＜私がオランダの高齢者ケアに注目した理由は・・・＞ 浅川澄一

１） 病院死の比率が最も少ない国。在宅医療と在宅介護が浸透しているた

めだろう。日本でも胃瘻への反対論が急増し、看取りの見直しが浸透

中。自然死を「地域包括ケア」として推進するには家庭医と訪問看護

師が不可欠。介護保険制度を世界で初めて生み出し、安楽死法も 12年

前に世界で初めて制定。死へのプロセスをどのように考えているのか。

２） 小さな国土ながらスペインから 17世紀に独立。共和制への一番乗りを

果たし「黄金の世紀」を迎えた。「コンセンサス民主主義。制御の文化」

（長坂寿久氏）。人口密度は日本より高い。そのため都会地では、中高

層の建物が多く、高齢者施設も中高層が主流。日本の高齢者ケアの今

後の課題は首都圏など都会地。施設やケア付き住宅の中高層化は避け

られない。中高層のケア付き住宅から学ぶことは多いはず。

３） かつては、オランダ版「特養」（ナーシングホーム）の入居者が多かっ

たが、いまでは「住まい」重視に転換。改修を活発に進め、施設の居

住空間を広げて住宅に変えてきた。日本の 4 人部屋特養の参考になる

か。「社会保障の基盤は住宅」を示す具体例は何か。住宅協会の存在。

４） 介護事業者のほとんどが民間の非営利団体。北欧のような税や公務員

主導ではない。企業との違いは何か。病院も学校も、同様に非営利団

体が主役というオランダ人の発想法を知りたい。だが競争、評価は奨

励される。市場主義と「福祉」との折り合いはどこにあるのか。

●福祉分野だけでない。中央集権的官僚機構が歴史的に不在。代わっ

て、中間団体が教育、労働、農業、住宅など多くの分野で形成。

５） 安楽死のほか麻薬、売春も公認されている。人間の欲望と社会秩序と

の接点の見出し方が他国と違うようだ。「欲望は悪」と決めつけない発

想がいい。人類のライフスタイルの先端を走っているのか。

６） 正規社員とパートタイマーが同一労働同一賃金の国。夫がパートで妻

が正規社員も珍しくない。つまり男女差別がほとんどない。同様に人

種や宗教への偏見、差別も聞かない。移民の国という歴史。外国系市

民が 2 割近くを占める。トルコ、モロッコ、スリナム、アンティル。

障害者や要介護者への対応も他の欧州諸国と違いがあるのでは。

＜オランダ高齢者ケアへの５つの視点＞ 浅川澄一

Ａ）病院死（35％）が先進国中で最低比率 ←― 在宅の診療・看護・介護が浸透

・ホームドクター（家庭医、主治医）の専門性、信頼性 → 安楽死へ

・看護師と介護師が 5段階で同一職種：高い専門性

・医療がフリーアクセスでない。在宅医は選択できる。医師免許は更新。

Ｂ）高齢者の居場所（施設＆ケア付き住宅）は 3類型＋α、アトリウム形式

▲ナーシングホーム verpleeghuis 330 施設に６万人、15 ㎡～、24 時間ケアの

医療施設。60 年代に 14 ㎡で疑似病院として始まる、70 年代初頭まで 4～6 人

部屋＝日本の特養、老健、特定施設に近い，

△Small Scale House 認知症向け小規模が急増。6～80人。GHと呼ばない。

▲ケアホーム verzorgninghuis 1400施設 11万人、48㎡～、1988 年から開設

トイレ・ミニキッチン付き＝日本のケアハウス、サ高住に近い、

▲高齢者住宅に 10万人、75㎡以上＝自立者向け有料ホーム、ケアなしサ高住

・高齢化率１５％、高い人口密度：480人、日本 330人（1万㎢）→ 中高層高密度建築

・多い施設系入居者：オランダ 7％（17万人）、日本４％（112万人）

●世界で初めての介護保険制度 AWBZ、全国民対象（年齢区別なし、障害も）、

・財源＝国庫補助＋保険料、所得の 13・45％負担（15歳以上）、

・サービス提供＝非営利組織 NPOが主役、市場に競争原理あり

