浜松研究集会 2012.01.08 押川講演スライド 公開用
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当日講演の録画(IWJによる): http://www.ustream.tv/recorded/19633912 当日のプログラム: http://masakioshikawa.blogspot.com/2012/01/201218.htmlTRANSCRIPT
物理学者からみた原発事故とその後の推移
東京大学物性研究所・東京大学原発災害支援フォーラム(TGF)
押川正毅
2012/01/08 研究集会@浜松アクトシティ「東日本大震災のリスクコミュニケーション ~とくに放射線のリスクをどう考えるか~」
原爆を作ったのは誰か?第二次世界大戦中の
米国「マンハッタン計画」物理学の原理に基づいているだけでなく、多数の(超一流を含む)物理学者が関与
アインシュタイン、ボーア、フェルミ、ファインマン…
人類史上発の「原子炉」も、マンハッタン計画に先立ち、フェルミらによって作られた
65年後…専門分化が進み(核兵器は核兵器の専門家、原子力は原子力の専門家ができた)
大多数の物理学者(私を含む)は「素人」になった
3.11までの私: ベクレル?シーベルト? 昔習ったっけ?
では何故、「素人」である私が発言するのか?
「専門家」を(無批判に)信じていたらこうなった!
1997年 岩波書店「科学」10月号に歴史的な論文が
石橋克彦 (現在は神戸大学名誉教授)
専門は地震学(原子力は「素人」)
「予言の書」だった!
上記石橋論文は、岩波書店「科学」Web page http://www.iwanami.co.jp/kagaku/ で特別公開中
静岡県の反応石橋論文では、浜岡原発を例として議論
静岡県総務部防災局長 (H9.12.9)
「特に、名前を掲げて指摘されている浜岡原子力発電所を抱える静岡県においては、重大な関心を持たざるを得ません。」
科技庁、通産省、静岡県原子力対策アドバイザー(いずれも当時)に石橋論文について意見照会
出典:静岡県からの照会とそれに対する回答は、岩波書店「科学」2011年7月号に収録
照会1. 外部電源が止まり、ディーゼル発電機が動かず、バッテリーも機能しなくなる可能性は (石橋論文の指摘より)班目春樹 静岡県アドバイザー(当時)・現原子力安全委員長(!)
「原子力発電所は、2重3重の安全対策がなされており、安全にかつ問題なく停止させることができるよう設計されている」
照会 4. 爆発事故が使用済み燃料貯蔵プールに波及すれば、ジルコニウム火災などを通じて放出放射能がいっそう莫大になるという推測について (石橋論文の指摘より)班目:「①なぜこのようなことが起こり得るのか、論拠がわからない。②指摘しているような事象は原子力工学的には起こり得ないと考える。」
石橋氏の懸念は、どちらも13年後に福島で現実に!
班目:「石橋氏は東海地震については著名な方のようであるが、原子力学会、特に原子力工学の分野では、聞いたことがない人である。」
1997年当時、班目氏らの原子力の「専門家」は石橋論文を「素人の戯言」と冷笑したが、実際には
石橋氏の指摘は正鵠を射ていた
専門家の間のコンセンサスが、素人の見解よりもデタラメ、と言うことが実際に起きてしまった
「ダメ科学」(仮称)現象
さて、目下の問題は?原発事故は、ある意味で起こるべくして起き、然るべき経過をたどった。物理学的には何ら驚くべきことはない。ともかく、福島県を中心とする東日本の広大な
地域に放射能汚染が広がってしまった健康に影響ある?中川恵一准教授(東大)「被曝が人体に与える影響は100ミリシーベルトがひとつの目安」「日本人は、2人に1人が、がんになる世界一のがん大国。喫煙や飲酒の方がよほど危険」
出典: 2011.6.8 MSN産経ニュースhttp://sankei.jp.msn.com/life/news/110608/bdy11060822250001-n1.htm
被曝≦100mSv はリスク小?現在の科学・医学では、ガンになっても、その原因が放射線なのか、それ以外なのかはわからない
放射線によってガンが増えたかどうかは、被曝した人としていない人を統計的に比べてみないとわからない統計には誤差(偶然による揺らぎ)があるで、100mSv
以下の被曝では関係の立証は難しい(ICRPモデルでは、100mSvで発ガンが人口の1%増加、致死性発ガンはその半分)
100mSv以下の被曝は「現在の科学的手法で明確にリスクを示す限界」という意味で「小さい」
100mSv以下は安全?広島原爆被爆生存者追跡調査
発がんリスクは被曝線量に比例
「低線量」(<100mSv)
領域では統計的に有意でない
※ ただし、100mSv未満でリスクの存在を示す研究も有り
(図の出典: 米科学アカデミー 2005年 BEIR-VII 報告書)
「科学的に明確に示すことができる限界以下」では「リスクが存在しない」わけでもないし、「リスクが社会的・倫理的に許容出来るか?」とは別問題被曝量と発ガン確率が100mSv以下でも比例する(最も単純で科学的にも標準的なモデル)とすれば、1mSvでも発ガン確率は生涯で 0.01% (1万分の1) 上昇
1万分の1は小さいようだが、一般公衆が何の見返りもなく晒されるリスクとしては決して小さくない
1000万人の0.01%は1000人ICRP勧告:一般公衆の被曝限度(平常時) 1mSv/年
航空機事故怖い、と思う人は少なくない
大手航空会社: 事故死亡率は、だいたい百万フライトに一回(優良航空会社では、一千万フライトあたり2~3回)
シートベルト、酸素マスク、救命胴衣等を備え付け
「万が一」(実は「百万が一」)の場合:補償がある
航空機事故怖い、と思う人は少なくない
大手航空会社: 事故死亡率は、だいたい百万フライトに一回(優良航空会社では、一千万フライトあたり2~3回)
シートベルト、酸素マスク、救命胴衣等を備え付け
「万が一」(実は「百万が一」)の場合:補償があるTEPCO航空: 事故死亡率は、一万フライトあたり一回「タバコや野菜不足で死ぬ危険性の方が高いです」「事故を心配するとストレスになる」ので酸素マスク等はなし「事故で死亡しても病死として処理し、補償はしません」
…という航空会社があったら、乗りますか?
