強い農業の創造¾²業所得 1,822.4 1,629.8 1,363.5 1,808.8 1,967.2 施設野菜作経営...

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強い農業の創造 2

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強い農業の創造

第2章

農業の構造改革の推進第1節農業の競争力を強化し、持続可能なものとするためには、農業の構造改革を加速化することが必要となっています。以下では、農業所得 1の動向、農地の集積・集約化 2、担い手の育成・確保、人材力の強化、女性農業者の活躍等について記述します。

(1)農業所得の動向

(農業所得に影響を及ぼす交易条件指数は2年連続で上昇し、所得向上の方向に作用)農業生産に必要な資材の小売価格を指数化した農業生産資材価格指数を見ると、平成28(2016)年は、畜産用動物等の価格が上昇したものの、飼料、光熱動力等の価格が低下したことから、前年に比べ1.5ポイント低下の98.5となりました(図表2-1-1)。一方、農家が販売する個々の農産物の価格を指数化した農産物価格指数を見ると、平成28(2016)年は、米、野菜等の価格が上昇したことから、前年に比べ7.4ポイント上昇の107.4となりました。このような状況を反映し、農産物と農業生産資材の価格の相対的な関係の変化を示す農業の交易条件指数は109.0と2年連続で上昇し、所得向上の方向に作用しました。

図表2-1-1 農業物価指数と農業の交易条件指数(平成27(2015)年を100とする指数)

98.5

84.1

107.4

93.9

109.0111.7

農業生産資材価格指数(総合)

農産物価格指数(総合)

農業の交易条件指数

28(2016)

平成18年

(2006)

1201151101051009590858075 0

19(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

資料:農林水産省「農業物価統計」注:農業の交易条件指数=農産物価格指数(総合)÷農業生産資材価格指数(総合)×100

(1経営体当たりの農業所得は直近5年間で最高を記録)平成28(2016)年の個別経営体と組織法人経営体の調査結果を基に作成した1経営体当たりの農業所得を主な営農類型別に見ると、前年に比べて、いずれの営農類型でも増加しており、直近5年間で最高を記録しました(図表2-1-2)。水田作経営については、需要に応じた生産の推進により、平成28(2016)年産米の価格が上昇したこと等から、平成28(2016)年の1経営体当たりの農業所得は前年を22.6%上回る78万円となりました。また、作付延べ面積が20ha以上の水田作経営の農業所得は1,967万円となっています。

1 用語の解説 2(3)を参照2 用語の解説 3(1)を参照

108

第1節 農業の構造改革の推進

施設野菜作経営については、加工用や業務用への国産野菜を求める実需者ニーズへの対応により価格が上昇したこと等から、農業所得は前年を12.4%上回る573万円となりました。また、作付延べ面積が1ha以上の施設野菜作経営の農業所得は1,664万円となっています。果樹作経営については、夏場の少雨等で生産量が減少する一方、高糖度等の品質への評価が高まったことを受け、総じて価格が上昇したこと等から、農業所得は前年を20.1%上回る253万円となりました。また、果樹植栽面積が3ha以上(組織法人経営体は5ha以上)の果樹作経営の農業所得は911万円となっています。酪農経営については、生乳価格の上昇、搾乳牛1頭当たり乳量の増加、副産物である子牛の価格の上昇等から、農業所得は前年を38.5%上回る1,558万円となりました。また、搾乳牛飼養頭数100頭以上の酪農経営の農業所得は4,771万円となっています。肥育牛経営については、需要が堅調に推移するとともに、和牛改良の進展や飼養管理技術の向上等により高品質化等が進み、肥育牛価格が上昇したこと等から、農業所得は前年を72.6%上回る2,239万円となりました。また、肥育牛飼養頭数200頭以上(組織法人経営体は300頭以上)の肥育牛経営の農業所得は7,415万円となっています。

図表2-1-2 主な営農類型別の農業所得(単位:ha、頭、万円)

平成24年(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

28(2016)

水田作経営 水田作作付延べ面積 1.69 1.77 1.83 1.92 2.01農業所得 70.2 61.5 34.3 63.3 77.6

20ha以上水田作作付延べ面積 34.34 35.30 36.04 40.20 42.24農業所得 1,822.4 1,629.8 1,363.5 1,808.8 1,967.2

施設野菜作経営 施設野菜作作付延べ面積 0.47 0.47 0.47 0.51 0.53農業所得 451.2 445.1 429.5 509.9 572.9

1ha以上施設野菜作作付延べ面積 2.20 2.31 2.49 2.72 2.85農業所得 843.1 863.9 1,051.5 1,270.1 1,663.6

果樹作経営 果樹植栽面積 1.00 0.99 1.01 1.03 1.05農業所得 198.8 197.3 188.8 210.3 252.6

3ha以上(組織法人は5ha以上)

果樹植栽面積 4.44 4.73 4.62 4.69 4.98農業所得 615.0 674.3 686.0 711.2 911.2

酪農経営 搾乳牛飼養頭数 47.4 48.1 49.3 51.0 51.8農業所得 711.3 806.7 900.5 1,125.0 1,558.2

100頭以上搾乳牛飼養頭数 170.2 185.4 192.4 200.6 196.0農業所得 2,125.3 2,539.8 2,689.0 3,174.2 4,771.0

肥育牛経営 肥育牛飼養頭数 209.7 219.9 230.5 241.6 217.3農業所得 1,669.1 1,298.1 688.0 1,297.1 2,239.3

200頭以上(組織法人は300頭以上)

肥育牛飼養頭数 829.7 877.3 769.2 1,139.9 989.9農業所得 4,514.5 3,609.2 1,201.2 4,480.1 7,415.3

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計」を基に作成注:1)個別経営体と組織法人経営体の調査結果を母集団(農林業センサス)の経営体数で加重平均した1経営体当たりの結果

2)営農類型は、最も多い農業生産物販売収入により区分した分類。なお、水田作経営は、稲、麦類、雑穀、豆類、いも類、工芸農作物の販売収入のうち、水田で作付けした農業生産物の販売収入が他の営農類型の農業生産物販売収入と比べて最も多い経営

109

第2章

食料・農業・農村基本計画(以下「基本計画」という。)においては、農業生産額の増大や生産コストの縮減による農業所得の増大に向けた施策を推進するとされています。平成28(2016)年の生産農業所得 1は前年に比べ5千億円増加の3兆8千億円となりました 2。なお、生産農業所得から雇用賃金相当額、支払利子・地代相当額、経常補助金等を控除した労働農業所得(家族)は、平成28(2016)年において2兆円で、そのうち経営主に帰属する部分である労働農業所得(経営主)は1兆3千億円と試算されています。また、基本計画においては、6次産業化 3等を通じた農村地域の関連所得4の増大に向け

た施策を推進するとされています。日本再興戦略(平成25(2013)年6月閣議決定)において2020年度に6次産業化の市場規模を10兆円とすることが目標とされています。平成27(2015)年度の6次産業化の市場規模は前年度に比べ4千億円増加の5兆5千億円となっており、これから試算される農村地域の関連所得は同2千億円増加の1兆5千億円となります。

(2)農地中間管理機構の活用による農地の集積・集約化

(農地面積、作付延べ面積ともに緩やかに減少し、耕地利用率は横ばいで推移)我が国の農地面積は、平成29(2017)年においては前年に比べ2万7千ha(0.6%)減少の444万4千haとなり、近年、緩やかな減少が続いています(図表2-1-3)。作付(栽培)延べ面積も緩やかな減少が続いており、この結果、耕地利用率は近年92%で推移しています。担い手が不足している地域では新規就農者や集落営農組織の確保・育成、企業の参入等を図りつつ、担い手への農地の集積・集約化を進め、我が国の限られた農地を有効に利用していくことが重要です。

図表2-1-3 農地面積、作付(栽培)延べ面積、耕地利用率

その他飼肥料作物

麦類

果樹野菜豆類

水陸稲

万ha

作付(栽培)延べ面積

60

9008007006005004003002001000

444

耕地利用率(右目盛)%140

120

100

80

91.7

123.8133.9

昭和35年(1960)

29(2017)

40 45(1970)

50 55(1980)

平成2(1990)

7 12(2000)

17 22(2010)

27 28(2016)

農地面積607 600 580 557 546 538 524 504 483 469 459 450 447

108.9 103.3 104.5 105.1 102.0 97.7 94.5 93.4 92.2 91.8

資料: 農林水産省「耕地及び作付面積統計」注:1)耕地利用率(%)=作付(栽培)延べ面積÷耕地面積×100

2)その他は、かんしょ、雑穀、工芸農作物、その他作物

1 用語の解説 1を参照2 農林水産省「生産農業所得統計」3、4 用語の解説 3(1)を参照

110

第1節 農業の構造改革の推進

(荒廃農地面積は、横ばいで推移)市町村と農業委員会が調査した荒廃農地 1の面積は、平成28(2016)年においては28

万1千haとなり、このうち再生利用が可能なもの(遊休農地 2)が9万8千ha、再生利用が困難と見込まれるものが18万3千haとなっています(図表2-1-4)。地域における定期的な話合いを通じ、リタイアを考えている高齢者等の農地を担い手に集積することで荒廃農地の発生を未然に防ぐとともに、担い手や農地中間管理機構(以下「機構」という。)による雑木除去等の取組を支援する事業を活用すること等により、荒廃農地の解消を進めることが重要です。

図表2-1-4 全国の荒廃農地面積(単位:万ha)

平成20年(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

28(2016)

荒廃農地面積計 28.4 28.7 29.2 27.8 27.2 27.3 27.6 28.4 28.1

再生利用が可能な荒廃農地 14.9 15.1 14.8 14.8 14.7 13.8 13.2 12.4 9.8

再生利用が困難と見込まれる荒廃農地

13.5 13.7 14.4 13.0 12.5 13.5 14.4 16.0 18.3

資料:農林水産省「荒廃農地の発生・解消状況に関する調査」注:1) 「再生利用が可能な荒廃農地」とは、抜根、整地、区画整理、客土等によって再生することにより、通常の農作業による耕作が可能

となると見込まれる荒廃農地2)「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地」とは、森林の様相を呈しているなど農地に復元するための物理的な条件整備が著しく困難

なもの、又は周囲の状況から見て、その土地を農地として復元しても継続して利用することができないと見込まれるものに相当する荒廃農地

3)平成27(2015)年までは推計値。平成28(2016)年は実績値

(担い手に対する農地の利用集積率は、前年度に比べ1.7ポイント上昇の54.0%)農業の競争力を強化し、持続可能なものとするためには、機構が地域内に分散・錯

さく綜そうす

る農地を借り受け、これをまとまりのある形で担い手が利用できるよう配慮して貸し付ける、農地の集積・集約化が重要です。担い手に対する農地の利用集積率は、機構を中心として、農地利用集積円滑化団体や農業委員会等様々な主体が農地の利用集積に向けて取組を進めた結果、平成28(2016)年度においては前年度に比べ1.7ポイント上昇し54.0%となりました(図表2-1-5)。機構の平成28(2016)年度の実績(フロー)は、条件の良い平場での機構の活用や集落営農組織の法人化に合わせた機構の活用など取り組みやすいケースが一巡する中で農地の出し手・受け手の掘り起こしが十分に行われなかったことから、転貸面積で前年度に比べ3.4万ha(43.6%)減少の4.3万haとなり、この結果、機構の平成28(2016)年度末の累計の転貸面積(ストック)は14.2万haとなりました(図表2-1-6)。担い手に対する農地の利用集積率については、2023年度までに8割に引き上げる目標が設定されており、この実現に向けて機構の取組を加速化していくことが必要です。このため、農地利用最適化推進委員 3の機構と連携した積極的な現場活動、農業者の申請・同意・費用負担によらない機構借入農地の基盤整備等、相続未登記農地の担い手に対する集積を図るための条件整備等を推進しています。

1、2 用語の解説 3(1)を参照3 第 2 章第 6節(2)を参照

111

第2章

図表2-1-5 担い手に対する農地の利用集積率農地面積に占める担い手の利用面積 %

担い手の農地利用集積率(右目盛)

7006005004003002001000

54.054.050.350.348.748.7

38.538.5

27.827.8

447447

万ha55

50

45

40

35

30

0

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「集落営農実態調査」(組替集計)、農林水産省調べを基に作成

注:1)農地中間管理機構以外によるものを含む。2)各年度末時点3)「担い手の利用面積」とは、認定農業者(特定農業法人を

含む。)、認定新規就農者、市町村基本構想の水準到達者、集落営農経営(平成15(2003)年度から)が所有権、利用権、農作業受託(集落営農経営は農作業受託のみ)により経営する面積

平成12年度

(2000)

17 22(2010)

23 24(2012)

25 26(2014)

27 28(2016)

48.148.1 47.947.9 48.848.852.352.3

483483 469469 459459 456456 455455 454454 452452 450450

134134181181 221221 219219 222222 221221 227227 235235 241241

図表2-1-6 農地中間管理機構の実績(転貸面積・累計値)

フロー4.3万ha

フロー7.7万ha

15

10

5

0

14.2

10.0

2.4

万ha

28(2016)

平成26年度(2014)

27(2015)

資料:農林水産省調べ注:1)各年度末時点で農地中間管理機構が転

貸している面積の累計値  2)フローについては、単年度中に農地中

間管理機構が転貸した面積

(簡易な手続により相続未登記農地に利用権設定が可能となる法案を国会に提出)近年、農地所有者の死亡後に、相続人が所有権移転の登記を行っていない相続未登記農地等が増えており、平成28(2016)年8月の全農地を対象とした調査の結果、この面積は全農地面積の2割に相当する93万4千ha1に上ることが明らかになりました 2。このうち遊休農地は6%に相当する5万4千haに過ぎず、ほとんどの農地では耕作が行われています。しかし、農業者のリタイアにより農地の貸借を行おうとした場合、関係する相続人を探した上で、その持分の過半を有する者から同意を得る必要があるなど、多大な労力が必要となることから、貸借が断念されるケースもあり、このような相続未登記農地の存在が担い手への農地の集積・集約化を進める上での阻害要因の一つになっています。このため、相続人の一人 3が簡易な手続で機構に最長20年間の利用権を設定可能とするため、「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律案」を国会に提出しました。さらに、相続されたものの登記が行われなかったり、相続自体が放棄されたりすることで発生・拡大する所有者不明土地の問題は、農地を含む土地全般の課題となっていることから、登記制度や土地所有権の在り方等の中期的課題として政府全体で検討を進めています。

1 登記名義人が死亡していることが確認された農地の面積は約 47万 7千 ha、登記名義人が市町村外に転出し既に死亡している可能性があるなど、相続未登記のおそれのある農地の面積は約 45万 8千 ha

2 農林水産省調べ3 固定資産税等の管理費用を負担している者等

土地の登記事項証明書(抜粋イメージ)

112

第1節 農業の構造改革の推進

(高齢農業者の意向を速やかに把握できるよう、定期的な話合いが重要)集落や地域が抱える人と農地の問題を解決するため、地権者や担い手の参加を得た話合いを通じ、地域農業を担う経営体や地域の在り方等をまとめた未来の設計図となる「人・農地プラン 1」の作成が進められています。平成29(2017)年3月末時点における、人・農地プランを作成した地域がある市町村数は1,580、人・農地プラン作成済みの地域数は1万4,511となり、これら地域のうち機構の活用方針が明らかになっているものは80%に相当する1万1,624となっています(図表2-1-7)。話合いの際に農地を貸し出す意思表示をしていなかった高齢農業者が、健康状態の悪化等から、その1年後には農地を貸したいと心境が変化することもあり得ます。このような農地が荒廃することなく円滑に担い手に集積・集約化されるよう、人・農地プランの見直しと機構の活用に向けて、定期的に話合いの機会が持たれることが重要です。

図表2-1-7 人・農地プランの作成数

平成25年(2013)

26(2014)

27(2015)

28(2016)

29(2017)

人・農地プランを作成した地域がある市町村数 1,312 1,498 1,532 1,565 1,580人・農地プラン作成済みの地域数 7,573 11,812 12,860 13,845 14,511農地中間管理機構の活用方針が明らかになっている地域数 - - 7,182

(56%)10,265(74%)

11,624(80%)

資料:農林水産省調べ注:1)各年3月末時点

2)平成29(2017)年の進捗率は、作成済み市町村で99%(作成予定市町村1,591に対する割合)、作成済み地域で97%(作成予定地域15,000に対する割合)

(3)担い手の育成・確保

平成28(2016)年の新規就農者数は6万150人と2年連続で6万人を超え、新規雇用就農者も1万680人と2年連続で1万人を超えました 2。

(農業経営体数が一貫して減少する中、1経営体当たりの経営規模は着実に増加)農業経営体 3の数は一貫して減少し、平成29(2017)年においては前年に比べ6万

(4.6%)減少の125万8千経営体となり、このうち販売農家 4は同6万2千(4.9%)減少の120万戸、法人経営体 5は1千(4.8%)増加の2万2千経営体となりました 6。農業経営体数の減少は農産物の生産減少につながる懸念がある一方で、経営規模の拡大を志向する経営体にとっては農地等の経営資源を獲得する好機となります。農林業センサスにより近年の1経営体当たりの経営規模の推移を見ると、田、畑、樹園地の経営耕地面積、牛、豚の飼養頭数のいずれも着実に拡大しています(図表2-1-8)。法人経営には、従業員を集めやすい、経営継続がしやすいなどの利点があることから、大規模農家や集落営農組織を中心に、農業経営を法人化する経営体が徐々に増えていま

1 用語の解説 3(1)を参照2 農林水産省「新規就農者調査」。49歳以下の新規就農者の動向は、特集 4(1)を参照3 用語の解説 1、2(1)4 用語の解説 1、2(2)5 法人の組織経営体のうち販売目的のものであり、一戸一法人は含まない。6 農林水産省「農業構造動態調査」

113

第2章

す。法人経営体数については、2023年までに5万法人とする目標が設定されており、農業委員会や都道府県農業委員会ネットワーク機構等により、法人経営の利点や制度上の優遇措置への理解の深化、税理士等による相談や法人化手続の支援の更なる周知が求められています。

図表2-1-8 1経営体当たりの経営規模(平成17(2005)年を100とする指数)

27(2015)

22(2010)

平成17年(2005)

180

160

140

120

100

146

173

131

117

145142

畑畑

田田

肉用牛肉用牛

乳用牛乳用牛

樹園地樹園地

豚豚

資料:農林水産省「農林業センサス」を基に作成注:各年の1経営体当たりの経営規模は次のとおり集計

田は、田の経営耕地面積÷田の経営耕地のある経営体数畑は、畑の経営耕地面積÷畑の経営耕地のある経営体数樹園地は、樹園地の経営耕地面積÷樹園地の経営耕地のある経営体数乳用牛は、乳用牛の飼養頭数÷乳用牛飼養経営体数肉用牛は、肉用牛の飼養頭数÷肉用牛飼養経営体数豚は、豚の飼養頭数÷豚飼養経営体数

産業用ガスの販売を行うエア・ウォーター株式会社は、北海道千

ち歳とせ市しにおいて、平成23(2011)年4月、子会社とし

て株式会社エア・ウォーター農園を設立し農業生産に参入しました。放置されていたトマト用の温室7haを再生して始まった農業生産では、安定した販路と販売リスクの分散に重点が置かれ、トマト栽培を4haに限定しつつ、その半分をカゴメ株式会社との契約栽培とし、これにベビーリーフ等を組み合わせることとなりました。また、暖房費を抑えるためトマトの収穫を11月で終える決断をしたこと等から、同社では平成28(2016)年度から単年度黒字が実現しています。パート社員は、札

さっ幌ぽろ市しのベッドタウンとして人口が増加し

ている千歳市等から通年社員80人、期間限定社員60人が集まり、地域の雇用創出にも貢献しています。同農園の山

やま王おう丸まる取締役は、今後、海外のようにサ

ラダ以外の食べ方が広がることでトマトの消費は大きく伸びると期待を寄せています。

千歳市

北海道

温室で栽培されているトマト

農外参入企業が7haの巨大温室を再生し、黒字化を実現(北海道)事 例

114

第1節 農業の構造改革の推進

(基幹的農業従事者数、常雇い人数とも、49歳以下の割合が上昇)販売農家における基幹的農業従事者 1数は、平成29(2017)年は前年に比べ7万9千人(5.0%)減少の150万7千人となりました(図表2-1-9)。このうち49歳以下の階層では、前年からの減少率が2.3%と全体を下回り、この結果、全体に占める49歳以下の階層の割合は10.2%から10.5%へ0.3ポイント上昇しました。また、農業経営体における常雇い 2人数は、平成29(2017)年は前年に比べ7千人

(2.9%)減少の24万人となりました。このうち49歳以下の階層では、前年からの減少率が2.7%と全体を下回り、この結果、全体に占める49歳以下の階層の割合は50.1%から50.2%へ0.1ポイント上昇しました。基幹的農業従事者と常雇いを合わせた農業就業者については、2023年までに40代以下を40万人に拡大する目標が設定されており、自営農業への従事や法人における雇用等を通じ、新規就農者を確保していくことが必要です。

図表2-1-9 基幹的農業従事者数、常雇い人数(単位:万人)

基幹的農業従事者 常雇い

うち、49歳以下 49歳以下の割合 うち、49歳以下 49歳以下の割合平成28(2016)年 158.6 16.2 10.2% 24.8 12.4 50.1%29(2017) 150.7 15.9 10.5% 24.0 12.1 50.2%減少率 -5.0% -2.3% - -2.9% -2.7% -

資料:農林水産省「農業構造動態調査」注:常雇い人数は農業経営体における数値

北海道標しべ茶ちゃ町ちょうの大

おお宮みや睦むつ美みさん・菜

な々な子こさん夫妻は、平成

29(2017)年4月に、前経営者からの経営継承によりそれぞれ34歳、30歳で就農し、酪農を始めました。夫妻は、就農前1年間は前経営者の下で研修を受け、就農

に合わせて畜舎、乳用牛等の農業用資産一式と住居を譲り受けました。農業用資産は、農協が前経営者から取得し、夫妻にリースされています。町内市街地に移住した前経営者からは「地域で助け合うことで経営は上手くいく。困ったことがあれば駆けつける」との応援メッセージが寄せられました。大宮睦美さんは、経営継承について、分べん時期が分散さ

れた乳用牛60頭をそのまま引き継げたのは大きなメリットと語り、採草放牧地60haでは、肥料計算や土壌改良等により牧草の収量を高めることで乳用牛の増頭を目指したいとしています。また、将来は、農場を世襲させるのではなく、やる気のある新規就農者に引き継ぎたい、と語っています。

北海道標茶町

新規就農イベントに参加する 大宮さん夫妻

第三者継承による新規就農 ~分べん時期が分散された乳用牛を引き継げたのはメリット~(北海道)事 例

1、2 用語の解説 1、2(4)を参照

115

第2章

岡山県倉くら敷しき市しの尾

おの上うえ博ひろ信のぶさんは、生まれ育った地で荒廃農

地が増えている状況を憂慮し、耕作放棄される前に農業を引き継ぐことができないかとの思いから、平成24(2012)年6月に、前経営者からの経営継承により37歳で就農し、農業用ハウス3棟のリースを受けて切り花の生産を始めました。尾上さんは、多額の初期投資を行うことなく、ハウスと技

術を持ったパート社員を引き継げたのは経営継承のメリット、と語ります。現在は前経営者と同じ切り花生産のみを行っていますが、今後は、独自性を発揮し、施設の一部をパクチー等の葉物野菜に切り替えて収益を高め、規模拡大を目指したいとのことです。尾上さんは、自分の経験や仲間の話から、経営継承におけ

る経営を渡す側、受ける側の心構えや準備等で様々なことを学んだといい、将来、自身の農業経営が軌道に乗ったら、新たな活動として、経営継承に取り組む経営を渡す側、受ける側に対し、途中で破綻してしまわないように継承のサポートを行いたいと考えています。

広島県

島根県

鳥取県

岡山県 兵庫県倉敷市

尾上博信さん(左)と 前経営者の難

なん波

ば貞さだ

敏とし

さん(右)

第三者継承による新規就農 ~ハウスとパート社員を引き継げたのはメリット~(岡山県)事 例

(農業における働き方改革に向けて、農業経営者の取組のヒント等を取りまとめ)農業においては、一時期、労働力の4割を担った昭和一桁世代が80歳代を迎え、農業生産の第一線から退きました。また、生産年齢人口は平成7(1995)年のピークから減少の一途をたどり、今日、農業を始めとする多くの業種に深刻な人手不足をもたらしています。今後、他産業との人材獲得競争が更に厳しさを増すと見込まれる中、農業の持続的発展に向けて、多様な人材を農業界に呼び込むための「働き方改革」が求められています。平成29(2017)年における我が国の人口1億2,671万人 1は、2050年に1億192万人 2

にまで減少すると予想されており、他産業との人材獲得競争が激化することが見込まれます。このため、農林水産省では農業の「働き方改革」検討会を開催し、平成30(2018)年3月に、農業経営者による生産性の向上と人に優しい環境作りなどの「働き方改革」の取組の拡大に向け「農業の「働き方改革」経営者向けガイド」等の取りまとめを行いました(図表2-1-10)。同ガイドの中には、先進的な農業経営者等との意見交換等を通じて得られた実例を基に、農業経営者が取り組む具体的手法等が整理されており、今後、農業経営者にこれらの普及を図ることで、農業における「働き方改革」を進めていくこととしています。

1 総務省「人口推計」(平成 29(2017)年 10月 1日時点)2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 29年推計)」

116

第1節 農業の構造改革の推進

図表2-1-10「農業の「働き方改革」経営者向けガイド」等の概要

農業経営者に働き方改革の必要性を伝え、意識改革につなげてもらうための基本的考え方・ 人口減少の中で人手不足は農業だけの問題ではないこと・ 他産業との人材獲得競争の中で、いかに農業が「選ばれるか」という経営者の意識改革が必要であること・ 「選ばれる」経営体に共通するのは、生産性が高く、「人」にやさしい環境作り=「働き方改革」を経営者が考え、取り組み、実践していること

2.「働き方改革」に向けて段階的に経営者が取り組む具体的手法

養畜作業員

1.281.08

0.82

2012 2016

1.391.63

2.34

農耕作業員

全産業

1995年414万人

182万人2017年

20XX年 1970 1985 2000 2015

75万人

43%54%

基幹的農業従事者数(うち女性)基幹的農業従事者数(うち女性)

383万人

農業就業人口は20年あまりで半分以下に減少し、高齢化も進んでいる

農業の有効求人倍率は全産業平均を上回って年々上昇している

農業従事者に占める女性の割合は減少している

1.今こそ農業経営者に「働き方改革」が必要なとき

59歳

67歳

資料:農林水産省作成

農業経営者の取組のヒントとなる、現場の実例を基に整理した具体的手法ステージ1 経営者が自らの働き方を見つめ直す・ 課題を洗い出す。従業員の立場に立って自らの経営を見つめ直す・ 他人の意見を聴いてみる。積極的に情報収集する。経営理念・目標を作る 等ステージ2 「働きやすい」「やりがいがある」実感できる職場を作る・ 清掃や書類整理等、できることから一つ一つ改善に取り組む・ 正社員として雇用できるよう年間の作業を平準化する・ 基本的な労働法等を理解する。給与体系を明確にする。農業の繁閑を活かした柔軟な就労体系を導入する・ 従業員に経営理念や担当してもらう業務とその意義を説明する・ 口頭指示だけでなく、SNS等を活用した情報共有をする。業務内容をマニュアル化する・ 意見を言いやすい環境や公平な評価制度を作る 等ステージ3 人材を育成し更に発展する・ 採用後のミスマッチがないよう必要な人材像を明確にして募集・採用する・ 経営者が経営に集中できるよう、現場を任せられる人材を育成する・ 「人」がやるべき仕事に注力できるよう最先端の技術を導入する・ 自らの経営と地域農業が同時に発展し、社会的価値を高める 等

