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2011年度数学 I演習第 8回理 II・III 17, 18, 19組
10月 20日 清野和彦
問題 1. [1, 2] で定義された関数
f(x) =
1
qx =
p
q(x の既約分数表示)
0 x は無理数
は [1, 2] でリーマン可積分で ∫ 2
1
f(x)dx = 0
であることを、積分の定義を直接使って証明せよ。
問題 2. 微積分の基本定理を使わずに∫ 1
0
exdx = e − 1
を示せ。(この積分が可能であることは認める。)
問題 3. 関数
f(x) =
1 x は有理数
0 x は無理数
は [0, 1] で積分できないことを示せ。
問題 4. 1より大きい実数 x に対して
f(x) =
∫ x
1
1
tdt
と定義する。(この積分が可能であることは認める。)このとき f(x) = log x であることを使わずに次を示せ。
(1) f(2) を小数点以下第 2位で四捨五入した値は 0.7である。
(2) f(a) = 1 となる a に対し
a = limn→∞
(1 +
1
n
)n
が成り立つ。
問題 5. a < b < c とする。[a, c] で有界で b 以外では連続な関数は [a, c] でリーマン可積分であることを証明せよ。
問題 6. [a, b]上のリーマン可積分な関数 f(x)に対し、 1f(x)が有界なら 1
f(x)も [a, b]
上でリーマン可積分であることを示せ。
問題 7. 不定積分が微分可能でない関数の例を挙げよ。
問題 8. 不定積分が微分可能なのに原始関数にならないような関数の例を挙げよ。
問題 9. 微分可能だが、導関数が積分不可能な関数の例を挙げよ。
問題 10. 導関数がリーマン可積分ならば、導関数の不定積分は元の関数と定数関数の差を除いて一致することを証明せよ。
2011年度数学 I演習第 8回解答理 II・III 17, 18, 19組
10月 20日 清野和彦
前書き
リーマン和の極限としての積分の定義は 1変数でも多変数でも基本的には同じです。教科書によってはその二つを区別せずに一般の n 変数関数の積分でまとめて扱っているものもあるくらい
です。しかし、リーマン和の極限という概念が新しい上に、多変数関数を積分するということも新
しいので、新しいに新しいが重なってなかなかわかりにくいものです。既にイメージも持ち計算も
できる 1変数の場合にまずしっかりとリーマン和の極限による定義の「気持ち」を理解しておくことが、多変数の積分をスムーズに理解する上でも重要だと思います。
このプリントは、講義や一般的な教科書における説明の順序は忘れて思い切って内容を見直し、
なぜそんなことをするのかができるだけ自然に感じられる(と私が思う)順番で書いてあります。
例えば、ダルブーの定理の前に連続関数の可積分性を証明するなど、講義の話の進み方と多少違っ
ているところがありますが、ご了承いただければ幸いです。
なお、現時点で講義は連続関数が可積分であることの証明の直前までしか進んでいませんが、次
の演習までに講義が三回あるので、今回の演習は講義の進度とは無関係に切りのよいところまで扱
いました。かなり長いプリントになってしまいましたので、「内容説明付き目次」を書いておきま
しょう。中身を読んでいて何をしようとしているのか分からなくなったときにはここに戻ってみて
ください。また、問題の解答を対応する話題の節に入れてしまって見つけにくくなってしまったの
で、「内容説明付き目次」のあとに「解答目次」も付けておきます。
内容説明付き目次
第 1節:なぜ積分を定義し直さなければならないのか p.3
すでに高校で微積分を学んできており、微分については、大学でも高校で学んだ定義と全く同じ
で、高校で身につけたことを前提にテイラーの定理などのより進んだことがらを学んだのに、なぜ
積分では高校で学んだことをいったん忘れて一から説明し直さなければならないのか、その理由を
書きました。つまり、積分を定義し直していったい何がやりたいのか、その目標が書いてあります。
第 2節:積分の定義 p.4
高校では、積分と言えば原始関数、つまり「微分の逆操作」でした。だから、突然「積分とは
定積分のことで、リーマン和の極限」などと言われても戸惑うのは無理からぬことです。そこで、
「どうも大学での積分の定義は何をやっているのかよく分からない。何を目標にした定義か理解で
きない。」という悩みを抱えている人向けに少々強引な理由付けをしてみました。
第 8 回解答 2
第 3節:区分求積法 p.8
円が面積を持つことを信じれば、あるいは問題にしなければ、円の面積に収束する計算可能な数
列を作ってみることはできます。内接正多角形の面積で辺の数をどんどん増やしてゆけばよいわけ
です。積分も全く同様で、「積分可能であること」を示すのはやっかいなのに、「積分の値を近似す
ること」は(計算の手間は別として)簡単にできます。この節では、先に積分の値を具体的に近似
する例を見ることで、積分の定義がわりと自然なものであることを実感していただくと同時に、本
当に問題なのは「積分が可能なのかどうか」を判定する方なのだということを肝に銘じてもらおう
とういう節です。
第 4節:有界な関数に限って積分の定義を言い換える p.14
有界でない関数のリーマン和たちは有界になりません。しかし、有界でない関数は積分不可能
であるということを示すことができますので、最初から除いて考えても問題ありません。そこで、
有界な関数だけに考察の対象を絞ると、リーマン和たちが有界になります。リーマン和のいやなと
ころは分割を一つ決めても代表点の取り方が無数にあって統率できないことなのですが、関数を有
界なものに限ると一つの分割に対するリーマン和に対して有限な上限(過剰和)と下限(不足和)
が存在するので、代表点を使わずに積分の定義を言い換えることができます。「過剰和と不足和が
同じ値に収束すること」とするのです。それがこの節の目的です。
第 5節:分割を細分する p.19
前節で積分の定義を「過剰和と不足和が同じ値に収束すること」と言い換えたのですが、さらに
この節では「過剰和は上から、不足和は下から積分の値に収束する」ことを示します。そのことか
ら、過剰和の極限と不足和の極限を考える必要がなくなり、「過剰和-不足和」が 0に収束するかどうかだけ調べれば良くなります。
第 6節:連続関数の積分可能性 p.21
「過剰和-不足和」というのは、「x と y が近いときの f(x) と f(y) の離れ具合」と密接な関係があります。この「離れ具合」が小さいという性質は、連続性に少し条件を足した「一様連続性」
というものです。このことから、「一様連続なら積分可能」が簡単に証明できます。
実は、有界閉区間上では連続性と一様連続性は同値であり、「連続関数は積分可能である」が証
明されます。
第 7節:ダルブーの定理 p.25
積分の定義やその言い換えにでてくる「極限」とか「収束」とかいった言葉は、分割の幅を 0にするときの極限や収束ということで、分割の幅が 0になるようなあらゆる分割の列で存在しないといけないものです。分割の幅が 0になる分割列なんてものすごくバラエティがありすぎて、とても手に負えるものではありません。連続性はたまたま積分の定義と相性が良かっただけです。
ところで、第 5節で「過剰和-不足和」が 0に収束するかどうかだけが問題だと書きましたが、もちろん「過剰和-不足和」が収束するかどうかがそもそも問題です。
第 8 回解答 3
この節では、「過剰和も不足和もいつでも収束する」というダルブーの定理を証明します。よっ
て、特に「過剰和-不足和」もいつでも収束するのです。
第 8節:積分可能条件 p.28
「過剰和-不足和」がいつでも収束することが分かったので、積分可能かどうかは、その収束先
が 0かどうかだけの問題となりました。よって、これまでは幅が 0に収束するすべての分割列を気にしなければならなかったのが、幅が 0に収束する一つの分割列だけで収束先が 0かどうかを調べればよくなったのです。まるで区分求積法で値を近似するのと同じ程度の手間で積分可能かどうか
が判定できるというわけです。
第 9節:積分の一般的な性質 p.30
積分可能な関数同士の和や積がまた積分可能であることや、関数の大小が積分値の大小に引き継
がれること、積分区間を足したり引いたりできることなど、積分についての一般的な性質をこの節
に集めました。定義からいきなり証明できるような性質から、前節の積分可能性判定法を使わない
と容易に証明できそうもないものまであります。
第 10節:微分積分の基本定理 p.35
前節で「積分区間の分割」ができるようになったので、積分範囲を固定せずに動かすことによっ
て関数を作ることができます。それを不定積分と呼びます。
この節では、「連続関数に限れば『不定積分は原始関数である』が成り立つ」という微分積分の
基本定理を証明します。これによって、「第 1節理由その 2:すべての連続関数は原始関数を持つ」が証明されるとともに、高校のときに学んだ積分についての知識や計算テクニックが目出度くすべ
て蘇ります。
解答目次
問題 1 p.8, 2 p.10, 3 p.10, 4 p.11, 6 p.32, 5 p.29, 7 p.37, 8 p.38, 9 p.38, 10 p.38
1 なぜ積分を定義し直さなければならないのか
みなさんは高校以来今年度の前期が終わるまで、積分とは原始関数を求めること、あるいは原始
関数そのものであると考えて数学を学んできました1。そして、多項式のような簡単な関数に限ら
ず多くの複雑な関数の積分を計算できるようになっているでしょう。実は、これから積分を学んで
も、残念ながら具体的に不定積分(原始関数)を求められる例が増えるわけではありません。それ
なのに、どうしてここで積分の定義から考え直すようなことをするのでしょうか。その理由は主に
次の三つです。
その 1 面積の概念を確実なものにし、積分を多変数関数に自然に拡張できるようにすること。
1関数 f の原始関数とは、F ′ = f となる関数 F のことでした。
第 8 回解答 4
その 2 すべての連続関数が原始関数を持つことを証明すること。つまり、どんな連続関数も何ら
かの関数の導関数になりうることを示すこと。
その 3 微分積分や関数列の極限といった極限操作と積分という極限操作との順序の入れ替えがど
のような条件下で可能なのかを明らかにすること。
このプリントでは、その 1とその 2を扱います。その 1については、1変数関数のグラフと軸とで挟まれた部分としてできる図形の「面積」のみ考察します。本当に一般的な平面図形の面積を議論するには、どうしても 2変数関数の積分が必要になるからです。また、発想の元は「面積」なのですが、すでに皆さんにもおなじみのように変数
軸より下側にある部分は「負の面積」として扱います。その方が自然であることは次の節を読んで
いただければ納得してもらえると思います。
1変数関数の(不定)積分を「逆微分」として定義しても結構用が足りてしまうことは高校以来皆さんが経験してきていることですが、多変数関数となると原始関数というものが定義できないの
でこの方法で積分を拡張するのはお手上げです。しかし、「グラフと軸とで挟まれた部分の面積」
として 1変数関数の積分を定義できれば、2変数関数の積分は「グラフと座標平面とで挟まれた部分の体積」、一般の n 変数関数に対しても「グラフと座標超平面とで挟まれた部分の超体積」とい
うように容易に拡張することができます。
その 2は、高校の意味での積分がすべての連続関数に対して可能だということです。高校の意味での積分とは「逆微分」なのですから、積分できる関数とは「何らかの関数の導関数になれる関
数」です。すると 、たとえば e−x2は高校の意味で積分可能なのでしょうか。いろいろなテクニッ
クを駆使しても、原始関数を求めることはできません。実は、初等関数など我々が「書ける」式
の中に e−x2の原始関数はないことが知られています。では、この関数は原始関数を持たないので
しょうか。それとも、ただ書き下せないだけで原始関数は存在するのでしょうか。連続関数に限っ
てですが、このようなもやもやに決着をつけようというわけです。
これから定義する積分も、しかるべく議論を尽くした後に「逆微分」としての性質を取り戻し、
しかも、連続関数はすべて積分できることが証明できるので、「すべての連続関数は原始関数を持
つ」と結論されます。
その 3については、講義の進み具合をみながら別の回で解説する予定です。
2 積分の定義
高校で積分を習ったときの刷り込みもあるかもしれませんが、有界閉区間 [a, b] で定義された正の値を取る連続関数 f(x) に対し、xy 平面で y = f(x)、x = a、x = b および x 軸によって囲まれ
た部分の図形の面積を知りたいという気持ちは自然なものとして受け入れてもらえることと思いま
す。そして、その面積のことを f(x) の a から b までの(定)積分と定義したいのですが、そもそ
もこれまでの人生で一度も「面積とは何か」という質問に答えたことがないことに気がつきます。
思い出してみると、「長方形の面積=縦の長さ×横の長さ」から始めて、合同な三角形を二つ使っ
て長方形ができることから「三角形の面積=底辺×高さ÷2」を導き、多角形はいくつかの三角形
に分割できるから三角形の面積の和として求めました。怪しげだったのは円の面積です。円をいく
つもの細い扇形に分割し、「扇形≒三角形」として求めました。だから、「円には多角形のような明
確な意味での面積などないのではないか」と意地悪な質問をされたら、はっきりと言い返すことは
できないのではないでしょうか。しかし、「円の面積=半径×半径×円周率」は譲れません。アル
第 8 回解答 5
キメデスは、円に内接する正 2n 角形の面積を n = 2, 3, 4, . . . と計算して円周率の値を近似したと
いいます。このアルキメデスの発想、つまり、
面積を求めたい図形を面積を求められる図形で「近似」し、その「近似」をどんどん
「良く」していった極限
という考え方を適用して積分を定義するという方法に思い至ります。ただし、図形を「近似」する
