二種類を最終的に採用した。GP-S ガスパイプの場合、ガス供給時期が-10deg BTDC では中央

リーン、ガス供給時期θg-inj を進角させると中央リーン大の濃度分布が得られた。

図 2.1.1.4(g)-2 に給排気バルブリフトタイミングとガス供給時期を示す。ガス供給開始時期は、

基準時期を上死点後 10 度(θg-inj=-10deg.BTDC)、上死点前 30 度の早期供給(θg-inj=30deg.BTDC)、

上死点前 50 度の早期供給(θg-inj=50deg.BTDC)の 3 条件としている。ガス供給期間は、約 100deg だ

が、供給時期により若干ガス供給差圧が異なるため、少し供給期間が少し異なっている。

③機関性能と燃焼特性

ガスパイプに GP-M を用い、EGR 適用時のガス供給時期が機関性能へ及ぼす影響を図 2.1.1.4(g)-3

に示す。このパイプを用いた時のガス濃度分布は、CFD の結果から、θg-inj=-10deg.BTDC は均一、

θg-inj=30deg.BTDC はマイルド中央リーン、θg-inj=50deg.BTDC ではマイルド中央リーン大である

と推定した。エンジン出力は定格出力、圧縮比は 13 とし、ノックリミットにおいて性能計測を行っ

た。

表2.1.1.4(g)-2 CFD解析より抽出したガス供給条件

8穴×2ポート

1穴、下穴37.5°

GP形状

マイルド中央リーン大

マイルド中央リーン

中央リーン大

30

50

30

推定濃度分布形態ガス供給時期

deg.BTDCGP名

均一-10

GP-M

中央リーン-10GP-S

8穴×2ポート

1穴、下穴37.5°

GP形状

マイルド中央リーン大

マイルド中央リーン

中央リーン大

30

50

30

推定濃度分布形態ガス供給時期

deg.BTDCGP名

均一-10

GP-M

中央リーン-10GP-S

進角

進角

図2.1.1.4(g)-2 バルブリフトとガス供給時期の関係

EX IN

バルブリフト TDC BDC

基準条件(-10deg.BTDC)10

早期供給(30deg.BTDC)

早期供給(50deg.BTDC)