放射線恐怖症?
放射線は、「害が小さい」と「正しく理解」するのが科学的「必要以上に」怖がるのは「放射線恐怖症」
山下俊一氏(福島県放射線健康リスク管理アドバイザー)「人々は、地震と津波だけでなく、放射線恐怖症にも苦しめられている」 … あれ?放射線自体はどうなの??
放射線恐怖症によるストレスの方が、放射線より健康被害が大きい?
2011.08.19 SPIEGEL interview: Shunichi Yamashita “People are suffering from Radiophobia”http://www.spiegel.de/international/world/0,1518,780810,00.html (上記邦訳は押川による)
「低線量放射線の健康影響に関する調査」
2003年5月
「放射線恐怖症がはびこっているのはなぜだろうか?」
「適量の人工放射線の被ばくは、死亡率を抑制し健康を増進する効果がある(略)放射線の有益効果は放射線ホルミシスとよばれている。」
近藤宗平氏 (大阪大学医学部名誉教授、放射線影響学会功労賞受賞)
チェルノブイリ事故当時14歳以下青少年の甲状腺腫瘍の発生率
(1997年までの調査)
事故後に激増!
被曝線量(推定値)と、甲状腺腫瘍の発生率がだいたい比例
図と表の出典: 核融合科学研究会委託研究報告書 2003年
「低線量放射線の健康影響に関する調査」)
近藤氏ら:「ロシアの腫瘍頻度は、放射性ヨード131が腫瘍原因であるとすれば、ウクライナの腫瘍頻度に比べて高すぎる。」「事故直後にヨード131による個人別甲状わずか5年後の早期から被ばくが原因で甲状腺腫瘍が急増した点も疑問が残る。(略)被ばく後10年以上の潜伏期があるのが普通であるからである 」
近藤氏ら:「ロシアの腫瘍頻度は、放射性ヨード131が腫瘍原因であるとすれば、ウクライナの腫瘍頻度に比べて高すぎる。」「事故直後にヨード131による個人別甲状わずか5年後の早期から被ばくが原因で甲状腺腫瘍が急増した点も疑問が残る。(略)被ばく後10年以上の潜伏期があるのが普通であるからである 」
近藤氏ら:「チェルノブイリ事故では、放射能汚染による恐怖報道が過熱したため、心的外傷後ストレス障害(post traumatic
stress disorder)が放射能汚染地区の住民に蔓延し、放射能恐怖症が甲状腺腫瘍の発生を加速した可能性が高い。」
えぇえーっ??
ベラルーシ 甲状腺ガン発生率2002年までの調査
14歳以下
15-18歳19-34歳 事故以降に出生した子供の
発症率は、ほとんど事故前のレベルに低下!
これでようやく、チェルノブイリ事故後の甲状腺ガンの激増が、被曝によるものと(ほぼ)確定
【その後】
図の出典: E. Cardis et al., “Cancer consequences of the Chernobyl accident: 20 years on,”
J. Radiol. Prot. 26 (2006) 127-140.
教訓・現在の科学で、病気の因果関係を明確に示すのは非常に困難・「科学的に証明されていない」≠「関係がない」・ 科学には絶対的な真理はない:確実性の程度問題・ 時間と資源を無制限に投入すれば科学的確実性 は上げられるが、社会はそれを許容できるか?・「放射線恐怖症」??? (単に後知恵での批判ではなく、その時点でのデータに照 らしても、根拠も無くかなり無理な結論が導かれていた)
被害は甲状腺ガンだけ?甲状腺ガンは、もともと極めて稀な病気 小児甲状腺ガン:100万人・年あたり数件⇒統計的に原発事故の影響であると結論しやすいしかし、もっとありふれた病気の発症率が上がっ
た場合、被害としてはより大きくても統計的に因果関係の証明は困難
「科学者の都合」≠「市民にとっての重要性」
cf.) 2011.9.18 日本学術会議哲学委員会シンポジウム
ありがとうございました当日、後半で千葉県柏市周辺(東葛地域)の放射能汚染問題について議論する予定でスライドも準備しておりましたが、時間の関係で割愛しました。申し訳ありません。近日中に別の機会でこの問題について話しますので、スライドも東葛地域に関する部分の公開は見送らせて頂きます。東葛地域の問題については、スライドも別の機会に改めて公開します。
なお、東葛地域の問題については「流山市長との懇談用資料」でも一部議論しています。http://www.slideshare.net/MasakiOshikawa/20111220-10689096