とか「近似」が「良い」とかいうことがそもそも定義されていないので、そのあたりをうまくクリ
アするような定義にしなければならないことを頭に置いておいてください。
以下、言葉の節約のため、「y = f(x)、x = a、x = b および x 軸で囲まれた部分の図形」とい
う長ったらしい言葉の代わりに「f(x) のグラフの決める図形」と言うことにしましょう。(もちろん、言葉としてヘンであることは承知の上です。)
さて、円の面積を求めるときの基礎は円を多角形で近似することであり、多角形の面積を求める
ときの基礎は図形を三角形に分割することでした。三角形といえば y = ax のグラフの決める図形
です。しかし、関数としては 1次関数より 0次関数すなわち定数関数 y = C の方が簡単です。そ
して、y = C のグラフの決める図形は長方形です。元々三角形の面積だって長方形の面積から導く
のですから、やはり、文句なく面積の分かる図形は長方形だということになるでしょう。つまり、
「そもそも面積とは何ぞや?」という根元的 (?)な問いに答えるのはあきらめて、「面積を知っている図形は長方形だけ」というところからスタートしようというわけです。
積分を「面積」にふさわしいものとして定義したくて、しかも面積の分かっている図形は長方形
だけだというのですから、積分の定義されている関数は定数関数だけです。[a, b] を定義域とする定数関数 f(x) = C に対して、 ∫ b
a
f(x)dx =∫ b
a
Cdx = C(b − a)
と定義するのです。ここで「C が負の場合、f(x) = C のグラフの決める長方形の面積は |C|(b−a)なのでは?」と疑問に思うかもしれませんが、一般の f(x) に対する積分がしかるべく定義されれば、f(x) のグラフの定める図形のその意味での面積、つまり、「広さ」としての正の値しかとらない面積は、|f(x)| の積分として求められるのですから2、負の C に対する f(x) = C の積分として
C(b − a) という負の値を採用した方が緻密な理論ができあがるはずです。これだけから出発して、f(x) が一般の関数の場合の積分を定義しようというわけです。もちろん、f(x) のグラフはグニャグニャと曲がっているのがふつうですから、極限を使わずに積分を定義することはできそうもありません。そこで、定数関数で一般の関数を「近似」するとはどういう
ことなのかを、「面積を近似している」というのにふさわしくなるように決めなければなりません。
f(x) を [a, b] で定義された任意の関数とするとき、f(x) を「近似」していると言える [a, b] 上の定数関数とはどんなものでしょうか。つまり、f(x) を「近似」する定数 C として何を取ればよい
のでしょうか。「平均値」のような概念があればよいのでしょう。たとえば、f(x) の最大値と最小値の平均を取るなどということが考えられなくもありません。しかし、たとえば x = a で最小値
で、その後急激に増加してほとんどの x に対して最大値を取るような関数に対して、最大値と最
小値の平均に大した意味があるとも思えません。それに、連続関数でなければ最大値と最小値があ
るとも限りませんし、有界な関数でなければ上限や下限にも意味がなくなってしまいます。仕方が
ないので、「f(x) = C となる x が存在する C はすべて平等に f を近似している」と考えること
2f(x) が積分可能なとき |f(x)| が必ず積分可能かどうかは、定義を実際に作ってみなければ分かりません。逆に言えば、f(x) が積分可能なら |f(x)| も積分可能であるように積分を定義しなければ、面積の名にふさわしくないということです。
第 8 回解答 6
にしてしまいましょう。つまり、f を近似する定数関数とは、値が f の値域に入っているものす
べてです。この時点では、
もしも∫ b
af(x)dx がしかるべく定義できて存在するならば、
∫ b
aCdx = C(b− a)(C は
f(x) の値域に入っている)たちはすべて∫ b
af(x)dx の「近似値」である。
としか言いようがないというわけです。
ここで多角形の面積を三角形の面積から導いたときのテクニックを思い出しましょう。それは、
「多角形をいくつかの三角形に分割する」ことでした。これは
分割してできたそれぞれの図形の面積を足すとものと図形の面積に一致する
という、面積と言うからにはどうしても成り立って欲しい性質を利用しています。我々がこれから
定義しようとしているものについても当然この性質が成り立つべきですので、それを利用して「近
似値」の範囲を狭めることを考えましょう。今の場合、図形の分割に当たるものは、「いくつかの
定数関数をつないだもの」です。(不連続関数になります。)もちろん、一般の関数はいくつかの
定数関数をつないだものにはなりませんが、「近似」は良くなると考えて良いでしょう。つまり、
定義域 [a, b] の間に c という分点を取ったとき、[a, c] 上だけで f(x) を「近似」する定数関数は、[a, b] 全体で f(x) を「近似」する定数関数より少なくなることが期待されます。なぜなら、f(x)が [a, c] で取る値の範囲は f(x) の値域より狭まっている可能性があるからです。この場合、
もしも∫ b
af(x)dx がしかるべく定義できて存在するならば、
∫ c
aC1dx +
∫ b
cC2dx(C1
は f(x) が [a, c] で取る値のどれか、C2 は f(x) が [c, b] で取る値のどれか)たちは∫ b
af(x)dx の「近似値」である。
となります。この場合は、[a, b] 全体での定数関数で「近似」した場合より「近似値」の範囲が狭くなっている可能性があるわけです。たとえば、[0, 1] 上で f(x) = x という関数を考えた場合、
分点を取らないと「近似値」の範囲は∫ 1
00dx から
∫ 1
01dx まで、つまり 0 から 1 までの実数全
部ですが、1/2 という分点を取って考えた場合、「近似値」の範囲は∫ 1/2
00dx +
∫ 1
1/21/2dx から∫ 1/2
01/2dx +
∫ 1
1/21dx まで、つまり 1/4から 3/4までの実数全体に狭まります。
さらに、分点は中点にとるのが良いとも限りません。f(x) = x (x ∈ [0, 1]) の場合はたまたま中点にとったときが一番「近似値」の範囲が狭くなりますが、たとえば、f(x) = x2 (x ∈ [0, 1]) の場合は分点を 1/
√2 にとった場合が一番「近似値」の範囲が狭くなります。
こう考えると、分点を増やせば増やすほど「近似値」の範囲は狭くなり、しかも、「分点を増や
すのによりよい場所」というのは特定できないので、「定義域内のすべての点が平等に分点の候補
である」ということになるでしょう。また、いくら分点を増やしてもそれによってできる小区間の
中に幅の広いものが残っていてはだめです。たとえば、f(x) = x の例で言うと、分点を [0, 1/2] にばかり増やして [1/2, 1] の方に一つも増やさなければ、
∫ 1
0xdx の「近似値」の範囲はいつまでたっ
ても 1/4以上の幅を持ったままになってしまいます。つまり、分点を増やすことよりも、その結果生じる小区間の幅をすべて小さくしてやることが「近似」をよくすることにつながるということに
なります。そして、その極限として「近似値」が一つだけになった場合、その一つ残った値がまさ
に∫ b
af(x)dx であると考えられるでしょう。
これで、以下のような積分の定義にたどり着きました。
第 8 回解答 7
� �定義 1. 有界閉区間 [a, b] に対して、
∆ : a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = b
をその分割という。各 xi のことを分割 ∆ の分点といい、小区間 [xk−1, xk] の幅の最大値
|∆| = max {x1 − x0, x2 − x1, . . . , xn − xn−1}
のことを ∆ の幅という。また、分割 ∆ に対し、xk−1 ≤ ξk ≤ xk を満たす ξk のことを小区間 [xk−1, xk] の代表点という。� �∆ のすべての小区間から代表点を一つずつ選んでできる数列
ξ1 ≤ ξ2 ≤ · · · ≤ ξn ξi ∈ [xi−1, xi]
のことを、面倒なので添え字を取り除き太字にして ξ で表すことにします。
分割 ∆ を一つ決めると、「近似値」の範囲が決まるのでした。その一つ一つの「近似値」のことをリーマン和と言います。きちんと定義を書けば次のようになります。� �定義 2. 有界閉区間 [a, b] で定義された関数 f と、[a, b] の分割 ∆ およびその代表点の列ξ = (ξ1, ξ2, . . . , ξn) に対し
R [f, ∆, ξ] =n∑
k=1
f(ξk) (xk − xk−1)
を (∆, ξ) に関する関数 f のリーマン和という。� �そして、分割の幅 |∆| をどんどん小さくしていったときに、すべての「近似値」が一つの値に収束するなら、それが欲しかった積分です。� �定義 3. [a, b] で定義された関数 f に対し、
lim|∆|→0
R [f, ∆, ξ] = J
を満たす実数 J が存在するとき、f は [a, b] で積分可能であるといい、J を f の [a, b] での定積分という。
J =∫ b
a
f(x)dx
と書く。� �ここで、「|∆| → 0」の意味は、
どんなに小さな正実数 ε を与えられても十分小さな正実数 δ を取れば |∆| < δ を満た
す任意の分割 ∆ とその任意の代表点の列 ξ に対して
|R [f, ∆, ξ] − J | < ε
が成り立つ。
第 8 回解答 8
です。あらゆる分割とあらゆる代表点の取り方で同じ値に収束しなければならないという、大変厳
しい条件です。定義から直接積分の値を求めることなど絶望的に見えます。実例として問題 1をやってみましょう。
問題 1の解答. 正実数 ε が任意に与えられたとしましょう。「積分の定義を直接使って証明する」
ということは、正実数 ε が任意に与えられたとき、それに応じて次の性質を持つ正実数 δ が存在
することを示すということです。
[1, 2] の分割 ∆ と代表点の列 ξ1, . . . , ξn をどのように選ぼうとも、|∆| < δ さえ満たし
ていれば
|R [f, ∆, ξ]| < ε
が成り立つ。
以下、この性質を満たす δ を ε と関数 f の情報を使って表し(存在を示し)ましょう。
ε がどんなに小さかろうと f(x) の値はほとんどの x で ε より小さいのですが、x が分母の小さ
い有理数の場合は f(x) は ε より大きくなってしまいます。そこで、[1, 2] の分割 ∆ を、分母の小さい有理数を含む小区間のリーマン和への寄与とそれ以外の小区間のリーマン和への寄与が共に ε
2
より小さくなるように δ を選ぶ、という方針で考えます。そのようにできれば、リーマン和の値
は ε2 + ε
2 = ε より小さくなるからです。
分母の小さい有理数を含まない小区間をすべて集めても [1.2] の部分集合ですので、関数の値がε2 以上になる x を含まない小区間のリーマン和への寄与は ε
2 × (2 − 1) = ε2 より小さくなります
(図 1)。ですから、関数の値が ε2 以上になる x を含む小区間のリーマン和の寄与が ε
2 より小さく
なることだけを目指して δ を選べば十分です。
f(x) ≥ ε2 となるような x は有限個しかありません。なぜなら、f(x) ≥ ε
2 となる x は、有理数
であって x = pq と既約分数表示したときに q ≤ 2
ε となるものだけだからです。そのような x の
個数を N0 としましょう。すると、そのような x が代表点に選ばれる可能性のある小区間の数は
2N0 を超えません。(そのような x が分割の分点に選ばれてしまっている場合、その x は二つの
小区間の代表点になり得るので N0 より多い可能性があります。しかし、多くても二つの小区間の
代表点にしかなり得ないのですから 2N0 を超えることはありません。)しかも、f(x) の値は 1以下です。よって、f(x) ≥ ε
2 となる x を含む小区間のリーマン和への寄与は 1× |∆| × 2N0 以下と
なります。従って、
|∆| <ε
4N0(1)
を満たす任意の分割 ∆ に対し、f(x) ≥ ε2 となる x を含む小区間のリーマン和への寄与は
1 × |∆| × 2N0 < 1 × ε
4N0× 2N0 =
ε
2
というように ε2 未満になります。
以上で、δ としてたとえば ε4N0を取ればよいことが分かりました。 □
3 区分求積法
前節で作った積分の定義で一番困ることは、具体的に関数が与えられてもそれが積分可能なのか
どうか調べるのが大変難しいということでしょう。しかし、とりあえず積分可能なのかどうかはお
第 8 回解答 9
� �
x0
y
1
12
13
ε2
1 212
13
23
図 1: ほとんどの x での f(x) の値は ε2 以下。� �
いて、「積分可能なら積分値は何か」という質問にはわりと容易に答えられます。(少なくとも積分
可能性の判定よりはずっと簡単です。)なぜなら、積分可能であることの定義が「幅の十分小さい
任意の分割とその任意の代表点の取り方に対してリーマン和が十分小さい」という言い方になって
いるので、積分値は「勝手な分割の列とその勝手な代表点の取り方に対する収束先」になるからで
す。当たり前なのですが、重要かつ混乱しやすいところなので、きちんと書いておきましょう。� �定理 1. f が [a, b] で積分可能ならば、|∆n| → 0 となる任意の分割列 ∆1,∆2, . . . とその任意
の「代表点の列」の列 ξ1 = (ξ1,1, . . . , ξ1,m1), ξ2 = (ξ2,1, . . . , ξ2,m2), . . . に対し
limn→∞
R [f, ∆n, ξn] =∫ b
a
f(x)dx
が成り立つ。� �証明. f が積分可能であるとは、ある実数 J が存在して、どんなに小さな正実数 ε が与えられて
