オランダの花き産業レポート 参考2 - maff.go.jp · 2 オランダの概要...

29
1 オランダの花き産業レポート プロモーションの仕組みとその背景 財団法人日本花普及センター 企画調査部 本 田 繁 平成21年5月19日 ((社)日本花き生産協会総会における説明資料) (もくじ) Ⅰ.概 要 オランダの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 世界の主要国における観賞用花きの生産状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 オランダの花き産業の特徴 施設栽培の発達・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 各国におけるオランダ品の花き市場シェア (切花)・・・・・・・・・・・・・・・5 各国におけるオランダ品の花き市場シェア (鉢物)・・・・・・・・・・・・・・・6 周辺国でのオランダ産品のイメージ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 欧州の物流センター「インフラ立国」オランダ・・・・・・・・・・・・・・・・・8 Ⅱ.業界課税とプロモーション 業界課税のしくみ 課税徴収の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9 業界課税の分配方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 オランダでは団体が重要な役割を果たす・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 オランダ人の精神構造のルーツ①・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 オランダ人の精神構造のルーツ②・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 業界団体の発達とセルフコントロール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 プロモーション機関と関連者との相互関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 各プロモーション機関とその構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 切花・鉢物における業界課税の徴収方法 (市場経由)・・・・・・・・・・・・・・17 切花・鉢物における業界課税の徴収方法 (市場外流通)・・・・・・・・・・・・・18 オランダにおけるプロモーションの特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 各種プロモーションツールの事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 花や緑の普及啓発キャンペーンの事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 オランダ花き協会による戦略の策定の手順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22 Ⅲ.その他 オランダにおける花き卸売市場の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 オランダにおける卸売市場の実践事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24 輸出業者による買い付けから出荷までの流れとコールド・チェーン(切花) ・・・・・・・・・・・・25 オランダの生産者による特徴的な取組①・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 オランダの生産者による特徴的な取組②・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 オランダ人にとってのMPSとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 オランダの花き産業とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29 参考2

Upload: hathu

Post on 23-May-2019

216 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

1

オランダの花き産業レポート

プロモーションの仕組みとその背景

財団法人日本花普及センター

企画調査部 本 田 繁

平 成 2 1 年 5 月 1 9 日

((社)日本花き生産協会総会における説明資料)

(もくじ)

Ⅰ.概 要

オランダの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

世界の主要国における観賞用花きの生産状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

オランダの花き産業の特徴 施設栽培の発達・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

各国におけるオランダ品の花き市場シェア (切花)・・・・・・・・・・・・・・・5

各国におけるオランダ品の花き市場シェア (鉢物)・・・・・・・・・・・・・・・6

周辺国でのオランダ産品のイメージ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

欧州の物流センター「インフラ立国」オランダ・・・・・・・・・・・・・・・・・8

Ⅱ.業界課税とプロモーション

業界課税のしくみ 課税徴収の流れ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

業界課税の分配方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

オランダでは団体が重要な役割を果たす・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11

オランダ人の精神構造のルーツ①・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

オランダ人の精神構造のルーツ②・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13

業界団体の発達とセルフコントロール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

プロモーション機関と関連者との相互関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

各プロモーション機関とその構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

切花・鉢物における業界課税の徴収方法 (市場経由)・・・・・・・・・・・・・・17

切花・鉢物における業界課税の徴収方法 (市場外流通)・・・・・・・・・・・・・18

オランダにおけるプロモーションの特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19

各種プロモーションツールの事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

花や緑の普及啓発キャンペーンの事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

オランダ花き協会による戦略の策定の手順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

Ⅲ.その他

オランダにおける花き卸売市場の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

オランダにおける卸売市場の実践事例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

輸出業者による買い付けから出荷までの流れとコールド・チェーン(切花) ・・・・・・・・・・・・25

オランダの生産者による特徴的な取組①・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

オランダの生産者による特徴的な取組②・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

オランダ人にとってのMPSとは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

オランダの花き産業とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

参考2

2

オランダの概要

面積4.1万k㎡(九州とほぼ同じ)

人口1,636万人(東京都と静岡県の人口の合計とほぼ同じ)

国土の26%が海面下

干拓地(ポルダー)により国土を広げていった国

伝統的に自由貿易主義を標榜した、

中継・加工貿易を基軸とした通商国家。

GDPの貿易依存度は5割以上(貿易立国)

空港、港湾、道路・鉄道網の発達により欧州における物流の中心地。

2

面積は4.1万k㎡で、九州とほぼ同じ大きさです。

ヨーロッパで最も国土の広いフランスの13分の1、オーストリアの約半分ほどの面積

です。

人口は1,636万人で、東京都1270万人と静岡県380万人を足したほどの人口

です。

国土の26%がいわゆる「海抜ゼロメートル地区」と言われる海面下にあります。オラ

ンダの歴史は堤防と干拓の歴史といってもいいほどで、アムステル川にダムを造って、ア

ムステルダムという都市をつくりロッテ川にダムを造って、ロッテルダムという都市をつ

くりました。

オランダは伝統的に自由貿易主義を標榜した、中継・加工貿易を基軸とした通商国家で

す。

GDPの貿易依存度は5割以上の貿易国です。特にEU諸国との域内貿易の比重が高く、最

大の貿易相手先はドイツです(EU向け約8割、ドイツ向け約3割)。

花もドイツ、フランス、イギリスの3カ国が主要輸出先になっています。

天然ガス世界第9位の産出国であり、温室の燃料は重油ではなく天然ガスです。

Ⅰ.概 要

3

547

6,769

240

4,464

7,640

7,976

6,140

17,914

8,149

25,245

349

454

457

956

1,289

1,627

1,757

2,987

3,890

4,308

デンマーク

イギリス

ポルトガル

フランス

ドイツ

イタリア

スペイン

日本

オランダ

アメリカ

生産額(百万ユーロ)

