知財学会 1 i8_jpaa中嶋
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1. 改めて地理的表示とは?
2013/11/30 知財学会 第 11 回年次学術研究発表会 2
地理的表示の定義
• 下記の全てを満たす「表示」( TRIPs )製品の原産地を表示原産地に依存する製品の品質や特徴等の特
性 を特定原産地と特性との結びつき(製品と土地
の間に存在するつながり)を特定
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2. 地理的表示の保護: 商標制度か独自の保護制度か
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『地理的表示』 の保護の必要性
原産地の地理的特性に由来する優れた品質を有する伝統的産品:他の産地の製品よりも高い価格で販売できるようになる
無関係な第三者による信用へのただ乗りから の法による保護が必要
農山漁村地域の振興、地域ブランド創出、貿易・経済連携協定の観点からも保護の必要性
) 52013/11/30 5知財学会 第 11 回年次学術研究発表会
農水省の GI 政策
• 「食料・農業・農村基本計画」 (2010.3)決められた産地で生産され、指定された品種、
生産方法、生産期間等が適切に管理された農林水産物に対する表示である地理的表示を支
える仕組みについて検討• 「知的財産推進計画2011」
短期の実施項目:農林水産物・食品に係る地理的表示の保護制度導入に向けた検討を行い、結論を得る
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農水省の GI 政策
• 「『我が国の食と農林漁業の再生のための基本方針・行動計画』に関する取組方針」平成23年度中に有識者等による研究会を発
足平成 24 年 3 月 〜 「地理的表示保護制度研
究会」同年8月に報告書骨子案公表報告書:平成25年11月現在未公表
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独自の保護制度制定の背景
• 集団的権利としての性格『地理的表示』に関する権利:集団的権利(共
同財)→商標制度になじみにくい と考えられる• 「表示」と「品質」の両者を保護する必要性
商標制度:指定商品に係る産地、品質、指定役務に係る提供の場所、質については、原則、商標権者が自由に決定でき、特許庁はコントロール権能を有しない
) 82013/11/30 8知財学会 第 11 回年次学術研究発表会
独自の保護制度制定の背景
• 商標としての登録要件の欠如「地理的に記述的な」表示:識別力や独占
適応性の問題から、殆どの国において、原則として商標登録が認められない
地理的名称を含む表示が個人の独占に適しないことに加え、共同財を個人に帰属させることは不適切
) 92013/11/30 9知財学会 第 11 回年次学術研究発表会
独自の保護制度制定の背景
•その他の政策的理由伝統的産品の消費拡大や観光客誘致を図る
地域振興政策:地域ブランド化歴史的・文化的所産としての伝統的産品の
保護、内外への情報発信(例「クールジャパン」)
農業政策:補助金削減、後継者確保遺伝資源保護や生物多様性保護等との関連
) 102013/11/30 10知財学会 第 11 回年次学術研究発表会
TRIPs 協定
• 第 22条商品の地理的原産地について公衆を誤認させる
ような表示がなされた場合、パリ条約第 10条の 2 に規定する不正競争行為があった場合、加盟国は利害関係人にこれを防止するための法的手段を提供する義務
地理的表示を含む商標:当該表示に係る領域を原産地とせず、原産地に関し誤認を生じさせる場合には、拒絶・無効
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TRIPs 協定
• 第 23条ぶどう酒及び蒸留酒については、公衆の誤認を
要件としないより強力な権利を与える(防止の ための法的手段の確保)(追加的保護) ※法
的手段:行政措置でもよいぶどう酒の地理的表示保護に関し多国間の通報
・登録制度の設立を検討協定発効前 10 年間又は日前に善意で使用して
いた表示:継続使用可( 24条 (4) )) 122013/11/30 12知財学会 第 11 回年次学術研究発表会
TRIPs 協定
• 第 24条:各種の国際交渉及び保護の例外保護強化のための交渉、実施状況のレビューWTO 協定発効前の GI 保護:本節の影響を受けない本節適用日 orGI の本国での保護前に善意で出願 or 登録
された商標: GI と同一・類似であることを理由に保護を害されない( GI →の拒絶:規定なし 併存可)
一般名称、異議申立期間の制限、自己の氏名の使用原産地で保護されない GI :保護義務なし
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TRIPs 協定下での保護態様
• 国内的保護に関するミニマムスタンダード• 各国における保護の態様
不正競業法及び消費者保護法による規制証明商標制度、団体商標制度:商標制度による保
護独自の (sui generis) 登録保護制度政府の販売承認を必要とする商品:不正に地理的
表示が使用されているものの販売を承認しない