も十分小さな正実数 δ を取れば |∆| < δ を満たす任意の分割とその任意の代表点の取り方 ξ に対
して
|R [f, ∆, ξ] − J | < ε (2)
が成り立つことで、このとき∫ b
af(x)dx = J と書くのでした。
今 |∆n| → 0 なのですから、十分大きな N を取れば、この δ に対して
n > N =⇒ |∆| < δ
が成り立ちます。これと式 (2)を組み合わせれば、
n > N =⇒
∣∣∣∣∣R [f, ∆n, ξn] −∫ b
a
f(x)dx
∣∣∣∣∣ < ε
となります。 □
第 8 回解答 10
つまり、
[a, b] 上の関数 f がもし積分可能ならば、∫ b
af(x)dx は |∆n| → 0 を満たす勝手な分割
列とその勝手な代表点の取り方の列 ξ1, ξ2, . . . に対するリーマン和の列 R [f, ∆n, ξn]の収束先に等しい。
となるわけです。しつこいようですが繰り返しますと、
[a, b]上の関数 f は積分可能かもしれないしそうでないかもしれないが、積分可能だった
場合のその積分値∫ b
af(x)dx は、|∆n| → 0 を満たすように好き勝手に選んだ分割列と
好き勝手に選んだ代表点の取り方の列 ξ1, ξ2, . . . に対するリーマン和の列 R [f, ∆n, ξn]の収束先である。
というわけです。これを使って積分値を計算する方法を区分求積法といいます。区分求積法は高校
でも学びましたが、実はこのような背景を隠して学んでいたわけです。
例として問題 2を解いてみましょう。
問題 2の解答. 分割 ∆n と代表点の列 ξn として [0, 1] の n 等分分割と各小区間の左端の点を取り
ましょう。すると、リーマン和 R [ex, ∆n, ξn] は
R [ex, ∆n, ξn] = e0n
1n
+ e1n
1n
+ e2n
1n
+ · · · + en−1
n1n
=1n
n−1∑k=0
(e
1n
)k
=1n
1 − en/n
1 − e1/n=
e − 1e1/n−1
1/n
となります。
limn→∞
e1/n − 11/n
= limh→0
eh − 1h
= 1
ですので、 ∫ 1
0
exdx = limn→∞
R [ex, ∆n, ξn] = e − 1
となります。 □
一方、区分求積法によって、というより定理 1 によって、関数が積分可能でないことを示すのはわりと容易なことが分かります。なぜなら、R [f, ∆n, ξn] が収束しない分割列と代表点の組{(∆n, ξn)}∞n=1 を作るか、あるいは、R [f, ∆n, ξn] と R
[f, ∆′
n, ξ′n
]が別の値に収束してしまうよ
うな二つの {(∆n, ξn)}∞n=1, {(∆′n, ξ′
n)}∞n=1 を作ればよいからです。その例が問題 3です。
問題 3の解答. 実数において有理数の全体も無理数の全体も稠密です。よって、[0, 1] の任意の分割
∆ : 0 = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = 1
に対して、どの区間 [xk−1, xk] にも有理数と無理数の両方が存在します。ということは、f(x) の値の [xk−1, xk] における最大値と最小値はそれぞれ 1と 0です。よって、ひとつの分割 ∆ を固定したときに、代表点の選び方をいろいろ変えたときのリーマン和の最大値 M∆ と最小値 m∆ は、
分割 ∆ によらずにM = 1 m = 0
となります。任意の分割 ∆ に対してリーマン和が 1であるような代表点の選び方もリーマン和が0であるような代表点の選び方も存在するというわけです。ということは |∆| → 0 としてもリーマン和はひとつの値に収束しません。つまり、f(x) は積分できません。 □
第 8 回解答 11
注意. 問題 3の関数は講義でも例として取り上げられました。講義での示し方と大分違っているように見えるかもしれませんが、実質的には同じことです。積分不可能であることを示す場合には、
定義に直接訴えても「可積分条件」を満たさないことを示すのもあまり変わらないのです。★
第 2節で挙げたアルキメデスの例のように、区分求積法の考え方は、元は近似値を得るための方法でした。その視点からの問題が問題 4です。
問題 4(1)の解答. f(2) =∫ 2
11t dt ですので、区間 [1, 2] を n 等分する分割に関するリーマン和の最
大値と最小値で f(2) の値を上下から挟んでみましょう。1t は t > 0 で単調に減少するので、小区間[
1 + kn , 1 + k+1
n
]における f(x)の上限(=最大値)は f
(1 + k
n
)、下限(=最小値)は f
(1 + k+1
n
)です。よって、
1n
n∑k=1
11 + k
n
=n∑
k=1
1n + k
< f(2) <1n
n−1∑k=0
11 + k
n
=n−1∑k=0
1n + k
となります。右辺と左辺の差は 12n ですので、中辺、すなわち f(2) の値を小数点以下 2桁で四捨
五入するには 少なくとも n ≥ 5 である必要があります。実際に計算してみると、n = 6 で
0.653 <17
+18
+ · · · + 112
< f(2) <16
+17
+ · · · + 111
< 0.737
となります。よって、f(2) を小数点以下第 2位で四捨五入すると 0.7です。 □
問題 4(1)の別解. 区間 [1, 2] を次のように n 個の区間に分割しましょう。
1 <n√
2 <n√
22
< · · · <n√
2n−2
<n√
2n−1
< 2
この分割を使うこと以外は上の解と全く同様にします。 1t は単調減少ですので、
n∑k=1
1n√
2k
(n√
2k− n
√2
k−1)
= n
(1 − 1
n√
2
)< f(2) < n
(n√
2 − 1)
=
n−1∑k=0
1n√
2k
(n√
2k+1
− n√
2k)
となります。実際に計算してみると、n = 6 で
0.65460 · · · = 6(
1 − 16√
2
)< f(2) < 6
(6√
2 − 1)
= 0.73477 · · ·
となります。よって、f(2) を小数点以下第 2位で四捨五入すると 0.7です。 □
注意. 区分求積法というとどうしても「積分区間の n 等分」を考えがちですが、この関数の場合
「比での n 等分」を考えた方が、手計算ができるかどうかは別として、少なくとも表示はずっと簡
単になります。なぜなら、1x という関数が「反比例」を表しているので、区間 [a, b] 上の高さ 1
a の
矩形の面積と区間 [ca, cb] 上の高さ 1ca の矩形の面積とが一致するからです(図 2)。
具体的には、たとえば [1, 2] を二つの小区間に分ける分割 1 < a < 2 の場合、それに対するリーマン和の最大値 Ma は
Ma = 1 × (a − 1) +1a× (2 − a)
ですので、
1 : a = a : 2
第 8 回解答 12
� �
O
y
xa b ca cb
同じ面積
図 2: 二つの矩形の面積は一致する。� �であれば、つまり a =
√2 であれば
M√2 = (
√2 − 1) +
1√2(2 −
√2) = 2(
√2 − 1)
というように、面積の等しい 2枚の矩形の和になり、∑が消えて大変すっきりするわけです。
さらに言えば、Ma の値を最小にする a がまさに√
2 なので、近似も最もよいことになります。今の場合は結局最初の解答と同じく n = 6 でしたので、別解における近似の良さは発揮されませんでした。しかしもっとよい精度で近似してみると、たとえば、f(2) = 0.69 · · · と小数点以下第2位を決定するには、n 等分の方法だと n = 80 でなければだめですが、別解の方法だと n = 77で済みます。★
問題 4(2)の解答. (2)は∑の出てこない形の表現ですので、「(1):別解」の方法を使いましょう。
問題 4(1)の別解で使った近似を考えることにより、
n
(1 − 1
n√
a
)< f(a) < n
(n√
a − 1)
(3)
です。
これに f(a) = 1 を代入して右側の不等式を a について整理すると、(1 +
1n
)n
< a (4)
となります。
左側の不等式を a について整理すると、
a <
(1
1 − 1n
)n
=(
1 +1
n − 1
)n
(5)
となります。n は任意の自然数で成り立つのですから、n の代わりに n + 1 を入れて 1 + 1n で割
ると、n
n + 1a <
(1 +
1n
)n
(6)
第 8 回解答 13
となります。式 (4)と (6)で n → ∞ とすれば、 nn+1 → 1 ですから、はさみうちの原理により、
limn→∞
(1 +
1n
)n
= a
となります。 □
さて、我々の一つの目標は、微分積分の基本定理
連続関数 f は定義域内の任意の有界閉区間で積分可能であり、次の 2つが成り立つ。
• F ′ = f を満たす任意の関数 F に対して∫ b
a
f(x)dx = F (b) − F (a)
が成り立つ。
• 定義域内から任意の a を選んだとき、[a, x] あるいは [x, a] が定義域内に含まれるような x に対して
F (x) =∫ x
a
f(t)dt
と定義すると、F は微分可能で F ′ = f が成り立つ。
の証明にあります。これには 3つの主張
主張 1 f は積分可能。
主張 2 F ′ = f =⇒∫ b
a
f(x)dx = F (b) − F (a)。
主張 3 F (x) =∫ x
a
f(t)dt =⇒ F ′ = f。
があるのですが、そのうち主張 1を仮定すると区分求積法によって主張 2を証明することができます。� �定理 2. f を [a, b] で積分可能な関数とし、F を f の任意の原始関数とすると、∫ b
a
f(x)dx = F (b) − F (a)
が成り立つ。� �証明. f は積分可能なのですから、|∆n| → 0 を満たす任意の分割の列と任意の代表点の列の列ξ1 = (ξ1,1, . . . , ξ1,m1), ξ2 = (ξ2,1, . . . , ξ2,m2), . . . に対して、
limn→∞
mn∑k=1
f(ξn,k)(xn,k − xn,k−1) =∫ b
a
f(x)dx
が成り立ちます。
区間 [xn,k−1, xn,k] で F (x) に平均値の定理を使うと、
F (xn,k) − F (xn,k−1)xn,k − xn,k−1
= f(cn,k)
第 8 回解答 14
を成り立たせる cn,k が (xn,k−1, xn,k) に存在します。代表点 ξn,k たちは任意にとってよいのです
から、cn,k を代表点にとりましょう。そうすると、∫ b
a
f(x)dx = limn→∞
mn∑k=1
f(cn,k)(xn,k − xn,k−1) = limn→∞
mn∑k=1
F (xn,k) − F (xn,k−1)xn,k − xn,k−1
(xn,k − xn,k−1)
= limn→∞
mn∑k=1
(F (xn,k) − F (xn,k−1)) = limn→∞
(F (b) − F (a)) = F (b) − F (a)
となって示せました。 □
注意. これで積分が「逆微分」であることが示されて高校のときの積分の知識がすべて使えるよう
になった、と誤解しないでください。定理 2は f が積分可能であると仮定して証明されたのです。
現時点では、多項式や三角関数が積分可能であることさえまだ証明されていません。★
微分積分の基本定理は、第 6節で主張 1が、第 10節で主張 3が証明され、主張 2は主張 3の後に、まるで主張 3の付録であるかのごとくいとも簡単に示されてしまいます。だから、第 10節の微分積分の基本定理の証明のところまで読み進んだときに、ここで主張 2の部分だけゴリゴリと証明したことが骨折り損だったような気分がするかもしれません。
言い訳をすると、今示した定理 2は f(x) が連続でなくても成り立ちます。たとえば、F (x) =x2 sin 1
x(ただし、F (0) = 0)は R全体で微分可能で、F ′(x) = 2x sin 1x−cos 1
x(ただし、F ′(0) = 0)となります。F ′(x) は x = 0 で不連続ですが、リーマン積分可能であることが、問題 5で示されます。だから、定理 2により∫ b
a
(2x sin
1x− cos
1x
)dx = b2 sin
1b− a2 sin
1a
が成り立ちます。被積分関数が連続でないので、このことは微分積分の基本定理では保証されませ
ん。定理 2は無意味ではないわけです。なお、定理 2は言い方は異なるものの内容は問題 10と同じです。ですから定理 2の証明は問題
10の解答になっています。このことについては、微分積分の基本定理を説明したあとで他の一連の問題と一緒にもう一度触れます。
4 有界な関数に限って積分の定義を言い換える
第 2節でしたように順を追って説明するとリーマン積分の定義もわりと自然なものに見えると思いますが、積分の値の情報が定義からすぐには何も得られないような抽象的な定義だとも言えま
す。たとえば、リーマン積分の値を上下から評価するようなことも定義からすぐに分かる方法では
できないでしょう。なぜなら、リーマン積分の定義は、とりあえずすべての関数に対して通用する
形に書いてあるので、分割が一つ与えられたとき、それに対するリーマン和が代表点たちをいろい
ろ動かしたときに有界であることさえ保証されないからです。
しかし実際には有界でない関数はリーマン積分不可能です。前節で指摘したように「リーマン積
分できない」ことを定義から直接に示すことはわりと簡単なので、ここで示しておきましょう。� �定理 3. [a, b] で定義された関数 f が有界でないなら、つまり、どんなに大きな M をとって
も |f(x)| > M を満たす x が [a, b] に存在するなら、f はリーマン積分可能でない。� �
第 8 回解答 15
証明.どんなに大きな正実数 Rが与えられても、任意の分割 ∆に対してうまく代表点の列 ξ1, ξ2, . . .