栽培面積(ha)

世界の主要国における観賞用花きの生産状況

(切花と鉢物)

花き生産額は世界No.2

3

オランダは、世界的に見まして生産額世界第2位です。

九州ほどの小さな国が、これだけの生産面積と、生産額を誇っています。

■ 生産額(万ユーロ)

■ 栽培面積(ha)

4

オランダの花き産業の特徴

施設栽培の発達

工業的農業に特化

8,510

8,344

5,365

2,524

2,456

1,961

1,417

1,043

16,735

9,570

2,784

5,116

3,684

2,503

3,176

5,726

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

アメリカ

日本

オランダ

ドイツ

スペイン

フランス

ポーランド

イギリス

施設栽培 露地栽培

4

土地が狭く、気候の不利性を補うためか、施設栽培の比率が非常に高いのが特徴です。

補光技術を始めとする施設栽培に必要なハイテク技術が進んでおり、工業製品のように

生産を行っています。

オランダの農業は工業的農業に特化しているといえます。

これにより、品質も、サイズも均一な規格統一されているのが、オランダの花きの特徴

となっています。

日本人にとっては、自然を尊ぶところがあり、規格化された生花はある種抵抗感を感じ

てしまいますが、オランダ人にとっては、国土の拡張とともに、自然の植物も自分たちの

手で植えていった「つくられたもの」であり、抵抗感は全くないようです。

5

各国におけるオランダ品の花き市場シェア(切花)

79%

76%

74%

72%

70%

69%

68%

42%

27%

7%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

デンマーク

ベルギー

ドイツ

オーストリア

ロシア

イギリス

フランス

スイス

イタリア

アメリカ…

2003年

2004年

2005年

2006年

圧倒的シェア

5

(注:オランダで生産されたものだけでなく、同地を経由して流通されるものも含む)

周辺国の花マーケットのオランダ産品のシェアは、2006年ではデンマーク、ベルギ

ー、ドイツ、オーストリア、ロシアは全体の70%以上、年間切花消費額が世界で最も高

いスイスは42%です。

6

各国におけるオランダ品の花き市場シェア(鉢物)

88%

63%

53%

52%

45%

44%

39%

35%

33%

32%

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

ベルギー

デンマーク

イギリス

オーストリア

スイス

イタリア

ドイツ

フランス

スウェーデン

スペイン

2003年2004年2005年2006年

6

(注:オランダで生産されたものだけでなく、同地を経由して流通されるものも含む)

鉢物では、切花と比較して概して率が下がり、60%以上あるのが、ベルギーとデンマ

ークで、イギリス、オーストリアは50%程度となります。ドイツ、フランスは約35~

40%弱となります。

いずれにせよ、ヨーロッパ諸国は、オランダからの花きに頼った構造になっています。

7

周辺国でのオランダ産品のイメージ

オランダ産を無意識に買う「無意識購買」

• 品質や品種数の多さ

• 年間を通じた価格、品質のばらつきがない

• 注文から荷が届くまでのリードタイムの短さ

卸業者によると・・・

• 「オランダ産」だから買うという意識はない。

• 「花」を買ったらオランダ産だっただけ。

小売店によると・・・

• 「オランダ産」という認識は皆無。「花を買っている」だけ。

消費者によると・・・

7

周辺国(フランス、ドイツ、ベルギー等)では、圧倒的なシェアにも関わらず、意識し

てオランダ産として買われているわけではない「無意識購買」の傾向が強く見られます。

卸売業者からすれば、品質や品種数の多さはさることながら、年間を通じた価格、品質

のばらつきがないことや、注文から荷が届くまでのリードタイムの短さといった、便利さ

がうけているようです。

小売店の意識は、オランダ産だから買うという意識は全くなく、ただ、「花」を買ったら

オランダ産だったという程度です。

消費者の段階だと、「オランダ産」という意識は全く皆無になってしまいます。

8

欧州の物流センター「インフラ立国」オランダ

エアポート

(空港)

シーポート

(港湾)

テレポート

(情報網)

オランダの競争力はインフラ力にあり

8

&語学力(第4のインフラ)

張り巡らされた交通網

オランダは昔も今も貿易立国です。

貿易立国であるためには、インフラの優位性の確保が何よりも重要であるというとに気

づき「インフラ立国」として政策をとってきました。

エアポート(空港)、シーポート(港湾)、テレポート(情報通信)とそれらをつなぐ道

路網、鉄道網がリンクされていて、そのトータルな統合力がオランダの競争力の強さです。

ロッテルダム港は世界最大の貨物取扱量を誇る港です。

スキポール空港は毎年100万トンの国際貨物が24時間取扱され、また、トランジッ

ト空港としてうまく設計されており、便利です。

陸路は高速道路網にリンクし、EU域内の国際陸上輸送貨物の3割がオランダ企業による

ものです。

鉄道網は欧州と完全に結合し、港湾とも連結し一貫輸送されています。

陸路は、高速道路網とリンクされており、欧州域内を陸上輸送される貨物の78%、E

U域内の国際陸上輸送貨物の約30%はオランダ企業により輸送されています。

鉄道網は、欧州と完全に結合されており、港湾とも連結し、一貫輸送されています。

このような地理的優位性と世界一のインフラ力を生かして、花き産業においても多くの

生産品がオランダに集められそこから世界へ輸出されています。

より短いリードタイムで顧客のもとに届ける「オンタイム・デリバリー」が可能です。

いつでも均一な品質の花が、頼めばすぐに届くということが最大の利点であり、EU諸国

でのシェア率の高さはこれを物語っています。

更に、第4のインフラとして、語学力が堪能です。

9

プロモーション機関

流通

園芸生産管理機構(PT)