・特別医療費補償法で段階的に導入：長期入院、老人、障害者

68年ナーシングホーム、77年デイケア、80年訪問看護、97年訪問介護

90年代半ば：代替政策：治療＜介護＜予防、施設＜在宅

■CureＺⅤＷ（短期医療保険） 短期治療：家庭医、専門医、病院、禁煙指導

■CareＡＷＢＺ（長期医療「介護」保険） １年以上の長期療養：身体介護、看護、

■SocialSupportＷＭＯ（新社会支援法） ：家事援助、移送、補助器具、住宅改修、

財政難から 2007年に導入、企業参入増加

□ＺＶＷとＡＷＢＺは強制加入の医療保険、ＷＭＯは公費＋自己負担

保険会社：４社（3社非営利）で９割シェア。公的管理。競争原理だが被保険者を選べない、

Ｃ）認知症への対応

・集合住宅やナーシングホームの建物内に特別コーナーとしてＧＨを設置。独立型も

Ｄ）安楽死、看取り、ホスピス

・安楽死法を世界で初めて２００１年に制定 →ベルギー、スイス、米国オレゴン州

Ｅ）地域包括ケア（オランダでは「統合ケア」）

・新都市・アルメール市の住民密着型保健・介護、マントルケア、ポルターモデル

・訪問看護師のニュービジネス Buurtzorg（ビュルツォフ）＝ヨス・デ・ブロック

第１回　ボランティアが支える

　　　「安楽死協会」とホスピス

死を望む意志　尊重

ジャーナリスト元日本経済新聞編集委員

浅川　澄一

　昨年瀾月とこの６月欷オランダの高齢者ケアの現場

を視察した盜１９６８年に介護保険制度を世界で最も

早く始め欷欹脱病院飮に舵を切る盜その後欹脱施設飮

欹ケア付き集合住宅飮に向かい欷欹Ａｇｅｉｎｇ　ｉ

ｎ　Ｐｌａｃｅ飮を実現させてきた国の実態を探る盜

官安楽死協会で電話相談を受ける

ボランテ檪ア

寛ロ蘖テルダム市のホスピスの部

屋盜自宅と変わらない雰囲気だ

　１９７１年欷慶応義塾大学

経済学部卒業後に欷日本経済

新聞社に入社盜流通企業欷サ

欟ビス産業欷フ櫟蘖シ欖ンビ

ジネスなどを担当盜１９８７

年瀲月に欹日経トレンデ檪飮

を創刊欷初代編集長盜１９９

８年から編集委員盜主な著書

に欹あなたが始めるケア付き

住宅¥新制度を活用したニ欒

欟介護ビジネス飮歉雲母書房歐欷

欹これこそ欲しい介護サ欟ビ

ス飮歉日本経済新聞社歐など

がある盜

　世界で初めて安楽死を法

制化した盜アムステルダム

市内の安楽死協会歉正確に

は自由意志生命の終結協

会歐を訪ねた盜古本市など

で賑うライ蘖ツ櫪広場近く

の５階建て煉瓦ビルの２

階盜目の前に運河が流れる欷

典型的な烱世紀のたたずま

いを残した地域だ盜

　欹安楽死を望んでいるの

に主治医が賛成してくれな

い時などに欷電話相談を受

けます盜家族やパ欟トナ欟

がいない人が多い盜医師を

紹介することもあります飮

とボランテ檪アが説明す

る盜ある部屋で欷電話のレ

シ欟バ欟を付けた女性ボラ

ンテ檪アがパソコンの画面

を見ながら話していたの

は欷そんな相談のようだ盜

烋人のスタ蘖フのほかに欷

１２０人ものボランテ檪ア

が活動を支える盜

　安楽死法は２００１年に

成立した盜そもそもの議論

はその煥年前に遡る盜欹私

の終末を助けて飮と欷半身

麻痺の母親に頼まれた女医

がモルヒネで死亡させて大

騒動に盜有罪宣告されたが欷

執行猶予つきの禁固１週間

で実質的に容認された盜

　この事件を機に欷欹公開

の議論に飮と１９７３年に

協会が作られ欷医師会が認

めて関わる盜欹殺人だが欷

手続き通りなら罰しない飮

とする法案に帰結した盜そ

の手続きとは欷機本人が死

を望む意志帰主治医が実行

者となりもう一人の医師の

承認毅死後に検視官が調べ

検証委員会に報告｜などが

決められた盜

　２０１１年には欷死者灣

万６千人のうち安楽死は３

６９５人盜発症前から手続

きを踏んでいれば認知症の

人も安楽死しており欷燔人

に上る盜