資料:農林水産省作成

(認定農業者は法人が一貫して増加)認定農業者制度 1は農業者が作成した経

営発展に向けた計画を市町村が認定するもので、認定を受けた農業者(認定農業者)には、計画の実現に向け、農地の集積・集約化、経営所得安定対策、低利融資等の支援措置が講じられています。平成29(2017)年3月末時点の認定農業者数は、前年に比べ4千(1.5%)減少の24万2千経営体となりました(図表2-1-11)。

1 用語の解説 3(1)を参照

図表2-1-11 認定農業者数

資料:農林水産省調べ 注:各年3月末時点

認定農業者のうち法人

万経営体

210

2.21.91.4

0.80.50.1

12(2000)

平成7年

(1995)

万経営体

302520151050

24.219.2

14.5

1.929

(2017)28

(2016)22

(2010)2717

24.9 23.8 24.6

2.1

117

第2章

この減少は、計画期間を終えた認定農業者が高齢化等のため再認定申請を行わなかったことによるものです。なお、認定農業者のうち個人についても高齢化が進行しているものの、65歳以上の割合は32.5%と、基幹的農業従事者の66.4% 1よりも低くなっています。一方、認定農業者のうち法人の数は一貫して増加しており、平成29(2017)年は前年に比べ2千(8.0%)増加の2万2千経営体となりました。

(集落営農組織は法人化が進展し、法人組織の割合は33.8%までに上昇)集落営農 2は農作業の共同化や機械の共同利用を通じて経営の効率化を目指す取組であ

り、集落営農組織は主に高齢化が進行した水田地帯で担い手として農業生産を担う役割を果たしています。近年、集落営農数は横ばいで推移する中、任意組織から法人組織への移行は着実に進み、平成30(2018)年には集落営農組織全体に占める法人組織の割合が33.8%にまで上昇しました(図表2-1-12)。また、任意組織のうち将来の法人化に向けた計画を策定している集落営農数は3,222で、法人化の時期別に割合を見ると、平成30(2018)年としているものは55.1%、平成31(2019)年としているのは14.2%となっています(図表2-1-13)。任意組織から法人組織への移行は、法人格を有することにより制度資金の利用が可能になる、経営等の責任ある執行体制が確立されるなどの利点があることから、より多くの任意組織において法人化に向けた取組の進展が期待されます。

図表2-1-13 集落営農の法人化予定年別の割合(平成30(2018)年)

資料:農林水産省「集落営農実態調査」注:2月1日時点

55.1%

14.2%

2023年以降

2022年

2021年

31年(2019)

平成30年(2018)

農業経営を営む法人となる計画を策定している任意組織の集落営農数

(3,222集落営農)

2.0%11.9%

7.9%

2020年8.9%

図表2-1-12 集落営農数と法人組織の割合

資料:農林水産省「集落営農実態調査」注:1)各年2月1日時点

2)平成24(2012)年調査から、東日本大震災の影響で営農活動を休止している宮城県と福島県の集落営農については調査結果に含まない。

3)( )は法人組織の割合

30(2018)

平成20年

(2008)

(33.8%)(33.8%)

15,11115,11115,13615,13615,13415,13414,71714,71714,74214,74213,06213,062

任意組織法人組織集落営農

20,00018,00016,00014,00012,00010,0008,0006,0004,0002,000

022

(2010)24

(2012)26

(2014)28

(2016)29

(2017)

13,577

(12.2%)(12.2%)(15.0%)(15.0%)(17.6%)(17.6%)(22.1%)(22.1%)(27.9%)(27.9%)(31.0%)(31.0%)

(農地のリース方式による農業への参入企業は、平成28年12月末時点で2,676法人)平成21(2009)年の農地法の改正により、農地の全てを効率的に利用するなどの基本的な要件を満たす企業は、法人形態や事業内容等にかかわらず農地を借り受けて農業に参

1 農林水産省「平成 29年農業構造動態調査」2 用語の解説 3(1)を参照

118

第1節 農業の構造改革の推進

入(リース方式)することが可能となりました。改正後から平成28(2016)年12月末時点までに2,676法人がリース方式で参入し、1年当たりの法人参入数は、改正前の5倍のペースとなっています 1。さらに、平成28(2016)年4月に施行された改正後の農地法で、農地を所有できる法人の要件が見直され、法人の議決権に占める農業関係者の割合が4分の3以上から2分の1以上に緩和されました。また、役員要件については、役員又は農場長等の重要な使用人のうち、1人以上が農作業に従事すれば足りることとされました。

(4)人材力の強化

(高い農業技術や経営管理能力を持つ人材の育成が期待される農業大学校)農業大学校は、農業の担い手を養成する教育機関として、42の道府県に設置されています。近年、卒業生の就農率は50%台で推移しており、平成28(2016)年度は卒業生1,741人に対し就農者は994人となり、就農率は57.1%となりました(図表2-1-14)。農業大学校の数を就農率別に見ると、80%以上が1校、60%以上80%未満が17校あるのに対し、40%未満も5校あります 2。農業大学校には、高校と連携した実習等の実施、就農相談窓口と連携した社会人の積極的な受入れ、国際的に通用するGAP3や輸出に関する学習の導入、特徴あるカリキュラムの創設等により意欲ある若者を集め、高い農業技術や経営管理能力を持つ人材として育て上げ、農業分野に送り出すことが期待されています。全国の農業高等学校(以下「農業高校」という。)における平成28(2016)年度卒業生の就農率は3.0% 4、農業大学校等へ進学した者の割合は4.1% 5となっています。このため、農業高校生の就農への関心や意欲の高揚に向けて、都道府県の農業部局が紹介した農業経営者が、農業高校において外部講師や実習受入先となる動きが広がっています。また、農業高校において習得した基礎的・基本的な知識や技術を、農業大学校において高度で実践的なものに発展させることも、人材力強化の観点から重要となっています。滋賀県では県立八

ようか日市いち南高等学校農業科等の生徒による農業大学校への訪問が毎年行われて

おり、農業大学校に進学した先輩から学校生活や卒業後の進路等の話を直接聴くことで、生徒の進学の動機付けにつながっています。

1 農林水産省調べ。1年当たりの平均参入数は、改正前(平成 15(2003)年 4月から平成 21(2009)年 12月)は 65法人、改正後(平成 21(2009)年 12月から平成 28(2016)年 12月)は 340 法人

2 全国農業大学校協議会調べ3 用語の解説 3(2)を参照4 文部科学省「学校基本調査」を基に農林水産省で作成5 文部科学省「学校基本調査」、全国農業大学校協議会調べを基に農林水産省で作成

図表2-1-14 農業大学校卒業生の就農率

人 %就農率(右目盛)

就農者以外就農者1,907

994

28(2016)

27(2015)

26(2014)

25(2013)

平成24年度(2012)

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

60

50

40

30

20

10

0

1,025 985 1,048 976

1,767 1,772 1,736 1,741

53.7 55.7 59.1 56.2 57.1

卒業生数

資料:全国農業大学校協議会調べ注:就農者には、一度、他の仕事に就いた後に就農した者は含まない。

119

第2章

新潟県農業大学校の稲作経営科では、実習時の事故防止と農産物への異物混入防止等の生産工程管理能力やグローバルな人材の育成を目的として、平成28(2016)年11月に、農業大学校として全国初となるGLOBALG.A.P.の認証を米で取得しました。認証の取得に向けては、講義や演習を積重ねた同科の学生が担当職員とともに審査に臨み、この結果、同校の水田17haが認証ほ場となりました。演習後の学生のレポートには実際に農場や施設でリスク評価を行ってみてGAPの効果や必要性を実感できたとの意見が多数見られ、認証取得のプロセスで学生のGAPに対する理解が深まっています。平成29(2017)年度には、全科の学生がGAPの意義や内容を学習できるよう、全科の1学年を対象としたカリキュラム「GAP導入演習」を必須科目に加えました。また、同校では他科の学生もGAP認証に関する実践学習ができるよう認証品目の増加を目指しており、平成30(2018)年4月には、新たにいちごでGLOBALG.A.P.の認証を取得する見込みです。

新潟県群馬県 栃木県

福島県

長野県

新潟市

GAP の学習の様子

農業大学校として全国初のGLOBALG.A.P.認証取得(新潟県)事 例

平成28(2016)年12月に東京で開催された我が国とフランスによる農政の実務者会合において、若手農業者の新規参入等について相互協力の合意がなされ、この一環として、平成29(2017)年5月に、我が国の農業高校の教員5人によるフランスの農業高校の視察が行われました。フランスの農業高校には農業者が技術や経営等を学ぶ「生涯教育センター」が併設されていることも多く、農業高校の施設は、農業を目指す学生だけでなく、現役の農業者にも利用されています。また、地域農業の発展に必要な最先端技術の実証も行われており、地域で求められる人材の育成、新技術の提案といった役割も果たされています。視察を通じて得られた知見等は5人の教員によって自校内だけでなく他校へも積極的に情報発信が行われています。平成30(2018)年度以降は、フランスの農業高校の教員による我が国への訪問等も計画されています。

我が国とフランスの農業高校間の交流がスタート!

フランスのパドカレ県農業高校での 交流の様子

コラム

120

第1節 農業の構造改革の推進

(静岡県が、農業分野の専門職大学開学に向けた基本構想を公表)学校教育法の改正により、平成31(2019)年4月1日以降、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関として「専門職大学・専門職短期大学」が開学できることとなりました。農業分野では、質の高い農産物の生産に加えて、直売、加工品開発等も手がけ、高付加価値化、販路拡大等を先導できる人材の育成等が期待されています。静岡県では、県立農林大学校の専門職大学への移行に向けた基本構想を平成30(2018)年2月に公表しました。開学時期は2020年4月を目標としており、農業大学校からの移行により開学する農業分野の専門職大学としては全国初となる見込みです。近年、大学の農学系の学部において志願者が増えていること等を背景に、全国各地で

「農」や「食」を名前に掲げた大学の開設や学部・学科の設置の動きが広がっています。平成30(2018)年4月には、新潟県で新潟食料農業大学が、長野県で食健康学科を持つ長野県立大学がそれぞれ開設されるとともに、東京都の東京家政学院大学では食物学科が、滋賀県の立命館大学では食マネジメント学部がそれぞれ設置されました。また、福島大学では平成31(2019)年4月の食農学類の設置に向けて準備が進められています。「農」や「食」に関わる人材の裾野が広がり、農業分野で活躍する若者の輩出が期待されます。

東京都千ち代よ田だ区くの株式会社N

の っ ぽOPPOでは、農業を仕事と

して考える学生等をターゲットに、全国に元気な農業者がたくさんいることを大学生の目線で情報発信するフリーペーパー「VOICE」を発行しています。季刊誌となる同誌は、同社取締役の福

ふく本もと由ゆ紀き子こさんと農業に興味のある大学生のス

タッフにより制作され、全国200校以上の大学、各県の農業大学校や就農センター等に届けられています。農学系の大学生であっても実際に農業者と接点を持つ機会は少なく、農業に触れる機会を得ようと同誌の編集に参加した大学生は、多くの気づきを得ることができた、農の可能性を肌で感じることができた、といった喜びの声を同誌の編集後記に綴っています。福本取締役は、同誌のインタビュー記事で農業者を広く知ってもらい、同社や協力企業・団体のホームページに掲載された求人情報等を見てもらうことで、農業法人等へ就職し、農業界で活躍する学生が増えていってほしい、と語っています。

神奈川県

東京都

静岡県

山梨県

埼玉県埼玉県

千代田区

女子学生スタッフによる取材の様子

大学生の目線で、全国の元気な農業者の情報を発信(東京都)事 例

2020 年 4 月の専門職大学への移行を 目指す静岡県立農林大学校

121

第2章

(農業者が営農をしながら体系的に経営を学べる農業経営塾が21県で開講)農業者が営農をしながら体系的に経営を学ぶ場として、平成29(2017)年度に、農業大学校等が運営主体となり21県で農業経営塾が開講されました(図表2-1-15)。農業経営塾では、経営戦略、財務・労務管理、マーケティング等に関する座学や演習等が、各県において1年間でおおむね10日間以上実施され、全県を通じた受講生は441人となりました。また、平成30(2018)年度の開講を目指す都道府県においては、開講に向けた準備が進められています。

図表2-1-15 農業経営塾の開講状況

茨 城 県いばらきリーダー農業経営者育成講座(10日間)

埼 玉 県埼玉農業経営塾(9日間)

千 葉 県ちばアグリトップランナー経営塾(16日間)

神 奈 川 県かながわ農業版MBA研修(12日間)

静 岡 県ふじのくにアグリカレッジ(13日間)

長 野 県信州農業MBA研修(20日間)

奈 良 県奈良食のつくり手経営塾

(18日間)

富 山 県とやま農業未来カレッジ農業経営塾(21日間)

新 潟 県新潟県版農業経営塾(12日間)

山 口 県やまぐち尊農塾(10日間)

石 川 県いしかわ耕稼塾(20日間)

宮 崎 県みやざき次世代農業リーダー養成塾(11日間)

長 崎 県ながさき農業オープンアカデミー(9日間)

福 岡 県福岡県農業経営確立・発展塾(18日間)

三 重 県農業ビジネス人材育成研修(26日間)

大 分 県おおいた農業経営塾(13日間)

山 形 県やまがた農業経営塾(12日間)

滋 賀 県しがの農業経営塾(13日間)

愛 媛 県農業経営高度化塾(15日間)

香 川 県かがわ農業MBA塾(12日間)

鹿 児 島 県かごしま農業経営塾

(8日間)

開講都道府県名称(平成29(2017)年度の年間講義日数)

資料:農林水産省作成

122

第1節 農業の構造改革の推進

山口県では、平成29(2017)年度に各県で順次設置が進む農業経営塾を、全国に先駆け5月に「やまぐち尊

そん農のう塾じゅく」と

の名称で開講しました。防ほう府ふ市しの農業大学校をメイン会場に月1回のペースで3月

まで10回にわたり講義や演習等が行われた同塾には、県内のモデル経営者となることが期待される農業法人役職員や法人化志向のある自営農業者等23人が集まりました。参加者のうち最多世代は30歳代の11人で、女性は20歳代と40歳代の2人が参加しました。講師陣は、県外の先進的な農業者のほか、食品スーパー、大学、銀行、県中小企業診断協会等多彩な組織から人材が派遣され、最終日には、参加者各自が、中小企業診断士や県の普及指導員等の指導を受けて作成した自身の経営計画を発表しました。経営マネジメントやマーケティングの能力を高めた同塾の卒業生が優れた農業経営を実践し、同県農業のけん引役となっていくことが期待されます。

島根県 広島県

山口県防府市

塾生による演習の様子

全国に先駆けて農業経営塾が開講(山口県)事 例

(留学や海外研修を通して国際感覚を身に付ける学生や社会人)社会や経済のグローバル化が進む中、社会総がかりで将来世界において活躍できる人材を育成するため、高校生、大学生等を対象とする官民が協力した海外留学支援制度「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」が平成25(2013)年度に始まりました。平成29(2017)年度末時点で、累計137人 1の農学系の大学生、同15人の農業高校生が、同プログラムの支援を受け、農業・食品産業分野での留学やインターンシップ等に取り組みました。また、公益社団法人国際農業者交流協会では、大学・農業大学校の卒業生等の若手が、欧米の農場等で1年から1年半程度の研修を行う海外農業研修プログラムを実施しています。同プログラムの研修生は、近年、年間60人程度となっており、その半数以上は非農家出身者となっています(図表2-1-16)。同協会には国際人材を求める農業法人等から求人が寄せられており、帰国後に就農する研修生も見られます。農業分野における国際感覚を身に付けた人材の育成に向けて、これらプログラムの更なる活用が期待されています。

図表2-1-16 海外農業研修の参加者の内訳(平成26(2014)年度から平成28(2016)年度)

専攻別

男女別

出身別

1111

5151

2525

2222

4949

7575

5454

資料:公益社団法人国際農業者交流協会資料を基に農林水産省で作成注:3年間における海外農業研修参加者203 人の数値

%0 20 40 60 80 100

1313

農家 非農家

男 女

野菜 畜産 果樹 花き

1 プログラム開始から平成 29(2017)年度末までに留学に出発した人数の合計で、高校生も同様。留学期間は、大学生については 28日以上 2年以内(3か月以上を推奨)、高校生については 2週間から 1年間となっている。

123

第2章

(農業支援外国人受入事業の実施に向け京都府、新潟市、愛知県が実施区域に認定)産地での多様な作物の生産等を推進し、経営規模の拡大などによる「強い農業」を実現するため、農業分野における外国人材の活用を図ることが課題となっています。このため、平成29(2017)年9月に「国家戦略特別区域法及び構造改革特別区域法の一部を改正する法律」が施行され、国家戦略特別区域内において、我が国の農業現場で即戦力となる一定水準以上の技能等を有する外国人材を就労目的で受け入れることが可能となる国家戦略特別区域農業支援外国人受入事業が創設されました。これにより、農業者は、労働者派遣契約に基づいて、必要な時期に、一定の基準を満たした特定機関に雇用された外国人材の派遣を受けることができるようになりました(図表2-1-17)。平成29(2017)年度末時点で、京都府、新

にい潟がた市し、愛知県が本事業の実施区域として認定を受けて

おり、これらの区域内で、今後、外国人材が農作業に従事することとなります。

図表2-1-17 農業支援外国人受入事業の概要

国家戦略特区 国家戦略特別区域会議区域会議の下に設置

適正受入管理協議会

関係自治体内閣府地方創生推進事務局

地方入国管理局都道府県労働局、地方農政局

連携

・苦情 相談

・定期報告・重大問題発生時 には速やかに報告

特定機関(受入企業)

労働者派遣法の許可を受ける等の要件を満たした事業者

派遣先農業経営体(農業経営を行う個人又は法人)

外国人農業支援人材(通算在留可能期間は3年とし、この期間を超えない範囲内で帰国・再度の入国は可能)

・苦情相談 雇用契約

・特定機関の基準 適合性の確認・巡回指導、監査

・定期報告・重大問題発生時 には速やかに報告

・現地調査

労働者派遣契約

作業指示 農業支援活動

資料:内閣府資料を基に農林水産省で作成

農業分野においては、これまで修得した技能や知識の母国への移転という国際協力を目的とした技能実習制度の下、農業関連の技能実習生を受け入れてきました。同制度は、平成29(2017)年11月に技能実習法 1が施行されたことを受け、制度の適正化や技能実習生の保護を図るとともに、優良な監理団体と実習実施者の下で行われる技能実習について、技能実習期間の延長や実習実施先での受入人数上限の拡大が図られました。

(5)女性農業者の活躍

(組織経営体の常雇いにおいて女性の活躍の場が拡大)平成29(2017)年における女性農業者は、基幹的農業従事者で前年に比べ3万7千人

(5.7%)減少の61万9千人、組織経営体 2の常雇いで前年に比べ4千人(8.4%)増加の5

1 正式名称は「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」2 用語の解説 1、2(1)を参照

124

第1節 農業の構造改革の推進

万7千人となりました(図表2-1-18)。女性の割合は、基幹的農業従事者がほぼ横ばいであるのに対し、組織経営体の常雇いは2.3ポイント上昇しており、後者において女性農業者の活躍の場が広がっていることが分かります。また、組織経営体の常雇いを営農類型別に見ると、施設野菜部門と花き・花木部門で女性の割合が高くなっています。これは、男性との体力差がハンデになりづらい、女性の感性やきめ細かさを活かしやすい、職場に女性が多く働きやすいなどが理由として考えられます。

図表2-1-18 農業労働力における女性の割合

(販売農家と組織経営体における農業労働力)(単位:万人)

平成28(2016)年 29(2017)

全体 全体うち女性 女性割合(%) うち女性 女性割合(%)

基幹的農業従事者(販売農家) 158.6 65.6 41.4 150.7 61.9 41.1

常雇い(組織経営体) 12.5 5.2 41.9 12.8 5.7 44.2

資料:農林水産省「農業構造動態調査」(組替集計)

(組織経営体のうち施設野菜部門と花き・花木部門における常雇い)(単位:人)

平成27(2015)年

全体うち女性 女性割合(%)

施設野菜 12,991 8,183 63.0花き・花木 8,453 5,582 66.0

資料:農林水産省「2015年 農林業センサス」

(女性農業者の経営参画等につながる家族経営協定の締結農家数は増加)農家において女性農業者が経営参画や仕事と生活が調和した働き方を実現する上で、家族経営協定 1の締結は重要な役割を果たします。平成28(2016)年度末時点で、家族経営協定を締結している農家数は前年度に比べ758戸(1.3%)増加の5万7,155戸 2となりました。また、農業委員と農業協同組合役員に占める女性割合はそれぞれ増加しており、平成29(2017)年は、農業委員は前年に比べ2.5ポイント上昇の10.6% 3、農業協同組合役員は0.2ポイント上昇の7.7% 4となりました。平成28(2016)年4月に施行された改正後の農業委員会法では、農業委員の任命に際し性別等の偏りに配慮する旨の規定が置かれており、この施行後に任命が行われた農業委員に占める女性の割合は11.8% 5となりました。また、女性役員不在の農業協同組合もある中で、長野県の佐

さ久く浅あさ

2 世代 4 人で家族協定を締結した 矢

や郷ごう

さん一家

1 用語の解説 3(1)を参照2、3 農林水産省調べ4 JA 全国女性組織協議会調べ5 農林水産省調べ(平成 29(2017)年 10月 1日時点)

125

第2章

間ま農業協同組合では、女性役員の全地区からの選出を積極的に働き掛けたところ、平成

27(2015)年5月の役員選出で、全38人のうち女性が8人と21%を占めるなど、女性の経営参画を進める動きも見られます。

北海道弟て子し屈かが町ちょうの酪農家の二女芳

は賀がひとみさんは、平成

22(2010)年に20歳で実家の酪農の後継者として就農しました。芳賀さんは、就農時、自給粗飼料を中心に給餌し搾乳牛1

頭当たり乳量が極端に低い自家の経営に不安を抱きましたが、4Hクラブ*の仲間と勉強会を重ね、経営費の低減が所得の向上に結びついていることを確認し、親が実践してきた経営に自信を持てるようになりました。同町内では30歳代でも経営主になっていない酪農家が多

い中、芳賀さんは父親が65歳を迎えたのを機に25歳で経産牛40頭の酪農経営者となりました。男性であれば言われることのない「凄いね」、「偉いね」という言葉の悔しさをバネに、自分が格好いい女性農業者になることで地域に仲間が増えることを夢みて芳賀さんは経営者として歩み出しました。平成28(2016)年7月の全国酪農青年女性酪農発表大会で、

就農から現在までの歩みを発表した芳賀さんは、最優秀賞を受賞しています。*農業経営上の課題の解決方法やより良い技術を検討する活動をはじめ、消費者や他クラブとの交流、地域ボランティア等を実施する組織。メンバーの中心は20歳代から30歳代前半。

北海道弟子屈町

酪農経営者となった芳賀ひとみさん

25歳で北海道酪農の経営者になった女性農業者(北海道)事 例

(女性農業者の飛躍を後押しする農業女子プロジェクトとWAP100)農業女子プロジェクトは、女性農業者の知恵と企業の技術を結びつけ、新たな商品やサービスの開発等を進める取組であり、女性農業者の存在感の向上と農業を志す若手女性の増加を目指しています。平成29(2017)年度末時点で、農業女子プロジェクトのメンバー(以下「農業女子メンバー」という。)は662人、参画企業は34社、教育機関は4校 1となりました。農業女子メンバーの有志は、平成29(2017)年の9月27日から10月31日までの間、

「秋の農業女子フェアin香港」を開催しました。同年1月 2に続く2度目の海外イベントとなり、農業女子メンバーによる百貨店等での試食イベントのほか、新たに、料理教室と連携したレセプションパーティの開催、日本料理店と連携した特別メニューの提供等が行われました。高等学校や大学等の教育機関と農業女子メンバーが連携した取組を行う「チーム“はぐくみ”」では、蒲

かま田た女子高等学校、東京農業大学、産業能率大学において、農業女子メン

バーが講師となった高校・大学での授業、生徒や学生を生産現場に招いた農業インターン

1 農林水産省調べ2 平成 29(2017)年 1月 11日から 18日までの間、香港における複数の店頭で農業女子メンバー自らが試食販売を実施

126

第1節 農業の構造改革の推進

シップや農産物の加工・販売の体験等が行われました。平成30(2018)年3月に近畿大学が参加したことで「チーム“はぐくみ”」のパートナー校は4校となりました。また、公益社団法人日本農業法人協会では、女性活躍に向けて先進的な取組を実践している農業経営体を「農業の未来をつくる女性活躍経営体100選(WAP1100)」に認定する活動を行っています。3年目となる平成29(2017)年度は42経営体が認定され、この3年間の累計は102経営体となりました。

香川県観かん音おん寺じ市しの尾

お池いけ美み和わさんは、夫と九条ねぎ・青ねぎ

の生産を行っていました。平成24(2012)年に農業経営の法人化を図り株式会社S

サ ンuns

ソウoを設立しました。

同社の取締役となった尾池さんは、従業員の長期雇用に向けて、パート従業員の土日祝休み、退社時間の選択制、残業なしの労働条件を取り入れるとともに、社会保険や産休・育休・介護休業制度を完備しました。また、女性パート8人を含む従業員12人全てが作業を平均的に効率よくこなせるようにするため、チーム制の導入やビデオ撮影による作業の見える化・マニュアル化を進めました。この結果、子供の病気等で急な休みが必要になった場合に作業の代替ができるようになりました。さらに、新たな集出荷場を整備し、清潔で快適な作業しやすい職場環境づくりにも取り組んでいます。同社の取組は、農業女子プロジェクトアワード2016オブ・ザ・イヤーと平成28(2016)年度のWAP100に選ばれました。

岡山県

愛媛県

香川県観音寺市

従業員による収穫作業の様子

農業法人で実現された女性従業員が働きやすい職場環境(香川県)事 例

(女性農業者の良きパートナーである、女性の普及指導員等が活躍)農業を周りで支える仕事においても女性が活躍しています。都道府県職員の普及指導員は、主に普及指導センターに駐在し、試験研究機関等で開発された品種・技術の普及、営農情報の提供、農業者向け施策の活用支援等の業務を行っています。平成27(2015)年度末時点における全国の普及指導員6,568人のうち女性は

1「農業経営(体)における女性の積極的な参画」の英訳である「Women'sActiveParticipationinAgriculturalManagement」の頭文字

「秋の農業女子フェア in 香港」のチラシ

127

第2章

1,730人で割合は26.3%となっています。特に、栃木県や埼玉県では、県が採用した直近5年間 1の農業職職員のうち半数以上が女性となっており、普及指導員として活躍する若手の女性が増加しています。農業協同組合職員の営農指導員は、管内の本支所や営農指導センター等に駐在し、地域の主要作物を中心とした巡回指導、共同選果・共同販売の管理等の業務を行っています。中には積極的に女性の採用を進める動きも見られ、静岡県のとぴあ浜

はま松まつ農業協同組合で

は、近年、営農部門を希望する有能な女性新規採用職員を積極的に同部門に配置した結果、営農指導員に占める女性の割合は平成25(2013)年4月時点の23.5%から平成29(2017)年4月時点では31.4%にまで高まっています。また、酪農では、家畜の人工授精等を行う家畜人工授精師や、酪農家が休日を確保できるよう酪農家に代わって乳牛の世話や牛舎の掃除等を行う酪農ヘルパーとして活躍する女性がいます。北海道を代表する家畜人工授精師免許の交付地である十