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商標制度による保護
• 団体商標制度による保護:(地域)団体商標共有財:主体要件、権利移転等を制限特定の地理的領域を原産地とする産品について限定的に識別力を獲得している場合
•証明商標制度による保護:わが国にはなし識別標識としてではなく、認証標識として保護権利主体、使用主体を制限権利者による品質保証:間接的に品質も保護
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EU の地理的表示保護制度
• 1992 年創設(理事会規則第 2081/92号)• 2 度の改正
2006 年 ( 理事会規則第 510/2006号)2012 年(農産品及び食品の品質スキームに関
する 2012 年 11 月 21 日の欧州議会及び理事会規則 (EU) No 1151/2012 )
) 162013/11/30 16知財学会 第 11 回年次学術研究発表会
EU の登録保護制度
• 登録の効果明細書に合致する産品の生産者は、管理団体のチェックを受けることを条件に誰でも登録名称を使用することが可能
対象外の産品への登録名称の使用禁止「 style 」「 type 」等を伴うもの、翻訳等の使
用も禁止登録名称の不正使用:正当権利者による権利行使+行政当局による取締りの対象
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3.わが国の現状
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国内法
• 表示規制原産地誤認惹起行為の規制:不競法 2条 1 項
13号原産地について虚偽表示が付された外国貨物の禁輸:関税法第 71条 1 項
商品の原産国に関する不当な表示の禁止:公取委告示第 34号 (1973.10.16)
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国内法
• JAS 品質表示基準制度生鮮食品品質表示基準(農水省)
原産地の表示を義務づけ → →原則:国産品 都道府県名、輸入品 原産国名
加工食品品質表示基準(消費者庁)輸入品の場合、原産国名表示を義務づけ表示の対象:原材料に占める重量が大きいも
のから少なくとも2つ
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国内法
• 商標制度地域団体商標制度: 2006 年施行、平成 25
年 9 月 12 日現在、 560 件の登録査定証明商標制度:制定されていない
• 酒団法TRIPs 協定第 23条履行のため:所定の表
示について当該表示の表示する産地以外を 産地とするものについて使用できない
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品質保証制度
• 「 sui generis 」型制度を含め、国の制度としては存在しない
• 自治体や公益財団法人等が運営する制度本場の本物
http://www.shokusan.or.jp/honbamon/
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「本場の本物」
伝統的に培われた「本場」の製法で、地域資源となっている当該地域特有の食材を用いることにより、「本物」の味として消費者からの支持を得ている地域食品をブランドとして確立
地域の団体等が表示基準を策定、申請後、「審査専門委員会」による審査を経て認定
認定産品:「本場の本物」マークを使用可、基準の遵守を「第三者認証機関」が定期的に確認:原材料及び製法を保証し、消費者の選択に資する
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4. 独自の保護制度導入に向けて5.想定される論点
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地理的表示保護制度研究会
• わが国の実情にあった保護制度導入に向け留意すべき点シンプルで我が国の実情にあったものであること地域団体商標制度等の既存制度に基づく取組を更
に発展させるものであること選択可能なものであることEU や米国等の諸外国の理解を得られるものであ
ること
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地理的表示保護制度研究会
• 検討事項の各論対象とする産品の範囲地理的表示の保護の対象保護内容登録手続、登録審査品質管理措置、担保措置商標との関係
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『地理的表示』の保護を巡る国際情勢
• 二国間、複数国間協議による「制度の輸出」WIPO 、 WTO における条約改正交渉の難航TRIPs :二国間、複数国間交渉における合意:
GATT 等と異なり、最恵国待遇の例外とならない→有利な条件を「囲い込めない」代わりに、他のWTO解明国にも適用される(自国制度の「輸出」)
二国間、複数国間交渉における「 TRIPsプラス条項」の制定が注目されている
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我が国をめぐる RTA と GI