　欹主治医が本人とよく話

し合い欷苦痛や悩みを十分

理解し判断する飮と同協会

のジ欖ン・ロンマ欟医師盜

オランダでは全国民が地域

の診療所の医師を主治医

歉ホ欟ムドクタ欟歐として

おり欷大病院に直接行くこ

とはない盜家族ぐるみで主

治医と交流があり欷その延

長線上で安楽死が選択され

る盜医師が致死薬を渡すな

ど欷主治医の関わりが重要

だと感じられた盜

　同行ガイドの後藤猛さん

が欷安楽死に立ち会檸た場

面を著書に記している盜

欹ペ欟タ欟は最後のお世話

をお願いしますと静かに伝

えた盜薬の投与が終わると

ホ欟ムドクタ欟は後ろにさ

が檸た盜薬の入檸たワイン

グラスを持檸たペ欟タ欟の

周りには欷奥さん欷息子さ

ん欷娘さんがいた飮歉欹認

知症の人が安楽死する国飮

より歐盜

　安楽死を認める国は広が

り欷隣国のベルギ欟やスイ

ス盜アメリカのオレゴン欷

ワシントン州に及んでい

る盜

　人生の終末期の選択肢と

してはもう一つ欷延命治療

をしない緩和ケアによるホ

スピスがある盜ロ蘖テルダ

ム市の中央駅から２羽ほど

の住宅地にあるホスピス

欹デ・フ檪欟ル・ホ欟フル

歉４羽の鳥歐飮を訪ねた盜

４階建ての古い建物の１階

に４室を備える盜

　クラシ蘖クな天井照明欷

落ち着いた色調の室内だ盜

２階にスタ蘖フの事務室や

会議室があり欷３欷４階は

全く別の住人が住む盜

　がん末期の患者が猖％

で欷年間約熄人がここで亡

くなるという盜欹満足して

最期を迎えられるようスタ

蘖フは何度も話し合いま

す飮と欷同席した医師や看

護師欷ボランテ檪アが異口

同音に語る盜

　ボランテ檪ア熄人のうち

の１人の中年女性は欹朝食

の買い物から始ま檸て欷食

事作りや散歩同行欷本を読

んだり欷ベ蘖ドメイクなど

２人で組んで１日に４時間

活動します飮と話す盜看護

師やコ欟デ檪ネ欟タ欟など

専門職の５倍もの多くのボ

ランテ檪アが関わる盜

　同国北部のホ欟ルン市の

欹ホスピス・デ檪グニタス飮

でも欷ボランテ檪アの旺盛

な活動ぶりを聞かされた盜

広い庭付きの改修された修

道院を借りて９年前に開

設盜８室を備え欷年間１０

０人前後が亡くなると言う

が欷職員の５倍の１５０人

ものボランテ檪アが通う盜

このうち焜人は介護保険制

度のＡＷＢＺから報酬を得

ている盜

　マントルケアと呼ばれる

助け合い精神が国中に広が

檸ているとは聞いていた

が欷確かにし檸かり根付い

ていると感じた盜宗教の隣

人愛から始まり欹外套歉マ

ントル歐で弱者を包む飮と

いう発想である盜

第２回　認知症のケア付き住宅は

　　　　　　　　　　「街」を併設

ライフスタイルに合わせた住居

ジャーナリスト元日本経済新聞編集委員

浅川　澄一

　１９７１年欷慶応義塾大学

経済学部卒業後に欷日本経済

新聞社に入社盜流通企業欷サ

欟ビス産業欷フ櫟蘖シ欖ンビ

ジネスなどを担当盜１９８７

年瀲月に欹日経トレンデ檪飮

を創刊欷初代編集長盜１９９

８年から編集委員盜主な著書

に欹あなたが始めるケア付き

住宅¥新制度を活用したニ欒

欟介護ビジネス飮歉雲母書房歐欷

欹これこそ欲しい介護サ欟ビ

ス飮歉日本経済新聞社歐など

がある盜

　欹認知症の街飮として世

界の主要新聞やネ蘖トに掲

載され欷一躍国際的に著名

にな檸た施設がある盜アム

ステルダムの南東を車で炳

分欷ヴ檪欟スプ市の欹ホグ

ウ櫪イ飮盜

　噴水の先に延びた通路

に欷車いすを押す家族の姿

が目に入る盜両サイドは普

通の街の家並みのようだ

が欷ギタ欟のある音楽室欷

工具が見えるＤＩＹ室など

が並ぶ盜調理器具が揃檸た

キ蘖チン室も盜入居者のた

めのクラブ活動の部屋だと

いう盜

　天井が高い玄関ホ欟ルの

左右には欷日用品のス欟パ

欟と洒落たレストラン欷美