と勝かち総合振興局内で免

許交付を受けた家畜人工授精師を見ると、近年、女性の割合は2割から3割程度で推移しています。農業を周りで支える彼女たちは、経営を発展させ活躍の場を広げていこうとする女性農業者にとって、気持ちを打ち明けやすく、考え方に共感してくれる良きパートナーであり、この役割をしっかりと果たしていけるよう彼女たちの働きやすい環境づくりが重要です。

北海道別べつ海かい町ちょうの酪農家の長女小

こ林ばやし晴はる香かさんは、弟の企業

就職を機に、平成20(2008)年に27歳で実家の酪農の後継者として就農しました。両親とともに搾乳牛80頭、採草地90haの経営を行う小林さんは、女性の家畜人工授精師と酪農ヘルパーにこだわりを持っています。女性は、牛への接し方も優しいので安心できるとのことです。小林さんは、女子学生等の体験受入れを通じ酪農の魅力を伝える活動を行っているほか、平成28(2016)年9月には、同町で酪農を楽しむ姿を発信し全国から農業女子を集めたいとして、女性の酪農関係者をメンバーとする活動組織「別海町酪農女子同盟S

ストロンtron♡g

ギュウyu」を立ち上げました。以前、酪

農家に就職した町外出身女性が仕事に悩み町を離れてしまった例があり、小林さんは、活動組織を作ることで、このような女性に働き方の選択肢があることを伝える役割も果たしたいと考えています。

北海道別海町

乳牛に牧草を与える 小林晴香さん

女性の家畜人工授精師等にこだわりを持つ女性農業者(北海道)事 例

1 平成 25(2013)年 4月採用から、平成 29(2017)年 4月採用までの 5年間

女性営農指導員による技術指導の 様子(とぴあ浜松農業協同組合)

128

第1節 農業の構造改革の推進

北海道別べつ海かい町ちょうの渡

わた辺なべ有ゆ紀きさんは、北海道の酪農にひかれ、

平成27(2015)年4月に千葉県から移住し、中なか春しゅん別べつ農業

協同組合の酪農ヘルパー利用組合で酪農ヘルパーとして働き始めました。ヘルパーの仕事は、搾乳、牛舎の清掃、餌やりの作業を、午後3時から7時までと翌朝5時から9時までを1セットとして担当し、その後、酪農家に牛の状態等を報告して終了となります。休日であっても酪農家の都合で急に仕事を頼まれるなど大変な面もありますが、ヘルパーとしていろいろな酪農家からノウハウを勉強できるのは、将来、酪農家を目指す自分にはプラスと渡辺さんは考えています。同僚は、酪農家を目指す人、酪農家の従業員を目指す人、ヘルパーを続ける人等様々です。渡辺さんは、ヘルパーを通じ地域とのつながりができることで離農跡地の声がけをいただいたり、ご縁があれば酪農家と結婚し就農という道もあり、このようなヘルパーの魅力を広く発信していきたい、と語っています。

北海道別海町

乳牛に囲まれる渡辺有紀さん

女性酪農ヘルパーが語る仕事の魅力(北海道)事 例

(6)農業金融

(農業向け融資は、公庫、一般金融機関、農協系統のいずれも増加傾向)農業は、果樹作や畜産を中心として生産サイクルが長く投資回収に長期間を要する、天候等の外的要因により収益が不安定であるといった特性があります。このため、農業向けの融資においては、農業協同組合、信用農業協同組合連合会、農林中央金庫(以下「農協系統金融機関」という。)や地方銀行等の一般金融機関が短期の運転資金や中期の施設資金を中心に、株式会社日本政策金融公庫(以下「公庫」という。)がこれらを補完する形で長期・大型の施設資金を中心に、資金供給の役割を担っています。近年、農業経営の規模拡大や人手不足等を背景とした省力設備の導入等による資金需要の高まりから、農業向け融資は増加傾向にあります(図表2-1-19)。農業向け融資の新規貸付額の伸びを融資機関別に見ると、一般金融機関は5年間で1.7倍 1、農協系統金融機関は1年間 2で1.4倍、公庫は5年間で1.5倍に増加しています。農業者の多様な資金ニーズに適切に対応していくためには、一般金融機関と公庫との連携・協調融資の取組強化が重要となっています。このため、公庫は、一般金融機関との間で情報交換を行うほか、農業融資についてのノウハウの提供を行っています。平成28(2016)年度の公庫と一般金融機関の協調融資による新規貸付額は前年度に比べ19.8%(291億円)増加の1,762億円 3となっています。

1 農業・林業向けの新規設備資金2 農協系統金融機関においては、農業向けの新規融資額を平成 27(2015)年度から調査している。3 株式会社日本政策金融公庫ニュースリリース(平成 29(2017)年 5月公表)。農林漁業分野における実績値

129

第2章

次世代を担う競争力ある担い手の確保・育成を図るためには、個々の農業者の経営能力や将来性を見極め、資金面から支援を行っていくことが必要となっています。このため公庫は、平成28(2016)年2月から、担保や保証人に依存せず、個々の農業者の経営能力や投資内容の事業性に重点を置く、事業性評価融資の取扱いを行っており、平成28(2016)年度末時点での、融資実績は200億円 1となっています。また、地方の一般金融機関においても、地域活性化等の観点から、農業向けの事業性評価融資に取り組む動きが見られます。

図表2-1-19 農業向けの新規融資額

億円3,286

2,153

3,500

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

028

(2016)平成23年度(2011)

億円 3,450

2,535

28(2016)

平成27年度(2015)

3,500

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

億円

28(2016)

平成23年度(2011)

1,000

800

600

400

200

0

(公庫)

489

844

(一般金融機関(設備資金)) (農協系統金融機関)

資料:日本銀行「貸出先別貸出金」、農林中央金庫調べ、株式会社日本政策金融公庫「業務統計年報(農林水産事業)」注:一般金融機関(設備資金)は国内銀行(3勘定合算)と信用金庫の農業・林業向けの新規設備資金の合計

株式会社滋賀銀行では、近年、農林業向け融資に積極的に取り組み、平成26(2014)年3月末から平成29(2017)年3月末にかけて農林業向け融資残高は2倍以上に拡大しています。農業向け融資の特殊性がある中で、担保保証に必要以上に依存せず企業の成長可能性等を評価する事業性評価融資、不動産以外の流動資産や売掛債権を担保とする流動資産担保融資といった手法も積極的に取り入れています。また、独自の取組として、融資後の健全経営の継続を目的に、経営の格付けを行った上で、格付け作業の過程で把握した強みと弱みを企業診断資料として融資先に提示し、課題やリスクに早めに対処できるよう意思疎通を図っています。平成29(2017)年4月からは特定のGAP認証を取得した農業者向けに金利を割り引く新たな融資も始めており、同行では、資金面での支援と経営ノウハウやネットワークを活かしたアドバイスを通じて、地域農業の発展に貢献したいと考えています。

事業性評価融資を受けて 設備投資を行った澤

さわ井

い牧場の牛舎

(竜りゅう

王おう

町ちょう

農業向け融資の拡大により、地域農業の発展を目指す銀行(滋賀県)事 例

1 株式会社日本政策金融公庫「平成 29年 9月中間期の取組み及び決算の概要」

130

第1節 農業の構造改革の推進

(7)経営所得安定対策

(米穀、麦、大豆等の重要な農産物を対象とした担い手に対する経営所得安定対策)経営所得安定対策は、米穀、麦、大豆等の重要な農産物を生産する農業の担い手 1に対し、経営の安定に資するよう、諸外国との生産条件の格差から生ずる不利を補正する交付金の交付(以下「ゲタ対策 2」という。)と、農業収入の減少が経営に及ぼす影響を緩和するための交付金の交付(以下「ナラシ対策 3」という。)を実施するものです(図表2-1-20)。平成29(2017)年度の加入申請状況を見ると、ゲタ対策は加入申請件数が前年度に比べ1千件減少の4万5千件、作付計画面積が同3千ha減少の49万9千haとなりました。また、ナラシ対策は加入申請件数が前年産に比べ4千件減少の10万6千件、申請面積が同1千ha増加の99万1千haとなりました。

図表2-1-20 経営所得安定対策の仕組み(ゲタ対策) (ナラシ対策)

資料:農林水産省作成

面積払(営農継続支払)

数量払交付金

収量

〔都道府県等地域単位で算定〕

収入減の9割まで補てん

過去5年のうち、最高・最低を除く3年の平均収入(5中3)

当年産収入

補てん金標準的収入

品目ごとの収入差額を合算相殺

収入減少

「農業者1:国3」の割合で拠出した積立金から補てん

数量払:生産量と品質に応じて交付面積払:当年産の作付面積に応じて数量払の先払いとして交付

〈数量払と面積払との関係〉

(8)収入保険

(平成31年1月、農業経営者ごとの収入減少を補てんする収入保険がスタート)農業災害補償法等の改正により、平成31(2019)年1月に、農業経営者 4ごとの収入減

少を補てんする収入保険が始まることとなりました 5。補てんの仕組みは、まず、農業経営者ごとに、過去5年間の平均収入を基本として、保険期間の営農計画も考慮して基準収入が設定されます。そして、保険期間の収入が基準収入の9割(補償限度)を下回った場合に、下回った額の9割(支払率)を上限として、「掛捨ての保険方式(保険金)」と「掛捨てとならない積立方式(特約補てん金)」の組合せで補てんが行われます(図表2-1-21)。収入保険は、品目の枠にとらわれず、収入全体を対象とした総合的なセーフティネットとしての機能を持つことから、収益性の高い新規作物の生産や新たな販路の開拓等、農業経営者の挑戦を後押しするものとなります。初年度の加入申請は平成30(2018)年の秋からを予定しており、制度の対象となる青色申告を行う農業経営者数の拡大と収入保険への理解を促進するため、平成29(2017)

1 認定農業者、集落営農、認定新規就農者2 対象作物は、麦、大豆、てんさい、でん粉原料用ばれいしょ、そば、なたね3 対象作物は、米、麦、大豆、てんさい、でん粉原料用ばれいしょ4 収入把握の正確性を期す観点から、日々の取引を残高まで記帳する義務があり、在庫等と帳簿が照合できる青色申告を行っている者を対象

5 収入保険の実施主体の設立については、第 2章第 6節(3)を参照

131

第2章

年度は、農林水産省と農業共済団体が連携して全国各地で説明会を開催し、農業者への制度の周知を図りました。

図表2-1-21 収入保険の補てん方式

資料:農林水産省作成注:5年以上の青色申告実績がある者の場合

農業者ごとの過去5年間の農業収入

過去5年間の平均収入を基本規模拡大など保険期間の営農計画も考慮して設定

基準収入

保険期間の収入

100%自己責任部分

積立方式で補てん

保険方式で補てん

支払率(上限9割)

90%

80%

収入減少

農家の1月から12月までの年間所得に課される所得税については、翌年3月15日までに、税務署に確定申告を行い、納税額を確定し納付する必要があります。確定申告のため、農業による課税対象となる所得を計算するに当たっては、収入や経費に関する日々の取引の状況を記帳し、領収書等の証拠書類を保管する必要があります。青色申告とは、一定水準以上の記帳をし、正しい申告を行う者について、課税対象となる所得から最大65万円を控除できるなどの優遇措置が受けられる制度です。一定水準以上の記帳を行うために、貸借対照表等を作成することは、自らの経営を客観的に把握する機会が得られる、金融機関の信用を得られやすくなるといった経営上の利点もあります。平成27(2015)年の販売農家133万戸のうち青色申告を行っているものは42万戸となっており、農林水産省では収入保険の幅広い活用の観点からも青色申告の普及を推進しています。

優遇措置が付与され、経営上の利点もある青色申告

青色申告による節税効果の比較(事業収入600万円の場合)

機密性○情報

○○限り

青色申告 白色申告

事業の利益

青色申告者特別控除

青色事業専従者控除

所得控除

課税所得金額

所得税額 ×税率)

単位:円

資料:国税庁「はじめてみませんか?青色申告!」を基に農林水産省で作成

注:1)夫婦で製造業を営み、年間の利益額が600万円である場合の試算

2)青色申告者特別控除は、正規の簿記の原則による記帳を行った場合の試算

3)青色事業専従者控除は、妻に対し専従者給与120万円を支払った場合の控除額。白色申告の場合は、「事業専従者控除」として86万円が上限

4)所得控除は、基礎控除、社会保険料控除等5)所得税額には、住民税、事業税等を含む

コラム

132

第1節 農業の構造改革の推進

農業生産基盤の整備と保全管理第2節農地の大区画化・汎用化を始めとする農業生産基盤整備は農業生産性の向上や農業生産の多様化に、農業水利施設やため池の保全管理は農業生産の継続や防災・減災に寄与し、これらは食料自給率・食料自給力の維持向上にもつながります。以下では、担い手のニーズに応える強い農業基盤づくり、農業生産の継続に欠かせない農業水利施設の長寿命化、災害リスクから農業・農村を守る防災・減災対策等の状況について記述します。

(1)農業生産基盤の整備と保全管理における重点的な取組

(強い農業基盤づくり、農業水利施設の長寿命化、防災・減災対策に重点化)次世代を担う若者等の後継者の参入が進むような魅力ある農業にするためには、農業の成長産業化を一層後押しする必要があるとともに、農業水利施設の老朽化が進行する中、将来にわたり施設の機能を適切に発揮させ、次世代に引き継いでいく必要があります。また、災害リスクが高まる中、平常時のみならず、大規模災害が発生しても機能不全に陥らない強靭性を確保した持続可能な農業・農村の構築を目指していく必要があります。このため、農業生産基盤の整備と保全管理を行う農業農村整備は、強い農業基盤づくり、農業水利施設の長寿命化、防災・減災対策に重点化し実施することとしています。

(2)担い手のニーズに応える強い農業基盤づくり

(区画整備済み水田は全体の64.7%、畑地かんがい施設の整備は全体の23.9%)我が国の農業の競争力を強化するためには、農地の大区画化・汎用化や畑地かんがい施設の整備等の農業生産基盤整備を実施するとともに、農地中間管理機構とも連携した地域農業の担い手への農地の集積・集約化 1や農業の高付加価値化等を図る必要があります。担い手が耕作の依頼を断った理由の調査では、「区画が狭小又は未整備」や「湿田(汎用化されていない)」といった理由が上位に挙がっており、農業基盤づくりは、担い手への農地の集積・集約化を進める上で重要となっています(図表2-2-1)。担い手への農地の集積・集約化に資する農地の区画整備については、未整備の農地全体の一体的な区画整備に加え、区画整備済みの水田の畦

けい畔はん除去等による区画拡大や農業者の自力施工による簡易整備など、地域の担い

手の多様なニーズに沿ったきめ細やかな事業メニューの充実を図ってきています。

1 用語の解説 3(1)を参照

図表2-2-1 担い手が耕作の依頼を断った理由(複数回答)

21.821.8

16.016.0

40.340.3

54.454.4

72.872.8

%その他

離れた場所にあるほ場

区画が狭小又は未整備

現状以上の規模拡大は困難

湿田(汎用化されて

いない)

0 10 20 30 40 50 60 70 80資料:農林水産省調べ注:担い手農家を無作為に抽出し(36府県、450経営体)、その

うち農地所有者からの耕作の依頼を断ったことがあると回答した206経営体から聴取(平成22年(2010)年11月)

133

第2章

平成28(2016)年における水田の区画整備の状況を見ると、30a程度以上の区画に整備済みのものは157万haと全体の64.7%を、50a以上の大区画に整備済みのものは24万haと全体の9.9%を占めています(図表2-2-2)。また、30a程度以上の区画に整備済みの水田の7割は、排水が良好で畑としても利用可能な汎用田となっています(図表2-2-3)。畑の整備状況を見ると、幅員3m以上の末端農道が整備されているものは156万haと全体の76.4%を、畑地かんがい施設が整備されているものは全体の23.9%を、区画整備済みの面積は128万haと全体の62.7%を占めています(図表2-2-4)。また、区画整備済みの畑のうち、9割において末端農道の整備が、3割において畑地かんがい施設の整備がされています(図表2-2-5)。

図表2-2-2 水田の区画整備の状況

243243

157157

2424

64.764.7

9.99.9

0

20

40

60

80

昭和39年

(1964)

50(1975)

58(1983)

平成5

(1993)

13(2001)

28(2016)

万ha %

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「農業基盤情報基礎調査」

注:水田面積は7月15日時点(平成13(2001)年以前は、8月1日時点)、水田面積以外は3月末時点

0

100

200

300

400

水田面積

30a程度以上整備率(右目盛)

30a程度以上区画整備済

50a以上区画整備済

50a以上整備率(右目盛)

図表2-2-3 区画整備済の水田における汎用田の状況(平成28(2016)年)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「農業基盤情報基礎調査」

注:1)区画整備済とは、30a程度以上に区画整備された田(大区画は50a以上に区画整備された田)

2)排水良好とは、地下水位が70cm以深かつ湛水排除時間が4時間以下の田

排水良好109万ha排水良好109万ha

排水良好でない48万ha

排水良好でない48万ha

水田面積 243万ha

汎用田

未整備86万ha(35.3%)

未整備86万ha(35.3%)

区画整備済157万ha(64.7%)

区画整備済157万ha(64.7%)

うち大区画24万ha(9.9%)うち大区画24万ha(9.9%)

基盤整備を通じた担い手への集積・集約化のイメージ

資料:農林水産省作成

農家数 戸当たり規模

363戸 0.6ha/戸

:自家消費希望者

凡 例

A経営体 55ha

B経営体 83ha

C経営体 43ha

自家消費農家 51ha

農家数 戸当たり規模

363戸 0.6ha/戸

:集落営農参加合意者

:自家消費希望者

現況 

計画 

基盤整備を通じた担い手への集積・集約化のイメージ資料:農林水産省作成

134

第2節 農業生産基盤の整備と保全管理

図表2-2-4 畑のかんがい施設等の整備状況

204204

156156

4949

128128

76.476.4

23.923.9

62.762.7

万ha %末端農道整備率

(右目盛)

畑地かんがい施設整備済区画整備率

(右目盛)

畑面積末端農道整備済

畑地かんがい施設整備率(右目盛)

区画整備済

0

20

40

60

80

0

100

200

300

昭和39年

(1964)

50(1975)

58(1983)

平成5

(1993)

13(2001)

28(2016)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「農業基盤情報基礎調査」

注:1)畑面積は7月15日時点(平成13(2001)年以前は、8月1日時点)、畑面積以外は3月31日時点

2)末端農道整備済とは、幅員3m以上の農道に接している畑をいう。

3)区画整備済とは、区画の形状が原則として方形に整形されている状態をいう。

図表2-2-5 区画整備済の畑におけるかんがい施設等の整備状況(平成28(2016)年)

畑面積204万ha区画整備済

128万ha(62.7%)

末端農道整備済118万ha

畑地かんがい施設整備済38万ha

未整備10万ha

未整備90万ha

未整備76万ha(37.3%)

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「農業基盤情報基礎調査」

(水田の区画整備と排水改良により、労働生産性の向上と担い手への農地集積を推進)水田の区画整備率と稲作の労働時間の関係を見ると、水田の区画整備と排水改良が進むことで、大型農業機械の導入が可能となり、また、農地の集約化により水田間の移動も容易になることから、労働時間は減少しています(図表2-2-6)。また、平成24(2012)年度から平成26(2014)年度に区画整備が完成した地区の担い手への農地集積率を見ると、区画整備前に比べて、区画整備後は主に30a程度以上区画の地区で20ポイント、主に50a以上の大区画の地区で32ポイントの上昇となっています(図表2-2-7)。さらに、高度な地下水位の管理を実現する地下水位制御システムの導入は、稲作における乾田直

ちょく播はんの導入等による省力化や、野菜等の高収益作物の品質と収量の向上に寄与し

ます。

135

第2章

図表2-2-6 水田の区画整備率と稲作労働時間

64.764.7

61.261.2

35.435.4

2.22.29.99.9

23.823.8

昭和58年

(1983)

13(2001)

28(2016)

% 時間/10a

稲作労働時間(右目盛)

30a程度以上の整備率

うち50a以上の大区画の割合

資料:農林水産省「農業基盤情報基礎調査」「農業経営統計調査 米及び麦類の生産費」を基に農林水産省で作成

0

20

40

60

80

100

0

10

20

30

40

50

60

70

図表2-2-7 担い手への農地集積率

47.847.867.567.5

80.380.3

0

20

40

60

80

100

区画整備前 区画整備後(主に30a程度以上区画)

区画整備後(主に50a以上区画)

+20ポイント

+32ポイント

資料:農林水産省「土地改良長期計画実績把握調査」、「農業基盤情報基礎調査」

注:1)平成24(2012)年度から平成26(2014)年度までに区画整備が完了した122地区(主に30a程度区画:50地区、主に50a以上区画:72地区)における農地集積率

2)調査対象としている「担い手」とは、農業法人、水稲作付面積15ha以上の認定農業者*

*用語の解説3(1)を参照

長崎県雲うん仙ぜん市しの山

やま田だ原ばら地区では、保水性の低い火山灰性土

壌のため、作付けできる農作物がソルゴー等の飼料作物に限られていましたが、平成9(1997)年度から平成21(2009)年度にかけて畑地かんがい施設を整備したことで農業用水を安定的に確保し、収益性の高い野菜を作付けできるようになりました。農作物の作付延べ面積は平成9(1997)年度の牧草を中心とした137haから平成28(2016)年度にはブロッコリー等の野菜を中心とした169haに拡大し、1ha当たり農業所得も56万円から204万円へと増加しました。平成22(2010)年度には、ブロッコリーの安定出荷と品質向上を求める市場の要望に応えるため、個選から共選への移行と製氷機の導入が行われました。これにより、選果作業から解放された農業者によるブロッコリーの作付拡大で安定出荷が実現するとともに、氷詰め出荷により鮮度の高いブロッコリーが消費地に届けられるようになり、同地区のブロッコリーは雲仙ブロッコリーとしてブランディングに成功しました。

佐賀県

長崎県

雲仙市

氷詰め出荷されるブロッコリー

畑地かんがい施設の整備により、農業所得が大きく増加(長崎県)事 例

(3)農業生産の継続に欠かせない農業水利施設の長寿命化

(農業用用排水路の総延長は約40万km、基幹的農業水利施設の施設数は約7,600か所)農業水利施設は、農業用水の安定的な確保と高度な水利用を実現し、単位面積当たり収量の維持・向上を通じて食料自給力の基礎を支えています。これらの農業水利施設の整備状況を見ると、農業用用排水路の総延長は地球約10周分に相当する約40万km、ダムや取水堰

せき、用排水機場等の基幹的農業水利施設の施設数は約7,600か所となっています。

136

第2節 農業生産基盤の整備と保全管理

また、農業水利施設のうち基幹的施設は国、地方公共団体、土地改良区により、農地の周りの農業用用排水路等の末端施設は農業者を中心とする地域住民により、それぞれ管理が行われています。

(老朽化した農業水利施設は、ストックマネジメントにより機能を保全)農業水利施設は、戦後の高度経済成長期に整備されたものが多く、老朽化が進行しています。平成26(2014)年度末時点において標準耐用年数を超過した基幹的農業水利施設は再建設費ベースで約4.3兆円となり、これは全体の2割強に相当する規模となっています(図表2-2-8)。経年的な劣化や局部的な劣化による農業水利施設の突発的な事故が近年急増しており、農地に水を安定的に供給する機能に支障が生じることが懸念されています(図表2-2-9)。

図表2-2-8 基幹的農業水利施設の標準耐用年数超過状況

県営等1.7兆円

国営0.9兆円

国営1.0兆円

県営等3.3兆円

全体18.6兆円

既に標準耐用年数を超過した施設4.3兆円(全体の23.2%)

今後10年のうちに標準耐用年数を超過する施設2.6兆円(全体の13.9%)

10年経過後も標準耐用 年数を超過しない施設 11.7兆円(全体の62.9%)

資料:農林水産省「農業基盤情報基礎調査」注:基幹的農業水利施設(受益面積100ha以上の農業水利施設)の資産価値(再建設費ベース)

(平成26(2014)年度末時点)

図表2-2-9 農業水利施設における突発事故の発生状況

0300

600

900

1,200

1,500

1,800

平成10年度(1998)

15(2003)

20(2008)

28(2016)

経年的な劣化及び局部的な劣化

その他(降雨、地盤沈下等)

1,6431,6431,3901,390

資料:農林水産省調べ注:施設の管理者(国、都道府県、市町村、土地改良区等)に対

する聞き取り調査 パイプラインの破損による水の噴出

これら施設の機能を効率的に保全する取組として、施設の長寿命化とライフサイクルコストの低減を図るストックマネジメントが進められています(図表2-2-10)。また、近年、水路トンネルの劣化状況を調査する点検ロボットや、既設パイプの中に新たなパイプを挿入することで老朽化したパイプラインを更新するパイプインパイプ工法といった新技術の導入が進んでいます(図表2-2-11)。適時適切な補修を行うことにより、機能保全を図っ

137

第2章

た地区においては単純な更新に比べて、整備コストが平均3割低減するというデータがあります(図表2-2-12)。

図表2-2-10 ストックマネジメントによる農業水利施設の保全管理の考え方

資料:農林水産省作成

:補強工事により更新 までの期間を延長

(凡例):機能診断の実施範囲

:補修する部分

:継続使用

ダム

頭首工

用水路

:簡易な工事で施設機能 を回復し継続使用

施設の機能診断に基づき機能保全計画を策定し、既存ストックの有効活用を図りつつ劣化の状況に応じた適切な対策を実施

図表2-2-11 農業水利施設の点検・改修で導入されている新技術

資料:農林水産省作成

〈点検ロボット〉 〈パイプインパイプ工法〉

ドップラー速度計

高感度CCDカメラ

赤外線距離計LED照明

農業用水路トンネルでの調査状況

水を止めることができない水路トンネルのひび割れや漏水の調査が可能

既設パイプの中に新設パイプを挿入することで既設パイプを掘り起こすことなく更新が可能

既設パイプ 止水バンド

新設パイプ

図表2-2-12 農業水利施設の長寿命化によるコスト低減効果億円

開水路 水路トンネル パイプライン

更新コスト 機能保全コスト

頭首工(土木) 機場(土木)資料:農林水産省調べ注:1)更新コストとは、施設を全面更新した場合のコスト

2)機能保全コストとは、施設の補修を繰り返した場合のコスト3)平成19(2007)年度と平成20(2008)年度の国営造成施設の機能保全計画書より算定

平均3割コストが低減29%低減

50%低減

29%低減

55%低減79%低減

233

59

158

38

7

166

29

112

17 10

50

100

150

200

250

138

第2節 農業生産基盤の整備と保全管理

兵庫県稲いな美み町ちょうを中心に広がるいなみ野台地は周辺を流れる川より30m以上標高が高く、明

治期に至るまで水に恵まれない地域でした。この地に水を確保し農業の振興を図るという農家の悲願は、明治21(1888)年の淡

おう ご河川

がわからいなみ野台地へ延長26kmの水路を引く事業の着

手により動き出しました。水路は途中、志

し染じみ川がわの谷間を越える必要があり、事業の最大の難関となっていました。在留

中の英国人技師*1の助言を得ることで、農業用水としては我が国初の大規模錬鉄管製の逆サイホン*2が水路橋とともに施工され、幹線水路の完成を経て明治25(1892)年には淡河川の水が初めていなみ野台地の水田まで届きました。今日、このような大規模逆サイホンは、農業用水が河川や谷部等を横断して送られる場合に欠かせない施設となっており、明治期における海外の新技術を導入した逆サイホンの設置の成功は我が国の農業水利の発展の一翼を担ったとも言えます。*1 ヘンリー・スペンサー・パーマー(英国陸軍少