30

50

Ⅲ- 76

各プロットの添え字は EGR 率を、グラフの横軸はマイクロパイロット噴射時期θinj を示している。

EGR=0%の時は、θg-inj=50deg.BTDC のマイルド中央リーン大では燃焼変動率 COV が大きく、熱効率

も低くなっているが、θg-inj=-10deg.BTDC, θg-inj=30deg.BTDC ではほぼ同じ熱効率である。θg-

inj=50deg.BTDC では、濃度分布が大きくなることで、サイクル毎の燃焼変動が大きくなり、熱効率が

低下するものと考えられる。これに EGR を加えていくと、噴射時期を進角できるため、熱効率が徐々

に向上していく。EGR≒30%では、θg-inj=30deg.BTDC のマイルド中央リーンが最も熱効率が高くな

り、θg-inj=50deg.BTDC, θg-inj=-10deg.BTDC の順となる。θg-inj=-10deg.BTDC の均一の条件で

効率が低下するのは、燃料噴射時期と給排気バルブの開度の関係から、燃料の吹抜けが発生している

ためと考えられる。NOxは、EGR=0%の条件では、200ppm(O2=0%)弱であるが、EGR を加える事で徐々

に下がっていき、EGR を 40%まで加えると 100ppm 以下まで低減することができ、θg-inj=30deg.BTDC

が最も低くなった。

図 2.1.1.4(g)-4 に各ガス供給時期における燃焼特性を示す。EGR=0%では、ガス供給時期θg-inj

=50deg.BTDC は他のガス供給時期と比較して、初期燃焼が弱く燃焼期間も長くなった。EGR≒40%でも

同様な傾向を示したが、ガス供給時期θg-inj=30deg.BTDC もθg-inj=50deg.BTDC と同様に初期燃焼

が弱くなった。これは上述したようにガス供給時期を進角すると燃焼室内濃度分布が中央リーンにな

り、副室からの火炎ジェットが弱まったことで初期燃焼部分が変化したと考えられる。また、EGR 率

を増加した場合は、酸素濃度が低下するため、濃度分布差が燃焼速度へ及ぼす影響が強まり、僅かな

濃度分布差(マイルド中央リーン)が形成される条件でも初期燃焼が弱まったと推定できる。

次に、ガスパイプの形状の違いによる濃度分布変化が燃焼特性に与える影響を調べた。ガスパイプ

は、中央リーンを形成できる GP-S とマイルド中央リーンの GP-M を取り付け、ガス供給時期はθg-

inj=30deg.BTDC 固定し試験を行なった。図 2.1.1.4(g)-5 に試験結果を示す。熱効率は、GP-M の方が、

全てのパイロット噴射時期θinj で 0.6 ポイント程度上回り、NOxも低くなっている。GP-S は燃焼変

動率が大きくなり、燃焼効率も悪くなっている。これは、GP-S では、混合度合いが悪くガスリッチな

領域が存在する事で、サイクル間の燃焼ばらつきが増加した結果、変動率が増え同時に燃焼効率も低

下したと推定できる。

図2.1.1.4(g)-3 EGR適用時のガス供給時期が機関性能へ及ぼす影響

95

96

97

98

99

100

10121416182022242628

0

50

100

150

200

250

10121416182022242628

パイロット噴射時期 θinj

NO

x(O

2=0%

換算

)pp

m

0%20.2

29%

EGR=40.2

0%

EGR=40

28.3

0%

28.9

EGR=41.7

0

2

4

6

8

10

10121416182022242628

ne=679rpm、Pmi=2.13MPa、ε=13Knock Limit、GP形状:GP-M

37

38

39

40

10121416182022242628

正味

熱効

率η

e%

EGR=40.2 29%20.2

0%

EGR=400%

28.3

0%

28.9EGR=41.7

Pmax

CO

V %

EGR=40.2

29%

20.2 0%

EGR=400%

28.3

0%28.9EGR=41.7

ガス供給時期 -10deg.BTDC30deg.BTDC50deg.BTDC

パイロット噴射時期 θinj

燃焼

効率

ηc

%

0%20.2

29%EGR=40.2

0%

EGR=4028.3

0%28.9

EGR=41.7

early late

2deg.CA 2deg.CA

1.0

pt

95

96

97

98

99

100

10121416182022242628

0

50

100

150

200

250

10121416182022242628

パイロット噴射時期 θinj

NO

x(O

2=0%

換算

)pp

m

0%20.2

29%

EGR=40.2

0%

EGR=40

28.3

0%

28.9

EGR=41.7

0%20.2

29%

EGR=40.2

0%

EGR=40

28.3

0%

28.9

EGR=41.7

0

2

4

6

8

10

10121416182022242628

ne=679rpm、Pmi=2.13MPa、ε=13Knock Limit、GP形状:GP-M

37

38

39

40

10121416182022242628

正味

熱効

率η

e%

EGR=40.2 29%20.2

0%

EGR=400%

28.3

0%

28.9EGR=41.7

EGR=40.2 29%20.2

0%

EGR=400%

28.3

0%

28.9EGR=41.7

Pmax

CO

V %

EGR=40.2

29%

20.2 0%

EGR=400%

28.3

0%28.9EGR=41.7

EGR=40.2

29%

20.2 0%

EGR=400%

28.3

0%28.9EGR=41.7

ガス供給時期 -10deg.BTDC30deg.BTDC50deg.BTDC

パイロット噴射時期 θinj

燃焼

効率

ηc

%

0%20.2

29%EGR=40.2

0%

EGR=4028.3

0%28.9

EGR=41.7

early late

2deg.CA 2deg.CA

1.0

pt

Ⅲ- 77

図2.1.1.4(g)-4 ガス供給時期が燃焼特性へ及ぼす影響

ne=679rpm、Pmi=2.13MPa、ε=13Knock Limit、GP形状:GP-M

-2

0

2

4

6

8

10

-20 -10 0 10 20 30

RO

HR

[k

J/de

g]

-2

0

2

4

6

8

10

-20 -10 0 10 20 30

Crank Angle [degATDC]R

OH

R

[kJ/de

g]

EGR=40%ガス供給時期-10deg.BTDC

30

50

EGR=0%

10deg.CA 10deg.CA

Crank Angle[deg.CA] Crank Angle[deg.CA]

ne=679rpm、Pmi=2.13MPa、ε=13Knock Limit、GP形状:GP-M

-2

0

2

4

6

8

10

-20 -10 0 10 20 30

RO

HR

[k

J/de

g]

-2

0

2

4

6

8

10

-20 -10 0 10 20 30

Crank Angle [degATDC]R

OH

R

[kJ/de

g]

EGR=40%ガス供給時期-10deg.BTDC

30

50

EGR=0%

10deg.CA 10deg.CA

Crank Angle[deg.CA] Crank Angle[deg.CA]