オランダ

BBH

(切花・鉢物)

農業卸売業管理機構(Hbag)

EU外の

他国 オランダオランダの市場

で買う者

IBC

(球根)PPH

(耐寒性植物)HIC

(造園)AGFPN

(野菜・果実)

他の

EUEU外の

他国他の

EU

支払不要

種苗生産者 生産者 販売・流通会社

支払不要

(※注)・・・小売店が商業者から購入をする場合は、課税は課せられない。

業界課税のしくみ課税徴収の流れ

研究・開発

9

業界内の事業者は、業界課税を支払うことが義務です。これは、法律の適用を受けた強

制的な課税です。

業界課税を取っている業界の税務署は、「園芸生産管理機構(PT)」と、「農業卸売

業管理機構(Hbag)」の2つあります。

ちなみにこれらは他の業界にもあり、例えばPTの同系であれば、畑作作物とか酪農と

か魚類とか全部で11組織あり、PTはその一つです。

Hbagの同系ですと、手工業とか林業など6組織あります。

生産管理機構が同系の産物でくくられたもの、産業管理機構は活動内容でくくられたも

のになります。

業界に関わるすべての者がこれを支払うようになっています。

他のEU各国の生産者はこれに該当しません。

徴収された業界課税金は、各業界で必要な各種研究・開発、プロモーション費等といっ

た共通の利益になる事項に利用されています。

オランダと日本の大きな違いのひとつは、セリを通じて買うのは仲卸、輸出業者等で、

小売店は仲卸等を通じて買っているという点です。小売店でもセリに参加できないわけで

はないのですが、取扱数量が少ない者がセリに参加すると、登録料が割高にかかってしま

うので、実質はほとんど小売店はセリに参加していません。

また、もとからオランダでは一般的な小売店から、それぞれ注文をとりつけ、配達まで

を行う仲卸業が発達しています。現在でこそクルトラのようなキャッシュ&キャリーへ直

接市場まで買いに来る人も増えているようですが、この仲卸業者の配達サービスを使って

いる人も多いようです。

日本では卸売市場と仲卸の売り先は重複し、客の取り合いにもなっているようですが、

オランダではしっかりと役割分担ができており、売り先が競合することはないのです。

Ⅱ.業界課税とプロモーション

10

専門委員会

業界課税の分配方法

PT

全体予算

切花・鉢物等 オランダ花き協会(BBH)

球 根 オランダ国際球根協会(IBC)

樹木・多年草 オランダ植物広報協会(PPH)

造 園 オランダ造園家情報センター(HIC)

野菜・果実 オランダ野菜・果実協会(AGFPN)

エネルギー

10

PTにより徴収された業界課税はまず各専門員会に分けられます。

各委員会では、それぞれの品目で必要な研究、開発費、プロモーション経費に使用され

ます。プロモーション経費はそれぞれのプロモーション機関に分配されます。

オランダの取り組みとして、花き協会のプロモーションが表に出がちですが、プロモー

ションはそのひとつにすぎません。

この専門委員会は、それぞれの業界団体が委員として加わっており、話し合いをしなが

ら、業界としての方向性がそれぞれで決められていきます。

例えば、2008年における各部門の経費配分は以下のとおりです。切り花・鉢物につ

いてのプロモーション経費は、年間、約28.6億円(2008年)にもなります。

<2008年における各部門の経費配分>

部門 専門委員会予算 プロモーション経費

切花・鉢物等 €4,280万

(約57億円)

€2,150万

(約28.6億円)

球 根 €1,410万

(約18億円)

€500万

(約6.6億円)

樹木・多年草 €540万

(約7億円)

€180万

(約2.4億円)

造 園 €100万

(約1.3億円)

€40万

(約5千万円)

野菜・果実 €1,570万

(約20億円)

€220万

(約2.9億円)

エネルギー €480万

(約6.3億円) なし

予算 合計 €8,300万

(約110億円)

€3,090万

(約41億円)

11

オランダでは団体が重要な役割を果たす

11

切花・鉢物・一年草 樹木、多年草 球 根 類

卸売市場

生産者団体

商業者

王立オランダ球根・植物卸売協会(ANTHOS)

オランダ花き仲卸・

買参者連盟(VGB)

オランダ種苗協会(Plantum NL)

オランダ農業園芸組織連合会

(LTO Nederland)

オランダ樹木 生産協会

(NBvB)

オランダ球根

生産者協会(KAVB)

・フローラ・ホーランド・Plantion

・Hobaho B.V. ・CNB・Floralia

オランダ種苗協会

(Plantum NL)

PTの専門委員会へは、業界団体が代表で参加しています。これは、NGOやNPOと

いった団体(協会、財団等)が、とても重要な役割を果たしているというオランダ独特の

社会システムに基づきます。

一般的に、オランダでは、自分が関係する組織に所属し、自分たちの権利、利益が損な

われないように主張するというのが当たり前となっています。

団体は、構成員の利益をまもるように各方面で活動しています。

これは、オランダの堤防の歴史から端を発する、オランダならではの精神構造に基づき

ます。

12

オランダ人の精神構造のルーツ①

堤防の管理の歴史

•高い堤防づくりは一個人では資金的にも労力的にも対応できない

•「堤防」を管理し、水位を共同で決めるための組織が形成。

自治組織の

形成

• 堤防の管理は皆平等(相互責任)

• 統治は土地の統治者によるものではなく、各自治体に委ねられた。

オランダ式精神の発達

• 協同の組織体(協会、財団等)の発達

• 話し合いによるお互いのコンセンサスによる同意

• 関係事項は協同組織での判断に委ねられ政府はそれを支援(補完)