将、内務省土木局名誉顧問)*2 水路が河川、湖沼、窪地などの低位部や鉄道、

道路などの障害物を横断するとき、管路をそれらの下などに設けることで流下させる仕組み。

「明治150年」関連施策テーマ農業水利発展の一翼を担った明治期の逆サイホンの設置コラム

淡河川疏水逆サイホンイメージ図

資料:いなみ野ため池ミュージアム運営協議会ほか「淡河川・山田川疏水記録誌」を基に農林水産省で作成

(4)災害リスクから農業・農村を守る防災・減災対策

(大規模自然災害に対応した農業水利施設の機能強化、地域の防災・減災力の強化)近年、豪雨の発生頻度が増加傾向にあることに加え、都市化の進展等による排水量の増加や排水施設の地盤沈下により、農地や周辺の住宅、公共施設等への湛

たん水すい被害の発生リス

クが高まっている地域がみられます。このような地域では、排水施設の機能強化が必要となっています。排水機場等の排水施設を整備することにより、豪雨時の湛

たん水すい被害が防止さ

れ、地域の農業経営の安定化が図られています(図表2-2-13)。

図表2-2-13 排水施設の機能強化による災害発生防止

排水機場新設前(平成2( )年)

湛水被害

6日間降雨量 6日間降雨量

:湛水被害

:集水区域

湛水被害0

:湛水被害

:集水区域

排水機場新設後 平成9( )年

湛水状況

城西排水路

城西排機場

図表

排水施設の機能強化による災害発生防止

資料:農林水産省調べ注 :国営総合農地防災事業(佐賀中部地区)で排水機場を新設したことで、豪雨時の湛水被害が防止され、アスパラガス等の施設園芸が拡

大するなど、地域の農業経営が安定化

139

第2章

農業水利施設の老朽化が進み、南海トラフ地震等の発生も懸念される中、同地震の被害想定範囲内には、全国の基幹的農業水利施設の3割が存在しています(図表2-2-14)。大規模地震による発災時の人命への影響等が大きい国営造成施設を中心に耐震設計・照査 1

が進められており、平成29(2017)年度末時点で、重要度の高い国営造成施設のうち、70.7%に相当する183施設で照査が完了しています。このうち耐震対策が必要と判明している施設については、順次、耐震化を進めていくこととしています(図表2-2-15)。

図表2-2-15 頭首工の耐震化

耐震化前の頭とうしゅこうせきちゅう

首工堰柱

耐震化後の頭首工堰柱資料:農林水産省作成

図表2-2-14 南海トラフ地震の被害想定範囲内の基幹的農業水利施設の割合

%

資料:農林水産省調べ注 :平成26(2014)年度末時点

*1 農業用ダムやポンプ場等*2 農業用用排水路*3 基幹的農業水利施設全体

0 50 100

30.630.6

27.527.5

32.632.6

69.469.4

72.572.5

67.467.4

再建設費*3

線施設*2

点施設*1

南海トラフ地震の被害想定範囲内の基幹的水利施設

7,418か所

18.6兆円

50,746km

それ以外のエリアの基幹的水利施設

ため池は西日本を中心に全国に約20万か所存在しています。受益面積2ha以上のため池6万1千か所のうち70%が江戸時代以前に築造されたものであり、自然災害による被害リスクが高まっています(図表2-2-16)。平成28(2016)年度末時点で、下流に住宅、公共施設等があり、決壊した場合に影響を与えるおそれがあるなどの防災重点ため池は全国で1万1,362か所あります。このうち4,444か所で地震に対する詳細調査を実施したところ、2,305か所で安全が確認されています。また、3,634か所で豪雨に対する詳細調査を実施したところ、2,888か所で安全が確認されています。ハード面の対策とともに、ソフト面の対策を早急に講じていくことが防災・減災の観点から重要となっており、堤体決壊時の浸水範囲や避難場所等を示したハザードマップについては、防災重点ため池の約半数で作成・公表が行われています。

1 施設の耐震性能の有無を確認し、耐震上必要な対策を設計すること

図表2-2-16 受益面積2ha以上のため池の築造年代

ため池数6万1千か所 70%20%

10%

江戸時代以前

昭和以降

明治・大正

資料:農林水産省調べ

140

第2節 農業生産基盤の整備と保全管理

大阪府でため池の管理を行う光こう明みょう池いけ土地改良区は、ため

池の耐震対策の完了を契機に平成23(2011)年度、大阪府、和いずみ泉市

しとの3者で「大規模災害時における農業用水を活用し

た防災活動に関する協定」を締結しました。同協定は、地震等の発生時に市が土地改良区に要請を行うことで、ため池の水を消火用水や生活用水等に活用できるとするものです。協定締結に際しては、貴重な農業用水の転用に対して農家から慎重な意見も出ましたが、非常時に地域で役立つため池を目指したいと土地改良区の役員が説得に当たりました。平成24(2012)年度からは地域住民を交え、ため池から水路に送られた水を使った消火や、貯留水の飲用へのろ過等の訓練も行われています。防災協定への理解が広がり、平成25(2013)年度以降、高

たか石いし市しや泉いずみ大おお津つ市しとの協定締結も行

われました。この防災協定の締結はモデル的な取組として評価され、府内の他の土地改良区や水利組合における防災協定の締結にもつながっています。

奈良県

兵庫県

大阪府泉大津市 高石市

和泉市

浄化装置による 貯留水のろ過の様子

ため池の水を活用する防災協定の締結(大阪府)事 例

141

第2章

主要農畜産物の生産等の動向第3節食料自給率 1目標の実現と農業の持続的発展に向けては、作付面積の拡大と単収の向上

を通じて農畜産物の生産拡大を図っていくことが重要です。以下では、農業産出額、主要な農畜産物の生産・流通の動向、自然災害による農業被害について記述します。

(1)農業産出額の動向

平成28(2016)年の農業総産出額 2は前年に比べ4千億円増加の9兆2千億円となりました 3。

(都道府県別分析:直近10年間で産出額が増加したのは34都道府県)農業総産出額は直近10年間で9千億円(10.4%)増加しており、この増分を都道府県別に見ると、北海道が1,588億円と最も大きく、茨城県915億円、千葉県697億円、鹿児島県657億円、熊本県491億円と続き、増加したのは34都道府県となっています(図表2-3-1)。この34都道府県について、農業産出額における割合の高い部門 4を見ると、15道県が

畜産、13都府県が野菜となっています。一方、減少した13県について、農業産出額における割合の高い部門を見ると、8県が米となっています。この8県のうち6県は、農業産出額における米の割合が5割以上となっています。

1 用語の解説 3(1)を参照2 用語の解説 1、3(1)を参照3 トピックス 1を参照4「農業産出額における割合の高い部門」の考え方は、「農業産出額に占める割合が 3割以上で 1位部門となっていること」とした。

142

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

図表2-3-1 都道府県別の農業産出額(単位:億円、%)

平成18年(2006)

28(2016) 増減差

28(2016)1位部門 2位部門 3位部門

北海道 10,527 12,115 1,588 畜産 57.7 野菜 18.2 米 9.6青森県 2,885 3,221 336 畜産 28.5 野菜 26.8 果実 26.5岩手県 2,544 2,609 65 畜産 60.5 米 19.6 野菜 11.3宮城県 1,929 1,843 -86 畜産 41.9 米 38.6 野菜 14.7秋田県 1,861 1,745 -116 米 54.1 畜産 20.9 野菜 16.4山形県 2,152 2,391 239 米 33.6 果実 28.9 野菜 17.7福島県 2,500 2,077 -423 米 33.3 畜産 23.9 野菜 23.2茨城県 3,988 4,903 915 野菜 43.9 畜産 25.6 米 16.2栃木県 2,609 2,863 254 畜産 35.6 野菜 33.7 米 21.2群馬県 2,250 2,632 382 畜産 42.7 野菜 40.7 米 5.8埼玉県 1,900 2,046 146 野菜 51.2 米 18.7 畜産 14.4千葉県 4,014 4,711 697 野菜 40.9 畜産 28.7 米 14.1東京都 278 286 8 野菜 59.8 花き 15.4 果実 10.5神奈川県 736 846 110 野菜 56.3 畜産 19.5 果実 10.2新潟県 2,964 2,583 -381 米 57.5 畜産 19.3 野菜 14.9富山県 726 666 -60 米 67.3 畜産 14.7 野菜 9.2石川県 590 548 -42 米 51.6 野菜 19.7 畜産 17.3福井県 495 470 -25 米 61.3 野菜 18.9 畜産 11.1山梨県 832 899 67 果実 60.2 野菜 15.7 畜産 9.3長野県 2,322 2,465 143 野菜 36.4 果実 22.6 米 18.4岐阜県 1,236 1,164 -72 畜産 37.8 野菜 31.0 米 18.6静岡県 2,443 2,266 -177 野菜 30.9 畜産 21.6 果実 14.6愛知県 3,108 3,154 46 野菜 35.7 畜産 27.7 花き 18.1三重県 1,142 1,107 -35 畜産 37.7 米 24.1 野菜 14.0滋賀県 638 636 -2 米 54.7 野菜 19.2 畜産 18.1京都府 710 740 30 野菜 37.2 米 23.5 畜産 20.1大阪府 336 353 17 野菜 45.3 米 21.5 果実 18.4兵庫県 1,462 1,690 228 畜産 40.2 米 26.7 野菜 25.7奈良県 476 436 -40 野菜 27.5 米 22.0 果実 20.4和歌山県 1,095 1,116 21 果実 62.9 野菜 15.5 米 6.8鳥取県 685 764 79 畜産 35.3 野菜 30.9 米 17.9島根県 625 629 4 畜産 39.6 米 30.4 野菜 18.1岡山県 1,255 1,446 191 畜産 38.4 米 23.9 野菜 17.4広島県 1,069 1,238 169 畜産 41.1 米 20.3 野菜 20.1山口県 684 681 -3 米 32.2 畜産 28.0 野菜 26.0徳島県 1,052 1,101 49 野菜 40.7 畜産 25.1 米 12.0香川県 796 898 102 畜産 40.3 野菜 32.0 米 14.1愛媛県 1,300 1,341 41 果実 41.4 畜産 20.9 野菜 18.1高知県 987 1,144 157 野菜 61.0 果実 10.4 米 10.2福岡県 2,116 2,196 80 野菜 36.8 畜産 18.5 米 18.2佐賀県 1,194 1,315 121 野菜 28.0 畜産 25.7 米 19.9長崎県 1,329 1,582 253 畜産 33.2 野菜 32.4 果実 8.7熊本県 2,984 3,475 491 野菜 38.0 畜産 32.8 米 10.8大分県 1,302 1,339 37 畜産 35.3 野菜 28.5 米 17.7宮崎県 3,211 3,562 351 畜産 61.9 野菜 21.6 米 4.8鹿児島県 4,079 4,736 657 畜産 62.5 野菜 13.0 工芸農作物 7.1沖縄県 906 1,025 119 畜産 42.9 工芸農作物 25.0 野菜 14.0

資料:農林水産省「生産農業所得統計」注:農業産出額には、自都道府県で生産され農業へ再投入した中間生産物(飼料用米、種子用米、素畜等)は含まない。

143

第2章

(市町村別分析:農業産出額の上位は、九州や関東の市町が多数)農業産出額を市町村別に見ると、全国1,719市町村 1のうち、農業産出額が最高となっ

たのは愛知県田た原はら市しで853億円でした(図表2-3-2)。農業産出額上位30位の市町村を見

ると、鹿児島県5市町、北海道3市町、熊本県3市、宮崎県3市等となっています。また、上位30位市町の産出額1位の部門を見ると、野菜が10市町と最も多く、次いで、肉用牛4市、米3市、乳用牛3市町、豚3市等となっています。

図表2-3-2 農業産出額の上位30市町村(平成28(2016)年)(単位:億円)

順位 都道府県名 市町村名 農業産出額 1位部門 2位部門 3位部門1(1) 愛知県 田

た原はら市し 852.8 花き 311.1 野菜 299.9 豚 87.7

2(2) 茨城県 鉾ほこ田た市し 780.1 野菜 452.5 豚 140.1 いも類 124.9

3(3) 宮崎県 都みやこの

城じょう市し 753.8 豚 204.5 肉用牛 181.0 ブロイラー 162.1

4(4) 新潟県 新にい潟がた市し 623.1 米 330.4 野菜 182.7 果実 34.4

5(5) 北海道 別べつ海かい町

ちょう621.0 乳用牛 596.6 肉用牛 16.6 その他の

畜産物 1.3

6(6) 千葉県 旭あさひ市し 567.4 野菜 206.1 豚 188.7 鶏卵 54.8

7(7) 静岡県 浜はま松まつ市し 532.9 果実 177.2 野菜 146.7 花き 69.0

8(8) 熊本県 熊くま本もと市し 484.3 野菜 262.3 果実 70.2 米 51.2

9(10) 愛知県 豊とよ橋はし市し 438.6 野菜 236.2 豚 39.1 果実 29.8

10(9) 青森県 弘ひろ前さき市し 434.8 果実 369.2 米 32.3 野菜 23.0

11(11) 鹿児島県 鹿かの屋や市し 431.3 肉用牛 152.8 豚 99.8 野菜 52.8

12(13) 鹿児島県 南みなみ九きゅう州しゅう市し 410.9 鶏卵 97.5 工芸農作物 71.0 豚 46.0

13(12) 群馬県 前まえ橋ばし市し 408.2 豚 97.2 野菜 94.7 乳用牛 89.1

14(16) 千葉県 香か取とり市し 402.1 野菜 93.5 いも類 80.1 米 76.4

15(17) 鹿児島県 志し布ぶ志し市し 391.9 豚 143.3 肉用牛 107.9 野菜 45.3

16(15) 宮崎県 宮みや崎ざき市し 391.6 野菜 205.2 肉用牛 48.1 果実 29.1

17(14) 熊本県 菊きく池ち市し 389.4 肉用牛 112.0 乳用牛 77.4 豚 69.2

18(18) 熊本県 八やつ代しろ市し 385.4 野菜 283.1 米 45.1 工芸農作物 18.0

19(21) 栃木県 那な須す塩しお原ばら市し 367.3 乳用牛 175.4 野菜 60.0 米 48.9

20(20) 埼玉県 深ふか谷や市し 362.5 野菜 224.3 花き 30.0 鶏卵 25.8

21(19) 茨城県 小お美み玉たま市し 354.2 鶏卵 152.9 野菜 98.1 乳用牛 43.2

22(22) 鹿児島県 曽そ於お市し 351.0 肉用牛 125.8 豚 90.2 ブロイラー 38.4

23(23) 福岡県 久く留る米め市し 324.7 野菜 151.8 米 41.2 花き 36.5

24(24) 鹿児島県 大おお崎さき町

ちょう 321.1 ブロイラー 195.3 野菜 55.3 肉用牛 36.7

25(26) 宮城県 登と米め市し 315.8 米 115.7 肉用牛 86.7 豚 48.6

26(32) 山形県 鶴つる岡おか市し 306.5 米 132.5 野菜 106.8 果実 23.0

27(27) 北海道 北きた見み市し 304.2 野菜 179.5 乳用牛 45.8 いも類 31.0

28(29) 宮崎県 小こ林ばやし市し 303.2 肉用牛 97.1 ブロイラー 61.0 野菜 60.5

29(25) 北海道 幕まく別べつ町

ちょう 299.9 乳用牛 114.2 野菜 99.2 いも類 35.2

30(28) 岩手県 一いちの関せき市し 299.7 ブロイラー 60.7 豚 59.5 米 59.1

資料:農林水産省「市町村別農業産出額(推計)(農林業センサス結果等を活用した市町村別農業産出額の推計結果)」を基に作成注:( )は、前年の順位

1 東京都の特別区は 1市町村として計上

144

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

主な部門別に上位5市町村を見ると、米は、1位の新潟県新にい潟がた市しをはじめ、上位5市の

うち3市が新潟県の市となっています(図表2-3-3)。いも類と野菜は、かんしょや、ほうれんそう、メロン等の生産が盛んな茨城県鉾

ほこ田た市しが1位となっています。果実は、りんご

等の生産が盛んな青森県弘ひろ前さき市し、花きは、菊やバラ等の生産が盛んな愛知県田

た原はら市しが、工

芸農作物はさとうきびの生産が盛んな沖縄県宮みや古こ島じま市しがそれぞれ1位となっています。

また、畜産物では、肉用牛は、1位の宮崎県 都みやこの

城じょう市しをはじめ、九州地域の市が上位5

市を占めています。乳用牛については、1位の北海道別べつ海かい町ちょうをはじめ、上位5市町のうち

4町が北海道の町となっています。豚については、1位が宮崎県 都みやこの

城じょう市しで、次いで、千

葉県旭あさひ市し、群馬県桐

きりゅう生市

しとなっています。

図表2-3-3 農業産出額の主な部門の上位5市町村(平成28(2016)年)(単位:億円)

順位米 いも類 野菜

都道 府県名 市町村名 農業

産出額都道

府県名 市町村名 農業 産出額

都道 府県名 市町村名 農業

産出額1 新潟県 新

にい潟がた市し 330.4 茨城県 鉾

ほこ田た市し 124.9 茨城県 鉾

ほこ田た市し 452.5

2 新潟県 長なが岡おか市し 160.2 千葉県 成

なり田た市し 89.7 愛知県 田

た原はら市し 299.9

3 秋田県 大だい仙せん市し 141.9 千葉県 香

か取とり市し 80.1 熊本県 八

やつ代しろ市し 283.1

4 山形県 鶴つる岡おか市し 132.5 茨城県 行

なめがた方市

し 71.1 熊本県 熊くま本もと市し 262.3

5 新潟県 上じょう越えつ市し 131.9 長崎県 雲

うん仙ぜん市し 54.3 愛知県 豊

とよ橋はし市し 236.2

(単位:億円)

順位果実 花き 工芸農作物

都道 府県名 市町村名 農業

産出額都道

府県名 市町村名 農業 産出額

都道 府県名 市町村名 農業

産出額1 青森県 弘

ひろ前さき市し 369.2 愛知県 田

た原はら市し 311.1 沖縄県 宮

みや古こ島じま市し 118.9

2 静岡県 浜はま松まつ市し 177.2 静岡県 浜

はま松まつ市し 69.0 鹿児島県 南

みなみ九きゅう州しゅう市し 71.0

3 山梨県 笛ふえ吹ふき市し 174.4 鹿児島県 和

わ泊どまり町

ちょう 40.0 静岡県 牧まき之の原はら市し 33.8

4 山形県 東ひがし根ね市し 140.5 茨城県 神

かみ栖す市し 38.7 静岡県 島

しま田だ市し 31.2

5 山形県 天てん童どう市し 129.3 千葉県 南

みなみ房ぼう総そう市し 36.6 群馬県 昭

しょう和わ村むら 27.9

(単位:億円)

順位肉用牛 乳用牛 豚

都道 府県名 市町村名 農業

産出額都道

府県名 市町村名 農業 産出額

都道 府県名 市町村名 農業

産出額1 宮崎県 都

みやこの城じょう市し 181.0 北海道 別

べつ海かい町

ちょう 596.6 宮崎県 都みやこの

城じょう市し 204.5

2 鹿児島県 鹿かの屋や市し 152.8 北海道 中

なか標しべ津つ町ちょう 224.6 千葉県 旭

あさひ市し 188.7

3 鹿児島県 曽そ於お市し 125.8 北海道 標

しべ茶ちゃ町

ちょう 207.7 群馬県 桐きりゅう生市

し 146.6

4 熊本県 菊きく池ち市し 112.0 栃木県 那

な須す塩しお原ばら市し 175.4 鹿児島県 志

し布ぶ志し市し 143.3

5 鹿児島県 志し布ぶ志し市し 107.9 北海道 清

しみず水 町

ちょう 139.6 茨城県 鉾ほこ田た市し 140.1

資料:農林水産省「市町村別農業産出額(推計)(農林業センサス結果等を活用した市町村別農業産出額の推計結果)」を基に作成

(2)米

(主食用米から戦略作物等への取組が定着し、超過作付けは3年連続で解消)米 1の1人当たりの年間消費量は、ピークの昭和37(1962)年度の118.3kgから一貫し

1 主食用米のほか、菓子用・穀粉用の米

145

第2章

て減少傾向で推移し、平成28(2016)年度は前年度に比べ0.2kg減少の54.4kg1となりました。1人当たり年間消費量と人口が減少する中、主食用米の需要量は毎年8万t程度 2

のペースで減少しており、この傾向は今後も続くと見込まれています。このような背景から、主食用米の作付面積は減少傾向で推移している一方、平成29

(2017)年産は戦略作物等 3の取組が定着したことから前年産に比べ1万1千ha減少の137万haとなり、生産数量目標の面積換算値138万7千haを下回り、超過作付けは3年連続で解消しました(図表2-3-4、図表2-3-5)。また、作況指数 4が前年産103から100となったこととあわせ、主食用米の収穫量は前年産に比べ19万t減少の730万6千tとなりました 5。

図表2-3-4 田における農作物作付(栽培)面積

その他

野菜

豆類(乾燥子実)

麦類(子実用)

水陸稲(子実用)

飼肥料作物

平成19年(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

万ha240

220

200

180

160

140

0

233.0 230.1 229.4 230.3 227.8 228.0 228.0 227.3 226.3 225.77.015.4

14.7

12.6

16.3

166.9

7.3

15.6

14.8

13.4

16.6

162.4

7.2

15.5

14.6

13.2

16.7

162.1

7.3

16.5

14.6

12.6

16.7

162.5

7.7

18.9

14.5

12.4

17.1

157.4

7.7

19.4

14.4

11.8

16.8

157.9

7.6

18.3

14.2

11.5

16.7

159.7

7.4

19.9

14.2

11.6

16.9

157.3

7.2

25.2

14.1

12.3

17.1

150.4

7.3

26.9

14.0

12.4

17.3

147.8

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」注:1)麦類は6麦(子実用)合計面積

2)雑穀及び豆類は乾燥子実(未成熟との兼用を含む。)3)野菜はえんどう、そらまめ、大豆、いんげん及びとうもろこしの未成熟を含む。またばれいしょは野菜に含む。4)飼肥料作物は青刈り作物を含む。5)その他は、かんしょ、雑穀(乾燥子実)、果樹、工芸農作物、桑、花き、花木、種苗等

図表2-3-5 主食用米の超過作付面積万ha

資料:農林水産省調べ

-4

-2

0

2

4

6

8

5.4 4.94.1

2.2 2.4 2.7

-1.3-2.2 -1.7

平成20年産(2008)

23(2011)

26(2014)

29(2017)

2.8

1 農林水産省「食料需給表」平成 28(2016)年度は概算値2 農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」3 麦、大豆、飼料用米等4 用語の解説 3(1)を参照5 農林水産省「作物統計」

146

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

(担い手の米の生産コストは、平成23年の全国平均に比べ3割程度低い水準)稲作経営の農業所得を向上させるためには、品質や収量の向上に加えて、生産コストの

削減が重要です。担い手の米 1の生産コストについては、2023年までに、平成23(2011)年産全国平均 2比で4割削減する目標(9,600円/60kg)を設定 3しており、平成28(2016)年産は、認定農業者15ha以上層が平成23(2011)年産全国平均比31.9%減少の10,900円/60kg4、稲作主体の組織法人経営が同27.0%減少の11,677円/60kg5となりました。農林水産省では、更なる生産コスト削減に向けて、農地中間管理機構による農地の集積・集約化 6、直

ちょく播はん栽培 7等の省力栽培技術の導入、多収品種の導入や作期の異なる品種

の組合せによる作期分散等とともに、農業競争力強化支援法に基づく生産資材価格の引下げに向けた関係者の着実な取組を推進しています(図表2-3-6、図表2-3-7、図表2-3-8)。

図表2-3-6 作期の異なる品種の組合せによる生産コスト削減効果のイメージ

作業時期 作業時期

1日当たり作業量

1日当たり作業量

1日当たり作業量のピークが高く、多くの労働者や農業機械が必要

1日当たり作業量のピークが低く、少ない労働者や農業機械で作業可能

中生品種のみ早生品種

中生品種

晩生品種

資料:農林水産省作成

図表2-3-7 直播栽培の導入によるコスト・労働時間削減効果

直播栽培を導入していない経営体

直播栽培を導入している経営体

時間/10a10a当たり作業時間

60Kg当たり全算入生産費

12,000

11,000

10,000

0

15

14

13

12

11

0

円/60kg

資料:農林水産省調べ注:1)経営体は、作付面積15ha以上の経営体

2)生産コストは、農林水産省「農業経営統計調査米及び麦類の生産費」より組替集計(平成24(2012)~平成28(2016)年産の5か年平均)

14.7

12.4

11,40710,607

図表2-3-8 収量増加によるコスト削減効果

資料:農林水産省調べ注:1)経営体は、作付面積15ha 以上の経営体

2)生産コストは、農林水産省「農業経営統計調査米及び麦類の生産費」より組替集計(平成24(2012)~平成28

(2016)年産の5か年平均)

円/60kg12,000

11,000

10,000

0全体平均 収量550kg/10a以上

の層の平均

11,29611,29610,71410,714

1 飼料用米以外の米2 16,001 円 /60kg。農林水産省「農業経営統計調査平成 23(2011)年産米及び麦類の生産費」3「日本再興戦略」(平成 25(2013)年 6月閣議決定)4 農林水産省「農業経営統計調査平成 28(2016)年産米及び麦類の生産費」5 農林水産省「組織法人経営体に関する経営分析調査」6、7 用語の解説 3(1)を参照

147

第2章

(業務用途の堅調な需要が見込まれる中、米の産地には需要に応じた生産・販売が期待)主食用米の需要に占める外食・中食 1向

けの割合は近年高まっており、平成28(2016)年度においては31.1%となっています(図表2-3-9)。外食・中食向けの業務用途では、寿司や丼等の使われ方によって求められる品質が異なり、値頃感も重視されることから、米の生産段階で販売先を確保し、適切な品種の選定と単収向上に重点を置いた肥培管理が重要となります。主食用米の業務用途は今後も堅調な需要が見込まれており、米の産地には、一般家庭用と業務用各々の需要に応じた生産・販売に取り組んでいくことが期待されます。

(平成30年産米の生産において、重要な役割を担う農業再生協議会)主食用米については、平成25(2013)年から環境整備を進めていた、行政による生産数量目標の配分に頼らずに、生産者が自らの経営判断、販売戦略に基づき、需要に応じた生産・販売が行われる新しい仕組みが平成30(2018)年産から始まります。この仕組みにおいて、都道府県段階と地域段階に設置された農業再生協議会は、農林水産省から提供される全国の需給見通し等の情報と、自らの販売戦略等を踏まえ、主食用米、麦、大豆、飼料用米等の作付方針(水田フル活用ビジョン)を検討し、地域内の農業者等に周知を行うという重要な役割を担います。平成27(2015)年産以降の主食用米では、戦略作物等の取組が定着し、3年連続で超過作付けが解消され、需要に応じた生産・販売が行われてきました。平成30(2018)/31(2019)年における主食用米等の需要量は742万tと見通されており、各農業再生協議会の構成員となっている農業者団体や地方公共団体には、需要に応じた生産が引き続き行われるよう中心的な役割が期待されています(図表2-3-10)。

図表2-3-10 平成30(2018)/31(2019)年の主食用米等の需給見通し(単位:万t)

平成30(2018)年6月末民間在庫量 A 186平成30(2018)年産主食用米等生産量 B 735平成30(2018)/31(2019)年主食用米等供給量計 C=A+B 922

平成30(2018)/31(2019)年主食用米等需要量 D 742

平成31(2019)年6月末民間在庫量 E=C-D 180

資料:農林水産省「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」(平成30(2018)年3月公表)

注:1)「主食用米等」の中には、主食用に供給されるもののほか、加工用途及び輸出用に供給されているものの一部が含まれている。

2)平成30(2018)/31(2019)年主食用米等需要量については、3月時点で価格の状況を見通すことが困難であるため、価格の変動が生じた場合の需要量への影響は見込んでいない。

1 用語の解説 3(1)を参照

図表2-3-9 米消費における外食・中食、家庭内食の占める割合

平成9年度(1997)

