新しい 1 sdgsへの取り組み...

4
時代が変わっても国際会議の本質とその 目的は不変だが、テクノロジーの進化や社 会的な課題の顕在化を背景に、運営・実 施の手法は変化し続けている。本章では、 持続可能な開発目標(SDGs)を指針とし た社会課題に対する取り組みと、ITの活 用手法を紹介。加えて、近年注目されてい るユニークベニューの活用利点と活用時 の留意点について記載する。 10 1 SDGsへの取り組み p.088 2 ITの活用 p.089 10 | 087 2020 年時点における 新しい 課題と対策 3 ユニークベニュー p.090

Upload: others

Post on 18-Sep-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 新しい 1 SDGsへの取り組み 課題と対策...時代が変わっても国際会議の本質とその 目的は不変だが、テクノロジーの進化や社 会的な課題の顕在化を背景に、運営・実

時代が変わっても国際会議の本質とその

目的は不変だが、テクノロジーの進化や社

会的な課題の顕在化を背景に、運営・実

施の手法は変化し続けている。本章では、

持続可能な開発目標(SDGs)を指針とし

た社会課題に対する取り組みと、ITの活

用手法を紹介。加えて、近年注目されてい

るユニークベニューの活用利点と活用時

の留意点について記載する。

第10章

1 S DG s への取り組み p.088

2 I T の活用 p.089

|第 10章 | 

2020年時点における新しい課題と対策

087

2020年時点における新しい課題と対策

3 ユニークベニュー p.090

Page 2: 新しい 1 SDGsへの取り組み 課題と対策...時代が変わっても国際会議の本質とその 目的は不変だが、テクノロジーの進化や社 会的な課題の顕在化を背景に、運営・実

088

1 S DG s への取り組み

国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載されたSDGsは、持続可能でよりよい世界を目指す国際指標である。世界各地から参加者が集まる国際会議でも、SDGs提唱以前から移動や開催に伴う二酸化炭素排出量が懸念され、さまざまな対策が講じられてきた。例えばこれまでに、CO2発生量の可視化と相殺を目的とした「カーボンオフセット」や廃棄物低減を目指す取り組みなどを採用した国際会議も多いが、経費とのバランスや準備期間不足を理由に、すべてのケースで万全に実行されたとは言いがたい。昨今では、主催者がより具体的な対策を提示し、また、対応状況を積極的に発信することで、会議並びに主催者

の価値を向上させるケースもある。実行するうえでは、SDGsの目的や意識を主催者側関係者が共有し、その重要性を理解したうえで、過去の事例から手法を学び、取り入れることが求められているといえるだろう。国際会議開催地としてSDGsに対する具体的な対応策を提示している自治体やコンベンションビューローでは、

施策や事例をマニュアル化している。まずはそういった資料を参照して着手可能なことを考察し、できることから少しずつでも実行に移していくことが重要である。

実施例として、以下のような取り組みが挙げられる。

(1)環境への配慮① ペーパーレス:配布物の電子化、印刷物の廃止、アンケート等の電子化② 廃棄物の削減:サイン看板の電子化、リサイクル可能な素材の利用③ プラスチックごみの削減:ペットボトル不使用、マイボトル使用推奨、マイボトルの配布、ウォーターサーバーの設置、配布物のプラスチック不使用、ネームカードケースの回収・再利用

④ 飲食の配慮:食べ残しの削減、地産地消を原則とした環境負荷の低い食材の採用

(2)地域・ステークホルダーとの連携① 地産素材の活用② 地域団体の協力によるプログラムの実施:ウォーキングシティーツアーなど③ 地域ボランティアとの連携

(3)多様性に対する対応① 非差別実施の徹底② フードダイバーシティ:ベジタリアン、ビーガン、ハラール、コーシャ等への対応

Page 3: 新しい 1 SDGsへの取り組み 課題と対策...時代が変わっても国際会議の本質とその 目的は不変だが、テクノロジーの進化や社 会的な課題の顕在化を背景に、運営・実

|第 10章 | 

2020年時点における新しい課題と対策

089

2 I T の活用

インターネットの普及と社会の急速なデジタル化に伴い、国際会議の準備や当日運営の手法は変化してきた。現在では、事前参加登録や演題投稿のオンライン化は当然のこととなったが、スマートフォンに代表されるモバイルデバイスの急激な普及を背景に、より統合されたモバイルツールも登場している。その代表例は、参加者が必要な情報にいつでも気軽にアクセスできるモバイルアプリといえるだろう。スマホアプリであれば、各自のモバイルデバイスにダウンロードして基本情報を登録するだけで、かつては印刷物

で提供されていたスケジュール表や会場フロアプラン、プログラム内容といった情報にいつでもアクセスできる。加えて、よりパーソナライズされた情報をリアルタイムで閲覧できる機能を導入しているケースもある。例えば、プッシュ型リマインダーを活用すれば、参加者は演題締め切り日や参加セッション開始時間のスケジュール管理などが容易に行えるようになる。スマホアプリは、アンケートにも活用されており、セッション終了時に回答を求めれば、リアルタイムで集計結果を