を取ることにより
|R [f, ∆, ξ] | > R
とできることを示しましょう。これが成り立てばリーマン和は収束しないので、リーマン積分不可
能です。
まず、f(x)は下には有界だとしましょう。つまり、どんなに大きな正実数M に対しても f(x) > M
を満たす x が存在するが、ある正実数 N があって f(x) > −N がすべての x に対して成り立っ
ているとしましょう。任意の分割 ∆ に対して、
f(x0) >R + N(b − a)
|∆|
となる x0 が存在します。この x0 を含む ∆ の小区間を [xk0−1, xk0 ] とし、∆ の代表点の列として ξk0 = x0 となるものを取れば、
R [f, ∆, ξ] >∑k ̸=k0
(−N)(xk − xk−1) +R + N(b − a)
|∆|(xk0 − xk0−1)
> −N(b − a) +R + N(b − a)
|∆||∆| = R
となります。
f(x) が上に有界のときも符号が違うだけで全く同様に示せます。最後に、f(x)が上にも下にも有界でないとき、つまり、任意の正実数M に対して f(x) > M を満
たす xも f(x) < −M を満たす xも両方存在するときを考えましょう。任意に分割∆が与えられたとします。その小区間のうち f(x)がその上で負の値しか取らないものを [xh1−1, xh1 ], . . . , [xhl−1, xhl
]とし、それ以外の小区間、つまり f(x) ≥ 0 となる x を含む区間を [xk1−1, xk1 ], . . . , [xkm−1, xkm
]としましょう。分かりづらいのでもう一度説明すると、分割 ∆ を
∆ : a = x0 < x1 < · · · < xn−1 < xn = b
としたとき、
{xh1 , xh2 , . . . , xhl} ∪ {xk1 , xk2 , . . . , xkm} = {x1, x2, . . . , xn}
{xh1 , xh2 , . . . , xhl} ∩ {xk1 , xk2 , . . . , xkm} = ∅
であって、
f(x) < 0 ∀x ∈ [xhi−1, xhi ] (1 ≤ i ≤ l)
f(x) ≥ 0 ∃x ∈ [xkj−1, xkj ] (1 ≤ j ≤ m)
です。まず、[xh1−1, xh1 ], . . . , [xhl−1, xhl] から代表点 ξh1 , . . . , ξhl
を選びます。これは有限個です
から、f(ξh1), . . . , f(ξhl) には最小値があります。それを −N としましょう。f(x) は上に有界でな
いので、
f(x0) >R + N(b − a)
|∆n|を満たす x0 が存在します。x0 ∈ [xkj0−1, xkj0
] としましょう。そして、[xkj0−1, xkj0] の代表点 ξkj0
としてこの x0 を取り、それ以外の [xkj−1, xkj ] の代表点 ξkj としては f(ξkj ) ≥ 0 を満たすものを取りましょう(図 3)。
第 8 回解答 16
� �
a = x0 ξ1 x1 ξ2x2
ξ3 x3 ξ4 x4 ξ5 x5 = b
−N
まず ξ1 と ξ2 を選び、
その後で ξ5 を選んで、
の面積が
の面積を超えるようにする
図 3: 上下ともに有界でない場合の代表点の取り方� �すると、この代表点の列 ξ に対して
R [f, ∆, ξ] =l∑
i=1
f(ξhi)(xhi − xhi−1) +m∑
j=1
f(ξkj )(xkj − xkj−1)
≥l∑
i=1
(−N)(xhi − xhi−1) +∑j ̸=j0
0 × (xkj − xkj−1) + f(xj0)(xkj0− xkj0−1)
> −N(b − a) +R + N(b − a)
|∆||∆| = R
となって示せました。 □
この証明の最後の場合、つまり上下とも有界でない関数がリーマン積分不可能であることを示
した部分は特にごちゃごちゃしてわかりにくいだろうと思います。重要なことは、証明の中身より
も、たとえば、
f(x) =
{tanx −π/2 < x < π/2
0 x = ±π/2
などという関数が、「正の部分と負の部分がうち消しあって 0」などということにならずに、ちゃんとリーマン積分不可能になるようにリーマン積分の定義が作られているということです。リーマ
ン積分の定義が「任意の分割」と「任意の代表点」を使ってなされているからこそであって、たと
えば、「積分区間の n 等分とその中点」だけで積分の定義をしたら、この関数は積分値 0の積分可能関数になってしまいます。
さて、リーマン積分可能性を考える限り有界な関数しか扱わなくてよいことが分かりました。そ
こで、有界な関数に限ってリーマン積分の定義を言い換えることで、もう少しリーマン和がリーマ
ン積分の値に収束する状況を見やすくしましょう。代表点を取らずにすむ定義に書き換えようとい
うわけです。
第 8 回解答 17
リーマン積分の定義においてリーマン和の定義をしたとき、「各小区間 [xk−1, xk] で f(x) を近似する定数関数として f(x) がそこで取りうるすべての値はみな平等である。」と言いました。しかし、関数 f(x) が有界なら、これらの「近似定数関数」は f(x) の [xk−1, xk] における上限と下限で上下から挟まれます。だから、その上限と下限には特別な意味があると思ってもよいでしょう。
そこで、次のように定義します。� �定義 4. [a, b] で定義された有界な関数 f と [a, b] の分割 ∆ に対し、
S∆[f ] =n∑
k=1
sup[xk−1,xk]
f(x)(xk − xk−1)
s∆[f ] =n∑
k=1
inf[xk−1,xk]
f(x)(xk − xk−1)
をそれぞれ f の ∆ に対する過剰和および不足和と呼ぶ。� �注意. f が不連続関数の場合、各小区間で最大値や最小値があるとは限らないので、その上限と下
限は小区間の代表点における値になるとは限りません。細かいことですが、上限と下限は第 2節の意味での「f(x) のことを [xk−1, xk] で近似する定数」とは必ずしも言えません。ということは、過剰和や不足和はリーマン和ではないかも知れないということです。しかし、ほとんどリーマン和
なのですから、本当はリーマン和ではないかもしれないということをあまり気にせずに、「過剰和」
のことを「上リーマン和」、「不足和」のことを「下リーマン和」というように「リーマン和」とい
う言葉が入った用語を使う人もいます。★
過剰和と不足和の定義から、直ちに
s∆[f ] ≤ R [f, ∆, ξ] ≤ S∆[f ] (7)
が分かります。よって、はさみうちの原理から� �定理 4. [a, b] 上の有界関数 f に対して
lim|∆|→0
s∆[f ] = lim|∆|→0
S∆[f ]
が成り立つなら、f はリーマン積分可能であって、極限値が∫ b
af(x)dx である。� �
となります。
f が連続なら過剰和と不足和はどちらも本当にリーマン和なので逆が成立することは自明です
が、実は、f が連続でなくても逆が成り立ちます。� �定理 5. [a, b] 上の有界関数 f がリーマン積分可能ならば、
lim|∆|→0
s∆[f ] = lim|∆|→0
S∆[f ] =∫ b
a
f(x)dx
が成り立つ。� �
第 8 回解答 18
証明. どちらでも同じなので、
lim|∆|→0
S∆[f ] =∫ b
a
f(x)dx
を示しましょう。つまり、どんなに小さな正実数 ε が与えられても十分小さな正実数 δ を選んで、
|∆| < δ を満たす任意の分割に対して∣∣∣∣∣S∆[f ] −∫ b
a
f(x)dx
∣∣∣∣∣ < ε
が成り立つようにできることを示します。
分割 ∆ を任意に取りましょう。上限の定義から
sup[xk−1,xk]
f(x) − f(ξk) <ε
2(b − a)
を満たす ξk が [xk−1, xk] に存在します。各小区間の代表点として、この不等式を満たす点を選びましょう。すると、
0 ≤ S∆[f ] − R [f, ∆, ξ] <n∑
k=1
ε
2(b − a)(xk − xk−1) =
ε
2
となります。
一方、f(x) はリーマン積分可能なのですから、ある十分小さな正実数 δ で、|∆| < δ を満たす
任意の分割とその任意の代表点の取り方 ξ に対して∣∣∣∣∣R [f, ∆, ξ] −∫ b
a
f(x)dx
∣∣∣∣∣ < ε
2
の成り立つものが存在します。
この二つの不等式をあわせると、|∆| < δ を満たす任意の分割に対して∣∣∣∣∣S∆[f ] −∫ b
a
f(x)dx
∣∣∣∣∣ ≤ |S∆[f ] − R [f, ∆, ξ] | +
∣∣∣∣∣R [f, ∆, ξ] −∫ b
a
f(x)dx
∣∣∣∣∣ < ε
となります。これで示せました。 □
定理 4, 5により、有界な関数に限ればリーマン積分を過剰和と不足和だけで定義できることが分かりました。後で参照しやすいように、定理 4と定理 5をあわせたものを「定義の言い換え」としてきちんと書き記しておきましょう。� �定理 6. (リーマン積分の定義の言い換え)[a, b] 上の有界な関数 f に対して、f がリーマン
積分可能であることと
lim|∆|→0
s∆[f ] = lim|∆|→0
S∆[f ]
が成り立つこととは同値であり、その極限値は∫ b
af(x)dx に一致する。� �
第 8 回解答 19
5 分割を細分する
「定理 6のようにリーマン積分の定義を言い換えたおかげで、リーマン和がリーマン積分の値に収束する状況がわかりやすくなった。なぜって、不等式 (7)があるので、定理 6の左辺は下から右辺は上から収束する、つまり、任意の分割 ∆ に対して
s∆[f ] ≤∫ b
a
f(x)dx ≤ S∆[f ] (8)
が成立するから。」と思うかもしれません。事実としては正しいのですが、不等式 (7)だけから不等式 (8)を証明することはできません。異なる二つの分割 ∆1, ∆2 に対しても
s∆1 [f ] ≤ S∆2 [f ] (9)
の成り立つことを示さなければならないのです。そのために細分という考え方を導入しましょう。� �定義 5. ∆ と ∆′ がともに [a, b] の分割で、∆′ の分点の集合が ∆ のすべての分点を含むとき、∆′ は ∆ の細分であるという。� �第 2節でリーマン積分の定義を考えたとき、「分点を増やすと近似が良くなるはずだ」と考えました。その感覚をきちんと証明しましょう。� �定理 7. ∆′ が ∆ の細分のとき、任意の有界関数 f に対して
s∆[f ] ≤ s∆′ [f ] ≤ S∆′ [f ] ≤ S∆[f ]
が成り立つ。� �証明. ∆ に分点を一つずつ加えていって ∆′ に達したと考えればよいので、∆′ は ∆ に分点を一つ付け加えたものとして証明すれば十分です。
真ん中の不等号は (7)ですので、両端の不等号のみ示すことになります。どちらでも同じですので、過剰和について示しましょう。
付け加えられた分点を x∗ とし、∆ の小区間で x∗ を含むものを [xk0−1, xk0 ] とします(図 4)。� �
O xk0−1 x∗ xk0
f(x)
図 4: 細分すると「近似」が良くなる� �
第 8 回解答 20
sup[xk0−1,x∗]
f(x) ≤ sup[xk0−1,xk0 ]
f(x) sup[x∗,xk0 ]
f(x) ≤ sup[xk0−1,xk0 ]
f(x)
なので、
S∆[f ] − S∆′ [f ]
= sup[xk0−1,xk0 ]
f(x)(xk0 − xk0−1) −
(sup
[xk0−1,x∗]
f(x)(x∗ − xk0−1) + sup[x∗,xk0 ]
f(x)(xk0 − x∗)
)≥ 0
です。 □
これで、不等式 (9)が分かります。∆1 と ∆2 の分点をすべてあわせた分割を ∆3 とすれば、∆3
は ∆1 の細分でもあり ∆2 の細分でもあるので、