12

オランダは国土を干拓と堤防によって広げていった国です。この堤防の管理は、死活問

題で、一カ所でも穴が開くと全てが水面下に沈んでしまいます。

しかし、高い堤防づくりは一個人では資金的にも労力的にも対応できないので、堤防を

管理する「ワオーターボード」と呼ばれる自治体が形成されました。

この堤防を通じて形成されたコミュニティーから、行政ができ、各組織で法律も作られ、

自治組織として発達していきました。

堤防の管理については、農家は皆平等で、相互責任により行われていました。

フランス等の中央集権的な発想で、地域の統治者が支配するのではなく、グループ内で

共同で取組ながら、統治は各組織体に委ねられていました。

所有地の大きさによって課税も決められており、この歴史的に見られるこの課税システ

ムの発達により、花き産業において行われている業界課税も違和感なく受け入れられてい

ると思われます。

この堤防管理の歴史から生まれたオランダ的民主主義の特徴として、

①協同の組織体(協会、財団等)の発達、

②話し合いによるお互いのコンセンサスによる同意、

③関係事項は協同組織での判断に委ねられ政府はそれを支援(補完)する機能をもつ

という3点に挙げられます。

オランダにおける組織体は非常に重要な役割を果たし、政府と組織体の関係は上下関係

のようではなく、パートナーのような関係です。

政府がコントロールしなくても、業界が自分たちでセルフコントロールすることができ

るのです。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

参考文献:オランダモデル 制度疲労なき制度社会 長坂寿久 日本経済新聞社

13

オランダ人の精神構造のルーツ②

柱状社会 それぞれ学校、政党、労働組合、経営者団体、メディア、病院等を形成

所属者は生れて死ぬまで所属する社会ソサイエティを利用

「柱」間では交流が活発に行われていた

宗教・信条別の縦割の社会構造

「多極共存民主主義」

13

団体が発達して、それぞれが自分たちを決めていくということになりましたが、団体ご

とがばらばらにやっていたのでは、全体としてマイナスになります。しかし、オランダで

は違う団体間同士での交流が活発に行われています。

この理由は、もうひとつのオランダの歴史的精神構造のルーツ「柱状社会」に端を発し

ます。

オランダでは、昔は宗教・信条別の縦割の社会構造(システム)であり、信条別の「柱」

とは、プロテスタント、カトリック、エマニズム派、社会民主主義(非宗教系)といった

系統で、各セクトは、学校、政党、労働組合、経営者団体、メディア、病院、カフェ等を

それぞれ形成し、生まれて死ぬまで自分が所属するセクトの社会ソサイエティを利用する

ということです。

各柱ごとに柱内の問題を解決していくこととなっており、柱間の問題は、指導者(エリ

ート)が話し合って解決し、安定した平和な社会が継続してきたとされます。

ただし、「柱」のトップリーダー(エリート)だけが、別の柱社会と交流しているのでは

なく、「柱」内には様々な団体があり、それら各々が別の「柱」の団体と活発に交流をして

きました。つまり、違う者どおしでも共存できる社会システムがあったのです。

今でも、オランダは他の国に比べて、マイノリティーに対する偏見が最も少ない国と言

われます。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

参考文献:オランダモデル 制度疲労なき制度社会 長坂寿久 日本経済新聞社

14

業界団体の発達とセルフコントロール

14

園芸生産管理機構(PT)(プロモーション機関)

セルフコントロール

プロ化・専門化ができた要因

花き産業においても、生産者、商業者はそれぞれ何らかの団体に所属し、団体間での交

渉が頻繁に行われています。

この話し合いの場としてセットされているのが、先ほどのPTの専門委員会でもありま

すし、これには働く側の労働者の団体も加わっています。

プロモーション機関も生産者、商業者の代表が理事に入って同じテーブルについていま

す。

この場所をセットしたり、必要な法令を決めるのが政府の役目です。

ここでお互いが納得するまで話し合いが行われ、全体の足並みも揃っています。

更に、オランダの同意の取り方は、多様性を認め合うことであり、お互いが納得いくま

で話し合いを行います。

いわゆる「多数決」による同意は、少数を切り捨ててしまいます。

オランダの同意の方法は、すべての人が納得できる「WIN WINの関係」を築くた

めに「協議」し、そのうえで「合意」するということです。

加えて、これら団体で決められたことは業界を代表する意見であるので、政府はこれを

尊重し、逆にそれぞれの業界のことは業界で行わせる「セルフコントロール」という考え

があります。

生産者は生産のことを、商業者は商業のことに集中して取組むことができているのが、

オランダの花き産業の強みであり、それぞれが特化し、プロ化・専門化することができた

のがオランダの強みであると関係者は口を揃えて言っています。

15

園芸生産管理機構(PT)

プロモーション機関

プロモーション機関と関連者との相互関係

生産者 商業者

業界課税 納税

プロモーション経費

団体の代表が理事として派遣

団体の代表が理事として派遣

15

プロモーション機関と関連業者との関係は、うまく関わりあって機能しています。

生産者、商業者がそれぞれPTに納税し、PTからプロモーション経費が、それぞれの

機関に分配されます。納税した生産者と商業者は、団体の代表が理事として、PTにもプ

ロモーション機関にも加わり、自分たちのお金が上手に使われているかをコントロールで

きます。

つまり、生産者、商業者双方の団体にとって利益になるよう100%尽くすという構造

です。

16

オランダ花き協会

オランダ花き

卸売市場協会

(VBN)

オランダ園芸

卸売業協会

(VGB)

オランダ植物

広報協会

オランダ樹木

生産者協会

(NBvB)

王立オランダ

球根・植物卸売業協会(Anthos)

オランダ国際

球根協会

オランダ球根

生産者協会

(KAVB)

王立オランダ

球根・植物卸売業協会(Anthos)

