学術コミュニケーションの動向 2013--moocの出現と学習資源流通構造の変貌--

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学術コミュニケーションの動向 2013 –MOOC の出現と学習資源流通構造の変貌土屋俊 大学評価・学位授与機構 2013 10 30 「図書館総合展・学術情報サミット 2013パシフィコ横浜にて 10/30/2013 1/26

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2013年10月30日 「図書館総合展・学術情報サミット 2013」 パシフィコ横浜にて (実際に使ったもの。補足版を準備中)

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Page 1: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

学術コミュニケーションの動向 2013–MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌–

土屋俊

大学評価・学位授与機構

2013年 10月 30日「図書館総合展・学術情報サミット 2013」

パシフィコ横浜にて

10/30/2013 1/26

Page 2: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

昨年の話題I 高等教育・学術研究で何が起きているのか

先進国同時財政難状況、新興国の急伸、グローバル化:学位・資格/知識・技能、日本の大学の「ガラパゴス化」

I デジタル・コミュニケーションモバイル化 (無線化)の浸透、Blogから SNSへ。しかし、これらは「広告」スボンサーモデル、Apple/Microsoft/ Google/ Amazonのモデル、図書館は蚊帳の外 (震災時、図書館に知識は求められなかった)

I 出版OAビジネスの急展開、読書端末・タブレット、eBookへの期待感ともどかしさ、確実な展開はもはや自明、Print And Distribute から Distribute And Print へ、Semantic Web常備へ、昨年報告 (Elsevier/Collexis)ずみ

I 大学図書館研究図書館の運命はほぼ確定 (Johns Hopkins大学医学図書館)、「蔵書構築」の終焉、Patron-driven purchase論、その帰結として (蔵書)カタログからディスカバリーへ、eBookへの期待感ともどかしさ、コンソーシアムへの不信、「ラーニング・コモンズ」

I 一言でいえば、研究図書館機能は機関リポジトリに収斂、学習支援が「見える」機能となっていく方向

10/30/2013 2/26

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今日の話題

I 「いわゆる」学術コミュニケーションの話題I 電子ジャーナルI “Altmetrics”I オープンアクセス運動の終焉?

I 日本のおけるオープンアクセスの展開I 科学研究費補助金研究成果公開促進費枠の改正I 学位規則改正の意義と副作用I 研究資金助成機関による研究成果のオープンアクセス化義務づけ

I 高等教育における学習環境と学術コミュニケーションI 「教科書」I 図書館の位置

I 知識のオープン化がもたらすもの

10/30/2013 3/26

Page 4: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

「いわゆる」学術コミュニケーションの話題

I 日本の出版の電子化の話は忘れよう!I オープンアクセス

I 「世俗化」「ビジネス化」 ⇐ メガジャーナルの誕生I Gold=OA Publishing vs Green=Self-archivingI FunderI テキスト・データ二次利用 (ライセンシング)

I “Altmetrics”I Postpublication の評価I Article レベルの評価

I 雑誌のプライシングI 商業出版 vs 「非営利」出版

..

出版者ランキング

I 長期展望I ORCIDI CHORUS

10/30/2013 4/26

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4年間 (2010-2103)値上げランキング (ICOLC調べ)

1. American Chemical Society

2. Cambridge University Press

3. Am Psych Assn (PsycARTICLES)

4. Elsevier - Freedom Collection

5. Royal Society of Chemistry

6. Oxford University Press

7. Sage

8. Wiley/Wiley-Blackwell

9. Project Muse

10. Institute of Physics

11. Elsevier - Cell Press

12. Springer

13. American Physical Society

14. American Institute of Physics

15. Taylor & Francis

16. Assn of Computing Machinery

Emerald, Nature 2010データなし10/30/2013 5/26

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“Altmetrics” 「代替指標」1

I 「引用」では遅い、粗い ⇒ 「タイトル」I オンライン追跡できるメディアの登場I 「評価」は所詮「評判」?