s∆1 [f ] ≤ s∆3 [f ] ≤ S∆3 [f ] ≤ S∆2 [f ]
となるからです。
このことから、不等式 (8)も分かります。実際、|∆| → 0 のとき s∆[f ] →∫ b
af(x)dx なのですか
ら、s∆[f ] が∫ b
af(x)dx にいくらでも近い分割 ∆ があるので、もし
S∆′ [f ] <
∫ b
a
f(x)dx
となる分割 ∆′ があったとすると、
S∆′ [f ] < s∆[f ]
となってしまって矛盾します。
さて、不等式 (8)が示されたことにより、リーマン積分可能かどうかだけを問題にする場合には、s∆[f ] と S∆[f ] の極限を別々に考えなくても判定できることが示せます。� �定理 8. (中途半端な積分可能条件)[a, b] 上の有界な関数 f に対して、f がリーマン積分可
能であることと
lim|∆|→0
(S∆[f ] − s∆[f ]) = 0 (10)
が成り立つこととは同値である。� �証明. リーマン積分可能なら式 (10)の成り立つことは明らかですので、逆を示しましょう。すべての分割についての s∆[f ] の上限を M とすると、不等式 (9)から、任意の分割 ∆ に対して
s∆[f ] ≤ M ≤ S∆[f ]
となります。よって、
S∆[f ] − s∆[f ] ≥ M − s∆[f ] ≥ 0
ですので、式 (10)が成り立つなら、はさみうちの原理により、|∆| → 0 のとき s∆[f ] は M に収
束します。これを式 (10)に足して、S∆[f ] も M に収束します。 □
なぜ「中途半端」とつけたのかは、第 8節までいくと分かります。
第 8 回解答 21
注意. 蛇足ですが、定理 8と定理 6のどこが違うのかを注意しておきましょう。たとえば、二つの数列 an = (−1)n、bn = (−1)n + 1
n は、n → ∞ のとき an − bn は収束しますが an と bn は収束
しません。このように、一見したところ定理 8の条件の方が定理 6の条件より弱いのです。しかし、実はその二つが同じ条件だということを証明するのに、細分だの何だのという道具立てが必要
になったのでした。★
6 連続関数のリーマン積分可能性
前節最後の「中途半端な積分可能条件」を ε-δ 式に書き直すと、任意の正実数 ε に対してある
正実数 δ があって、
|∆| < δ =⇒ S∆[f ] − s∆[f ] < ε
が成り立つこと、となります。ここで、左辺の S∆[f ] − s∆[f ] を定義にバラして書いてみると、
S∆[f ] − s∆[f ] =n∑
k=1
supx,y∈[xk−1,xk]
(f(x) − f(y))(xk − xk−1)
となります3。だから、x と y が [xk−1, xk] という狭い範囲を動くときに f(x) と f(y) がほんのちょっとしか離れられなければ、具体的には
|f(x) − f(y)| <ε
b − a(11)
が満たされれば、S∆[f ] − s∆[f ] は ε 以下になります4。リーマン積分可能性と連続性が結びつけ
られそうですね。
ここで、∆ は |∆| < δ を満たす任意の分割なのですから、[xk−1, xk] とは xk − xk−1 < δ を満
たす任意の閉区間になり得ます。こう考えると、単なる連続性ではなくて、夏学期の最後に講義で
学んだ一様連続性を f が持てばよさそうです。
演習で一様連続性を扱うのは今回が初めてですので、講義で学んだことを前提にせずに説明する
ことにします。
関数が一様連続であることの定義は次です。� �定義 6. 区間 I で定義された関数 f が一様連続であるとは、どんなに小さな正実数 ε に対し
ても、十分小さな正実数 δ で |x − y| < δ を満たす任意の x, y に対して |f(x) − f(y)| < ε が
成り立つようなものが存在することである。� �一様連続なら連続なことは明らかでしょう。それでは、連続と一様連続ではどこが違うのかとい
うことになりますが、上で「一様連続ならリーマン積分可能」の証明をほとんど済ませてあるの
で、先にその証明をきちんと済ませてしまいましょう。� �定理 9. (一様連続関数のリーマン積分可能性)有界閉区間上の一様連続な関数はリーマン積
分可能である。� �証明. f を有界閉区間 [a, b] で一様連続な関数としましょう。
3一般に infI f(x) = − supI(−f(x)) なので、supI f(x) − infI f(x) = supx,y∈I(f(x) − f(y)) となります。以降しばしば使います。
4十分だと言っているだけで必要だとは言っていないことを心に留めておいてください。
第 8 回解答 22
f は一様連続なのですから、どんなに小さな正実数 ε が与えられても十分小さな正実数 δ をう
まくとって、[a, b] に含まれる任意の 2点 x, y に対して
|x − y| < δ =⇒ |f(x) − f(y)| <ε
b − a
が成り立つようにできます。∆ を |∆| < δ を満たす任意の分割とすると、
S∆[f ] − s∆[f ] =n∑
k=1
max[xk−1,xk]
f(x)(xk − xk−1) −n∑
k=1
min[xk−1,xk]
f(x)(xk − xk−1)
=n∑
k=1
maxx,y∈[xk−1,xk]
(f(x) − f(y))(xk − xk−1) <n∑
k=1
ε
b − a(xk − xk−1) = ε
となりますので、f は定理 8の条件(中途半端な積分可能条件)を満たします。 □
注意. この証明から、というか条件 (11)から、具体的な一様連続関数が与えられたときに、具体的な ε に対する(一様連続性の定義にでてくる) δ が具体的に分かれば、|∆| < δ を満たす分割
に対するリーマン和でリーマン積分を近似したときの誤差が ε(b − a) より小さいということが具体的に分かります。なぜなら、S∆[f ] − s∆[f ] < ε(b − a) で、リーマン和もリーマン積分の値もこの二つの間に挟まっているからです。
たとえば、f(x) = e−x2は、|f ′| の最大値が
√2e−1/2(< 0.86) ですので、ε = 0.01 に対し一様
連続性の定義にでてくる δ として ε と同じ 0.01がとれます5。よって、[0, 1] 区間を 100等分してリーマン和をとれば、代表点をどう取ろうとも
∫ 1
0e−x2
dx との誤差は 0.01以下です。★
さて、一様連続な関数は単なる連続関数とどこが違うのでしょうか。単なる連続との違いをはっ
きりさせるには、論理記号で書いてみるのがよいでしょう6。ただの連続は、
∀ε ∀x∃δ ∀y(|x − y| < δ =⇒ |f(x) − f(y)| < ε
)で、一様連続は
∀ε ∃δ ∀x∀y(|x − y| < δ =⇒ |f(x) − f(y)| < ε
)です。どこが違うかというと、∀x と ∃δ の順番が違うのです。つまり、ただの連続の方は δ が x
に依存してよいのですが、一様連続の方は δ が x に依存してはいけないというわけです。ただの
連続の方は、「ある 1点で連続」ということが意味を持ちますが、一様連続の方は連続な点がたくさんないと意味を持ちません。「各点での連続さ加減が同じようだ」という意味で「一様」連続と
いう名前がついているのです。
一様連続でない連続関数の例に当たった方が、一様連続の感じがつかめるでしょう。一様連続で
ない連続関数の例としてよくあげられるものの一つに 1x (x > 0)があります。たとえば、0 < x < y
として、1x− 1
y<
1100
を y − x < δ なる任意の x, y が満たすようにできるかどうか考えてみましょう。この式を変形す
ると、x < 100 として、
y − x <x2
100 − x5すぐ後にでてくる式 (12) 参照。6ゴチャゴチャするのを避けるために、「ε > 0」とか「x ∈ I」とかいちいち書きませんでした。
第 8 回解答 23
となりますので、x = 1のときは y−x < 1/99でよいのですが、x = 0.1のときは y−x < 1/9990、x = 0.01 のときは y − x < 1/999900、、、となって、x → 0 で y − x → 0 となってしまい、どこでも共通の δ というものはありません。
有界なものとしては sin 1x がよく知られた例です。
要するに、グラフが激しく振動したり急速に遠くへ飛んでいってしまったりしないのが一様連続
なのです。たとえば、f が微分可能で f ′ が有界なら一様連続です。実際、|f ′| < M なら、平均値
の定理により、
|f(x) − f(y)| < M |x − y| (12)
ですので、δ = ε/M と選べば O.K.です。そうすると、f の定義域が有界閉区間で f ′ が定義域全
体で連続なら、つまり f が C1-級なら、f ′ は最大値と最小値を持つので有界となり、f は [a, b] で一様連続です。我々が普段扱っている関数はたいてい C∞-級ですので、定義域を有界閉区間に限れば一様連続なのです。たとえば 1
x や sin 1x も (0,∞) では一様連続でないものの、任意の有界閉
区間 [a, b] に制限すれば一様連続なのです。つまり、実用的には上で示した「一様連続ならリーマン積分可能」だけあれば、安心してリーマン積分を区分求積法で求めたり近似したりしてよいとい
うわけです。
しかし、事実としては「一様」を落とした「連続なら微分可能」まで成り立ちます。実は、C1-級でなくても、有界閉区間上の連続関数は一様連続なのです。� �定理 10. 有界閉区間上の連続関数は一様連続である。� �
証明. f を [a, b] 上の連続関数とします。任意の正実数 ε を与えられたとしましょう。ただし、ε は小さいときが問題なのですから、ε <
max[a,b] f(x) − min[a,b] f(x) としておきます。[a, b] の点 x と正実数 r に対して、[a, b] に含まれる有界閉区間 Ir(x) を、
Ir(x) = [a, b] ∩ [x − r, x + r]
と定義します。
[a, b] の任意の点 x に対し、実数 r(x) を
y, z ∈ Ir(x) =⇒ |f(y) − f(z)| < ε
を満たす r の上限とします。ε につけた条件により、r(x) は有限です。さらに、r(x) > 0 です。実際、f は連続なのですから、r が十分小さければ、Ir(x) に含まれる任意の y に対して
|f(x) − f(y)| <ε
2を満たしますので、Ir(x) に含まれる任意の 2点 y, z に対して、
|f(y) − f(z)| ≤ |f(y) − f(x)| + |f(x) − f(z)| < ε (13)
を満たします。
r(x) が連続関数であることを示しましょう。y を |x − y| < r(x) であるようにとります。すると、r(x) − |x − y| より小さい r に対し、Ir(y) は Ir(x)(x) の内部に含まれますので、Ir(y) の任意の 2点 z, z′ に対し
|f(z) − f(z′)| < ε
第 8 回解答 24
が成り立ちます。よって、
r(y) ≥ r(x) − |x − y|
です。また、r(x) + |x− y| より大きい r に対し、Ir(y) は Ir(x)(x) を内部に含みますので、Ir(y)の 2点 z, z′ で
|f(z) − f(z)′| ≥ ε
を満たすものが存在します。よって、
r(y) ≤ r(x) + |x − y|
です。
この二つの不等式により、
|r(x) − r(y)| ≤ |x − y|
となって、r(x) が連続なことが示せました。r(x) は有界閉区間 [a, b] 上の連続関数ですので、最小値を持ちます。その最小値を r0 としましょ
う。r0 > 0 です。|x − y| < r0 を満たす任意の x, y ∈ [a, b] に対して、r0 ≤ r(x) ですので