% 家庭内食 外食・中食100

80

60

40

20

028

(2016)

79.768.9

20.331.1

資料:平成9(1997)年度は農林水産省調べ、平成28(2016)年度は公益社団法人米穀安定供給確保支援機構調べ

148

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

(飼料用米の給与により生産した畜産物を対象に、初めてのコンテストが開催)飼料用米の生産量については、2025年度までに110万tに増産する目標が設定 1されて

おり、平成29(2017)年産は生産計画ベースで48万3千tとなりました。担い手の飼料用米の生産コストについては、2025年度までに、平成25(2013)年産全国平均 2比で60kg当たり5割程度低減する目標(約7,615円/60kg)が設定 3されており、平成28(2016)年産は、平成25(2013)年産比34.1%低減の10,030円/60kg4となりました。引き続きの生産コストの低減に向けて、飼料用米以外の米と同様、農地中間管理機構による農地の集積・集約化等を進めるとともに、多収品種の導入と高単収が得られる適正な肥培管理の実践等が重要となっています。また、飼料用米の給与により生産した豚肉、牛肉、鶏卵等のブランド化の取組が全国で行われています。平成29(2017)年度には、このようなブランド化に取り組む畜産事業者を対象として、第1回「飼料用米活用畜産物ブランド日本一コンテスト」が開催され、最優秀者に農林水産大臣賞が授与されました。

(平成29年12月、米粉製品の認証制度がスタート)米粉の消費拡大をめぐっては、平成29(2017)年3月に農林水産省が「ノングルテン」米粉製品の表示に関するガイドライン、用途別の加工適性に関する米粉の用途別基準を公表し、同年5月に米粉製造業者、米粉製品製造業者、外食事業者、生産者団体等で構成する日本米粉協会が設立されました。欧米のグルテンフリー表示は、食品のグルテン 5含有基準値を20ppmとしているのに対し、我が国のノングルテン表示は、ガイドラインにおいて欧米より厳しい基準が設けられており、具体的には含有1ppm以下の米粉と、この米粉を主たる原料とするなどの基準を満たす加工製品で行うとされています。日本米粉協会は、平成29(2017)年12月に、ガイドラインに基づく米粉製品の認証制度と、用途別基準への適合等の要件を満たす米粉製品の推奨制度を創設しました。平成29(2017)年度には、ドイツ、スペイン等のEU諸国で、麦類アレルギーを持つ消費者等を対象とした米粉料理教室等のイベントが開催されており、今後、ノングルテン認証を受けた米粉製品の認知度と信頼が高まることで、欧州向け輸出の拡大につながることが期待されます。

1 食料・農業・農村基本計画(平成 27(2015)年 3月閣議決定)2 15,229 円 /60kg。農林水産省「農業経営統計調査平成 25(2013)年産米及び麦類の生産費」3「日本再興戦略」改訂 2015(平成 27(2015)年 6月閣議決定)4 農林水産省「農業経営統計調査平成 28(2016)年産米及び麦類の生産費」5 小麦等に含まれるたんぱく質の一種で、アレルギー症状や免疫疾患の原因となりうる。

「飼料用米活用畜産物ブランド日本一コンテスト」で農林水産大臣賞を受賞した

平ひら

田た

牧ぼく

場じょう

の皆さん

ノングルテン米粉 認証ロゴマーク

米粉利用拡大のための推奨ロゴマーク

資料:日本米粉協会

149

第2章

(3)小麦

(1経営体当たり作付面積は着実に拡大し、都府県でより大きな伸び)平成29(2017)年産の小麦は、作付面積が前年産に比べて1.0%減少したものの、おおむね天候に恵まれ単収が15.7%増加したことから、収穫量は前年産に比べ14.7%増加の90万7千tとなりました(図表2-3-11)。また、小麦の1経営体当たり作付面積は着実に拡大しており、主食用米からの作付転換が進んだ都府県でより大きな伸びとなっています(図表2-3-12)。

図表2-3-11 小麦の単収、作付面積、収穫量

10a当たり収量(北海道)

10a当たり収量(都府県)

作付面積(全国)(右目盛)

収穫量(都府県) 収穫量(北海道)

365330

468 500

㎏/10a

200

400

600

万t

0

50

100

150

0

5

10

15

20

25万ha

平成20年産(2008)

23(2011)

26(2014)

29(2017)

34.0 27.4 22.2 24.6 27.2 28.0 30.1 27.3 26.7 29.9

54.240.0 34.9

50.0 58.6 53.2 55.1 73.152.4 60.8

88.1

67.457.1

74.685.8 81.2 85.2

100.4

79.190.7

20.9 20.8 20.7 21.2 20.9 21.0 21.3 21.3 21.4 21.2

資料:農林水産省「作物統計」

図表2-3-12 小麦の1経営体当たり作付面積

0

5

10ha

平成17年(2005)

22(2010)

27(2015)

都府県

北海道

1.2(100)

6.2(100)

2.8(233)

7.8(126)

3.6(300)

8.8(142)

資料:農林水産省「農林業センサス」注:( )内は平成17(2005)年を100とした指数

(需要が高まる国産小麦)国内で栽培されている小麦は、これまでうどん用等の中力系の品種が主でしたが、近年、パンに適した「ゆめちから」や中華麺に適した「ちくしW2号(ラー麦)」等の強力系の新品種、きしめんに適した「きぬあかり」や伊勢うどんに適した「あやひかり」など地域の食文化と結びついた新品種の育成・普及が進んでいます。高品質品種の生産増加や消費者の国産志向等により、国産小麦100%使用のパンの販売額が増加傾向で推移しているほか、生麺やゆで麺の販売金額上位15製品のうち国産小麦使用の表示があるものが9製品を占めるなど国産小麦に対する需要は高まっています(図表2-3-13)。

150

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

図表2-3-13 生麺、ゆで麺(チルド)販売金額上位15位(平成27(2015)年)(単位:%)

順位 製品の種類 産地表示の有無 販売金額シェア1 焼きそば なし 10.32 うどん あり(北海道産小麦使用) 3.33 そば なし 2.94 冷やし中華 なし 2.25 ラーメン あり(北海道産小麦使用) 1.56 冷やし中華 あり(国内産小麦使用) 1.47 うどん あり(国内産小麦使用) 1.48 うどん あり(国内産小麦使用) 1.39 焼きうどん なし 1.210 うどん あり(国内産小麦使用) 1.211 焼きそば あり(国内産小麦使用) 1.212 つけ麺 なし 1.013 焼きそば なし 1.014 うどん あり(国内産小麦使用) 0.915 ラーメン あり(北海道産小麦使用) 0.9

上位15製品の販売金額に占める国内産・北海道産小麦使用の表示がある�製品のシェア 41.3

資料:「民間流通制度導入後の国内産麦のフードシステムの変容に関する研究(小麦編)~最新の需給事情も踏まえた今後の対応方向~」(農林水産政策研究所レビューNo.76、平成29(2017)年3月、吉

よし田だ行ゆき郷さと)

注:日経メディアマーケティング社による首都圏スーパーマーケット等108店におけるPOSデータに基づき集計

(4)大豆

(1経営体当たり作付面積は着実に拡大し、都府県でより大きな伸び)平成29(2017)年産の大豆は、作付面積が前年産並みであったものの、単収が5.7%増加したことから、収穫量は前年産に比べ6.1%増加の25万3千tとなりました(図表2-3-14)。食料・農業・農村基本計画で定める生産量32万tの達成に向けては、輪作体系の構築による連作障害の回避、畝立栽培等による湿害回避、有機物の補給による地力の回復等に取り組み、近年伸び悩んでいる単収向上を図ることが必要です。また、大豆の1経営体当たり作付面積は着実に拡大しており、主食用米からの作付転換が進んだ都府県でより大きな伸びとなっています(図表2-3-15)。図表2-3-14 大豆の単収、作付面積、収穫量

10a当たり収量(北海道)

10a当たり収量(都府県)

作付面積(全国)(右目盛)

収穫量(都府県) 収穫量(北海道)

万t

kg/10a300

200

100 166139

237 245

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0

4

8

12

16万ha

資料:農林水産省「作物統計」

平成20年産(2008)

23(2011)

26(2014)

29(2017)

20.5

5.726.2

23.04.9

18.1

22.35.8

16.5

21.96.0

15.9

23.66.8

16.8

20.06.1

13.9

23.27.4

15.8

24.3

8.6

15.7

23.8

8.4

15.4

25.3

10.1

15.2

14.7 14.5 13.8 13.7 13.1 12.9 13.214.2

15.0 15.0

図表2-3-15 大豆の1経営体当たり作付面積ha

0

1

2

3

4

北海道

都府県

資料:農林水産省「農林業センサス」注:( )内は平成17(2005)年を100とした指数

平成17年(2005)

22(2010)

27(2015)

0.6(100)

1.1(183)

2.2(100)

3.3(150)

1.4(233)

4.1(186)

151

第2章

(豆腐や納豆で、国産表示商品の販売額は増加の傾向)輸入大豆の多くは大豆油を搾油するための油糧用に仕向けられているのに対し、国産大豆は、食味や外観等の品質が評価されており、ほぼ全量が豆腐、納豆、煮豆等の食用に仕向けられています。近年、豆腐や納豆では、国産の表示が行われている商品の販売額が増加傾向で推移しており、国産大豆に対する需要は高まっています(図表2-3-16)。事業者団体等は、商品の表示について、景品表示法に基づいた自主的な業界ルールを設定することができます。豆腐業界では、豆腐の種類別名称、大豆固形分の含有率、食品添加物等の表示に関する業界ルールの設定に向けた検討が行われています。問屋や大豆加工品製造業者からの入札はこれまで大豆の収穫後に行われていましたが、作柄により価格が大幅に変動してきました。国産大豆の安定取引を推進するために、平成30(2018)年産から入札の一部を播

は種しゅ前に行う「播種前入札取引」が実施されます。こ

れに先立ち、平成29(2017)年産について、平成29(2017)年4月に播種前入札取引の試験導入が行われ、全国15の産地品種銘柄が上場されました。

図表2-3-16 量販店の大豆製品販売額と国産表示品のシェア(豆腐・納豆)(豆腐) (納豆)

20

18

16

14

12

10

8

6

4

2

0

18

16

14

12

10

8

6

4

2

0

600

500

400

300

200

100

0

500

400

300

200

100

0平成19年(2007)

21(2009)

23(2011)

25(2013)

27(2015)

百万円 国産表示ありの割合(右目盛) %

国産表示なし国産表示あり

平成21年(2009)

23(2011)

25(2013)

27(2015)

百万円 %国産表示ありの割合(右目盛)

国産表示あり国産表示なし

29

348

7.6

9.7377

39

365

404

14.1 14.1

48

295

343

46

279

325

47

264

311

15.1 15.0

54

305

359

16.1

56

292

349

67

329

396

67

355

422

15.916.9

37

228

265

14.0

41

211

252

16.3

44

200

244

18.1

51

220

271

19.0

48

228

275

17.3

57

257

314

18.2

61

272

333

18.2

資料:農林水産政策研究所作成注:1)日経メディアマーケティング社による地域・業態が全国・スーパーにおける各年1月のPOSデータに基づき作成

2)対象商品は、木綿豆腐、絹ごし豆腐・ソフト豆腐。納豆は粒納豆、ひきわり納豆

(5)野菜

(加工・業務用向けで国産シェアの回復が進展)平成28(2016)年産の野菜は、作付面積が前年産に比べ3千ha減少の39万4千haとなり、生産量は同22万t減少の1,163万tとなりました(図表2-3-17)。減少面積の内訳を品目別に見ると、だいこんの600haが最も大きく、次いで、にんじん、さといも、はくさい、ほうれんそうがそれぞれ300ha等となっています 1。近年では、えだまめやブロッコリー等で作付面積が増加しているとともに、消費者の嗜

し好こうの多様化を受け人気が高まっ

てきたパクチー、バターナッツカボチャ等で、生産の広がりが見られます。

1 農林水産省「野菜生産出荷統計」

152

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

図表2-3-17 野菜の作付面積と生産量

作付面積(右目盛)

生産量果実的野菜

果菜類

根菜類

葉茎菜類

万t

平成19年産(2007)

22(2010)

28(2016)

25(2013)

2,000

1,500

1,000

41.6 41.6 41.5 41.3 40.9 40.7 40.1 40.0 39.7 39.4

1,253 1,255 1,2341,173 1,182 1,201 1,178 1,196 1,186 1,16383 80 77 74 72 71 69 69 66 65

265 264 254 245 244 250 247 244 238 236

309 307 305 286 287 285 280 282 278 264

596 604 599 568 579 595 583 601 604 599

500

0

10

0

20

30

40

50万ha

資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」、「食料需給表」注:1)作付面積は「野菜生産出荷統計」のうち、ばれいしょを除いたもの

2)生産量は年度の数値。また、平成28(2016)年度の生産量は概算値

生活スタイルの変化や簡便化志向を背景に、野菜の需要量に占める加工・業務用の割合は上昇傾向で推移しており、平成27(2015)年度には57%となっています(図表2-3-18)。国産割合を見ると、家計消費用は98% 1とほぼ一定であるのに対し、加工・業務用では上昇傾向で推移しており、国産シェアの回復が進んでいます。加工・業務用の野菜には高い加工歩留りや定時、定量、定価での供給が求められますが、近年、加工適性の高い品種の栽培、低コスト化に資する機械化一貫体系の導入、物流コスト削減に資する大型鉄コンテナの利用等の取組が広がり、加工・業務用向けの出荷量は増加しています。

図表2-3-18 野菜の加工・業務用と家計消費用の需要量家計消費用加工・業務用

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1,000 1,100万t

平成17年度(2005)

22(2010)

27(2015)

国産 68%

70% 30%

71% 29%

輸入 32%

556.1(55%)

526.2(56%)

547.3(57%)

446.0(45%)

407.5(44%)

410.1(43%)

資料:農林水産政策研究所資料を基に農林水産省で作成注:指定野菜14品目のうち、ばれいしょを除いたもの(だいこん、にんじん、さといも、はくさい、キャベツ、ほうれんそう、レタス、ね

ぎ、たまねぎ、きゅうり、なす、トマト、ピーマン)を対象に粗食料ベースで推計。粗食料=国内生産量+輸入量-輸出量-減耗量

1 農林水産政策研究所資料

153

第2章

岡山県岡おか山やま市しの植

うえ田だ輝てる義よしさんは、平成11(1999)年に

24歳で、農家をしていた奥さんの実家で黄ニラの生産を始めました。平成12(2000)年に東京の卸売市場からパクチー生産の提案を受けたことを機に仲間とともに生産を開始しました。当時、国内にパクチーの産地はほとんどなく、植田さんは岡山市農業協同組合や仲間たちと一緒に、試行錯誤の上、現在の栽培方法を確立したと言います。同農協の青果物生産組合パクチー部会には、平成29(2017)年時点で、植田さんを含む13戸の農家が参加し、約5haでパクチーの生産が行われています。出荷先は東京向けが8割ですが、植田さんは今後県内での消費を増やしたいと語ります。地元飲食店ではマイルドな食味が好評を得ており、飲食店と提携したメニューづくり等も進められています。植田さんたちが生産するパクチーは、平成29(2017)年に「岡山マイルドパクチー・OKAPAKU」として商標登録されました。

広島県

島根県

鳥取県

岡山県 兵庫県岡山市

植田輝義さん(右)とパクチー 部会部会長の秋

あき本もと

佳よし

範のり

さん(左)

マイルドなパクチー「岡山マイルドパクチー・OKAPAKU」 (岡山県)事 例

千葉県の君きみ津つ市し、富

ふっ津つ市し、袖

そでケが浦うら市しを区域とする君津市農

業協同組合では、卸売市場の勧めを受けて平成21(2009)年から業務用キャベツの出荷を始めました。元々、生食用が生産されていた同農協区域内では選果や箱詰めの作業がネックとなり農業者の規模拡大が進んでいませんでしたが、業務用への切替えが広がったことで、10ha規模の経営が出現するなど若手農業者を中心に規模拡大が進みました。平成29(2017)年産冬キャベツの作付面積は42haにまで拡大し、全量が業務用となっています。キャベツは10か所の加工工場に鉄コンテナ詰めで直接届けられますが、同農協では、作柄リスクを回避するため、卸売市場や全国農業協同組合連合会を経由した取引を行っています。同農協直販企画課長の若

わか林ばやし博ひろ之ゆきさんは、担い手ほどキャ

ベツやだいこん等の業務用野菜に熱心に取り組んでおり、今後、高齢者の農地が担い手に集積されることで、業務用野菜の生産は徐々に増えると見込んでいます。

千葉県

君津市

袖ケ浦市

富津市

キャベツを詰め込んだ鉄コンテナをトラックに載積する様子

業務用野菜への転換により、大規模経営が出現(千葉県)事 例

(6)果実

(食の簡便化等が進む中、良食味果実に加え、原材料に適した果実の生産も重要)平成28(2016)年産の果樹は、栽培面積が前年産に比べ4千ha減少の22万7千haと

154

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

なり、生産量は同5万4千t減少の291万5千tとなりました(図表2-3-19)。減少面積の内訳を品目別に見ると、みかんの800haが最も大きく、次いで、かきとくりがそれぞれ500ha、みかん以外のかんきつ類が400ha等となっています。一方で、ここ数年では、愛媛県が育成した良食味で独特の食感を持つかんきつ品種の愛媛果試第28号(紅

べにまどん

な)、甘かん平ぺいや長野県育成の高糖度りんご品種シナノスイートの生産が拡大するなど優良品

目・品種への改植が進められています。また、長野県と山梨県が主産地のぶどう品種シャインマスカットは国内外での旺盛な需要を受け、市場出荷量が増加するとともに、平成29(2017)年産市場価格は前年以上を実現しました。

図表2-3-19 果樹の栽培面積と果実の生産量万t 万ha栽培面積(右目盛)

生産量

平成19年産(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

50025.8 25.5 25.1 24.7 24.4 24.0 23.7 23.4 23.0 22.7344.4 343.6 344.1

296.0 295.4 306.2 303.5 310.8 296.9 291.5153.8 161.9 159.2

138.7 137.1 142.2 139.7 141.7 137.9 134.5

84.0 91.1 84.6 78.7 65.5 79.4 74.2 81.6 81.2 76.5

106.6 90.6 100.3 78.6 92.8 84.6 89.6 87.5 77.8 80.5

400

300

200

100

0

30

20

10

0

みかん

りんご

その他

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、「食料需給表」注:生産量は年度の数値。また、平成28(2016)年度の生産量は概算値

果実の摂取量を年齢階層別に見ると、この10年間でほぼ全ての世代で減少しており、また、特に子育て世代に当たる20歳代から40歳代は摂取量が少なく、子供たちの摂取量の減少につながることも懸念されています(図表2-3-20)。食の簡便化や嗜

し好こうの多様化が

進む中、今後は、国内外の消費者ニーズに合った食べやすく良食味の果実に加えて、加工品の原材料を念頭に置いた果実の生産を伸ばしていくことも重要です。果実の産地においては、食品製造事業者と連携し、加工適性に優れた品種を選び省力化栽培に取り組む動きも見られます。

図表2-3-20 年齢階層別の1人1日当たり果実摂取量

総数 1~6歳 7~14 15~19 20~29 30~39 40~49 50~59 60~69 70歳以上

g/日180160140120100806040200

117104 11297 11182

10974 75 60 65 53

8662

12792

164137

157 157

平成16(2004)年から平成18(2006)年までの3か年平均

平成26(2014)年から平成28(2016)年までの3か年平均

資料:厚生労働省「国民健康・栄養調査」注:果実摂取量とは、摂取した生鮮果実、果実缶詰、ジャム、果汁類の重量の合計

155

第2章

果実の輸出では、近年、ぶどうとももの輸出額の伸びが続いており、この5年間で、ぶどうはシンガポール向け、ももはマレーシア向けの輸出が大きく伸びています(図表2-3-21)。

青森県鰺あじヶが沢さわ町まちのりんご農家の長男木

き村むら才さい樹きさんは、大学

を卒業後、昭和58(1983)年に22歳で実家に就農しました。りんご園の一部はジュース用園地で、木村さんは収穫を行うパートの高齢化を見込み、平成28(2016)年度にジュース用りんごの収穫機を導入しました。同機による収穫は樹を振動させて落下した果実を風で集め拾い上げて行いますが、低床型でブロワーを駆動できる100馬力のトラクターは国内になく、ドイツ製を導入しました。近年需要が高まっているプレザーブ用りんご*は落下による外傷が許されないことから、木村さんは落下させずに収穫できる外国製の収穫機の導入を検討しています。外国製の機械はメンテナンスの問題があり、多くの農家は導入に躊

ちゅう躇ちょすると言います。りんご王国青森でもパートの高齢化により生食用を含めりんご作

りができない園地が急増すると木村さんは憂慮しており、国内メーカーによるりんご用の農業機械の開発が急務と語ります。* アップルパイ等にすぐに使えるよう、皮をむき、芯を抜き、カットしたりんごを砂糖で煮付けたもの

秋田県 岩手県

青森県

鰺ヶ沢町

収穫したジュース用りんごを 鉄コンテナに詰める様子

収穫機の導入による加工原料用りんごの生産(青森県)事 例

(7)花き

(優れた特徴を持つ品種や高品質な花きを生産し、輸入品との差別化を図ることが重要)花きの産出額は、切り花の輸入増加、栽培農家の減少等から、平成10(1998)年をピークに減少していましたが、近年は横ばいで推移しており、平成27(2015)年産は前年産に比べ1.8%(69億円)増加の3,801億円となりました(図表2-3-22)。また、作付面積は前年産に比べ2.4%(0.7千ha)減少の2万8千haとなりました。

図表2-3-21 輸出額の伸びが続いている果実(平成25(2013)年を100とする指数)

ぶどう

100

438

279

もも

500

400

300

200

100

0平成25年(2013)

27(2015)

29(2017)

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成

156

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

図表2-3-22 花きの作付面積と産出額

産出額(右目盛)

億円

4,000

3,000

2,000

1,000

0

ha

40,000

4,394 4,449

4,0123,826 3,816 3,671 3,761 3,785 3,732 3,801

36,752 35,628 34,68232,756 31,429 30,187 30,072 29,621 28,820 28,119

19,252 18,398 17,842 16,256 15,229 14,407 14,522 14,241 13,730 13,299

17,500 17,230 16,840 16,500 16,200 15,780 15,550 15,380 15,090 14,820

30,000

20,000

10,000

0平成18年産(2006)

21(2009)

24(2012)

27(2015)

その他

切り花類

資料:農林水産省、「花き生産出荷統計」、「花木等生産状況調査」注:その他は、鉢もの類、花壇用苗もの類、球根類、花木類、芝、地被植物類の合計

カーネーションやきく等の切り花の輸入量は増加傾向にあり、平成28(2016)年では、切り花の消費量(本数ベース)の26%が輸入品となっています。一方で、一輪一輪の花が大きくボリュームのあるトルコギキョウが人気を集め、長野県や熊本県等で生産が広がっています。平成29(2017)年の花きの輸出額は、前年に比べ52%増加の137億円で、はじめて100億円を超えました 1。このうち植木・盆栽・鉢ものの輸出額は、中国やベトナム等のアジア地域におけるプロモーション活動等の結果、前年に比べ57%増加の126億円となりました。また、切り花の輸出額は、米国等におけるプロモーション活動等により、日本産の品質に対する評価が高まった結果、前年に比べ20%増加の9億円となりました。花きの品種は、海外で育成されたものだけでなく、国内の個人育種家や種苗会社等により多数のオリジナル品種が開発され、種苗法に基づく育成者権の保護のための品種登録の出願が行われています(図表2-3-23)。花きの生産振興に向けては、他の国にはない優れた特徴を持った品種の育成や、採花後の前処理や適切な温度管理による高品質な花き流通の実現により、輸入品との差別化を図ることが重要です。また、子供たちが花きを学び触れる機会の創出、花きの需要が低迷する時期の消費喚起キャンペーンの実施等により、国内花き需要の回復を図ることも重要です。

図表2-3-23 種苗法に基づく品種登録出願件数(単位:件)

全体 うち草花類(件数と全体に占める割合)

うち個人・種苗会社からの出願(件数と草花類に占める割合)

33,206 20,508 61.8% 18,577 90.6%

資料:農林水産省作成注:平成29(2017)年度末時点 長野県千

ち く ま曲市

しの個人育種家、中

なか曽

そ根

ね健けん

さんが育種した トルコギキョウ品種「コサージュ」

資料:株式会社ナカソネリシアンサス

1 財務省「貿易統計」

157

第2章

(8)茶

(優良品種への改植による茶園の若返りと需要に応じた生産体制の強化が重要)茶は、生葉の収穫後、産地で荒茶に加工され、消費地でブレンドや茎の除去等が行われ製茶となります。平成29(2017)年産の茶は、栽培面積が前年産に比べ1千ha減少の4万2千haとなり、荒茶の生産量は2千t増加の8万2千tとなりました(図表2-3-24)。近年における品種ごとの栽培面積を見ると、栽培面積の7割以上 1を占める「やぶきた」が減少する一方で、やぶきたより収穫時期が早くうま味に富む「さえみどり」、やぶきたより収穫時期が遅く茶葉の緑色が鮮やかな「おくみどり」、香りが強く機能性成分であるカテキンを多く含む「さやまかおり」等が増加しています。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構が平成28(2016)年6月に品種登録出願を行った新品種「せいめい」は、耐寒性に優れ栽培適地が広く、高品質な抹茶等の原料となることから、将来、輸出等による需要拡大への貢献が期待されます。全国の茶園面積の3割程度は収量や品質の低下が懸念される樹齢30年以上の老園であり、優良品種への計画的な改植を進め、茶園の若返りと需要に応じた生産体制の強化を図ることが重要となっています。また、米国等における日本食ブームや抹茶への関心の高まりにより茶の輸出が拡大しており、国連食糧農業機関(FAO)の予測では世界における緑茶の貿易量は平成26(2014)年から10年間で2.4倍に増加するとされています。輸出の更なる拡大に向けては、米国やEU等に対する我が国と同等以上の残留農薬基準の設定申請、輸出先国・地域の残留農薬基準を踏まえた生産段階での防除体系の確立、抹茶の生産体制の強化、有機栽培を行う産地の拡大等の取組に対し支援が行われています。

図表2-3-24 茶の栽培面積と荒茶生産量

29(2017)(概数値)

平成20年産(2008)

23(2011)

26(2014)

荒茶生産量

栽培面積(右目盛)万t14 4.8 4.7 4.7 4.6 4.6 4.5 4.5 4.4 4.3 4.2

9.68.6 8.5 8.2 8.6 8.5 8.4 8.0 8.0 8.2

12

10

8

6

4

2

0

万ha5

資料:農林水産省「作物統計」注:平成23(2011)年産、平成24(2012)年産の荒茶生産量は主産県の合計値

「せいめい」で作られた抹茶資料:国立研究開発法人農業・食品産業技

術総合研究機構

1 農林水産省調べ

158

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

(9)甘味資源作物

(この10年間で、てんさいは直播率が上昇、さとうきびはハーベスタ収穫率が上昇)平成29(2017)年産のてんさいは、作付面積が前年産に比べ3%減少したものの、天候に恵まれ単収が25%増加したことから、収穫量は前年産に比べ22%増加の390万tとなり、糖度は前年産に比べ0.8ポイント上昇し17.1度となりました(図表2-3-25)。一方、平成28(2016)年産のさとうきびは、収穫面積が前年産に比べ2%減少したものの、天候に恵まれ単収が28%増加したことから、収穫量は前年産に比べ25%増加の157万4千tとなり、糖度は前年産に比べ0.7ポイント上昇し、14.4度となりました(図表2-3-26)。なお、平成29(2017)年産については、糖度の低下につながる秋の台風被害が多発しました。てんさいは北海道の畑作地帯において輪作体系に組み込まれる重要な作物であり、さとうきびは沖縄県と鹿児島県南西諸島において干ばつと台風に強い基幹作物です。これら産地に存在する製糖工場等は雇用の創出を通じ地域経済に一定の役割を果たしていますが、近年、設備の老朽化が進んでおり、省力化など生産性の向上が課題となっています。てんさいの生産においては直