• EPA における地理的表示の保護に関する条項チリ、ブルネイ、タイ、ベトナム、スイス、インド、ペルーとの EPA :知財章にGI 保護に関する規定あり
メキシコとの EPA :知財章はないが GI 保護に関する条項あり
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我が国をめぐる RTA と GI
• TPP2013 年 8 月末時点の秘密交渉草案と思われ
る文書が流出米国提案に対し多くの反対、修正意見賛否が入り乱れている模様
• 日本 EU EPA地理的表示の保護:重要な審議事項となる模様
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TPPリークテキストの内容
• 2011 年 2 月 10 日 TPP米国知的財産条文案http://keionline.org/sites/default/files/tpp-
10feb2011-us-text-ipr-chapter.pdf
• Wikileaks掲載の秘密交渉草案2013 年 11 月 13 日掲載http://www.wikileaks.org/tpp/8 月 30 日時点案
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秘密交渉草案リーク文書
• 条項ごとの交渉国の賛否が明確化• GI の商標登録適格性の規定
日本は義務付けに反対• 独自の保護制度による保護
米国等も反対していない• 異議申立
異議理由について若干意見が分かれている
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秘密交渉草案リーク文書
• 権利範囲ぶどう酒、蒸留酒以外:翻訳、想起語、複合語
の一部への権利の制限:意見が分かれている普通名称化からの保護:意見が分かれる
• 一般名称・慣用名称判断基準:一部で意見が分かれている
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秘密交渉草案リーク文書
• 商標との関係GI の存在のみを理由に登録、更新を拒絶しな
→い 米国のみ支持国名の保護
産品との関係において、原産地について消費者を誤認させるような締約国の国名の商業的使用を防止するための法的手段を整備
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秘密交渉草案リーク文書
• ぶどう酒、蒸留酒に係る表示真正の原産地を表示しない場合であって
も、使用ができ、登録が受けられる場合を規定:米国のみが主張
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商標制度による『地理的表示』保護の課題
• 地域団体商標制度標章と品質の両者を保護する仕組みではない品質保証の仕組みがないことへの不満制度趣旨:発展途上の地域ブランド化の支援商標権者による「不正使用」⇒収獲不足への
対応、過大注文への対応、コストダウンのために他地域産品への商標使用
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地域団体商標との「併用」
• 表示は地域団体商標で、品質保証は「本場の本物」で「本場の本物」認定件数の 1/3程度「本場の本物」:募集期間が短い、審査が厳格主体的要件の違い農水省:品質基準策定支援事業を計画中
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地理的表示保護制度研究会(農水省)
• 報告書骨子案:目的と期待される効果知的財産である地域ブランド産品を活用
した農山漁村の活性化消費者の選択に資する地域ブランド産品
についての情報提供我が国の地域ブランド産品の輸出促進海外における我が国の地名を付した模倣
産品の流通の防止
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欧州型登録保護制度の導入に向けて
•意義国内の伝統的産品について、名称と品質の
両者を保護する制度の導入→地域ブランド化、六次産業化の促進、高付加価値産品のバリューチェーンの確立に貢献
海外での日本の『地理的表示』保護:海外制度の利用、貿易関連協定における相手国での保護を受けるために、国内制度の導入は前提:海外制度との「インターフェース」
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欧州型登録保護制度の導入に向けて
• 想定される論点 権利付与型? 表示規制型?保護の水準:誤認混同を使用禁止の要件と
する TRIPs 協定第 22条レベルとするか、誤認混同の有無を問わず禁止する TRIPs協定第 23条レベルとするか
翻訳、複合語の一部、想起される用語に権利が及ぶか?
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欧州型登録保護制度の導入に向けて
• 想定される論点地域との関連性の水準: EU規則における
PDOレベルとするか PGIレベルとするか審査体制及び品質確保の体制の整備
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商標との関係
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