図2.1.1.4(g)-5 ガスパイプ形状が機関性能へ及ぼす影響

37

38

39

40

10121416182022242628

95

96

97

98

99

100

10121416182022242628

0

50

100

150

200

250

10121416182022242628

0

2

4

6

8

10

10121416182022242628

ne=679rpm、Pme=2.13MPa、ε=13ガス供給時期 30deg_BTDC一定

正味

熱効

率η

e%

NO

x(O

2=0%

換算

)pp

m

Pmax

CO

V %

EGR=41.7

0%

28.9

0%

29.6EGR=40.2

EGR=41.7 0%28.9

0%

29.6EGR=40.2

EGR=41.7

0%

28.9

0%

29.6

EGR=40.2

GP-S

GP-M

EGR=41.7

0%28.9

0%

29.6EGR=40.2

燃焼

効率

ηc

%

1.0

pt

2deg.CA 2deg.CA

パイロット噴射時期 θinj パイロット噴射時期 θinj

37

38

39

40

10121416182022242628

95

96

97

98

99

100

10121416182022242628

0

50

100

150

200

250

10121416182022242628

0

2

4

6

8

10

10121416182022242628

ne=679rpm、Pme=2.13MPa、ε=13ガス供給時期 30deg_BTDC一定

正味

熱効

率η

e%

NO

x(O

2=0%

換算

)pp

m

Pmax

CO

V %

EGR=41.7

0%

28.9

0%

29.6EGR=40.2

EGR=41.7 0%28.9

0%

29.6EGR=40.2

EGR=41.7

0%

28.9

0%

29.6

EGR=40.2

GP-S

GP-M

EGR=41.7

0%28.9

0%

29.6EGR=40.2

燃焼

効率

ηc

%

1.0

pt

2deg.CA 2deg.CA

パイロット噴射時期 θinj パイロット噴射時期 θinj

95

96

97

98

99

100

10121416182022242628

0

50

100

150

200

250

10121416182022242628

0

2

4

6

8

10

10121416182022242628

ne=679rpm、Pme=2.13MPa、ε=13ガス供給時期 30deg_BTDC一定

正味

熱効

率η

e%

NO

x(O

2=0%

換算

)pp

m

Pmax

CO

V %

EGR=41.7

0%

28.9

0%

29.6EGR=40.2

EGR=41.7 0%28.9

0%

29.6EGR=40.2

EGR=41.7

0%

28.9

0%

29.6

EGR=40.2

GP-S

GP-M

EGR=41.7

0%28.9

0%

29.6EGR=40.2

燃焼

効率

ηc

%

1.0

pt

2deg.CA 2deg.CA

パイロット噴射時期 θinj パイロット噴射時期 θinj

Ⅲ- 78

④まとめ

単気筒試験で、EGR を用いた状態で混合気濃度分布試験を行った結果、次の知見を得た。

(1) ガスパイプ GP-M を取り付けガス噴射時期θg-inj=30deg.BTDC のマイルド中央リーンの条件にお

いて、最も高い熱効率 39.6%が得られた。この時の運転条件は EGR≒40%程度であるが、EGR を

30%程度まで低減させても熱効率は 39.5%までしか低下しなかった。

(2) 1 穴のガスパイプ形状 GP-S と 16 穴の GP-M を比較した結果、GP-M ではマイルドな、GP-S では強

い混合気濃度分布を形成するが、いずれもガス供給時期を進めると中央リーンの濃度分布を形成

する。

(3) GP-S では、濃度分布が大きくなるため、燃焼変動が大きくなり、GP-M に比べ熱効率が低くなっ

た。

Ⅲ- 79

2.1.2 エンジンコンパクト化技術開発

【三菱重工(株)実施事項】

効率向上に伴う筒内圧力の上昇、出力増加およびコンパクト化のための検討項目を図 2.1.2-1 に示

し、主な項目に対する検討結果を以下に列挙する。

図 2.1.2-1 エンジンコンパクト化に対する検討項目

①シリンダライナー

筒内最大圧力 Pmax の上昇に対し図 2.1.2-2

に示すモデルにより軸対称 FEM 解析で

信頼性を検討した。ガスケット形状を最

適化することにより、従来実績同等の疲

労安全率を確保した。

②ピストンスカート

ピストンスカートに関しては、図 2.1.2-3 に

示す 3次元ソリッドモデルによる FEM 計算を

実施した。ピストンクラウンの締付によるボル

ト荷重およびガス圧による荷重を考慮して解析

した結果、疲労安全率は従来実績より若干低い

が、絶対値は1以上であり問題無い。

1.3実証機

1.3現行機

安全率機種

1.3実証機

1.3現行機

安全率機種

1.2実証機

1.2現行機

安全率機種

1.2実証機

1.2現行機

安全率機種

図 2.1.2-2 シリンダライナー

1.4現行機

1.2実証機

安全率機種

1.4現行機

1.2実証機

安全率機種

図 2.1.2-3 ピストンスカート強度

ピストン高Pmax対応

連接棒高Pmax対応

シリンダカバー高Pmax、高出力対応

フレーム高Pmax対応

各種締付ボルト締付け力増対応

シリンダライナ高Pmax、高出力対応

クランク軸高Pmax対応

給排気カムガスエンジンに特化して軽量化

Ⅲ- 80

③フレーム構造

フレームについては 2.5 気筒分の 3 次元ソリッドモデルに当該シリンダのガス圧荷重を作用させて、

各部の疲労強度を検討した。図 2.1.2-4 にフレーム構造 FEM 計算結果を示す。カム棚や隔壁部に安全

率 5以上の部位があり、減肉化して重量低減できる可能性があることを確認した。

図 2.1.2-4 フレーム構造 FEM 計算結果

④カム軸

図 2.1.2-5 にカム軸系のコンパクト化検討結果を示す。従来機関はディーゼル機関からの転用のた

め、燃料噴射ポンプ駆動に耐える軸径となっている。これに対しガスエンジンはポンプが無く給排気

弁を駆動するのみであるため、軸径を細くして従来実績並みの軸たわみや捩り振動の共振回避を検討

した結果、1シリンダあたりの重量を 35%低減できる目途を得た。

図 2.1.2-5 カム軸コンパクト化の検討

フレームモデル(2.5シリンダ分)応力計算結果(1シリンダ抜出)

当該シリンダにそれぞれ実サイクルガス圧荷重を

作用させて評価

カム棚、隔壁など安全率5.0以上の

部位に関し重量低減可能

軸受リング

排気カム 

給気カム 

軸受リング

図.カム軸の構成

軸受リング

排気カム 

給気カム 

軸受リング

軸受リング

排気カム 

給気カム 

軸受リング

軸受リング

排気カム 

給気カム 

軸受リング

図.カム軸の構成

[ガスエンジンに特化した専用設計]・カム軸径を最小化(20%減)・軸受リング、給排気カムを最小化 ⇒1シリンダあたり重量を35%減

軸のたわみ

ねじり振動

軸の固有振動数

捩り

振動

レベ

ル 開発機種共振を回避

軸た

わみ

従来実績 現行ガスエンジン 開発機種

軸た

わみ

従来実績 現行ガスエンジン 開発機種

Ⅲ- 81

⑤まとめ

効率向上に伴う筒内圧力の上昇、出力増加およびエンジンコンパクト化の検討を実施し、以下の成

果が得られた。

(1) シリンダライナ、ピストンなど燃焼室周りの部品に関し、筒内圧上昇、出力増に伴う熱負荷増加

を考慮した FEM 解析を実施し、従来構造のマイナーチェンジなどで安全率を確保できることを確

認した。

(2) また、連接棒、フレーム、クランク軸について FEM 解析を実施し、筒内圧力上昇に対応して安全

率を確保すると同時に減肉して軽量化できる目処を得た。

(3) カム軸の軸径縮小による共振への影響について検討し、従来カム軸に対して 35%重量削減の目処

を得た。

Ⅲ- 82

2.1.3 最適燃焼制御技術の開発

【三菱重工(株)実施事項】

8MW 級開発機関の性能を検証するため、現行ガスエンジンをベースに単気筒試験の結果を反映した

6MW 級実証試験設備(以下実証機)の設計製作を行い、性能試験を実施した。

2.1.3.1 実証機の設計・製作

実証機は現行ガスエンジンをベースに、目標出力 8MW に近い 6MW 級(18 気筒)エンジンとして設計

を行った。設計にあたっては、6MW 級の効率目標である 46.6%(8MW 級 48%相当)を達成するため、

単気筒試験機で達成した 45.8%(6MW 級相当)に加えて、表 2.1.3.1-1 に示す各種効率向上の打ち手

を織り込んだ。

表 2.1.3.1-1 実証試験設備での効率向上の打ち手

① 高効率過給機の採用

図 2.1.3.1-1 に示す高効率過給機を採用した。本過給機は図 2.1.3.1-2 に示すように圧力比 3.5~

3.6 の常用域で従来型過給機に比べ 3~4%過給機効率を向上しており、エンジン効率で 0.1~0.2pt%

の向上が見込める。

図 2.1.3.1-1 高効率過給機

給排気タイミング最適化によるオーバーラップ適正化で有

効ポンピング仕事増大

給排気系タイミングの最適化

ピストンリング3→2本化とリングプロファイルの適正化に

より摩擦損失の低減

機械損失の低減

内 容項 目

常用域で効率を~3pt%アップしたMET-MA過給機の採用

により有効ポンピング仕事の増大高効率過給機の採用

始動弁の廃止(エアモータの採用)他により無駄容積を~

15%低減

未燃分の低減(無駄容積の低減)

ブローバイガスをオイルミストを分離し、過給機より再吸入クランク室ブローバイガスの回収

給排気系形状の適正化により圧損を低減し有効ポンピン

グ仕事の増大

給排気系の圧力損失の低減

目標効率向上 :Δ 0.8pt%

給排気タイミング最適化によるオーバーラップ適正化で有

効ポンピング仕事増大

給排気系タイミングの最適化

ピストンリング3→2本化とリングプロファイルの適正化に

より摩擦損失の低減

機械損失の低減

内 容項 目

常用域で効率を~3pt%アップしたMET-MA過給機の採用

により有効ポンピング仕事の増大高効率過給機の採用

始動弁の廃止(エアモータの採用)他により無駄容積を~

15%低減

未燃分の低減(無駄容積の低減)