ちょく播はんの普及による省力化が重要となっており、平成29

(2017)年産の直ちょく播はん率 1は10年間で16.3ポイント上昇の23.7%となっています 2。また、

さとうきびの生産においては増産と機械化が重要となっており、2年1作の夏植栽培から1年1作の春植・株出栽培への移行が進むとともに、平成28(2016)年産のハーベスタ収穫率 3は10年間で25.9ポイント上昇の77.4%となっています 4。

図表2-3-25 てんさいの作付面積、収穫量、糖度

作付面積(右目盛)

万t 万ha

収穫量

平成20年産

(2008)

23(2011)

26(2014)

29(2017)(概算値)

糖度度

17.417.4

17.817.8

15.315.3

16.116.1

15.215.216.216.2

17.217.2

17.417.4

16.316.3

17.117.1

6.6 6.5 6.3 6.1 5.9 5.8 5.7 5.9 6.0 5.8

425425365365

309309 355355376376 344344 357357 393393 319319

390390

18

16

14

600

500

400

300

200

100

0

8

6

4

2

0

資料:農林水産省「作物統計」、北海道庁調べ

図表2-3-26 さとうきびの収穫面積、収穫量、糖度

収穫面積(右目盛)

収穫量

糖度度

14.4

14.914.5

13.813.7

14.114.213.7

13.7

14.4

2.2 2.2 2.3 2.3 2.3 2.3 2.2 2.32.3 2.3

150 160 152 147

100 111119 116 126

157

15

14

13

万t200

150

100

50

0平成19年産

(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

2.5

2.0

1.5

1.0

0.5

0

万ha

資料:農林水産省「作物統計」、鹿児島県・沖縄県「さとうきび及び甘しゃ糖生産実績」を基に農林水産省で作成

1 作付面積全体に占める直播面積の割合2 北海道庁調べ3 さとうきびの全収穫面積に占めるハーベスタによる収穫面積の割合4 鹿児島県、沖縄県「さとうきび及び甘しゃ糖生産状況」を基に農林水産省で推計

159

第2章

(10)いも類

(ばれいしょ、かんしょともに、需要に応じた新たな品種の作付けが拡大)平成28(2016)年産のばれいしょは、作付面積は前年産と同じであったものの、台風に伴う大雨の影響で単収が8%減少したことから、収穫量は前年産に比べ9%減少の219万9千tとなりました(図表2-3-27)。平成29(2017)年産のかんしょは、作付面積が前年産に比べて1%減少したことに加え、日照不足や大雨の影響により単収が5%減少したことから、収穫量は前年産に比べ6%減少の80万7千tとなりました(図表2-3-28)。

図表2-3-27 ばれいしょの作付面積と収穫量

作付面積(右目盛)

収穫量

平成19年産

(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

万t400

300

200

100

0

108.7 8.5 8.3 8.3 8.1 8.1 8.0 7.8 7.7 7.7

287.3 274.3 245.9 229.0 238.7 250.0 240.8 245.6 240.6 219.9

8

6

4

2

0

万ha

資料:農林水産省「野菜生産出荷統計」

図表2-3-28 かんしょの作付面積と収穫量

作付面積(右目盛)

29(2017)(概数値)

平成20年産

(2008)

23(2011)

26(2014)

収穫量

万t150

100

50

0

5

44.1 4.1 4.0 3.9 3.9 3.9 3.8 3.7 3.6 3.6

101.1102.686.4 88.6 87.6 94.2 88.7 81.4 86.1 80.7

3

2

1

0

万ha

資料:農林水産省「作物統計」

近年における品種ごとの動向を見ると、ばれいしょでは、かつて3割以上のシェアをもっていた「男

だん爵しゃく薯いも」が減少傾向となる中で、煮崩れしにくく剥皮褐変が少ないという

特性を持ち煮物やサラダに適した「とうや」、低温下で長期貯蔵が可能なポテトチップス原料の「きたひめ」等の作付けが増加しています。かんしょでは、かつて3割以上のシェアをもっていた「ベニアズマ」が減少傾向となる中で、強い甘みとしっとりとした食感が特徴の「べにはるか」等の作付けが増加しています。いも類の増産に向けては、病害虫抵抗性品種の導入や適切な栽培管理等による単収向上、省力化機械の導入等による作付面積の拡大が重要となっています。特に、平成27(2015)年8月に国内で初めて発生が確認されたジャガイモシロシストセンチュウは、これまで育成されてきたジャガイモシストセンチュウ抵抗性品種にも被害を及ぼすことから、抵抗性を有する新たな品種の育成が待たれます。

べにはるかの焼き芋

160

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

(11)畜産物

(飼養戸数が減少する中、1戸当たり飼養頭羽数は増加)平成29(2017)年における飼養戸数は全ての主要畜種において減少し、その一方で1戸当たり飼養頭羽数は全ての畜種において増加しました(図表2-3-29)。今後も、離農後に残された家畜や採草地等を引き受ける形で1戸当たり飼養頭羽数は増加が続くと見込まれますが、担い手の高齢化や労働力の不足が深刻化する中、より多くの若手が就農を目指す魅力ある労働環境となるよう、畜産クラスター1の形成等による機械や施設の導入、ヘルパー組織やTMRセンター2等の支援組織の充実等を進めることが重要です。

図表2-3-29 畜種別飼養戸数と1戸当たり飼養頭羽数(単位:戸、頭、千羽)

飼養戸数 1戸当たり飼養頭羽数平成19年(2007)

27(2015)

28(2016)

29(2017)

平成19年(2007)

27(2015)

28(2016)

29(2017)

乳用牛

北海道 8,310 6,680 6,490 6,310 100.6 118.6 121.1 123.5都府県 17,100 11,000 10,500 10,100 44.2 52.6 53.3 53.8

肉用牛

82,300 54,400 51,900 50,100 34.1 45.8 47.8 49.9子取り用めす牛 71,100 47,200 44,300 43,000 8.9 12.3 13.3 13.9

肥育用牛 12,400 8,210 8,330 7,840 59.4 90.2 86.4 92.1乳用種 7,550 5,320 5,040 4,950 140.9 155.6 166.1 168.6豚 7,550 … 4,830 4,670 1,292.6 … 1,928.2 2,001.3採卵鶏 3,460 … 2,440 2,350 41.3 … 55.2 57.9ブロイラー 2,583 … 2,360 2,310 40.8 … 56.9 58.4

資料:農林水産省「畜産統計」を基に農林水産省で作成注:1)各年2月1日時点

2)採卵鶏は成鶏雌1,000羽数以上の飼養者の数値3)ブロイラーは平成19(2007)年は全飼養者の数値、平成27(2015)年以降は年間出荷羽数3,000羽以上の飼養者の数値4)平成27(2015)年は農林業センサス実施年のため、豚調査、採卵鶏調査及びブロイラー調査を休止

(生乳の増産に向けて、乳用後継牛の確保が重要)平成28(2016)年度における生乳は、経産牛の頭数が前年度に比べ1万9千頭(2.2%)減少、1頭当たりの乳量が同15kg(0.2%)増加した結果、生産量は前年度に比べ6万t(0.9%)減少の734万tとなりました(図表2-3-30)。生産地域別に見ると、北海道は前年度に比べ1万t減少の389万t、都府県は前年度に比べ6万t減少の345万tとなりました。

図表2-3-30 生乳生産量と北海道・都府県別の経産牛飼養頭数

経産牛飼養頭数(都府県)

生乳生産量(全国)万t850 802 795 788 763 753 761 745 733 741 734

51.749.5 48.948.9 48.0 49.5 48.5 47.0 46.0 47.1 45.9

48.1 49.1 47.545.3 44.7 43.8 42.3 41.0 40.0 39.3

800750700

55

45

0

経産牛飼養頭数(北海道)万頭

平成19年度(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

資料:農林水産省「畜産統計」、「牛乳乳製品統計」注:頭数は各年度2月1日時点

1 用語の解説 3(1)を参照2 用語の解説 3(2)を参照

161

第2章

近年、経産牛の頭数は減少傾向で推移しており、このことが生乳生産量の減少につながっています。酪農家は、病気・怪我による死亡や廃用で減少した経産牛を補充できるよう多くの場合後継となる乳用雌牛を自家生産しますが、この数年間、肉用子牛価格の高値が続いたことから、都府県の酪農家を中心に、黒毛和種精液の交配や和牛受精卵の移植により交雑種や黒毛和種を生産する動きが広がり、この結果、経産牛の頭数が減少しています。生乳の増産に向けては、乳用種の性判別精液の交配を普及し、増頭した雌子牛を預託も含めて着実に育成する体制を整備することにより、後継となる乳用雌牛の必要頭数を確保していくことが重要です(図表2-3-31、図表2-3-32)。

図表2-3-31 性判別精液等による乳用雌牛確保のイメージ

母牛(乳用種) 母牛(肉用種)

性判別精液(雌)の交配や、同精液を利用した受精卵の移植により、高確率で雌牛を生産可能

産まれる子牛

乳用雌牛

乳用雄牛 交雑種

和牛酪農家由来

肉用牛繁殖農家由来

資料:農林水産省作成注:酪農家由来とは、乳用牛への和牛受精卵移植により生産され

た和牛

図表2-3-32 雄雌別乳用種出生頭数

30

0

万頭

平成20年(2008)

23(2011)

26(2014)

29(2017)

27.6 28.128.8

27.9

25.8 25.8

24.8

23.221.8

20.5

資料:農林水産省「畜産統計」注:各年2月1日時点

25.526.4

27.2 26.7

24.9 25.1

25.224.2 24.2

23.2

近年、嗜し好こうの多様化や小学生の児童数の減少等によ

り牛乳等の消費量が減少傾向にある中、料理やおつまみでの利用等によりチーズの消費量が増加しています。国産ナチュラルチーズについては、全国各地で製造に取り組む酪農家や事業者が着実に増加するとともに、特色ある商品の製造・販売が進み、国際コンテストで上位に入賞するものも見られるなど品質の向上も進んでいます。拡大する国内チーズ市場で国産のシェアを高めるためには、原料面での生乳の高品質化・コスト低減に向けた取組の強化や製造面でのコスト低減と品質向上、ブランド化等を図り、更なる国産チーズの競争力の強化を進めていくことが重要です。

国産ナチュラルチーズ(リコッタ)

162

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

(牛肉の増産に向けて、子牛育成部門の外部化による繁殖雌牛の増頭等が重要)平成28(2016)年度の肉用牛については、肥育牛の飼養頭数が前年度並みと減少に歯止めがかかったものの、肥育開始からと畜までにおおむね14か月から20か月程度のタイムラグがあることから、牛肉の生産量は前年度に比べ1万2千t(2.5%)減少の46万3千tとなりました(図表2-3-33)。繁殖雌牛の飼養頭数は前年度に比べ8千頭(1.4%)増加の59万7千頭で、増加は2年連続となり、今後、肉用肥育牛の増加が期待されます。また、繁殖用雌牛の飼養頭数の増加に伴い、肉用子牛の取引価格は平成28(2016)年度に比べて低下しています(図表2-3-34)。

図表2-3-33 肉用牛の飼養頭数と牛肉生産量

資料:農林水産省「畜産統計」、「食料需給表」注:1)頭数は各年度2月1日時点

2)肉用肥育牛の飼養頭数は、肉用種の肥育用牛と乳用種の合計3)牛肉生産量は枝肉ベース

280

240

200

160

120

80

40

0

50

0

万頭 万t

平成19年度(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

183.7 184.2 181.2 171.8 170.2 166.3 162.3 156.8 155.7 155.7

66.7 68.2 68.4 66.8 64.2 61.8 59.5 58.0 58.9 59.7

51.3 51.8 51.851.2

50.551.4

50.6 50.2

47.546.3

牛肉生産量(右目盛)

肉用肥育牛飼養頭数 繁殖雌牛飼養頭数

図表2-3-34 肉用子牛取引価格(黒毛和種)

資料:農林水産省作成注:1)グラフの数値は肉用子牛生産者補給金制度における平均売買価格(四半期毎)のデータ

2)平成29(2017)年度は第3四半期時点

平成20年(2008)

25(2013)

26(2014)

24(2012)

23(2011)

22(2010)

21(2009)

27(2015)

28(2016)

29(2017)

3,513

8,514

7,734

0

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000百円/頭

牛肉の増産に向けては、繁殖経営における子牛の哺育・育成と母牛の繁殖管理を外部化するキャトルブリーディングステーション 1(CBS)の活用を通じた繁殖雌牛の増頭や、酪農経営における乳用牛への黒毛和種受精卵の移植等により、肉用子牛の増頭を図っていくことが重要です(図表2-3-35)。

1 用語の解説 3(1)を参照

163

第2章

また、肉用牛の生産基盤の強化に向けては、肥育農家が繁殖部門を取り入れる繁殖肥育一貫経営に取り組むことも重要であり、この10年間で肉用種経営に占める繁殖肥育一貫経営内の飼養頭数の割合は3.7ポイント上昇しました(図表2-3-36)。肉用牛の繁殖農家が減少する中、近年、農業協同組合(以下「農協」という。)や農協が出資している農業法人のほか、飼料会社や食品小売業者等が肉用牛の繁殖経営に参入する動きも見られます。

図表2-3-36 肉用種経営に占める繁殖肥育一貫経営の飼養頭数割合

20

10

0

12.714.6

16.4

平成19年(2007)

24(2012)

29(2017)

資料:農林水産省「畜産統計」

図表2-3-35 キャトルブリーディングステーション(CBS)の活用による繁殖雌牛の増頭のしくみ

肉用牛繁殖経営

畜舎を増築することなく、預託中の空きスペースを活用して増頭

繁殖基盤の強化

農家で分べん後、子牛とセットでCBSへ預託

○集中管理による 効率化○早期離乳、 分べん間隔の短縮○事故率低減、 育成成績の向上

母牛はCBSで種付け、妊娠確認後、農家へ返す

繁殖雌牛に種付け 肉用牛

肥育経営繁殖技術のノウ

ハウのない肥育農家の経営上のリスクを低減

もと牛安定確保による、一貫経営への円滑な移行・規模拡大支援

肥育用もと牛

子牛を育成

子牛300頭、繁殖牛200頭規模

地域内一貫体制の確立

CBS

資料:農林水産省作成

JA全農北日本くみあい飼料株式会社は、東北6県の飼料供給シェアの3割を占める飼料会社です。同社は平成26(2014)年に岩手県一

いちの関せき市しの1万頭規模の肥育牧場を買い

受け、同社直営の「藤ふじ沢さわ牧場」として黒毛和牛の繁殖経営を

開始しました。26haの敷地に牛舎45棟を備えた同牧場では、繁殖牛2,700頭、子牛・肥育牛2,300頭が飼養されています。従業員数は獣医師や家畜人工授精師等を含め42人で、将来実家に戻る若い後継者の従業員にとっては飼育技術を習得する場にもなっています。8か月齢になった子牛は、肥育農家に管理委託が行われ、現在、1,500頭の子牛が東北6県の12戸の畜産農家で管理されています。委託を受けた肥育農家は肥育料を受け取り、飼料・枝肉等の相場変動のリスクは同社が負うことで、肥育農家の経営安定にも寄与しています。同牧場では、繁殖牛を3千頭規模とすることを目指しており、東北における畜産生産基盤の維持・拡大につなげたいとしています。

山形県

秋田県 岩手県一関市

藤沢牧場の全景

後継者育成や肥育農家の経営安定の役割を果たす繁殖農場 (岩手県)事 例

164

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

日本各地の和牛の改良の成果等を広く発信することなどを目的として5年に1度開催される「全国和牛能力共進会」が平成29(2017)年9月に宮城県仙

せん台だい市しで開催されました。11回目

となる今大会には、大会史上最多となる計513頭の和牛が全国各地から出品されました。今回の共進会では「高校の部」が設けられ、全国から集まった14校により出品された雌牛と取組の発表について審査が行われた結果、「ともみさと号」を出品した岐阜県の県立飛

ひ騨だ高たか山やま高

等学校が最優秀賞を獲得しました。同校では、全国の農業高校で使用される教科書には掲載されていない飛

ひ騨だ地域特有の給餌方法や管理技術等を学べるよ

う、平成30(2018)年度から新たに学校設定科目「飛ひ騨だ

牛うし」を設置します。生徒たちは、地元の畜産農家の協力を得

ながら、座学と実習を通じ、飛騨牛の繁殖から肥育・出荷までを2年間で学ぶこととなっており、飛騨牛の生産を将来に引き継ぐ優秀な農業人材の輩出が期待されています。

飛騨高山高等学校が、和牛の共進会「高校の部」で 最優秀賞を獲得

共進会での飛騨高山高等学校の 生徒たち

コラム

牛肉の輸出額は、検疫協議を通じた輸出解禁による輸出先国の拡大や海外でのプロモーション活動を通じた販路の掘り起こし・拡大等もあり、近年伸びが続き、この5年間で3.3倍に増加しています(図表2-3-37)。

(豚肉、鶏肉、鶏卵の生産量は、いずれも前年度より増加)平成28(2016)年度の豚肉は、豚の飼養頭数が前年度に比べ3万3千頭(0.4%)増加したことにより、生産量は前年度に比べ9千t(0.7%)増加の127万7千tとなりました(図表2-3-38)。我が国の平成27(2015)年度における母豚一腹当たり産子数は9.9頭と、デンマークの13.6頭、オランダの12.3頭を下回っています。このような中、国産豚の生産性の向上に向け、独立行政法人家畜改良センター、都道府県、民間種豚生産者が種豚のデータ共有や精液の交換等を行い、種豚改良を加速化する取組が進められています。

図表2-3-37 牛肉の輸出額の伸び率(平成25(2013)年の輸出額を100とした指数)

4003002001000

100 142191 235

332

平成25年(2013)

27(2015)

29(2017)

資料:財務省「貿易統計」を基に農林水産省で作成

図表2-3-38 豚の飼養頭数と豚肉生産量

平成19年度(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

1,200

800

1,000

150

100

0 0

974.5989.9 976.8

973.5968.5

953.7 931.3934.6

124.6

126.0131.8

127.7

127.7

129.5 131.1125.0

126.8

127.7

万頭 万t豚肉生産量(右目盛)

飼養頭数

資料:農林水産省「畜産統計」、「食料需給表」注:1)飼養頭数は各年度2月1日時点

2)平成21(2009)年度と平成26(2014)年度は飼養頭数の調査を休止

165

第2章

平成28(2016)年度の鶏肉は、ブロイラーの飼養羽数が前年に比べ52万8千羽(0.4%)増加したことにより、生産量は前年度に比べ2万8千t(1.8%)増加の154万5千tとなりました(図表2-3-39)。消費者の健康志向の高まり等を背景に生産量は過去最高となり、2025年度における生産量の目標を5%以上上回っています。近年、高たんぱく・低脂肪といった特性についての認知度の高まりから鶏むね肉の人気が高まっており、引き続き、消費者ニーズに応える形での生産の維持・拡大が期待されます。平成28(2016)年度の鶏卵は、採卵鶏の成鶏雌の飼養羽数が前年度に比べ153万2千羽(1.1%)増加したことにより、生産量は前年度に比べ1万8千t(0.7%)増加の256万2千tとなりました(図表2-3-40)。採卵鶏部門は大規模経営体による飼養頭羽数シェアが他の畜産部門に比べて高く、効率的な生産が最も進んでいます。生産量は2025年度における生産量の目標を6%以上上回っており、採卵鶏の経営体においては、需給バランスを踏まえた生産を行うことで、経営の安定を図っていくことが重要となっています。

(畜産物の生産基盤等の強化に向けて、輸入飼料の国産飼料への置換えが重要)平成29(2017)年度の飼料作物の作付面積は前年度並みとなりましたが、この数年間は飼料用米等の生産拡大により増加傾向となっています(図表2-3-41)。平成28(2016)年度のTDN1ベース収穫量は、台風や長雨の影響により単収が同1ha当たり2.3t(6.1%)減少したことから、前年度に比べ15万4千TDNt(4.0%)減少の364万9千TDNtとなりました。TDNベース収穫量を作物別に見ると、牧草等が減少する一方、飼料用米が増加しています(図表2-3-42)。

1 TotalDigestibleNutrients の略で、家畜が消化できる養分の総量

図表2-3-41 飼料作物の作付面積と収穫量

資料:農林水産省「耕地及び作付面積統計」、農林水産省調べ注:収穫量は農林水産省「作物統計」を基に推計

万TDNt 万ha収穫量 作付面積(右目盛)

90.2 90.2 91.1 93.3 93.2 91.5 92.497.5 98.8

98.5

372.1

357.5362.5

364.1

353.2343.1

352.2

380.3364.9

120

100

80

60

40

20

0

400

300

200

100

0平成20年度(2008)

23(2011)

26(2014)

29(2017)

図表2-3-39 ブロイラーの飼養羽数と鶏肉生産量

平成19年度(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

15,000

13,000

14,000

200

100

150

0 0

13,162.4

13,574.713,439.5

13,492.3

136.2

139.5

141.3

141.7

137.8

145.7145.9

149.4151.7

154.5

万羽 万t

鶏肉生産量(右目盛)

飼養羽数

資料:農林水産省「畜産統計」、「食料需給表」注:1)飼養羽数は各年度2月1日時点

2)平成24(2012)年度以前は飼養羽数の調査を実施していなかった。平成26(2014)年度は飼養羽数の調査を休止

図表2-3-40 成鶏雌の飼養羽数と鶏卵生産量

平成19年度(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

15,000

13,000

14,000

300

150

200

250

0 0

14,252.313,991.0 13,735.2

13,547.713,308.5

13,350.6 13,456.913,610.1

258.7

253.5

250.9

250.6

249.5

250.2

251.9

250.1

254.4 256.2

万羽 万t

鶏卵生産量(右目盛)

飼養羽数

資料:農林水産省「畜産統計」、「食料需給表」注:1)飼養羽数は各年度2月1日時点2)平成21(2009)年度と平成26(2014)年度は飼養羽数の調査を休止

166

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

図表2-3-42 飼料作物の作物別収穫量(単位:千TDNt)

平成22年(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

28(2016)

収穫量 3,625 3,641 3,532 3,431 3,522 3,803 3,649うち牧草等 3,571 3,514 3,401 3,345 3,375 3,457 3,251うち飼料用米 54 127 131 86 147 346 398

資料:農林水産省「作物統計」を基に推計注:飼料用米収穫量は平成28(2016)年度新規需要米生産集出荷数量

エコフィード 1の製造数量はほぼ一貫して増加傾向にあり、平成28(2016)年度は前年度に比べ4万TDNt(3.5%)増加の119万TDNtで、とうもろこしのTDNベース輸入量の約15%に相当する規模となりました(図表2-3-43)。鹿児島県の焼酎粕、北海道のばれいしょ等地域で発生した食品残さをエコフィード原料として利用し、畜産物のブランド化を図る取組が広がっています。畜産部門において飼料費は経営コストの3割から7割を占めており、国際相場や為替レート等の影響で価格が乱高下しやすい輸入飼料原料を、国産の飼料作物やエコフィード等を増産しこれに置換えていくことは、我が国畜産物の生産基盤と畜産部門の経営基盤を強化する上で重要となっています。

図表2-3-43 エコフィードの製造数量と濃厚飼料に占める割合

平成19年度(2007)

22(2010)

25(2013)

28(2016)

180

90

7

1

2

3

4

5

6

0 0

87 92 95 97 103 102 110111 115 119

4.44.7 4.7 4.9

5.3 5.45.8 6.0

6.2 6.3

万TDNt %濃厚飼料に占める割合(右目盛)

製造数量

資料:農林水産省調べ

焼酎粕を混合した飼料で生産した豚肉資料:株式会社ジャパンファーム養豚事業本部

1 用語の解説 3(1)を参照

167

第2章

(12)平成29年度の自然災害による農業関係の被害

(5つの台風や梅雨前線による大雨と暴風で、農業関係は1,264億円の被害)平成29(2017)年度は、相次いで接近・上陸した台風や梅雨前線による大雨と暴風により農作物や農地・農業用施設等に被害が発生し、農林水産関係の被害額は全都道府県で2,169億円、このうち農業関係の被害額は1,264億円に上りました(図表2-3-44)。台風第3号及び梅雨前線は、九州北部や東北地方を中心に全国に大雨をもたらし、農林水産関係の被害額は35道府県で1,122億円、このうち農業関係は35道府県で661億円となりました。台風第5号は、奄美地方や近畿地方、北陸地方を中心に大雨をもたらし、農林水産関係の被害額は33府県で71億円、このうち農業関係は29府県で37億円となりました。台風第18号は、9月17日に鹿児島県に上陸後北上しながら大雨と暴風をもたらし、農林水産関係の被害額は43道府県で320億円、このうち農業関係は41道府県で193億円となりました。台風第21号は、10月23日に静岡県に上陸後北東に進みながら大雨と暴風をもたらし、農林水産関係の被害額は46都府県で622億円、このうち農業関係は45都府県で351億円となりました。台風第22号は、10月28日に沖縄県に接近後本州南海上を北東に進みながら大雨をもたらし、農林水産関係の被害額は27県で33億円、このうち農業関係は18県で22億円となりました。これらの災害については、被災自治体への技術者等の派遣、被災農業者に対する共済金の早期支払等により、早期の復旧と営農再開に向けた支援を行いました。また、台風第3号及び梅雨前線、台風第18号、台風第21号による災害についてはそれぞれ激甚災害の指定 1を受けており、農林水産省では、平成29(2017)年1月から事前ルール化した「大規模災害時の災害査定の効率化」2を適用して、被災自治体の災害査定に

1 激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令の施行日は、6月 7日から 7月 27日までの間の豪雨及び暴風雨による災害(台風第 3号及び梅雨前線による災害)は 8月 10 日、9月 15 日から同月 19日までの間の暴風雨及び豪雨による災害(台風第 18号による災害)は 10月 25 日、10月 21 日から同月 23日までの間の暴風雨による災害(台風第 21号による災害)は 11月 27日

2 激甚災害(本激)に指定又は指定の事前公表がされた災害については、机上査定上限額を査定見込み件数のおおむね 7割(農地・農業用施設は 9割)までの額、採択保留額を保留見込箇所数全体のうちおおむね 6割までの額に引き上げる等、災害査定の効率化を措置

図表2-3-44 5つの台風と梅雨前線による農業関係の被害額(平成29(2017)年度)

(単位:億円)

農業 関係 農作

物等

農地・農業用施設 関係

台風第3号及び梅雨前線による6月30日からの大雨 661 96 565

台風第5号(8月) 37 12 25台風第18号(9月) 193 48 145台風第21号(10月) 351 135 216台風第22号(10月) 22 17 5計 1,264 308 957

資料:農林水産省調べ注:1)平成30(2018)年1月末時点

2)被害額は、各都道府県からの報告を取りまとめたもの

台風第 3 号及び梅雨前線による 柿園への土砂流入(福岡県)

台風第 3 号及び梅雨前線による 水田の畦

けい畔はん

崩壊(大分県)

168

第3節 主要農畜産物の生産等の動向

要する業務や期間の縮減等を図りました。さらに、台風第3号及び梅雨前線による災害については、農林水産省では、平成29(2017)年7月10日に農林水産大臣を本部長とする緊急自然災害対策本部を設置し、その後、同年8月8日の同本部で「平成29年梅雨期における豪雨及び暴風雨による農林水産関係被害への支援対策」を決定・公表しました。本対策に基づき、被災農林漁業者への支援を行っています(図表2-3-45)。