各プロモーション機関とその構成

生産者団体

商業者団体

16

例えば、切り花・鉢物であると、オランダ花卉協会がプロモーション機関で、生産者団

体はVBNであり、商業者団体はVGBです。

この場合、オランダ花き協会は、VBNとVGBの利益になるように100%尽くさな

ければなりません。

その団体が必要なことは行うし、必要ないと言えば、やめなければなりません。

17

切花・鉢物における業界課税の徴収方法

商業者セリでの売上に対し0.40%課せられ、卸売市場が支払いを代行する

(このうち0.09%はHBAG課税分)

卸売市場(フローラ・ホーランド等)

EU圏外の生産者オランダの生産者セリでの売上に対し0.51%課せられ、

卸売市場が支払いを代行する

輸入業者セリでの売上に対し0.51%課せられ、

卸売市場が支払いを代行する

(卸売市場を経由する場合)セリ値の0.51%

セリ値の0.51%

セリ値の0.40%

17

卸売市場を介して取引されるものは、卸売市場が納税を代行します。

造園以外の作物に関する課税については、基本的に法律上は売り手(生産者)と買い手

(商業者)の双方に課税がかけられるような仕組みになっています。

これは、業界課税の恩恵を受ける業者は平等に課税を課せられなければならないためで

す。

18

切花・鉢物における業界課税の徴収方法

商業者0.40%課せられ、購入先に支払う

(このうち0.09%はHBAG課税分)

EU圏外の生産者オランダの生産者売上に対し0.51%課せられ、

購入者分課税(0.40%)を購入者へ請求する

輸入業者輸入価格に対し0.51%課せられ、

購入者分課税(0.40%)を

購入者へ請求する

(市場外流通の場合)売値の0.51%

輸入価格の0.51%

買値の0.40%

18

市場外流通でも、漏れなく徴収ができるようになっています。

直接支払うのは、生産者か輸入業者です。

商業者は買うときに生産者や輸入業者へ自分たちの課金分を払います。

19

オランダにおけるプロモーションの特徴

EU圏内では、「オランダの花」ではなく一般的な「花」をPRするという手法。(圧倒的シェアが既にあるため)「強くあれ、そしてその地位を維持しろ」(関係者談)

大きく分けて①一般向けのPRと、②プロ向け(小売店等)に行うトレーニングや販売方法の提案に分けられる。

▲オランダ花き協会(BBH)

【切花・鉢物類】

▲オランダ植物広報協会(PPH)

【樹木・多年草類】

▲オランダ国際球根協会(IBC)【球根類】

19

花きでは品目ごとに3つの担当機関に分かれます。

品目が違うので、それぞれの活動は違いますが、全体を通して共通する点があります。

まずは、EU圏内では、「オランダの花」ではなく一般的な「花」をPRするという手法

をとっているということです。

これは、シェア率が既にあるため、花そのものをPRすれば、自然とオランダの花が売

れるという仕組みです。

オランダの花き業界は、生産、流通の効率を上げて、競争力を付けることに奔走します。

次に、対象者ですが、大きく分けて①一般向けのPRと、②プロ向け(小売店等)に分

けられます。

プロ向けとは、トレーニングや販売方法の提案などです。

日本では①は当センターやその他いろいろなところでやっていますが、②は各事業者ま

かせのところがあり、あまり多くありません。

20

各種プロモーションツールの事例

汎用ツール

• ポスター等のイメージによるPR

購買者向けツール

• 花の名前、育て方、活け方等、基本的な知識の普及(配布物、HP等)

小売店向けツール

• 小売店のトレーニングやアイデアツール

• 品種画像をCDで配布

• 店頭ディスプレイのアイデア

20

これは各種プロモーションツールについての事例です。

汎用ツールは、当センターでもやっている、ポスターなどです。

次に花の名前、育て方、活け方等、基本的な知識をパンフレットなどの配布物やHPを使

って普及しています。

そして最後に小売店向けツールです。小売店のトレーニングやアイデアツールを提供し

たり、品種画像をCDで配布し店頭での販促に利用してもらったり、店頭ディスプレイの

アイデアを季節毎に設定して普及することで店内ディスプレイの改善を図るなどしていま

す。

21

花や緑の普及啓発キャンペーンの事例

• 一般の消費者にとって、花や緑を家庭に取り入れることのメリットを紹介。

• 環境や人体にとっての具体的な影響を紹介。

Plants for People

【切花・鉢物】

一般消費者

• 毎月、ターゲットなる分野を決める(例:10月レストラン・ホテル、12月旅行代理店 等)

• 効果的なマーケティング方法をアドバイス

• 販売ツール(プレゼン資料、ロゴ等)を提供

Flower for Business

【切花・鉢物】

会社需要

• グリーンを都市に取り入れることがいかにすばらしいかを訴える。

• 専門的な研究や分析結果をもとに紹介。

• 世界各国で展開。

Green City

【樹木、多年草】

都市設計者、造園業者

21

“It is not about selling the flowers”

プロモーション活動の特徴的な取り組みの一つとして、「花の効用」を訴えることで、花

を生活により取り入れてもらうように訴求をしています。これも「花」自体をPRすると

いうことです。

品目と、対象者別にいろんなキャンペーンがあります。

Plants for Peopleの例

このキャンペーンは、一般消費者向けのキャンペーンで、花や緑を家庭に取り入れるこ

とのメリットを紹介し、家庭へ取り入れてもらおうとするものです。 内容は、大学等の

研究結果であったり、過去の事例を紹介するなどしています。

Flower for Businessの例

このキャンペーンは小売店を直接巻き込んだキャンペーンです。ただし、露骨に「花を

売る」ためのものではないとしており、花や緑を取り入れるといかに職場にとって良いか

を訴え、結果として花を買ってもらおうとするものです。小売店等が自立して地元で販売

促進に活用してもらうためのものです。

まず、分野によりまして花を買ってくれそうな時期が異なるため、毎月どこにターゲッ

トをしたら良いかを決められます。そして、効果的なマーケティング方法(売り込み方法)