I 「研究評価」(たとえば、イギリスの ResearchExcellence Framework 2014)への活用などの可能性 ⇒日本でも「国立大学法人評価」が平成 28年に

I 研究資金助成機関 (政府系、民間系とも)からの関心I メディアによる言及I 新聞報道I Twitter/FacebookI 政策反映 (REF)I 引用ベース

I 何を評価するか、評価から何を得るのかの議論なしだと、所詮「評判」は「評判」でおわる。「一つの論文の価値」に意味があるのか。 所詮は、測れるものを測っているだけ?

10/30/2013 6/26

Page 7: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

“Altmetrics” 「代替指標」2

I Mabeのコメント (Fiesole Retreat 2013にて)I Game playingI “ You get what you measure”I Institutions research assessment rulesI Impact Factor Engineering

I Include more review articlesI Classify low impact content as non citableI Include editorials that cite all your articlesI Publish extremely controversial editorials (medical

journals) or articles

I Counting the qualitativeI Tweets differ in usefulness ( “this is crap...” vs. “...”?)

10/30/2013 7/26

Page 8: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

日本のおけるオープンアクセスの展開

I 科学研究費補助金研究成果公開促進費枠の改正I

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24 年度採択

I 学位規則改正の意義と副作用I 研究資金助成機関による研究成果のオープンアクセス化義務づけ

10/30/2013 8/26

Page 9: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

オープンアクセスに関する JST の方針 (平成 25年 4月)

I 研究者の発表するジャーナルからの許諾や研究者が行う機関リポジトリへの提出作業の軽減など、機関リポジトリ利用による研究者負担が軽減されるための方策を講じる。

I オープンアクセス化には学術情報の標準化が重要であり、ジャパンリンクセンター等を活用した我が国の学術情報に対する国際識別子(DOI)付与についても並行して推進する。

I 各所属機関のリポジトリを利用することを基本とするが、リポジトリを有しないなどの機関には JST が運営するリポジトリ等の準備を検討する。

I JST が運営する J-STAGE がオープンアクセス機能を有することから、オープンアクセス誌の誘導も可能である。

10/30/2013 9/26

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平成 25年度「学位規則」改訂の意義と副作用

I 日本の研究のある意味でひとつの集積である学位論文の総体は国民、人類の共有財産としてあつかわれてきた (公表義務)が、(プリントであるため) アクセスは困難であった

I かつ、公表を電子的に行なうこととしたことによって、アクセスが容易かつ実質的になった

I かつ、機関リポジトリの活用を「指示」したことによって、アクセスは容易なだけでなく、無料になった

I しかし、このことによって、これまで顕在化していなかった問題が明るみにでてきた

I 雑誌掲載論文転用学位論文問題I 機関リポジトリ登載「義務」問題I その複合

10/30/2013 10/26

Page 11: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

例: エルゼビアの方針

Authors can use either their accepted author manuscript orfinal published article for:

I Use at a conference, meeting or for teaching purposes

I Internal training by their company

I Sharing individual articles with colleagues for theirresearch use* (also known as ’scholarly sharing’)

I Use in a subsequent compilation of the author’s works

I Inclusion in a thesis or dissertation

I Reuse of portions or extracts from the article in otherworks

I Preparation of derivative works (other than forcommercial purposes)

10/30/2013 11/26

Page 12: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

ウェブ掲載に関するポリシー

Personal use Use by an author in the author ’s classroomteaching etc ⇒ 著作権許諾と同様

Internal institutional use Use by the author ’s institution forclassroom teaching at the institution (includingdistribution of copies,paper or electronic, anduse in course packs and courseware programs).For employed authors, the use by theiremploying company for internal trainingpurposes.

Permitted scholarly posting Voluntary posting by an authoron open websites operated by the author or theauthor ’s institution for scholarly purposes, asdetermined by the author, or (in connectionwith preprints) on preprint servers.