|f(x) − f(y)| < ε
となります。これで示せました。 □
注意. 関数の持つ性質で、連続性以外にもリーマン積分可能性の十分条件になっているものがあり
ます。その代表的なものが単調性です。単調増加でも単調減少でも同じですので、単調増加で示し
てみましょう。� �定理 11. [a, b] で単調増加な関数はリーマン積分可能である。� �
証明. f を [a, b] 上の単調増加関数とします。単調増加なので、
S∆[f ] =n∑
k=1
f(xk)(xk − xk−1) s∆[f ] =n∑
k=1
f(xk−1)(xk − xk−1)
です。よって、
S∆[f ] − s∆[f ] =n∑
k=1
(f(xk) − f(xk−1)) (xk − xk−1) ≤n∑
k=1
(f(xk) − f(xk−1)) |∆|
= (f(b) − f(a)) |∆|
となるので、|∆n| → 0 のとき S∆n [f ] − s∆n [f ] → 0 となってリーマン積分可能です。 □
実は、高々可算個の点を除いて連続な有界関数はリーマン積分可能になります。問題 1の関数がその例ですし、単調な関数も実はそうです。だから、連続であること、つまり一様連続であること
は、リーマン積分可能であるためのとても強い十分条件なのです。定理 9の後の注意に書いたような誤差評価ができるのもそのためです。★
第 8 回解答 25
7 リーマン積分とダルブーの定理
第 4節の定理 6「有界な関数に対する積分の定義の言い換え」で、
lim|∆|→0
s∆[f ] = lim|∆|→0
S∆[f ]
がリーマン積分可能であるための必要十分条件としてでてきました。この式は一つの式のようです
が、実際には
• |∆| → 0 のとき s∆[f ] が収束する。
• |∆| → 0 のとき S∆[f ] が収束する。
• それらが一致する。
という三つのことを言っています。第 2節でも言ったように、|∆| → 0 のときの極限は「存在する」ことを示すのが面倒なのであって、それに比べれば「存在すると仮定して値を計算する」方が
楽です。つまり、上記三つの条件のうち一番下のは上の二つに比べれば楽だと言えるでしょう。こ
の節では、難しいはずの「極限は存在するや否や」の方に取り組みます。
さて、「言い換えられた積分の定義」(定理 6)は 3つの部分からなっていると言ったばかりですが、この定理は「中途半端な積分可能条件」(定理 8)と同値なのでした。こちらの方は 2つの部分、すなわち「S∆[f ] − s∆[f ] が収束する」と「その収束先が 0である」しか含んでいません。それでも同値になってしまったのはなぜだったかというと、S∆[f ] の世界と s∆[f ] の世界がそれぞれの下限と上限によって完全に隔てられてしまっていて、S∆[f ]− s∆[f ] → 0 という状況が起こるためには、その下限と上限が一致し、S∆[f ] と s∆[f ] のそれぞれがその一致した値に収束するほかないからです。
このことから、S∆[f ] や s∆[f ] が収束するならその収束先はすべての ∆ についてのそれぞれの下限と上限ではなかろうかと予想できるでしょう。そこで、次のように定義します。� �定義 7. f(x) が [a, b] 上の有界関数のとき、すべての分割に対する過剰和の下限を上積分、すべての分割に対する不足和の上限を下積分と言う。上積分を
∫ b
af(x)dx と書き、下積分を∫ b
af(x)dx と書く。すなわち
∫ b
a
f(x)dx = inf∆
S∆[f ]∫ b
a
f(x)dx = sup∆
s∆[f ]
である。上積分と下積分が一致するときリーマン積分可能と言い、その一致した値をリーマ
ン積分と呼ぶ。� �注意. 講義では上積分を S[f ]、下積分を s[f ] と書いているようです。ここではより一般的な記号を採用しました。★
上積分や下積分は、ものとしてはとっても「超越的」です。代表点を取らなくて済むものの、
|∆| → 0 という条件もなしに「すべての分割について」考えなければならないからです。しかし、ありがたいことが一つあります。それは、上積分も下積分も必ず存在するということです。有界な
関数しか考えていないのですから、任意の分割 ∆ に対して
inf[a,b]
f(x)(b − a) ≤ s∆[f ] ≤ S∆[f ] ≤ sup[a,b]
f(x)(b − a)
第 8 回解答 26
� �M
m
xk0−1 x∗ xk0
の面積 ≤ (M − m)|∆|
f(x)
図 5: 細分によってどのくらい近似が良くなりうるか� �ですので、上積分も下積分も発散せずちゃんと有限の値です。
さて、リーマン積分可能なら、つまり「言い換えられた定義」の等号が成り立つなら、過剰和の
極限が上積分、不足和の極限が下積分であることは示してあります。ここで示したいのはたとえ
リーマン積分不可能でも上(下)リーマン和の極限が上(下)積分であることです。すでに第 5節で「分割を細分してゆくと過剰和は単調に減少し、不足和は単調に増加する」ということを証明し
てありますので(定理 7)、すぐにも手が届きそうです。しかし、証明するには、分割を細分したとき上(下)リーマン和がどのくらい減り(増え)得るかを調べておく必要があります。� �定理 12. ∆′ が ∆ の細分で、増えた分点の数を l 個とする。このとき、任意の有界関数 f に
対して
S∆[f ] − S∆′ [f ] ≤ (M − m)l|∆|
s∆′ [f ] − s∆[f ] ≤ (M − m)l|∆|
が成り立つ。ただし、M と m はそれぞれ f(x) の上限と下限である。� �証明. どちらでも同じなので、過剰和について示しましょう。
まず、l = 1 のときを証明します。新しく付け加わった分点を x∗ とし、∆ の小区間で x∗ を含
むものを [xk0−1, xk0 ] としましょう(図 5)。すると、
S∆[f ] − S∆′ [f ]
= sup[xk0−1,xk0 ]
f(x)(xk0 − xk0−1) −
(sup
[xk0−1,x∗]
f(x)(x∗ − xk0−1) + sup[x∗,xk0 ]
f(x)(xk0 − x∗)
)≤ M(xk0 − xk0−1) − (m(x∗ − xk0−1) + m(xk0 − x∗)) ≤ (M − m)|∆|
となって示せました。
l > 1 のときは、∆′ で新たに付け加わった l 個の分点に適当に順番をつけ、∆ に順番に一つずつ付け加えていったときにできる l 個の細分の列を ∆1, ∆2, . . . ,∆l としましょう。∆0 = ∆ とし
第 8 回解答 27
ます。1以上 l 以下の任意の i に対し、前段落で示したことから
S∆i−1 [f ] − S∆i [f ] ≤ (M − m)|∆i−1|
が成り立ちますので、i = 1 から i = l まですべて足して
S∆[f ] − S∆′ [f ] ≤ (M − m)l∑
i=1
|∆i−1|
が成り立ちます。∆i たちは ∆ の細分なのですから |∆i−1| ≤ |∆| です。これで示せました。 □
いよいよ、|∆| → 0 のとき上(下)リーマン和が上(下)積分に収束することを証明します。この事実を「ダルブーの定理」と言います。� �定理 13. (ダルブーの定理)[a, b] 上の任意の有界関数 f(x) に対して
lim|∆|→0
s∆[f ] =∫ b
a
f(x)dx lim|∆|→0
S∆[f ] =∫ b
a
f(x)dx
が成り立つ。� �証明. どちらでも同じなので、過剰和について証明します。
定義から S∆[f ]−∫ b
af(x)dx ≥ 0 であることは分かっているので、証明すべきことは、どんなに
小さな正実数 ε が与えられても、十分小さな正実数 δ をうまくとれば |∆| < δ を満たす任意の分
割に対して
S∆[f ] −∫ b
a
f(x)dx < ε
が成り立つようにできることです。
上積分∫ b
af(x)dx は過剰和 S∆[f ] の下限なのですから、
S∆0 [f ] −∫ b
a
f(x)dx <ε
2
の成り立つ分割 ∆0 があります。そのような分割 ∆0 を一つ選んでとっておきましょう。この ∆0
の分点の数を n0 と書くことにし、M を f(x) の上限、m を f(x) の下限として、
δ <ε
4n0(M − m)
を満たす正実数 δ を一つとります。
∆ を |∆| < δ を満たす任意の分割とし、∆′ を ∆ に ∆0 のすべての分点を付け加えてできる分
割とします。すると、∆′ は ∆ の細分ですので、定理 12と δ の決め方より
0 ≤ S∆[f ] − S∆′ [f ] ≤ (M − m)n0δ <ε
2が成り立ちます。一方、∆′ は ∆0 の細分でもあるので、∫ b
a
f(x)dx ≤ S∆′ [f ] ≤ S∆0 [f ]
が成り立ちます。よって、
S∆[f ] −∫ b
a
f(x)dx = S∆[f ] − S∆′ [f ] + S∆′ [f ] −∫ b
a
f(x)dx <ε
2+ S∆0 [f ] −
∫ b
a
f(x)dx < ε
第 8 回解答 28
となって示せました。 □
この定理によって、有界な関数に対して言い換えられた積分の定義(定理 6)の本質は等号のみにあることが分かりました。このことから、積分可能かどうかを判定するのがずいぶんと楽になり
ます。すぐに言えることなのですが、大切なので節を変えて述べましょう。
8 積分可能条件
第 3節で区分求積法を紹介したとき、
積分可能であるかどうかは、|∆| が十分小さいすべての分割とそのすべての代表点の取り方に対してリーマン和が小さいかどうかを調べなければならないので大変だが、積
分可能であると仮定してその積分値を調べるだけなら、|∆n| → 0 となる分割の列とその代表点の取り方をかってに一つ選んでリーマン和が何に収束するかを調べるだけだ
から楽だ
という意味のことを書きました。しかし、第 4節と第 5節および第 7節の考察から、とうとう「積分可能かどうかを調べる」ことを「積分の値を計算する」のと同程度の手間で済むところまで簡単
化することができるようになりました。� �定理 14. (積分可能条件:分割列バージョン)[a, b] 上の有界関数 f が積分可能であるため
の必要十分条件は、|∆n| → 0 となる分割の列 ∆1, ∆2, . . . で
limn→∞
(S∆n [f ] − s∆n [f ]) = 0 (14)
となるものが存在することである。� �証明. 中途半端な積分可能条件との同値を示しましょう。
中途半端な積分可能条件(式 (10))
lim|∆|→0
(S∆[f ] − s∆[f ]) = 0
が成り立っていれば上の式 (14)が成り立つのは明らかなので、逆を示します。ダルブーの定理(定理 13)より
lim|∆|→0
(S∆[f ] − s∆[f ])
は必ず収束します。よって、式 (14)の成り立つ分割の列が一つでもあれば、その収束先は 0しかありません。これで示せました。 □
つまり、区分求積法のときと同様に、|∆n| → 0 となる分割の列を一つ好き勝手に持ってきて、それについて S∆n [f ] − s∆n [f ] が 0に収束するかどうか調べればよいというわけです。上の条件を ε-δ 論法で言い換えると、見た目がもっと簡単になります。
第 8 回解答 29
� �定理 15. (積分可能条件:ε-δ バージョン)[a, b] 上の有界関数 f が積分可能であるための必
要十分条件は、任意の正実数 ε に対し
S∆[f ] − s∆[f ] < ε
となる分割 ∆ が存在することである。� �これをリーマンの積分可能条件といます。
証明. まず、分割列バージョンから ε-δ バージョンを示しましょう。{∆n} を |∆n| → 0 で
limn→∞
(S∆n [f ] − s∆n [f ]) = 0
となる分割の列としましょう。この式を ε-δ 式に書けば、任意の正実数 ε に対してある自然数 N