(広範囲に大雪による被害が発生)平成29(2017)年度冬期の大雪により、北海道や北陸地方を中心に広範囲に雪害が発生し、農林水産関係の被害額は27都道府県で46億円、このうち農業関係は25都道府県で44億円となりました(図表2-3-46)。農林水産省では、平成30(2018)年3月16日に農林水産大臣を本部長とする緊急自然災害対策本部を設置し、同日、同本部で「大雪による被災農林漁業者への支援対策」を決定・公表しました。本対策に基づき、被災農林漁業者への支援を行っています(図表2-3-47)。

図表2-3-46 大雪による農業関係の被害額(平成29(2017)年度)

(単位:億円)

農業関係農作物等 農地・農業用

施設関係平成29(2017)年から30(2018)年までの冬期大雪

44 43 0

資料:農林水産省調べ注:1)平成30(2018)年3月29日時点

2)被害額は、各都道府県からの報告を取りまとめたもの

図表2-3-47 大雪による被災農林漁業者への支援対策

支援対策の概要・災害復旧事業等の促進・共済金等の早期支払・災害関連資金の措置・農業用ハウス等の導入の支援・経営再開、経営継続に向けた支援・新規就農者の経営継続に向けた支援・鳥獣被害防止施設の復旧等の支援� 等

資料:農林水産省作成

農業用ハウスの損壊(福井県) 厩きゅう

舎しゃ

の損壊(北海道)

図表2-3-45 平成29年梅雨期における豪雨及び暴風雨による農林水産関係被害への支援対策

支援対策の概要・災害復旧事業等の促進・共済金等の早期支払・災害関連資金の特例措置・農業用ハウス等の導入の支援・営農再開に向けた支援・�被災農業者の就労機会の確保、被災農業法人等の雇用の維持のための支援・農地・農業用施設の早期復旧等の支援� 等

資料:農林水産省作成

169

第2章

生産現場の競争力強化等の推進第4節AI1、IoT2、ロボット技術等の先端技術を活用し、超省力・高品質生産を可能にする新

たな農業「スマート農業」の実現に向けて、様々な研究開発等が進められています。以下では、農業分野におけるAI、IoT、ロボット技術等の開発・導入等について記述します。

(1)スマート農業の推進

(人工知能未来農業創造プロジェクトにおいて、11課題の研究開発が進行中)農業分野におけるAI技術は、平成28(2016)年度に開始した農林水産省の人工知能未来農業創造プロジェクトにより研究開発が進められており、平成29(2017)年度には、国立研究開発法人、大学、地方公共団体、民間企業等で構成するコンソーシアムで、収穫作業を大幅に省力化できる果菜類収穫ロボットの開発等11課題の研究開発が実施されています(図表2-4-1)。

図表2-4-1 平成29(2017)年度に実施している人工知能未来農業創造プロジェクトの課題

課題の概要 開発目標の時期 コンソーシアムの代表機関

1 牛の疾病を早期発見し、死廃事故を防止する技術を開発

2020年度までに、体表温センサーシステムを市販化

農研機構*(動物衛生研究部門)

2新規参入者による放牧牛の繁殖管理を容易にし、低コストな繁殖経営を可能とする技術を開発

2020年度までに、遠隔監視システムを市販化

農研機構(畜産研究部門)

3 乳牛の体調変化を早期に検出し、乳牛の健康管理の向上を可能とする技術を開発

2023年度までに、搾乳牛1頭当たりの収益を1割以上向上させる技術を開発

農研機構(北海道農業研究センター)

4 空撮画像に基づく牧草の適期収穫や収穫作業等の自動化を可能とする技術を開発

2020年度までに、ロボットトラクターを市販化

農研機構(北海道農業研究センター)

5 収穫作業を大幅に省力化できる果菜類収穫ロボットを開発

平成31(2019)年度までに、軌道走行収穫ロボットを市販化 パナソニック株式会社

6 露地野菜の収穫・集荷等を大幅に省力化できるロボット作業体系を開発

2020年度までに、収穫ロボット等のプロトタイプを完成(同年より順次市販化) 学校法人 立命館大学

7収穫作業の省力化を実現する果実の収穫ロボットとロボット作業にマッチする樹形を開発

2025年度までに収穫ロボット等を市販化 農研機構(果樹茶業研究部門)

8 病害虫診断と対策の早期化を可能とする技術の開発

2021年度までに7千種以上のデータベースを整備

農研機構(中央農業研究センター)

9 土壌病害の発生を未然に防ぎ被害を最小化する技術の開発

2021年度までに5種類以上の土壌病害対策を講ずる技術を開発

農研機構(中央農業研究センター)

10 AIを活用した栽培・労務管理の最適化技術の開発

2021年度までに雇用労働時間を1割以上削減可能なシステムを開発 国立大学法人 愛媛大学

11 栽培労務管理の最適化を加速するオープンフォームの整備

2021年度までに労働時間の短縮を可能とする技術を3種以上開発

農研機構(野菜花き研究部門)

資料:農林水産省作成注:1)1から7までは平成28(2016)年度予算、8から11 までは平成29(2017)年度予算により研究開発を実施

2)*国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

1、2 用語の解説 3(2)を参照

170

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

また、IoT技術については、平成29(2017)年度に、国家プロジェクト1の中で研究開発が進められてきた、水田の水管理を遠隔・自動制御化するシステムが開発されました(図表2-4-2)。AI、IoT技術は、ロボット、ドローン、カメラ、センサー等と融合することで、高度で精

せい緻ちな農業生産や農作業の軽労化を実

現し、これまでの農業の姿を大きく変えていくことができます。また、その研究開発が進む中、将来の生産現場での活用に向けて、農業者に技術をつなぎ、広く普及させることができる人材を育成していくことが必要となっています。

(2021年度までの市販化に向け、50万円以下の無人草刈りロボットの開発がスタート)ロボット技術は、機械にセンサー、動作プログラム等を搭載することで農作業を自動化したり、機械が人間の動作等に反応し作動することで労働負荷を軽減したりするものです。作業者が着用することで、重労働等を軽減するアシストスーツは、既に複数のメーカーから製品の販売やレンタルが行われています。更なる農作業の軽労化に向けて、農作業へのロボット技術の導入に向けた研究開発が進められています。無人草刈りロボットは、2021年度までに50万円以下での市販化を目指し研究開発が進められています。GPS2等の位置情報を活用した農業機械の自動走行は、トラクターについては平成30

(2018)年までに有人監視下でのほ場内の自動走行システムの市販化、2020年までに遠隔監視下での無人システムの実現を目指し、田植機については平成31(2019)年度以降の実用化を目指し、それぞれ研究開発が進められています。このほか、AI技術の研究開発の中で、果菜類、露地野菜、果実等を収穫するロボットの開発が進められています。農業機械の自動走行については、安全性の確保が重要であることから、農林水産省では、研究開発と併行して生産現場における安全性の検証やこれに基づく安全性確保策のルールづくり等の環境整備を進めています。

(フォーラムを通じて、スマート農業の情報を発信)スマート農業の実現に向けて様々な研究開発等が進められる一方で、農業現場からは、どのように機材を使ったらよいのかわからない、という声も寄せられています。

1 内閣府が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)(用語の解説 3(1)を参照)」2 用語の解説 3(2)を参照

無人作業中の自動運転田植機による 田植の様子

資料:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構

図表2-4-2 IoT技術による水田の水管理の仕組み

制御ソフト・データ蓄積・バルブ操作・最適水管理

観測データ・水位・水温・給排水状況

サーバー

給水バルブ 給水バルブ基地局

クラウド蓄積 確認アクセス

自動制御

制御信号 制御信号

データ

遠隔制御操作

資料:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構資料を基に農林水産省で作成

171

第2章

このため、農林水産省では、平成28(2016)年度から、スマート農業の活用状況や普及に向けた課題等を議論する「スマート農業推進フォーラム」を開催しています。平成29(2017)年度のフォーラムでは、実際にIoT等を活用している農業者や先進的な取組を行っている地方公共団体による講演のほか、アシストスーツの実機体験等が行われ、農業者、都道府県の普及指導員、農業協同組合の営農指導員等約300人が来場しました。来場者からは、全国の先進的な取組事例を聴くことができ大変有意義だった、今回のようなセミナーなどを継続的に開催してほしい、といった感想がありました。

(ドローンの農薬の空中散布について、ガイドラインを改訂し、自動操縦による飛行に対応)ドローンについては、航空法の許可を要する航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれのある空域、人口集中地区の上空を除き、一定の規制の下で飛行が認められています。様々な分野でドローンの活用に向けた技術開発や実証実験が進められる中、農業分野では農作業の効率化を図るため、農薬の空中散布にドローンを活用する実証実験が行われており、一部で市販化も行われています。ドローンによる空中散布を実施するに当たっては、農薬飛散、いわゆるドリフトの防止対策を含め、ドローンを適切に使用することが重要です。人、家畜、農作物、周辺環境等に対する安全性を確保するため、農林水産省では、空中散布の実施体制の整備等を定めたガイドライン 1を策定しています。同ガイドラインには、風の強いときには散布を中止する、散布高度を2m以下にするなどの散布方法や、適切な機種の確認等が記載されています。また、ドローンの自動操縦技術の開発が進められる中、農林水産省は平成30(2018)年3月にガイドラインを改訂し、空中散布を安全かつ適正に実施できる飛行経路の設定や緊急時にマニュアル操作への切替えが可能な機種の確認といった自動操縦により飛行するドローンの安全対策を記載しました。農林水産省では、生産現場での安全性の確保を徹底するため、ガイドラインの周知を図るとともに、オペレーターの育成等を推進しています。

1 空中散布等における無人航空機利用技術指導指針(平成 27年 12月 3日付け 27消安第 4545 号消費・安全局長通知)

フォーラムで講演する有限会社西にし

谷や

内うち

農場代表の西

にし谷

や内うち

智とし

治はる

さん

172

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

佐賀県佐さ賀が市しの株式会社オプティムでは、「楽しく、かっ

こよく、稼げる農業」の実現を目指し、ドローンとAIの開発等に取り組んでいます。同社では、ハスモンヨトウ*1の幼虫の食害を受けた大豆の葉の画像2千枚以上をAIに学習させ、これとIoTでつながれたドローンを大豆畑で自動飛行させることで、同幼虫の食害を受けた株に農薬を散布する実証実験を行っています。平成29(2017)年度には、同幼虫による被害のまん延を防ぎつつ、農薬の使用量が通常栽培の10分の1以下に削減された高付加価値大豆の生産に成功しました。同社では全国の農業者とともに新たな実証実験を行う「スマート農業アライアンス」を平成29(2017)年12月に立ち上げ、米や野菜等での減農薬栽培、スマートグラス*2を活用した技術伝承等に取組を拡大するとしています。同社代表の菅

すが谷や俊しゅん二じさんは、同アライアンス等を通じて、スマート農業

の全国展開を図りたい、と語ります。*1 害虫の一種。幼虫は主に夜間に活動し、野菜、果物、花きなど幅広い作物に被害をもたらす。*2 眼鏡型携帯情報端末

長崎県

佐賀県福岡県福岡県

佐賀市

大豆畑上空を飛行するドローン

ドローンとAI技術を活用した、大豆のコスト削減と高付加価値化 (佐賀県)事 例

東京都渋しぶ谷や区くの株式会社ナイルワークスは、「空からの精

密農業」に向けて稲作に特化したドローンの開発に取り組んでいます。同社が開発中のドローンは12種類のセンサーを活用し水平位置精度2cm以内、高度精度5cm以内で自動飛行が実現されており、稲の上空30cmから50cmを時速20kmで飛行することで稲1株単位の生育状況や穂数・籾

もみ数の情報把握が

可能となっています。30aの水田に植えられた稲5万株の情報を把握する時間は約10分間とのことです。農薬や肥料を搭載することで必要な部分への散布もでき、同社の代表を務める柳

やなぎ下した洋ひろしさんは、ドローンで把握した情報

に基づく農薬や肥料の適期適量の散布で、その使用量を3分の1以下に減らすことを目標としていて、過剰施肥による食味低下も防止できる、と語っています。平成29(2017)年度には稲作農家の協力を得て実証実験が行われており、平成30(2018)年度内には台数限定でのドローンの販売が予定されています。

神奈川県

東京都

静岡県

山梨県

埼玉県埼玉県

渋谷区

ドローンによる稲の 生育自動診断図

ドローンを活用した、稲作のコスト削減と品質向上(東京都)事 例

(平成31年4月の本格稼働を目指し、農業データ連携基盤の構築を推進)これまでの我が国の農業は、農業者の経験や勘に基づいて行われてきましたが、担い手の減少や高齢化によってこれらの世代間継承が難しくなる中、経験や勘をデータ化し活用していくことが生産性の向上や経営の改善を図る上で重要となっています。しかしながら、現状では農業の生産や経営に役立つ農地、気象、研究成果等の様々な農業関連データ

173

第2章

は、それぞれがバラバラに存在し、ICT等で活用できないものも多いことに加え、様々な農業ICTサービスやデータに相互間連携がないため、農業者にとって使い勝手が良いものではありませんでした。このような課題を解決するため、データの連携・共有・提供機能を持ち、農業におけるSociety5.01の実現に資する、農業データ連携基盤 2の構築を進めています(図表2-4-3)。平成29(2017)年8月には、様々な分野から農業データ連携基盤を活用した取組への参画を促進するため、農業データ連携基盤協議会(WAGRI3)が設立され、同年12月には農業データ連携基盤のプロトタイプが構築されました。今後、平成31(2019)年4月の本格稼働に向けて、公的機関が保有する、農地の位置・面積情報、メッシュ単位での気温や降水量等の気象情報等を同基盤内に整備し、将来的には、農業者、農業機械メーカー、ICTベンダー4等が持つデータをビッグデータ 5として整備することで、最適な営農計画の立案支援やデータの統合・分析による高度な生産管理等に活かしていくこととしています。データの整備に併せ、データ提供者への利益還元の仕組みや、データの利用に関するルールの検討が進められる予定となっています。

図表2-4-3 農業データ連携基盤の構造

資料:農林水産省作成

農業データ連携基盤

Publicデータ -気象や土地、地図情報に関する様々なデータを提供(有償提供を含む)-

Privateデータ(Closedデータ)

農業従事者および農業に関するデータ

MasterデータPublicやPrivateデータのマスター系を定義したデータを提供

認証方式Open ID Connectを利用

気象API

農地API

地図API

土壌API

生育予測API

統計API

民間企業 民間団体 民間企業 民間企業 農研機構 官公庁

農機メーカー A 農機メーカー B ICTベンダー C ICTベンダー D

農 業 者 等

センサAPI

民間企業

(農業研究見える化システム「アグリサーチャー」が開設)平成28(2016)年11月に策定された農業競争力強化プログラムに基づき、農業者等が研究成果に直接アクセスできる環境を整備するため、農林水産省では、平成29(2017)年4月に農業研究見える化システム「アグリサーチャー」を開設しました(図表2-4-4)。スマートフォン等から研究成果等を容易に検索することができるアグリサーチャーには、平成29(2017)年度末時点で、約3万件の研究成果と約4千人の研究者情報

1 政府の科学技術政策の指針となる「第 5期科学技術基本計画」で用いられている超スマート社会を意味する用語2 内閣府・戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「次世代農林水産業創造技術」で開発を進めている3 農業データプラットフォームが、様々なデータやサービスを連環させる「輪」となり、様々なコミュニティの更なる調和を促す「和」となることで、農業分野にイノベーションを引き起こすことへの期待から生まれた造語(WA+AGRI)

4 農業分野におけるAI、IoT、ロボット技術に関する機材を製造又は販売している企業5 用語の解説 3(1)を参照

図表2-4-4 農業研究見える化システム「アグリサーチャー」

資料:農林水産省作成

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地域加工・保存技術

作物

174

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

が収録され、農業者等からのアクセス数は月平均7千件以上となっています。

(「知」の集積と活用の場において、産学官連携による共同研究の支援を実施)農林水産省では、農林水産・食品分野に様々な分野の技術等を導入してイノベーションを創出する、新たな産学官連携研究の仕組みである「知」の集積と活用の場の取組を推進しています。「知」の集積と活用の場では、工学や医学等の農業分野以外を含めた民間企業、大学、研究機関等の多様な関係者が集まる産学官連携協議会が設置され、多分野間の共同研究に向けた会員同士のマッチングが進められています。さらに、「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業により、平成29(2017)年度には農業関係で新規5課題を含む計12課題の共同研究に対し支援が行われました(図表2-4-5)。

図表2-4-5 平成29(2017)年度に支援が行われた「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業の農業関係研究課題

研究計画名 研究期間 コンソーシアムの代表機関

1 過冷却促進技術による農産物の革新的保存・ 流通技術の開発 平成29(2017)~2020年度 学校法人 関西大学

2 低価格農薬を実現する革新的生産プロセスの開発 平成29(2017)~2020年度 日産化学工業株式会社

3 高付加価値野菜品種ごとに適した栽培条件を 作出できるAI-ロボット温室の開発 平成29(2017)~2020年度 国立大学法人 筑波大学

4 脳機能改善作用を有する機能性食品開発 平成29(2017)~2020年度 国立研究開発法人農業・ 食品産業技術総合研究機構

5 農産物のグローバルコールドチェーン網を 実現させる高鮮度保持システムの研究開発 平成29(2017)~31(2019)年度 日通商事株式会社

6 高付加価値日本食の開発とそのグローバル展開 平成28(2016)~2020年度 国立大学法人 東北大学

7 アミノ酸の代謝制御性シグナルを利用した 高品質食肉の研究開発とそのグローバル展開 平成28(2016)~2020年度 国立大学法人 東京大学

8 機能性野菜を用いた腸内フローラ解析による 生体恒常性維持効果の実証研究 平成28(2016)~2020年度 京都府公立大学法人 京都府

立医科大学

9農林水産・食品産業の情報化と生産システムの 革新を推進するアジアモンスーンモデル植物工場システムの開発

平成28(2016)~2020年度 三菱ケミカル株式会社

10糖鎖ナノバイオテクノロジーを基盤とした 家畜家

か禽きん

ウイルスの迅速高感度検査法の確立・ 普及とワクチン製造技術開発

平成28(2016)~31(2019)年度 国立大学法人 鹿児島大学

11 農業水利施設ストックマネジメントの高度化 に関する技術開発 平成28(2016)~31(2019)年度 国際航業株式会社

12 高度インテリジェントロボットハンドによる 自動箱詰めの実現 平成28(2016)~31(2019)年度 シブヤ精機株式会社

資料:農林水産省作成

(ゲノム編集技術や遺伝子組換え技術を、国民に対し分かりやすく説明)農林水産省では、平成28(2016)年度から、ゲノム編集技術や遺伝子組換え技術による研究成果や技術特性等を研究者から国民に分かりやすく伝えるアウトリーチ活動 1を実施しています。平成29(2017)年度においては、全国で80回のサイエンスカフェ2等を実施しました。今後も最新の科学的知見や研究成果等について国民に対する丁寧な説明を行っていくこととしています。

1 研究者と国民の双方向コミュニケーション活動2 カフェのような雰囲気の中で、研究者と国民が科学技術について語り合う場

175

第2章

ゲノム編集技術が、今、世界的に注目を集めています。放射線等を使うこれまでの突然変異育種技術等では、改変したい遺伝子(標的遺伝子)の変異を、低い確率でしか起こすことができませんでした。これに対しゲノム編集技術は、標的遺伝子を狙って切断することによって、高い確率で標的遺伝子を改変することが可能です。なかでも、平成25(2013)年に発表されたCク リ ス パ ーRISPR/C

キャスナインas9は、標的遺伝子への案内役を果たすガ

イドRNAを作り替えるだけで、様々な標的遺伝子を改変することができ、ゲノム編集技術を大きく進化させました。我が国では、CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を活用し、G

ギ ャ バABAを高蓄積したトマト、超多収の水

稲等が実験段階で既に開発されています。また、標的遺伝子を切断せずに改変する手法等、新たな国産ゲノム編集技術の開発も行われています。現在、ゲノム編集技術を活用して生み出された農作物等の取扱いについての検討が世界で進みつつあります。近年、世界各国の取組により、多くの農作物や家畜等のゲノムが解読されています。ゲノム解読により、人間に利益をもたらす標的遺伝子の塩基配列が明らかになったことに加え、ゲノム編集技術が進化したことによって、農作物等の品種改良が大きく進展しつつあります。

ゲノム編集技術を大きく進化させたCク リ ス パ ーRISPR/C

キャスナインas9

CRISPR/Cas9による標的遺伝子の切断イメージ

資料:農林水産省作成

コラム

(自動車メーカーとの連携により、農業者の労働時間が短縮)農業分野にイノベーションをもたらし、農業者の所得向上を図るためには、産業界と連携し、その先端技術や知見を農業分野に取り入れていくことが重要であり、現在、メーカーや大学と農業者の連携による実証研究等が進められています。農業用IT管理ツールと自動車メーカーの生産管理手法を活用したサービスを組み合わせた農業者の現地実証では、労働時間の短縮等の効果が見られました。今後、産業界との連携による技術の開発や実用化が更に進み、広く農業現場に普及されることにより、農作業の軽労化、生産コストの削減、収量の増加が図られ、農業者の所得向上につながることが期待されます。

(2)農業生産資材価格の動向と引下げに向けた動き

(近年、上昇傾向が続いた農業生産資材価格指数は、平成28年に僅かに低下)近年の農業生産資材価格指数は全体的に上昇基調で推移してきましたが、平成28

(2016)年は、飼料等の価格が低下したことから前年に比べ1.5ポイントの低下となりました(図表2-4-6)。肥料と飼料の価格は、輸入原材料となる鉱石、穀物の国際相場や為替変動の影響を受けやすく、変動幅が大きくなる傾向があります。

176

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

図表2-4-6 農業生産資材価格指数の推移(平成27(2015)年を100とする指数)

28(2016)

28(2016)

平成18年(2006)

平成18年(2006)

23(2011)

23(2011)

105

0

100

95

90

85

80

75

70

100

95

90

85

80

75

70

105

98.5

0

農業生産資材総合農薬

100.2(農機具)100.0(農薬)

93.1(飼料)

98.2(肥料)農機具肥料

飼料

資料:農林水産省「農業物価統計」

主要な農業生産資材である農機具、農薬、肥料・飼料の農業経営費に占める割合は、水田作経営で43.2%、施設野菜作経営で25.1%、肥育牛経営で32.0%を占めており、農業所得の向上に向けては、これら資材価格の引下げが不可欠となっています(図表2-4-7)。

図表2-4-7 農業経営費に占める農機具、農薬、肥料・飼料の割合(平成28(2016)年)

水田作経営 施設野菜作経営 肥育牛経営

100

その他

農機具

農薬肥料・飼料

20

60

40

80

0

56.8

25.5

7.610.1

74.9

11.35.58.3

68.0

28.6

2.21.2

資料:農林水産省「農業経営統計調査 営農類型別経営統計(個別経営)」

(農業資材比較webサイト「AGMIRU」の開設のほか、各農業資材で取組が進展)平成28(2016)年11月に策定された農業競争力強化プログラムや、平成29(2017)年8月に施行された農業競争力強化支援法に基づき、良質で低価格な資材の供給に向けた取組が進展しています。

177

第2章

同法では、農業者が各種資材を購入するに当たって、価格やサービス等を比較して選択できる環境の整備を進めるとされたことから、平成29(2017)年6月に、農業資材比較webサイト「A

ア グ ミ ルGMIRU」が開設

されました。AGMIRUは、資材を求める農業者と有利な条件を提示した販売業者をマッチングさせるサービスで、平成30(2018)年3月15日時点の同webサイトへの登録者数は4,324人となっています(図表2-4-8)。AGMIRUについては、利便性の向上に向け、利用者の声を踏まえた改善が進められています。農薬については、平成29(2017)年4月に、果樹類の農薬登録において、従来の個別作物ごとの登録に加え、作物群での登録が可能となる仕組みが導入されました。これにより、農薬メーカーが行う薬効・薬害試験等の例数軽減が図られ登録に要するコストの削減につながるほか、作物群に含まれるマイナー作物に使用可能な農薬の確保も可能となります(図表2-4-9)。また、効果が高く安全な農薬の供給に向けて、登録された農薬を定期的に最新の科学的根拠に照らし再評価する仕組みの導入や、農薬の安全性に関する審査の充実を図るため、「農薬取締法の一部を改正する法律案」を国会に提出しました。

図表2-4-9 果樹類での農薬登録における作物群の導入

平成29(2017)年4月以降平成29(2017)年3月以前

(マルメロ)(かりん)(びわ)(なし)(りんご)

作物群での登録又は個別作物

ごとの登録

(マルメロ)(かりん)(びわ)(なし)(りんご)

個別作物ごとの登録

全ての作物で試験が必要 群内の一部作物で試験が必要

仁果作物群

資料:農林水産省作成

肥料については、多銘柄・少量生産が製造コストの増加につながっていることから、その要因の一つとなっている都道府県の施肥基準の見直しを推進しており、平成30(2018)年1月末時点で、41の県において稲を中心に施肥基準数の削減が検討されています。引き続き、幅広い作物で施肥基準数の削減を促し、肥料の銘柄集約につなげていくこととしています。飼料については、国際競争に対応できる生産性の確保を目指し、農業競争力強化支援法の事業再編スキームにより業界再編・設備投資等を推進しており、平成29(2017)年10月には同法に基づく初の計画認定が行われ、民間事業者における工場等の再編に向けた動きが見られるようになりました。

図表2-4-8 農業資材比較webサイト「AGMIRU」の仕組み

質問のやりとりで依頼条件を確定

販売者に直接代金振込/商品受取

生産者に直接振込依頼/商品発送

受注通知を確認

質問への回答提案について質問

提案内容を確認販売提案登録

質問への回答 依頼について質問

依頼を確認

販売者B販売者A

交渉期限

農業者

資材購入依頼登録1 2

10

11

12

購入業者決定

質問のやりとりで提案条件を確定

資料:農林水産省作成

178

第4節 生産現場の競争力強化等の推進

(3)農作業安全対策の推進

(農業者に応じた効果的な取組を進める「農作業安全リスクカルテ」が完成)農作業死亡事故は、近年、年間350件程度で推移しており、平成28(2016)年は前年に比べ26件減少の312件となりました。同年の就業者10万人当たりの死亡事故件数を見ると、全産業は1.4件、建設業は6.0件であるのに対し、農業は16.2件と高い水準にあります(図表2-4-10)。農作業死亡事故が発生すると、農業経営の継続が困難になるだけでなく、地域の農業の維持・発展に影響が生じる場合もあります。このため、農作業安全対策の一層の強化が重要となっています。国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 1は、平成29(2017)年6月に、過去の事故事例を基に、農作業事故は人的要因のほか、機械・施設、作業環境、作業方法といった要因が複雑に関係していることを明らかにし、地域によって異なる事故の傾向や要因等を踏まえた改善の必要性を提案する報告書をまとめました。また、一般社団法人全国農業改良普及支援協会等は、平成29(2017)年3月に、過去の事故情報に関するリスク分析結果を基に、農業者向け啓発資材として「農作業安全リスクカルテ」を作成しました。同カルテは、普及指導員等を通じて現場で普及・活用されており、農作業事故の未然防止に対する意識が高まり、事故発生件数の減少につながることが期待されます。また、労働安全はGAP2の取組事項の1つに位置付けられており、今後のGAPの実践

や認証取得の進展が、農作業事故の未然防止につながることが期待されます。さらに、トラクターを使用しているなど一定の要件を満たす農業者は、万が一の事故に備え、療養費や死亡時の遺族補償等の給付が受けられる労災保険に特別加入できます。しかしながら、同保険に加入した農業者は、平成27(2015)年度末時点で12万8,297人と特別加入対象農業者の6.8%にとどまっています。農林水産省は、厚生労働省や関係団体と連携の下、パンフレットやメールマガジン等を活用し、農業者に対する制度の周知を行っています。