ブローバイガスをオイルミストを分離し、過給機より再吸入クランク室ブローバイガスの回収

給排気系形状の適正化により圧損を低減し有効ポンピン

グ仕事の増大

給排気系の圧力損失の低減

目標効率向上 :Δ 0.8pt%

Turbine blades of new design concept

Flow optimized gas outlet guideLow noise silencer

Improved oil seals

Partition wall

Turbine blades of new design concept

Flow optimized gas outlet guideLow noise silencer

Improved oil seals

Partition wall

Ⅲ- 83

図 2.1.3.1-2 過給機効率と機関熱効率

② 無駄容積削減

燃焼室内の無駄容積を削減するため、図 2.1.3.1-3 に示すように始動弁の廃止、圧力逃し弁穴廃止、

AP リング部無駄容積削減を行った。始動弁の廃止にあたっては、機関始動装置としてエアスタータを

採用することとした。これらの無駄容積削減により 0.1~0.2pt%の効率向上が期待される。

図 2.1.3.1-3 燃焼室無駄容積の削減

③ クランク室ブローバイガスの回収

クランク室へのブローバイガス中の未燃ガスを回収するため、図 2.1.3.1-4 に示すオイルミスト回

収装置を計画した。構成はブローバイガス中の油分をフィルターで分離し、過給機で吸気に混合して

再度燃焼室に供給するものである。これにより 0.1~0.2pt%の効率向上が期待できる。

図 2.1.3.1-4 ブローバイガス回収装置構成図

過給機効率

0.920.940.960.981.001.021.041.06

3 3.2 3.4 3.6 3.8 4 4.2

圧力比

効率

比MET-MA

MET-SD

99.6

99.8

100.0

100.2

100.4

100.6

97 98 99 100 101 102 103 104 105

過給機効率比 (%)

機関

熱効

率比

(%)

性能計算結果

高効率型従来型

3~4% ≒0.3%

実証機

②圧力逃し弁穴廃止

①始動弁廃止(エアスタータ採用)

③APリング部無駄

容積削減

②圧力逃し弁穴廃止

①始動弁廃止(エアスタータ採用)

③APリング部無駄

容積削減

フレキ B

フレキ A

フレキ

P0

P1

P2

フィルタ A

潤滑油サンプタンク

(防振ベッドの場合含)

T/C ラビリンス

KU30GA

大気

P3

クランク室

Ⅲ- 84

(d) 給排気圧損低減

給排気圧損低減の一環として、過給機からエアクーラへの給気の流れを改善するため、給気導入箱

への給気配管を図 2.1.3.1-5 に示すように直接導入に変更した。これにより配管内での流れの剥離や、

偏流が低減できることを CFD により確認した。また、図 2.1.3.1-6 に示すように排気圧損に関しても

CFD で解析した。

図 2.1.3.1-5 給気系 CFD 結果

図 2.1.3.1-6 排気管内圧損の検討結果

分離を低減すべく形状の改善が必要

仕切り板の形状、角度が不適切

A/Cに直接導入

A/C流れ方向の流速はオリジナルより均一化

オリジナル

直接導入

ターボチャージャ

エアクーラ

給気導入箱

剥離、偏流が発生

95000

100000

105000

110000

115000

120000

B1 B2 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

Cut No. [m]

Pre

ssure

fro

m 9

cyl [P

a]

Pressure

Total Pressure

L cyl

R cyl

95000

100000

105000

110000

115000

120000

B1 B2 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15

Cut No. [m]

Pre

ssure

fro

m 9

cyl [P

a]

Pressure

Total Pressure

L cyl

R cyl

MP 14 MP 12

MP 7

MP 6 MP 5 MP 2 MP 1

9cylMP 3

MP 4MP 8MP 9MP 10

MP 11MP 13

MP 15

静圧分

動圧分

静圧分

動圧分

Ⅲ- 85

⑤ 機械損失の低減

摩擦損失を低減するため、図 2.1.3.1-7 に示すようにピストンリングを 3 本から 2 本に低減した場

合の摩擦損失を検討した。これにより 0.1pt%の効率向上が期待できる。

図 2.1.3.1-7 ピストンリング本数と摩擦損失の検討

3本リング(従来タイプ)

2本リング

Ⅲ- 86

2.1.3.2 実証機の性能検証

単気筒試験の成果を反映し、上記の周辺技術改良を織り込んだ V 型 18 シリンダ機関を供試して、

単筒試験機での成果およびその他の性能改善改善技術の検証試験・評価をおこなった。図 2.1.3.2-1

に設計製作した実証機写真を示す。本実証機には、単筒機にて得られた燃料ガス濃度分布制御のため

のガスパイプや副室仕様の最適化などに加えて、高効率過給機の採用、燃焼室無駄容積の削減および

給排気圧損の低減など効率向上の打ち手が施されている。

図 2.1.3.2-1 6MW 級実証機

Ⅲ- 87

(a) 改善仕様試験結果

図 2.1.3.2(a)-1 に実証機で計測されたマイクロパイロットの噴射時期と発電効率の関係を示す。

図中、ガスパイプ方式の採用や給気ポート最適化など単気筒試験で得られた成果に加えて、高効率過

給機採用などの性能改善を折込んだ仕様を改善仕様、さらにピストン形状をボウル型とし、副室噴孔

径最適化して最終の単気筒試験と同等の仕様としたものを燃焼室形状最適化としている。図にはクラ

ンク室内のブローバイガスを回収し、再度過給機から各シリンダに供給した場合の性能もブローバイ

ガス回収として記載している。

図より発電効率は、各種性能改善策を折込み、ブローバイガスを回収した場合で 46.1%まで向上し

ていることが分かる。

パイロット噴射時期 θinj

図 2.1.3.2(a)-1 改善仕様試験結果

45.0

45.2

45.4

45.6

45.8

46.0

46.2

46.4

発電

効率

改善仕様

燃焼室形状最適化

燃焼室形状最適化+ブローバイガス回収

2deg.CA

改善仕様 λ=2.15改善仕様 λ=2.10改善仕様 λ=2.00燃焼室形状改善 λ=2.15燃焼室形状改善 λ=2.10燃焼室形状改善 λ=2.00燃焼室形状改善+ブローバイガス回収 λ=2.10

改善仕様 λ=2.15改善仕様 λ=2.10改善仕様 λ=2.00燃焼室形状改善 λ=2.15燃焼室形状改善 λ=2.10燃焼室形状改善 λ=2.00燃焼室形状改善+ブローバイガス回収 λ=2.10