をアドバイスするとともに、販売ツール(プレゼン資料、ロゴ等)を配布します。

Green Cityの例

このキャンペーンは、植物を都市に取り入れることが、都市、企業、人々にとって良い

かということを訴えるものです。

アメリカ・フィラデルフィアでは、公園への投資は、都市にある公園の管理費の100

0倍の利益を満たすという研究結果が出ているといいます。都市においての気温は、他と

比較して、7~8度ほど高いとのことです。これは、今、高齢化にある人々の健康によく

ないので、少し温度を下げるために、工的な方法でなく、自然にグリーンで影を作ること

で、省エネルギーにもつながります。

22

オランダ花き協会による国別戦略策定の手順

22

① 国ごとの消費動向を分析

② 消費が見込める販売チャンネルの見極め

(専門店、スーパーマーケット、ガーデンセンターetc)

③ プロモーション内容の策定

例)ドイツ:専門店を対象に行う。小売店へのセミナーや技術アドバイスがメイン。ポスター等はほとんど行っていない。

フランス:小売りのニーズやプロモーションの要望を広く調査し、要望がある小売店に対し、セミナー開催や技術アドバイスを行う。またメディアも活用。

イギリス:スーパー等の量販店での消費が全体の75%なので、テスコや等のスーパー販売担当者と共同で、宣伝、広告、売り場の設定等を行う。

① 新しい戦略は、まず、国ごとの消費動向を分析します。

② 次に、その国で花きの消費が見込める販売形態は、専門店なのか、スーパーマーケッ

トなのか、ガーデンセンターなのかということを見極め、それぞれにアプローチ方法

を研究します。例えば、ドイツでは量販店での販売が15%のみですが、イギリスで

は75%ですので、方法が全く異なります。イギリスの場合は、量販店と協力して行

っています。

③ 次に、そこでの消費層を分析し、効果的なプロモーション内容を策定します。これに

より、キャンペーンが必要なのか、それとも単なる宣伝配布物が効果的なのか

(例)

ドイツ:ポスターやノベルティ(宣伝用配布物)を好まない国民性ですので、小売店へ

のセミナーや 技術アドバイスがメインです。

フランス:フランスは個を大事にしますので、あれこれ言われたくない人が多いです。

一方でメディアなどでの影響を受けやすいのでこれを活用します。

イギリス:テスコやセーフウェイといったスーパーマーケットでの需要が75%もある

ので、スーパーと共同で行うのが効果的であるそうです。

23

オランダにおける花き卸売市場の概要

23

項目 日本 オランダ

市場数 中央24市場地方180市場(2007年)

2市場(2009年)

取扱高 約4,573億円(H19)※資材含む

約5,541億円(約41.6億ユーロ)(2007年)

平均単価

(切花)56円

(鉢物)326円(苗物)52円(H18 以下同じ)

(切花)30.6円(23セント)

(鉢物)202.4円(152セント)(苗物)101.3円(76セント)(2007年 以下同じ)

取扱量(切花)61億本(鉢物)3.1億ポット(苗物)4.9億ポット

(切花)113億本(鉢物)8.5億ポット(苗物)4.2億ポット

オランダの卸売市場は生産者団体

日本のデータはフラワーデータブック2007-2008より引用オランダはVBN統計ブック2007より引用 1ユーロ=133.2円で換算

オランダの卸売市場は、生産者団体であり、生産者が共同で販売をするための場である

ので、生産者との関係はより密接にあります。

生産者は卸売市場が取り決めた基準や取り決めに従うという契約を結んでいます。

市場の構成員である生産者は、ここに出荷しなければなりません。

また、オランダの市場はもとは20数社あったのが、現在では2社に集約されています。

これは取扱量が下がって淘汰されたのではなく、物流のシステムや機能を共通化、標準

化していくことが生産者のとっては、よりメリットがあるため行われ、生産者のために機

能を集約されていったということです。

Ⅲ.その他

24

オランダにおける卸売市場の実践事例

入荷物の検品標準化とコード化

① 品目コード

(Product Codes)② 特性コード

(Product Characteristics Codes)③ 等級コード

(Grade Codes)④ 梱包コード

(Bulk Bin Codes)⑤ 検品コード

(Inspection Codes)

花の流通に関わる事項を標準化し、共通のコード化を行った。

標準化された基準に沿っているかどうかを毎回全品チェックしている。良い方向へずれていてもチェックされる。

出荷伝票IT化

生産者からの出荷伝票をIT化する

ことにより、受発注のリードタイムの短縮、物流の効率化等、様々な効果が得られた。

24

出荷商品の規格、バケットや梱包資材の統一などが市場協会(VBN)により取り決めがさ

れています。先に述べたように、市場は生産者団体でありますので、VBNが定めた基準

に沿うということが大前提にあります。

この標準化がされた基準が、品質管理の基準になっていて、「YES OR NO」の、誰にで

も分かりやすい管理方法です。

そして、流通で必要な情報は、コードが細かく設定されており、どういう商品で、色は

どんなで、規格はどうで、梱包は何で、原産はどこでといったことが誰にでも一目で分か

るようになっています。

これは、インターネットの普及に伴って迅速な受発注を可能にしており、オランダ花き

業界の強みであります。

出荷基準をチェックする体制も市場にあります。これは「抜き打ち」という検査ではな

く、全品目の検査が毎回行われています。

信用インデックスをもとに検査官がどの程度検査を行うかが判断されています。

そして、オランダの花き業界の強みは、その「インフラ力」にかかっていますので、さ

らにこれを強化していこうと、出荷伝票から電子化に15年もの歳月をかけて行ったそう

です。

これにより生産者から卸売業者をとおって小売業者までの距離感はぐっと近くなります

し、受発注のリードタイムの削減、物流効率のアップなど様々な効果が得られたとのこと

です。

25

輸出業者による買い付けから出荷までの流れとコールド・チェーン(切花)