把握することも可能となる。さらに、参加者同士で面談アポイントを取れるなど、参加者同士のコミュニケーションツールとして活用できるア

プリもある。日本での導入例はまだ少ないが、国際会議は昨今、発表や聴講のみならず参加者同士のネットワーキングが重視される傾向にあるため、今後はコミュニケーション支援機能をアプリに組み込むことも重視されるだろう。実際、スマホアプリを活用したマッチングシステムを参加者メリットとして打ち出す主催者も出てきており、外部SNSと連動させることで、参加者同士の直接交流を促す事例も見られる。インターネットやスマホアプリなどを活用した情報の電子化は、更新が容易であることに加え、紙資源の削減に

も貢献する。スマホアプリは、基本機能を備えたパッケージを入手することも可能なので、会議ごとにカスタマイズされた新規アプリの開発にとらわれず、既成アプリの活用も視野に入れることが望ましい。

モバイルアプリの実例

2018 年 5月開催「第11回 言語リソースと評価に関する会議」(LREC 2018)

情報提供ツールとしてのスマホアプリ会議用スマホアプリだけでなく、開催地情報の取得に役立つアプリを参加者に提供することも重要である。例えば、観光庁監修で開発された「Safety tips」は、日本国内の緊急地震速報や津波警報、噴火速報、特別警報、熱中症情報、国民保護情報を通知する無料アプリである。それらの情報が、日本語、英語、中国語(繁・簡)、韓国語、スペイン語、ポルトガル語、ベトナム語、タイ語、インドネシア語、タガログ語、ネパール語の11カ国語12 言語で提供されている。緊急情報だけではなく、乗り換え案内や観光情報にもリンクしているため、参加者の安全性を担保すると同時に、開催地での活発な活動を促すことにもつながるはずである。Safety tips は、Japan Offi cial Travel App にも連動している。

観光庁監修で開発された「Safety tips」https://www.mlit.go.jp/kankocho/news08_000290.html

Page 4: 新しい 1 SDGsへの取り組み 課題と対策...時代が変わっても国際会議の本質とその 目的は不変だが、テクノロジーの進化や社 会的な課題の顕在化を背景に、運営・実

090

3 ユニークベニュー

海外の国際会議では、レセプションなどのイベントを主会場周辺の歴史的建造物で開催することが多い。しかし、日本ではさまざまな規制がネックとなり、観光ツアー以外のイベントの実施は実現が難しかった。ところが近年では、開催地への造詣を深める機会を提供する、海外からの参加者の満足度を高める、希薄にな

りがちな参加者と開催地の接点を設ける、といった観点から有用であるとの認識が一般に浸透し、国際会議で使用可能な歴史的建造物や文化施設、公的空間が増加してきた。ユニークベニューのタイプは、以下の通りである。

歴史的建造物・庭園・公園・神社仏閣等、文化財価値のある施設美術館・博物館・水族館等の文化施設商店街や鉄道など、開催地の生活空間・施設前記に含まれない、特別感のある空間・施設 

いずれの会場も、通常営業とは異なるスタイルで使用する場合には、ホテルや料飲施設より事前準備の手間がかかり、運営コストが高くなる傾向にあるため、詳細条件の確認と費用を含む運営計画の検討が必須である。開催地のコンベンションビューローは、当地ユニークベニューを把握しており、イベント開催実績があれば事例か

ら学ぶこともできる。適切な会場選択のために、まずはコンベンションビューローに相談することをおすすめする。

ユニークベニューを利用する場合の留意点・目的の確認まず、どのイベントにどのユニークベニューを利用するかを検討し、そのユニークベニューを選択する意味と目的を明確にすること。それにより、そのユニークベニューが有する施設や設備の中でも活用すべきポイントが明確になると同時に、費用面での優先順位を決定する際の指針にもなる。また、通常のイベントと同様に、人数が多くなるほどリスクが増大する点にも留意したい。ユニークベニュー利用による負荷を負えるだけの運営体制が整っていることも重要である。

・実施スケジュールとコストユニークベニューを通常営業とは異なるスタイルで使用する場合、事前準備時間などに制限が設けられているケースが多いので注意すること。また、備品使用料なども含めた総費用が予算内であることを確認することも重要だ。

・参加者への情報開示開催場所の情報を事前に参加者に開示すること。移動手段や移動経路などの情報はもちろん、会場に適した服装など、参加者が事前に知っておく必要がある情報があれば、的確かつ明確に伝達しておくことが不可欠である。

ユニークベニュー紹介資料文化庁https://www.bunka.go.jp/tokei_hakusho_shuppan/shuppanbutsu/bunkazai_handbook/JNTOhttps://mice.jnto.go.jp/organizer-support/unique-venue.html