Ⅲ- 88

(b) 新燃焼試験結果

単気筒試験で得られた燃焼室内の燃料ガス濃度分布制御に EGR を組み合わせノッキングを抑制する

新燃焼技術の検証を実施した。

試験を実施した系統図を図 2.1.3.2(b)-1 に実際の EGR 設備を図 2.1.3.2(b)-2 に示す。排気筒で分

岐した排ガスを EGR 用排ガス冷却器で冷却し、フィルターを介して再度過給機に供給するシステムと

した。循環排ガス量は分岐部に設置したダンパにより調整することとした。クーラーの容量は排ガス

の約 50%循環できる仕様とした。

図 2.1.3.2(b)-1 新燃焼試験 EGR 系統図

図 2.1.3.2(b)-2 EGR 設備

V18実証機

過給機

空気冷却器

排気バイパス弁

ミキサーサイレンサ

EGRガス量

調整弁

排ガスフィルタ

EGR用

排ガス冷却器

EGRガス

温度調節弁ポンプ

背圧調整ダンパ

EGRガスライン

煙突

新気

EGR用排ガス冷却器

EGR用排ガスフィルタ

Ⅲ- 89

図 2.1.3.2(b)-3~4 に EGR を付加したときの性能を示す。ガス供給時期を単気筒試験で最も性能が

良かった 30deg.BTDC として EGR 率をパラメータとした試験を実施した。

図中添字は EGR 率を示しており、単気筒では 40%でも効率の低下は見られなかったが、実証機は

EGR 率 35%で効率が最高となっている。またガス供給タイミングについても実証機では、ベースの

30deg.BTDC に対し更にタイミングを進めた 50deg.BTDC で最高効率の 47.4%を達成している。これら

については、実証機での筒内最高圧力の制約や多気筒機関における給排気の脈動などが影響を与えて

いるものと考えられる。

NOx は EGR 率の増加とともに低下しており、最高効率を示す 35%近傍では 100ppm 程度となってい

る。

噴射タイミング θinj

図 2.1.3.2(b)-3 パイロット噴射時期と発電効率

噴射タイミング θinj

図 2.1.3.2(b)-4 パイロット噴射時期と NOx

46.0

46.2

46.4

46.6

46.8

47.0

47.2

47.4

47.6

発電

効率

ガス供給時期-10 deg BTDC30 deg BTDC50 deg BTDC

ガス供給時期-10 deg BTDC30 deg BTDC50 deg BTDC

ガスパイプ : GP-M圧縮比 : 14.0※ 添字はEGR率を示す

42% 35%

35%

36%

25%

EGR無し圧縮比 10.9TIM 390deg

EGR+高圧縮比化ε10.9 → 14.0

0%

0

50

100

150

200

250

300

NO

x (O

2=0%

換算

) pp

m

42% 35%

35%36%

25%

0%

2deg.CA

2deg.CA

Ⅲ- 90

この時の排ガス条件から総合熱効率を求めた結果を図 2.1.3.2(b)-5 に示す。図より低温水回収ま

で含めた総合熱効率は 80%を達成した。本数値を 8MW 級に換算すると 80.9%である。

図 2.1.3.2(b)-5 総合熱効率

(c) まとめ

単気筒試験機の成果を反映した 6MW 級実証機にて性能を検証し、以下の結果を得た。

(1) EGR 率 36%にて発電効率 47.4%を達成した。

(2) この時 NOxは O2=0%換算で 120ppm である。

(3) 上記条件での総合熱効率は 80%である。

これらの結果を機械効率などを考慮して 8MW 級に換算すると下記のとおりである。

(4) 発電効率 48.8%、NOx120ppm、総合熱効率 80.9%を達成し、目標発電効率 48%以上、NOx

320ppm 以下、総合効率 80%以上を満足した。

総合効率 80%

EGR冷却器

低温水 5.2%

高温水 10.0%

蒸気 17.4%

電力 47.4%

0.78MPa、175℃ 飽和蒸気

88℃ 温水

60℃ 温水

100%

17.0%

48.8%

10.2%

4.9%

80.9%

8MW級48.8%

6MW級実証機47.4%

Ⅲ- 91

2.2 ガスエンジンコンバインドシステムの開発

【三菱重工(株)実施事項】

ガスエンジンの排ガスエネルギーを利用して発電するコンバインドシステムとして、排ガスから超

臨界水を生成して筒内に噴射する二流体サイクルと過給機に高速発電機を直結したハイブリッドター

ボコンパウンドの2種類を検討した。

2.2.1 二流体サイクルによる筒内燃焼技術の開発

図 2.2.1-1 に二流体サイクルの概念図を示す。排ガス排熱から 35MPa、450℃の超臨界水を生成し、

筒内に噴射して筒内の仕事によりエネルギー回収を図るものである。

図 2.2.1-1 二流体サイクルの概念図

図 2.2.1-2 に試験に利用した超臨界水発生装置、図 2.2.1-3 に給水装置および図 2.2.1-4 に超臨界

水噴射弁を示す。

図 2.2.1-2 超臨界水発生装置 図 2.2.1-3 給水装置

図 2.2.1-4 超臨界水噴射弁

アクチュエータ

本体

袋ナット

ノズル部

針弁

中間金物押え金物

約650mm

筒内に熱水を噴射してエネルギー回収

熱水噴射

排ガス

ガスエンジン 発電機

給水系

排ガスとの熱交換により高エンタルピの熱水生成

35MPa 450℃インジェクタ

副室

ガス供給弁

熱水噴射弁

Ⅲ- 92

噴射弁の動作原理は図 2.2.1-5 に示すように、超磁歪

アクチュエータに指令信号を与えることによりパイ

ロットバルブを開閉し、制御油圧をコントロール

して、噴射流体との圧力バランスで噴射タイミング、

針弁位置(噴射量)を制御するものである。

①噴射弁台上試験

図 2.2.1-6 に噴射弁の台上試験状況および噴射試験の

結果を示す。応答性、針弁リフトとも目標値を達成

していることを確認した。

図 2.2.1-5 噴射弁機構

図 2.2.1-6 超臨界水噴射弁台上試験結果

②試験条件

表 2.2.1-1 に単気筒試験機で実施した二流体

サイクルの試験条件を示す。機関側は空気比

をリッチ限界~リーン限界、燃料噴射時期は

ノック限界~不安定限界をふった条件とし、

熱水条件は図 2.2.1-7 に示すように超臨界から

亜臨界域とした。

図 2.2.1-7 熱水条件

表 2.2.1-1 二流体サイクル試験条件

超磁歪アクチュエータ(高速比例弁)