外気に一切触れない

25

市場での買い付けから梱包、出荷まで、コールド・チェーンは完全であり、外温と触れ

る場所はなく、温度変化が起きる箇所は皆無です。 また、バーコードによる商品管理を徹底しており、これにより作業効率を高め、リード

タイムを削減することにより、顧客へ最短の時間での納品(オンタイムデリバリー)を可能にしています。 ① 買付け 市場のセリで、顧客の注文に基づいて自社バイヤーにより買い付けが行われます。なお、

市場内の商品が置かれている場所は、バラ2℃、キク8℃、ラン等12~15℃に管理されています。 ② 大型ハンガーによる移動 大型ハンガー(全長17km、時速12km)でカートのまま、道路をはさんで反対側に

ある南施設の卸売業者へ送られます。この間、外気に触れることは全くありません。なお、市場で扱われる花きの約30%が南施設にいる卸業者向けとります。 ③ バーコードチェック 荷捌きは、毎日違う色のバーコード表を貼り付け、その後、製品ごとに5℃、または日

中4℃、夜間2℃の保冷庫に運ばれ、輸出梱包を待ちます。なお、荷捌き場に到着した時点で、品質チェックが入るが、不良品である場合は直ちに生産者に写真とコメントを付けて連絡をして返却をしています。 ④ 梱包

各国向けの作業ラインヘ運ばれ梱包します。作業終了後バーコードチェックします。作業場内は8℃です。 ⑤ 積み込み 積み込み前にバーコードチェックを再び行い、荷物の最終チェックをすませます。トラ

ックは保冷車で、積み込みプラットホームは荷台と倉庫の間は密閉されています。 鉢物の場合は、室内は16度に保たれています。生産者よりの買付け時は生産者より

倉出し、トラック積み込みまで同じく16度の定温に全ての場所で、管理されています。

こちらも温度は空調システムにより一定に保たれています。

26

オランダの生産者による特徴的な取組①

積極的な情報交換

• 零細な農家が多かった施設栽培農家の間では、昔から情報交換を行っていた。(現在、LTOフルイサービスにて行われている)

26

◆LTOフルイサービス(LTO Groeiservice)での活動内容

① 生産者間での意見交換会の開催

どのテーマにするかということは、中央委員会によって審議される。また、生産者側からの要望については、作物専門員が個々の要望を取りまとめ、中央委員会の審議を依頼する。

(例)情報誌(ニュースリリース)、ウェブサイト・ニュース、会議、現地見学、その他視察、テーマごとの

検討会(労働関係、殺虫剤、エネルギーの使用方法、労働力の買い方等)ディスカッション・ミーティング(栽培方法の改善等)

②知識開発の為の新しい研究と開発の仲介

依頼のあった案件についてはLTO Groiserviceが研究、開発や資金拠出を行うのではなく研究者や研究機関等を

探し引き合わせるとともに、研究・開発に必要な資金をまかなうために、適用可能な補助金等を探すところまで行う。

研究:(例)バラに発生している新しい害虫についての対応策、殺虫剤等のリサーチ研究

開発:(例)菊の生産者が菊を採取する場合に腰が痛くなるので作業を軽減する方法(ロボット等)を探す

積極的な情報交換が、元々、零細の農家が多かった施設栽培農家の間では、お互いが知

恵を出し合って問題を解決していこうという気風がありました。現在、生産者協会の子会社LTOフルイサービスで、この情報交換の場がセットされています。

① 生産者間での意見交換会の開催

内容:個々の生産者の技術を向上させる為、栽培技術、エネルギー、品目の選択、各種許可といった内容について、お互いの生産場を見学したり、意見交流会を開催するなどして、お互いに意見を言いあい意見交換をすることができるように、双方がコンタクトできるように手配をします。そして、この交流に際しては、普及員、研究者、卸売市場関係者等も

参加します。ちょうど、LTO Groiserviceは、生産者と研究機関を繋ぐ役割を果たしています。 (例)ドイツのお客がバラが長いバラ必要だと言っていたとしても、その情報が入ってこないと対応ができない。そのような消費者ニーズの変遷によって、栽培方法等も異なって

きます。ここで、研究者等も参加していることで、的確な回答を導き出すことができます。 現地見学では、新しいトマト生産者がいたら、そこに他の生産者連れて行き、どういう品種か?温度は?管理方法は?等を勉強します。

② 知識開発の為の新しい研究と開発の仲介 依頼のあった案件についてはLTO Groiserviceが研究、開発や資金拠出を行うのではなく

研究者や研究機関等を探し引き合わせるとともに、研究・開発に必要な資金をまかなうために、適用可能な補助金等を探すところまで行います。

必要な研究については、ワーゲニンゲン農業大学(WUA)や園芸生産管理機構(PT)などと密に連絡を取り合っています。(PTには、農業研究のデータベースが集約されている) 研究:(例)バラに発生している新しい害虫についての対応策、殺虫剤等のリサーチ研究

開発:(例)菊の生産者が菊を採取する場合に腰が痛くなるので作業を軽減する方法(ロボット等)を探す

27

オランダの生産者による特徴的な取組②

完全自動化

• 作業のオートメーション化、機械化による作業効率のアップ。

積極的な生産設備の投資による生産規模の拡大

• 「オランダの農業の歴史の長さにより、問題の捉え方が他の国と違う。(オランダ鉢物生産者)」

品種の選択

• 機械化のための品種の絞り込み

• 利益率の高い新品種の選択(輸入品の台頭が背景)