があって
n > N =⇒ S∆n [f ] − s∆n [f ] < ε
が成り立つ、となります。これで示せました。
逆に、ε-δ バージョンから分割列バージョンを示しましょう。
S∆[f ] − s∆[f ] <1n
を満たす分割を一つとって、それに n 等分割の分点を付け加えた分割を ∆n とします。分割を細
分すると過剰和はより小さくなり不足和はより大きくなるので、
S∆n [f ] − s∆n [f ] <1n
となります。これで示せました。 □
ε-δ バージョンとは言うものの、条件を満たす分割が一つ存在すればよいので、δ の出る幕があ
りませんね。
リーマンの積分可能条件を使う例として問題 5を解きましょう。
問題 5の解答. f は [a, c] で有界なので、[a, c] に属する任意の x について m < f(x) < M の成り
立つ定数 m と M が存在します。正実数 ε を任意に固定し、
δ = min{
ε
6(M − m),
b − a
2,
c − b
2
}とおきます。
二つの有界閉区間 [a, b − δ] と [b + δ, c] においては関数 f は連続なので積分可能です。という
ことは、[a, b − δ] の分割 ∆1 と [b + δ, c] の分割 ∆2 をうまく選ぶと、
S∆1 [f ] − s∆1 [f ] <ε
3及び S∆2 [f ] − s∆2 [f ] <
ε
3
が成り立つようにできます。∆1 と ∆2 をつないで [a, c] の分割 ∆ を作りましょう。すると、
S∆[f ] = S∆1 [f ] + sup x ∈ [b − δ, b + δ]f(x)2δ + S∆2 [f ] < S∆1 [f ] + 2Mδ + S∆2 [f ]
第 8 回解答 30
及び
s∆[f ] = s∆1 [f ] + inf x ∈ [b − δ, b + δ]f(x)2δ + s∆2 [f ] > S∆1 [f ] + 2mδ + S∆2 [f ]
となります。差を取ると、
S∆[f ]−s∆[f ] < S∆1 [f ]−s∆1 [f ]+2(M−m)δ+S∆2 [f ]−s∆2 [f ] <ε
3+2(M−m)
ε
6(M − m)+
ε
3= ε
という不等式が得られます。ε は任意でしたので、この不等式は f が [a, c] で積分可能であることを意味しています。 □
9 積分の一般的な性質
この節では、積分の一般的な性質、たとえば、関数の四則演算と積分可能性の関係、積分範囲の
分割や合併に対する積分の振る舞いなどをまとめて証明します。定義からいきなり証明できるもの
や、積分可能条件の恩恵を満喫できるものなどいろいろあります。そのあたりにも注意して読んで
みてください。� �定理 16. (平行移動不変性)f を [a, b] で積分可能な関数する。[a + c, b + c] 上の関数 g を
g(x) = f(x − c)
と定義すると、g は [a + c, b + c] で積分可能で、∫ b
a
f(x)dx =∫ b+c
a+c
g(x)dx
が成り立つ。� �注意. 「図形の面積は平行移動しても変わらない」ということに当たります。★
証明. これは積分の定義から直ちに示せます。
[a + c, b + c] の分割はすべて [a, b] の分割の各分点に c を足したものとして得られます。そして、
リーマン和の段階で、n∑
k=1
f(ξk)(xk − xk−1) =n∑
k=1
g(ξk + c) ((xk + c) − (xk−1 + c))
と等しくなるので、積分も一致します。 □
� �定理 17. (線形性)[a, b] で積分可能な二つの関数 f, g と実数 C に対し∫ b
a
(f + g)(x)dx =∫ b
a
f(x)dx +∫ b
a
g(x)dx∫ b
a
(Cf)(x)dx = C
∫ b
a
f(x)dx
が成り立つ。� �
第 8 回解答 31
注意. 「積分可能な関数の全体はベクトル空間をなし、積分はそこから実数への線形写像である」
ということです。★
証明. これも積分の定義からすぐでます。
リーマン和の段階で、
R [f + g, ∆, ξ] = R [f, ∆, ξ] + R [g, ∆, ξ] R [Cf,∆, ξ] = CR [f, ∆, ξ]
が成り立つので当然です。 □
� �定理 18. (積の積分可能性)[a, b] で積分可能な二つの関数 f, g に対し、その積 fg も積分可
能である。� �証明. リーマンの積分可能条件(定理 15)を使いましょう。つまり、与えられた正実数 ε に対して
S∆[fg] − s∆[fg] < ε
を満たす分割 ∆ を作りましょう。|f | の上限と |g| の上限の大きい方を M とします。
M = max
{sup[a,b]
|f(x)|, sup[a,b]
|g(x)|
}です。
f は積分可能なのですから、
S∆1 [f ] − s∆1 [f ] <ε
2Mを満たす分割 ∆1 が存在します。同様に
S∆2 [g] − s∆2 [g] <ε
2M
を満たす分割 ∆2 も存在します。
∆1 の分点と ∆2 の分点をあわせてできる分割を ∆ としましょう。∆ の任意の小区間 [xk−1, xk]での fg の上限と下限の差を知るために、任意の x, y ∈ [xk−1, xk] に対する f(x)g(x) − f(y)g(y)を調べてみると、
|f(x)g(x) − f(y)g(y)| ≤ |f(x)g(x) − f(y)g(x)| + |f(y)g(x) − f(y)g(y)|
≤ |g(x)||f(x) − f(y)| + |f(y)||g(x) − g(y)|
≤ M |f(x) − f(y)| + M |g(x) − g(y)|
となるので、これの上限をとって、
sup[xk−1,xk]
(f(x)g(x) − f(y)g(y)) ≤ M sup[xk−1,xk]
(f(x) − f(y)) + M sup[xk−1,xk]
(g(x) − g(y))
となります。よって、
S∆[fg] − s∆[fg] =n∑
k=1
sup[xk−1,xk]
(f(x)g(x) − f(y)g(y))(xk − xk−1)
≤n∑
k=1
(M sup
[xk−1,xk]
(f(x) − f(y)) + M sup[xk−1,xk]
(g(x) − g(y))
)× (xk − xk−1)
= M (S∆[f ] − s∆[f ]) + M (S∆[g] − s∆[g])
第 8 回解答 32
となります。
作り方から ∆ は ∆1 の細分でもあり ∆2 の細分でもあるので、
S∆[f ] − s∆[f ] ≤ S∆1 [f ] − s∆1 [f ] <ε
2M
S∆[g] − s∆[g] ≤ S∆2 [g] − s∆2 [g] <ε
2M
が成り立ちます。これらを上式に代入して、
S∆[fg] − s∆[fg] < ε
が得られました。 □
� �定理 19. (逆数の積分可能性)[a, b] 上の積分可能な関数 f に対し、1/f が有界なら 1/f も
[a, b] 上で積分可能である。� �これは問題 6です。
証明(問題 6の解答.) これは中途半端な積分可能条件(定理 8)で証明できます。[a, b] の勝手な 2点 x, y に対して、∣∣∣∣ 1
f(x)− 1
f(y)
∣∣∣∣ ≤ ∣∣∣∣ 1f(x)
∣∣∣∣ ∣∣∣∣ 1f(y)
∣∣∣∣ |f(x) − f(y)|
ですので、L を |1/f | の上限とすれば、[a, b] に含まれる任意の区間 I に対して
supI
1f− inf
I
1f≤ L2
(sup
If − inf
If
)が成り立ちます。よって、任意の分割 ∆ に対して
S∆
[1f
]− s∆
[1f
]≤ L2 (S∆[f ] − s∆[f ])
が成り立ちます。f が積分可能なので |∆| → 0 のとき右辺は 0に収束します。よって左辺も 0に収束し、1/f は積分可能となります。 □
次は、関数の大小関係と積分の大小関係の関係を述べましょう。� �定理 20. (被積分関数の大小と積分値の大小)[a, b] で積分可能な二つの関数 f, g が、任意
の x ∈ [a, b] に対して f(x) ≤ g(x) を満たすなら、∫ b
a
f(x)dx ≤∫ b
a
g(x)dx
が成り立つ。� �注意. 図形的には、「含まれる図形の面積より含む図形の面積の方が大きい」ということで、積分
を足し算の極限と考えた場合、「小さいもの同士を足すより大きいもの同士を足した方が大きい」
という足し算の性質そのものです。★
第 8 回解答 33
証明. これは定義から直ちに示せます。
任意の分割 ∆ とその任意の代表点の列 ξ に対して、リーマン和の段階で、
R [f,∆, ξ] ≤ R [g, ∆, ξ]
が成り立つので当然です。 □
� �定理 21. (絶対値の積分と積分の絶対値)f が [a, b] で積分可能なら |f | も積分可能であり、∣∣∣∣∣
∫ b
a
f(x)dx
∣∣∣∣∣ ≤∫ b
a
|f(x)|dx
が成り立つ。� �注意. 第 2節の脚注 2を是非見てください。不等式の方は三角不等式 |x + y| ≤ |x| + |y| そのものです。★
証明. まず、|f | が積分可能であることを示しましょう。中途半端な積分可能条件(定理 8)を使います。
分割 ∆ に対して
S∆[|f |] − s∆[|f |] =n∑
k=1
supx,y∈[xk−1,xk]
(|f(x)| − |f(y)|) (xk − xk−1)
です。実数の三角不等式から、任意の実数 t, s に対して |t| − |s| ≤ |t − s| が成り立つので7、
S∆[|f |] − s∆[|f |] ≤n∑
k=1
supx,y∈[xk−1,xk]
(f(x) − f(y)) (xk − xk−1) = S∆[f ] − s∆[f ]
となります。よって、f が積分可能なら |f | も積分可能です。大小関係については、任意の x ∈ [a, b] に対して
f(x) ≤ |f(x)|, −f(x) ≤ |f(x)|
が成り立つので、上の定理より、∫ b
a
f(x)dx ≤∫ b
a
|f(x)|dx −∫ b
a
f(x)dx ≤∫ b
a
|f(x)|dx
となります。 □
� �定理 22. (平均値の定理)f の上限と下限をそれぞれ M、m とすると、∫ b
a
f(x)dx = µ(b − a)
を満たす µ が [m,M ] に存在する。さらに、f が連続なら、µ = f(x) となる x が [a, b] に存在する。� �7|t| = |t − s + s| ≤ |t − s| + |s| より 、|t| − |s| ≤ |t − s| です。
第 8 回解答 34
注意. 「グラフの決める図形と同じ幅で同じ面積の長方形の高さは、グラフの一番高いところより
も低く一番高いところよりも高い」ということに当たります。つまり、この µ は「平均の高さ」な
わけで、まさに平均値の定理と言えるでしょう。★
証明. 定義から直ちに示せます。実際、任意のリーマン和 R [f, ∆, ξ] は
m(b − a) ≤ R [f, ∆, ξ] ≤ M(b − a)
を満たすので、
m(b − a) ≤∫ b
a
f(x)dx ≤ M(b − a)
ですから、
m ≤ µ =
∫ b
af(x)dx
b − a≤ M
です。
f が連続なら、中間値の定理から f(x) = µ となる x があります。 □
最後は積分区域の分割についてです。� �定理 23. (積分区域の分割可能性)a < c < b とし、f を [a, b] 上で定義された関数とする。f が [a, b] で積分可能なら [a, c] や [c, b] でも積分可能であり、逆に、f が [a, c] と [c, b] で積分可能なら [a, b] でも積分可能である。また、これらの状況で、∫ b
a
f(x)dx =∫ c
a
f(x)dx +∫ b
c
f(x)dx
が成り立つ。� �証明.