針弁(ロッド)

制御油

噴射流体

サック部

噴孔

指令信号

パイロットバルブ

噴射弁単体試験

-202468

10121416

-2 0 2 4 6 8 10 12 14時間 ms

指令

電流

A指令電流8A

指令電流10A

指令電流12A

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

-2 0 2 4 6 8 10 12 14時間 ms

針弁

リフト

mm

-200

20406080

100120

140

-2 0 2 4 6 8 10 12 14時間 ms

アクチ

ュエ

ータリフ

ト μ

m

供給水圧 35MPa供給水温 常温容器圧力 大気圧

圧力

MP

a

温 度 ℃

三重点

臨界点

22.1

0.6

0 374. 2

気相

固相 液相

圧力:27~32MPa

温度:350~420℃

超臨界領域

13 ~ 19.5MPa筒内最高圧

2500 ~ 2770kJ/kg比エンタルピー

12 / 10は初期のみ12 / 10、14 / 12膨張比/圧縮比

噴射時期(弁リフトベース)

噴射量(対燃料熱量比)

圧力

熱水温度

パイロット燃料噴射時期

空燃比(λ)

パラメータ

ATDC

%

MPa

ATDC ノック限界~不安定限界-11 ~ -19.5

供試熱交換器での最高温度=450℃350 ~ 430

供試装置の最高圧=35MPa27 ~ 32

P=32MPa、T=430℃時最高噴射量=11%0 ~ 11

-35 ~ 10

リッチ限界~リーン限界1.8 ~ 2.1

試験範囲

13 ~ 19.5MPa筒内最高圧

2500 ~ 2770kJ/kg比エンタルピー

12 / 10は初期のみ12 / 10、14 / 12膨張比/圧縮比

噴射時期(弁リフトベース)

噴射量(対燃料熱量比)

圧力

熱水温度

パイロット燃料噴射時期

空燃比(λ)

パラメータ

ATDC

%

MPa

ATDC ノック限界~不安定限界-11 ~ -19.5

供試熱交換器での最高温度=450℃350 ~ 430

供試装置の最高圧=35MPa27 ~ 32

P=32MPa、T=430℃時最高噴射量=11%0 ~ 11

-35 ~ 10

リッチ限界~リーン限界1.8 ~ 2.1

試験範囲

Ⅲ- 93

③試験結果および考察

図 2.2.1-8 に超臨界水(SCW)の比エンタルピーをパラメータとした発電効率向上比および NOx 低減

比を示す。図より、SCW の比エンタルピーが高いほど、SCW の噴射タイミングと熱発生のタイミング

が一致しているほど効率の向上比率が高いことが分かる。向上比率は相対値で 1.5%である。

図 2.2.1-8 二流体サイクル試験結果

比エンタルピーの大小と効率

向上代の関係は、図 2.2.1-9 に示す

ように噴射時の熱水の比エンタル

ピーが高いほうが、筒内に噴射さ

れた時に湿り蒸気になる可能性が

低く、燃焼ガスに加熱されて仕事

をする際に潜熱による損失が少な

いため、効率の向上が大きいと考

えられる。

図 2.2.1-9 筒内での SCW の状態線図

また、熱発生タイミングと SCW 噴射タイミングについては、図 2.2.1-10 に示すように熱発生より

先に SCW を筒内へ噴射した場合噴射後の SCW の温度低下が大きく、燃焼ガスから奪う熱が大きいため、

SCW 噴射と熱発生のタイミングを一致させたほうが有利である。

0.990

0.995

1.000

1.005

1.010

1.015

1.020

1500 2000 2500 3000

SCW 比エンタルピ kJ/kg

発電

効率

比(対

SC

W無

SCW噴射≒受熱

SCW噴射進角

SC噴射進角+低Pmax

-50

-40

-30

-20

-10

0

10

1500 2000 2500 3000

SCW 比エンタルピ kJ/kg

NO

x低減

代 

針弁リフト

熱発生

熱発生と SCW 噴射が一致

熱発生に先行して SCW 噴射

600

500

400

300

200

温度

エンタルピーkJ/kg

3600

3500

3400

3300

3200

3 4 5 6 7 8 比エントロピー (kJ/kgK)

圧力 30 25 20 15 10 MPa2800

2700

2600

湿り蒸気域

h=2750kJ/kg

h=2500kJ/kg

Q2

Q1Pmax

SCW噴射時筒内圧

Pscw=32 MPa,Tscw=425℃

Pscw=27 MPa,Tscw=427℃

湿り蒸気域に入ると更に飽和液滴が過熱蒸気になるまでに潜熱が必要となるため効率低下

Ⅲ- 94

図 2.2.1-10 筒内での SCW の状態線図

表 2.2.1-2 に今回試験結果から SCW の噴射条件を最適化した場合の効率改善率を推定した結果を示

す。現状の排ガスエネルギーを考慮した SCW 噴射量の増大、SCW 比エンタルピーの増大により最大

3.4%(6MW で 1.6pt%)の効率向上が見込める。

表 2.2.1-2 SCW 噴射による効率向上率

④まとめ

二流体サイクルを世界で初めて大型のガスエンジンに適用し、次の結果を得た。

(1) シリンダ内に噴射する超臨界水の比エンタルピが高いほど効率向上の比率が高い。

(2) 超臨界水の噴射タイミングは、サイクルの熱発生期間と一致させたほうが効率向上の比率が高い。

(3) これらは、比エンタルピーの低い超臨界水を噴射した場合や、熱発生より前に噴射した場合は、

噴射後の温度低下により、筒内で湿り蒸気になる可能性が高く潜熱による効率低下が大きいため

と考えられる。

(4) 排熱回収系の最適化により、1.6pt%の効率向上が見込めることを確認した。

600

500

400

300

200

温度

エンタルピーkJ/kg

3600

3500

3400

3300

3200

3 4 5 6 7 8 比エントロピー (kJ/kgK)

圧力 30 25 20 15 10 5 MPa2800

2700

2600

湿り蒸気域

600

500

400

300

200

温度

エンタルピーkJ/kg

3600

3500

3400

3300

3200

3 4 5 6 7 8 比エントロピー (kJ/kgK)