• 多品種生産(品揃え)

自家発電

• 施設栽培者の15%が余剰電力を販売

27

徹底的な完全自動化(オートメーション化)を目指した取組がされています。作業その

ものはシステム化され、随所で作業の機械化を図ることで、無駄を排除しているというこ

とです。

積極的な生産設備の投資による生産規模の拡大も大きな特徴です。投資により規模を拡

大することで、マーケット支配しようとするものです。「強くあれ、そしてその地位を維

持しろ」と、関係者は言っていたのは、具体的にはこのことです。なお、オランダのよう

に積極的に生産現場へ設備投資を行うという考え方は、他のヨーロッパ諸国では、いまだ

消極的な慎重策に甘んじている生産者が多いようです。今回の調査で聞き取りをしたオラ

ンダの生産者は一様に口を揃え、「オランダ農業の歴史の長さにより、問題点の捉え方が

他の国と違う」とのことです。これは、最終的には精神的なオランダの競争力として生か

されているとのことです。

次に品種の選択です。品種を1種に絞ることで生産の効率化を図るとともに、大量供給

によるマーケット支配を目指しているといいます。逆に言うと、品種数が1品種というこ

とは、リスクが非常に高くなります。よって、品種の選定の失敗は命取りになり、マーケ

ティングが非常に重要となります。

一方で品種を絞り込むだけでなく、利益率の高い新品種を選択して外国産品と差別化を

図っています。昨今、オランダでは、ケニア等の海外からの輸入物に押され、廃業者が続

出しています。このケニアでのバラ生産はオランダのバラ生産農家が、自らのノウハウで

行っています。自分で自分の首を絞めないために、海外拠点での生産は、もとからある作

りやすい既存品種が生産され、人件費コストの高いオランダ国内生産では、利益率の高い

新品種が生産されているようです。また逆の発想で、他との差別化を図る方法として、多

品種生産による豊富な品揃えを行っているところもあります。

更に費用のかかる燃料代問題は、自家発電機導入、余剰電力は販売しており、PTの研究

者の算出では、全園芸施設栽培者の15%が、この余剰電力の販売をしています。

28

オランダ人にとってのMPSとは

28

オランダ人にとってのMPSは・・・行政主導で環境問題が進められるのではなく、生産者が自ら率先して環境問題に取り組んでいこうとする姿勢を示したもの。これは、生産者セクターという1つの「柱」が、環境問題で自らがイニシアティブを握って取り組んでいこうとする意識の現れである。

生産者(各項目のデータを収集)

集計機関(統一の基準で換算)

MPS、DLV、ABAB等の機関

UO-IMT財団(Stichting UO-IMT (UO))

※すべての生産者が該当データの登録が義務

環境基準を前提としたデータは、数値化して提出が義務化されている。

オランダ人にとってMPSとは、環境問題を行政主導で進められるのではなく、生産者が自ら率

先して環境問題に取り組んでいこうとする姿勢を示したものです。

これは、環境問題について生産者セクターという一つの「柱」が、環境問題で自らがイニシアテ

ィブを握って取り組んでいこうとする意識の現れです。

オランダ政府関係者の話では、オランダの「セルフコントロール」の典型的な例がこのMPSで

あるということも言っています。

MPSの加盟率は現在約8割であり、加盟していることが当たり前のものになっています。

一方で、数値化されたデータは、グラフ等で表され、経営状況が一目瞭然であり、健全な会社

運営を行うに当たっての有益な資料となり、これがMPSの最大のメリットのひとつとして受け取ら

れています。これは、データの「見える化」を重要視するオランダ人ならではの着眼点で、オラン

ダの花き生産を根底から支えるものと言えます。

また、2002年より義務化された環境基準を前提としたデータの提出に当たって、MPSが報告

の代行をしてくれるという側面もあるようです。

このように、MPSとは、オランダの花き産業とその精神が凝縮されたものであります。

29

オランダの花き産業とは29

キーワードは「セルフコントロール」と「統合化(一本化)」

• 各セクターごとに自分たちの業界内のことはそれぞれ話し合いをもとに決められる。

• 自分たちで決めて、自分たちでイニシアティブをとりながら責任をもって実施していこうとするもの。

• 政府はそれを補完する機能をもつ。

セルフコントロール

• 人や物だけでなくシステムや機能も統合化することで効率化を図り、絶対的な競争力を確立。

• 堤防の歴史から学んだ協力の精神

統合化(一本化)

「セルフコントロール」がまずキーワードのひとつです。

セクターごとに自分たちの業界内のことが話し合いをもとに決められます。

多数決ではなく、「WIN WINの関係」になるように最善の策を得られるよう、何度

も何度も話し合いが持たれる。

業界課税も自分たちで決めたことであり、必要ないと判断されれば、いつでも取りやめ

るし、変更ができる。

実際に業界課税の税率は頻繁に変わっています。

「統合化」というのがもう一つのキーワードです。

流通では、バケットやボックスの流通規格の統合、情報としてコードの統合、ひいては

市場まで統合してしまいました。

歴史を見ても、競売の統合ということで市場ができました。

これによりオランダの絶対的な競争力を確立しています。

生産面では、生産情報・知識の統合ということで、生産者間で頻繁に情報交換が行われ

ています。

オランダの業界について、英文の資料を見ていると「Cluster(クラスター)」という表

現が頻繁に出てきます。これは、「一致団結して」ということです。

堤防の歴史と柱状社会による社会システムにより、お互いが競争だけでなく協力して業

界全体を盛り上げていこうとする機運があるのは、何ものにも代え難いオランダの強みで

あります。