容院盜ス欟パ欟で入居者が

ワインを手に取る隣には欷

高級紙おむつ欹テ欟ナ飮の

緑色のパ蘖クが棚い檸ぱい

に盜これら店舗の先には欷

１５２人の認知症高齢者だ

けが住むナ欟シングホ欟ム

歉特養歐が連なる盜

　１欷２階の居室がユニ蘖

トごとに続く盜一つのユニ

蘖トは欷６殳７人盜個室と

共用の居間やキ蘖チン欷水

回りで構成される盜庭や池

などを数ユニ蘖トの連棟式

住宅が取り囲み欷木の椅子

でゆ檸たりくつろぐ入居者

の姿があちこちに盜

　１階は炯のユニ蘖ト盜２

階に８ユニ蘖ト盜全体が通

路やテラスで巧みにつなが

檸ている盜通路を歩く入居

者にはスタ蘖フがし檸かり

と手をつなぐ盜

　日本流に言えば欷烝ユニ

蘖トのグル欟プホ欟ムだ盜

あるいは欷個室ユニ蘖ト型

特養である盜

　欹テ欟マパ欟ク型と呼ぶ

ジ櫺欟ナリストもいます盜

私たちは欷自宅での暮しを

そのまま再現しました盜買

い物やレストラン利用など

で普通の生活を送るのが認

知症ケアには一番いいから

です飮と担当者が説明する盜

　画期的な試みは欷全入居

者を７つのライフスタイル

別に分け欷同じグル欟プの

人を同じユニ蘖トに集め欷

インテリアもそれに合わせ

ていること盜カフ櫪や外食

好きな欹都会派飮欷家事が

好みの欹ホ欟ム派飮欷芸術

や文化が好きな欹ア欟ト

派飮欷それに信仰心の篤い

欹クリスチ櫺ン派飮欷さら

に欹上流クラス派飮欷欹伝

統生活派飮欷欹インドネシ

ア派飮である盜

　インドネシアはかつての

植民地で欷そのユニ蘖トで

はアジア人が入居していて

庭に仏像らしき彫像も盜上

流クラス派の居間にはシ櫺

ンデリアや豪華そうな家具

が並ぶ盜

　欹同じような価値観の人

が一緒に暮らすのがいい飮盜

確かに欷認知症ケアは欹１

００人に１００色の対応飮

と言われ欷それぞれ異なる

人生体験に合わせた声掛け

やケアが大切だ盜それを各

ユニ蘖トで実現させたのは

なかなかのものだ盜欹生活

歴の把握飮は認知症ケアの

イロハだが欷居住空間にま

で具体化させた事例は北欧

でも見たことがない盜しか

も欷街づくりにまで進化さ

せた盜

　欹以前は普通の４階建て

の病院風ナ欟シングホ欟ム

でしたが欷自分たち職員が

ここで暮らしたいか欷と考

えて３年前に全面改築しま

した飮と振り返り欷欹病院

みたいに急に料理が出てく

ると認知症の人は戸惑う盜

今ではユニ蘖トで一緒に調

理します盜洗濯もアイロン

掛けもね飮と話す盜

　認知症の入居者が暮らす

建物の１階に欷店舗や様々

のサ欟ビスを備えるのは欷

ロ蘖テルダムの事業者欷

欹ユマニタス飮の施設欹ア

クロポリス飮でも見てきた盜

中層住宅に挟まれた１階ア

トリウムはフ欟ドコ欟トの

ほか欷１人用の冷食がある

食品ス欟パ欟や生花店欷理

美容室欷ネイル室欷パソコ

ンコ欟ナ欟などがズラリと

並んでいた盜

　同国北部のリフタ欟ホフ

市でケア付き住宅を運営す

る欹オムリング飮も欷秋を

めどに欷１階にパン屋やア

イスクリ欟ム店欷カフ櫪を

作り欷レストランも大きく

する盜欹街としての機能を

高めたい飮と責任者が力説

する盜

　高齢者ケアの歩みは欷牆

年代の脱病院から脱施設欷

そしてケア付き住宅の新設

へと進み欷今欷欹街飮づく

りが次の目標盜一旦捨てた

欹普通の生活飮を取り戻そ

うしているかのようだ盜

　ただ欷残念なのは欷既存

の周囲の街とのつながりに

欠けていること盜囲われた

敷地内での街づくりは欷テ

欟マパ欟クと言われるよう

に欷地域住民との接触が考

えられていない盜日本のグ

ル欟プホ欟ムで欷近所の商

店街に買い物に行く光景

は欷世界的にも誇れるケア

手法だろう盜

寛ホグウ櫪イの連棟式ユニ蘖ト盜

庭でくつろぐ入居者たち

官アクロポリスの１階はフ欟ドコ

欟トと店舗が並ぶ