10/30/2013 12/26

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A大学大学院規程関係了解事項から (1)

10/30/2013 13/26

Page 14: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

A大学大学院規程関係了解事項から (2)

10/30/2013 14/26

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自発と義務: エルゼビアの論理

I 当社はポリシーとして、著者が自発的にウェブに掲載すること (Green Open Accessの実現)は、著作権譲渡契約において明記してある

I さらに、さまざまな形の支援を行なっている (とくに、NIH Public Access Policyの実装、CHORUS等)

I したがって、権利関係は解決ずみである。I しかし、雇用者または研究資金助成団体が、研究成果のオープンアクセス化を義務づけようとしているが、これに従って著者がウェブ掲載することは、権利者の自発性を認めないという点でポリシーが認める範囲を越える。

I したがって、雇用者および研究資金助成団体は、著作権の保有者である当社と契約をしなければならない。

10/30/2013 15/26

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ルイジアナ州立大学の論文提出要項 (Journal style)から

This style permits the inclusion, as chapters or sections of thethesis or dissertation, of manuscripts previously submitted or to besubmitted to scholarly journals. If the journal style is used, you, asthe Candidate, must be the only author on the to-be-publishedmanuscript. All chapters in the manuscript to be preparedaccording to journal style must be in the style of a singleappropriate scholarly journal. Some features peculiar to submissionof manuscripts to journal editors (e.g., double spacing of blockquotations) must be eliminated, ... Additional ambiguous textualsituations must be brought to the attention of the manuscript ’sreviewer, clarified, and resolved to his or her satisfaction.

Because the Graduate School ’s primary concern is the

presentation of the thesis or dissertation as a clear, coherent,

consistent, self-contained work, the manuscript must contain

elements unifying the entire body of work. Primarily, it must have

a single topic. Although each chapter may be complete within

itself, the chapters must treat one aspect of the overall topic....

10/30/2013 16/26

Page 17: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

大学院設置基準 (抜粋)

第 14条の 2  大学院は、学生に対して、授業及び研究指導の方法及び内容並びに 1年間の授業及び研究指導の計画をあらかじめ明示するものとする。2  大学院は、学修の成果及び学位論文に係る評価並びに修了の認定に当たつては、客観性及び厳格性を確保するため、学生に対してその基準をあらかじめ明示するとともに、当該基準にしたがつて適切に行うものとする。第 17条  博士課程の修了の要件は、大学院に 5年(修士課程に 2年以上在学し、当該課程を修了した者にあつては、当該課程における 2年の在学期間を含む。)以上在学し、30単位以上を修得し、かつ、必要な研究指導を受けた上、当該大学院の行う博士論文の審査及び試験に合格することとする。ただし、

10/30/2013 17/26

Page 18: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

学位論文の景観

I 大学図書館と国立国会図書館との了解事項としての学位論文電子化ロードマップ (学位論文の電子的公表義務の開始年を X年として)

1. 1990年代より前 ⇒ 調整するが大学図書館が主体2. 1990年代 ⇒ 国立国会図書館による補正予算事業 (所蔵 40万冊強のうちの 14万冊)

3. 2000年以降 X年まで ⇒ 調整するが大学図書館が主体4. X年以降 ⇒ 解決ずみ

I この 1.と 3.が問題

I よもやと思ったけど、2.についての問題も発覚

10/30/2013 18/26

Page 19: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

著作権処理の結果 (報告書から)

処理対象: 140,909件、大学への照会数: 27,041件発送数: 57,919件、返信数: 32,082件

10/30/2013 19/26

Page 20: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

MOOC出現の背景と課題

I MOOC: Massive(超大人数) Open(無料) Online(インターネット利用) Course(授業)の勃興

..

Coursera

I 20世紀米国高等教育システムの特徴とその帰結としての危機

I 学生消費者主義: 学生は高等教育サービスの消費者I 大学工場モデル: 大学は中等教育修了者に雇用可能性を付与する「工場」

⇒ 学費の高騰と卒業生の質の低下 (“⇒”は因果でない)

I MOOCは、ブランド大学の講義を無料で提供するインターネット上のプラットフォーム

I 無料で提供 ⇒ 学費高騰問題への解決I ブランド大学の講義 ⇒ 授業の質の保証

I その経済的維持可能性は検証されつつある⇒ 現在の危機への解決である

..