圧力 30 25 20 15 10 5 MPa2800

2700

2600

湿り蒸気域

Pscw=30MPa,Tscw=430℃

Q2

燃焼時期に噴射した場合

早く噴射した場合

Q1Pmax

SCW噴射時筒内圧

SCW噴射時筒内圧

-30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 60

SCW噴射が早すぎると筒内で

減圧し湿り蒸気になり易い

燃焼と同時期に噴射すれば、筒

内でのSCWの減圧を抑制できる

筒内

針弁

リフト

ROHR

針弁リフト

0.3%アップ

噴射量比

1.5%アップ

効率改善効果

450

430

430

SCW温度

1.031×1.003=1.034

1.5%×9.4/4.5

3.49.0SCWエンタルピ増大

3.19.4SCW噴射量増大

1.54.5今回の試験の実測

SCW無に対する改善率

SCW量(熱量比)

0.3%アップ

噴射量比

1.5%アップ

効率改善効果

450

430

430

SCW温度

1.031×1.003=1.034

1.5%×9.4/4.5

3.49.0SCWエンタルピ増大

3.19.4SCW噴射量増大

1.54.5今回の試験の実測

SCW無に対する改善率

SCW量(熱量比)

Ⅲ- 95

2.2.2 ハイブリッドターボコンパウンド技術の開発

図 2.2.2-1 に過給機ローター軸に高速発電機を直結し、余剰排ガスエネルギーを電気として取り出

すためのハイブリッド過給機の構成図を示す。

図 2.2.2-1 ハイブリッド過給機の構成

図 2.2.2-2 に従来過給機とハイブリッド過給機の寸法比較を示す。小型発電機を採用したことによ

り、ビルトインタイプとすること可能となり、全長で 100mm強の延長となっている。このため、従

来とほぼ同等のアレンジでエンジン搭載が可能である。

図 2.2.2-2 従来過給機との寸法比較

図 2.2.2-3 にハイブリッド過給機単体試験の状況を示す。燃焼ガスによる運転で各部の振動、発電

出力を確認している。

発電機・高効率&コンパクト・冷却、潤滑方式

軸継手・アライメント・軸系の安定性

発電機取付けシェル・空気流れと高剛性

過給機タービン・高性能

過給機コンプレッサ・高性能

吸込みケーシング・サクションロス&騒音抑制

過給機・高性能(過給機効率、低騒音)・高信頼性(熱変形、剛性、軸振動等)・コンパクト

発電出力&空燃比制御・過給機出力と発電量制御・空燃比制御

4ポール発電機

低損失セラミックス軸受

フレキシブルカップリング採用

外径寸法は標準過給機と

同等

Ⅲ- 96

図 2.2.2-3 ハイブリッド過給機単体試験状況

本ハイブリッド過給機をエンジン搭載した場合の発電効率

について、図 2.2.2-4 に示すようにエンジンのサイクル計算で

求めたコンプレッサ仕事とタービン仕事の差分を発電量とし

て推定した結果を図 2.2.2-5 に示す。過給機で排ガスの余剰

エネルギーを回収するため、ポンピングロスが増加して機関

単体の効率は低下するが、高速発電機の発電量分効率が回復

して最終的に 1.7pt%の効率向上となる。

図 2.2.2-4 ハイブリッド過給機計算法

図 2.2.2-5 ハイブリッド過給機性能推定結果

サイクル計算

エネルギーバランス計算

エンジン

TCG

ターボ発電機

主機発電機

G

排気バイパス弁

0.94

0.96

0.98

1.00

1.02

1.04

1.06

1.08

トー

タル

発電

効率

0

200

400

600

800

1000

0.7 0.8 0.9 1.0 1.1

過給機タービンノズル絞り比

ハイ

ブリ

ッド

過給

機発

電出

力 

 (k

W)

250kW

3.5%アップ(1.7pt%)

トータル発電効率

エンジン発電効率

ハイブリッド過給機発電出力

オリジナルエンジン発電効率

0.6 0.7 0.8 0.9 1.0

発電効率

48 3%

Ⅲ- 97

また、オリジナルエンジン発電効率は 2.1.3.2 項で述べた EGR 付の効率 47.4%に合わせ込みを行った

場合の計算結果を図 2.2.2-6 に示す。この場合エンジン本体の効率が高いため、排ガスエネルギーが

減ってハイブリッド過給機で取り出せる電力が減少するため、効率向上の比率は小さくなるが、総合

の発電効率は 48.6%と前述の結果より高くなる。

図 2.2.2-6 ハイブリッド過給機性能推定結果(エンジン発電効率 47.4%)

050

100150200250300350400

0.9 0.92 0.94 0.96 0.98 1 1.02

過給機タービンノズル絞り比

ハイ

ブリ

ッド

過給

機発

電出

力(k

W)

0.98

0.99

1.00

1.01

1.02

1.03

 ト

ータ

ル発

電効

率比

エンジン発電効率

トータル発電効率

ハイブリッド発電出力

250kW

2.45%アップ(1.2pt%)

オリジナルエンジン発電効率

発電効率

48 6%

Ⅲ- 98

2.2.3 システム実証

コンバインド試験の実施に先立ち、二流体サイクルとハイブリッド過給機の比較した結果を表

2.2.3-1 に示す。表より二流体もハイブリッドも効率向上の観点ではほぼ同等のポテンシャルを有し

ているが、早期実用化の観点からハイブリッド過給機を採用した。

表 2.2.3-1 二流体サイクルとハイブリッド過給機の比較

図 2.2.3-1 にハイブリッド過給機試験の系統図を示す。系統を模擬したディーゼル発電機+付加試

験装置を高速発電機の出力側に設置することにより試験を実施した。

図 2.2.3-1 ハイブリッドターボ試験系統図

実証機Main-Gen.(5,750kW)

T/CL.O.Unit

PowerElectronics(P.E.)