図表2-4-10 10万人当たりの死亡事故発生件数

平成19年(2007)

20(2008)

21(2009)

22(2010)

23(2011)

24(2012)

25(2013)

26(2014)

27(2015)

28(2016)

件/10万人

12.7 12.514.1

15.314.1 13.9 14.6

15.4 16.1 16.2

8.4 8.07.2 7.3 6.8 7.3 6.9 7.5

6.5 6.0

2.1 2.0 1.7 1.9 1.6 1.7 1.6 1.7 1.5 1.4

農業

全産業

建設業

資料:厚生労働省「死亡災害報告」、総務省「労働力調査」、農林水産省「農作業死亡事故調査」、「農林業センサス」、「農業構造動態調査」を基に農林水産省で作成

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

1 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の機関である農業技術革新工学研究センター2 用語の解説 3(2)を参照

179

第2章

気候変動への対応等の環境政策の推進第5節国連が平成27(2015)年に採択したSDGs1には、気候変動の緩和と適応、生物多様性

の損失の阻止が盛り込まれており、我が国の農業生産もこれに即し的確に対応していく必要があります。以下では、農業分野における気候変動の緩和と適応、有機農業、エコファーマー等について記述します。

(1)気候変動に対する緩和・適応策の推進等

(COP23では、パリ協定の運用ルールのアウトライン等が具体化)平成27(2015)年11月から12月にかけてフランスのパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP221)において、2020年以降の国際的な気候変動対策についての法的枠組みであるパリ協定が採択されました(図表2-5-1)。同協定では、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑えることを目指し、1.5度未満を努力目標として、全ての国に対し温室効果ガス 3排出量の削減目標の提出を義務付けました。平成29(2017)年11月にドイツのボンで

開催されたCOP23では、農業分野について、気候変動に関わる技術等をテーマとして取り組むことが決定されました。また、同協定の運用ルールづくりの交渉が行われ、COP24での運用ルールの合意を目指し、各指針のアウトラインやその項目が具体化されました。

(我が国は、農業分野の温室効果ガスに関する国際研究ネットワークの議長国に就任)我が国は、平成29(2017)年8月からの1年間、49か国 4が参加する農業分野の温室効果ガス排出削減等に関する国際研究ネットワークである「グローバル・リサーチ・アライアンス(以下「GRA」という。)」の議長国を務めています。GRAには、「水田」、「農地」、「畜産」の各分野とこれらの分野を横断した研究グループが設置され、農業由来の温室効果ガス排出の削減等に関する研究が進められています。同年8月には、我が国が議長国として、茨城県つくば市で第7回GRA理事会を開催しました。同理事会ではGRAの戦略プランの進捗状況や、各研究グループの活動の進め方等が議論され、我が国は、今後の温室効果ガス削減のための研究協力に向けた計画の紹介

1 持続可能な開発目標。SustainableDevelopmentGoals の略2 条約の締約国会議。ConferenceoftheParties の略3 用語の解説 3(1)を参照4 平成 29(2017)年 10月時点

図表2-5-1 パリ協定をめぐるこれまでの経過

COP24

COP23

COP22

COP21

平成30(2018)年12月 ポーランド(カトヴィツェ)(予定)

平成29(2017)年11月6日~17日 ドイツ(ボン)

平成28(2016)年11月7日~18日 モロッコ(マラケシュ)

平成27(2015)年11月30日~12月13日 フランス(パリ)

(ルールの採択を目指す)

COP24に向け、ルールづくりの交渉加速化に合意

パリ協定のルールづくりを2018年に終える工程表を採択

2020年以降の新たな枠組として「パリ協定」を採択

平成29(2017)年6月1日 米国大統領がパリ協定からの 離脱を発表

平成28(2016)年11月4日 パリ協定発効11月8日 日本がパリ協定を締結

資料:農林水産省作成

平成 29(2017)年 8 月に開催された GRA 理事会

180

第5節 気候変動への対応等の環境政策の推進

を行いました。同年11月のCOP23のサイドイベントにおいて、GRAの活動と我が国の貢献について、紹介を行いました。

(我が国の農林水産分野では、気候変動の緩和と適応を推進)パリ協定の採択に向けた動きを踏まえ、農林水産省では、平成27(2015)年8月に、地球温暖化の影響が特に大きいとされる品目への対応等を盛り込んだ農林水産省気候変動適応計画(以下「適応計画」という。)を策定しました。米については、近年、西日本を中心に白未熟粒 1の

発生による品質低下が問題となっています。適応計画では高温耐性品種の普及を図るとしており、平成28(2016)年における高温耐性品種の作付面積は前年に比べ4千ha増加の9万1,400haとなりました。りんごについては、近年、東日本から北日本にかけて早生品種を中心に着色不良や収穫の遅れによる品質低下が問題となっています。適応計画では、高温下にあっても着色が進みやすい品種の導入を図るとしており、長野県では着色に優れた早生品種の普及を目指すなど各生産県で取組が進められています。また、温室効果ガスは、自動車、工場、火力発電所等における化石原料の燃焼によってその多くが発生していますが、農林水産分野における生産活動も排出量の割合はごく僅かですが排出源の一つとなっています(図表2-5-2)。このため、農林水産省では、平成29(2017)年3月に、気候変動の緩和に関してその取組の推進方向を具体化した農林水産省地球温暖化対策計画(以下「対策計画」という。)を策定しました。水田から排出されるメタンについては、稲刈り後の稲わらのすき込みを堆肥施用に転換することで発生が抑制されます。対策計画では、農業者に対し堆肥施用がメタンの発生抑制に有効であることを周知するとともに、耕種農家と畜産農家の連携による稲わらと堆肥の交換を促進することとしています。家畜の排せつ物からはメタンと一酸化二窒素が発生しますが、一酸化二窒素については、飼料のアミノ酸バランスを改善することで発生が抑制されます。対策計画では、アミノ酸バランス改善飼料の給餌の普及を図るとともに、排せつ物処理方法の改善等を推進するとしています。気候変動の緩和と適応に向けて、引き続き両計画に位置付けられた施策を一体的に推進

1 白く濁って見える米粒。出穂後の登熟期に高温が続くと、でん粉の蓄積が不十分となり発生

水稲の白未熟粒(左)と正常粒(右)の断面

りんごの着色の違い

図表2-5-2 農林水産分野の温室効果ガス排出の現状(平成27(2015)年度)

(CO2)二酸化炭素

(N2O)一酸化二窒素

メタン(CH4)

排出量3,742万t

25.3%(946万t)

63.2%(2,365万t)

11.5%(432万t)

資料:温室効果ガスインベントリオフィス「日本の温室効果ガス排出量データ(確報値:1990~2015年度)」を基に農林水産省で作成

注:1)日本全体の温室効果ガス排出量は約13億2500万t  2)排出量はCO2換算

181

第2章

することとしています。

青森県津つ軽がる地方の津軽みらい農業協同組合の区域内では、近年の地球

温暖化の影響により9月から収穫が始まる早生種のりんごで着色の進みが悪くなったため、平成16(2004)年頃から、早生種のりんごをももへ改植する動きが見られるようになりました。平成22(2010)年には同農協にもも生産協議会が設置され、平成29(2017)年産のももは農家戸数77戸、結果樹面積15haにまで拡大しています。多くがりんご農家の1部門として行われているももの栽培には、地球温暖化の影響を回避するだけでなく、光反射シートをりんごと共用できる、収穫時期がりんごと重ならず台風襲来前に収穫を終えられるなどの利点があると言います。同農協では平成28(2016)年7月に津軽地方の他の農協の理解を得て地域団体商標「津軽の桃」を取得しました。卸売市場からは現出荷量の10倍以上の要望を受けており、同農協では、「津軽の桃」としてブランド化を図りながら、生産の拡大を進めていく考えです。

青森県

同農協の区域*

*平ひら川かわ市他5市町村

の全部又は一部

同農協が販売する 「津軽の桃」

地球温暖化を契機とし、りんご産地で広がるももの生産(青森県)事 例

(ITPGRの仕組みを通じ、海外から農作物の遺伝資源約2万点を入手)多様な生物の遺伝資源は、農業分野における有望品種の開発等に欠かせないものとなっており、近年、遺伝資源の適正な利用等に関して、国際的な意識が高まっています。このため、我が国は、平成25(2013)年7月には、食料・農業植物遺伝資源の保全・利用等を国際的に進める条約(以下「ITPGR」という。)1を、平成29(2017)年5月には、生物多様性条約に基づく名古屋議定書 2をそれぞれ締結し、国内の種苗会社や研究機関等が海外の遺伝資源を利用するための環境を整備しました。ITPGR締結後、我が国は、アジア諸国と連携した遺伝資源の探索や共同研究等を実施しています。また、平成29(2017)年4月時点で、ITPGRの仕組みを通じ、海外から約2万点の農作物の遺伝資源を我が国の研究機関等が入手しています(図表2-5-3)。

図表2-5-3 我が国が海外から入手した遺伝資源の例

高温耐性の強いささげの仲間様々なトウガラシ様々なメロン

1 食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約。InternationalTreatyonPlantGeneticResourcesforFoodandAgriculture の略。

2 正式名称は「生物の多様性に関する条約の遺伝資源の取得の機会及びその利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書」

182

第5節 気候変動への対応等の環境政策の推進

(2)環境保全に配慮した農業の推進

(有機認証を受けた茶、こんにゃく、梅加工品の輸出が急増)有機農業は、有機農業推進法 1において、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した農業生産の方法を用いて行われる農業と定義されています。有機農業を始めとする環境保全に配慮した農業は、農業の自然循環機能を増進させるとともに、環境への負荷を低減させるものであり、生物多様性の保全等生物の生育・生息環境の維持にも寄与しています。農業者は、有機JASの認証 2を受けるこ

とにより、農産物に「有機」や「オーガニック」と表示できるようになります。有機JASの認証を受けた農業者のほ場面積は、近年、1万ha程度で推移しています(図表2-5-4)。一方、有機JASの認証は受けていないものの、化学肥料や化学合成農薬を使用せずに生産を行う農業者もいます。そのほ場面積は近年増加傾向にあり、平成27(2015)年時点で1万3千haとなっています。これらを合算した面積2万3千haは国内農地の0.5%に相当し、おおむね平成30(2018)年度までにこれを1%に向上させる目標が設定されています。有機農産物は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の食材調達基準で推奨されるものにも位置付けられています。また、近年、我が国と諸外国の有機認証制度を同等に取り扱い、諸外国における認証を受けずに有機JAS認証のみで、農産物等に「organic」等と表示して輸出できる国が拡大しています。これにより我が国有機食品の輸出量は増加し、平成26(2014)年から平成28(2016)年にかけて、米国向けの茶、こんにゃくは約2倍、EU向けの茶は約2倍、梅加工品は約6倍となっています(図表2-5-5)。

1 正式名称は「有機農業の推進に関する法律」2「日本農林規格等に関する法律」に基づき定められた「有機農産物の日本農林規格」に適合することの認証

図表2-5-4 有機JAS認証ほ場の面積の推移

2,825

9,956

8,506

その他牧草地

樹園地

普通畑田

ha

803

362 1,326999

4,8794,235

2,902

28(2016)

平成21年(2009)

0

12,000

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

資料:農林水産省調べ注:各年4月1日時点。「その他」は、きのこ栽培における採取場

図表2-5-5 米国、EUへの有機食品(茶、こんにゃく、梅加工品)の輸出量

(単位:t)

仕向先 品目 平成26年(2014)

27(2015)

28(2016)

米国茶 72.5 81.7 146.5

こんにゃく 13.6 9.8 31.3梅加工品 0.2 0.1 0.3

EU加盟国

茶 222.7 360.4 444.3こんにゃく 13.4 18.2 21.7梅加工品 7.4 24.3 44.6

資料:農林水産省調べ

183

第2章

鹿児島県鹿かの屋や市しで黒豚の飼育を行う有

ゆう限げん会がい社しゃ三さん清しん屋やは、平

成27(2015)年3月に、豚肉で国内初の有機JAS畜産物の認証を取得しました。飼料には、自家産の有機栽培のサツマイモのほか、地域の畑作農家が生産した有機栽培の飼料作物が使用され、平成29(2017)年度からは地域で生産された有機栽培の飼料用米も使われています。同社の黒豚は、山林を開拓して作られた放牧場とバンガロー風豚舎で飼育され、放牧中にドングリやミネラルを豊富に含んだ赤土等も食べながら、白豚の飼育期間の1.5倍に相当する約9か月間育てられます。同社の黒豚は、月に5頭を限度に、有機JAS畜産物に対応した県内のと畜場に出荷され、精肉やみそ漬け等の加工品となって主にデパート等で販売されています。同社代表の田

た中なか

武たけ雄おさんは、「鹿屋市の畜産業の更なる発展に向けて、日本初の有機JAS畜産物認証の取得が

若者達のビジネスモデルの一つとなれるよう努力していきたい」と語ります。

宮崎県鹿児島県鹿屋市

山林で自由に動きまわる黒豚

豚肉で国内初となる有機JAS畜産物の認証取得(鹿児島県)事 例

(エコファーマーは、件数減少の一方で、地域ぐるみで取り組む事例も)エコファーマーは、持続農業法 1に基づき、土づくり技術、化学肥料の使用低減技術、化学合成農薬の使用低減技術の全てに取り組む計画を作成し、都道府県知事の認定を受けた農業者の愛称です。平成28(2016)年度末時点のエコファーマーの認定件数は、同年度の新規認定件数が5,840件となり前年度を上回ったものの再認定を受けなかった件数がこれを上回ったため、前年度に比べ2万5,280件減少の12万9,389件となっています(図表2-5-6)。計画期間の最終年を迎えた農業者が再認定を受けなかった理由としては高齢化による離農や生産した農産物が価格的優位性に乏しいこと等が挙げられています。

図表2-5-6 エコファーマーの認定状況

(エコファーマーの認定件数)(単位:件)

認定件数

平成27年度(2015) 154,669

28(2016) 129,389

増減 -25,280

(認定件数の増減の内訳)(単位:件)

増加数 減少数

新規認定計画期間が終了となったもの再認定 再認定受けず

全体 5,840 19,077 -50,197水稲 3,297 12,062 -30,932葉茎菜類 687 1,149 -4,163果菜類 640 2,525 -7,248果樹 512 2,467 -4,905その他 704 874 -2,949

資料:農林水産省作成注:1)エコファーマーの認定件数は、認定後5年間の計画期間内にあるもの

2)各年度末時点

1 正式名称は「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律」

184

第5節 気候変動への対応等の環境政策の推進

農林水産省が実施した消費者向けアンケート 1によれば、環境に配慮した農産物の基準についての認知度は、有機農産物の基準が7割に達しているのに対し、エコファーマーが生産した農産物の基準は2割にとどまっています。エコファーマーや有機農業を実践する農業者が環境保全に配慮した農業生産を継続していく上では、農業や農産物の価値について消費者の理解を深めていくことが重要です。エコファーマーの中には、地域の仲間と一緒に活動を展開し、消費者との交流を継続して実践している事例も見られます。

宮城県大おお崎さき市し田た尻じり地ち区くでは、農業者の農薬による健康被害

や水田の生き物の減少が見られるようになる中、1970年代から、農協青年部が推進役を果たし環境保全型農業が広がり始めました。平成29(2017)年度時点で田尻地区の農業者の7割がエコファーマーの認定を受けており、生産した米は主に農協を通じて県内や東京都内の生活協同組合向けに販売されています。同地区の米は、近隣の慣行農法の米と比べ、化学肥料や農薬の使用量削減により単収は低くなりますが、生活協同組合の理解により販売価格が高めに設定され、面積当たりの収入は高いとのことです。平成21(2009)年度に結成された「田尻地域田んぼの生きもの調査プロジェクト」では、農協、農業者、県内や東京都内の生活協同組合等が参加して、水田におけるトンボの羽化殻や土中のイトミミズの生息状況の調査等が行われており、現在も続くこの調査活動を通じ、産地と消費地の強い信頼関係が維持されています。

山形県

秋田県 岩手県

宮城県大崎市

水田での生き物調査の様子

生協の信頼を得て、地域ぐるみで環境保全型農業を実践(宮城県)事 例

(産学官によるプラットフォームに、戦略会議やプロジェクトが設置)平成28(2016)年7月に設立された産学官の連携プラットフォーム「オーガニック・エコ農と食のネットワーク」(NOAF2)では、有機農産物、特別栽培農産物、エコファーマーが生産した農産物等、環境に配慮して生産された農産物の市場拡大に向け、生産、実需、学術、行政等の様々な関係者による情報交換が行われています。また、同ネットワーク内には、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会への食材提供と競技大会後の農業・関連産業の発展を目指す戦略会議、オーガニック・エコ農産物の生産技術の向上や海外への情報発信等を推進するプロジェクトが設けられ、多様な関係者の知見を活用することにより課題解決を図っていくとしています。

1 農林水産省「有機農業を含む環境に配慮した農産物に関する意識・意向調査結果」(平成 28(2016)年 2月公表)2 NetworkforOrganic-ecoAgricultureandFoodLifestyle,NIPPONの略

185

第2章

農業を支える農業関連団体第6節農業関連団体はその活動を通じて我が国農業を支えてきましたが、農業を取り巻く環境

が変化する中で、寄せられる期待に応え、課せられた役割を果たしていけるよう、事業や組織の見直しが急務となっています。以下では、農業協同組合(以下「農協」という。)、農業委員会、農業共済団体、土地改良区について、その現状や課題等について記述します。

(1)農業協同組合

(農協による農業者の所得向上に向けた事業の見直しが急務)農業者等による自主的な相互扶助組織である農協のうちの総合農協 1の数は、平成28(2016)事業年度末時点で661となっています(図表2-6-1)。奈良県、香川県、沖縄県及び島根県の4県では1県1農協が実現しており、山口県、福井県においてもこれに続く動きが見られます2。農協の職員数は減少傾向で推移する中、部門別では販売や営農指導の割合が高まっています。平成28(2016)年4月に施行された改正後の農業協同組合法第7条には、農協が農産物を有利に販売したり、生産資材を有利に仕入れるといった取組を進めていく旨の規定 3が置かれました。農林水産省が実施した平成29(2017)年度のアンケート調査によれば、地域の農協が農業者の所得向上に向けて農産物販売事業や生産資材購買事業の見直しを進めているかを尋ねた設問で、総合農協、農業者双方とも「具体的取組を開始した」との回答が前年度に比べ増加しましたが、総合農協と農業者の評価に一定の差があります(図表2-6-2)。事業見直しの成果が表れている農協も一部に見られますが、多くの農協において具体的な取組の開始や組合員への取組成果の還元が急務となっています。

図表2-6-2 農協改革に関するアンケート結果(抜粋)(単位:%)

区分 回答者 平成28年度(2016)

29(2017)

農産物販売事業の見直しについて、「具体的取組を開始した」と回答したもの

総合農協 68.0 87.7農業者 25.6 32.2

生産資材購買事業の見直しについて、「具体的取組を開始した」と回答したもの

総合農協 65.5 88.3農業者 24.0 34.1

農産物販売事業の進め方や役員の選び方等に関し、「組合員と徹底した話合いを進めている」と回答したもの

総合農協 48.9 76.6農業者 21.9 30.6

資料:農林水産省「農協の自己改革に関するアンケート調査」(平成29(2017)年7月公表)注:1) 総合農協の回答数は、平成28(2016)年度666、平成29(2017)年度658

2) 農業者は認定農業者を基本として都道府県が選定した者が対象。回答数は、平成28(2016)年10,442人、平成29(2017)年10,882人

1 農業協同組合法に基づき設立された農協のうち、信用事業、共済事業、販売事業などを総合的に行う農協2 平成 29(2017)年 11 月に、山口県の全 12 農協が臨時総代会で平成 31(2019)年 4月の合併を承認。また、同年 11 月に、福井県農業協同組合中央会は 2020 年 4月に県内 12農協を合併する旨を発表

3 具体的には、農協が農産物の有利販売等に積極的に取り組むことを促すために、事業の実施に当たって農業所得の増大に配慮しなければならないこと、事業を的確に行うことで収益性を高め、この収益を利用分量配当等で組合員に還元することを規定

図表2-6-1 農業協同組合(総合農協)の状況(単位:組合、万人、%)

平成24年度

(2012)25

(2013)26

(2014)27

(2015)28

(2016)

組合数 717 712 692 686 661組合員数 998 1,015 1,027 1,037 1,044正組合員 461 456 450 443 437准組合員 536 558 577 594 608職員数 21 21 21 20 20うち販売担当、営農指導職員の割合

14.8 14.9 15.2 15.3 15.4

資料:農林水産省「総合農協統計表」注:1)組合数は「総合農協統計表」における集計組合数

2)各組合事業年度末時点

186

第6節 農業を支える農業関連団体

宮崎県西さい都と市の西

さい都と農業協同組合では、平成28(2016)

年度に生産資材の一括仕入れ等を導入し、組合員に対する販売価格の引下げを実現しています。同農協は、これまで組合員から注文を受ける度に卸売業者から仕入れを行っていましたが、注文時期を肥料、飼料等は年2回に、農薬は部会単位で設定し、まとめて予約注文を受け付け、複数卸売業者による入札で一括仕入れを行うようにしました。注文数量を増やし更に有利な仕入れができるよう、同農協では職員による組合員全戸訪問を徹底し、予約注文の周知を図っています。これと併せて農協の配送センターに受け取りに来る組合員向けの自己取り割引を導入しました。これらの結果、組合員に対する販売価格を1~2割程度引き下げることができました。同農協は、近隣農協と連携してより多くの注文数量を確保すること、生産資材の配送業務を自ら行うことで、更なる販売価格の引下げを目指したいと考えています。

鹿児島県

熊本県

宮崎県

西都市

組合員による生産資材の 自己取りの様子

一括仕入れ等の導入で、生産資材の販売価格を引下げ(宮崎県)事 例

(2)農業委員会

(推進委員には、農地利用の最適化を推進するに当たり、現場活動が期待)担い手への農地の集積・集約化、遊休農地の発生防止・解消、新規就農の促進等の農地の利用の最適化に関する業務を行う農業委員会は、平成29(2017)年10月1日時点で市町村等に1,703設置されています(図表2-6-3)。平成28(2016)年4月に施行された改正後の「農業委員会等に関する法律」により農業委員会に新設されることとなった農地利用最適化推進委員(以下「推進委員」という。)は、任期3年間の農業委員の改選時期に合わせて順次委嘱が進められており、平成29(2017)年10月1日時点で、1,379委員会で13,465人の推進委員が委嘱されています。推進委員には、農地利用の最適化を推進するに当たり、主に現場活動を行うことが期待されており、地域農業の振興において鍵を握る人物の一人と言っても過言ではありません。担当地域において、戸別訪問による農地の出し手の意向把握、農地利用の集積・集約化への理解深化等の活動により、農地中間管理機構の活用につなげた事例が見られます。推進委員が積極的に活動を展開し成果をあげられるよう、サポート役である農業委員会の支援が不可欠です。また、今後、新たに推進委員の委嘱が行われる農業委員会においては、熱意と識見を有する推進委員候補者の確保が重要となっています。

図表2-6-3 農業委員会数等(単位:委員会、人)

平成24年

(2012)25

(2013)26

(2014)27

(2015)28

(2016)29

(2017)

農業委員会数 1,710 1,710 1,708 1,707 1,706 1,703農業委員数 35,729 35,514 35,618 35,488 33,174 26,110推進委員数 - - - - 3,257 13,465事務局職員数 7,755 7,732 7,725 7,722 7,775 7,707

資料:農林水産省調べ注:1)事務局職員数は、市役所・町村役場内他部局との兼任職

員を含む2)各年10月1日時点

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第2章

茨城県桜さくら川がわ市しの藤

ふじ田た恒つね男おさんは、勤務していた銀行を退

職後、平成28(2016)年4月に、地域の推薦を受けて67歳で農地利用最適化推進委員に任命されました。同時期に任命された推進委員は藤田さんのほか32人おり、市内の農地5,300haについて、1人当たり平均160haの担当区域で農地の利用集積・集約化に向けた説明会等を開催しています。農地利用の現状を地域で共有するため、藤田さんは白地図に色付けして、耕作されている借入農地や自己所有農地、遊休農地の分布が分かる地図を作成し、平成28(2016)年7月に2回、平成29(2017)年7月に1回、農業者向けの説明会で提示しました。併せて農地中間管理機構を活用した場合のメリット措置等を説明したことで、農業者2人が機構を活用した農地の貸借を行うことになりました。藤田さんは、農地の所有者の意向を把握するとともに、所有者と担い手に対し機構を活用した場合のメリット措置等を理解してもらえるよう努力していきたいと語ります。

千葉県

茨城県

埼玉県

栃木県栃木県

桜川市

藤田恒男さんと自作の色付け白地図

農地利用の現状を地域で共有するため、独自の地図を作成(茨城県)事 例

(3)農業共済団体

(収入保険と農業共済の円滑な実施のための体制整備が必要)農業共済の実務を担う農業共済団体では、業務の効率化等に向けて県内の農業共済組合と農業共済組合連合会を統合する1県1組合化が進められており、平成29(2017)年4月1日時点で30都府県で1県1組合が実現しています(図表2-6-4)。平成30(2018)年4月に施行された改正後の農業災害補償法(農業保険法)により、平成31(2019)年1月から始まる収入保険は、全国を区域とする農業共済組合連合会が事業を実施し、その業務の一部は農業共済団体等に委託できることとなっています。このような中、農業共済団体では、引き続き、1県1組合化による業務の効率化等と、全国農業共済組合連合会の設立準備を進め、収入保険と農業共済の円滑な実施のための体制整備を図っていくこととしています。

図表2-6-4 農業共済団体の状況(単位:組織、人)

平成25年 (2013)

26 (2014)

27 (2015)

28 (2016)

29 (2017)

農業共済組合連合会 38 30 27 24 17

農業共済組合等 241 211 196 178 141

組合営 187 162 147 129 99市町村営 54 49 49 49 42

職員数 7,436 7,394 7,238 7,069 6,9971県1組合となった都府県数

9 17 20 23 30

資料:農林水産省調べ注:各年4月1日時点

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第6節 農業を支える農業関連団体

(4)土地改良区

(土地持ち非農家が増加し、耕作者の意見が適切に反映される事業運営体制が必要)土地改良区は、ほ場整備等の土地改良事業を実施するとともに、農業水利施設等の土地改良施設の維持・管理等の業務を行っており、平成28(2016)年度末時点で4,585地区となっています(図表2-6-5)。土地改良区の運営をめぐっては、組合員の高齢化による離農や農地集積の進展に伴い、組合員の中で土地持ち非農家が増加している等の課題があります。今後も、土地持ち非農家の増加が続けば、土地改良施設の管理や更新等に関する土地改良区の意思決定が適切に行えなくなるおそれがあり、耕作者の意見が適切に反映される事業運営体制に移行していくことが求められています。また、土地改良区の業務執行体制が脆

ぜい弱じゃく化する中で、適正な事業運営を確保しつつ、

より一層の事務の効率化を図っていく必要があります。このため、土地改良区の組合員資格の拡大、総代会の設置、土地改良区連合の設立に係る要件の緩和等の措置を講ずる「土地改良法の一部を改正する法律案」を国会に提出しました。

図表2-6-5 土地改良区の状況(単位:地区、万人、万ha)

平成 24年度

(2012)25

(2013)26

(2014)27

(2015)28

(2016)

土地改良区数 4,869 4,795 4,730 4,646 4,585

土地改良区組合員数 373.2 370.5 367.5 363.9 359.2

延べ面積 264.3 261.8 258.4 256.1 253.5

資料:農林水産省調べ注:各年度末時点

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第2章