Jump

10/30/2013 20/26

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(August 9, 2012)

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10/30/2013 21/26

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日本は上位 70位内にはいない。それが何かであるが

(August 9, 2012)

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大学の変質あるいは消滅:MOOCからの出口なしI 高等教育への需要は維持 (中等教育からの雇用はなくなる)

I オンライン学習 (2つ目の “O” ) ⇒ 一斉学習機会としての「教室」の不要性、消滅 (Blended LearningやFlipped Classroomとしてのみ存続) ⇒ キャンパスの消滅 ⇒ 工場モデル」の終焉

I 「カリキュラム」が不要であり、 MOOCにおけるコース修了のみの認定でも雇用的価値を持つならば、⇒「学位」という包括保証の無意味化 ⇒ 履修モデルは学生が自分で作る ⇒ 学生消費者主義の終焉

I 知のオープン環境下におけるグローパル化I TransNational Educationの常態化 (中国国内で英国大学に学ぶ 4万人) ⇒ 近代の大学制度が「国」に閉じていたことを考えると大きな変化

I 国境を越えるインターネットの上のMOOC

⇒ 高等教育機能 (人・場所・金・知識)のアンバンドリング ⇒ 知的機関の分解

10/30/2013 23/26

Page 24: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

グローバル時代における日本の大学と大学図書館I グローバル化

I 学問はもともとグローバルなはず ⇒ 学術雑誌はグローバルもともとだった ⇒ 科研費助成の合理性は無条件ではない

I 人の移動 (Brain circulation, 学生流動性)⇒ 需要のあるところでは起きている ⇐ 背景として、労働市場の流動化 (しかし、これは地理的、歴史的経緯が重要)

I 情報の移動 ⇒ インターネットによって国境制約が消滅 ⇒ 学術雑誌はグローバルもともとだった

I 日本の大学 (高品質で安いはずだが、その点を発信していない)

I 基本的に「鎖国」(言語、制度)でやってきている (英豪的ニーズは存在しない)

I しかし、草刈り場にはなり得るI 海外大学への進学 (今、数千人オーダー)I 海外 (オンライン)プロバイダの進出は明白だが、自前の (ブランドのある)プラットフォームはない (「学術雑誌」と同じ)

I 「日本発」MOOCとは???????????

I 日本の高等教育システムがこれまで以上の成果を生むためにはどうすればよいのか。10/30/2013 24/26

Page 25: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

高等教育機能のアンバンドル時代の図書館

I 大学機能が分解するならば、大学図書館も分解するしかない

I 研究活動の不可欠要素として (1) ⇒ 研究成果発信共有⇒ 機関リポジトリ

I 研究活動の不可欠要素として (2) ⇒ 研究活動管理⇒URA/DMP

I 研究者に対する「情報仲介 (蓄積・整理・案内)」の機能は不要になる

I 学習支援活動の不可欠要素として (1) ⇒ “Teacher” になるしかない (ただし、 “teacher” 6=“professor/lecturer/reader”) ⇒ いわゆる「ラーニングコモンズ」(の発展形態。たとえば、アナリティクス機能の付加)

I 学習支援活動の不可欠要素として (2) ⇒ 「教科書」「教材」の問題 ⇒ ウェブがあるから十分で済むのか

I

10/30/2013 25/26

Page 26: 学術コミュニケーションの動向 2013--MOOCの出現と学習資源流通構造の変貌--

学習資源の問題

I 市場規模I 教科書売上 (生協等) ⇒ 400億オーダーI 大学図書館和書購入額 ⇒ 200億オーダーI その他、LMS/CMS、「ネットアカデミー」等

I Open Educational Resources(OER)問題I 補助金以外にビジネスモデルがあるように思われない

⇒ どのようにしてメインテナンスするのかI 学生の現行の個人負担分を放棄しているようにみえる

I 著作権の問題I 遡及処理が困難

I この問題は難しい ⇒ 自由放任も可能だが、「分解」の時代にはこの制御が重要になるだろう

10/30/2013 26/26