負荷試験装置

負荷試験装置(413kW)

・含PLC(制御装置)

・MET42MAG

・独立潤滑油供給ユニット

・過給機付発電機

電気配線

配管

機械的接合

冷却水(水道水)

Inductor冷却空気(工場雑空気)

冷却水(水道水)

冷却水(水道水)

T/C-Gen(250kW)

実用化に向けての課題効率向上効果概要

・タービンノズルの選定などガスエンジン本体とのマッチング

・ハイブリッドターボ発電量とエンジン負荷の制御方法

+1.7pt%

・過給機前の排ガスからも熱回収する必要があり、排気管内での低圧損な熱交配置が必要

・超臨界水に対し耐食性のある噴射弁針弁、ノズルシート材の選定

+1.6pt%

実用化に向けての課題効率向上効果概要

・タービンノズルの選定などガスエンジン本体とのマッチング

・ハイブリッドターボ発電量とエンジン負荷の制御方法

+1.7pt%

・過給機前の排ガスからも熱回収する必要があり、排気管内での低圧損な熱交配置が必要

・超臨界水に対し耐食性のある噴射弁針弁、ノズルシート材の選定

+1.6pt%

インジェクタ

副室

①二流体サイクル方式

②ハイブリッドターボコンパウンド方式

ガスエンジンの排熱から超臨界水を生成、筒内へ噴射しエネルギー回収

ガスエンジンの排ガスエネルギーからハイブリッド過給機にて発電

超臨界水噴射

高速発電機

従来ターボチャージャ

Ⅲ- 99

図 2.2.3-2 に試験状況を示す。

実証機への搭載状況 実証機全景

制御装置と負荷装置

図 2.2.3-2 試験状況

図 2.2.3-3 にハイブリッド過給機試験結果を示す。図中には EGR 試験で得られた最高効率点も記載

してある。ハイブリッド過給機搭載により機関単体の効率は低下し 47%となるが、発電機の電力によ

り効率が回復してハイブリッド込みの効率で 48.5%を達成した。また、試験中のトラブルにより発電

機が定格の 250kW発電できず、190kW弱の発電量であったが目標の 48.3%は超過達成した。

噴射時期 θinj

図 2.2.3-3 ハイブリッド過給機試験結果

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

NO

x (O

2=0%) p

pm

2deg.CA

パイロット噴射時期 θinj

46.0

46.2

46.4

46.6

46.8

47.0

47.2

47.4

47.6

47.8

48.0

48.2

48.4

48.6

48.8

49.0

発電

効率

最高到達効率48.5%

EGR率=37%

ハイブリッド時機関単体効率

ポンピング効率悪化分

ハイブリッド発電分~約190kW

EGR率=27%

EGR試験結果効率:47.4%

2deg.CA

Ⅲ- 100

次にハイブリッド過給機で 250kWの発電が可能であった場合の発電効率を推定した。まず、排ガス

エネルギー的に 250kWの発電が可能か検討するため、実測値ベースで排気バイパス弁開度と流量など

を合わせ込み、図 2.2.3-4 に示すようにバイパス弁開度とハイブリッド発電出力の関係を計算した。

図よりバルブ全閉となり排ガス全量が過給機タービンに流れる前に開度 14゜で 250kW発電できるこ

とを確認した。

また、この時の発電効率を図 2.2.3-5 に示す。図よりハイブリッド過給機で 250kWの発電ができれ

ば発電効率 48.8%が達成できることが分かった。

図 2.2.3-4 排気バイパス弁開度とハイブリッド過給機出力

噴射時期 θinj

図 2.2.3-5 ハイブリッド 250kW発電時の効率

46.0

46.2

46.4

46.6

46.8

47.0

47.2

47.4

47.6

47.8

48.0

48.2

48.4

48.6

48.8

49.0

発電

効率

最高到達効率48.5%

EGR率=37%

ハイブリッド時機関単体効率

ポンピング効率悪化分

ハイブリッド発電分~約190kW

TIM:410

EGR率=27%

EGR試験結果効率:47.4%

250kW発電時の推定効率:48.8%

実測値

0

50

100

150

200

250

300

350

0 10 20 30 40 50

排気バイパス弁開度 (%)

ハイ

ブリ

ッド

過給

機出

バイパス弁開度14%で250kW発電

2deg.CA

Ⅲ- 101

ガスエンジンコンバインドシステムとして、二流体サイクル、ハイブリッドターボコンパウンドシ

ステムを検討した結果次の結果を得た。

(1) 二流体サイクルに関しては、単気筒試験にて性能を検証した結果、0.7pt%の発電効率向上が確

認された。この結果から、噴射する SCW の条件を最適化することにより 1.6pt%(6MW 級)の効率

向上ができる目処を得た。

(2) ハイブリッドターボコンパウンドについては、筒内のサイクル計算と過給機のエネルギーバラン

スから 1.7pt%(6MW 級)の効率向上の目処を得た。

(3) 経済性および技術のハードルの高さなどを勘案して、ハイブリッドターボコンパウンドを選定し、

6MW 級実証機で検証した結果、発電効率 48.5%を達成した。

(4) 本効率は 8MW 級機関に換算すると 50.2%であり、目標効率 50%以上を達成した。

Ⅳ- 1

Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて

本事業では、発電出力と発電効率共に世界最高レベルとなる天然ガス燃料向けの超高効率ガスエンジン

技術開発とガスエンジンコンバインドシステムの技術開発を目指し、前述のように所定の成果を得た。

次に実用化・商品化にあたっての課題を下記に示す。

・現行ガスエンジンから変更したシリンダカバー、シリンダライナー、ピストンクラウンなど燃焼室周りの部品の

信頼性確保

・上記部品の長時間使用に伴う経年劣化に起因する性能への影響度把握

・実プラント運用条件における対ノッキング性の把握および運転パラメータの調整

・冬場など寒冷期の始動性確認および機関暖気条件の把握

・機関単体だけでなく、脱硝、脱臭装置を含むプラント全体の制御性確認

・各種交換部品の適正なメンテナンス間隔の把握

これらを検証・確認するためには、実プラント運転条件における長時間の実証運転試験が必要である。この

ため、三菱重工業(株)金沢工場内にテストプラントを建設し、実プラント運用下の条件で長期間の実証運転

試験を実施する。具体的には平成 20 年度半ばから運転を開始し、約 1 年間の運転を実施する。図 1 にテス

トプラント建設状況を、図 2 に完成予想図を示す。

図 1.1 杭工事 図 1.2 基礎型枠工事

図 1 テストプラント建設状況

図 2 テストプラント完成予想図

Ⅳ- 2

この間、上記に示すような実プラント条件下の耐ノッキング性、始動性、制御性の確認を行い、運転終了後

の各部品の状況から信頼性確認、メンテナンス間隔の把握を実施する。

8MW 機の開発については、本実証運転試験が完了し信頼性が確認できた時点で、市場動向などを勘案し

て判断する。また、現行ガスエンジンに適用できる技術については順次展開していく。

具体的なスケジュールを表 1 に示す。

表 1 実用化・事業化に向けてのスケジュール

H19 年度 H20 年度 H21 年度 H22 年度

エンジン・システム

開発

テストプラント建設

設置工事

長期実証運転試験

本事業

運開▼

建設・設置

▼事業性判断

現行機に展開