まず、f は [a, b] で積分可能であるとしましょう。すると、
S∆[f ] − s∆[f ] < ε
を満たす分割 ∆ があります。c が ∆ の分点でない場合は c を付け加えたものを改めて ∆ としましょう。細分したのだから、この不等式は破れません。
さて、∆ の a から c までの部分は [a, c] の分割をなしており、c から b までの部分は [c, b] の分割をなしているので、それらを ∆1、∆2 と名付けましょう。すると、i = 1, 2 に対して、
S∆i [f ] − s∆i [f ] ≤ S∆1 [f ] − s∆1 [f ] + S∆2 [f ] − s∆2 [f ] = S∆[f ] − s∆[f ] < ε
となるので、f は [a, c] 上でも [b, c] 上でも積分可能です。逆に、f が [a, c] 上と [b, c] 上では積分可能としましょう。すると、[a, c] の分割 ∆1 と [b, c] の分割 ∆2 があって、
S∆1 [f ] − s∆1 [f ] <ε
2S∆2 [f ] − s∆2 [f ] <
ε
2が成り立ちます。[a, b] の分割 ∆ を ∆1 と ∆2 をつないだものとすると、
S∆[f ] − s∆[f ] = S∆1 [f ] + S∆2 [f ] − s∆1 [f ] − s∆2 [f ] < ε
第 8 回解答 35
となるので、f は [a, b] で積分可能です。最後に、積分の値について考えましょう。{∆′
n} および {∆′′n} をそれぞれ [a, c] および [c, b] の
分割の列で幅が 0に収束するものとし、[a, b] の分割列 {∆n} を ∆′n と ∆′′
n をつないだものとしま
す。すると、n → ∞ のとき、
S∆′n[f ] →
∫ c
a
f(x)dx S∆′′n[f ] →
∫ b
c
f(x)dx S∆n [f ] →∫ b
a
f(x)dx
が成り立ちます。
S∆n [f ] = S∆′n[f ] + S∆′′
n[f ]
ですので、 ∫ b
a
f(x)dx =∫ c
a
f(x)dx +∫ b
c
f(x)dx
です。 □
とっても当たり前のことのようですが、積分可能条件を使わないとなかなか証明できません。
さて、今まで積分範囲はすべて a < b で扱ってきましたが、∫ a
a
f(x)dx
および、a > b のとき ∫ b
a
f(x)dx = −∫ a
b
f(x)dx
と定義しましょう。そうすると、定理 23は a, b, c の大小関係に関わらず成立します。
10 微分積分の基本定理
積分を「逆微分」としてではなく、わざわざリーマン和の極限として定義し直した理由の一つ
に、「すべての連続関数は何らかの関数の導関数になりうる」ことを示すことがありました。その
ために、言葉を整理しておきましょう。
二つの関数 F (x)と f(x)の間に F ′(x) = f(x)という関係があるとき、F (x)に注目すると「f(x)は F (x) の導関数である」となりますが、f(x) に注目した場合「F (x) は f(x) の原始関数である」と言います。F (x) が f(x) の原始関数だったら、F (x) に定数関数を足したものも f(x) の原始関数であることは、定数関数の微分が 0であることから明らかですが、よくご存じのように、逆も成り立ちます。つまり、F (x) と G(x) が f(x) の原始関数なら、F (x) − G(x) は定数関数です。実際、
(F (x) − G(x))′ = F ′(x) − G′(x) = f(x) − f(x) = 0
ですので、微分の平均値の定理により、任意の 2点 x, y に対して
(F (x) − G(x)) − (F (y) − G(y)) = 0 × (x − y) = 0
となります。
さて、積分可能な関数 f に対して、原始関数とはとりあえず全然関係なしに、f の不定積分と
いうものが定義できます。それは [a, b] から任意に定点 c をとってきたときに∫ x
c
f(t)dt (x ∈ [a, b])
第 8 回解答 36
と定義されます8。(この積分が可能なことは、f が連続なら明らかですが、一般的には定理 23によります。)二つの不定積分の差も定数です。実際、∫ x
c
f(t)dt −∫ x
d
f(t)dt =∫ d
c
f(t)dt
だからです。� �定理 24. 積分可能な任意の関数に対し、不定積分は連続である。� �
証明. |f | の上限を M とします。すると∣∣∣∣∣∫ x+h
c
f(t)dt −∫ x
c
f(t)dt
∣∣∣∣∣ =∣∣∣∣∣∫ x+h
x
f(t)dt
∣∣∣∣∣ ≤∣∣∣∣∣∫ x+h
x
|f(t)|dt
∣∣∣∣∣ ≤ M |h|
となり、示せました。 □
すべての連続関数が積分可能であることはすでに示したので、連続関数 f の不定積分は連続で
あるだけでなく微分可能であって、しかも f の原始関数であることを示せば、目標達成です。� �定理 25. [a, b] 上の連続関数 f に対し、不定積分
F (x) =∫ x
c
f(t)dt
は微分可能で、F ′ = f が成り立つ。� �証明. 平均値の定理(定理 22)により、
1h
(∫ x+h
c
f(t)dt −∫ x
c
f(t)dt
)=
1h
∫ x+h
x
f(t)dt = f(x + θh)
となる 0以上 1以下の θ が存在します。h → 0 のとき x + θh → x であり、f は連続ですので、
limh→0
1h
(∫ x+h
c
f(t)dt −∫ x
c
f(t)dt
)= f(x)
となります。 □
あっけないですね9。
不定積分でない原始関数というものもあり得ます。たとえば、cos x は R 全体で連続ですから、任意の有界閉区間で積分可能です。よって、cos x の不定積分の全体は∫ x
a
cos tdt (a ∈ R)
と表せます。これは、みなさんよくご存じのように、
sinx + c (−1 ≤ c ≤ 1)8不定積分を
∫ xc f(t)dt + C (C ∈ R) と定義することの方が多いかもしれませんが、面倒なのでここでは積分しっぱ
なしにしました。9ちなみに、平均値の定理を使わなくても、最大値最小値の存在だけで証明できます。
第 8 回解答 37
です。一方、これまたよくご存じのように、cos x の原始関数の全体は
sinx + C (C ∈ R)
です。よって、|C| > 1 のとき、sinx + C は cos x の不定積分ではありません。
ただし、不定積分は原始関数であり、二つの原始関数の違いは定数関数なのですから、不定積分
でない原始関数に対しても次が成り立ちます。� �定理 26. F が連続関数 f の原始関数ならば、∫ b
a
f(x)dx = F (b) − F (a)
が成り立つ。� �この二つをあわせて微分積分の基本定理と言います。大切ですので、もう一度まとめて書いてお
きましょう。� �定理 27. (微分積分の基本定理)連続関数 f は、定義域に含まれる任意の有界閉区間で積分
可能であり、不定積分 ∫ x
a
f(t)dt
は微分可能で、f の原始関数になる。また、F が f の原始関数ならば、∫ b
a
f(x)dx = F (b) − F (a)
が成り立つ。� �この定理によって、みなさんが高校のときに学んできた積分に関することがらは、ここで新たに
定義し直した積分に対してもすべて正しいことが保証されました。おめでとうございます。
とは言え、微分積分の基本定理は積分される関数が連続でないと成り立たないということを確認
しておくことも重要です。
問題 7の解答
例えば、x < 0 のとき f(x) = 0、x ≥ 0 のとき f(x) = 1 とすると、1点を除いて連続なので積分可能ですが、その不定積分は∫ x
0
f(x)dx =
{x (x ≥ 0)0 (x < 0)
となって、x = 0 で微分できません。 □
第 8 回解答 38
問題 8の解答
問題 1の関数、すなわち
f(x) =
1q
x =p
q(x の既約分数表示)
0 x は無理数
が例です。
この関数は [1, 2] に限らず任意の閉区間で積分可能で積分値が 0であることを問題 1の解答と全く同様にして示せます。ということは、この関数の不定積分は値が 0の定数関数です。定数関数ですから微分可能であり、導関数は値が 0の定数関数です。これはもとの関数 f(x) と一致しません。つまり、不定積分が原始関数になっていません。
もっと簡単な例として、例えば
g(x) =
0 x ̸= 0
1 x = 0
も不定積分が原始関数になっていません。この関数の場合も不定積分は値が 0の定数関数になってしまうからです。 □
問題 9の解答
F を
F (x) =
3√
x4 sin1x
(x ̸= 0)
0 (x = 0)
とすると、F は微分可能で、
F ′(x) =
43
3√
x sin1x− 1
3√
x2cos
1x
(x ̸= 0)
0 (x = 0)
です。しかし、この F ′ は 0の近傍で有界でないので、0を含む有界閉区間上では積分できません。□
問題 10の解答
これは定理 2(13ページ)の証明と事実上同じものですが、講義におけるリーマン積分の定義に沿った方法で書き直しておきましょう。
問題の関数を F (x) とし、f(x) = F ′(x) と書くことにします。仮定は f(x) が積分可能であることです。
第 8 回解答 39
[a, b] を定義域内の任意の有界閉区間、∆ を [a, b] の任意の分割とします。∆ の任意の小区間[xk−1, xk] で F (x) に平均値の定理を使うと、
F (xk) − F (xk−1)xk − xk−1
= f(ck) (15)
を成り立たせる ck が (xk−1, xk) に存在します。
infx∈[xk−1,xk]
f(x) ≤ f(ck) ≤ supx∈[xk−1,xk]
f(x)
が成り立っているので、
s∆[f ] ≤n∑
k=1
f(ck)(xk − xk−1) ≤ S∆[f ] (16)
となっています。ところが、式 (15)により、不等式 (16)の中辺は
n∑k=1
f(ck)(xk − xk−1) =n∑
k=1
F (xk) − F (xk−1)xk − xk−1
(xk − xk−1) =n∑
k=1
(F (xk) − F (xk−1))
= F (b) − F (a)
となって分割に依存しません。よって、不等式 (16)の左辺で ∆ についての上限を取り、右辺では∆ についての下限を取れば ∫ b
a
f(x)dx ≤ F (b) − F (a) ≤∫ b
a
f(x)dx
という不等式が得られます。今、f(x) は積分可能だと仮定しているのですから、この不等式の左辺と右辺は一致しており、それが積分の値です。すなわち、∫ b
a
f(x)dx = F (b) − F (a)
が成り立っています。不定積分とは∫ b
af(x)dx で b を変数とみた関数のことですので、この等式
は、f(x) = F ′(x) の不定積分と原始関数 F (x) の差が定数関数であることを意味しています。 □
注意. 問題 10の結論は
原始関数と不定積分が両方とも存在するならば、その差は定数関数である。
ということです。特に、この場合、不定積分は必ず原始関数になります。
このことから問題 7や問題 8の関数は原始関数を持たないことが分かります。なぜなら、もしこれらの関数が原始関数を持っているなら、不定積分は原始関数にならなければならないからです。
★